【文献】
天社こずえ、桃山和夫,過酸化水素製剤と稀釈海水のトラフグ稚魚に寄生したPseudocaligus fuguの駆除効果,山口県水産研究センター研究報告第4号,山口県水産研究センター,2006年 3月,163−166頁
【文献】
安部謙・桃山和夫,過酸化水素製剤と稀釈海水の海産稚魚6種に対する有害性,山口県水産研究センター研究報告第3号,2005年 3月,119−123頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
生け簀の網の少なくとも側面をシートで被い、内部の海水が保持される状態にして、生け簀内の海水に過酸化水素水を計算上平均濃度が30ppm〜150ppmになる量投入し、15分間〜2時間経過後、シートを除去することを特徴とする請求項1の方法。
【背景技術】
【0002】
魚類養殖において寄生虫症は安定した生産の妨げとなるために、非常に大きな問題となっている。寄生虫症の中でもとりわけ扁形動物門単生綱に属する単生虫や節足動物門甲殻綱のカリグスは多くの養殖魚で発生し最も大きな問題の一つとされる感染症である。単生虫では一般的にハダムシと呼ばれているものとエラムシと呼ばれているものがある。ハダムシと呼ばれている寄生虫は、単後吸盤類カプサラ科ネオベネデニア(
Neobenedenia girellae)やベネデニア(
Benedenia seriolae)等であり、カンパチ、ブリ、ヒラマサ、ヒレナガカンパチ等のブリ類や、シマアジ、スズキ、マダイ、キイロハギ、キジハタ、クエ、ヒラメ、トラフグ、スギ等多くの魚種に寄生することが知られている。現場での診断法としては、腹部の表皮発赤や鰭のスレ、眼球の白濁などの症状を伴うへい死のほかに、多量の寄生を受けた魚では、粘液の大量分泌により体表が白濁して見えることなどがあげられる。また、生簀網に体をこすりつけるような異常遊泳が頻繁に見られる場合もある。生簀網などに体をこすりつけることから症状が悪化し、寄生部位から病原菌の感染機会が増えるため、被害が拡大することもある。本虫の寄生が確認された場合は、水温に注意しながら3分間程度の淡水浴もしくは高濃度の過酸化水素水浴を行うことによって駆虫されている。
【0003】
エラムシと呼ばれている単生虫は、ブリ類に寄生する扁形動物門多後吸盤類ヘテラキシネ科ヘテラキシネ(
Heteraxine heterocerca)、ゼウクサプタ(
Zeuxapta japonica)、マダイに寄生する同ミクロコチレ科ビバギナ(
Bivagina tai)、クロソイに寄生する同ミクロコチレ科ミクロコチレ(
Microcotyle sebastis)、カサゴに寄生する同科ミクロコチレ(
Microcotyle sebastisci)、トラフグに寄生する同ディクリドフォラ科ヘテロボツリウム(
Heterobothrium okamotoi)、ヒラメに寄生する同科ネオヘテロボツリウム(
Neoheterobothrium hirame)、などである。現場での診断法としては、鰓の退色、魚の貧血、肥満度の低下などが挙げられる。また、生簀網に体をこすりつけるような異常遊泳が頻繁に見られる場合もある。生簀網などに体をこすりつけることから体表のスレ部位から病原菌の感染機会が増えるため、被害が拡大することもある。本虫の寄生が確認された場合は、水温に注意しながら3分間程度の高濃度の過酸化水素水浴を行うことによって駆虫されている。
いずれの場合も、魚の移し変え等処理に要する労力及び魚に与えるストレスが大きいため、より簡便な治療方法が強く望まれている。
また、最近になって養殖マダイの鰓におびただしい数のラメロジスカス(
Lamellodiscus spp.)の寄生が認められる場合があり、宿主への影響が懸念されている。本虫もエラムシと呼ばれているが、単後吸盤類ディプレクタニダ科(Diplectanidae)ラメロジスカス属に分類される。本虫に対する駆虫法は確立されていない。
【0004】
節足動物門甲殻綱のカリグスと呼ばれている寄生虫は、シマアジに寄生するカリグス・ロンギペディス(Caligus longipedis)、トラフグ類に寄生するシュードカリグス・フグ(Pseudocaligus fugu)、サケ科魚類やボラ、ティラピアに寄生するカリグス・オリエンタリス(Caligus orientalis)などである。現場での診断法や寄生を受けた魚への影響、駆虫法などはハダムシと同様である。但し、駆虫時の淡水浴や過酸化水素水浴の処理時間は20分程度でハダムシより長い。
【0005】
ブリ類で発生しているハダムシは、ベネデニア・セリオレとネオベネデニア・ジレレである。また、ネオベネデニア・ジレレはブリ類以外の多くの海産魚でその寄生が報告されている。現場での駆虫法は、過酸化水素水剤(株式会社 片山化学工業研究所、商品名マリンサワー及び保土谷化学工業株式会社、商品名サカナガード)による薬浴や淡水浴が主流である。日本では、過酸化水素剤はスズキ目魚類のベネデニア・セリオレとマダイのビバギナ・タイ(エラムシ)について動物用医薬品として承認されている。これら寄生虫に対する用法・用量は、過酸化水素濃度300ppmで3分である。カンパチ養殖では、ベネデニア・セリオレよりネオベネデニア・ジレレによる被害が深刻で、過酸化水素剤はカンパチのネオベネデニア・ジレレ駆虫にも使われている。しかし、この用量・用法ではネオベネデニア・ジレレに対し駆虫効果が低く、現場では300ppmで5分から6分の薬浴が採用されている。しかも、本剤は、高水温時にカンパチに対する毒性が高く、酸素欠乏が原因と考えられる死亡事故が発生する場合がある。
