特許第6795481号(P6795481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795481
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/295 20060101AFI20201119BHJP
   H01B 9/02 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   H01B7/295
   H01B9/02 B
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-214558(P2017-214558)
(22)【出願日】2017年11月7日
(65)【公開番号】特開2019-87399(P2019-87399A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2018年9月13日
【審判番号】不服2019-5197(P2019-5197/J1)
【審判請求日】2019年4月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加賀 雅文
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
【合議体】
【審判長】 國分 直樹
【審判官】 石川 亮
【審判官】 山澤 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−118857(JP,A)
【文献】 特開2007−168500(JP,A)
【文献】 特開2017−27878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/295
H01B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周に配置された難燃半導電層と、前記難燃半導電層の外周に配置された絶縁層と、前記絶縁層の外周に配置された難燃層とを備えた絶縁電線であって、
前記難燃半導電層が、JIS K7201−2で規定される酸素指数が40を超え、JIS C 2151で規定される体積抵抗率が5.0×1015(Ωcm)以下であり、
前記絶縁層は樹脂成分を含み、前記樹脂成分100質量部に対して添加剤を5質量部以下含有する絶縁樹脂組成物からなり、
前記難燃層は、樹脂成分を含む難燃樹脂組成物によって構成され、前記難燃層を形成する難燃樹脂組成物における樹脂成分が塩化ビニル、フッ素樹脂、又はポリオレフィン樹脂からなる
絶縁電線。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁電線において、
前記導体の径が1.25mm以下であり、前記難燃半導電層と前記絶縁層と前記難燃層の合計の厚さが0.6mm未満である、絶縁電線。
【請求項3】
請求項1に記載の絶縁電線において、
前記導体の径が1.25mmを超え5.0mm以下であり、前記難燃半導電層と前記絶縁層と前記難燃層の合計の厚さが0.7mm未満である、絶縁電線。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記絶縁電線が、EN50266−2−4に基づき、垂直トレイ燃焼試験(VTFT)に合格する難燃性を有する、絶縁電線。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記絶縁電線が、EN50305.6.7に準拠した直流安定性試験に合格する直流安定性を有する、絶縁電線。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記絶縁層が、JIS C 2151で規定される体積抵抗率が1.0×1016(Ωcm)を超える、絶縁電線。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記難燃層の酸素指数が40を超える、絶縁電線。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記難燃半導電層が、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、絶縁電線。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記難燃層が、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、絶縁電線。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記難燃半導電層が、樹脂成分及びノンハロゲンフィラーを含み、前記樹脂成分100質量部に対して前記ノンハロゲンフィラーが150質量部以上250質量部以下を含有する、絶縁電線。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記絶縁層の少なくとも1部が架橋体である、絶縁電線。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記絶縁層を形成する樹脂組成物における樹脂成分が高密度ポリエチレンおよび/または低密度ポリエチレンからなる、絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や自動車などの配線として用いられる絶縁電線には、絶縁性だけでなく、火災時に燃えにくいような難燃性が求められている。そのため、絶縁電線の被覆層にはノンハロゲンフィラーが配合される。例えば、特許文献1には、絶縁性を有する絶縁層の外周にノンハロゲンフィラーを含む難燃層を積層させて被覆層を形成した絶縁電線が開示されている。特許文献1によれば、絶縁性と難燃性を高い水準でバランスよく得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−11140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、絶縁電線には、軽量化の観点から外径を細くすることが求められている。そのため、内側に位置する絶縁層や外側に位置する難燃層の厚さを薄くすることが検討されている。
