特許第6791585号(P6791585)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ディスコの特許一覧

<>
  • 特許6791585-ウェーハの加工方法 図000002
  • 特許6791585-ウェーハの加工方法 図000003
  • 特許6791585-ウェーハの加工方法 図000004
  • 特許6791585-ウェーハの加工方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791585
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】ウェーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20201116BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20201116BHJP
【FI】
   H01L21/78 Q
   H01L21/78 B
   B23K26/53
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-17649(P2017-17649)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2018-125454(P2018-125454A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】ベ テウ
(72)【発明者】
【氏名】廣沢 俊一郎
【審査官】 宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−033163(JP,A)
【文献】 特開平06−275714(JP,A)
【文献】 特開2012−028450(JP,A)
【文献】 特開2014−011358(JP,A)
【文献】 特開2013−147380(JP,A)
【文献】 特開2015−162565(JP,A)
【文献】 特開2007−220909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に伸長する複数の第1のストリートと、該第1の方向に直交する第2の方向に伸長する複数の第2のストリートと、を有するウェーハの加工方法であって、
ウェーハに対して透過性を有する波長のレーザビームを該第1のストリートに沿って該ウェーハの内部に集光し、該レーザビームに対して該ウェーハを相対移動させることで該第1のストリートに沿ってウェーハの内部に第1の改質層を形成する第1のレーザ加工ステップと、
ウェーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザビームを該第2のストリートに沿って該ウェーハの内部に集光し、該パルスレーザビームに対して該ウェーハを相対移動させることで該第2のストリートに沿ってウェーハの内部に第2の改質層を形成する第2のレーザ加工ステップと、
該第1のレーザ加工ステップと、該第2のレーザ加工ステップと、を実施した後、ウェーハの裏面を研削してウェーハを所定の厚さへ薄化するとともに該第1の改質層と、該第2の改質層と、を起点にウェーハを個々のデバイスチップへと分割する研削ステップと、を備え、
該第2の改質層は、それぞれ、該第1のストリートの一つに形成された第1の改質層を境に分けられる一方側に第1の部分と、他方側に第2の部分と、を有し、
該第2のレーザ加工ステップでは、該第2の改質層の該第1の部分と、該第2の部分と、を互いに第1の方向にずらして形成し、
該第2のレーザ加工ステップでは、該第2の改質層の該第1の部分と、該第2の部分と、の間に第2の方向における幅がLの第2の改質層が形成されない改質層非形成領域を設け、
該第2のレーザ加工ステップにおける該パルスレーザビームに対するウェーハの相対移動速度をV、該パルスレーザビームの繰り返し周波数をFとしたとき、該距離Lは、V/F以上、かつ、2{V/F}未満である、
ことを特徴とするウェーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェーハを加工してデバイスチップ等を作製するウェーハの加工方法では、表面にデバイスが形成されたウェーハを薄化するために、例えば、該ウェーハの裏面側を研削する。その後、該ウェーハを分割することで、個々のデバイスチップが形成される。ウェーハを分割する際には、まず、レーザ加工装置により格子状のストリート(分割予定ライン)に沿ってウェーハ中に分割の起点となる改質層を形成し、次に、該ウェーハに外力を作用させて該改質層からウェーハの厚さ方向にクラックを伸長させる。
