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特許6792341金属ナノ構造体アレイ及び電場増強デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792341
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】金属ナノ構造体アレイ及び電場増強デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20201116BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20201116BHJP
   B82Y 15/00 20110101ALI20201116BHJP
【FI】
   G01N21/65
   B82Y40/00
   B82Y15/00
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-68994(P2016-68994)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-181308(P2017-181308A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 洋平
(72)【発明者】
【氏名】前田 泰一
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−128786(JP,A)
【文献】 特開2015−068736(JP,A)
【文献】 特表2008−512668(JP,A)
【文献】 特開2006−145230(JP,A)
【文献】 特開2013−007614(JP,A)
【文献】 特開2014−228320(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/065358(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0287427(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0177151(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0252983(US,A1)
【文献】 Pieter C. Wuytens et al.,Gold nanodome-patterned microchips for intracellular surface-enhanced Raman spectroscopy,Analyst,The Royal Society of Chemistry,2015年,140,8080-8087
【文献】 Da-Young Hong et al.,Synergistic Effects between Gold Nanoparticles and Nanostructured Platinum Film in Surface-Enhanced Raman Spectroscopy,J. Phys. Chem. C,American Chemical Society,2015年,119,22611-22617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/83
G01N 21/41
B82Y 15/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
B82B 3/00
B82B 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に間隔を空けて形成された複数の凸状ナノ構造体と、
を有し、
前記凸状ナノ構造体は、
金属からなる基部と、
前記基部の全体を覆うように形成され、形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜と、で構成され、
前記基材は少なくとも表面の一部が絶縁材料で形成されており、各凸状ナノ構造体は前記絶縁材料で形成されている部分に設けられ相互に絶縁されている金属ナノ構造体アレイ。
【請求項2】
基材と、
前記基材上に間隔を空けて形成された複数の凸状ナノ構造体と、
を有し、
前記凸状ナノ構造体は、
金属からなる基部と、
前記基部の全体を覆うように形成され、形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜と、で構成され、
前記基材は少なくとも表面の一部が絶縁材料で形成され、各凸状ナノ構造体は前記絶縁材料で形成されている部分に設けられて相互に絶縁されており、
前記多結晶金属膜は、シード液を用いずに液相析出により前記基部の表面で金属を結晶化させ、該金属結晶を成長させることにより形成された液相析出膜である金属ナノ構造体アレイ。
【請求項3】
前記基部は、前記多結晶金属膜と同種の金属で形成されている請求項1又は2に記載の金属ナノ構造体アレイ。
【請求項4】
前記多結晶金属膜は、金、銀、銅、白金、ニッケル若しくはパラジウム、又はこれらの金属のうち少なくとも1種を含む合金で形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ナノ構造体アレイ。
【請求項5】
