(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のフィルムは、ビニルアルコール単位、及び下記式(1)で示される構造単位を含むヒドロキシメチル基含有PVAを含む。
【0015】
本発明のフィルムは、それに含まれるヒドロキシメチル基含有PVAが上記式(1)で示される1,3−ジオール構造を有する構造単位を含むことにより、延伸性が向上しており、本発明のフィルムによれば、光学特性に優れる光学フィルムを容易に製造することができる。また、光学フィルムの収縮力が低減するという特徴を有する。本発明を何ら限定するものではないが、上記のような利点が得られる理由としては、式(1)で示される構造単位によって結晶性が低下することと、1,3−ジオール構造に基づく高い水素結合力による影響が考えられる。
【0016】
ヒドロキシメチル基含有PVAにおける式(1)で示される構造単位の含有率は、特に限定されないが、ヒドロキシメチル基含有PVAを構成する全構造単位のモル数を100モル%として、0.1〜2モル%の範囲内であることが好ましく、0.2〜1.9モル%の範囲内であることがより好ましく、0.3〜1.8モル%の範囲内であることがさらに好ましい。当該含有率が0.1モル%以上であることにより、フィルムの延伸性がより向上し、また収縮力の低減により優れる光学フィルムが得られる。一方、当該含有率が2モル%以下であることにより、光学フィルム製造時のフィルムの溶解をより効果的に防止することができ、また光学特性により優れる光学フィルムが得られる。なお本明細書において、構造単位とは重合体を構成する繰り返し単位のことをいう。
【0017】
ヒドロキシメチル基含有PVAの重合度は、1,500〜6,000の範囲内であることが好ましく、1,800〜5,000の範囲内であることがより好ましく、2,000〜4,000の範囲内であることがさらに好ましい。当該重合度が1,500以上であることにより、フィルムを一軸延伸して得られる偏光フィルム等の光学フィルムの耐久性をより向上させることができる。一方、当該重合度が6,000以下であることにより、製造コストの上昇や、製膜時における工程通過性の不良などを抑制することができる。なお、本明細書におけるヒドロキシメチル基含有PVAの重合度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0018】
ヒドロキシメチル基含有PVAのけん化度は、フィルムを一軸延伸して得られる偏光フィルム等の光学フィルムの耐水性の点から、95モル%以上であることが好ましく、96モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書におけるヒドロキシメチル基含有PVAのけん化度とは、ヒドロキシメチル基含有PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位(−CH
2−CH(OH)−)に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して、当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。当該けん化度は、式(1)で示される構造単位やその誘導体の量も勘案した上でJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0019】
ヒドロキシメチル基含有PVAの製造方法は特に限定されない。例えば、ビニルエステル系単量体と、それと共重合可能でありかつ式(1)で示される構造単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合し、得られたビニルエステル系共重合体のビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換し、一方で式(1)で示される構造単位に変換可能な不飽和単量体に由来する構造単位を式(1)で示される構造単位に変換する方法が挙げられる。式(1)で示される構造単位に変換可能な不飽和単量体の具体例を以下の式(2)に示す。
【0021】
式(2)において、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す。Rの構造としては特に限定されず、一部に分岐、環状構造を有していてもよい。また、一部が他の官能基で置換されていてもよい。Rは好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が挙げられる。また、Rが有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。なお、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもどちらでもよい。
【0022】
式(2)で示される不飽和単量体としては、例えば、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチリルオキシ−2−メチレンプロパンなどが挙げられる。中でも、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパンが製造容易性の点で好ましく用いられる。
【0023】
式(2)で示される不飽和単量体は、一般的にPVAの変性に用いられる他のアリル型不飽和単量体(例えば、アリルグリシジルエーテル等)に比べ、ビニルエステル系単量体との共重合反応が進行しやすい。したがって、重合時における変性量や重合度の制約が少なく、変性量及び重合度の高いヒドロキシメチル基含有PVAが容易に得られる。また、重合終了時に残留する未反応の当該不飽和単量体の量を少なくすることができることから、本発明におけるヒドロキシメチル基含有PVAは工業的な製造時における環境面及びコスト面においても優れている。
