(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1乃至
図11に、本発明に係る減肉量の予測方法、予測装置、及び予測プログラムの実施形態の一例を示す。
【0020】
ここで、本発明が用いられて減肉量の予測が行われる対象物(「管理対象物」という)は、特定のものに限定されるものではなく、例えば、建物等の建築構造物,プラント等の機械構造物,車両等の製品,配管等の構成部材や部品などが挙げられる。
【0021】
本実施形態では、管理対象物(尚、状態の管理対象であると共に減肉量の予測対象である部材)が発電用ボイラの水冷壁管である場合を例に挙げて説明する。
【0022】
また、或る管理対象物に関する三次元形状の計測や減肉量の予測は一定の若しくは不定の間隔で行われ、連続番号N(但し、N=1,2,3,…(即ち、自然数))を用いて或る管理対象物の所定の同一箇所・範囲に関して時系列で行われる減肉量の予測の序次としての回を表すものとし、時系列で行われる各予測を「予測N回目」と表記する。
【0023】
三次元形状の計測が行われたり減肉量の予測の目標とされたりする時機も、上記減肉量の予測の序次としての回を表す連続番号N(但し、N=1,2,3,…(即ち、自然数))を用いて表すものとし、時系列における各時機を「管理時点<N>」と表記する。
【0024】
上記各予測と各時機とは、「管理時点<N>において行われた計測結果が用いられて実行される管理時点<N+1>を目標とする予測」が「予測N回目」に該当するという関係になる。
【0025】
本実施形態の減肉量の予測方法は、管理時点<1>について、複数の位置認識用ターゲット2とこれら複数の位置認識用ターゲット2が取り付けられると共に位置認識用ターゲット2同士の間に空隙5が形成されているターゲット支持体3とを有する位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置された(S1−1)状態で、管理対象物の表面へと向けて光照射部から計測光が出射すると共に位置標定具1の位置認識用ターゲット2と管理対象物の表面に形成された錐体状の位置基準打痕10を含む管理対象物の表面へと照射された計測光とが一対の受光部で撮影されて(S1−8)一対の受光部で撮影された計測光から位置基準打痕10の形状及び管理対象物の表面の形状が認識され(S1−9,1−10)、管理対象物の表面を構成する部材の肉厚が実測され(S1−7)、管理対象物の表面を構成する部材の設計寸法に基づいて当該部材の表面の形状及び裏面の形状が特定され(S1−11)、管理対象物の表面を構成する部材の肉厚が実測された位置に於いて撮影によって認識された管理対象物の表面の形状から肉厚の分だけ離れた位置に設計寸法に基づいて特定された管理対象物の表面を構成する部材の裏面の位置が合わせられることによって設計寸法に基づいて特定された管理対象物の表面を構成する部材の裏面に対して撮影によって認識された管理時点<1>における管理対象物の表面の形状が配置され(S1−12)、管理時点<N>について(但し、Nは2以上)、位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置された(S2−1)状態で、管理対象物の表面へと向けて光照射部から計測光が出射すると共に位置標定具1の位置認識用ターゲット2と管理対象物の表面に形成された位置基準打痕10を含む管理対象物の表面へと照射された計測光とが一対の受光部で撮影されて(S2−4)一対の受光部で撮影された計測光から位置基準打痕10の形状及び管理対象物の表面の形状が認識され(S2−5,2−6)、位置基準打痕10の管理対象物の表面に於ける開口部13の形状の管理時点<N−1>から管理時点<N>までの変化に基づいて当該位置基準打痕10の形成箇所に於ける減肉量が特定され(S2−7)、位置基準打痕10が形成された位置に於いて撮影によって認識された管理時点<N−1>における管理対象物の表面の形状から減肉量の分だけずらした位置に撮影によって認識された管理時点<N>における管理対象物の表面の形状が配置された状態で管理時点<N−1>における管理対象物の表面の形状と管理時点<N>における管理対象物の表面の形状との差分が計算されて減肉量の分布が算定され(S2−8)、管理時点<N>における管理対象物の表面の形状から減肉量の分布が差し引かれることによって管理時点<N+1>における管理対象物の表面の形状が予測される(S2−9)ようにしている(
図1及び
図2参照)。
【0026】
上記減肉量の予測方法は本発明に係る減肉量の予測装置によって実施され得る。本実施形態の減肉量の予測装置は、管理時点<1>について、複数の位置認識用ターゲット2とこれら複数の位置認識用ターゲット2が取り付けられると共に位置認識用ターゲット2同士の間に空隙5が形成されているターゲット支持体3とを有する位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置された状態で、管理対象物の表面へと向けて光照射部から計測光が出射すると共に位置標定具1の位置認識用ターゲット2と管理対象物の表面に形成された錐体状の位置基準打痕10を含む管理対象物の表面へと照射された計測光とが一対の受光部で撮影されて一対の受光部で撮影された計測光から認識された位置基準打痕10の形状及び管理対象物の表面の形状と、管理対象物の表面を構成する部材が実測されて取得された肉厚と、管理対象物の表面を構成する部材の設計寸法に基づいて特定された当該部材の表面の形状及び裏面の形状とを用いて、管理対象物の表面を構成する部材の肉厚が実測された位置に於いて撮影によって認識された管理対象物の表面の形状から肉厚の分だけ離れた位置に設計寸法に基づいて特定された管理対象物の表面を構成する部材の裏面の位置が合わせられることによって設計寸法に基づいて特定された管理対象物の表面を構成する部材の裏面に対して撮影によって認識された管理時点<1>における管理対象物の表面の形状を配置する手段としてのデータ結合部21aと、管理時点<N>について(但し、Nは2以上)、位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置された状態で、管理対象物の表面へと向けて光照射部から計測光が出射すると共に位置標定具1の位置認識用ターゲット2と管理対象物の表面に形成された位置基準打痕10を含む管理対象物の表面へと照射された計測光とが一対の受光部で撮影されて一対の受光部で撮影された計測光から認識された位置基準打痕10の形状及び管理対象物の表面の形状を用いて、位置基準打痕10の管理対象物の表面に於ける開口部13の形状の管理時点<N−1>から管理時点<N>までの変化に基づいて当該位置基準打痕10の形成箇所に於ける減肉量を特定する手段としての減肉量算定部21dと、位置基準打痕10が形成された位置に於いて撮影によって認識された管理時点<N−1>における管理対象物の表面の形状から減肉量の分だけずらした位置に撮影によって認識された管理時点<N>における管理対象物の表面の形状が配置された状態で管理時点<N−1>における管理対象物の表面の形状と管理時点<N>における管理対象物の表面の形状との差分が計算されて減肉量の分布を算定する手段としての減肉量分布算定部21eと、管理時点<N>における管理対象物の表面の形状から減肉量の分布が差し引かれることによって管理時点<N+1>における管理対象物の表面の形状を予測する手段としての形状予測部21fとを有する。
【0027】
上記減肉量の予測方法及び減肉量の予測装置は、減肉量の予測プログラムがコンピュータ上で実行されることによっても実施・実現され得る。ここでは、減肉量の予測プログラムがコンピュータ上で実行されることによって減肉量の予測方法が実施されると共に減肉量の予測装置が実現される場合を説明する。
【0028】
本実施形態の減肉量の予測プログラム27を実行するためのコンピュータ20(本実施形態では、減肉量の予測装置20でもある)の全体構成を
図3に示す。
【0029】
このコンピュータ20(減肉量の予測装置20)は制御部21,記憶部22,入力部23,表示部24,及びメモリ25を備え、これらが相互にバス等の信号回線によって接続されている。
【0030】
制御部21は、記憶部22に記憶されている減肉量の予測プログラム27に従ってコンピュータ20全体の制御並びに減肉量の予測に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0031】
記憶部22は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0032】
入力部23は、少なくとも作業者の命令や種々の情報を制御部21に与えるためのインターフェイス(即ち、情報入力の仕組み)であり、例えばキーボードやマウスである。なお、例えばキーボードとマウスとの両方のように複数種類のインターフェイスを入力部23として有するようにしても良い。
