【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
新家昭彦、他,光パスゲート論理に基づく光演算回路(II),第77回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集(CD-ROM),日本,2016年 3月 3日,p. 03-238,URL,https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsap2016a/14p-P14-11/public/pdf?type=in
【文献】
XIU, X.M., et al.,"One-photon controlled two-photon not gate contributed by weak cross-Kerr nonlinearities",OPTICS COMMUNICATIONS,2017年 2月23日,Vol. 393,pp. 173-177
【文献】
佐中 薫,”光を使った量子位相ゲート―非線形符号シフトの実現―”,日本物理学会誌,2004年,Vol. 59, No. 10,pp. 698-702
【文献】
BRANDT, H.E.,"Qubit cdevices and the issue of quantum decoherence",PROGRESS IN QUANTUM ELECTRONICS,1998年,Vol. 22, No. 5-6,pp. 257-370
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光論理素子は、様々な研究機関で古くから研究されている重要な課題の一つであるが、その多くの場合で非線形光学効果が利用されている(非特許文献1参照)。非線形性は、出力ビット信号のバイナリコントラスト(0および1出力時の絶対強度の比)を大きくするために必須である。ただし、非線形光学効果の利用には一般的に次のような問題点がある。
【0003】
(I)信号の大きな入力強度(または強度密度)が必要になる。すなわち、信号の入力強度に依存して意図しない性能の変化が起こる。
(II)挿入損失が大きい。
(III)能動素子のために構造が複雑になる。
【0004】
(I)の問題はデバイス構造で改善可能であるが、(I)〜(III)のいずれも根本的な解決が難しい。したがって,カスケード性と消費電力の観点で応用が大きく制限されている。また、10dBを超えるバイナリコントラストを得るのはそれほど容易ではない。
【0005】
一方、線形光学に基づく干渉を利用した光論理素子も数多く提案されている。線形光学の利点は、応答が入力強度に比例すること、すなわち信号の入力強度が微小でも動作できることで、消費電力が小さくできることである。線形光学に基づく干渉を利用した光論理素子には、現状で以下のような問題点があり、複数の素子をカスケード接続するような状況に対してほとんど配慮されていない。
【0006】
(IV)バイナリコントラストが原理的に制限される。
(V)損失が必ずしも小さくない。例えば出力強度として1を得るべき場合でも、出力強度が0.25以下となる(この場合の損失を6dB以上であると定義する)。
【0007】
線形光学において論理素子的な動作をするものの代表格として、ビームスプリッタが挙げられる。ビームスプリッタは、自由空間光学系で特定波長帯の光を任意の比率に分岐する金属薄膜や誘電多層膜から成る素子である。ビームスプリッタの中でも、特に光の分岐比が1:1となるものを半透過鏡またはハーフミラーと呼ぶ。ハーフミラーの表裏面から、互いに90度、さらにハーフミラーに対してそれぞれ45度を成すように同相の光ビーム対を入力する場合、ハーフミラーにおいて反射光の位相は透過光の逆相になる。
【0008】
したがって、ハーフミラーに2つの光ビームが入力された場合は弱め合い干渉によって消光し、単一入力の場合は入力強度の半分が出力される。すなわち、バイナリコントラストが無限で、3dBの挿入損失をもったXOR(排他的論理和)素子と同等な光論理素子が実現できる。ハーフミラーの特長は、実際に光演算に必要な素子長が極めて短尺で構造が単純なことである。
【0009】
ただし、光XOR演算だけではユニバーサルな光演算ができないことと、他の光論理素子についてはバイナリコントラストが6dB程度しか取れないことから、線形な干渉だけでは光演算ができないとされている。実際の光演算応用では、損失を抑えながらいかにバイナリコントラストを大きくするかが肝要であり、線形光学ベースの光論理素子でもバイナリコントラストが確保できれば、ある程度の光演算またはそのための補助的な操作が可能になると考えられる。
【0010】
ハーフミラーにおける線形光学の制限を打ち破るべく、数多くの線形光学論理素子が研究されている。例えば自由空間においてビームスプリッタと減衰器と波長板と偏光子等を組み合わせることで、直線偏波の位相±45°を(0,1)信号のビットとして扱う全光論理素子がある。この光論理素子によれば、ユニバーサルな論理演算が可能であるとされているが、一つの論理演算に要する光学部品が多く、全体として長尺となる。さらにハーフミラーが2段挿入されているため、挿入損失は原理的に6dB以上となる。
【0011】
オンチップのプラズモニック導波路による干渉を利用した光論理素子も報告されている。この光論理素子の全長は数μm前後で、AND(論理積)素子のバイナリコントラストとして9dB程度が実験的に実証されている。ただし、金属導波路の伝搬損失が大きいため、挿入損失は少なくとも10dB程度あると考えられ、複数の素子のカスケード接続に適していない。
【0012】
