特許第6794871号(P6794871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6794871シリル化ポリプロピレンの製造方法、その製造方法から得られるシリル化ポリプロピレン、及びシリル化ポリプロピレンと熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794871
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】シリル化ポリプロピレンの製造方法、その製造方法から得られるシリル化ポリプロピレン、及びシリル化ポリプロピレンと熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 81/02 20060101AFI20201119BHJP
   C08G 77/442 20060101ALI20201119BHJP
   C08F 110/06 20060101ALI20201119BHJP
   C08F 4/6592 20060101ALI20201119BHJP
   C08L 83/10 20060101ALI20201119BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C08G81/02
   C08G77/442
   C08F110/06
   C08F4/6592
   C08L83/10
   C08L23/00
【請求項の数】14
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-29339(P2017-29339)
(22)【出願日】2017年2月20日
(65)【公開番号】特開2017-179344(P2017-179344A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-62091(P2016-62091)
(32)【優先日】2016年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 央士
(72)【発明者】
【氏名】小西 洋平
(72)【発明者】
【氏名】玉置 喬士
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 直哉
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/098865(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00
C08G 81/00
C08L 83/00
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)末端不飽和結合率>90%、数平均分子量8,000以上の、片末端不飽和結合を有するポリプロピレンと、(b)下記構造単位(I)及び構造単位(II)を有するシロキサンコポリマーとを反応させることを特徴とするシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【化1】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜10である炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記(a)が、メソトライアッド分率>94mol%、Tm>130℃を有するアイソタクチックポリプロピレンであることを特徴とする請求項1記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【請求項3】
前記(a)において、片末端不飽和結合がビニル基であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【請求項4】
前記(b)において、R〜Rがメチル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【請求項5】
前記(a)において、ポリプロピレンの数平均分子量が8,000〜70,000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【請求項6】
前記(b)において、構造単位(I)/{構造単位(I)+構造単位(II)}の比率が、0.8以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【請求項7】
白金触媒存在下で前記(a)と前記(b)を反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【請求項8】
前記(a)が、下記一般式(3)で表される遷移金属化合物を触媒として用いて製造されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【化2】
(式中、R15およびR16は、それぞれ独立して、炭素数4〜16の、窒素、酸素、または硫黄を含有する複素環基を表し、R17およびR18は、それぞれ独立して、炭素数6〜16になる範囲で、アリール環状骨格上に、1つ以上の、炭素数1〜6の炭化水素基、炭素数1〜6のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜6のハロゲン含有炭化水素基、ハロゲン原子を置換基として有するアリール基、または炭素数6〜16の、窒素、酸素、若しくは硫黄を含有する複素環基を表し、X12およびY12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基を表し、Q12は、炭素数1〜20の二価の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、またはゲルミレン基を表す。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法で製造されるシリル化ポリプロピレン。
【請求項10】
下記構造単位(III)及び構造単位(IV)を有することを特徴とする請求項9に記載のシリル化ポリプロピレン。
【化3】
(式中、Rは、アイソタクチックポリプロピレン鎖であって、メソトライアッド分率>94mol%、Tm>130℃、数平均分子量8,000以上である。Rは、炭素数1〜10である炭化水素基を表す。)
【化4】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
【請求項11】
前記R〜Rがメチル基であることを特徴とする請求項10に記載のシリル化ポリプロピレン。
【請求項12】
(A)請求項9〜11のいずれか1項に記載のシリル化ポリプロピレン、及び(B)熱
可塑性樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項13】
前記(B)熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂である、請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記(B)熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記(A)のシリル化ポリプロピレンを0.01〜10,000重量部含有することを特徴とする請求項12又は13に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するシリル化ポリプロピレンの製造方法、及びその製造方法から得られるシリル化ポリプロピレン、及びシリル化ポリプロピレンと熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンは、優れた機械強度を有しながら加工性、耐薬品性、電気的性質にも優れ、また軽量かつ安価なコストのため、生活部材や工業部材の用途に幅広く用いられている。
ポリオレフィンに対して改善が期待されている特性として、特に撥水性、撥油性、防汚性、非接着性などの表面特性がある。これらの性能については、トイレタリーや食品などの生活産業材料分野や、また防汚性などが要求される医療用衛生材料分野において、特にその改良が期待されている。
【0003】
一方で、ポリオレフィン材料には、ガス透過性の改良も望まれている。例えば青果物の包装材料の分野においては、特に透明性に優れ、見栄えの良いポリプロピレンフィルムが多く使用されているが、ガス透過性が低いため、農産物の鮮度保持に悪影響を与えることが知られており、良好な透明性と良好なガス透過性を両立するポリプロピレン材料が望まれている。
【0004】
また、産業用、医療用の酸素富化膜の用途においては、従来シリコーン樹脂が酸素透過性及び分離比に優れた材料として知られているが、シリコーン樹脂では機械的強度が劣る。この問題点を解決するため、シリコーンなどのガス透過性に高い非多孔性の超薄層部と、これを機械的に支持するポリプロピレンの多孔質部を張り合わせた複合膜も開発されている。しかし、これらの複合膜は高コストになる傾向がありあまり実用化されていない。そこで、機械強度の優れた材料(例えばポリプロピレン)との付加品で、単独成型が可能な、機械強度とコストに優れた材料の開発が望まれている。
ポリオレフィンに対して各種改質剤を添加することで、単独では不足している機械特性や、表面特性などの向上が図られる場合がある。しかしながら、改質しようとする材料と添加剤の親和性が低い場合には、その改質効果は限定されるだけでなく、かえって透明性や機械特性など他の特性を悪化させる懸念がある。
【0005】
