特許第6794731号(P6794731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794731
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】同軸ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/18 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
   H01B11/18 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-176941(P2016-176941)
(22)【出願日】2016年9月9日
(65)【公開番号】特開2018-41699(P2018-41699A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正浩
(72)【発明者】
【氏名】沼田 修一
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−106888(JP,A)
【文献】 実開昭57−103621(JP,U)
【文献】 特開平04−028118(JP,A)
【文献】 特開平09−204831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体と、
前記内部導体の外周上に配置された絶縁体と、
前記絶縁体の外周上に配置された外部導体と、
を有し、
前記絶縁体は、
発泡した樹脂で構成された発泡絶縁層と、
前記発泡絶縁層の外周上に配置され、架橋されたポリオレフィン系樹脂で構成された補強テープをラップ巻することで形成された補強テープ層と、
前記補強テープ層の外周上に配置され、耐熱テープを巻くことで形成され、前記補強テープ層の緩みを抑える締付テープ層と、
を有する同軸ケーブル。
【請求項2】
前記補強テープ層は、ゲル分率が70%以上90%以下の範囲内の架橋度を有する架橋ポリエチレンで構成された前記補強テープをラップ巻することで形成され、0.4mm以上0.8mm以下の範囲内の厚さを有する請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記補強テープ層は、1/2ラップ巻で形成されている請求項1または2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
前記補強テープ層は、前記補強テープをラップ巻することで形成されたテープ層が複数層積層された構造を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
前記外部導体はスロットを有し、漏洩同軸ケーブルである請求項1〜のいずれか1項に記載の同軸ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
同軸ケーブルの誘電体損失低減や軽量化等のために、近年、同軸ケーブルの絶縁体を発泡樹脂で形成する技術が提案されている。
【0003】
地下鉄や道路トンネル等に、漏洩同軸ケーブル(LCX)が敷設されている。地下鉄や道路トンネル等に敷設される漏洩同軸ケーブルにおいては、火災時でも通信性能が確保されることが望ましい。このため、特に漏洩同軸ケーブルは、高い耐熱性能を有することが望ましい(漏洩同軸ケーブルの耐熱試験について、例えば特許文献1参照)。しかしながら、発泡樹脂で形成された絶縁体は、高温に弱いという側面がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−82204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、絶縁体に発泡樹脂を用いた同軸ケーブルの耐熱性能向上を図ることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、
内部導体と、
前記内部導体の外周上に配置された絶縁体と、
前記絶縁体の外周上に配置された外部導体と、
を有し、
前記絶縁体は、
発泡した樹脂で構成された発泡絶縁層と、
前記発泡絶縁層の外周上に配置され、架橋されたポリオレフィン系樹脂で構成された補強テープをラップ巻することで形成された補強テープ層と、
を有する同軸ケーブル
が提供される。
【発明の効果】
【0007】
発泡絶縁層の外周上に補強テープ層を配置することで、絶縁体に発泡絶縁層を有する同軸ケーブルの耐熱性能向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1(a)および図1(b)は、それぞれ、本発明の一実施形態による同軸ケーブルの全体的な概略側面図および概略断面図である。
