(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。本明細書において特定する数値は、実施形態又は実施例に開示した方法により求められる値である。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれる。
【0011】
[分散液]
本発明の分散液は、固形分が分散媒に分散した分散液であって、該固形分が、水分散性樹脂100質量部と、多層構造重合体0.1〜10質量部と、を含み、該多層構造重合体が、弾性体層と、該弾性体層を覆う外層と、を有し、該弾性体層が、炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する単位及び共役ジエン系単量体に由来する単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体単位(I−1)を50質量%以上有する架橋ゴム重合体成分(I)を含み、該外層が、メタクリル酸メチルに由来する単位を75質量%以上有し、該架橋ゴム重合体成分(I)にグラフト結合した硬質重合体成分(II)を含み、レーザー回折散乱法により測定した、アセトン中における該多層構造重合体のメジアン径Da(以下、単に「メジアン径Da」とも称する)と、水中における該多層構造重合体のメジアン径De(以下、単に「メジアン径De」とも称する)との比(Da/De)が下記式(1)を満たす。
1.2<(Da/De)≦2.5 (1)
なお、本明細書において活性エネルギー線硬化型のハードコート用樹脂及びその組成物や接着剤用樹脂及びその組成物を「活性エネルギー線硬化型樹脂」と称する。また、「活性エネルギー線硬化型のハードコート用樹脂及びその組成物や接着剤用樹脂及びその組成物と、ブロッキング防止層との密着性」を単に「密着性」とも称する。
また、本明細書において特定の単量体に由来する単位は、単に「特定の単量体単位」とも称する。
【0012】
本発明の分散液は、上記構成を有することにより、ブロッキング防止性及び透明性に優れ、かつ活性エネルギー線硬化型樹脂との密着性に優れ、さらに活性エネルギー線硬化型樹脂と積層しても白化し難い層を形成できるという本発明の効果が得られる。
このような効果が得られる理由については定かではないが、下記のように推察される。
本発明の分散液は、特定の単量体単位を有する架橋ゴム重合体成分を含む弾性体層と、特定の単量体単位を有し、該架橋ゴム重合体成分にグラフト結合した硬質重合体成分を含む外層とを有する多層構造重合体を含むことにより、表面の摩擦抵抗が低減されブロッキング防止性が向上し、透明性にも優れる。
また、多層構造重合体のアセトン中におけるメジアン径と水中におけるメジアン径の比を特定の範囲とすることにより、ハードコートや接着剤として活性エネルギー線硬化型樹脂を塗布した際、活性エネルギー線硬化型樹脂の成分が分散液に含まれる多層構造重合体へ浸透し易く、かつ白化も抑制される。これに活性エネルギー線を照射して硬化させることでアンカー効果が生じ、強固な密着性が発現すると考えられる。
【0013】
<多層構造重合体>
(弾性体層)
本発明に係る多層構造重合体は、弾性体層と、該弾性体層を覆う外層と、を有する多層粒子構造を有する。係る多層粒子構造としては、例えば
図1に模式図として示すものが挙げられる。
弾性体層は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位及び共役ジエン系単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体単位(I−1)(以下、単に「単量体単位(I−1)」とも称する)を50質量%以上有する架橋ゴム重合体成分(I)を含む。
架橋ゴム重合体成分(I)としては、例えばアクリル酸アルキルエステルの単独重合体、アクリル酸アルキルエステル単位50質量%以上及びアクリル酸アルキルエステル以外の単量体単位50質量%以下を有する共重合体、共役ジエン系単量体の単独重合体、共役ジエン系単量体単位を50質量%以上有する共重合体等が挙げられる。共役ジエン系単量体単位を50質量%以上有する共重合体としては、例えば特開平10−182755号公報に記載のゴム粒子、特開昭62−151415号公報に記載のアクリル系グラフト共重合体等が挙げられる。これらの中でも、透明性の点から、アクリル酸アルキルエステル単位50質量%以上及びアクリル酸アルキルエステル以外の単量体単位50質量%以下を有する共重合体が好ましい。
架橋ゴム重合体成分(I)中の単量体単位(I−1)の含有量は、密着性の観点から、好ましくは60〜99質量%、より好ましくは70〜95質量%、更に好ましくは80〜90質量%である。
【0014】
アクリル酸アルキルエステルとしては、そのアルキル基の炭素数が1〜8のものが用いられ、4〜8のものが好ましい。具体的には、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸iso−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸iso−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく、アクリル酸n−ブチルがより好ましい。
【0015】
架橋ゴム重合体成分(I)は架橋構造を有する。係る架橋構造は、電子線の照射により形成してもよく、架橋ゴム重合体成分(I)の単量体として多官能単量体を用いることにより形成してもよいが、多官能単量体を用いることが好ましい。これにより、架橋ゴム重合体成分(I)は多官能単量体由来の単位を有し、多層構造重合体中で架橋構造及びグラフト結合を形成し、ブロッキング防止性及び密着性が向上する。
係る多官能単量体としては、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸メタリル等の不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;マレイン酸ジアリル等の二塩基酸のジアルケニルエステル;アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等のグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステルなどが挙げられる。これらの中でも、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸アリルがより好ましく、メタクリル酸アリルが更に好ましい。架橋ゴム重合体成分(I)中の多官能単量体単位の含有量は、ブロッキング防止性及び密着性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは3.5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下、最も好ましくは2.8質量%以下である。これらの上限および下限の組み合わせについて、特に、目的とする比(Da/De)を有する分散液の調製が容易であることなどから、架橋ゴム重合体成分(I)中の多官能単量体単位の含有量は、好ましくは1〜3.5質量%、より好ましくは1.5〜3質量%、更に好ましくは2〜2.8質量%である。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル又はメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
【0016】
また、架橋ゴム重合体成分(I)は、アクリル酸アルキルエステル及び多官能単量体以外の単量体由来の単位を含むことが好ましい。係る単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル等の芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、アルキルスチレン等のスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリルなどが挙げられる。
架橋ゴム重合体成分(I)は、屈折率を調整する観点から、単量体単位(I−1)に加えて、さらに芳香族化合物に由来する単位を有することが好ましい。係る芳香族化合物としては、前述のスチレン系単量体;前述の芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、スチレン系単量体がより好ましく、スチレンが更に好ましい。
架橋ゴム重合体成分(I)中の芳香族化合物に由来する単位の含有量は、屈折率の観点から、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%、更に好ましくは10〜20質量%である。
【0017】
弾性体層は、架橋ゴム重合体成分(I)として異なる組成の複数の架橋ゴム重合体成分を含むものであってよく、該弾性体層は、架橋ゴム重合体成分(I)以外の成分を含有してもよい。ただし、弾性体層中の架橋ゴム重合体成分(I)の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0018】
(内層)
本発明に係る多層構造重合体は、弾性体層及び外層の2層構造であってもよく、弾性体層及び外層に加え更に他の層を有する3層以上の構造であってもよい。多層構造重合体は、ブロッキング防止性の観点から、さらに弾性体層の内側に、メタクリル酸アルキルエステル単位を50質量%以上有する重合体成分(i)を含む内層を有することが好ましい。重合体成分(i)は架橋ゴム重合体成分(I)と共有結合性の結合をしていてもよい。重合体成分(i)中のメタクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、好ましくは60〜99質量%、より好ましくは70〜99質量%、更に好ましくは80〜99質量%、より更に好ましくは85〜98質量%、特に好ましくは90〜97質量%である。
【0019】
メタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられ、これらの中でも、メタクリル酸メチルが好ましい。
