(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインクは、水、顔料、有機溶剤、界面活性剤、及び樹脂を含み、前記界面活性剤が、下記一般式(1)で表される化合物を含み、前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、0.5質量%以上1.5質量%以下である。
〔一般式(1)〕
【化2】
ただし、前記一般式(1)中、Rはポリエーテル基を表す。
本発明のインクは、従来の水性のインクでは、インクがポリプロピレンフィルム上に濡れ広がり難いため、インクの広がり不良が起こり易いという問題があり、前記問題に対しては、インクの付着量を増やせばインクの広がりが改善するが、その場合、インク消費量の増加に伴うランニングコストの増加や印刷物の乾燥性の低下による生産性の低下又は乾燥コストの増加などが問題となるという知見に基づくものである。
【0009】
<インク>
以下、インクに用いる有機溶剤、水、色材、樹脂、添加剤等について説明する。
【0010】
<界面活性剤>
前記界面活性剤としては、下記一般式(1)で表される化合物を含み、更に必要に応じてその他の界面活性剤を含む。
〔一般式(1)〕
【化3】
ただし、前記一般式(1)中、Rはポリエーテル基を表す。
前記一般式(1)で表される化合物は、トリシロキサンの側鎖の1個と末端の全てがメチル基であり、残りの側鎖1個がポリエーテル基である界面活性剤である。
【0011】
前記ポリエーテル基Rとしては、−(C
2H
4O)
a(C
3H
6O)
bR
1であることが好ましい。ただし、R
1は、水素原子又はメチル基を表し、a、bは整数であり、ユニット数を表す。前記a及びbは、同時に0になることはない。
前記a、bとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの保存安定性の点から、aが0以上13以下であることが好ましく、bが1以上13以下であることが好ましい。
【0012】
前記一般式(1)で表される化合物としては、合成したものを用いてもよく、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、TEGO(登録商標)Wet240(EVONIK INDUSTRIES社製)などが挙げられる。
【0013】
前記一般式(1)で表される化合物を有することによって、ポリプロピレンフィルムに対するインクの広がり性が特異的に向上する。その理由は不明であるが、恐らく、前記一般式(1)で表される化合物とポリプロピレンとの化学構造が似ていることが要因の1つであると考えられる。
【0014】
前記一般式(1)で表される化合物の含有量としては、インク全量に対して、0.5質量%以上1.5質量%以下である。
前記含有量が、0.5質量%以上であるとインクの広がり性を向上でき、1.5質量%以下であると保存安定性を向上できる。
【0015】
<有機溶剤>
本発明に使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、エチル−1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、3−メトキシ−N,N-ジメチルプロピオンアミド、3−ブトキシ−N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0016】
前記有機溶剤としては、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを含むことが好ましい。
前記3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールには、親水性物質と疎水性物質の馴染みを良くする作用があるため、前記インクが、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを含有することにより、ポリプロピレン(PP)に対する濡れ広がり性が向上し、インクの広がり性が向上する。
前記3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記親水性物質と前記疎水性物質の馴染みを良くする作用が十分に得られる点で、インク全量に対して、2質量%以上が好ましい。また、乾燥性の点で、10質量%以下が好ましい。
【0017】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0018】
<水>
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%〜60質量%がより好ましい。
【0019】
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水;超純水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
<色材>
前記色材としては、顔料を使用可能である。
前記顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、混晶を使用してもよい。
前記顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
【0021】
前記顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
さらに、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等が挙げられる。
【0022】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0023】
顔料をインク中に分散させるには、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加し水中に分散可能とした自己分散顔料等が使用できる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能なものを用いることができる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
