特許第6793503号(P6793503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793503
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】グラフェンの生成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/184 20170101AFI20201119BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20201119BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20201119BHJP
   C23C 16/56 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C01B32/184
   B01J23/755 M
   C23C16/26
   C23C16/56
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-171297(P2016-171297)
(22)【出願日】2016年9月1日
(65)【公開番号】特開2018-35047(P2018-35047A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年6月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「低炭素社会を実現する超低電圧デバイスプロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井福 亮太
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴士
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−037434(JP,A)
【文献】 特開2009−102220(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0326700(US,A1)
【文献】 特開2013−129912(JP,A)
【文献】 特開2014−227311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
B01J 21/00−38/74
C23C 16/0−16/56
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒が配置されたチャンバ内に炭素含有ガスを供給することにより、前記金属触媒の表面にグラフェンを成長させる第1の成長ステップと、
表面に前記グラフェンが成長した前記金属触媒が配置されたチャンバ内に酸素ガスおよび不活性ガスの混合ガスを供給することにより、前記酸素ガスの分子が前記金属触媒の原子間に入り込み、前記グラフェンを構成しない余分な前記炭素含有ガスが前記金属触媒から除去され、前記金属触媒を再度活性化させる活性化ステップと、
前記チャンバ内に水素ガスを含むガスを供給することにより、前記金属触媒の表面を清浄化する清浄化ステップと、
再度活性化した前記金属触媒が配置されたチャンバ内に前記炭素含有ガスを供給することにより、前記金属触媒の表面にグラフェンを再成長させる第2の成長ステップと
を含むことを特徴とするグラフェンの生成方法。
【請求項2】
前記金属触媒は、遷移金属または2種類以上の遷移金属を含む合金であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェンの生成方法。
【請求項3】
前記金属触媒は、Ni、Co、Fe、Cu、W、またはこれらを2種類以上含む合金であることを特徴とする請求項1または2に記載のグラフェンの生成方法。
【請求項4】
前記活性化ステップは、前記混合ガスを用いて、前記金属触媒の温度が200℃以上400℃以下の温度範囲の条件下で行われることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のグラフェンの生成方法。
【請求項5】
前記活性化ステップと、前記第2の成長ステップとは、交互に繰り返し実行されることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のグラフェンの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の種々の側面および実施形態は、グラフェンの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子の六員環が連なって平面状になった2次元構造を有しており、非常に優れた電気的性質および熱的性質を有することが知られている。そのため、グラフェンは、3次元構造のメモリ等に用いられる微細配線の材料として注目されている。また、グラフェンをCVD(Chemical Vapor Deposition)により生成する技術が知られている。当該技術では、金属触媒の表面に炭素含有ガスが供給され、金属触媒内に固溶した炭素が金属触媒の表面に析出することによりグラフェンが生成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Teng Ma et al. ”Repeated Growth-Etching-Regrowth for Large-Area Defect-Free Single-Crystal Graphene by Chemical Vapor Deposition” ACS Nano 2014 Dec 1;8(12):12806-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、グラフェンを配線材料として用いる場合、結晶体であるグラフェンの粒径が大きいことが好ましい。