【0024】
ヒドロキシメチル基含有PVAの製造に用いられるビニルエステル系単量体は特に限定されないが、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられる。経済的観点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0025】
式(2)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体とを共重合する際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合などのいずれの方式でもよく、重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を適用することができる。無溶媒またはアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる塊状重合法または溶液重合法が、通常採用される。高重合度のビニルエステル系共重合体を得る場合には、乳化重合法も好ましい。溶液重合法の溶媒は特に限定されないが、例えばアルコールである。溶液重合法の溶媒に使用されるアルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールである。重合系における溶媒の使用量は、目的とするヒドロキシメチル基含有PVAの重合度に応じて溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、例えば溶媒がメタノールの場合、溶媒と重合系に含まれる全単量体との質量比{=(溶媒)/(全単量体)}として、好ましくは0.01〜10の範囲内、より好ましくは0.05〜3の範囲内から選択される。
【0026】
式(2)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択すればよい。アゾ系開始剤は、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)である。過酸化物系開始剤は、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート系化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネートなどのパーエステル系化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート;過酸化アセチルである。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせて重合開始剤としてもよい。レドックス系開始剤は、例えば上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤である。重合開始剤の使用量は、重合開始剤の種類により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて選択すればよい。例えば重合開始剤に2,2’−アゾビスイソブチロニトリルあるいは過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系単量体に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、0.02〜0.15モル%がより好ましい。重合温度は特に限定されないが、室温〜150℃程度が適当であり、好ましくは40℃以上かつ使用する溶媒の沸点以下である。
【0027】
式(2)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合は、連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。連鎖移動剤は、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム一水和物などのホスフィン酸塩類などである。なかでもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とするヒドロキシメチル基含有PVAの重合度に応じて決定することができるが、一般にビニルエステル系単量体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0028】
式(2)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合により得られるビニルエステル系共重合体をけん化することにより、上記のヒドロキシメチル基含有PVAを得ることができる。当該ビニルエステル系共重合体をけん化することによって、ビニルエステル系共重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。また、式(2)で示される不飽和単量体に由来する構造単位のエステル結合もけん化され、式(1)で示される1,3−ジオール構造を有する構造単位に変換される。したがって、当該ヒドロキシメチル基含有PVAは、けん化後にさらに加水分解等の反応を行わなくても製造することができる。
【0029】