竹本油脂社製RT−100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明のインクの一態様として、前記色材が、スチレン−アクリル樹脂被覆顔料を含有することが、ポリプロピレンへの密着性の点で好ましい。
ここで、前記スチレン−アクリル樹脂被覆顔料とは、前記顔料の表面全体又は部分的にスチレン−アクリル樹脂を被覆させた顔料を意味する。前記顔料を前記スチレン−アクリル樹脂で被覆することによって、前記顔料を水に安定的に分散可能な状態にすることができる。この場合、前記インクに配合される前記顔料は、全て前記スチレン−アクリル樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された前記顔料が前記インク中に分散していてもよい。
【0025】
−スチレン−アクリル樹脂−
前記スチレン−アクリル樹脂は、スチレン系モノマー及びスチレンマクロマーの少なくともいずれかと、アクリル酸モノマー、メタクリル酸モノマー、アクリル酸エステル系モノマー及びメタクリル酸エステル系モノマーの少なくともいずれかと、更に必要に応じてその他のモノマーとを共重合することにより得ることができ、スチレン系モノマー及びスチレンマクロマーの少なくともいずれか由来の構造単位と、アクリル酸モノマー、メタクリル酸モノマー、アクリル酸エステル系モノマー及びメタクリル酸エステル系モノマーの少なくともいずれか由来の構造単位と、更に必要に応じてその他のモノマー由来の構造単位とを有する共重合体である。
【0026】
前記スチレン−アクリル樹脂としては、例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。これらの中でも、スチレン−アクリル酸共重合体が好ましい。
なお、共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0027】
前記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−ブチルスチレンなどが挙げられる。
【0028】
前記スチレンマクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体及び片末端に重合性官能基を有する前記スチレン系モノマーの少なくともいずれかと、前記その他のモノマーとの共重合体などが挙げられる。
前記重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が好ましい。
前記スチレンマクロマーの数平均分子量としては、500以上50,000以下が好ましく、1,000以上10,000以下がより好ましい。
【0029】
前記アクリル酸エステル系モノマー及び前記メタクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−n−オクチル、メタクリル酸−n−オクチル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸−2−アミノエチル、メタクリル酸−2−アミノエチル等の不飽和脂肪酸エステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド等の不飽和脂肪酸アミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;及びこれらの塩などが挙げられる。
【0030】
前記スチレン−アクリル樹脂の重量平均分子量としては、3,000以上50,000以下が好ましく、5,000以上30,000以下がより好ましい。
【0031】
前記スチレン−アクリル樹脂としては、合成したものを使用してもよいし、市販品を用いてもよい。前記スチレン−アクリル樹脂の市販品としては、例えば、ジョンクリル62J(BASFジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0032】
前記スチレン−アクリル樹脂被覆顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、前記スチレン−アクリル樹脂被覆顔料を水や分散剤などと混合して前記スチレン−アクリル樹脂被覆顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
【0033】
前記インク中の前記スチレン−アクリル樹脂被覆顔料の含有量としては、印刷物の画像濃度とインクの保存安定性を考慮すると、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上8質量%以下がより好ましい。
【0034】
<樹脂>
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いても良い。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。前記樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
前記体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave−UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0036】
前記樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、基材への定着性とインクの保存安定性を考慮すると、前記顔料100質量部に対して、10質量部以上500質量部以下が好ましく、80質量部以上180質量部以下がより好ましい。
【0037】
インク中の固形分の粒径については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、吐出安定性、画像濃度などの画像品質を高くする点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上1000nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。固形分は樹脂粒子や顔料の粒子等が含まれる。粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave−UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0038】