重合体成分(i)は、ブロッキング防止性の観点から、その分子中に架橋構造を有することが好ましい。係る架橋構造は重合体成分(i)の単量体として、多官能単量体を用いることにより形成されることが好ましい。係る多官能単量体としては、前述の架橋ゴム重合体成分(I)と同様のものが挙げられる。それらの中でも、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸アリルがより好ましく、メタクリル酸アリルが更に好ましい。重合体成分(i)中の多官能単量体単位は、ブロッキング防止性の観点から、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.15〜1質量%、更に好ましくは0.18〜0.5質量%である。
【0020】
重合体成分(i)は、メタクリル酸アルキルエステル及び多官能単量体以外の単量体に由来する単位を有してもよい。係る単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル;スチレン、アルキルスチレン等のスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリルなどが挙げられる。これらの中でも、密着性の観点から、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸メチルがより好ましい。
重合体成分(i)中のメタクリル酸アルキルエステル以外の単量体に由来する単位の含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
内層は、重合体成分(i)として異なる組成の複数の重合体成分を含むものであってよく、重合体成分(i)以外の成分を含有してもよい。ただし、内層中の重合体成分(i)の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0021】
架橋ゴム重合体成分(I)に対する重合体成分(i)の質量比〔重合体成分(i)/架橋ゴム重合体成分(I)〕は、好ましくは5/95〜90/10、より好ましくは10/90〜70/30、更に好ましくは20/80〜60/40、より更に好ましくは30/70〜50/50である。
なお、上記質量比は、これらの重合体成分の単量体混合物の質量比から算出される。
【0022】
(外層)
多層構造重合体を構成する外層は、メタクリル酸メチル単位を75質量%以上有し、架橋ゴム重合体成分(I)にグラフト結合した硬質重合体成分(II)を含む。
硬質重合体成分(II)は、ブロッキング防止性及び密着性の観点から、メタクリル酸メチル単位75〜99質量%及びアクリル酸エステル単位1〜25質量%を有することが好ましく、メタクリル酸メチル単位80〜97質量%及びアクリル酸エステル単位3〜20質量%を有することがより好ましく、メタクリル酸メチル単位90〜96質量%及びアクリル酸エステル単位4〜10質量%を有することが更に好ましい。
【0023】
硬質重合体成分(II)に用いられるアクリル酸エステルのエステル基としては、例えば炭素数が1〜12である、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基及びこれらの誘導体等が挙げられる。具体的なアクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸iso−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸iso−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸n−ラウリル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸テトラヒドロフリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル等が挙げられる。これらの中でも、活性エネルギー線硬化型のハードコートや接着剤との密着性、耐熱性、取扱い性等のバランスの観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルが好ましい。
また、活性エネルギー線硬化型のハードコートや接着剤を塗布する前にコロナ処理を施す場合には、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸tert−ブチルが好ましい。
【0024】
また、硬質重合体成分(II)は、密着性の向上及び屈折率の調整の観点から、さらに芳香族化合物に由来する単位を有することが好ましい。係る芳香族化合物としては、例えばアクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル等の芳香族基含有アクリル酸エステルが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸ベンジルが好ましい。
前記硬質重合体成分(II)中の芳香族化合物に由来する単位の含有量は、屈折率の観点から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5質量%、更に好ましくは0.5〜1質量%である。
外層は、硬質重合体成分(II)として異なる組成の複数の硬質重合体成分を含むものであってよく、硬質重合体成分(II)以外の成分を含有してもよい。ただし、外層中の硬質重合体成分(II)の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0025】
(グラフト率)
本発明に係る多層構造重合体において、硬質重合体成分(II)は、架橋ゴム重合体成分(I)にグラフト結合している。多層構造重合体のグラフト率は、好ましくは11〜33質量%であり、より好ましくは15〜30質量%であり、更に好ましくは20〜30質量%である。
グラフト率は、架橋ゴム重合体成分(I)に対するグラフト結合している硬質重合体成分(II)の質量比で定義され、該グラフト率が11質量%以上であると耐熱性が向上し、33質量%以下であると活性エネルギー線硬化型樹脂との密着性が向上する。
係るグラフト率は、多層構造重合体をアセトンに浸漬して遠心分離機にて遠心分離し、アセトン可溶分を除去して乾燥させて得たアセトン不溶分の質量を測定して下記式(2)より算出した値である。
グラフト率={〔アセトン不溶分の質量−架橋ゴム重合体成分(I)の質量〕/架橋ゴム重合体成分(I)の質量}×100 (2)
ここで、架橋ゴム重合体成分(I)の質量は、重合における架橋ゴム重合体成分(I)の単量体の質量の合計である。多層構造重合体が弾性体層の内側に更に前記内層を有する場合には、上記式(2)において架橋ゴム重合体成分(I)の質量は、架橋ゴム重合体成分(I)と重合体成分(i)の単量体の質量の合計である。
【0026】
また、ブロッキング防止性を向上させるために、硬質重合体成分(II)は、必要に応じてグラフト結合性多官能単量体に由来する単位を有してもよい。また、硬質重合体成分(II)がグラフト結合性多官能単量体に由来する単位を有する場合は、硬質重合体成分(II)がグラフト結合性多官能単量体に由来する単位を有しない場合と比較して、グラフト率を維持したまま架橋ゴム重合体成分(I)中の多官能単量体に由来する単位の量を減らすことができ、係る多層構造重合体は後述するメジアン径Daとメジアン径Deとの比(Da/De)が増大する傾向となる。係るグラフト結合性多官能単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸メタリル等の不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;マレイン酸ジアリル等の二塩基酸のジアルケニルエステルが好ましい。
密着性の観点からは、硬質重合体成分(II)は、グラフト結合性多官能単量体に由来する単位を有しないことが好ましい。
【0027】
多層構造重合体に占める硬質重合体成分(II)の割合は、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%、更に好ましくは10〜25質量%であり、より更に好ましくは15〜20質量%である。多層構造重合体に占める硬質重合体成分(II)の割合を係る範囲とすることで、硬質重合体成分(II)が架橋ゴム重合体成分(I)に100質量%グラフト結合した場合でも多層構造重合体のグラフト率を上記範囲とすることができ、グラフト結合性多官能単量体の配合量の自由度が増える。また、活性エネルギー線硬化型樹脂の含浸による多層構造重合体の膨潤の程度をより精度よく制御することができ、密着性と白化の抑制を両立しやすくなる。
【0028】
硬質重合体成分(II)の式量の数平均値は、好ましくは10,000〜100,000であり、より好ましくは15,000〜60,000であり、更に好ましくは30,000〜50,000である。係る式量の数平均値が10,000以上であると耐熱性が向上し、100,000以下であると密着性が向上する。
なお、硬質重合体成分(II)の式量の数平均値は、多層構造重合体の硬質重合体成分(II)を製造する際の単量体混合物を、架橋ゴム重合体成分(I)が存在しない条件、前記内層を有する場合は架橋ゴム重合体成分(I)と重合体成分(i)が存在しない条件で、多層構造重合体の硬質重合体成分(II)を製造するときと同様の条件で重合して得られる重合体の数平均分子量とする。より具体的には実施例に記載の方法により測定される。係る式量は、チオール等の連鎖移動剤の配合量により調整することができる。
【0029】
多層構造重合体において、架橋ゴム重合体成分(I)の更に好ましい形態としては、好ましくはガラス転移温度が0℃以下であり、架橋ゴム重合体成分(I)と硬質重合体成分(II)の屈折率をそれぞれ単独で測定したときの23℃における架橋ゴム重合体成分(I)の屈折率(nR
23)と硬質重合体成分(II)の屈折率(nP
23)が下記式(3)の関係にあり、かつそれぞれ単独で測定したときの23〜70℃における架橋ゴム重合体成分(I)の屈折率の温度変化量(dnR/dT)と硬質重合体成分(II)の屈折率の温度変化量(dnP/dT)とが下記式(4)の関係を満たすことが好ましい。
0.01>nR
23−nP