なお、最近になって、過酸化水素剤は、フグ目魚類のネオベネデニア・ジレレとシュードカリグス・フグについても動物用医薬品として承認され、その用量・用法は300ppmで20分である。
【0006】
特許文献1には海水系養殖魚の外部寄生虫駆除方法として、濃度200〜3000ppmの過酸化水素水で1〜20分間薬浴する方法が記載されている。特許文献2には、淡水魚のギロダクチルスを駆除するために、濃度10〜100ppmの過酸化水素水で30〜120分間薬浴する方法が記載されている。特許文献3には、トラフグのヘテロボツリウム症の予防のために、濃度400〜2000ppmの過酸化水素水で20〜120分間薬浴する方法が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の対象となる寄生虫としては、魚類の扁形動物門単生綱に属する単生虫(一般的にハダムシやエラムシと呼ばれる)や節足動物門甲殻綱に属するカリグスなどが挙げられる。ハダムシと呼ばれる寄生虫は単生虫類ベネデニア亜科等の海水魚に寄生するものが挙げられる。ベネデニア亜科としては、例えばベネデニア・セリオレ(
Benedenia seriolae)、ベネデニア・エピネフェリ(
Benedenia epinepheli)、ベネデニア・ホシナイ(
Benedenia hoshinai)、ベネデニア・セキイ(
Benedenia sekii)等のベネデニア(
Benedenia)及びネオベネデニア・ジレレ(
Neobenedenia girellae)、ネオベネデニア・コンゲリ(
Neobenedenia congeri)等のネオベネデニア(
Neobenedenia)が挙げられる。エラムシと呼ばれている単生虫は、多後吸盤類に属するヘテラキシネ科ヘテラキシネ・ヘテロセルカ(
Heteraxine heterocerca)、ゼウクサプタ・ヤポニカ(
Zeuxapta japonica)、ミクロコチレ科ビバギナ・タイ(
Bivagina tai)、ミクロコチレ・セバスチス(
Microcotyle sebastis)、ミクロコチレ・セバスチスキ(
Microcotyle sebastisci)、ディクリドフォラ科ヘテロボツリウム・オカモトイ(
Heterobothrium okamotoi)、ネオヘテロボツリウム・ヒラメ(
Neoheterobothrium hirame)などである。また、エラムシと呼ばれる寄生虫は単後吸盤類に分類されるものもあり、ラメロジスカス属ラメロジスカス(
Lamellodiscus spp.)が挙げられる。カリグスはウオジラミ科に属するカリグス・ロンギペディス(
Caligus longipedis)、シュードカリグス・フグ(
Pseudocaligus fugu)、カリグス・オリエンタリス(
Caligus orientalis)、などが挙げられる。特にネオベネデニア、ベネデニア、ゼウクサプタ・ヤポニカ、ビバギナ・タイ及びラメロジスカス等に有効である。
【0013】
本発明において海産魚類とは、寄生虫を駆除する必要が生じる養殖魚や観賞魚として取り扱われている海産魚種である。中でも特に産業上重要なのは、養殖魚であり、例えば、フグ目フグ科のトラフグ、スズキ目ハタ科のハタ、スズキ目シクリッド科のティラピア、など、ハダムシやエラムシなどの魚類寄生虫の寄生が知られている魚種、あるいは魚類寄生虫の寄生の可能性がある魚種において本発明の薬剤を予防的あるいは治療的に用いることができる。
本発明の対象となる魚種には、海水の中で生存している全ての年齢の養殖魚、水族館や商業の鑑賞魚が含まれる。特に、養殖魚では、スズキ目、カレイ目、フグ目、ニシン目、ウナギ目の魚類であり、ブリ類、ハタ類、タイ類、ヒラメ類、フグ類、サケ類、ウナギ類の魚である。具体的には、カンパチ、ヒレナガカンパチ、ブリ(ハマチ)、ヒラマサ、マアジ、シマアジ、マサバ、スズキ、マダイ、イシダイ、イシガキダイ、ティラピア、スギ、キジハタ、クエ、マハタ、チャイロマルハタ、ヤイトハタ、サラサハタ、スジアラ、タマカイ、カサゴ、ヒラメ、マツカワ、ホシガレイ、ターボット、オヒョウ、トラフグ、カワハギ、キイロハギ、ウマヅラハギ、ニジマス、大西洋サケ、ギンザケ、ベニザケ、などが例示される。特にカンパチ、ブリ、ハタ類、コビア、スナッパー、バラマンディ、ティラピア、スズキなどで、ハダムシの被害が多く報告されている。
【0014】
本発明で用いる過酸化水素水は特別なものではなく、普通に市販されているものでよい。35%溶液などが販売されているので、規定の濃度に希釈して薬浴剤として用いる。海産魚類においては従来300ppm以上の濃度で薬浴すべきであると考えられており、そのように実施されてきた。しかし、本発明は30ppm〜150ppm、好ましくは30〜100ppm、さらに好ましくは30〜90ppm、30〜80ppm、37.5〜75ppmの低濃度で薬浴を行う。薬浴時間は15分以上であることが好ましい。魚種にもよるが、低濃度であれば、長時間薬浴しても、魚体に悪影響は見られないので、特に上限はない。実施例5に示すように150ppmで6時間では、摂餌不良などの症状はあったが、300ppmのように死亡するようなことはなく、75ppmでは全く異常は観察されなかった。しかし、魚体に不必要な負担をかける必要はなく、作業効率の面からは、15〜120分、好ましくは15〜90分間、より好ましくは30〜60分間である。したがって、30〜150ppmで15分間〜6時間が好ましく、さらに15分間〜2時間が好ましい。あるいは、30〜100ppmで15分間〜6時間が好ましく、さらに15分間〜2時間が好ましい。
