(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記の直列に配された複数の円筒空胴共振器において、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される前記定在波の共振周波数が異なるように調節されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素製造装置。
互いに隣接する2つの円筒空胴共振器の空胴部の直径を変えることにより、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される前記定在波の共振周波数が異なるように調節される、請求項4に記載の水素製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロ波照射に用いるマイクロ波源としては、マグネトロンが知られている。特許文献1でも、具体的な実施形態ではマグネトロンを用いてマイクロ波を照射している。しかし、マグネトロンは大出力を得やすい反面、装置が大型化し、寿命は短く、また振動等に弱いなどの問題がある。
また、マイクロ波源として、半導体固体素子を用いたマイクロ波発振器(固体素子発振器とも称す。)も知られている。固体素子発振器を用いることにより装置の小型化、長寿命化、振動耐性等を実現できる。しかし、固体素子発振器では逆に、大出力を得ることが難しく、被加熱対象物の迅速な高温加熱等が要求される場合には対応が難しい場合があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。本発明は、マイクロ波加熱を利用してアンモニアガスの接触分解反応を生じる水素製造装置であって、装置の小型化が可能で、また、アンモニアガスからの水素ガスの生成効率を所望のレベルへと高めることができ、水素の安定的な供給を実現することができる水素製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、電解強度の極大部分が円筒空胴共振器の中心軸に沿って形成されるTM
0n0(nは1以上の整数)モードのマイクロ波定在波を、アンモニアガスの接触分解反応に利用することを検討した。そして、当該定在波を形成する円筒空胴共振器を複数、円筒軸方向に直列に配し、各共振器にはそれぞれ独立してマイクロ波を供給する形態とし、さらに、内部に触媒を配した反応管(流通管)を電界強度極大部分(円筒軸)に沿って、各共振器を貫通して配した構成の装置を作製した。本発明者らはこの装置を用いて、各共振器内にTM
0n0モードの定在波を形成した状態で、反応管内にアンモニアガスを供給したところ、個々のマイクロ波源の出力をあまり大きくしなくても、反応管内を流通させたアンモニアガスを触媒の作用により十分に分解できることを見出した。すなわち、上記装置が、アンモニアガスからの水素ガスの生成効率を所望の十分なレベルへと高めることができる水素製造装置として用いることができること、また、固体素子発振器のような低出力マイクロ波源を用いても接触分解反応を高効率に生じさせることができ、装置の小型化も可能になることを見出すに至った。
本発明は上記知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
円筒軸方向に直列に配された、TM
0n0(nは1以上の整数)モードの定在波を形成する複数の円筒空胴共振器と、
前記定在波の電界強度が極大となる部分に沿って、前記複数の円筒空胴共振器を円筒軸方向に貫通して配された反応管と、
前記複数の円筒空胴共振器の各々に対してマイクロ波を各別に供給するマイクロ波発振器とを有し、
前記反応管内にはアンモニアガスを分解して水素ガスを生成する触媒が配され、
前記円筒空胴共振器内に前記定在波を形成して前記触媒を加熱状態として、前記反応管内にアンモニアガスを流通させて前記反応管内でアンモニアガスの接触分解反応を生じる、水素製造装置。
〔2〕
前記TM
0n0モードの定在波がTM
010モードの定在波である、〔1〕に記載の水素製造装置。
〔3〕
前記触媒の誘電損失係数が、前記反応管の形成材料の誘電損失係数よりも大きい、〔1〕又は〔2〕に記載の水素製造装置。
〔4〕
前記の直列に配された複数の円筒空胴共振器において、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される前記定在波の共振周波数が異なるように調節されている、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の水素製造装置。
