特許第6794627号(P6794627)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6794627-光電変換素子 図000005
  • 特許6794627-光電変換素子 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794627
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20201119BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   H01G9/20 111B
   H01G9/20 113B
   H01G9/20 111C
   H01G9/20 105
   H01L31/04 112C
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-245408(P2015-245408)
(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-119467(P2016-119467A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2018年11月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-255143(P2014-255143)
(32)【優先日】2014年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】平田 美由希
(72)【発明者】
【氏名】大佐々 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 重代
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−072234(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/053196(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0084008(US,A1)
【文献】 特開2011−210553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H01L 51/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、光増感化合物及び半導体ナノ結晶粒子を有する多孔質半導体電極層と電解質層とが設けられ光電変換素子の製造方法であって、
前記半導体ナノ結晶粒子の分散液中に、加熱消滅性粒子の凝集体含む液を加えて得られた塗工液を用いて不定形状の空隙と、前記不定形状の空隙に繋がった筋状の空隙とを有する前記多孔質半導体電極層を形成する多孔質半導体電極層形成工程を含み、
前記加熱消滅性粒子は、重量平均分子量(Mw)が30,000以上45,000以下、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上95℃以下のポリメチルメタクリレートであることを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質半導体電極層に含まれる半導体ナノ結晶粒子が酸化チタンの粒子であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子の製造方法
【請求項3】
前記塗工液中、前記加熱消滅性粒子の凝集体は、前記半導体ナノ結晶粒子に対して10〜50質量%含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記電解質層は、固体電解質または粘度が5mPa・s以上の電解液からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記電解質層は、ヨウ素とヨウ化物イオン、フェリシアン化物とフェロシアン化物、及び、キノンとヒドロキノンから選ばれる少なくとも一つの酸化還元対を含む電解質含有体からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記電解質層は、ヨウ化リチウム及びターシャリーブチルピリジンから選ばれる少なくとも一つの添加剤を含む電解質含有体からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記電解質含有体は、ゲル化剤によりゲル化した擬固体からなることを特徴とする請求項5または6に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
一対の電極間に、光増感化合物及び半導体ナノ結晶粒子を有する多孔質半導体電極層と電解質層とが設けられた光電変換素子であって、
前記多孔質半導体電極層は、不定形状の空隙と、前記不定形状の空隙に繋がった筋状の空隙とを有し、前記多孔質半導体電極層の比表面積が30〜60m/gであり、前記多孔質半導体電極層の空隙率が10〜50%であり、
前記電解質層は固体電解質または粘度が5mPa・s以上の電解液からなることを特徴とする光電変換素子。
【請求項9】
前記多孔質半導体電極層に含まれる半導体ナノ結晶粒子が酸化チタンの粒子であることを特徴とする請求項に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーの導入が世界的な潮流となりつつある中、光電変換素子である太陽電池にも高い関心が集まっている。太陽電池としては、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型などシリコンを材料とするもの、セレン化銅インジウムなど化合物半導体を材料とするものなどが実用化されている。しかしながら、これらのいずれの太陽電池もモジュール生産に多大なエネルギーを要することから、生産コスト低減には制約があり、太陽電池の大規模な普及を図る上で制約となっている。
【0003】
一方、生産エネルギーが相対的に低く、低コスト化を図る上で有利な太陽電池として、色素増感太陽電池がある。色素増感太陽電池は、ガラスなどからなる透明基板上に、導電性透明薄膜、多孔質半導体電極、光増感化合物(増感色素等)、酸化還元対を有する電解質含有体(電解液等)、対極を順に積層させた構造をしている。増感色素を保持する半導体電極を多孔質化させることによって比表面積を数百倍から千倍に拡大し、保持される増感色素の量を大幅に増やしたことにより、大きな光電流を得られるようにした点が特徴である(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
一般的に、色素増感太陽電池用半導体電極は、半導体ナノ結晶粒子とバインダーとを含む分散液を、粘性を調整した塗工液に処方し、これをスクリーン印刷等の方法により基板に塗布した後、加熱焼成によってバインダーを除去し、多孔質化することによって得られる。半導体ナノ結晶粒子としては酸化チタンが用いられる場合が多い。
【0005】
色素増感太陽電池の発電原理は、(1)半導体電極表面に固定された光増感化合物が太陽光等の外部光を吸収して励起状態となる、(2)これが半導体電極に対して電子を放出する、(3)放出された電子が半導体電極を拡散移動し、導電性透明基板に到着する、(4)導電性基板から外部回路を経由して対極に移動する、(5)対極において電解液中の酸化還元対を還元する、(6)この還元体が電解液中を移動して色素に到着し、電子放出した光増感化合物を還元して基底状態に戻す、という(1)〜(6)のサイクルに基づく。本サイクルを繰り返すことにより、光が照射されている間、持続的に発電がなされる。
【0006】
このような発電原理に鑑みたとき、半導体電極中に形成される多孔質構造は、適切な表面積と適切な細孔径とを同時に有する必要がある。すなわち、発電サイクルの起点である太陽光吸収を増やすためには増感色素量が多いほど有利であるため、色素固定面である半導体電極表面の面積が多い方が望ましい。一方、電解液中の酸化還元対が色素を基底状態に戻し、発電サイクルを完結させるためには、電解液が多孔質構造中の細孔に十分に充填され、電解液と色素が接触している必要があるが、細孔が狭すぎると電解液が充分に浸透できず、細孔内に充填されないため、適切に設定された直径を超える細孔を構築する必要がある。とりわけ、電解液の粘度が高く、細孔に対して浸透しにくい場合にこの問題は顕著となる。
【0007】
