特許第6794044号(P6794044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清食品ホールディングス株式会社の特許一覧

特許6794044魚介類の養殖システムおよび魚介類の養殖方法
<>
  • 特許6794044-魚介類の養殖システムおよび魚介類の養殖方法 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794044
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】魚介類の養殖システムおよび魚介類の養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/59 20170101AFI20201119BHJP
   A01K 63/04 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   A01K61/59
   A01K63/04 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-240500(P2016-240500)
(22)【出願日】2016年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-93776(P2018-93776A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西 真吾
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−042678(JP,A)
【文献】 特開2011−223908(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0342156(US,A1)
【文献】 齊籐節雄,循環濾過式飼育技術について(総説) 第1報 システム構成と要素技術,北海道水産試験場研究報告,日本,北海道立総合研究機構水産研究本部,2014年 9月30日,第86号,81-102頁
【文献】 稲田義和,BFT(Biofloc Technique):バイオフロック技術,ACNレポート,NPO法人アクアカルチャーネットワーク,2012年 9月30日,第37号,第7−8頁
【文献】 DERUN Yuan, YANG Yi, AMARARATNE Yakupitiyage, KEVIN Fitzimmons, JAMES S.Diana,Effects of addition of red tilapia (Oreochromis spp.) at different densities and sizes on production,Aquaculture,2010年,298号,226-238頁
【文献】 DAVID D.Kuhn, GREGORY D. Boardman,Use of Microbial Flocs Generated from Tilapia Effluent as a Nutritional Supplement for Shrimp, Litop,World Aquaculture Society,2008年 2月,Vol.39 No.1,Page.72-82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00
A01K 63/00
J−STAGE
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオフロックを用いた魚介類の養殖システムにおいて、
魚介類を育てる第一飼育槽及び前記第一飼育槽と隣接して設けられた第一貯水タンクと、
前記第一飼育槽とは別の魚介類を育てる第二飼育槽及び前記第二飼育槽と隣接して設けられた第二貯水タンクと、を備え、
前記第一飼育槽の最深部に設けられた連結パイプは、前記第一飼育槽の最深部よりも深い位置にある前記第一貯水タンクの下部壁面に接続されており、
前記第二飼育槽の最深部に設けられた連結パイプは、前記第二飼育槽の最深部よりも深い位置にある前記第二貯水タンクの下部壁面に接続されており、
前記第一貯水タンクの上部壁面には、前記第二飼育槽の水位より高い位置に穴が設けられるとともに、当該穴から第二飼育槽内へ導かれたパイプが設けられ、
さらに、前記第二貯水タンクから前記第一飼育槽に飼育水を移送させるためのポンプを備え、
第一飼育槽と第二飼育槽の飼育水がろ過装置を経ずに互いに循環されるように接続されている魚介類の養殖システム。
【請求項2】
異なる容積の第一飼育槽が複数あり、第一飼育槽と第二飼育槽は接続されているが、第一飼育槽同士は接続されていない、請求項1記載の養殖システム。
【請求項3】
魚介類の養殖方法であって、
魚介類を育てる第一飼育槽及び前記第一飼育槽と隣接して設けられた第一貯水タンクと、
前記第一飼育槽とは別の魚介類を育てる第二飼育槽及び前記第二飼育槽と隣接して設けられた第二貯水タンクと、を備え、
