特許第6794866号(P6794866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794866
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】化学強化ガラスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
   C03C21/00 101
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-26227(P2017-26227)
(22)【出願日】2017年2月15日
(65)【公開番号】特開2018-131358(P2018-131358A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾関 正雄
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 周作
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 出
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2018−531870(JP,A)
【文献】 特表2011−527661(JP,A)
【文献】 特表2015−511573(JP,A)
【文献】 特表2013−518800(JP,A)
【文献】 特開2014−133683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換することでガラス表層に圧縮応力層を形成させた化学強化ガラスであって、
ガラス表面に近い応力パターンAとガラス内側の応力パターンBとの少なくとも2種類の応力パターンを圧縮応力層の中に有し、該応力パターンAはガラス表面から内側にいくに従い圧縮応力が大きくなり、該応力パターンBはガラス表面から内側にいくに従い圧縮応力が小さくなり、
該応力パターンBの圧縮応力層深さがガラス表面より90μm以上であり、
該応力パターンAのガラス表面の圧縮応力α[MPa]と、該応力パターンAおよび該応力パターンBが交差する点における圧縮応力β[MPa]とは、β>αの関係を満たし、
前記応力パターンBよりガラス内側に更に応力パターンCを圧縮応力層の中に有し、該応力パターンCは一次直線で近似する場合において圧縮応力の傾きi[MPa/μm]が−8≦傾きi<0である、化学強化ガラス。
【請求項2】
前記圧縮応力α[MPa]を前記圧縮応力β[MPa]で除した値が0.9より小さい請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項3】
前記応力パターンAおよび前記応力パターンBの2種類の応力パターンを圧縮応力層の中に有し、前記応力パターンAの圧縮応力層深さが10μmより大きい請求項1または2に記載の化学強化ガラス。
【請求項4】
前記化学強化ガラスの表面からの深さが15[μm]の位置での圧縮応力の値が250[MPa]以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項5】
前記化学強化ガラスの厚みが0.7mm以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
ガラス中のアルカリ金属イオンaを前記アルカリ金属イオンaよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンbに置換するイオン交換処理によりガラス表層に圧縮応力層を形成させる化学強化ガラスの製造方法であって、
前記イオン交換は、アルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbを含み、アルカリ金属イオンaのモル量およびアルカリ金属イオンbのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンbのモル量の比率が、X1[%]である第1の塩にガラスを接触させる第1の工程と、
第1の工程の後、前記比率がX1[%]より小さい比率X2[%]である第2の塩にガラスを接触させる第2の工程を含み、
前記比率X1[%]を前記比率X2[%]で除した値が1.05より大きい、化学強化ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記比率X1が85〜100[%]である請求項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記比率X2が50〜95[%]である請求項またはに記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項9】
ガラス中のアルカリ金属イオンaを前記アルカリ金属イオンaよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンbに置換するイオン交換処理によりガラス表層に圧縮応力層を形成させる化学強化ガラスの製造方法であって、
前記イオン交換は、アルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbを含み、アルカリ金属イオンaのモル量およびアルカリ金属イオンbのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンbのモル量の比率がX1’[%]である第1の塩にガラスを接触させる第1の工程、
前記比率がX2’[%]である第2の塩にガラスを接触させる第2の工程、
前記比率がX3’[%]である第3の塩にガラスを接触させる第3の工程を順次含み、
X3’<X2’かつX1’<X2’の関係を満たす化学強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記比率X1’が50〜95[%]である請求項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記比率X2’が95〜100[%]である請求項または10に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項12】
前記比率X3’が50〜95[%]である請求項11のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項13】
前記X1’[%]、X2’[%]およびX3’[%]が、X2’をX1’またはX3’で除した値がいずれも1.1以上の関係を満たす請求項12のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器において、表示装置の前面にカバーガラスを配置することが一般的である。また、近年は、表示装置とは反対側の表面にもカバーガラスを配置することで高級感を出すことが行われている。
【0003】
カバーガラスに用いられるガラスとしては、化学強化用ガラスが使用される。化学強化
ガラスの製造方法としては、ソーダライム系ガラス、アルミノシリケート系ガラスまたはリチウム系ガラスなどを用い、小さなイオン半径の原子を大きなイオン半径の原子に置換する方法である。
【0004】
前記方法としては高温に熱した化学強化処理槽中にガラスを浸漬する方法が一般的に利用される。例えば、硝酸カリウム溶液中にガラスを浸漬し、ガラス中のナトリウムイオンを硝酸カリウム中のカリウムイオンと置換することにより、ガラスの表層に圧縮応力層を形成する。
【0005】
表面圧縮応力(以下CSとも略す)とは、ガラスの表層に形成されている圧縮応力(Compressive−Stress)であり、イオン交換によってより大きな体積を持つイオンがガラスの表層に入ることにより生じる。このCSがガラスの破壊をもたらすガラス内部の引っ張り応力(Central−Tension、以下CTとも略す)に抵抗することにより、化学強化ガラスは化学強化されていないガラスと比較して高い強度を有する。
