特許第6793073号(P6793073)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社荏原製作所の特許一覧

<>
  • 特許6793073-アノード電極部材及び電気防食システム 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793073
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】アノード電極部材及び電気防食システム
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/10 20060101AFI20201119BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20201119BHJP
   F16L 58/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C23F13/10 B
   C23F13/02 B
   F16L58/00
   C23F13/02 J
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-54235(P2017-54235)
(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公開番号】特開2018-154891(P2018-154891A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100189326
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 崇暢
(72)【発明者】
【氏名】辻村 学
(72)【発明者】
【氏名】小澤 照彦
【審査官】 大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−114582(JP,A)
【文献】 実開昭54−183718(JP,U)
【文献】 特表2006−527077(JP,A)
【文献】 特開2017−057464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/10
C23F 13/02
F16L 58/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管フランジに着脱可能なアノード電極部材であって、
配管の長手方向に延びる主部と、
前記主部の内部に設けられ、流体が流動する流路と、
前記流体の流動方向における上流側から下流側に向けて徐々に小さくなる内径を有し、前記流路の前記上流側に設けられたテーパ部と、
前記流体の前記流動方向における前記上流側に位置し、前記配管の内径に略等しい外径を有する大径部と、
前記流体の前記流動方向における前記下流側に位置し、前記大径部の前記外径よりも小さい外径を有し、前記配管の内部に向けて延在する小径部と、
前記主部の外面から外側に突出し、前記配管フランジに接触可能な突起部と、
を有するアノード電極部材。
【請求項2】
前記小径部の外面には、凹凸部が形成されている請求項1に記載のアノード電極部材。
【請求項3】
配管フランジを備えた配管と、
前記配管フランジに接触固定されかつ前記配管の内部に設けられた、請求項1又は請求項2に記載のアノード電極部材と、
前記配管の外部に接続されたカソード電極と、
前記アノード電極部材及び前記カソード電極に配線を介して接続された直流電源と、
を備える電気防食システム。
【請求項4】
前記カソード電極は、前記アノード電極部材の前記小径部に対向する配管の外部に接続されている請求項3に記載の電気防食システム。
【請求項5】
前記アノード電極部材の前記小径部の外面と、前記配管の内面との間に隙間が設けられている請求項3又は請求項4に記載の電気防食システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード電極部材及び電気防食システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、犠牲腐食部材を備えた電食防止構造が知られている(特許文献1を参照)。この電食防止構造は、第1管材から第2管材へ流体を介して流れるジャンピング電流により、管材の腐食を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−81581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の電食防止構造においては、犠牲腐食部材は、電位が高い管材に溶接等で接続されており、溶接によって管材に設けられた犠牲腐食部材を容易に取り外すことができないという問題があった。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、配管フランジから着脱可能なアノード電極部材と、このアノード電極部材を用いて電気防食が可能な電気防食システムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第一態様に係るアノード電極部材は、配管フランジに着脱可能なアノード電極部材であって、配管の長手方向に延びる主部と、前記主部の内部に設けられ、流体が流動する流路と、前記流体の流動方向における上流側から下流側に向けて徐々に小さくなる内径を有し、前記流路の前記上流側に設けられたテーパ部と、前記流体の前記流動方向における前記上流側に位置し、前記配管の内径に略等しい外径を有する大径部と、前記流体の前記流動方向における前記下流側に位置し、前記大径部の前記外径よりも小さい外径を有し、前記配管の内部に向けて延在する小径部と、前記主部の外面から外側に突出し、前記配管フランジに接触可能な突起部と、を有する。