隣り合う凸状ナノ構造体の間隔が1〜500nmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属ナノ構造体アレイ。
【請求項6】
前記基材は、半導体材料からなる半導体層の上に、絶縁性材料からなる絶縁層が設けられており、
前記凸状ナノ構造体は前記絶縁層上に形成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属ナノ構造体アレイ。
【請求項7】
前記基材は、更に、金属層を有し、
前記金属層は、前記半導体層と前記絶縁層との間に設けられている請求項6に記載の金属ナノ構造体アレイ。
【請求項8】
前記基部は、略円柱状、略角柱状又は略半球状である請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属ナノ構造体アレイ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属ナノ構造体アレイを備える電場増強デバイス。
【請求項10】
表面増強ラマン分光用基板である請求項9に記載の電場増強デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の凸状ナノ構造体が間隔を空けて形成された金属ナノ構造体アレイ及びこの金属ナノ構造体アレイを備える電場増強デバイスに関する。より詳しくは、局在表面プラズモン共鳴を利用した電場増強デバイスと、それに用いられる金属ナノ構造体アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon Resonance:LSPR)による電場増強効果を利用した分析用デバイスやセンサーデバイスが開発されている。特に、金属ナノ粒子を用いた表面増強ラマン散乱(Surface Enhanced Raman Scattering:SERS)は、単一分子のラマンスペクトル測定が可能であり、優れた分子認識能と高い検出感度を兼ね備えていることから、生体分析の分野で注目されている。
【0003】
一般に、SERS測定には、表面に金属ナノ粒子を付着させた基板や表面に金属ナノ構造体が形成された基板が用いられている。一方、SERS測定では、用いる基板によって感度や再現性が大きく異なる。このため、従来、SERS測定用基板について、測定感度の向上や品質の均一化を目的とし、様々な検討がなされている(特許文献1〜4参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、蒸着法を用いて、樹脂組成物からなる微小突起構造体の表面に、金属ナノ粒子を担持させたSERS測定用基板が提案されている。また、特許文献2には、誘電体に金属粒子が分散したグラニュラー構造体を、金属層上に、光の波長よりも小さい間隔で配置した電場増強素子が提案されている。これら特許文献1,2に記載の基板は、電場が増強するホットスポットの数を増やすことで、SERSの測定感度の向上を図っている。
【0005】
更に、特許文献3には、基板表面に複数の金属微粒子を分散固定すると共に、各金属微粒子の間隙に金属微粒子と離間する金属膜を成膜し、金属微粒子と金属膜の間隙をホットスポットとするラマン分光用デバイスが提案されている。一方、特許文献4には、金属微細構造の一部を異種金属で被覆し、金属微細構造と金属被覆の両方に被測定分子を吸着させる試料分析基板も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−52562号公報
【特許文献2】特開2016−3946号公報
【特許文献3】特開2009−109395号公報
【特許文献4】特開2013−195204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SERS測定用基板などの電場増強デバイスでは、より高感度の測定を行うため、電場増強効果の更なる向上が求められている。しかしながら、以下に示す理由から、前述した従来技術によって、高感度測定が可能な電場増強デバイスを実現することは難しい。
【0008】
例えばSERS測定では、基板表面に配置された金属微粒子や金属ナノ構造体の間隔が狭い方がより高い感度が得られるが、凝集などの問題から基板上に金属微粒子を密に配置することは困難である。一方、金属ナノ構造体は任意の間隔で形成することが可能であるが、半導体製造技術を応用した従来の製造方法では、基板上に、複数の金属ナノ構造体を、10〜20nmの狭間隔で、均一に形成することは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、ラマン散乱強度の増強度が高い金属ナノ構造体アレイ及び電場増強デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る金属ナノ構造体アレイは、基材と、前記基材上に間隔を空けて形成された複数の凸状ナノ構造体とを有し、前記凸状ナノ構造体は、金属からなる基部と、前記基部の全体を覆うように形成され、形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜とで構成され、前記基材は少なくとも表面の一部が絶縁材料で形成されており、各凸状ナノ構造体は前記絶縁材料で形成されている部分に設けられ相互に絶縁されている。