図2図2(a)および図2(b)は、それぞれ、実施形態による同軸ケーブルの内部導体、発泡絶縁層、および補強テープ層の部分を示す概略側面図および概略断面図である。
図3図3(a)および図3(b)は、それぞれ、実施形態による同軸ケーブルの、発泡絶縁層の形成工程を示す概略図、および、補強テープの作製工程を示す概略図である。
図4図4は、発泡絶縁層の形成工程後、実施形態による同軸ケーブルを完成させる工程までを示す概略図である。
図5図5(a)は、耐熱試験方法を示す概略図であり、図5(b)は、耐熱試験における温度上昇曲線を示すグラフである。
図6図6(a)および図6(b)は、それぞれ、実施形態による同軸ケーブルの、耐熱試験開始前の状態を示す概略断面図、および、耐熱試験開始後(耐熱試験終了後)の状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、図1(a)、図1(b)、図2(a)、および図2(b)を参照して、本発明の一実施形態による同軸ケーブル100の構造について説明する。
【0010】
図1(a)は、同軸ケーブル100の全体的な概略側面図であり、端部を段剥きにした状態を示す。図1(b)は、同軸ケーブル100の全体的な概略断面図である。
【0011】
図2(a)は、同軸ケーブル100の内部導体10、発泡絶縁層20、および補強テープ層30の部分を示す概略側面図であり、端部を段剥きにした状態を示す。図2(b)は、同軸ケーブル100の内部導体10、発泡絶縁層20、および補強テープ層30の部分を示す概略断面図である。
【0012】
同軸ケーブル100は、内部導体10、発泡絶縁層20、補強テープ層30、締付テープ層(耐熱テープ層)40、外部導体50、押え巻テープ層60、シース70、およびメッセンジャワイヤ80を含んで構成されている。
【0013】
内部導体10としては、例えばパイプ状の導体、例えば銅ストレートパイプやスパイラル形状パイプが用いられる。
【0014】
内部導体10の外周上に、発泡絶縁層20が配置されている。発泡絶縁層20は、発泡した樹脂で構成されている。発泡絶縁層20を構成する樹脂として、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂が用いられ、より好ましくは、ポリエチレンが用いられる。発泡絶縁層20の厚さは、例えば、12mm以上14mm以下の範囲内の厚さである。
【0015】
発泡絶縁層20は、発泡絶縁層20による誘電体損失を抑制するために、発泡していることが好ましく、また、架橋されていないことが好ましい。
【0016】
発泡絶縁層20の外周上に、補強テープ層30が配置されている。発泡絶縁層20と補強テープ層30との積層構造により、同軸ケーブル100の絶縁体90が構成されている。つまり、内部導体10の外周上に、絶縁体90が配置されている。
【0017】
補強テープ層30は、樹脂で構成された補強テープ31を発泡絶縁層20の外周上にラップ巻することで形成されている。補強テープ31を構成する樹脂として、好ましくは、架橋されたポリオレフィン系樹脂が用いられ、より好ましくは、ゲル分率が70%以上90%以下の範囲内の架橋度を有する架橋ポリエチレンが用いられる。補強テープ層30の全体の厚さT1は、0.4mm以上0.8mm以下の範囲内の厚さであることが好ましく、補強テープ31の厚さT2は、0.1mm以上0.2mm以下の範囲内の厚さであることが好ましい。
【0018】
補強テープ31を構成する樹脂は、強度を高めるために、発泡していないことが好ましく、高温が加わった際に溶融しにくく外形形状を維持しやすいように、架橋されていることが好ましい。
【0019】
補強テープ31は、例えば、補強テープ31のベースとなる樹脂(例えばポリエチレン)をテープ状に押出成形した後、テープ状の押出成形物を架橋させることで形成できる。架橋方法としては、特に制限されず、後に例示するシラン架橋の他、照射架橋や化学架橋を用いてもよい。
【0020】
発泡絶縁層20は、発泡樹脂で構成され架橋されておらず、融点が例えば115℃程度と低いため、高温(例えば後述の試験で加えられる420℃)が加わった際に、溶融し、収縮して外形形状を維持できなくなる。これに伴い、(補強テープ層30が設けられていなければ、)発泡絶縁層20の溶融した樹脂やその分解ガスが外側に漏洩して引火が生じ、また、発泡絶縁層20を挟んで配置された内部導体10と外部導体50との導通が生じてしまう。
【0021】
