(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る接合材、接合材の製造方法、および、接合構造体の作製方法の実施形態を説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、以下の実施形態を適宜変更してもよい。なお、冗長な説明を避けるために、重複する記載を適宜省略することがあるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0024】
図1を参照して本発明に係る接合材10の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の接合材10の模式図を示す。接合材10は接合対象物を接合するために用いられる。接合材10は、典型的には薄膜状である。
【0025】
接合材10は非晶質銀膜12を含む。非晶質銀膜12は主成分として非晶質銀を含有する。ただし、非晶質銀膜12は非晶質銀以外の不純物を含有してもよい。非晶質銀膜12中の非晶質銀の割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、非晶質銀膜12の厚さは、例えば10nm以上1μm以下である。
【0026】
典型的には、接合材10は2つの主面を有している。
図1では、接合材10は、いずれの主面もいずれの部材とも接触することなく露出するように示されている。ただし、接合材10を接合対象物と接触させる前に、接合材10の2つの主面のうちの少なくとも一方の主面は何らかの部材と接触していてもよい。
【0027】
一般に、非晶質銀は比較的不安定であることが知られている。本実施形態では、接合材10を加熱すると、非晶質銀膜12内の非晶質銀が結晶化して結晶性銀となり安定化する。本明細書において、非晶質銀膜12内の非晶質銀を結晶化させた結晶性銀を含む膜を結晶性銀膜と記載することがある。
【0028】
接合材10と接合対象物とを接触させて加熱すると、非晶質銀膜12内の非晶質銀が結晶化し、非晶質銀膜12は結晶性銀膜に変化する。非晶質銀膜12から結晶性銀膜に変化する際に接合材10は接合対象物と結合する。したがって、本実施形態の接合材10を利用して接合対象物を接合させた接合構造体を作製できる。
【0029】
以下、
図2を参照して本発明に係る接合構造体100の実施形態を説明する。
図2は、本実施形態の接合構造体100の模式図を示す。
【0030】
接合構造体100は、接合材10と、接合対象物110と、接合対象物120とを備える。接合材10は薄膜状である。接合構造体100では、接合対象物110、接合材10および接合対象物120がこの順番に積層しており、接合材10が、接合対象物110と接合対象物120とを接合している。ここでは、接合材10は結晶性銀膜12Lを含む。結晶性銀膜12Lは、
図1に示した非晶質銀膜12を加熱して結晶化することによって形成される。なお、本明細書の以下の説明において、接合対象物110、接合対象物120をそれぞれ第1接合対象物110、第2接合対象物120と記載することがある。
【0031】
第1接合対象物110は任意の部材であってもよい。例えば、接合対象物110は基板である。基板は、金属基板であってもよく、絶縁基板であってもよい。
【0032】
金属基板を構成する物質は、例えば、銅、亜鉛、金、パラジウム、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、アルミナ、タングステン、ニオブ、モリブデン、チタン、ステンレス鋼、イオンバー合金(鉄、ニッケル、マンガンおよび炭素を構成成分とする合金)、またはコバール合金(鉄、ニッケル、コバルト、マンガンおよびシリコンを構成成分とする合金)である。また、絶縁基板を構成する物質は、例えば、ガラス、シリカガラス、シリコン、炭素、セラミックス、シリコンカーバイド、ガリウムナイトライド、シリコン上に形成したガリウムナイトライド、シリコンナイトライドまたはアルミニウムナイトライドである。
【0033】
また、第2接合対象物120は任意の部材であってもよい。例えば、接合対象物120は、基板は、金属基板であってもよく、絶縁基板であってもよい。第2接合対象物120を構成する材質としては、例えば、上記の接合対象物110を構成する材質と同様のものが挙げられる。
【0034】
あるいは、第2接合対象物120は、半導体素子または配線であってもよい。半導体素子を構成する材質は、例えば、シリコン、炭素、シリコンカーバイド、ガリウムナイトライド、シリコン上に形成したガリウムナイトライド、シリコンナイトライド、または、アルミニウムナイトライドである。配線を構成する物質は、例えば、銅、亜鉛、金、パラジウム、アルミニウム、ニオブ、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、チタン、または、鉄である。汎用性およびコストパフォーマンスに優れ、接合材10との接着を容易にするために、配線を構成する金属は銅または鉄であることが好ましい。
【0035】
本実施形態の接合構造体100において、接合材10は、非晶質銀膜12の結晶化した結晶性銀膜12Lを含んでおり、接合材10は接合対象物110と接合対象物120とを接合する。なお、接合対象物110は、接合材10と接する面に非晶質膜を有していることが好ましい。また、接合対象物120は、接合材10と接する面に非晶質膜を有していることが好ましい。
【0036】
上述したように、結晶性銀膜12Lは、非晶質銀膜12の結晶化によって形成される。非晶質銀膜12は、例えば、銀層から形成される。一例として、非晶質銀膜12は、銀層の表面上に銀層から形成される。あるいは、非晶質銀膜12は、銀層とは異なる部材の表面上に銀層から形成されてもよい。
【0037】
本実施形態の接合構造体100では、上述したように、非晶質銀膜12を含む接合材10を利用して第1接合対象物110と第2接合対象物120とを接合している。非晶質銀膜12の結晶化は、一般的な焼結温度よりも低い温度で進行するため、本実施形態の接合構造体100は、低温環境下であっても良好な接合を実現できる。また、第1接合対象物110および第2接合対象物120のいずれかの耐熱性が比較的低い場合でも、第1接合対象物110と第2接合対象物120を良好に接合できる。また、加熱炉などの大規模な装置を必要としないので、簡便なプロセスで低コストに接合を行うことができる。さらに、汎用性のある金属を利用して簡便に接合を行うことができる。