23>0 (3)
0.00025>|dnR/dT−dnP/dT| (4)
上記の関係を満足することにより、架橋ゴム重合体成分(I)と硬質重合体成分(II)との温度による屈折率差を抑制でき、結果として広い温度域においてヘイズが低減され、透明性が向上する。
【0030】
(メジアン径De)
レーザー回折散乱法により測定した、水中における多層構造重合体のメジアン径De(単位:nm)は、ブロッキング防止性及び透明性がより一層向上することなどから、好ましくは50nm以上であり、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは150nm以上、特に好ましくは200nm以上、そして、好ましくは350nm以下であり、より好ましくは300nm以下である。
なお、多層構造重合体のメジアン径Deは、多層構造重合体の製造において、硬質重合体成分(II)の単量体の重合を停止させた時のエマルジョンを水で200倍に希釈し、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置を用いて係る希釈液を25℃で測定して得られる値である。この際、多層構造重合体及び水の絶対屈折率を、それぞれ1.4900及び1.3333とする。より具体的には実施例に記載の方法により測定される。
【0031】
(メジアン径Da)
レーザー回折散乱法により測定した、アセトン中における多層構造重合体のメジアン径Da(単位:nm)は、好ましくは200〜500nmであり、より好ましくは250〜470nmであり、更に好ましくは280〜450nmであり、より更に好ましくは300〜400nmである。
係るメジアン径Daは、活性エネルギー線硬化型樹脂の成分が分散液からなる層へ浸透することによる多層構造重合体の膨潤の程度を示す指標となる。多層構造重合体の膨潤の程度は密着性の向上及び白化の抑制に寄与すると考えられる。メジアン径Daが200nm以上であると密着性が向上し、500nm以下であると活性エネルギー線硬化型樹脂を塗布した際の白化が抑制される。
なお、多層構造重合体のメジアン径Daは、多層構造重合体をアセトンに浸漬し、25℃で24時間放置した後の係るアセトン溶液について、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置を用いて25℃で測定して得られる値である。この際、多層構造重合体及びアセトンの絶対屈折率を、それぞれ1.4900及び1.3591とする。より具体的には実施例に記載の方法により測定される。
【0032】
多層構造重合体は、メジアン径Daとメジアン径Deとの比(Da/De)が、下記式(1)を満たす。
1.2<(Da/De)≦2.5 (1)
比(Da/De)は、好ましくは1.25以上、より好ましくは1.3以上であり、そして、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、更に好ましくは1.6以下、より更に好ましくは1.5以下である。比(Da/De)が1.2以下であると活性エネルギー線硬化樹脂との密着性が低下し、2.5より大きいと活性エネルギー線硬化型樹脂と積層した場合に分散液からなるブロッキング防止層が白化する。
【0033】
(多層構造重合体の製造)
多層構造重合体は、乳化重合法により製造されることが好ましい。乳化重合に使用される乳化剤の種類と量は、重合系の安定性、目的とする粒子径等によって選択されるが、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等の公知の乳化剤を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。これらの中でも特にアニオン界面活性剤が好ましい。
【0034】
係るアニオン界面活性剤として、例えばステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム等のカルボン酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;モノ−n−ブチルフェニルペンタオキシエチレンリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩;ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンジデシルエーテル酢酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩などが挙げられる。これらの中でもポリオキシエチレンアルキルエーテル基又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル基を有するカルボン酸塩又はリン酸塩は、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルとの相溶性がよく、活性エネルギー線硬化型樹脂との密着性を高められることから好適である。係る乳化剤の具体的な例としては、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0035】
多層構造重合体の製造において、硬質重合体成分(II)を形成する単量体のうち、架橋ゴム重合体成分(I)にグラフト結合される割合は、85〜100質量%、好ましくは90〜100質量%、更に好ましくは95〜100質量%である。係る割合は、架橋ゴム重合体成分(I)又は硬質重合体成分(II)を形成する単量体混合物に配合する多官能単量体の量により制御できる。
【0036】
本発明の分散液の固形分における多層構造重合体の含有量は、水分散性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であり、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、そして、10質量部以下であり、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。多層構造重合体の含有量が0.1質量部未満であるとブロッキング防止性が低下し、10質量部より多いとヘイズが増大し透明性が低下する。
本発明の分散液において、固形分中の多層構造重合体及び水分散性樹脂の合計量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0037】
<水分散性樹脂>
本発明の分散液は、固形分として、前記多層構造重合体以外に更に水分散性樹脂を含む。固形分として水分散性樹脂を含有することで、アクリル系樹脂等の耐溶剤性が低い材料からなる基材を使用する場合でも、溶剤の浸食による基材の機械的物性低下や表面不良を低減することができ、分散液の均一なコーティングが可能となる。
水分散性樹脂は、親水性官能基を有するものが好ましく、該親水性官能基としてカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、第4級アンモニウム基等が挙げられる。これらの親水性官能基は、単独で又は2種以上を組み合わせてもよい。
水分散性樹脂としては、例えば水分散性ポリウレタン系樹脂、水分散性アクリル系樹脂又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。これらの中でも、密着性の観点から、水分散性ポリウレタン系樹脂が好ましい。
【0038】
(水分散性ポリウレタン系樹脂)
以下、水分散性樹脂の好ましい形態として、水分散性ポリウレタン系樹脂を例に挙げて詳細に説明する。
水分散性ポリウレタン系樹脂はカルボキシル基を含有することが好ましい。前記ポリウレタン系樹脂がカルボキシル基を含有することにより、前記ポリウレタン系樹脂の分散媒への分散性が向上し、後述する基材及び活性エネルギー線硬化型樹脂との密着性が向上する。
前記ポリウレタン系樹脂は、例えば、ポリオール及びポリイソシアネートに、カルボキシル基を有する鎖延長剤を反応させることで得ることができる。
カルボキシル基を有する鎖延長剤としては、例えばジヒドロキシカルボン酸、ジヒドロキシコハク酸等を挙げることができる。ジヒドロキシカルボン酸としては、例えばジメチロール酢酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロールペンタン酸等のジメチロールアルカン酸を含むジアルキロールアルカン酸を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
ポリオールは、分子中にヒドロキシ基を2つ以上有するものであれば特に限定されず、好ましくはポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールである。これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
ポリエステルポリオールは、多塩基酸成分とポリオール成分とを反応させて得られる。
係る多塩基酸成分としては、例えば、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、酒石酸、アルキルコハク酸、リノレン酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸;ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;あるいは、これらの酸無水物、アルキルエステル、酸ハライド等の反応性誘導体等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
係るポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、4,4'−ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4'−ジヒドロキシメチルメタン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,2,5−ヘキサトリオール、ペンタエリスリトール、グルコース、スクロース及びソルビトール等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの単独重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブチレンオキシドのランダム共重合体やブロック共重合体等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
