(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792544
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】通信装置および通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 40/12 20090101AFI20201116BHJP
H04W 28/04 20090101ALI20201116BHJP
H04W 40/34 20090101ALI20201116BHJP
H04W 88/14 20090101ALI20201116BHJP
【FI】
H04W40/12 110
H04W28/04 110
H04W40/34
H04W88/14
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-241102(P2017-241102)
(22)【出願日】2017年12月15日
(65)【公開番号】特開2019-110404(P2019-110404A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年12月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省、IoT機器増大に対応した有無線最適制御型電波有効利用基盤技術の研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 大介
(72)【発明者】
【氏名】中山 悠
(72)【発明者】
【氏名】宮本 健司
(72)【発明者】
【氏名】久保 尊広
【審査官】
町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−014162(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0164397(US,A1)
【文献】
特開2002−185501(JP,A)
【文献】
特開2017−069958(JP,A)
【文献】
米国特許第09560531(US,B1)
【文献】
特開平06−209325(JP,A)
【文献】
Yu Nakayama et al.,Novel Rank-Based Low-Latency Scheduling for Maximum Fronthaul Accommodation in Bridged Network,2017 Optical Fiber Communication Conference and Exhibition,2017年 6月 1日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時分割複信方式を採用する無線基地局の光張り出し局と前記光張り出し局を集約する集約局との間を複数の通信装置を介して接続し、複数の前記光張り出し局のフローを前記集約局へ転送する通信ネットワークにおける前記通信装置であって、
前記光張り出し局または前記集約局から送信された複数のフロー、または、前記通信ネットワークの転送経路において転送する方路の逆側に接続される他の通信装置から送信された複数のフローを受信する受信部と、
前記受信部によって受信されたフローを、前記転送経路において転送する方路に接続される他の前記通信装置へ、前記フローごとの優先順位に従って出力する出力部と、
データ信号と、肯定応答信号または否定応答信号と、を分離する分離部と、
前記受信部から前記出力部に至るまでの前記転送経路の設計を行い、前記フローごとの前記優先順位を、前記無線基地局が送受する前記時分割複信方式の信号に対して許容される遅延時間であって、前記データ信号と前記肯定応答信号または前記否定応答信号との分離に応じて延伸される時間を示す延伸時間を含む前記遅延時間の最小値、最大値および平均値のうち少なくとも1つを含む統計情報に基づいて決定し、前記フローすべてのエンドツーエンド遅延が、前記時分割複信方式の信号に対して許容される前記遅延時間を超えないように設定する制御部と、
を備える通信装置。
【請求項2】
前記制御部は、複数の前記フローに対して新規フローの追加要求があった場合、前記新規フローの無線フレームごとに許容される遅延時間の最小値、最大値および平均値のうち少なくとも1つを含む統計情報に基づいて、該当する前記優先順位の近傍を探索して挿入し、下位の前記優先順位に該当する前記フローの順位を繰り下げる
