(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる被着体(以下、被着体フィルムと称す)に対して熱接着するために、接着性フィルムとして用いられる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法であって、
被着体フィルムおよび接着性フィルムとして、それぞれ熱可塑性液晶ポリマーフィルムを準備し、前記被着体フィルムおよび接着性フィルムの被接着表面部について、X線光電子分光分析により、C(1s)に起因する結合ピークのピーク面積の合計に占める、前記被着体フィルムの[C−O結合]および[COO結合]のピーク面積の和の%比率:X(%)および前記接着性フィルムの[C−O結合]および[COO結合]のピーク面積の和の%比率:Y(%)をそれぞれ把握する把握工程と、
前記XおよびYが以下の式(1)かつ(2)を満たすように、接着性フィルムとしての熱可塑性液晶ポリマーフィルムを選択または活性化処理する調整工程と、
38≦X+Y≦65 (1)
−8.0≦Y−X≦8.0 (2)
で構成された、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
請求項1のフィルムの製造方法であって、調整工程において、熱可塑性液晶ポリマー接着性フィルムに対して、紫外線照射、プラズマ照射、及びコロナ処理からなる群から選択された少なくとも一種の活性化処理が行われるフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法]
本発明の第1の構成は、以下の点を見出したことに基づいている。すなわち
(i)熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、剛直なメソゲン基を有するため、表面に形成されるスキン層によってその熱接着性が抑制されるため、接着性を向上させるためにはスキン層を破壊することが重要であると従来認識されていたが、(ii)実は、接着性フィルムと被着体フィルムとが、X線光電子分光分析によるC(1s)のピーク面積に占める[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率に関して特定の関係を有することが重要であり、驚くべきことに、このような特定の関係を有する被着体フィルムと接着性フィルムとの間では、スキン層の破壊の有無にかかわらず、層間接着性を大きく向上させることが可能であることが見出された。
【0031】
本発明の第1の構成は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる被着体(以下、被着体フィルムと称する場合がある)に対して熱接着するために、接着性フィルムとして用いられる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法であり、この製造方法は、
被着体フィルムおよび接着性フィルムとして、それぞれ熱可塑性液晶ポリマーフィルムを準備し、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの被接着表面部について、X線光電子分光分析により、C(1s)に起因する結合ピークのピーク面積の合計に占める、[C−O結合]および[COO結合]のピーク面積の和の%比率:X(%)およびY(%)を把握する把握工程と、
前記XおよびYが以下の式(1)かつ(2)を満たすように、接着性フィルムとしての熱可塑性液晶ポリマーフィルムを選択または活性化処理する調整工程と、
38≦X+Y≦65 (1)
−8.0≦Y−X≦8.0 (2)
を少なくとも備えている。
【0032】
(熱可塑性液晶ポリマーフィルム)
被着体および接着性フィルムとして用いられる熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、溶融成形できる液晶性ポリマーから形成され、この熱可塑性液晶ポリマーは、溶融成形できる液晶性ポリマーであれば特にその化学的構成については特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入された熱可塑性液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。
【0033】
また熱可塑性液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0034】
本発明に用いられる熱可塑性液晶ポリマーの具体例としては、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知の熱可塑性液晶ポリエステルおよび熱可塑性液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。ただし、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを形成するためには、種々の原料化合物の組合せには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0035】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は表1参照)
【0037】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【0039】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【0041】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【0043】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として表5および6に示す構造単位を有する共重合体を挙げることができる。
【0046】
これらの共重合体のうち、p―ヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を少なくとも繰り返し単位として含む重合体が好ましく、特に、(i)p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸との繰り返し単位を含む重合体、(ii)p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびヒドロキノンからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオールと、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸との繰り返し単位を含む重合体が好ましい。
【0047】
例えば、(i)の重合体では、熱可塑性液晶ポリマーが、少なくともp−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸との繰り返し単位を含む場合、繰り返し単位(A)のp−ヒドロキシ安息香酸と、繰り返し単位(B)の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸とのモル比(A)/(B)は、液晶ポリマー中、(A)/(B)=10/90〜90/10程度であるのが望ましく、より好ましくは、(A)/(B)=50/50〜85/15程度であってもよく、さらに好ましくは、(A)/(B)=60/40〜80/20程度であってもよい。
【0048】
また、(ii)の重合体の場合、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸(C)と、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびヒドロキノンからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオール(D)と、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸(E)の、液晶ポリマーにおける各繰り返し単位のモル比は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(C):前記芳香族ジオール(D):前記芳香族ジカルボン酸(E)=30〜80:35〜10:35〜10程度であってもよく、より好ましくは、(C):(D):(E)=35〜75:32.5〜12.5:32.5〜12.5程度であってもよく、さらに好ましくは、(C):(D):(E)=40〜70:30〜15:30〜15程度であってもよい。
【0049】
また、芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位と芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位とのモル比は、(D)/(E)=95/100〜100/95であることが好ましい。この範囲をはずれると、重合度が上がらず機械強度が低下する傾向がある。
【0050】
なお、本発明にいう溶融時における光学的異方性とは、例えば試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0051】