【0005】
そこで、本発明は、絶縁性と難燃性を維持しつつ、細径化を実現できる絶縁電線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の絶縁電線を提供するものである。
【0007】
[1]導体と、前記導体の外周に配置された難燃半導電層と、前記難燃半導電層の外周に配置された絶縁層と、前記絶縁層の外周に配置された難燃層とを備えた絶縁電線であって、前記難燃半導電層が、JIS K7201−2で規定される酸素指数が40を超え、JIS C 2151で規定される体積抵抗率が5.0×1015(Ωcm)以下であ前記絶縁層は樹脂成分を含み、実質的に難燃剤を含まない絶縁樹脂組成物からなる、絶縁電線。
【0008】
[2][1]に記載の絶縁電線において、前記導体の径が1.25mm以下であり、前記難燃半導電層と前記絶縁層と前記難燃層の合計の厚さが0.6mm未満である、絶縁電線。
【0009】
[3][1]または[2]に記載の絶縁電線において、前記導体の径が1.25mmを超え5.0mm以下であり、前記難燃半導電層と前記絶縁層と前記難燃層の合計の厚さが0.7mm未満である、絶縁電線。
【0010】
[4][1]〜[3]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記絶縁電線が、EN50266−2−4に基づき、垂直トレイ燃焼試験(VTFT)に合格する難燃性を有する、絶縁電線。
【0011】
[5][1]〜[4]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記絶縁電線が、EN50305.6.7に準拠した直流安定性試験に合格する直流安定性を有する、絶縁電線。
【0012】
[6][1]〜[5]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記絶縁層が、JIS C 2151で規定される体積抵抗率が1.0×1016(Ωcm)を超える、絶縁電線。
【0013】
[7][1]〜[6]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記難燃層の酸素指数が40を超える、絶縁電線。
【0014】
[8][1]〜[7]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記難燃半導電層が、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、絶縁電線。
【0015】
[9][1]〜[8]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記難燃層が、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、絶縁電線。
【0016】
[10][1]〜[9]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記難燃半導電層が、樹脂成分及びノンハロゲンフィラーを含み、前記樹脂成分100質量部に対して前記ノンハロゲンフィラーが150質量部以上250質量部以下を含有する、絶縁電線。
【0017】
[11][1]〜[10]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記絶縁層の少なくとも1部が架橋体である、絶縁電線。
【0018】
[12][1]〜[11]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記絶縁層を形成する樹脂組成物における前記樹脂成分が高密度ポリエチレンおよび/または低密度ポリエチレンからなる、絶縁電線。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、直流安定性及び難燃性を維持しつつ、細径化を実現できる電線構造の絶縁電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の絶縁電線の実施形態を示す横断面図である。
図2】本発明の絶縁電線の他の実施形態を示す横断面図である。
図3】従来の絶縁電線を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、従来の絶縁電線について図3を用いて説明する。図3は、従来の絶縁電線の長さ方向に対して垂直な断面図である。
【0022】
図3に示すように、従来の絶縁電線100は、導体110と、導体110の外周に配置される絶縁層120と、絶縁層120の外周に配置され、ノンハロゲンフィラーを配合した難燃層130とを備えて構成されている。
【0023】
従来の絶縁電線100において、難燃層130は、絶縁層120と同様に樹脂から形成
されるため、所定の絶縁性を示すものの、絶縁の信頼性が低く、直流安定性には寄与しな
い場合が多い。直流安定性は、後述するように、EN50305.6.7に準拠した直流安定性試験により評価される電気特性の1つであり、絶縁電線100を食塩水中に浸漬させて所定の電圧を課電したときに所定時間を経過しても絶縁破壊しないことを示し、絶縁の信頼性についての指標となるものである。
【0024】
本発明者らの検討によると、難燃層130が直流安定性に寄与しないのは、ノンハロゲンフィラーの配合により体積抵抗率が低くなるためであることが分かった。その要因の1つとして、難燃層130では、難燃層130を形成する樹脂とノンハロゲンフィラーとの密着性が低いことに起因して、ノンハロゲンフィラーの周囲に微小な隙間が形成されてしまうことが考えられる。この隙間の形成により難燃層130は水が浸透し、吸水しやすくなる。このような難燃層130では、絶縁電線100を水に浸漬させて直流安定性を評価する際に、水の浸透により導電パスが形成され、絶縁破壊が生じやすくなる。このため、絶縁信頼性が低い傾向にある。このように、難燃層130は、吸水により絶縁性が低下しやすく、直流安定性に寄与しないことになる。
【0025】
