【実施例】
【0063】
以下、実施例及び試験例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等の具体的範囲に限定されるものではない。
【0064】
<カイコの種類、飼育条件、注射条件>
カイコの受精卵(交雑種ふ・よう×つくば・ね)は、愛媛養蚕株式会社から購入した。孵化した幼虫は、室温で人工飼料シルクメイト2S(日本農産工業株式会社製)を与えて5齢幼虫まで育てた。
飼育容器は、卵から2齢幼虫までを角型2号シャーレ(栄研器材)、それ以降をディスポーザブルのプラスチック製フードパック(フードパックFD大深、中央化学株式会社製)を用いた。
飼育温度は27℃とした。特に記載がない限り、実験には4齢眠以後絶食させた5齢1日目の幼虫を用いた。
【0065】
糖添加飼料は、人工飼料シルクメイト2S(日本農産工業株式会社製)に、質量比で10質量%となるようにD−スクロース又はD−グルコースを混合して調製した。また、乳酸菌添加餌は、培養した乳酸菌を遠心分離で回収したペレットの含水質量(wet weight)(g)を測定して餌に混ぜた。
【0066】
<乳酸菌の培養>
菌は、0.5%の炭酸カルシウムが含まれたMRS培地で生育した。コロニーの周辺に透明帯が形成されたものでグラム陽性の菌を「乳酸菌」とした。分離された乳酸菌は、rRNAをコードする遺伝子のシークエンスにより種の同定を行った。乳酸菌は、MRS培地に植菌後、静地条件で1〜3日培養した。
【0067】
<試薬>
アカルボースは、LKT Laboratories, Inc.から購入した。ボグリボースは、武田薬品工業株式会社から分与してもらった。
【0068】
<血糖値の定量法>
カイコ体液中の総糖量は、フェノール硫酸法(Hodge et al)により定量した。
体液(20μL)は、第一腹肢(first proleg)にはさみでつけた切り傷から採取し、9倍量の0.6N過塩素酸と混合し、3,000rpmで10分間遠心分離し、上清を体液抽出液(hemolymph extract)とした。
蒸留水で適当な濃度に希釈した体液抽出液100μLと、5%(w/v)フェノール水溶液100μLとを混合し、濃硫酸500μLを加えて激しく撹拌し、室温で20分間静置した後、490nmにおける吸光度を測定した。グルコース水溶液を標準糖溶液とした。カイコ体液中のグルコース濃度は、グルコメーター(Accu-Chek, Roche)により定量した。
【0069】
<α−グルコシダーゼ活性の測定>
α−グリコシダーゼ活性の測定については、Watanabeらの報告に従って行った(Watanabe S et al., Insect Biochemistry and Molecular Biology, 2013)。「pNP」の濃度が高い程、α−グリコシダーゼ活性が高いことを示す。
【0070】
<統計学的解析>
数値データは、平均±標準誤差(mean ± standard error of the mean(SEM))で表示した。有意差はスチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて評価した。
【0071】
<<乳酸菌の糖代謝能試験>>
乳酸菌0831−07株の糖代謝能は、Api 50 CHキット(シスメックス社)を用いて測定した。乳酸菌0831−07株のコロニーをサスペンジョンメディウム(シスメックス社)で懸濁し、マクファーランド濁度2になるように調製した。Apiプレート(シスメックス社)に調整した菌液サンプルを150μL加え、30℃で48時間培養した。培養後に各種糖に対する代謝能を、反応した色を観察して判定した。
【0072】
<<ヨーグルトの製造>>
MRS寒天培地上で増殖させた、乳酸菌0831−07株の菌体0.1gをエーゼでかき取り、5mLの0.9%NaClに懸濁した。菌の懸濁液5mLを、牛乳(明治おいしい牛乳、カートンボックス)1Lに加え、攪拌した。43℃にて、20時間培養した。ゲル化を確認後、4℃で保存した。保存期間は3週間以内とした。
【0073】
<<ヒトを用いた臨床試験>>
被験者に非摂取時とヨーグルト摂取時で、50%(w/v)ショ糖水溶液を用いた糖負荷試験を行い、それぞれの血糖値の推移データを収集した。被験者10名を2群に分け、無作為に非盲検2群2期クロスオーバー法で実施した。被験者を選んだ基準等は以下の通りである。
【0074】
<<<ヒト臨床試験における健常人の選択基準>>>
以下の基準をすべて満たす者を対象とした。
(1)同意取得時の年齢が20歳以上60歳未満の者
(2)健康な成人男女
(3)試験の参加に先立ち、試験製品および試験に関して十分な説明を受け、被験者本人の自由意志による文書同意が得られた者
【0075】
<<<除外基準>>>
以下に抵触する者は、試験に組み入れないこととした。
(1)糖尿病と医師から診断され、現在治療中である者
(2)乳製品に対してアレルギーを有する者
(3)血糖に影響を及ぼす可能性がある医薬品や健康食品を服用している者
(4)慢性疾患を有し、医薬品を常用している者
(5)胃や腸を切除されている者
(6)その他、試験責任(分担)者が当該試験の被験者として不適当と判断した者
【0076】
<<<制限事項>>>
(1)検査前日の夕食は19〜23時に済ませ、以降は検査終了まで絶食とする。飲水(水のみ)は可。
(2)検査前日の過剰なアルコールの摂取は禁止とする。
(3)糖負荷1時間前から検査終了までは飲水禁止とする。
(4)検査当日は、起床〜検査終了までの間、禁煙とする。
(5)検査中は運動禁止とする。デイルームまたはベッド上にて安静にして過ごす。
【0077】