【0006】
圧縮応力層深さ(Depth−of−Layer、以下DOLとも略す)とは、ガラスの表面(最表面)を基準として圧縮応力が形成されている領域の深さであり、圧縮応力層深さの値を大きくすることにより、ガラスの表面に生ずるマイクロクラックを起点とした割れを抑えることが可能であり、ガラスの耐傷性を向上し、ガラスを割れ難くすることができる。
【0007】
化学強化ガラスにおいて、ガラスの厚みをd[μm]とすると、CT[MPa]、CS[MPa]およびDOL[μm]の関係は、次の関係式で表される。
CT=(CS*DOL)/(d−2*DOL)
【0008】
DOLの値を大きくする方法としては、特許文献1では、ガラス表面より深い圧縮応力層ではCSを小さくしてDOLの値を大きくし、ガラス表面のCSを大きくすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0239775号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
化学強化ガラスのDOLの値をより大きい値とし、DOLを表面より深く入れることによりガラスが割れ難くなること、また、CTを大きくしすぎると、ガラスが割れた時に破砕数が多くなり、人体に悪影響を及ぼす可能性があるため、ある値以上のCTを入れないように設定することが実用上必要となること、CTのlimitが存在することによりDOLの値をより大きい値とするには限界があること、が知られている。なお、本明細書においては、このCTを「CT−limit」とする。CT−limitはガラスの種類とガラスの厚みによって変動する。
【0011】
特許文献1に記載の方法では、ガラス表面より深い圧縮応力層ではCSを小さくしてDOLの値を大きくし、ガラス表面のCSを大きくすることが開示されている。しかしながら、ガラス表面より深い位置におけるCSの値が小さいため、ガラスの割れに対しての効果が小さくなる。
【0012】
したがって、本発明は、従来と比較して、DOLの値が大きく、且つ表面より深い位置でのCSの値が大きい化学強化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、化学強化に用いる塩におけるアルカリ金属イオンの比率を特定範囲として2段階以上のイオン交換を行うことにより、ガラス表面におけるCSを下げてDOLの値を大きくすることができ、従来と比較して、ガラス表面より深い位置でのCSの値が大きい化学強化ガラスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は下記<1>〜<15>に関するものである。
<1>イオン交換することでガラス表層に圧縮応力層を形成させた化学強化ガラスであって、ガラス表面に近い応力パターンAとガラス内側の応力パターンBとの少なくとも2種類の応力パターンを圧縮応力層の中に有し、
該応力パターンAはガラス表面から内側にいくに従い圧縮応力が大きくなり、該応力パターンBはガラス表面から内側にいくに従い圧縮応力が小さくなり、該応力パターンBの圧縮応力層深さがガラス表面より90μm以上であり、該応力パターンAのガラス表面の圧縮応力α[MPa]と、該応力パターンAおよび該応力パターンBが交差する点における圧縮応力β[MPa]とは、β>αの関係を満たす化学強化ガラス。
<2>前記圧縮応力α[MPa]を前記圧縮応力β[MPa]で除した値が0.9より小さい<1>に記載の化学強化ガラス。
<3>前記応力パターンAおよび前記応力パターンBの2種類の応力パターンを圧縮応力層の中に有し、前記応力パターンAの圧縮応力層深さが10μmより大きい<1>または<2>に記載の化学強化ガラス。
<4>前記応力パターンBよりガラス内側に更に応力パターンCを圧縮応力層の中に有し、該応力パターンCは一次直線で近似する場合において圧縮応力の傾きi[MPa/μm]が−8≦傾きi<0である<1>または<2>に記載の化学強化ガラス。
<5>前記化学強化ガラスのガラス表面からの深さが15[μm]の位置での圧縮応力の値が250[MPa]以上である<1>〜<4>のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
<6>前記化学強化ガラスの厚みが0.7mm以下である<1>〜<5>のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
<7>ガラス中のアルカリ金属イオンaを前記アルカリ金属イオンaよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンbに置換するイオン交換処理によりガラス表層に圧縮応力層を形成させる化学強化ガラスの製造方法であって、
前記イオン交換は、アルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbを含み、アルカリ金属イオンaのモル量およびアルカリ金属イオンbのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンbのモル量の比率がX1[%]である第1の塩にガラスを接触させる第1の工程と、
第1の工程の後、前記比率がX1[%]より小さい比率X2[%]である第2の塩にガラスを接触させる第2の工程を含む化学強化ガラスの製造方法。
<8>前記比率X1が85〜100[%]である<7>に記載の化学強化ガラスの製造方法。
<9>前記比率X2が50〜95[%]である<7>または<8>に記載の化学強化ガラスの製造方法。
<10>前記比率X1[%]を前記比率X2[%]で除した値が1.05より大きい<7>〜<9>のいずれか1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
<11>ガラス中のアルカリ金属イオンaを前記アルカリ金属イオンaよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンbに置換するイオン交換処理によりガラス表層に圧縮応力層を形成させる化学強化ガラスの製造方法であって、
前記イオン交換は、アルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbを含み、アルカリ金属イオンaのモル量およびアルカリ金属イオンbのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンbのモル量の比率がX1’[%]である第1の塩にガラスを接触させる第1の工程、
前記比率がX2’[%]である第2の塩にガラスを接触させる第2の工程、
前記比率がX3’[%]である第3の塩にガラスを接触させる第3の工程を順次含み、
X3’<X2’かつ X1’<X2’の関係を満たす化学強化ガラスの製造方法。
<12>前記比率X1’が50〜95[%]である<11>に記載の化学強化ガラスの製造方法。
<13>前記比率X2’が95〜100[%]である<11>または<12>に記載の化学強化ガラスの製造方法。
<14>前記比率X3’が50〜95[%]である<11>〜<13>のいずれか1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
<15>前記X1’[%]、X2’[%]およびX3’[%]が、X2’をX1’またはX3’で除した値がいずれも1.1以上の関係を満たす<11>〜<14>のいずれか1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の化学強化ガラスは、従来と比較して、ガラス表面におけるCSを下げることにより圧縮応力層深さの値を大きくすることができ、且つガラス表面より深い位置でのCSの値が大きいことから、耐傷性に優れた割れ難い化学強化ガラスである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の化学強化ガラス(実施例1)の応力プロファイルを示す図である。