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記制御部は、複数の前記フローに対して特定のフローの削除要求があった場合、該当する前記優先順位から前記フローの情報を削除し、下位の前記優先順位に登録されている他の前記フローの前記優先順位を繰り上げる
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記優先順位ごとのキュー
を備え、
前記キューは、自キューより前記優先順位が上位の他のキューによってキューイングされている合計のデータ量が所定のデータ量を超えている場合には、前記自キューのデータを廃棄する
請求項1に記載の通信装置。
【請求項5】
前記延伸時間は、前記データ信号に対応する前記肯定応答信号または前記否定応答信号が発行されてから、前記肯定応答信号または前記否定応答信号の送信可能タイミングになるまでの待機時間の長さに相当する時間である
請求項1に記載の通信装置。
【請求項6】
前記優先順位ごとのキュー
を備え、
前記出力部は、前記優先順位に従って前記キューに格納された前記フローを出力する
請求項1に記載の通信装置。
【請求項7】
時分割複信方式を採用する無線基地局の光張り出し局と前記光張り出し局を集約する集約局との間を複数の通信装置を介して接続し、複数の前記光張り出し局のフローを前記集約局へ転送する通信ネットワークにおける前記通信装置のコンピュータが行う通信方法であって、
前記光張り出し局または前記集約局から送信された複数のフロー、または、前記通信ネットワークの転送経路において転送する方路の逆側に接続される他の通信装置から送信された複数のフローを受信する受信ステップと、
前記受信ステップによって受信されたフローを、前記転送経路において転送する方路に接続される他の前記通信装置へ、前記フローごとの優先順位に従って出力する出力ステップと、
データ信号と、肯定応答信号または否定応答信号と、を分離する分離ステップと、
前記受信ステップから前記出力ステップに至るまでの前記転送経路の設計を行い、前記フローごとの前記優先順位を、前記無線基地局が送受する前記時分割複信方式の信号に対して許容される遅延時間であって、前記データ信号と前記肯定応答信号または前記否定応答信号との分離によって延伸された時間を示す延伸時間を含む前記遅延時間の最小値、最大値および平均値のうち少なくとも1つを含む統計情報に基づいて決定し、前記フローすべてのエンドツーエンド遅延が、前記時分割複信方式の信号に対して許容される前記遅延時間を超えないように設定する制御ステップと、
を有する通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置および通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクセス網において、データトラヒックの転送処理を行うパケット転送装置(以下、「転送装置」という)は、複数のサービスのデータトラヒックの集線を行う。転送装置は、複数のサービスのデータトラヒックを多重し、エッジルータを通じてコア網へ転送する。コア網とは、電気通信事業者間を接続する大容量の基幹通信網である。転送装置は、レイヤー2フレームに記載された優先度を識別し、ユーザ識別子を用いて送信元ユーザを識別する。
【0003】
集線するデータトラヒックの新たなサービスとして、モバイルデータトラヒックがある。また、無線アクセス網の構成の1つとして、多数の光張り出し局(DU:Distributed Unit)を高密度に配置し、無線制御装置(CU:Central Unit)によって無線信号を集約して信号処理を行う、集中制御型無線アクセス網(C−RAN:Centralized Radio Access Network)がある。CU−DU間は、モバイルフロントホール(MFH:Mobile Fronthaul)と呼ばれる光アクセス網によって通信接続される。このMFHを、
図9に示すような転送装置(レイヤー2スイッチ)によって低コストに構成する案が、標準化団体IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.1CMにおいて議論されている。
【0004】
MFHのデータトラヒックにおいて、CU−DU間のデータ転送に要する遅延(以下、「e2e(エンドツーエンド)遅延」という)の要求条件が厳しい。例えば、3GPP(Third Generation Partnership Project) TR 38.801のOption 6では、e2e遅延の最悪値(以下、「最悪e2e遅延」という)が250マイクロ秒(μs)と規定されている。なお、最悪e2e遅延は、Optionごとに異なる値である。
【0005】