【0007】
上記態様に係るアノード電極部材は、配管に溶接されていない。このため、配管フランジに着脱可能なアノード電極部材を実現することができる。上記態様に係るアノード電極部材において、アノード電極部材内に流体が流入すると、流体は、流路の内部を流れる。アノード電極部材の上流側にはテーパ部が設けられているので、テーパ部に接触する流体は、テーパ部の表面形状に沿って流動し、流路内に導かれ、流路の内部に流れる。流路を通過した流体は、配管に向けて流動する。テーパ部が形成されているため、流体が淀むことなく、流路内に流体をスムーズに流すことができる。
【0008】
上記第一態様に係るアノード電極部材においては、前記小径部の外面には、凹凸部が形成されてもよい。
上記態様に係るアノード電極部材によれば、小径部の外面の表面積が増加し、小径部と流体との接触面積を大きくすることができる。
【0009】
本発明の第二態様に係る電気防食システムは、配管フランジを備えた配管と、前記配管フランジに接触固定されかつ前記配管の内部に設けられた、上記第一態様に係るアノード電極部材と、前記配管の外部に接続されたカソード電極と、前記アノード電極部材及び前記カソード電極に配線を介して接続された直流電源と、を備える。
上記態様に係る電気防食システムによれば、直流電源からアノード電極部材に電流が供給される。このため、カソード電極が接続されている配管の内面、即ち、流体と接する配管の内面には電子が供給される。流体中のカチオン(正イオン)は、配管に引き寄せられ、腐食反応によって配管の金属カチオンが放出することが抑制される。この結果、配管の腐食を抑制することができる。
【0010】
上記第二態様に係る電気防食システムにおいては、前記カソード電極は、前記アノード電極部材の前記小径部に対向する配管の外部に接続されてもよい。
上記態様に係る電気防食システムによれば、小径部に対向する配管の腐食を抑制することができる。
【0011】
上記第二態様に係る電気防食システムにおいては、前記アノード電極部材の前記小径部の外面と、前記配管の内面との間に隙間が設けられてもよい。
上記態様に係る電気防食システムによれば、隙間に流体が存在する。この隙間に存在する流体中のカチオン(正イオン)は、配管に引き寄せられ、腐食反応によって配管の金属カチオンが放出することが抑制される。この結果、配管の腐食を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、配管フランジから着脱可能なアノード電極部材と、このアノード電極部材を用いて電気防食が可能な電気防食システムとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るアノード電極部材を備えた電気防食システムの概略構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係るアノード電極部材を備えた電気防食システムの構成を、図1を参照しながら説明する。
本実施形態の説明に用いる図1では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
本実施形態において、「上流側」とは、配管の内部を流動する流体の流動方向における上流側を意味する。「下流側」とは、配管の内部を流動する流体の流動方向における下流側を意味する。
本実施形態において、「流体」としては、例えば、配管材料の腐食を招く恐れがある海水等が挙げられる。
【0015】
(電気防食システム)
電気防食システム100は、配管フランジ11A(第1フランジ)を備えた配管10A(第1配管)と、配管フランジ11B(第2フランジ)を備えた配管10B(第2配管)と、アノード電極部材1と、配管10Aの外部に接続されたカソード電極20と、アノード電極部材1及びカソード電極20に配線を介して接続された直流電源30とを備える。アノード電極部材1は、配管フランジ11A、11Bに接触固定され、かつ、配管10A、10Bの内部に設けられている。
【0016】
カソード電極20は、アノード電極部材1の小径部6に対向する配管10Aの外部に接続されている。アノード電極部材1の小径部6の外面と、配管10Aの内面との間には隙間Gが設けられている。図1に示す例では、アノード電極部材1の近くにカソード電極20が配置されているが、アノード電極部材1とカソード電極20との距離は、図1に限定されない。アノード電極部材1から離れた位置にカソード電極20が配置されてもよい。
【0017】
配管フランジ11A、11Bの間には、絶縁シール部材15が設けられている。絶縁シール部材15は、アノード電極部材1を被覆固定し、配管フランジ11A、11Bの間の接続部を密閉している。
配管フランジ11A、11Bは、公知のボルト及びナット等を用いた締結部材(不図示)により、互いに固定されている。
【0018】