【0003】
上述のようなウェーハの加工方法に対して、例えば、特許文献1に示されている通り、ウェーハの裏面側の研削と、デバイスチップへの分割と、を同時に実施する加工方法が検討されている。該加工方法では、予めレーザ加工装置によりストリートに沿ってウェーハ中に改質層を形成しておき、その後、該ウェーハの裏面側を研削してウェーハを薄化するとともに該改質層からクラックを伸長させて、ウェーハを分割する。このように、分割と研削とを同時に実施すると加工方法を簡略化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/077295号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなウェーハの加工方法では、研削を実施しているときに該改質層からクラックが伸長し、ウェーハをデバイスチップに分離する隙間が形成されるが、該隙間は非常に狭い。そして、該隙間が形成された後も研削は継続されるため、研削の際に加わる力によって各デバイスチップが移動する。
【0006】
格子状のストリートに沿ってウェーハが分割されると、複数のチップが碁盤の目状に密に配列された状態となるので、研削によりチップが移動すると、デバイスチップの角部(コーナー)はその角部側に隣接する別のデバイスチップの角部に衝突する。デバイスチップの角部は衝撃に弱いので、角部と角部とが衝突して衝撃が加わると該デバイスチップに欠けやクラック等の損傷が生じ易くなる。損傷が生じたデバイスチップは不良となるため、角部同士の衝突は特に問題である。
【0007】
角部同士の衝突による損傷の発生を防止するためには、例えば、該ウェーハの裏面側の研削加工において研削に使用される研削ホイールの回転速度をより小さくし、形成されたデバイスチップの移動を抑制することが考えられる。しかし、研削ホイールの回転速度を小さくすると、研削工程に要する時間が増大し、デバイスチップの製造効率が低下する等の新たな問題を生じてしまう。
【0008】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ウェーハを適切に分割でき、ウェーハが分割されて形成されたデバイスチップの角部同士の衝突を防止でき、デバイスチップへの損傷の発生を抑制できるウェーハの加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、第1の方向に伸長する複数の第1のストリートと、該第1の方向に直交する第2の方向に伸長する複数の第2のストリートと、を有するウェーハの加工方法であって、ウェーハに対して透過性を有する波長のレーザビームを該第1のストリートに沿って該ウェーハの内部に集光し、該レーザビームに対して該ウェーハを相対移動させることで該第1のストリートに沿ってウェーハの内部に第1の改質層を形成する第1のレーザ加工ステップと、ウェーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザビームを該第2のストリートに沿って該ウェーハの内部に集光し、該パルスレーザビームに対して該ウェーハを相対移動させることで該第2のストリートに沿ってウェーハの内部に第2の改質層を形成する第2のレーザ加工ステップと、該第1のレーザ加工ステップと、該第2のレーザ加工ステップと、を実施した後、ウェーハの裏面を研削してウェーハを所定の厚さへ薄化するとともに該第1の改質層と、該第2の改質層と、を起点にウェーハを個々のデバイスチップへと分割する研削ステップと、を備え、該第2の改質層は、それぞれ、該第1のストリートの一つに形成された第1の改質層を境に分けられる一方側に第1の部分と、他方側に第2の部分と、を有し、該第2のレーザ加工ステップでは、該第2の改質層の該第1の部分と、該第2の部分と、を互いに第1の方向にずらして形成し、該第2のレーザ加工ステップでは、該第2の改質層の該第1の部分と、該第2の部分と、の間に第2の方向における幅がLの第2の改質層が形成されない改質層非形成領域を設け、該第2のレーザ加工ステップにおける該パルスレーザビームに対するウェーハの相対移動速度をV、該パルスレーザビームの繰り返し周波数をFとしたとき、該距離Lは、V/F以上、かつ、2{V/F}未満である、ことを特徴とするウェーハの加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係るウェーハの加工方法によると、該第2の改質層の第1の部分と、第2の部分と、が互いに第1の方向にずれて形成される。そのため、研削による力が作用してウェーハが分割され、個々のデバイスチップが形成されたとき、デバイスチップの角部と、該角部側に隣接する別のデバイスチップの角部と、がずれの分だけ第1の方向に離れる。そのため、さらなる研削により各デバイスチップが移動しても、角部同士が衝突しにくくなり、デバイスチップの損傷の発生が抑制される。