〔5〕
互いに隣接する2つの円筒空胴共振器の空胴部の直径を変えることにより、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される前記定在波の共振周波数が異なるように調節される、〔4〕に記載の水素製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る水素製造装置は、装置の小型化が可能で、またアンモニアガスからの水素ガスの生成効率を所望のレベルに高めることができ、水素の安定的な供給を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0011】
[水素製造装置]
本発明の水素製造装置の基本形態の一例について、
図1を参照して説明する。なお、各図面に示される装置は、本発明の理解を容易にするための模式図であり、各部材のサイズないし相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された外形、形状に限定されるものでもない。
【0012】
図1に示すように、水素製造装置1は、円筒空洞共振器2とマイクロ波発振器5とを有するマイクロ波照射装置10を複数段に積層した構成を有する。
図1では一例として、3個の円筒空胴共振器2A、2B、2Cを、円筒軸方向(中心軸方向、上下方向)に順に積層した形態(直列に配した形態)を示した。円筒空胴共振器2の個数は3個に限定されるものではなく、目的に応じて適宜に増減される。例えば、2〜1000の整数個積層することができる。ここで、円筒空胴共振器の「円筒軸」とは、円筒の円の中心を通り、円周方向に対して垂直に伸びる軸を意味する。円筒軸を中心軸とも称す。
複数の円筒空胴共振器2には、各円筒空胴共振器2内に形成されるTM
0n0(nは1以上の整数、好ましくは1〜3の整数、さらに好ましくは1である。)モードの定在波の電界強度が極大となる部分に沿って、各円筒空胴共振器2をそれらの円筒軸方向に貫通する反応管6(流通管6)が配されている。本発明では、TM
0n0モードの定在波を利用するため、反応管6は円筒空胴共振器2の中心軸Cに沿って配される。この反応管6内には、アンモニアガスを分解して水素ガスを生成する触媒CT(以下、単に触媒とも称す。)が配されている。
各円筒空胴共振器2には、それぞれにマイクロ波発振器5が配され、各円筒空胴共振器2に対して個別にマイクロ波が供給される。一般にマイクロ波周波数は2.45GHzを中心としたSバンドが用いられる。
各円筒空胴共振器2、2間又は円筒空胴共振器2には、円筒空胴共振器2内から外部へのマイクロ波の漏えいを防止する機構を配することができる。このマイクロ波の漏えい防止機構については後述する。
【0013】
水素製造装置1は、円筒空胴共振器2に対して、マイクロ波発振器5からマイクロ波を供給し、円筒空胴共振器2内にTM
0n0モードの定在波を形成する。この定在波の形成により、電界強度が極大となる部分に沿って(円筒軸に沿って)配された反応管6内の触媒が反応管の長軸方向に沿って略均一に加熱される。したがって、上記の定在波を形成して触媒を加熱した状態で、アンモニアガスを反応管6内に流通させることにより、触媒の作用によるアンモニアの接触分解反応が生じて水素ガスが生成される。上記水素製造装置1では、円筒空胴共振器2に設けられたマイクロ波供給口3から、ループアンテナ3Aにより、TM
0n0モードの定在波を形成するマイクロ波が円筒空胴共振器2内に供給される。
【0014】
上記水素製造装置1において、マイクロ波発振器5から供給されるマイクロ波は、周波数と出力を調整して供給される。周波数の調整により、空胴共振器2内にTM
0n0モードの定在波を形成し、またマイクロ波の出力によって定在波の強度を調整することができる。
本発明の水素製造装置1の構成について、順に説明する。
【0015】
<マイクロ波照射装置>
本発明の水素製造装置1に用いるマイクロ波照射装置10は、マイクロ波供給口3を有する円筒空胴共振器2と、円筒空胴共振器2内にTM
0n0モードの定在波を形成できる周波数のマイクロ波を供給するマイクロ波発振器5とを有する。
マイクロ波照射装置10を構成する円筒空胴共振器(キャビティー)2の形状は、マイクロ波を供給した際にTM