ビニルエステル系共重合体のけん化は、例えばアルコールまたは含水アルコールに当該ビニルエステル系共重合体が溶解した状態で行うことができる。けん化に使用するアルコールは、例えばメタノール、エタノールなどの低級アルコールが挙げられ、好ましくはメタノールである。けん化に使用するアルコールは、例えばその質量の40質量%以下の割合で、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの他の溶媒を含んでもよい。けん化に使用する触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒である。けん化を行う温度は限定されないが、20〜60℃の範囲内が好適である。けん化の進行にしたがってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、ヒドロキシメチル基含有PVAを得ることができる。けん化方法は、前述した方法に限らず公知の方法を適用できる。
【0030】
ヒドロキシメチル基含有PVAは、式(1)で示される構造単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の他の構造単位をさらに含むことができる。当該他の構造単位としては、例えばビニルエステル系単量体と共重合可能なエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位が挙げられる。また、上記したビニルエステル系単量体と共重合可能でありかつ式(1)で示される構造単位に変換可能な不飽和単量体に由来する構造単位(けん化により式(1)で示される構造単位に変換されなかった構造単位)を含むこともできる。
【0031】
ヒドロキシメチル基含有PVAにおける、式(1)で示される構造単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の合計の占める割合は、ヒドロキシメチル基含有PVAを構成する全構造単位のモル数を100モル%として、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であってもよい。
【0032】
上記のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩)などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩)などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩またはエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニルである。これらの中でも、延伸性が向上すると共により高い温度で延伸することができ、光学フィルム製造時に延伸切れ等のトラブルの発生が低減されて光学フィルムの生産性がより一層向上することから、エチレンが好ましい。ヒドロキシメチル基含有PVAがエチレン単位を含む場合、エチレン単位の含有率は、上記のような延伸性や延伸可能温度などの観点から、ヒドロキシメチル基含有PVAを構成する全構造単位のモル数を100モル%として、1〜4モル%が好ましく、2〜3モル%が特に好ましい。
【0033】
ヒドロキシメチル基含有PVAにおける式(1)で示される構造単位、ビニルアルコール単位及びその他任意の構成単位の配列順序には特に制限はなく、ランダム、ブロック、交互などのいずれであってもよい。
【0034】
本発明のフィルムは、上記のヒドロキシメチル基含有PVAの他に可塑剤を含むことができる。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。本発明のフィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらの中でも、延伸性の向上効果の点からグリセリンが好ましい。
【0035】
本発明のフィルムにおける可塑剤の含有量は、それに含まれるヒドロキシメチル基含有PVA100質量部に対して、1〜20質量部の範囲内であることが好ましく、3〜17質量部の範囲内であることがより好ましく、5〜15質量部の範囲内であることがさらに好ましい。当該含有量が1質量部以上であることによりフィルムの延伸性がより向上する。一方、当該含有量が20質量部以下であることにより、フィルムが柔軟になり過ぎて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0036】
本発明のフィルムには、さらに、充填剤、銅化合物などの加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤などの添加剤を、必要に応じて適宜配合できる。
【0037】
本発明のフィルムにおけるヒドロキシメチル基含有PVA及び可塑剤の合計の占める割合は、フィルムの質量に基づいて、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明のフィルムは軟化点が63℃以下である。これにより収縮低減により優れる光学フィルムが得られる。軟化点は60℃以下であることが好ましく、57℃以下であることがより好ましく、55℃以下であることがさらに好ましい。軟化点が低いほど、得られる光学フィルムの収縮力が低減する。一方、フィルムを一軸延伸する際など、使用時の工程通過性の観点から、工業的な軟化点の下限は50℃程度である。
なお、軟化点が上記範囲にあるフィルムは、ヒドロキシメチル基含有PVAの変性量、ヒドロキシメチル基含有PVAのけん化度、フィルムに対する熱処理温度などを適宜調整することにより容易に製造することができ、熱処理温度をより低く設定する方法が簡便で好ましい。具体的な熱処理温度としては、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましく、120℃以下が特に好ましく、また、90℃を超える温度が好ましい。軟化点は公知の測定法により求めることができ、具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。
【0039】