例えば、単後吸盤類およびビバギナを除く多後吸盤類の寄生虫は37.5〜75ppmが最も好ましく、ビバギナでは75〜100ppmが好ましい。
この薬浴を、寄生虫感染が疑われたら速やかに行う。薬浴は1回行えばよい。その後も飼育中に寄生虫感染が疑われた時に速やかに1回実施すればよい。本明細書中でppmは水中の過酸化水素の量を重量/容量で表している。
【0015】
従来の高濃度で行う薬浴に比べて、本発明の低濃度で行う薬浴の寄生虫駆除効果が高い理由は実施例の結果から以下のように説明することができる。
水温25℃で過酸化水素濃度300ppm・6分でネオベネデニア・ジレレを処理すると虫体は明らかに萎縮するが、宿主に定着するための吸盤(固着盤)は萎縮・変形しない。そのため、本虫はシャーレ壁面に吸着したまま留まり、処理後に虫が徐々に回復してしまう(実施例1)。宿主体表でも同様なことが起きていると考えられ、駆虫効果が不安定な原因となる。実際、過酸化水素濃度300ppm・6分の条件で、ネオベネデニア・ジレレに感染したカンパチを薬浴すると駆虫率は59.1%であり、その駆虫効果に限界があった(実施例3)。
一方、75ppmや50ppmの低濃度でネオベネデニア・ジレレを30から60分間処理した場合、虫体の萎縮度合は弱いが、吸盤も萎縮・変形しシャーレ壁面から剥離することを見出した。さらに、処理後のネオベネデニア・ジレレの萎縮も持続した(実施例1)。
高濃度の過酸化水素濃度(300ppm)で60分間ネオベネデニア・ジレレを処理しても、吸盤の萎縮・変形(固着盤)は30%に留まった。したがって、高濃度より75ppmや50ppmの低濃度の方がネオベネデニア・ジレレの吸盤を萎縮・変形させる作用が高いことが明らかになった(実施例2)。
水温25℃で過酸化水素濃度75ppm・30分の条件下でネオベネデニア・ジレレに感染したカンパチを薬浴した。その駆虫率は94.3%であった。また、50ppm・30分処理時の駆虫率は86.6%であった。したがって、ネオベネデニア・ジレレの駆虫は、固着盤を萎縮・変形させることが重要であり、それにより高い駆虫効果が安定して得られることが明らかになった(実施例3)。さらに、実施例4では、過酸化水素濃度37.5ppmで30分又は60分間の条件下でも、高い駆虫効果が得られることを確認した。低濃度だと、ネオベネデニア・ジレレの固着盤が萎縮・変形し宿主から剥離するため、処理後本虫が回復する要因がなくなり、安定的な駆虫効果を望める。
【0016】
養殖現場での過酸化水素剤による薬浴は、約200tのプール状のシートに過酸化水素濃度300ppm溶液を準備し、そこに魚を収容することで実施している。過酸化水素濃度150ppm以上でカンパチを薬浴すると、その刺激からか開始1から3分で魚が上下に激しく遊泳した(実施例5)。夏季の高水温時に酸素欠乏が原因と考えられる死亡事故が発生する場合があり、本試験で観察された激しい遊泳がその原因の一つであると考えられた。一方、カンパチを過酸化水素濃度75ppmで6時間浸漬した場合、遊泳や翌日の摂餌行動などに悪影響を及ぼさなかった(実施例5)。これらの結果から、過酸化水素濃度150ppm未満、特に75ppm以下であれば確実にカンパチに悪影響を与えず薬浴できることが明らかとなった。また、高濃度での薬浴処理はカンパチの体表に損傷を与えネオベネデニア・ジレレの再感染を受けやすくすること、低濃度での処理は体表に損傷を与えないことなども明らかとなった(実施例6)。
【0017】
ノルウェーのサケ養殖での薬浴法は、生簀側面をシートで囲むスカート法が採用されている。本法は、魚を狭い薬浴槽に移す必要がないため、飼育環境中の溶存酸素を確保できる。また、酸素や空気通気により環境水中の溶存酸素を保つことも可能である。このような方法と本発明を組み合わせることで、30分から60分の比較的長い薬浴が可能である。
薬剤の投入は、筒状の管に多くの穴が開いている専用の器材が考案されており、生簀の表層から底層まで同時に薬剤を撒ける。さらに魚の遊泳により薬剤が拡散し均一にすることができる。
具体的には、生け簀の網の側面をシートで被い、内部の海水が保持される状態にして、生け簀内の海水に過酸化水素水を計算上平均濃度が30ppm〜150ppmになる量投入し、15分間以上、好ましくは15分間〜6時間、あるいは15分間〜2時間、より好ましくは30〜60分間経過後、シートを除去することにより本発明の薬浴を行うことができる。この方法により、魚類にストレスをかけることなく、薬浴することができる。
【0018】