色素増感型の光電変換素子において多孔質半導体電極層への電解液充填を促進する方法としては、多孔質半導体電極層中に空隙を設けた構造が既に提案されている。例えば、特許文献1では多孔質半導体層材料にナノチューブ状の結晶チタニア(チタニアナノチューブ)を単体もしくは混合物として用いることで、十分な空隙と比表面積を有した多孔質半導体電極層を形成している。
【0008】
また、特許文献2では、塗工液中に空隙形成用材料を添加することにより、空隙率および空隙寸法が制御された多孔質半導体電極層の製造方法を提案している。
【0009】
これらの方法によって得られる多孔質半導体電極層は電解液を円滑に充填することができ、光電変換特性の向上が期待できる。
【0010】
しかしながら、これら従来の例においては、光電変換特性の向上を図る上で最適な半導体電極層構造とはなっていない。例えば、特許文献1のチタニアナノチューブを添加する方法においては、チタニアナノチューブの配置が制御されておらず、多孔質半導体中に乱雑に配置された状態であるため、必要以上に大きな空隙が形成され、増感色素の配置数を過度に減らしている。
【0011】
また特許文献2の、塗工液中に空隙形成用材料を添加する方法では、得られる空隙は一般的に真球形状の孤立孔である。このとき、空隙は膜外部との経路を持たないため、膜外部から内部に向かって電解液を十分に充填させるという空孔形成の目的を十分に果たすことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の課題を解決し、電解質が多孔質半導体電極層中に十分充填され、これによって優れた光電変換効率が得られる光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明に係る光電変換素子の製造方法は、一対の電極間に、光増感化合物及び半導体ナノ結晶粒子を有する多孔質半導体電極層と電解質層とが設けられる光電変換素子の製造方法であって、前記半導体ナノ結晶粒子の分散液中に、加熱消滅性粒子の凝集体を含む液を加えて得られた塗工液を用いて不定形状の空隙と、前記不定形状の空隙に繋がった筋状の空隙とを有する前記多孔質半導体電極層を形成する多孔質半導体電極層形成工程を含み、前記加熱消滅性粒子は、重量平均分子量(Mw)が30,000以上45,000以下、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上95℃以下のポリメチルメタクリレートであることを特徴とする
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解質が多孔質半導体電極層中に十分充填され、これによって優れた光電変換効率が得られる光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】光電変換素子の概略断面図である。
図2】実施例1によって得られた半導体電極の断面SEM観察像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る光電変換素子10について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、光電変換素子10の概略断面図である。図1に示すように、光電変換素子10は、一対の電極である電極11及び対極12と、この電極間に設けられる多孔質半導体電極層13及び電解質層14と、を備える。
【0018】
電極11である第1の電子集電電極は基材15の一方の面に設けられる。多孔質半導体電極層13は、基材15の電極11を有する面に設けられ、光増感化合物と、半導体ナノ結晶粒子と、不定形状の空隙13Aと、不定形状の空隙13Aに繋がった筋状の空隙13Bと、を有する。電解質層14は、多孔質半導体電極層13を挟むように電極11に対向して設けられる。対極12は、一方の面に第2の電子集電電極19を有し、電解質層14を挟むように多孔質半導体電極層13に第2の電子集電電極19を対向させて設けられる。電解質層14は固体電解質または高粘性電解液からなるものである。
【0019】
ここで、不定形状とは真球形状等とは異なり輪郭線に規則性を持たない形状であることを意味している。規則性をもたない形状としては、例えばアメーバ状等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、前記多孔質半導体電極層が、不定形状の空隙と、前記不定形状の空隙に繋がった筋状の空隙とを有することで、固体または高粘性電解液が不定形状の空隙へ浸透し、不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙から電解液が多孔質半導体電極層に浸透し、空隙や細孔に十分に充填されることで、光電変換効率の向上が可能になる。
【0021】
通常、色素増感太陽電池の多孔質半導体電極中に形成される細孔は、半導体粒子同士が密に積み重なることにより、その隙間として与えられる。粒径が完全に揃っており、かつ粒子が最密充填していると仮定した場合、幾何学的計算によって与えられる細孔径は粒径のおよそ1/3である。多孔質半導体電極中の比表面積を増大させ、吸着色素量を増やす目的から、半導体粒子として一般には粒径20〜50nmが選ばれることから、このとき形成される細孔はおよそ7〜17nmと求められる。これは、固体電解質または高粘性電解質を充填する上で甚だ不十分な細孔径である。
【0022】
また、塗工液中に空隙形成用材料を添加し、粒子同士の隙間より大きな径の細孔を設けた場合であっても、それが孤立孔である場合は、孤立孔同士を繋ぐ細孔は上記の通り粒子同士の隙間からなる7〜17nmの径しか有さない。従って、膜中に形成された孤立孔の全てに電解液を十分に充填することは困難である。
【0023】
一方、本発明においては、電解液の浸透性を向上させるために必要な不定形状の空隙と、この不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙を設けている。不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙は、膜外部から浸透してくる電解液が膜内部の空隙へ連絡する通路としての役割を持ち、不定形状の空隙へ電解質が滞りなく十分に充填されることを可能にしている。さらに、膜外部から膜内部への電解液を連絡する通路としてのみでなく、膜中の空隙と空隙とを繋ぐ通路として役割も果たすことで、電解質の充填性がより向上する。
【0024】
これによって、固体電解質や高粘性電解液であっても多孔質半導体電極層に十分充填させることができ、高い変換効率を有する光電変換素子が得られる。
【0025】
不定形状の空隙と、この不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙とを有する多孔質半導体電極層を形成する方法としては、例えば、半導体ナノ結晶粒子の分散液中に、加熱消滅性粒子の凝集体もしくは加熱消滅性繊維を含む液を加えて得られた塗工液を用いて多孔質半導体電極層を形成する方法が挙げられる。
本発明の光電変換素子の好適な製造方法は、一対の電極間に、光増感化合物及び半導体ナノ結晶粒子を有する多孔質半導体電極層と電解質層とが設けられ、前記電解質層は固体電解質または高粘性電解液からなる光電変換素子の製造方法であって、前記半導体ナノ結晶粒子の分散液中に、加熱消滅性粒子の凝集体又は加熱消滅性繊維を含む液を加えて得られた塗工液を用いて、不定形状の空隙と、前記不定形状の空隙に繋がった筋状の空隙とを有する前記多孔質半導体電極層を形成する多孔質半導体電極層形成工程を含むことである。
【0026】
次に、本発明に係る光電変換素子10の一実施形態についてさらに詳細に説明する。尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0027】
<電極11>
電極11は、基材15の表面上に配置された透明な電子集電電極である。
【0028】
基材15の種類は、可視光に透明な材質からなり、一定の機械的強度を有する材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、ガラス、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体などが用いられる。
【0029】
基材15の形状は特に限定されるものではなく、平板状、曲面状、線状、環状などであってよい。
【0030】
電子集電電極としては、可視光に対して透明な導電性物質であれば特に限定されるものではなく、通常の光電変換素子、あるいは液晶パネル等に用いられる公知のものを使用できる。