熱可塑性液晶ポリマーとして好ましいものは、融点(以下、Tm
0と称す)が260〜360℃の範囲のものであり、さらに好ましくはTm
0が270〜350℃のものである。なお、融点は示差走査熱量計((株)島津製作所DSC)により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0052】
前記熱可塑性液晶ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマー、各種添加剤を添加してもよい。また、必要に応じて充填剤を添加してもよい。
【0053】
本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して得られる。熱可塑性液晶ポリマーの剛直な棒状分子の方向を制御できる限り、任意の押出成形法が適用できるが、周知のTダイ法、ラミネート体延伸法、インフレーション法などが工業的に有利である。特にインフレーション法やラミネート体延伸法では、フィルムの機械軸方向(または機械加工方向:以下、MD方向と略す)だけでなく、これと直交する方向(以下、TD方向と略す)にも応力が加えられ、MD方向とTD方向における分子配向性、誘電特性を制御したフィルムが得られる。
【0054】
また、熱可塑性液晶ポリマーフィルムには、押出成形した後に、必要に応じて延伸を行ってもよい。延伸方法自体は公知であり、二軸延伸、一軸延伸のいずれを採用してもよいが、分子配向度を制御することがより容易であることから、二軸延伸が好ましい。また、延伸は、公知の一軸延伸機、同時二軸延伸機、逐次二軸延伸機などが使用できる。
【0055】
また、必要に応じて、公知または慣用の熱処理を行い、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点および/または熱膨張係数を調整してもよい。熱処理条件は目的に応じて適宜設定でき、例えば、液晶ポリマーの融点(Tm
0)−10℃以上(例えば、Tm
0−10〜Tm
0+30℃程度、好ましくはTm
0〜Tm
0+20℃程度)で数時間加熱することにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)を上昇させてもよい。
【0056】
このようにして得られた本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、優れた誘電特性、ガスバリア性、低吸湿性などを有しているため、回路基板材料として好適に用いることができる。
【0057】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)は、フィルムの所望の耐熱性および加工性を得る目的において、200〜400℃程度の範囲内で選択することができ、好ましくは250〜360℃程度、より好ましくは260〜340℃程度であってもよい。なお、フィルムの融点は、示差走査熱量計を用いて、フィルムの熱挙動を観察して得ることができる。すなわち供試フィルムを20℃/分の速度で昇温して完全に溶融させた後、溶融物を50℃/分の速度で50℃まで急冷し、再び20℃/分の速度で昇温した後に現れる吸熱ピークの位置を、フィルムの融点として記録すればよい。
【0058】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、等方性の指標である分子配向度SORが、例えば0.8〜1.4であってもよく、好ましくは0.9〜1.3、より好ましくは1.0〜1.2、特に好ましくは1.0〜1.1であってもよい。
【0059】
ここで、分子配向度SOR(Segment Orientation Ratio)とは、分子を構成するセグメントについての分子配向の度合いを与える指標をいい、従来のMOR(Molecular Orientation Ratio)とは異なり、物体の厚さを考慮した値である。
【0060】
本発明において使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、任意の厚みであってもよい。ただし、高周波伝送線路に使用する場合は、厚みが厚いほど伝送損失が小さくなるので、できるだけ厚みを厚くするのが好ましい。電気絶縁層として熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いる場合、そのフィルムの膜厚は、10〜500μmの範囲内にあることが好ましく、15〜200μmの範囲内がより好ましい。フィルムの厚さが薄過ぎる場合には、フィルムの剛性や強度が小さくなることから、フィルム膜厚10〜200μmの範囲のフィルムを積層させて任意の厚みを得る方法を使用してもよい。
【0061】
(把握工程)
把握工程では、被着体フィルムおよび接着性フィルムとして用いられる熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、それぞれX線光電子分光分析が行われる。
【0062】
X線光電子分光分析(XPS分析)では、対象物質に対し、X線を照射することにより、物質表面の原子について、その原子軌道の電子が励起され、光電子として外部へと放出される。この光電子の運動エネルギーを検出することによって、物質表面に存在する元素の種類とその酸化状態を知ることができる。
【0063】
C(1s)として表記されるCの1s軌道のエネルギーピーク位置C(1s)は、炭素原子の結合状態を把握するために用いることが可能であり、各結合状態のピーク位置としては、例えば、後述する実施例に記載された方法で測定した場合、[C−C結合]:284.8eV、[C−O結合]:286.6eV、[C=O結合]:287.6eV、[COO結合]:288.6eV、[CO
3結合]:290〜291eV、[π−π*サテライトピーク]:291.9eVなどの各結合ピークに分離することができる。
【0064】
例えば、第1の把握工程として、被着体フィルムとして用いられる熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、X線光電子分光分析が行われてもよい。
第1の把握工程では、被着体フィルムの被接着表面部について、X線光電子分光分析により、C(1s)の各結合ピークのピーク面積(各結合ピークとベースラインとの間の面積)の合計に占める、[C−O結合]および[COO結合]のピーク面積の和の%比率であるX(%)を把握する。すなわち、把握工程では、被着体の被接着表面部をX線光電子分光法により分析し、C(1s)の各結合ピークについて合計したピーク面積における、[C−O]結合ピーク面積と[COO]結合ピーク面積の和が占める割合(%比率)を、被着体フィルムに関する第1の相対強度X(%)として求める。
【0065】
また、第2の把握工程として、接着性フィルムとして用いられる熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、X線光電子分光分析が行われてもよい。
第2の把握工程では、接着性フィルムとして、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを準備し、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの被接着表面部について、X線光電子分光分析により、C(1s)に起因する結合ピークのピーク面積の合計に占める、[C−O結合]および[COO結合]のピーク面積の和の%比率:Y(%)が把握される。
前記接着性フィルムの製造方法では、第1の把握工程と第2の把握工程との順序は特に限定されず、第1の把握工程を第2の把握工程の前に行ってもよく、第2の把握工程を第1の把握工程の前に行ってもよく、双方を実質的に同時期に行ってもよい。これらの把握工程を経て、被着体フィルムに対して接着性を有するよう、接着性フィルムが調整される。
【0066】
(調整工程)
調整工程では、接着性フィルムとしてその表面状態が把握された熱可塑性液晶ポリマーフィルムについて、被着体フィルムで得られた値X(%)に応じて、接着性フィルムとして用いられる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面状態が調整される。すなわち、前記準備した接着性フィルムの被接着表面部が、X線光電子分光法分析により、C(1s)の各結合ピークのピーク面積の合計に占める、[C−O]結合ピーク面積と[COO]結合ピーク面積の和の割合(%比率)として、第2の相対強度Y(%)を有するように、接着性フィルムとしての熱可塑性液晶ポリマーフィルムが選択または処理される。
【0067】
すなわち、調整工程では、接着性フィルムのC(1s)の各結合ピークのピーク面積の合計に占める、[C−O結合]および[COO結合]のピーク面積の和の%比率Y(%)が以下の式(1)かつ(2)を満たすように、選択または処理される。
38≦X+Y≦65 (1)
−8.0≦Y−X≦8.0 (2)
【0068】
式(1)では、接着性フィルムと被着体フィルムの双方が特定の活性化エネルギーを有する場合に、接着性が高くなることを示しており、式(2)では、接着性フィルムと被着体フィルムの表面を比較した場合、両者が類似した活性化状態である場合に接着性が高くなることを示している。これらの式を満たす場合、例えば、活性化処理によりスキン層を破壊しなくとも、接着性フィルムは、被着体フィルムに対する熱接着性を向上することが可能となる。