【0033】
表示部24は、制御部21の制御によって文字や図形或いは画像等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0034】
メモリ25は、制御部21が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0035】
そして、コンピュータ20(以下、「減肉量の予測装置20」と表記する)の制御部21には、減肉量の予測プログラム27が実行されることにより、管理時点<1>について、複数の位置認識用ターゲット2とこれら複数の位置認識用ターゲット2が取り付けられると共に位置認識用ターゲット2同士の間に空隙5が形成されているターゲット支持体3とを有する位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置された状態で、管理対象物の表面へと向けて光照射部から計測光が出射すると共に位置標定具1の位置認識用ターゲット2と管理対象物の表面に形成された錐体状の位置基準打痕10を含む管理対象物の表面へと照射された計測光とが一対の受光部で撮影されて一対の受光部で撮影された計測光から認識された位置基準打痕10の形状及び管理対象物の表面の形状と、管理対象物の表面を構成する部材が実測されて取得された肉厚と、管理対象物の表面を構成する部材の設計寸法に基づいて特定された当該部材の表面の形状及び裏面の形状とを用いて、管理対象物の表面を構成する部材の肉厚が実測された位置に於いて撮影によって認識された管理対象物の表面の形状から肉厚の分だけ離れた位置に設計寸法に基づいて特定された管理対象物の表面を構成する部材の裏面の位置が合わせられることによって設計寸法に基づいて特定された管理対象物の表面を構成する部材の裏面に対して撮影によって認識された管理時点<1>における管理対象物の表面の形状を配置する処理を行うデータ結合部21aと、管理時点<N>について(但し、Nは2以上)、位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置された状態で、管理対象物の表面へと向けて光照射部から計測光が出射すると共に位置標定具1の位置認識用ターゲット2と管理対象物の表面に形成された位置基準打痕10を含む管理対象物の表面へと照射された計測光とが一対の受光部で撮影されて一対の受光部で撮影された計測光から認識された位置基準打痕10の形状及び管理対象物の表面の形状を用いて、位置基準打痕10の管理対象物の表面に於ける開口部13の形状の管理時点<N−1>から管理時点<N>までの変化に基づいて当該位置基準打痕10の形成箇所に於ける減肉量を特定する処理を行う減肉量算定部21dと、位置基準打痕10が形成された位置に於いて撮影によって認識された管理時点<N−1>における管理対象物の表面の形状から減肉量の分だけずらした位置に撮影によって認識された管理時点<N>における管理対象物の表面の形状が配置された状態で管理時点<N−1>における管理対象物の表面の形状と管理時点<N>における管理対象物の表面の形状との差分が計算されて減肉量の分布を算定する処理を行う減肉量分布算定部21eと、管理時点<N>における管理対象物の表面の形状から減肉量の分布が差し引かれることによって管理時点<N+1>における管理対象物の表面の形状を予測する処理を行う形状予測部21fとが構成される。
【0036】
以下に、まず、本発明において用いられ得る計測手段及び位置標定具を説明する。
【0037】
《計測手段》
計測手段は、例えば三角測量法を測定原理とし、管理対象物へと向けてレーザ等の計測光を照射すると共に当該計測光が管理対象物の表面で反射した反射光を検出することによって得られるデータを用いて三次元形状を計測する(言い換えると、管理対象物の表面の三次元形状に関するデータを取得する)非接触式の計測器である。
【0038】
三角測量法は、管理対象物へと向けて照射されたレーザ等の光が反射してレンズを通してCCD(Charge Coupled Device の略;電荷結合素子)などに結像されるときの結像位置の情報を基に点群データ(即ち、対象物表面の座標データ)を取得する手法であり、結像位置は対象物までの距離によって異なることを利用して結像位置から対象物までの距離を幾何学的に算出する手法である(例えば、吉澤徹「最新光三次元計測」,朝倉書店,2006年)。
【0039】
計測手段は、光照射部と、相互に離間して配設される一対の受光部とを有し、前記一対の受光部がステレオカメラを構築するように構成される。光照射部及び一対の受光部は、例えば、相互に離間して配設される一対の受光部の間に光照射部が配置され、一方の受光部,光照射部,及び他方の受光部の順に一列に並んで配置されることが考えられる。
【0040】
光照射部は、例えば半導体レーザなどの光源を有し、計測光としてラインレーザなどを出射する。
【0041】
一対の受光部は、各々が例えばCCDなどの受光素子を有し、撮影を行うことによって同一の被写体に対する(言い換えると、同一の被写体の像を含む)ステレオ画像(「ステレオペア画像」とも呼ばれる)を取得する。
【0042】
計測手段は、移動しながら動画撮影を行い、管理対象物の表面を複数の方向から撮影した動画を構成する各齣としての複数枚の静止画であって各々が同一の被写体に対する(言い換えると、同一の被写体の像を含む)ステレオ画像になっている画像データを取得する。なお、複数の方向から撮影した画像データが取得されるのであれば、必ずしも動画撮影が行われる必要は無く、静止画の撮影が複数回行われるようにしたり、静止画の連続撮影(「連写」とも呼ばれる)が行われるようにしたりしても良い。
【0043】
計測手段としては、例えば、管理対象物における、計測の対象とされている表面(「計測表面」と呼ぶ)の全体に対して手で持って動かしながら計測に用いられる光を照射させることができる態様の機器(具体的には例えば、「ハンディスキャナ」,「ハンディ3Dスキャナ」,或いは「ハンディ型3Dスキャナ」などと呼ばれるタイプの機器)が用いられる。
【0044】
《位置標定具》
位置標定具1は、複数の位置認識用ターゲット2と、これら位置認識用ターゲット2が取り付けられるターゲット支持体3と、当該ターゲット支持体3を管理対象物の表面へと取り付けるための取付具4とを有するものとして構成され、可搬型で移動可能な器具として形成される。
【0045】
位置認識用ターゲット2は、光を反射する部分(「反射部」と呼ぶ)を備え、管理対象物と計測手段(延いては、一対の受光部それぞれの受光素子における受光位置/結像位置)との相対的な位置関係を常時特定するために用いられるものであり、計測手段を動かしながら撮影/計測が行われることによって取得される計測データを管理対象物の表面形状に関する一つの点群データとして合成する際の基準点として機能するものである。
【0046】
位置認識用ターゲット2は、特定の形状や大きさに限定されるものではないものの、不必要に大きいと管理対象物の表面を撮影/計測する際に障害物となるので、位置認識用ターゲット2として必要とされる機能を発揮し得る範囲で小さい方が好ましい。
【0047】
位置認識用ターゲット2は、各位置認識用ターゲット2を相互に区別し個別に識別して特定するためのID情報(即ち、位置認識用ターゲット2それぞれに固有の情報)として、位置認識用ターゲット2それぞれに固有の光の反射パターンを有する。
【0048】
光の反射パターンは、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、反射部の形状,個数,大きさなどが異なることによって相互に区別され得るものとして構成されるようにしたり、複数の反射部の配置・配列の仕方が異なることによって相互に区別され得るものとして構成されるようしたりする。
【0049】
なお、位置認識用ターゲット2のID情報としての仕様(言い換えると、仕掛け)は、光の反射パターンに限定されるものではなく、撮像された画像内で(特に、光学的に)認識・検出されて複数の位置認識用ターゲット2を相互に区別し個別に識別して特定するための識別子として機能し得る適当な仕様(仕掛け)が適宜選択され得る。具体的には例えば、反射光の波長が位置認識用ターゲット2のID情報として利用されるようにしても良い。
【0050】
位置標定具1に取り付けられている位置認識用ターゲット2それぞれのID情報としての例えば光の反射パターンや反射光の波長は、後述する画像処理・画像認識において利用可能な態様で予め記録・登録される。
【0051】
位置認識用ターゲット2は、ターゲット支持体3が管理対象物の表面に取り付けられた状態において反射部を備える面が前記管理対象物とは反対側に向くように、そして管理対象物の表面へと向けて計測手段から出射される光を反射し得るように、ターゲット支持体3へと取り付けられる。
【0052】