一方で、誘電体または金属によるアンテナパターンを適切に設計・配列したメタ表面と呼ばれる薄膜光学素子の研究が盛んである。この素子によれば、ビーム偏向、集光、偏光変換、ホログラム生成といった任意機能を、特定の偏波に対して多重かつ広帯域で実現できる。ここでは、光ビームを特定方向に偏向するメタ表面ビーム偏向器にのみ着目する。
【0013】
メタ表面の材料に金や銀などの金属を用いた場合、メタ表面ビーム偏向器の総厚は100nm前後にまで薄くできることがフレネルゾーンプレートとは異なる最大の特長である。さらに、コヒーレントな外部光を制御光としてメタ表面に入射させ、別の方位から入射された信号光とメタ表面上で干渉させることにより、信号光の進行経路を切り替えることができる。
【0014】
メタ表面ビーム偏向器のビームスプリッタとの根本的な差異は、特定の経路に光を曲げることと、それにより光入出力ポート数が4から6に増大することである。したがって、ビームスプリッタにおける光論理演算の制約を緩和するために、メタ表面ビーム偏向器は非常に有用である。
【0015】
光学伝搬距離が短尺な全光スイッチならびに論理素子が実現できれば、RC(抵抗と容量)遅延に律速される電気回路の演算性能よりも高速な光演算回路を構成できる。したがって、いかに短尺なものを実現できるかが応用上非常に重要である。一方、バイナリコントラストが大きく損失が小さいほど、カスケード接続できる素子数が増大するため、より複雑な光演算が可能になる。
【0016】
しかしながら、従来の技術では素子長がcmからmmオーダの光スイッチまたは光論理素子しか実用化されていないため、光演算などへの応用が限定されている。
非線形光学を利用した場合、相互作用長の分だけ素子長が増大するため、短尺な光論理素子の実現が難しい。また、信号の大きな入力強度が必要であるため、消費電力が大きいという課題があった。さらに、光論理素子の性能そのものが信号の入力強度で変化する場合が有り得る。加えて、非線形光学を利用した場合、素子の構成が複雑となるため、複数の素子のカスケード接続は現実的ではない。
非線形光学における課題解決のために、線形光学素子による光論理素子が提案されているが、短尺性と高バイナリコントラストと低損失の全てを両立できるものは提案されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、短尺性と高バイナリコントラストと低損失とを両立させることができる線形光論理素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の線形光論理素子は、強度が0または1で位相が固定の強度ビットの光に対して、
自素子の第1の面に対して45度の方向から入射する、強度が1で固定で、位相が前記強度ビットと同相または逆相の位相ビットの光を入力と
し、自素子の前記第1の面と反対側の第2の面から出力光を出射する第1のハーフミラーと、
自素子の第1の面に対して45度の方向から入射する、前記第1のハーフミラーを透過した前記位相ビットの光を入力と
し、自素子の前記第1の面と反対側の第2の面から出力光を出射する第2のハーフミラーと、
自素子の第1の面に対して45度の方向から入射する、前記強度ビットの光と
、自素子の前記第1の面と反対側の第2の面に対して45度の方向かつ前記強度ビットの光に対して90度の方向から入射する、前記第2のハーフミラーを透過した前記位相ビットの光とをそれぞれ異なる側の面で受光して、前記強度ビットの光を受光した面から出力光を出射する第3のハーフミラーとを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の線形光論理素子は、
第1の面に対して45度の方向から入射する、強度が0または1で位相が固定の強度ビットの光と、
前記第1の面と反対側の第2の面に対して45度の方向かつ前記強度ビットの光に対して90度の方向から入射する、強度が1で固定で、位相が前記強度ビットと同相または逆相の位相ビットの光とをそれぞれ異なる側の面で受光して、前記強度ビットの光を受光した面から出力光を出射するビームスプリッタを備え、前記ビームスプリッタは、前記強度ビットの光から前記出力光への反射率が、前記位相ビットの光から前記出力光への透過率よりも大きいことを特徴とするものである。
また、本発明線形光論理素子は、
自素子の第1の面に対して45度の方向から入射する、強度が0または1で位相が固定の第1の強度ビットの光を入力と
し、自素子の前記第1の面と反対側の第2の面から出力光を出射する第1のハーフミラーと、
自素子の第1の面に対して45度の方向から入射する、強度が0または1で位相が前記第1の強度ビットの光と同相の第2の強度ビットの光と、
自素子の前記第1の面と反対側の第2の面に対して45度の方向かつ前記第2の強度ビットの光に対して90度の方向から入射する、強度が1で位相が前記第1、第2の強度ビットの光と逆相の固定光とをそれぞれ異なる側の面で受光して、前記固定光を受光した面から、位相が前記第1の強度ビットと同相または逆相の位相ビットの光を出射する第2のハーフミラーと、
自素子の第1の面に対して45度の方向から入射する、前記第1のハーフミラーを透過した前記第1の強度ビットの光と
、自素子の前記第1の面と反対側の第2の面に対して45度の方向かつ前記第1の強度ビットの光に対して90度の方向から入射する、前記第2のハーフミラーを出射した前記位相ビットの光とをそれぞれ異なる側の面で受光して、前記第1の強度ビットの光を受光した面から出力光を出射する第3のハーフミラーとを備えることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明線形光論理素子は、