ポリイソシアネートは、分子中にイソシアネート基を2つ以上有する化合物であれば制限されないが、例えば、1,4−フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)等の芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等の脂肪族ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環式ジイソシアネート化合物;からなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0043】
水分散性ポリウレタン系樹脂の製造には公知の方法を採用することができ、例えば上記各成分を一度に反応させるワンショット法及び段階的に反応させる多段法を挙げることができる。カルボキシル基を有する水分散性ポリウレタン系樹脂を製造する場合、反応性の観点から、多段法で製造することが好ましい。前記ポリウレタン系樹脂の製造時に任意の適切なウレタン反応触媒を用いることもできる。
水分散性ポリウレタン系樹脂の製造において、ポリイソシアネートに対して不活性であり水と相溶する有機溶剤を用いることが好ましい。係る有機溶剤として、例えば酢酸エチル、エチルセロソルブアセテート等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ジオキサンテトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤などを挙げることができ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水分散性ポリウレタン系樹脂の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000であることが好ましい。重量平均分子量が10,000以上であると密着性が向上し、1,000,000以下であると水分散性ポリウレタン系樹脂の製造が容易となる。
【0044】
(水分散性アクリル系樹脂)
水分散性アクリル系樹脂は、アクリル系モノマーを重合させて製造することができる。係るアクリル系モノマーは、ガラス転移温度が常温より高い単独重合体を与えるものを用いることが好ましく、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル又はこれらの混合物等が挙げられる。
水分散性アクリル系樹脂を形成するアクリル系モノマーは、さらにガラス転移温度が常温より低い単独重合体を与えるアクリル系モノマーを少なくとも1種含むことができる。これにより、密着性及びブロッキング防止層の物性を向上させることができる。ガラス転移温度が常温より低い単独重合体を与えるアクリル系モノマーとしては、例えばアクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル又はこれらの混合物等が挙げられる。
水分散性アクリル系樹脂を形成するアクリル系モノマーは、さらに水溶性アクリル系モノマーを少なくとも1種含むことができる。これにより、アクリル系モノマーの保存安定性が向上する。水溶性アクリル系モノマーとして、例えばアクリル酸2−ヒドロキシヘキシル、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、(メタ)アクリル酸又はこれらの混合物等が挙げられる。
水分散性アクリル系樹脂の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000であることが好ましい。重量平均分子量が10,000以上であると密着性が向上し、1,000,000以下であると水分散性アクリル系樹脂の製造が容易となる。
【0045】
本発明の分散液には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば帯電防止剤、難燃剤、微粒子、顔料、染料等の任意成分が配合されていてもよい。微粒子は、無機微粒子でも有機微粒子でもよい。無機微粒子としては、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、シリカ(二酸化珪素)、焼成珪酸カルシウム、焼成カオリン、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ガラス、タルク、クレイ、マイカ、カーボンブラック、およびホワイトカーボン等が挙げられる。有機微粒子としては、例えば架橋スチレン系樹脂粒子、高分子量スチレン系樹脂粒子、および架橋シロキサン系樹脂粒子等が挙げられる。微粒子は、脂肪酸等を用いて表面処理された微粒子であってもよい。マイカは、合成マイカと天然マイカのいずれでもよい。
【0046】
(分散液の調製)
本発明の分散液は、上記した水分散性樹脂、多層構造重合体、分散媒及び必要に応じて更に任意成分を混合後、撹拌することによって製造することができる。水分散性樹脂及び多層構造重合体のそれぞれは固形状態で混合してもよいし、分散媒に分散されたエマルジョンの状態で混合してもよい。後者の場合は、固形状態の水分散性樹脂ないし多層構造重合体を分散媒に分散して調製してもよいし、これらの製造過程で得られるエマルジョンをそのままあるいは濃縮ないし希釈した後に使用してもよい。
上記分散媒は液体であり、取扱い性の観点から水を主成分とする分散媒が好ましい。また、分散媒が水を主成分とする場合、環境負荷が小さく、特別な防曝設備が不要であるため、基材の製造時にインライン(in−line)で分散液を基材に塗布することができる。分散液における固形分の割合は特に限定されないが、分散液100質量部に対して好ましくは1〜20質量部であり、より好ましくは5〜15質量部である。固形分が1質量部以上であるとブロッキング防止性及び密着性が向上し、20質量部以下であると取扱い性が容易である。
分散媒はアルコール類を含んでもよい。この場合、水とアルコール類の合計量を100質量%としたアルコール類の割合は、好ましくは50質量%未満であり、より好ましくは30質量%未満であり、更に好ましくは10質量%未満である。50質量%未満であると密着性や打ち抜き加工性が向上する。用いるアルコール類は特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。
【0047】
本発明の分散液は、密着性の観点から、多層構造重合体の製造で用いた乳化剤の含有量が少ないことが好ましい。乳化剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル基又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル基を有する、カルボン酸、リン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いた場合には、これらの含有量は、分散液の固形分の質量に対して、好ましくは5〜50質量ppm、より好ましくは10〜30質量ppm、更に好ましくは15〜25質量ppmである。分散液中の乳化剤の含有量は、具体的には実施例に記載の方法により測定される。
本発明の分散液は、ブロッキング防止性及び透明性に優れ、かつ活性エネルギー線硬化型樹脂との密着性に優れ、さらに活性エネルギー線硬化型樹脂と積層しても白化し難い層を形成できるため、ブロッキング防止層用分散液(ブロッキング防止層を形成するための分散液)として好適に用いることができる。
【0048】
[積層体]
本発明の積層体は、熱可塑性樹脂からなる基材の少なくとも片面に、本発明の分散液からなるブロッキング防止層を有する。これにより、巻取シワやブロッキング等の巻取不良が効果的に改善された積層体が得られる。
【0049】
<基材>
基材は熱可塑性樹脂からなり、係る熱可塑性樹脂としては、例えばノルボルネン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。なお基材は上記のような樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。また基材は熱可塑性重合体のみからなっていてもよいし、熱可塑性重合体以外の他の成分(その他の重合体や添加剤等)を含んでいてもよい。
【0050】
(メタ)アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位から選択される少なくとも1種を含む樹脂を主成分とするもので、アクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル単位からなる単独重合体のみならず、アクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位から選択される少なくとも1種に、さらにこれら以外の他の単量体単位が共重合された共重合体、及びこれらの(メタ)アクリル系樹脂に他の樹脂がブレンドされたブレンド樹脂であってもよい。(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば(メタ)アクリル酸アルキル単位及びN−シクロアルキルマレイミド単位を含む共重合体;(メタ)アクリル酸アルキル単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体;(メタ)アクリル酸アルキル単位、N−シクロアルキルマレイミド単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体等が挙げられる。また、上記のような共重合体及び主鎖にカーボネート部を有する芳香族基含有ポリカーボネート系樹脂を含むブレンド樹脂であってもよい。
【0051】
(メタ)アクリル酸アルキル単位のアルキル基は、炭素数が1〜10であることが好ましく、炭素数が1〜4であることがより好ましい。