図2図2は、本発明の化学強化ガラス(実施例1)の応力プロファイル、および1段階の化学強化処理により得られる従来品(従来例1)の応力プロファイルを示す図である。
図3図3は、本発明の化学強化ガラス(実施例2)の応力プロファイルを示す図である。
図4図4は、本発明の化学強化ガラス(実施例2)の応力プロファイル、および2段階の化学強化により得られる比較例1(米国特許公開第2015/0239775号明細書のFIG.10aより抽出)の応力プロファイルを示す図である。
図5図5は、本発明の化学強化ガラス(実施例3)の応力プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる、また、本明細書において数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0018】
<化学強化ガラス>
本発明の化学強化ガラスは、イオン交換することでガラス表層に圧縮応力層を形成させた化学強化ガラスであって、ガラス表面に近い応力パターンAとガラス内側の応力パターンBとの少なくとも2種類の応力パターンを圧縮応力層の中に有し、該応力パターンAはガラス表面から内側にいくに従い圧縮応力が大きくなり、該応力パターンBはガラス表面から内側にいくに従い圧縮応力が小さくなり、該応力パターンBの圧縮応力層深さが表面より90μm以上であり、該応力パターンAのガラス表面の圧縮応力α[MPa]と、該応力パターンAおよび該応力パターンBの交差する点における圧縮応力β[MPa]とは、β>αの関係を満たす。
【0019】
図1は本発明の化学強化ガラス(実施例1)の応力プロファイルを示す図である。図2は、本発明の化学強化ガラス(実施例1)の応力プロファイル、および1段階の化学強化処理により得られる従来品(従来例1)の応力プロファイルを示す図である。また、図3は、本発明の化学強化ガラス(実施例2)の応力プロファイルを示す図である。図4は、本発明の化学強化ガラス(実施例2)の応力プロファイル、および2段階の化学強化により得られる比較例1(米国特許公開第2015/0239775号明細書のFIG.10aより抽出)の応力プロファイルを示す図である。
【0020】
図1〜4に示すように、本発明の化学強化ガラスは、上記の関係を満たす応力パターンAおよび応力パターンBの少なくとも2種類の応力パターンを圧縮応力層の中に有する。ここで、上述したように、化学強化ガラスにおいて、ガラスの厚みをd[μm]とすると、ガラス内部に発生する引っ張り応力CT(Central−Tension)、CS[MPa]およびDOL[μm]の関係は、次の関係式で表される。
CT=(CS*DOL)/(d−2*DOL)
【0021】
本発明の化学強化ガラスは、前記応力パターンAのガラス表面の圧縮応力α[MPa]と、前記応力パターンAおよび該応力パターンBが交差する点における圧縮応力β[MPa]とが、β>αの関係を満たし、ガラス表面におけるCSを下げることにより、DOLの値をより大きくすることが可能となる。
【0022】
また、図1〜4に示すように、本発明の化学強化ガラスは、前記した少なくとも2種類の応力パターンを圧縮応力層の中に有することにより、1段階または2段階の化学強化処理により得られる従来品と比較して、ガラス表面からの深さが40μm付近の圧縮応力が高く、40μm程度の大きさを有する突起物に対する耐傷性に優れている。
【0023】
本発明の化学強化ガラスにおいては、前記応力パターンAのガラス表面の圧縮応力α[MPa]を、前記応力パターンAおよび前記応力パターンBが交差する点における圧縮応力β[MPa]で除した値(α/β)が0.9より小さいことが好ましく、より好ましくは0.8以下であり、さらに好ましくは0.75以下である。前記値が0.9より小さいことにより表面圧縮応力層をより深くまで入れることができる。前記値の下限は、特に限定されないが、ガラス表面の圧縮応力の大きさが曲げによる割れに効果があることから、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.2以上である。
【0024】
前記圧縮応力αを前記圧縮応力βで除した値を0.9より小さくするためには、具体的には例えば、後述する製造方法(1)または(2)において、濃度を変えた溶融塩を用いて2段階以上の化学強化処理を実施する方法が好ましく、または熱による拡散を利用する方法等があるが、制御性の観点からは濃度を変えた溶融塩を用いて多段階で化学強化処理を実施するのが望ましい。
【0025】
本発明の化学強化ガラスにおいては、前記応力パターンAと前記応力パターンBの2種類の応力パターンを圧縮応力層の中に有する場合、前記応力パターンAの圧縮応力層深さがガラス表面より5μmより大きいことが好ましく、より好ましくは10μm以上である。前記深さが10μmより大きいことによりガラス表面より深く入ったクラックに対して進行を防ぐ効果がある。前記深さの上限は特に限定されないが、深さが大きくなるとβの値を小さくすることが必要となりクラックの進行を止め難くなるため、60μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下である。
【0026】
前記応力パターンAの圧縮応力層深さをガラス表面より10μmより大きくするためには、具体的には例えば、後述する製造方法(1)において、化学強化処理の2段階目の処理の温度を上げるまたは時間を長くすることで対応できる。
【0027】
本発明の化学強化ガラスにおいては、前記応力パターンAおよび前記応力パターンBに加えて、前記応力パターンBよりガラス内側に更に、一次直線で近似する場合において傾きi[MPa/μm]が−8以上0未満である応力パターンCを圧縮応力層の中に有してもよい。図5に、応力パターンA〜Cを有する本発明の化学強化ガラス(実施例3)の応力パターンを示す。
【0028】
前記応力パターンCは一次直線で近似する場合において圧縮応力の傾きi[MPa/μm]が−8以上であることが好ましく、より好ましくは−5以上である。傾きi[MPa/μm]が−8以上であることにより、より深く圧縮応力層深さを入れることが可能となり、よりガラスが割れにくくすることが可能となる。
【0029】
また、前記傾きi[MPa/μm]は0未満であることが好ましく、より好ましくは−2以下である。前記傾きi[MPa/μm]が0未満であることにより、圧縮応力層を形成することができる。
【0030】
前記傾きi[MPa/μm]を−8以上0未満とするためには、具体的には例えば、後述する製造方法(2)において、イオン交換する溶融塩の濃度を低くする、温度を高くする、時間を長くすることが好ましい。
【0031】
本発明の化学強化ガラスにおいては、前記応力パターンCを圧縮応力層の中に有する場合、前記応力パターンAの圧縮応力層深さは、ガラス表面より深く入ったクラックに対して進行を防ぐ効果がある観点から、ガラス表面より5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上である。また、深さが大きくなるとβの値を小さくすることが必要となりクラックの進行を止め難くなるため、60μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下である。
【0032】
本発明の化学強化ガラスにおいては、前記応力パターンCを圧縮応力層の中に有する場合、前記応力パターンCは圧縮応力層深さがガラス表面より90μm以上であることが好ましく、より好ましく100μm以上、更に好ましくは110μm以上である。また、深すぎると圧縮応力の大きさが小さくなるので、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは180μm以下である。