例えば、ポリオレフィンの撥水性、撥油性、防汚性、非接着性などの表面特性、およびガス透過性を改良する方法として、高分子量のシリコーンをポリオレフィンに添加し成型、加工する手法が知られておりすでに市販もされているが、一般にポリオレフィンとシリコーンの親和性は低く、かえって透明性や機械特性など他の特性を悪化させる懸念があり、その使用は限定される。また、その親和性の低さから添加したシリコーンは材料の表面へ容易に浮き出るため、そのガス透過性は容易に失われる。また表面への物理的な接触によってシリコーンが容易に表面から除去されてしまうことから、その表面改質性も容易に失われ、長く表面改質性能を維持することは困難であった。特に接触した物質にシリコーンが付着、移行してしまうことから、プリント配線基板、とりわけ銅回路の汚染が懸念される電子材料への使用は禁忌とされている。
【0006】
こうした問題を改良するため、ポリオレフィンとシリコーンのブロック共重合体を添加剤として用いることが知られている。このようなブロック共重合体の製造例としては、例えば、ポリオレフィン末端の不飽和結合へのヒドロシリコーンのヒドロシリル化の適用が
公知である。特許文献1では、ポリプロピレンおよびポリシランの分枝コポリマーを、溶融層ヒドロシリル化を含んだ手順によって製造する手法が開示されている。しかしこの手法は具体的には反応の過程においてラジカル分解により生成した不飽和ポリマーの末端不飽和基をシリル化する手法であり、その反応制御性は低く、特定の構造を有するブロックポリマーの製造には適さない。また得られたブロック共重合体の表面改質性能、およびガス透過性については全く記載がない。
【0007】
特許文献2では、低分子量ポリエチレンオリゴマーとハイドロジェンシリコーンとを反応させて得られるシリコーンポリエチレンワックスが開示されているが、得られたブロック共重合体の表面改質性能、およびガス透過性については全く記載がない。
また特許文献3では、ビニル基含有化合物、特に末端にビニル基を有する低分子量のポリエチレンとケイ素化合物との反応によって得られるシリル化ポリオレフィンを含有する組成物から形成される成形体が開示されており、ポリプロピレンへの添加によって耐摩耗性、及びガス透過性が改善されることが示されている。しかしその改良効果は不十分であり、特に透明性の悪化も発生しており、ポリプロピレン改質向けの添加剤としての使用は難しい。
【0008】
特許文献4では少なくとの1つのオルガノシロキサンブロックと少なくとも1つのポリオレフィンブロックを含むブロック共重合体が開示されているが、本開示技術は特に溶液コーティング可能な程度に分子量を制御することに着眼しており、実際ポリウレタンフィルムへの塗布コーティングによる表面改質効果について具体例が開示されている。しかしポリプロピレンの表面改質性能については記載がなく、またその製造には特殊な置換基や反応性の低い置換基を使用しており、効率の良い製造手法とは言えず、また実際に期待通りの構造のブロックポリマーが選択的に得られていることが記載されていない。
【0009】
特許文献5では、末端にビニル基を有するマクロモノマーとポリアルキルヒドロシロキサンとの反応生成物が開示されているが、本開示技術では特に反応点を多く有するシロキサンに着眼し、非常に分岐の発達したポリマーのレオロジー特性についての技術のみが開示されている。しかし得られたブロック共重合体の表面改質性能、およびガス透過性については全く記載がなく、実際、当該技術における材料は表面改質性能が低いことが明らかになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2002−522604号公報
【特許文献2】特開2004−196883号公報
【特許文献3】WO2012/098865号公報
【特許文献4】特表2015−536376号公報
【特許文献5】WO2014/047482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、工業的に重要性の高いポリプロピレン材料との親和性が従来の材料に比べて高く、かつ表面改質効果にも優れるシリル化ポリプロピレンを、低コストで、エネルギー効率よく、かつブロック構造の選択性高く製造する方法、及びその製造方法から得られるシリル化ポリプロピレン、及びシリル化ポリプロピレンと熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の片末端不飽和結合を有するポリプロピレ
ンに対し、特定の構造を有するポリシロキサンを付加させることにより、上記課題を達成しうることを見出した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1](a)末端不飽和結合率>90%、数平均分子量8,000以上の、片末端不飽和結合を有するポリプロピレンと、(b)下記構造単位(I)及び構造単位(II)を有するシロキサンコポリマーとを反応させることを特徴とするシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜10である炭化水素基を表す。)
[2]前記(a)が、メソトライアッド分率>94mol%、Tm>130℃を有するアイソタクチックポリプロピレンであることを特徴とする[1]に記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
[3]前記(a)において、片末端不飽和結合がビニル基であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
[4]前記(b)において、R〜Rがメチル基であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
[5]前記(a)において、ポリプロピレンの数平均分子量が8,000〜70,000であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
[6]前記(b)において、構造単位(I)/{構造単位(I)+構造単位(II)}の比率が、0.8以下であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
[7]白金触媒存在下で前記(a)と前記(b)を反応させることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
[8]前記(a)が、下記一般式(3)で表される遷移金属化合物を触媒として用いて製造されたものであることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のシリル化ポリプロピレンの製造方法。
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、R15およびR16は、それぞれ独立して、炭素数4〜16の、窒素、酸素、または硫黄を含有する複素環基を表し、R17およびR18は、それぞれ独立して、炭素数6〜16になる範囲で、アリール環状骨格上に、1つ以上の、炭素数1〜6の炭化水素基、炭素数1〜6のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜6のハロゲン含有炭化水素基、ハロゲン原子を置換基として有するアリール基、または炭素数6〜16の、窒素、酸素、若しくは硫黄を含有する複素環基を表し、X12およびY12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基を表し、Q12は、炭素数1〜20の二価の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、またはゲルミレン基を表す。)
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法で製造されるシリル化ポリプロピレン。
[10]下記構造単位(III)及び構造単位(IV)を有することを特徴とする[9]に記載のシリル化ポリプロピレン。
【0017】
【化3】
【0018】
(式中、Rは、アイソタクチックポリプロピレン鎖であって、メソトライアッド分率>94mol%、Tm>130℃、数平均分子量8,000以上である。Rは、炭素数1〜10である炭化水素基を表す。)
【0019】
【化4】
【0020】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
[11]前記R〜Rがメチル基であることを特徴とする[10]に記載のシリル化ポリプロピレン。
[12](A)[9]〜[11]のいずれかに記載のシリル化ポリプロピレン、及び(B)熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物。
[13]前記(B)熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂である、[12]に記載の樹脂組成物。
[14]前記(B)熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記(A)のシリル化ポリプロピレンを0.01〜10,000重量部含有することを特徴とする[12]又は[13]に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明のシリル化ポリプロピレンの製造方法によれば、従来の材料に比べてポリプロピレンと親和性が高く、かつ表面改質効果の高いシリコーン−ポリプロピレンブロック共重合体を、低コストで、エネルギー効率よく、かつブロック構造の選択性高く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のシリル化ポリプロピレンの製造方法は、(a)末端不飽和結合率>90%、数平均分子量8,000以上の、片末端不飽和結合を有するポリプロピレンと、(b)下記構造単位(I)及び構造単位(II)を有するシロキサンコポリマーとを反応させることを特徴とする。