ヨーグルト有無のショ糖負荷試験を2日間以上の間を空けて実施した。各被験者でのショ糖負荷の実施時刻は、同―となるようにした。被験者の手の指先より、穿刺器具を用いて採取した。ショ糖負荷15分前に、被験者の血糖値を測定した。ヨーグルトの摂取は、ショ糖負荷10分前に行った。200mLを2分以内に摂取させた。その後、50%(w/v)ショ糖水溶液150mLを飲用させた(1分以内に全量を摂取させた)。ショ糖負荷後の15、30、45、60、90、120分において、血糖値を測定した。血糖値は、簡易血糖測定器(アキュチェックアビバ(Roche))を用いて測定した。本臨床試験の実施にあたっては、大崎病院東京ハートセンターの倫理審査委員会による承認を受けた。
【0078】
<<統計学的解析>>
数値データは、平均±標準誤差(mean ± standard error of the mean(SEM))で表示した。有意差はスチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて評価した。
【0079】
実施例1
[スクロースの摂食によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇]
これまでに本発明者らは、カイコにグルコースを加えた餌を食べさせることにより、カイコの体液中の総糖量及びグルコース濃度が上昇することを見出している(非特許文献1)。
一方、食品中の糖分の中で、肥満や糖尿病を引き起こす特に重要な原因となるのはスクロースである。また、哺乳動物において、食品中のスクロースは、腸管でα−グリコシダーゼによりグルコースとフルクトースに分解され、それぞれの糖が吸収されることが既に知られている。
そこで、カイコにスクロースを加えた餌を食べさせることにより、カイコの体液中の総糖量及びグルコース濃度が上昇するかを検討した。
【0080】
5齢1日目のカイコに、「通常餌」(Normal diet)、又は、餌全質量に対して10質量%のスクロースを含有させた「10質量%スクロース餌」(10% Sucrose diet)を与えた。その後、経時的にカイコの体液を、上述の方法で採取等することによって得た。体液中の総糖量とグルコース濃度を測定し、スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。
【0081】
結果を
図1に示す。
図1中、横軸はカイコに餌を与えてからの経過時間(単位:時間)、縦軸は総糖量(Total sugar level)(A)又はグルコース濃度(Glucose level)(B)(単位:mg/mL)であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。黒丸は通常餌(Normal diet)、白丸は10質量%スクロース餌(10% Sucrose diet)を与えたときの結果を示す。n=5/群で実験を行った。
【0082】
図1の結果、「10%スクロース餌」を与えたカイコの体液中の総糖濃度及びグルコース濃度は、「通常餌」を与えたカイコと比べて、何れも速やかに高くなることが判明した。以上の結果より、スクロースがカイコの腸管で酵素反応によりグルコースとフルクトースに分解され、それぞれの糖が吸収されて体液中に移行することにより、体液中の総糖濃度及びグルコース濃度が上昇したことが分かった。
【0083】
実施例2
[スクロースの摂食によるカイコの体液中グルコース濃度の上昇に対するアカルボース、ボグリボースの阻害効果]
カイコのゲノム中には、スクロースをグルコースとフルクトースに分解するα−グリコシダーゼをコードする遺伝子が存在することが知られている(Watanabe S et al., Insect Biochemistry and Molecular Biology, 2013)。
そこで次に、カイコにおいてもスクロースは、腸管内でα−グリコシダーゼにより分解されるか否かを検討した。
5齢1日目のカイコに通常餌を1日与えた後、腸管、腸内容物(Lumen)、体液(Hemolymph)を回収し、α−グリコシダーゼ活性を測定した腸管は、超音波処理により破砕された細胞破砕画分(Intestine)を用いた。n=4〜5/群で実験を行った。
【0084】
図2はα−グリコシダーゼ活性の測定結果である。「Produced pNP」の濃度(nmol)が高い程、α−グリコシダーゼ活性が高いことを示す。
図2Aの横軸は、腸管の細胞破砕画分に含まれるタンパク質の濃度(μg/mL)である。
【0085】
図2Aは、腸管の細胞破砕画分におけるα−グリコシダーゼ活性の用量依存性の測定結果である。腸管の細胞破砕画分にα−グリコシダーゼ活性があることが確認された。
【0086】
図2Bに、腸管の細胞破砕画分(Intestine)、腸内容物(Lumen)、体液(Hemolymph)のそれぞれ1μg当たりのα−グリコシダーゼ活性を測定した結果を示す。
カイコの腸管細胞破砕液や体液中に、α−グリコシダーゼ活性があることが確認された。また、カイコの腸管細胞破砕液中のα−グリコシダーゼ活性の比活性は、腸内容物の比活性よりも高かった。
【0087】
次に、アカルボース(Acarbose)又はボグリボース(Voglibose)により、カイコ腸管のα−グリコシダーゼ活性が阻害されるかどうかを検討した。
5齢1日目のカイコに通常餌を1日与えた後、腸管を回収し、超音波処理により破砕された細胞破砕画分(Intestine)にアカルボース又はボグリボースを加えてα−グリコシダーゼ活性を測定した。n=5/群で実験を行った。
【0088】
結果を
図2C及び
図2Dに示す。カイコの腸管細胞破砕液中のα−グリコシダーゼ活性は、代表的なα−グリコシダーゼ阻害剤であるアカルボース(
図2C)やボグリボース(
図2D)の添加により阻害された。
【0089】
次に、スクロースの摂食によるカイコの体液中の糖濃度の上昇が、アカルボースやボグリボースの餌への添加により抑えられるか否かを検討した。