【0069】
前記式(1)において、例えば、X+Yは、50以下であってもよく、42未満であってもよい。また、前記式(2)において、例えば、Y−Xは、−7.5以上であってもよく、−5.0以上であってもよく、−2.0以上であってもよく、−1.0以上であってもよい。
また、Y−Xは、7.5以下であってもよく、5.0以下であってもよく、2.0以下であってもよく、1.0以下であってもよい。Y−Xは、上記の数値範囲を個別に組み合わせて有していてもよいが、絶対値の範囲として、上記値を示すのが好ましい。
【0070】
驚くべきことに、上記のように、被着体フィルムの表面状態に応じて、接着性フィルムの[C−O結合]と[COO結合]のピーク面積の和が、C(1s)の各結合ピークのピーク面積の合計に対して、所定の範囲を示すように調整することにより、たとえ、C(1s)ピーク面積合に占める[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率が21%未満の場合であっても、液晶ポリマーフィルム間の層間接着性を向上することが可能である。
【0071】
例えば、被着体フィルムでは、C(1s)ピーク面積合計に占める[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率Xが、例えば、30%以下(例えば、15〜30%)であってもよいが、好ましくは25%以下であってもよく、より好ましくは21%未満、特に好ましくは20%以下であってもよい。
【0072】
そして、それに応じて、液晶ポリマー接着性フィルムは、例えば、C(1s)ピーク面積合計に占める[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率Yが30%以下(例えば、15〜30%)であってもよく、好ましくは25%以下であってもよく、より好ましくは21%未満、特に好ましくは20%以下であってもよい。
【0073】
調整工程では、被着体フィルムの表面状態に応じて、接着性フィルムのピーク面積の和の%比率Yが、被着体フィルムの和の%比率Xとの関係において、特定の値を有するように調整される。例えば、調整工程では、Yが被着体フィルムの和の%比率Xとの関係において、特定の値を有するよう、接着性フィルムが選択されてもよいし、Yが被着体フィルムの和の%比率Xとの関係において、特定の値を有していない場合、接着性フィルムの表面を活性化処理することにより、Yの値を調整してもよい。
【0074】
例えば、接着性フィルムの[C−O結合]および[COO結合]のピーク面積の和の%比率Yは、紫外線照射、プラズマ照射、及びコロナ放電処理などによりフィルム表面を活性化処理することにより、所望の値に調整することも可能である。
【0075】
例えば、紫外線照射の場合、液晶ポリマーフィルム表面に対して所定の波長の紫外線を所定の照射量で照射する場合、照射量が多くなると、[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率が大きくなることを、本発明者らは今般明らかにすることができた。そのため、このような関係を利用することにより、[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率を所定の範囲にするよう調節することが可能である。
【0076】
また、紫外線照射だけでなく、プラズマ照射、コロナ処理などの活性化処理においても、活性化のための処理量が多くなると、[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率が大きくなることが推測されるため、各種活性化処理においても同様に、[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率を所定の範囲にするよう調節することが可能である。
【0077】
紫外線照射の場合、[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率を所定の範囲にすることができる限り特に限定されないが、例えば、波長185nmの紫外線、波長254nmの紫外線などを照射してもよく、異なる波長の紫外線(例えば波長185nmおよび254nmの紫外線)を組み合わせて同時に照射してもよい。
【0078】
また、照射面と光源との距離を縮め、高い照射エネルギーを短時間照射するのが好ましい。例えば、照射面と光源との距離は、0.3cm〜5cm程度、好ましくは0.4〜2cm程度であってもよい。また、照射面と光源との距離に応じて、処理時間は適宜設定できるが、例えば20秒〜5分程度、好ましくは30秒〜3分程度であってもよい。
【0079】
プラズマ処理は、例えば、大気下または減圧下において、マイクロ波や高周波を、装置に導入した酸化性気体に対して印加してプラズマ状態とし、それによって発生したプラズマを対象物に照射することにより、対象表面を処理することができる。
例えば、酸化性気体としては、酸素、酸素を含有する気体である空気、一酸化炭素、二酸化炭素などを使用することができる。
【0080】
好ましくは、プラズマ処理は、例えば、1000Pa以下、より好ましくは800Pa以下の減圧下において行われるのが好ましい。
【0081】
また、プラズマ照射は、ダイレクトプラズマ(DP)とリアクティブイオンエッチング(RIE)とのいずれも利用してもよく、その出力は、照射モード、処理時間などに応じて適宜設定することができるが、例えば、0.2〜2.0W/cm
2程度、好ましくは0.2〜1.0W/cm
2程度で行ってもよい。
【0082】
また、処理時間は、例えば30〜200秒程度であってもよく、好ましくは30〜100秒程度、より好ましくは40〜80秒程度であってもよい。
【0083】
コロナ放電処理では、絶縁された電極と誘電体ロールとの間にフィルムを通し、高周波(例えば、40kHzなど)高電圧を印加してコロナ放電を発生させ、このコロナ放電によって酸素等の気体成分をプラズマ状態とし、樹脂表面が活性化される。
【0084】
例えば、電極としては、ステンレスやアルミなどの金属、誘電体としては、セラミック、シリコンゴム、EPTゴム、ハイパロンゴムなどが挙げられる。また、電極形状はナイフエッジ電極、プレート電極、ロール電極、ワイヤー電極などが挙げられる。その出力は処理時間などに応じて適宜設定することができるが、例えば、100〜800W程度、好ましくは200〜600W程度で行ってもよい。また、フィルムの通過速度は、例えば、2〜10m/分程度、好ましくは3〜9m/分程度であってもよい。
【0085】
なお、活性化処理された接着性フィルムに対して、再度X線光電子分光法分析を行い、処理後の%比率Yを再度把握し、Yが上述した式を満たすか確認するのが好ましく、必要に応じて、Yが上述した式を満たすまで活性化処理をするのが好ましい。
【0086】
(脱気工程)
前記液晶ポリマー接着性フィルムは、調整工程の前、または調整工程の後に、必要に応じて脱気処理が行われてもよい。
熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、特定の真空下での脱気または加熱下での脱気を行うことにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルム中に存在するエアーを極めて高度に低減することが可能となる。そして、驚くべきことに、このような脱気工程を経た熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、その熱接着性を向上させることが可能となる。
【0087】
脱気工程では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、(i)真空度1500Pa以下で30分以上真空下で脱気させることにより、および/または(ii)100℃〜200℃の範囲で加熱下で脱気させることより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを脱気することができる。上記(i)または(ii)のいずれか一方を充足する条件で脱気すればよいが、上記(i)および(ii)の双方を充足する条件で脱気するのが好ましい。
【0088】
(i)真空下での脱気と(ii)加熱下での脱気とを組み合わせて行う場合、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱接着性を向上できる範囲で、(i)真空下での脱気と(ii)加熱下での脱気の順序はいずれを先にしてもよいが、好ましくは、第一の脱気工程として加熱下での脱気を行った後、第二の脱気工程として真空下での脱気を行ってもよい。
【0089】
具体的には、例えば、脱気工程が、接着性フィルムを、100℃〜200℃の範囲で所定の時間加熱して、脱気を行う第一の脱気工程と、前記接着性フィルムに対して、真空度1500Pa以下で、さらに所定の時間脱気を行う第二の脱気工程とを備えていてもよい。これらの脱気工程を行う際には、上述した条件を適宜組み合わせて行うことができる。