一方、絶縁層120は、難燃層130で被覆されているので、ノンハロゲンフィラーを配合する必要がない。そのため、絶縁層120は、難燃層130のように難燃性は示さないものの、体積抵抗率が高くなるように構成され、直流安定性に寄与することになる。
【0026】
このように、従来の絶縁電線100では、絶縁層120が直流安定性に、難燃層130が難燃性に、それぞれ寄与している。そのため、直流安定性および難燃性を高い水準で両立するには、絶縁層120および難燃層130をそれぞれ厚くする必要があり、絶縁電線100の細径化のためにそれぞれを薄くすることが困難となっている。
【0027】
このように、従来の絶縁電線100では、導体110の外周に絶縁層120を、最外層に難燃層130を設けることで難燃性を確保しつつ、直流安定性を確保している。一方本発明者らは、更に導体の外周に難燃半導電層を付与することで難燃性を低下させることなく、直流安定性が著しく向上させることができることを見出した。
【0028】
つまり、本発明者らは、絶縁層の内側に絶縁層よりも体積抵抗率の低い5.0×1015(Ωcm)以下の導電性材料を用いると、直流安定性が高くなり、更に難燃性として酸素指数が40を超えるような導電性材料であれば難燃性との両立ができることを見出した。
【0029】
ただし、絶縁層は実質的に難燃剤を含まず、難燃性に劣るので、このような絶縁層を絶縁電線の表面に設けると、絶縁電線全体としての難燃性を低下させるおそれがある。
【0030】
この点、難燃性に劣る絶縁層を難燃層の間に介在させることで、例えば、絶縁電線を、導体側から順に難燃半導電層、絶縁層および難燃層(以下、まとめて「被覆層」という場合がある。)の3層を形成することで、難燃性を維持しつつ、絶縁層により難燃半導電層への浸水を抑制して直流安定性を高く維持するとともに細径化を実現することができる。このように細径化を実現した絶縁電線は、これを複数本束ねたワイヤハーネスとして使用する場合には、ワイヤハーネスの軽量化という更なる効果をもたらす。
【0031】
しかも、難燃層を、難燃性の指標である酸素指数が40を超えるように形成することにより、各難燃層をより薄肉化しながらも、被覆層において所望の高い難燃性を維持することができる。
【0032】
尚、本明細書中、「細径化」とは、従来の同じ導体径の絶縁電線(EN50264−3−1(2008)のTable1−General data−Cable type 0,6/1kV unsheathed)と比較して、絶縁電線の被覆層の厚さをより薄くすることで絶縁電線の外径を小さくすることを意味する。
【0033】
具体的には、導体径が1.25mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを0.60mm未満、導体径が1.25mmを超え5.00mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを0.70mm未満、導体径が5.00mmを超え7.70mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを0.90mm未満、導体径が7.7mmを超え9.20mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを1.00mm未満、導体径が9.20mmを超え12.50mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを1.10mm未満、導体径が12.50mmを超え14.20mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを1.20mm未満、導体径が14.20mmを超え15.80mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを1.40mm未満、導体径が15.80mmを超え17.50mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを1.60mm未満、導体径が17.50mmを超え20.10mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを1.70mm未満、導体径が20.10mmを超え22.50mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを1.80mm未満、導体径が22.50mmを超え25.80mm以下の場合に、絶縁電線の被覆層の厚さを2.00mm未満とすることができる。
【0034】
更に機械的強度についてもEN50264の60811−1−2に基づき評価し、破断伸びを150%以上とすることができる。
【0035】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0036】
次に、本発明の一態様を、図1を参照しながら説明する。
【0037】
<絶縁電線の構成>
図1は、本発明の一実施態様である絶縁電線の長さ方向に対して垂直な断面図である。図1に示すように、本実施態様に係る絶縁電線1は、導体11、前記導体11の外周に難燃半導電層20、前記難燃半導電層20の外周に絶縁層22、前記絶縁層22の外周に難燃層24が配置されていている。
【0038】
(導体)
導体11としては、通常用いられる金属線、例えば銅線、銅合金線の他、アルミニウム線、金線、銀線などを用いることができる。また、金属線の外周に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを用いてもよい。さらに、金属線を撚り合わせた集合撚り導体を用いることもできる。導体11の断面積や外径は、絶縁電線1に求められる電気特性に応じて適宜変更することが可能であり、例えば断面積が1mm以上10mm以下で、外径が1.20mm以上2.30mm以下のものを挙げることができる。
【0039】
(難燃半導電層)
難燃半導電層20は、例えば金属水酸化物を含む材料を導体11の外周に押し出して形成される。本実施形態では、難燃半導電層20は、体積抵抗率が5.0×1015(Ωcm)以下、酸素指数が40を超えるように形成されている。