【0031】
導電性物質は、例えば、インジウム・スズ酸化物(以下、ITOと称す)、フッ素ドープ酸化スズ(以下、FTOと称す)、アンチモンドープ酸化スズ(以下、ATOと称す)等が挙げられ、これらが単独あるいは複数積層されていてもよい。
【0032】
電子集電電極の厚さは5nm〜100μmが好ましく、50nm〜10μmが更に好ましい。
【0033】
電極11は、電子集電電極と基材15が一体となっている公知のものを用いることもでき、例えば、FTOコートガラス、ITOコートガラス、酸化亜鉛:アルミニウムコートガラス、FTOコート透明プラスチック膜、ITOコート透明プラスチック膜等が挙げられる。
【0034】
また、酸化スズや酸化インジウムに原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープした透明電極、メッシュ状、ストライプ状など光が透過できる構造にした金属電極をガラス基板等の基板上に設けたものでもよい。これらは単独あるいは2種以上の混合、または積層したものでも構わない。
【0035】
また、電子集電電極として、金属リード線等を用いてもよい。
【0036】
金属リード線の材質はアルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケル等の金属が挙げられる。金属リード線は、基板に蒸着、スパッタリング、圧着等で設置し、その上にITOやFTOを設ける方法が挙げられる。
【0037】
<多孔質半導体電極層13>
多孔質半導体電極層13は、可視光に透明な基材15に配置された電子集電電極11上に設けられる。
【0038】
多孔質半導体電極層13の形成方法としては、半導体ナノ結晶粒子を含む後述する塗工液(6)を基材15の電極11が設けられた面にスクリーン印刷等の方法によって塗布し、これを乾燥、焼成することが挙げられる。従って以下では塗工法によって不定形状な空隙13Aと、不定形状の空隙13Aに繋がった筋状の空隙13Bを有する多孔質半導体電極層13を形成する方法を述べるが、必ずしも本方法に限定されるものではなく、例えば塗布後の乾燥条件によって形成するなど、広く公知の方法を用いることができる。
【0039】
不定形状な空隙13Aと、不定形状の空隙13Aに繋がった筋状の空隙13Bを有する多孔質半導体電極層13は、塗工液(6)を透明な電子集電電極が配置された基材15上に塗布し、焼成する塗工法によって得ることができる。
【0040】
<塗工液(6)>
塗工液(6)は、半導体ナノ結晶粒子(1)を含有する半導体ナノ結晶粒子分散液(2)と、加熱消滅性粒子の凝集体もしくは加熱消滅性繊維(3)と、バインダー樹脂(4)と、分散溶媒(5)と、を含む。
【0041】
<塗工液(6)の調製>
塗工液(6)は、まず半導体ナノ結晶粒子(1)を単独で分散して半導体ナノ結晶粒子分散液(2)を得た後、加熱消滅性粒子の凝集体もしくは加熱消滅性繊維(3)、バインダー樹脂(4)、分散溶媒(5)を混合分散し脱溶することで塗工液(6)を得る。各成分については後述する。
【0042】
半導体ナノ結晶粒子、加熱消滅性粒子凝集体もしくは加熱消滅性繊維、バインダー樹脂、分散溶媒の混合方法は、上記の方法に限定されず、均一混合効果が得られるものであれば特に限定されるものではない。
【0043】
しかしながら混合は、半導体ナノ結晶粒子分散体を攪拌しているところに、加熱消滅性粒子凝集体もしくは加熱消滅性繊維、バインダー樹脂、分散溶媒を加えることが望ましく、マグネチックスターラーや攪拌子などで簡易な攪拌を行った後に、均一混合処理を行うのが好ましい。
【0044】
具体的な均一混合処理として、撹拌羽根式ミキサー、三本ロールミル、スターラー、ボールミル、ペイントコンディショナー、サンドミル、アトライター、ディスパーザー、ジェットミル、あるいは超音波分散等が挙げられる。均一混合処理の際に、加熱消滅性粒子が液中で凝集され、筋状を含む不定形状の空隙を与える凝集体が形成される。
【0045】
また、均一混合処理に、加熱、冷却、加圧又は減圧を行ってもよい。
【0046】
塗工液には、半導体ナノ結晶粒子の再凝集を防ぐため、塩酸、硝酸、酢酸等の酸、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アセチルアセトン、2−アミノエタノール、エチレンジアミン等のキレート化剤等を添加することができる。さらに、ポリカルボン酸などのカチオン系分散剤を添加しても良い。チタニア粉末を媒体により均一に分散させることができ、チタニア粉末と溶媒との分離等を生ずることのないアセチルアセトンが好ましい。これらは単独、あるいは2種以上の混合溶媒として用いることができる。分散溶媒は、分散体に対して1〜5重量%加えることが好ましい。
【0047】
<半導体ナノ結晶粒子(1)>
本発明に使用する半導ナノ結晶粒子は、結晶性半導体粒子であれば特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。半導ナノ結晶粒子は、結晶性半導体の凝集体であってもよい。
【0048】
半導ナノ結晶粒子は、具体的には、シリコン、ゲルマニウムのような単体半導体、あるいは金属のカルコゲニドに代表される化合物半導体、またはペロブスカイト構造を有する化合物等を挙げることができる。
【0049】
金属のカルコゲニドとしてはチタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、あるいはタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスの硫化物、カドミウム、鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等が挙げられる。
【0050】
他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム、等のリン化物、ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物等が好ましい。
【0051】
また、ペロブスカイト構造を有する化合物としては、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等が好ましい。
【0052】
これらの中でも酸化物半導体が好ましく、特に酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブが好ましく、この中で伝導体エネルギーの高い酸化チタンが最も好ましい。半導体ナノ結晶粒子は単独、あるいは2種以上の混合で使用しても構わない。
【0053】
使用する酸化チタンの平均1次粒子径は1nm以上500nm以下が好ましく、5nm以上300nm以下がより好ましく、10nm以上300nm以下がさらに好ましい。平均1次粒子径が小さすぎると、半導体多孔質膜が過剰に緻密化し、多孔質膜中に形成される細孔径が小さくなるため、電解質の浸透もしくは充填が制約されるという問題がある。一方、平均1次粒子径が大きすぎると、半導体多孔質膜内に含まれる表面積が低下するため、吸着色素量を十分に確保できないという問題がある。
【0054】
<半導体ナノ結晶粒子分散液(2)>
半導体ナノ結晶粒子を分散溶媒に分散することで、半導体ナノ結晶粒子分散液を得る。
【0055】
半導体ナノ結晶粒子を分散する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、α−テルピネオール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、あるいはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ギ酸エチル、酢酸エチル、あるいは酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、あるいはジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、あるいはN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、あるいは1−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、あるいはクメン等の炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらは単独、あるいは2種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0056】
