特許第6792799号(P6792799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6792799高速信号伝送用ケーブルの製造方法及び高速信号伝送用ケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792799
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】高速信号伝送用ケーブルの製造方法及び高速信号伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20201119BHJP
   H01B 13/22 20060101ALI20201119BHJP
   H01B 11/00 20060101ALI20201119BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   H01B13/00 551Z
   H01B13/22 Z
   H01B11/00 J
   H01B7/18 D
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-67197(P2017-67197)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-92882(P2018-92882A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-235142(P2016-235142)
(32)【優先日】2016年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕寿
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
(72)【発明者】
【氏名】佐川 英之
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−149892(JP,A)
【文献】 実公昭51−006670(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 7/18
H01B 11/00
H01B 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体の周囲に形成された絶縁体層と、該絶縁体層の周囲に形成されたシールド層とを有する高速信号伝送用ケーブルの製造方法において、
前記導体の周囲に絶縁体層を形成する絶縁体層形成工程と、
前記絶縁体層の表面粗さRzJISが0.1μm以上1.5μm以下となるように粗化する表面粗化工程と、
前記表面粗化工程後に、粗化された前記絶縁体層の表面をコロナ放電法によって改質する表面改質工程と、
表面が粗化及び改質された絶縁体層の周囲にめっき膜からなるシールド層を形成するシールド層形成工程と、
を有する高速信号伝送用ケーブルの製造方法。
【請求項2】
記表面粗化工程は、ウエットブラスト法で行われる、
請求項1に記載の高速信号伝送用ケーブルの製造方法。
【請求項3】
導体と、該導体の周囲に形成された絶縁体層と、該絶縁体層の周囲に形成されたシールド層とを有する高速信号伝送用ケーブルにおいて、
前記絶縁体層は、表面粗さRzJISが0.1μm以上1.5μm以下となるように粗化された表面を有すると共に、当該粗化面すべてが改質されていることを特徴とする高速信号伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝送ケーブルの製造方法及び信号伝送ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、信号伝送ケーブルとして内部導体と、絶縁体層と、シールド層と、シースとを有する同軸ケーブルが用いられている。絶縁体層として、誘電率が低いフッ素樹脂が用いられ、シールド層として金属めっき層が用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−138013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の信号伝送用ケーブルの構造では、樹脂と金属めっきとの密着性が悪く、金属めっきが剥がれてしまい十分なシールド効果が得られないことがある。
【0005】
本発明は、樹脂と金属めっきとの密着性を向上させ、十分なシールド効果を有する信号伝送ケーブルの製造方法及び信号伝送ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]〜[3]の信号伝送ケーブルの製造方法を提供する。
【0007】
[1]導体と、該導体の周囲に形成された絶縁体層と、該絶縁体層の周囲に形成されたシールド層とを有する信号伝送ケーブルの製造方法において、
前記導体の周囲に絶縁体層を形成する絶縁体層形成工程と、
前記絶縁体層の表面粗さRzJISが0.1μm以上となるように粗化する表面粗化工程と、
前記表面粗化工程後に、粗化された前記絶縁体層の表面を改質する表面改質工程と、
表面が粗化及び改質された絶縁体層の周囲にめっき膜からなるシールド層を形成するシールド層形成工程と、
を有する信号伝送ケーブルの製造方法。
【0008】
[2]前記表面改質工程は、コロナ放電法によって行われ、
前記表面粗化工程は、ウエットブラスト法で行われる、
上記[1]に記載の信号伝送ケーブルの製造方法。
【0009】