【0011】
ここで、該第2の改質層の該第1の部分と、該第2の部分と、を互いに第1の方向にずらして形成する際、該第1の部分と、該第2の部分と、をそれぞれ第1の改質層に到達するように形成しようとすると問題が生じる。該第1の部分または該第2の部分を形成するレーザビームを該第1の改質層の位置で停止しようとしても、該第1の改質層の位置を過ぎてレーザビームがデバイスに照射される場合がある。これは、ウェーハの固定位置、加工送り、または、デバイスパターンの形成位置等にばらつきが生じるためである。
【0012】
そこで、第2のレーザ加工ステップでは、第2の改質層の第1の部分と、第2の部分と、をそれぞれ第1の改質層から離して形成し、第1の改質層を跨いで第2の改質層が形成されないようにする。すると、該第1の部分と、該第2の部分と、の間には第2の改質層が形成されない改質層非形成領域が設けられる。
【0013】
しかし、第2の改質層の第1の部分と、第2の部分と、がそれぞれ第1の改質層から離れすぎると、形成されるデバイスチップの角部付近においてウェーハを適切に分割できなくなる場合があり問題となる。そこで、第2の改質層の第1の部分と、第2の部分と、をそれぞれ第1の改質層から離して形成する一方で、第2の改質層の第1の部分と、第2の部分と、をそれぞれ該第1の改質層に可能な限り近づけたい。
【0014】
本発明の一態様に係るウェーハの加工方法によると、第2の改質層の第1の部分と、第2の部分と、の間に第1の改質層を配設することができ、かつ、該改質層非形成領域の第2の方向における幅を可能な限り小さくしてウェーハを適切に分割できる。
【0015】
したがって、本発明の一態様により、ウェーハを適切に分割でき、ウェーハが分割されて形成されたデバイスチップの角部同士の衝突を防止でき、デバイスチップへの損傷の発生を抑制できるウェーハの加工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1のレーザ加工ステップを模式的に説明する部分断面図である。
図2】第2のレーザ加工ステップにおける第2の改質層の第2の部分の形成を模式的に説明する部分断面図である。
図3】ストリートと、デバイスと、改質層と、の位置関係を説明する上面図である。
図4】研削ステップを模式的に説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本実施形態に係る加工方法の被加工物であるウェーハ1について図1及び図3を用いて説明する。該ウェーハ1は、例えば、シリコン、SiC(シリコンカーバイド)、若しくは、その他の半導体等の材料、または、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる基板である。
【0018】
ウェーハ1の表面1aは格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)3(図3参照)で複数の領域に区画されており、該複数のストリート3により区画された各領域にはIC等のデバイス5が形成されている。図3に示す通り、該複数のストリート3は、第1の方向1cに沿って伸長する第1のストリート3aと、該第1の方向1cに直交する第2の方向1dに沿って伸長する第2のストリート3bと、を有する。最終的に、ウェーハ1がストリート3に沿って分割されることで、個々のデバイスチップが形成される。
【0019】
図1に示す通り、該ウェーハ1の表面1aには、該デバイス5等を保護するための表面保護テープ7が貼着される。表面保護テープ7は、本実施形態に係るウェーハの加工方法が実施されている間、各ステップや搬送等の際に加わる衝撃からウェーハ1の表面1a側を保護し、デバイス5に損傷が生じるのを防止する機能を有する。
【0020】
表面保護テープ7は、可撓性を有するフィルム状の基材と、該基材の一方の面に形成された糊層(接着剤層)と、を有する。例えば、基材にはPO(ポリオレフィン)が用いられる。POよりも剛性の高いPET(ポリエチレンテレフタラート)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等が用いられても良い。また、糊層(接着剤層)には、例えば、シリコーンゴム、アクリル系材料、エポキシ系材料等が用いられる。なお、本実施形態では該表面1aに表面保護テープ7を貼着しているが、該表面1aには表面保護テープ7が貼着されなくてもよい。