分散は一般的に知られている手法を用いることができ、例えばビーズミル、ペイントシェーカー等のメディア分散、超音波やローターによるせん断などを利用したホモジナイザー、ジェットミルなどで分散することができる。
【0057】
<加熱消滅性粒子の凝集体もしくは加熱消滅性繊維(3)>
塗工法によって不定形状な空隙13Aと、不定形状な空隙13Aと繋がった筋状の空隙13Bを有する多孔質半導体電極層13を形成するためには、加熱消滅性粒子凝集体もしくは加熱消滅性繊維を使用する。
【0058】
加熱消滅性粒子凝集体を用いる場合、加熱消滅性粒子としては、塗工膜の通常焼成雰囲気である空気中、500℃焼成において燃焼、消滅するものであれば特に限定されるものではなく、公知のポリマー樹脂や炭素材料等、いずれの材料も使用することができる。
【0059】
具体的なポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスチレンアクリル、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン等のポリマー樹脂が好ましい。また炭素材料としては、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンファイバー等が挙げられる。
特にポリメチルメタクリレートが好ましく、中でも、重量平均分子量(Mw)が30,000以上45,000以下、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上95℃以下のポリメチルメタクリレートが特に好ましい。Mw及びTgが本範囲内にあるポリメチルメタクリレートを使用することにより、500℃焼成における昇温過程で、加熱消滅性粒子は軟化し変形した後、燃焼し消滅する。これにより、半導体多孔質電極の内部に形成される不定形状の空隙が、高粘度電解液を注入、浸透させる上でより望ましい構造となる。
【0060】
加熱消滅性粒子の凝集体を含む液を作成してから、これを半導体ナノ粒子分散液に投入し、塗工液を調製することが望ましい。
【0061】
加熱消滅性粒子凝集体もしくは加熱消滅性繊維の含有量は、多孔質半導体電極を与える粒子である半導体ナノ結晶粒子に対して10〜50質量%とするのが好ましい。含有量が10%以下であると、空隙がほとんど発生せず、電解液の充填を図る上で不十分である。含有量が50%を越えると、空隙が増えすぎるため、多孔質半導体層に形成した場合強度が低下し、色素増感太陽電池として劣化が進みやすい。従って加熱消滅性粒子は多孔質半導体電極を与える粒子に対して10%以上50%以下が好ましい。
【0062】
加熱消滅性粒子の平均粒子径は、凝集体粒径として100nm以上2,000nm以下となるものであれば特に限定されない。凝集体粒径は体積基準メジアン径(Dv50)として定義される。本発明においては凝集体の粒径として本範囲にあることが重要である。凝集体の粒径が100nmを下回ると、電解液充填を十分に進行させうるだけの孔として作用しない。一方、凝集体の粒径が2,000nmを超える場合は、加熱消滅後に形成される孔が必要以上に大きくなり、場合によっては半導体多孔膜の膜厚をも上回ることとなる。この場合は多孔膜中の空孔というよりも塗膜欠陥になってしまい、不均一な半導体多孔膜を与えることとなるため、望ましくない。
【0063】
加熱消滅性粒子の凝集体を形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、加熱消滅性粒子を親和性の高い溶媒中で単分散させた後、親和性の低い溶媒中に投入し、凝集させることができる。あるいは、粒子を加熱もしくは圧着し、凝集させてもよい。また、メカノケミカルボンディングや、スプレー噴霧による気相中での凝集反応を利用してもよい。
【0064】
また、加熱消滅性粒子を含む溶液に超音波を照射し、そのキャビテーション作用によって凝集させてもよい。超音波を照射する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を使用することができる。
【0065】
例えば、加熱消滅性粒子を含む溶液を入れた容器に棒状もしくは平板状の振動子を投入し、容器内部で超音波を発生させる方法、加熱消滅性粒子を含む溶液もしくは溶液を入れた容器を、振動子を底部に有する液槽内に投入もしくは設置し、液槽内に発生する超音波を利用する方法、棒状もしくは平板状の振動子が設置された容器に加熱消滅性粒子を含む溶液を通過させ、通過時のみ超音波を発生させる方法等がある。
【0066】
加熱消滅性繊維を用いる場合は、その材質は空気中、500℃焼成において燃焼、消滅するものであれば特に限定されるものではなく、公知のポリマー樹脂や炭素材料、いずれの材料も使用することができる。
【0067】
<バインダー樹脂(4)>
バインダー樹脂は、塗工液の塗工性を調整するために添加されるものであって、増粘効果が得られ、溶媒に溶解し、塗工膜の通常焼成雰囲気である空気中、500℃焼成において燃焼、消滅するものであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、エチルセルロース等が挙げられる。
【0068】
<分散溶媒(5)>
分散体に使用する溶媒は、半導体ナノ結晶粒子分散体を作製した際と同じ溶媒が好ましいが、異なる場合は、分散処理を終えた後、塗工液に使用する溶媒に置換を行えばよい。
【0069】
半導体ナノ結晶粒子分散体と異なる場合の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、α−テルピネオール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、あるいはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ギ酸エチル、酢酸エチル、あるいは酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、あるいはジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、あるいはN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、あるいは1−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、あるいはクメン等の炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらは単独、あるいは2種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0070】
<多孔質半導体電極層13の調製>
塗工液を透明な電子集電電極16が配置された基材15上に塗工し、焼成することにより、多孔質半導体電極層13を得る。すなわち、加熱消滅性粒子の凝集体もしくは加熱消滅性繊維(3)は上述のような粒径により半導体ナノ結晶粒子分散液(2)に分散している。加熱消滅性粒子の凝集体もしくは加熱消滅性繊維(3)は、焼成の加熱工程における加熱により気化、燃焼などにより消滅する。このため、焼成後の多孔質半導体電極層13には半導体ナノ結晶粒子の層に不定形状な空隙13Aと、不定形状の空隙13Aに繋がった筋状の空隙13Bが生成される。
【0071】
塗工液の塗布方法に特に制限はなく、公知の方法に従って行なうことができる。塗工法は、例えば、印刷法、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法等を用いることができる。印刷方法としては、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等、様々な方法を用いることができる。
【0072】
塗工された膜の焼成は、塗工液に含まれる半導体ナノ結晶粒子を電気的かつ機械的に接触させ、膜強度の向上、基板との密着性向上、電気抵抗の低減を図ると同時に、分散体に含まれる加熱消滅性粒子の凝集体、バインダー樹脂、分散溶媒といった半導体粒子以外の成分を消失させるために行われる。
【0073】
焼成方法は特に制限はなく、マッフル炉など公知の方法を使うことができる。焼成温度の範囲に特に制限はないが、温度を上げ過ぎると電子集電電極の抵抗が高くなったり、基材が溶融したりするため、30〜700℃が好ましく、100〜600℃がより好ましい。また、焼成時間にも特に制限はないが、10分〜10時間が好ましい。
【0074】
