(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JIS−H3100(C1100)に規格するタフピッチ銅又はJIS−H3100(C1020)の無酸素銅からなる請求項1に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔。
さらに、添加元素として、P、Ag、Si、Ge、Al、Ga、Zn、SnおよびSbからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上を合計で0.7質量%以下含有してなる請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る銅箔の実施の形態について説明する。なお、本発明において%は特に断らない限り、質量%を示すものとする。
まず、エッチング性におけるソフトエッチング性とエッチングファクタEFについて説明する。
ソフトエッチング性は、銅箔表面とレジストとの密着性に起因したエッチングによる回路の精度を示す指標で、レジストの密着性が良くレジストが銅箔表面を追従するほど、両者間にエッチング液が侵入して回路の一部が欠ける不具合が抑制され、銅箔全面に均一な回路パターンが得られて歩留まりが向上する。
エッチングファクタEFはエッチングで形成した回路の断面形状の指標であり、EFが高いほど、エッチングで形成した回路の断面がシャープになるので、回路を微細化した際に回路パターンの精度が向上する。
【0015】
ソフトエッチング性が良好であっても、エッチングファクタEFが劣る場合、銅箔全面に均一な回路パターンが得られて歩留まりが向上するが、回路を微細化した際に回路パターンの精度が低下する。
逆に、エッチングファクタEFが良好であっても、ソフトエッチング性が劣る場合、回路を微細化した際に回路パターンの精度が向上するが、(銅箔表面とレジスト間にエッチング液が侵入しやすいため)回路の一部が欠ける不具合が生じ、銅箔全面に均一な回路パターンが得られず歩留まりが低下する。
【0016】
<組成>
本発明に係る銅箔は、99.0質量%以上のCu、残部不可避的不純物からなる。
本発明の実施例では、銅箔の最終冷間圧延前の結晶粒径を微細化することにより、冷間圧延中に銅箔の転位の蓄積が促進され、再結晶時には再結晶粒が微細になる。また、冷間圧延の最終パスにおいてひずみ速度を極端に高くすると、再結晶時には再結晶粒が特定の方位に配向し、すなわち{200}面集合度が抑制され、かつ、{220}面集合度を高くすることができエッチング性が向上する。
【0017】
又、銅箔の再結晶後における結晶粒を微細化するためには、焼鈍と圧延を繰り返す工程全体の中で、最終焼鈍後に行う最終冷間圧延前の結晶粒径を5μm以上20μm以下とすると好ましい。
具体的には、最終焼鈍の温度、及び、最終焼鈍前の冷間圧延の加工度を調整すると、上記粒径を制御できる。最終焼鈍の温度は銅箔の製造条件によっても変わり、限定されないが、例えば300〜400℃とすればよい。又、最終焼鈍前の冷間圧延の加工度も限定されないが、例えば加工度ηを1.6〜3.0とすればよい。
加工度ηは、最終焼鈍前の冷間圧延直前の材料の厚みをA0、最終焼鈍前の冷間圧延直後の材料の厚みをA1とし、η=ln(A0/A1)で表す。
【0018】
最終冷間圧延前の結晶粒径が20μm超の場合、加工時の転位の絡み合いが小さくなり、ひずみの蓄積が少なくなるため、再結晶後にひずみが解放されず結晶粒の微細化が不十分となる傾向にある。最終冷間圧延前の結晶粒径が5μmより小さい場合は、加工時の転位の絡み合いが銅箔のほぼ全領域で生じてこれ以上の絡み合いができず、銅箔の再結晶時に再結晶粒が微細化する効果が飽和する。したがって最終冷間圧延前の結晶粒径の下限を5μmとした。
【0019】
又、添加元素として、上記組成に対し、P、Ag、Si、Ge、Al、Ga、Zn、SnおよびSbからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上を合計で0.7質量%以下含有すると、再結晶粒を微細化することができる。
上記添加元素は、冷間圧延時に転位の絡み合いの頻度を増加させるので、再結晶粒が微細化することができる。