【0038】
ここで、
図3を参照して本実施形態による接合構造体100の作製方法の一例を説明する。接合構造体100は、上述した接合材10、接合対象物110、120を備えており、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0039】
図3(a)に示すように、第1接合対象物110および第2接合対象物120を用意する。
【0040】
図3(b)に示すように、第1接合対象物110および第2接合対象物120のうちの少なくとも一方の接合対象物に接合材10を形成する。ここでは、第1接合対象物110の表面に接合材10を形成する。接合材10は薄膜状である。接合材10は、主面10aと、主面10bとを有している。ここでは、接合材10の主面10aは第1接合対象物110と接触しており、接合材10の主面10bは露出している。
【0041】
接合材10は非晶質銀膜12を含む。非晶質銀膜12は接合材10の主面10bから露出している。なお、非晶質銀膜12は、第1接合対象物110と直接接触してもよい。
【0042】
また、非晶質銀膜12は、第1接合対象物110と別の層を介して間接的に接触してもよい。例えば、非晶質銀膜12と第1接合対象物110との間に接着層を設けてもよい。接着層を構成する材質は、例えば、チタンまたはチタンナイトライドである。接着層の厚さは、例えば、0.01μm以上0.05μm以下である。あるいは、後述するように、非晶質銀膜12と第1接合対象物110との間に銀層が設けられてもよい。
【0043】
なお、第1接合対象物110の表面に接合材10を形成した後、必要に応じて、第1接合対象物110および接合材10を酸素雰囲気に暴露させてもよい。
【0044】
図3(c)に示すように、第1接合対象物110と第2接合対象物120との間に接合材10を配置した積層体Lを形成する。第2接合対象物120は接合材10の主面10bと接触している。積層体Lでは、接合材10の非晶質銀膜12が第2接合対象物120と接触しており、積層体Lでは、第1接合対象物110および第2接合対象物120が接合材10を介して積層している。
【0045】
図3(d)に示すように、積層体Lを加熱して接合材10の非晶質銀膜12から結晶性銀膜12Lを形成し、接合構造体100を作製する。積層体Lの加熱は、例えば、ホットプレート、加熱炉または急速加熱処理(Rapid Thermal Anneal:RTA)で行われる。
【0046】
積層体Lを加熱するための加熱温度は、100℃以上400℃以下であることが好ましく、150℃以上300℃以下であることがさらに好ましい。例えば、積層体Lの加熱時間は、15分以上5時間以下であることが好ましく、30分以上3時間以下であることがさらに好ましい。
【0047】
積層体Lの加熱は、大気圧中で行われてもよいし、真空中で行われてもよい。あるいは、積層体Lの加熱は、不活性ガスまたは還元ガス(例えば、アルゴン、窒素、水素またはギ酸ガス)雰囲気で行われてもよい。
【0048】
積層体Lを加熱することにより、非晶質銀膜12の結晶化が進行して非晶質銀膜12から結晶性銀膜12Lが形成される。接合材10の非晶質銀膜12が結晶性銀膜12Lに変化すると、接合材10の結晶性銀膜12Lと第2接合対象物120との界面が結合し、接合材10が第1接合対象物110および第2接合対象物120を接合する。これにより、接合構造体100が作製される。
【0049】
なお、第1接合対象物110および第2接合対象物120の接合は、積層体Lに圧力を印加して行ってもよい。ただし、本実施形態において、接合構造体100は、非晶質銀膜12を含む接合材10を利用するため、比較的低い圧力で接合を行うことができる。例えば、接合は、無加圧または1MPa以下の圧力で行うことができる。
【0050】
本実施形態によれば、非晶質銀膜12を含む接合材10を利用して第1接合対象物110および第2接合対象物120を接合するため、比較的低い加熱温度でも、良好に接合することができる。したがって、加熱時の熱による第1接合対象物110および/または第2接合対象物120の破損、または、第1接合対象物110と第2接合対象物120との接合部付近におけるボイドの発生を抑制できる。
【0051】
なお、積層体Lを加熱すると非晶質銀膜12が厚くなることがある。その後、積層体Lをさらに加熱すると、非晶質銀膜12が結晶性銀膜12Lに変化してもよい。
【0052】
また、上述した説明では、第1接合対象物110および第2接合対象物120のうちの第1接合対象物110に接合材10を形成したが、本発明はこれに限定されない。第1接合対象物110および第2接合対象物120のうちの第2接合対象物120に接合材10を形成してもよい。ただし、第1接合対象物110および第2接合対象物120のうちの一方の接合対象物に接合材10を形成する場合、第1接合対象物110および第2接合対象物120のうちのより大きな接合対象物に接合材10を形成することが好ましい。
【0053】
あるいは、接合材10を第1接合対象物110および第2接合対象物120の両方に形成してもよい。
【0054】
ここで、
図4を参照して本実施形態による接合構造体100の作製方法の一例を説明する。
図4を参照して説明する本実施形態の作製方法は、第1接合対象物110および第2接合対象物120の両方に接合材を形成する点を除いて
図3を参照して上述した接合構造体100の作製方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0055】
図4(a)に示すように、第1接合対象物110および第2接合対象物120を用意する。
【0056】
図4(b)に示すように、第1接合対象物110および第2接合対象物120の両方に接合材を形成する。ここでは、第1接合対象物110の表面に接合材10Aを形成し、第2接合対象物120の表面に接合材10Bを形成する。接合材10Aは非晶質銀膜12aを含み、接合材10Bは非晶質銀膜12bを含む。