焼成後、半導体粒子の表面積の増大や、光増感化合物から半導体ナノ結晶粒子への電子注入効率を高める目的で、例えば四塩化チタンの水溶液や有機溶剤との混合溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行なってもよい。
【0075】
これによって得られた半導体電極に多孔質半導体層が形成されており、多孔質半導体層は、不定形状な空隙と、不定形状な空隙と繋がった筋状の空隙とを有している。このような構造は、半導体電極膜の断面を電子顕微鏡で観察することにより確認できる。
【0076】
多孔質半導体電極層13の比表面積は、30〜60m/gであることが好ましい。ここで、比表面積とは、多孔質半導体電極層13の単位質量(1g)あたりの表面積(m)である。
【0077】
比表面積が30m/g未満では色素吸着量が減少して電子の授受が減少するため電池性能が低下する場合がある。また、比表面積が60m/gを超えると、空隙が減少することで電解液の充填が不十分となり、変換効率が低下する場合がある。
【0078】
また多孔質半導体電極層13の空隙率は、10〜50%であることが好ましい。空隙率とは、多孔質半導体電極層13の断面積に対する空隙の面積の割合である。空隙率が10%未満では電解液の充填が不十分となり、変換効率が低下する場合がある。空隙率が50%を超えると、比表面積が減少するため色素吸着量が減り、変換効率が低下したり、多孔質半導体層の膜強度が低下する場合がある。
【0079】
<光増感化合物>
多孔質半導体電極層13の表面には光増感化合物が配置される。光増感化合物は、太陽光等の外部光を吸収して励起状態となり、多孔質半導体電極層13に対して電子を放出する。外部光を吸収するための光増感化合物としては、使用される励起光により光励起される化合物であれば特に限定されない。光増感化合物の具体的には以下の化合物が挙げられる。
【0080】
特表平7−500630号公報、特開平10−233238号公報、特開2000−26487号公報、特開2000−323191号公報、特開2001−59062号公報等に記載の金属錯体化合物、特開平10−93118号公報、特開2002−164089号公報、特開2004−95450号公報、J.Phys.Chem.C,7224,Vol.111(2007)等に記載のクマリン化合物、同特開2004−95450号公報、Chem.Commun.,4887(2007)等に記載のポリエン化合物、特開2003−264010号公報、特開2004−63274号公報、特開2004−115636号公報、特開2004−200068号、特開2004−235052号公報、J.Am.Chem.Soc.,12218,Vol.126(2004)、Chem.Commun.,3036(2003)、Angew.Chem.Int.Ed.,1923,Vol.47(2008)等に記載のインドリン化合物、J.Am.Chem.Soc.,16701,Vol.128(2006)、J.Am.Chem.Soc.,14256,Vol.128(2006)等に記載のチオフェン化合物、特開平11−86916号公報、特開平11−214730号公報、特開2000−106224号公報、特開2001−76773号公報、特開2003−7359号公報等に記載のシアニン色素、特開平11−214731号公報、特開平11−238905号公報、特開2001−52766号公報、特開2001−76775号公報、特開2003−7360号等に記載メロシアニン色素、特開平10−92477号公報、特開平11−273754号公報、特開平11−273755号公報、特開2003−31273号等に記載の9−アリールキサンテン化合物、特開平10−93118号公報、特開2003−31273号等に記載のトリアリールメタン化合物、特開平9−199744号公報、特開平10−233238号公報、特開平11−204821号公報、特開平11−265738号、J.Phys.Chem.,2342,Vol.91(1987)、J.Phys.Chem.B,6272,Vol.97(1993)、Electroanal.Chem.,31,Vol.537(2002)、特開2006−032260号公報、J.Porphyrins Phthalocyanines,230,Vol.3(1999)、Angew.Chem.Int.Ed.,373,Vol.46(2007)、Langmuir,5436,Vol.24(2008)等に記載のフタロシアニン化合物、ポルフィリン化合物等を挙げることができる。
【0081】
特にこの中で、金属錯体化合物、クマリン化合物、ポリエン化合物、インドリン化合物、チオフェン化合物を用いることが好ましい。
【0082】
<光増感化合物の多孔質半導体電極層13への配置方法>
多孔質半導体電極層13に光増感化合物を配置させる方法としては、光増感化合物溶液中あるいは分散液中に半導体電極を浸漬し、吸着させる方法、溶液あるいは分散液を電子輸送層に塗布して吸着させる方法を用いることができる。
【0083】
前者の場合、浸漬法、ディップ法、ローラー法、エアーナイフ法等を用いることができ、後者の場合は、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法等を用いることができる。
【0084】
また、二酸化炭素などを用いた超臨界流体中で吸着させても構わない。
【0085】
光増感化合物を吸着させる際、縮合剤を併用してもよい。縮合剤は、無機物表面に物理的あるいは化学的に光増感化合物と電子輸送化合物を結合すると思われる触媒的作用をするもの、または化学量論的に作用し、化学平衡を有利に移動させるものの何れであってもよい。更に、縮合助剤としてチオールやヒドロキシ化合物を添加してもよい。
【0086】
光増感化合物を溶解、あるいは分散する溶媒は、水、メタノール、エタノール、あるいはイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、あるいはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ギ酸エチル、酢酸エチル、あるいは酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、あるいはジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、あるいはN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、あるいは1−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、あるいはクメン等の炭化水素系溶媒を挙げることができ、これらは単独、あるいは2種以上の混合として用いることができる。
【0087】
また、光増感化合物は、その種類によっては化合物間の凝集を抑制した方がより効果的に働くものが存在するため、凝集解離剤を併用しても構わない。
【0088】
凝集解離剤としてはコール酸、ケノデオキシコール酸などのステロイド化合物、長鎖アルキルカルボン酸または長鎖アルキルホスホン酸が好ましく、用いる色素に対して適宜選ばれる。これら凝集解離剤の添加量は、色素1質量部に対して0.01〜500質量部が好ましく、0.1〜100質量部がより好ましい。
【0089】
これらを用い、光増感化合物、あるいは光増感化合物と凝集解離剤を吸着する際の温度としては、−50℃以上、200℃以下が好ましい。
【0090】
また、この吸着は静置しても攪拌しながら行なっても構わない。
【0091】
攪拌する場合の方法としては、スターラー、ボールミル、ペイントコンディショナー、サンドミル、アトライター、ディスパーザー、あるいは超音波分散等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
吸着に要する時間は、5秒以上、1000時間以下が好ましく、10秒以上、500時間以下がより好ましく、1分以上、150時間が更に好ましい。
【0093】
また、吸着は暗所で行なうことが好ましい。
【0094】
<電解質層14>
本発明において電解質層14を構成する電解質含有体としては、固体電解質または高粘性電解液を用いることができる。固体電解質としては、電解質含有体を適当なゲル化剤を用いてゲル化した擬固体であってもよいし、ホール輸送材料からなる固体であってもよい。また、高粘性電解液とは、5mPa・s以上の粘度を持つ電解液を指す。高粘性電解液の例としてはヨウ素イオンを含み、イオン液体を溶媒とする電解液が挙げられるが、粘度が5mPa・s以上であり、酸化還元対を含む電解液であれば特に限定されるものではない。
