特許第6792476号(P6792476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6792476アルミニウム合金板材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792476
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金板材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20201116BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20201116BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20201116BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20201116BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   C22F1/04 C
   F28F21/08 A
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-23844(P2017-23844)
(22)【出願日】2017年2月13日
(65)【公開番号】特開2017-145504(P2017-145504A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2020年2月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-29010(P2016-29010)
(32)【優先日】2016年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594001041
【氏名又は名称】株式会社片木アルミニューム製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】片木 威
(72)【発明者】
【氏名】中島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】平木 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】星河 浩介
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−128674(JP,A)
【文献】 特開2013−091813(JP,A)
【文献】 特開平01−159343(JP,A)
【文献】 特開平04−250613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00
C22C 21/06
C22F 1/04
C22F 1/00
F28F 21/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnの含有量が0.1質量%以上2.0質量%以下であり、
Mgの含有量が質量基準でMn含有量の1/16倍以上1.6質量%以下であり、
残部がAlおよび不可避不純物元素からなり、
MnおよびMgの合計含有量が0.6質量%以上であり、
前記不可避不純物元素の合計含有量が0.04質量%以下であるアルミニウム合金板材。
【請求項2】
前記不可避不純物元素の合計含有量が0.02質量%以下である、請求項1に記載のアルミニウム合金板材。
【請求項3】
Feの含有量が0.025質量%以下であり、
Si、Cu、Ti、V、Cr、Ni、ZnおよびGaの合計含有量が0.02質量%以下である、請求項1または2に記載のアルミニウム合金板材。
【請求項4】
Feの含有量が0.003質量%以下であり、
Si、Cu、Ti、V、Cr、Ni、ZnおよびGaの合計含有量が0.015質量%以下である、請求項3に記載のアルミニウム合金板材。
【請求項5】
Mgが母材中に全量固溶していると仮定して、板材の導電率から算出される母材中へのMnの固溶率が40%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金板材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアルミニウム合金板材からなる熱交換器用フィン材。
【請求項7】
Mnの含有量が0.1質量%以上2.0質量%以下であり、Mgの含有量が質量基準でMn含有量の1/16倍以上1.6質量%以下であり、残部がAlおよび不可避不純物元素からなり、MnおよびMgの合計含有量が0.6質量%以上であり、前記不可避不純物元素の合計含有量が0.04質量%以下であるアルミニウム合金圧延用素材を作製する工程と、
前記アルミニウム合金圧延用素材を圧延する圧延工程と、
前記圧延工程後に、200℃以上450℃以下の温度で1時間以上保持する最終焼鈍工程と、
を含む、アルミニウム合金板材の製造方法。
【請求項8】
前記不可避不純物元素の合計含有量が0.02質量%以下である、請求項7に記載のアルミニウム合金板材の製造方法。
【請求項9】