前記第一飼育槽の最深部に設けられた連結パイプは、前記第一飼育槽の最深部よりも深い位置にある前記第一貯水タンクの下部壁面に接続されており、
前記第二飼育槽の最深部に設けられた連結パイプは、前記第二飼育槽の最深部よりも深い位置にある前記第二貯水タンクの下部壁面に接続されており、
前記第一貯水タンクの上部壁面には、前記第二飼育槽の水位より高い位置に穴が設けられるとともに、当該穴から第二飼育槽内へ導かれたパイプが設けられ、
さらに、前記第二貯水タンクから前記第一飼育槽に飼育水を移送させるためのポンプを備え、
第一飼育槽と第二飼育槽の飼育水をろ過装置を経ずに互いに循環させ、
飼育槽に所定の栄養素と従属栄養細菌を含む好気性細菌とを供給してフロックを形成させ、
前記フロックが形成された飼育槽にフロックを餌とする魚介類を少なくとも2種以上別々に入れて飼育する、魚介類の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚介類の養殖システム及び魚介類の養殖方法に関する。より詳しくは、浄化装置を用いなくても魚介類の養殖が可能な魚介類の養殖システム及び魚介類の養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な魚介類の養殖方法が確立されている。魚介類の養殖方法としては、海、湖、川など(以下、単に「海等」と言う)に設置された生簀の中で養殖する方法と、陸上に設置された飼育水槽の中で養殖する方法とが挙げられる。
【0003】
さらに、陸上で養殖する方法としては、海等に近接した陸上において海水等を飼育水槽へ組み上げつつ排水する「かけ流し方式」と、水槽の水を浄化しつつ循環して用いる「閉鎖循環式養殖方法」とがよく知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−178917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生簀での養殖では、過剰給餌や過密養殖による水質悪化に伴う周辺海域の環境破壊、養殖環境に由来する養殖生物のストレス障害、赤潮や嵐などの自然災害による損壊など、多くの解決困難な問題が生じている。
【0006】
かけ流し方式による養殖では、海等から離れた場所で養殖することが不可能である。また、エビ等の暖水性魚介類を養殖する場合や魚介類の成長に最適な水温を保とうとする場合、温度調節のために多大なエネルギーが必要なる。さらに、取水に病原細菌やウイルスなどが含まれていた場合、病気が発生してしまうといった問題もある。仮に病気の発生を抑制するために大量の抗生物質やホルマリン、多数種の治療薬を使用した場合、今度は薬物汚染の問題が生じる。また、組み上げる水全てに対して殺菌を行う方法も考えられるが、随時組み上げられる多量の水全体に対して殺菌することは、設備面でもコスト面でも大きな負担となる。
【0007】
閉鎖循環式養殖方法では、病原細菌やウイルスを水槽内に持ち込まない限りは病気が発生する可能性がないという点でメリットがある。しかし、エビ等の暖水性魚介類を養殖する場合や魚介類の成長に最適な水温を保とうとする場合、水温を高く保たなければならないため、菌などが繁殖しやすい環境となる。また、閉鎖循環式養殖方法では、硝化細菌および脱窒細菌による浄化能力が低いため、水の浄化装置が必要なる。菌の増殖を防ぐためには紫外線殺菌灯やオゾンが用いられるが、紫外線は懸濁物が多い状況では懸濁物の裏側にまで効果が及ばず、殺菌効果が不十分になってしまう可能性がある。また、オゾンは殺菌能力が高いものの、海水中の臭素やヨウ素、その他の物質と反応して生物に悪影響を与える様々な物質を生成する可能性がある。そのため、オゾン使用量を調整したり、オゾン処理による副生成物を処理するための工程や設備を追加したりする必要がある。さらに、浄化装置を用いる場合、浄化装置の設置やフィルターの定期的なメンテナンスが必要となる。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、内陸部であっても簡便なシステムによって薬剤やろ過装置を極力用いることなく魚介類の養殖が可能な養殖システムおよび養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、病気を外部から持ち込まず、なおかつ、薬剤やろ過装置を極力用いることのない魚介類の養殖方法について鋭意検討を行った。そして、バイオフロッグを用いた養殖方法において、異なる二種以上の魚介類を同時に養殖することで、病気を外部から持ち込まず、なおかつ、薬剤やろ過装置を極力用いなくても養殖できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、バイオフロックを用いた魚介類の養殖システムにおいて、魚介類を育てる第一飼育槽と、第一飼育槽とは別の魚介類を育てる第二飼育槽と、を備え、第一飼育槽と第二飼育槽の飼育水がろ過装置を経ずに互いに循環されるように接続されている魚介類の養殖システムを提供する。