<<ポリエステル系ウレタン樹脂>>
前記樹脂としては、ポリプロピレンへの密着性を考慮すると、ポリエステル系ウレタン樹脂が好ましい。
ここで、前記ポリエステル系ウレタン樹脂とは、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂を意味する。ポリエステル系ウレタン樹脂は、合成したものを使用してもよいし、市販品を用いてもよい。
前記ポリエステル系ウレタン樹脂の製造方法としては、特に限定なく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無溶剤又は有機溶剤の存在下で、前記ポリエステルポリオールと前記ポリイソシアネートを、イソシアネート基が過剰になる当量比で反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造し、次いで、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマー中のアニオン性基をアンモニアや有機アミン等の中和剤により中和した後、鎖延長剤と反応させ、最後に系内の有機溶剤を除去することによって得る方法などが挙げられる。
【0039】
−ポリエステルポリオール−
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるもの、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステル、及びこれらの共重合ポリエステルなどが挙げられる。
前記低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。
前記ポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、及びこれらの無水物又はエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0040】
−ポリイソシアネート−
前記ポリイソシアネートとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、m−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−ジクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−ノルボルナンジイソシアネート、2,6−ノルボルナンジイソシアネーネート等の脂環式ポリシアネート化合物などが挙げられる。
これらの中でも、長期耐候性を持つ塗膜を必要とする点から、脂肪族又は脂環式ジイソシアネートが好ましい。
【0041】
−鎖延長剤−
前記鎖延長剤としては、例えば、ポリアミンやその他の活性水素原子含有化合物などが挙げられる。
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類;ヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン、1,6−ヘキサメチレンビスヒドラジン等のヒドラジン類;コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類などが挙げられる。
【0042】
<添加剤>
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0043】
<その他の界面活性剤>
前記その他の界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて前記一般式(1)で表される化合物以外の公知の界面活性剤を適宜選択することができ、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0044】
前記シリコーン系界面活性剤には特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。中でも高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、前記シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物等が挙げられる。
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li
+、Na
+、K
+、NH
4+、(NH
3CH
2CH
2OH)
+、NH
2(CH
2CH
2OH)
2+、NH(CH
2CH
2OH)
3+等が挙げられる。
前記両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
前記アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0045】
<消泡剤>
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点から、シリコーン系消泡剤が好ましい。
【0046】
<防腐防黴剤>
防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンなどが挙げられる。
【0047】
<防錆剤>
防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0048】
<pH調整剤>
pH調整剤としては、pHを7以上に調整することが可能であれば、特に制限はなく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0049】
<インクの製造方法>
本発明のインクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記水、前記色材、前記有機溶剤、前記界面活性剤、及び前記樹脂を水性媒体中に分散乃至溶解し、更に必要に応じて撹拌混合して作製する方法などが挙げられる。前記撹拌混合としては、例えば、通常の撹拌羽を用いた撹拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機などが挙げられる。
【0050】
インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、良好な吐出性が得られる点から、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業社製RE−80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクの表面張力としては、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。
インクのpHとしては、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7〜12が好ましく、8〜11がより好ましい。
【0051】
<記録媒体>
記録媒体としては特に制限はなく、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などを用いることもできるが、非浸透性基材を用いても良好な画像形成が可能である。
前記非浸透性基材とは、水透過性、吸収性が低い表面を有する基材であり、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれ、より定量的には、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec
1/2までの水吸収量が10mL/m
2以下である基材をいう。
前記非浸透性基材としては、例えば、塩化ビニル樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルムを、好適に使用することができる。
【0052】
前記非浸透性基材の中でも、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルムが、良好な画像が得られる点で好ましい。
前記ポリプロピレンフィルムの市販品としては、例えば、P−2002、P−2102、P−2161、P−4166(以上、東洋紡株式会社製)、PA−20、PA−30、PA−20W(以上、SUNTOX社製)、FOA、FOS、FOR(以上、フタムラ化学株式会社製)などが挙げられる。
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの市販品としては、例えば、E−5100、E−5102(以上、東洋紡株式会社製)、P60、P375(以上、東レ株式会社製)、G2、G2P2、K、SL(以上、帝人デュポンフィルム株式会社製)などが挙げられる。
前記ナイロンフィルムの市販品としては、例えば、ハーデンフィルムN−1100、N−1102、N−1200(以上、東洋紡株式会社製)、ON、NX、MS、NK(以上、ユニチカ株式会社製)などが挙げられる。
【0053】
<記録物>
本発明のインク記録物は、記録媒体上に、本発明のインクを用いて形成された画像を有してなる。
インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法により記録して記録物とすることができる。
【0054】
<記録装置、記録方法>
本発明のインクは、インクジェット記録方式による各種記録装置、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。
本発明において、記録装置、記録方法とは、記録媒体に対してインクや各種処理液等を吐出することが可能な装置、当該装置を用いて記録を行う方法である。記録媒体とは、インクや各種処理液が一時的にでも付着可能なものを意味する。
この記録装置には、インクを吐出するヘッド部分だけでなく、記録媒体の給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
記録装置、記録方法は、加熱工程に用いる加熱手段、乾燥工程に用いる乾燥手段を有しても良い。加熱手段、乾燥手段には、例えば、記録媒体の印字面や裏面を加熱、乾燥する手段が含まれる。加熱手段、乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、温風ヒーター、赤外線ヒーターを用いることができる。加熱、乾燥は、印字前、印字中、印字後などに行うことができる。
また、記録装置、記録方法は、インクによって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、幾何学模様などのパターン等を形成するもの、3次元像を造形するものも含まれる。
また、記録装置には、特に限定しない限り、吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
更に、この記録装置には、卓上型だけでなく、A0サイズの記録媒体への印刷も可能とする広幅の記録装置や、例えばロール状に巻き取られた連続用紙を記録媒体として用いることが可能な連帳プリンタも含まれる。
記録装置の一例について
図1乃至
図2を参照して説明する。
図1は同装置の斜視説明図である。
図2はメインタンクの斜視説明図である。記録装置の一例としての画像形成装置400は、シリアル型画像形成装置である。画像形成装置400の外装401内に機構部420が設けられている。ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク410(410k、410c、410m、410y)の各インク収容部411は、例えばアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。インク収容部411は、例えば、プラスチックス製の収容容器ケース414内に収容される。これによりメインタンク410は、各色のインクカートリッジとして用いられる。
一方、装置本体のカバー401cを開いたときの開口の奥側にはカートリッジホルダ404が設けられている。カートリッジホルダ404には、メインタンク410が着脱自在に装着される。これにより、各色用の供給チューブ436を介して、メインタンク410の各インク排出口413と各色用の吐出ヘッド434とが連通し、吐出ヘッド434から記録媒体へインクを吐出可能となる。
【0055】
この記録装置には、インクを吐出する部分だけでなく、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
前処理装置、後処理装置の一態様として、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)などのインクの場合と同様に、前処理液や、後処理液を有する液体収容部と液体吐出ヘッドを追加し、前処理液や、後処理液をインクジェット記録方式で吐出する態様がある。