前記圧延工程の途中に、500℃以上にて5時間以上保持する中間焼鈍工程を備える、請求項7または8に記載のアルミニウム合金板材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れたアルミニウム合金板材、特に熱交換器フィン材として好適なアルミニウム合金板材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用熱交換器のフィンには、伝導性に優れるCuやAl合金が多く使われている。フィン材には伝導性の他に、耐食性、強度、成形性などの特性が要求されている。これまで、上記特性を向上させるための種々の方法が検討されてきている。例えば、強度、耐食性、伝導性を向上させる方法として、Mn、Si、Fe、Znの量および質量比を制御する方法が提案されている(特許文献1)。また、板材の成形性を向上させる方法として、板材中の金属間化合物の分布密度を制御する方法が提案されている(特許文献2)。ここでいう伝導性は、熱伝導性および電気伝導性の両方を意味する。金属の場合、熱伝導度が高い素材は電気伝導度も高いことが一般的に知られている。
【0003】
しかしながら、熱交換器、とりわけ産業用熱交換器は厳しい腐食環境下で使用されることがあり、従来のフィン材では耐食性が不十分である場合がある。フィン材の寿命が短いため、フィン材の交換頻度が高くなる、または耐腐食性向上のためのコーティングが必要となる、などのコストアップにつながっている。
【0004】
特許文献3には、アルミニウムにMnとMgを所定量配合し、さらにCrとTiを少量配合したアルミニウム合金から、厚みが50〜200μm(0.05〜0.2mm)で電気比抵抗値が6.0μΩcm以上の箔を製造する技術が開示されている。この文献に記載の技術により、高耐食性かつ低伝導性であり、電磁調理器による加熱調理が可能な食品包装体に適するアルミニウム合金箔が得られると提案されている。なお、この文献の実施例では、Siの含有量が0.03質量%、Feの含有量が0.05質量%のアルミニウム合金が用いられており、Mnの配合量は、最低でも2.0質量%となっている。
【0005】
しかし、特許文献3に開示されているアルミニウム合金箔は、電気比抵抗値が高い、すなわち伝導性が低いことを特徴としているので、高伝導性が必要とされる熱交換器フィン材には適さない。
【0006】
非特許文献1および非特許文献2には、アルミニウムの電気抵抗に及ぼす添加元素の影響を表す数値が記載されており、後でこれらの数値を使うので、ここに引用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5578702号公報
【特許文献2】特開2014−224323号公報
【特許文献3】特許第5413734号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】三木正博,高尾順三,“アルミニウムの電気抵抗”,住友化学 技術誌,住友化学工業株式会社,1975年,特1975−I,p.41-52
【非特許文献2】「アルミニウム材料の基礎と工業技術」,社団法人日本アルミニウム協会,平成22年10月25日第1版第4刷,p.344
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実状を背景としてなされたものであり、その目的は、優れた強度および伝導性を有しながら、かつ耐食性に優れるアルミニウム合金板材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様1は、Mnの含有量が0.1質量%以上2.0質量%以下であり、Mgの含有量が質量基準でMn含有量の1/16倍以上1.6質量%以下であり、残部がAlおよび不可避不純物元素からなり、MnおよびMgの合計含有量が0.6質量%以上であり、前記不可避不純物元素の合計含有量が0.04質量%以下であるアルミニウム合金板材である。
【0011】
本発明の態様2は、前記不可避不純物元素の合計含有量が0.02質量%以下である、態様1に記載のアルミニウム合金板材である。
【0012】
本発明の態様3は、Feの含有量が0.025質量%以下であり、Si、Cu、Ti、V、Cr、Ni、ZnおよびGaの合計含有量が0.02質量%以下である、態様1または2に記載のアルミニウム合金板材である。
【0013】
本発明の態様4は、Feの含有量が0.003質量%以下であり、Si、Cu、Ti、V、Cr、Ni、ZnおよびGaの合計含有量が0.015質量%以下である、態様3に記載のアルミニウム合金板材である。
【0014】
本発明の態様5は、Mgが母材中に全量固溶していると仮定して、板材の導電率から算出される母材中へのMnの固溶率が40%以下である、態様1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金板材である。
【0015】
本発明の態様6は、態様1〜5のいずれかに記載のアルミニウム合金板材からなる熱交換器用フィン材である。
【0016】
本発明の態様7は、Mnの含有量が0.1質量%以上2.0質量%以下であり、Mgの含有量が質量基準でMn含有量の1/16倍以上1.6質量%以下であり、残部がAlおよび不可避不純物元素からなり、MnおよびMgの合計含有量が0.6質量%以上であり、前記不可避不純物元素の合計含有量が0.04質量%以下であるアルミニウム合金圧延用素材を作製する工程と、前記アルミニウム合金圧延用素材を圧延する圧延工程と、前記圧延工程後に、200℃以上450℃以下の温度で1時間以上保持する最終焼鈍工程と、を含む、アルミニウム合金板材の製造方法である。
【0017】
本発明の態様8は、前記不可避不純物元素の合計含有量が0.02質量%以下である、態様7に記載のアルミニウム合金板材の製造方法である。