ターゲット支持体3へと取り付けられた状態での、隣り合う位置認識用ターゲット2同士の間隔の寸法は、特定の値に限定されるものではなく、例えば計測に用いられる計測手段の仕様や計測作業の態様が考慮されるなどした上で、計測の間中常に複数の位置認識用ターゲット2の像が同時に撮像範囲(言い換えると、撮像される各画像の範囲)に含まれるように調節される。
【0053】
なお、隣り合う位置認識用ターゲット2同士の間隔は、全ての間隔において寸法が同一である必要は無く、上記のようにして調節されて設定された値を最大の寸法としつつ不揃いであっても構わない。付け加えると、位置認識用ターゲット2は、特定の極りに従って規則正しく配列される必要は無く、最大の寸法を超えない限りにおいて無作為であって構わない。
【0054】
ターゲット支持体3は、管理対象物の表面の、計測表面に対応する位置(言い換えると、計測表面と重なる位置)に取り付けられ、計測が行われる間中、管理対象物の計測表面に対して位置認識用ターゲット2を位置固定して保持する働きをする。
【0055】
ターゲット支持体3は、特定の形状や大きさに限定されるものではなく、例えば管理対象物の表面、特に計測表面の形状や大きさなどが考慮されるなどした上で、適当な形状や大きさに形成される。
【0056】
ターゲット支持体3は、具体的には例えば、あくまで例として挙げると、縦横の辺の長さが10 cm 〜20 m 程度の範囲に設定された矩形(例として
図4を参照)や、直径が10 cm 〜20 m 程度の範囲に設定された円形(例として
図5を参照)に形成され得る。
【0057】
ターゲット支持体3は、例えば管理対象物の表面の形状に合わせる(言い換えると、沿わせる)ことが考慮されるなどして、平面的な形態として形成されるようにしても良く、或いは、曲面的/立体的な形態として形成されるようにしても良い。
【0058】
具体的には例えば、ターゲット支持体3は、管理対象物の周囲全体を取り囲む形態に形成されるようにしても良く(例として
図6を参照)、また、管理対象物の側面をL字で囲む形態に形成されるようにしても良い(例として
図7を参照)。
【0059】
ターゲット支持体3は、位置認識用ターゲット2を位置固定して保持しつつ、撮影/計測を行うために計測手段から出射される光が管理対象物の計測表面へと照射され得るように、位置認識用ターゲット2同士の間に空隙5が設けられて形成される。
【0060】
ターゲット支持体3の空隙5は、例えば、ターゲット支持体3が格子状や網状に構成されることによって形成されたり(例として
図4を参照)、相互に直径が異なる複数の環状の部材が同心円状に配置された上で一本若しくは複数本の棒状部材によって前記複数の環状の部材が相互に固定されることによってターゲット支持体3が構成されることによって形成されたり(例として
図5を参照)する。
【0061】
ターゲット支持体3の材質は、特定の種類に限定されるものではなく、位置認識用ターゲット2を固定して保持することができる程度の強度を有するものであることが考慮されるなどした上で、適当なものが適宜選択される。
【0062】
ターゲット支持体3は、管理対象物の表面に取り付けられた状態で、撮影/計測が行われる間中その形状を維持し得るものとして構成される。したがって、ターゲット支持体3自体が剛体として形成されるようにしても良く、或いは、ターゲット支持体3が可撓性を備えるものとして形成された上でターゲット支持体3が取付具4によって管理対象物の表面へと取り付けられた状態でその取り付け状態の形状が維持されるようにしても良い。
【0063】
ターゲット支持体3は、具体的には例えば、金属,木,樹脂,テグスなどによって形成され得る。
【0064】
ターゲット支持体3の態様、延いては位置標定具1の態様に関連し、ターゲット支持体3を含む位置標定具1は、管理対象物の表面へと取り付けられる際の形態のまま運搬が行われるようにしても良く、或いは、折り畳まれたり巻き取られたりして運搬が行われるようにしても良い。
【0065】
ターゲット支持体3は、管理対象物の表面へと、取付具4を介して取り付けられる(言い換えると、据え付けられる,付着させられる,設置される)。
【0066】
取付具4は、例えば管理対象物の計測表面部分の部材の材料(言い換えると、材質)とターゲット支持体3の材料(材質)とが勘案されて計測表面部分の部材に対してターゲット支持体3を着脱可能に固定し得ることが考慮されるなどした上で、適当な材質で適当な態様に形成される。
【0067】
取付具4として、具体的には例えば、管理対象物とターゲット支持体3とがどちらも磁性を有する材質である場合には、磁石が用いられるようにしても良い。取付具4として、或いは、両面テープや吸盤が用いられるようにしても良い。
【0068】
なお、計測表面の全体にわたって欠落の無い表面位置データ(即ち、点群データ)が取得されるようにするため、ターゲット支持体3の大きさと共に取付具4の配設位置が、計測表面の外側に取付具4が配置されるように調節されることが好ましい。
【0069】
計測表面の全体にわたって欠落の無い表面位置データ(即ち、点群データ)が取得されるようにするため、言い換えると、計測表面の外側に取付具4が配置されるようにするため、取付具4は、ターゲット支持体3の端部に配設されるようにし、ターゲット支持体3の端部よりも内側に入り込んだ位置には配設されないようにすることが好ましい。
【0070】
位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置された状態で撮影/計測が行われると、計測手段と計測表面との間に本来的な計測対象ではない位置標定具1(特に、位置認識用ターゲット2やターゲット支持体3)が存在することになり、計測手段から管理対象物の表面へと向けて照射される光が位置標定具1で反射して計測結果に位置標定具1の像が含まれることになる。
【0071】
このとき、位置認識用ターゲット2やターゲット支持体3が管理対象物の計測表面に密着したり近接したりするように取り付けられると、計測手段からみて位置認識用ターゲット2やターゲット支持体3の後ろ側(特に、真後ろ)の部分は計測することができず計測表面に関する表面位置データ(即ち、点群データ)を取得することができない。
【0072】
そこで、位置認識用ターゲット2が取り付けられているターゲット支持体3が管理対象物の表面から離された状態で設置されるようにすることにより、計測表面の全体にわたって欠落の無い表面位置データ(即ち、点群データ)を取得することができるようにする。
【0073】
具体的には例えば、取付具4が所望の寸法及び形状を有するものとして形成されることにより、管理対象物の表面から離された状態でターゲット支持体3が設置されるようにし、当該ターゲット支持体3と共に位置認識用ターゲット2が管理対象物の表面から離された状態で固定されるようにすることができる。
【0074】
また、ターゲット支持体3が立体的な形態を有するものとして形成されることにより、管理対象物の計測表面と重なる範囲では、管理対象物の表面から離された状態でターゲット支持体3が位置するようにし、当該ターゲット支持体3と共に位置認識用ターゲット2が管理対象物の表面から離された状態で固定されるようにすることができる。
【0075】
管理対象物の表面(特に、計測表面)とターゲット支持体3及び位置認識用ターゲット2との間の間隔は、特定の寸法に限定されるものではなく、例えば計測に用いられる計測手段の仕様(特に、光照射部及び一対の受光部の仕様・性能)が考慮されるなどした上で、計測手段から出射される光がターゲット支持体3の位置認識用ターゲット2同士の間に形成されている空隙5を通過してターゲット支持体3や位置認識用ターゲット2の後ろ側の計測表面へと斜めに入り込んで撮影/計測が行われ得るように、適当な寸法に適宜設定される。管理対象物の表面(特に、計測表面)とターゲット支持体3との間の間隔は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、0.1〜20 cm 程度の範囲で設定され得る。
【0076】
また、上述したように位置標定具1が管理対象物の表面へと設置された状態で撮影/計測が行われると計測結果に位置標定具1の像が含まれることになるものの、管理対象物の表面から離された状態でターゲット支持体3及び位置認識用ターゲット2が設置されるようにすることにより、管理対象物の表面から所定の距離だけ離れている表面位置データ(即ち、点群データ)は位置標定具1に該当するものであるとして所定の基準に従って機械的に取り除くことができ、表面形状データの作成の処理を効率的に行うことができるようになる。
【0077】
《減肉量予測》
例えば上述の計測手段及び位置標定具が用いられるなどして管理対象物の三次元形状の計測が行われ、その上で管理対象物における減肉量の予測が行われる。
【0078】
本発明に係る減肉量の予測方法の実施の手順は、予測1回目と予測2回目以降とで異なる。