【0021】
次に、第1のレーザ加工ステップ及び第2のレーザ加工ステップで使用されるレーザ加工装置2について、図1を用いて説明する。該レーザ加工装置2は、ウェーハ1を吸引保持する保持テーブル(チャックテーブル)4と、レーザビームを発振する加工ヘッド6と、を備える。
【0022】
保持テーブル4は上面側に多孔質部材を有する。該多孔質部材の上面は保持テーブル4のウェーハ1を保持する保持面4aとなる。保持テーブル4は、吸引源(不図示)に接続された吸引路(不図示)を内部に有し、該吸引路の他端が該多孔質部材に接続されている。該保持面4a上にウェーハ1が載せ置かれ、該多孔質部材の孔を通して該ウェーハ1に対して該吸引源により生じた負圧が作用されると、ウェーハ1は保持テーブル4に吸引保持される。
【0023】
加工ヘッド6は、ウェーハ1に対して透過性を有する波長のパルスレーザビームを発振してウェーハ1の内部の所定の深さに集光する機能を有し、多光子吸収により該所定の深さに第1の改質層9aを形成する。なお、該パルスレーザビームには、例えば、Nd:YVOやNd:YAGを媒体として発振されるパルスレーザビームが用いられる。
【0024】
レーザ加工装置2はパルスモータ等を動力とする加工送り手段(加工送り機構、不図示)により、保持テーブル4をレーザ加工装置2の加工送り方向(例えば、図1の矢印の方向)に移動できる。ウェーハ1の加工時等には、保持テーブル4を加工送り方向に送ってウェーハ1を加工送りさせる。また、保持テーブル4は保持面4aに略垂直な軸の周りに回転可能であり、保持テーブル4を回転させるとウェーハ1の加工送り方向を変えられる。
【0025】
さらに、レーザ加工装置2はパルスモータ等を動力とする割り出し送り手段(割り出し送り機構、不図示)により、保持テーブル4をレーザ加工装置2の割り出し送り方向(不図示)に移動できる。
【0026】
以下、本実施形態に係る加工方法の各ステップについて説明する。図1は、第1のレーザ加工ステップを模式的に説明する部分断面図である。第1のレーザ加工ステップでは、レーザ加工装置2の保持テーブル4に保持されたウェーハ1に対して裏面1b側からレーザビームを照射して、ウェーハ1の内部に第1のストリート3a(図3参照)に沿って第1の改質層9aを形成する。なお、図3において、第1の改質層9aを実線で示す。
【0027】
第1のレーザ加工ステップでは、まず、ウェーハ1の表面1aを保持テーブル4側に向け、ウェーハ1を保持テーブル4上に載せ置き、ウェーハ1の裏面1b側を露出させる。そして、該保持テーブル4から負圧を作用させて、ウェーハ1を保持テーブル4の保持面4a上に吸引保持させる。ウェーハ1の表面1aに表面保護テープ7が貼着されている場合、ウェーハ1は該表面保護テープ7を介して保持テーブル4に保持される。
【0028】
そして、第1のストリート3aに沿ってウェーハ1の内部に第1の改質層9aを形成できるように、保持テーブル4及び加工ヘッド6の相対位置を調整する。次に、レーザ加工装置2の加工ヘッド6からウェーハ1の裏面1b側にパルスレーザビームを照射し、該レーザビームをウェーハ1の内部に集光して、第1の改質層9aを形成する。該第1のストリート3aに沿って第1の改質層9aが形成されるように、レーザビームを照射させながら保持テーブル4を移動させてウェーハ1を加工送りする。
【0029】
レーザビームの照射条件は、第1の改質層9aが形成されるとともに該第1の改質層9aからウェーハ1の表面1aに至るクラック(不図示)が形成されるように設定されるのが好ましい。第1のレーザ加工ステップにて該クラックを形成すると、該第1のストリート3aに沿ってウェーハ1をより確実に分割できるからである。
【0030】
一つのストリートに沿って第1の改質層9aと、クラック(不図示)と、が形成された後、ウェーハ1を割り出し送りして、隣接する第1のストリート3a(図3参照)に沿って次々と第1の改質層9aと、クラックと、を形成する。
【0031】
次に、第2のレーザ加工ステップについて、図2及び図3を用いて説明する。第2のレーザ加工ステップでは、第1の方向1cに直交する第2の方向1dに伸長する第2のストリート3bに沿って、ウェーハ1の内部に第2の改質層9bを形成する。なお、図3において、第2の改質層9bを実線で示す。
【0032】
ここで、第2の改質層9bは、該第1のストリート3aの一つに形成された第1の改質層9aを境に分けられる一方側に第1の部分11aと、他方側に第2の部分11bと、を有する。そして、該第2のレーザ加工ステップでは、該第2の改質層9bの該第1の部分11aと、該第2の部分11bと、を互いに第1の方向1cにずらして形成する。すなわち、該第1の部分11aと、第2の部分11bと、は第1の方向1cの別の位置に形成する。