補強テープ層30は、高温が加わった際に溶融せず外形形状を維持することで、発泡絶縁層20の溶融した樹脂やその分解ガスが外側に漏洩して引火することを抑制する閉込層となるとともに、補強テープ層30を挟んで配置された内部導体10と外部導体50との導通を抑制する介在層となるように、設けられている。補強テープ層30を設けることで、同軸ケーブル100が、後述のような耐熱試験に合格することができる。
【0022】
補強テープ31を構成する樹脂の架橋度は、補強テープ層30の強度を高めるために、ゲル分率として、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましい。また、補強テープ31を構成する樹脂の架橋度は、補強テープ層30による誘電体損失を抑制するために、そして、補強テープ31の表面の平滑性を向上させるために、ゲル分率として、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。なお、補強テープ31を構成する樹脂のゲル分率を、補強テープ31のゲル分率と呼ぶこともあり、補強テープ層30のゲル分率と呼ぶこともある。
【0023】
補強テープ層30の厚さT1は、補強テープ層30の強度を高めるために、0.4mm以上であることが好ましい。また、補強テープ層30の厚さT1は、架橋された樹脂で構成された補強テープ層30による誘電体損失を抑制するために、また、絶縁体90の発泡度が過度に低下することを抑制するために、0.8mm以下であることが好ましい。
【0024】
補強テープ31の厚さT2は、補強テープ31の強度を高めるために、0.1mm以上であることが好ましい。また、補強テープ31の厚さT2は、補強テープ31がラップ巻された補強テープ層30の厚さが過度に厚くなることを抑制するために、0.2mm以下であることが好ましい。
【0025】
補強テープ層30は、発泡絶縁層20の外周上に補強テープ31をラップ巻することで、つまり、テープ幅の一部が重なるように螺旋状に補強テープ31を巻くことで、形成されていることが好ましい。補強テープ31がラップ巻されることで、補強テープ層30が隙間なく、高い強度で形成されて、上述の閉込層や介在層としての良好な性能が得られる。
【0026】
補強テープ層30の厚さを均一に近づけるために、補強テープ層30は、例えば、テープ幅の1/2が重なるように補強テープ31を巻く1/2ラップ巻で形成されていることが好ましい。なお、巻回作業には誤差が伴うので、1/2ラップ巻において、テープ幅の重なりは厳密に1/2でなくともよく、例えばテープ幅の±0.5%以内のずれは許容される。図2(a)では、図示を容易にするため、補強テープ31のテープ幅を、実線と実線との間の幅、または破線と破線との間の幅で示している。
【0027】
補強テープ層30は、閉込層や介在層としての性能を高めるために、補強テープ31をラップ巻することで形成されたテープ層が複数層積層された構造を有することが、より好ましい。図2(b)は、補強テープ31aおよび31bのそれぞれを1/2ラップ巻することで形成されたテープ層30aおよび30bの積層で、補強テープ層30が構成された例を示す。積層において、下側のテープ層30aの上面のラップ目(重なり合う補強テープ31a同士の境界線)32aと、上側のテープ層30bの下面のラップ目(重なり合う補強テープ31b同士の境界線)32bとが、重ならない(一致しない、交差しない)ことが好ましい。補強テープ層30の閉込性能を向上させるためである。
【0028】
発泡絶縁層20と補強テープ層30とを併せた絶縁体90の平均的な発泡度は、絶縁体90による誘電体損失を抑制するために、例えば、60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。また、絶縁体90の平均的な発泡度は、絶縁体90の(特に発泡絶縁層20の部分の)強度が過度に低下することを抑制するために、例えば、80%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。
【0029】
ここで、「発泡度」は、
発泡度(%)=100 −(発泡後の比重/発泡前の比重)×100
という式により求められる。
なお、発泡後の比重、発泡前の比重は、例えば、東洋精機製自動比重計D−H−100を用い、JIS Z8807に従って測定するとよい。
また、「平均的な発泡度」は、発泡絶縁層20の発泡度Aと補強テープ層30の発泡度Bを、発泡絶縁層20の厚さaと補強テープ層30の厚さbで平均することにより、つまり、
平均的な発泡度(%)=(aA+bB)/(a+b)
という式により求められる。
【0030】