ネオベネデニア・ジレレだけでなく、ベネデニア・セリオレも同様な結果が得られることを確認した(実施例7、11、12)。さらに、in vivo試験で、ラメロジスカスに対しても明らかな駆虫効果を発揮することが明らかとなった(実施例8)。ベネデニア・セリオレは単生綱単後吸盤類のベネデニア属に、ネオベネデニア・ジレレは同類ネオベネデニア属に、ラメロジスカスは同類ラメロジスカス属に分類されている。低濃度の過酸化水素水薬浴は、これら寄生虫に共通して高い駆虫効果を発揮したことから、単生綱単後吸盤類の寄生虫に効果を有すると考えられた。
加えて、低濃度処理時の寄生虫の変形と持続は、ゼウクサプタ・ヤポニカの把握器が配列されている固着盤でも観察された(実施例9)。in vivo試験で調べたところ、本虫に対しても明らかな駆虫効果を発揮することが明らかとなった(実施例11、12)。さらに、ビバギナ・タイに対しても明らかな駆虫効果を発揮した(実施例10)。ゼウクサプタ・ヤポニカは単生綱多後吸盤類のゼウクサプタ属に、ビバギナ・タイは同類ビバギナ属に分類されている。低濃度の過酸化水素水薬浴は、これら寄生虫に共通して高い駆虫効果を発揮したことから、単生綱多後吸盤類の寄生虫にも効果を有すると考えられた。
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
<in vitroでのネオベネデニア・ジレレに対する低濃度過酸化水素水処理の駆虫効果−1>
試験方法:約100gのブリ4尾を100リットル水槽1基に収容し、ネオベネデニア・ジレレ孵化幼生2000個体を水槽に投入して攻撃した。攻撃して14日目に魚をサンプリングし、体表に寄生している成虫をピンセットで回収して試験に供試した。また、飼育期間中の水温は25±0.5℃であった。海水はUV殺菌した濾過海水を用い、供給量は1.2リットル/分とした。飼料は市販EP飼料を用い、給餌は1日1回とし、給餌量は魚体重の2%とした。
海水20mlを含む90mm組織培養用シャーレ7枚に成虫を各10個体収容し、定着させた。定着後、海水で3回洗浄した。海水をデカンタで除き、キムワイプで残った海水を拭き取った。そこに各試験溶液20mlを加えて25℃の室温下で培養した。処理後、海水で4回洗浄し、20mlの海水を加え10時間培養した。処理して海水に戻した直後、海水に戻してから30分毎に2時間のあいだ、および処理して10時間後に萎縮個体およびシャーレ壁面から剥離した成虫を計数し記録した。また、供試したネオベネデニア・ジレレの大きさを把握するため、30個体の本虫の体長を測定した。
試験区:試験区を表1に示した。
【0020】
【表1】
【0021】
結果と考察
試験に供試した本虫の体長は、4.17±0.25mmであった。
過酸化水素液剤はブリ類の体表に寄生するベネデニア・セリオレやマダイの鰓に寄生するビバギナ・タイの駆虫剤で、その用量用法は過酸化水素濃度300ppmで3分である。
試験区1のネオベネデニア・ジレレは、処理して海水に戻した直後に全ての個体が中程度の萎縮を示し(
図1、
図2B)、海水に移してから10分程度までに萎縮程度が増し、10個体中3個体が重度の萎縮となった(
図2C)。しかし、萎縮していた個体は徐々に回復し(
図2D)、海水に戻してから30分で全個体が萎縮から回復した(
図1)。
試験区2のネオベネデニア・ジレレは、処理して海水に戻した直後に全個体が重度の萎縮となっていた(
図3A)。処理後海水に戻してから30分後でも全個体が萎縮していたが(
図1)、その萎縮は中程度まで回復していた(
図3B)。海水に戻して60分後には90%の個体が萎縮から回復していた(
図1、
図3C)。
試験区1及び試験区2では、処理時間3分と6分ともに、ネオベネデニア・ジレレの固着盤(大型の吸盤)は萎縮しなかった(
図2B & C、
図3A)。以上のことから、ベネデニア駆虫条件である過酸化水素濃度300ppm・3分および処理時間が倍の6分の処理は、萎縮した本虫が回復するまでの比較的短時間の間に魚同士が接触する、生簀網に体を擦るなど物理的な作用により本虫が体表から脱落して駆虫効果を発揮すると考えられた。物理的な作用を受けなかった個体は回復することから、駆虫効果に限界があると考えられる。
試験区3及び試験区5は、30分の処理後海水に戻した直後に全個体が中程度レベルで萎縮していた(
図1、
図4A)。両処理区ともに処理後海水に移してから萎縮が顕著になる傾向を示した。この傾向は300ppmで3分の処理区と同様である。萎縮した本虫は、30分後に半数以上が回復したが、海水に戻して1時間30分後でも萎縮している本虫が1個体観察された(
図1)。いずれも固着盤が萎縮しており、シャーレに定着できない状態であった。
試験区4及び試験区6では、処理直後は中程度の萎縮であり、試験区3及び試験区5と大きな差は認められなかった。両処理区とも処理後海水に移してから萎縮が進行する傾向であった。特に試験区4では海水に戻して60分の間にシャーレから剥離する個体が徐々に増え、60分後の剥離率は100%にまで達した。両試験区とも処理してから120分後でも半数以上の個体が萎縮していた。その萎縮箇所として固着盤が顕著であった(
図4B & C)。さらに試験区4では10時間後でも回復していない本虫が7個体観察され、シャーレに定着していなかった個体はその内4個体であった。固着盤の萎縮は続いており、シャーレに定着していない個体だけでなく、定着している個体でも萎縮が観察された(
図4D)。