【0033】
第1のレーザ加工ステップに続いて第2のレーザ加工ステップを実施する場合、該第1のレーザ加工ステップの実施後に保持テーブル4を4分の1回転させて加工送り方向を変更する。そして、第2のストリート3bに沿ってウェーハ1の内部に第2の改質層9bの第1の部分11aを形成できるように、保持テーブル4及び加工ヘッド6の相対位置を調整する。
【0034】
次に、レーザ加工装置2の加工ヘッド6からウェーハ1の裏面1b側にパルスレーザビームを照射し、該レーザビームをウェーハ1の内部に集光して、第2の改質層9bの第1の部分11aを形成する。該第2のストリート3bに沿って第2の改質層9bの第1の部分11aが形成されるように、パルスレーザビームを発振させながら保持テーブル4を移動させてウェーハ1を加工送りする。
【0035】
該第2のストリート3bに沿って第2の改質層9bの第1の部分11aを形成した後、同じ第2のストリート3bに沿って該第1の部分11aに対して第1の方向1cにずれた第2の部分11bを形成するために、保持テーブル4を割り出し送りして保持テーブル4と、加工ヘッド6と、の相対位置を調整する。次に、レーザ加工装置2の加工ヘッド6からウェーハ1の裏面1b側にパルスレーザビームを発振させながら保持テーブル4を移動させてウェーハ1を加工送りする。
【0036】
図2は、第2の部分11bを形成する第2のレーザ加工ステップを模式的に説明する断面図である。図2に示す通り、第2の改質層9bの第1の部分11aと、第2の部分11bと、は第1のストリート3aに沿って形成される第1の改質層9aを境に、交互に配設される。すなわち、該第2の部分11bを形成する領域にはパルスパルスレーザビームを照射して、該第1の部分11aを形成する領域にはパルスレーザビームを照射しない。
【0037】
ここで、加工ヘッド6はレーザビームを一定の周期で繰り返し発振し続ける。また、ウェーハ1の加工送り速度は一定とされる。そのため、パルスレーザビームは一定の加工送り距離毎に等間隔でウェーハ1の内部に照射されることとなる。そして、パルスレーザビームの集光点の位置は、レーザビームの繰り返し周波数と、ウェーハ1の加工送り速度、パルスレーザビームの周期に対する加工送り開始のタイミングや、加工送り開始時の加工ヘッド6の相対位置等により決定される。
【0038】
すると、一般にウェーハは略円形であるため該パルスレーザビームの周期に対する加工送り開始のタイミング等は、各ストリートにおいて必ずしも同じにはならない。したがって、ストリートの全長における集光点は等間隔に配されるが、各ストリート間で集光点の加工送り方向における位置はずれることとなる。
【0039】
そして、第2のレーザ加工ステップにおいて、第2の改質層9bの第1の部分11aと、第2の部分11bと、を形成する際は、ウェーハ1がデバイスチップの1辺の長さ程度加工送りされるたびに、パルスレーザビームの照射と非照射とを切り替える。このとき、第2のストリート3bと第1のストリート3aとの交差点付近でパルスレーザビームの照射と、非照射と、を切り替える。
【0040】
例えば、パルスレーザビームの照射と、非照射と、の切り替えは、パルスレーザビームの発振及び停止で行われる。または、パルスレーザビームに対する遮蔽と、該遮蔽の解除と、により行われる。第2のレーザ加工ステップでは、第2の改質層9bの第1の部分11aと、第2の部分11bと、をそれぞれ第1の改質層9aに至らないように形成する。
【0041】
第2の改質層9bの第1の部分11aと、第2の部分11bと、を互いに第2の方向1dに離して形成する。すると、該第1の部分11aと、該第2の部分11bと、の間に第2の改質層9bが形成されない改質層非形成領域が設けられ、第1の改質層9aは該改質層非形成領域に配される。
【0042】
しかしながら、第2の改質層9bの第1の部分11aと、第2の部分11bと、がそれぞれ第1の改質層9aから離れすぎると、形成されるデバイスチップの角部付近においてウェーハ1を適切に分割できなくなる場合があり問題となる。例えば、後述の研削ステップにおいて、該第1の部分11aと、該第2の部分11bと、から該第1の改質層9aに至る第2の方向1dに伸長するクラックが発生するとともに、該第1の分11aと、該第2の部分11bと、を繋ぐクラックが発生する場合がある。
【0043】
そこで、第2の改質層9bの第1の部分11aと、第2の部分11bと、をそれぞれ第1の改質層9aから離して形成する一方で、第2の改質層9bの第1の部分11aと、第2の部分11bと、をそれぞれ該第1の改質層9aに可能な限り近づけたい。