【0023】
【化5】
【0024】
[ポリプロピレン]
(a)末端不飽和結合率>90%、数平均分子量8,000以上の、片末端不飽和結合を有するポリプロピレン
本発明において、片末端不飽和結合を有するポリプロピレン(以下、「片末端不飽和ポリプロピレン」という)は、ポリプロピレン構造の少なくとも1つの末端に不飽和結合を有し、且つ、少なく1つの末端に不飽和結合を有さないものである。直鎖ポリプロピレンの場合、2つの末端のうち、1つの末端にのみ不飽和結合を有する。分岐ポリプロピレンの場合は、3以上の末端のうち、少なくとも1つの末端に不飽和結合を有し、且つ、少なくとも1つの末端に不飽和結合を有さない。
【0025】
片末端不飽和結合は、ビニリデン基、ビニレン基、ビニル基等が挙げられるが、好ましくはビニリデン基、ビニル基であり、より好ましくはビニル基である。
片末端不飽和ポリプロピレンは、好ましくは、下記の一般式(1)で表される。
【0026】
【化6】
【0027】
(式中、PPはポリプロピレン構造を表し、Rは水素原子又はメチル基である。)
一般式(1)中、Rは、変性反応の効率や選択性の観点から、好ましくは水素原子である。
【0028】
(末端不飽和結合率)
片末端不飽和ポリプロピレンの末端不飽和結合率は、13C−NMRとH−NMR測定結果より以下の式に基づいて求めた。
末端不飽和結合率%=不飽和結合末端数/開始末端数
=不飽和結合末端数/{(全末端数−長鎖分岐数)/2}
全末端数
=i−ブチル末端数+n−プロピル末端数+n−ブチル末端数+2,3−ジメチルブチル末端数+ビニル末端数+ビニリデン末端数+ビニレン末端数
不飽和結合末端数
=ビニル末端数+ビニリデン末端数+ビニレン末端数
【0029】
<13C−NMR測定から求めるもの>
イソブチル末端数/プロピレンモノマー1,000個
=1000*(22.52,23.79,25.76,47.42ppmのシグナルの積分値の平均)/Sααの積分値
Sααは、H.N.Chengによる「Macromolecules 1984,17,1950」の表記法に従う。
【0030】
n−プロピル末端数/プロピレンモノマー1,000個
=1000*(14.47,30.48,39.64ppmのシグナルの積分値の平均)/Sααの積分値
n−ブチル末端数/プロピレンモノマー1,000個
=1000*(14.11,23.21,36.90ppmのシグナルの積分値の平均)/Sααの積分値
2,3−ジメチルブチル末端数/プロピレンモノマー1,000個
=1000*(16.23,17.66,36.42,42.99ppmのシグナルの積分値の平均)/Sααの積分値
長鎖分岐数/プロピレンモノマー1,000個
=1000*(31.60,44.00,44.69ppmのシグナルの積分値の平均)/Sααの積分値
【0031】
<1H−NMR測定から求めるもの>
ビニル末端数/プロピレンモノマー1,000個
=2000*(4.9−5.1,5.7−5.9ppm領域のビニルシグナルの積分値)/(3.0−0.2ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)
ビニリデン末端数/プロピレンモノマー1,000個
=3000*(4.69,4.74ppmのビニリデンシグナルの積分値)/(3.0−0.2ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)
ビニレン末端数/プロピレンモノマー1,000個
=3000*(5.3−5.5ppm領域のビニレンシグナルの積分値)/(3.0−0.2ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)
【0032】
本発明中で用いられる片末端不飽和ポリプロピレンの末端不飽和結合率は通常90%以上であり、好ましくは92%以上であり、より好ましくは95%以上であり、100%が最も好ましい。末端不飽和結合率が高い程、シリル化ポリプロピレンの収量が増加し、低コストで、エネルギー効率よく、かつブロック構造のシリル化ポリプロピレンを選択性高
く製造することができる。
また片末端不飽和ポリプロピレンとしては、剛性および耐熱性を阻害しない限り、ポリプロピレン側鎖を持つ、分岐型の片末端不飽和ポリプロピレンであってもよい。
【0033】
(片末端不飽和ポリプロピレンの数平均分子量)
本発明に用いられる末端不飽和ポリプロピレンの数平均分子量(Mn)は、製造されるシリル化ポリプロピレン及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、8,000以上、好ましくは9,000以上、より好ましくは10,000以上である。またその数平均分子量は、通常200,000以下、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下であり、より好ましくは70,000以下である。上記上限値以下だと、機械物性とシリル化ポリプロピレンの物性を両立し易い。数平均分子量はGPC測定により求められる。
【0034】
この末端不飽和ポリプロピレンの分子量分布は、製造されるシリル化ポリプロピレン及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性、耐溶剤性やブリードアウト低減の観点から、分子量による精密な物性制御を可能にするため、狭い方が好ましい。本発明に用いられる末端不飽和ポリプロピレンの分子量分布は、Mw/Mnで通常1以上であり、通常10以下、好ましくは5以下、特に好ましくは3以下である。
【0035】
(片末端不飽和ポリプロピレンの立体規則性)
片末端不飽和ポリプロピレンは、立体規則性の高い構造を有するものが好ましい。ポリプロピレンの立体規則性の高さを表す因子として、「トライアッド分率」が用いられる。トライアッドはポリプロピレンの隣り合う側鎖メチル基の相対的配置の連続性を示すもので、この値が高ければ高いほど、立体規則性が高いと解釈される。メソトライアッド(mm)分率とは、ポリマー鎖中、頭−尾結合からなる3個のプロピレンモノマー単位が連続してメソ結合している連鎖の中心のプロピレン単位の、全プロピレン単位に対する割合を百分率で表したものである。トライアッドは通常、13C−NMRにおけるメチル基のシグナルによって決定することができる。ピークの帰属は例えば、A.Zambelli等による「Macromorecules 1975,8,687」で提案されたピークの帰属に従い、決定することができる。
以下に、mm分率決定のより具体的な方法を述べる。
【0036】
プロピレン単位を中心として頭−尾結合した3連鎖の中心プロピレンのメチル基に由来するピークは、その立体配置に応じて、3つの領域に生じる。
mm:約24.3〜約21.1ppm
mr:約21.2〜約20.5ppm
rr:約20.5〜約19.8ppm
各領域の化学シフト範囲は、分子量や、共重合体組成により若干シフトするが、上記3領域の識別は、容易である。
ここで、mm、mrおよびrrは、それぞれ下記の構造で表される。
【0037】
【化7】
【0038】
mm分率は、次の数式(1)から、算出される。
mm分率=mm領域のピーク面積/(mm領域のピーク面積+mr領域のピーク面積+rr領域のピーク面積)×100 [%]・・・(1)
片末端不飽和ポリプロピレンは、製造されるシリル化ポリプロピレン及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、トライアッドの高い構造を有する物が好ましく、通常このトライアッドが90mol%以上であり、好ましくは92mol%以上、特に好ましくは94mol%以上である。
【0039】
(片末端不飽和ポリプロピレンの融点(Tm))
本発明に用いられる末端不飽和ポリプロピレンの融点(Tm)は、特に限定されるものではないが、製造されるシリル化ポリプロピレン及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、高い方が好ましく、通常100℃以上、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。末端不飽和ポリプロピレンの融点は、示差走査熱量計(DSC)によって測定する。
片末端不飽和ポリプロピレンは、本発明の効果が損なわれない範囲で、主鎖中にプロピレン以外のコモノマーに由来するセグメントを含んでいても良いが、製造されるシリル化ポリプロピレン及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、好ましくはプロピレンの単独重合体が用いられる。
【0040】
(片末端不飽和ポリプロピレンの製造方法)
本発明で用いられる末端不飽和ポリプロピレンを製造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の末端不飽和ポリプロピレンの製造方法を適宜用いることができる。従来技術には、熱分解やラジカル分解によって分子鎖の切断によってポリプロピレン分子の片末端、乃至両末端に不飽和結合を導入する技術も知られているが、本発明において用いられるポリプロピレンの末端不飽和結合は、分子量制御のしやすさ、末端オレフィンの純度の向上等の理由により、熱分解法を用いずにプロピレン系重合体の末端に導入されたものであることが好ましい。より具体的には、遷移金属化合物を用いたプロピレンの配位重合によって製造され、重合終了末端が高い割合でビニル基となる手法が経済的な観点から好ましい。