【0018】
本発明の態様9は、前記圧延工程の途中に、500℃以上にて5時間以上保持する中間焼鈍工程を備える、態様7または8に記載のアルミニウム合金板材の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアルミニウム合金板材は、優れた強度および伝導性を有しながら、かつ耐食性に優れている。このようなアルミニウム合金板材から、良好な性質を備えた熱交換器用フィン材を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、優れた強度および伝導性を有しながら、かつ耐食性に優れたアルミニウム合金板材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、アルミニウム合金におけるMn含有量とMg含有量の関係を表す図である。
図2図2は、アルミニウム中の添加元素Xの原子%と質量%の関係を表す式である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
従来の熱交換器フィン材として用いられるアルミニウム合金板材は、99質量%程度の純度のアルミニウムを原料とした合金であり、Fe等の不可避不純物元素をある程度含有している。本発明者らは、このような不可避不純物元素である特にFeが、母材であるAlその他合金元素と金属間化合物を形成して腐食の起点となり、得られるアルミニウム合金板材の耐食性を低下させていることに着眼した。
そして、高純度アルミニウムを原料としてアルミニウム合金板材を製造することで、Fe等の不可避不純物元素の含有量を十分に低減し、さらに、合金元素としてMnおよびMgを所定の量で含有させることにより、高純度アルミニウムが有する高い耐食性を維持しながら、優れた強度および伝導性を有するアルミニウム合金板材が得られることを見出した。
すなわち、熱交換器フィン材に必要とされる強度および伝導性を有しながら、さらには十分に優れた耐食性を有するアルミニウム合金板材を得るためには、単に原料として用いるアルミニウムの純度を高めて、腐食の起点となる不可避不純物元素の含有量を低減するだけでは不十分であり、高純度アルミニウムを原料とし、その上で合金元素としてMnおよびMgを所定の量で含有させることによって、不可避不純物元素の含有量を十分に低減し、かつ腐食の起点となる金属間化合物の生成を十分に抑制し高純度アルミニウムが有する高い耐食性を維持できることを、本発明者らは見出した。
ここで用いる高純度アルミニウムは、純度が99.99質量%以上の高純度アルミニウム(純度を示す質量パーセント表記における先頭から連続する9の数の後にナインの頭文字であるNを付して「4N−Al」と記載し、「フォーナインアルミ」と呼ぶこともある。通常、この表現は9が3個以上の場合に用いられる。)であるのが好ましい。
【0022】
以下、本発明に係るアルミニウム合金板材およびその製造方法を実現するための形態について説明する。まず、このアルミニウム合金を構成する各成分および板材について説明し、その後、製造方法の説明に移っていくこととする。
【0023】
1.アルミニウム合金板材の組成
以下に、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金板材の組成について説明する。
(1)Mn
Mnは、アルミニウム合金の耐食性を大きく低下させることなく強度を向上させる元素である。そこでMn含有量は、0.1質量%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上である。但し、Mn含有量が多過ぎると、金属間化合物が増大し、これらが腐食の起点となり、腐食が進行しやすくなる。また、伝導性も低下する。以上の観点から、Mn含有量は2.0質量%以下とする。Mn含有量は、好ましくは1.8質量以下%、さらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0024】
(2)Mg
Mgは、アルミニウム合金の耐食性を大きく低下させることなく強度を向上させる元素である。Mnに対してMgを一定割合以上含有させることで、腐食の起点となるMnを含む金属間化合物の生成を抑制でき、アルミニウム合金の耐食性の低下を抑えることができる。Mg含有量(質量%)/Mn含有量(質量%)≧1/16の関係を満たすようにMgを含有すれば、このような効果を得ることができる。一方、Mg含有量が多過ぎると、母材の腐食が進行しやすくなり、また伝導性も低下する。そこでMg含有量は、質量基準でMn含有量の1/16倍以上1.6質量%以下とする。Mg含有量は、好ましくは1.2質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下である。
【0025】
また、MnおよびMgの合計含有量を所定値以上とすることで、熱交換器フィン材として必要な強度が得られる。そこで、MnおよびMgの合計含有量は0.6質量%以上とする。熱交換器フィン材に必要とされる成形性を確保する観点から、MnおよびMgの合計含有量は2.5質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
図1は、上述した、本発明の板材を構成するアルミニウム合金におけるMn含有量とMg含有量の関係を表している。また図1には、後述する実施例および比較例の組成を表している。図中の太線で囲まれる範囲が、上述したアルミニウム合金の組成を意味する。これらの太い直線5本は、以下の各式(a)〜(e)における境界、すなわち左辺と右辺がイコールで結ばれる直線である。