発泡絶縁層20の発泡度は、例えば65%以上85%以下の範囲内の発泡度、例えば75%程度とすることが好ましく、補強テープ層30の発泡度は、0%である。補強テープ層30を過度に厚くしないこと、好ましくは0.8mm以下の厚さとすることで、絶縁体90の平均的な発泡度を高めることができる。
【0031】
発泡絶縁層20を構成する樹脂、および、補強テープ層30を構成する樹脂の両方とも、例えば燃焼時の有毒ガス発生を抑制するために、フッ素、塩素等のハロゲン元素を含まないノンハロゲンのものとすることが好ましい。
【0032】
発泡絶縁層20を構成する樹脂、および、補強テープ層30を構成する樹脂には、それぞれ必要に応じ、例えば酸化防止剤等の添加剤が添加されていてもよい。
【0033】
補強テープ層30の外周上に、耐熱テープをラップ巻することで形成された締付テープ層(耐熱テープ層)40が配置されている。締付テープ層40に用いられる耐熱テープとしては、例えばポリイミドテープ(例えばカプトン(登録商標)テープ)が挙げられる。締付テープ層40の厚さは、例えば、0.01mm以上0.05mm以下の範囲内の厚さである。
【0034】
締付テープ層40の耐熱テープは、高温(例えば420℃)でも軟化せず、延焼しないものが好ましい。また、接着層があると、このような高温では接着層が溶融、分解、延焼するため、接着層を有しないものが好ましい。
【0035】
締付テープ層40が、高温により発生した発泡絶縁層20の分解ガスによって内側から膨張しようとする補強テープ層30を抑え込む(締め付ける)ことで、つまり、補強テープ層30の緩みを抑えることで、補強テープ層30の閉込層や介在層としての性能をより高めることができる。補強テープ層30を抑え込むために、締付テープ層40の耐熱テープは、例えば1/4ラップから1/2ラップの重なり幅でラップ巻されていることが好ましく、また、5N以上10N以下程度のテンションで巻回されていることが好ましい。
【0036】
締付テープ層40の厚さは、補強テープ層30を抑え込む強度が得られるように、0.01mm以上であることが好ましい。また、締付テープ層40の厚さは、締付テープ層40による誘電体損失を抑制するために、0.05mm以下であることが好ましい。
【0037】
締付テープ層40の外周上に、外部導体50が配置されている。つまり、(締付テープ層40を介して)絶縁体90の外周上に、外部導体50が配置されている。外部導体50は、スロット51を有しており、例示の同軸ケーブル100は、漏洩同軸ケーブルとして構成されている。外部導体50は、例えば、スロット付き銅テープやスロット付アルミテープ等の導体テープを巻くことで形成される。なお、プリーツ形状を付けたテープを用いてもよい。
【0038】
外部導体50の外周上に、押え巻テープを巻くことで形成された押え巻テープ層60が配置されている。押え巻テープ層60に用いられる押え巻テープとしては、例えばポリエチレンテレフタレートテープが挙げられる。
【0039】
押え巻テープ層60の外周上に、シース70が配置されている。シース70は、例えば難燃ポリエチレンで構成されている。シース70に、メッセンジャワイヤ80が取り付けられている。
【0040】
次に、図3(a)、図3(b)、および図4を参照して、同軸ケーブル100の製造方法について例示的に説明する。図3(a)は、発泡絶縁層20の形成工程までを示す概略図である。図3(b)は、補強テープ層30を構成する補強テープ31の作製工程を示す概略図である。図4は、発泡絶縁層20の形成工程後、同軸ケーブル100を完成させる工程までを示す概略図である。
【0041】
図3(a)を参照する。内部導体(心線)10の送出機、伸線機、心線加熱機をまとめて、心線準備装置200と呼ぶこととする。心線準備装置200から内部導体10を送り出す。
【0042】
発泡剤(ガス)注入ポンプ211を有する発泡押出機210に、発泡絶縁層20のベースとなる樹脂(例えばポリエチレン)と、発泡核剤(例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)や4,4´−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH))とを供給し、発泡押出機210により、内部導体10の外周上に、発泡絶縁層20を形成する。内部導体10上に発泡絶縁層20までが形成された状態の同軸ケーブル100Aを、巻取ドラム220に巻き取る。
【0043】