【0041】
例えばステレオリジッドなC2対称架橋メタロセン触媒を用い、高温下でプロピレンを
重合することによりβ−メチル基脱離反応が頻発することを利用し、末端にビニル基を導入する方法(例えば特表2001−525461号公報)、特定の部位にかさ高い置換基を有する錯体を用いることにより、または特定の部位に複素環基を有する錯体を用いることにより、比較的低温でのβメチル脱離反応の頻度を高めることで高い立体規則性を保ちながら製造する方法(例えば特開平11−349634号公報、特開2009−299045号公報等)、アイソタクチック構造選択的メタロセン触媒によるプロピレン中、塩化ビニルなど脱離しやすい官能基を持つビニルコモノマーを共重合させ、このコモノマーが挿入と同時にβ官能基脱離を起こし選択的に末端ビニル基を持つマクロモノマーを製造する方法(Gaynor,S.G.Macromolecules 2003,36,4692−4698)や、プロピレンの2,1−挿入が優先するプロピレン重合触媒(例えば、ピリジルジイミン鉄(II)錯体に代表されるような後周期遷移金属錯体)を用いて、比較的困難なβ−メチル基脱離過程を経ることなく、β−水素脱離を経て末端ビニル基を導入する方法(Brookhart,M.et.al.Macromolecules 1999,32,2120)等を挙げることができる。
【0042】
このうち特定の部位に複素環基を有する錯体を用いることにより、比較的低温でのβメチル脱離反応の頻度を高めることで高い立体規則性を保ちながら製造する方法(例えば、特開2009−299045号公報)が、高立体規則性と高ビニル選択性の両立の観点から好ましく、下記一般式(2)で表わされる遷移金属化合物を用いて製造する方法がより好ましい。
【0043】
【化8】
【0044】
一般式(2)中、R11およびR12は、それぞれ独立して、炭素数4〜16の、窒素、酸素、または硫黄を含有する複素環基を示す。また、R13およびR14は、それぞれ独立して、炭素数6〜16の、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、およびリンから選ばれる少なくとも1つのへテロ原子を含有してもよいアリール基、または炭素数6〜16の、窒素、酸素、若しくは硫黄を含有する複素環基を表す。さらに、X11およびY11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基を表し、Q11は、炭素数1〜20の二価の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、またはゲルミレン基を表す。
【0045】
上記R11およびR12の炭素数4〜16の、窒素、酸素、または硫黄を含有する複素環基は、好ましくは2−フリル基、置換された2−フリル基、置換された2−チエニル基、または置換された2−フルフリル基であり、さらに好ましくは、置換された2−フリル基である。
複素環基上に適当な大きさの置換基を導入することにより、複素環と遷移金属上の配位場、成長ポリマー鎖との相対的な位置関係を適切にすることができ、末端にビニル基を高選択的に導入した末端不飽和ポリプロピレンを得ることができる。
【0046】
また、置換された2−フリル基、置換された2−チエニル基、および置換された2−フルフリル基の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基、トリアルキルシリル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基、トリメチルシリル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0047】
さらに、R11およびR12として、特に好ましくは、2−(5−メチル)−フリル基である。また、R11およびR12は、互いに同一である場合が好ましい。
上記R13およびR14は、炭素数6〜16の、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、およびリンから選ばれる少なくとも1つのヘテロ元素を含有してもよいアリール基、または炭素数6〜16の、窒素、酸素、若しくは硫黄を含有する複素環基であるが、特に、R13とR14を、より嵩高くすることで、より立体規則性が高く、異種結合の少ない末端不飽和ポリプロピレンを得ることができる。
【0048】
そこで、R13およびR14は、炭素数6〜16になる範囲で、アリール環状骨格上に、1つ以上の、炭素数1〜6の炭化水素基、炭素数1〜6のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜6のハロゲン含有炭化水素基、ハロゲン原子を置換基として有するアリール基が好ましく、そのようなR13およびR14の具体例としては、4−イソプロピルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、2,3―ジメチルフェニル基、3,5―ジ−t−ブチルフェニル基、4−クロロフェニル基、4−トリメチルシリルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基である。
【0049】
また、R13およびR14としては、更に好ましくは、炭素数6〜16になる範囲で、1つ以上の、炭素数1〜6の炭化水素基、炭素数1〜6のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜6のハロゲン含有炭化水素基、ハロゲン原子を置換基として有するフェニル基である。また更に、その置換される位置は、フェニル基上の4位が好ましい。そのようなR13およびR14の具体例としては、4−イソプロピルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−ビフェニリル基、4−クロロフェニル基、4−トリメチルシリルフェニル基である。また、R13とR14が互いに同一である場合が好ましい。
【0050】
一般式(2)中、X11およびY11は、補助配位子である。したがって、この目的が達成される限りX11とY11の種類が制限されるものではなく、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基を表す。
【0051】
一般式(2)中、Q11は、二つの五員環を結合する、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、およびゲルミレン基の何れかを示す。上述のシリレン基、またはゲルミレン基上に2個の炭化水素基が存在する場合は、それらが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
上記のQ11の具体例としては、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、1,
2−エチレン、等のアルキレン基;ジフェニルメチレン等のアリールアルキレン基;シリレン基;メチルシリレン、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジ(n−プロピル)シリレン、ジ(i−プロピル)シリレン、ジ(シクロヘキシル)シリレン等のアルキルシリレン基、メチル(フェニル)シリレン等の(アルキル)(アリール)シリレン基;ジフェニルシリレン等のアリールシリレン基;テトラメチルジシリレン等のアルキルオリゴシリレン基;ゲルミレン基;上記の2価の炭素数1〜20の炭化水素基を有するシリレン基のケイ素をゲルマニウムに置換したアルキルゲルミレン基;(アルキル)(アリール)ゲルミレン基;アリールゲルミレン基などを挙げることができる。これらの中では、炭素数1〜20の炭化水素基を有するシリレン基、または、炭素数1〜20の炭化水素基を有するゲルミレン基が好ましく、アルキルシリレン基、アルキルゲルミレン基が特に好ましい。
【0052】
なお前記一般式(2)で表わされる遷移金属化合物は、通常、後述する共触媒と組み合わせて用いられる。好ましくは有機アルミニウムオキシ化合物、触媒前駆体と反応してこれをカチオンに変換することが可能なイオン性化合物、ルイス酸、イオン交換性層状ケイ酸塩などが共触媒として用いられ、特に好ましくは有機アルミニウムオキシ化合物、イオン交換性層状ケイ酸塩が用いられる。また上記組み合わせにおいて、さらに有機アルミニウム化合物を組み合わせて用いてもよい。
上記一般式(2)で表される遷移金属化合物の中でも、下記一般式(3)で表される遷移金属化合物が、トルエンなどの芳香族炭化水素系の有機溶媒に対する溶解性が良好であり、遷移金属化合物の精製や触媒調製における取扱いの観点から好ましい。
【0053】
【化9】
【0054】
(式中、R15およびR16は、それぞれ独立して、炭素数4〜16の、窒素、酸素、または硫黄を含有する複素環基を表し、R17およびR18は、それぞれ独立して、炭素数6〜16になる範囲で、アリール環状骨格上に、1つ以上の、炭素数1〜6の炭化水素基、炭素数1〜6のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜6のハロゲン含有炭化水素基、ハロゲン原子を置換基として有するアリール基、または炭素数6〜16の、窒素、酸素、若しくは硫黄を含有する複素環基を表し、X12およびY12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基を表し、Q12は、炭素数1〜20の二価の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、またはゲルミレン基を表す。)