上記添加元素を合計で0.7質量%を超えて含有させると、導電率が低下し、フレキシブル基板用銅箔として適さない場合があるので、0.7質量%を上限とした。上記添加元素の含有量の下限は特に制限されないが、例えば各元素につき0.0005質量%より小さく制御することは工業的に難しいので、各元素の含有量の下限を0.0005質量%とするとよい。
【0020】
本発明に係る銅箔を、JIS−H3100(C1100)に規格するタフピッチ銅(TPC)又はJIS−H3100(C1020)の無酸素銅(OFC)からなる組成としてもよい。
又、上記TPC又はOFCに対し、Pを含有させてなる組成としてもよい。
【0021】
<平均結晶粒径>
銅箔の平均結晶粒径が0.5〜 4.0μ mである。平均結晶粒径が0.5μ m未満であると、強度が高くなり過ぎて曲げ剛性が大きくなり、スプリングバックが大きくなってフレキシブルプリント基板用途に適さない。平均結晶粒径が4.0μ mを超えると、ソフトエッチング性が劣化する。
平均結晶粒径の測定は、誤差を避けるため、箔表面を100μ m× 100μ mの視野で3視野以上を観察して行う。箔表面の観察は、SIM ( Scanning Ion Microscope)またはSEM( Scanning Electron Microscope)を用い、JIS-H0501に基づいて平均結晶粒径を求めることができる。ただし、双晶は、別々の結晶粒とみなして測定する。
【0022】
<集合度>
銅箔表面のX線回折強度I(220)/I
0(220)で表示される集合度が1.3以上7.0未満である。
集合度が1.3未満であると、厚み方向のエッチング速度が小さくなり、銅箔の後述するエッチングファクタが低下する。集合度が7.0以上となるひずみ速度の場合、エッチングファクタは良好であるものの、圧延銅箔の形状が悪くなりFPC用銅箔として使用しにくくなる場合がある。
【0023】
集合度は以下のように測定する。まず、銅箔の圧延面について{220}面のX線回折強度を測定し、I(220)とする。
また、同一の条件にて、純銅粉末(325mesh(JIS Z8801、純度99.5%),水素気流中で300℃で1時間加熱してから使用)について{220}面のX線回折強度を測定し、I
0(220)とする。
【0024】
そして、次のように規格化する。
・{220}面集合度:I(220)/I
0(220)
X線回折の測定条件は、つぎのとおりである。
・入射X線源:Co、
・加速電圧:25kV、
・管電流:20mA、
・発散スリット:1度、
・散乱スリット:1度、
・受光スリット:0.3mm、
・発散縦制限スリット:10mm、
・モノクロ受光スリット0.8mm
【0025】
<300℃で30分間の熱処理>
本発明に係る銅箔はフレキシブルプリント基板に用いられ、その際、銅箔と樹脂とを積層したCCLは、200〜400℃で樹脂を硬化させるための熱処理を行うため、平均結晶粒径、及びI(220)/I
0(220)で表示される集合度が変化する。
従って、樹脂と積層する前後で、平均結晶粒径、及び集合度が変わる。そこで、本願の請求項1に係るフレキシブルプリント基板用銅箔は、樹脂と積層後の銅張積層体になった際の熱処理を受けた状態の銅箔を規定している。つまり、既に熱処理を受けているから、新たな熱処理を行わない状態の銅箔である。
一方、本願の請求項4に係るフレキシブルプリント基板用銅箔は、樹脂と積層する前の銅箔に上記熱処理を行ったときの状態(例えば、熱処理前の銅箔コイルがCCLの製造工場に納入されてCCLに積層されるときの加熱された状態)を規定している。この300℃で30分間の熱処理は、CCLの積層時に樹脂を硬化熱処理させる温度条件を模したものである。なお、熱処理による銅箔表面の酸化を防止するため、熱処理の雰囲気は、還元性又は非酸化性の雰囲気が好ましく、例えば、真空雰囲気、又は、アルゴン、窒素、水素、一酸化炭素等若しくはこれらの混合ガスからなる雰囲気などとすればよい。昇温速度は100〜300℃/minの間であればよい。
【0026】
本発明の銅箔は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、銅インゴットを溶解、鋳造した後、熱間圧延し、冷間圧延と焼鈍を行い、好ましくは冷間圧延時の初期に再結晶焼鈍を行うと共に、最終再結晶焼鈍及び最終冷間圧延を行うことにより箔を製造することができる。
最終冷間圧延の総加工度η、最終冷間圧延前かつ最終再結晶焼鈍後の平均結晶粒径、及び最終冷間圧延
の最終パスのひずみ速度を調整することにより、平均結晶粒径、及び集合度を制御できる。