これらの結果は、75ppmおよび50ppmの低濃度でも30〜60分間処理することでネオベネデニア・ジレレを駆虫できることを示している。特に、ネオベネデニア・ジレレの固着盤を萎縮させることから、従来生簀で実施されている高濃度で短時間の処理と比べ、高い駆虫効果を安定して発揮すると考えられた。
なお、試験区7において、試験期間中にネオベネデニア・ジレレの萎縮やシャーレからの剥離は観察されなかった。
【実施例2】
【0022】
<in vitroでのネオベネデニア・ジレレに対する低濃度過酸化水素水処理の駆虫効果−2>
試験方法:試験は実施例1と同様に実施した。ネオベネデニア・ジレレは、攻撃して12日目のブリに寄生していたものを供試し、シャーレ3枚に成虫を各10個体収容し、定着させた。処理30分経過時、60分の処理が終了し海水に戻した直後、海水に戻してから30分後に萎縮個体およびシャーレ壁面から剥離した成虫を計数し記録した。
試験区:試験区を表2に示した。
【0023】
【表2】
【0024】
結果と考察
試験に供試した本虫の体長は3.86±0.29mmであった。
試験区1のネオベネデニアは、処理を開始してから2分から3分で萎縮し6分後には萎縮が顕著になった。しかし、処理30分経過時、60分処理した直後、処理が終了し海水に戻してから30分後の観察において、ネオベネデニア・ジレレ全個体が萎縮しているもののシャーレ壁面から剥離していた本虫は3個体と少なかった(
図5)。処理が終了し海水に戻してから30分では、全個体の体が白濁し動かないほど影響を受けた状態であったにも関わらず、7個体の固着盤に萎縮や変形は観察されずシャーレに定着していた(
図5、
図6A&B)。その7個体の内2個体が処理後の培養1時間でようやくシャーレ壁面から剥離した。この2個体は、顕著だった萎縮が軽度になっており、明らかに体が白濁していたことから死亡していると判断された。
試験区2のシャーレからの剥離個体数は、60分処理した直後および処理が終了し海水に戻してから30分で9個体であった(
図5)。剥離した虫は、体が萎縮しているだけでなく明らかに固着盤が萎縮・変形しており(
図6C)、実施例1の試験結果が再現された。
以上の結果から、常用量の高濃度より75ppmや50ppmの低濃度の方がネオベネデニア・ジレレの吸盤を萎縮・変形させる作用が明らかに高いことが判明した。これらの結果は、過酸化水素濃度75ppmや50ppmの低濃度の処理は、萎縮したネオベネデニア・ジレレに対し魚同士が接触する、もしくは生簀網や障害物に体を擦るなどにより萎縮した本虫を体表から脱落させる常用量の物理的な作用だけではなく、ネオベネデニア・ジレレが宿主へ定着するための固着盤を萎縮・変形させ宿主体表から剥離させる作用を併せ持っており、従来生簀で実施されている高濃度で短時間の処理と比べ、高い駆虫効果を安定して発揮することが考えられた。
なお、試験区3において、試験期間中にネオベネデニア・ジレレの萎縮やシャーレからの剥離は観察されなかった。
【実施例3】
【0025】
<in vivoでのネオベネデニア・ジレレに対する低濃度過酸化水素水処理の駆虫効果−1>
試験方法:平均魚体重約130gのカンパチ48尾を500リットル水槽で約7日間飼育し、25℃の水温に馴致した。その間の給餌は市販飼料を与え、給餌率を魚体重の2%とした。注水は8.3リットル/分とした。馴致後、ネオベネデニア・ジレレ孵化幼生約4500個体を500リットル水槽に投入し、1時間止水とすることで本虫の攻撃を行った。孵化幼生の攻撃7日後に、200リットル水槽7基に魚を移し試験区をセットした(表3)。残った4尾を過酸化水素処理時のネオベネデニア・ジレレ長測定用として500リットル水槽で飼育を継続し、薬浴処理時に本虫を回収し30個体の体長を測定した。飼育期間中の注水は6.7リットル/分とした。攻撃9日後に各区の薬浴処理を200リットル角型水槽で行い、処理後魚を200リットル飼育水槽に再び移し翌日まで飼育した。全ての魚をサンプリングし、魚体重の測定と寄生しているネオベネデニア・ジレレの計数を行った。駆虫効果の評価は、各区のネオベネデニア・ジレレ寄生数を比較することで行った。
試験区:試験区を表3に示した。
【0026】
結果と考察
薬剤処理時のネオベネデニア・ジレレの体長は3.01±0.43mmであり、成虫であった。
カンパチに寄生した本虫に対する駆虫効果を表3に示した。
試験区1(過酸化水素水剤のベネデニア・セリオレ駆虫時の用量・用法)のネオベネデニア・ジレレ駆虫率は33.5%であった。また、浸漬時間を倍の6分とした試験区2の駆虫率は59.1%であった。実施例1の試験結果から、過酸化水素濃度300ppm・6分の処理はネオベネデニア・ジレレの体を強烈に萎縮させるが、本虫の固着盤(大型の吸盤)の萎縮・変形を惹起しない、萎縮もしくは萎縮・剥離した本虫は1時間程度で回復する、などのことが判明している。本試験の結果から、本条件下での駆虫効果は、萎縮した本虫が回復するまでの比較的短時間の間に魚同士が接触すること、生簀網に体を擦るなど物理的な作用により発揮されていること、虫の体を萎縮させるだけでは駆虫効果に限界があること、などが明らかになった。