【0033】
本発明の化学強化ガラスにおいては、ガラス表面からの深さが15[μm]の位置でのCSの値が150[MPa]以上であることが好ましく、より好ましくは200[MPa]以上であり、さらに好ましくは250[MPa]以上である。また、前記CSの値の上限は特に限定されないが、600[MPa]以下であることが好ましく、より好ましくは400[MPa]以下である。
【0034】
ガラス表面からの深さが15[μm]の位置でのCSの値を250[MPa]以上とするためには、具体的には例えば、第2段階の化学強化処理において、イオン交換する溶融塩の濃度を高くすることが好ましい。
【0035】
CSおよびDOLの値は表面応力計により測定することができる。
【0036】
本発明の化学強化ガラスの厚みは、カバーガラスとして軽量であること薄くあることの観点から、1.1mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.9mm以下であり、さらに好ましくは0.7mm以下である。また、前記厚みの下限は特に限定されないが、通常0.2mm以上であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以上である。
【0037】
本発明の化学強化ガラスは、ガラス表面で、ガラス中のアルカリ金属イオンaを、前記アルカリ金属イオンaよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンbに置換するイオン交換処理により製造される。
【0038】
例えば、アルカリ金属イオンaがナトリウムイオン(Naイオン)である場合には、アルカリ金属イオンbとして、カリウムイオン(Kイオン)、ルビジウムイオン(Rbイオン)およびセシウムイオン(Csイオン)の少なくとも1つを用いることができる。アルカリ金属イオンaがナトリウムイオンである場合、アルカリ金属イオンbとして、カリウムイオンを用いることが好ましい。
【0039】
イオン交換処理には、少なくとも金属イオンbを含む硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物塩およびリン酸塩のうち1種または2種以上を用いることができる。アルカリ金属イオンaがナトリウムイオンである場合、少なくともカリウムイオンを含む硝酸塩を用いることが好ましい。
【0040】
イオン交換前のガラスは、イオン交換可能であるアルカリ金属イオンを有していれば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、リチウムガラス、ホウケイ酸塩ガラスなど、特に限定されないが、アルミノシリケートガラスであることが好ましく、実質的に酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを50〜80%、Alを1〜30%、Bを0〜6%、Pを0〜6%、LiOを0〜20%、NaOを0〜20%、KOを0〜10%、MgOを0〜20%、CaOを0〜20%、SrOを0〜20%、BaOを0〜15%、ZnOを0〜10%、TiOを0〜5%、ZrOを0〜8%であることがより好ましい。
【0041】
SiOは、ガラスを構成する主要成分である。また、ガラス表面に傷(圧痕)がついたときのクラックの発生を低減させ、あるいは化学強化後に圧痕をつけたときの破壊率を小さくする成分である。また、SiOはガラスの耐酸性を高め、またエッチング処理時のスラッジ量を減らす(耐フッ酸性)成分でもある。
【0042】
一方、SiOの含有量が多すぎると粘性が高くなり過ぎて溶解性や成形性といった生産性が低くなる傾向がある。そのためSiOの含有量は、より好ましくは、以下、段階的に、54%以上、58%以上、60以上、63%以上、66%以上、68%以上である。一方、SiOの含有量が80%超であるとガラスの粘性が増大し溶融性が著しく低下する。SiOの含有量は80%以下であり、より好ましくは78%以下、さらに好ましくは76%以下、特に好ましくは74%以下、最も好ましくは72%以下である。
【0043】
Alは多いほど化学強化処理時のCSを高くすることができる一方で、圧縮応力層深さが低下する。そのためAlの含有量は、より好ましくは、以下、段階的に、3%以上、5%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上である。一方、Alの含有量が30%超であるとガラスの耐酸性、失透性が低下する。また、溶融性も著しく低下する。Alの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは18%以下、最も好ましくは15%以下である。
【0044】
は、チッピング耐性を向上させ、またガラスの溶融性を向上させる成分である。Bは含有させなくてもよいが、Bを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Bの含有が6%を超えると溶融時の揮散により脈理が発生し欠点の原因となるおそれがある。Bの含有量は6%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下であり、特に好ましくは3%以下である。
【0045】
は、はイオン交換性能およびチッピング耐性を向上させる成分である。Pは含有させなくてもよいが、Pを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Pの含有量が6%超では、ガラスの破砕性が著しく低下する、また耐酸性が著しく低下する。Pの含有量は6%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下、特に好ましくは3%以下である。
【0046】
LiOは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分である。
ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換する化学強化処理を行う場合、LiOの含有量は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは6%以上、典型的には7%以上である。一方、LiOの含有量が20%超ではガラスの耐酸性が著しく低下する。20%以下であることが好ましく、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは15%以下、最も好ましくは13%以下である。
【0047】
一方、ガラス表面のNaイオンをKイオンに交換する化学強化処理を行う場合、LiOの含有量が3%以上であると、圧縮応力の大きさが低下する。この場合、含有量は、3%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下であり、最も好ましくはLiOを実質的に含有しない。
【0048】
なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不可避の不純物を除いて含有しない、すなわち、意図的に含有させたものではないことを意味する。具体的には、ガラス組成中の含有量が、0.1モル%未満であることを指す。
【0049】
NaOはイオン交換により表面圧縮応力層を形成させ、またガラスの溶融性を向上させる成分である。ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換する化学強化処理を行う場合、NaOは含有しなくてもよいが、ガラスの溶融性を重視する場合は含有してもよい。NaOを含有させる場合の含有量は1%以上であると好ましい。NaOの含有量は、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%、以上である。一方、NaOの含有量が8%超ではイオン交換により形成される表面圧縮応力が著しく低下する。NaOの含有量は、好ましくは8%以下であり、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは6%以下、特に好ましくは5%以下、最も好ましくは4%以下である。