【0057】
接合材10Aにおいて、非晶質銀膜12aは露出している。なお、非晶質銀膜12aは、第1接合対象物110と直接接触してもよく、別の層を介して間接的に接触してもよい。例えば、非晶質銀膜12aと第1接合対象物110との間に接着層を設けてもよい。接着層を構成する材質は、例えば、チタンまたはチタンナイトライドである。また、接着層の厚さは、例えば、0.01μm以上0.05μm以下である。あるいは、後述するように、非晶質銀膜12aと第1接合対象物110との間に銀層が設けられてもよい。
【0058】
また、接合材10Bにおいて、非晶質銀膜12bは露出している。なお、非晶質銀膜12bは、第2接合対象物120と直接接触してもよく、別の層を介して間接的に接触してもよい。また、非晶質銀膜12bと第2接合対象物120との間に接着層を設けてもよい。あるいは、後述するように、非晶質銀膜12bと第2接合対象物120との間に銀層が設けられてもよい。
【0059】
なお、第1接合対象物110の表面に接合材10Aを形成した後、必要に応じて、第1接合対象物110および接合材10Aを酸素雰囲気に暴露させてもよい。同様に、第2接合対象物120の表面に接合材10Bを形成した後、必要に応じて、第2接合対象物120および接合材10Bを酸素雰囲気に暴露させてもよい。
【0060】
図4(c)に示すように、第1接合対象物110と第2接合対象物120との間に接合材10A、10Bを配置した積層体Lを形成する。積層体Lでは、接合材10Aが接合材10Bと向かい合っており、非晶質銀膜12aは非晶質銀膜12bと接触している。積層体Lでは、第1接合対象物110および第2接合対象物120が接合材10A、10Bを介して積層している。
【0061】
図4(d)に示すように、積層体Lを加熱して接合材10A、10Bの非晶質銀膜12a、12bから結晶性銀膜12Lを形成し接合構造体100を作製する。積層体Lを加熱することにより、非晶質銀膜12a、12bの結晶化が進行して非晶質銀膜12a、12bの界面が消失し非晶質銀膜12a、12bから結晶性銀膜12Lが形成される。
【0062】
接合材10の非晶質銀膜12a、12bが結晶性銀膜12Lに変化すると、接合材10A、10Bの一体化された接合材10が形成され、接合材10が第1接合対象物110と第2接合対象物120とを接合する。これにより、接合構造体100が作製される。なお、加熱後の接合材10において、接合材10A、10Bに由来する2つの層の界面は、明確に特定可能であってもよく、あるいは、特定可能でなくてもよい。
【0063】
積層体Lの加熱は、例えば、ホットプレート、加熱炉または急速加熱処理で行われる。積層体Lを加熱するための加熱温度は、100℃以上400℃以下であることが好ましく、150℃以上300℃以下であることがさらに好ましい。
【0064】
また、積層体Lの加熱は、大気圧中で行われてもよいし、真空中で行われてもよい。あるいは、積層体Lの加熱は、不活性ガスまたは還元ガス(例えば、アルゴン、窒素、水素またはギ酸ガス)雰囲気で行われてもよい。
【0065】
なお、第1接合対象物110および第2接合対象物120の接合は、積層体Lに圧力を印加して行ってもよい。ただし、本実施形態の製造方法は、非晶質銀膜12a、12bを含む接合材10A、10Bを利用するため、比較的低い圧力で接合を行うことができる。例えば、接合は、無加圧または1MPa以下の圧力で行うことができる。
【0066】
本実施形態によれば、非晶質銀膜12a、12bを含む接合材10A、10Bを利用して第1接合対象物110および第2接合対象物120を接合するため、比較的低い加熱温度でも良好に接合することができる。したがって、加熱時の熱による第1接合対象物110および/または第2接合対象物120の破損、または、第1接合対象物110と第2接合対象物120との接合部付近におけるボイドの発生を抑制できる。
【0067】
なお、
図3(b)および
図4(b)を参照した上述の説明では、第1接合対象物110および/または第2接合対象物120に接合材10、10A、10Bを形成した。上述したように、本実施形態において、接合材10の非晶質銀膜12、12a、12bは銀層から形成できる。
【0068】
以下、
図5および
図6を参照して本実施形態の接合材10の製造方法の一例を説明する。
【0069】
図5(a)に示すように、支持部材S上に銀層11を形成する。例えば、銀層11は支持部材Sに支持される。
【0070】
銀層11は、スパッタリング処理、めっき、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)または蒸着によって支持部材S上に形成される。なお、スパッタリング処理の手法は特に限定されず、例えば、RF(高周波)スパッタリングまたはDC(直流)スパッタリングのいずれでもよい。また、めっきの手法は特に限定されず、例えば、電解めっきまたは無電解めっきのいずれでもよい。あるいは、蒸着の手法は、特に限定されず、例えば、抵抗加熱を用いた真空蒸着であってもよい。
【0071】
支持部材Sは、例えば、基板状である。また、支持部材Sを構成する材質の熱膨張率は銀の熱膨張率よりも小さいことが好ましい。なお、支持部材Sは、
図2を参照して上述した接合構造体100における接合対象物110、120のうちの一方であることが好ましい。
【0072】
銀層11は、微細結晶(サブミクロンを単位とする程度の微結晶状態)、柱状晶、等軸晶または混粒構造であることが好ましい。また、銀層11の厚さは、10nm以上1mm以下であることが好ましく、100nm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
【0073】
図5(b)に示すように、銀層11を加熱して銀層11から非晶質銀膜12を形成し、接合材10を製造する。ここでは、銀層11の加熱により、銀層11の表面に非晶質銀膜12が形成される。
【0074】
銀層11の加熱は、例えば、ホットプレート、加熱炉または急速加熱処理で行われる。また、銀層11の加熱は、大気圧下、真空下、超高真空、減圧下または酸素雰囲気下で行ってもよい。