これにより、導電性が高く、任意の形状の配線を容易に作成することができる。しかし、従来のグラフェンの生成方法では、炭素の析出により金属触媒の表面にグラフェンが成長するが、時間の経過と共にグラフェンの成長が鈍化し、やがてグラフェンの成長が停止する。そのため、粒径の大きなグラフェンを生成することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、グラフェンの生成方法であって、第1の成長ステップと、活性化ステップと、第2の成長ステップとを含む。第1の成長ステップでは、金属触媒が配置されたチャンバ内に炭素含有ガスを供給することにより、金属触媒の表面にグラフェンを成長させる。活性化ステップでは、表面にグラフェンが成長した金属触媒が配置されたチャンバ内に酸素ガスまたは水素ガスを含む処理ガスを供給することにより、金属触媒を再度活性化させる。第2の成長ステップでは、再度活性化した金属触媒が配置されたチャンバ内に炭素含有ガスを供給することにより、金属触媒の表面にグラフェンを再成長させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の種々の側面および実施形態によれば、粒径の大きなグラフェンを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、グラフェン生成システムの構成の一例を示すシステム構成図である。
図2図2は、各処理モジュールの構成の一例を示す断面図である。
図3図3は、グラフェンの生成処理の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、グラフェンの生成過程の一例を示す模式図である。
図5図5は、グラフェンの結晶の粒径の大きさの変化の一例を示すSEM(Scanning Electron Microscope)写真である。
図6図6は、第1の成長処理後のグラフェンの表面の一例を示すSEM写真である。
図7図7は、ラマンスペクトルの分布の一例を示す図である。
図8図8は、第3の熱処理後の金属触媒の表面の一例を示すSEM写真である。
図9図9は、第3の熱処理後の金属触媒の表面におけるラマンスペクトルの分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
開示するグラフェンの生成方法は、一つの実施形態において、第1の成長ステップと、活性化ステップと、第2の成長ステップとを含む。第1の成長ステップでは、金属触媒が配置されたチャンバ内に炭素含有ガスを供給することにより、金属触媒の表面にグラフェンを成長させる。活性化ステップでは、表面にグラフェンが成長した金属触媒が配置されたチャンバ内に酸素ガスまたは水素ガスを含む処理ガスを供給することにより、金属触媒を再度活性化させる。第2の成長ステップでは、再度活性化した金属触媒が配置されたチャンバ内に炭素含有ガスを供給することにより、金属触媒の表面にグラフェンを再成長させる。
【0009】
また、開示するグラフェンの生成方法の一つの実施形態において、活性化ステップと、第2の成長ステップとの間に、水素ガスを含む処理ガスにより金属触媒の表面を清浄化する清浄化ステップがさらに含まれてもよい。
【0010】
また、開示するグラフェンの生成方法の一つの実施形態において、遷移金属または2種類以上の遷移金属を含む合金であってもよい。
【0011】
また、開示するグラフェンの生成方法の一つの実施形態において、金属触媒は、Ni、Co、Fe、Cu、W、またはこれらを2種類以上含む合金であってもよい。
【0012】
また、開示するグラフェンの生成方法の一つの実施形態において、活性化ステップは、酸素ガスおよび不活性ガスを含む処理ガスを用いて、金属触媒の温度が200℃以上400℃以下の温度範囲の条件下で行われてもよい。
【0013】
また、開示するグラフェンの生成方法の一つの実施形態において、活性化ステップと、第2の成長ステップとは、交互に繰り返し実行されてもよい。
【0014】
以下に、開示するグラフェンの生成方法の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態により、開示するグラフェンの生成方法が限定されるものではない。
【0015】
[グラフェン生成システム10]
図1は、グラフェン生成システム10の構成の一例を示すシステム構成図である。グラフェン生成システム10は、例えば図1に示すように、平面視略6角形の減圧搬送モジュール11と、該減圧搬送モジュール11の周囲に放射状に配置された下地膜形成モジュール13a、第1の熱処理モジュール13b、グラフェン生成モジュール13c、および第2の熱処理モジュール13dとを備える。なお、以下では、下地膜形成モジュール13a、第1の熱処理モジュール13b、グラフェン生成モジュール13c、および第2の熱処理モジュール13dのそれぞれを区別することなく総称する場合に、単に処理モジュール13と記載する。
【0016】
減圧搬送モジュール11は、内部が所定の真空度まで減圧される。また、減圧搬送モジュール11は、ゲートバルブ12aを介して下地膜形成モジュール13aに接続され、ゲートバルブ12bを介して第1の熱処理モジュール13bに接続され、ゲートバルブ12cを介してグラフェン生成モジュール13cに接続され、ゲートバルブ12dを介して第2の熱処理モジュール13dに接続されている。なお、以下では、ゲートバルブ12a〜12dのそれぞれを区別することなく総称する場合に、単にゲートバルブ12と記載する。
【0017】
下地膜形成モジュール13aは、内部が所定の真空度に減圧され、PVD(Physical Vapor Deposition)またはCVDによって、シリコン基板等のウエハW上に、下地膜として、後述する金属触媒を成膜する。第1の熱処理モジュール13bは、金属触媒が成膜されたウエハWを熱処理する。グラフェン生成モジュール13cは、熱処理されたウエハW上の金属触媒上にグラフェンを成膜する。第2の熱処理モジュール13dは、グラフェンが成膜されたウエハWを熱処理する。なお、第1の熱処理モジュール13bと、第2の熱処理モジュール13dとは、1つの処理モジュール13により実現されてもよい。