本発明のフィルムの膨潤度は、190〜500%の範囲内であることが好ましく、200〜400%の範囲内であることがより好ましく、230〜350%の範囲内であることがさらに好ましく、270〜320%の範囲内であることが特に好ましい。膨潤度が190%以上であることにより極度に結晶化が進行するのを抑制することができて、安定してより高倍率まで延伸することができる。一方、膨潤度が500%以下であることにより、延伸時の溶解が抑制され、より高温の条件下でも延伸することが可能となる。なお本明細書において、フィルムの膨潤度とは、フィルムを30℃の蒸留水中に30分間浸漬した際の質量を、浸漬後105℃で16時間乾燥した後の質量で除して得られる値の百分率を意味し、具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。
【0040】
本発明のフィルムの厚みは特に制限されないが、一般的には1〜100μm、さらには5〜75μm、特に10〜60μm程度であることが好ましい。当該厚みが薄すぎると、偏光フィルム等の光学フィルムを製造するための一軸延伸処理時に、延伸切れが発生しやすくなる傾向がある。また、当該厚みが厚すぎると、光学フィルムを製造するための一軸延伸処理時に延伸斑が発生しやすくなる。
【0041】
本発明のフィルムの幅は特に制限されず、製造される光学フィルムの用途などに応じて決めることができる。近年、液晶テレビや液晶モニターの大画面化が進行している点からフィルムの幅を3m以上にしておくと、これらの用途に好適である。一方、フィルムの幅があまりに大きすぎると実用化されている装置で光学フィルムを製造する場合に一軸延伸自体を均一に行うことが困難になりやすいので、フィルムの幅は7m以下であることが好ましい。
【0042】
本発明のフィルムの製造方法は特に限定されず、製膜後のフィルムの厚み及び幅がより均一になる製造方法を好ましく採用することができ、例えば、フィルムを構成する上記したヒドロキシメチル基含有PVA、及び必要に応じてさらに、上記した可塑剤、添加剤、及び後述する界面活性剤などのうちの1種または2種以上が液体媒体中に溶解した製膜原液や、ヒドロキシメチル基含有PVA、及び必要に応じてさらに、可塑剤、添加剤、界面活性剤、及び液体媒体などのうちの1種または2種以上を含み、ヒドロキシメチル基含有PVAが溶融している製膜原液を用いて製造することができる。当該製膜原液が可塑剤、添加剤、及び界面活性剤の少なくとも1種を含有する場合には、それらの成分が均一に混合されていることが好ましい。
【0043】
製膜原液の調製に使用される上記液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷や回収性の点から水が好ましい。
【0044】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は、製膜方法、製膜条件などによっても異なるが、一般的には、50〜95質量%の範囲内であることが好ましく、55〜90質量%の範囲内であることがより好ましく、60〜85質量%の範囲内であることがさらに好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、製膜原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないフィルムの製造が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が95質量%以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なフィルムの製造が容易になる。
【0045】
製膜原液は界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤を含むことにより、製膜性が向上してフィルムの厚み斑の発生が抑制されると共に、製膜に使用する金属ロールやベルトからのフィルムの剥離が容易になる。界面活性剤を含む製膜原液からフィルムを製造した場合には、当該フィルム中には界面活性剤が含有され得る。上記の界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点などから、アニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0046】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0047】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
【0048】
これらの界面活性剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
製膜原液が界面活性剤を含む場合、その含有量は、製膜原液に含まれるヒドロキシメチル基含有PVA100質量部に対して、0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることが特に好ましい。当該含有量が0.01質量部以上であることにより製膜性及び剥離性がより向上する。一方、当該含有量が0.5質量部以下であることにより、界面活性剤がフィルムの表面にブリードアウトしてブロッキングが生じ取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0050】
上記した製膜原液を用いてフィルムを製膜する際の製膜方法としては、例えば、キャスト製膜法、押出製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法などが挙げられる。これらの製膜方法は1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜方法の中でもキャスト製膜法、押出製膜法が、厚み及び幅が均一で物性の良好なフィルムが得られることから好ましい。製膜されたフィルムには必要に応じて乾燥や熱処理を行うことができる。