本発明に係る他の金属ナノ構造体アレイは、基材と、前記基材上に間隔を空けて形成された複数の凸状ナノ構造体とを有し、前記凸状ナノ構造体は、金属からなる基部と、前記基部の全体を覆うように形成され、形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜とで構成され、前記基材は少なくとも表面の一部が絶縁材料で形成され、各凸状ナノ構造体は前記絶縁材料で形成されている部分に設けられて相互に絶縁されており、前記多結晶金属膜は、シード液を用いずに液相析出により前記基部の表面で金属を結晶化させ、該金属結晶を成長させることにより形成された液相析出膜である。
前記基部は、前記多結晶金属膜と同種の金属で形成されていてもよい。
前記多結晶金属膜は、例えば金、銀、銅、白金、ニッケル若しくはパラジウム、又はこれらの金属のうち少なくとも1種を含む合金で形成することができる。
隣り合う凸状ナノ構造体の間隔は、例えば1〜500nmとすることができる。
一方、本発明の金属ナノ構造体アレイにおける前記基材は、半導体材料からなる半導体層の上に、絶縁性材料からなる絶縁層が設けられていてもよく、その場合、前記凸状ナノ構造体は前記絶縁層上に形成される。
前記基材は、更に、金属層を有していてもよく、その場合、前記金属層は、前記半導体層と前記絶縁層との間に設けられる。
また、前記基部は、例えば略円柱状、略角柱状又は略半球状とすることができる。
【0011】
本発明に係る電場増強デバイスは、前述した金属ナノ構造体アレイを備える。
この電場増強デバイスは、例えば表面増強ラマン分光用基板として用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、凸状ナノ構造体の表面が形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜で構成されているため、ラマン散乱強度の増強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態の金属ナノ構造体アレイの構成を模式的に示す平面図である。
図2図1に示すa−a線による断面図である。
図3】A〜Cは基材1の他の構成例を示す断面図である。
図4】A〜Cは基部21の形状を示す模式図である。
図5】本発明の第2の実施形態の電場増強デバイスの一例である表面増強ラマン分光用基板を示す概念図である。
図6】A〜Dは多結晶金属膜の成長状態を示す電子顕微鏡写真であり、Aは恒温槽投入から3時間経過後、Bは8.5時間経過後、Cは24時間経過後、Dは48時間経過後の状態を示す。
図7】横軸に波数、縦軸に強度をとり、実施例1及び比較例1,2の基板を用いて測定した10mMローダミン6G溶液の表面増強ラマンスペクトルである。
図8】横軸に波数、縦軸に強度をとり、実施例2の基板を用いて測定した10μMローダミン6G溶液の表面増強ラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る金属ナノ構造体アレイについて説明する。図1は本実施形態の金属ナノ構造体アレイの構成を模式的に示す平面図であり、図2図1に示すa−a線による断面図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、本実施形態の金属ナノ構造体アレイ10は、基材1上に、複数の凸状ナノ構造体2が間隔を空けて配設されている。なお、図1及び図2には、凸状ナノ構造体2が等間隔に規則的に配置された構成例を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、凸状ナノ構造体2の間隔は一定でなくてもよく、複数の凸状ナノ構造体2を不規則に配置することもできる。
【0017】
[基材1]
基材1は、各凸状ナノ構造体2を相互に絶縁可能なものであればよく、例えばガラスや樹脂などの絶縁性材料で形成することができる。図3A〜Cは基材1の他の構成例を示す断面図である。基材1は、図2に示すような全てが絶縁性材料で形成された構成に限定されるものではなく、図3Aに示す金属ナノ構造体アレイ20のように、シリコン、シリコンカーバイド及びサファイヤなどの半導体材料からなる半導体層11の上に、酸化珪素(SiO)などの絶縁性材料からなる絶縁層12が形成されたものを用いることもできる。
【0018】
また、図3Bに示す金属ナノ構造体アレイ30のように、基材1として、半導体層11と絶縁層12との間に、伝搬型表面プラズモンを励起させる効果を有する金属層13が設けられているものを使用することもできる。金属層13を備える基材1を用いた金属ナノ構造体アレイ30では、特定の条件において、入射光により、金属層13の表面近傍で伝搬型表面プラズモンが発生する。
【0019】
ここで、金属層13は、可視光領域において伝搬型表面プラズモンを励起可能な材料で形成されていればよく、例えば金、銀、銅、アルミニウム、白金、ルテニウム、タングステン、ニッケル、ロジウム若しくはパラジウム、又はこれらの金属のうち少なくとも1種を含む合金により形成することができる。また、金属層13は、前述した金属若しくはその合金からなる複数の層を積層して形成された積層体でもよい。その場合、積層体を構成する各層は、同一の材料で形成されていてもよく、また、相互に異なる材料で形成されていてもよい。
【0020】
前述した金属層13は、例えば真空蒸着法やスパッタ法により形成することができる。金属層13の厚さは、特に限定されるものではないが、伝搬型表面プラズモンの励起効率の観点から、5nm以上1mm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上200μm以下、更に好ましくは20nm以上1μm以下である。金属層13の厚さを前述した範囲にすることにより、金属層13の表面近傍で伝搬表面プラズモンを発生させることができる。