【0055】
本発明において用いられる末端不飽和ポリプロピレンの製造方法としては、制限はされないが、前述の通り、経済的な観点でプロピレンの配位重合によって製造することが好ましい。その重合条件は目的物が得られる範囲において特に制約はなく、溶液重合、スラリー重合、実質的に溶媒を使用しない液相無溶媒重合(バルク重合)、気相重合、溶融重合などが使用可能であり、また連続重合、回分式重合および、いわゆる多段重合を採用してもよい。
【0056】
重合温度、重合圧力および重合時間にも特に制限はないが、通常は、生産性や末端ビニル基の選択性を考慮して、適宜設定を行うことができる。
重合温度としては、通常0℃以上、好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、特に好ましくは70℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは100℃以下の範囲である。重合圧力としては、通常0.01MPa以上、好ましくは0.05MPa以上、更に好ましくは0.1MPa以上、また、通常100MPa以下、好ましくは20MPa以下、更に好ましくは5MPa以下の範囲である。この方法で製造した場合、末端不飽和ポリプロピレン分子の末端は、通常は、重合反応の開始末端がアルキル基、重合反応の終了末端が高い確率でビニル基になるためである。なおこの場合、マクロモノマー分子の両方の末端がビニル基になる可能性は、通常極めて低くなる。
【0057】
[シロキサンコポリマー]
(b)下記構造単位(I)及び構造単位(II)を有するシロキサンコポリマー
【0058】
【化10】
【0059】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜10である炭化水素基を表す。)
〜Rは、それぞれが独立に、炭素数1〜10である炭化水素基であり、好ましくは炭素数6以下の炭化水素基である。R〜Rはメチル基であることが好ましい。
本反応に用いられるシロキサンコポリマーは、上記単位構造(I)と(II)を含む。単位構造(I)は上述の末端不飽和ポリプロピレンとの反応に必要な単位構造である。単位構造(II)はシリル化で期待される撥水性、撥油性、防汚性、接着性などの表面特性や、ガス透過性に優れた性質を示すために必要な単位構造である。本発明において用いられるシロキサンポリマーとしては、単位構造(I)は末端不飽和ポリプロピレンとの反応に必要な量含まれていればよく、単位構造(I)は多すぎない方が好ましい。構造単位(I)が多くなり過ぎる場合、末端不飽和ポリプロピレンとシロキサンコポリマーとの反応中に副反応を併発する場合が多くなり、選択性の観点で好ましくない。一方で単位構造(II)は、シリル化で期待される性質を高めるためには、多い方が好ましい。
【0060】
そのような観点から、本反応で用いられるシロキサンコポリマーは、好ましくは次の式(2)を満たすものである。
構造単位(I)(個)/{構造単位(I)(個)+構造単位(II)(個)}≦0.8・・・(2)
式(2)において、それぞれの構造単位(I)と(II)の個数を算出する方法は以下のとおりである。
【0061】
まず、単位構造(I)(個)と単位構造(II)(個)は、以下の式(3)の関係にある。
シロキサンコポリマーの数平均分子量Mn(g/mol)=両末端部位の分子量+単位構造(I)(個)×単位構造(I)の分子量+単位構造(II)(個)×単位構造(II)の分子量・・・(3)
【0062】
単位構造(I)(個)は、それぞれのシロキサンコポリマーのSi−H反応基置換比率(mmol/g)から計算することができる。単位構造(II)(個)を計算するためには、シロキサンコポリマーの数平均分子量Mnと、両末端部位の分子量、単位構造(I)の分子量、単位構造(II)の分子量が必要となる。ここでは、簡易的に、両末端部位の置換基、R〜Rが、いずれもメチル基の場合について説明する。両末端部位、単位構造(I)、単位構造(II)の分子量は、それぞれ[a]、[b]、[c]で示される構造単位の分子量として表すことができる。それらの構造に対応する分子量は、Mn[a]=162.38、Mn[b]=60.13、Mn[c]=74.15となる。
【0063】
【化11】
【0064】
一方、シロキサンコポリマーの数平均分子量Mnについては、それぞれのシロキサンコポリマーの25℃における動粘度(cSt)ηを用い、Barryの式logη=1.00+0.0123×Mn0.5(J.Appl.Physics,1946,17,1020)を用いて計算することができる。ここでηは25℃における動粘度(cSt)、Mnは数平均分子量である。
【0065】
このMnと、単位構造(I)(個)、両末端部位、単位構造(I)、単位構造(II)の分子量を式(3)に代入することで、単位構造(II)(個)を計算することができる。
構造単位(I)と(II)の個数は、構造単位(I)と(II)の仕込み量からも計算できる。
【0066】
前記(b)において、構造単位(I)/{構造単位(I)+構造単位(II)}の比率が、好ましくは0.6以下のものであり、さらに好ましくは0.4以下のものであり、通常0.01以上、好ましくは0.05以上である。上記範囲では、ポリプロピレンとの親和性と、シリル化による効果を、バランスよく得やすい傾向がある。
本反応で用いられるシロキサンコポリマーの25℃における動粘度ηは、通常1以上であり、好ましくは5以上であり、より好ましくは10以上であり、特に好ましくは50以上である。動粘度が上記範囲だと、シロキサンコポリマーの分子量が十分に大きく、その分構造単位(II)を多く保有することになり、撥水性、撥油性、防汚性、接着性などの表面特性や、ガス透過性の効果が大きくなる。
本反応で用いられるシロキサンコポリマーの数平均分子量範囲は、通常500以上であり、好ましくは1000以上である。動粘度と同様の理由で、シロキサンコポリマーの分子量が高いほど、撥水性、撥油性、防汚性、接着性などの表面特性や、ガス透過性の効果が大きくなる。
【0067】
[片末端不飽和ポリプロピレンとシロキサンコポリマーとの反応]
ヒドロシリル化反応においては、その一つの態様において、遷移金属錯体の触媒を使用する。この触媒としては、周期律表第8〜10族の遷移金属錯体が好ましく、例えば、白
金錯体、ロジウム錯体、コバルト錯体、パラジウム錯体及びニッケル錯体などが挙げられる。本発明においては、白金触媒が好ましく、中でも塩化白金酸及び白金オレフィン錯体などの白金錯体が好ましい。触媒の使用量は、末端不飽和ポリプロピレンに対して、金属単位として通常0.1〜1000質量ppm程度、好ましくは1〜500質量ppm、特に好ましくは5〜100質量ppmである。
【0068】
片末端不飽和ポリプロピレンとシロキサンコポリマーの仕込み比率は通常1:0.1〜30、好ましくは1:0.5〜10である。片末端不飽和ポリプロピレンとシロキサンコポリマーが1:1で反応したシリル化ポリプロピレンを得るためには、片末端不飽和ポリプロピレンよりもシロキサンコポリマーを過剰に仕込む必要がある。
ヒドロシリル化反応は、溶融状態で行ってもよく、溶液状態で行ってもよい(以下、それぞれ「溶融反応」及び「溶液反応」と称することがある。)。溶融反応の場合、反応温度は、末端不飽和ポリプロピレンの溶融温度以上とすることを要し、通常100〜250℃程度、好ましくは150〜200℃である。溶液反応の場合、反応温度は、通常−30〜150℃程度、好ましくは30〜140℃である。反応時間は、1分〜20時間程度である。ヒドロシリル化反応は、通常、常圧において行うが、加圧下で行ってもよい。
【0069】
上記溶融反応には、典型的な加工処理装置(例えば押出機、バッチミキサー及びホットプレスなど)を用いることができる。反応は回分式で行っても連続式で行ってもよい。この溶融反応は、末端不飽和ポリプロピレンの溶融相で行う。この場合、末端不飽和ポリプロピレンとシロキサンコポリマーと触媒である遷移金属錯体は、反応前に混合してもよく、反応器に逐次的に添加してもよい。
【0070】
上記溶液反応においては、反応装置に特に制限はないが、例えば、回分式又は連続式の攪拌装置を有する槽型反応基などを使用することができる。溶液反応において用いる反応溶媒としては、炭化水素溶媒か、エーテルなどが挙げられる。炭化水素溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン及びデカンなどの飽和脂肪族炭化水素、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサンなどの飽和脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。溶媒としては、炭化水素溶媒が好ましく、より好ましくは飽和脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素である。
溶媒の使用量は、片末端不飽和ポリプロピレンとシロキサンコポリマーが溶解している状態である量であればよく、特に制限ないが、通常、片末端不飽和ポリプロピレンとシロキサンコポリマーの合計の濃度を5〜50質量%とする量であり、好ましくは10〜40質量%とする量である。
【0071】
[シリル化ポリプロピレン]
本発明の製造方法で製造されたシリル化ポリプロピレンは、下記構造単位(III)及び構造単位(IV)を有することが好ましい。
【0072】
【化12】
【0073】
(式中、Rは、アイソタクチックポリプロピレン鎖であって、メソトライアッド分率>94mol%、Tm>130℃、数平均分子量8,000以上である。Rは、炭素数1〜10である炭化水素基を表す。)