[3]導体と、該導体の周囲に形成された絶縁体層と、該絶縁体層の周囲に形成されたシールド層とを有する信号伝送ケーブルにおいて、前記絶縁体層は、粗化された表面を有すると共に、当該粗化面すべてが改質されている信号伝送ケーブル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂と金属めっきとの密着性を向上させ、十分なシールド効果を有する信号伝送ケーブルの製造方法及び信号伝送ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態にかかる、めっき層からなるシールド層を備えた信号伝送ケーブルの斜視図である。
図2】(a)は粗化工程前の絶縁体表面のSEM観察結果であり、(b)は粗化工程後の絶縁体表面のSEM観察結果である。
図3】(a)はめっき工程後の信号伝送ケーブルの横断面のSEM観察結果であり、(b)は絶縁体とめっきシールド層の境界部分のSEM観察結果である。
図4】伝送ロスの周波数依存性について比較したグラフである。
図5】従来の銅箔テープを巻き付けてなるシールド層を備えた信号伝送ケーブルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。図1に示されるように、本実施形態に係る高速信号伝送用ケーブル1は、一対の信号線導体11a,11bを備えている。
各信号線導体11a,11bは、例えば、純銅線、銅合金線、これらにめっきを形成しためっき線、あるいは、純アルミ、アルミ合金線を用いることができ、また、複数本の導線を撚ってなる撚線を用いてもよい。
【0013】
絶縁体層12は、信号線導体11aと信号線導体11bが所定間隔で平行かつ一定の間隔に並ぶようにこれら信号線導体11a、11bを一括被覆して保持している。絶縁体層12は、それぞれの信号線導体11a、11bの周囲における肉厚が略同等となるように形成されており、高速信号伝送用ケーブル1の長手方向と直交する断面(横断面)の形状は略楕円形である。
【0014】
絶縁体層12の材料としては、誘電率、誘電正接の小さい材料を用いて形成されるとよい。絶縁体層12の材料としては、例えば、フッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、あるいはポリエチレン(PE)等を用いることができる。
【0015】
また、これらの樹脂材料中にガスを導入して絶縁体全体の低密度化を図ることによって実質的な誘電率を下げた発泡絶縁樹脂を用いて形成することもできる。例えば、発泡絶縁樹脂を用いて形成させるときは、樹脂に発泡剤を混練させて、成型時の温度や圧力によって発泡度を制御する方法、窒素等のガスを成型圧力で注入し、圧力解放時に発泡させる方法等を用いて形成される。例えば、ケーブルとしては、この絶縁体層12の形状に基づいた押出機の押出口金を作製し、この押出口金から一対の導線の芯線11と共に絶縁体層12である発泡ポリエチレンを押出すことにより形成される。
【0016】
絶縁体層12には、後述のめっきシールド層13を形成するためのめっき液の濡れ性がよく、かつめっき膜が密着するように表面改質工程と表面粗化工程が行われる。これらの工程については後述する。
【0017】
絶縁体層12の周囲には、外来ノイズの影響や電磁波の漏出を抑制するためのシールド層がめっきにより形成されており、めっきシールド層13の周囲には、絶縁体からなるジャケット層(図示無し)が形成されている。例えば、めっきシールド層13としては銅めっき膜を用いることができる。めっき工程については後述する。
【0018】
(表面改質工程)
コロナ放電法により絶縁体層12の表面処理を行い、接触角、処理液の濡れ性を評価した結果を表1に示す。コロナ放電の電圧は12.5kVとし、ケーブルと処理プローブの相対速度を10mm/secとして処理した。ここでは、絶縁体層12の材料として高密度ポリエチレンとFEPを用いた。
接触角は、絶縁体層12の表面にめっき処理液を1滴垂らした際の、絶縁体層12の表面と液体表面とのなす角度で表され、接触角が小さい方が液はじきが小さい(濡れ易い)ことを意味する。
濡れ性は、絶縁体層12をめっき処理液中に浸漬してから取出し、めっき処理液で濡れずに絶縁体層12の表面が一部でも露出した場合を×とし、表面全体がめっき処理液で覆われる場合を○とした。
【0019】
【表1】
【0020】
十分な濡れ性を得るためには、いずれの材料でも接触角を85°以下とする必要があること、そのためには12.5kVの電圧条件下では高密度ポリエチレンでは1回以上、FEPでは4回以上の表面処理を実施すればよいことが分かった。
なお、絶縁体の表面処理方法や処理条件は上記例に限定されるものではなく、ガスを併用したプラズマ法、紫外線照射法、電線照射法、イオン照射法、あるいはオゾン含有水浸漬法などがある。
【0021】
(粗化工程)
絶縁体層12の表面をウエットブラスト法で粗化したときの結果を表2に示す。ここでは、絶縁体層12の材料として高密度ポリエチレンとFEPを用いた。ウエットブラスト法はショットを含むスラリーを高圧エアによって吹き付けて粗化する方法である。ショットの平均粒径は5μmのものを用いた。
【0022】
表面粗さは、JIS−B0601(2013)に記載の十点平均粗さを示すRzJISにて評価を行った。
【0023】
【表2】
【0024】
エア圧力を大きくするにつれて、いずれの材料も表面粗さが大きくなることが確認できた。
なお、絶縁体の粗化方法、粗化条件は上記例に限定されるものではなく、クロム酸溶液エッチング法、サンドブラスト法、ドライアイスブラスト法などがある。
【0025】
図2は高密度ポリエチレンからなる絶縁体層12の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で5000倍にて観察した結果であり、(a)は粗化工程前の観察結果であり、(b)はウエットブラスト法による粗化工程後の観察結果である。ウエットブラスト法により、絶縁体層12の表面に複数の小穴(窪み部)14が形成されており、この小穴14は奥行(絶縁体厚さ方向)に対して影が見えており、傾斜を有していることが確認できる。