N−シクロアルキルマレイミド単位のN−シクロアルキル基は、炭素数が4〜12であることが好ましく、炭素数が5〜8であることがより好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂は、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂であってもよい。係る(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば特開2000−230016号公報、特開2001−151814号公報、特開2002−120326号公報等に記載されたものを挙げることができる。
(メタ)アクリル系樹脂は、芳香族環を有する(メタ)アクリル系樹脂であってもよい。係る(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば特表2011−519389号公報に記載されたものが挙げられる。
【0052】
基材(好ましくはフィルム)の製造方法は特に限定されず、例えば熱可塑性樹脂とその他の重合体、添加剤等を公知の混合方法によって十分に混合して熱可塑性樹脂組成物を製造した後、これを成形して製造することができる。基材の成形方法としては、例えば溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法、射出成形法等が挙げられるが、特に溶融押出法が好ましい。
溶融押出法は特に限定されず、公知の溶融押出法によって行うことができ、例えばTダイ法やインフレーション法などを用いることができる。このとき、成形温度は、好ましくは150〜350℃であり、より好ましくは200〜300℃である。
【0053】
基材は無延伸のものでも延伸されたものでもよい。延伸フィルムの場合は、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムであってもよい。また、二軸延伸フィルムの場合は、同時二軸延伸フィルム又は逐次二軸延伸フィルムであってもよい。二軸延伸した場合、機械的強度が向上し、フィルムの性能が向上する。延伸は、適切な温度で延伸ロールを用いて押出方向に延伸したり、テンター等の横方向延伸機を用いて押出方向と垂直方向に基材を延伸することにより実施できる。
基材に分散液を塗布した後に基材を延伸する場合、分散液の乾燥と基材の延伸を同時に実施することができる。このとき、延伸温度は基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上であり、及びガラス転移温度より30℃高い温度(Tg+30℃)以下であることが好ましく、ガラス転移温度より2℃高い温度(Tg+2℃)以上であり、及びガラス転移温度より20℃高い温度(Tg+20℃)以下であることがより好ましい。延伸温度がTg以上であると基材が破断することなく延伸することができ、ガラス転移温度より30℃高い温度(Tg+30℃)以下であると分散液が流動することなく、基材を安定に延伸できる。
【0054】
(積層体の製造)
本発明の積層体は、基材の表面に本発明の分散液を塗布して乾燥させることで製造できる。これにより、基材の表面に分散液からなるブロッキング防止層が形成された積層体が得られる。
基材は、基材と分散液との密着性を向上させるため、分散液を塗布する前に、分散液を塗布する面に例えばコロナ処理やプラズマ処理等の表面処理をしてもよい。
【0055】
分散液の基材への塗布方法は特に限定されず、例えばバーコート、グラビア、ダイコート、スプレーコート等の公知の方法が挙げられる。塗布速度は15〜150m/minの範囲が好ましく、50〜100m/minの範囲がより好ましい。
基材に塗布された分散液は、基材とブロッキング防止層との密着性の観点から、80〜200℃で乾燥させることが好ましく、80〜150℃で乾燥させることがより好ましく、80〜100℃で乾燥させてもよい。分散液の塗布及び乾燥は、それぞれ別個に行うほか、上記の基材を二軸延伸する工程に組み込むこともできる。この場合、分散液の塗布は二軸延伸の予熱工程よりも前に行い、乾燥は予熱工程から弛緩工程の間で行うことが好ましい。
【0056】
分散液からなるブロッキング防止層の厚さは、好ましくは50〜10,000nmであり、より好ましくは100〜5,000nmであり、更に好ましくは500〜2,000nmである。係る層の厚さが50nm以上であるとブロッキング防止性及び密着性が向上し、10,000nm以下であると十分に乾燥させることができ、良好なブロッキング防止性が得られる。
基材の厚さは、好ましくは10〜1,000μmであり、より好ましくは20〜500μmであり、更に好ましくは20〜300μmであり、より更に好ましくは30〜200μmであり、30〜100μmであってもよい。
【0057】
本発明の積層体は、表面摩擦係数が好ましくは0.50以下、より好ましくは0.45以下、更に好ましくは0.40以下、より更に好ましくは0.35以下、特に好ましくは0.33以下である。表面摩擦係数が係る範囲であることで、巻取シワやブロッキング等の巻取不良を効果的に改善することができる。
前記積層体において、ブロッキング防止層は、光学用途で有効に活用する観点から、易接着性及び透明性を有することが好ましい。
前記積層体は、透明性の指標としてヘイズが好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下、より更に好ましくは0.2%以下である。ヘイズが1.0%以下であると、前記積層体を光学用途で用いる際に、良好なコントラスト比が得られる。
なお、積層体の表面摩擦係数及びヘイズは、実施例に記載の方法により測定される。
【0058】
本発明の積層体は、ブロッキング防止層の片面に、さらに活性エネルギー線硬化型樹脂層を有してもよい。
活性エネルギー線硬化型樹脂は、積層体の反りを抑制する観点から、溶剤の含有量が0〜2質量%であることが好ましい。係る溶剤の含有量はガスクロマトグラフィー等によって測定できる。溶剤としては、例えばn−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;アセトン、ブタノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。
活性エネルギー線硬化型樹脂は、塗布性の観点から、B型粘度計により測定される粘度が23℃で50〜2,000mPa・sであることが好ましい。活性エネルギー線硬化型樹脂は、無色透明であれば特に制限なく公知のものを使用することができる。
【0059】
活性エネルギー線硬化型樹脂の主成分となる活性エネルギー線硬化性化合物としては、例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基等を官能基に有する化合物などの活性エネルギー線によりラジカル重合を起こして硬化する化合物(以下、単に「光ラジカル重合性化合物」とも称する);エポキシ基、オキセタン基、水酸基、ビニルエーテル基、エピスルフィド基、エチレンイミン基等の官能基を有する化合物などの活性エネルギー線により光カチオン反応を起こして硬化する化合物(以下、単に「光カチオン重合性化合物」とも称する)が挙げられる。これらの活性エネルギー線硬化性化合物は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
光ラジカル重合性化合物として、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアリール(メタ)アクリレート;2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリル変性カルボン酸;トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート等のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート;エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールの(メタ)アクリル酸安息香酸混合エステル等のその他の(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0061】
光カチオン重合性化合物として、例えばエポキシ基を有する化合物、オキセタニル基を有する化合物等が挙げられる。
エポキシ基を有する化合物としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、異節環状型エポキシ樹脂、多官能性エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂等のアルコール型エポキシ樹脂;臭素化エポキシ樹脂等のハロゲン化エポキシ樹脂;ゴム変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エポキシ基含有ポリエステル樹脂、エポキシ基含有ポリウレタン系樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂等が挙げられる。
【0062】
オキセタニル基を有する化合物としては、例えばフェノキシメチルオキセタン、3,3−ビス(メトキシメチル)オキセタン、3,3−ビス(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン等が挙げられる。
【0063】
活性エネルギー線硬化型樹脂には、硬化反応効率を上げる目的で、重合開始剤を配合することができる。重合開始剤は、使用する活性エネルギー線の種類に合わせて選択される。重合開始剤としては、例えばアセトフェノン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系、ベンゾインアルキルエーテル系等の光ラジカル重合開始剤;芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等の光カチオン重合開始剤などが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−tert−ブチル−ジクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエチル)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