【0050】
一方、ガラス表面のNaイオンをKイオンに交換する化学強化処理を行う場合必須であり、含有量は5%以上である。NaOの含有量は、好ましくは5%以上であり、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは9%以上、特に好ましくは11%以上、最も好ましくは12%以上である。一方、NaOの含有量が20%超ではガラスの耐酸性が著しく低下する。NaOの含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは15%以下、最も好ましくは14%以下である。
【0051】
硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合溶融塩に浸漬し、ガラス中のLiとNa、NaとKを同時に交換させる場合は、NaOの含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは7%以下、最も好ましくは6%以下、とりわけ好ましくは5%以下であり、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは4%以上である。
【0052】
Oはイオン交換速度を増大し圧縮応力層を深くし、ガラスの溶解温度を下げる効果があり、非架橋酸素を増大させる成分である。また、化学強化処理時に用いる硝酸カリウム溶融塩中のNaNO濃度による表面圧縮応力の変化の増大を回避することができる。さらには、少量のKOは、フロート法による成形時にボトム面からの錫の侵入量を抑制する効果があるため、フロート法により成形する際には含有することが好ましい。前記効果を奏するために、本発明のガラスにおけるKOの含有量は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは3%以上である。一方で、KOが多すぎるとCSが低下することから、KO含有量はより好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは6%以下であり、特に好ましくは4%以下であり、最も好ましくは2%以下である。
【0053】
MgOはガラスを安定化させ、溶解性を向上させ、かつこれを添加することでアルカリ金属の含有量を低下させて熱膨張率(CTE)の上昇を抑制することのできる成分である。上記効果を奏するために、本発明のガラスにおけるMgOの含有量は好ましくは2%以上であり、より好ましくは、以下、段階的に、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上である。一方、MgOの含有量が20%超であると失透しやすくなり欠点の原因となる恐れがある。MgOの含有量は20%以下であることが好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、18%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10以下である。
【0054】
CaOおよびSrOは、ガラスの破砕性を改善する成分であり、また溶融性を向上させる成分であり、これらの成分を含有させてもよい。含有させる場合のそれぞれの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、それぞれ含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下する。CaOおよびSrOの含有量はそれぞれ20%以下であることが好ましく、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下であり、特に好ましくは14%以下であり、最も好ましくは12%以下である。CaOの含有量は、とりわけ好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、3%以下、1%以下である。
【0055】
BaOは、ガラスの破砕性を改善する成分であり、また溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、BaO含有量が15%超となるとイオン交換性能が著しく低下する。BaOの含有量は15%以下であることが好ましく、より好ましくは13%以下、さらに好ましくは11%以下であり、特に好ましくは9%以下であり、最も好ましくは7%以下である。
【0056】
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、ZnO含有量が10%超となるとガラスの耐候性が著しく低下する。ZnOの含有量は10%以下であることが好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、7%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下である。
【0057】
TiOは、ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。TiOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.2以上である。一方、TiOの含有量が5%超であると失透しやすくなり欠点の原因となる恐れがある。TiOの含有量は5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、2%以下、さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下であり、最も好ましくは0.25%以下である。
【0058】
ZrOは、ガラスの破砕性を改善する成分であり、またイオン交換による表面圧縮応力を増大させる成分であり、含有させてもよい。ZrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、ZrOの含有量が8%超であると失透しやすくなり欠点の原因となる恐れがある。ZrOの含有量は8%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下であり、特に好ましくは2%以下であり、最も好ましくは1.5%以下である。
【0059】
、La、Nbは、ガラスの破砕性を改善する成分であり、これらの成分を含有させてもよい。これらの成分を含有させる場合のそれぞれの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは2.5%以上である。一方、Y、La、Nbの含有量はそれぞれ8%超であると失透しやすくなり欠点の原因となる恐れがある。Y、La、Nbの含有量はそれぞれ、8%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは4%以下であり、最も好ましくは3%以下である。
【0060】
なお、ガラスの組成は蛍光X線法により測定することができる。
【0061】
また、その他の成分としては、例えば、CeO、Fe、V(バナジウム)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Cu(銅)およびMo(モリブデン)等が挙げられる。
【0062】
イオン交換前のガラスの組成としては特に限定されないが、例えば、以下のガラス組成が挙げられる。