【0011】
ここで、バイオフロックとは、人為的に作成された微生物の塊のことを意味する。
【0012】
かかる構成によれば、異なる魚介類を育てる第一飼育槽と第二飼育槽の飼育水を循環するように接続することで、フロックを両飼育槽で共有することができる。これにより、飼育槽におけるフロック濃度を常に一定に保つことができる。また、残餌や魚介類の糞等の有機物をフロック形成に用いることができるため、アンモニアや亜硝酸等の害を減らすことができる。さらに、本発明においては一度消毒した海水などを使いまわすことができるため、閉鎖循環式養殖方法のように病気の発生が起こりにくく、また内陸部でも養殖を行うことができる。
【0013】
前記した構成において、異なる容積の第一飼育槽が複数あり、第一飼育槽と第二飼育槽は接続されているが、第一飼育槽同士は接続されていないことが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、異なる容積の第一飼育槽を用い、第一飼育槽の魚介類の成長具合によって飼育槽を変えていくことで、単位面積当たりの漁獲量を上げることができる。また、第一飼育槽と第二飼育槽とを接続することで、飼育槽を移動させても魚介類にかかるストレスが緩和できる。
【0015】
上記課題解決のため、本発明は、魚介類の養殖方法であって、飼育槽に所定の栄養素と従属栄養細菌を含む好気性細菌とを供給してフロックを形成させる工程と、フロックが形成された飼育槽にフロックを餌とする魚介類を少なくとも2種以上入れて飼育する工程と、を備える、魚介類の養殖方法を提供する。
【0016】
かかる構成によれば、従属栄養細菌を含む好気性細菌によりフロックを形成させることができる。また、炭素と窒素の割合(C/N比)を適切に管理することで魚介類に害をなすアンモニアや亜硝酸を抑制することができる。さらに、形成させたフロックを餌とする魚介類を飼育することで、フロックが過剰に生成されるのを抑制することができる。
【0017】
前記した構成において、魚介類ごとに異なる飼育槽で飼育し、かつ、飼育槽の飼育水がろ過装置を経ずに循環されるように接続されていることが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、飼育槽ごとに養殖する魚介類が異なるため漁獲しやすい。また、魚介類同士に食物連鎖の関係がある場合にも養殖しやすい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、バイオフロックを用いた簡便な養殖システムによって、薬剤やろ過装置を極力用いることなく魚介類の養殖することができる。これにより、内陸部であっても養殖することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る養殖システムを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図1を用いて説明する。本実施形態の養殖システム1は、バイオフロックを餌とする魚介類を養殖するための第一飼育槽10と、第一飼育槽で養殖する魚介類とは異なる魚介類であって、バイオフロックを餌とする魚介類を養殖するための第二飼育槽20と、第二飼育槽から第一飼育槽に飼育水を移送するための循環路30と、から構成される。
【0022】
本実施形態に係る第一飼育槽10は円形、楕円形、または多角形状の飼育槽であって、底面の中央部または特定の箇所に向かって深くなるように傾斜している。第一飼育槽10としては、FRP水槽、組立水槽、コンクリート製水槽、ビニール張り水槽などが挙げられるが、腐食性・耐久性を備えるものであれば特に制限されない。
【0023】
本実施形態に係る第一飼育槽10は複数の飼育槽で構成されていてもよい。また、飼育槽ごとに容積が異なっていても良い。
【0024】
第一飼育槽10の隣には、第一貯水タンク15が設けられている。第一貯水タンク15は魚介類を養殖するための槽ではなく、第一飼育槽から飼育水を移送する際に使用するためのものである。第一貯水タンク15は円形、楕円形、または多角形状であり、第一飼育槽10よりも深さのある層となっている。第一貯水タンク15の下部壁面は、第一飼育槽10の最深部に設けられた連結パイプと接続されており、第一飼育槽10から飼育水が流入するように連結パイプが傾斜をつけて設けられている。このとき、魚介類が連結パイプに入り込まないようにパイプの上部が網等で覆われていることが好ましい。また、第一貯水タンク15の上部壁面には穴が設けられており、オーバーフローした水が後述する第二飼育槽20内に戻るようにパイプが接続されている。
【0025】