【0090】
また、脱気工程では、脱気性を向上させる観点から、実質的に加圧を行わない無加圧下(圧力解放下)で脱気を行ってもよい。例えば、低加圧または圧力解放状態(例えば、0〜0.7MPa程度の圧力下、好ましくは0〜0.5MPa程度の圧力下)で脱気工程を行ってもよい。
【0091】
(i)真空下での脱気は、真空度1500Pa以下で行われ、好ましくは1300Pa以下、より好ましくは1100Pa以下で行われてもよい。
真空下での脱気を独立して行う場合、常温下(例えば10〜50℃、好ましくは15〜45℃の範囲)において行われてもよいが、脱気効率を高める観点から加熱下で行ってもよい。その場合の加熱温度は、例えば、50〜200℃(例えば、50〜150℃)、好ましくは80〜200℃、より好ましくは90〜190℃程度であってもよい。
【0092】
(ii)加熱下での脱気は、100〜200℃の範囲で行われ、好ましくは105〜190℃の範囲、より好ましくは110〜180℃の範囲で行ってもよい。
また、加熱下での脱気は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tmに対して、所定の温度範囲を設定してもよい。その場合は、例えば、(Tm−235)℃〜(Tm−50)℃の範囲(例えば、(Tm−200)℃〜(Tm−50)℃の範囲)で加熱することにより行われ、好ましくは(Tm−225)℃〜(Tm−60)℃の範囲(例えば、(Tm−190)℃〜(Tm−60)℃の範囲)、より好ましくは、(Tm−215)℃〜(Tm−70)℃の範囲(例えば、(Tm−180)℃〜(Tm−70)℃の範囲)で行われてもよい。
上述のような、特定の温度範囲において加熱することにより、フィルムから急激に水分が発生することを抑制しつつ、フィルム中(例えば、フィルム内部やフィルム表面)の水を水蒸気として脱気したり、表面に存在するエアーの運動エネルギーを高めてフィルム表面から脱気することが可能となる。
なお、加熱下での脱気を単独で行う場合、真空度1500Pa以下を含まない条件下で行われてもよく、例えば、圧力を調整しない大気圧下(または常圧下)で行ってもよいが、必要に応じて、大気圧から減圧された条件下(例えば、1500Paを超えて100000Pa未満、好ましくは3000〜50000Pa程度)で加熱してもよい。
【0093】
脱気工程に要する時間は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの状態、真空度および/または加熱温度などの各種条件により適宜設定することができるが、熱可塑性液晶ポリマーフィルム全体からエアーを除去する観点から、例えば、それぞれの脱気工程(真空下、加熱下、真空加熱下)について、同一または異なって、30分以上、40分以上、または50分以上であってもよく、6時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、または1.5時間以下であってもよい。
また、脱気工程に要する時間は、例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの水分率が、後述する所定の範囲(例えば、300ppm以下、または200ppm以下)になる時点を見計らって適宜設定してもよい。
【0094】
脱気工程を経た熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、極めて低い水分率を有していてもよく、例えばその水分率は、例えば300ppm以下、好ましくは200ppm以下、より好ましくは180ppm以下、さらに好ましくは150ppm以下であってもよい。なお、ここで水分率は、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。
【0095】
また、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの25GHzにおける誘電正接は、例えば、0.0025以下(例えば、0.0001〜0.0023程度)、好ましくは0.0010〜0.0022程度であってもよい。このような誘電正接を有することにより、低電力化や低ノイズ化が可能となる。
【0096】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの比誘電率は、フィルムの厚みに応じて異なるが、例えば、25GHzにおける熱可塑性液晶ポリマーフィルムのTD方向の比誘電率は、3.25以下(例えば、1.8〜3.23程度)、好ましくは2.5〜3.20程度であってもよい。なお、一般的に、誘電率は、比誘電率に対して真空の誘電率(=8.855×10
−12(F/m))を乗じることにより算出できる。
【0097】
例えば、誘電率測定は周波数1GHzで共振摂動法により実施してもよい。ネットワークアナライザ(Agilent Technology社製「E8362B」)に1GHzの空洞共振器((株)関東電子応用開発)を接続し、空洞共振器に微小な材料(幅:2.7mm×長さ:45mm)を挿入し、温度20℃、湿度65%RH環境下、96時間の挿入前後の共振周波数の変化から材料の誘電率および誘電正接を測定することができる。
【0098】
[回路基板の製造方法]
本発明は、層間接着性に優れている回路基板の製造方法についても包含する。
前記製造方法は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる被着体と、熱可塑性液晶ポリマーからなる接着性フィルムとが熱接着により積層されている回路基板の製造方法であって、
前記被着体フィルムおよび接着性フィルムを、それぞれ、少なくとも一方の面に導体層が形成された絶縁基板、ボンディングシートおよびカバーレイから選択される少なくとも一種の回路基板材料として準備する準備工程と、
準備された被着体フィルムと接着性フィルムとを重ね合わせ、所定の圧力下で加熱して回路基板材料を熱圧着する熱圧着工程と、を少なくとも備え、
前記接着性フィルムが、上述された製造方法により製造された熱可塑性液晶ポリマーフィルムである、回路基板の製造方法である。
【0099】
(回路基板材料の準備工程)
準備工程では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる被着体(以下、単に被着体フィルムと称する場合がある)、および熱可塑性液晶ポリマーからなる接着性フィルム(以下、単に接着性フィルムと称する場合がある)を、それぞれ、少なくとも一方の面に導体層が形成された絶縁基板、ボンディングシートおよびカバーレイから選択される少なくとも一種の回路基板材料として準備する。
【0100】
少なくとも一方の面に導体回路が形成された絶縁基板の例としては、
絶縁基板の片面に導体回路(または導体パターン)が形成されたユニット回路基板、
絶縁基板の両面に導体回路が形成されたユニット回路基板、
絶縁体の一方の面に導体回路、他方の面に導体膜または導体箔が形成されたユニット回路基板などが挙げられる。
【0101】
導体層は、例えば、少なくとも導電性を有する金属から形成され、この導体層に公知の回路加工方法を用いて回路が形成される。導体層を形成する導体としては、導電性を有する各種金属、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウムまたはこれらの合金金属などであってもよい。
熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる絶縁性基材上に導体層を形成する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば金属層を蒸着してもよく、無電解めっき、電解めっきにより、金属層を形成してもよい。また、金属箔(例えば銅箔)を熱圧着により、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に圧着してもよい。
導体層を構成する金属箔は、電気的接続に使用されるような金属箔が好適であり、銅箔、のほか金、銀、ニッケル、アルミニウムなどの各種金属箔を挙げることができ、また実質的に(例えば、98質量%以上)これらの金属で構成される合金箔を含んでいてもよい。
【0102】
これらの金属箔のうち、銅箔が好ましく用いられる。銅箔は、回路基板において用い得る銅箔であれば、特に限定されず、圧延銅箔、電解銅箔のいずれであってもよい。
【0103】
被着体フィルムと接着性フィルムとの組み合わせは、接着性フィルムが被着体フィルムに対して前述した特定の関係を有するとともに、双方が熱接着により積層される限り特に限定されない。
【0104】
例えば、被着体フィルムが少なくとも一方の面に導体回路が形成された絶縁基板であってもよく、かつ接着性フィルムが、少なくとも一方の面に導体回路が形成された絶縁基板、ボンディングシートおよびカバーレイから選択される少なくとも一種であってもよい。
【0105】
または、接着性フィルムが少なくとも一方の面に導体回路が形成された絶縁基板であってもよく、かつ、被着体フィルムが、少なくとも一方の面に導体回路が形成された絶縁基板、ボンディングシートおよびカバーレイから選択される少なくとも一種であってもよい。
【0106】
例えば、そのような組み合わせとしては、