【0079】
(1)予測1回目
はじめに、予測1回目(即ち、管理時点<1>において行われた計測結果が用いられて実行される管理時点<2>を目標とする予測)についての、減肉量の予測方法の実施の手順、また、減肉量の予測装置における処理の手順を説明する(
図1参照)。
【0080】
まず、位置標定具1が、管理対象物の表面の、計測表面に対応する位置に取り付けられて設置される(S1−1)。
【0081】
なお、一連の撮影作業として行う際に、管理対象物の表面に対し、位置標定具1が一つのみ設置されるようにしても良く、或いは、位置標定具1が複数設置されるようにしても良い。
【0082】
続いて、位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置された状態で、位置認識用ターゲット2が計測手段の一対の受光部(即ち、ステレオカメラ)によって撮像される(S1−2)。
【0083】
S1−2の処理では、計測手段の光照射部からラインレーザなどの形状計測に用いられる計測光が出射される必要は無く、一方で、各位置認識用ターゲット2の反射部が鮮明に反射して各位置認識用ターゲット2からの反射光が計測手段の受光部によって適切に受光されるように照明光(具体的には例えば、LED光)が出射されるようにしても良い。
【0084】
計測手段による位置認識用ターゲット2の撮影・撮像により、各位置認識用ターゲット2の像を被写体として含み、且つ、各画像に含まれている位置認識用ターゲット2を基準点として重ね合わせて(言い換えると、連ねて,繋げて)合成することができるステレオ画像(ステレオペア画像)の一群が取得される。
【0085】
そして、取得されたステレオ画像のデータが用いられて、例えば画像処理・画像認識技術によって(特に、光学的に処理されて)位置認識用ターゲット2のID情報が利用されつつ各画像内に含まれている各位置認識用ターゲット2の像が抽出され個別に識別されて特定されると共に、各位置認識用ターゲット2の三次元位置座標が特定される、言い換えると、管理対象物の計測表面に対応する空間に、個別に識別されている各位置認識用ターゲット2が基準として用いられる三次元座標系が定義される(尚、原点は任意に定められる)(S1−3)。ここでの三次元位置座標は、平面位置(x,y)と高さ(z)とからなる直交座標系における位置座標であり、例えば(x,y,z)のように表現される。
【0086】
なお、ステレオ画像(ステレオペア画像)を用いて三次元位置座標を算定する手法は、特定の計算方法に限定されるものではなく、従来若しくは新規の計算方法の中から適当なものが適宜選択される。具体的は例えば、三角測量法を測定原理として空間演算が行われて各位置認識用ターゲット2の三次元位置座標が計算されるようにしても良い。本発明の説明における他の処理で行われる空間演算でも、具体的には例えば三角測量法を測定原理とする演算が行われて三次元の位置情報が計算される。
【0087】
次に、後述するS1−7の処理において肉厚が実測される箇所に、肉厚実測箇所を示すためのマーカ(「肉厚実測マーカ」と呼ぶ)が取り付けられる(S1−4)。
【0088】
肉厚実測マーカは、撮像された画像内において例えば光学的に抽出され把握され易いものであれば良く、例えば位置認識用ターゲット2と同様のもの(但し、位置標定具1に取り付けられている位置認識用ターゲット2とは別個に更に取り付けられるもの)であっても良い。
【0089】
肉厚実測マーカは、管理対象物の計測表面に対応させて位置標定具1が設置された状態で、計測手段によって明瞭に撮像され得るように、つまり位置標定具1の後ろ側になって隠れない位置に、管理対象物の計測表面へと貼付などされることによって直接取り付けられる。
【0090】
肉厚実測マーカの個数(即ち、後述するS1−7の処理において肉厚が実測される箇所数)は、特定の個数に限定されるものではなく、一個でも良く、肉厚/減肉量の分布を精度良く求めるためには複数個であることが好ましい。
【0091】
そして、位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置されていると共に肉厚実測マーカが管理対象物の計測表面へと取り付けられた状態で、計測手段により、肉厚実測マーカとその周辺を対象として、光照射部からレーザ光(例えば、ラインレーザ)などの計測光が出射されると共に、照射された前記計測光(の反射光)と位置認識用ターゲット2とが同時に一対の受光部(即ち、ステレオカメラ)で撮像される(S1−5)。
【0092】
S1−3の処理で特定された各位置認識用ターゲット2の三次元位置座標の情報と、肉厚実測マーカとその周辺を対象とする計測表面上の計測光及び位置認識用ターゲット2の撮影によって取得されたステレオ画像とが用いられて、空間演算が行われて肉厚実測マーカの三次元位置座標が取得される(S1−6)。
【0093】
次に、肉厚実測マーカの取り付け位置に於ける肉厚の実測が行われる(S1−7)。
【0094】
肉厚は、後述するS1−12の処理において計測結果の表面形状データにおける裏面の位置を特定する際の基準(言い換えると、計測結果の表面形状データと設計形状データとを重ね合わせる際の基準)として用いられるものである。
【0095】
ここで、管理対象物における、計測表面とは反対側の形状を構成する面(言い換えると、計測表面と対向する面)であって計測表面からみて内側の面(即ち、計測手段による撮影/計測では認識され得ない面)のことを「裏面」と呼ぶ。
【0096】
肉厚が実測される箇所数(即ち、S1−4の処理において取り付けられる肉厚実測マーカの個数)は、特定の箇所数に限定されるものではなく、一箇所でも良く、肉厚/減肉量の分布を精度良く求めるためには複数箇所であることが好ましい。
【0097】
肉厚の実測では、肉厚実測マーカが取り付けられている箇所毎に、肉厚実測マーカが取り外されて当該肉厚実測マーカが取り付けられていた位置に於ける肉厚が実測される。
【0098】
肉厚を実測する際に用いられる機器や手法は、特定の機器や手法に限定されるものではなく、例えば実測作業の実施可能性や計測精度などが考慮されるなどした上で、接触式若しくは非接触式の計測機器・手法の中から適当なものが適宜選択される。肉厚の実測は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、超音波厚さ計が用いられて行われるようにしても良い。
【0099】
そして、本実施形態では、実測の結果得られた肉厚のデータがデータファイル等として記憶部22に記録・保存される(
図3において符号31)。
【0100】
なお、実測結果の肉厚データは、例えば、各種記録媒体に記録・保存されるようにしても良く、或いは、減肉量の予測装置20とバス等の信号回線によって接続されているデータサーバに記録・保存されるようにしても良い(尚、この取り扱いは、他のデータ32乃至34についても同様である)。
【0101】
次に、肉厚実測マーカは取り外されて位置標定具1のみが管理対象物の表面へと取り付けられて設置された状態で、計測手段により、光照射部から管理対象物の計測表面へと向けてレーザ光(例えば、ラインレーザ)などの計測光が出射されると共に、計測表面へと照射された前記計測光(の反射光)と位置認識用ターゲット2とが同時に一対の受光部(即ち、ステレオカメラ)で撮像される(S1−8)。
【0102】
S1−3の処理で特定された各位置認識用ターゲット2の三次元位置座標の情報と、計測表面上の計測光及び位置認識用ターゲット2の撮影によって取得されたステレオ画像とが用いられて、空間演算が行われて管理対象物の計測表面の三次元形状が認識される(具体的には、表面形状に関する三次元の点群データが取得される)(S1−9)。
【0103】
次に、取得された点群データが面形式のデータへと変換され、管理対象物の計測表面の三次元形状に相当するメッシュデータが作成される(S1−10)。
【0104】
なお、点群データを面形式のデータへと変換する手法は、特定の変換方法に限定されるものではなく、従来若しくは新規の変換方法の中から適当なものが適宜選択される。具体的は例えば、ドロネー三角形分割を演算原理として変換処理が行われて点群データが面形式のデータへと変換されるようにしても良い。
【0105】
このS1−10の処理で作成されるメッシュデータのことを「計測結果の表面形状データ」と呼ぶ。
【0106】
そして、本実施形態では、上述の処理によって作成された管理対象物に関する計測結果の表面形状データがデータファイル等として記憶部22に記録・保存される(
図3において符号32)。
【0107】
次に、設計寸法に基づく三次元形状データの作成が行われる(S1−11)。
【0108】
具体的には、管理対象物の計測表面を構成・形成している部材の、設計寸法に基づいて、三次元形状データ(具体的には例えば、CADサーフェースデータ、つまり、パラメトリック曲面で構成され厚さを有しない三次元形状データなど)が作成される。