本実施形態に係る第二飼育槽20は、円形、楕円形、または多角形状の飼育槽であって、底面の中央部または特定の箇所に向かって深くなるように傾斜している。第二飼育槽20としては、FRP水槽、組立水槽、コンクリート製水槽、ビニール張り水槽などが挙げられるが、腐食性・耐久性を備えるものであれば特に制限されない。また、本実施形態においては、第二飼育槽20は第一飼育槽10よりも容積が大きいことが好ましく、第一飼育槽10の飼育水全てを足しても余裕のある容積であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態においては、第一貯水タンク15からオーバーフローした飼育水がパイプを通じて第二飼育槽20に還元されるようになっている。そのため、第二飼育槽20は第一飼育槽10よりも低い位置に設置されることが好ましい。
【0027】
第二飼育槽20の隣には、第二貯水タンク25が設けられている。第二貯水タンク25は魚介類を養殖するための槽ではなく、循環路30によって第二飼育槽20から飼育水を第一飼育槽10に移送する際に使用するためのものである。
【0028】
第二貯水タンク25は円形、楕円形、または多角形状であり、第二飼育槽10よりも深さのある層となっている。第二貯水タンク25の下部壁面は、第二飼育槽20の最深部に設けられた連結パイプと接続されており、第二飼育槽20から飼育水が流入するように連結パイプが傾斜をつけて設けられている。このとき、魚介類が連結パイプに入り込まないようにパイプの上部が網等で覆われていることが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る循環路30は、ポンプPを用いて第二飼育槽20の飼育水を第一飼育槽10に移送させるためのものである。循環路30は、バイオフロックごと飼育水を循環させることができる程度の径があることが好ましい。循環路30としては、塩化ビニール、ポリエチレン、ナイロン、FRP、スーパーステンレスABS樹脂等で構成された配管が挙げられる。このうち耐久性、衛生性を備えるものであれば特に制限されない。本実施形態においては、第二貯水タンク25から第二飼育槽20の飼育水を吸い上げ、第一飼育槽10に移送する構成となっている。
【0030】
なお、本実施形態では、第二飼育槽20から第一飼育槽10へのみ飼育水を移送する場合について説明したが、これに限られるものではなく、第一飼育槽10から第二飼育槽20へ飼育水を移送する循環路30を別に設けても良い。かかる場合、第二飼育槽20と第一飼育槽10は同じ高さで設けることができる。
【0031】
次に、本実施形態で用いられる飼育水としては、海水(人工海水含む)、河川の水、カルキ抜きした水道水などが挙げられる。飼育水は養殖する魚介類に応じて適宜選択可能である。
【0032】
本実施形態においては、飼育水に用いる水は事前にヨウ素、紫外線またはオゾンで殺菌しておくことが好ましい。殺菌しておくことで、細菌やウイルスの外部からの侵入を阻止することができる。
【0033】
本発明においては、飼育水中にバイオフロックを形成させることを特徴とする。バイオフロックを形成する細菌としては、従属栄養細菌を含む好気性細菌が挙げられる。このうち従属栄養細菌を用いることが好ましい。なお、用いる細菌は、飼育水や水温、魚介類などに応じて適宜選択可能である。
【0034】
従属栄養細菌を添加してバイオフロックを形成させる場合、必要に応じて栄養素を添加することが好ましい。栄養素の添加はバイオフロックの形成に必要なC/N比を維持するためであり、魚介類が消費するバイオフロックの量等に応じて適宜栄養素の種類や添加量を調節することが好ましい。
【0035】
飼育水に添加する栄養素は飼育する魚介類にもよるが、炭素、窒素、リンなどが挙げられる。炭素源の一例としては小麦粉、ヌカ、糖蜜、糖類等が挙げられる。
【0036】
本実施形態においては、飼育水中のC/N比が5〜20である飼育水を用いることが好ましい。かかる範囲であれば従属栄養細菌によってバイオフロックの形成が良好に行われる。
【0037】
本発明で養殖することができる魚介類としては、バイオフロックを餌とする魚介類であれば特に制限されない。具体的には、魚、エビ、カニ等が挙げられる。
【0038】
本実施形態においては、第一飼育槽と第二飼育槽で養殖する魚介類は異なっていることが好ましい。また、第二飼育槽で養殖する魚介類は第一飼育槽で養殖する魚介類よりも大型のものが好ましく、さらにバイオフロックを主食とするものが好ましい。なお、第一飼育槽と第二飼育槽で育てる魚介類は食物連鎖の関係にないことが好ましいが、これに限られるものではない。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について更に詳細に説明する。ここでは、魚介類として、バナメイエビとティラピアを用いた場合を例に説明する。
【0040】
はじめに、容積が4トンの第一飼育槽10と、容積が20トンの第二飼育槽20とを用意した。用意した第一飼育槽10と第二飼育槽20に対して濃縮海水と淡水とを加え、濃縮海水を海水と同じ濃度になるまで希釈した。次に、ヨウ素で海水を殺菌した。
【0041】