【0065】
ベンゾインアルキルエーテル系光重合開始剤としては、例えばベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
【0066】
光カチオン重合開始剤は、イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤であってもよく、非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤であってもよい。また、上記光カチオン重合開始剤は、上記光カチオン重合性化合物の光カチオン重合を効果的に開始及び進行させることができることから、波長300nm以上の光で活性化する光カチオン重合開始剤であることが好ましい。
【0067】
イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は、特に限定されず、例えば芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩類;鉄−アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール−アルミニウム錯体等の有機金属錯体類;テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等の嵩高い対アニオンを有する光カチオン重合開始剤などが挙げられる。これらのイオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤の市販品としては、例えば旭電化工業社製の商品名「アデカオプトマーSP150」、「アデカオプトマーSP170」等の「アデカオプトマー」シリーズや、ゼネラルエレクトロニクス社の商品名「UVE−1014」、サートマー社製の商品名「CD−1012」、ローディア社製の商品名「Photoinitiator 2074」等が挙げられる。
【0068】
非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は、特に限定されず、例えばニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N−ヒドロキシイミドホスホナート等が挙げられる。これらの非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤の市販品としては、例えばダウ・ケミカル社製の商品名「UVI−6992」等が挙げられる。
【0069】
重合開始剤の配合量は、活性エネルギー線硬化性化合物100質量部に対して好ましくは0.5〜20質量部であり、より好ましくは1〜10質量部である。係る配合量が0.5質量部以上であると硬化が十分となり、20質量部以下であると耐久性が良好となる。
【0070】
活性エネルギー線硬化型樹脂には、光増感剤、帯電防止剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、有機系粒子、無機酸化物粒子、金属粉末、顔料、染料等の任意成分が配合されていてもよい。
【0071】
活性エネルギー線は特に限定されず、例えばマイクロ波、赤外線、可視光、紫外線、X線、γ線等が挙げられる。取扱い性に優れ、比較的高エネルギーが得られることから紫外線が好適に用いられる。すなわち、活性エネルギー線硬化型樹脂層が紫外線硬化型樹脂層であることが好ましい。
活性エネルギー線の中でも好適である紫外線を例として詳細に説明する。紫外線を照射するために用いる光源は特に限定されず、例えば低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が挙げられる。照射強度は特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜100mW/cm
2であることが好ましい。光照射強度が0.1mW/cm
2以上であると反応時間が短くなり、生産性が向上し、100mW/cm
2以下であると、ランプからの輻射熱や重合反応熱等による活性エネルギー線硬化型樹脂の黄変を抑制し、基材や被着体の劣化を抑制することができる。光照射時間は、硬化状況に応じて適宜選択されるものであって特に限定されないが、照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜5,000mJ/cm
2となるように設定されることが好ましい。
【0072】
[成形体]
本発明の積層体は、接着剤として前述の活性エネルギー線硬化型樹脂を用い、活性エネルギー線硬化型樹脂層を介して該積層体が被着体に接合してなる成形体とすることができる。
本発明の積層体及び成形体の用途は特に限定されず、例えば車両外装、車両内装等の車両加飾部品;壁材、ウィンドウフィルム、浴室壁材等の建材部品;食器、玩具、楽器等の日用雑貨;掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電加飾部品;キッチンドア表装材等のインテリア部材;船舶部材;タッチパネル表装材、パソコンハウジング、携帯電話ハウジング等の電子通信機;液晶保護板、導光板、導光フィルム、偏光子保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、偏光板、各種ディスプレイの前面板及び表装材、拡散板等の光学関係部品;太陽電池又は太陽光発電用パネル表装材等の太陽光発電部材などが挙げられる
また、係る積層体及び成形体は、画像表示装置に組み込んで使用することができる。画像表示装置としては、例えば液晶ディスプレイ(LCD)、陰極線管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、タッチパネル、タブレットPC、電子ペーパー、ヘッドアップディスプレイ(HUD)等が挙げられる。
【0073】
(偏光板)
係る成形体の好適な例として偏光板が挙げられる。以下、偏光板を例に本発明の積層体を用いた成形体を具体的に説明する。
偏光板は、本発明の積層体を偏光子保護フィルムとし、被着体を偏光子とし、偏光子の少なくとも一方の面に活性エネルギー線硬化型樹脂を介して該偏光子保護フィルムを接合することで得られる。
【0074】
偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面に偏光子保護フィルムが積層されてなるものであり、偏光子の両面に偏光子保護フィルムが積層されていてもよい。また、偏光子の一方の面に偏光子保護フィルムが積層され、もう一方の面に他の偏光子保護フィルムが積層されていてもよいし、偏光子の一方の面に偏光子保護フィルムが積層され、もう一方の面には偏光子保護フィルムが積層されていないものであってもよい。
【0075】
偏光子は特に限定されないが、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムをヨウ素で染色した延伸フィルムが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂はポリ酢酸ビニル系樹脂を鹸化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルがある。他の例として、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体がある。他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類等が挙げられる。
偏光子の厚さは、好ましくは5〜40μm、より好ましくは10〜35μmである。
【0076】
本発明の積層体を偏光子に貼り合わせる方法は特に限定されず、ブロッキング防止層の片面に活性エネルギー線硬化型樹脂層を有する積層体を偏光子と貼り合わせる方法、偏光子に接着剤として活性エネルギー線硬化型樹脂を塗布し、偏光子上に形成された活性エネルギー線硬化型樹脂層の面にブロッキング防止層の面を貼り合わせる方法等が挙げられる。
偏光子に活性エネルギー線硬化型樹脂を塗布する方法は限定されない。例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等、種々の塗布装置を利用できる。積層体を偏光子に貼り付ける前に、偏光子の表面に、鹸化処理、コロナ処理、プライマー処理、アンカーコーティング処理等の易接着処理を施してもよい。
本発明の積層体を用いた偏光板は、密着性及び透明性に優れていることから、液晶ディスプレイの使用環境の厳しい機器にもその用途を広げるものであり、例えば大型テレビ、カーナビゲーションシステム、スマートホン、タブレット型やモバイル型等のパーソナルコンピュータ、ウェラブルディスプレイ等が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。また、本発明は、上記実施形態及び下記実施例に述べる、特性値、形態、製法、用途等の技術的特徴を表す事項を、任意に組み合わせてなるすべての態様を包含している。
【0078】
実施例及び比較例における物性値の測定等は以下の方法によって実施した。なお、実施例及び比較例に使用した単量体等の略称は以下である。
MMA:メタクリル酸メチル
ALMA:メタクリル酸アリル
MA:アクリル酸メチル
BA:アクリル酸n−ブチル
BzA:アクリル酸ベンジル
St:スチレン
n−OM:n−オクチルメルカプタン
3NEX:ポリオキシエチレン(エチレンオキシド平均付加モル数=3)トリデシルエーテル酢酸ナトリウム、(日光ケミカルズ社製「ニッコール3NEX」、固形分99質量%以上)
G25:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液、(花王社製「ネオペレックスG25」、固形分26質量%)
【0079】
〔硬質重合体成分(II)の式量の数平均値〕
硬質重合体成分(II)の式量の数平均値は、以下の装置及び測定条件でGPC(ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー)によりポリスチレン換算分子量で求めた。