【0075】
例えば、銀層11の加熱時間は1ミリ秒以上1時間以下であることが好ましく、銀層11の加熱時間は1分以上45分以下であることがさらに好ましい。銀層11の加熱時間は、
図3(d)および
図4(d)を参照して上述した積層体Lの加熱時間よりも短いことが好ましい。
【0076】
また、例えば、銀層11の加熱温度は200℃以上500℃以下である。なお、銀層11の加熱温度は、
図3(d)および
図4(d)を参照して上述した積層体Lの加熱温度よりも高いことが好ましい。
【0077】
銀層11を加熱すると、銀層11の応力が緩和されて銀層11から非晶質銀膜12が形成される。非晶質銀膜12の厚さは、例えば10nm以上1μm以下である。なお、
図3(d)および
図4(d)を参照して上述したように、接合材10を別の部材と接触させて加熱を行うと、非晶質銀膜12の結晶化が進行し、その結果、接合が形成される。
【0078】
図6は、本実施形態の接合材10を示す。ここでは、厚さ約1μmの銀層11を250℃で5分間加熱することにより、銀層11の上に非晶質銀膜12を形成した。非晶質銀膜12の厚さは約30nmであった。
【0079】
図6において非晶質銀膜12内に存在する黒い点は微小な種結晶を示している。銀層11の加熱時間が長くなると、非晶質銀膜12の厚さの増大および/または非晶質銀膜12の結晶化が進行する。
【0080】
以上のようにして、銀層11から非晶質銀膜12を形成する。本実施形態によれば、非晶質銀膜12を含む接合材10を製造できる。なお、接合対象物を接合する接合材10として、非晶質銀膜12だけでなく銀層11を用いてもよい。あるいは、接合材10として、非晶質銀膜12および銀層11だけでなく支持部材Sを用いてもよい。
【0081】
典型的には、非晶質銀膜12は銀層11よりも薄い。このため、接合材10が非晶質銀膜12および銀層11を含む場合、見掛け上、銀層11単独で接合対象物と結合しているように見えることがあるが、実際には、非晶質銀膜12の結晶化した結晶性銀膜12Lが接合に大きく寄与している。
【0082】
また、銀層11を加熱すると、銀層11から非晶質銀膜12が形成される。ただし、銀層11の加熱時間は長すぎないことが好ましい。加熱時間が長すぎると、非晶質銀膜12の結晶化が進行してしまい、接合材10の接合機能が低下してしまうことがある。また、同様の理由で、銀層11の加熱温度は高すぎないことが好ましい。
【0083】
接合材10を製造する際に、典型的には、銀層11は支持部材Sに支持される。例えば、支持部材Sは絶縁性材料または導線性材料から形成される。なお、支持部材Sの熱膨張率は銀の熱膨張率よりも小さいことが好ましい。例えば、支持部材Sを構成する材質の熱膨張率に対する銀の熱膨張率の比(銀の熱膨張率/支持部材Sを構成する材質の熱膨張率)は2.0以上であることが好ましい。
【0084】
銀の熱膨張率は18.9×10
-6である。なお、ここでは、熱膨張率は線膨張率であり、熱膨張率の単位は「1/K」である。
【0085】
以下、支持部材Sを構成する材質の熱膨張率の一例を示す。なお、ここでは、熱膨張率は線膨張率であり、熱膨張率の単位は「1/K」である。
シリコン:2.6×10
-6
シリコンカーバイド:3.7×10
-6
ガリウムナイトライド:3.0×10
-6
シリコンナイトライド:3.0×10
-6
アルミニウムナイトライド:5.0×10
-6
アルミナ:7.2×10
-6
アルミニウム:23.0×10
-6
鉄:12.0×10
-6
コバルト:13.0×10
-6
ニッケル:12.8×10
-6
金:14.3×10
-6
銅:16.8×10
-6
パラジウム:11.8×10
-6
タングステン:4.5×10
-6
モリブデン:4.8×10
-6
ニオブ:8.0×10
-6
チタン:11×10
-6
【0086】
上述したように、銀層11を加熱すると、銀層11から非晶質銀膜12が形成される。非晶質銀膜12の形成メカニズムは以下のように考えられる。以下、
図7を参照して非晶質銀膜12の形成するメカニズムを説明する。
【0087】
図7(a)に示すように、支持部材Sの上に銀層11を形成する。ここでは、銀層11は、微細結晶、柱状晶、等軸晶または混粒構造である。例えば、銀層11はスパッタリング処理、めっき、化学気相成長、または、蒸着によって形成される。
【0088】
図7(b)に示すように、銀層11を加熱して銀層11の上に薄い非晶質銀膜12を形成する。例えば、銀層11の加熱温度は200℃以上500℃以下である。非晶質銀膜12は銀層11から以下のように形成されると考えられる。
【0089】
一般に、酸化銀の融点は銀の融点よりもはるかに低いため、銀層11を加熱すると、銀層11内において銀層11に含まれる酸化銀が融解する。融解した液状の酸化銀は、
図7(b)の矢印に示すように、銀層11内の粒界を通って銀層11の表面に移動する。酸化銀が銀層11の表面に到達すると、酸化銀は還元されて銀および酸素に分離する。なお、酸化銀の溶解・移動によって銀層11内の応力が緩和するため、液状の酸化銀が通過した後の経路は隣接する銀結晶によって塞がれる。
【0090】
銀層11の内部から銀層11の表面に向かって移動する液状の酸化銀は、表面において還元され、気化される。このため、銀層11から対向部材CSに向かって気化された銀が噴出する。しかしながら、銀が弱く噴出されると、銀は銀層11の上に落下して非晶質状態で堆積する。以上のように、銀層11を加熱することにより、銀層11から離れた対向部材CSの上に非晶質銀膜12を形成できる。
【0091】
銀層11の結晶状態が柱状晶であると、銀層11の表面で分離された銀が銀層11の表面または結晶粒界に沿って拡散する。このため、銀層11の表面において非晶質銀をより容易に生成できる。以上のように、銀層11を加熱することにより、銀層11の上に非晶質銀膜12を形成できる。
【0092】
なお、
図5〜
図7を参照した上述の説明では、非晶質銀膜12は、非晶質銀膜12の由来となる銀層11の上に形成されたが、本発明はこれに限定されない。非晶質銀膜12は、銀層11とは異なる部材上に形成してもよい。例えば、銀層11と対向する対向部材を配置した状態で、銀層11を加熱して対向部材上に非晶質銀膜12を形成してもよい。