【0027】
最終冷間圧延の総加工度ηを6.10以上とすると、I(220)/I
0(220)で表示される集合度をより確実に増やすことができる。
最終冷間圧延前かつ最終再結晶焼鈍後の平均結晶粒径を5〜20μmとすると、製品の平均結晶粒径を確実に0.5〜 4.0μ mにすることができる。
最終冷間圧延
の最終パスのひずみ速度を1000(/秒)以上とすると、集合度をより確実に増やすことができる。
【0028】
<銅張積層体及びフレキシブルプリント基板>
又、本発明の銅箔に(1)樹脂前駆体(例えばワニスと呼ばれるポリイミド前駆体)をキャスティングして熱をかけて重合させること、(2)ベースフィルムと同種の熱可塑性接着剤を用いてベースフィルムを本発明の銅箔にラミネートすること、により、銅箔と樹脂基材の2層からなる銅張積層体(CCL)が得られる。又、本発明の銅箔に接着剤を塗着したベースフィルムをラミネートすることにより、銅箔と樹脂基材とその間の接着層の3層からなる銅張積層体(CCL)が得られる。これらのCCL製造時に銅箔が熱処理されて再結晶化する。
これらにフォトリソグラフィー技術を用いて回路を形成し、必要に応じて回路にめっきを施し、カバーレイフィルムをラミネートすることでフレキシブルプリント基板(フレキシブル配線板)が得られる。
【0029】
従って、本発明の銅張積層体は、銅箔と樹脂層とを積層してなる。又、本発明のフレキシブルプリント基板は、銅張積層体の銅箔に回路を形成してなる。
樹脂層としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PI(ポリイミド)、LCP(液晶ポリマー)、PEN(ポリエチレンナフタレート)が挙げられるがこれに限定されない。また、樹脂層として、これらの樹脂フィルムを用いてもよい。
樹脂層と銅箔との積層方法としては、銅箔の表面に樹脂層となる材料を塗布して加熱成膜してもよい。又、樹脂層として樹脂フィルムを用い、樹脂フィルムと銅箔との間に以下の接着剤を用いてもよく、接着剤を用いずに樹脂フィルムを銅箔に熱圧着してもよい。但し、樹脂フィルムに余分な熱を加えないという点からは、接着剤を用いることが好ましい。
【0030】
樹脂層としてフィルムを用いた場合、このフィルムを、接着剤層を介して銅箔に積層するとよい。この場合、フィルムと同成分の接着剤を用いることが好ましい。例えば、樹脂層としてポリイミドフィルムを用いる場合は、接着剤層もポリイミド系接着剤を用いることが好ましい。尚、ここでいうポリイミド接着剤とはイミド結合を含む接着剤を指し、ポリエーテルイミド等も含む。
【0031】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。又、本発明の作用効果を奏する限り、上記実施形態における銅合金がその他の成分を含有してもよい。また、電解銅箔でも良い。
例えば、銅箔の表面に、粗化処理、防錆処理、耐熱処理、またはこれらの組み合わせによる表面処理を施してもよい。
【実施例】
【0032】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。電気銅に、表1に示す元素をそれぞれ添加して表1に示す組成とし、Ar雰囲気で鋳造して鋳塊を得た。鋳塊中の酸素含有量は15ppm未満であった。この鋳塊を900℃で均質化焼鈍後、熱間圧延した後、冷間圧延および再結晶焼鈍を繰り返し、さらに最終再結晶焼鈍及び最終冷間圧延を行って圧延銅箔を得た。
得られた圧延銅箔にアルゴン雰囲気において300℃×30分の熱処理を加え、銅箔サンプルを得た。熱処理後の銅箔は、CCLの積層時に熱処理を受けた状態を模している。
【0033】
<銅箔サンプルの評価>
1.導電率
上記熱処理後の各銅箔サンプルについて、JIS H 0505に基づいて4端子法により、25℃の導電率(%IACS)を測定した。
導電率が80%IACSより大きければ導電性が良好である。
2.集合度
上記熱処理後の各銅箔サンプルについて、X線回折装置(RINT−2500:理学電機製)を用い、上述の方法で集合度を測定した。なお、I(220)/I
0(220)で表示される集合度の他、{200}面のX線回折強度を同様に測定し、I(200)/I
0(200)も求めた。
【0034】
3.エッチングファクタEF