【0095】
電解質含有体が液体である場合は、ヨウ素/ヨウ化物イオン、フェリシアン化物/フェロシアン化物、キノン/ヒドロキノンなどの酸化還元対と、ヨウ化リチウム、ターシャリーブチルピリジンなどの添加剤が、溶媒に溶解されてなるものが用いられる。溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどの有機溶媒や、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩などのイオン液体を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒の2種以上を混合して用いることもできる。
【0096】
上記液体電解質含有体に対してゲル化剤を添加し、擬固体として用いることもできる。ゲル化剤としては架橋性ポリマー、層状ケイ酸塩鉱物などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
ホール輸送材料としては、公知のホール輸送性化合物が用いられ、その具体例としては特公昭34−5466号公報等に示されているオキサジアゾール化合物、特公昭45−555号公報等に示されているトリフェニルメタン化合物、特公昭52−4188号公報等に示されているピラゾリン化合物、特公昭55−42380号公報等に示されているヒドラゾン化合物、特開昭56−123544号公報等に示されているオキサジアゾール化合物、特開昭54−58445号公報に示されているテトラアリールベンジジン化合物、特開昭58−65440号公報あるいは特開昭60−98437号公報に示されているスチルベン化合物等を挙げることができ、単独でも2種以上の混合物でも構わない。
【0098】
ホール輸送材料を用いた場合の電解質層の作製方法には特に制限はないが、製造コスト等を考慮した場合、特に湿式製膜法が好ましく、多孔体半導体層上に塗布する方法が好ましい。
【0099】
この湿式製膜法を用いた場合、塗布方法は特に制限はなく、公知の方法に従って行なうことができる。例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、また、湿式印刷方法として、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等様々な方法を用いることができる。また、超臨界流体あるいは亜臨界流体中で製膜してもよい。
【0100】
<対極12>
対極12は、電解質層14の電解質含有体が液体の場合は、透明な電子集電電極が配置された基材18もしくは金属板等、導電性材料の表面に触媒層が形成されてなる。触媒層に用いる材料は、導電性を示す材料であれば特に制限されない。そして、電気化学的に安定であることが好ましい。例えば、白金、カーボン、金、導電性ポリマーなどが挙げられる。基材18は、電極11の基材15と同様の材料を使用することができる。
【0101】
触媒層の形成方法は公知の方法を用いることができ、例えば、スパッタ法、蒸着法、スプレー法、スピンコート法、化学気相成長法(CVD法)などが挙げられる。
【0102】
また、電解質層14の電解質含有体が固体の場合は、電解質含有体上に対極12を直接設けることができる。このとき、対極12として用いる材料は、導電性を示す材料であれば特に制約されないが、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属、グラファイト、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ等の炭素系化合物、ITO、FTO等の導電性金属酸化物、ポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性高分子が挙げられる。
【0103】
固体の電解質含有体上に対極を設ける方法は、塗布、ラミネート、蒸着、CVD、貼り合わせ等の方法から適宜選択することができる。
【実施例】
【0104】
本発明の優れた効果を以下の例で説明する。なお、本説明は発明の効果を具体的に説明するためのものであって、発明内容を限定するものではない。なお、以下、実施例1〜15とあるのは本発明に含まれない参考例1〜15とする。
【0105】
半導体ナノ結晶粒子として酸化チタン凝集体(日本アエロジル株式会社製P25、平均一次粒子径21nm)をエタノールに投入することにより、酸化チタン10重量部とエタノール90重量部からなる溶液を調整した。これをマグネチックスターラーによって16時間攪拌することにより、予め酸化チタン凝集体をよく濡らしておいた。
【0106】
このようにして調整した溶液に対し、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製Sonifier SLPe40)を用い、周波数40kHzの超音波を30分間照射することによって、キャビテーションに由来する衝撃力を与え、酸化チタン凝集体を分散させた半導体ナノ粒子分散液を得た。
【0107】
<加熱消滅性粒子の凝集体もしくは加熱消滅性繊維>
一方、加熱消滅性粒子A(ポリスチレンアクリル樹脂)の粉末を水に投入することにより、加熱消滅性粒子A20重量部と水80重量部からなる溶液を調整した。これをマグネチックスターラーによって1時間攪拌後、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製Sonifier SLPe40)を用い、周波数40kHzの超音波を30分間照射することによって、キャビテーションに由来する衝撃力を与え、加熱消滅性粒子Aの水分散液を得た。これを遠心分離機(日立工機株式会社製himac CT6E)で処理後、上澄みを捨て、同量のエタノールを投入するという操作を3回繰り返し、水とエタノールを置換した。加熱消滅性粒子Aは水に対して親和性がよく、エタノールに対して親和性が悪いため、本操作によって加熱消滅性粒子Aの凝集体を含むエタノール溶液が得られた。
【0108】
このようにして得られた凝集体(造孔剤)の粒度分布をレーザー回折式粒度分布計((株)堀場製作所製LA−950)によって測定し、体積基準メジアン径(Dv50)を算出した。
【0109】
<塗工液>
作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、加熱消滅性粒子A凝集体を含む液を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Aが50重量部となるよう投入した。さらに、バインター樹脂としてエチルセルロース(関東化学(株)製、トルエン:エタノール=80:20溶媒中5%溶液の25℃における粘度=45cP)、溶媒としてα−テルピネオール(関東化学社製)を添加し、マグネチックスターラーで1時間攪拌した後、ロータリーエバポレーターでエタノールを除去し、スクリーン印刷用に好適な粘度を有する塗工液を得た。
【0110】
塗工液は、エタノール除去後において酸化チタンが15重量部となるよう、それぞれの添加量を調整した。
【0111】
<多孔質半導体電極層13>
この塗工液を、FTO(F−doped Tin Oxide)が表面に製膜されたガラス基板にスクリーン印刷によって塗布した後、空気中500℃で30分間焼成し、多孔質半導体電極を形成した。
【0112】
このとき得られた半導体電極の断面を観察するため、断面露出装置(JEOL製クロスセクションポリッシャー)によって露出された電極断面を電子走査型顕微鏡(SEM)で観察した。
【0113】
また、得られた画像を二値化処理ソフトウェア(Media Cybernetics社製Image Pro Plus)を用い、酸化チタンの断面膜に対する空隙の占める割合を計算し、空隙率(%)を算出した。並行して、得られた多孔質半導体層を電極基板から剥がし、これを窒素吸着法によるBET比表面積測定装置(島津製作所製TristarIII3020)を用いてBET比表面積(m/g)を測定した。
【0114】
<光増感化合物の多孔質半導体電極層13への配置>
得られた多孔質半導体電極層13を、ルテニウム錯体として0.5mMに調整したN719色素(シス−ビス(イソチオシアナート)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)−ビス−テトラ−n−ブチルアンモニウム、Solaronix社製)(前記光増感化合物)のアセトニトリル/t−ブタノール(体積比1:1)混合溶液中に室温で2日間、暗所にて静置し、半導体電極表面に光増感化合物を吸着させた。
【0115】