0n0モードの定在波が形成されるものであれば特に制限はない。本明細書において円筒空胴共振器とは、空胴共振器の中心軸Cに直角な内側断面形状が円形であるものの他、当該断面形状が楕円形若しくは長円形であるものを含む意味に用いる。
円筒空胴共振器2は通常は金属製であり、一例として、アルミニウム、銅、ステンレス、若しくはそれらの合金等を用いることができる。
上記マイクロ波発振器5としては、例えば、マグネトロン等のマイクロ波発振器や、固体素子発振器を用いることができる。
【0016】
本発明に用いる円筒空胴共振器2には、当該円筒空胴共振器2内にマイクロ波を供給するためのマイクロ波供給口3が設けられる。一実施形態において、マイクロ波供給口3は、高周波を印加することができるアンテナ3Aになっている。アンテナ3Aは、ケーブル4を介してマイクロ波発振器5と接続されている。アンテナ3Aには、磁界励起アンテナ、ループアンテナ等を用いることができる。ケーブル4には、例えば同軸ケーブルが用いられる。この構成では、マイクロ波発振器5から発せられたマイクロ波をアンテナ3Aから円筒空胴共振器2内に供給する。なお、マイクロ波の供給は上記形態に限定されず、マイクロ波発振器5から導波管を用いてマイクロ波供給口3にマイクロ波を供給してもよい。
装置の小型化等の観点からは、マイクロ波発振器5として固体素子発振器を用いることが好ましい。この固体素子発振器と、上記の同軸ケーブル、アンテナ等を組合せることにより、装置をよりコンパクト化することが可能となる。
【0017】
マイクロ波の発生にはマグネトロンを用いることもできるが、周波数を自在に制御するには適していない。また装置の小型化にも制約がある。これに対し、固体素子発振器を用いることで、周波数の調整が容易になり、また小型化が可能になる。しかし、固体素子発振器は大出力化が容易ではない。そのため従来、固体素子発振器を水素発生装置に適用しても、アンモニアの接触分解反応の効率を十分に高めることは難しかった。
この点に関し、本発明の装置では、マイクロ波照射装置を任意の複数個、積層させた構成を有する。したがって、個々の円筒空胴共振器2に供給されるマイクロ波の出力をあまり大きくしなくても、水素製造装置全体としては、反応管内に十分なマイクロ波エネルギーを供給することが可能となる。固体素子発振器を備えたマイクロ波照射装置をn台積層すれば、マイクロ波発振器の電力をn倍に増強したのと同じ効果が期待される。
さらに、円筒空胴共振器自体を小型化することにより個々の円筒空胴共振器2に供給されるマイクロ波のエネルギー密度を高めることができる。つまり、マイクロ波照射装置10をより小型化し、これらを必要数積層することにより、各円筒空胴共振器内を貫通して配された反応管全体に亘り、より高いマイクロ波エネルギーを供給することが可能となる。
したがって、本発明の水素製造装置は、マイクロ波照射装置10を目的に応じて必要数積層し、アンモニアガスからの水素ガスの生成効率を所望のレベルへと高めることができる。また、装置の小型化、コンパクト化も可能とするものである。
【0018】
マイクロ波照射装置10は、反応管6内部の触媒温度を検知したり、共振器内の電界強度分布を検知したりする検知装置11を有することも好ましい。この場合、検知結果に基づき照射マイクロ波の出力、周波数を調整可能な形態とすることができる。
また、積層されたマイクロ波照射装置10のうち、アンモニアガスの流入側に位置するマイクロ波照射装置10が備える円筒空胴共振器の中心軸方向の高さを、積層された他の円筒空胴共振器の高さよりも低くすることができる。これにより、アンモニアガスの流入側に位置する円筒空胴共振器内に照射されるマイクロ波エネルギー密度をより高めることができ、流入ガスによる触媒温度の低下をリカバリーできる。同様の効果は、ガス流入側の円筒空胴共振器に供給するマイクロ波エネルギーを、他の円筒空胴共振器に供給するマイクロ波エネルギーよりも高めることによっても実現できる。
また、積層された各マイクロ波照射装置10の円筒空胴共振器は、各円筒空胴共振器の空胴の内径(空胴の円筒軸に垂直方向の最大径)をW、中心軸方向の高さをH、当該円筒共振器とそれに隣接する円筒空胴共振器間の間隔をAとした場合に(
図1参照)、W>H>Aを満たすことが好ましい。これにより、触媒温度をより広い領域で均一化することができ、反応状態を安定にすることができる。
また、積層した円筒空胴共振器のうち、両端に位置する共振器には、その空胴の、隣接して配される共振器側の面とは反対側に、金属の筒を設けた形態とすることができる。金属の筒を配することにより、マイクロ波の外部への漏えいを効果的に防ぐことができる。また、この金属の筒があることにより、反応管をより安定に保持することが可能となる。