【0044】
パルスレーザビームの集光点の位置は各ストリートで必ずしも同じにならずに第2の方向1dにずれるため、第2の改質層9bの該第1の部分11aと、第2の部分11bと、のそれぞれの端部を特定の位置に形成できない。そこで、本実施形態に係る加工方法においては、該改質層非形成領域の第2の方向1dにおける幅に着目する。
【0045】
例えば、第2の改質層9bを形成するときのパルスレーザビームに対するウェーハ1の相対移動速度をV(mm/s)とし、パルスレーザビームの繰り返し周波数をF(Hz)とする。すると、第2のレーザ加工ステップでは、第2のストリート3bに沿って距離V(mm/s)/F(Hz)毎にパルスレーザビームがウェーハ1内に集光されることとなる。すなわち、該パルスレーザビームの1パルス間に距離V(mm/s)/F(Hz)だけウェーハ1が加工送りされる。
【0046】
そこで、本実施形態に係る加工方法においては、改質層非形成領域の第2の方向1dにおける幅を距離L(mm)としたとき(図3参照)、該距離L(mm)は、V(mm/s)/F(Hz)以上、かつ、2{V(mm/s)/F(Hz)}未満とする。
【0047】
改質層非形成領域には、第1の方向1cに伸長する第1の改質層9aが形成される。距離L(mm)を1パルス間の距離以上とすると、第1の改質層9aを跨がないように第2の改質層9bの第1の部分11aと、第2の部分11bと、を形成できる。さらに、距離L(mm)を2パルス間の距離未満とすると必要以上に改質層非形成領域の幅が大きくならず、形成されるデバイスチップの角部付近においてウェーハ1を適切に分割できる。
【0048】
なお、第2の改質層9bの第1の部分11a及び第2の部分11bが形成されるとともに該第2の改質層9bからウェーハ1の表面1aに至るクラック(不図示)が形成されるようにレーザビームの照射条件を設定するのが好ましい。第2のレーザ加工ステップにて該クラックを形成すると、該第2のストリート3bに沿ってウェーハ1をより確実に分割できるからである。
【0049】
第1のレーザ加工ステップで形成される第1の改質層9aと、第2のレーザ加工ステップで形成される第2の改質層9bと、が形成される深さ位置について説明する。形成されるデバイスチップに該改質層が残ると、該改質層から不要なクラック等が生じてデバイスチップが損傷する場合がある。そのため、改質層は後の研削ステップで形成されるデバイスチップの仕上がり厚さよりもウェーハの裏面側の深さ位置に形成される。
【0050】
すなわち、改質層は研削により除去される部分に形成される。例えば、ウェーハ1の表面1aから80μm程度の深さにこれらの改質層を形成し、デバイスチップの厚さを80μmよりも小さくすると、該改質層は形成されるデバイスチップに残らない。
【0051】
次に、図4を用いて研削ステップについて説明する。該研削ステップは、第1のレーザ加工ステップ、及び、第2のレーザ加工ステップの後に実施される。該研削ステップでは、ウェーハ1の裏面1b側が研削されウェーハ1が所定の厚さに薄化されるとともに、ウェーハ1が個々のデバイスチップに分割される。
【0052】
第1のレーザ加工ステップと、第2のレーザ加工ステップと、において、それぞれ改質層からウェーハ1の表面1aに至るクラックを形成していない場合には、該研削ステップにおいて該クラックを形成する。その場合、研削で生じる外力を該改質層に作用させてクラックを形成する。すべての改質層からウェーハ1の表面1aに至るクラックが形成され、裏面1b側が研削されて該改質層が除去されると、ウェーハ1が分割されて個々のデバイスチップが形成される。
【0053】
図4は、研削ステップを模式的に説明する部分断面図である。本ステップでは研削装置8が用いられる。研削装置8は、研削ホイール14に垂直な回転軸を構成するスピンドル10と、該スピンドル10の一端側に装着され下側に研削砥石12を備える円盤状の研削ホイール14と、を備える。該スピンドル10の他端側にはモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されており、該モータが該スピンドル10を回転させると、該スピンドル10に装着された研削ホイール14も回転する。
【0054】
また、研削装置8は、研削ホイール14と対面しウェーハ1等の被加工物を保持するチャックテーブル16を有する。チャックテーブル16上の保持面16aは、吸引源(不図示)に接続された多孔質部材で構成される。なお、チャックテーブル16は、保持面16aに略垂直な軸の周りに回転可能である。さらに、研削装置8は、昇降機構(不図示)を有しており、研削ホイール14は該昇降機構により加工送り(下降)される。