最悪e2e遅延が250μsと規定されている理由は、無線端末(UE:User Equipment)とCUとの間で行われるハイブリッドARQ(Automatic repeat request)が高速で行われることに起因している。具体的には、ハイブリッドARQの制御信号である、肯定応答(ACK:Acknowledgement)信号および否定応答(NAK:Negative-acknowledgement)信号の低遅延転送のために設けられた250μs遅延要求時間内に主信号の転送が行われる必要があることに起因している。
【0006】
e2e遅延の構成要素である遅延には、レイヤー2スイッチ内の転送処理により発生する処理遅延、レイヤー2スイッチ間の物理的な伝送にかかる時間である伝搬遅延、および、パケット間で発生する競合遅延がある。なお、ここでいう競合遅延とは、同一の優先度を持つフローの間で発生するキューイング遅延である。例えば、優先度が同一である2つのパケットが同時にレイヤー2スイッチに到来し、これらの2つのパケットが同一ポートから出力される場合、一方のパケットの転送が完了するまで、もう一方のパケットは転送が行われずに待機状態となる。この場合の遅延を競合遅延という。
【0007】
また、第5世代モバイル通信システム(以下「5G」という)では、時分割複信(TDD:Time Division Duplex)方式が採用される見込みである。この場合、高密度に配置されたDUどうしで時刻の同期が図られ、同一タイミングで光アクセス網へデータトラヒックが流入する。これにより、競合遅延の発生確率が上昇する。
【0008】
レイヤー2スイッチによるMFHの構成については、リングプロトコルを用いたリングトポロジの他に、SPB(Shortest Path Bridging:最短経路ブリッジング)やIEEE 802.1Qca等、IS−IS(Intermediate System to Intermediate System)を利用し、ノード間で経路情報を交換して転送経路を決定することで柔軟なネットワーク構成を実現する手法が考えられる。特に、IEEE 802.1Qcaを用いた場合、利用する経路設計アルゴリズムに応じて、単純な最短経路以外の転送経路を設定して利用することが可能である。
【0009】
従来、各フローのe2e遅延に基づいて優先順位を定め、全フローのうち最大となるe2e遅延の値を最小化するように経路設計を行う経路設計アルゴリズムが非特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yu Nakayama, Daisuke Hisano, Takahiro Kubo, Tatsuya Shimizu, Hirotaka Nakamura, Jun Terada, and Akihiro Otaka, "Novel Rank-Based Low-Latency Scheduling for Maximum Fronthaul Accommodation in Bridged Network", Optical Fiber Communication Conference 2017, 19-23 March 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1の経路設計アルゴリズムを用いることで、集線可能なDU数は増加する。しかしながら、非特許文献1の経路設計アルゴリズムでは、収容可能なDU数は最悪遅延時間によって律速されており、統計多重効果が見込まれていない。そのため、より多くのDUを集線し光アクセス網の低コスト化を図るために、統計多重効果を見込むことによって収容可能なDU数の更なる増加を図る手法の確立が求められている。
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は、集線可能な光張り出し局を増加させることができる通信装置および通信方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、時分割複信方式を採用する無線基地局の光張り出し局と前記光張り出し局を集約する集約局との間を複数の通信装置を介して接続し、複数の前記光張り出し局のフローを前記集約局へ転送する通信ネットワークにおける前記通信装置であって、前記光張り出し局または前記集約局から送信された複数のフロー、または、前記通信ネットワークの転送経路において転送する方路の逆側に接続される他の通信装置から送信された複数のフローを受信する受信部と、前記受信部によって受信されたフローを、前記転送経路において転送する方路に接続される他の前記通信装置へ、前記フローごとの優先順位に従って出力する出力部と、データ信号と、肯定応答信号または否定応答信号と、を分離する分離部と、前記受信部から前記出力部に至るまでの前記転送経路の設計を行い、前記フローごとの前記優先順位を、前記無線基地局が送受する前記時分割複信方式の信号に対して許容される遅延時間の最小値、最大値および平均値のうち少なくとも1つを含む統計情報に基づいて決定し、前記フローすべてのエンドツーエンド遅延が、前記時分割複信方式の信号に対して許容される前記遅延時間を超えないように設定する制御部と、を備える通信装置である。