【0093】
以下、
図8を参照して本実施形態の接合材10の製造方法の別の一例を説明する。なお、
図8を参照した製造方法は、対向部材上に非晶質銀膜12を形成する点を除いて
図5〜
図7を参照して上述した製造方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0094】
図8(a)に示すように、支持部材Sの上に銀層11を形成する。ここでは、銀層11は、微細結晶、柱状晶、等軸晶または混粒構造である。例えば、銀層11はスパッタリング処理、めっき、化学気相成長、または、蒸着によって形成される。銀層11の厚さは、10nm以上1mm以下であることが好ましく、100nm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
【0095】
図8(b)に示すように、銀層11から離れた位置に銀層11と対向するように対向部材CSを配置する。例えば、対向部材CSと銀層11との間の距離は、100nm以上20cm以下であることが好ましく、1μm以上10cm以下であることがさらに好ましい。
【0096】
対向部材CSを構成する材質は、
図7を参照して上述した支持部材Sと同様に、銀の熱膨張率よりも小さいことが好ましい。例えば、対向部材CSを構成する材質の熱膨張率に対する銀の熱膨張率の比(銀の熱膨張率/対向部材CSを構成する材質の熱膨張率)は2.0以上であることが好ましい。例えば、対向部材CSは金属基板である。一例として、対向部材CSは、金、銅またはニッケルから構成される。なお、対向部材CSは、
図2を参照して上述した接合構造体100における接合対象物110、120のうちの一方であることが好ましい。
【0097】
図8(c)に示すように、銀層11を加熱して対向部材CS上に非晶質銀膜12を形成し、接合材10を製造する。銀層11を加熱することにより、銀層11から生成された非晶質銀の微粒子が対向部材CSに向かって噴出し、対向部材CS上に非晶質銀膜12が形成される。
【0098】
銀層11の加熱は、例えば、ホットプレート、加熱炉または急速加熱処理で行われる。また、銀層11の加熱は、大気圧下、真空下、超高真空、減圧下または酸素雰囲気下で行ってもよい。
【0099】
例えば、銀層11の加熱時間は1ミリ秒以上1時間以下であることが好ましく、銀層11の加熱時間は1分以上45分以下であることがさらに好ましい。銀層11の加熱時間は、
図3(d)および
図4(d)を参照して上述した積層体Lの加熱時間よりも短いことが好ましい。
【0100】
また、例えば、銀層11の加熱温度は200℃以上500℃以下である。なお、銀層11の加熱温度は、
図3(d)および
図4(d)を参照して上述した積層体Lの加熱温度よりも高いことが好ましい。
【0101】
このように、銀層11を加熱すると、銀層11から離れた対向部材CS上に非晶質銀膜12を形成できる。非晶質銀膜12の形成メカニズムは以下のように考えられる。以下、
図9を参照して非晶質銀膜12の形成メカニズムを説明する。
【0102】
図9(a)に示すように、支持部材Sの上に銀層11を形成する。ここでは、銀層11は、微細結晶、柱状晶、等軸晶または混粒構造である。さらに、
図9(a)に示すように、銀層11から離れた位置に対向部材CSを配置する。
【0103】
図9(b)に示すように、銀層11を加熱して対向部材CS上に非晶質銀膜12を形成する。例えば、銀層11の加熱温度は200℃以上500℃以下である。非晶質銀膜12は銀層11から以下のように形成されると考えられる。
【0104】
一般に、酸化銀の融点は銀の融点よりもはるかに低いため、銀層11を加熱すると、銀層11内において銀層11に含まれる酸化銀が融解する。融解した液状の酸化銀は、
図9(b)の矢印に示すように、銀層11内の粒界を通って表面に移動する。銀層11の表面において酸化銀は銀および酸素に分離する。なお、酸化銀の溶解・移動によって銀層11内の応力が緩和するため、液状の酸化銀が通過した後の経路は隣接する銀結晶によって塞がれる。
【0105】
銀層11の内部から銀層11の表面に向かって移動する液状の酸化銀は、表面において還元され、気化される。このため、銀層11から対向部材CSに向かって気化された銀が噴出する。対向部材CSに到達した銀は冷却され非晶質状態で堆積する。以上のように、銀層11を加熱することにより、銀層11から離れた対向部材CSの上に非晶質銀膜12を形成できる。
【0106】
図5〜
図9を参照して上述したように、銀層11から非晶質銀膜12を形成する場合、非晶質銀膜12は、銀層11の上または銀層11から離れた対向部材CS上の形成できる。なお、非晶質銀膜12の形成場所は、銀層11を加熱する際の雰囲気および/または銀層11の向きに応じて制御できる。
【0107】
例えば、銀層11の加熱時に銀層11の周囲の圧力が比較的低いと、銀は、銀層11から勢いよく噴出し、銀層11から対向部材CSに到達するまで飛行する。あるいは、銀層11の加熱時に銀層11の周囲の圧力が比較的高いと、銀は、銀層11から噴出しないか、または、弱く噴出し、銀層11の上に堆積する。
【0108】
また、銀層11の加熱時に銀層11の加熱時に銀層11が下方向(鉛直方向に沿って下向きの方向)に向いていると、非晶質銀は銀層11から勢いよく噴出し、銀層11から対向部材CSに到達するまで飛行する。あるいは、銀層11が上方向(鉛直方向に沿って上向きの方向)に向いていると、非晶質銀は、銀層11から噴出しないか、または、弱く噴出し、銀層11の上に堆積する。
【0109】
なお、
図3(d)および
図4(d)を参照して上述した説明では、接合材10の非晶質銀膜12は加熱によって結晶化させたが、実際には、接合材10において、非晶質銀膜12を室温に長時間放置しただけで、非晶質銀膜12の結晶化が進行してしまうことがある。このため、非晶質銀膜12を含む接合材10を製造した後、接合材10を用いた接合をできるだけ早く開始することが好ましい。また、非晶質銀膜12を形成した後に接合材10を保管する場合は、接合材10は室温以下の環境下で保管することが好ましい。