【0018】
減圧搬送モジュール11には、ロードロックモジュール17が接続されている。図1に例示したグラフェン生成システム10では、減圧搬送モジュール11に2つのロードロックモジュール17が接続されている。減圧搬送モジュール11内には、搬送ロボット19が設けられている。搬送ロボット19は、ロードロックモジュール17と各処理モジュール13との間、および、各処理モジュール13の間で、ウエハWを搬送する。
【0019】
それぞれのロードロックモジュール17には、ローダモジュール18が接続されている。ローダモジュール18内には、搬送ロボット21が設けられている。搬送ロボット21は、複数のウエハWを収容するキャリア20から未処理のウエハWを取り出してロードロックモジュール17内に搬送する。また、搬送ロボット21は、グラフェンが生成された処理後のウエハWをロードロックモジュール17から取り出してキャリア20内に搬送する。
【0020】
なお、本実施形態では、下地膜形成モジュール13a、第1の熱処理モジュール13b、グラフェン生成モジュール13c、および第2の熱処理モジュール13dは、それぞれ別々の処理モジュール13として構成されるが、下地膜形成モジュール13a、第1の熱処理モジュール13b、グラフェン生成モジュール13c、および第2の熱処理モジュール13dは、1つの処理モジュール13により実現されてもよい。
【0021】
グラフェン生成システム10は、各構成要素の動作を制御する制御部22を備える。制御部22は、グラフェン生成システム10の各構成要素、例えば、各処理モジュール13や、搬送ロボット19、搬送ロボット21等の動作を制御する。制御部22は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を有するプロセスコントローラ23と、ユーザーインターフェース24と、記憶部25とを有する。
【0022】
ユーザーインターフェース24は、ユーザが、グラフェン生成システム10の各部の動作を制御するためにコマンドの入力等を行うキーボードやタッチパネル、並びに、グラフェン生成システム10の各部の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有する。記憶部25には、グラフェン生成システム10の各部において実行される各種処理をプロセスコントローラ23の制御を通じて実現するための制御プログラム(ソフトウェア)や処理条件のデータ等が記録されたレシピ等が保存される。
【0023】
プロセスコントローラ23は、ユーザーインターフェース24から入力されたコマンド等に応じて任意のレシピを記憶部25から読み出して実行する。このとき、例えば、各処理モジュール13では、図3において後述されるグラフェンの生成処理が実行される。
【0024】
なお、制御プログラムや処理条件のデータ等が記録されたレシピは、コンピュータによって読み取り可能な可搬性の記録媒体に格納されていてもよく、プロセスコントローラ23は、制御プログラムや処理条件のデータ等を該記録媒体から読み出して実行してもよい。記録媒体としては、例えば、CD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ等を用いることができる。さらに、レシピは、他の装置から通信回線等を介して伝送されてもよい。
【0025】
[各処理モジュール13の構成]
図2は、各処理モジュール13の構成の一例を示す断面図である。下地膜形成モジュール13a、第1の熱処理モジュール13b、グラフェン生成モジュール13c、および第2の熱処理モジュール13dは、図2に示した処理モジュール13と同様の構造である。各処理モジュール13は、例えば図2に示すように、気密に構成された略円筒状のチャンバ26と、チャンバ26の内部に設けられ、ウエハWを載置する載置台27と、チャンバ26の内部にガスを供給するガス供給部28と、チャンバ26の内部を排気する排気部29とを備える。
【0026】
チャンバ26の底壁26aの略中央には円形の開口30が形成されている。底壁26aには、開口30を介してチャンバ26の内部と連通し、かつ、下方に突出する排気室31が設けられている。チャンバ26の側壁26bには、チャンバ26内へのウエハWの搬入およびチャンバ26内からのウエハWの搬出を行うための開口32が形成されている。開口32には、開口32を開閉するためのゲートバルブ12が設けられている。ゲートバルブ12が開放された場合、チャンバ26は、開口32を介して減圧搬送モジュール11と連通する。
【0027】
載置台27は、例えば窒化アルミニウム等のセラミックスから構成され、排気室31の底部略中央から上方に延伸する支柱34によって支持されている。載置台27の内部にはウエハWを昇降するための昇降ピン35が格納されており、該昇降ピン35は載置台27の表面から突出してウエハWを載置台27から離間させる。
【0028】
載置台27の内部にはヒータ36が埋め込まれており、ヒータ36には、ヒータ電源37が接続されている。ヒータ36は、ヒータ電源37から供給された電力により発熱し、載置台27に載置されたウエハWを加熱する。また、載置台27には、熱電対等の図示しない温度センサが設けられており、該温度センサにより、載置台27上のウエハWの温度が計測される。そして、ウエハWの温度が所定範囲内の温度となるように、ヒータ電源37からヒータ36に供給される電力が制御される。なお、ウエハWの温度は、以下において、特に断りのない限り、ヒータ36の設定温度ではなく、温度センサによって計測された温度を意味する。
【0029】
チャンバ26の上方には、下面に複数のガス放出孔39が形成されたシャワープレート38が設けられている。シャワープレート38は、ガス供給路40を介してガス供給部28に接続されている。ガス供給部28から供給されたガスは、シャワープレート38内に供給され、シャワープレート38の下面のそれぞれのガス放出孔39からチャンバ26内にシャワー状に供給される。