【0074】
【化13】
【0075】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
上記(III)のRの、メソトライアッド分率、Tm、及び数平均分子量の測定方法、好ましい範囲は、上述の片末端不飽和ポリプロピレンと同様である。
上記(III)のRの炭化水素基は、上述のRと同様である。
上記(IV)のR、Rは、上述のR,Rと同様である。
【0076】
前記R〜Rはメチル基であることが好ましい。
ヒドロシリル化反応によって得られるシリル化ポリプロピレンの数平均分子量範囲は、通常8,500以上であり、好ましくは10,000以上である。またその数平均分子量は、通常250,000以下、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下である。
【0077】
[シリル化ポリプロピレンの用途]
本発明のシリル化ポリプロピレンは、ポリプロピレン材料の改質、特にポリプロピレン材料の撥水性、撥油性、防汚性、接着性などの表面特性の改質、または極性樹脂含む各種樹脂との相溶化、あるいは各種無機材料との複合化による機械物性の改良などに好適に使用することができる。
【0078】
また、本発明のシリル化ポリプロピレンは、単独成形体として、ポリプロピレン同様の耐熱性、透明性、成型加工性を有しながら、シリコーンとしての撥水性、防汚性、離形性、ガス透過性などを有する特異な物性を有する材料として、各種用途に使用することができる。例えばその優れたガス透過性によって、酸素富化膜などの気体分離膜にも好適であり、またすぐれた透明性によって、青果物などの食品等を包む包装材料にも好適である。
【0079】
[樹脂組成物]
既存の樹脂の機械物性等の改良を目的とし、上記シリル化ポリプロピレンを用いて、各種樹脂との組成物として使用することができる。
本発明の樹脂組成物は、(A)シリル化ポリプロピレン、(B)熱可塑性樹脂及び、任意にその他の成分を含有する樹脂組成物であり、以下(B)熱可塑性樹脂及び、その他の成分の詳細について記述する。
【0080】
(B)熱可塑性樹脂
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は特に制限はなく、例えばポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ乳酸樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂はそれぞれ1種単独で使用することもでき、2種以上を組み合わせて使用することもできる。中でもポリオレフィン樹脂が好ましく用いられる。
【0081】
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂は特に制限はなく、従来公知のポリオレフィン樹脂を使用することができる。具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸アクリレート共重合体などが挙げられる。中でも、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン
樹脂が好ましく用いられる。
【0082】
(その他の成分)
本発明の組成物においては、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、(A)シリル化ポリオレフィン、(B)熱可塑性樹脂以外の樹脂や添加剤等を配合することができる。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で併用しても良い。
【0083】
(B)熱可塑性樹脂以外の樹脂としては、具体的には、例えば、ポリオレフィン樹脂に包含されないポリオレフィン類;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂等や各種熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0084】
また、添加剤等としては、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、造核剤、可塑剤、衝撃改良剤、相溶化剤、消泡剤、増粘剤、架橋剤、界面活性剤、滑剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、着色剤、無機結晶核剤等が挙げられる。
【0085】
熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が環境面で好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
【0086】
充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0087】
造核剤としては、ソルビトール化合物及びその金属塩;安息香酸及びその金属塩;燐酸エステル金属塩;エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスアクリル酸アミド、エチレンビスアクリル酸アミド、ヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸ビスアミド、p−キシリレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、デカンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、ヘキサンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアニリド、N,N’,N’’−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアニリド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、N,N’−ジベンゾイル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、N,N’−ジシクロヘキサンカルボニル−1,5−ジアミノナフタレン、エチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド等アミド化合物等が挙げられる。また、無機結晶核剤としては、タルク、カオリン、シリカ等が
挙げられる。
【0088】
本発明における樹脂組成物にこれら「その他の成分」を用いる場合、その含有量は限定されないが、樹脂組成物中に、通常0.01重量%以上、好ましくは0.2重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下であることが望ましい。
【0089】
(樹脂組成物の配合割合)
樹脂組成物を構成する(A)シリル化ポリプロピレンと(B)熱可塑性樹脂との含有割合は限定されないが、(B)熱可塑性樹脂100重量部に対し、(A)シリル化ポリプロピレンを、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上含有し、一方、通常10,000重量部以下、好ましくは1,000重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下で含有する。(A)シリル化ポリプロピレンの含有割合が前記下限値未満の場合は、樹脂組成物の均一性が低下する傾向がある。一方、(A)シリル化ポリプロピレンの含有割合が前記上限値を超過する場合は、樹脂組成物の機械的強度が低下する場合がある。
【0090】
(樹脂組成物の調製)
シリル化ポリプロピレンと熱可塑性樹脂とを含有する本発明における樹脂組成物は、上述の各成分を原料として配合し、そのまま成形して成形体として得ることも出来るが、予めこれらを本発明の樹脂組成物としておき、該樹脂組成物を成形して得られる成形体を製造しこれを樹脂組成物とすることが好ましい。本発明の樹脂組成物は、上述の各成分を所定の割合で混合することにより得ることができる。混合方法は、原料成分が均一に分散混合できれば特に制限は無い。すなわち、上述の各原料成分等を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分布した組成物を得ることができる。
より均一な混合・分散のためには、所定量の上記原料成分を溶融混合することが好ましい。具体的には、例えば、樹脂組成物の各原料成分等を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分等を順次溶融させながら混合したりしてもよい。更には、上述の各成分のうち一部のみを樹脂組成物としておき、この樹脂組成物と他の成分とを配合して樹脂組成物の成形に供してもよい。
【0091】
混合方法や混合条件は、各原料成分等が均一に混合されれば特に制限は無いが、生産性の点からは、例えばタンブラーブレンダー、Vブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いて原料を混合し、単軸押出機や2軸押出機のような連続混練機及びミルロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機で溶融混練する方法が好ましい。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150〜250℃で行う場合が多い。
【実施例】
【0092】
(片末端不飽和ポリプロピレンの数平均分子量の測定)