図3(b)を参照する。まず、補強テープ31のベースとなる樹脂(例えばポリエチレン)と、シラン化合物(例えばビニルメトキシシラン)と、遊離ラジカル発生剤(例えばジクミルパーオキサイド)と、酸化防止剤とを押出機に投入し、例えば押出温度200℃でグラフト反応を生じさせることで、シラングラフト化された樹脂(例えばシラングラフトポリエチレン)を準備する。シラングラフト化された樹脂と、シラノール縮合触媒(例えば有機スズ化合物触媒)を含む触媒マスターバッチとを、単軸押出機300に投入し、例えば高さ0.1mm、幅20mmのスリット形状の口金を有する押出ヘッドTダイ301から、テープ状の押出成形物を押出し、水槽310を介して、巻取ドラム320に巻き取る。その後、巻取ドラム320を、恒温槽330内に配置し、例えば、80℃の水蒸気雰囲気中に12時間から15時間程度置くことで、テープ状の押出成形物を架橋して、補強テープ31を作製する。
【0044】
図4を参照する。発泡絶縁層20までが形成された状態の同軸ケーブル100Aを巻き取った巻取ドラム220から、同軸ケーブル100Aを送り出す。
【0045】
第1の補強テープ巻機230aにより、発泡絶縁層20の外周上に、補強テープ31aを巻いて、補強テープ層30の第1層目のテープ層30aを形成する。さらに、第2の補強テープ巻機230bにより、第1層目のテープ層30aの外周上に、補強テープ31bを巻いて、補強テープ層30の第2層目のテープ層30bを形成する。このようにして、補強テープ層30が形成される。
【0046】
耐熱テープ巻機240により、補強テープ層30の外周上に、耐熱テープを巻いて、締付テープ層40を形成する。外部導体縦添え機250により、締付テープ層40の外周上に、導体テープを巻いて、外部導体50を形成する。押え巻テープ巻機260により、外部導体50の外周上に、押え巻テープを巻いて、押え巻テープ層60を形成する。
【0047】
シース押出機270に、ベース樹脂および難燃剤を含む材料を供給し、シース押出機270により、押え巻テープ層60の外周上に、シース70を形成する。この際、シース押出機270の手前でメッセンジャワイヤ送出機280から送り出されたメッセンジャワイヤ80を、平行に配して、メッセンジャワイヤ80を同時に被覆することで、同軸ケーブル100を完成させる。同軸ケーブル100を、巻取ドラム290に巻き取る。このようにして、同軸ケーブル100が作製される。
【0048】
次に、図5(a)および図5(b)を参照して、実施形態による同軸ケーブル(漏洩同軸ケーブル)100に対する耐熱試験について説明する。この耐熱試験は、消防法施行規則(昭和三十六年自治省令第六号)第十二条第一項第五号ロただし書の規定に基づく「耐熱電線の基準」(平成九年十二月十八日 消防庁告示第十一号)に準拠したものである。図5(a)は、耐熱試験方法を示す概略図であり、図5(b)は、耐熱試験における温度上昇曲線を示すグラフである。
【0049】
この耐熱試験では、図5(a)に示すように、同軸ケーブル100の長さ1.3mの試験片をケーブル固定板400に固定し、試験片中央部に荷重410を加えるとともに、試験片の両端に設けられたコネクタ110を介して内部導体10と外部導体50との間に電源420から600V、50Hzの交流を印加した状態で、炎430により試験片を加熱する。
【0050】
荷重410は、試験片とした同軸ケーブル100の自重の2倍である。また、加熱は、図5(b)に示すように、JIS 1304に規定される耐火試験の加熱曲線、すなわち、30分で室温から840℃まで加熱する曲線の、1/2の曲線、すなわち、30分で室温から420℃まで加熱する曲線にしたがって行う。
【0051】
次に、図6(a)および図6(b)を参照して、補強テープ層30の機能について、耐熱試験の状況を例として説明する。図6(a)は、耐熱試験開始前の、すなわち高温が加わる前の同軸ケーブル100を示す概略断面図であり、図6(b)は、耐熱試験開始後、または耐熱試験終了後の、すなわち高温が加わった後の同軸ケーブル100を示す概略断面図である。
【0052】
図6(a)に示すように、耐熱試験開始前には、発泡絶縁層20、補強テープ層30、および締付テープ層(耐熱テープ層)40が、内部導体10と外部導体50との間に介在することで、内部導体10と外部導体50とが相互に接触せず電気的に絶縁されている。
【0053】
図6(b)に示すように、耐熱試験中に加えられた高温により、発泡絶縁層20は、溶融し、収縮して外形形状を維持できなくなり、下方に流れ落ちる。一方、補強テープ層30は、溶融せずに外形形状を維持する。外部導体50の外側に配置された押え巻テープ層60およびシース70は焼失する。
【0054】
発泡絶縁層20の溶融した樹脂は、補強テープ層30の内面上に溜まり、発泡絶縁層20の溶融した樹脂やその分解ガスは、補強テープ層30の内部に閉じ込められる。このように、補強テープ層30が閉込層として機能することで、発泡絶縁層20の溶融した樹脂やその分解ガスが外側に漏洩して引火することが抑制される。