5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌、又は、10質量%スクロース餌にアカルボース若しくはボグリボースを加えた餌を1時間与えた。カイコの体液を前記のように回収し、体液中の総糖量とグルコース濃度を測定した。スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。
【0090】
結果を
図3に示す。
図3Aはアカルボースを添加したときの総糖量、
図3Bはアカルボースを添加したときのグルコース濃度、
図3Cはボグリボースを添加したときの総糖量、
図3Dはボグリボースを添加したときのグルコース濃度を測定した結果を示す。
図3中の横軸は、餌に含まれるアカルボース又はボグリボースの濃度(content)である(単位:質量%)。*はP<0.05、**はP<0.01、***はP<0.001を示し、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。n=5/群で実験を行った。
【0091】
図3の結果、スクロースを含有する餌に、最終含量8質量%のアカルボース又は最終含量4質量%のボグリボースを加えた餌を食べたカイコの体液中の総糖濃度及びグルコース濃度は、何れも化合物(アカルボース又はボグリボース)非添加餌を食べたカイコより低いという結果が得られた。
【0092】
哺乳動物において、アカルボースやボグリボースは、スクロースの摂食による血糖値の上昇は抑制するが、単糖であるグルコースの摂食による血糖値の上昇は抑制しないことが報告されている(Tschope D et al., Cardiovasc Diabetol., 2013)。そこで、カイコにおいても同様に、餌に含ませる糖の違いによりこれらのα−グリコシダーゼ阻害剤の効果に違いが生じるか否かを検証した。
5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌;10質量%グルコース餌;「10質量%スクロース餌又は10質量%グルコース餌」のそれぞれに「アカルボース(最終含量8質量%)又はボグリボース(最終含量4質量%)」を加えた餌;を1時間与えた。
カイコの体液を前記と同様に回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。
【0093】
結果を
図4に示す。
図4Aはアカルボースを加えた場合、
図4Bはボグリボースを加えた場合の、グルコース濃度の測定結果を示す。横軸中、「+Sucrose」は10質量%スクロース餌、「+Glucose」は10質量%グルコース餌を示す。***はP<0.001を示し、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。n=5/群で実験を行った。
【0094】
図4の結果、餌に10質量%スクロースを添加することにより上昇したカイコの体液中のグルコース濃度は、最終含量8質量%のアカルボース又は最終含量4質量%のボグリボースを餌に加えることにより抑制された。一方、餌に10質量%グルコースを添加した場合は、これらの化合物(アカルボース又はボグリボース)の効果は見られなかった。
以上の結果は、カイコにおいても哺乳動物と同様に、アカルボースやボグリボースが、α−グリコシダーゼ阻害作用により血糖上昇抑制効果をもたらしていることが分かった。
【0095】
実施例3
[スクロースの摂食によるカイコの体液中グルコース濃度の上昇に対する乳酸菌の効果]
α−グリコシダーゼ阻害剤であるアカルボースは、Actinoplanes sp. SE50/110というグラム陽性細菌が生産することが報告されている(Schwientek P et al., BMC Genomics, 2012)。また、マウスの餌に、乳酸菌の一種であるLactobacillus rhamnosusを添加すると、スクロースによる血中グルコース濃度の増加が抑えられることが報告されている(Honda K et al., J. Clin. Biochem. Nutr., 2012)。更に、乳酸菌の熱処理菌体画分にα−グリコシダーゼ阻害活性があることも報告されている(Panwar H et al., Eur J Nutr, 2014)。
【0096】
そこで、本発明者らが保有する乳酸菌ライブラリー(表1)の中から、「スクロースの摂食によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇」を阻害する乳酸菌をスクリーニングした。
5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌に各種乳酸菌(最終含量25質量%、表1)を加えた餌を1時間与えた。カイコの体液を前記と同様に回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。
【0097】
【表1】
【0098】
結果を
図5に示す。縦軸は、コントロール(乳酸菌を加えていない10質量%スクロース餌)を1時間与えた後のカイコの血糖値を100質量%としたときの血糖値の割合(%)を示している。*はP<0.05、**はP<0.01、***はP<0.001を示し、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。n=4〜15/群で実験を行った。
【0099】
図5の結果、いくつかの乳酸菌について、それらを10質量%スクロース餌に加えると、カイコの血糖値の上昇が抑制されることが分かった。
【0100】
次に、
図5で最も血糖上昇の抑制が顕著であった乳酸菌#L1−1株の添加による、スクロース含有餌の給餌によるカイコの体液中のグルコース濃度の測定を行った。