【0109】
ここで、上述のS1−10までの処理によって作成される計測結果の表面形状データは、計測手段による撮影/計測において認識され得る面に関する形状データである。そこで、計測手段による撮影/計測において認識され得ない面に関する形状を、設計寸法に基づく三次元形状データを用いて補充・補完する。これにより、計測表面を構成・形成している部材について、計測表面に加えて側面・裏面や内部構造を含む、当該部材の構造そのもの全般を表す三次元構造データが作成される。
【0110】
なお、計測手段による撮影/計測において認識され得ない面は、主に、例えば表面に於ける腐食や摩耗等による減肉などに伴う変形が考慮される必要が無く形状計測の対象になっていない部分である。
【0111】
そして、設計寸法に基づく三次元形状データは、管理対象物を構成する部材の供用開始時における形状を表し、腐食や摩耗などによる減肉が生じていない元々の形状を表す。
【0112】
本実施形態では、上述の処理によって作成された管理対象物の計測表面を構成・形成している部材の設計寸法に基づく三次元形状データ(「設計形状データ」と呼ぶ)がデータファイル等として記憶部22に記録・保存される(
図3において符号33)。
【0113】
次に、S1−10の処理で作成された管理対象物に関する計測結果の表面形状データとS1−11の処理で作成された設計形状データとの結合が行われる(S1−12)。
【0114】
すなわち、計測結果の表面形状データと設計形状データとが重ね合わされて、計測結果の表面形状データとして作成されていない部分については設計形状データが適用されることにより、計測結果の表面形状データと設計形状データとが結合されて(言い換えると、組み合わされて)管理対象物の計測表面を構成・形成している部材に関して計測表面に加えて側面・裏面や内部構造を含む当該部材の構造そのもの全般を表す三次元構造データが作成される。
【0115】
ここで、計測結果の表面形状データは管理対象物の表面の形状に関する情報のみから構成され、設計形状データは管理対象物の表面の形状に関する情報と側面・裏面や内部構造の形状に関する情報とを有するものとして構成される。
【0116】
したがって、(裏面では腐食等による減肉が生じることがなく形状が変化しないと仮定される場合には、)計測結果の表面形状データについて裏面の位置が特定されれば、当該裏面の位置と設計形状データにおける裏面の位置とを合致させることにより、肉厚方向において計測結果の表面形状データと設計形状データとを正しい位置関係で重ね合わせることができ、計測結果の表面形状データにおける表面形状と設計形状データにおける側面・裏面や内部構造の形状とを結合させることができる。
【0117】
そこで、S1−7の処理において実測された肉厚実測マーカの取り付け位置に於ける実際の肉厚が利用されて、計測結果の表面形状データにおける表面の位置から、実測された肉厚の分だけ厚さ方向に離れた位置(言い換えると、ずれた位置)に設計形状データにおける裏面の位置を合わせることにより、計測結果の表面形状データと設計形状データとが正しい位置関係で重ね合わせられる。
【0118】
ここで、肉厚が実測された位置は肉厚実測マーカの取り付け位置であり、当該位置はS1−6の処理において位置座標が取得されている。したがって、S1−6の処理において取得された位置座標に於いて、計測結果の表面形状データにおける表面の位置から、実測された肉厚の分だけ厚さ方向に離れた位置(言い換えると、ずれた位置)に設計形状データにおける裏面の位置を合わせるようにすることにより、二つの形状データの重ね合わせが正確に行われるようになる。
【0119】
なお、厚さ方向と垂直な方向(言い換えると、垂直な面)についての位置合わせは、例えば画像内で抽出・把握し易い管理対象物の表面上の特徴的な部分や後述する位置基準打痕の位置が一致させられることによって行われる。
【0120】
裏面の位置が一致させられた状態で、計測結果の表面形状データにおける表面形状と設計形状データにおける側面・裏面や内部構造の形状(具体的には、計測結果の表面形状データにおける表面形状に相当する部分を除く形状)とが結合される。当該結合によって作り上げられる形状は、管理対象物の(言い換えると、管理対象物の表面を構成する部材の)計測表面に加えて側面・裏面や内部構造を含む当該部材の構造そのもの全般を表す三次元構造である。
【0121】
また、三次元構造データは、上述の通り、計測結果の表面形状データにおける表面の位置から、実測された肉厚の分だけ厚さ方向に離れた位置に設計形状データにおける裏面の位置が合わせられている。したがって、この状態における計測結果の表面形状データにおける表面と設計形状データにおける裏面との差(言い換えると、間隔)は、計測表面を構成・形成している部材の、管理時点<1>における肉厚の分布である。
【0122】
本実施形態では、制御部21のデータ結合部21aにより、記憶部22に保存されている実測結果の肉厚データ31が読み込まれる。
【0123】
なお、実測結果の肉厚データは、例えば、各種記録媒体に保存されている場合には当該記録媒体が減肉量の予測装置20の記録媒体接続用端子(図示していない)へと差し込まれて前記記録媒体から読み込まれるようにしても良く、或いは、減肉量の予測装置20とバス等の信号回線によって接続されているデータサーバに保存されている場合には前記信号回線を介して前記データサーバから読み込まれるようにしても良い(尚、この取り扱いは、他のデータ32乃至34についても同様である)。
【0124】
制御部21のデータ結合部21aにより、さらに、記憶部22に保存されている計測結果の表面形状データ32及び設計形状データ33が読み込まれる。
【0125】
そして、データ結合部21aにより、読み込まれた実測結果の肉厚データ31並びに計測結果の表面形状データ32及び設計形状データ33が用いられて、計測結果の表面形状データにおける表面の位置から、実測された肉厚の分だけ厚さ方向に離れた位置(言い換えると、ずれた位置)に設計形状データにおける裏面の位置が合わせられた上で、計測結果の表面形状データにおける表面形状と設計形状データにおける側面・裏面や内部構造の形状(具体的には、計測結果の表面形状データにおける表面形状に相当する部分を除く形状)とが結合されて三次元構造データ(具体的には例えば、CADソリッドデータ、つまり、パラメトリック曲面で構成され体積を有する三次元形状データなど)が作成される。
【0126】
作成された三次元構造データは、計測表面を構成・形成している部材に関する三次元構造データに係るデータファイル等として記憶部22に記録・保存される(
図3において符号34)。
【0127】
次に、管理対象物における温度分布が推定される(S1−13)。
【0128】
この処理では、上述のS1−12までの処理によって得られた管理対象物の三次元構造データに基づく形状(構造)が考慮・反映された定常熱伝導解析が行われて管理対象物に関する温度分布の推定が行われる。
【0129】
具体的には、上述のS1−12までの処理において計測の対象とされた計測表面を構成・形成している部材のうちの解析領域に関する、上述のS1−12の処理において作成された三次元構造データが用いられる。
【0130】
計測表面を構成・形成している部材から選定される解析領域の一例として、発電用ボイラの水冷壁管一本,軸方向長さ100 mm 程度の領域を
図8に示す。
【0131】
続いて、選定された解析領域についての解析メッシュが作成される。解析メッシュは、例えば、管理対象物の温度分布を詳細に推定するためには解析メッシュが計測表面の形状を可能な限り忠実に反映していることが望ましいことや、メッシュサイズを無闇に小さくすると要素数や節点数の増加によって計算時間の増加や解析領域の制限を招くことが考慮されるなどした上で、メッシュサイズが適当な大きさに適宜設定されて作成される。解析メッシュは、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、メッシュサイズが2 mm 程度に設定されて作成されることが考えられる。
【0132】
また、解析に用いられる条件として、解析領域に係る部材の熱伝導率,伝熱面における境界条件が設定される。本実施形態のように管理対象物が発電用ボイラの水冷壁管であって石炭焚きボイラが想定される場合には、伝熱面における境界条件として、炉内側熱流束[W/m
2],管内蒸気温度[℃],及び管内面熱伝達率[W/(m
2・K)]が設定される。
【0133】
また、解析領域に係る部材へと与えられる熱流束については、例えば、炉内側表面では輻射伝熱のみが考慮され、水冷壁に対して鉛直方向に発生する熱流束がモデル化されるために炉内側表面の入射角に応じて熱流束の値が調整されるようにしても良い(
図9参照)。また、管内面では対流熱伝達による伝熱がモデル化され、炉外側表面は断熱面とされるようにしても良い。