また、積層した円筒空胴共振器のうち、両端に位置する共振器の、隣接して配される共振器とは反対側の面の壁厚を、他の共振器の壁厚よりも厚くすることも好ましい。かかる形態によっても、マイクロ波の外部への漏えいを抑えることが可能となる。
【0019】
<反応管>
反応管6は、内部に触媒を配することができる筒状の管である。反応管6の内径は特に制限されない。例えば、当該内径を4〜40mm程度とすることができる。このような内径とすることにより、反応管4内の電界強度のムラを抑制でき、水素ガスのより効率的な生成が可能となる。また、反応管4の壁面の厚みも特に制限されず、十分な強度を担保する観点からは、1〜10mm程度とすることが好ましい。
【0020】
反応管6の形成材料は、マイクロ波を透過し、かつ所望の耐熱性を有すれば特に制限されない。例えば、石英ガラス、アルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア、マグネシア等で形成することができる。また、これらの材料を組み合わせた複合材で形成されていてもよい。
また、反応管6は断熱材で被覆されていてもよい。断熱材としては、例えば、マイクロ波を透過しやすいアルミナファイバーを用いることができる。
【0021】
触媒は、反応管6内の反応管長軸方向全体に配してもよいし、一部に触媒が配されていない部分があってもよい。例えば、円筒空胴共振器内に位置する反応管部分に触媒を配し、円筒空胴共振器外に位置する反応管部分には触媒を配しない形態とすることができる。
本発明の水素製造装置では、水素を得るための原料として、気体であるアンモニアガスを用いる。そのため、触媒を反応管6内に充填した場合(反応管6内に触媒を満たした場合)であっても、原料として液体を用いた場合のように圧力損失が生じにくい。また、反応管6内に触媒を充填した形態とすれば、アンモニアガスとの接触面積をより大きくでき、水素製造効率をより高めることができる。
【0022】
反応管6の形成材料と、その内部に配される触媒の、誘電損失係数の関係は、[触媒の誘電損失係数]>[反応管形成材料の誘電損失係数]の関係を満たすことが好ましい。この関係を満足することにより、触媒のマイクロ波加熱の効率をより高めることができる。
誘電損失係数は、室温から600℃の範囲で、照射するマイクロ波周波数における測定値を用いることが好ましい。ただし、誘電損失係数は、照射するマイクロ波の周波数、被照射物の温度によって変化する。したがって、設計上は、便宜的に25℃において、2450MHzの値を用いることもできる。なお、誘電損失係数は、例えば、空胴共振器法により決定することができる。
【0023】
<触媒>
反応管6内に配される触媒は、アンモニアガスに作用して接触分解反応を生じるものであれば特に制限されない。この触媒は通常、金属触媒である。したがって、反応管6内には金属粒子を配する形態とすることができる。この金属粒子は通常、担体に担持させた状態で反応管6内に配される。触媒として用いる金属粒子は、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銀、金、クロム、ニッケル、コバルト、銅、セシウム、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、リン、硫黄、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、イットリウム、ルビジウム、タングステン、モリブデン、ストロンチウム、バリウム、イリジウム、ナトリウム、カリウム、及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上を含むものが挙げられる。なかでもコバルト、ニッケル、ルテニウム、銅、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、及びルビジウムから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
金属粒子は、アンモニアや水素などにより、表面を金属状態まで還元してから使用することが好ましい。
【0024】
触媒として担持する上記の担体としては、例えば、酸化アルミニウム(γ−Al
2O
3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、イットリア安定ジルコニア(YSZ)、NaY型ゼオライト、超安定化Y型ゼオライト(USY型ゼオライト)、ルチル型酸化チタン(ルチル型TiO
