【文献】
鈴木啓一他, 「豚の抗病性育種の取り組み」,The Journal of Farm Animal in Infectious Disease, 2014, vol. 3 no. 4, pp. 99-101
【文献】
Okamura T., et al., "A genome-wide scan for quantitative trait loci affecting respiratory disease and immune capacity in Landrace pigs.", ,Animal genetics, 2012 Dec (Epub 2012 Apr 18.), vol. 43, no. 6, pp. 721-729
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の大規模集約的な養豚経営において、密飼い等に起因する感染症の流行は、ブタの損耗および薬剤の使用により生産コストを押し上げる主要な要因となっており、ブタの抗病性に関する遺伝的改良への期待は高い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、血液サンプルから測定可能な間接的免疫形質が、病変等の直接的形質の代替となる可能性について検討してきた。そして、白血球貧食能等の間接的形質値が高くなるように改良されたブタ集団について得た特定農場での死亡率低下を示唆するデータから、血液由来の間接的免疫形質がブタにおける耐病性改良のための選抜指標になりうると考えた。また、TLRにおけるSNPの存在と病原体の認識能の変化との関係、SPFブタ集団におけるTLR等の遺伝子型とワクチン接種後の抗体応答との相関から、免疫系遺伝子の多型は、感染症に対する感受性/抵抗性を判断するマーカーとなりうると考えた。
【0009】
一方、本発明者らはマクロファージにおける発現変化の個体差に着目した。マクロファージは、感染初期において病原体の認識および貧食を担う細胞であり、自然免疫系および獲得免疫系の双方において、極めて重要な役割を有する。今般、高免疫ブタ集団およびその造成の基礎となったブタ集団それぞれの血液からマクロファージを単離して刺激し、集団間で刺激後の発現変化に差が見られた免疫系遺伝子を特定した。さらに遺伝子のプロモーター領域について集団間で偏りのある多型を見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下を提供する。
[1] 高免疫能ブタの判別方法であって、対象となるブタのゲノム中、下記(1)〜(115)に示した染色体上の位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列である場合に、高免疫ブタであると判別する、方法。
【0011】
【表1】
【0012】
【表2】
【0013】
【表3】
【0014】
【表4】
【0015】
【表5】
【0016】
[2] 1に記載の方法であって、
対象となるブタのゲノムが、下記(A)〜(F)の少なくとも一つを満たす場合に、高免疫ブタであると判別する、方法。
(A) 前記(1)〜(9)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
(B) 前記(10)〜(15)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
(C) 前記(16)〜(45)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
(D) 前記(46)〜(65)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
(E) 前記(66)〜(115)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
[3]高免疫能ブタの判別に利用するための、下記(a)〜(e)のいずれか一のポリヌクレオチド。
(a) 配列番号:1の塩基配列の、全部、または下記(1)〜(9)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(1)〜(9)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0017】
【表6】
【0018】
(b) 配列番号:2の塩基配列の、全部、または下記(10)〜(15)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(10)〜(15)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0019】
【表7】
【0020】
(c) 配列番号:3の塩基配列の、全部、または下記(16)〜(45)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(16)〜(45)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0021】