試験区3の駆虫率は94.3%、試験区4の駆虫率は99.2%と高い駆虫効果を示した。さらに、試験区5の駆虫率は86.6%、試験区6の駆虫率は97.5%と同様に高い駆虫効果であった。実施例1および2では、これら低濃度の処理はネオベネデニア・ジレレの体だけでなく固着盤も萎縮させた。実施例1、2および本試験結果から、ネオベネデニア・ジレレの駆虫は、固着盤を萎縮・変形させることが重要であり、それにより高い駆虫効果が安定して得られることが明らかになった。
【0027】
【表3】
【実施例4】
【0028】
<in vivoでのネオベネデニア・ジレレに対する低濃度過酸化水素水処理の駆虫効果−2>
試験方法:試験は水温30℃とし、操作は実施例3と同様に実施した。平均魚体重約130gのカンパチ42尾を500リットル水槽で約7日間飼育し、30℃の水温に馴致した。攻撃に用いたネオベネデニア・ジレレ孵化幼生数は約5500個体とした。孵化幼生の攻撃3日後に、200リットル水槽6基に魚を移し試験区をセットした(表4)。攻撃7日後に各区の薬浴処理を実施し、攻撃8日後に駆虫効果を評価した。
試験区:試験区を表4に示した。
【0029】
結果と考察
薬剤処理時のネオベネデニア・ジレレの体長は3.01±0.18mmであり、成虫であった。
カンパチに寄生した本虫に対する駆虫効果を表4に示した。実施例3の結果が再現された。さらに、過酸化水素濃度37.5ppmの低濃度においても30分から60分処理することで、高い駆虫効果を発揮することが判明した。
【0030】
【表4】
【実施例5】
【0031】
<過酸化水素水のカンパチに対する影響−1>
試験方法:平均魚体重約208gのカンパチを200リットル水槽6基に各6尾を収容した。25℃で7日間飼育し魚を馴致した。その間の給餌は市販飼料を与え、給餌率を魚体重の2%とした。注水は6.7リットル/分とした。
規定量の過酸化水素水を予め海水で希釈後、飼育水を止水にし、それぞれの水槽中に投入した。その後、最長6時間観察を行った。6時間の処理後に再度流水とした。
試験区:試験区を表5に示した。
【0032】
【表5】
【0033】
結果と考察
観察結果を表6に示した。過酸化水素濃度300ppm以上の処理区では、浸漬処理開始1から3分後に魚が激しく上下に遊泳した。その後、遊泳異常は治まるものの浸漬開始15分頃には開口や鰓蓋を大きく開閉する状態が繰り返し観察された。魚は死亡前に狂奔遊泳、横転及び緩慢遊泳を繰り返し、体表に斑を伴い死亡した。300ppm処理区の生残魚2尾も摂餌行動が緩慢であった。150ppm処理区において、死亡魚の発生は認められなかったが、処理中に異常遊泳や開口、処理翌日には摂餌行動に異常が確認された。したがって、スズキ目魚類のベネデニア・セリオレ駆虫時の常用量である300ppm濃度は、魚に短時間で毒性をもたらすことが判明した。一方、常用量の1/4倍である75ppm処理区では、浸漬中に異常が観察されず、さらに浸漬終了後や翌日の給餌時においても異常が認められなかった。したがって、150ppm未満の濃度、特に75ppm以下の濃度であれば確実に、魚に悪影響を与えず長時間の薬浴処理が可能であることが判明した。さらに、本濃度や50ppmなどの低濃度の処理は、ネオベネデニア・ジレレの固着盤を萎縮・変形させ、高い駆虫効果を安定して発揮する条件である。
養殖現場において、夏季高水温時の過酸化水素水薬浴で酸素欠乏が原因と考えられる死亡事故が発生する場合がある。本薬浴は、水温が高ければ高いほど魚の鰓に障害を与えることが一般的に知られている。本試験では150ppm以上の区で処理開始1分から3分で激しい遊泳行動が観察された。したがって、死亡事故の原因は、過酸化水素の鰓に及ぼす影響だけでなく、この激しい遊泳もその一つであり、酸素欠乏を引き起こす要因と考えられた。
【0034】
【表6】
【実施例6】
【0035】
<過酸化水素水のカンパチに対する影響−2>
試験方法:平均魚体重約195gのカンパチ33尾を電子タグで標識し個体識別して、500リットル水槽で7日間飼育することで馴致した。給水や給餌量、水温などの飼育条件は、実施例3に従った。馴致後に、200リットル水槽3基に各水槽11尾になるように魚を移し、各水槽に収容して魚のタグ番号を記録した。試験区は、過酸化水素濃度300ppmで3分処理する区、過酸化水素濃度75ppmで30分処理する区、無処理の対照区とした。処理を実施後に、再び全ての魚を500リットル水槽1基に収容し、ネオベネデニア・ジレレ孵化幼生約7200個体を投入して、1時間止水とした。攻撃6日後に全ての魚をサンプリングし、寄生しているネオベネデニア・ジレレの計数を行った。処理後の安全性の評価は、各区のネオベネデニア・ジレレ寄生数を比較することで行った。
【0036】
結果と考察
観察結果を
図7に示した。過酸化水素濃度300ppm・3分区の寄生数は、無処理の対照区と比べ有意に多かった。一方、75ppm・30分区の寄生数は、対照区と同等な値であった。以上の結果から、常用量などの高濃度の過酸化水素薬浴は、数分間の短い処理であっても魚の体表に粘液の剥離などの何らかの障害を与えており、寄生虫が再感染しやすい状態になっていると考えられた。一方、低濃度で長時間の処理は、魚の体表に寄生虫が再感染しやすくなるほどの損傷を与えていないことが判明した。従って、本発明の魚への安全性は、処理中だけでなく処理後についても従来法より高いことが明らかとなった。
【実施例7】
【0037】
<in vitroでのベネデニア・セリオレに対する低濃度過酸化水素水処理の駆虫効果>