Mn含有量(質量%)≧0.1 (a)
Mg含有量(質量%)≦1.6 (b)
Mn含有量(質量%)≦2.0 (c)
Mg含有量(質量%)/Mn含有量(質量%)≧1/16 (d)
Mn含有量(質量%)+Mg含有量(質量%)≧0.6 (e)
【0027】
(3)Al
アルミニウム合金板材の成分は前記の他、残部がAlおよび不可避不純物元素からなるものである。不可避不純物元素は合計で0.04質量%までの含有が許容され、0.03質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がより好ましく、0.015質量%以下がさらに好ましく、0.01質量%以下がよりさらに好ましい。不可避不純物元素の含有量をこのような範囲にすることにより、腐食の起点となる金属間化合物の生成を抑制することができ、アルミニウム合金板材の耐食性を向上させることができる。
【0028】
99質量%程度の純度のアルミニウムを原料として製造したアルミニウム合金板材は、通常、1質量%程度の不可避不純物元素を含有しており、このような高い含有量の不可避不純物元素が、腐食発生の起点となり、アルミニウム合金板材の耐食性を低下させる。
本発明に係るアルミニウム合金板材は、Fe等の不可避不純物元素の量を低く抑えるため、本発明の板材を構成するアルミニウム合金は通常、純度が99.99質量%以上の高純度アルミニウム(4N−Al)を原料とし、これに合金元素であるマンガンとマグネシウムを加えて作製される。このような高純度アルミニウムを原料とすることにより、Feを含む不可避不純物元素の含有量を0.04質量%以下、好ましくは0.03質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下、さらに好ましくは0.015質量%以下、よりさらに好ましくは0.01質量%以下まで低減することができる。
市販の高純度アルミニウム(4N−Al)を原料とし、これに合金元素であるマンガンとマグネシウムを加えて、本発明に係るアルミニウム合金板材を作製すると、不可避不純物元素の含有量が0.02質量%以下のアルミニウム合金板材が得られる。
さらに高い純度、例えば、99.999質量%以上の高純度アルミニウム(同じく「5N−Al」と記載し、「ファイブナインアルミ」と呼ぶこともある)を原料とすることにより、得られるアルミニウム合金板材に含まれる不可避不純物元素の量をさらに低減することができ、耐食性をより高めることができる。
【0029】
なお、本発明の板材を構成するアルミニウム合金は、上述のとおりAl、MnおよびMgの三成分を必須とし、他の元素は基本的に不可避不純物元素となるが、それらの不可避不純物元素を意識的に加えた場合であっても、特許請求の範囲の規定を満たせば、そのようなアルミニウム合金を除外するものでないことはいうまでもない。
【0030】
本発明に係るアルミニウム合金板材は、このように、高純度アルミニウムを原料とすることにより、不可避不純物元素の合計含有量を低減し、耐食性を高めることができる。アルミニウム合金板材中の特にFeの含有量が多いと、Al−Fe系やAl−Mn−Fe−Si系の金属間化合物が生成しやすく、これらの金属間化合物が耐食性に悪影響を及ぼすことが一般的に知られている。そのため、従来のアルミニウム合金板材に含まれる主な不可避不純物元素であるFeの含有量を低減することが好ましい。後述するように、Feの含有量を低減することにより、アルミニウム合金板材の耐食性をさらに高めることができる。
【0031】
(4)Fe
主な不可避不純物元素であるFeの含有量は、0.025質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以下であることがより好ましく、0.015質量%以下であることがさらに好ましく、0.003質量%以下であることがよりさらに好ましい。このような範囲であれば、AlとFeとを含む金属間化合物(Al−Fe系やAl−Mn−Fe−Si系など)の生成をより抑制することができ、アルミニウム合金板材における腐食の進行をさらに抑制することができる。したがってFe含有量は、0.025質量%以下とするのが好ましく、0.02質量%以下であることがより好ましく、0.015質量%以下であることがさらに好ましく、0.003質量%以下であることがよりさらに好ましい。市販の高純度アルミニウム(4N−Al)を原料とし、これに合金元素であるマンガンとマグネシウムを加えて、本発明に係るアルミニウム合金を作製すると、Feの含有量が0.003質量%以下のアルミニウム合金板材が得られる。アルミニウム合金におけるFe含有量の下限値はゼロであるが、アルミニウムの精製効率との関係で、工業的な最高純度のアルミニウムを原料として用いた場合であっても、少なくとも0.1質量ppm程度は含まれている。
なお、あまり純度の高くないアルミニウムを原料として製造した従来のアルミニウム合金板材は、通常、0.7質量%程度のFeを含有している。
【0032】
(5)その他の不可避不純物元素
上述のとおり、Feの含有量を0.025質量%以下としたうえで、他の不可避不純物元素であるSi、Cu、Ti、V、Cr、Ni、ZnおよびGaの合計含有量を0.02質量%以下、さらには0.015質量%以下、さらには0.01質量%以下、特に0.005質量%以下とするのが好ましい。