自素子の第1の面に対して45度の方向から入射する、強度が0または1で位相が固定の第1の強度ビットの光と、
自素子の前記第1の面と反対側の第2の面に対して45度の方向かつ前記第1の強度ビットの光に対して90度の方向から入射する、強度が1で位相が前記第1の強度ビットの光と逆相の固定光とをそれぞれ異なる側の面で受光して、前記固定光を受光した面から、位相が前記第1の強度ビットと同相または逆相の位相ビットの光を出射する第1のハーフミラーと、
自素子の第1の面に対して45度の方向から入射する、前記第1のハーフミラーを出射した前記位相ビットの光と、
自素子の前記第1の面と反対側の第2の面に対して45度の方向かつ前記位相ビットの光に対して90度の方向から入射する、強度が0または1で位相が前記第1の強度ビットの光と同相の第2の強度ビットの光とをそれぞれ異なる側の面で受光して、前記第2の強度ビットの光を受光した面から出力光を出射するビームスプリッタとを備え、前記ビームスプリッタは、前記第2の強度ビットの光から前記出力光への反射率が、前記位相ビットの光から前記出力光への透過率よりも小さいことを特徴とするものである。
また、本発明線形光論理素子は、
第1の面に対して45度の方向から入射する、強度が0または1で位相が固定の強度ビットの光と、
前記第1の面と反対側の第2の面に対して45度の方向かつ前記強度ビットの光に対して90度の方向から入射する、強度が1で位相が前記強度ビットの光と同相の固定光とをそれぞれ異なる側の面で受光して、前記固定光を受光した面から出力光を出射するビームスプリッタを備え、前記ビームスプリッタは、前記固定光から前記出力光への反射率が、前記強度ビットの光から前記出力光への透過率よりも大きいことを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明線形光論理素子は、誘電体の表面に金属膜からなる平面視多角形の複数のアンテナが周期的に形成されたメタ表面ビーム偏向器を備え、前記メタ表面ビーム偏向器は、
表側から垂直に入射する、強度が0または1で位相が固定の第1の強度ビットの光を、前記アンテナが形成された面で受光し、
前記アンテナが形成された面と反対側から垂直に入射する、強度が0または1で位相が前記第1の強度ビットの光と同相の第2の強度ビットの光を、
前記反対側の面で受光して、前記アンテナが形成された面から出力光を出射することを特徴とするものである。
また、本発明線形光論理素子は、誘電体の表面に金属膜からなる平面視多角形の複数のアンテナが周期的に形成されたメタ表面ビーム偏向器を備え、前記メタ表面ビーム偏向器は、
表側から垂直に入射する、強度が0または1で位相が固定の第1の強度ビットの光を、前記アンテナが形成された面で受光し、
前記アンテナが形成された面と反対側の面の垂直方向に対して前記アンテナの設計によって決まる角度だけ傾いた方向から入射する、強度が0または1で位相が前記第1の強度ビットの光と同相の第2の強度ビットの光を、
前記反対側の面で受光し、
前記反対側から垂直に入射する、強度が1で位相が前記第1、第2の強度ビットの光と逆相の固定光を前記反対側の面で受光して、前記アンテナが形成された面から出力光を出射することを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明線形光論理素子の1構成例において、前記メタ表面ビーム偏向器は、誘電体からなる基板と、この基板の上に形成された金属膜からなる反射鏡と、この反射鏡の上に形成された誘電体膜からなるスペーサ層と、このスペーサ層の上に形成された前記アンテナとから構成され、前記アンテナは、平面形状が台形または三角形であり、前記台形または三角形の面内方向の長さが100nm以上2μm以下、前記台形または三角形の底辺の幅が100nm以上400nm以下、前記台形の上辺の幅が100nm以下、前記アンテナの面内方向のピッチが100nm以上5μm以下、前記アンテナの厚さが10nm以上100nm以下、前記スペーサ層の厚さが10nm以上200nm以下、前記反射鏡の厚さが100nm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、素子長が100nm前後である。したがって、従来技術の光スイッチと比較して少なくとも数1000分の1以上短尺であるため、ごく低遅延な光演算への応用に適している。また、本発明では、複数の素子のカスケード性や集積性を飛躍的に向上させることができる。また、本発明は、線形光学で動作するので、大きな入力強度を必要とせず、性能が入力強度無依存であるため、大幅な省電力化が期待できる。また、本発明では、強度ビット・強度ビット入力型の線形光論理素子の場合、挿入損失はビームスプリッタを用いた場合で1.2dB程度、メタ表面ビーム偏向器を用いた場合で1.50dB程度なので、従来よりも低損失である。さらに、本発明では、バイナリコントラストは最大で9.54dB程度が得られる。これにより、信号判別のために必要な後段での非線形効果の利用を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[発明の原理]
本発明では、(a)強度ビットと位相ビット入力を組み合わせた特殊な場合と、(b)2つの強度ビット入力を用いた一般的な場合の2とおりの動作を取り扱う。(a)は、運用状況が(b)よりも限定されるが、1以上の透過強度が得られるため、より多数のカスケード接続に有用である。なお、本書における全ての出力値0,1は電界振幅値ではなく、光強度を意味している。ただし、位相ビットについては、0は同相を意味し、πは逆相を意味している。
【0026】
[ハーフミラーを用いた強度・位相ビット入力型の線形光学AND素子]