(1)酸化物基準のモル百分率表示で、SiO:60〜70%、Al:5〜15%、NaO:10〜16%、KO:0〜5%、MgO:0〜10%であるガラス
(2)酸化物基準のモル百分率表示で、SiO:65〜75%、Al:0〜5%、NaO:8〜15%、KO:0〜3%、MgO:0〜7%、CaO:5〜10%であるガラス
(3)酸化物基準のモル百分率表示で、SiO:60〜70%、Al:10〜20%、NaO:10〜20%、KO:0〜3%、MgO:0〜3%、B:1〜10%であるガラス
(4)酸化物基準のモル百分率表示で、SiO:50〜65%、Al:5〜15%、NaO:10〜20%、KO:0〜5%、MgO:0〜5%、P:0〜5%であるガラス
(5)酸化物基準のモル百分率表示で、SiO:50〜70%、Al:5〜15%、LiO:3〜10%、NaO:0〜10%、KO:0〜2%、MgO:0〜10%であるガラス
【0063】
イオン交換前のガラスは、フロート法、ロールアウト法またはダウンドロー法等、一般的なガラス成形方法により成形されるが、これらの中では、フロート法により成形されることが好ましい。本発明の化学強化ガラスは、通常、板形状をしているが、平板でも曲げ加工を施したガラス板でもよい。
【0064】
本発明の化学強化ガラスは、既存の成形法で成形可能な寸法を有しており、最終的には使用目的に適した大きさに切断される。すなわち、タブレットPCまたはスマートフォン等のディスプレイ、または自動車用ガラス、ビル若しくは住宅の窓ガラスなどの大きさとなる。本発明の化学強化ガラスは、一般的には矩形に切断されているが、円形または多角形などの他の形状でも問題なく、穴あけ加工を施したガラスも含まれる。
【0065】
<化学強化ガラスの製造方法>
下記に示すプロセス条件は、所望の強化プロファイルを得ることを目的とした例示であり、ガラスの成分が異なれば、違った条件となる。
[製造方法(1):2種類の応力パターンを圧縮応力層に有する化学強化ガラスの製造方法]
本発明の一態様に係る化学強化ガラスの製造方法は、ガラス中のアルカリ金属イオンaを前記アルカリ金属イオンaよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンbに置換するイオン交換処理によりガラス表層に圧縮応力層を形成させる化学強化ガラスの製造方法であって、前記イオン交換は、アルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbを含み、アルカリ金属イオンaのモル量およびアルカリ金属イオンbのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンbのモル量の比率が、X1[%]である第1の塩にガラスを接触させる第1の工程と、第1の工程の後、前記比率がX1[%]より小さい比率X2[%]である第2の塩にガラスを接触させる第2の工程とを含む。
【0066】
第1の工程において、前記比率がX1[%]である第1の塩をガラスに接触させてガラス表層をイオン交換(第1の化学強化処理)した後、第2の工程において、より前記比率がX1[%]より小さい比率X2[%]である第2の塩をガラスに接触させてイオン交換(第2の化学強化処理)することにより、ガラス表面におけるCSを下げて圧縮応力層をより深く入れて、ガラス表面より深い位置でのCSの値を大きくすることが可能となる。このように、2段階の処理で化学強化を行うことにより、圧縮応力層の中に2種類の応力パターンAおよびBを形成することができる。
【0067】
本明細書において、「塩にガラスを接触させる」とは、ガラスを塩浴に接触または浸漬させることをいう。このように本明細書において、「接触」とは「浸漬」も含む概念とする。
【0068】
また、塩の接触形態としては、ペースト状の塩を直接接触させるような形態、水溶液として噴射するような形態、融点以上に加熱した溶融塩に浸漬させるような形態などが可能であるが、これらの中では、溶融塩に浸漬させるのが好ましい。
【0069】
アルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbの具体例は、上述したとおりである。また塩の種類としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物塩およびリン酸塩のうちの少なくとも1種以上の混合物を用いることができる。
【0070】
比率X1および比率X2は、ともに、アルカリ金属イオンaのモル量およびアルカリ金属イオンbのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンbのモル量の比率[%]を意味する。
【0071】
比率X1は85%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは96%以上である。第1の塩の比率X1を85%以上とすることにより、CSを大きくすることができる。第1の塩は、アルカリ金属イオンa(例えば、ナトリウムイオン)を実質的に含まず、陽イオンとしてアルカリ金属イオンb(例えば、カリウムイオン)のみを含んでもよい。
【0072】
比率X2は95%以下であることが好ましく、より好ましくは85%以下であり、さらに好ましくは75%以下である。また、50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上である。第2の塩の比率X2を95%以下とすることにより、ガラス表面の圧縮応力を小さくし、より深い圧縮応力層深さを得ることが出来る。また、第2の塩の比率X2を50%以上とすることにより、ガラス表面の圧縮応力が小さくならないようにすることが必要である。
【0073】
比率X1[%]を比率X2[%]で除した値は、1.05より大きいことが好ましく、より好ましくは1.10以上である。比率X1および比率X2が前記関係を満たすことにより、深くまで圧縮応力を入れることが可能となりかつガラス表面のCSも高くすることが可能となる。
【0074】
なお、第1の塩および第2の塩の構成をアルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbに限定して説明したが、本発明の目的を損なわない限り、塩と反応を起こさない安定的な金属酸化物、不純物または他の塩類が存在してもよい。例えば、AgイオンやCuイオンが含まれていてもよい。
【0075】
第1の工程後に形成される応力パターンBの圧縮応力層深さは、ガラス表面より90μm以上である。100μm以上であることが好ましく、より好ましくは110μm以上である。また、深すぎると圧縮応力の大きさが小さくなるので、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは180μm以下である。前記圧縮応力層深さの範囲となるように、第1の工程では、第1の塩の比率X1に応じて、処理温度(第1の塩の温度)および処理時間を調整することが好ましい。
【0076】
第1の工程における処理温度(第1の塩の温度)は、400℃以上であることが好ましく、より好ましくは430℃以上である。また、500℃以下であることが好ましく、より好ましくは470℃以下であり、さらに好ましくは450℃以下である。第1の塩の温度を400℃以上とすることにより、イオン交換の速度を速め化学強化時間を短くすることが出来る。また、500℃以下とすることにより、塩の揮散を少なくすることが出来る。
【0077】
また、第2の工程では、第2の工程後に形成される応力パターンAの圧縮応力層深さが好ましくは10μmより大きくなるように、処理温度(第2の塩の温度)を調整することが好ましい。
【0078】