【表8】
【0022】
(d) 配列番号:4の塩基配列の、全部、または下記(46)〜(65)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(46)〜(65)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0023】
【表9】
【0024】
(e) 配列番号:5の塩基配列の、全部、または下記(66)〜(115)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(66)〜(115)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0025】
【表10】
【0026】
[4]1または2に記載の判別方法に使用するための、配列番号:1〜5のいずれか一に記載の塩基配列の一部に相補的であり、かつ15塩基以上の長さを有する、プローブまたはプライマー。
[5]1または2に記載の判別方法により、高免疫能ブタを選抜することを含む、抗病性の高いブタの育種方法。
[6]1または2に記載の判別方法により、高免疫能ブタを選抜し、選抜したブタまたはその後代を交配に用いることを含む、抗病性の高いブタの育種方法。
[7]1または2に記載の判別方法により、高免疫能ブタを選抜し、選抜したブタまたはその後代を交配に用いることを含む、抗病性の高いブタの生産方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明により免疫能が高いブタを効率的に選抜できる。
本発明により得られた高免疫ブタにより、他の優れた形質を有するブタに高免疫能を付与することができ、抗病性に優れたブタの新品種が育種できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
数値範囲を「m〜n」は、特に記載した場合を除き、その範囲は両端mおよびnを含む。
【0030】
[判別方法]
本発明は、高い免疫能を有するブタ(高免疫能ブタということもある。)を、ブタのゲノム上に存在する多型を検出することにより、判別する方法を提供する。免疫能は、直接的または間接的な免疫形質を含む。直接的な免疫形質は、肺炎や下痢等の感染症へのかかりにくさおよび疾病や病変の程度の少なさを含む。間接的な免疫形質は、白血球貧食能、補体代替経路活性および豚丹毒ワクチン接種後の抗体価等、ブタの抗病性を直接的には裏付けないが、その形質と抗病性との関係が推認できる形質を指す。
【0031】
判別は、対象ブタ(本発明の判別方法に供するブタ)が高免疫能ブタであると技術的に意義のある確からしさで判別すること、対象ブタが非高免疫能ブタ(高免疫能を有さないブタ)ではないと技術的に意義のある確からしさで判別することを含む。また、高免疫能ブタとその他のブタ(例えば、黒豚、一般豚等)とを区別することをいう。判別は、識別、鑑定、鑑別、判定、検査等と表現されることもある。判別の確からしさは、用いる多型の種類、数、組合せ等を検討することにより、高めることができると考えられる。
【0032】
多型とは、同じ生物種の集団のうちに遺伝子型の異なる個体が存在すること、またはその異なる遺伝子・DNA配列のことをいう。多型には一塩基多型(SNP)、Insertion/Deletion(挿入/欠失)多型、制限断片長多型、タンデム反復数多型(variable number of tandem repeats:VNTR)、超可変領域、ミニサテライト、ジヌクレオチド反復、トリヌクレオチド反復、テトラヌクレオチド反復、および単純配列反復が含まれる。
【0033】
一塩基多型(SNP)は1個のヌクレオチドからなる多型部位において、その1個のヌクレオチドが別のもの(ヌクレオチド、またはジ〜テトラヌクレオチド、オリゴもしくはポリヌクレオチド)で置換されて起こる。一塩基多型は、参照対立遺伝子と比較して1個のヌクレオチドが欠失するか、または1個のヌクレオチドが挿入されるかによっても起こる。なお多型を表す場合に、関与するヌクレオチドの種類を便宜上そのヌクレオチドを構成する塩基の種類(A、G、TまたはC)を用いて示すことがある。
【0034】
本発明の判別方法においては、ブタゲノム中に存在する多型をマーカーとして利用する。
【0035】
好ましい態様の一つにおいては、多型マーカー(多型を利用したマーカー)として、高免疫ブタ集団およびその造成に用いた基礎集団(対照集団ということもある。)それぞれから採取したマクロファージを刺激し、遺伝子発現を比較した結果、発現量が数倍、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上変化する遺伝子のプロモーター領域中に存在する多型を用いることができる。
【0036】