【0030】
ガス供給部28は、第1のガス供給源28a、第2のガス供給源28b、第3のガス供給源28c、および第4のガス供給源28dを有する。第1のガス供給源28aは、ガス供給路28eを介して第1のガスをガス供給路40に供給する。第2のガス供給源28bは、ガス供給路28fを介して第2のガスをガス供給路40に供給する。第3のガス供給源28cは、ガス供給路28gを介して第3のガスをガス供給路40に供給する。第4のガス供給源28dは、ガス供給路28hを介して第4のガスをガス供給路40に供給する。それぞれのガス供給路28e〜28hには、それぞれマスフローコントローラ等の流量制御器やバルブ等が設けられている。
【0031】
処理モジュール13が下地膜形成モジュール13aである場合、第1のガスは、例えばニッケルアミド化合物ガス等の有機金属化合物ガスであり、第2のガスは、例えばアルゴン(Ar)等の不活性ガスであり、第3のガスは、例えばアンモニアガス(NH3)であり、第4のガスは、例えば水素ガス(H2)である。なお、不活性ガスとしては、アルゴン等の希ガスの他、窒素(N2)ガスが用いられてもよい。
【0032】
処理モジュール13が第1の熱処理モジュール13bである場合、第1のガスは、例えば水素ガスであり、第2のガスは、例えばアルゴン等の不活性ガスである。なお、処理モジュール13が第1の熱処理モジュール13bである場合、第3のガス供給源28cおよび第4のガス供給源28dは使用されない。
【0033】
処理モジュール13がグラフェン生成モジュール13cである場合、第1のガスは、例えば水素ガスであり、第2のガスは、例えばアルゴン等の不活性ガスであり、第3のガスは、例えばアセチレンガス(C2H2)等の炭素含有ガスである。なお、第3のガスとして用いられる炭素含有ガスとしては、アセチレンガスの他、例えば、エチレン(C2H4)、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、プロピレン(C3H6)、アセチレン(C2H2)等の炭化水素ガス、ベンゼン(C6H6)、トルエン(C7H8)、エチルベンゼン(C8H10)、スチレン(C8H8)、シクロヘキサン(C6H12)等の環式炭化水素ガス、さらには、炭素含有ガスとして、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)等のアルコール類が用いられてもよい。また、処理モジュール13がグラフェン生成モジュール13cである場合、第4のガス供給源28dは使用されない。
【0034】
処理モジュール13が第2の熱処理モジュール13dである場合、第1のガスは、例えば水素ガスであり、第2のガスは、例えばアルゴン等の不活性ガスであり、第3のガスは、例えば酸素ガス(O2)である。なお、処理モジュール13が第2の熱処理モジュール13dである場合、第4のガス供給源28dは使用されない。
【0035】
排気部29は、排気室31の側面の開口に接続する排気管41を有する。排気管41には、バタフライバルブ42および真空ポンプ43が接続されている。排気部29は、バタフライバルブ42および真空ポンプ43を作動させることにより、チャンバ26の内部のガスを排気室31および排気管41を介して排気する。これにより、排気部29は、チャンバ26の内部を、所定の真空度まで減圧することができる。
【0036】
[グラフェンの生成処理]
図3は、グラフェンの生成処理の一例を示すフローチャートである。図4は、グラフェンの生成過程の一例を示す模式図である。図3に示すグラフェンの生成処理は、プロセスコントローラ23によって実行される。
【0037】
まず、プロセスコントローラ23は、繰り返し回数をカウントするための変数nを1に初期化する(S100)。そして、プロセスコントローラ23は、搬送ロボット21を制御し、未処理のウエハWをキャリア20からロードロックモジュール17に搬送させる。そして、プロセスコントローラ23は、下地膜形成モジュール13aのゲートバルブ12aを開放し、搬送ロボット19を制御して、未処理のウエハWを下地膜形成モジュール13a内の載置台27上に載置させ、ゲートバルブ12aを閉じる。
【0038】
次に、プロセスコントローラ23は、下地膜形成モジュール13aを制御し、例えば図4(a)に示すように、ウエハW上にニッケル(Ni)を含む金属触媒51を積層させる(S101)。具体的には、プロセスコントローラ23は、下地膜形成モジュール13aのバタフライバルブ42および真空ポンプ43を制御して、チャンバ26内を所定の真空度まで減圧させる。そして、プロセスコントローラ23は、第1のガス供給源28aからのニッケルアミド化合物ガス、第2のガス供給源28bからのアルゴンガス、第3のガス供給源28cからのアンモニアガス、および、第4のガス供給源28dからの水素ガスを、それぞれ所定の流量でシャワープレート38を介してチャンバ26内に供給する。そして、プロセスコントローラ23は、ヒータ電源37を制御して、ウエハWの温度を所定の温度に設定する。これにより、例えば図4(a)に示すように、ウエハW上に金属触媒51が積層される。本実施形態において、プロセスコントローラ23は、ウエハW上に、例えば100〜600nmの膜厚の金属触媒51が積層されるように、下地膜形成モジュール13aの各部を制御する。
【0039】
次に、プロセスコントローラ23は、下地膜形成モジュール13aのゲートバルブ12aを開放し、搬送ロボット19を制御して、金属触媒51が積層されたウエハWを下地膜形成モジュール13a内から搬出させる。そして、プロセスコントローラ23は、第1の熱処理モジュール13bのゲートバルブ12bを開放し、搬送ロボット19を制御して、金属触媒51が積層されたウエハWを第1の熱処理モジュール13b内の載置台27上に載置させ、ゲートバルブ12bを閉じる。
【0040】