【0040】
難燃半導電層20の酸素指数は、40よりも大きければ特に限定されず、難燃性の観点からは大きいほど好ましい。なお、酸素指数とは、難燃性の指標であり、本実施形態では、JIS K7201−2で規定されるものである。
【0041】
難燃半導電層20の体積抵抗率は、5.0×1015(Ωcm)以下であれば特に限定されず、導電性の観点からは小さいほど好ましい。なお、体積抵抗率とは、導電性の指標であり、本実施形態では、JIS C 2151で規定されるものである。
【0042】
難燃半導電層20は、樹脂成分を含む難燃導電樹脂組成物によって構成され、必要に応じて導電性フィラーおよび/または難燃性フィラーを含有する。
【0043】
難燃半導電層20を構成する樹脂成分としては、絶縁電線1に求められる特性、例えば伸びや強度などに応じて種類を適宜変更するとよい。例えば、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂やポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などを用いることができる。
【0044】
塩化ビニルとしては、塩化ビニルの単独重合体(ポリ塩化ビニル)のほか、塩化ビニルと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(例えば塩化ビニル―酢酸ビニル共重合体)およびこれらの混合物が挙げられる。塩化ビニル樹脂は必要に応じて、重合度の異なるものを2種以上ブレンドして用いても良い。
【0045】
フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(EFEP)およびエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を用いることができる。これらは、1種で用いても併用しても良い。なお、上記フッ素樹脂は、少なくとも1部を架橋させることが好ましい。
【0046】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などを用いることができ、特にポリエチレン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体などを用いることができる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。難燃半導電層20においてより高い難燃性を得る観点からは、ポリオレフィン系樹脂の中でも特にEVAが好ましい。
【0047】
高い難燃性を備えたポリマを用いる場合には、難燃剤の添加は任意であるが、ポリオレフィン樹脂を用いる場合、難燃半導電層20の酸素指数を高くすべく難燃性フィラーを多く配合するとよく、ポリイミドやPEEKを用いる場合、これらは樹脂自体の難燃性が高いため、難燃性フィラーを配合しなくてもよい。ポリオレフィンは、ポリイミド等と比べて、成形温度が低く難燃半導電層20の成形性に優れるだけでなく、破断伸びが大きく難燃半導電層20の曲げ性にも優れる。
【0048】
難燃性フィラーとしては、難燃性を有し、かつ有毒ガスを発生させないことからノンハロゲンフィラーが好ましく、例えば金属水酸化物を用いることができる。金属水酸化物は、難燃半導電層20が加熱されて燃焼されるときに、分解して脱水し、放出した水分により難燃半導電層20の温度を低下させ、その燃焼を抑制するものである。金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロサルサイト、カルシウムアルミネート水和物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等およびこれらにニッケルが固溶した金属水酸化物を用いることができる。これらのノンハロゲンフィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
難燃性フィラーの配合量は、難燃半導電層20の酸素指数を40よりも高くする観点から、樹脂成分100質量部に対して150質量部以上250質量部以下であることが好ましい。配合量が150質量部未満であると、絶縁電線1において所望の高い難燃性を得られない可能性がある。配合量が250質量部を超えると、難燃半導電層20の機械的特性が低下し、伸びが低下する可能性がある。
【0050】
導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラックやカーボンナノチューブ等が挙げられ、好ましくはカーボンブラックを挙げることができる。また、カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等を挙げることができ、中でもアセチレンブラックが特に好ましい。
【0051】
また、導電性フィラーとしては、上述したように、金属水酸化物を挙げることができる。金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロサルサイト、カルシウムアルミネート水和物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等およびこれらにニッケルが固溶した金属水酸化物を用いることができる。これらのノンハロゲンフィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
導電性フィラーは、難燃半導電層20の機械的特性(引張強さと破断伸びとのバランス)をコントロールする観点からシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属等によって表面処理されていることが好ましい。
【0053】