【0051】
本発明のフィルムの具体的な製造方法の例としては、例えば、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイ等を用いて、上記の製膜原液を最上流側に位置する回転する加熱した第1ロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出または流延し、この第1ロール(あるいはベルト)の周面上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いてその下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置により巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
【0052】
本発明のフィルムの用途に特に制限はなく、例えば、薬剤包装用フィルム、液圧転写用ベースフィルム、刺しゅう用基材フィルム、人工大理石成形用離型フィルム、種子包装用フィルム、汚物収容袋用フィルムなどの各種水溶性フィルムの用途に用いることができるが、本発明のフィルムによれば、光学特性、耐久性能及び収縮低減に優れる光学フィルムを容易に製造することができることから、光学フィルムを製造するための原反フィルム(光学フィルム製造用原反フィルム)として使用するのが好ましい。このような光学フィルムとしては、例えば、偏光フィルムや位相差フィルムなどが挙げられ、偏光フィルムが好ましい。このような光学フィルムは、例えば、本発明のフィルムを用いて一軸延伸などの処理を施すことにより製造することができる。
【0053】
本発明のフィルムを用いて偏光フィルムを製造する際の方法は特に制限されず、従来から採用されているいずれの方法を採用してもよい。このような方法としては、例えば、本発明のフィルムに対して染色及び一軸延伸を施したり、染料を含有する本発明のフィルムに対して一軸延伸を施したりする方法が挙げられる。偏光フィルムを製造するためのより具体的な方法としては、本発明のフィルムに対して、膨潤、染色、一軸延伸、及び必要に応じてさらに、架橋処理、固定処理、乾燥、熱処理などを施す方法が挙げられる。この場合、膨潤、染色、架橋処理、一軸延伸、固定処理などの各処理の順序は特に制限されず、1つまたは2つ以上の処理を同時に行うこともできる。また、各処理の1つまたは2つ以上を2回またはそれ以上行うこともできる。
【0054】
膨潤は、フィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水に浸漬する際の水の温度としては、20〜40℃の範囲内であることが好ましく、22〜38℃の範囲内であることがより好ましく、25〜35℃の範囲内であることがさらに好ましい。また、水に浸漬する時間としては、例えば、0.1〜5分間の範囲内であることが好ましく、0.5〜3分間の範囲内であることがより好ましい。なお、水に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水性媒体との混合物であってもよい。
【0055】
染色は、フィルムに対して二色性色素を接触させることにより行うことができる。二色性色素としてはヨウ素系色素を用いるのが一般的である。染色の時期としては、一軸延伸前、一軸延伸時、一軸延伸後のいずれの段階であってもよい。染色はフィルムを染色浴としてヨウ素−ヨウ化カリウムを含有する溶液(特に水溶液)中に浸漬させることにより行うのが一般的であり、本発明においてもこのような染色方法が好適に採用される。染色浴におけるヨウ素の濃度は0.01〜0.5質量%の範囲内であることが好ましく、ヨウ化カリウムの濃度は0.01〜10質量%の範囲内であることが好ましい。また、染色浴の温度は20〜50℃、特に25〜40℃とすることが好ましい。
【0056】
フィルムに対して架橋処理を施すことで、高温で湿式延伸する際にヒドロキシメチル基含有PVAが水へ溶出するのをより効果的に防止することができる。この観点から架橋処理は二色性色素を接触させる処理の後であって一軸延伸の前に行うのが好ましい。架橋処理は、架橋剤を含む水溶液にフィルムを浸漬することにより行うことができる。当該架橋剤としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素化合物の1種または2種以上を使用することができる。架橋剤を含む水溶液における架橋剤の濃度は1〜15質量%の範囲内であることが好ましく、2〜7質量%の範囲内であることがより好ましく、3〜6質量%の範囲内であることがさらに好ましい。架橋剤の濃度が1〜15質量%の範囲内にあることで十分な延伸性を維持することができる。架橋剤を含む水溶液はヨウ化カリウム等の助剤を含有してもよい。架橋剤を含む水溶液の温度は、20〜50℃の範囲内、特に25〜40℃の範囲内とすることが好ましい。当該温度を20〜50℃の範囲内にすることで効率良く架橋することができる。
【0057】
一軸延伸は、湿式延伸法または乾式延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法の場合は、ホウ酸を含む水溶液中で行うこともできるし、上記した染色浴中や後述する固定処理浴中で行うこともできる。また乾式延伸法の場合は、室温のまま延伸を行ってもよいし、加熱しながら延伸してもよいし、吸水後のフィルムを用いて空気中で行うこともできる。これらの中でも、湿式延伸法が好ましく、ホウ酸を含む水溶液中で一軸延伸するのがより好ましい。ホウ酸水溶液中におけるホウ酸の濃度は0.5〜6.0質量%の範囲内であることが好ましく、1.0〜5.0質量%の範囲内であることがより好ましく、1.5〜4.0質量%の範囲内であることが特に好ましい。また、ホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有してもよく、その濃度は0.01〜10質量%の範囲内にすることが好ましい。