市販の高純度アルミニウム(4N−Al)を原料とし、これに合金元素であるマンガンとマグネシウムを加えて、本発明に係るアルミニウム合金を作製すると、Feを除く不可避不純物元素であるSi、Cu、Ti、V、Cr、Ni、ZnおよびGaの合計含有量が0.015質量%以下のアルミニウム合金板材が得られる。
Siは、アルミニウム中のFeに次ぐ主な不可避不純物元素であるが、上記したAl−Mn−Fe−Si系のような金属間化合物の生成をより抑制する観点からは、その含有量を0.015質量%以下とするのが好ましく、0.01質量%以下とするのがより好ましく、さらには0.005質量%以下とするのがより好ましい。
【0033】
アルミニウム合金板材中に含有されるMn、Mgおよび不可避不純物元素の量の定量は、例えば、グロー放電質量分析(GDMS)、固体発光分光分析あるいはICP発光分光分析などによって行うことができる。
【0034】
2.母材中へのMnの固溶率
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金板材は、圧延および熱処理の条件を適切に選択し、母材であるアルミニウム中へのMnの固溶状態、およびAl−Mn等の金属間化合物の析出状態を制御することで、上述した優れた耐食性および強度に加え、伝導性をより向上させることができ、さらには成形性についても向上させることができる。
【0035】
具体的には、上述した組成を満足するアルミニウム合金板材について、Mgが母材中に全量固溶していると仮定して算出される、母材中へのMn固溶率が40%以下であることが好ましい。このような範囲であれば、アルミニウム合金板材の伝導性および成形性をより向上させることができる。
【0036】
アルミニウム中へのMn固溶率を40%以下にすることにより、アルミニウム合金板材の伝導性および成形性をより向上できるメカニズムは以下のとおりである。
【0037】
アルミニウム合金板材中のMnは、母材であるアルミニウム中に固溶した状態と、金属間化合物として析出した状態と、の両方の状態で存在している。金属間化合物としての析出物が多いほど、後述する最終焼鈍工程を行った際に結晶粒がより微細化し、その結果、得られるアルミニウム合金板材は、高い強度を維持しながら、さらにはより向上した伝導性および成形性を有することができる。Mgが母材中に全量固溶していると仮定して、後述する計算式(1)〜(3)を用いて算出されるMnの母材中への固溶率が40%以下であれば、最終焼鈍工程後の結晶粒微細化の効果が得られやすく、上述した高い強度を維持しながら、伝導性および成形性をより向上させることができる。Mnの母材中への固溶率は、30%以下であればより好ましい。
【0038】
また、圧延および熱処理の条件を適切に選択し、母材であるアルミニウム中へのMnの固溶状態、およびAl−Mn等の化合物としての析出状態を制御することで、アルミニウム合金板材の結晶粒を微細にすることができ、平均結晶粒径を小さくすることができる。アルミニウムの合金板材の、平均結晶粒径は約100μm以下であることが好ましい。平均結晶粒径がこのような範囲であれば、アルミニウム合金板材の伝導性および成形性をより向上させることができる。なお、平均結晶粒径は、合金板の断面をフッ酸によりエッチングして測定した、圧延方向に対して垂直方向の結晶粒長さと圧延方向に対して平行方向の結晶粒長さとの平均値をいう。
【0039】
MgがAlに固溶しやすいことは状態図などから一般に知られている。例えばAl−Mn−Mg三元状態図から、Mn量が本発明で規定する2質量%までの場合、約2質量%までのMgがAl中に固溶することが判る。そのため、本発明で規定するMg量の上限1.6質量%までであれば、Mgが母材中に全量固溶しているとする上記仮定は、妥当なものと考えられる。
【0040】
・母材中へのMn固溶率の算出方法
Mgが母材中に全量固溶していると仮定したときの、板材の導電率から母材中へのMnの固溶率を求める方法について説明する。導電率の単位の一つとして、「%IACS」があり、本明細書ではこの単位を採用する。IACSは、International Annealed Copper Standardの略で、国際的に採択された焼鈍標準軟銅(体積抵抗率=1.7241×10-2μΩm)の導電率を100%IACSとしている。導電率は電気抵抗値の逆数に比例するので、例えば50%IACSであれば、その体積抵抗率(以下、「電気抵抗値」または単に「抵抗値」とも呼ぶ)は、1.7241×10-2μΩm×100/50=3.4482×10-2μΩm=3.4482×10-8Ωmのように換算できる。また上記のとおり、導電率100%IACSは電気抵抗値1.7241×10-2μΩm=1.7241×10-8Ωmに相当するが、ここでは有効数字を3桁とし、導電率100%IACSは電気抵抗値1.72×10-8Ωmに相当するものとして、計算式を示す。
【0041】
まず、アルミニウムへのMnおよびMg添加による電気抵抗値増加分を、下式(1)により算出する。次に、得られる電気抵抗値増加分のうち、Mn添加による増加分(「Mn抵抗寄与分」とする)を、下式(2)により算出する。最後に、添加したMnの母材への固溶率(「Mn固溶率」とする)を、下式(3)により算出する。例えば、4N−AlにMnを1.2質量%、Mgを0.1質量%添加して作製したアルミニウム合金板材の導電率が40%IACSである場合、Mn固溶率は40.5%となる。
【0042】
【数1】
【0043】
上記式(1)〜(3)のそれぞれの意味と、そこに現れる数値の算出根拠を説明する。
【0044】