前処理装置、後処理装置の他の態様として、インクジェット記録方式以外の、例えば、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法による前処理装置、後処理装置を設ける態様がある。
【0056】
なお、インクの使用方法としては、インクジェット記録方法に制限されず、広く使用することが可能である。インクジェット記録方法以外にも、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法、スプレーコート法などが挙げられる。
【0057】
本発明のインクは、前記記録媒体としての非浸透性基材に高画質に記録できるが、より一層、高画質で耐擦性や密着性の高い画像を形成するため、及び高速の印字条件にも対応できる点で、印字(例えば、インク飛翔工程)中に前記記録媒体を加熱することが好ましい。また、印字(例えば、インク飛翔工程)後に前記記録媒体を加熱する加熱工程を含むことが好ましい。
【0058】
前記記録媒体の加熱に使用する加熱装置としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の加熱装置を使用することができ、例えば、強制空気加熱、輻射加熱、伝導加熱、高周波乾燥、及びマイクロ波乾燥用の装置などが挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。前記加熱装置は、既存のインクジェットプリンターに組み込んだものであってもよく、既存のインクジェットプリンターに外付けされたものであってもよい。
【0059】
前記記録媒体の加熱温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、印字中の加熱温度は30℃以上60℃以下が好ましい。また、印字後の加熱温度は110℃以下で制御することが好ましい。前記加熱温度としては、乾燥性を考慮すると高いことが好ましいが、前記加熱温度が上限値以下であると、前記記録媒体がダメージを受けず、インクヘッドが暖まることによる不吐出を防ぐことができ、均一なインクの記録膜を形成可能である。
【0060】
本発明のインクは、ポリプロピレンフィルムに対するインクの広がり性に優れ且つ、保存安定性も良好なインクである。本発明のインクを用いることで、ポリプロピレン上により少量のインクで印刷できるようになるので、インク使用量減によるランニングコスト低減や印刷物の乾燥性向上による生産性向上が可能となる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0062】
(調製例1)
<スチレン−アクリル樹脂被覆ブラック顔料分散体の調製>
スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12g、ポリエチレングリコールメタクリレート4g、スチレンマクロマー(商品名:AS−6、東亞合成株式会社製)4g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108g、ポリエチレングリコールメタクリレート36g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60g、スチレンマクロマー(商品名:AS−6、東亞合成株式会社製)36g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を、2.5時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけてフラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、さらに1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、固形分濃度50質量%のポリマー溶液Aを800g得た。
次いで、ポリマー溶液Aを28g、カーボンブラック(Black Pearls 1000、Cabot Corporation社製)42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及び水13.6gを十分に撹拌した後、ロールミルで混練した。得られたペーストを純水200gに入れて充分に撹拌した後、エバポレータでメチルエチルケトンを除去し、平均孔径5μmのメンブランフィルター(PTFEタイプ、メルク社製)で加圧濾過した後、固形分濃度が20質量%になるように水分量を調整し、固形分濃度20質量%のスチレン−アクリル樹脂被覆ブラック顔料分散体を得た。
【0063】
(調製例2)
<スチレン−アクリル樹脂被覆シアン顔料分散体の調製>
調製例1において、カーボンブラックの代わりにピグメントブルー15:4(SMART Cyan 3154BA、SENSIENT社製)を使用した以外は、調製例1と同様にして固形分濃度20質量%のスチレン−アクリル樹脂被覆シアン顔料分散体を得た。
【0064】
(調製例3)
<スチレン−アクリル樹脂被覆マゼンダ顔料分散体の調製>
調製例1において、カーボンブラックの代わりにピグメントレッド122(Pigment Red 122、Sun Chemical社製)を使用した以外は、調製例1と同様にして固形分濃度20質量%のスチレン−アクリル樹脂被覆マゼンタ顔料分散体を得た。
【0065】
(調製例4)
<スチレン−アクリル樹脂被覆イエロー顔料分散体の調製>
調製例1において、カーボンブラックの代わりにピグメントイエロー74(SMART Yellow 3074BA、SENSIENT社製)を使用した以外は、調製例1と同様にして固形分濃度20質量%のスチレン−アクリル樹脂被覆イエロー顔料分散体を得た。
【0066】
(調製例5)
<自己分散型ブラック顔料分散体の調製>
Cabot Corporation社製のカーボンブラック(Black Pearls 1000)100gを、2.5N(規定)の次亜塩素酸ナトリウム溶液3,000mLに添加し、温度60℃、速度300rpmで撹拌し、10時間反応させて酸化処理を行い、カーボンブラックの表面にカルボン酸基が付与された顔料を得た。