【0110】
また、上述した説明では、加熱時に銀層11内の酸化銀が溶解し、液体状の酸化銀が銀層11内の結晶粒界を通過して銀層11の表面にまで移動して気化すると記載したが、銀層11内の酸化銀または銀の移動メカニズムはこれに限定されない。銀層11内における酸化銀は銀層11内の粒界を通過して銀層11の表面上にまで気化することなく移動してもよい。いずれにしても、銀層11が加熱されると、銀層11の応力が緩和されて、銀層11内部の一部の微粒子が表面に移動する。このように、非晶質銀膜12はストレスマイグレーションに伴って形成される。
【0111】
なお、一般に、ストレスマイグレーションは、欠陥(例えば、ボイドまたはクラック)を生じさせることがあり、半導体デバイス等の故障原因になることが知られている。また、銀層11上の非晶質銀膜12を結晶化した結晶性銀膜は一般にヒロックと呼ばれることもある。
【0112】
なお、
図1〜
図9を参照して上述した説明では、2つの接合対象物が同一の接合材、または、一体化された1つの接合材を介して接合されたが、本発明はこれに限定されない。
【0113】
以下に、
図10を参照して本実施形態に係る接合構造体200を説明する。
図10は、本実施形態の接合構造体200の模式図である。
【0114】
接合構造体200は、接合対象物210と、接合材10Fと、熱応力吸収材230と、接合材10Sと、接合対象物220とを備える。接合構造体200において、接合対象物210、接合材10F、熱応力吸収材230、接合材10Sおよび接合対象物220はこの順番に積層している。なお、本明細書の以下の説明において、接合対象物210、接合対象物220をそれぞれ、第1接合対象物210、第2接合対象物220と記載することがある。また、本明細書の以下の説明において、接合材10F、接合材10Sをそれぞれ、第1接合材10F、第2接合材10Sと記載することがある。
【0115】
第1接合材10Fは、結晶性銀膜12Lfを含む。第1接合材10Fは、第1接合対象物210および熱応力吸収材230と接着している。
【0116】
また、第2接合材10Sは、結晶性銀膜12Lsを含む。第2接合材10Sは、熱応力吸収材230および第2接合対象物220と接着している。接合構造体200では、第1接合対象物210および第2接合対象物220が第1接合材10F、熱応力吸収材230、第2接合材10Sを介して接合されている。
【0117】
第1接合対象物210および第2接合対象物220は任意の部材であってもよい。例えば、第1接合対象物210および第2接合対象物220を構成する材質としては、上述の第1接合対象物110、120を構成する材質として上記に例示されたものが挙げられる。一例として、接合対象物210および/または第2接合対象物220は基板である。基板は、金属基板であってもよく、絶縁基板であってもよい。
【0118】
第1接合対象物210を構成する材質の熱膨張率(線膨張率)は銀の熱膨張率よりも低いことが好ましい。同様に、第2接合対象物220を構成する材質の熱膨張率(線膨張率)は銀の熱膨張率よりも低いことが好ましい。
【0119】
特に、接合対象物210、220を構成する材質の熱膨張率に対する銀の熱膨張率の比(銀の熱膨張率/接合対象物210、220を構成する材質の熱膨張率)は2.0以上であることが好ましい。ただし、接合対象物210、220を構成する材質の熱膨張率は、必ずしも、銀の熱膨張率よりも低くなくてもよく、接合対象物210、220は、熱膨張率の比較的高い材質から構成されてもよい。
【0120】
本実施形態の接合構造体200は、熱応力吸収材230を備えることにより、加熱時の熱衝撃を抑えることができ、良好な接合を実現できる。熱応力吸収材230を構成する材質としては、例えば、上記の接合対象物210、220を構成する材質と同様のものが挙げられる。熱応力吸収材230を構成する材質として、例えば、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタン、シリコン、炭素、グラファイト、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、アルミニウムナイトライド、アルミナ、またはインバー合金を用いてもよい。
【0121】
熱応力吸収材230を構成する材質の熱膨張率(線膨張率)は銀の熱膨張率(線膨張率)よりも低いことが好ましい。例えば、熱応力吸収材230を構成する材質の熱膨張率は0.1×10
-6以上10.0×10
-6未満である。特に、熱応力吸収材230を構成する材質の熱膨張率に対する銀の熱膨張率の比(銀の熱膨張率/熱応力吸収材230を構成する材質の熱膨張率)は2.0以上であることが好ましい。
【0122】
また、熱応力吸収材230の表面の少なくとも一部は金属膜で被覆されていることが好ましい。熱応力吸収材230を金属膜で被覆することにより、良好に接合できる。例えば、熱応力吸収材230の表面を銀で被覆してもよい。
【0123】
本実施形態の接合構造体200は、結晶性銀膜12Lf、12Lsを含む接合材10F、10Sを用いて良好な接合を実現する。本実施形態では、第1接合対象物210および第2接合対象物220の大きさに関わらず、第1接合対象物210および第2接合対象物220を良好に接合できる。
【0124】
以下、
図11を参照して本実施形態の接合構造体200の製造方法を説明する。
【0125】
図11(a)に示すように、第1接合対象物210の表面に接合材10Faを形成する。接合材10Faは非晶質銀膜12faを有する。接合材10Faは、例えば、
図5〜
図9を参照して上述したように製造される。
【0126】
図11(b)に示すように、第2接合対象物220の表面に接合材10Saを形成する。接合材10Saは非晶質銀膜12saを有する。接合材10Saは、例えば、
図5〜
図9を参照して上述したように製造される。
【0127】
図11(c)に示すように、熱応力吸収材230の両面に接合材10Fb、10Sbを形成する。接合材10Fb、10Sbは非晶質銀膜12fb、12sbを有する。接合材10Fb、10Sbは、例えば、
図5〜
図9を参照して上述したように製造される。