【0014】
また、本発明の一態様は、上述の通信装置であって、前記制御部は、複数の前記フローに対して新規フローの追加要求があった場合、前記新規フローの無線フレームごとに許容される遅延時間の最小値、最大値および平均値のうち少なくとも1つを含む統計情報に基づいて、該当する前記優先順位の近傍を探索して挿入し、下位の前記優先順位に該当する前記フローの順位を繰り下げる。
【0015】
また、本発明の一態様は、上述の通信装置であって、前記制御部は、複数の前記フローに対して特定のフローの削除要求があった場合、該当する前記優先順位から前記フローの情報を削除し、下位の前記優先順位に登録されている他の前記フローの前記優先順位を繰り上げる。
【0016】
また、本発明の一態様は、上述の通信装置であって、前記優先順位ごとのキューを備え、前記キューは、自キューより前記優先順位が上位の他のキューによってキューイングされている合計のデータ量が所定のデータ量を超えている場合には、前記自キューのデータを廃棄する。
【0017】
また、本発明の一態様は、時分割複信方式を採用する無線基地局の光張り出し局と前記光張り出し局を集約する集約局との間を複数の通信装置を介して接続し、複数の前記光張り出し局のフローを前記集約局へ転送する通信ネットワークにおける前記通信装置のコンピュータが行う通信方法であって、前記光張り出し局または前記集約局から送信された複数のフロー、または、前記通信ネットワークの転送経路において転送する方路の逆側に接続される他の通信装置から送信された複数のフローを受信する受信ステップと、前記受信ステップによって受信されたフローを、前記転送経路において転送する方路に接続される他の前記通信装置へ、前記フローごとの優先順位に従って出力する出力ステップと、データ信号と、肯定応答信号または否定応答信号と、を分離する分離ステップと、前記受信ステップから前記出力ステップに至るまでの前記転送経路の設計を行い、前記フローごとの前記優先順位を、前記無線基地局が送受する前記時分割複信方式の信号に対して許容される遅延時間の最小値、最大値および平均値のうち少なくとも1つを含む統計情報に基づいて決定し、前記フローすべてのエンドツーエンド遅延が、前記時分割複信方式の信号に対して許容される前記遅延時間を超えないように設定する制御ステップと、を有する通信方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、集線可能な光張り出し局を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】下りリンクにおける送信手順を示す図である。
【
図3】3GPPで定められている7種類のTDD方式の上下リンク比を示す図である。
【
図4】ACK信号およびNAK信号の返信タイミングの一覧を示す図である。
【
図5】上りリンクのデータ送信手順を示すタイムチャートである。
【
図6】データ信号の送信タイミングとACK信号およびNAK信号の送信タイミングとを示す図である。
【
図7】データ信号とACK信号およびNAK信号とを分離する分離部を備えた場合のレイヤー2スイッチの構成例を示す。
【
図9】レイヤー2スイッチを用いた従来の光アクセス網の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0021】
図1に、従来のレイヤー2スイッチの構成例を示す。
図1に示すように、レイヤー2スイッチ1は、パケットを受信するm個の受信部11(11−1、11−2、・・・、11−m)と、優先順位別に格納可能なm個のキュー12(12−1、12−2、・・・、12−m)と、優先順位がより上位のキュー12から順にパケットを次段のレイヤー2スイッチへ転送するm個の出力部13(13−1、13−2、・・・、13−m)と、を有する。
【0022】
また、
図1に示すように、レイヤー2スイッチ1は、優先順位の計算や管理を行う制御部14を有する。なお、制御部14は、
図1に示すようにレイヤー2スイッチ1内に備えられる構成にすることが可能であるが、この構成に限られるものではない。例えば、全てのレイヤー2スイッチを一括して管理するノードが配備され、制御部14はそのノードに備えられるような構成であってもよい。