そして、プロセスコントローラ23は、第1の熱処理モジュール13bを制御し、ウエハWに対して第1の熱処理を実行する(S102)。具体的には、プロセスコントローラ23は、第1の熱処理モジュール13bのバタフライバルブ42および真空ポンプ43を制御して、チャンバ26内を所定の真空度まで減圧させる。そして、プロセスコントローラ23は、第1のガス供給源28aからの水素ガス、および、第2のガス供給源28bからのアルゴンガスを、それぞれ所定の流量でシャワープレート38を介してチャンバ26内に供給する。そして、プロセスコントローラ23は、ヒータ電源37を制御して、ウエハWの温度を所定の温度に設定する。ステップS102では、2種類の温度において熱処理が行われる。これにより、例えば図4(b)に示すように、ウエハW上に積層された金属触媒51の結晶の粒径が大きくなり、金属触媒51の表面の平坦性が向上する。
【0041】
ステップS102における第1の熱処理は、例えば以下の処理条件で行われる。なお、第1の熱処理では、以下に示す流量比のガスおよび圧力において、(1)および(2)に示す温度および処理時間の熱処理が順番に実施される。
ガスの流量比:Ar/H2=1000/1000sccm
チャンバ26内の圧力:1Torr
(1)ウエハWの温度:300℃、処理時間:10分
(2)ウエハWの温度:650℃、処理時間:10分
【0042】
次に、プロセスコントローラ23は、第1の熱処理モジュール13bのゲートバルブ12bを開放し、搬送ロボット19を制御して、第1の熱処理が行われたウエハWを第1の熱処理モジュール13b内から搬出させる。そして、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cのゲートバルブ12cを開放し、搬送ロボット19を制御して、第1の熱処理が行われたウエハWをグラフェン生成モジュール13c内の載置台27上に載置させ、ゲートバルブ12cを閉じる。
【0043】
そして、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cを制御し、ウエハWに対して第2の熱処理を実行する(S103)。具体的には、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cのバタフライバルブ42および真空ポンプ43を制御して、チャンバ26内を所定の真空度まで減圧させる。そして、プロセスコントローラ23は、第1のガス供給源28aからの水素ガス、および、第2のガス供給源28bからのアルゴンガスを、それぞれ所定の流量でシャワープレート38を介してチャンバ26内に供給する。そして、プロセスコントローラ23は、ヒータ電源37を制御して、ウエハWの温度を所定の温度に設定する。これにより、減圧搬送モジュール11を介してウエハWが搬送される際に減圧搬送モジュール11内の空気により酸化された金属触媒51の表面が還元される。
【0044】
ステップS103における第2の熱処理は、例えば以下の処理条件で行われる。
ガスの流量比:Ar/H2=1000/1000sccm
チャンバ26内の圧力:1Torr
ウエハWの温度:500℃
処理時間:5分
【0045】
次に、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cを制御し、ウエハW上の金属触媒51の表面にグラフェンを成長させる第1の成長処理を実行する(S104)。具体的には、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cのバタフライバルブ42および真空ポンプ43を制御して、チャンバ26内を所定の真空度まで減圧させる。そして、プロセスコントローラ23は、第1のガス供給源28aからの水素ガス、第2のガス供給源28bからのアルゴンガス、および、第3のガス供給源28cからのアセチレンガスを、それぞれ所定の流量でシャワープレート38を介してチャンバ26内に供給する。なお、第1のガス供給源28aからの水素ガスは、チャンバ26内に供給されなくてもよい。そして、プロセスコントローラ23は、ヒータ電源37を制御して、ウエハWの温度を所定の温度に設定する。これにより、例えば図4(c)に示すように、金属触媒51内に固溶した炭素原子が金属触媒51上に析出し、金属触媒51の表面にグラフェン52が成長する。第1の成長処理は、第1の成長ステップの一例である。
【0046】
ステップS104における第1の成長処理は、例えば以下の処理条件で行われる。
ガスの流量比:Ar/H2/C2H2=2200/0〜2000/5sccm
チャンバ26内の圧力:1Torr
ウエハWの温度:650℃
処理時間:10分
【0047】
次に、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cのゲートバルブ12cを開放し、搬送ロボット19を制御して、第1の成長処理が行われたウエハWをグラフェン生成モジュール13c内から搬出させる。そして、プロセスコントローラ23は、第2の熱処理モジュール13dのゲートバルブ12dを開放し、搬送ロボット19を制御して、第1の成長処理が行われたウエハWを第2の熱処理モジュール13d内の載置台27上に載置させ、ゲートバルブ12dを閉じる。
【0048】
そして、プロセスコントローラ23は、第2の熱処理モジュール13dを制御し、ウエハWに対して第3の熱処理を実行する(S105)。具体的には、プロセスコントローラ23は、第2の熱処理モジュール13dのバタフライバルブ42および真空ポンプ43を制御して、チャンバ26内を所定の真空度まで減圧させる。そして、プロセスコントローラ23は、第2のガス供給源28bからのアルゴンガス、および、第3のガス供給源28cからの酸素ガスを、それぞれ所定の流量でシャワープレート38を介してチャンバ26内に供給する。そして、プロセスコントローラ23は、ヒータ電源37を制御して、ウエハWの温度を所定の温度に設定する。これにより、例えば図4(d)に示すように、金属触媒51の表面に付着した余分な炭素が除去される。第3の熱処理は、活性化ステップの一例である。