【0128】
図11(d)に示すように、第1接合対象物210上の接合材10Faが熱応力吸収材230上の接合材10Fbと接触するように第1接合対象物210に熱応力吸収材230を積層させ、また、熱応力吸収材230上の接合材10Sbが第2接合対象物220上の接合材10Saと接触するように熱応力吸収材230に第1接合対象物210を積層させる。以上のようにして、第1接合対象物210、接合材10Fa、10Fb、熱応力吸収材230、接合材10Sb、10Saおよび第2接合対象物220が積層した積層体Lを作製する。
【0129】
次に、
図11(e)に示すように、積層体Lを加熱して接合構造体200を作製する。積層体Lの加熱により、接合材10Fa、10Fbの非晶質銀膜12fa、12fbから結晶性銀膜12Lfを形成し、接合材10Sa、10Sbの非晶質銀膜12sa、12sbから結晶性銀膜12Lsを形成する。
【0130】
積層体Lを加熱すると、非晶質銀膜12fa、12fbの結晶化が進行して非晶質銀膜12fa、12fbの界面が消失し非晶質銀膜12fa、12fbから結晶性銀膜12Lfが形成される。接合材10Fa、10Fbの非晶質銀膜12fa、12fbが結晶性銀膜12Lfに変化すると、接合材10Fa、10Fbが一体化して接合材10Fが形成される。なお、加熱後の接合材10Fにおいて、接合材10Fa、10Fbに由来する2つの層の界面は、明確に特定可能であってもよく、あるいは、特定可能でなくてもよい。
【0131】
同様に、積層体Lを加熱すると、非晶質銀膜12sa、12sbの結晶化が進行して非晶質銀膜12sa、12sbの界面が消失し非晶質銀膜12sa、12sbから結晶性銀膜12Lsが形成される。接合材10Sa、10Sbの非晶質銀膜12sa、12sbが結晶性銀膜12Lsに変化すると、接合材10Sa、10Sbが一体化して接合材10Sが形成される。なお、加熱後の接合材10Sにおいて、接合材10Sa、10Sbに由来する2つの層の界面は、明確に特定可能であってもよく、あるいは、特定可能でなくてもよい。以上により、接合構造体200が作製される。
【0132】
なお、積層体Lの加熱は、例えば、ホットプレート、加熱炉または急速加熱処理で行われる。積層体Lを加熱するための加熱温度は、100℃以上400℃以下であることが好ましく、150℃以上300℃以下であることがさらに好ましい。また、積層体Lの加熱は、大気圧中で行われてもよいし、真空中で行われてもよい。あるいは、積層体Lの加熱は、不活性ガスまたは還元ガス(例えば、アルゴン、窒素、水素またはギ酸ガス)雰囲気で行われてもよい。
【0133】
なお、
図3および
図4を参照して上述したのと同様に、接合構造体200においても、第1接合対象物210と非晶質銀膜12faとの間、非晶質銀膜12fbと熱応力吸収材230との間、熱応力吸収材230と非晶質銀膜12sbとの間、および/または、非晶質銀膜12saと第2接合対象物220との間に、接着層を形成してもよい。接着層により、第1接合対象物210と第1接合材10Fとの間の接着、第1接合材10Fと熱応力吸収材230との間の接着、熱応力吸収材230と第2接合材10Sとの間の接着、および/または、第2接合材10Sと第2接合対象物220との間の接着を強固にすることができる。接着層を構成する材質は、例えばチタンまたはチタンナイトライドである。接着層の厚さは、例えば、0.01μm以上0.05μm以下である。
【0134】
あるいは、
図5〜
図9を参照して上述したのと同様に、第1接合対象物210と非晶質銀膜12faとの間、非晶質銀膜12fbと熱応力吸収材230との間、熱応力吸収材230と非晶質銀膜12sbとの間、および/または、非晶質銀膜12saと第2接合対象物220との間に、銀層が設けられてもよい。
【0135】
本実施形態の製造方法は、非晶質銀膜12fa、12fb、12sa、12sbを有する接合材10Fa、10Fb、10Sa、10Sbを利用するため、比較的低い圧力で接合を行うことができる。例えば、無加圧または1MPa以下の圧力で接合を行うことができる。
【0136】
なお、
図11(c)を参照したように、熱応力吸収材230の両面に接合材10Fb、10Sbを形成する場合、接合材10Fb、10Sbは、熱応力吸収材230の両面に同時に形成することが好ましい。接合材10Fb、10Sbの形成は加熱条件下において行われることがあるが、接合材10Fb、10Sbを順番に形成する場合、先に形成された接合材による接着強度が低下してしまうことがあるからである。
【0137】
また、
図11を参照した上述の説明では、第1接合対象物210上に接合材10Faに形成し、熱応力吸収材230上に接合材10Fbに形成した上で、接合材10Faおよび接合材10Fbから接合材10Fを形成したが、本発明はこれに限定されない。接合材10Faおよび接合材10Fbの一方のみを形成し、形成した接合材によって第1接合対象物210および熱応力吸収材230を接着してもよい。
【0138】
同様に、
図11を参照した上述の説明では、第2接合対象物220上に接合材10Saに形成し、熱応力吸収材230上に接合材10Sbに形成した上で、接合材10Saおよび接合材10Sbから接合材10Sを形成したが、本発明はこれに限定されない。接合材10Saおよび接合材10Sbの一方のみを形成し、形成した接合材によって熱応力吸収材230および第2接合対象物220を接着してもよい。
【実施例】
【0139】
以下、実施例を用いて本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【0140】
(サンプル1)
シリコン基板上にスパッタリングで銀層を形成した。次に、銀層を250℃で5分間加熱してサンプル1を作製した。サンプル1のSEM写真を撮像した。
【0141】
図12は、サンプル1を示す図であり、
図13は
図12の領域Aを拡大した図である。
図12および
図13は、銀層11の上に非晶質銀膜12が形成されていることを示している。
図13の点P1〜点P4について真空下において蛍光X線分析を行った。