はじめに、試料約20(mg)をポリマーラボラトリー社製高温GPC用前処理装置PL−SP260VS用のバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを含有するo−ジクロロベンゼン(BHT濃度=0.5g/L)を加え、ポリマー濃度が0.1(重量%)になるように調製した。ポリマーを上記高温GPC用前処理装置PL−SP260VSで135℃に加熱して溶解させ、グラスフィルターにて濾過して試料を調製した。なお、本発明におけるGPC測定において、グラスフィルターに捕捉されたポリマーはなかった。
【0093】
次に、カラムとして、東ソー社製TSKgel GMH−HT(30cm×4本)およびRI検出器を装着したウォーターズ社製V2000を使用してGPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液注入量:524.5(μl)、カラム温度:135℃、溶媒:
o−ジクロロベンゼン、流量:1.0(ml/min)を採用した。分子量の算出は、以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびプロピレン系重合体の粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、該校正曲線に基づいて分子量の算出を行った。
なお、粘度式としては、[η]=K×Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E−4、α=0.70を使用し、プロピレン系重合体に対しては、K=1.03E−4、α=0.78を使用した。
【0094】
(片末端不飽和ポリプロピレンNMR測定)
試料200〜300mgをo−ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(C6D5Br)=4/1(体積比)2.4mlおよび化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れて窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定に供した。NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・バイオスピン(株)のNMR装置AVANCEIII400を用いた

H−NMRの測定は試料の温度80℃、パルス角4.5°、パルス間隔2秒、積算回数512回とした。
13C−NMRの測定は試料の温度80℃、パルス角90°、パルス間隔51.5秒、積算回数1024回とし、逆ゲートデカップリング法で測定した。
【0095】
(片末端不飽和ポリプロピレンの融点の測定(Tm))
Perkin Elmer社製PYRIS Diamond DSC示差走査熱量測定装置を使用して、試料(約5mg)を210℃で5分間融解後、10℃/分の速度で−20℃まで降温し、−20℃で5分保持した後に、10℃/分の速度で210℃まで昇温することにより融解曲線を得た。降温段階における主発熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度Tcとした。また、融解曲線を得るために行った最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点Tmとした。
(シロキサンコポリマー材料)
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
上記シロキサンコポリマーにおいて、単位構造(I)(個)と単位構造(II)(個)から、単位構造(I)/{単位構造(I)+単位構造(II)}を計算した結果を以下の表に記す。
【0099】
【表3】
【0100】
(水接触角測定)
ポリマーを、12cmx12cmx300μmのスペーサーを用い、190℃、100kgfでプレスして、厚さ300μmのフィルムを加工した。得られたフィルムの水接触角を、フィルムをガラス基板上に固定し、First Ten Angstroms社製
の動的接触角・表面張力測定装置FTA125を用い、室温23℃、湿度50%の恒温室で測定した。水には純水を用いた。滴下する水滴の容量としては、各々、3.5〜4.0μLの範囲のものを用いた。各試料の測定は5回以上繰り返し、その平均値を接触角とした。
【0101】
(接着試験)
厚さ300μmに加工したフィルムを基材として用いた。厚さ300μmのシートは、ポリマーを、12cmx12cmx300μmのスペーサーを用い、190℃、100kgfでプレスすることで作成した。セロハンテープには、市販されている3M社製の透明美色を用いた。まずは、基材に長さ5cmに切断したセロハンテープを貼り付け、1分間静置した。その後、基材を手で固定し、セロハンテープの片方の端をつかみ持ち上げて、その接着の強さを3段階の定性的な指標で評価した。
接着性の指標:1(接着)、2(弱く接着)、3(非接着)
【0102】
(製造例1)
[rac−ジメチルシリレンビス[2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−イソプロピルフェニル)インデニル]ハフニウムジクロライド(錯体Mx)の製造方法]
下記構造の錯体Mxは、日本国特開2009−299045号公報の、実施例11に記載の方法に従って合成した。
【0103】
【化14】
【0104】
(製造例2)
[ポリプロプロピレン(Mn10,600)の製造方法]
精製窒素で置換された、攪拌翼を内蔵する内容積24Lの誘導攪拌式オートクレーブ内に、精製ヘキサン(10,000mL)、修飾メチルアルミノキサンのトルエン溶液(東ソーファインケム社「MMAO−3A」 2.1mmol[Al換算原子])を60mL導入した。反応容器を85℃に加熱し、プロピレンを0.80MPaまで導入し、製造例1で得られた錯体Mx(43.7μmol)のトルエン溶液を反応容器に圧送し、重合反応を開始した。反応中、プロピレンを追加して反応器の圧力を0.80MPaに保った。80分後、エタノールを導入して反応を停止させた。得られたポリマーを濾取し、一定量になるまで減圧下乾燥させ、2211gのポリマーを得た。得られたマクロモノマーの数平均分子量([Mn(GPC)])は10,600であり、13C−NMRによって測定されるアイソタクチックペンタッド分率(mmmm)は0.91であった。またDSCによって測定される融点(Tm)は138.0℃であった。得られたアイソタクチックポリプロピレンマクロモノマーの物性値を表1に示す。
【0105】
(製造例3)
[ポリプロピレン(Mn8,900)の製造方法]
撹拌翼と還流装置を取り付けた5Lセパラブルフラスコに、純水1,698gを投入し、98%硫酸501gを滴下した。そこへ、さらに市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製、ベンクレイSL、平均粒径:19.5μm)を300g添加後撹拌した。その後90℃で2時間反応させた。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて、洗浄した。回収したケーキに硫酸リチウム1水和物324gの水900mL水溶液を加え90℃で2時間反応させた。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて、pH>4まで洗浄した。回収したケーキを120℃で終夜乾燥した。その結果、275gの化学処理モンモリロナイトを得た。
【0106】
内容量50mLのフラスコに上記で得た化学処理モンモリロナイトを500mg秤量した。精製窒素下で日本アルキルアルミ社製トリイソブチルエチルアルミニウム(TIBA)のトルエン溶液(0.5mmol/mL)を2.0mL(モンモリロナイト1gに対してTIBA2mmolに相当)添加して、室温で30分反応させた後、上澄みを抜出した。ここにトルエン20mL追加して10分撹拌し、上澄みを抜き出す作業をさらに2回実施した。
【0107】
上記洗浄済みモンモリロナイトにトリイソブチルアルミニウム(30μmol/mL)と製造例12で合成した錯体Mx(3.0μmol/mL)を含む混合トルエン溶液をモンモリロナイト1gに対して錯体Mxが30μmolになるように加え、室温で1時間攪拌した。
精製窒素で置換された、攪拌翼を内蔵する内容積2Lの誘導攪拌式オートクレーブ(AC)内に、精製ヘキサン1,000mLとトリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(0.5mol/L)を1mL導入した。ACを85℃まで昇温してプロピレンを導入し、AC内の圧力が0.8MPaで安定するまで導入を続けた。その後上記触媒スラリー200mgを圧入し、AC内温を90℃まで昇温して重合開始とした。重合中はAC内温を90℃に維持し、圧力が0.8MPaを保つようにプロピレンの導入を続けた。30分後、AC内部のプロピレンをパージして重合を終わらせた。重合体収量を秤量したところ288gのポリプロピレンを得た。
GPCによって測定される数平均分子量は8,900g/molであった。またDSCによって測定されるTmは145.2℃であった。
【0108】
(製造例4)
[ポリプロピレン(Mn6,300)の製造方法]
製造例2において、重合中のAC内温度を95℃とした以外は製造例3と同様に実施し、219gのポリプロピレンを得た。
GPCによって測定される数平均分子量は6,300g/molであった。またDSCによって測定されるTmは140.0℃であった。
【0109】
[実施例1]
