特許第6795382号(P6795382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795382
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】電力合成・分配器
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/12 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
   H01P5/12 B
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-219503(P2016-219503)
(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公開番号】特開2018-78469(P2018-78469A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】南谷 康次郎
(72)【発明者】
【氏名】梅原 宏幸
【審査官】 福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−137801(JP,A)
【文献】 特開平08−335467(JP,A)
【文献】 特開2013−150143(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0225679(US,A1)
【文献】 特開昭61−128604(JP,A)
【文献】 特開昭61−018204(JP,A)
【文献】 特開平03−085003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸線路からなる中央線路、ラジアル線路及び上記中央線路の周囲の複数の分岐線路を有する電力合成・分配器において、
上記複数の分岐線路を同軸線路とし、上記中央線路が配置される上側又は下側の一方の部材と上記分岐線路が配置される上側又は下側の他方の部材との間に上記ラジアル線路を形成する構成からなり、
上記中央線路の周囲の上記一方の部材に、上記中央線路と同一方向にて係合孔を設け、かつ上記他方の部材に上記分岐線路の外導体の孔を形成し、
上記分岐線路の外導体の孔及び上記一方の部材に設けた上記係合孔に、増幅器側の中心導体を挿入配置し、この中心導体を止めネジにて上記係合孔に固定することにより、上記増幅器を本体に直接的に取り付けたことを特徴とする電力合成・分配器。
【請求項2】
同軸線路からなる中央線路、ラジアル線路及び上記中央線路の周囲の複数の分岐線路を有する電力合成・分配器において、
上記複数の分岐線路を同軸線路とし、上記中央線路及び上記分岐線路が配置される上側又は下側の一方の部材と上側又は下側の他方の部材との間に上記ラジアル線路を形成する構成からなり、
上記一方の部材の上記中央線路の周囲に上記分岐線路の外導体の孔を形成し、かつ上記他方の部材に上記中央線路と同一方向にて係合孔を設け、
上記分岐線路の外導体の孔及び上記他方の部材に設けた上記係合孔に、増幅器側の中心導体を挿入配置し、この中心導体を止めネジにて上記係合孔に固定することにより、上記増幅器を本体に直接的に取り付けたことを特徴とする電力合成・分配器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力合成・分配器、特にマイクロ波電力を複数に分岐し又は複数の電力を合成する電力合成・分配器の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に、ラジアル線路を用いた電力合成・分配器の構成が示されており、この電力合成・分配器は、中央線路(同軸線路)21、円柱状空間を持つラジアル線路22、中央線路21の周囲に配置され、同軸線路からなる複数の分岐線路23を有している。このような電力合成・分配器(回路)は、中央線路21を中心として等距離に各分岐線路23を配置することにより、各分岐線路23のマイクロ波を等振幅、等位相に設定でき、電力の合成又は分配に適した構造を持つ。また、ラジアル線路22は、空間を使用しており、ウィルキンソン型のように誘電体基板等を用いた電力合成・分配器と比較して伝送損失が小さく、大電力のマイクロ波を扱うことが可能であるという長所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−300605号公報
【特許文献2】特開平10−270915号公報