強度ビットと位相ビットの入力による動作について、自由空間光学系において3つのハーフミラー10−1,10−2,11を用いた線形光学AND素子の構成を
図1(A)に示し、この線形光学AND素子の入出力表を
図1(B)に示す。
【0027】
ここで、A,Bはそれぞれ強度ビット、位相ビットである。強度ビットAは、入力強度が0または1で入力位相が固定の光信号である。位相ビットBは、強度が1で固定で、位相が強度ビットAと同相(0)または逆相(π)の光信号である。
位相ビットBは、2段のハーフミラー10−1,10−2を通過することで強度が0.25となる。そして、ハーフミラー11は、強度ビットAと位相ビットBに部分干渉を起こさせる。その結果、ハーフミラー11の強度ビットAを受光した面から、
図1(B)の入出力表に示す出力光Cが得られる。
【0028】
これにより、(A,B)=(1,0)の場合のみC=1.125で、それ以外のA,Bの組み合わせではC=0.125となる(バイナリコントラストは9.54dB)。
したがって、
図1(A)に示した素子はAND素子的に動作する。以降でも1よりも大きな値が出力される例をいくつか取り上げるが、後段に損失要因を挿入するだけでバイナリコントラストを保ったまま1にできる。1よりも大きな出力は、可飽和吸収などの非線形光学効果を導入してバイナリコントラストを改善する際に重要である。
図1(A)の構成の要点は強度ビットAと位相ビットBの光の強度比を4:1として部分干渉させることである。これにより、9.54dBのバイナリコントラストが実現できる。
【0029】
[ビームスプリッタを用いた強度ビット・位相ビット入力型の線形光学AND素子]
ビームスプリッタ12を用いた線形光学AND素子の構成を
図2(A)に示し、この線形光学AND素子の入出力表を
図2(B)に示す。
図2(A)に示す素子は、
図1(A)に示した素子よりも簡易かつ低損失な構成例である。ビームスプリッタ12の強度ビットA側から出力光Cへの反射率は80%、位相ビットB側から出力光Cへの透過率は20%である(反射率と透過率の比が4:1)。
【0030】
このような透過率と反射率の設定により、
図1(A)に示した素子と同じ状況を、より低損失に再現できる。ビームスプリッタ12で強度ビットAと位相ビットBの部分干渉を起こさせることにより、ビームスプリッタ12の強度ビットAを受光した面から、
図2(B)の入出力表に示す出力光Cが得られる。
図1(B)の場合と同様に、(A,B)=(1,0)の場合のみC=1.8で、それ以外のA,Bの組み合わせではC=0.2となる(バイナリコントラストは9.54dB)。
図2(A)に示した素子によれば、
図1(A)に示した素子の場合よりも全体の出力が1.6倍大きく、非線形光学効果によるバイナリコントラストの改善に有利である。
【0031】
[ハーフミラーを用いた強度・位相変換器]
ハーフミラーを用いた強度・位相変換器13の構成を
図3(A)に示し、この強度・位相変換器の入出力表を
図3(B)に示す。この例では、強度0または1の強度ビットAと強度0.25の固定光Dとをそれぞれハーフミラー130の異なる側に入力する。強度ビットAと固定光Dの相対位相差はπである。
【0032】
図3(A)に示す構成によれば、強度ビットAが0か1かで出力Cの位相がπ異なるが、出力強度は0.125で一定という状況を作ることができる。すなわち、
図3(A)に示す構成は、強度ビット(0,1)を出力Cで位相ビット(0,π)に変換する装置として機能する。
【0033】
[強度・位相変換器を用いた強度・強度ビット入力型の線形光学AND素子」
図3(A)の強度・位相変換器と
図1(A)の強度・位相ビット入力型のAND素子のアイディアを融合させた強度・強度ビット入力型の線形光学AND素子の構成を
図4(A)に示し、この線形光学AND素子の入出力表を
図4(B)に示す。
【0034】
強度・位相変換器13によって強度ビットBは、強度0.125の位相ビット0またはπに変換される。強度・位相変換器13に入力される強度ビットBと、強度1の固定光Dの相対位相差はπである。また、強度ビットA,Bの相対位相差は0である。
【0035】
強度ビットAは、1段のハーフミラー14−1を通ることで強度が0.5となる。そして、ハーフミラー14−2は、ハーフミラー14−1から出力された強度ビットAと強度・位相変換器13から出力された位相ビットに部分干渉を起こさせることにより、強度ビットAを受光した面から出力光Cが得られる。その結果、(A,B)=(1,1)の場合のみC=0.5625で、それ以外のA,Bの組み合わせではC=0.0625となる(バイナリコントラストは9.54dB)。
【0036】
図4(A)に示す構成では、挿入損失が2.50dBであり、素子のカスケード接続のためには光増幅器等による損失補償を必要とする。
【0037】
[強度・位相変換器を用いた強度・強度ビット入力型の線形光学AND素子」
強度・位相変換器を用いたAND素子の別の例として、
図4(A)のハーフミラー14−1,14−2を、反射率と透過率の比が1:2のビームスプリッタ15に置換した場合の強度・強度ビット入力型の線形光学AND素子の構成を
図5(A)に示し、この線形光学AND素子の入出力表を
図5(B)に示す。
【0038】
強度・位相変換器13によって強度ビットBは、強度0.125の位相ビット0またはπに変換される。上記のとおり、強度・位相変換器13に入力される強度ビットBと、強度1の固定光Dの相対位相差はπである。また、強度ビットA,Bの相対位相差は0である。
【0039】