(a)絶縁基板として被着体フィルム、および被着体フィルムに形成された導体回路を被覆するために設けられるカバーレイとして接着性フィルムを少なくとも備える回路基板(ここで、接着性フィルムは、接着表面において、被着体フィルムのピーク面積の和の%比率Xに対して、所定のピーク面積の和の%比率Yを有するように調整される);
(b)絶縁基板として第1および第2の被着体フィルム、および第1および第2の被着体フィルムを接着するためのボンディングシートとして接着性フィルムを少なくとも備える回路基板(ここで、接着性フィルムは、それぞれの接着表面において、第1および第2の被着体フィルムの双方のピーク面積の和の%比率X1、X2のそれぞれに対して、所定のピーク面積の和の%比率Y1、Y2を有するように調整される);
(c)絶縁基板として接着性フィルム、および接着性フィルムに形成された導体回路を被覆するために設けられるカバーレイとして被着体フィルムを少なくとも備える回路基板(ここで、接着性フィルムは、接着表面において、被着体フィルムのピーク面積の和の%比率Xに対して、所定のピーク面積の和の%比率Yを有するように調整される);
(d)絶縁基板として第1および第2の接着性フィルム、および第1および第2の接着性フィルムを接着するためのボンディングシートとして被着体フィルムを少なくとも備える回路基板(ここで、第1および第2の接着性フィルムは、被着体フィルムのそれぞれの接着表面において、ピーク面積の和の%比率X1、X2に対して、所定のピーク面積の和の%比率Y1、Y2をそれぞれ有するように調整される);
(e)第1の絶縁基板として被着体フィルム、および第1の被着体フィルムを接着するための第2の絶縁基板として接着性フィルムを少なくとも備える回路基板(ここで、接着性フィルムは、接着表面において、被着体フィルムのピーク面積の和の%比率Xに対して、所定のピーク面積の和の%比率Yを有するように調整される)、などの組み合わせを例示することができる。
【0107】
なお、必要に応じて、最外層の導体回路が形成された絶縁基板を被覆するためにカバーレイを設けてもよい。その場合、カバーレイが接着性フィルムであり絶縁基板が被着体フィルムであってもよく、カバーレイが接着性フィルムであり絶縁基板が被着体フィルムであってもよい。いずれの場合でも、隣接して熱接着される液晶ポリマーフィルム間には、被着体フィルムのピーク面積の和の%比率Xに対して、接着性フィルムが所定のピーク面積の和の%比率Yを有するような関係が成立している。
【0108】
これらのうち、好ましくは、被着体フィルムが、少なくとも一方の面に導体回路が形成された絶縁基板であり、接着性フィルムが、少なくとも一方の面に導体回路が形成された絶縁基板、ボンディングシートおよびカバーレイから選択される少なくとも一種の回路基板材料である回路基板である。
【0109】
また、回路基板では、被着体フィルムと接着性フィルムが、同じ種類の熱可塑性液晶ポリマーフィルムで形成されてもよく、異なる種類の液晶ポリマーフィルムで形成されてもよい。例えば、被着体フィルムと接着性フィルムは、それぞれ第1および第2の熱可塑性液晶ポリマーフィルムで形成されていてもよく、例えば、第1および第2の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、同じ融点を有する液晶ポリマーフィルムであってもよい。また、第1および第2の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、それぞれ、高い融点(例えば、融点300〜350℃程度)を有する高融点液晶ポリマーフィルムと、それよりも低い融点(例えば、250〜300℃程度)を有する低融点液晶ポリマーフィルムとであってもよい。例えば、第1の熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、第2の熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの融点差は、60℃以内であることが好ましく、50℃以内(例えば、10〜50℃程度)がより好ましい。
【0110】
接着性フィルムは、高融点液晶ポリマーフィルムとして用いても、低融点液晶ポリマーフィルムとして用いてもよい。例えば、被着体フィルムと接着性フィルムは、双方とも高融点液晶ポリマーフィルムであってもよいし、双方とも低融点液晶ポリマーフィルムであってもよい。例えば、この場合、双方の融点差は0〜20℃程度であってもよく、好ましくは0〜10℃程度であってもよい。
または、被着体フィルムと接着性フィルムは、一方が高融点液晶ポリマーフィルムであり、他方が低融点液晶ポリマーフィルムであってもよい。この場合、低融点液晶ポリマーフィルムが接着性フィルムであってもよい。
【0111】
この場合、絶縁基板として高融点液晶ポリマーフィルムからなる液晶ポリマーフィルム被着体フィルムを備え、かつカバーレイおよび/またはボンディングフィルムとして低融点液晶ポリマーフィルムからなる液晶ポリマー接着性フィルムを少なくとも備える回路基板や、一方が被着体フィルムであり、他方が接着性フィルムであり、互いに導体回路が形成された絶縁基板同士が、ボンディングシートを介さず、直接接合されている回路基板が特に好ましい。
【0112】
(熱圧着工程)
熱圧着工程では、回路基板材料として準備された被着体フィルムと接着性フィルムとを重ね合わせ、所定の圧力下で加熱して回路基板材料を熱圧着させる。
重ね合わせる際は、前述した組合わせ(a)〜(e)などに対応して、被着体フィルムと接着性フィルムとを配設してもよい。
【0113】
また、任意で、熱圧着工程の前に、上述した脱気工程を行うことにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱接着性を向上させてもよい。
脱気工程は、(i)真空度1500Pa以下で30分以上真空で脱気させることにより、および/または(ii)100℃〜200℃の範囲で加熱下で脱気させることにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを脱気する脱気工程であってもよい。また、(i)真空度1500Pa以下で30分以上真空で脱気させる脱気工程として、予熱工程が行われてもよい。この場合、予熱工程は、例えば、熱圧着工程に先立って、真空度1500Pa以下の真空下で30分以上加熱温度50℃〜150℃の範囲で行われてもよい。予熱工程中の加熱温度は、好ましくは60〜120℃程度、より好ましくは70〜110℃であってもよい。
【0114】
このような予熱工程を行うことによって、液晶ポリマーフィルムの表面および/または中に存在するエアや水分をある程度放出することが可能となり、その結果、接着剤を用いない場合であっても回路基板の層間接着性を向上させることが出来る。
【0115】
予熱工程は、真空度1500Pa以下の真空下で行われ、好ましくは1300Pa以下、より好ましくは1100Pa以下で行われてもよい。
また、予熱工程中、発明の効果を阻害しない範囲で、圧力を例えば、0.8MPa以下、より好ましくは0.6MPa以下程度で加えてもよいが、極力圧力を加えないのが好ましい。
【0116】
また、予熱工程は、30分以上行われてもよく、例えば、30〜120分間程度行われてもよく、好ましくは40〜100分間程度、より好ましくは45〜75分間程度行われてもよい。
【0117】
熱圧着は、回路基板材料の種類などに応じて、真空熱プレス装置や加熱ロール積層設備等を用いて行うことができるが、液晶ポリマーフィルムからエアーをさらに低減させることができる観点から、真空熱プレス装置を用いるのが好ましい。
【0118】
熱圧着の際の加熱温度は、接着される熱可塑性液晶ポリマーフィルム(融点が異なる場合は、より低い融点を有する熱可塑性液晶ポリマーフィルム)の融点をTmとすると、例えば(Tm−20)℃〜(Tm+40)℃の範囲であってもよく、好ましくは(Tm−10)℃〜(Tm+30)℃程度であってもよい。
【0119】
また、熱圧着時に加える圧力は、液晶ポリマーフィルムの性質に応じて、例えば、0.5〜6MPaの広い範囲から選択することができるが、本発明では脱気工程を経た熱接着性に優れる液晶ポリマーフィルムを用いて接着するため、圧力が5MPa以下、特に4.5MPa以下であっても、液晶ポリマーフィルム層間での良好な接着が可能となり、接着後においてもエアーのかみ込みによって生じる局部的な密着不良を抑制することができる。
【0120】
また、熱圧着工程に要する時間は、回路基板が良好の接着する限り特に限定されないが、例えば、15〜60分間程度行われてもよく、好ましくは20〜40分間程度行われてもよい。
【0121】
なお回路基板を製造する際には、必要に応じて、公知又は慣用に行われている各種製造工程(例えば、回路形成工程、貫通接続工程、層間接続工程など)を行ってもよい。
【0122】
以下、回路基板の製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0123】