5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌に乳酸菌#L1−1株(Lactic acid bacteria (LAB) #L1-1)(最終含量0〜50質量%)を加えた餌を1時間与えた。カイコの体液を前記のように回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。
【0101】
結果を
図6Aに示す。
図5で最も血糖上昇の抑制が顕著であった乳酸菌#L1−1株においては、餌に加える菌体量依存的な血糖上昇の抑制効果が見られた。
【0102】
また、乳酸菌#L1−1株の添加若しくは未添加による「スクロース又はグルコース含有餌の給餌によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇の阻害効果の違い」を検証した。
5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌;10質量%グルコース餌;「10質量%スクロース餌又は10質量%グルコース餌」のそれぞれに「乳酸菌#L1−1株(最終含量25質量%)を加えた餌」;を1時間与えた。カイコの体液を回収し、前記のように体液中のグルコース濃度を測定した。スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。
【0103】
結果を
図6Bに示す。*はP<0.05、**はP<0.01、***はP<0.001を示し、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。n=5/群で実験を行った。
【0104】
図6Bの結果、乳酸菌Lactococcus lactis #L1-1株による血糖上昇抑制効果は、10質量%グルコースを加えた餌の場合には見られなかった。
以上の結果は、Lactococcus lactis #L1-1株のスクロース摂食餌による血糖上昇の抑制は、カイコ腸管のα−グリコシダーゼの阻害による糖の腸管からの吸収抑制によることが示唆された。
【0105】
実施例4
<スクロース摂食によるカイコの体液中グルコース濃度の上昇を抑制する乳酸菌の同定>
更に、表1に列挙されている乳酸菌の他に、発明者らが保有する乳酸菌ライブラリー(表2)の中からスクロースの摂食によるカイコの体液中グルコース濃度の上昇を著しく阻害する乳酸菌を探索した。
【0106】
【表2】
【0107】
5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌に表1の各種乳酸菌 (餌全体に対して25%)を加えた餌を1時間与えた。その後カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定し、スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて有意差検定を行った。結果を
図7に示す。
図7中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「Control」は、乳酸菌を含有しない、10質量%スクロース餌をカイコに与えたときの結果を示す。* はP<0.05であり、 エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3で行った。
【0108】
図7の結果、Enterococcus faecalis 0831-07 (Enterococcus faecalis #Ef-1)株が、10質量%スクロース餌の摂食によるカイコの血糖値の上昇を顕著に抑制した。
以下、Enterococcus faecalis 0831-07を、「乳酸菌0831−07」又は「乳酸菌#Ef−1」と略記する場合がある。
【0109】
次に、5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌に乳酸菌0831−07株(餌全体に対して0〜50質量%)を加えた餌を1時間与えた。その後カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。結果を
図8に示す。
図8中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)、横軸は乳酸菌0831−07株の含有量(質量%)を示す。**はP<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=5で行った。
【0110】
図8の結果、乳酸菌0831−07株による血糖上昇の抑制効果は、餌に加える菌体量依存的であった。
【0111】
次に、5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌、又は、「10質量%グルコース餌に乳酸菌0831−07株(餌全体に対して25質量%)を加えた餌」を1時間与えた。カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて有意差検定を行った。結果を
図9に示す。
図9中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「+Sucrose」は10質量%スクロース餌、「+Glucose」は10質量%グルコース餌を示す。***はP<0.001であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=7で行った。
【0112】
図9の結果、乳酸菌0831−07(乳酸菌#Ef−1)株は、「10質量%スクロース餌の摂食によるカイコの血糖値の上昇」を顕著に抑制した。
なお、グルコースを摂食させた場合の体液中のグルコース濃度の上昇に対しても、乳酸菌0831−07株による抑制効果が認められた。
また、乳酸菌0831−07株は、グルコース又はフルクトースが入った培地で増殖可能であった。
【0113】