より好ましい態様の一つにおいては、多型マーカーとして、上記の発現量が変化する遺伝子であって、免疫応答に関与すると想定される遺伝子のプロモーター領域中に存在する多型を用いることができる。免疫応答に関与すると想定される遺伝子の例は、Gene Ontologyで[GO:0002376] immune system process、[GO:0001071] Nucleic acid binding transcription factory activity、[GO:0006914] autophagy、または[GO:0061630] ubiquitin protein ligase activityの階層に属する遺伝子である。免疫応答に関与すると想定される遺伝子の、特に好ましい例は、TRIM21(ユビキチンリガーゼE3の一つ。シェーグレン症候群の原因遺伝子。)、STAT3(サイトカインのシグナル伝達等に関与。)、RNASEL(RNA分解酵素の一つ。RNAウイルスに対する抵抗性に関与。)、またはSAMHD1(HIV-1等のウイルス感染の防御に関与。)、およびTMEM150Cである。
【0037】
いずれの場合であっても、多型マーカーとして、高免疫能ブタ集団における頻度が、基礎集団における頻度よりも高いものを用いることが好ましい。
【0038】
本発明に用いられる多型マーカー(本明細書において「本発明の多型マーカー」と記載する場合がある。)の具体例を以下に示す。なお本明細書および特許請求において、染色体および位置(position)に関する情報、ならびにSNPのrs番号を示す場合は、特に記載した場合を除き、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の提供する情報に基づく。
【0039】
RNASELのプロモーター領域に存在する多型(下表の(1)〜(9))
表の中段に、多型の存在する染色体とその位置(多型部位)を示す。下段に、その位置における、高免疫能ブタ集団において出現頻度の高い塩基を示す。すなわち、その位置の塩基が表の対応する下段に示した塩基である場合に、高免疫能ブタであると判別できる。
【0041】
SAMHD1のプロモーター領域に存在する多型(下表の(10)〜(15))
表の中段に、多型の存在する染色体とその位置(多型部位)を示す。下段に、その位置における、高免疫能ブタ集団において出現頻度の高い塩基を示す。すなわち、その位置の塩基が表の対応する下段に示した塩基である場合に、高免疫能ブタであると判別できる。
【0043】
STAT3のプロモーター領域に存在する多型(下表の(16)〜(45))
表の各中段に、多型の存在する染色体とその位置(多型部位)を示す。各下段に、その位置における、高免疫能ブタ集団において出現頻度の高い塩基を示す。すなわち、その位置の塩基が表の対応する下段に示した塩基である場合に、高免疫能ブタであると判別できる。
【0045】
TMEM150Cのプロモーター領域に存在する多型(下表の(46)〜(65))
表の中段に、多型の存在する染色体とその位置(多型部位)を示す。下段に、その位置における、高免疫能ブタ集団において出現頻度の高い塩基を示す。すなわち、その位置の塩基が表の対応する下段に示した塩基である場合に、高免疫能ブタであると判別できる。
【0047】
TRIM21のプロモーター領域に存在する多型(下表の(66)〜(115))
表の各中段に、多型の存在する染色体とその位置(多型部位)を示す。各下段に、その位置における、高免疫能ブタ集団において出現頻度の高い塩基を示す。すなわち、その位置の塩基が表の対応する下段に示した塩基である場合に、高免疫能ブタであると判別できる。
【表15】
【0048】
本発明においては、多型マーカーを1つ用いることができ、複数個用いることもできる。用いられる多型マーカーは、上記の多型マーカーのうち、高免疫能ブタ集団と基礎集団との間の頻度の差が大きいものであることが好ましいと考えられる。当業者であれば、本明細書の記載および技術常識を参酌し、判別に使用する多型マーカーの数、および種類を適宜設計することができる。
【0049】
高免疫能ブタ集団と基礎集団との頻度の差が大きい多型マーカーの場合には、1または数個の多型マーカーを用いることにより、高免疫能ブタの技術的に意義のある確からしさでの判別が可能であると考えられる。高免疫能ブタ集団と基礎集団との頻度の差が比較的小さい多型マーカーの場合でも、複数の多型マーカーを用いることにより、高免疫能ブタの技術的に意義のある確からしさで判別が可能であると考えられる。
【0050】
一般的には、多くの多型マーカーを用いるほど判別の精度が向上する。したがって、本発明では、複数の多型マーカーを用いることが好ましいであろう。本発明の方法において用いる多型マーカーの数は、1または数個(1〜9個)とすることができ、例えば5個以上、8個以上、10個以上とすることができ、また20個以上、30個以上、40個以上、50個以上、60個以上、70個以上とすることもできる。
【0051】