【特許文献3】特開2013−150143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、低損失で大電力を扱うことのできるラジアル線路22を用いた電力合成・分配器では、分岐線路23の数(分岐数)が多くなり、各分岐線路23が理想的な位置、即ちラジアル線路22の中心から等距離かつ等間隔の配置からずれた場合には、電力の合成又は分配に求められる特性(伝送の各種特性)のずれが大きくなってしまうという問題がある。
【0005】
従来では、上記の特性のずれを防ぐために、ラジアル線路22と分岐線路23の結合にスロットを用いたり(上記特許文献1)、複雑な形状のインピーダンス変換部を設けたり(上記特許文献2)、ラジアル線路のインピーダンスに勾配を設けたり(上記特許文献3)する等、複雑な構造が採用されるが、このような特性のずれを緩和するための複雑な構造では、電力合成・分配器の低コスト化を図ることが困難であった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、伝送特性のずれを小さくすることができ、低コスト化を図ることが可能となる電力合成・分配器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、同軸線路からなる中央線路、ラジアル線路及び上記中央線路の周囲の複数の分岐線路を有する電力合成・分配器において、上記複数の分岐線路を同軸線路とし、上記中央線路が配置される上側又は下側の一方の部材と上記分岐線路が配置される上側又は下側の他方の部材との間に上記ラジアル線路を形成する構成からなり、上記中央線路の周囲の上記一方の部材に、上記中央線路と同一方向にて係合孔を設け、かつ上記他方の部材に上記分岐線路の外導体の孔を形成し、上記分岐線路の外導体の孔及び上記一方の部材に設けた上記係合孔に、増幅器側の中心導体を挿入配置し、この中心導体を止めネジにて上記係合孔に固定することにより、上記増幅器を本体に直接的に取り付けたことを特徴とする。
請求項2の発明は、同軸線路からなる中央線路、ラジアル線路及び上記中央線路の周囲の複数の分岐線路を有する電力合成・分配器において、上記複数の分岐線路を同軸線路とし、上記中央線路及び上記分岐線路が配置される上側又は下側の一方の部材と上側又は下側の他方の部材との間に上記ラジアル線路を形成する構成からなり、上記一方の部材の上記中央線路の周囲に上記分岐線路の外導体の孔を形成し、かつ上記他方の部材に上記中央線路と同一方向にて係合孔を設け、上記分岐線路の外導体の孔及び上記他方の部材に設けた上記係合孔に、増幅器側の中心導体を挿入配置し、この中心導体を止めネジにて上記係合孔に固定することにより、上記増幅器を本体に直接的に取り付けたことを特徴とする
【0008】
上記の構成によれば、中央線路が配置される例えば上側部材(一方の部材)に、中央線路と同一方向で係合孔が形成され、この係合孔に、ラジアル線路に延伸した分岐線路の中心導体が係合され、固定される。この上側部材に、上記中央線路の外導体となる円形孔を形成する場合は、上側部材の同一面側から円形孔と共に係合孔を加工形成する(円形孔を中心としてその周囲に係合孔を形成する)ことが好ましい。
また、係合孔に挿入された中心導体は、上側部材の側面等からねじ込まれた止めネジで固定することができる。
【0009】
また、電力合成・分配器を増幅器の電力合成回路に使用する場合、次のような手順で増幅器としての十分な特性を確保することができる。
まず、各分岐線路に、分岐部コネクタ側の中心導体を延伸させた部分を取り付け、この中心導体が係合孔に止めネジで固定され、ラジアル線路に結合される。この分岐部コネクタを取り付けることで、ラジアル線路中心の中央線路と各分岐線路間の伝送特性を測定することが可能となる。この測定で、良好な特性が得られていると判断した後、止めネジを緩め、中心導体を分岐部コネクタと共に取り外す。次に、コネクタを取り外した各分岐線路部分に、増幅回路側の中心導体を延伸させた部分を取り付け、この中心導体を止めネジで係合孔に固定し増幅回路として使用する。このようにして、電力合成・分配器の伝送特性が担保され、増幅器の電力の確実な合成が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラジアル線路を形成する一体の上側又は下側の部材に、中央線路のための孔と、分岐線路の中心導体のための孔とを機械加工することにより、中央線路と分岐線路との位置精度を上げることができる。この結果、伝送の各種特性のずれを小さくすることができ、低コスト化を図ることも可能となる。
また、電力合成・分配器を増幅器の電力合成回路に使用する場合は、測定により電力合成器の良好な伝送特性を確保した上で、増幅器の取付けが容易になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施例の電力合成・分配器の構成を示す断面図である。
図2】第2実施例の電力合成・分配器の構成を示す断面図である。