次に、5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌に、「乳酸菌0831−07株(餌全体に対して25質量%)」又は「オートクレーブ処理により熱処理された乳酸菌0831−07株(餌全体に対して25質量%)」を加えた餌を1時間与えた。その後、カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて有意差検定を行った。結果を
図10に示す。
図10中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「Control」は、乳酸菌を含有しない、10質量%スクロース餌をカイコに与えたときの結果を示す。「−」は、熱処理を行っていない乳酸菌0831−07(#Ef−1)株、「Heat-killed」は、オートクレーブ処理により熱処理された乳酸菌0831−07株を示す。
【0114】
図10の結果、乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分は、未処理の生菌の場合と同様に、スクロース餌の摂食によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇を抑制した(
図10)。
よって、乳酸菌0831−07株のスクロース摂食餌による血糖上昇の抑制効果は、乳酸菌0831−07株による熱処理耐性成分によるカイコ腸管のα−グリコシダーゼの阻害によることが示唆された。
【0115】
実施例5
<ヒトのスクロース摂食による血糖値の上昇に対する乳酸菌0831−07株の阻害効果>
次に、乳酸菌0831−07株が、ヒトにおける食後高血糖を抑制するか否かを検証するため、乳酸菌0831−07株を用いて牛乳からヨーグルトを製造した。
被験者に対して該ヨーグルト非摂取時とヨーグルト摂取時でのクロスオーバー法で、スクロース(ショ糖)負荷試験を実施した。
ヨーグルト摂取群の被験者は、ショ糖負荷10分前に、ヨーグルト200mLを摂取した。その後、ヨーグルト非摂取群とヨーグルト摂取群の被験者共、50%(w/v)ショ糖水溶液150mLを飲用した。ショ糖負荷後、15、30、45、60、90、120分において血糖値を測定した。血糖値は、指先から微量の血液を採取し、簡易血糖測定器を用いて測定した。スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて有意差検定を行った。結果を
図11に示す。
図11中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸は、スクロース摂取(負荷)後の経過時間(分)を示す。* はP<0.05であり、 エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=10で行った。
【0116】
図11の結果、乳酸菌0831−07株を用いて製造したヨーグルトを摂食した被験者は、非摂食群と比較して、スクロース負荷後45分における血糖値が低かった(
図11)。
よって、乳酸菌0831−07株の菌体成分が、ヒトにおけるスクロース(ショ糖)摂取による血糖値の上昇を抑制する効果を有することが示唆された。
【0117】
実施例6
<乳酸菌死菌添加による、スクロース含有餌の給餌によるカイコ体液中のグルコース濃度上昇の阻害効果>
10質量%スクロース含有餌に、乳酸菌0831−07(#Ef−1)株又はオートクレーブ処理された乳酸菌0831−07(#Ef−1)株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)を餌全体に対して6.3、12.5、25質量%になるように加えた餌を、5齢1日目のカイコに1時間与えた。該カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。結果を
図12aに示す。
【0118】
図12a中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「No bacteria」は乳酸菌0831−07(#Ef−1)株を含有しない、10質量%スクロース含有餌(Sucrose diet)をカイコに与えたときの結果を示す。「Viable #Ef-1 content」は熱処理を行っていない乳酸菌0831−07株の含有量、「Heat-killed #Ef-1 content」は熱処理された乳酸菌0831−07株の含有量を示す。
***はP<0.001、**はp<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=11〜14で行った。
【0119】
図12aの結果、乳酸菌0831−07株による血糖上昇の抑制効果は、餌に加える菌体量に依存して増強することが分かった。また、乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分も用量依存的に、スクロース含有餌の摂食によるカイコ体液中のグルコース濃度上昇を抑制した。
【0120】
次に、10質量%グルコース餌に乳酸菌0831−07(#Ef−1)株又はオートクレーブ処理された乳酸菌0831−07(#Ef−1)株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)を餌全体に対して25質量%になるように加えた餌を、5齢1日目のカイコに1時間与えた。該カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定し、スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。結果を
図12bに示す。
【0121】