2)、アナターゼ型酸化チタン(アナターゼ型TiO
2)、及びルチル−アナターゼ混晶型酸化チタン(P25TiO
2)の少なくとも1種の金属酸化物を用いることができる。なお、担体は、マイクロ波照射により加熱されやすいものが好ましい。この観点では、酸化アルミニウム、イットリア安定ジルコニア及びNaY型ゼオライトの少なくとも1種の多孔質酸化物が好ましい。
【0025】
担体への金属粒子の担持量は、担体と金属粒子との合計量を100質量%としたとき、金属粒子が0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましく、1〜15質量%がさらに好ましい。担体への金属粒子の担持量が上記範囲内にあると、触媒がマイクロ波照射によって、より加熱されやすくなる。
【0026】
触媒は、例えば、マイクロ波の誘電損失係数が小さい炭化ケイ素などの加熱助剤を添加し、触媒混合物とすることができる。加熱助剤を用いることにより、金属粒子や担体の加熱効率をより高めることができる。加熱助剤の添加量は、触媒100質量部に対し、0.1〜30質量部が好ましく、1〜15質量部がより好ましい。加熱助剤の添加量を当該範囲内とすることにより、より低いマイクロ波出力でも、触媒を所望の高温域まで加熱しやすくなる。
積層される円筒空胴共振器のうち、アンモニアガスの流入側に配される共振器内に位置する反応管は、その内部に配される触媒の加熱助剤の量を増やしたり、金属量を増やしたりして、触媒をマイクロ波加熱によって、より効率的に昇温する形態とすることができる。これにより、流入ガスによる触媒温度の低下をより効果的にリカバリーできる。
【0027】
<マイクロ波の漏れ防止機構>
反応管6内全体に触媒を配し、この触媒全体を均一温度に保持したい場合は、隣接する円筒空胴共振器間の間隔を短くしたほうが有利である。これは、隣接する円筒空胴共振器間の接合部分では、マイクロ波分布がかわるため、触媒の加熱のされ方が円筒空洞共振器内と異なるためである。
しかしながら、隣接する円形空胴共振器間の間隔を短くすると、一の円筒空胴共振器に供給したマイクロ波が、隣接する空洞共振器へと漏れやすくなり、触媒温度の精密制御が困難となる場合がある。したがって、本発明の水素製造装置1は、隣接する円筒空胴共振器間において、マイクロ波の漏えいを防止する機構を備えた形態とすることが好ましい。
【0028】
上記のマイクロ波漏えい防止機構の一例としては、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される定在波の共振周波数が異なるようにする調節機構が挙げられる。互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される定在波の共振周波数が一致すると、一の共振器から漏れだしたマイクロ波は、隣の共振器内の定在波と同期して当該隣の共振器内へと伝播しやすい。
これに対し、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される定在波の共振周波数が異なる場合には、一の共振器から漏れだした定在波は、隣の共振器内に形成された定在波と同期しにくく、当該隣の共振器内へと漏れ出しにくくなる。結果、各共振器内に目的のマイクロ波エネルギーを効果的に閉じ込めることができ、各共振器内において、触媒のより高効率な加熱が可能となる。
この調節機構の一例を、
図2を参照して説明する。
【0029】
図2に示すマイクロ波加熱装置1Cは、上記
図1を参照して説明したマイクロ波加熱装置1において、各円筒空胴共振器2が中心軸を一致させて中心軸C方向に接続した状態に配されたものである。さらに、マイクロ波の漏えいを防止する機構として各円筒空胴共振器2を、空胴22の内径(直径)D1〜D3が異なるものを用いている。なお、空胴の断面が楕円形の場合は、「内径を変える」とは、共振器内周の長径ないし短径を変えることを意味する。その他の構成は、
図1に示したマイクロ波加熱装置1と同様である(図面をシンプルにするため、アンテナ3Aの表示は省略している)。
【0030】
上記のように、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器の空胴部の直径を変えることにより、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される定在波の共振周波数に一定の差をつけることができる。例えば、2.45GHz帯では隣接する空胴共振器2内に供給するマイクロ波の周波数の差を、3MHz以上とすることが好ましく、より好ましくは6MHz以上、さらに好ましくは10MHz以上とする。