メカニカルスターラー付き300mL4つ口フラスコに、製造例2で製造されたポリプロピレン(Mn10,600、10.6g、1.0mmol)とシリコーンXL−110(Mn1,047、1.0g、1.0mmol)とシクロヘキサン100mLを加え、15分間窒素バブリングした。その後、80℃まで昇温し、均一に撹拌した後に、白金触媒SIP6832.2(2wt%白金含有、0.003mL)投入し、80℃で5時間撹拌した。その後、撹拌しながら40℃まで反応溶液を冷却し、ポリマーが析出するまでエタノール(100mL)を添加した。析出したポリマーはろ過により回収し、アセトン(100mLx3)で洗浄した。得られたポリマーは70℃で減圧乾燥した(収量11.0g)。
H NMR測定の結果、末端ビニル基が消失したことを確認した。また、GPC測定より、分子量が増大したことを確認しており、これらの結果を合わせてヒドロシリル化反
応が進行し、シリコーンとポリプロピレンが結合したことが明らかとなった。
【0110】
[実施例2]
シリコーンXL−110をシリコーンXL−115(Mn3,229、1.8g、0.6mmol)に変えた以外は実施例1と同様にしてポリマーを製造した(収量12.4g)。
H NMR測定の結果、末端ビニル基が消失したことを確認した。また、GPC測定より、分子量が増大したことを確認しており、これらの結果を合わせてヒドロシリル化反応が進行し、シリコーンとポリプロピレンが結合したことが明らかとなった。
【0111】
[実施例3]
ポリプロピレンを製造例3で製造されたポリプロピレン(Mn8,900)に変え、シリコーンXL−110をシリコーンXL−116(Mn6,610、7.5g、1.1mmol)に変えた以外は実施例1と同様にしてポリマーを製造した(収量13.9g)。
H NMR測定の結果、末端ビニル基が消失したことを確認した。また、GPC測定より、分子量が増大したことを確認しており、これらの結果を合わせてヒドロシリル化反応が進行し、シリコーンとポリプロピレンが結合したことが明らかとなった。
【0112】
[実施例4]
メカニカルスターラー付き1,000mL4つ口フラスコに、製造例2で製造されたポリプロピレン(Mn10,600、126.0g、11.9mmol)とシリコーンXL−116(Mn6,610、89.25g、13.5mmol)とシクロヘキサン700mLを加え、15分間窒素バブリングした。その後、80℃まで昇温し、均一に撹拌した後に、白金触媒SIP6832.2(2wt%白金含有、0.07mL)投入し、80℃で5時間撹拌した。その後、撹拌しながら40℃まで反応溶液を冷却し、ポリマーが析出するまでエタノール(300mL)を添加した。析出したポリマーはろ過により回収し、アセトン(500mLx3)で洗浄した。得られたポリマーは70℃で減圧乾燥した(収量191.5g)。
H NMR測定の結果、末端ビニル基が消失したことを確認した。また、GPC測定より、分子量が増大したことを確認しており、これらの結果を合わせてヒドロシリル化反応が進行し、シリコーンとポリプロピレンが結合したことが明らかとなった。
【0113】
[比較例1]
シリコーンXL−110をシリコーンHMS−991(Mn1,800、1.0g、0.6mmol)に変えた以外は実施例1と同様にしてポリマーを製造した(収量10.8g)。
H NMR測定の結果、末端ビニル基が消失したことを確認した。また、GPC測定より、分子量が増大したことを確認しており、これらの結果を合わせてヒドロシリル化反応が進行し、シリコーンとポリプロピレンが結合したことが明らかとなった。
【0114】
[比較例2]
シリコーンXL−110をシリコーンHMS−991(Mn1,800、3.0g、1.7mmol)に変えた以外は実施例1と同様にしてポリマーを製造した(収量11.6g)。
H NMR測定の結果、末端ビニル基が消失したことを確認した。また、GPC測定より、分子量が増大したことを確認しており、これらの結果を合わせてヒドロシリル化反応が進行し、シリコーンとポリプロピレンが結合したことが明らかとなった。
【0115】
[比較例3]
ポリプロピレンを製造例5で製造されたポリプロピレン(Mn6,300)に変え、シ
リコーンXL−110をシリコーンXL−116(Mn6,610、7.5g、1.1mmol)に変えた以外は実施例1と同様にしてポリマーを製造した((収量11.0g)。
H NMR測定の結果、末端ビニル基が消失したことを確認した。また、GPC測定より、分子量が増大したことを確認しており、これらの結果を合わせてヒドロシリル化反応が進行し、シリコーンとポリプロピレンが結合したことが明らかとなった。
【0116】
実施例1〜4及び比較例1〜3で製造したポリマーについて、水接触角測定、接着性試験を行った。その結果を表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
本発明における樹脂組成物の評価には下記の原料を用いた。
<(A)シリル化ポリプロピレン>
(A)−1:実施例4で得たシリル化ポリプロピレン
<(B)熱可塑性樹脂>
(B)−1:ポリプロピレン(日本ポリプロ社製、製品名ノバテックFW4B:プロピレン・エチレン・ブテン共重合体、MFR(230℃、荷重2.16kg)7g/10分、密度0.90g/cm3、エチレン含有量1.5重量%、ブテン含有量2.3重量%)
【0119】
<実施例5>
(A)−1:シリル化ポリプロピレン1部と(B)−1:ポリプロピレン100部をドライブレンドし、口径が15mmφの押出機(株式会社テクノベル製「KZW15」)を用いて樹脂温度220℃でTダイより幅100mmのフィルム状に溶融押出して、層厚30μmの単層のフィルムを得た。
【0120】
<実施例6>
(A)−1:シリル化ポリプロピレン5部と(B)−1:ポリプロピレン100部をドライブレンドし、口径が15mmφの押出機(株式会社テクノベル製「KZW15」)を用いて樹脂温度220℃でTダイより幅100mmのフィルム状に溶融押出して、層厚30μmの単層のフィルムを得た。
【0121】
<比較例4>
シリル化ポリプロピレンを加えない以外は実施例6と同様の操作を行い、幅100mmのフィルム状に溶融押出して、層厚30μmの単層のフィルムを得た。
【0122】
<比較例5>
シリル化ポリプロピレンの代わりに特許第6047964号の実施例1で用いられているベヘニン酸ビスアミドを主成分とする脂肪酸ビスアミド5部を用いた以外は実施例6と同様の操作を行い、幅100mmのフィルム状に溶融押出して、層厚30μmの単層のフィルムを得た。
【0123】
<ポリプロピレンに対するヒートシール強度>
実施例5〜6または比較例4〜5で得られたフィルムを幅15mmにカットしたものを、比較例4で得られた(B)−1のみからなる厚さ0.3mmのシートと重ね合せ、圧力0.2MPa、時間1.0秒、シール温度を140℃から180℃まで20℃毎に変更した条件にてそれぞれヒートシールバーにより押さえて加熱接着を行った。試験片の該加熱接着部分を、引張試験機((株)エー・アンド・ディ社製、テンシロン万能試験機(RTG1225))を用いて、剥離速度300mm/分、180°剥離にて剥離強度を測定した。結果を表5に示す。
【0124】
<組成物の水接触角測定>
実施例5〜6、比較例4〜5で得られたフィルムの水接触角を、フィルムをガラス基板上に固定し、協和界面科学(株)社製(ドロップマスターDN300)を用い、室温23℃、湿度50%の恒温室で測定した。水には純水を用いた。滴下する水滴の容量としては、各々、3.5〜4.0μLの範囲のものを用いた。各試料の測定は5回以上繰り返し、その平均値を接触角とした。結果を表5に示す。
また、実施例6、比較例4〜5で得られたフィルムについてはエタノール洗浄操作として、エタノールを染み込ませたキムワイプで3回フィルム表面を擦った後、上記と同様の操作にて水接触角を測定した。結果を表5に示す。
【0125】
<組成物の油接触角測定>
実施例5〜6、比較例4〜5で得られたフィルムの油接触角を、フィルムをガラス基板上に固定し、協和界面科学(株)社製(ドロップマスターDN300)を用い、室温23℃、湿度50%の恒温室で測定した。油にはオリーブオイルを用いた。滴下する油滴の容
量としては、各々、3.5〜4.0μLの範囲のものを用いた。各試料の測定は5回以上繰り返し、その平均値を接触角とした。結果を表5に示す。
【0126】
本発明で得られたシリル化ポリプロピレンを含む組成物の剥離強度の評価には以下の原料を用いた。
粘着フィルム:幅15mmに切断したアクリル系粘着剤テープ(日東電工株式会社製、No.31B)
【0127】
<離形性評価:剥離強度>
実施例5〜6または比較例4〜5で得られたフィルムを幅15mmにカットしたものを、粘着フィルム(日東電工株式会社製、商品名:NO.31B 厚み0.025mm)の粘着面と重ね合せ、上から2kgのゴムローラーを被着体の上を1往復させフィルムを粘着させた。試験片の該粘着部分を、引張試験機((株)エー・アンド・ディ社製、テンシロン万能試験機(RTG1225))を用いて、剥離速度300mm/分、180°剥離にて剥離強度を測定した。結果を表5に示す。
【0128】
【表5】
【0129】
表4の結果から、本発明の実施例は、比較例に対して水との接触角が大きく、剥離性の改善を示した。接触角が高いということは、ポリプロピレンなどのポリオレフィンと親和性が高いことを示す。表5の結果から、シリル化ポリプロピレンのポリプロピレン樹脂組成物においても水・油に対する接触角が増大することを示した。実施例5と比較例4の結果より、組成物においてヒートシール強度にも影響がないことが確認された。実施例5と実施例6の結果より、本発明のシリル化ポリプロピレンの添加量により油の接触角が増大することを示した。また実施例6と比較例5の結果より、表面をエタノール洗浄した後に本発明の組成物では水との接触角に大きな低下は見られず、洗浄前後で表面の状態が保たれていることを示した。