一軸延伸における延伸温度は、30〜90℃の範囲内であることが好ましく、40〜80℃の範囲内であることがより好ましく、50〜70℃の範囲内であることが特に好ましい。
また、一軸延伸における延伸倍率は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から6.8倍以上であることが好ましく、6.9倍以上であることがより好ましく、7.0倍以上であることが特に好ましい。延伸倍率の上限は特に制限されないが、延伸倍率は8倍以下であることが好ましい。
【0058】
長尺のフィルムを一軸延伸する場合における一軸延伸の方向に特に制限はなく、長尺方向への一軸延伸や横一軸延伸を採用することができるが、偏光性能に優れる偏光フィルムが得られることから長尺方向への一軸延伸が好ましい。長尺方向への一軸延伸は、互いに平行な複数のロールを備える延伸装置を使用して、各ロール間の周速を変えることにより行うことができる。一方、横一軸延伸はテンター型延伸機を用いて行うことができる。
【0059】
偏光フィルムの製造にあたっては、フィルムへの二色性色素(ヨウ素系色素等)の吸着を強固にするために固定処理を行うことが好ましい。固定処理に使用する固定処理浴としては、ホウ酸、硼砂等のホウ素化合物の1種または2種以上を含む水溶液を使用することができる。また、必要に応じて、固定処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。固定処理浴におけるホウ素化合物の濃度は、一般に2〜15質量%、特に3〜10質量%程度であることが好ましい。当該濃度を2〜15質量%の範囲内にすることで二色性色素の吸着をより強固にすることができる。固定処理浴の温度は、15〜60℃、特に25〜40℃であることが好ましい。
【0060】
乾燥の条件は特に制限されないが、30〜150℃の範囲内、特に50〜130℃の範囲内の温度で乾燥を行うことが好ましい。30〜150℃の範囲内の温度で乾燥することで寸法安定性に優れる偏光フィルムが得られやすい。
【0061】
以上のようにして得られた偏光フィルムは、通常、その両面または片面に、光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などを挙げることができるが、中でもPVA系接着剤が好適である。
【0062】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせてLCDの部品として使用することができる。同時に位相差フィルムや視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等と貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例、参考例及び比較例において採用された各測定または評価方法を以下に示す。
【0064】
PVAの一次構造
以下の実施例、参考例及び比較例で使用したPVAの一次構造(変性種の構造単位の含有率及びけん化度)は、400MHz
1H−NMRを用いて分析した。
1H−NMR測定時の溶媒は重水素化DMSOを用いた。
【0065】
フィルムの軟化点
エレックス化学製自動軟化点温度測定装置を用いて測定した。具体的には、以下の実施例、参考例または比較例で得られたフィルムを2.5cm角になるようにカットし、これを直径1cmの円状の穴を有する金属枠に固定し、穴の中央に直径0.95cm、質量3.526gの球を置き、純水中30℃から5℃/分の昇温過程で球が2.5cm降下したときの温度をセンサーで感知することで測定した。
【0066】
フィルムの膨潤度
以下の実施例、参考例または比較例で得られたフィルムを1.5gとなるようにカットし、30℃の蒸留水中に30分間浸漬した。30分間浸漬後に当該フィルムを取り出し、ろ紙で表面の水を取り、質量「N」を求めた。続いてそのフィルムを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後、質量「M」を求めた。得られた質量「N」及び「M」から、下記式(3)によりフィルムの膨潤度を算出した。
膨潤度(%) = 100 × N/M (3)
【0067】
偏光フィルムの光学特性(二色性比)
(1)透過率Tsの測定
以下の実施例、参考例または比較例で得られた偏光フィルムの中央部から、偏光フィルムの長さ方向に2cmのサンプルを2枚採取し、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製「V7100」)を用いて、JIS Z 8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚のサンプルについて、長さ方向に対して+45°傾けた場合の光の透過率と−45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts1(%)を求めた。もう1枚のサンプルについても同様にして、+45°傾けた場合の光の透過率と−45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts2(%)を求めた。下記式(4)によりTs1とTs2を平均し、偏光フィルムの透過率Ts(%)とした。
Ts = (Ts1+Ts2)/2 (4)
【0068】
(2)偏光度Vの測定