【0134】
解析に用いられる条件は、管理対象物や解析手法に応じて必要とされる項目が、例えば、減肉量の予測プログラム27内に予め規定されたり、データファイル等として記憶部22に記録・保存されて必要に応じて読み込まれたりする。
【0135】
本実施形態では、制御部21の温度分布推定部21bにより、記憶部22に保存されている三次元構造データ34が読み込まれる。
【0136】
そして、温度分布推定部21bにより、三次元構造データ34が用いられて解析領域についての解析メッシュが作成されると共に定常熱伝導解析が行われて管理対象物に関する温度分布が推定される。
【0137】
推定された温度分布は、管理対象物に関する温度分布の推定結果としてメモリ25に記憶させられる。
【0138】
次に、管理対象物における腐食減肉量が予測される(S1−14)。
【0139】
この処理では、S1−13の処理において推定された管理対象物に関する温度分布の推定結果が用いられて、腐食に伴う減肉量が予測される。
【0140】
腐食に伴う減肉量の予測には、例えば、腐食速度予測式(南島晋・森永雅彦:「還元性硫化腐食雰囲気における微粉炭火力ボイラ蒸発管材の腐食速度予測手法の提案―静止場ガス腐食雰囲気における腐食速度予測式―」,電力中央研究所報告 Q10019,2011年)が用いられ得る。
【0141】
上記の文献では、水冷壁管の還元性硫化腐食に対し、ボイラ内雰囲気のガス種から算出される見かけの酸素分圧と見かけの硫黄分圧との組み合わせによる分類で整理することで皮膜構造の異なる三つの領域(具体的には、I:硫化物生成が主体の領域,III:酸化物生成が主体の領域,及びII:IとIIIとの間の遷移領域)に分けることができることを明らかにした上で、以下の数式1に示す腐食速度予測式を用いて腐食に伴う減肉量を予測するようにしている。
【0142】
(数1) δ(t,T) = k・t
n = A・exp(−E
a/RT)・t
n
【0143】
数式1における各記号の意味は以下の通りである。
δ:推定減肉量[mm]
k:腐食速度定数[mm/h
n]
A:
図10のP
O2−P
S2相関図内の腐食領域毎に定まる定数[mm/h
n]
E
a:
図10のP
O2−P
S2相関図内の腐食領域毎に定まる見かけの活性化エネルギー[J/mol]
R:気体定数(=8.31[J/(mol・K)])
T:材料温度[K]
t:腐食時間[h]
n:
図10のP
O2−P
S2相関図内の腐食領域毎に定まる腐食速度則を示す指数
【0144】
数式1によると、腐食に伴う減肉量δは、温度Tと時間tとに依存する。したがって、S1−13の処理において推定された管理対象物(即ち、水冷壁管)に関する温度分布の推定結果、及び、管理時点<1>から管理時点<2>までの間について予想される運転時間を数式1に適用することによって腐食減肉量が予測される。
【0145】
ここで予測される減肉量は、管理時点<1>から管理時点<2>までの間において計測表面に於いて生じる減肉量の予測値である。したがって、S1−12の処理で作成される三次元構造データから把握される管理時点<1>における肉厚の分布から前記減肉量が差し引かれたものは、計測表面を構成・形成している部材の、管理時点<2>における予測としての肉厚の分布である。
【0146】
本実施形態では、制御部21の減肉量予測部21cにより、S1−13の処理においてメモリ25に記憶された管理対象物に関する温度分布の推定結果が読み込まれ、数式1が用いられて推定減肉量δが算定される。
【0147】
そして、算定された推定減肉量δの値や肉厚の分布は、予測1回目の結果として、必要に応じ、データファイル等として記憶部22に保存されたり、表示部24に表示されたりする。
【0148】
なお、数式1が用いて行われる予測1回目の減肉量の予測結果は、腐食による減肉量が対象であり、摩耗による減肉量は考慮されていない。
【0149】
(2)予測2回目以降
次に、予測2回目以降(即ち、管理時点<2>以降において行われた計測結果が用いられて実行される管理時点<3>以降を目標とする予測)についての、減肉量の予測方法の実施の手順、また、減肉量の予測装置における処理の手順を説明する(
図2参照)。
【0150】
《位置基準打痕》
予測2回目以降では、管理対象物の表面のうちの所定の計測表面(言い換えると、同一の範囲,同一の箇所)について計測を行うとき、前後の計測の合間に位置標定具1を一旦取り外す必要がある場合は、特定の箇所が時系列でどのように変化したかを把握するために、時点が異なる計測データ同士を正確に位置合わせした上で比較することが必要とされる。
【0151】
このため、位置合わせをする際の基準点として利用するため、
図11に示すように、凹部として最深の一点(言い換えると、頂点;
図11において符号11)を有すると共に当該最深の頂点11から管理対象物の表面9へと連なる傾斜面12を有する形状の、すなわち開口部13及び傾斜面12と最深の頂点11とを有する形状(「錐体状」と呼ぶ)の打痕(「位置基準打痕10」と呼ぶ)が形成される。
【0152】
位置基準打痕10は、特定の寸法に限定されるものではなく、例えば計測に用いられる計測手段の測定精度や複数の表面形状データにおける位置合わせ(言い換えると、複数の表面形状データの位置を合わせた上での重ね合わせ)の処理における便宜が考慮されるなどした上で、適当な寸法に適宜設定される。位置基準打痕10は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、最小寸法及び最大寸法が1〜10 mm 程度の範囲に設定されて形成され得る。
【0153】
位置基準打痕10は、管理対象物の所定の計測表面に対応させて位置標定具1が取り付けられて設置されて行われる撮影/計測において、その像が撮像範囲/計測範囲に含まれるようにする。
【0154】
そして、位置標定具1が一旦取り外された上で所定の期間が経過して上記所定の計測表面についての計測があらためて行われる際には、上記所定の計測表面に対応させて位置標定具1があらためて取り付けられて設置されて撮影/計測が行われる。
【0155】
この際、位置標定具1は、上記所定の計測表面を対象として既に行われた計測の際に位置標定具1が取り付けられた位置と同じ位置に取り付けられる必要は無く、更に言えば既に行われた計測の際に用いられた位置標定具1と同一の位置標定具1である必要は無いものの、上記所定の計測表面に対応づけられている位置基準打痕10の像が撮像範囲/計測範囲に含まれるように取り付けられて設置される。
【0156】
管理対象物の表面9に錐体状の位置基準打痕10が形成されると共に当該位置基準打痕10が表面形状と一緒に撮影/計測されて撮像された画像内で認識・検出されることにより、錐体状の凹部における最深の頂点11が位置の基準として用いられて、例えば時点が異なる計測結果の表面形状データ同士の位置合わせが正確に行われて表面形状データ同士の比較が適切に行われるようになる。
【0157】
管理対象物の表面9に錐体状の位置基準打痕10が形成されると共に当該位置基準打痕10が表面形状と一緒に撮影/計測されて撮像された画像内で認識・検出されることにより、さらに、当該位置基準打痕10の形成箇所に於ける管理対象物の表面9の腐食や摩耗などによる減肉の状況が把握され得るようになる。
【0158】
具体的には、例えば位置基準打痕10が形成される際に用いられた器具の形状や実際に形成された位置基準打痕10の計測結果などに基づいて、位置基準打痕10の、管理対象物の表面9に於ける開口部13の(言い換えると、平面視における,開口面視における)所定箇所の寸法Lや面積Sと管理対象物の表面9から位置基準打痕10の最深の頂点11までの寸法Dとの間の関係が特定される。
【0159】
そして、計測された位置基準打痕10'の、管理対象物の表面9に於ける開口部13'の所定箇所の寸法Lmや面積Smに対応する管理対象物の表面9から位置基準打痕10'の最深の頂点11までの寸法Dmが算定されることにより、寸法Dと寸法Dmとの差分dが管理対象物の表面9における腐食や摩耗などによる減肉量として求められる。
【0160】
図11に示す例では所定箇所の寸法L,Lmとして開口部13,13'の四角形の辺の長さが用いられるようにしているが、上記所定箇所の寸法として他の箇所の寸法が用いられるようにしても良い。上記所定箇所の寸法として、具体的には例えば、対角線の長さが用いられるようにしても良く、或いは、各角から最深の頂点11までの寸法が用いられるようにしても良い。
【0161】
また、
図11に示す例では開口部13,13'の形状が四角形であるようにしているが、開口部の形状は他の形状であっても良い。開口部の形状は、具体的には例えば、三角形や五角以上の多角形でも良く(即ち、位置基準打痕が三角錐や多角錐の形状に相当する凹部として形成される)、或いは、円形でも良い(即ち、位置基準打痕が円錐の形状に相当する凹部として形成される)。なお、開口部の形状が、種々の多角形である場合には上記所定箇所の寸法として辺の長さや各角から最深の頂点までの寸法が用いられるようにしたり、円形である場合には上記所定箇所の寸法として直径が用いられるようにしたりすることが考えられる。