好ましい態様の一つにおいては、上記の一の表に示した染色体上の位置における塩基のいずれか(1個であってもよく、複数個であってもよい。以下同じ。)と他のいずれか表に示した染色体上の位置における塩基のいずれかとの組合せが、各々対応する下段に示した塩基である場合に、高免疫能ブタであると判別してもよい。例えば、上記(1)〜(9)に示した染色体上の位置における塩基のいずれかが対応する下段に示した塩基である場合に、上記(10)〜(15)に示した染色体上の位置における塩基のいずれか、上記(16)〜(45)に示した染色体上の位置における塩基のいずれか、上記(46)〜(65)に示した染色体上の位置における塩基のいずれか、または上記(66)〜(115)に示した染色体上の位置における塩基のいずれかが、各々対応する下段に示した塩基である場合に、高免疫能ブタであると判別してもよい。
【0052】
好ましい態様の一つにおいては、下記の(A)〜(E)の少なくとも一つを満たす場合に、高免疫能ブタであると判別することができる。
(A) 上記(1)〜(9)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
(B) 上記(10)〜(15)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
(C) 上記(16)〜(45)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
(D) 上記(46)〜(65)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
(E) 上記(66)〜(115)に示した染色体上の位置における塩基が、各々対応する下段に示した塩基である。
【0053】
好ましい態様の一つにおいては、(A)〜(E)のうち、いずれか2つを満たす場合(例えば、(A)および(B)、(A)および(C)、(A)および(D)、(A)および(E)、(B)および(C)、(B)および(D)、(B)および(E)、(C)および(D)、(C)および(E)、または(D)および(E))、いずれか3つを満たす場合(例えば、(A)および(B)および(C)、(A)および(B)および(D)、(A)および(B)および(E)、(A)および(C)および(D)、(A)および(C)および(E)、(A)および(D)および(E)、(B)および(C)および(D)、(B)および(D)および(E)、(C)および(D)および(E))、いずれか4つを満たす場合(例えば、(A)および(B)および(C)および(D)、(A)および(B)および(C)および(E)、(A)および(B)および(D)および(E)、(A)および(C)および(D)および(E)、(B)および(C)および(D)および(E))、またはすべて、すなわち(A)および(B)および(C)および(D)および(E)を満たす場合に、高免疫能ブタであると判別してもよい。
【0054】
好ましい態様の一つにおいては、対象ブタにおける目的の多型部位の塩基を決定する方法として、公知の種々の方法を利用できる。多型部位の塩基を決定する方法は、通常、多型部位を含む領域を増幅する工程を含む。増幅の際の鋳型となる核酸試料は、対象ブタの、例えば末梢血、臓器組織、血清、血漿、血球、骨髄、骨離単核球、口腔細胞、毛(毛根細胞)、爪、血痕、臍帯、脳脊髄液、患部擦過物、患部ぬぐい液、眼房水、リンパ節、気管支肺胞洗浄液、胸水、腹水、心嚢液、膵液、喀痰、骨、膿、尿、糞便、吐潟物、胃液、リンパ節、皮虜、腸組織、固形組織(生検手術)、パラフイン包埋ブロック、凍結切片用包埋ブロック、剖検材料(組織)、培養細胞から得ることができる。
【0055】
このようにして得られる試料中に含まれる核酸を鋳型とし、増幅して多型を検出するために用いることができる。多型の検出のためには、既存の方法を適宜利用できる。例えば、PCR法、SDA法、TMA法、NASBA法、TRC法、ICAN法、SmartAmp法、RCA法、LAMP法、およびそれらの改良法が挙げられる。
【0056】
[多型マーカー、およびそれを検出するためのプローブ]
また本発明は、上記(1)〜(115)のいずれかに記載の多型マーカー、およびそのような多型マーカーを含む、高免疫能ブタの判別に利用するためのポリヌクレオチド、並びにそのようなポリヌクレオチドの増幅物、そのようなポリヌクレオチドを含む組成物(例えば、そのようなポリヌクレオチドと緩衝剤とを含む。)、キット、試薬、または製品等を提供する。
【0057】
本明細書の配列表には、配列番号:1〜5の配列として、本明細書の実施例の項において多型検索を行った各遺伝子の転写開始点より上流5000bpの塩基配列を掲載した。具体的には下記の通り。
配列番号: 1 RNACSELの転写開始点より上流5000bpの塩基配列(Sscrofa10.2:9:136224411:136229410)
配列番号: 2 SAMHD1の転写開始点より上流5000bpの塩基配列(Sscrofa10.2:17:45580068:45585067)