反射率と透過率の比が1:2のビームスプリッタ15は、強度ビットAを反射し、強度・位相変換器13から出力された位相ビットを透過させ、強度ビットAと位相ビットに部分干渉を起こさせる。ビームスプリッタ15の強度ビットAを受光した面から出力光Cが得られる。その結果、(A,B)=(1,1)の場合のみC=0.75で、それ以外のA,Bの組み合わせではC=0.083となる(バイナリコントラストは9.54dB)。
【0040】
図5(A)に示す構成では、挿入損失が1.25dBであり、素子のカスケード接続のために光増幅器等による損失補償が必要ではあるが、従来技術と比較して極めて低損失であるため、非線形光学効果の利用を大幅に省略できる。
【0041】
[ビームスプリッタを用いた線形光学NOT素子]
ビームスプリッタを用いた線形光学NOT素子の構成を
図6(A)、
図6(B)に示し、これら線形光学NOT素子の入出力表を
図6(C)、
図6(D)に示す。ビームスプリッタの一方の入力を強度ビットA、他方の入力を固定光DとすることでNOT素子を構成できる。強度ビットAと固定光Dの相対位相差は0である。
【0042】
図6(A)は、反射率と透過率の比が4:1のビームスプリッタ16に、強度ビットAと強度4の固定光Dとを入力する場合を示している。ビームスプリッタ16の固定光Dを受光した面から出力光Cが得られる。これにより、A=0で出力C=0.8、A=1で出力C=0のNOT動作を実現できる(
図6(C))。
図6(A)に示す素子の場合、信号光に対する損失が0.97dBで、バイナリコントラストが無限大のNOT素子を構成できる。
【0043】
図6(B)は、反射率と透過率の比が9:1のビームスプリッタ16に、強度ビットAと強度9の固定光Dとを入力する場合を示している。上記と同様に、ビームスプリッタ16の固定光Dを受光した面から出力光Cが得られる。これにより、A=0で出力C=0.9、A=1で出力C=0のNOT動作を実現できる(
図6(D))。
図6(B)に示す素子の場合、信号光に対する損失は0.46dBで、バイナリコントラストが無限大のNOT素子を構成できる。
ただし、
図6(A)、
図6(B)の例では、光損失を補償するために、より大きな固定光強度が必要となるため、損失と消費電力はトレードオフである。
【0044】
以上により、線形光学ベースであっても、ユニバーサルな演算に必要なAND素子とNOT素子を、バイナリコントラスト9.5dB以上かつ損失1.2dB程度で実現できることが分かる。
【0045】
[非対称メタ表面線形光論理素子]
光論理素子として利用するメタ表面ビーム偏向器の構造の概要を
図7(A)、
図7(B)、
図8(A)、
図8(B)で説明する。
図7(A)は非対称メタ表面線形光論理素子20(メタ表面ビーム偏向器)の斜視図、
図7(B)は
図7(A)の素子20の断面図である。
図8(A)は埋め込み型非対称メタ表面線形光論理素子21の斜視図、
図8(B)は
図8(A)の素子21の断面図である。
【0046】
図7(A)、
図7(B)、
図8(A)、
図8(B)で図示するいずれの構造もシンプルな台形型アンテナによるビーム偏向メタ表面をもつ。
図7(A)、
図7(B)に示す非対称メタ表面線形光論理素子20は、誘電体基板20−4と、誘電体基板20−4の上に形成された部分反射鏡20−3と、部分反射鏡20−3の上に形成されたスペーサ層20−2と、スペーサ層20−2の上に形成されたメタ表面部20−1とから構成される。
【0047】
メタ表面部20−1および部分反射鏡20−3の材質は金または銀である。スペーサ層20−2および誘電体基板20−4を構成する透明な誘電体材料としては、主に石英・シリカがあるが、屈折率の異なるフッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、窒化シリコン、酸化チタン、酸化バナジウム等の利用も考えられる。メタ表面部20−1の上部は空気である。誘電体基板20−4の下部は平坦である必要がある。
【0048】
図8(A)、
図8(B)に示す埋め込み型非対称メタ表面線形光論理素子21は、誘電体基板21−5と、誘電体基板21−5の上に形成された部分反射鏡21−4と、部分反射鏡21−4の上に形成されたスペーサ層21−3と、スペーサ層21−3の上に形成されたメタ表面部21−2と、メタ表面部21−2を覆う誘電体21−1とから構成される。
【0049】
図8(A)、
図8(B)に示す素子は、
図7(A)、
図7(B)に示した素子のメタ表面部を誘電体21−1で覆ったものである。上記と同様に、スペーサ層21−3、誘電体基板21−5および誘電体21−1を構成する透明な誘電体材料としては、石英・シリカがあるが、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、窒化シリコン、酸化チタン、酸化バナジウム等の利用も考えられる。誘電体21−1の上部および誘電体基板21−5の下部は平坦である必要がある。
【0050】
光論理素子20,21の上部と下部のそれぞれの表面に無反射コーティングを施すことで、フレネル反射の影響を除去できる。また、上部と下部のそれぞれの表面を同じ材料で覆うか、異なる材料で覆うかによっても、デバイス特性を調整できる。また、複数の光論理素子20,21を面垂直方向に配列してカスケード接続する場合、素子間の中間層を空気以外の材料で埋めることにより、光学距離が固定化できる。
【0051】
光論理素子20,21の具体的な各構造パラメータを
図9(A)、
図9(B)を用いて説明する。メタ表面部20−1,21−2には、
図9(A)の平面図で示すように多数の台形アンテナ200が周期的に形成されている。メタ表面部20−1,21−2の面内方向の構造パラメータとして、台形アンテナ200の長さL、台形アンテナ200の平行な2辺のうち一辺の幅W
L、他辺の幅W
S、台形アンテナ200のx方向のピッチP
x、y方向のピッチP