図3】従来の電力合成・分配器の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に、第1実施例の電力合成・分配器の構成が示されており、この図1において、符号1は導体である上側部材、2は導体である下側部材で、これらにより筐体(本体)が構成される。3は、上側部材1と下側部材2の間に形成されたラジアル線路であり、このラジアル線路3は、略円柱形の空間となる。4は、同軸線路からなる中央線路、5は中央線路4に接続された中央部コネクタであり、上記上側部材1の円形孔部分は中央線路4の外導体を兼ね、中央線路4の中心導体は下側部材2に接続される。
【0013】
図1の7は、同軸線路からなる分岐線路、8は分岐線路7に接続された分岐部コネクタであり、下側部材2の円形孔部分は分岐線路7の外導体を兼ね、分岐線路7の中心導体7aは、分岐部コネクタ8の中心導体を延伸したものを利用している。この分岐線路7は、中央線路4から等距離でそれぞれが等間隔となるように、複数配置される。9は、分岐線路7の中心導体7aを挿入する嵌合孔(係合孔)、10は止めネジ、11はインピーダンス整合部である。
【0014】
上記上側部材1の中央線路4の外導体となる円形孔の加工と、複数の嵌合孔9の円形孔の加工は、上側部材1の同一面内(外表面又はインピーダンス整合部11が設けられた内面)において機械加工することで(同じ工程で)実施され、上側部材1の中央の孔に、中央線路4の中心導体が取り付けられ、複数の嵌合孔9には、中心導体7a(分岐部コネクタ8の中心導体)が嵌合され、上側部材1の側面方向からねじ込まれた止めネジ10で固定される。
【0015】
このような電力合成・分配器によれば、電力分配器として用いられる場合、入力された高周波電力が中央線路5からラジアル線路3に伝わり、中央線路5の中心導体から等距離に設置された複数の分岐線路7の中心導体7aに達し、これらの分岐線路7に等しく電力が分配される。また、電力合成器として用いられる場合は、電力の流れの方向が逆となり、分岐線路7から入力される電力の合成が可能となる。なお、インピーダンス整合部11は、ラジアル線路3と分岐線路7の間の入出力のインピーダンスを合わせるように機能する。
【0016】
電力の合成・分配において、伝送特性のずれをなくすには、高精度にて、分岐線路7の位置が中心から等距離で、かつ各分岐線路間の距離も等しくする必要があるが、実施例では、上記上側部材1における中央線路4の外導体の孔加工と、分岐線路7の中心導体7aのための嵌合孔9の加工を、上側部材1の同一面内での機械加工としており、これらの孔の位置精度は、機械加工のみで決まり、組立での位置ずれが殆ど生じないため、その電力の分配及び合成は理想に近い特性となる。
【0017】
図2に、第2実施例の構成が示されており、この第2実施例は、電力合成・分配器を複数の増幅器の出力電力合成に利用したものである。
図2において、13は複数配置された増幅器であり、図1の止めネジ10を緩めて分岐部コネクタ8を取り外した後、その代わりに増幅器13及び中心導体7aを取り付けるようにする。即ち、増幅器13側に配置された中心導体を延伸させ、これを分岐線路7の中心導体7aとして嵌合孔9に挿入し、止めネジ10で固定する。この止めネジ10は、増幅器としての特性が確保された後に、導電性接着剤等を用いて固着させてもよく、この止めネジ10によって増幅器13が本体(筐体)に取り付けられる。
【0018】
従来の電力合成・分配器では、通常、コネクタ部分の取外しができない構造となっているので、増幅器13との結線には、増幅器側のコネクタ(例えばオス側)と電力合成器側のコネクタ(例えばメス側)とを接続し、両方の同軸線路を連結する必要があり、この連結線路部分での伝送特性のばらつきが避けられず、合成電力の低下が生じ易いという問題があった。
しかし、第2実施例では、コネクタ接続を利用せずに、増幅器13を電力合成・分配器に直接接続することが可能となるので、同軸線路の連結による合成電力の低下が防止できるという利点がある。なお、電力合成・分配器としての特性測定は、分岐部コネクタ8を取り付けた状態で、この分岐部コネクタ8と中央部コネクタ5間の伝送特性を測定することで実施することができる。
【0019】
上記実施例では、分岐部コネクタ8又は増幅器13を中央部コネクタ5の反対側に設けたが、これら分岐部コネクタ8又は増幅器13を中央部コネクタ5(上側部材1)側に配置し、下側部材2に設けた嵌合孔9へ中心導体7aを挿入・固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0020】
1…上側部材、 2…下側部材、
3,22…ラジアル線路、 4,21…中央線路(同軸線路)、
5…中央部コネクタ、 7,23…分岐線路(同軸線路)、
7a…中心導体、 8…分岐部コネクタ、
9…嵌合孔(係合孔)、 10…止めネジ、
11…インピーダンス整合部、13…増幅器。
図1
図2
図3