【0162】
管理対象物の表面9に形成される位置基準打痕10の個数は、特定の個数に限定されるものではなく、管理対象物の所定の計測表面を対象として位置標定具1が設置されて行われる撮影/計測作業によって取得される、取得時点が異なる複数の表面形状データの位置合わせをするのに適当な個数に適宜設定される。
【0163】
具体的には例えば、管理対象物の表面9上に経年によっては変化せず且つ画像内で抽出・把握し易い特徴的な部分がある場合には、位置基準打痕10が一個形成された上で、当該位置基準打痕10の位置が一致させられると共に当該位置基準打痕10の位置を回転中心として前記特徴的な部分が重ね合わせられて複数の表面形状データの位置合わせが行われるようにしても良い。あるいは、位置基準打痕10が複数個形成された上で、これら複数の位置基準打痕10の位置がそれぞれ一致させられて複数の表面形状データの位置合わせが行われるようにしても良い。
【0164】
《予測2回目以降の減肉量予測》
予測1回目において、或る計測表面について計測結果の表面形状データと設計形状データとを初めて重ね合わせる際には、計測結果の表面形状データについて裏面の位置を特定するために肉厚の実測が必要とされる。
【0165】
一方で、予測2回目以降における、上記或る計測表面についての、計測結果の表面形状データと設計形状データとの重ね合わせの際には、上述の錐体状の位置基準打痕10が形成されると共にその形状が計測されることにより、肉厚の実測は不要になる。
【0166】
具体的には、計測表面に対応させて管理対象物の表面9に位置基準打痕10が形成される。このとき、位置基準打痕10は、管理対象物の表面9に於ける開口部13の(言い換えると、平面視における,開口面視における)所定箇所の寸法Lや面積Sと管理対象物の表面9から位置基準打痕10の最深の頂点11までの寸法Dとの間の関係が特定され得るものとして形成される(例としての
図11を参照)。
【0167】
その上で、予測1回目に関する処理について、上述のS1−1乃至S1−7の処理が上述の通りに行われ、続く管理対象物の計測表面へと照射された計測光(の反射光)と位置認識用ターゲット2とが同時に撮像される処理(S1−8)において撮像範囲に位置基準打痕10が含められ、そして、計測表面に加えて位置基準打痕10の形状を含む管理対象物の表面9の三次元形状が認識されて点群データが取得される(S1−9)と共に計測表面に加えて位置基準打痕10の形状を含む管理対象物の表面9の三次元形状に相当するメッシュデータが作成される(S1−10)。そして、管理時点<1>に関する計測結果の表面形状データ32がデータファイル等として記憶部22に記録・保存される。また、S1−11乃至S1−14の処理が上述の通りに行われる。そして、管理時点<1>に関する三次元構造データ34がデータファイル等として記憶部22に記録・保存される。
【0168】
そして、予測2回目以降については、上述のS1−1乃至S1−3の処理と同様に、位置標定具1が、管理対象物の表面の、計測表面に対応する位置に取り付けられて設置され(S2−1)、位置標定具1が管理対象物の表面へと取り付けられて設置された状態で、位置認識用ターゲット2が計測手段の一対の受光部(即ち、ステレオカメラ)によって撮像され(S2−2)、各位置認識用ターゲット2の三次元位置座標が特定される(S2−3)。
【0169】
続いて、上述のS1−8の処理と同様に管理対象物の計測表面へと照射された計測光(の反射光)と位置認識用ターゲット2とが同時に撮像される際に撮像範囲に位置基準打痕10が含められ(S2−4)、上述のS1−9の処理と同様に管理対象物の表面9の三次元形状が認識されて点群データが取得される際に計測表面に加えて位置基準打痕10の形状が含められ(S2−5)、上述のS1−10の処理と同様に管理対象物の表面9の三次元形状に相当するメッシュデータが作成される際に計測表面に加えて位置基準打痕10の形状が含められる(S2−6)。そして、管理時点<N>に関する計測結果の表面形状データ32がデータファイル等として記憶部22に記録・保存される(但し、N=2,3,4,…)。
【0170】
そして、位置基準打痕10の、管理対象物の表面9に於ける開口部13の形状(具体的には、寸法Lや面積S)の変化に基づいて当該位置基準打痕10の形成箇所に於ける減肉量が特定される(S2−7)。
【0171】
具体的には、位置基準打痕10について特定された、管理対象物の表面9に於ける開口部13の(言い換えると、平面視における,開口面視における)所定箇所の寸法Lや面積Sと管理対象物の表面9から位置基準打痕10の最深の頂点11までの寸法Dとの間の関係が用いられて、計測された位置基準打痕10'の、管理対象物の表面9に於ける開口部13'の(言い換えると、平面視における,開口面視における)所定箇所の寸法Lmや面積Smに対応する管理対象物の表面9から位置基準打痕10'の最深の頂点11までの寸法Dmが算定される。
【0172】
そして、管理時点<N−1>における寸法D若しくはDmと管理時点<N>における寸法Dmとの差分が求められる(但し、N=2,3,4,…)。この差分は、位置基準打痕10の形成位置に於ける減肉量である。
【0173】
本実施形態では、制御部21の減肉量算定部21dにより、記憶部22に保存されている管理時点<N−1>に関する計測結果の表面形状データ32と管理時点<N>に関する計測結果の表面形状データ32とが読み込まれ、位置基準打痕10,10'の開口部13,13'の形状に基づいて最深の頂点11までの寸法D,Dmが求められて位置基準打痕10の形成位置に於ける減肉量が算定される。
【0174】
算定された減肉量は、管理時点<N−1>から管理時点<N>までの間において位置基準打痕10の形成位置に於いて生じた減肉量の値としてメモリ25に記憶させられる。
【0175】
次に、管理時点<N−1>から管理時点<N>までの減肉量Δwの分布が算定される(S2−8)。
【0176】
この処理では、管理時点<N−1>の計測結果の表面形状データと管理時点<N>の計測結果の表面形状データとの差分が算定され、管理時点<N−1>から管理時点<N>までの間において生じた減肉の量Δwの分布が求められる。
【0177】
ここで、S2−7の処理において位置基準打痕10の形成位置に於ける減肉量が算定されているところ、管理時点<N−1>の計測結果の表面形状データに対して管理時点<N>の計測結果の表面形状データを、位置基準打痕10の形成位置に於いて前記減肉量の分だけ厚さ方向にずらした状態が、管理時点<N−1>の表面形状データに対する管理時点<N>の表面形状データの位置である。
【0178】
つまり、位置基準打痕10は、錐体状の凹部として形成されることにより、特に最深の頂点11が利用されて平面視(言い換えると、開口面視)における位置決めの基準として機能すると共に、開口部13に纏わる寸法Lや面積Sと最深の頂点11までの寸法Dとの間の関係が利用されて深さ方向(即ち、開口面と垂直の方向,肉厚方向)における位置決めの基準として機能する。
【0179】
そして、管理時点<N−1>の計測結果の表面形状データに対して管理時点<N>の計測結果の表面形状データを、位置基準打痕10の形成位置に於いて前記減肉量の分だけ厚さ方向にずらした状態での、管理時点<N−1>の表面形状データと管理時点<N>の表面形状データとの差分が算定されることにより、管理対象物の表面9における減肉量Δwの分布が求められる。
【0180】
本実施形態では、制御部21の減肉量分布算定部21eにより、記憶部22に保存されている管理時点<N−1>の計測結果の表面形状データ32と管理時点<N>の計測結果の表面形状データ32とが読み込まれると共にS2−7の処理においてメモリ25に記憶された位置基準打痕10の形成位置に於ける減肉量の値が読み込まれ、管理時点<N−1>の表面形状データに対して管理時点<N>の表面形状データを、位置基準打痕10の形成位置に於いて前記減肉量の分だけ厚さ方向にずらした状態で、管理時点<N−1>の表面形状データと管理時点<N>の表面形状データとの差分が算定される。
【0181】
算定された差分は、管理時点<N−1>から管理時点<N>までの間において生じた減肉の量Δwの分布としてメモリ25に記憶させられる。
【0182】
次に、管理時点<N+1>における表面形状が予測される(S2−9)。
【0183】
この処理では、管理時点<N>の計測結果の表面形状データからS2−8の処理で算定された減肉量Δwの分布が差し引かれ、管理時点<N+1>における予測としての表面形状データが算定される。
【0184】