【0023】
従来手法においては、制御部14において、優先順位が決定され、各フローの遅延時間が見積もられる。そして、見積もられた各フローの遅延時間の中で最も大きい遅延時間が要求条件以下になるように、転送経路の経路設計が行われる。
5Gにおける無線基地局にはTDD方式が採用されることから、本発明では、TDD方式による通信の構成を利用して、優先順位の決定が行われる。以下に前提条件を説明する。
【0024】
MFHにおける遅延に関する要求条件は、ハイブリッドARQによって律速される。
図2に下りリンクにおける送信手順を示す。
上りリンクにおいてUEから上りデータ信号が送信されたとき、CUは、3サブフレーム分の処理時間の間に、上りデータ信号の受信に成功したか失敗したかについての判定を行う。CUは、受信に成功したと判定した場合にはACK信号をUEへ送り返す。また、CUは、受信に失敗したと判定した場合にはNAK信号をUEへ送り返す。
【0025】
UEは、上りデータ信号を送信してから4サブフレーム以内に、ACK信号またはNAK信号を受信しなければならない。ここで、サブフレームとは、無線フレームを構成する要素を表す。1つの無線フレームは10個のサブフレームによって構成される。例えば、無線フレーム長が10μsである場合、1サブフレームは1μsである。
【0026】
なお、下りリンクのデータ送信手順についても、上りリンクのデータ送信手順と同様である。なお、ACK信号またはNAK信号を受信してから再送するまでの時間は標準化されていないため、実装方法に依存している。
【0027】
上記のデータ送信手順は、周波数分割複信(FDD:Frequency division duplex)方式の場合におけるデータ送信手順である。以下に、TDD方式の場合におけるデータ送信手順について説明する。
図3は、3GPPで定められている7種類のTDD方式の上下リンク比を示す図である。
【0028】
図3において、「D」は下りリンクの信号、「U」は上りリンクの信号を表す。また、
図3において、「S」は上りリンクと下りリンクの両方の信号とガードインターバルを含むことを表す。
例えば、No.1の項番3のサブフレームが上りデータ信号であることが
図3に示されている。
【0029】
上りリンクのデータ送信手順に関して、基本動作はFDD方式と同様であるが、ACK信号およびNAK信号の返信タイミングは、全てのタイミングにおいて4サブフレーム後であるというわけではない。なぜならば、TDD方式では、上下リンクを時間的に切り替えるため、4サブフレーム後が必ずしも送信可能なサブフレームとは限らないからである。
【0030】
ACK信号およびNAK信号の返信タイミングの一覧を
図4に示す。例えば、この一覧において、No.1の項番3のサブフレームでCUが上りデータ信号を受信した場合には、CUは、ACK信号またはNAK信号を6サブフレーム以内に送り返せば良いということが表されている。
図4に示すように、ACK信号およびNAK信号の返信タイミングは4サブフレーム以上の値となる。
【0031】
図5は、上りリンクのデータ送信手順をタイムチャートで示したものである。
図5に示す「CU内処理時間」は、ACK信号およびNAK信号の発行に要する時間である。その後、送信可能タイミングになるまでの間は待機時間となる。
【0032】
上述した前提条件を鑑みると、データ信号とACK信号およびNAK信号との分離が可能であることがわかる。
図6に、本発明による無線基地局におけるデータ信号の送信タイミングとACK信号およびNAK信号の送信タイミングとを示す。
【0033】
図6に示すように、無線基地局において、まずCUは、ACK信号と下り信号とをEUへ向けて送信する。この下り信号に対するACK信号またはNAK信号は、4サブフレーム分の処理時間以内に返信される必要がある。UEは、項番4のサブフレームにてACK信号またはNAK信号(
図6においてはACK信号)と上り信号とをCUへ向けて送信する。このとき、ACK信号またはNAK信号は、要求条件を超える遅延をすることなく転送される。なお、ここで上り信号は、4サブフレーム分の処理時間以内に送信される必要はない。なぜならば、この上り信号に対するACK信号またはNAK信号は、6サブフレーム以内に送信されればよいためである。
【0034】
このため、上り信号をレイヤー2スイッチによってバッファし、遅延を与えたとしても、さらに2μs分の遅延だけ転送に猶予が与えられる。
図7に、データ信号とACK信号およびNAK信号とを分離する分離部15を備えたレイヤー2スイッチ2(通信装置)の構成例を示す。