アノード電極部材1及びカソード電極20の各々から延出する配線は、直流電源30に接続されている。アノード電極部材1は、配線を介して、直流電源30のプラス側に接続されている。カソード電極20は、配線を介して、直流電源30のマイナス側に接続されている。直流電源30は、商用電源(交流)を直流に変換するAC−DC変換器を備え、直流電圧をアノード電極部材1とカソード電極20との間に印加することが可能である。また、直流電源30として、例えば、一次電池、二次電池、又は太陽電池等を用いてもよい。アノード電極部材1とカソード電極20との間に印加される電圧は、1V〜2V程度である。
【0019】
(アノード電極部材)
アノード電極部材1は、配管フランジ11A、11Bに着脱可能であり、配管10A、10Bに溶接されていない。アノード電極部材1は、主部2と、流路3と、テーパ部4と、大径部5と、小径部6と、突起部7とを有する。アノード電極部材1を構成する材料としては、カーボン、グラファイト、フェライト等が挙げられる。アノード電極部材1の延在方向から見て(符号F)、アノード電極部材1は、円筒形状に形成されている。
【0020】
主部2は、配管10A、10Bの長手方向に延びている。
流路3は、主部2の内部に設けられている。流路3の内部に、流体が流動する。流路3の内壁には、流体の流動性を促進させる溝が形成されてもよい。溝は、上流側Uから下流側Dに向けて延びる直線溝でもよいし、螺旋状の溝であってもよい。
【0021】
テーパ部4は、傾斜面を有しており、流体の流動方向における上流側Uから下流側Dに向けて徐々に小さくなる内径4dを有する。テーパ部4は、流路3の上流側Uに設けられている。
【0022】
大径部5は、流体の流動方向における上流側Uに位置し、配管10Bの内径に略等しい外径5dを有する。図1に示す例では、大径部5は、突起部7の右側に位置する。大径部5の外面は、配管10Bの内面に接触してもよいし、接触しなくてもよい。ただし、大径部5の外面と、配管10Bの内面との間に大きな隙間が形成されていると、流体の流れが阻害される恐れがあるため、外径5dは、配管10Bの内径に略等しいことが好ましい。
【0023】
小径部6は、流体の流動方向における下流側Dに位置し、大径部5の外径5dよりも小さい外径6dを有する。図1に示す例では、小径部6は、突起部7の左側に位置する。小径部6の外面には、凹凸部8が形成されている。凹凸部が形成されていない場合に比べて、凹凸部8が形成されている小径部6の外面の表面積は大きくなっており、小径部6と流体との接触面積が大きくなっている。
【0024】
突起部7は、主部2の外面から外側に突出し、配管フランジ11A、11Bに接触可能である。特に、図1に示す例では、突起部7は、配管フランジ11A、11Bによって挟持され、固定されている。突起部7は、大径部5と小径部6との間に位置する。突起部7が配管フランジ11A、11Bによって挟持されることで、アノード電極部材1が配管10A、10Bに電気的に接続されている。
【0025】
次に、以上のように構成されたアノード電極部材1を備える電気防食システム100の作用について説明する。
アノード電極部材1が配管10A、10B内に配置された状態で、符号Fに示す方向にて、配管10Aから配管10Bに流体が流動する。アノード電極部材1内に流入する流体は、流路3の内部を流れる。アノード電極部材1の上流側Uにはテーパ部4が設けられているので、テーパ部4に接触する流体は、テーパ部4の表面形状に沿って流動し、流路3内に導かれ、流路3の内部に流れる。流路3を通過した流体は、配管10Aに向けて流動する。小径部6の外面と、配管10Aの内面との間には隙間Gが設けられているので、隙間Gには流体が溜まる。
【0026】
直流電源30からアノード電極部材1に電流が供給される。電流は、隙間G内の流体を介して、小径部6から配管10Aの内面に流れる。このため、カソード電極20が接続されている配管10Aの内面、即ち、隙間Gの流体と接する配管10Aの内面には電子が供給される。流体中のカチオン(正イオン)は、配管10Aに引き寄せられ、腐食反応によって配管10Aの金属カチオンが放出することが抑制される。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係るアノード電極部材1によれば、テーパ部4が形成されているため、流体が淀むことなく、流路3内に流体をスムーズに流すことができる。電気防食システム100によれば、配管10Aの腐食を抑制することができる。小径部6の外面に凹凸部8が形成されているため、隙間Gにおいて流体と小径部6との接触面積が増加し、広い面積で、小径部6から配管10Aの内面に電流を供給することができる。
【0028】
また、アノード電極部材1を配管フランジ11Aと配管フランジ11Bとの間に設け、かつ、カソード電極20を配管10Aに接続するだけで、上記効果が得られるため、簡素な構造で、配管10Aの腐食を抑制することができる。
【0029】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【符号の説明】
【0030】
1 アノード電極部材
2 主部
3 流路
4 テーパ部
4d 内径
5 大径部
5d 外径
6 小径部
6d 外径
7 突起部
8 凹凸部
10A 配管
10B 配管
11A 配管フランジ
11B 配管フランジ
15 絶縁シール部材
20 カソード電極
30 直流電源
100 電気防食システム
D 下流側
G 隙間
U 上流側
図1