この反応液を濾過し、濾別したカーボンブラックを水酸化ナトリウム溶液で中和し、限外濾過を行い、顔料分散液を得た。
次いで、該顔料分散体とイオン交換水を用いて透析膜による限外濾過を行い、さらに超音波分散を行った後、固形分濃度が20質量%になるように水分量を調整し、固形分濃度20質量%の自己分散型ブラック顔料分散体を得た。
【0067】
(調製例6)
<分散剤分散型ブラック顔料分散体の調製>
Cabot Corporation社製のカーボンブラック(Black Pearls 1000)100gと分散剤としてのナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(パイオニンA−45−PN、竹本油脂株式会社製)15gとイオン交換水280gとの混合物をプレミックスした後、ダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製)で直径0.3mmのジルコニアビーズを用いて、回転速度10m/sec、液温10℃の条件で30分間分散した。
次いで、顔料分散体とジルコニアビーズを分離し、平均孔径0.8μmメンブレンフィルター(セルロースアセテートタイプ、ADVANTEC社製))で濾過した後、固形分濃度が20質量%になるように水分量を調整し、固形分濃度20質量%の分散剤分散型ブラック顔料分散体を得た。
【0068】
(調製例7)
<ポリエステル系ウレタン樹脂エマルションの調製>
撹拌機、還流冷却管及び温度計を挿入した反応容器に、ポリエステルポリオール(ポリライトOD−X−2420、DIC株式会社製)1,500g、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA)220g、及びN−メチルピロリドン(NMP)1,347gを窒素気流下で仕込み、60℃に加熱してDMPAを溶解させた。次いで、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート1,445g、触媒としてのジブチルスズジラウリレート2.6gを加えて90℃まで加熱し、5時間かけてウレタン化反応を行い、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。
この反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン149gを添加及び混合したものの中から4,340gを抜き出して、強撹拌下、水5,400g及びトリエチルアミン15gの混合溶液の中に加えた。次いで、氷1,500gを投入し、35質量%の2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液626gを加えて鎖延長反応を行った後、水分量を調整し、固形分濃度30質量%のポリエステル系ウレタン樹脂エマルションを得た。
【0069】
(調製例8)
<アクリル樹脂エマルションの調製>
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g、及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン365g、ブチルアクリレート545g、及びメタクリル酸10gを撹拌下で加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルションを常温まで冷却し、水酸化ナトリウム水溶液でpH8に調整した後、水分量を調整し、固形分濃度30質量%のアクリル樹脂エマルションを得た。
【0070】
(実施例1)
スチレン−アクリル樹脂被覆顔料ブラック分散体20.0質量%、ポリエステル系ウレタン樹脂エマルション20.0質量%、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール4.0質量%、1,2−プロパンジオール25.0質量%、下記一般式(1)で表される界面活性剤(TEGO(登録商標)Wet240、EVONIK INDUSTRIES社製)1.0質量%、防腐防黴剤(プロキセルLV、アビシア社製)0.1質量%、及びイオン交換水29.9質量%(残量)を混合撹拌し、平均孔径0.8μmメンブレンフィルター(セルロールアセテートタイプ、ADVANTEC社製)にて濾過することにより、実施例1のインクを作製した。
【0071】
(実施例2〜11、及び比較例1〜5)
実施例1において、下記表1−1〜表1−3に記載した処方に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜11、及び比較例1〜5のインクを作製した。
【0072】
【表1-1】
【0073】
【表1-2】
【0074】
【表1-3】
【0075】
なお、前記表1−1〜表1−3中、「一般式(1)で表される界面活性剤」としてTEGO(登録商標)Wet240(EVONIK INDUSTRIES社製)を用い、「比較界面活性剤」として、TEGO(登録商標)Wet270(EVONIK INDUSTRIES社製)を用いた。
ここで、TEGO(登録商標)Wet240は、下記一般式(1)で表される通り、トリシロキサンの側鎖の1個と末端の全てがメチル基で、残りの側鎖1個がポリエーテル基の界面活性剤であり、TEGO(登録商標)Wet270は、ヘプタシロキサンの側鎖の9個と末端の全てがメチル基で、残りの側鎖1個がポリエーテル基の界面活性剤である。
〔一般式(1)〕
【化4】
ただし、前記一般式(1)中、Rはポリエーテル基を表す。
【0076】
作製した実施例1〜11、及び比較例1〜5のインクについて、以下のようにして、「インクの広がり性」、及び「保存安定性」を評価した。結果を下記表2に示す。
【0077】
<インクの広がり性評価>
作製したインクをインクジェットプリンター(株式会社リコー製IPSiO GXe5500)に充填し、ポリプロピレンフィルム(パイレンP2102、東洋紡株式会社製)上に通常印刷で使用するインク量の70質量%のインク量(6g/cm
2)で10cm×10cmのベタ画像を印刷し、80℃、5分間の条件で乾燥させた。次いで、印刷されたベタ画像をデジタルマイクロスコープ(VHX−200、株式会社キーエンス製)を用いて解析することによりインク付着面積(印刷部分全体に対してインク付着部分が占める割合)を測定し、下記評価基準により評価した。なお、A評価は非常に優れたレベル、B評価は使用上問題のないレベル、C評価は実用性が低いレベルである。