銅箔と樹脂を張り合わせ、その後ドライフィルムレジストを銅箔表面にラミネートし、レジストに短冊状(L/S=25/25)の回路パターンを形成した。塩化第二銅エッチャントのスプレーエッチングでエッチング時間を変化させて、エッチングを実施した。
【0035】
EFの測定方法は種々存在するが、本発明では、エッチングファクタEFの求め方として最も一般的な、幅方向に対する深さ方向のエッチング速度で評価する。本発明では、
図1、
図2に示すようにして測定を行う。なお、下記の式(1)は、深さ方向と幅方向のエッチング速度のみに着目しており、斜め方向のエッチング速度は考慮しない。
EFは、
図1に示すように、回路1本の断面の幅方向及び深さ方向のエッチング速度から、以下の式(1)で求める。
EF=深さ方向のエッチング速度/幅方向のエッチング速度 (1)
【0036】
ただし、エッチング速度そのものを測定するのは困難であるので、それぞれエッチング時間を変化させたときの回路の幅と深さを測定する。そして、
図2に示すように、横軸を回路の幅、縦軸を回路の深さとして各データをプロットし、以下の式(2)で近似的に求める。つまり、
図2のグラフの傾きを最小二乗法による一次の近似式から求めてEFとする。
EF≒深さの時間変化/(幅の時間変化/2)=2×深さの時間変化/幅の時間変化 (2)
ここで、式(2)の係数「2」は、幅方向のエッチングが
図1の左右両側に進行するため、半分にする必要があるためである。
【0037】
そして、EFの値に応じて以下の指標で評価した。評価が◎、○であれば良好である。
◎:EFが1.4以上
×:EFが1.1以上1.4未満
×:EFが1.1未満
【0038】
4.ソフトエッチング性
上記熱処理後の各銅箔サンプルについて、表面を以下の条件でソフトエッチングした。ソフトエッチング性を評価する指標として、ソフトエッチング後の銅箔表面のJIS-B0601(2001)に基づく算術平均粗さRaを測定した。
ソフトエッチング条件としては、銅箔とレジストとの密着性を付与するためのソフトエッチングを模擬し、過硫酸ナトリウム濃度100g/L、過酸化水素濃度35g/Lの水溶液( 液温25℃ )に420秒銅箔を浸漬するものとした。算術平均粗さRaが0.2μm以下の場合をソフトエッチング性が良好(○)、算術平均粗さRaが0.2μmを超える場合をソフトエッチング性が不良(×)とした。
【0039】
ソフトエッチング後にレジストが銅箔表面に良く追従すれば密着性に優れ、回路パターンの精度が向上し、ソフトエッチング性が良好となる。Raが0.2μmを超えると、レジストが銅箔表面を追従しにくく、レジストと銅箔表面間に隙間が発生し易くなる。そして、その隙間にエッチング液が侵入することで回路パターンの形成時の精度が低下する。
【0040】
5.結晶粒径
上記熱処理後の各銅箔サンプルについて、圧延面をSEM(Scanning Electron Microscope)を用いて観察し、JIS H 0501に基づいて平均粒径を求めた。ただし、双晶は、別々の結晶粒とみなして測定を行った。測定領域は、圧延方向に平行な断面の400μm ×400μmとした。
【0041】
得られた結果を表1、表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1、表2から明らかなように、結晶粒径が0.5〜 4.0μ mであり、かつ、I(220)/I
0(220)で表示される集合度が1.3以上7.0未満である各実施例の場合、エッチングファクタおよびソフトエッチング性がともに優れていた。これにより、銅箔全面に均一な回路パターンが得られて歩留まりが向上し、さらに回路を微細化した際に回路パターンの精度が向上する。
【0045】
最終冷間圧延の最終パスのひずみ速度が1000(s
-1)未満である比較例1〜4の場合、集合度が1.3未満となり、ソフトエッチング性は良好なもののエッチングファクタが低下した。従って、回路を微細化した際に回路パターンの精度が低下する。
最終冷間圧延前かつ最終再結晶焼鈍後の平均結晶粒径が20μmを超えた比較例5の場合、製品の平均結晶粒径が4.0μ mを超え、エッチングファクタは良好なものの、ソフトエッチング性が劣った。従って、銅箔全面に均一な回路パターンが得られず歩留まりが低下する。
最終冷間圧延の総加工度が6.10未満の比較例6の場合、集合度が1.3未満となり、エッチングファクタが低下した。
添加元素の合計含有量が0.7質量%を超えた比較例7の場合、導電率が80%未満となり導電性が劣った。