装置:東ソー社製GPC装置「HLC−8320」
分離カラム:東ソー社製の「TSKguardcolum SuperHZ−H」、「TSKgel HZM−M」及び「TSKgel SuperHZ4000」を直列に連結
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35ml/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)
【0080】
〔水中における多層構造重合体のメジアン径De〕
硬質重合体成分(II)を重合したあとに得られるエマルジョンを水で200倍に希釈し、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、装置名「LA−950V2」)を用いて25℃で係る希釈液を分析し、メジアン径Deを算出した。この際、多層構造重合体及び水の絶対屈折率をそれぞれ、1.4900、1.3333とした。
【0081】
〔アセトン中における多層構造重合体のメジアン径Da〕
実施例及び比較例で得られた多層構造重合体0.2gを10gのアセトンに浸漬し、25℃で24時間放置して溶解及び膨潤させ、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、装置名「LA−950V2」)を用いて係るアセトン分散液を分析し、メジアン径Daを算出した。この際、多層構造重合体及びアセトンの絶対屈折率をそれぞれ、1.4900、1.3591とした。
【0082】
〔多層構造重合体のグラフト率〕
(1)調合液の作製
多層構造重合体のエマルジョンを凍結して乾燥し、多層構造重合体の粉末を得た。該粉末2gを精秤し、これをサンプルの質量(W)とした。該粉末をアセトン118gに、25℃で24時間浸漬した。その後、粉末及びアセトンを撹拌することで、多層構造重合体をアセトン中に均一に分散させ、調合液を作製した。
(2)グラフト率の算出
次いで、予め秤量しておいた4本のステンレス製遠沈管に調合液を各30g分取した。高速冷却遠心機(日立製作所社製、機種名「CR22GIII」)にて、0℃、20,000rpm、60分間の条件にて、遠沈管を遠心した。それぞれの遠沈管から上澄み液を、デカンテーションにより除去した。
その後、各遠沈管に新たにアセトン30gを入れた。沈殿物及びアセトンを撹拌した。再び遠沈管を上記と同じ条件にて遠心した後、それぞれの遠沈管から上澄み液を除去した。撹拌、遠心分離及び上澄み除去を計4回繰り返した。以上により、アセトン可溶分を十分に除去した。
その後、沈殿物を、遠沈管ごと真空乾燥にて乾燥させた。乾燥後に沈殿物を秤量することで、アセトン不溶分の質量を求めた。下記式に基づいて多層構造重合体のグラフト率を算出した。
グラフト率={〔アセトン不溶分の質量−架橋ゴム重合体成分(I)の質量〕/架橋ゴム重合体成分(I)の質量}×100
ここで、架橋ゴム重合体成分(I)の質量は、質量(W)のサンプル中に含まれる架橋ゴム重合体成分(I)を合成するために用いた単量体の質量の合計である。
なお、多層構造重合体が弾性体層の内側に更に前記内層を有する場合には、上記式において架橋ゴム重合体成分(I)の質量は、質量(W)のサンプル中に含まれる架橋ゴム重合体成分(I)と重合体成分(i)を合成するために用いた単量体の質量の合計である。
【0083】
〔分散液中の乳化剤含有量〕
(標準溶液の調製)
多層構造重合体の製造に使用した乳化剤をメタノールに溶解させてメタノール標準溶液を調製した。
(試料溶液の調製)
実施例及び比較例で得た分散液20gにメタノール100mLを加え、濾紙(アドバンテック社製、JIS P 3801、2種)を用いて吸引濾過した後、メタノールをエバポレーターで留去した。次いで、メタノール留去後の残留物にメタノール5mLを添加して残留物を溶解し、シリンジフィルター(アドバンテック社製、孔径5μm)で濾過し、試料溶液を調製した。
(乳化剤含有量の測定)
上記で得られた標準溶液を用いて、下記装置及び条件のHPLCで分析して検量線を作成した。ベースラインはピークスタートとピークエンドを結ぶ線とした。ピークスタートは、HPLCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点とし、ピークエンドは、HPLCチャートの低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点とした。
次いで、上記で得られた試料溶液を下記の装置及び条件のHPLCで分析し、分散液中の乳化剤含有量を測定した。
装置:資生堂社製HPLC装置「NANOSPACE SI−2」
カラム:資生堂社製のカプセルパックC18(AG120、内径4.6mm×長さ250mm、粒子径5μm)
溶離液:メタノール/水=90/10(体積比)
溶離液流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)
【0084】
〔ヘイズ〕
実施例及び比較例で得た積層体を50mm×50mmに切り出して試験片とし、JIS K7105:2008に準拠してヘイズメーター(村上色彩技術研究所社製、装置名「HM−150」)を用いて23℃にてヘイズを測定した。
【0085】
〔表面摩擦係数〕
実施例及び比較例で得た積層体を70mm×80mmに切り出して試験片とした。2枚の試験片を用意し、一方の試験片のブロッキング防止層側と、他方の試験片の基材側とを向かい合わせ、小型卓上試験機(島津製作所製、型名「EZ−SX」)を用いて、220g重の荷重を乗せた条件で2枚の試験片の間の動摩擦力(N)を測定し、次式により動摩擦係数μを算出し、これを表面摩擦係数とした。なお、移動速度は200mm/minの速度で行った。
動摩擦係数μ=F/N
ここで、Fは動摩擦力(N)、Nは垂直効力(N)である。
【0086】
〔ブロッキング防止性〕
実施例及び比較例で得た積層体を50mm×50mmに切り出して試験片とした。2枚の試験片を用意し、一方の試験片のブロッキング防止層側と、他方の試験片の基材側とを向かい合わせ、60℃の条件で、35g/cm
2の圧力をかけた状態で24時間放置し、その後2枚の試験片のブロッキングの状態を以下の基準A〜Cで評価した。下記分類でB以上であれば実用に供することができる。
A:ブロッキングしておらず、2枚の試験片を容易に手で剥がせる。
B:僅かにブロッキングするが、2枚の試験片を手で剥がせる。
C:強くブロッキングし、2枚の試験片を手で剥がせない。
【0087】
〔積層体の断面観察〕
実施例及び比較例で得た積層体をエポキシ樹脂で固め、ミクロトーム(ライカ マイクロシステムズ株式会社、製品名「LEICA EM UC6/FC6」)を用いて、積層体の断面を観察するための薄膜切片を作製した。係る薄膜切片を15質量%リンタングステン酸水溶液に15分浸漬して染色し、反射型電子顕微鏡(JEOL社製、製品名「JSM−7600F」)で観察した。
【0088】
〔密着性〕
本発明の積層体を偏光子保護フィルムとして、活性エネルギー線硬化型樹脂層とブロッキング防止層との間の密着性を以下の通り評価した。実施例及び比較例で得た成形体から、縦50mm×横25mmのサンプルを無作為に10個切り出した。活性エネルギー線硬化型樹脂層の部分にカッターで切れ込みを入れ、偏光子保護フィルムと偏光子とに分かれるように手でサンプルの剥離を試みた。これらの密着性を以下の基準A〜Cで評価した。下記分類でB以上であれば実用に供することができる。
A:接着力が強く、全てのサンプルでいずれかのフィルムが破損し、全てのサンプルで偏光子と偏光子保護フィルムとを分離できなかった。
B:10個中、9個のサンプルで偏光子及び偏光子保護フィルムのいずれかが破損した。すなわち材料破壊があった。1個のサンプルで偏光子及び偏光子保護フィルムのいずれもが破損することなく、活性エネルギー線硬化型樹脂層と基材の間を界面として両フィルムを分離できた。すなわち界面剥離ができた。
C:材料破壊が起きたサンプルが8個以下だった。また2個以上のサンプルで界面剥離ができた。全てのサンプルで、両フィルムの界面剥離ができた比較例もここに分類されるものとする。
【0089】
〔白化の評価〕
実施例及び比較例で得た成形体から、縦50mm×横25mmのサンプルを無作為に10個切り出してその外観を観察し、偏光子保護フィルムの白化の程度を下記の基準A〜Cで評価した。偏光子は黒色のため、ブロッキング防止層が白化すると、サンプルの外観が白くなる。下記分類でB以上であれば実用に供することができる。
A:10個中全てのサンプルが白化していなかった。
B:10個中、1個のサンプルが白化した。他のサンプルは白化していなかった。
C:10個中、2個以上のサンプルが白化した。
【0090】
(製造例1)[多層構造重合体(A1)の製造]
(1)撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1,050質量部、ポリオキシエチレン(エチレンオキシド平均付加モル数=3)トリデシルエーテル酢酸ナトリウム(日光ケミカルズ社製、商品名「ニッコール3NEX」、固形分99質量%以上)0.13質量部及び炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃に昇温した後、同反応器内に、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間撹拌した。さらに同反応器内に、表1に示す重合体成分(i)を形成する単量体混合物245質量部に前記ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム1.75質量部を溶解した溶液を、60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに30分間重合反応を行い、内層に相当する重合体成分(i)のエマルジョンを得た。
(2)次いで、内温を80℃に維持したまま、同反応器内に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間撹拌した。次いで同反応器内に、表1に示す架橋ゴム重合体成分(I)を形成する単量体混合物315質量部に前記ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.85質量部を溶解した溶液を、60分間かけて連続的に滴下し、内層に弾性体層が被覆した重合体成分のエマルジョンを得た。