【0055】
発泡絶縁層20が溶融し外形形状が失われることで、発泡絶縁層20の外側の部材が、荷重410により下方に押し下げられる。ただし、補強テープ層30が外形形状を維持していることで、補強テープ層30(および締付テープ層40)が内部導体10と外部導体50との間に介在する構造は保たれる。このように、補強テープ層30が介在層として機能することで、内部導体10と外部導体50とが相互に接触せず電気的に絶縁された状態を、維持することができる。
【0056】
補強テープ層30を、上述のような閉込層および介在層として機能させることで、同軸ケーブル100を、耐熱試験に合格させること、つまり、同軸ケーブル(漏洩同軸ケーブル)100が、耐熱試験後も所定以上の通信性能を保つようにすることができる。
【0057】
以上説明したように、発泡絶縁層20の外周上に補強テープ層30を配置することで、補強テープ層30を配置しない場合と比べて、絶縁体90に発泡絶縁層20を有する同軸ケーブル100の耐熱性能向上を図ることができる。
【0058】
補強テープ層30は、架橋されたポリオレフィン系樹脂で構成された補強テープ31をラップ巻することで形成されている。補強テープ31が架橋されていることで、補強テープ層30は、高温が加わった際に溶融しにくく外形形状を維持することができる。
【0059】
また、補強テープ31がラップ巻されていることで、補強テープ層30が隙間なく、高い強度で形成される。これにより、補強テープ層30は、発泡絶縁層20の溶融した樹脂やその分解ガスが外側に漏洩して引火することを抑制する閉込層として機能するとともに、補強テープ層30を挟んで配置された内部導体10と外部導体50との導通を抑制する介在層として機能する。
【0060】
なお、上述の実施形態では、外部導体50にスロット51を有する漏洩同軸ケーブル100について例示したが、補強テープ層30による上述のような耐熱性能向上効果は、外部導体50にスロット51を有さない同軸ケーブルに対しても同様に得ることができる。ただし、溶融した発泡絶縁層20の材料が、スロット51を介し外部導体50の外側に漏れて発火しやすいという観点からは、補強テープ層30を設けることは、漏洩同軸ケーブル100においてより好ましいということができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例による同軸ケーブルに対して行った耐熱試験結果について説明する。
【0062】
実施例では、発泡絶縁層20のベース樹脂としてポリエチレンを用いた。ベース樹脂(ポリエチレン)100質量部に対し、発泡核剤としてADCAとOBSHをそれぞれ0.005質量部、0.01質量部配合した材料により、発泡絶縁層20を形成した。
【0063】
また、実施例では、補強テープ31のベース樹脂としてポリエチレンを用いた。実施例による補強テープ31に用いたシラングラフトポリエチレンを得るための各材料の配合割合(ベース樹脂100質量部に対する配合割合)を、表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
シラングラフトポリエチレン95質量部に対し、シラノール縮合触媒を含む触媒マスターバッチを5質量部配合した材料により、補強テープ31を形成した。触媒マスターバッチのベース樹脂としては、ポリエチレンを用いた。ベース樹脂(ポリエチレン)100質量部に対し、シラノール縮合触媒として有機スズ化合物触媒を1質量部配合し、酸化防止剤としてヒンダートフェノール系酸化防止剤を3質量部配合して、触媒マスターバッチを調製した。
【0066】
補強テープ層30は、(内部導体10上に発泡絶縁層20までが形成された状態の)同軸ケーブル100A上に、補強テープ31を1/2ラップ巻したテープ層を2層積層することで形成した。
【0067】
表1に示すように、実施例1〜実施例4として、補強テープ層30の厚さ(つまり補強テープ31の厚さ)と、補強テープ層30のゲル分率(つまり補強テープ31のゲル分率)とを変化させた同軸ケーブルのサンプルを作製した。なお、補強テープ層30のゲル分率は、遊離ラジカル発生剤の配合割合により制御している。
【0068】
補強テープ層30の厚さは、実施例1,2が400μmであり、実施例3,4が8000μmである(つまり、補強テープ31の厚さは、実施例1,2が100μmであり、実施例3,4が200μmである)。
【0069】