上記透過率Tsの測定で採取した2枚のサンプルを、その長さ方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率T‖(%)、長さ方向が直交するように重ねた場合の光の透過率T⊥(%)を、上記「(1)透過率Tsの測定」の場合と同様にして測定し、下記式(5)により偏光度V(%)を求めた。
V = {(T‖−T⊥)/(T‖+T⊥)}
1/2×100 (5)
【0069】
(3)透過率44%時の二色性比の算出
以下の各実施例、参考例及び比較例において、染色浴におけるヨウ素の濃度を0.02〜0.04質量%及びヨウ化カリウムの濃度を2.0〜4.0質量%の各範囲内で4回変更(ただし、ヨウ素の濃度:ヨウ化カリウムの濃度=1:100とする)して同様の操作を行い、各実施例、参考例または比較例で製造した偏光フィルムとは二色性色素の吸着量の異なる4枚の偏光フィルムを製造した。これら4枚の偏光フィルムのそれぞれについて上記した方法で透過率Ts(%)及び偏光度V(%)を求め、各実施例、参考例及び比較例毎に、透過率Ts(%)を横軸、偏光度V(%)を縦軸として、各実施例、参考例または比較例で得られた偏光フィルムの透過率Ts(%)及び偏光度V(%)に基づく1点も含めた合計5点をグラフにプロットして近似曲線を求め、当該近似曲線から、透過率Ts(%)が44%であるときの偏光度V
44(%)を求めた。
得られた偏光度V
44(%)から、下記式(6)により透過率44%時の二色性比を求めて、偏光性能の指標とした。
透過率44%時の二色性比 = log(44/100−44/100×V
44/100)/log(44/100+44/100×V
44/100) (6)
【0070】
偏光フィルムの収縮力
以下の実施例、参考例または比較例で得られた偏光フィルムの中央部から、偏光フィルムの長さ方向に12cm、幅方向に1.5cmの矩形のサンプルを採取し、温度20℃、相対湿度20%の条件下で18時間調湿した。次いでこのサンプルをチャック間5cmで長さ方向が固定されるように株式会社島津製作所製のオートグラフ「AG−X」に固定し、温度40℃、相対湿度5%の条件下、1mm/分の速度で長さ方向に延伸し、張力が2Nに達したときに延伸を停止して保持し、その状態で80℃に昇温して4時間後の張力を測定し、これを偏光フィルムの収縮力とした。
【0071】
[実施例1]
(1)酢酸ビニルと1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパンとを重合温度40℃で共重合して得られた共重合体をけん化することにより得られた表1に示すヒドロキシメチル基含有PVA100質量部、可塑剤としてグリセリン10質量部、及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含み、ヒドロキシメチル基含有PVAの含有率が10質量%である水溶液を製膜原液として用いて、これを80℃の金属ロール上で乾燥し、得られたフィルムを熱風乾燥機中で所定の温度で1分間熱処理をすることにより軟化点を63℃に調整して、厚みが30μmのフィルムを製造した。
【0072】
(2)上記(1)で得られたフィルムの幅方向中央部から、幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ8cmのサンプルをカットした。このサンプルを30℃の純水に浸漬しつつ1.5倍に長さ方向に一軸延伸した。続いてヨウ素を0.03質量%及びヨウ化カリウムを3.0質量%の割合で含有する水溶液(染色浴)(温度30℃)に60秒間浸漬しつつ1.6倍(全体で2.4倍)に長さ方向に一軸延伸してヨウ素を吸着させた。次いで、ホウ酸を3質量%及びヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(架橋浴)(温度30℃)に浸漬しつつ1.1倍(全体で2.6倍)に長さ方向に一軸延伸した。さらにホウ酸を4質量%及びヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液(延伸浴)(温度56℃)に浸漬しつつ、破断する直前の延伸倍率まで長さ方向に一軸延伸した。その後、ヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(洗浄浴)(温度30℃)に5秒間浸漬し、最後に60℃で4分間乾燥して偏光フィルムを製造した。なお、各測定ないし評価ができるように、同様の偏光フィルムを複数製造した。 得られた偏光フィルムを用いて、上記した方法により偏光フィルムの光学特性(二色性比)及び収縮力を測定または評価した。結果を表1に示した。
【0073】
[実施例2、3及び参考例1]
熱風乾燥機の温度(熱処理温度)を表1に示すようにして軟化点をそれぞれ60℃(実施例2);55℃(実施例3);64℃(参考例1)に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルム及び偏光フィルムを製造して、各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0074】
[比較例1]
PVAとして、酢酸ビニルを重合温度60℃で重合して得られた重合体をけん化することにより得られた表1に示す未変性PVAを用いるとともに、熱風乾燥機の温度(熱処理温度)を表1に示すようにして軟化点を63℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルム及び偏光フィルムを製造して、各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0075】
【表1】
【0076】
以上の結果から明らかなように、本発明の規程を満たす実施例1〜3のフィルムによれば、光学特性及び収縮低減に優れる光学フィルムを容易に製造できることが分かる。