【0021】
図3Bに示す金属ナノ構造体アレイ30の場合、絶縁層12は、例えば真空蒸着法やスパッタ法により形成することができる。絶縁層12の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば20〜500nmとすることができる。また、絶縁層12も、互いに異なる材料からなる複数の層が積層された多層構造としてもよい。
【0022】
また、図3Cに示す金属ナノ構造体アレイ40のように、基材1として、金属層13と絶縁層12との間に、誘電層14が設けられているものを使用することもできる。基材1に、誘電層14を設けることにより、入射光を伝搬する効果や、金属層13表面に生じた伝搬型表面プラズモンを伝搬する効果が得られる。更に、この金属ナノ構造体アレイ40では、誘電層14内を伝搬する伝搬型表面プラズモンと、凸状ナノ構造体2で生じた局在表面プラズモン共鳴(LSPR)とを相互作用させることもできる。
【0023】
誘電層14は、正の誘電率をもつ材料で形成されていればよい。正の誘電率をもつ材料としては、例えば酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、五酸化タンタル(Ta)、窒化ケイ素(SiN)及び酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)などが挙げられる。なお、誘電層14は、互いに異なる材料からなる複数の層が積層された多層構造となっていてもよい。
【0024】
誘電層14は、例えば真空蒸着法やスパッタ法により形成することができる。また、誘電層14の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば10〜500nmとすることができる。
【0025】
なお、図3Bに示す金属ナノ構造体アレイ30において、絶縁層12を前述した正の誘電率をもつ材料で形成すると、絶縁層12が誘電層として機能するため、図3Cに示す金属ナノ構造体アレイ40のように誘電層14を設けた場合と同様の効果が得られる。絶縁層12が誘電層を兼ねる場合、絶縁層12は、例えば光透過性などの観点から酸化ケイ素(SiO)で形成することができるが、これに限定されるものではなく、正の誘電率をもつ材料で形成されていればよい。
【0026】
絶縁層12が誘電層として機能する場合、絶縁層12を両端で光が反射される構造の共振器とみなすことができ、このような共振器では、入射光と反射光との重ね合わせを起すことができる。その場合、絶縁層12の厚さは、入射光と反射光との重ね合わせにより生じる定在波の腹(振幅が大きく振れる点)が、凸状ナノ構造体2に達するように設定することが好ましい。これにより、凸状ナノ構造体2の近傍に生じる局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を更に増強することができる。
【0027】
この場合、絶縁層12の厚さは、入射光に応じて適宜設定することができ、例えば20〜500nmとすることができる。また、誘電層を兼ねる場合であっても、絶縁層12は、互いに異なる材料からなる複数の層が積層された多層構造とすることができ、例えば真空蒸着法やスパッタ法により形成することができる。
【0028】
なお、図3A〜Cに示す構成の基材1の場合、絶縁層12は少なくとも凸状ナノ構造体2と接する部分に設けられていればよい。
【0029】
[凸状ナノ構造体2]
凸状ナノ構造体2は、金属からなる基部21と、各基部21を覆うように形成された多結晶金属膜22とで構成されている。凸状ナノ構造体2は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)が生じる大きさであればよいが、電場増強効果向上の観点から、高さが20〜2000nmであることが好ましく、より好ましくは20〜1000nm、更に好ましくは30〜500nmである。また、凸状ナノ構造体2の最大幅又は最大径は、電場増強効果向上の観点から、10〜1000nmであることが好ましく、より好ましくは20〜600nm、更に好ましくは30〜500nmである。
【0030】
一方、隣り合う凸状ナノ構造体2の間隔pは、1〜500nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは10nm以下である。凸状ナノ構造体2同士の間隔pをこの範囲にすることにより、電場増強効果を高めることができる。
【0031】
<基部21>
図4A〜Cは基部21の形状を示す模式図である。基部21の形状は、特に限定されるものではなく、図4Aに示す円柱状や楕円柱状などの略円柱状、図4Bに示す四角柱状や三角柱状、五角柱状などの略多角柱状、図4Cに示す略半球状などを採用することができる。基部21は、例えば金、銀、銅、白金、ニッケル若しくはパラジウム、又はこれらの金属のうち少なくとも1種を含む合金で形成することができる。なお、基部21は、アモルファス(非晶質)と、結晶質のいずれでもよい。
【0032】
<多結晶金属膜22>