試験方法:約150gのブリ4尾を100リットル水槽1基に収容し、ベネデニア・セリオレ孵化幼生1300個体を水槽に投入して攻撃した。攻撃して19日目に魚をサンプリングし、体表に寄生している成虫をピンセットで回収して試験に供試した。また、飼育期間中の水温は20.5±0.5℃であった。ブリの飼育と in vitroの試験は、実施例1と同様な方法で行った。また、萎縮個体およびシャーレ壁面から剥離した成虫の計数は、処理して海水に戻した直後、海水に戻してから30分毎に2時間のあいだ実施し、記録した。
試験区:試験区を表7に示した。
【0038】
【表7】
【0039】
結果と考察
試験に供試した本虫の体長は、5.30±0.31mmであった。
試験区1のベネデニア・セリオレは、処理直後に全個体が重度に萎縮し(
図9A)、10個体中3個体がシャーレ壁面から剥離していた(
図8)。処理してから海水に戻して30分後にさらに4個体がシャーレ壁面から剥離していた。剥離個体の固着盤は萎縮・変形していた(
図9B)。しかし、処理してから海水に戻してからの90分間に3個体が萎縮から回復した。実施例1のネオベネデニア・ジレレの試験では、本条件下では剥離した虫は観察されず、処理後海水に戻してからの30分間で全個体が萎縮から回復していた。これらの結果は、ベネデニア・セリオレはネオベネデニア・ジレレより過酸化水素水に対する感受性が高く、影響を受けやすいことを示している。
試験区2では処理直後に5個体の剥離が観察され、さらに処理後海水に戻してから90分間でさらに4個体が剥離した。本区では1個体が萎縮から回復した。両試験区とも萎縮から回復する個体が観察されることから、駆虫効果には限界があり、駆虫結果が安定しないことが考えられた。
試験区3では、処理開始13分で全個体が萎縮し、シャーレ壁面から剥離した。試験区4でも、処理開始13分で10個体中10個体が萎縮し、9個体が剥離し、30分以内に残り1個体も剥離した。両区において、処理後海水に戻してから2時間の観察で、剥離10個体に萎縮や剥離からの回復は観察されなかった。さらに、剥離した個体の固着盤は萎縮・変形していた(
図9C&D)。
試験区4では処理後海水に戻して30分程度から体が白濁し運動が停止したため、本虫は死亡したものと考えられた。
以上のことから、75ppm・30分の処理は、ベネデニア・セリオレの固着盤を萎縮・変形させる、処理後2時間程度でも回復しないなどから、300ppm・3分や300ppm・6分処理より、駆虫効果を安定的に発揮することが判明した。
なお、無処理対照区において、試験期間中にベネデニア・セリオレの萎縮やシャーレからの剥離は観察されなかった。
【実施例8】
【0040】
<in vivoでのラメロジスカスに対する低濃度過酸化水素水処理の駆虫効果>
試験方法:野外生簀で養殖されているマダイ50尾を試験に供試した。本群の平均魚体重は約74gであった。マダイを生簀から陸上の1t水槽に移し、海水15Lを含む30L水槽5基にマダイを各10尾となるように収容した。酸欠を防ぐため小型エアーポンプで通気した。各区所定量の過酸化水素水剤を50mL海水に溶解し、魚を含む容器に投入・撹拌して所定時間魚を浸漬処理した。処理後、容器を傾け袋状のネットで魚を受け、その上から約3Lの海水を注ぎ洗浄した。魚を18Lの海水を含む容器に戻し通気しながら1時間飼育し、その後、魚をサンプリングして鰓に寄生しているラメロジスカスを計数した。駆虫効果の評価は、各区のラメロジスカスの寄生数を比較することで行った。試験で使用した海水の水温は22.0℃であった。
試験区:試験区を表8に示した。
【0041】
結果と考察
300ppm・3分処理区のラメロジスカス駆虫率は0%であった。ビバギナ・タイ駆虫時の用量・用法では駆虫効果を発揮しなかった。さらに、300ppm・15分処理区においても本虫の寄生数は対照区と同等であり駆虫効果を示さなかった。300ppm・15分区のマダイは、処理終了間際には本処理の影響を受けて横転しており、これ以上の処理は不可能と考えられた。一方、75ppm・30分処理区および100ppm・30分処理区においては、明らかな駆虫効果が認められ(表8)、魚の遊泳なども異常は観察されなかった。
これらの結果は、低濃度・長時間処理の方が高濃度・短時間処理よりラメロジスカスの把握器に脱落するほどの影響を与えることを示している。本虫に対しても過酸化水素剤の低濃度で長時間の処理の有効性が確認された。
ベネデニア・セリオレ、ネオベネデニア・ジレレおよびラメロジスカスは単生綱単後吸盤類に分類されている。低濃度の過酸化水素水薬浴は、これら寄生虫に共通して高い駆虫効果を発揮したことから、単生綱単後吸盤類の寄生虫に効果を有すると考えられた。
【0042】
【表8】
【実施例9】
【0043】
<in vitroでのゼウクサプタ・ヤポニカに対する低濃度過酸化水素水処理の駆虫効果>
試験方法:約1.4kgの養殖カンパチ5尾の鰓を取り出し、鰓弁に寄生しているゼウクサプタ・ヤポニカを鰓弁に寄生している状態で採取した。in vitroの試験は、各区本虫5個体を供し、実施例1と同様な方法で行った。観察は、処理の中間時間、処理して海水に戻した直後、海水に戻してから10分毎に30分のあいだ行い、萎縮個体を計数し記録した。
試験区:試験区を表9に示した。
【0044】
【表9】
【0045】
結果と考察