式(1)は、AlにMnおよびMgを添加したことによる電気抵抗値の増加量を意味する。右辺第1項の「1.72×10-8×100/(合金板材の導電率(%IACS))」は測定された合金板材の導電率(%IACS)を電気抵抗値(Ωm)に換算する式であり、同第2項の「2.64×10-8」は純アルミニウム(4N−Al)の電気抵抗値(Ωm)を実測した値である。
【0045】
式(2)は、添加されたMnおよびMgのうち、Mnによる電気抵抗値の増加量を意味し、式(1)で算出される全体の電気抵抗値増加分から、以下に説明するMgによる抵抗値増加分を差し引いた値となる。右辺第2項は、上記のとおりMgによる抵抗値増加分を意味し、そこに現れる「Mgの比抵抗寄与係数」=5.5×10-9Ωm/質量%は以下のように算出した。先掲した非特許文献1(住友化学 技術誌,特1975−I)の第49頁第2表には、アルミニウム中のMgの固溶量1原子パーセントあたりの比抵抗寄与が0.5×10-6Ωcm/原子%である旨記載されている。アルミニウム中の添加元素Xの原子%と質量%の関係は図2に示すとおりで、添加元素XがMgの場合、図2の計算1に示すとおり、Mg1原子%=0.9019質量%の関係にある。そこで、上記した固溶Mgの比抵抗寄与0.5×10-6Ωcm/原子%を「Ωm/質量%」に換算して、
0.5×10-6Ωcm/原子%=0.5×10-6Ω×10-2m/0.9019質量%
=5.5×10-9Ωm/質量%
を得た。これが、上記式(2)の右辺第2項に現れるMgの比抵抗寄与係数である。
【0046】
式(3)は、式(2)で算出されるMn抵抗寄与分、すなわち、実際の合金板材においてMnが寄与している電気抵抗値増加量を分子とし、そのMnがアルミニウム中で全量固溶していると仮定したときの電気抵抗値増加量を分母とする割合を、%単位とするために100倍したものである。Mnがアルミニウム中で全量固溶していると仮定したときの電気抵抗値増加量(分母)よりも、実際の合金板材においてMnが寄与している電気抵抗値増加量(分子)が小さいのは、実際の合金板材においてはMnが固溶しないで析出していることに起因するので、この割合をMn固溶率とみなした。実際の合金板材においてMnが寄与している電気抵抗値増加量(分子)が分母と等しければ、Mn固溶率は100%となる。
【0047】
式(3)に現れる「Mnの固溶状態での比抵抗寄与係数」=3.3×10-8Ωm/質量%は以下のように算出した。先に挙げた非特許文献1(住友化学 技術誌,特1975−I)の第49頁第2表には、アルミニウム中のMnの固溶量1原子パーセントあたりの比抵抗寄与が6.7×10-6Ωcm/原子%である旨記載されている。そして、図2の計算2に示すとおり、Mn1原子%=2.0154質量%の関係にあるので、上記した固溶Mnの比抵抗寄与6.7×10-6Ωcm/原子%を「Ωm/質量%」単位に換算して、
6.7×10-6Ωcm/原子%=6.7×10-6Ω×10-2m/2.0154質量%
=3.3×10-8Ωm/質量%
を得た。これが、上記式(3)に現れるMnの固溶状態での比抵抗寄与係数である。
【0048】
先掲した非特許文献2(「アルミニウム材料の基礎と工業技術」)の第344頁表25には、アルミニウムの電気抵抗におよぼすMnの析出状態での平均比抵抗増加が0.34μΩcm/質量%(=3.4×10-9Ωm/質量%)と記載されており、上述した固溶状態での比抵抗寄与係数3.3×10-8Ωm/質量%に比べて1桁小さくなっている。したがって、Mnによる電気抵抗値増加量は、実質的に固溶状態のMnによってもたらされ、析出状態のMnによる影響は無視できるとみなして、上の計算を行った。
【0049】
以上、導電率から算出される母材中へのMnの固溶率について説明したが、式(1)に示すとおり、導電率を電気抵抗値(電気比抵抗値ともいう)に換算してから算出しているので、「電気比抵抗値から算出される母材中へのMnの固溶率」といっても、意味は同じになる。
【0050】
3.アルミニウム合金板材の板厚
アルミニウム合金板材の板厚は0.1mm以上5mm以下とすることができる。板厚がこのような範囲にあれば、熱交換器用のフィン材などとして適用することができる。板厚が小さいほど、板材自体の重量減少および、熱交換器をはじめとして適用される各種製品サイズの縮小に寄与するため、板厚は2mm以下、さらには1mm以下であるのが好ましい。また、板厚が0.1mm以上であれば強度を保つことができるが、必要に応じて0.2mm以上、さらに0.25mm以上とすることもできる。
【0051】
4.アルミニウム合金板材の製造方法
本発明に係るアルミニウム合金板材の製造方法は、以下に述べる圧延素材作製工程、圧延工程および最終焼鈍工程を含み、上記圧延工程の途中で中間焼鈍工程を施すことが好ましい。以下、これらの各工程について説明する。
【0052】
(圧延素材作製工程)
圧延素材作製工程は、アルミニウム合金を溶解、鋳造してアルミニウム合金鋳塊を作製する工程である。圧延素材作製工程では、上述した化学成分を有するアルミニウム合金を溶解した溶湯から、所定形状の鋳塊を作製する。アルミニウム合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。また、圧延素材に熱処理を施す工程(均質化熱処理工程)が含まれていてもよい。
ここで、アルミニウム合金の原料として、純度が99.99質量%以上の高純度アルミニウムを用いることが好ましい。このような高純度アルミニウムを得る方法は特に限定されないが、例えば文献「高純度アルミニウム」(麻草春海他、住友化学技術誌、住友化学工業株式会社、1988年、1988−II、P.69−86)に記載されている、三層電解法および偏析法のいずれかにより得ることが好ましい。このような方法であれば、4N−Al等の高純度アルミニウムを安定して得ることができ、最終的に得られるアルミニウム合金板材を効率的に製造することができる。