配列番号: 3 STAT3の転写開始点より上流5000bpの塩基配列(Sscrofa10.2:12:20775572:20780571)
配列番号: 4 TMEM150Cの転写開始点より上流5000bpの塩基配列(Sscrofa10.2:8:145098791:145103790)
配列番号: 5 TRIM21の転写開始点より上流5000bpの塩基配列(Sscrofa10.2:9:6531121:6536120)
括弧内は、公開されているブタゲノム塩基配列の最新版(Sscrofa10.2)における染色体番号と塩基の位置である。
【0058】
本発明により多型マーカーを含む以下(a)〜(e)のポリヌクレオチドが提供される。
(a)配列番号:1の塩基配列の、全部、または下記(1)〜(9)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(1)〜(9)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0060】
(b) 配列番号:2の塩基配列の、全部、または下記(10)〜(15)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(10)〜(15)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0062】
(c) 配列番号:3の塩基配列の、全部、または下記(16)〜(45)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(16)〜(45)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0064】
(d) 配列番号:4の塩基配列の、全部、または下記(46)〜(65)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(45)〜(65)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0066】
(e) 配列番号:5の塩基配列の、全部、または下記(66)〜(115)に示した位置の塩基を少なくとも一つ含む連続した一部であって、かつ下記(66)〜(115)に示した位置における塩基の少なくとも一つが、対応する下段に示した塩基または塩基配列であるポリヌクレオチド。
【0068】
上記多型マーカーを含むポリヌクレオチドの長さは特に制限されないが、例えば4000塩基長以下であり、3000塩基長以下、2000塩基長以下、1000塩基長以下、500塩基長以下、300 塩基長以下、100 塩基長以下、50 塩基長以下、30または20 塩基長以下であってもよい。
【0069】
本発明はまた、高免疫能ブタを判別する方法に用いるための識別もしくは判別用試薬を提供する。試薬の好ましい態様としては、以下の(a)または(b)のいずれかの物質を有効成分とする、高免疫能ブタ判別用検査薬が挙げられる。
(a)配列番号:5〜10のいずれかに記載の塩基配列もしくはその相補鎖にストリンジェント条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであって、該塩基配列中に存在する前述の(1)〜(115)のいずれかの多型部位を含む領域を増幅するためのPCRプライマー用オリゴヌクレオチド。
(b)配列番号:5〜10のいずれかに記載の塩基配列またはその相補鎖にストリンジェント条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであって、該塩基配列中に存在する前述の(1)〜(115)のいずれかの多型部位を含むDNA領域とハイブリダイズすることを特徴とするプローブ用オリゴヌクレオチド。
【0070】
ここで「ハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら, Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版 1989に記載の条件)において、目的以外のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該ポリヌクレオチドは、検出する上記塩基配列に対し完全に相補的である必要はない。
【0071】
ハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、5×SSCおよび0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0072】