【0049】
ステップS105における第3の熱処理は、例えば以下の処理条件で行われる。
ガスの流量比:Ar/O2=1900/100sccm
チャンバ26内の圧力:1Torr
ウエハWの温度:200〜400℃
処理時間:10分
【0050】
次に、プロセスコントローラ23は、第2の熱処理モジュール13dを制御し、ウエハWに対して第4の熱処理を実行する(S106)。具体的には、プロセスコントローラ23は、第2の熱処理モジュール13dのバタフライバルブ42および真空ポンプ43を制御して、チャンバ26内を所定の真空度まで減圧させる。そして、プロセスコントローラ23は、第1のガス供給源28aからの水素ガス、および、第2のガス供給源28bからのアルゴンガスを、それぞれ所定の流量でシャワープレート38を介してチャンバ26内に供給する。そして、プロセスコントローラ23は、ヒータ電源37を制御して、ウエハWの温度を所定の温度に設定する。これにより、前述のステップS105に示した第3の熱処理において過剰に酸化された金属触媒51の表面が還元される。ステップS106において行われる第4の熱処理は、例えば前述の第2の熱処理の処理条件と同一の条件で行われる。第4の熱処理は、清浄化ステップの一例である。
【0051】
次に、プロセスコントローラ23は、第2の熱処理モジュール13dのゲートバルブ12dを開放し、搬送ロボット19を制御して、第4の熱処理が行われたウエハWを第2の熱処理モジュール13d内から搬出させる。そして、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cのゲートバルブ12cを開放し、搬送ロボット19を制御して、第4の熱処理が行われたウエハWをグラフェン生成モジュール13c内の載置台27上に載置させ、ゲートバルブ12cを閉じる。
【0052】
そして、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cを制御し、ウエハW上の金属触媒51上にグラフェン52を成長させる第2の成長処理を実行する(S107)。具体的には、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cのバタフライバルブ42および真空ポンプ43を制御して、チャンバ26内を所定の真空度まで減圧させる。そして、プロセスコントローラ23は、第1のガス供給源28aからの水素ガス、第2のガス供給源28bからのアルゴンガス、および、第3のガス供給源28cからのアセチレンガスを、それぞれ所定の流量でシャワープレート38を介してチャンバ26内に供給する。なお、第1のガス供給源28aからの水素ガスは、チャンバ26内に供給されなくてもよい。そして、プロセスコントローラ23は、ヒータ電源37を制御して、ウエハWの温度を所定の温度に設定する。これにより、例えば図4(e)に示すように、金属触媒51内に固溶した炭素原子が金属触媒51上に析出し、金属触媒51の表面にグラフェン52が再成長する。第2の成長処理は、第2の成長ステップの一例である。
【0053】
次に、プロセスコントローラ23は、変数nの値が所定の閾値N以上であるか否かを判定する(S108)。閾値Nは、金属触媒51上に成長するグラフェン52の結晶の粒径が所望の大きさとなる値に設定される。本実施形態において、閾値Nは、例えば30である。変数nの値が閾値N未満である場合(S108:No)、プロセスコントローラ23は、変数nの値を1増やし(S109)、再びステップS105に示した処理を実行する。
【0054】
一方、変数nの値が閾値N以上である場合(S108:Yes)、プロセスコントローラ23は、グラフェン生成モジュール13cのゲートバルブ12cを開放し、搬送ロボット19を制御して、ウエハWをグラフェン生成モジュール13c内から搬出させる。そして、プロセスコントローラ23は、搬送ロボット19を制御して、ウエハWをロードロックモジュール17内に搬送させる。そして、プロセスコントローラ23は、搬送ロボット21を制御して、ウエハWをロードロックモジュール17内からキャリア20内に搬送させ、本フローチャートに示す動作を終了する。
【0055】
[グラフェンの結晶の粒径]
ここで、図3のステップS105〜S109に示した処理の繰り返し回数と、グラフェン52の結晶の粒径の大きさとの関係について説明する。図5は、グラフェン52の結晶の粒径の大きさの変化の一例を示すSEM写真である。図5には、比較例として、図3のステップS104に示した第1の成長処理を60分間継続して実行した場合のグラフェン52のSEM写真が示されている。図5の上段のSEM写真は、図5の下段のSEM写真において、グラフェンの結晶付近を拡大したものである。
【0056】
なお、図5に示した「1サイクル」とは、図3に示したステップS104の処理が1回行われたことを示している。また、図5に示した「3サイクル」とは、図3に示したステップS104の処理に加えて、図3に示したステップS105〜S109の処理が2回繰り返されたことを示している。また、図5に示した「6サイクル」とは、図3に示したステップS104の処理に加えて、図3に示したステップS105〜S109の処理が5回繰り返されたことを示している。6サイクルでは、図3のステップS104に示した第1の成長処理が1回行われ、図3のステップS107に示した第2の成長処理が合計5回繰り返される。本実施形態において、第1の成長処理および第2の成長処理の処理時間は、それぞれ10分間であるため、図5に示した6サイクルでは、グラフェンを成長させる処理(即ち、第1の成長処理および第2の成長処理)が合計で60分間行われることになる。
【0057】