光増感化合物を担持した半導体電極上に、自社合成品の化合物(1)を溶解したクロロベンゼン(固形分10%)溶液に1−エチル−3−メチルイミダゾリニウムジシアナミド(シグマアルドリッチ社製、27mM)、4−t−ブチルピリジン(アクロス社製、55mM)を加えて得た溶液を、光増感剤を担持した半導体電極上に滴下して自然乾燥した。
【0116】
【化1】
【0117】
更に、自社合成品の化合物(2)を溶解したクロロベンゼン(固形分2%)に、1−エチル−3−メチルイミダゾリニウムジシアナミド(シグマアルドリッチ社製、5mM)を加えて得た溶液をスピンコートして製膜し、固体電解質含有体を形成した。この上に金を100nm真空蒸着して対極を形成し、太陽電池を作製した。
【0118】
【化2】
【0119】
作製した太陽電池のIV測定を行い、変換効率を算出した。IV測定は疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm)において行った。
【0120】
(実施例2)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子B(ポリウレタン樹脂粒子)を用い、塗工液中における加熱消滅性粒子Bの濃度を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Bを30重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0121】
(実施例3)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子C(ポリスチレンアクリル樹脂粒子)を用いた以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0122】
(実施例4)
加熱消滅性粒子として、カーボンナノチューブを用いた。カーボンナノチューブ(シグマアルドリッチ社製 SMW100 直径10nm)をエタノールに投入することにより、カーボンナノチューブ20重量部とエタノール80重量部からなる溶液を調整した。これをマグネチックスターラーによって1時間攪拌後、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製Sonifier SLPe40)を用い、周波数40kHzの超音波を4時間照射することによって、カーボンナノチューブのエタノール分散液を得た。
【0123】
実施例1と同様に作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、上記のカーボンナノチューブ分散液を、酸化チタン100重量部に対しカーボンナノチューブが50重量部となるよう投入した。
【0124】
その後は実施例1と同様に太陽電池を作製し、評価した。
【0125】
(実施例5)
半導体ナノ結晶粒子に酸化亜鉛(TECNAN社製TECNAPOW、平均一次粒子径30nm)を用いた以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0126】
(実施例6)
実施例1と同様に作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Aを80重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0127】
(実施例7)
実施例1と同様に作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Aを70重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0128】
(実施例8)
実施例1と同様に作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Aを60重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0129】
(実施例9)
実施例1と同様に作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Aを20重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0130】
(実施例10)
実施例1と同様に作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Aを10重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0131】
(実施例11)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子A2(ポリスチレンアクリル樹脂)を用いた。過熱消滅性粒子A2の濃度を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子A2を10重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0132】
(実施例12)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子A2(ポリスチレンアクリル樹脂)を用いた。過熱消滅性粒子A2の濃度を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子A2を15重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0133】
(実施例13)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子A2(ポリスチレンアクリル樹脂)を用いた。過熱消滅性粒子A2の濃度を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子A2を30重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0134】
(実施例14)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子A2(ポリスチレンアクリル樹脂)を用いた。過熱消滅性粒子A2の濃度を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子A2を60重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0135】
(実施例15)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子A2(ポリスチレンアクリル樹脂)を用いた。過熱消滅性粒子A2の濃度を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子A2を65重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0136】
(実施例16)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子G(ポリメチルメタクリレート樹脂)を用いた。加熱消滅性粒子Gの濃度を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Gを30重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。本ポリメチルメタクリレートG微粒子のゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製 HLC−8220)によって求めた重量平均分子量(Mw)は31,500であり、また示差走査熱量分析計(セイコーインスツメンツ株式会社製 DSC6200)によって求めたガラス転移温度(Tg)は85℃であった。
【0137】
(比較例1)
加熱消滅性粒子を用いなかった以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0138】
(比較例2)
半導ナノ結晶粒子に酸化亜鉛(TECNAN社製TECNAPOW、平均一次粒子径30nm)を用い、加熱消滅性粒子を用いなかった以外は実施例1と同様にして太陽電子を作製、評価した。
【0139】
(比較例3)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子D(ポリスチレンアクリル樹脂粒子)を用いた。加熱消滅性粒子Dは粉末状のまま、作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Dを50重量部投入した。それ以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0140】