実施例1〜実施例4のすべてにおいて、補強テープ層30の(補強テープ31の)ゲル分率は70%以上90%以下の範囲内の値となっており、ゲル分率が90%以下であることで、補強テープ31の表面状態は平滑となっている。また、実施例1〜実施例4のすべてにおいて、発泡絶縁層20と補強テープ層30とを合わせた絶縁体90の平均的な発泡度は、60%以上の値となっている。
【0070】
同軸ケーブルの初期の通信性能を確認するために、450MHzの試験信号に対する減衰量を測定した。初期の減衰量は、実施例1〜実施例4のすべてで、55dB/km以下という基準を満たしている。
【0071】
実施例1〜実施例4の同軸ケーブルに対して、耐熱試験を行った。耐熱試験後の内部導体と外部導体との間の絶縁抵抗を評価した。耐熱試験後の絶縁抵抗は、実施例1〜実施例4のすべてで、0.4MΩ/1.3m以上という基準を満たしている。また、同軸ケーブルの耐熱試験後の通信性能を確認するために、VSWR試験を行った。耐熱試験後のVSWRは、実施例1〜実施例4のすべてで、5以下という基準を満たしている。
【0072】
このように、実施例1〜実施例4の同軸ケーブルにおいて、補強テープ層30を設けることで、高温が加わった際に絶縁抵抗や通信性能を保つことができることがわかった。
【0073】
補強テープ層30の厚さは、所望の特性が得られるように適宜調整することができるが、例えば400μm(0.4mm)以上800μm(0.8mm)以下の範囲内の厚さとすることが好ましい。補強テープ層30のゲル分率は、所望の特性が得られるように適宜調整することができるが、例えば、70%以上90%以下の範囲内のゲル分率とすることが好ましく、75%以上85%以下の範囲内のゲル分率とすることがより好ましい。なお、本願発明者は、補強テープ層30の厚さが薄すぎたり、ゲル分率が小さすぎたり(架橋度が低すぎたり)すると、高温が加わった際に絶縁抵抗や通信性能が保たれなくなるという知見を得ている。また、本願発明者は、補強テープ層30の厚さが厚すぎたり、ゲル分率が大きすぎたり(架橋度が高すぎたり)すると、減衰量が大きくなりすぎ、(初期の)通信性能が低くなってしまうという知見も得ている。
【0074】
以上、実施形態に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0075】
以下、本発明の好ましい形態について付記する。
【0076】
(付記1)
内部導体と、
前記内部導体の外周上に配置された絶縁体と、
前記絶縁体の外周上に配置された外部導体と、
を有し、
前記絶縁体は、
発泡した樹脂で構成された発泡絶縁層と、
前記発泡絶縁層の外周上に配置され、架橋されたポリオレフィン系樹脂で構成された補強テープをラップ巻することで形成された補強テープ層と、
を有する同軸ケーブル。
【0077】
(付記2)
前記補強テープ層は、ゲル分率が好ましくは70%以上90%以下より好ましくは75%以上85%以下の範囲内の架橋度を有する架橋ポリエチレンで構成された前記補強テープをラップ巻することで形成され、0.4mm以上0.8mm以下の範囲内の厚さを有する付記1に記載の同軸ケーブル。
【0078】
(付記3)
前記補強テープは、0.1mm以上0.2mm以下の範囲内の厚さを有する付記1または2に記載の同軸ケーブル。
【0079】
(付記4)
前記補強テープ層は、1/2ラップ巻で形成されている付記1〜3のいずれか1つに記載の同軸ケーブル。
【0080】
(付記5)
前記補強テープ層は、前記補強テープをラップ巻することで形成されたテープ層が複数層積層された構造を有する付記1〜4のいずれか1つに記載の同軸ケーブル。
【0081】
(付記6)
前記補強テープ層の外周上に配置され、耐熱テープを巻くことで形成され、前記補強テープ層の緩みを抑える締付テープ層をさらに有する付記1〜5のいずれか1つに記載の同軸ケーブル。
【0082】
(付記7)
前記発泡絶縁層は、好ましくは架橋されていないポリオレフィン系樹脂、より好ましくは架橋されていないポリエチレンで構成されている付記1〜6のいずれか1つに記載の同軸ケーブル。
【0083】
(付記8)
前記絶縁体の平均的な発泡度は、好ましくは60%以上より好ましくは65%以上である付記1〜7のいずれか1つに記載の同軸ケーブル。
【0084】
(付記9)
前記外部導体はスロットを有し、漏洩同軸ケーブルである付記1〜8のいずれか1つに記載の同軸ケーブル。
【符号の説明】
【0085】
10 内部導体
20 発泡絶縁層
30 補強テープ層
40 締付テープ層(耐熱テープ層)
50 外部導体
51 スロット
60 押え巻テープ層
70 シース
80 メッセンジャワイヤ
90 絶縁体
100 同軸ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6