また、上述した化学成分を有するアルミニウム合金を準備するにあたり、不可避不純物元素の量が規定値を超えない限りにおいて、マンガン源としてアルミニウム−マンガン母合金を用いたり、マグネシウム源としてアルミニウム−マグネシウム母合金を用いたりすることもできる。
【0053】
(圧延工程)
圧延工程は、前記圧延素材に圧延加工率90%以上の圧延を施す工程である。ここでいう圧延加工率は、圧延素材の厚さ(つまり、圧延前の厚さ)から圧延により得られた最終板材の厚さを差し引いた値(つまり、圧延により減少した厚さ)を、圧延素材の厚さで除した値の百分率であって、次式:
圧延加工率(%)=[(圧延前の厚さ−圧延後の厚さ)/圧延前の厚さ]×100
により算出される。例えば、厚さ10mmの圧延素材を圧延して厚さ1mmの板材とすれば、圧延加工率は90%となる。
【0054】
圧延素材に圧延加工を複数回行って最終板厚とすることが好ましい。圧延加工率を90%以上とすることで、最終焼鈍後の再結晶粒粗大化を抑制でき、成形性悪化の抑制につながる。したがって圧延加工率は90%以上が望ましい。なお、圧延加工率は高いほど好ましいため、上限は特に設けない。また、圧延時の温度については特に指定しない。
【0055】
圧延方法は、冷間圧延、熱間圧延のどちらでもよい。熱間圧延と冷間圧延を組み合わせることもでき、例えば、複数回行われる圧延加工のうち、初期は熱間圧延とし、後半を冷間圧延とするような形態をとることもできる。
【0056】
(中間焼鈍工程)
中間焼鈍工程は、前記圧延工程の途中で500℃以上にて5時間以上保持する工程である。本発明に係るアルミニウム合金板材の製造方法は、圧延工程の途中でこのような中間焼鈍工程を行うことにより、金属間化合物の状態で析出するMn量が多くなり、最終焼鈍後の再結晶粒を微細化することができる。その結果、強度および耐食性に加えて、伝導性により優れ、さらに成形性にも優れたアルミニウム合金板材を得ることができる。中間焼鈍の温度を500℃以上とすることで、最終焼鈍後の再結晶粒を微細化することができる。また、焼鈍時間を5時間以上とすることで、最終焼鈍後の再結晶粒を微細化することができる。したがって中間焼鈍工程は500℃以上にて5時間以上保持することが望ましい。中間焼鈍の温度は、アルミニウム合金が溶融しない温度であればよいが、コスト上の観点から600℃以下とすることが好ましい。中間焼鈍の時間は、長くしても特性上の問題は生じないが、コスト上の観点から20時間程度までで十分である。
【0057】
中間焼鈍工程後の圧延加工率が60%以上であると、最終焼鈍後の再結晶粒粗大化を抑制しやすい。したがって中間焼鈍工程後の圧延加工率は60%以上が好ましく、80%以上であるとより好ましい。ここでいう中間焼鈍工程後の圧延加工率は、中間焼鈍が終わった後、圧延加工を再開するときの板材の厚さからその後の圧延により得られる最終板材の厚さを差し引いた値を、圧延再開時の板材の厚さで除した値の百分率、つまり、中間焼鈍後の圧延加工による厚さの減少割合を意味する。
【0058】
圧延素材から中間焼鈍に入るまでの圧延加工率、すなわち、中間焼鈍に入るまでの圧延による厚さの減少割合は、中間焼鈍を施すことによる効果を有効に発現させる観点から、20%以上、さらには30%以上とするのが好ましい。
【0059】
また、このような中間焼鈍を施すことにより、その後の再圧延工程および最終焼鈍工程を経て得られるアルミニウム合金板材の結晶粒径を、平均で約50μmと小さくすることができる。これにより、耐食性および強度に加え、伝導性により優れ、成形性に優れたアルミニウム合金板材を得ることができる。
【0060】
(最終焼鈍工程)
最終焼鈍工程は、前記圧延工程後に、200℃以上450℃以下の温度で1時間以上10時間以下保持する仕上げ焼鈍を施す工程である。最終焼鈍温度を200℃以上とすることで、十分な組織の回復効果が得られ、強度、伝導性、成形性および耐食性の良好なアルミニウム合金板材が得られる。一方、その温度を450℃以下とすることで、焼鈍時の再結晶粒粗大化を抑制でき、強度、伝導性、成形性および耐食性の良好なアルミニウム合金板材が得られる。したがって焼鈍温度は200℃以上450℃以下が好ましい。また、焼鈍時間を1時間以上とすることで、十分な組織の回復効果が得られ、成形性の良好なアルミニウム合金板材が得られる。焼鈍時間は長くしても特性上の問題は生じないが、コスト上の観点から10時間程度までで充分である。したがって焼鈍時間は1時間以上10時間以下が望ましい。
【0061】
このようにして得られたアルミニウム合金板材は、強度、伝導性および耐食性に優れており、腐食性の高い流体に接する部分の構造体などの種々の用途に用いることができる。本発明に係るアルミニウム合金板材は、とりわけ、熱交換器用フィン材として好適に用いることができる。
【0062】
(フィン材の成形)
本発明に係るアルミニウム合金板材をフィン材とする場合の成形方法を説明する。上述した工程を経て得られるアルミニウム合金板材をプレス成型すれば、熱交換器用フィン材が作製できる。アルミニウム合金板材をプレス成型する前に、アルミニウム合金板材の少なくとも一面を樹脂などでコーティングする工程を備えていてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら制限されるものではない。