図1Aは、両面に導体回路が形成された絶縁基板の双方の面に対してカバーレイを積層する場合の回路基板の積層前の状態を示す模式断面図である。ここでは、絶縁基板としての第一の熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の両面に導体回路(例えば、ストリップラインパターン)が形成された第一のユニット回路基板14と、その両面に設けられたカバーレイとしての第二の熱可塑性液晶ポリマーフィルム13,13と、を準備する。ここで、第一の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは被着体フィルムであり、第二の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは接着性フィルムであり、第一の熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、第二の熱可塑性液晶ポリマーフィルムとは、前述したように、X線光電子分光分析における[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和に関し、特定の関係を有するよう調整されている。
【0124】
熱圧着前に、接着性フィルム単独、被着体フィルム単独、または接着性フィルムと被着体フィルムの双方を、好ましくは窒素ガス雰囲気下で、所定時間加熱する(第一の脱気工程)。その際の温度、時間条件は、上述したものを用いることができる。
【0125】
その後、真空熱プレス装置のチャンバ(図示せず)内において、カバーレイ13,13の間に第一のユニット回路基板14が配設されるよう積層して載置し、
図1Bに示す積層体とする。次いで、真空引を行って1500Pa以下の真空度を保持しながら、所定時間加熱を行う(第二の脱気工程)。その際の温度、時間条件は、上記に記載したものを用いることができる。
【0126】
次いで、真空度を1500Pa以下に保持したまま、温度を熱圧着条件に上げ、加圧して積層体の各層を圧着する。熱圧着時の温度、圧力条件は、上記に説明した条件を用いることができる。
【0127】
次いで、通常のプロセスに従って、装置内を常温常圧条件にもどしたのち、回路基板10を装置より回収する。
【0128】
上記実施形態では、第一のユニット回路基板14と、カバーレイ13,13とを接着しているが、変形例として、第一のユニット回路基板と第二のユニット回路基板との間にボンディングシートを挟んで接着してもよい。または、ボンディングシートを介さずに、ユニット回路基板同士を直接接着してもよい。
【0129】
図1Bに示す例では、回路基板は、導体層を2層形成しているが、導体層の数は、1層または複数層(例えば、2〜10層)において、適宜設定することができる。
【0130】
図2Aは、絶縁基板31の両面に導体回路32,32が形成された第1のユニット回路基板34と、絶縁基板39の両面にそれぞれ導体回路38a,導体層38bが形成されている上側ユニット回路基板と、絶縁基板35の両面にはそれぞれ導体回路36a,導体層36bが形成されている下側ユニット回路基板とを、ボンディングシート33,37でそれぞれ積層する場合の回路基板の積層前の状態を示す模式断面図である。この回路基板は、導体層が6層形成されている。
【0131】
絶縁基板としての第一の熱可塑性液晶ポリマーフィルム31,35および39は、それぞれ被着体フィルムであり、ボンディングシートとしての第二の熱可塑性液晶ポリマーフィルム33,37は接着性フィルムであり、第一の熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、第二の熱可塑性液晶ポリマーフィルムとは、前述したように、X線光電子分光分析における[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和に関し、特定の関係を有するよう調整されている。
【0132】
熱圧着前に、接着性フィルム単独、被着体フィルム単独、または接着性フィルムと被着体フィルムの双方を、好ましくは窒素ガス雰囲気下で、これらの回路基板材料を所定時間加熱する(第一の脱気工程)。その際の温度、時間条件は、上述したものを用いることができる。
【0133】
その後、真空熱プレス装置のチャンバ(図示せず)内において、ボンディングシート33,37の間に第一のユニット回路基板34が配設され、さらにそれぞれのボンディングシート33,37に対して、ユニット回路基板の導体回路36a、38bが接するように回路基板材料を積層して載置し、
図2Bに示す積層体とする。次いで、真空引を行って1500Pa以下の真空度を保持しながら、所定時間加熱を行う(第二の脱気工程)。その際の温度、時間条件は、上記に記載したものを用いることができる。
【0134】
次いで、真空度を1500Pa以下に保持したまま、温度を熱圧着条件に上げ、加圧して積層体の各層を圧着する。熱圧着時の温度、圧力条件は、上記に説明した条件を用いることができる。
【0135】
次いで、通常のプロセスに従って、装置内を常温常圧条件にもどしたのち、回路基板30を装置より回収する。
【0136】
[回路基板]
本発明の第3の構成は、回路基板である。
回路基板は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる被着体と、熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる接着性フィルムとが熱接着により積層されている回路基板であって、
前記被着体フィルムの被接着表面部について、X線光電子分光分析により、C(1s)に起因する結合ピークのピーク面積の合計に占める、[C−O結合]および[COO結合]のピーク面積の和の%比率:X(%)と、
前記接着性フィルムの被接着表面部について、C(1s)に起因する結合ピークのピーク面積の合計に占める、[C−O結合]および[COO結合]のピーク面積の和の%比率:Y(%)とが以下の式(1)かつ(2)を満たしており、
38≦X+Y≦65 (1)
−8.0≦Y−X≦8.0 (2)
回路基板をJIS C 5012に準拠した方法によるはんだ浴290℃の環境下に60秒間静置した場合に、はんだ耐熱性を有する回路基板である。
【0137】
なお、前記XおよびYは、好ましくは、X+YおよびY−Xについて、上述したような関係を適宜満たしていてもよい。
前記回路基板は、単層回路基板であっても、多層回路基板であっても、いずれでもよい。また、前記回路基板は、前記製造方法で製造された回路基板であってもよい。
【0138】
本発明の回路基板では、被着体フィルムのピーク面積の和の%比率Xに対して、接着性フィルムが特定の範囲のピーク面積の和の%比率Yを有するように調整されているため、回路基板における液晶ポリマーフィルム間の層間接着性が向上されている。
【0139】
前記回路基板は、耐熱性に優れており、回路基板をJIS C 5012に準拠した方法によるはんだ浴290℃の環境下に60秒間静置した場合に、はんだ耐熱性を有する回路基板である。はんだ耐熱性の評価は、JIS C 5012に準拠してはんだ浴の温度290℃、フロート時間60秒として、はんだフロート試験を行い、フロート試験後の基板がふくれ(100μmx100μm以上の面積を有するもの)を有するか否かを目視および光学顕微鏡(×5倍以上)を用いて観察し、評価してもよい。
【0140】
また、被着体フィルムと接着性フィルムの接着面に導電層が存在する場合、被着体フィルムと接着性フィルムとの間に存在する導体層の残導体率は、30%未満であってもよい。なお、残導体率は、接着面における導体層の面積/接着面の総面積x100で表されてもよい。
【0141】
また、前記回路基板は、液晶ポリマーフィルム層間接着性に優れているため、例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルム間(被着体フィルムと接着性フィルムとの間)の接着強度は、例えば、0.7kN/m以上(例えば、0.72〜3kN/m)であってもよく、さらに好ましくは0.75kN/m以上(例えば、0.76〜3kN/m)であってもよく、より好ましくは0.8kN/m以上(例えば、0.83〜3kN/m)であってもよく、さらに好ましくは1.0kN/m以上(例えば、1.1〜3kN/m)、特に好ましくは1.2kN/m以上(例えば、1.3〜3kN/m)であってもよい。なお、層間接着性を判断するに当たり、凝集剥離が生じる場合、一般的に接着性が良好であると判断することが可能である。一方、接着性が良好でない場合は、界面剥離が生じる場合が多い。
【0142】
また、好ましくは、回路基板の接着強度は、方向に係らず全体的に向上されており、例えば、サンプルの一方向(A方向)と、それに対する直交方向(B方向)について、それぞれ、両側から引きはがすことにより、A順方向、A逆方向、B順方向、B逆方向の4方向について接着強度を測定した場合、接着強度の最小値が、被着体フィルムと接着性フィルムとの間で、例えば、0.5kN/m以上(例えば、0.5〜3kN/m)であってもよく、好ましくは0.6kN/m以上であってもよく、より好ましくは0.7kN/m以上であってもよく、さらに好ましくは0.8kN/m以上であってもよく、特に好ましくは0.9kN/m以上であってもよい。
【0143】