yを定める。
【0052】
また、光論理素子20,21の断面方向の構造パラメータとして、
図9(B)に示すように、メタ表面部20−1,21−2の厚さd
1、スペーサ層20−2,21−3の厚さd
2、部分反射鏡20−3,21−4の厚さd
3を定める。
【0053】
可視領域から近赤外領域において論理素子的な動作を実現するために、台形アンテナ200の長さLを100nm以上2μm以下の範囲で調整し、台形アンテナ200の一辺の幅W
Lを100nm以上400nm以下の範囲で調整し、他辺の幅W
Sを0nm以上100nm以下の範囲で調整する。また、台形アンテナ200のピッチP
x,P
yを100nm以上5μm以下の範囲で調整する。さらに、厚さd
1を10nm以上100nm以下の範囲で、厚さd
2を10nm以上200nm以下の範囲で、厚さd
3を100nm以下の範囲でそれぞれ調整する。なお、W
Sを0nmから100nmの範囲とすることから明らかなように、アンテナ200の平面形状は台形でなく、三角形であってもよい。
【0054】
[非対称メタ表面線形光論理素子の強度ビット・位相ビット動作]
次に、非対称メタ表面線形光論理素子20を強度ビット・位相ビット入力のAND素子として動作させる場合の具体的な構成とシミュレーション結果を説明する。ここでは、各構造パラメータの1例として、台形アンテナ200のx方向のピッチP
x=1.2μm、y方向のピッチP
y=0.2μm、台形アンテナ200の長さL=0.8μm、台形アンテナ200の一辺の幅W
S=30nm、台形アンテナ200の他辺の幅W
L=160nm、メタ表面部20−1の厚さd
1=30nm、スペーサ層20−2の厚さd
2=68nm、部分反射鏡20−3の厚さd
3=24nmとする。
【0055】
図10に示すように、台形アンテナ200の長手方向(x方向)に垂直な偏光をもつ光を、非対称メタ表面線形光論理素子20に対して垂直に表と裏からそれぞれ強度ビットA、位相ビットBとして入力する。台形アンテナ200の設計により、
図10に示す32°方向に出力光Cを得る。
【0056】
上記の構造パラメータの設定値の場合、強度ビットAから出力光Cへの透過率T
CAは0.44、位相ビットBから出力光Cへの透過率T
CBは0.11となり、強度ビットAの反射率と位相ビットBの透過率の比は4:1となる。つまり、
図2(A)に示した4:1ビームスプリッタと同様の状況を再現することができる。
【0057】
シミュレーションによって得られた電界分布を
図11(A)、
図11(B)、
図11(C)に示す。
図11(A)は(A,B)=(0,π)または(0,0)の場合を示し、
図11(B)は(A,B)=(1,π)の場合を示し、
図11(C)は(A,B)=(1,0)の場合を示している。
図11(A)、
図11(B)、
図11(C)によれば、(A,B)=(1,0)の際に出力Cに光が強く出力され、その他のA,Bの組み合わせでは出力Cがほとんど出力されていないことが分かる。
【0058】
図10の場合の入出力表を
図12に示す。
図2(A)の場合と同様に、バイナリコントラスト〜9.5dBで、(A,B)=(1,1)入力時の透過率が1を超えるものが、非対称メタ表面線形光論理素子20でも実現できることが分かる。
図2(A)の場合は低損失かつ構成が単純であるが、透過率の比は波長によって大きく変動するため、動作波長帯域が狭い(例えば10nm未満)。一方、メタ表面を用いた場合は,4:1の透過率の比が広い波長帯域で維持される(例えば可視光領域で200nm以上)。また偏向角は波長に応じて変化するため、入力波長ごとに出射ポートを分離することができる。すなわち波長分割多重信号を1つのデバイスで一括処理できる利点がある。
【0059】
[非対称メタ表面線形光論理素子の強度ビット・強度ビット動作]
次に、非対称メタ表面線形光論理素子20を強度ビット・強度ビット入力のAND素子として動作させる場合の具体的な構成とシミュレーション結果を説明する。ここでは、各構造パラメータの1例として、台形アンテナ200のx方向のピッチP
x=1.2μm、y方向のピッチP
y=0.2μm、台形アンテナ200の長さL=0.8μm、台形アンテナ200の一辺の幅W
S=30nm、台形アンテナ200の他辺の幅W
L=160nm、メタ表面部20−1の厚さd
1=30nm、スペーサ層20−2の厚さd
2=70nm、部分反射鏡20−3の厚さd
3=18nmとする。
【0060】
図13に示すように、台形アンテナ200の長手方向(x方向)に垂直な偏光をもつ光を、非対称メタ表面線形光論理素子20に対して垂直に表側から強度ビットAとして入力する。一方、台形アンテナ200の長手方向に垂直な偏光をもつ光を、非対称メタ表面線形光論理素子20に対して32°傾けて裏側から強度ビットBとして入力する。2つの強度ビットA,Bの相対位相差は0である。さらに、非対称メタ表面線形光論理素子20に対して垂直に裏側から固定光Dを入力する。この固定光Dと強度ビットA,Bの相対位相差はπである。なお、
図13に示す角度は、アンテナ200の設計(寸法およびピッチ)によって決まる。
【0061】
上記の構造パラメータの設定値の場合、強度ビットAから出力光Cへの透過率T
CAおよび強度ビットBから出力光Cへの透過率T
CBはT
CA=T
CB=0.25であるため、強度ビットAの反射率と強度ビットBの透過率の比は1:1となる。固定光Dから出力光Cへの透過率T
biasは0.095である。固定光Dの入力強度P
biasは、T
CA:T
CB:P
biasT
bias=4:4:1となるように調整している(T
bias=0.658)。
【0062】
以上の条件においてシミュレーションによって得られた電界分布を