図5の上段のSEM写真において、破線で囲まれた領域はグラフェンの結晶の領域を示している。図5から明らかなように、図3のステップS105〜S109に示した処理を繰り返す(即ち、サイクル数が増加する)ことにより、グラフェン52の粒径が増加している。ここで、グラフェンを成長させる処理が6サイクル実行された場合のSEM写真と、比較例におけるSEM写真とを比較すると、これらはグラフェンを成長させる処理の処理時間の合計が同じであるにもかかわらず、グラフェンを成長させる処理が6サイクル実行された場合の方が、比較例よりもグラフェンの結晶の粒径が大きくなっていることが分かる。
【0058】
ところで、グラフェンは、炭素含有ガスに含まれる炭素が金属触媒51内に固溶した後、金属触媒51の表面に析出することにより金属触媒51の表面において成長する。ここで、金属触媒51を構成するニッケルの原子間距離は広いため、金属触媒51が炭素含有ガスに晒されると、ニッケルの原子間に炭素原子が入り込む。これにより、金属としてのニッケルの結晶構造が崩れ、ニッケルの触媒としての機能が低下する。そのため、グラフェンを成長させる処理を単に継続させたとしても、ニッケルの原子間に入り込んだ炭素原子の影響により、ニッケルの触媒としての機能が低下し、グラフェンの成長はやがて止まる。そのため、グラフェンを成長させる処理を単に継続させたとしても、粒径の大きなグラフェンを得ることは難しい。
【0059】
これに対し、本実施形態におけるグラフェンの生成方法では、第1の成長処理により、金属触媒51の表面にグラフェン52を所定時間成長させた後、酸素ガスを含む混合ガスを用いて、金属触媒51の表面を熱処理する第3の熱処理が行われる。これにより、金属触媒51の表面において、金属触媒51としてのニッケルの原子間に入り込み、グラフェン52を構成しない余分な炭素原子を除去(エッチング)することができる。これにより、金属触媒51の表面において、金属触媒51の触媒としての機能を回復(再活性化)させることができる。これにより、再び金属触媒51を用いてグラフェン52の成長が可能となり、粒径の大きなグラフェン52を生成することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、第1の成長処理および第2の成長処理が行われるグラフェン生成モジュール13cと、第3および第4の熱処理が行われる第2の熱処理モジュール13dとが別々の処理モジュール13で構成されている。そのため、グラフェン生成モジュール13cにおいてグラフェンが生成されたウエハWが第2の熱処理モジュール13d内に搬送されるまでの間、および、第2の熱処理モジュール13dにおいて第3の熱処理が行われたウエハWがグラフェン生成モジュール13c内に搬送されるまでの間に、ウエハWの温度が常温まで下がることになる。しかし、その場合であっても、第2の成長処理の前に、第3の熱処理を実行することにより、金属触媒51の触媒としての機能が回復する。これにより、ウエハWの温度が常温に戻った後であっても、第2の成長処理においてグラフェンの再成長が可能となる。従って、グラフェン生成モジュール13cと第2の熱処理モジュール13dとが別々の処理モジュール13で構成されている場合であっても、結晶の粒径の大きなグラフェン52を作成することができ、結晶の粒径の大きなグラフェンを生成する際の装置構成の自由度を高めることができる。なお、他の形態として、グラフェン生成モジュール13cと第2の熱処理モジュール13dとは、1つの処理モジュール13で実現されてもよい。これにより、第3の熱処理、第4の熱処理、および第2の成長処理の繰り返しに伴う待機時間を削減することができ、処理のスループットを向上させることができる。
【0061】
[グラフェンの膜質]
図6は、第1の成長処理後のグラフェンの表面の一例を示すSEM写真である。金属触媒51の表面において、例えば図6の破線で囲まれた領域内にグラフェン52の結晶が生成されている。また、金属触媒51の表面において、例えば図6の破線で囲まれた領域の周辺には、グラフェン52を構成しない余分な炭素原子が付着している。
【0062】
図7は、ラマンスペクトルの分布の一例を示す図である。図7(a)は、金属触媒51の表面において、図6のA点、即ち、グラフェンの結晶の位置におけるラマンスペクトルの分布の一例を示している。一方、図7(b)は、金属触媒51の表面において、図6のB点、即ち、グラフェンの結晶の周辺の位置におけるラマンスペクトルの分布の一例を示す。ここで、ラマンスペクトルの分布におけるDバンドのピークID(グラフェン内の欠陥構造に起因するピーク)と、GバンドのピークIG(グラフェンの面内振動に起因するピーク)の比であるIG/IDは、グラフェンの膜質を表す指標の一つである。IG/IDの値が高いほど、グラフェンの膜質が良好であることを示す。
【0063】
図6のA点におけるラマンスペクトルの分布を示す図7(a)において、IG/IDの値は17であった。一方、図6のB点におけるラマンスペクトルの分布を示す図7(b)において、IG/IDの値は2であった。
【0064】
図8は、第3の熱処理後のグラフェンの表面の一例を示すSEM写真である。図3のステップS105に示した第3の熱処理が行われた後でも、金属触媒51の表面には、例えば図8の破線で囲まれた領域内にグラフェン52の結晶が残存する。一方、金属触媒51の表面において、例えば図8の破線で囲まれた領域の周辺に残存していたグラフェン52を構成しない余分な炭素原子は、第3の熱処理により減少している。
【0065】
図8において、グラフェンが形成されたウエハWに対して行われた第3の熱処理の処理条件は、例えば以下の通りである。
ガスの流量比:Ar/O2=1900/100sccm
チャンバ26内の圧力:1Torr
ウエハWの温度:300℃
処理時間:10分
【0066】
図9は、ラマンスペクトルの分布の一例を示す図である。図9(a)は、金属触媒51の表面において、図8のA点、即ち、グラフェンの結晶の位置におけるラマンスペクトルの分布の一例を示している。一方、図9(b)は、金属触媒51の表面において、図8のB点、即ち、グラフェンの結晶の周辺の位置におけるラマンスペクトルの分布の一例を示す。
【0067】