多結晶金属膜22は、形状異方性を有する結晶粒で構成されており、基部21の全体を覆うように形成されている。凸状ナノ構造体2の表面を、形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜22で構成すると、各凸状ナノ構造体2の表面に適度の粗さを付与することができるため、電場増強効果を向上させて、ラマン散乱強度の増強度を高めることができる。この形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜22は、例えば液相析出法などを用いて、基部21の表面で金属を結晶化させることにより形成することができる。
【0033】
多結晶金属膜22は、前述した基部21と同様に、金、銀、銅、白金、ニッケル若しくはパラジウム、又はこれらの金属のうち少なくとも1種を含む合金で形成することができ、特に、電場増強効果が高い金、銀又はこれらの合金で形成することが好ましい。なお、多結晶金属膜22は、基部21と同種の金属で形成する方が製造は容易であるが、基部21と同種及び異種のいずれの金属で形成されていてもよく、どちらで形成してもラマン散乱強度の増強度を高める効果が得られる。
【0034】
また、多結晶金属膜22の厚さは、例えば10〜300nmとすることができるが、この範囲に限定されるものではなく、多結晶構造が形成されて、凸状ナノ構造体2の表面に適度な粗さが付与され、その表面で局在表面プラズモン共鳴(LSPR)が発生する厚さになっていればよい。
【0035】
[製造方法]
次に、本実施形態の金属ナノ構造体アレイの製造方法について説明する。本実施形態の金属ナノ構造体アレイ10を製造する際は、先ず、基材1上に、凸状ナノ構造体2を構成する基部21を形成する。基部21の形成方法は、特に限定されるものではなく、ナノインプリント法、マイクロコンタクトプリント法及びリフトオフ法などのように半導体製造やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)製造で用いられている方法を適用することができる。
【0036】
例えばリフトオフ法により基部21を形成する場合は、スピンコータやスプレーコータなどを用いて、基材1上にフォトレジストを塗布した後、露光及び現像を行い、レジストパターンを形成する。そして、例えば真空蒸着法やスパッタ法などにより、基材1上に金属を堆積させた後、レジストを除去して、所定形状の基部21を得る。
【0037】
次に、基部21の表面を、形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜22で被覆する。このような多結晶金属膜22は、液相還元法などの溶液中における結晶成長プロセスにより形成することができる。例えば、多結晶金属膜22を金で形成する場合は、AgNOとCTAB(臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)の混合液に、前述した方法で基部21を形成した基材1を浸漬した後、HAuClを添加して穏やかに混合する。
【0038】
引き続き、アスコルビン酸ナトリウム水溶液を添加して穏やかに混合し、24〜26℃の温度条件下で、30分〜48時間程度静置する。これにより、基部21の表面で金が結晶化し、結晶粒が成長する。その後、溶液から基材1を取り出し、洗浄工程及び乾燥工程を経て、基材1上に複数の凸状ナノ構造体2が間隔を空けて配設された金属ナノ構造体アレイ10を得る。なお、液相還元法により溶液中に金属粒子を形成する場合は、結晶化を促進するためにシード(種結晶)液が添加されることがあるが、本実施形態の金属ナノ構造体アレイの場合、溶液中ではなく、基部21の表面で金属結晶を成長させる必要があるため、シード液は添加しない。
【0039】
以上詳述したように、本実施形態の金属ナノ構造体アレイは、凸状ナノ構造体の表面が形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜で構成されているため、ラマン散乱強度の増強度を高めることができる。SERS強度には、金属表面の粗さが影響することが知られているが、従来の製造方法では、適度な表面粗さをもった金属ナノ構造体を、所望の配置で形成することは困難であった。
【0040】
これに対して、本実施形態の金属ナノ構造体アレイは、各凸状ナノ構造体を金属からなる基部と各基部を覆う多結晶金属膜とで構成しているため、適度な粗さが付与された金属表面を有する凸状ナノ構造体を、任意の配置で形成することができる。その結果、各凸状ナノ構造体の表面で発生する局在表面プラズモン共鳴(LSPR)による電場増強効果を高めることができるため、本実施形態の金属ナノ構造体アレイを用いることにより、従来よりも高感度のSERS測定を行うことが可能となる。
【0041】
加えて、本実施形態の金属ナノ構造体アレイは、各凸状ナノ構造体が基部と多結晶金属膜とで構成されているため、基部の間隔を広めにとることができ、更に、多結晶金属膜は液相還元法などにより容易に形成することができる。これにより、本実施形態の金属ナノ構造体アレイは、面内でのばらつき及びロット間でのばらつきを低減し、SERS測定における再現性を向上させることができる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る電場増強デバイスについて説明する。本実施形態の電場増強デバイスは、前述した第1の実施形態の金属ナノ構造体アレイ10を備えるものであり、例えば表面増強ラマン分光用基板として用いられる。
【0043】