【0035】
図7に示すレイヤー2スイッチ2(通信装置)は、TDD方式(時分割複信方式)を採用する無線基地局のDU(光張り出し局)と、DUを集約するCU(集約局)と、の間を複数のレイヤー2スイッチ2を介して接続し、複数のDUのフローをCUへ転送するMFH(通信ネットワーク)における転送装置である。
【0036】
受信部11(11−1、11−2、・・・11−m)は、DUまたはCUから送信された複数のフロー、または、MFHの転送経路において転送する方路の逆側に接続される他のレイヤー2スイッチから送信された複数のフローを受信する。
【0037】
出力部13(11−1、11−2、・・・11−m)は、受信部11によって受信されたフローを、転送経路において転送する方路に接続される他のレイヤー2スイッチへ、フローごとの優先順位に従って出力する。
【0038】
制御部14は、受信部11から出力部13に至るまでの転送経路の設計を行い、フローごとの優先順位を、無線基地局が送受するTDD方式の信号に対して許容される遅延時間の最小値、最大値および平均値のうち少なくとも1つを含む統計情報に基づいて決定し、フローすべてのe2e遅延が、TDD方式の信号に対して許容される遅延時間を超えないように設定する。
【0039】
分離部15は、データ信号と、ACK信号(肯定応答信号)またはNAK信号(否定応答信号)と、を分離する。
【0040】
なお、分離部15は、
図7に示すようにレイヤー2スイッチ2内に備えられるように構成されることが可能であるが、この構成に限られるものではない。例えば、分離部15は、DU、あるいは、一部のレイヤー2スイッチ2のみに実装されるように構成されてもよい。
【0041】
データ信号とACK信号およびNAK信号との分離は、簡易な手法としては、例えば、VLAN(Virtual Local Area Network)を分けること等によって実現することができる。
【0042】
なお、非特許文献1における優先順位の決定においては、経路を設定した際の各フローのe2e遅延(エンドツーエンド遅延)の中で最大となるe2e遅延の値を最小化するようにし、全フローのe2e遅延が最悪e2e遅延を超えないように決定されていた。一方、本発明においては、上り信号の転送に関して、許容遅延をより緩慢に設定することが可能である。
図4に示したように、4+kサブフレーム後にACK信号またはNAK信号を返信する場合には、kサブフレーム分の処理時間だけ追加の許容時間が与えられるため、本発明は、この追加の許容時間を考慮する。
【0043】
図8に、経路設計処理を示すフローチャートを示す。
図8に示す経路設計処理は、ブリッジネットワークにおける経路設計を行う経路設計コントローラ(図示せず)に実装される。経路設計コントローラは、レイヤー2スイッチ2の内部または外部に拘らず実装することが可能である。また、経路設計コントローラは、全レイヤー2スイッチ2の制御部14に備えられるような構成であってもよい。その場合には、全てのレイヤー2スイッチ2において同様の結果が得られることになる。
【0044】
初めに、経路設計コントローラは、収容フローを参照し(
図8、ステップS01)、各フローのTDD方式の上下リンク比もしくは7種類のうち、どの上下リンク比に対応しているかを示す情報を取得する(
図8、ステップS02)。この情報に基づいて、経路設計コントローラは、e2e遅延をフローごとに計算する(
図8、ステップS03)。経路設計コントローラは、計算結果をフローID(Identifier:識別子)とともにメモリに保存する(
図8、ステップS04)。
【0045】
なお、従来方式においては、最悪e2e遅延は、3GPP TR 38.801等において機能分割点によって規定されていた。例えば、3GPP TR 38.801のOption6においては、e2e遅延は250μsと規定されている。一方、本発明においては、最悪e2e遅延の値は、サブフレーム内の最大値、最小値および平均値等の統計情報に基づいて決定される。
【0046】
全フローの参照が完了した場合(
図8、ステップS05、YES)、経路設計コントローラは、次の動作へ移行する。参照が完了していないフローが存在する場合(
図8、ステップS05、NO)、経路設計コントローラは、まだ参照が完了していない収容フローを参照する(
図8、ステップS01)。
【0047】
全フローの参照が完了した場合(
図8、ステップS05、YES)、経路設計コントローラは、各フローの最悪e2e遅延に基づいて優先順位を決定する(
図8、ステップS06)。経路設計コントローラは、優先順位を決定した後、経路設計を行う(