図14(A)、
図14(B)、
図14(C)、
図14(D)に示す。
図14(A)は(A,B)=(0,0)の場合を示し、
図14(B)は(A,B)=(0,1)の場合を示し、
図14(C)は(A,B)=(1,0)の場合を示し、
図14(D)は(A,B)=(1,1)の場合を示している。
【0063】
図14(A)、
図14(B)、
図14(C)、
図14(D)によれば、(A,B)=(1,1)の際に出力Cに光が強く出力され、その他のA,Bの組み合わせでは出力Cがほとんど出力されていないことが分かる。
【0064】
図13の場合の入出力表を
図15に示す。なお、
図15では、メタ表面部20−1(台形アンテナ200)および部分反射鏡20−3の材質として金を用いた場合(w/Au)と、メタ表面部20−1および部分反射鏡20−3の材質として銀を用いた場合(w/Ag)の両方を記載している。
【0065】
固定光Dの導入によって、バイナリコントラスト〜9.5dBで、(A,B)=(1,1)入力時の透過率が0.54となる。さらに、メタ表面部20−1および部分反射鏡20−3の材質として銀を用いた場合では、さらに金属吸収損失が減少し、(A,B)=(1,1)入力時の透過率が0.70となる。したがって、
図4(A)または
図5(A)と同等な動作をする強度・強度ビット入力のAND素子が、非対称メタ表面線形光論理素子20でも実現できることが分かる。
【0066】
図4(A)または
図5(A)の場合は複数のハーフミラーまたはビームスプリッタが必要になるが、非対称メタ表面線形光論理素子20は1つだけであれば良く、エレメント間の相対的な位置関係や時間的な揺らぎが排除される。さらに、非対称メタ表面線形光論理素子20によれば、素子が100nmオーダと極めて薄いため、低遅延な光演算への応用が期待できる。
【0067】
なお、
図10、
図13では、非対称メタ表面線形光論理素子20を例に挙げて説明しているが、埋め込み型非対称メタ表面線形光論理素子21を用いた場合も同様の動作が実現可能である。
【0068】
[第1の実施例]
以下、本発明の線形光論理素子の具体的な構成について図面を参照して説明する。
図16は本発明の第1の実施例に係る線形光論理素子の構成例を示す図であり、強度ビット・位相ビット入力型の線形光学AND素子の構成例を示す図である。なお、本実施例および以下の実施例で説明する構成は、いずれも各素子で光損失がなく、光の強度・位相の擾乱が一切ないと想定した場合の最低限の構成である。
【0069】
本実施例の線形光論理素子は、レーザ光源30と、レーザ光源30からの光を1:1の分岐比で分岐させるハーフミラー31と、ハーフミラー31によって分岐された一方の光を反射させる全反射ミラー32と、全反射ミラー32からの光を変調信号に応じて強度変調して、強度ビットAの光として出力する強度変調器33と、ハーフミラー31によって分岐された他方の光を変調信号に応じて位相変調して、位相ビットBの光として出力する移相器34と、位相ビットBを反射させる全反射ミラー35と、反射(強度ビットA)透過(位相ビットB)の比が4:1のビームスプリッタ12とから構成される。
【0070】
レーザ光源30からの光をハーフミラー31で1:1に分岐させ、一方の光を強度変調器33に通すことで強度が0または1の強度ビットAを生成し、他方の光を移相器34に通すことで位相が0またはπの位相ビットBを生成する。強度ビットAと位相ビットBを、
図2(A)で説明したビームスプリッタ12に入力する。ビームスプリッタ12は、強度ビットAを反射し、位相ビットBを透過させて、強度ビットAと位相ビットBの部分干渉を起こさせる。そして、光検出器36は、ビームスプリッタ12の出力光Cを電気信号に変換する。
【0071】
[第2の実施例]
図17は本発明の第2の実施例に係る線形光論理素子の構成例を示す図であり、強度ビット・強度ビット入力型の線形光学AND素子の構成例を示す図である。本実施例の線形光論理素子は、レーザ光源40と、レーザ光源40からの光を1:1.25の分岐比で分岐させるビームスプリッタ41と、ビームスプリッタ41を透過した光を1:0.25の分岐比で分岐させるビームスプリッタ42と、ビームスプリッタ41からの反射光を反射させる全反射ミラー43と、全反射ミラー43からの光を変調信号に応じて強度変調して、強度ビットAの光として出力する強度変調器44と、強度ビットAの光を位相調整のための変調信号に応じて位相変調する移相器45と、ビームスプリッタ42からの反射光を反射させる全反射ミラー46と、全反射ミラー46からの光を変調信号に応じて強度変調して、強度ビットBの光として出力する強度変調器47と、強度ビットBの光を位相調整のための変調信号に応じて位相変調する移相器48と、ビームスプリッタ42を透過した固定光Dを反射させる全反射ミラー49と、反射(強度ビットB)と透過(固定光D)の比が1:1のハーフミラー50と、反射(強度ビットA)と透過(位相ビットB)の比が1:2のビームスプリッタ15とから構成される。
【0072】
ビームスプリッタ42と全反射ミラー46と強度変調器47と移相器48と全反射ミラー49とハーフミラー50とは、
図5(A)に示した強度・位相変換器13に相当する。
ビームスプリッタ41は、レーザ光源40からの光を反射と透過の比1:1.25で分岐させる。ビームスプリッタ42は、ビームスプリッタ41を透過した光を反射と透過の比1:0.25で分岐させる。ビームスプリッタ41の反射光を強度変調器44と移相器45に通すことで強度が0または1の強度ビットAを生成する。また、ビームスプリッタ42の反射光を強度変調器47と移相器48に通すことで強度が0または1の強度ビットBを生成する。
【0073】