このようなマイクロ波の周波数の差を得るには、一例として、隣接する円筒空胴共振器2の空胴22の内径の差を、0.3mm以上とすることができ、0.5mm以上としてもよく、1mm以上としてもよく、2mm以上としてもよく、5mm以上としてもよい。ISMバンドである2.4GHz〜2.5GHz内に収めるという観点からは、空胴22の内径の差を好ましくは1.5mm以下とする。
円筒空胴共振器2から漏えいしたマイクロ波の周波数は、隣接する円筒空胴共振器2に供給されるマイクロ波の周波数と異なるため、隣接する円筒空胴共振器2へとマイクロ波が漏えいしにくい。
【0031】
また、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される定在波の共振周波数が異なるようにする調節機構として、円筒空胴共振器内に誘電体を配置する形態も挙げられる。共振器内に誘電体を配することにより、共振周波数を変化させることができる。したがって、誘電体の有無、誘電体の種類、大きさ、配置等を調整し、互いに隣接する2つの円筒空胴共振器に形成される定在波の共振周波数を異なるものとすることができる。
【0032】
<水素の製造>
本発明の製造装置を用いて、反応管6の一端からアンモニアガスを流通させ、反応管6内において加熱された触媒とアンモニアガスとを接触させることにより、アンモニアガスが分解されて水素ガスと窒素ガスを生じる。アンモニアガスの接触分解反応それ自体は公知であり、下記反応式で示される。
2NH
3 → 3H
2+N
2
【0033】
上記反応により生じた水素ガスは、窒素ガスとの混合ガスとして回収してもよいし、回収前に、ガス分離膜、ガス洗浄器、吸着剤等を用いて、水素ガスを分離して、回収することもできる。
アンモニアガスの反応管内への供給量、触媒加熱温度等は、目的に応じて適宜に設計することができる。アンモニアガスの反応管内への供給量は、例えば0.01〜1000L/分とすることができる。また、触媒加熱温度は、例えば200〜800℃とすることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
[触媒の調製]
含浸法にて、γ−アルミナにコバルトを担持させ、コバルト担持γ−アルミナを調製した。具体的には、硝酸コバルト水溶液に、γ−アルミナを含浸させ、110℃で12時間乾燥後、500℃で3時間焼成した。焼成物は室温まで冷却させてペレット状に加圧成形した後粉砕し、250〜500μmになるようにふるい分けた。なお、γ−アルミナに担持させる金属粒子として、硝酸コバルト(和光純薬工業株式会社製硝酸コバルト(II)六水和物特級)を用いた。また、担体として、γ−アルミナ(住友化学株式会社製AKS−GT00)を用いた。
【0036】
さらに助触媒としてカリウムを担持させた。具体的には、KNO
3(和光純薬工業株式会社製 特級)を含浸法にてコバルト担持γ−アルミナに担持させ、110℃で12時間乾燥し、500℃で3時間焼成した。焼成物は室温まで冷却した後、ペレット状に加圧成形した。その後、ペレット状に加圧成形した焼成物を粉砕し、250〜500μmになるようにふるい分け、コバルト−カリウム担持−γ−アルミナを得た。この時、コバルト−カリウム担持−γ−アルミナは、γ−アルミナを90質量%、コバルトを5質量%、カリウムを5質量%含んでいた。
【0037】
得られたコバルト−カリウム担持−γ−アルミナ100質量部に対し10質量部のSiC加熱助剤(和光純薬工業株式会社製粒径50nm)を混合した。得られた混合物を、600℃、1気圧のH
2雰囲気中で2時間放置する水素前処理を行い、マイクロ波加熱用アンモニア分解触媒混合物(アンモニアガスを分解して水素ガスを生成する触媒、以下、単に「マイクロ波加熱用触媒」という。)を調製した。
【0038】
[水素製造装置の作製]
反応管として外径10mm、内径8mmの石英反応管を用いた。石英反応管にマイクロ波加熱用触媒2.9gを、触媒充填部の長さが6.45cmとなるように充填した。この触媒を充填した反応管を、
図3に示すように、5台のマイクロ波照射装置の各円筒空胴共振器を円筒軸方向に貫くように配置した。なお、各マイクロ波照射装置は、それぞれ最大出力100Wの固体素子発振器(図示せず)を搭載している。各マイクロ波照射装置の円筒空胴共振器は空胴部分の円筒軸方向の長さが10mm、円の直径が90.5mm〜92mm(