第2の塩の温度は380℃以上であることが好ましく、より好ましくは400℃以上である。また、500℃以下であることが好ましく、より好ましくは470℃以下であり、さらに好ましくは450℃以下である。第2の塩の温度を380℃以上とすることにより、イオン交換が可能となる。また、500℃以下とすることにより、塩の揮散を少なくすることが出来る。第2の工程で形成される圧縮応力層深さは小さいため、塩にガラスを接触させる時間が短くなるため時間変動の影響を受けやすくなる。したがって、時間変動の影響を小さくするために第1の工程より第2の工程での温度は下げるのが好ましい。
【0079】
アルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbを含み、アルカリ金属イオンaのモル量およびアルカリ金属イオンbのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンbのモル量の比率は、例えば、第1の工程において、好ましくは85〜100%の比率X1を有する第1の塩を使用し、第1の工程後にガラス表面に好ましくは表層より深さ90〜180μmの圧縮応力層を形成することが好ましい。また、第2の工程において、好ましくは50〜95%の比率X2を有する第2の塩を使用し、第2の工程後に形成される応力パターンAの圧縮応力層深さが好ましくは10μmより大きい応力パターンAをガラス表面に形成することが好ましい。
【0080】
第1の工程において第1の塩にガラスを接触させる時間および第2の工程において第2の塩にガラスを接触させる時間の合計は、好ましくは1時間以上である。また、好ましくは240時間以下、より好ましくは100時間以下である。
【0081】
具体的には、第1の工程において第1の塩にガラスを接触させる時間は48時間以下が好ましく、より好ましくは24時間以下である。また、1時間以上が好ましく、より好ましくは3時間以上である。第1の塩にガラスを接触させる時間を12時間以下とすることにより、生産効率を高めることができる。また、第1の塩にガラスを接触させる時間を1時間以上とすることにより、時間変動の影響を受けにくくすることができる。
【0082】
第2の工程において第2の塩にガラスを接触させる時間は24時間以下が好ましく、より好ましくは12時間以下、さらに好ましくは6時間以下である。また、0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1時間以上である。第2の塩にガラスを接触させる時間を6時間以下とすることにより、生産効率を高めることができる。また、第2の塩にガラスを接触させる時間を0.5時間以上とすることにより、時間変動の影響を受けにくくすることができる。
【0083】
[製造方法(2):3種類の応力パターンを圧縮応力層に有する化学強化ガラスの製造方法]
本発明の別の態様に係る化学強化ガラスの製造方法は、ガラス中のアルカリ金属イオンaを前記アルカリ金属イオンaよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンbに置換するイオン交換処理によりガラス表層に圧縮応力層を形成させる化学強化ガラスの製造方法であって、前記イオン交換は、アルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbを含み、アルカリ金属イオンaのモル量およびアルカリ金属イオンbのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンbのモル量の比率がX1’[%]である第1の塩にガラスを接触させる第1の工程、前記比率がX2’[%]である第2の塩にガラスを接触させる第2の工程、前記比率がX3’[%]である第3の塩にガラスを接触させる第3の工程を順次含み、X3’<X2’かつX1’<X2’の関係を満たす。
【0084】
第1の工程において前記比率がX1’[%]である第1の塩をガラスに接触させてイオン交換(第1の化学強化処理)した後、第2の工程において前記比率がX1’[%]より大きい比率X2’[%]である第2の塩をガラスに接触させてイオン交換(第2の化学強化処理)した後、第3の工程において前記比率がX1’[%]より小さい前記比率X3’[%]である第3の塩をガラスに接触させてイオン交換(第3の化学強化処理)することにより、ガラス表面におけるCSを下げて圧縮応力層深さをより深く入れて、ガラス表面より深い位置でのCSの値を大きくすることが可能となる。また、3段階の処理で化学強化を行うことにより、圧縮応力層の中に3種類の応力パターンA〜Cを形成することができる。
【0085】
アルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbの具体例、並びに塩の種類としては、上述したとおりである。
【0086】
比率X1’、比率X2’および比率X3’は、ともに、アルカリ金属イオンaのモル量およびアルカリ金属イオンbのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンbのモル量の比率[%]を意味する。
【0087】
比率X1’は95%以下であることが好ましく、より好ましくは90%以下であり、さらに好ましくは85%以下である。また、50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。第1の塩の比率X1’を95%以下とすることにより、圧縮応力が小さくかつより深くまで圧縮応力層深さを入れることができる。また、第1の塩の比率X1’を50%以上とすることにより、圧縮応力が大きくかつより深くまで圧縮応力層深さを入れることができる。第1の塩は、アルカリ金属イオンa(例えば、ナトリウムイオン)を実質的に含まず、陽イオンとしてアルカリ金属イオンb(例えば、カリウムイオン)のみを含んでもよい。
【0088】
比率X2’は100%以下であることが好ましい。また、95%以上であることが好ましい。第2の塩の比率X2’を100%以下、95%以上とすることにより、圧縮応力を大きくすることができる。第2の塩は、アルカリ金属イオンa(例えば、ナトリウムイオン)を実質的に含まず、陽イオンとしてアルカリ金属イオンb(例えば、カリウムイオン)のみを含んでもよい。
【0089】
比率X3’は95%以下であることが好ましく、より好ましくは90%以下であり、さらに好ましくは85%以下である。また、50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。第3の塩の比率X3’を95%以下とすることにより、圧縮応力を小さくすることができる。また、第3の塩の比率X3’を50%以上とすることにより、ガラス表面の圧縮応力を大きくすることができる。
【0090】
比率X1’[%]、X2’[%]およびX3’[%]は、X3’<X2’かつ X1’<X2’の関係を満たすことが好ましい。X1’、X2’およびX3’が前記関係を満たすことにより、より深くまで圧縮応力層深さを入れられ、ガラス表面に近いところでは圧縮応力を大きくすることができる。
【0091】
なお、第1の塩、第2の塩および第3の塩の構成をアルカリ金属イオンaおよびアルカリ金属イオンbに限定して説明したが、本発明の目的を損なわない限り、塩と反応を起こさない安定的な金属酸化物、不純物または他の塩類が存在してもよい。例えば、AgイオンやCuイオンが含まれていてもよい。
【0092】
第1の工程後に形成される圧縮応力層深さは、90μm以上である。100μm以上であることが好ましく、より好ましくは110μm以上である。また、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは180μm以下である。前記圧縮応力層深さの範囲となるように、第1の工程では、第1の塩の比率X1に応じて、処理温度(第1の塩の温度)および処理時間を調整することが好ましい。
【0093】