本発明の回路基板は、誘電特性に優れる熱可塑性液晶ポリマーを絶縁材料として用いているため、特に高周波回路基板として好適に用いることができる。高周波回路は、単に高周波信号のみを伝送する回路からなるものだけでなく、高周波信号を低周波信号に変換して、生成された低周波信号を外部へ出力する伝送路や、高周波対応部品の駆動のために供給される電源を供給するための伝送路等、高周波信号ではない信号を伝送する伝送路も同一平面上に併設された回路も含まれる。
【実施例】
【0144】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0145】
[融点]
示差走査熱量計を用いて、フィルムの熱挙動を観察して得た。つまり、供試フィルムを20℃/分の速度で昇温して完全に溶融させた後、溶融物を50℃/分の速度で50℃まで急冷し、再び20℃/分の速度で昇温した時に現れる吸熱ピークの位置を、フィルムの融点として記録した。
【0146】
[X線光電子分光分析によるピーク面積]
(X線光電子分光分析)
PHI Quantera SXM(アルバック・ファイ(株)製)を用いて、以下の条件により試料の分光分析を行い、C(1s)に起因する結合ピークのピーク面積の合計に占める、[−C−O−結合]と[−COO−結合]のピーク面積の和の%比率を算出した。なお、ユニット回路基板については、回路が形成されていない箇所である液晶ポリマーフィルム表面について分析を行っている。
X線励起条件:100μm-25W-15kV,
対陰極 Al
測定範囲:1000μm×1000μm
圧力:1x10
-6Pa,
試料洗浄なし
また、炭素,酸素の結合種の帰属を以下に示す方法で求めた。
C1s C-C:284.8eV C-O:286.4eV C=O:287.6eV O-C=O:288.6eV
CO
3:290〜291eV ShakeUp:291eV
O1s C=O:532.0eV C-O:533.1eV
【0147】
[紫外線照射量測定]
紫外線照度計(UV-M03A)(株)オーク製作所を用いて幅方向に照度を測定し、3点の平均値の照度とした。
【0148】
[水分率]
水分の測定法としてカールフィッシャー法(カール・フィッシャー滴定の原理を利用し、水分を溶媒に吸収させ電位差の変化により水分を測定する)を使用した。
1)微量水分測定装置名:(株)三菱化学アナリテック社製(VA−07,CA−07)
2)加熱温度: 260(℃)
3)N
2パージ圧: 150(ml/min)
4)測定準備(自動)
Purge 1分
Preheat 2分 試料ボード空焼き
Cooling 2分 試料ボード冷却
5)測定
滴定セル内溜め込み時間(N
2で水分を送り出す時間): 3分
6)試料量: 1.0〜1.3g
【0149】
[分子配向度(SOR)]
マイクロ波分子配向度測定機において、液晶ポリマーフィルムを、マイクロ波の進行方向にフィルム面が垂直になるように、マイクロ波共振導波管中に挿入し、該フィルムを透過したマイクロ波の電場強度(マイクロ波透過強度)を測定する。そして、この測定値に基づいて、次式により、m値(屈折率と称する)を算出する。
m=(Zo/△z) X [1−νmax/νo]
ここで、Zoは装置定数、△zは物体の平均厚、νmaxはマイクロ波の振動数を変化させたとき、最大のマイクロ波透過強度を与える振動数、νoは平均厚ゼロのとき(すなわち物体がないとき)の最大マイクロ波透過強度を与える振動数である。
【0150】
次に、マイクロ波の振動方向に対する物体の回転角が0°のとき、つまり、マイクロ波の振動方向と、物体の分子が最もよく配向されている方向であって、最小マイクロ波透過強度を与える方向とが合致しているときのm値をm
0、回転角が90°のときのm値をm
90として、分子配向度SORをm
0/m
90により算出した。
【0151】
[膜厚]
膜厚は、デジタル厚み計(株式会社ミツトヨ製)を用い、得られたフィルムをTD方向に1cm間隔で測定し、中心部および端部から任意に選んだ10点の平均値を膜厚とした。
【0152】
[耐熱性試験(はんだ耐熱性)]
JIS C 5012に準拠してはんだフロート試験を実施し、回路基板のはんだ耐熱性を調べた。はんだ浴の温度は290℃、フロート時間は60秒として、フロート試験後の基板のふくれ(100μmx100μm以上の面積を有するもの)の有無を目視および光学顕微鏡(×5倍以上)にて観察した。
具体的には、30cm四方の回路基板サンプルの任意の5箇所をそれぞれ5cm四方に切り取って5個の5cm四方の回路基板サンプルを作成し、この5個の5cm四方の回路基板サンプルそれぞれについてはんだフロート試験を実施し、目視および光学顕微鏡(×5倍以上)により膨れの有無を観察した。5個の5cm四方の回路基板サンプル全てに膨れが見られない場合を良としてはんだ耐熱性を有すると評価し、5個の5cm四方の回路基板サンプルのうちいずれか一つでも膨れが見られた場合は不良として評価した。
【0153】
[層間接着力]
配線基板を10mmの短冊状に打ち抜き試験片とした。この試験片の接着界面を出したのち、常温にて、被着体フィルムと接着性フィルムとを90°方向に速度5cm/分で引き剥がし、日本電産シンポ(株)製、デジタルフォースゲージを用いて引き剥がし荷重を測定し、5cm分引き剥がした際の荷重の平均値を取った。ただし、測定開始時と終了時の測定値のブレに関しては、平均値を出す際に用いなかった。
【0154】
[実施例1]
(1)接着性液晶ポリマーフィルム(接着性フィルム)の製造
p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の共重合物(モル比:73/27)で、融点が280℃、厚さが50μmである熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。この熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、水分率:400ppm、SOR:1.02であった。
(2)ユニット回路基板(被着体フィルム)の製造
p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の共重合物(モル比:73/27)で、融点が280℃、厚さが50μmである熱可塑性液晶ポリマーフィルムを窒素雰囲気下で260℃4時間、さらに280℃2時間熱処理することで融点を320℃に増加させ、被着体フィルムを得た。この被着体フィルム上下に所定の表面粗度の厚さ12μmの圧延銅箔をセットし、一対のロールでの連続プレス機にてロール温度300℃、線圧100kg/cm、ライン速度2m/分の条件にて銅張積層板を得た後、この銅張積層板がストリップライン構造となるように配線加工したユニット回路基板(導体回路が形成されている表面の残導体率:30%未満)を作製した。熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、水分率:400ppm、SOR:1.02であった。
(3)多層回路基板の製造
上記(1)で得られた接着性液晶ポリマーフィルム23をボンディングシートとして、
図3Aおよび3Bに示す回路構成のように接着性液晶ポリマーフィルム23に対して、絶縁基板21,25のそれぞれを重ね合わせて真空熱プレス装置にセットした。なお絶縁基板21には導体回路22a,導体層22bが両面に形成されてユニット回路基板を構成し、絶縁基板25には導体回路26a,導体層26bが両面に形成されてユニット回路基板を構成している。接着性液晶ポリマーフィルム23のそれぞれの面23a,23bは、導体回路22a,26aをそれぞれ被覆するように構成されている。
セットする前における、接着性液晶ポリマーフィルム23、絶縁基板21,25のX線光電子分光分析から得られる、ピーク面積の和の%比率 [C-O]+[COO](%)は、それぞれ表7に示すとおりである。その後、この積層体に対して予熱工程(真空度1500Pa以下の真空下で60分脱気処理)を行った後、真空度1300Pa下、加圧力4MPaで300℃30分間熱圧着することによりそれぞれを接着し、ユニット回路基板/ボンディングシート/ユニット回路基板で構成された回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0155】
[
実施例2]
実施例1で得られた接着性液晶ポリマーフィルムおよびユニット回路基板に対し、それぞれの被着面において、センエンジニアリング製、「紫外線洗浄改質装置」の紫外線照射装置を用いて、254nmの紫外線を照射量:400mJ/cm
2、光源と照射面との間2cmの距離で1.05分間処理を行った。
得られた接着性液晶ポリマーフィルム23をボンディングシートとして、
図3Aおよび3Bに示す回路構成のように絶縁基板21,25のそれぞれを重ね合わせて真空熱プレス装置にセットした。なお絶縁基板21には導体回路22a,導体層22bが両面に形成されてユニット回路基板を構成し、絶縁基板25には導体回路26a,導体層26bが両面に形成されてユニット回路基板を構成している。接着性液晶ポリマーフィルム23のそれぞれの面23a,23bは、導体回路22a,26aをそれぞれ被覆するように構成されている。