続いて、殺菌した海水に対して、従属栄養細菌と、窒素源としての配合飼料、炭素源としての廃糖蜜を加えて、バイオフロックを形成させた。このとき、エアーブロワーを用いて水中にエアーを供給した。その後、透明だった海水がバイオフロックの形成によって濁った褐色の海水となった。なお、このとき飼育槽のバイオフロック濃度にバラつきがでないように、第二貯水タンク25から第一飼育槽10に対して循環路30で飼育水を循環させた。ここで、第二貯水タンク25から飼育水が供給されることで第一飼育槽10の水位は上昇するが、ある一定の水位に達すると第一貯水タンク15の上部側壁に設けた穴からオーバーフローし、第二飼育槽20に還流される。これにより、常時第一飼育槽10と第二飼育槽20との飼育水の量が常に保たれる。
【0042】
次にバナメイエビの準備を行った。購入してきたバナメイエビを、没食子酸プロピルを加えた溶液の中で薬浴した。続いて、薬浴したバナメイエビのつがいを殺菌した海水を入れた水槽中で飼育し、交尾させた。メスのバナメイエビが卵を持っていることを確認後、オスと一緒に殺菌された海水の入った産卵用の水槽に移し産卵させた。産卵後、バナメイエビのつがいは飼育用の水槽に移し、卵を産まなくなるまでこのサイクルを繰り返した。
【0043】
一方、産卵された卵は一度回収した後、ヨウ素を用いて消毒を行った。消毒後、卵を殺菌された海水の入った水槽に移し、ふ化させた。ふ化したバナメイエビがポストラーバ期と呼ばれる大きさ(12mm以上)になるまで水槽内で飼育した。ポストラーバ期になったバナメイエビは、没食子酸プロピルを加えた溶液の中で薬浴させた後、第一飼育槽10に移した。なお、飼育槽内に没食子酸プロピルを添加するとバイオフロックが形成されなくなるため、注意が必要である。
【0044】
第一飼育槽10に移したバナメイエビを、給餌しながら養殖した。このとき、飼育槽では、ジェット水車を使って飼育水を撹拌するとともに空気の供給を行った。これにより、バイオフロックが飼育槽の底に沈殿するのを防ぐとともに、飼育槽内が酸欠になるのを防止できる。さらに、養殖開始に伴い第二貯水タンク25から常時飼育水の循環を行った。なお、飼育水循環開始のタイミングはバイオフロック形成後養殖開始前であれば、どのタイミングでも良い。
【0045】
バナメイエビは目的の大きさになるまで養殖し、その後漁獲した。このとき、第一飼育槽10の飼育水を第二飼育槽20にすべて移動させた後に行った。第二飼育槽20は第一飼育槽10よりも容積が大きいため、第一飼育槽10の飼育水をすべて加えてもオーバーフローしない。また、第二飼育槽20に移動させられた飼育水は再利用することができるため、バイオフロックが形成された飼育水を一から作るよりも時間的経済的観点で優れている。
【0046】
一方、第二飼育槽20では、飼育槽内でティラピアが養殖を行った。ティラピアは飼育水中のバイオフロックやバナメイエビの残餌を餌とするため、給餌の必要がなく、水質の悪化も防ぐことができる。また、ティラピアがバイオフロック食べることで、バイオフロックが過剰に形成されるのを防ぐことができる。さらに、ティラピア自身も食用魚であるため、バナメイエビと同じく市場に流通させることで副収入を得ることができる。
【0047】
ここで、飼育槽中には残餌や、バナメイエビやティラピアの糞等が発生するが、バイオフロックはこれらの有機物を原料として随時形成される。そのため、閉鎖循環式養殖方法のようにろ過装置を用いなくても本発明は魚介類を飼育できる点で優れている。また、バイオフロックの形成に窒素が用いられるため、アンモニアや亜硝酸などの害を減らすことができる。
【0048】
以上説明したように、本発明においてはバイオフロックを用いた養殖において、アンモニアや亜硝酸等の害を減らしつつ、病気の発生が起こりにくく、また内陸部でも養殖を行うことができる。
【0049】
なお、本発明は上記実施例に限られるものではなく、次のようにしても良い。例えば、第一飼育槽を複数設け、養殖する魚介類の大きさに応じて飼育槽を移動させても良い。このとき、飼育水ごと飼育槽を移動させることで、魚介類にかかるストレスを軽減させることができる。また、養殖が終わった第一飼育槽においては、飼育水を一旦第二飼育槽に戻す。そして、第一飼育槽を清掃後、第二飼育槽に戻した水を用いて飼育しても良い。このようにすることで、飼育槽を清潔に保つことができるので病気の発生を防ぐことができる。
【0050】
また、バイオフロックを形成させた飼育槽内で異なる魚介類を同時に飼育しても良い。このとき、飼育槽内を魚介類の数に応じて区切ることが好ましいが、食物連鎖の関係にない場合には、飼育槽内を区切ることなく養殖しても良い。
【0051】
さらに、上記実施例では各飼育槽に連結された貯水タンクを介して飼育水を循環させていたが、貯水タンクを設けることなく直接飼育槽から飼育水を循環させても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 養殖システム
10 第一飼育槽
15 第一貯水タンク
20 第二飼育槽
25 第二貯水タンク
30 循環路
図1