(比較例4)
半導ナノ結晶粒子に酸化亜鉛(TECNAN社製TECNAPOW、平均一次粒子径30nm)を用い、加熱消滅性粒子として加熱消滅性粒子Dを用いた。加熱消滅性粒子Dは粉末状のまま、作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Dを50重量部投入した。それ以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0141】
(比較例5)
加熱性消滅粒子として、加熱性消滅粒子E(ポリスチレンアクリル樹脂)を用いた。加熱消滅性粒子Eは粉末状のまま、作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Eを30重量部投入した。それ以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0142】
(比較例6)
加熱性消滅粒子として、加熱性消滅粒子Eを用いた。以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。加熱消滅性粒子Eは粉末状のまま、作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Eを60重量部投入した。それ以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0143】
(比較例7)
加熱性消滅粒子として、加熱性消滅粒子F(ポリウレタン)を用いた。加熱消滅性粒子Fは粉末状のまま、作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Fを30重量部投入した。それ以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0144】
(比較例8)
加熱性消滅粒子として、加熱性消滅粒子Fを用いた。加熱消滅性粒子Fは粉末状のまま、作製された半導体ナノ粒子分散液に対し、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Fを60重量部投入した。それ以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。
【0145】
(比較例9)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子H(ポリメチルメタクリレート樹脂)を用いた。加熱消滅性粒子Hの濃度を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Hを30重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。本ポリメチルメタクリレートH微粒子のゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製 HLC−8220)によって求めた重量平均分子量(Mw)は27,000、示差走査熱量分析計(セイコーインスツメンツ株式会社製 DSC6200)によって求めたガラス転移温度(Tg)は75℃であった。
【0146】
(比較例10)
加熱消滅性粒子として、加熱消滅性粒子I(ポリメチルメタクリレート樹脂)を用いた。加熱消滅性粒子Iの濃度を、酸化チタン100重量部に対し加熱消滅性粒子Iを30重量部とした以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製、評価した。本ポリメチルメタクリレートI微粒子の前記ゲル浸透クロマトグラフィーによって求めた重量平均分子量(Mw)は48,400、また前記示差走査熱量分析計によって求めたガラス転移温度(Tg)は99℃であった。
【0147】
図2に、実施例1によって得られた半導体電極の断面SEM(走査電子顕微鏡)像を示す。本画像より、不定形状の空隙13Aと、不定形状の空隙13Aと繋がった筋状の空隙13Bの存在を確認した。
【0148】
また、表1に、実施例1〜16および比較例1〜10の結果を示す。
【0149】
【表1】
【0150】
実施例1〜16は変換効率が1.5%以上の高効率な太陽電池を得ることができた。比較例と比べると、効率は倍以上上がった。不定形状な空隙と不定形状な空隙と繋がった筋状の空隙を有することで、電解液の浸透性が向上し、性能が向上したと考えられる。
【0151】
不定形状の空隙と、不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙を有する空隙を与える加熱消滅性粒子を用いれば、材料種を限らずとも変換効率を上げることが可能であることが実施例1〜4により確認できた。実施例5では酸化亜鉛を用いたことで、不定形状の空隙と、不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙が形成され、高効率な太陽電池を得られたが、酸化チタンに比べ低い傾向にあった。
【0152】
実施例6〜11は比表面積の水準を振ったデータである。不定形状の空隙と、不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙を有しているため変換効率は高いが比表面積が30m/g以下では電池性能が低下する。これは、色素吸着量が減少して電子の授受が減少したためと思われる。また、比表面積が60m/g以上になると、空隙が減少することで電解液の充填が不十分であり、変換効率が低下したと考えられる。
【0153】
実施例12〜15は空隙率の振れたデータである。空隙率が10〜50%の範囲では高い変換効率を得られているが、空隙率が10%以下では電解液の充填が不十分であり、変換効率が低下したと考えられる。空隙率が50%以上では、比表面積が減少するため色素吸着量が減り、変換効率が低下する。また、多孔質半導体層の膜強度も低下し、電池の劣化原因となり得る。
【0154】
比較例3〜8は、不定形状の空隙は形成されたもの、不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙が形成されなかった。粉末状で投下した加熱消滅性粒子は多孔質半導体層中に不定形状の空隙を形成することができるが、不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙を与えられなかった。加熱消滅性粒子の添加量を変更しても材料種を変更しても、多孔質半導体層中に不定形状の空隙と繋がった筋状の空隙は与えられない。加熱消滅性粒子を分散液として作製し用いたことにより、本発明は達成される。
【0155】
実施例1〜16によって得られた太陽電池のうち、加熱消滅性粒子としてポリメチルメタクリレートを用いた実施例16がとりわけ高い変換効率を示している。ポリメチルメタクリレートであれば一義的に高い変換効率を与えるわけではなく、重量平均分子量及びガラス転移温度を適切な範囲内に置くことによって高い変換効率を得られることが、実施例16と比較例9、10との比較からわかる。すなわち、比較例9ではガラス転移温度が低すぎるため、加熱消滅性粒子が過度に軟化している。一方、比較例10ではガラス転移温度が高すぎるため、消滅によって得られる細孔の連結性が不十分である。これら比較例9、10においては不定形状の空隙もしくは筋状の空隙の一方もしくは両方の形成が確認できなかったことから、高粘度電解液を半導体多孔質電極の内部まで注入、浸透させる上でより望ましい構造となっていないことがわかる。
【0156】
以上より、本発明によって高い変換効率を与えることができる光電変換素子を得ることができた。
【符号の説明】
【0157】
10:光電変換素子
11:電極
12:対極
13:多孔質半導体電極層
13A:不定形状の空隙
13B:筋状の空隙
14:電解質層
15:基材
18:基材
20:触媒層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0158】
【特許文献1】特開2003−332602号公報
【特許文献2】特許第4887664号
【非特許文献】
【0159】
【非特許文献1】Nature, 353 (1991) 737
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 115 (1993)6382
図1
図2