300ppm・3分および6分の本虫は処理直後でも体の萎縮は軽度であり(
図10A)、処理後約10分以内に萎縮から回復した(
図11)。一方、75ppm・60分処理区の本虫は処理6から10分で明らかに萎縮した(
図10B)。さらに、75ppm・60分処理区の本虫は処理後30分でも全個体が萎縮、50ppm・60分処理区でも処理後30分で回復したのは僅かに1個体であった。低濃度処理区の本虫の萎縮は、体だけでなく把握器が配列されている固着盤でも観察された(
図10B)。
低濃度で長時間の処理は、ゼウクサプタ・ヤポニカを長時間萎縮させ、その萎縮は重度であり把握器が配列されている固着盤にも及ぶことから、300ppm・3分や300ppm・6分処理より、駆虫効果を安定的に発揮することが判明した。
なお、無処理対照区において、試験期間中にゼウクサプタ・ヤポニカの萎縮は観察されなかった。
【実施例10】
【0046】
<in vivoでのビバギナ・タイに対する低濃度過酸化水素水処理の駆虫効果>
試験方法:野外生簀で養殖されているマダイ50尾を試験に供試した。本群の平均魚体重は約61gであった。マダイを生簀から陸上の1t水槽に移し、海水15Lを含む30L水槽5基にマダイを各10尾となるように収容した。酸欠を防ぐため小型エアーポンプで通気した。各区所定量の過酸化水素水剤を50mL海水に溶解し、魚を含む容器に投入・撹拌して所定時間魚を浸漬処理した。処理後、容器を傾け袋状のネットで魚を受け、その上から約3Lの海水を注ぎ洗浄した。魚を18Lの海水を含む容器に戻し通気しながら1時間飼育し、その後、魚をサンプリングして鰓に寄生しているビバギナ・タイを計数した。駆虫効果の評価は、各区のビバギナ・タイの寄生数を比較することで行った。尚、試験で使用した海水の水温は23.2℃であった。
試験区:試験区を表10に示した。
【0047】
結果と考察
300ppm・3分処理区(過酸化水素水剤のビバギナ・タイ駆虫時の用量・用法)のビバギナ・タイ駆虫率は64%であった。本区において、開始直後の魚は水面を跳ねるように激しく遊泳した。本行動から、高濃度処理がマダイに対して毒性や刺激を与えていることが考えられた。100ppm・30分処理区の本虫駆虫率は89%、同濃度で60分処理した区では100%であった。さらに75ppm・60分処理区の駆虫率は99%であった。これら低濃度処理区の魚の遊泳は、処理開始から終了まで変化はなく、魚に異常は観察されなかった。
これらの結果から、過酸化水素剤の低濃度で長時間の処理は、マダイに明らかな毒性や刺激を与えることなく、エラムシであるビバギナ・タイに対して高い駆虫効果を発揮することが判明した。
【0048】
【表10】
a:寄生数は平均±SDで示した。
b:対照区の寄生数と比較し有意差あり(P<0.01)。
【実施例11】
【0049】
<in vivoでのベネデニア・セリオレ、ネオベネデニア・ジレレおよびゼウクサプタ・ヤポニカに対する低濃度過酸化水素水処理の駆虫効果>
試験方法:野外生簀で養殖されていた約430gのカンパチ400尾を試験に供した。薬浴用シートに15tの海水を入れ、過酸化水素濃度75ppmになるように過酸化水素水剤を投入し撹拌した。390尾の魚を収容し、30分間浸漬処理した。処理後、魚を生簀に移した。サンプリングは、処理前と処理した次の日に各10尾を取り上げることで行った。体表に寄生しているベネデニア・セリオレとネオベネデニア・ジレレを、鰓に寄生しているゼウクサプタ・ヤポニカを計数した。駆虫効果の評価は、各区の寄生虫数を比較することで行った。なお、処理時の海水の水温は28.5℃であった。
【0050】
結果と考察
結果を表11に示した。処理後の魚にベネデニア・セリオレ、ネオベネデニア・ジレレおよびゼウクサプタ・ヤポニカの寄生は観察されず、いずれの寄生虫に対しても駆虫率は100%であった。
従って、このような大規模の条件下であっても本発明の有効性が証明された。
【0051】
【表11】
【実施例12】
【0052】
<カンパチのスカート法による低濃度過酸化水素水処理の有効性試験>
試験方法:約2kgのカンパチ1万尾を収容した11.5m×11.5m×10m生簀の周りに、長さ48mで幅10mのシートを巻き、シートの両端に装着されたチャックを閉めることで筒状にして生簀を囲んだ。シート内の海水に過酸化水素濃水を平均濃度が35ppmになる量を5分間で投入し、 60分経過後に生簀の周りのシートを除去した。サンプリングは、処理前と処理した次の日に各10尾を取り上げることで行った。体表に寄生しているベネデニア・セリオレとネオベネデニア・ジレレ(n=10)を、鰓に寄生しているゼウクサプタ・ヤポニカ(n=5)を計数した。駆虫効果の評価は、各区の寄生虫数を比較することで行った。なお、処理時の海水の水温は 26℃であった。
【0053】
結果と考察
過酸化水素水濃度は、開始時が35ppm、30分後が15ppm、60分後が3ppmとなり、徐々に希釈された。ハダムシ(ネオベネデニアとベネデニア)寄生数は、処理前が110±48.3個体/尾、処理後が28.9±24.3個体/尾であった。ゼウクサプタの寄生数は、処理前が110.8±49.0個体/尾、処理後が54.0±41.6個体/尾であった。従って、本剤が徐々に希釈される条件下でのスカート法においても低濃度過酸化水素水処理の有効性が検証された。