図8、ステップS07)。なお、経路設計の設定方法については、従来から種々のアルゴリズム(例えば、線形計画法、モンテカルロ法等)が考案されているが、何れの方法でもよい。
【0048】
経路設計コントローラは、設計した経路に関して、各フローのe2e遅延を見積もる。見積もりは、処理遅延や伝搬遅延等を加算した合計値と、競合遅延(=優先順位×パケットのバースト長/伝送速度)と、を更に加算することによって行われる。これにより見積もられた各フローのe2e遅延が、各フローの最悪e2e遅延を超えないように全てのフローに関して経路が設計されていた場合(
図8、ステップS08、YES)、本フローチャートに示す処理が終了する。見積もられた各フローのe2e遅延が、各フローの最悪e2e遅延を超えている場合(
図8、ステップS08、NO)、経路設計コントローラは経路設計をやり直す。
【0049】
<第2の実施形態>
第2の実施形態によるレイヤー2スイッチの構成は、上述した第1の実施形態によるレイヤー2スイッチ2の構成に加えて、運用中にフローが追加された場合に、それを反映する構成である。具体的には、制御部は、優先順位を管理し、複数のフローに対して新規フローの追加要求があった場合、新規フローの無線フレームごとに許容される遅延時間の最小値、最大値および平均値のうち少なくとも1つを含む統計情報に基づいて、該当する優先順位の近傍を探索して挿入し、下位の優先順位に該当するフローの順位を繰り下げる。
【0050】
このとき、運用中の経路において空いている経路が存在し、フローを挿入したとしても他のフローに影響を与えず集線可能である場合には、そのままフローを追加する。運用中の経路で空いている経路が存在しない場合には、
図8にフローチャートを示した経路設計処理を再度実行し、追加のフローが挿入可能なパスを全フローに設定し直すような構成にする。
【0051】
<第3の実施形態>
第3の実施形態によるレイヤー2スイッチの構成は、上述した第1の実施形態によるレイヤー2スイッチ2の構成に加えて、運用中にフローが削除された場合、それを反映する構成である。具体的には、制御部は、優先順位を管理し、複数のフローに対して特定のフローの削除要求があった場合、該当する優先順位からフローの情報を削除し、下位の優先順位に登録されている他のフローの優先順位を繰り上げる。
【0052】
このとき、フローの削除が、パケットが転送されないだけであり、他のフローには影響を与えないがフローの削除を制御部が認識していないような場合には、追加のフローを挿入できなくなる可能性がある。そのため、一定数のフローが削除された場合には、優先順位の再計算を実行し、経路設計をやり直すような構成とすることが好ましい。
【0053】
<第4の実施形態>
対象フローのパケットがキューに格納されたときに、自キューより優先順位が上位のキューが輻輳状態にある場合には、明らかに最悪e2e遅延内に転送を行うことができないようなケースが存在する。第4の実施形態によるレイヤー2スイッチの構成は、上述した第1の実施形態によるレイヤー2スイッチ2の構成に加えて、自キューよりも優先順位が上位のキューの滞留パケット数をカウントして、上位の他のキューによってキューイングされている合計のデータ量が所定のデータ量を超えて輻輳している場合には、自キューに格納されたパケットの転送を廃棄する構成である。これにより、余分にネットワーク上にパケットが滞留されることが防止される。
【0054】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態から第4の実施形態によるレイヤー2スイッチ(通信装置)は、主信号(データ信号)と制御信号(ACK信号およびNAK信号)とを識別し分離して転送し、サブフレーム内のACK信号およびNAK信号の返信タイミングを考慮した統計情報を加味したe2e遅延を計算して、経路設計を行う。
【0055】
従来、経路設計を工夫したとしても、最悪e2e遅延に律速されることにより、収容可能なDU数が制限されていた。本発明によれば、データ信号とACK信号およびNAK信号とが分離されて転送されることにより、データ信号の最悪e2e遅延が延伸される。最悪e2e遅延が延伸されることにより、レイヤー2スイッチ内でバッファすることができる時間に猶予が生まれることになる。本発明によれば、経路設計処理において、上記延伸された遅延時間が加味されるため、収容DU数を増大させることが可能になる。
【0056】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1…レイヤー2スイッチ、2…レイヤー2スイッチ、11…受信部、12…キュー、13…出力部、14…制御部、15…分離部