【0026】
(めっき工程)
表3に本発明における高速信号伝送ケーブルのめっき法を用いたシールド層形成の一連の工程例を示す。ケーブル被覆樹脂の絶縁体上に対してめっき法等の薄膜形成技術を用いてシールド層を形成する場合、確実な密着性を達成するためにめっき下地である表面について改質処理を行うことが必要である。通常はめっき対象の表面は汚染されていることが多いため、散在異物を除去することが重要になる。本工程例では脱脂工程を設けており、表3に示すようにホウ酸ソーダやリン酸ソーダを用いて油脂を取り除いている。次に、表面導電化処理として、緻密な高品質のめっき層を実現させるため、めっき面に対して触媒活性層を形成させる。具体的には、表3に示すような塩化パラジウム等を用いて高触媒活性を示すパラジウム(Pd)核を表面に析出させる。
【0027】
【表3】
【0028】
前述しためっき下地処理を完了させることによって、本発明の高速信号伝送ケーブルに係るシールド層の形成をめっき法で行う準備が整う。銅めっき成膜として、最初は、触媒活性な銅の析出反応を利用した化学的プロセスである外部電源不要の無電解めっき法を適用する。浸漬時間に応じて任意の厚さの銅薄膜を得ることができる。この段階で次に行う電解めっきのためのケーブル被覆樹脂の絶縁体の導電化が完了する。次に、電解めっき法を行うことによって、本発明に係る銅めっきシールドの高速伝送ケーブルが完成する。
尚、表3に具体的な記載はないが、本工程例における各工程の間においては、純水で洗浄(超音波洗浄、揺動洗浄、流水洗浄等)を行っており、前工程の薬剤残留が原因の不良が発生しないように配慮した製造プロセスとなっている。
【実験例】
【0029】
次に、実験例1〜8に係る高速信号伝送用ケーブルについて説明する。
まずは、高密度ポリエチレンまたはFEPで形成された絶縁体層12で2芯を一纏めにしてなる2芯一括押出ケーブルを用意した。平均粒子径5μmのショットを含むスラリーを高圧エアによって吹き付けて粗化するウエットブラスト法により、2芯一括押出しケーブルの絶縁体層12の表面の粗化を行った。粗化工程後の絶縁体層12の表面に対して、放電電圧12.5kV及びケーブルとプローブの相対速度10mm/secの条件下で表面改質を行った。粗化工程及び表面改質工程実施後の絶縁体層12の表面のめっき処理液の濡れ性について評価を行った。濡れ性の評価結果は、めっき成膜時の処理液が表面全体に濡れて保持されたものを◎、欠落部分の面積が10%以下のものを○、10%超欠落したものを×とした。これらの実験結果のまとめを表4に示す。この結果から、表面粗さRzJISが0.1μm以上の時にめっき処理液を保持することができ、より好ましくは0.2μm以上であることが分かった。
【0030】
【表4】
【0031】
絶縁体層12には高密度ポリエチレンを用い、導体は銀めっきが施された銅線を適用した高速信号伝送用ケーブルの断面図を図3に示す。絶縁体層12の周囲に均一且つ空隙が形成されることなく銅めっきシールド層13が形成され、またその厚みも3μm〜4μmと良好なものとなっており、めっき工程で処理液が十分に濡れ、更に保持されたことがわかる。
【0032】
表面が粗化された絶縁体層12上にめっき膜を形成している。そのため、めっきシールド層13の内側に位置する、めっき膜の表面も、絶縁体層12の表面に対応する凹凸が形成されている。高周波の信号は、導体の表皮効果によって、導体表面だけを流れるので、めっきシールド層13の内側、すなわち、粗化面を流れる。このため、高周波の信号が粗化面を流れることによって減衰量が増加してしまう。そこで、絶縁体層12の表面粗さの上限値を求めた。
ここで、RzJISで1.3μm(実験例9)、1.5μm(実験例10)の表面粗さを有する絶縁体層12上にCuめっき膜を形成した高速信号伝送用ケーブルと、図5に示す銅箔テープを巻き付けてなるシールド層15を備えた、従来の高速信号伝送用ケーブル(実験例11)とを用いて伝送特性を比較した。この比較結果を図4に示す。
【0033】
10GHzまでの領域では実験例9〜11の損失は同程度である。しかし、実験例10と実験例11とを比較して、20GHzの領域では1dB/mの損失増加が見られる。この損失増加は、絶縁体層12の表面を粗化したことが原因であることから、表面粗さはこれ以上増加させることはできない。従って、絶縁体層12の表面粗さは、RzJISで1.5μm以下までとなる。
また、絶縁体層12の表面粗さの下限値は、粗化によるめっき膜の密着性向上効果が得られるように、0.1μmとすればよい。
【0034】
上記の実験例においては、表面粗化工程後に表面改質工程を実施した。これは、表面改質工程後に表面粗化工程を実施すると、粗化によって表面改質されていない絶縁体層12が露出する(表面改質された、絶縁体層12の表面近傍が削り取られる)と、露出部分において良好な濡れ性が得られないからである。つまり、本実験例においては、絶縁体層12の粗化された表面すべてが改質されている。
【0035】
以上、本発明の実施の形態及び実験例を説明したが、本発明は、上記実験の形態及び実験例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。例えば、信号伝送ケーブルは、上記実験の形態に示したものに限られない。例えば、同軸ケーブルについても本発明を適用することができる。
【0036】
また、上記に記載した実験の形態及び実験例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実験の形態及び実験例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0037】
1 高速信号伝送用ケーブル
11 芯線
12 絶縁体層
13 めっきシールド層
14 小穴
15 シールド層
図1
図2
図3
図4
図5