図12b中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「No bacteria」は乳酸菌0831−07(#Ef−1)株を含有しない、10質量%グルコース餌(Glucose diet)をカイコに与えたときの結果を示す。「Viable」は熱処理を行っていない乳酸菌0831−07株を加えた10質量%グルコース餌、「Heat-killed」は熱処理された乳酸菌0831−07株を加えた10質量%グルコース餌をカイコに与えたときの結果を示す。
*はP<0.05、**はP<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=6〜7で行った。
【0122】
図12bの結果、熱処理を行っていない乳酸菌0831−07株は、グルコース含有餌の摂食によるカイコ体液中のグルコース濃度上昇を抑制した。一方、乳酸菌0831−07株の熱処理菌体には、グルコース摂食後のカイコ体液中のグルコース濃度上昇を抑制する活性は見出されなかった。
【0123】
以上の結果は、乳酸菌0831−07(#Ef−1)株の生菌が、スクロース及びグルコース摂取後のカイコ体液中のグルコース濃度上昇を抑制すること、並びに乳酸菌0831−07(#Ef−1)株の熱処理菌体には、スクロース摂取後のカイコの体液中のグルコース濃度の上昇を抑制する活性が残っていることが示唆された。
【0124】
実施例7
<in vitroでのカイコの腸管における糖移行評価系の実験スキームの構築>
【0125】
次に、乳酸菌0831−07株がスクロース摂食後のカイコの血糖上昇を抑制する機構について、解明を試みた。哺乳動物においてスクロースは、腸管内でα−グリコシダーゼによりグルコースとフルクトースに分解され、腸管から吸収されることが知られている。まず、カイコの腸管内のスクロースがα−グリコシダーゼにより分解されてグルコースが腸管外に移行する過程を解析するための実験系の構築を行った。
5齢1日目のカイコの腸管を摘出し、糸で縛って溶液を入れられる状態にした。該カイコの腸管内にスクロース溶液を加えてその溶液が漏れないように糸で縛った。そして、PBS中でインキュベーションし、腸管外に輸送されたグルコースを定量した。
「in vitroでのカイコの腸管における糖移行評価系の実験スキーム」を
図13aに示す。
【0126】
上記実験スキームを用いて、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液にアカルボース(40mg/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図13bに示す。
図13b中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はインキュベート時間(分)を示す。
【0127】
図13bの結果、腸管外液中のグルコース濃度は、時間依存に上昇することがわかった(
図13b中、黒丸)。また、該腸管外液中のグルコース濃度の上昇は、α−グリコシダーゼ阻害剤であるアカルボースを加えることにより抑制された(
図13b中、白丸)。この結果から、カイコの腸管内において、スクロースがα−グリコシダーゼによりグルコースとフルクトースに分解され、さらに腸管外に輸送されることが示唆された。
【0128】
実施例8
<乳酸菌0831−07株による、スクロース摂食後の食後高血糖抑制のメカニズム解析>
実施例7で構築した実験スキームを用いて、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液に乳酸菌0831−07株(250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図14aに示す。
図14a中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はインキュベート時間(分)を示す。
【0129】
また、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液に乳酸菌0831−07株(31mg、63mg、125mg、250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、60分後の腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図14bに示す。
図14b中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸は乳酸菌0831−07(#Ef−1)株の量(mg/mL)を示す。*はP<0.05、**はp<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3〜5で行った。
【0130】
図14a及びbの結果、カイコの腸管内のスクロース溶液中に乳酸菌0831−07株の生菌を添加すると、腸管外液中のグルコース濃度の上昇は抑制された。また、該抑制効果は、菌体量に依存して増強することが分かった(
図14b)。
【0131】
次に、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液にオートクレーブ処理した乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)(250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図14cに示す。
図14c中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はインキュベート時間(分)を示す。
【0132】