【0055】
研削ステップでは、まず、ウェーハ1の表面1aを下側に向け、チャックテーブル16の保持面16a上にウェーハ1を載せ置く。そして、該多孔質部材を通して該吸引源による負圧を作用させて、ウェーハ1をチャックテーブル16上に吸引保持させる。ウェーハ1の表面1aに表面保護テープ7が貼着されている場合、ウェーハ1は該表面保護テープ7を介してチャックテーブル16に吸引保持される。
【0056】
研削時には、チャックテーブル16を回転させるとともに、スピンドル10を回転させて研削ホイール14を回転させる。チャックテーブル16及び研削ホイール14が回転している状態で、研削ホイール14が加工送り(下降)されて研削砥石12がウェーハ1の裏面1bに当たると、該裏面1bの研削が開始される。そして、ウェーハ1が所定の厚さとなるように研削ホイール14をさらに加工送りする。
【0057】
本実施形態に係る加工方法では、該研削ステップにおいてウェーハ1を薄化する際に、ウェーハ1が個々のデバイスチップに分割される。そのため、デバイスチップを分割するためだけに別のステップを実施する必要がなく、デバイスチップの作製工程が簡略化される。一方で、個々のデバイスチップが形成された後にも研削は続けられるので、個々のデバイスチップには、保持面16aに平行な面内の方向に力がかかり、個々のデバイスチップが該面内の方向に移動する場合がある。
【0058】
ウェーハ1に形成されるすべての改質層9が、それぞれ対応するストリート3に沿って一直線状に形成される場合、研削により形成されたデバイスチップが移動すると、デバイスチップの角部はその角部側に隣接する別のデバイスチップの角部と衝突する。デバイスチップの角部は衝撃に弱いので、角部と角部との衝突により衝撃を受けると該デバイスチップに欠けやクラック等の損傷が生じる場合がある。
【0059】
一方、本実施形態に係る製造方法では第1のストリート3aに沿って形成される第1の改質層9aは一直線状に形成されるが、第2のストリート3bに沿って形成される第2の改質層9bは一直線状に形成されない。該第2の改質層9bは、該第1のストリート3aの一つを境に分けられる一方側に第1の部分11aと、他方側に第2の部分11bと、を有する。該第2のレーザ加工ステップでは、第2の改質層9bの第1の部分11aと、該第2の改質層9bの第2の部分11bと、は互いに第1の方向3cにずれて形成される。
【0060】
ウェーハ1に形成される第1の改質層9aと、第2の改質層9bと、について、図3を用いて位置関係を説明する。図3は、第1のレーザ加工ステップと、第2のレーザ加工ステップと、を実施した後、研削ステップを実施する前におけるウェーハ1の改質層9を模式的に説明する平面図である。
【0061】
図3に示す通り、該第2の改質層9bは、任意の該第1のストリート3aを境に分けられる一方側に第1の部分11aと、他方側に第2の部分11bと、を有する。該第2の改質層9bの第1の部分11aと、該第2の改質層9bの第2の部分11bと、は一直線状ではなく、互いに第1の方向1cにずれている。
【0062】
すると、デバイスチップが形成されるとき、ずれている距離(図3のL1参照)の分だけデバイスチップの角部同士は離される。デバイスチップの角部同士が離されていると、デバイスチップの角部はその角部側に隣接するデバイスチップの角部と衝突しにくくなり、研削ステップでデバイスチップが移動してもデバイスチップは損傷しにくくなる。
【0063】
以上の各ステップにより、ウェーハが加工されてデバイスチップが形成される。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、第2の改質層9bを第1の部分11aと第2の部分11bとに分けて互いに第1の方向にずれるように形成したが、さらに、第1の改質層9aを2つの部分に分けて形成し、互いに第2の方向にずれるように形成してもよい。
【0065】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0066】
1 ウェーハ
1a 表面
1b 裏面
1c 第1の方向
1d 第2の方向
3 ストリート
3a 第1のストリート
3b 第2のストリート
5 デバイス
7 表面保護テープ
9 改質層
9a 第1の改質層
9b 第2の改質層
11a 第1の部分
11b 第2の部分
2 レーザ加工装置
4 チャックテーブル
4a 保持面
6 加工ヘッド
8 研削装置
10 スピンドル
12 研削砥石
14 研削ホイール
16 チャックテーブル
16a 保持面
図1
図2
図3
図4