図13において、点P1は非晶質銀膜12内に位置しており、点P2は銀層11内に位置しており、点P3はサンプル1を貼り付けるために用いた接着剤内に位置しており、点P4は真空領域に位置している。蛍光X線分析において、スポットサイズは25nmに設定し、ビームを最小に絞った状態でLiveTimeを100秒に設定して測定した。
【0142】
図14(a)〜
図14(d)は、
図13の点P1〜P4における蛍光X線分析結果をそれぞれ示すグラフである。
図14(b)における3.0eV付近のピークは、銀層11に銀が存在していることを示している。また、
図14(b)における2.0〜2.5eV付近のピークは、銀層11に不純物としてシリコンおよびモリブデンが存在していることを示している。
【0143】
また、
図14(a)における3.0eV付近のピークは、非晶質銀膜12に銀が存在していることを示している。また、
図14(a)における2.0〜2.5eV付近のピークは、非晶質銀膜12にも不純物としてシリコンおよびモリブデンが存在していることを示している。以上から、非晶質銀膜12の成分は銀層に由来していることがわかる。
【0144】
なお、
図14(c)に示されたスペクトルは、接着剤に不純物としてシリコンが存在している一方、銀は存在していないことを示している。同様に、
図14(d)に示されたスペクトルは、真空中に不純物としてシリコンが存在している一方、銀は存在していないことを示している。
【0145】
図15(a)は
図13の一部を拡大した図であり、
図15(b)は
図15(a)の領域Bを拡大した図であり、
図15(c)は
図15(b)の一部を拡大した図である。銀層11の厚さが約300nmであったのに対して、非晶質銀膜12の厚さは約30nmであった。
【0146】
図15(b)および
図15(c)に、非晶質銀膜12内には多数の黒い点が確認された。この黒い点は種結晶と考えられる。
【0147】
以上のように、サンプル1から、銀層11の上に非晶質銀膜12が形成されることが分かった。
【0148】
(サンプル2)
薄板上のシリコン基板を用意した。シリコン基板の外径は縦横いずれも約8mmであった。次に、シリコン膜上に銀層を形成した。銀層の外径は、縦横いずれも約7mmであった。
【0149】
また、銅板を用意した。銅板の外径は縦横いずれも約7mmであった。銅板の中央付近に2列の文字列の孔の空けることによって銅マスクを形成した。銅マスクにおいて、第1列の文字は「ISIR」であり、第2列の文字は「NCKU」であった。1つの文字の長さは縦約600μmおよび横約300μmであった。
【0150】
次に、銀層から離れて銀層に対向するように銅マスクを配置した。大気中において250℃で5分間加熱してサンプル2を作製した。次に、サンプル2の光学顕微鏡写真を撮像した。
【0151】
図16(a)はサンプル2を示す図である。また、
図16(b)は
図16(a)の一部を拡大した図であり、
図16(c)は
図16(b)の一部を拡大した図である。
【0152】
図16(a)〜
図16(c)において、明るい部分(白い部分)は非結晶銀膜が存在していることを示しており、暗い部分(黒い部分)は非結晶銀膜が存在していないことを示している。
図16(a)〜
図16(c)は、銅マスクのうち、板の存在している領域に対応して非結晶銀膜が形成される一方で、孔の空いた領域に対応して非結晶銀膜が形成されなかったことを示している。
【0153】
大気中下では、気化した銀は、銀層から噴出しても、板に衝突した後、大気圧の力で下方の銀層の方に戻り、銀層上に堆積したと考えられる。一方、大気中下では、気化した銀は、銀層から噴出しても、板に衝突しなければ、銀層に戻ることなく飛行したと考えられる。
【0154】
以上のように、サンプル2から、大気下で銀層を加熱すると、銀層から銀が弱く噴出されることが分かった。
【0155】
(サンプル3)
薄板上のシリコン基板を用意した。シリコン基板の外径は縦横いずれも約8mmであった。次に、シリコン膜上に銀層を形成した。銀層の外径は、縦横いずれも約7mmであった。
【0156】
また、銅板を用意した。銅板の中央付近に1列の文字列の孔の空けることによって銅マスクを形成した。銅マスクにおいて、文字列は「NCKU」であった。1つの文字の長さは縦約600μmおよび横約300μmであった。
【0157】
次に、銀層から離れて銀層に対向するように銅マスクを配置した。真空下において250℃で5分間加熱してサンプル3を作製した。次に、サンプル3の光学顕微鏡写真を撮像した。
【0158】
図17(a)はサンプル3を示す図であり、
図17(b)は
図17(a)の囲まれた領域の拡大図である。
【0159】
図17(a)および
図17(b)において、明るい部分(白い部分)は非結晶銀膜が存在していることを示しており、暗い部分(黒い部分)は非結晶銀膜が存在していないことを示している。
図17(a)および
図17(b)は、銅マスクのうち、板の存在している領域に対応して非結晶銀膜が形成されなかった一方で、孔の空いた領域に対応して非結晶銀膜が形成されたことを示している。
【0160】
真空下では、気化した銀は、銀層から噴出して板に衝突した後でも、四方に散乱し、銀層に戻ることなく飛行したと考えられる。一方、真空下では、気化した銀は、銀層から噴出した後に銅マスクの孔の境界に衝突すると、下方の銀層の方に戻り、銀層上に堆積したと考えられる。
【0161】
以上のように、サンプル3から、真空中で銀層を加熱すると、銀層から銀が強く噴出されることが分かった。
【0162】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態および実施例を説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。また、図面は、理解を容易にするために、必要に応じてそれぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚さ、長さ、個数等は、図面作成の観点から実際とは異なる場合がある。また、上記の実施形態および実施例で示す各構成要素の形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、種々の変更が可能であることは言うまでもない。