また、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液にオートクレーブ処理した乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)(31mg、63mg、125mg、250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、60分後の腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図14dに示す。
図14d中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はオートクレーブ処理した乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)の量(mg/mL)を示す。**はp<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3〜5で行った。
【0133】
図14c及びdの結果、乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分を添加しても腸管外液中のグルコース濃度の上昇は抑制された。また、該抑制効果は、菌体量に依存して増強することが分かった(
図14d)。
これらの結果から、乳酸菌0831−07株の熱耐性因子は、カイコの腸管内のスクロースが分解されて得られた分子(グルコース)が腸管外に移行する過程を阻害することが示唆された。
【0134】
次に、カイコの腸管内にグルコース溶液、又はグルコース溶液に乳酸菌0831−07株(250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図15aに示す。
図15a中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はインキュベート時間(分)を示す。
【0135】
図15aの結果、カイコの腸管内にグルコース溶液を封入した場合にも時間経過に伴うグルコースの腸管外への透過が見られた。
【0136】
また、カイコの腸管内にグルコース溶液、又はグルコース溶液にオートクレーブ処理した乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)(250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図15bに示す。
図15b中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「No bacteria」は乳酸菌0831−07(#Ef−1)株を含有しない、グルコース溶液の結果を示す。「Viable」は熱処理を行っていない乳酸菌0831−07株を加えたグルコース溶液、「Heat-killed」は熱処理された乳酸菌0831−07株を加えたグルコース溶液の結果を示す。*はp<0.05であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3〜4で行った。
【0137】
乳酸菌0831−07株の生菌を腸管内に添加すると、腸管外液中のグルコース濃度の上昇が抑制されることが分かった(
図15a及びb)。一方、乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分を添加した場合には、腸管外液中のグルコース濃度の上昇は抑制されなかった(
図15b)。
これらの結果から、乳酸菌0831−07株の熱感受性因子が、カイコの腸管内から腸管外へのグルコース輸送を阻害することが示唆された。
【0138】
実施例9
<乳酸菌0831−07株による、カイコ又はラットの腸管のα−グリコシダーゼ活性の阻害>
次に、乳酸菌0831−07株の熱処理画分がカイコ腸管のα−グリコシダーゼ活性を阻害するかを検討した。α−グリコシダーゼの測定は実施例2と同様に行った。
5齢1日目のカイコに通常餌を1日与えた。該カイコの腸管を超音波処理により破砕された細胞破砕画分と乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)を加えてα−グリコシダーゼ活性を測定した。結果を
図16aに示す。
図16a中、縦軸は「Produced pNP」の濃度(nmol)を示す。「Produced pNP」の濃度(nmol)が高い程、α−グリコシダーゼ活性が高いことを示す。横軸は、乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)の量(mg/mL)を示す。
【0139】
図16aの結果、カイコ腸管の細胞破砕画分には、α−グリコシダーゼ活性が認められ、乳酸菌0831−07株の熱処理画分は、この活性を用量依存的に阻害することがわかった。
【0140】
次に、ラット腸管アセトン抽出画分と乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)を加えてα−グリコシダーゼ活性を測定し、スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。結果を
図16bに示す。
図16b中、縦軸は「Produced pNP」の濃度(nmol)を示す。「Produced pNP」の濃度(nmol)が高い程、α−グリコシダーゼ活性が高いことを示す。横軸は、乳酸菌0831−07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)の量(mg/mL)を示す。***はp<0.001であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3で行った。
【0141】