ハーフミラー50は、移相器48から出力された強度ビットBを反射し、ビームスプリッタ42を透過した強度0.25の固定光Dを透過させて、強度ビットBと固定光Dの部分干渉を起こさせ、強度ビットBを、強度が0.125で位相が0またはπの位相ビットBに変換する。なお、移相器45,48は、強度ビットA,Bと固定光Dとの相対位相差をπにするために設けられている。強度ビットA,Bの相対位相差は0である。
【0074】
ビームスプリッタ15は、移相器45から出力された強度ビットAを反射し、位相ビットBを透過させて、強度ビットAと位相ビットBの部分干渉を起こさせる。そして、光検出器51は、ビームスプリッタ15の出力光Cを電気信号に変換する。
【0075】
[第3の実施例]
図18は本発明の第3の実施例に係る線形光論理素子の構成例を示す図であり、非対称メタ表面線形光論理素子(メタ表面ビーム偏向器)を用いた強度ビット・強度ビット入力型の線形光学AND素子の構成例を示す図である。本実施例の線形光論理素子は、レーザ光源60と、レーザ光源60からの光を2:0.66の分岐比で分岐させるビームスプリッタ61と、ビームスプリッタ61からの反射光を1:1の分岐比で分岐させるハーフミラー62と、ハーフミラー62を透過した光を反射させる全反射ミラー63と、全反射ミラー63からの光を変調信号に応じて強度変調して、強度ビットAの光として出力する強度変調器64と、強度ビットAの光を位相調整のための変調信号に応じて位相変調する移相器65と、強度ビットAの光を反射させる全反射ミラー66と、ハーフミラー62からの反射光を変調信号に応じて強度変調して、強度ビットBの光として出力する強度変調器67と、強度ビットBの光を位相調整のための変調信号に応じて位相変調する移相器68と、強度ビットBの光を反射させる全反射ミラー69と、ビームスプリッタ61を透過した固定光Dを反射させる全反射ミラー70と、非対称メタ表面線形光論理素子20とから構成される。
【0076】
ビームスプリッタ61は、レーザ光源60からの光を反射と透過の比2:0.66で分岐させる。ハーフミラー62は、ビームスプリッタ61からの反射光を1:1の分岐比で分岐させる。ハーフミラー62の透過光を強度変調器64と移相器65に通すことで強度が0または1の強度ビットAを生成する。
【0077】
また、ハーフミラー62の反射光を強度変調器67と移相器68に通すことで強度が0または1の強度ビットBを生成する。なお、移相器65,68は、強度ビットA,Bと、ビームスプリッタ61を透過した強度0.66の固定光Dとの相対位相差をπにするために設けられている。強度ビットA,Bの相対位相差は0である。
【0078】
強度ビットAは、全反射ミラー66を介して非対称メタ表面線形光論理素子20の表側(メタ表面部20−1側)から垂直に入射する。強度ビットBは、非対称メタ表面線形光論理素子20の裏側(誘電体基板20−4側)の垂直方向に対して例えば32°傾いた方向から入射する。固定光Dは、非対称メタ表面線形光論理素子20の裏側から垂直に入射する。こうして、
図13で説明したように、非対称メタ表面線形光論理素子20の表側から出射する出力光Cを得ることができる。そして、光検出器71は、非対称メタ表面線形光論理素子20の出力光Cを電気信号に変換する。
【0079】
本実施例の線形光論理素子をオンチップ化した場合に考えられる構成例を
図19に示す。少数(例えば1から8つ程度)の台形アンテナ200で動作するようにオンチップ化した非対称メタ表面線形光論理素子20と、Si細線またはポリマー導波路などの光導波路22の交差を組み合わせることで、さらに微小かつ低遅延で、カスケード接続と集積化とに適した線形光論理素子を実現することができる。
【0080】
また、本実施例においては、非対称メタ表面線形光論理素子20の直前に設置された固定移相器の移相量や固定光の強度の調整で光論理素子の機能の選択・変更がある程度可能である。機能切り替えをする際の強度ビットA,Bと固定光Dの透過強度関係、位相関係をベクトルで直感的に表したものを
図20(A)、
図20(B)、
図20(C)、
図20(D)に示す。ここで利用を想定している非対称メタ表面線形光論理素子20の強度ビットAから出力光Cへの透過率T
CAおよび強度ビットBから出力光Cへの透過率T
CBはT
CA=T
CBである。
【0081】
図20(A)は非対称メタ表面線形光論理素子20をAND素子として動作させる場合を示している。この場合、固定光Dから出力光Cへの透過率をT
bias、固定光Dの非対称メタ表面線形光論理素子20への入力強度をP
biasとしたとき、T
CA:T
CB:P
biasT
bias=4:4:1となるように調整し、強度ビットA,Bと固定光Dとを逆相とする(
図13と同一な強度・位相関係)。
【0082】
図20(B)は非対称メタ表面線形光論理素子20をNOT素子として動作させる場合を示している。この場合、非対称メタ表面線形光論理素子20に入力する信号光を強度ビットA,Bのうちどちらか一方とし、T
CA(T
CB):P
biasT
bias=1:1となるように調整して、信号光と固定光Dとを逆相とする。
【0083】
図20(C)は非対称メタ表面線形光論理素子20をXOR素子として動作させる場合を示している。この場合、強度ビットA,Bを逆相とする。
図20(D)は非対称メタ表面線形光論理素子20をOR素子として動作させる場合を示している。この場合、強度ビットAとBの位相を2π/3ずらす。損失はいずれもT
CAおよびT
CBがどれくらい大きくできるかによって制限される。
【0084】
なお、上記で説明したとおり、非対称メタ表面線形光論理素子20の代わりに、埋め込み型非対称メタ表面線形光論理素子21を用いることも可能である。