[評価基準]
A:インク付着面積が、97%超
B:インク付着面積が、95%超かつ97%以下
C:インク付着面積が、95%以下
【0078】
<保存安定性評価>
作製したインクをインクカートリッジに充填して70℃で3週間保存し、保存前の粘度に対する保存後の粘度の変化率を下記式から求め、下記の評価基準に基づいて、「インクの保存安定性」を評価した。なお、A評価は非常に優れたレベル、B評価は使用上問題のないレベル、C評価は実用性が低いレベルである。
【数1】
粘度の測定には、粘度計(商品名:RE80L、東機産業株式会社製)を使用し、25℃における粘度を、50回転で測定した。
[評価基準]
A:保存前後の粘度変化率が、±5%以内である
B:保存前後の粘度変化率が、±5%超かつ±10%以内である
C:保存前後の粘度変化率が、±10%を超えている
【0079】
【表2】
【0080】
実施例1〜11のインクは、本発明の特に好ましい例である。実施例8のインクは、一般式(1)で表される化合物の量が少ないためインクの広がり性が他の実施例と比べて劣るが、B評価なので使用上問題ないレベルである。実施例9のインクは、一般式(1)で表される化合物の量が多いため保存安定性が他の実施例と比べて劣るが、B評価なので使用上問題のないレベルである。実施例10のインクは、「3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの含有量が、2質量%以上」を満たさない例であり、インクの広がり性が他の実施例と比べて劣るが、B評価なので使用上問題のないレベルである。これらの結果から、本発明のインクは、ポリプロピレン(PP)フィルムに対するインクの広がり性に優れており、少量のインクで十分なインクの広がり性を示し、保存安定性も良好であることがわかる。
【0081】
比較例1のインクは、一般式(1)で表される化合物の量が0.5質量%未満のインクの例であるが、インクの広がり性がC評価のため実用性が低いと言える。比較例2のインクは、一般式(1)で表される化合物の量が1.5質量%を超えるインクの例であるが、保存安定性がC評価のため実用性が低いと言える。比較例3〜5のインクは、一般式(1)で表される化合物以外の界面活性剤を使用した場合の例であるが、いずれもインクの広がり性がC評価のため実用性が低いと言える。
【0082】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 水、顔料、有機溶剤、界面活性剤、及び樹脂を含み、
前記界面活性剤が、下記一般式(1)で表される化合物を含み、
前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、0.5質量%以上1.5質量%以下であることを特徴とするインクである。
〔一般式(1)〕
【化5】
ただし、前記一般式(1)中、Rはポリエーテル基を表す。
<2> 前記有機溶剤が、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを含む前記<1>に記載のインクである。
<3> 前記3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの含有量が、2質量%以上である前記<2>に記載のインクである。
<4> 前記3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの含有量が、2質量%以上10質量%以下である前記<3>に記載のインクである。
<5> 前記一般式(1)のポリエーテル基Rが、−(C
2H
4O)
a(C
3H
6O)
bR
1(ただし、R
1は、水素原子又はメチル基を表し、a、bは整数を表す。)である前記<1>から<4>のいずれかに記載のインクである。
<6> 前記aが0以上13以下であり、前記bが1以上13以下である前記<5>に記載のインクである。
<7> 前記顔料が、顔料の表面全体又は部分的にスチレン−アクリル樹脂を被覆させたスチレン−アクリル樹脂被覆顔料を含有する前記<1>から<6>のいずれかに記載のインクである。
<8> 前記顔料が、自己分散型顔料を含有する前記<1>から<7>のいずれかに記載のインクである。
<9> 前記顔料が、分散剤分散型顔料を含有する前記<1>から<8>のいずれかに記載のインクである。
<10> 前記有機溶剤の含有量が、20質量%以上60質量%以下である前記<1>から<9>のいずれかに記載のインクである。
<11> 前記樹脂が、ポリエステル系ウレタン樹脂及びアクリル樹脂の少なくともいずれかを含有する前記<1>から<10>のいずれかに記載のインクである。
<12> 前記<1>から<11>のいずれかに記載のインクに刺激を印加し、記録媒体に付与するインク飛翔工程を含むことを特徴とするインクジェット記録方法である。
<13> 前記インク飛翔工程後に前記記録媒体を加熱する加熱工程を含む前記<12>に記載のインクジェット記録方法である。
<14> 前記記録媒体が、ポリプロピレンフィルムである前記<12>から<13>のいずれかに記載のインクジェット記録方法である。
<15> 前記<1>から<11>のいずれかに記載のインクと、前記インクに刺激を印加し、記録媒体に付与するインク飛翔手段とを有することを特徴とするインクジェット記録装置である。
<16> 前記記録媒体を加熱する加熱手段を更に有する前記<15>に記載のインクジェット記録装置である。
<17> 前記記録媒体が、ポリプロピレンフィルムである前記<15>から<16>のいずれかに記載のインクジェット記録装置である。
<18> 記録媒体と、前記記録媒体上に、顔料、界面活性剤、及び樹脂を含有する記録層とを有することを特徴とする記録物である。
<19> 前記記録層が、スチレン−アクリル樹脂を更に含む前記<18>に記載の記録物である。
<20> 前記記録媒体が、ポリプロピレンフィルムである前記<18>から<19>のいずれかに記載の記録物である。
【0083】
前記<1>から<11>のいずれかに記載のインク、前記<12>から<14>のいずれかに記載のインクジェット記録方法、前記<15>から<17>のいずれかに記載のインクジェット記録装置、及び前記<18>から<20>のいずれかに記載の記録物は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。