図16bの結果、乳酸菌0831−07株の熱処理画分は、ラットの腸管破砕液中のα−グリコシダーゼ活性も用量依存的に阻害した。したがって、乳酸菌0831−07株の熱処理画分が、カイコ及び哺乳動物の腸管内のα−グリコシダーゼ活性を阻害し、腸管内のスクロースがグルコースとフルクトースに分解され、それらが腸管外に移行する過程を阻害されることが示唆された。
【0142】
<実施例のまとめ>
「ヒトにおけるα−グリコシダーゼの阻害剤」であるアカルボース及びボグリボースで確認されたことで、本発明の方法を使用することによって、ある被験物質がスクロース摂取によるヒトの血糖値上昇を抑制する物質であるか否かを的確に評価できることが分かった。
また、少なくとも幾つかの乳酸菌が、新規に血糖値上昇を抑制することを見出したことによって、本発明の方法を使用することによって、ヒトの血糖値上昇を抑制する物質(の候補となる物質)をスクリーニングできることが分かった。
【0143】
スクロースはケーキ等の甘い食べ物(sweets)だけでなく、多くの料理に添加される甘味料である。スクロースが多く含まれた食品は高カロリーである。現在、過剰なカロリー摂取による肥満や血糖値上昇やその後に発症する糖尿病等の生活習慣病の発症が問題となっており、日頃から血糖値が上昇しないように注意することは、生活習慣病の発症を抑制する上で大変重要であるとされている。生活習慣病の予防のためには、食事療法や運動療法が効果的とされているが、それらを継続することは困難である場合が少なくない。食事療法においては、食後の血糖値の上昇が起こらないように摂取カロリーが制限される。
【0144】
従って、血糖値の上昇を抑制する食品添加物の開発が、継続的な食事療法を実施する上で有効であると考えられる。本発明の評価方法により、in vivoで血糖値の上昇を阻害する効果が示された「乳酸菌等の物質」の摂取は、肥満や糖尿病患者やそれらの予備軍のヒトの食事療法を、より効果的にすると期待される。
【0145】
また、本実施例では、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、リューコノストック(Leuconostoc)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属の菌株の中に、カイコを用いた血糖上昇阻害評価系により効果があると判定される菌株が存在することが明らかになった。これらの細菌は、乳酸菌として発酵食品の製造に使われる。
また、Lactococcus lactisの5つの菌株のうち、カイコを用いた血糖上昇阻害評価系により効果があると判定された菌株は、1株であった。この結果は、同じLactococcus lactisの菌株の中でもα−グリコシダーゼ阻害効果に差があることを示唆している。
【0146】
また、血糖値の上昇を抑える菌株を得るためには、動物を用いた評価試験が必要であり、本発明の評価方法又はスクリーニング方法により、迅速、簡便に有用な乳酸菌のスクリーニング(選定)が行えることが分かった。
【0147】
また、上記実施例より、カイコの評価系を用いてスクリーニングした結果発見された乳酸菌0831−07(乳酸菌#Ef−1)株から作成したヨーグルトが、ヒトのスクロースの摂食による食後高血糖を抑制することが示された。
従って、本実施例で得られた乳酸菌0831−07株は、スクロース(ショ糖)摂取による血糖値の上昇を抑制する機能性乳酸菌である。該乳酸菌を用いて作製されたヨーグルトは、肥満や糖尿病患者やそれらの予備軍のヒトの食事療法をより効果的にすると期待される。
【0148】
また、乳酸菌0831−07株には、カイコ腸管のα−グリコシダーゼを阻害する活性、及び腸管内から腸管外へのグルコースの輸送を阻害する活性が見出された。該菌が有するこれらの活性が、スクロースを摂食したカイコの血糖値の上昇の抑制をもたらすと示唆された。乳酸菌0831−07株による食後高血糖抑制効果を示す模式図を
図17に示す。
図17中、"Lumen"は「内腔」、"α-glucosidase"は「α−グリコシダーゼ」、"Glycolysis"は「糖分解」、"Heat stable factor(s)"は「熱耐性因子」、"Heat sensitive factor(s)"は「熱感受性因子」、"Transport"は「輸送」、"Sucrose"は「スクロース」、"Glucose"は「グルコース」、"Fructose"は「フルクトース」、"E. faecalis (#Ef-1)"は「乳酸菌0831−07」を示す。
【0149】
また、乳酸菌0831−07株の熱処理菌体は、カイコのスクロース摂食による食後高血糖を抑制する活性を保持していた。この画分はカイコ腸管のスクロースを分解する酵素であるα−グリコシダーゼ活性を阻害したが、腸管のグルコース輸送は阻害しなかった。したがって、乳酸菌0831−07株の、スクロースを摂取したカイコの血糖上昇を抑える効果は、α−グリコシダーゼ活性の阻害が主な要因であると示唆された(
図17)。
【0150】
食品の有効性の評価をするためには、動物個体を用いた評価が必要である。従来、実験動物として用いられてきたマウスやラット等の哺乳動物は、多数の個体を用いるスクリーニングの実施に高いコストがかかる。これに対してカイコは、大きな飼育スペースを必要とせず、多数の個体を低いコストで飼育可能である。更に動物愛護の観点から、哺乳動物を用いた実験は、国際原則である3R、すなわちReplacement(代替法の開発)、Reduction(動物数の削減)、Refinement(動物の苦痛の削減)に従って実験を行わなければならない(Russell et al., 1959)。
カイコを代替動物として利用することは、3Rの中のRelative Replacementの考えと合致する。カイコを機能性食品の探索段階で使用すれば、犠牲にする哺乳動物の数を減少させ、コストや動物愛護の観点からの問題を解決できると考えられる。