【0064】
(実施例1〜11、比較例1〜9)
表1に示す組成(固体発光分光分析による測定)のアルミニウム合金を、溶解、鋳造して鋳塊とした。得られた鋳塊に、430℃にて5時間保持した後580℃にて4時間保持する均質化熱処理を施し、その後に面削を施して、表1の「圧延素材」の欄に示す板厚を有する圧延素材とした。この圧延素材に冷間圧延を施し、板厚0.5mmの冷間圧延板とした。一部の実施例および比較例においては、表1の「中間焼鈍時」の欄に示す板厚で一旦冷間圧延を中断し、得られた中間圧延材に560℃にて11時間保持する中間焼鈍を施した。全ての圧延が終わった後の冷間圧延板に、表1の「最終焼鈍」の欄に示す温度にて7時間保持する最終焼鈍を施して試験用板材とし、評価に供した。不可避不純物元素の合計含有量が0.04質量%以下である実施例1〜11および比較例4〜9のサンプルについてのMg含有量およびMn含有量の関係は、図1に示すとおりである。図1において、黒丸は実施例、X字は比較例をそれぞれ示している。また、黒丸およびX字に付した符号は、実施例および比較例の番号を表している。
【0065】
(耐食性)
上記で作製した合金板材について、耐食性の指標として、浸食速度を次のように測定した。まず、酢酸にてpH3に調整した30℃の3.5質量%NaCl水溶液に72時間浸漬した。試験後、腐食生成物を除去した後の腐食減量を測定し、その値から全面均一腐食を仮定して浸食速度を求めた。以上の評価において、浸食速度が0.1mm/年以下のものは良好(○)、0.1mm/年を超えるものは不良(×)とし、結果を表2にまとめた。
【0066】
(伝導性)
上記で作製した合金板材について、伝導性の指標として、導電率を温度293K(20℃)において測定した。測定結果について、導電率が35%IACS以上のものは良好(○)、35%IACS未満のものは不良(×)とし、結果を表2にまとめた。また、それぞれの導電率から先の式(1)〜(3)に従って、Mgが母材中に全量固溶していると仮定したときのMnの母材中への固溶率(以下、単に「Mn固溶率」と表示する)を算出し、その値も表2に示した。比較例4は、表1に示すとおりMn含有量がゼロで、先の式(3)における分母がゼロになるので、Mn固溶率は算出していない。
【0067】
(強度)
上記で作製した合金板材について、強度の指標として、マイクロビッカース硬度計を用いてビッカース硬度(HV0.05)を測定した。ビッカース硬度は、JIS Z2244:2009「ビッカース硬さ試験−試験方法」に従って測定される値であって、正四角錐のダイヤモンド圧子を試験片の表面に押し込み、その試験力を解除した後、表面に残ったくぼみの対角線長さから算出される。この規格では、試験力によって硬さ記号を変えることが定められており、ここでは、試験力0.05kgf(=0.4903N)のときのマイクロビッカース硬さHV0.05を採用した。測定結果について、ビッカース硬度が25以上のものは良好(○)、25未満のものは不良(×)とし、結果を表2にまとめた。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表2から明らかなように、不可避不純物元素の合計含有量および、Mn含有量とMg含有量との関係が本発明の規定を満たす実施例1〜11のアルミニウム合金板材は、いずれも耐食性、伝導性および強度に優れる素材であった。
【0071】
実施例1および2は、中間焼鈍を行っておらず、かつMn量も0.4質量%と少ないので、Mn固溶率が大きくなっていた。この組成で中間焼鈍を施せば、最終的に得られる板材のMn固溶率が小さくなって、結晶粒も微細化され、成形性や伝導性が向上するものと考えられる。実施例3も中間焼鈍を行っていないが、この例ではMn量が1.5質量%と多くなっているので、Mn固溶率も相応に小さくなっていた。この組成で中間焼鈍を施せば、最終的に得られる板材のMn固溶率が一層小さくなって、結晶粒も微細化され、成形性や伝導性も一層向上するものと考えられる。
【0072】
成形性を評価する指標の一つとして、JIS Z2247:2006「エリクセン試験方法」に従って測定されるエリクセン値がある。圧延加工の途中で中間焼鈍を行った実施例4〜11の板材は、高いエリクセン値を与え、成形性に優れたものとなった。
【0073】
比較例1の合金板材は、伝導性および強度が良好であったが、耐食性が低下した。これは、不可避不純物元素の合計含有量が0.04質量%を超えており、また、Mg含有量がMn含有量の1/16倍未満であったためである。
比較例2の合金板材は、Mn含有量とMg含有量の関係が本発明の規定を満たしていたが、耐食性が低下した。これは、不可避不純物元素の合計含有量が0.04質量%を超えたためである。
比較例3は、Mn含有量とMg含有量の関係が本発明の規定を満たしていたが、耐食性および伝導性が低下した。これは、不可避不純物元素の合計含有量が0.04質量%を超え、さらにMnの固溶率が40%を超えたためである。
比較例4および5の合金板材は、耐食性および伝導性が良好であったが、強度が低下した。これは、MnおよびMgの合計含有量が0.6質量%未満であったためである。
比較例6の合金板材は、耐食性および強度が良好であったが、伝導性が低下した。これは、Mg含有量が過剰であったためである。
比較例7〜9の合金板材はいずれも、伝導性および強度が良好であったが、耐食性が低下した。これは、Mg含有量がMn含有量の1/16倍未満であったためである。
図1
図2