図3ではこの直径の差の図示を省略した。)、各円筒空胴共振器間の隔壁(間隔)は6mm、反応管が通る穴径が10.5mmのものを用いた。各円筒共振器の形成材料はすべて同じである。
【0039】
[水素の製造]
図3に示すように、積層した5台のマイクロ波照射装置のうち、アンモニアガスの流入側に位置する4台のマイクロ波照射装置を利用した。これら4台のマイクロ波照射装置が備える各共振器内にマイクロ波を照射して、各共振器内にTM
010モードの定在波を形成することにより触媒の温度制御を行いながら、水素製造を試みた。
より詳細には、石英反応管に1L/分の流量でアンモニアガスを供給しながら、当該反応管内に充填したマイクロ波加熱用触媒をTM
010モードの定在波により加熱した。この時、触媒加熱温度を500℃の条件として、水素製造を試みた。
触媒を通過してきたガスは、質量分析器およびガスクロマトグラフでその成分を定量した。なお、アンモニア転化率は、アンモニアが分解して生成した水素の割合を示し、アンモニアが完全に水素に分解した場合のアンモニア転化率を100%とした。
【0040】
図4に、触媒温度を500℃に制御したときの、各共振器内に位置する触媒表面温度を測定した結果を示す。アンモニア供給側に最近い円筒空胴共振器内の触媒表面温度を「温度_1」とし、ここからガスの出口に向けて連なる円筒空胴共振器3台における触媒表面温度を順に、「温度_2」〜「温度_4」とした。いずれの円筒共振器内においても、マイクロ波照射後15秒以内には触媒表面温度が目的温度の500℃に到達していることがわかる。
【0041】
このとき、各共振器内に供給したマイクロ波電力を
図5に示す。アンモニア供給側に最近い円筒空胴共振器内に供給したマイクロ波電力を「電力_1」とし、ここからガスの出口に向けて連なる円筒空胴共振器3台に供給したマイクロ波電力を順に、「電力_2」〜「電力_4」とした。
起動後15秒間は、すべての共振器内に最大出力の100Wのマイクロ波が照射され、その後、目的温度(500℃)に到達してからは、その温度を維持するのに必要な電力として20W〜50Wが随時調整されながら照射されていることがわかる。
また、反応管入口に位置する共振器内に供給したマイクロ波電力(電力_1)及び反応管出口に位置する共振器内に供給したマイクロ波電力(電力_4)の出力に比べ、これらの間に配した共振器内(中心部分に配した共振器内)に供給したマイクロ波電力(電力_2、電力_3)の出力が小さい。これは、中心部分に配した共振器内の触媒部分は、両端がすでに500℃に維持されており、両端への熱移動が少ないためである。
また、電力_2>電力_3となっているのは、アンモニアの接触分解反応が吸熱反応であるため、入口部分では高濃度のアンモニアが分解し、出口部分より吸熱量が多いことが一因と考えられる。
【0042】
また、上記の実験において、反応管出口から回収したガスの成分を質量分析器で測定した結果を
図6に示す。時間0秒(マイクロ波照射していない状態)ではアンモニアのみが検出されたが、加熱開始から5秒後には、アンモニア分解生成物である水素と窒素が検出され、水素製造装置として機能していることがわかる。また、触媒温度が安定した15秒後からは、安定して水素が製造されている。
図7には測定したガス組成から計算されるアンモニアの転化率(右軸)も示している。安定して90%以上のアンモニア転化が確認できた。
【0043】
上記の水素の製造における本運転条件に関し、共振周波数の制御結果を表1に示す。各共振器の空胴部分の直径は表1の通りとしている。また、「マイクロ波照射装置No.」は、当該装置の共振器内に配された反応管内に触媒を有する4台のマイクロ波照射装置を、アンモニアガスの流入側から出口側に向けて順に1〜4として付番したものである(
図3中、左から数えて1〜4台目のマイクロ波照射装置を、それぞれマイクロ波照射装置No.1〜4とした。)。
【0044】
【表1】
【0045】
上記のように、積層した円筒空胴共振器において互いに隣接する共振器の空胴の内径を異なるものとすることにより、隣接する円筒空胴共振器内に形成される共振周波数にずれを生じさせることができる。結果、一の円筒空胴共振器から隣の円筒空胴共振器内へのマイクロ波の漏れを効果的に防ぐことができ、各共振器内にエネルギーを効率的に供給でき、また定在波の形成状態が安定化され、触媒の効率的な均一加熱が可能になる。