第1の工程における処理温度(第1の塩の温度)は、400℃以上であることが好ましく、より好ましくは430℃以上である。また、500℃以下であることが好ましく、より好ましくは470℃以下であり、さらに好ましくは450℃以下である。第1の塩の温度を400℃以上とすることにより、イオン交換の速度を速め化学強化時間を短くすることができる。また、500℃以下とすることにより、塩の揮散を少なくすることが出来る。
【0094】
第2の工程では、第2の工程後に形成される応力パターンBの圧縮応力層深さが好ましくは10μmより大きくなるように、処理温度(第2の塩の温度)を調整することが好ましい。
【0095】
第2の塩の温度は380℃以上であることが好ましく、より好ましくは400℃以上である。また、500℃以下であることが好ましく、より好ましくは470℃以下である。第2の塩の温度を380℃以上とすることにより、イオン交換できる。また、500℃以下とすることにより、塩の揮散を少なくできる。
【0096】
第3の工程では、第3の工程後に形成される応力パターンAの圧縮応力層深さが好ましくは5μmより大きくなるように、処理温度(第3の塩の温度)を調整することが好ましい。
【0097】
第3の塩の温度は380℃以上であることが好ましである。また、500℃以下であることが好ましく、より好ましくは470℃以下であり、さらに好ましくは450℃以下である。第3の塩の温度を380℃以上とすることにより、イオン交換可能である。また、500℃以下とすることにより、塩の揮散を少なくできる。
【0098】
具体的には、例えば、第1の工程において、好ましくは50〜95%の比率X1’を有する第1の塩を使用し、第1の工程後にガラス表層に好ましくは深さ90〜180μmの圧縮応力層を形成することが好ましい。また、第2の工程において、好ましくは95〜100%の比率X2’を有する第2の塩を使用し、第2の工程後に圧縮応力層深さが好ましくは10μm以上である応力パターンBをガラス表層に形成することが好ましい。さらに、第3の工程において、好ましくは50〜95%の比率X3’を有する第3の塩を使用し、第3の工程後に圧縮応力層深さが好ましくは5μmより大きい応力パターンAをガラス表層に形成することが好ましい。
【0099】
第1の工程において第1の塩にガラスを接触させる時間、第2の工程において第2の塩にガラスを接触させる時間および第3の工程において第3の塩にガラスを接触させる時間の合計は、好ましくは3時間以上、好ましくは48時間以下である。
【0100】
第1の工程において第1の塩にガラスを接触させる時間は240時間以下が好ましく、より好ましくは100時間以下、である。また、1時間以上が好ましい。第1の塩にガラスを接触させる時間を240時間以下とすることにより、生産効率を上げることができる。また、第1の塩にガラスを接触させる時間を1時間以上とすることにより、時間変動による影響を減らすことができる。
【0101】
第2の工程において第2の塩にガラスを接触させる時間は24時間以下が好ましい。また、0.5時間以上が好ましく。第2の塩にガラスを接触させる時間を24時間以下とすることにより、生産効率を上げることができる。また、第2の塩にガラスを接触させる時間を0.5時間以上とすることにより、時間変動による影響を減らすことができる。
【0102】
第3の工程において第3の塩にガラスを接触させる時間は24時間以下が好ましい。また、0.5時間以上が好ましい。第3の塩にガラスを接触させる時間を24時間以下とすることにより、生産効率を上げることができる。また、第3の塩にガラスを接触させる時間を0.5時間以上とすることにより、時間変動による影響を減らすことができる。
【実施例】
【0103】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0104】
(実施例1)
(1)化学強化ガラスの作製
イオン交換(化学強化)前のガラスとして、フロート法により製造された下記に示す組成(酸化物基準のモル%表示)のガラスを用い、160mm×80mm×0.7mmのガラス板を用意した。
ガラス組成:SiO:64%、Al:10%、NaO:16%、KO:1%、MgO:8%
【0105】
(2)化学強化工程
第1の工程として、準備したガラス板を450℃に保持された硝酸カリウム90モル%
および硝酸ナトリウム10モル%からなる混合溶融塩(第1の塩、比率X1:90%)浴
中に24時間浸漬した。
【0106】
続いて、第2の工程として、乾燥後のガラス板を430℃に保持された硝酸カリウム85%および硝酸ナトリウム15%からなる混合溶融塩(第2の塩、比率X2:85%)浴中に1時間浸漬した。その後、ガラス板を浴槽から取り出し、ガラス板の表面を洗浄・乾燥した。以上の工程により、実施例1の化学強化ガラスを作製した。
【0107】
(実施例2)
ガラス板の厚みを0.8mmとし、第1の工程で30時間浸漬した以外は実施例1と同様にして実施例2の化学強化ガラスを作製した。
【0108】
(実施例3)
イオン交換(化学強化)前のガラス板として、実施例1と同じものを用いた。第1の工程として、準備したガラス板を450℃に保持された硝酸カリウム85モル%および硝酸ナトリウム15モル%からなる混合溶融塩(第1の塩、比率X1’:85%)浴中に24時間浸漬した。その後、ガラス板を浴槽から取り出し、ガラス板の表面を洗浄・乾燥した。
【0109】
続いて、第2の工程として、乾燥後のガラス板を430℃に保持された硝酸カリウム100モル%からなる混合溶融塩(第2の塩、比率X2’:100%)浴中に1時間浸漬した。その後、ガラス板を浴槽から取り出し、ガラス板の表面を洗浄・乾燥した。
【0110】
続いて、第3の工程として、乾燥後のガラス板を380℃に保持された硝酸カリウム75モル%および硝酸ナトリウム25モル%からなる混合溶融塩(第3の塩、比率X3’:75%)浴中に1時間浸漬した。その後、ガラス板を浴槽から取り出し、ガラス板の表面を洗浄・乾燥した。以上の工程により、実施例3の化学強化ガラスを作製した。
【0111】
実施例1〜3の化学強化ガラスの応力プロファイルをそれぞれ図1、3および5に示す。また、図2に、本発明の化学強化ガラス(実施例1)の応力プロファイル、および1段階の化学強化処理により得られる従来品(従来例1)の応力プロファイルを示す。また、図4に、本発明の化学強化ガラス(実施例2)の応力プロファイル、および2段階の化学強化により得られる比較例1(米国特許公開第2015/0239775号明細書のFIG.10aより抽出)の応力プロファイルを示す。
【0112】
図1、3および5に示すように、実施例1〜3の化学強化ガラスは、ガラス表面に近い応力パターンAとガラス内側の応力パターンBとの少なくとも2種類の応力パターンを圧縮応力層の中に有し、該応力パターンAはガラス表面から内側にいくに従い圧縮応力が大きくなり、該応力パターンBはガラス表面から内側にいくに従い圧縮応力が小さくなり、該応力パターンAのガラス表面の圧縮応力α[MPa]と、該応力パターンAおよび該応力パターンBが交差する点における圧縮応力β[MPa]とは、β>αの関係を満たすことがわかった。なお、実施例1〜3について圧縮応力α[MPa]を圧縮応力β[MPa]で除した値は0.9より小さかった。
【0113】
また、図1〜5に示すように、実施例1〜3の化学強化ガラスは、ガラス表面からの深さが15μmの位置でのCSの値が250MPa以上であるとともに、ガラス表面からの深さが40μmの位置でのCSの値が100MPa以上であり、従来と比較して、圧縮応力層深さの値が大きく、ガラス表面より深い位置でのCSの値が大きい応力プロファイルを示すことがわかった。
【0114】
また、図5に示すように、実施例3の化学強化ガラスは、前記応力パターンAおよび前記応力パターンBに加えて、前記応力パターンBよりガラス内側に更に応力パターンCを圧縮応力層の中に有し、該応力パターンCは一次直線で近似する場合において圧縮応力の傾きi[MPa/μm]は−8以上0未満であった。
図1
図2
図3
図4
図5