図8のA点におけるラマンスペクトルの分布を示す図9(a)において、IG/IDの値は22であった。第3の熱処理が行われる前のグラフェンの結晶の位置におけるIG/IDの値は17だったので、第3の熱処理が行われても、グラフェンの結晶の位置におけるIG/IDの値は高い値に保たれている。従って、グラフェンを成長させる処理(即ち、第1の成長処理および第2の成長処理)の間に、第3の熱処理が行われても、グラフェンの結晶の品質劣化はほとんどないことがわかった。
【0068】
一方、図8のB点におけるラマンスペクトルの分布を示す図9(b)において、IG/IDの値はほぼ1であった。第3の熱処理が行われる前のグラフェンの結晶の周辺におけるIG/IDの値は2だったので、第3の熱処理が行われることにより、グラフェンの結晶が形成されていない領域において、グラフェンの品質が劣化している。これは、余剰なグラフェン核がエッチングされて除去されたためと考えられる。
【0069】
このように、グラフェンを成長させる処理の間(即ち、第1の成長処理と第2の成長処理との間、および、繰り返し行われる第2の成長処理の間)に、第3の熱処理を行うことにより、グラフェンの結晶の品質を劣化させることなく、金属触媒51の表面からグラフェンの結晶以外の余分な炭素原子を除去し、金属触媒51の触媒としての機能を再活性化させることができる。これにより、再活性化された金属触媒51を用いて、グラフェンの再成長が可能となる。
【0070】
なお、図8および図9に示した実験では、ウエハWの温度を300℃に設定した。ウエハWの温度が高すぎると、グラフェンの結晶に対するダメージが発生し、グラフェンの結晶の品質が劣化する。一方、ウエハWの温度が低すぎると、金属触媒51の表面に付着した余分な炭素が十分除去されず、金属触媒51の触媒としての機能が回復しない。従って、第3の熱処理における処理温度は、200℃以上400℃以下の範囲内の温度であることが好ましい。
【0071】
以上、実施形態におけるグラフェンの生成方法について説明した。上記説明から明らかなように、本実施形態におけるグラフェンの生成方法は、第1の成長処理と、第3の熱処理と、第2の成長処理とを含む。第1の成長処理では、金属触媒51が配置されたチャンバ26内に炭素含有ガスを供給することにより、金属触媒51の表面にグラフェン52を成長させる。第3の熱処理では、表面にグラフェン52が成長した金属触媒51が配置されたチャンバ26内に酸素ガスを含む処理ガスを供給することにより、金属触媒51を再度活性化させる。第2の成長処理では、再度活性化した金属触媒51が配置されたチャンバ26内に炭素含有ガスを供給することにより、金属触媒51の表面にグラフェン52を再成長させる。これにより、粒径の大きなグラフェンを生成することができる。
【0072】
[その他]
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0073】
例えば、図3のステップS103に示した第2の熱処理、および、ステップS106に示した第4の熱処理は、必ずしも実施されなくてよい。
【0074】
また、上記した実施形態では、金属触媒51としてニッケルが用いられたが、開示の技術はこれに限られない。金属触媒51としては、ニッケルの他、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、タングステン(W)、またはこれらを2種類以上含む合金であってもよい。また、金属触媒51としては、ニッケル、コバルト、鉄、銅、およびタングステンの他、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、または金(Au)等の遷移金属、あるいは、これらを2種類以上含む合金であってもよい。
【0075】
また、図3のステップS105に示した第3の熱処理では、アルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガスが用いられたが、開示の技術はこれに限られない。図3のステップS105に示した第3の熱処理では、例えば、アルゴンガスおよび水素ガスの混合ガスが用いられてもよい。
【0076】
また、図3のステップS105に示した第3の熱処理では、酸素ガスを含む処理ガスを用いた熱処理により金属触媒51の表面に付着した余分な炭素原子を除去するが、開示の技術はこれに限られない。図3のステップS105では、酸素ガスを含む処理ガスのプラズマを用いて、金属触媒51の表面に付着した余分な炭素原子を除去してもよい。この場合、酸素ガスを含む処理ガスのプラズマは、ウエハWが配置されたチャンバ26内の処理空間とは別の空間であるプラズマ生成室において生成され、生成されたプラズマが、ウエハWが配置された処理空間内に供給されることが好ましい。これにより、プラズマによるグラフェンへのダメージを減らすことができる。
【符号の説明】
【0077】
W ウエハ
10 グラフェン生成システム
11 減圧搬送モジュール
12 ゲートバルブ
13 処理モジュール
13a 下地膜形成モジュール
13b 第1の熱処理モジュール
13c グラフェン生成モジュール
13d 第2の熱処理モジュール
17 ロードロックモジュール
18 ローダモジュール
19 搬送ロボット
20 キャリア
21 搬送ロボット
22 制御部
23 プロセスコントローラ
24 ユーザーインターフェース
25 記憶部
26 チャンバ
26a 底壁
26b 側壁
27 載置台
28 ガス供給部
28a 第1のガス供給源
28b 第2のガス供給源
28c 第3のガス供給源
28d 第4のガス供給源
28e ガス供給路
28f ガス供給路
28g ガス供給路
28h ガス供給路
29 排気部
30 開口
31 排気室
32 開口
34 支柱
35 昇降ピン
36 ヒータ
37 ヒータ電源
38 シャワープレート
39 ガス放出孔
40 ガス供給路
41 排気管
42 バタフライバルブ
43 真空ポンプ
51 金属触媒
52 グラフェン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9