セットする前における、接着性液晶ポリマーフィルム23、絶縁基板21,25のX線光電子分光分析から得られる、ピーク面積の和の%比率 [C-O]+[COO](%)は、それぞれ表7に示すとおりである。その後、この積層体を予熱工程(真空度1500Pa以下の真空下で60分脱気処理)を行った後、真空度1300Pa下、加圧力4MPaで300℃30分間熱圧着することによりそれぞれを接着し、ユニット回路基板/ボンディングシート/ユニット回路基板で構成された回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0156】
[実施例3]
加熱下で脱気処理を行い、真空熱プレス装置にセットする前の接着性液晶ポリマーフィルム、絶縁基板の水分率を200ppm以下とする以外は、実施例1と同様の構成とした。なお、加熱脱気工程では、実施例1で得られた接着性フィルムに対して、120℃において60分間加熱処理して脱気を行った。
得られた接着性液晶ポリマーフィルム23をボンディングシートとして、
図3Aおよび3Bに示す回路構成のように絶縁基板21,25のそれぞれを重ね合わせて真空熱プレス装置にセットした。なお絶縁基板21には導体回路22a,導体層22bが両面に形成されてユニット回路基板を構成し、絶縁基板25には導体回路26a,導体層26bが両面に形成されてユニット回路基板を構成している。接着性液晶ポリマーフィルム23のそれぞれの面23a,23bは、導体回路22a,26aをそれぞれ被覆するように構成されている。
セットする前における、接着性液晶ポリマーフィルム23、絶縁基板21,25のX線光電子分光分析から得られる、ピーク面積の和の%比率 [C-O]+[COO](%)は、それぞれ表7に示すとおりである。その後、この積層体を予熱工程(真空度1500Pa以下の真空下で60分脱気処理)を行った後、真空度1300Pa下、加圧力4MPaで300℃30分間熱圧着することによりそれぞれを接着し、ユニット回路基板/ボンディングシート/ユニット回路基板で構成された回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0157】
[実施例4]
(1)接着性液晶ポリマーフィルムの製造
p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の共重合物(モル比:73/27)で、融点が280℃、厚さが50μmである熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。窒素雰囲気下で260℃4時間、さらに280℃2時間熱処理することで融点を320℃に増加させた。この熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、水分率:400ppm、SOR:1.02であった。
(2)多層回路基板の製造
上記(1)で得られた接着性液晶ポリマーフィルム23をボンディングシートとして、
図3Aおよび3Bに示す回路構成のように接着性液晶ポリマーフィルム23に対して、絶縁基板21,25のそれぞれを重ね合わせて真空熱プレス装置にセットした。なお絶縁基板21には導体回路22a,導体層22bが両面に形成されてユニット回路基板を構成し、絶縁基板25には導体回路26a,導体層26bが両面に形成されてユニット回路基板を構成している。接着性液晶ポリマーフィルム23のそれぞれの面23a,23bは、導体回路22a,26aをそれぞれ被覆するように構成されている。
セットする前における、接着性液晶ポリマーフィルム23、絶縁基板21,25のX線光電子分光分析から得られる、ピーク面積の和の%比率 [C-O]+[COO](%)は、それぞれ表7に示すとおりである。その後、この積層体に対して予熱工程(真空度1500Pa以下の真空下で60分脱気処理)を行った後、真空度1300Pa下、加圧力4MPaで300℃30分間熱圧着することによりそれぞれを接着し、ユニット回路基板/ボンディングシート/ユニット回路基板で構成された回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0158】
[実施例5]
多層回路基板の製造
実施例1で得られた接着性液晶ポリマーフィルムおよびユニット回路基板を用い、絶縁基板11を中心にして、接着性液晶ポリマーフィルム13をカバーレイとして用い、
図1Aおよび1Bに示す回路構成のように、絶縁基板11の両面に導体回路12,12が形成されたユニット回路基板に、接着性液晶ポリマーフィルム13,13をそれぞれ、13a,13aがそれぞれ導体回路12,12を被覆するように重ね合わせて真空熱プレス装置にセットした。
セットする前における、接着性液晶ポリマーフィルム13、絶縁基板11のX線光電子分光分析から得られる、ピーク面積の和の%比率 [C-O]+[COO](%)は、それぞれ表7に示すとおりである。その後、この積層体に対して予熱工程(真空度1500Pa以下の真空下で60分脱気処理)を行った後、真空度1300Pa下、加圧力4MPaで300℃30分間熱圧着することによりそれぞれを接着し、カバーレイ/ユニット回路基板/カバーレイで構成された回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0159】
[
実施例6]
予熱工程を省略する以外は、実施例1と同様にして、多層回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0160】
[
実施例7〜9]
接着性液晶ポリマーフィルムおよびユニット回路基板に対し、それぞれの被着面において、以下の処理条件(紫外線の波長、照射量、光源と照射面間の距離、照射時間)により紫外線を照射する以外は、
実施例2と同様にして、多層回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0161】
【表7】
【0162】
[比較例1]
接着性液晶ポリマーフィルム23として、
実施例2で得られた紫外線照射処理を行ったフィルムを用いる以外は、実施例1と同様にして回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0163】
[比較例2]
絶縁基板21,25として、
実施例2で得られた紫外線照射処理を行ったフィルムを用いる以外は、実施例1と同様にして回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0164】
[比較例3]
絶縁基板21,25として、
実施例2で得られた紫外線照射処理を行ったフィルムを用いる以外は、
実施例6と同様にして、多層回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0165】
[比較例4]
接着性液晶ポリマーフィルムおよびユニット回路基板に対し、それぞれの被着面において、以下の処理条件(紫外線の波長、照射量、光源と照射面間の距離、照射時間)により紫外線を照射する以外は、
実施例2と同様にして、多層回路基板を得た。得られた回路基板の各種物性を評価し、表7に示す。
【0166】
【表8】
【0167】
【表9】
【0168】
表7に示すように、実施例1および3〜
6では、接着性フィルムの[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率Yと、被着体フィルムの[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率Xとを組み合わせた場合に、X+YおよびY−Xが特定の値に存在するため、たとえ双方の和(X+Y)が42未満であっても層間接着力は高い値を示し、はんだ耐熱性も良好である。すなわち、活性化処理を行うことなくフィルムを用いた場合であっても、被着体フィルムに対して接着性フィルムが所定の関係を有するように選択すれば、良好な層間接着性およびはんだ耐熱性を達成することが可能であることを示している。
【0169】
また、実施例5では、接着性液晶ポリマーフィルム13をカバーレイに変更しても、同様の効果が得られることを示している。
【0170】
一方で、紫外線処理を行った実施例
2および7〜9であっても、X+YおよびY−Xを特定の値にすることにより、良好なはんだ耐熱性、さらには良好な層間接着性を達成することが可能である。
【0171】
また、層間接着性は、予熱工程やフィルムの脱気処理を行うことによって、さらに向上することが示され、例えば、予熱工程を行っていない
実施例6よりも、予熱工程を行っている実施例1や、フィルムの脱気処理を行っている実施例3は、高い層間接着性を示している。
【0172】
しかしながら、比較例1〜3に示すように、例えば被着体フィルムと接着性フィルムの一方のみに紫外線処理を行うことによって、X+YおよびY−Xが、本発明で規定する範囲から外れる場合、得られた回路基板では、はんだ耐熱性が不十分である。また、比較例4に示すように、被着体フィルムと接着性フィルムの双方に紫外線処理を行った場合であっても、X+YおよびY−Xが、本発明で規定する範囲から外れる場合、得られた回路基板では、はんだ耐熱性が不十分である。
より詳細には、比較例1〜4で用いられたフィルムでは、被着体フィルムと接着性フィルムの少なくとも一方について、紫外線照射工程により、[C−O結合]と[COO結合]とのピーク面積の和の%比率が21以上であるとともに、そのピーク面積の比([C−O結合]/[COO結合])が1.5以下であるが、はんだ耐熱性が不十分である。また、比較例2〜4では、層間接着性が著しく低下している。