(3)次に、内温を80℃に維持したまま、同反応器内に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間撹拌した。次いで同反応器内に、表1に示す硬質重合体成分(II)を形成する単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに60分間重合反応を行った。以上の操作によって、内層を有する弾性体層に外層が被覆した多層構造重合体(A1)を含有するエマルジョン(AI)を得た。多層構造重合体(A1)のエマルジョン(AI)を凍結して凝固させた。次いで水洗及び乾燥し、水中におけるメジアン径Deが285nmであり、グラフト率が24質量%である多層構造重合体(A1)を得た。
【0091】
(製造例2〜4、製造例6〜8)[多層構造重合体(A2〜A4、A6〜A8)の製造]
製造例1において、表1に示す配合とした以外は製造例1と同様にして、多層構造重合体エマルジョン(AII〜AIV、AVI〜AVIII)及び多層構造重合体(A2〜A4、A6〜A8)を製造した。各多層構造重合体エマルジョン及び多層構造重合体の特性を表1に示す。
【0092】
(製造例5)[多層構造重合体(A5)の製造]
(1)撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1,050質量部、ジドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(花王社製、商品名「ネオぺレックスG25」、固形分26質量%)0.46質量部及び炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃に昇温した。次いで同反応器内に、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間撹拌した。さらに同反応器内に、表1に示す重合体成分(i)単量体混合物70質量部に前記ジドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液6.73質量部を溶解した溶液を、60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに30分間重合反応を行い、内層に相当する重合体成分(i)のエマルジョンを得た。
(2)次いで、内温を80℃に維持したまま、同反応器内に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間撹拌した。次いで同反応器内に、表1に示す架橋ゴム重合体成分(I)を形成する単量体混合物315質量部に前記ジドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液3.27質量部を溶解した溶液を60分間かけて連続的に滴下し、内層に弾性体層が被覆した重合体成分のエマルジョンを得た。
(3)次に、内温を80℃に維持したまま、同反応器内に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間撹拌した。次いで同反応器内に、表1に示す硬質重合体成分(II)を形成する単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに60分間重合反応を行った。以上の操作によって、内層を有する弾性体層に外層が被覆した多層構造重合体(A5)を含有するエマルジョン(AV)を得た。多層構造重合体(A5)のエマルジョン(AV)を凍結して凝固させた。次いで水洗及び乾燥し、水中におけるメジアン径Deが285nmであり、グラフト率が65質量%である多層構造重合体(A5)を得た。
【0093】
【表1】
なお、表1の各表記は下記のとおりである。
*1:多層構造重合体エマルジョンに占める乳化剤の含有量(質量%)を示す。
*2:多層構造重合体に占める硬質重合体成分(II)の割合を示す。
*3:硬質重合体成分(II)の式量の数平均値を示す。
【0094】
(調製例1)[活性エネルギー線硬化型樹脂接着剤]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名「jER−828」)35質量%、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン(東亞合成社製、商品名「アロンオキセタンOXT−211」)59質量%、光カチオン重合開始剤としてトリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートのプロピレンカーボネート溶液(ダウ・ケミカル社製、商品名「UVI−6992」、有効成分50質量%)6質量%を配合して活性エネルギー線硬化型樹脂接着剤を調製した。これらの原料は常法に従って撹拌混合した。
【0095】
<実施例1>
(分散液(C1)の作製)
カルボキシ変性ポリエステルウレタン樹脂の水分散液(第一工業製薬社製、商品名「スーパーフレックス210」、固形分35%)100質量部をイオン交換水250質量部で希釈し、これに製造例1で得た多層構造重合体(A1)のエマルジョン(AI)(固形分40質量%)0.44質量部を加えて撹拌し、カルボキシ変性ポリエステルウレタン樹脂100質量部に対して多層構造重合体(A1)0.5質量部含む固形分が、分散液100質量部に対して10質量部の割合で分散した分散液(C1)を得た。係る分散液(C1)は固形分の質量に対して乳化剤を19質量ppm含有していた。
【0096】
(積層体(D1)の作製)
国際公開第2014/185509号の実施例1を参考にして得たメタクリル系樹脂組成物を、Tダイを備えたΦ65mmベント付単軸押出機で溶融し、ダイリップのリップ開度が1mmであるTダイから押出し、金属弾性ロールと金属剛体ロールで30N/mmの線圧をかけて引き取って、厚さ160μmのメタクリル系樹脂フィルム(アクリルフィルム)を得た。分散液(C1)を、該メタクリル系樹脂フィルムの一方の面にバーコーターを用いて、乾燥及び延伸後の厚さが1.2μmとなるように塗布し、130℃で加熱した。次いで、このフィルムに、テンター式延伸機を用いて、145℃で縦に2倍、横に2倍の同時二軸延伸を実施し、メタクリル系樹脂フィルムの一方の面にブロッキング防止層を有する厚さ40μmの積層体(D1)を得た。
【0097】
(成形体(F1)の作製)
次に、積層体(D1)のブロッキング防止層上に、25℃において、調製例1で得た活性エネルギー線硬化型樹脂接着剤を厚さ2μmで塗布し、厚さ10μmの偏光子(PVAフィルムに対してヨウ素系色素による染色及び延伸を施して製造したもの)を係る塗布層に重ね合わせた。また、係る偏光子において、積層体が積層された面と反対側の面に対しても同様に、調製例1で得た活性エネルギー線硬化型樹脂接着剤を塗布した積層体(D1)を重ね合わせた。このようにして得られた、積層体(基材/ブロッキング防止層)/活性エネルギー線硬化型樹脂接着剤/偏光子/活性エネルギー線硬化型樹脂接着剤/積層体(ブロッキング防止層/基材)の順に層構成を有する成形体前駆体をローラーにて押圧した。
その後、メタルハライドランプ(GS YUASA社製)を用い、上記成形体前駆体に、積算光量が700mJ/cm
2となるように紫外線を照射した。紫外線照射後、温度23℃、相対湿度50%で24時間静置することで成形体(F1)を得た。積層体及び成形体の評価結果を表2に示す。
【0098】
<実施例2〜5、比較例1〜3>
実施例1において、製造例2〜8で得た多層構造重合体(A2〜A8)のエマルジョン(AII〜AVIII)を使用した以外は実施例1と同様の方法で分散液(C2〜C8)を得た。これらの特性を表2に示す。
また実施例1において、表2に示す分散液(C2〜C8)を使用した以外は実施例1と同様の方法で積層体(D2〜D8)及び成形体(F2〜F8)を作製した。評価結果を表2に示す。
【0099】
<比較例4>
(分散液(C9)の作製)
カルボキシ変性ポリエステルウレタン樹脂の水分散液(第一工業製薬社製、商品名「スーパーフレックス210」、固形分35%)100質量部をイオン交換水250質量部で希釈し、これにコロイダルシリカの水分散液(日産化学工業社製、商品名「スノーテックスZL」、固形分40質量%)0.44質量部を加えて撹拌し、カルボキシ変性ポリエステルウレタン樹脂100質量部に対してコロイダルシリカ0.5質量部含む固形分が、分散液100質量部に対して10質量部の割合で分散した分散液(C9)を得た。
【0100】
(積層体(D9)及び成形体(F9)の作製)
実施例1において、分散液(C1)の代わりに分散液(C9)を使用した以外は実施例1と同様の方法で積層体(D9)及び成形体(F9)を作製した。評価結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
なお、表2中の各表記は下記のとおりである。
*1:分散液100質量部に対する分散液中の固形分の含有量(質量部)を示す。
*2:固形分の質量に対する分散液中の乳化剤の含有量(質量ppm)を示す。
【0102】
実施例1〜5は、比較例1〜4と比べて、ブロッキング防止性及び透明性に優れ、かつ密着性及び白化の抑制に優れていることが分かる。
比較例1は、外層を構成する硬質重合体成分(II)中のメタクリル酸メチル単位の含有量が75質量%未満であるため、ブロッキング防止性が劣る。
比較例2及び3は、メジアン径の比(Da/De)が前記式(1)を満たさないため、比較例2は活性エネルギー線硬化型樹脂接着剤によりブロッキング防止層が白化し、比較例3は密着性が劣る。
比較例4は、ブロッキング防止剤としてコロイダルシリカを用いた。ブロッキング防止性は良好であるものの、ヘイズが高く透明性が劣り、白化も抑制されていなかった。
実施例1で得た積層体(D1)の断面を、反射型電子顕微鏡(JEOL社製、製品名「JSM−7600F」)で観察した写真を
図2に示す。
図2から、本発明に係る多層構造重合体がブロッキング防止層において積層体の表面側に偏在しており、ブロッキング防止に奏功していることが分かる。