図5は本実施形態の電場増強デバイスの一例である表面増強ラマン分光用基板を示す概念図である。図5に示す表面増強ラマン分光用基板50は、ガラスや樹脂などからなる透明板51の一部に、金属ナノ構造体アレイ10が設けられている。この基板50を用いて、SERS測定を行う場合、金属ナノ構造体アレイ10が設けられている部分に測定対象物を含む溶液を滴下するか、又は測定対象物を含む溶液に基板50を浸漬し、金属ナノ構造体アレイ10に測定対象物を吸着させる。
【0044】
なお、図5には、透明板51の一部に金属ナノ構造体アレイ10が設けられた構成の基板を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば基板に設けられた流路に金属ナノ構造体アレイ10を配置し、流路に試料溶液を通流させながら測定を行うこともできる。また、本実施形態の電場増強デバイスは、前述した表面増強ラマン分光用基板だけでなく、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)による電場増強効果を利用した分析用デバイス及びセンサーデバイスとして用いることができる。
【0045】
本実施形態の電場増強デバイスは、凸状ナノ構造体の表面が形状異方性を有する結晶粒からなる多結晶金属膜で構成された金属ナノ構造体アレイ10を用いているため、SERSスペクトルを高感度で再現性よく測定することができる。なお、本実施形態の電場増強デバイスにおける上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例では、図1及び図2に示す金属ナノ構造体アレイを備える表面増強ラマン分光用基板を作製し、その性能などを評価した。
【0047】
<金属ナノ構造体アレイの作製>
基材には、表面に酸化膜(SiO膜)が形成されているシリコン基板を用いた。先ず、基材の酸化膜が形成されている面に、スピンコータを用いてフォトレジストを塗布した。次に、電子ビーム(EB)描画により、直径160nmのドットを260nmピッチで照射して露光を行った。引き続き、露光後の基材を電子ビーム(EB)露光用の現像液に2.5分浸漬して露光部のレジストを除去し、更に、リンス液に浸漬した後、窒素ガスで乾燥して、レジストパターンを形成した。
【0048】
次に、真空蒸着法により、基材上にCr層を10nm成膜した後、Au層を50nm成膜した。その後、基材に紫外線を照射し、更にリムーバー液に一晩浸漬して、レジストを除去した。更に、超音波処理、リムーバー液による洗浄及び超純水による洗浄を行った後、窒素ガスで乾燥させて、酸化膜上に略円柱状の複数の基部がマトリクス状に配設された基材を得た。
【0049】
次に、20mlのガラス製ビーカーに、4mMのAgNO水溶液を0.5mlと、0.2MのCTAB水溶液を10ml投入し、緩やかに混合した。この混合溶液に、基部が配設された基材を浸漬し、その後、1mMのHAuClを添加して、穏やかに混合した。更に、0.8Mのアスコルビン酸を0.14ml添加し、穏やかに混合した。この状態で、25℃の恒温槽に入れ、30分〜48時間静置した。所定時間経過後、恒温槽から取り出し、超純水で洗浄後、窒素ガスで乾燥させて、実施例の基板を得た。
【0050】
図6A〜Dは多結晶金属膜の成長状態を示す電子顕微鏡写真であり、図6Aは恒温槽投入から3時間経過後、図6Bは8.5時間経過後、図6Cは24時間経過後、図6Dは48時間経過後の状態を示す。図6A〜Dの電子顕微鏡写真から、本実施例の基板は、金属ナノ構造体アレイが均一に形成されていることが確認された。また、これらの写真から、恒温槽での静置時間が長くなるに従い、金属結晶が成長し、多結晶金属膜(凸状ナノ構造体)の表面状態が変化することも確認された。
【0051】
<評価>
実施例1として、図6Aに示す恒温槽での静置時間が3時間の基板を用いて、10mMローダミン6G溶液の表面増強ラマンスペクトルを測定した。その際、比較例として、多結晶金属膜を形成せずに基部のみ備える基板(比較例1)と、市販の表面増強ラマン分光用基板(比較例2)とを用いて、同様の測定を行った。測定条件は、積算時間を2秒、積算回数を2回、レーザ波長を785nm、レーザ強度を1mWとした。
【0052】
図7は横軸に波数、縦軸に強度をとり、実施例及び比較例の各基板を用いて測定した10mMローダミン6G溶液の表面増強ラマンスペクトルである。図7に示すように、基部のみ形成した比較例1の基板では、表面増強ラマンスペクトルは非常に微弱であった。一方、実施例1の基板は、市販品である比較例2の基板に比べて、ラマン散乱強度の増強度が高く、高感度の測定が可能であることが確認された。
【0053】
次に、実施例2として、恒温槽での静置時間が1時間の基板を用いて、10μMローダミン6G溶液の表面増強ラマンスペクトルを測定した。その際、測定条件は、実施例1と同じにした。図8は横軸に波数、縦軸に強度をとり、実施例2の基板を用いて測定した10μMローダミン6G溶液の表面増強ラマンスペクトルである。図8に示すように、静置時間が1時間の基板を用いた場合、10μM ローダミン6G溶液についても表面増強ラマンスペクトルが得られており、より低濃度のサンプルについても高感度測定が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0054】
1 基材
2 凸状ナノ構造体
11 半導体層
12 絶縁層
13 金属層
14 誘電層
21 基部
22 多結晶金属膜
10、20、30、40 金属ナノ構造体アレイ
50 表面増強ラマン分光用基板
51 透明板
p 間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8