このようなポリヌクレオチドは、本発明の判別方法におけるプローブやプライマーとして利用することができる。ポリヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15 塩基長〜100 塩基長であり、好ましくは17 塩基長〜30 塩基長である。プライマーは、本発明の多型マーカーを含むDNAを増幅しうるものであれば、特に制限されない。またポリヌクレオチドをプローブとして使用する場合、プローブは、本発明の多型マーカーを含むDNA領域に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。プローブは、合成ポリヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15 塩基長以上を有する。プライマーおよびプローブは、従来のプライマーの設計方法やプローブの設計方法を参考に、適宜設計できる。プライマーの設計方法のためには、ソフトウェアが市販されており、本発明のためにも使用できる。
【0073】
プライマーまたはプローブとして用いるポリヌクレオチドは、例えば市販のポリヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0074】
本発明のポリヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、ポリヌクレオチドの5'端を
32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーポリヌクレオチド等をプライマーとして
32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0075】
上記の識別もしくは判別用試薬(本発明の検査薬)においては、有効成分であるポリヌクレオチド以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0076】
また、本発明の試薬を少なくとも含有する高免疫能ブタ判別用キットもまた、本発明に含まれる。該キットには、上記(a)または(b)のいずれかに記載の物質の他に、例えば、本発明の方法に用いるための各種試薬類、反応液、対照標品、反応容器、操作器具等を含めることができる。
【0077】
[育種方法]
以上のように、本発明により、高免疫能ブタの判別方法が提供される。したがって、本発明により、目的の形質(高免疫能または抗病性)を有するブタを予測することが幼少期の段階で可能となるため、効率的に所望の形質を有するブタ集団または系統を造成するのに役立つ。よって本発明は、本発明の判別方法により、高免疫能ブタを選抜することを含む、抗病性の高いブタの育種方法を提供する。
【0078】
所定の形質のブタを選択し、育成、または繁殖するブタの育種方法として、例えば、ある系統に、本発明により選抜された高免疫能ブタまたはその後代を、ある好ましい形質(例えば産肉能力が高いこと、強健性であること、繁殖能力が高いこと、等)を有するブタとの交配に用いることにより、ある形質を有し、かつ抗病性を有するブタの系統が造成可能である。よって本発明は、本発明の判別方法により、高免疫能ブタを選抜し、選抜したブタまたはその後代を交配に用いることを含む、抗病性の高いブタの育種方法、並びに本発明の判別方法により、高免疫能ブタを選抜し、選抜したブタまたはその後代を交配に用いることを含む、抗病性の高いブタの生産方法を提供する。なお、本発明の判別方法により、高免疫能ブタを選抜し、選抜したブタを交配に用いることを含む、抗病性の高いブタの生産方法により生産されたブタを繁殖させ、後代を得ることもまた、後代について本発明の判別方法により高免疫能ブタを選抜する/しないに関わらず、本発明により提供される多型マーカーと関連した抗病性の高い後代が得られる限り、本発明の生産方法の範疇に含まれる。
【0079】
[多型効果の検証、その他]
本願によって開示される多型が目的の効果を有するものであることは、種々の方法により検証できる。例えば、多型を導入した発現ベクターを作成し、ブタ由来培養細胞、またはHEK293細胞等に遺伝子を導入後、レポーターアッセイにより、リガンド、例えば、リポ多糖(Lipid A、TLR4のリガンド)およびpolyinosinic-polycytidylic acid(poly(I:C)、TLR3やRIG-I/MDA-5といったRNAセンサー分子のリガンド)等を用いた病原体刺激に対する応答性の変化を解析することにより、検証できる。また、高免疫能ブタ集団および基礎集団以外の集団を用いた、免疫能や疾病関連形質(例えば、肺炎罹患率等)と多型との関連を調査することにより、検証することができる。このような検証手段は当業者にはよく知られており、当業者であれば、適宜実験を計画し、実施することができる。
【0080】
従来、ブタの抗病性に関しては、その形質測定が困難であることから、遺伝的改良の試みはほとんど行われてこなかった。本発明者らにより、間接的免疫形質が抗病性改良のための選抜指標となる可能性と、免疫系遺伝子に関連する多型が感染症に対する感受性/抵抗性のマーカーとなる可能性とが見出された。その上でなされた本発明は、高免疫能ブタを判別するための多型マーカーとその利用を提供するものであり、抗病性育種の実現に役立つと考えられる。