ここで、予測1回目のS1−12の処理において、設計形状データにおける裏面に対して正しい位置関係で管理時点<1>の計測結果の表面形状データにおける表面が配置される。また、予測N回目のS2−8の処理において、管理時点<N−1>の計測結果の表面形状データに対する管理時点<N>の計測結果の表面形状データの位置関係が把握される(但し、N=2,3,4,…)。したがって、S2−8の処理の結果として設計形状データにおける裏面に対して管理時点<N>の計測結果の表面形状データにおける表面が配置され、これにより、計測表面を構成・形成している部材の、管理時点<N>における肉厚の分布が把握される。
【0185】
そして、上記のように把握される管理時点<N>における肉厚の分布から、S2−8の処理で算定された減肉量Δwの分布が差し引かれたものが、管理時点<N+1>における予測としての肉厚の分布である。管理時点<N+1>は、表面形状の予測の目標時点であり、任意に設定される。
【0186】
ここで、S2−8の処理においてメモリ25に記憶された減肉量Δwの分布は、管理時点<N−1>から管理時点<N>までの運転時間(実績)に対応して生じた減肉の量の分布である。このため、必要に応じ、S2−8の処理において得られた減肉量Δwの分布は、管理時点<N>から管理時点<N+1>までの予想される運転時間に比例した減肉の量の分布に調整される。
【0187】
そして、管理時点<N>の計測結果の表面形状データから上記予想される運転時間に合わせて必要に応じて調整された減肉の量の分布が差し引かれることにより、管理時点<N+1>における予測としての表面形状データや肉厚の分布が計算される。
【0188】
本実施形態では、制御部21の形状予測部21fにより、記憶部22に保存されている管理時点<1>に関する三次元構造データ34が読み込まれると共に、管理時点<2>から当該の管理時点<N>までに関連する計測結果の表面形状データ32や位置基準打痕10の形成位置に於ける減肉量の値が記憶部22やメモリ25から読み込まれ、さらに、S2−8の処理においてメモリ25に記憶された管理時点<N−1>から管理時点<N>までの間における減肉の量Δwの分布が読み込まれる。
【0189】
そして、形状予測部21fにより、管理時点<N>における三次元構造データが計算されると共に、当該管理時点<N>における三次元構造データの表面形状から上記予想される運転時間に合わせて必要に応じて調整された減肉の量の分布が差し引かれて管理時点<N+1>における予測としての表面形状データや肉厚の分布が計算される。
【0190】
そして、計算された表面形状データや肉厚の分布は、管理時点<N+1>における表面形状データや肉厚の分布データとして、必要に応じ、データファイル等として記憶部22に保存されたり、表示部24に表示されたりする。
【0191】
そして、制御部21は、当該の管理対象物の計測表面についての管理時点<N>に関する処理を終了する(END)。
【0192】
以上のように構成された減肉量の予測方法、予測装置、及び予測プログラムによれば、管理対象物の表面形状を対象とした計測が行われた上で当該計測によって取得される三次元表面形状データを用いて管理対象物の表面に於ける減肉量の分布を算定すると共に当該減肉量の分布を用いて管理対象物の将来の表面形状を予測することができる。このため、管理対象物における減肉の状況を面として把握して管理することが可能になり、最大減肉部の見落としを防止し、さらに、例えば必要最小肉厚を下回ってしまうほどの将来の減肉の進行に関する情報を提供して検査・管理手法としての信頼性及び有用性の向上を図ることが可能になる。
【0193】
なお、上述の形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
【0194】
例えば、上述の実施形態では管理対象物が発電用ボイラの水冷壁管である場合を例に挙げて説明したが、本発明における管理対象物は特定のものに限定されるものではなく、例えば建物等の建築構造物,プラント等の機械構造物,車両等の製品,配管等の構成部材や部品などを管理対象物としても本発明は適用され得る。
【0195】
また、上述の実施形態では位置認識用ターゲット2が撮像される処理(S1−2,S2−2)及び各位置認識用ターゲット2の三次元位置座標が特定される処理(S1−3,S2−3)が独立した処理として行われるようにしているが、これらの処理が独立した処理として行われることは本発明において必須の構成ではない。例えば、計測手段として各位置認識用ターゲット2の三次元位置座標の取得と肉厚実測マーカの三次元位置座標の取得や管理対象物の計測表面の三次元形状の認識とを同時に行うものが用いられる場合には、位置認識用ターゲット2の撮像や各位置認識用ターゲット2の三次元位置座標の特定が独立した処理である必要は無く、上述の実施形態におけるS1−2及びS1−3の処理並びにS2−2及びS2−3の処理が独立した処理として行われなくても良い。つまり、上述のS1−2及びS1−3の処理がS1−5及びS1−6の処理やS1−8及びS1−9の処理と同時/一緒に行われるようにしたり、上述のS2−2及びS2−3の処理がS2−4及びS2−5の処理と同時/一緒に行われるようにしたりしても良い。
【0196】
また、上述の実施形態では位置認識用ターゲット2のそれぞれがID情報を有するようにしているが、位置認識用ターゲット2がID情報を有することは本発明において必須の構成ではない。具体的には例えば、計測手段が撮像した各位置認識用ターゲット2を追跡しつつ相互の位置関係によって位置認識用ターゲット2のそれぞれを相互に区別して個別に識別する機能を備えている場合には、位置認識用ターゲット2のそれぞれがID情報を有していなくても良い。
【0197】
さらに言えば、上述の実施形態では複数の位置認識用ターゲット2とターゲット支持体3とを有する位置標定具1が利用されるようにしているが、位置認識用ターゲット2やターゲット支持体3(延いては、位置標定具1)が利用されることは本発明において必須の構成ではない(即ち、上述のS1−1,S1−2,及びS1−3の処理並びにS2−1,S2−2,及びS2−3の処理は本発明において必須の処理ではない)。例えば、計測対象物との相互の位置関係が固定されて計測を行って形状を認識する計測手段や、任意/所定の原点座標を有する三次元直交座標系を計測手段自体が適宜設定して計測を行うと共に形状を認識する計測手段が用いられる場合には、位置認識用ターゲット2が利用されること無く計測対象物の表面の形状が認識され得る。
【0198】
また、上述の実施形態では肉厚実測箇所を示すためのマーカ(即ち、肉厚実測マーカ)が利用されるようにしているが、肉厚実測マーカが利用されることは本発明において必須の構成ではない(即ち、上述のS1−4,S1−5,及びS1−6の処理は本発明において必須の処理ではない)。例えば、計測対象部の計測表面における或る一点若しくは複数点に於いて計測表面を構成する部材の肉厚が実測され、当該肉厚が実測された位置座標に於いて、計測結果の表面形状データにおける表面の位置から、実測された肉厚の分だけ厚さ方向に離れた位置(言い換えると、ずれた位置)に設計形状データにおける裏面の位置を合わせることにより、二つの形状データの重ね合わせが行われるようにしても良い。なお、この場合には、例えば、管理対象物の表面上の、画像内で抽出・把握し易い特徴的な箇所に於いて肉厚が実測されて当該特徴的な箇所の位置座標が特定されるようにすることが考えられる。
【0199】
また、上述の実施形態ではS1−13の処理において定常熱伝導解析が行われて管理対象物に関する温度分布の推定が行われるようにしているが、管理対象物の温度分布を推定する手法は定常熱伝導解析に限定されるものではなく、他の手法が用いられるようにしても良い。
【0200】
また、上述の実施形態ではS1−14の処理において管理対象物に関する温度分布の推定結果と共に腐食速度予測式(南島晋・森永雅彦:「還元性硫化腐食雰囲気における微粉炭火力ボイラ蒸発管材の腐食速度予測手法の提案―静止場ガス腐食雰囲気における腐食速度予測式―」,電力中央研究所報告 Q10019,2011年)が用いられて管理対象物の腐食に伴う減肉量の予測が行われるようにしているが、管理対象物の減肉量を予測する手法は前記腐食速度予測式に限定されるものではなく、他の手法が用いられるようにしても良い。
【0201】
さらに言えば、上述の実施形態におけるS1−13及びS1−14の処理は本発明において必須の処理ではなく、これらの処理が行われること無く管理時点<1>に纏わる処理が終了するようにしても良い。この場合でも、管理時点<2>以降において、管理対象物の表面9に於ける位置基準打痕10の開口部13の形状の変化に基づいて当該位置基準打痕10の形成箇所に於ける減肉量の特定(S2−7)は可能であり、そして、管理時点<N−1>から管理時点<N>までの減肉量Δwの分布の算定(S2−8)及び管理時点<N+1>における表面形状の予測(S2−9)も可能である。