【0081】
また本発明は、本発明により提供される新規なポリヌクレオチドを有する高免疫能を有するブタまたは抗病性の高いブタを提供する。さらに本発明は、本発明により得られた高免疫能を有するブタまたは抗病性の高いブタから得られる、肉および肉の加工品(例えば、ハム、ソーセージ、ベーコン、焼豚等)を提供する。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0083】
[高免疫能ブタ集団での遺伝子発現変化の解析]
【0084】
(腎臓からのマクロファージ単離)
高免疫能ブタ集団およびその基礎集団に属する、同じ性別のそれぞれ4頭ずつの実験ブタから腎臓を採材した。マクロファージの単離は、混合培養系による繰り返しの細胞回収が可能な方法により行った(非特許文献6)。具体的には、人組織をコラゲナーゼ処理により糸球体/尿細管の単位にまで分散させた後、培養フラスコに播種すると、2〜3週間後に
フィーダーである人実質細胞の上層にマクロファージが増殖してくるので、これを回収して実験に供した。拐取後のフラスコに培地を追加して培養することにより、繰り返しマクロファージの増殖・回収が可能であり、実験に必要な細胞数を確保した。
【0085】
(免疫系分子の発現解析)
全8頭の実験ブタに由来するマクロファージに対して、0(非刺激)、1、および4時間刺激の3点の時系列で解析を行った。刺激は、細菌感染およびウイルス感染を想定して、リポ多糖(Lipid A、TLR4のリガンド)およびpolyinosinic-polycytidylic acid(poly(I:C)、TLR3やRIG-I/MDA-5といったRNAセンサー分子のリガンド)により行った。4時間刺激後の細胞からトータルRNAを抽出し、マイクロアレイによるmRNAの網羅的発現解析を行った。
【0086】
発現変化についてのデータセットについて、Gene Ontology解析を行い、免疫応答に関連すると想定される遺伝子([GO:0002376] immune system process、[GO:0001071] Nucleic acid binding transcription factory activity、[GO:0006914] autophagy、[GO:0061630] ubiquitin protein ligase activity)を抽出した。高免疫ブタ集団と基礎集団と間で3倍以上の差が検出された遺伝子を、
図1Aおよび
図1Bに示した。
【0087】
高免疫ブタ集団において、基礎集団と比較して発現が3倍以上上昇していた遺伝子は、Lipid A刺激で42個、poly(I:C)刺激で27個であった。これらのうち25個の遺伝子が重複して検出され、刺激による差は大きくないことが示唆された。検出された遺伝子のうち情報の乏しいFOXS1遺伝子とPLSCR1遺伝子を除く42個の遺伝子について、プロモーター多型の検出を行った。
【0088】
[発現差のある免疫系分子のプロモーター多型の検出]
(多型の検出)
各集団から10頭ずつについて、プロモーター領域5kbの多型検索を行った。国際ブタゲノムシーケンシングコンソーシアムにより解読されたブタゲノム塩基配列(Sscrofa10.2)(非特許文献7)を利用して、転写開始点から約5kb上流までを抽出し、シークエンス用のプライマーを合成した。
【0089】
その結果、42個の遺伝子のプロモーター領域200.48kbにおいて合計1654個のSNPと577個のInsertion/Deletion(挿入/欠失)が検出された。これらのうち、TRIM21、STAT3、 TMEM150C、RNASEL、SAMHD1において、それぞれ50、30、20、9、6個が集団間で分布パターンが有意に異なる多型として同定され た。高免疫ブタ集団と基礎集団との間で分布の偏りが見られたプロモーター多型に関し、下表にまとめた。All行は、検出された全ての多型の数、Complete genotype行は、そのうち20頭全てでデータが取得できた多型の数、P<0.01とP<0.001の行は、そのうち集団間で有意に分布パターンが異なることが示された(カイ二乗独立性の検定)多型の数を示す。
【0090】
【表21】
【0091】
(ハプロタイプの推定)
プロモーター多型で構成されるハプロタイプを推定し、下表に示した。
【0092】
【表22】
【0093】
【表23】
【0094】
【表24】
【0095】
【表25】
【0096】
【表26】
【0097】
[実施例で引用した文献]
非特許文献6:Kitani, H., T. Takenouchi, M. Sato, M. Yoshioka, M. Yamanaka, J. Vis Exp.51 e2757, 2011
非特許文献7:Groenen, M. A. M., A. L. Archibald, H. Uenishi, et al., Nature 491:393-398, 2012