また、難燃半導電層20には、導電性フィラー及び難燃性フィラーを併用することに限らず、難燃性と導電性の両者の性質を有するフィラーである難燃性及び導電性フィラーを用いることができる。難燃性及び導電性フィラーとしては、例えば、樹脂成分との密着性が弱い金属水酸化物を用いることができる。このような金属水酸化物としては、例えば、脂肪酸処理された水酸化マグネシウム、脂肪酸処理された水酸化アルミニウム、ハイドロサルサイト、カルシウムアルミネート水和物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等およびこれらにニッケルが固溶した金属水酸化物を用いることができる。例えば、「マグシーズN」を用いることができる。これらのノンハロゲンフィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
必ずしも以下の理論に拘束されるものではないが、本発明者らは、樹脂成分との密着性が弱い金属水酸化物を用いると、金属水酸化物と樹脂との密着性が弱く、難燃半導電樹脂組成物の体積抵抗率が低下するため、難燃性フィラーとしての性質とともに、導電性フィラーとしての性質が現れるものと考えている。このように、本発明者らは、導電性フィラー及び難燃性フィラーを併用する方法に限らず、樹脂成分との密着性が弱い金属水酸化物を用いる方法によっても、JIS K7201−2で規定される酸素指数が40を超え、体積抵抗率が5.0×1015(Ωcm)以下である難燃半導電層を実現できることを見出した。
【0055】
難燃半導電層20を構成するポリマには、必要に応じて、その他の難燃剤、難燃助剤、充填剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、金属キレート剤、軟化剤、補強剤、界面活性剤、安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、酸化防止剤、着色剤、加工性改良剤、無機充填剤、相溶化剤、発泡剤、帯電防止剤等の添加剤を加えることも可能である。
【0056】
難燃半導電層20の厚さとしては、特に制限はないが、例えば0.03mm以上0.30mm以下を挙げることができる。なお、難燃半導電層20は架橋されていてもよく、例えば、難燃半導電層20を形成する樹脂組成物に架橋剤や架橋助剤を配合し、押出成形した後に架橋処理を施すこともできるし、また電子線を照射して架橋を施してもよい。
【0057】
(絶縁層)
絶縁層22は、体積抵抗率が1.0×1016(Ωcm)以上である絶縁樹脂組成物からなることが好ましく、吸水量や水の拡散係数が小さくなるように構成されている。絶縁層22は、遮水性が高く、水が浸透しにくいので、絶縁層22より内側に位置する難燃半導電層20への水の浸透を抑制することができる。なお、絶縁層22は実質的にノンハロゲンフィラーを含まず難燃性に劣るが、後述の難燃層24で被覆されている。
【0058】
絶縁層22を形成する材料としては、体積抵抗率が1.0×1016(Ωcm)を超える材料であることが好ましく、体積抵抗率の上限値は特に制限は無い。1.0×1016(Ωcm)以下であると、絶縁層22が吸水時に絶縁抵抗が低下し、直流安定性が低下する。なお、本明細書において、体積抵抗率とは、JIS C 2151に準拠して評価したものを示す。
【0059】
絶縁層22を形成する樹脂成分としては、絶縁層22の成形加工性の観点からは樹脂が好ましく、難燃半導電層20と同様の樹脂を用いることができる。絶縁層22においては、ポリオレフィンがより好ましく、高密度ポリエチレンおよび/または低密度ポリエチレンを用いることができる。その中でも、吸水率を低くできること、成形性がよいこと、破断伸びが比較的大きいこと、耐油性(耐溶剤性)など他の特性にも優れていること、そして安価であることから、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が特に好ましい。
【0060】
絶縁層22をLLDPEなどの樹脂から形成する場合、例えば、LLDPEを含む樹脂組成物を難燃半導電層20の外周に押出成形して形成するとよい。絶縁層22の遮水性をさらに向上させる観点からは、樹脂組成物に架橋剤や架橋助剤などを配合して架橋させ、絶縁層22を架橋体で形成することが好ましい。架橋させることにより、樹脂の分子構造を強固にし、絶縁層22の遮水性を向上させることができる。しかも、絶縁層22の強度も向上できるので、絶縁層22の厚さを薄くしても、強度を損なうことなく、遮水性を高く維持することができる。
【0061】
絶縁層22を形成する架橋体は、ゲル分率が40%以上100%以下となるように架橋されていることが好ましい。絶縁層22は架橋体のゲル分率を高くすることにより強度および遮水性を高めることができるので、厚さを薄くすることができる。
【0062】
絶縁層22を架橋させる場合は、樹脂組成物に公知の架橋剤や架橋助剤を配合するとよい。架橋剤としては、例えば、有機過酸化物やシランカップリング剤などを用いることができる。架橋助剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレートやトリメチロールプロパントリアクリレートなどの多官能モノマーを用いることができる。これらの配合量は、特に限定されず、例えば、絶縁層22の架橋度がゲル分率で40%以上100%以下となるように適宜変更するとよい。なお、架橋方法としては、架橋剤の種類に応じて、化学架橋や電子線架橋など公知の方法により行うことができる。
【0063】
また、絶縁層22は、樹脂成分100質量部に対して、添加剤を5質量部以下含有することができる。好ましくは添加剤を3質量部以下、より好ましくは添加剤を1.5質量部以下含有する。
【0064】
ここに添加剤とは、例えば、架橋剤、架橋助剤、銅害防止剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、金属キレート剤、充填剤、軟化剤、補強剤、界面活性剤、安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、酸化防止剤、着色剤(例えばカーボンブラック等)、加工性改良剤、無機充填剤、相溶化剤、発泡剤、帯電防止剤等の添加剤を意味する。
【0065】
(難燃層)
難燃層24は、例えば難燃性フィラーを含む難燃樹脂組成物を絶縁層22の外周に押し出して形成され、酸素指数が40を超えるように構成される。難燃層24は、絶縁電線の表面に位置し、直流安定性には寄与しないが、難燃性に劣る絶縁層22を被覆して絶縁電線全体としての難燃性の低下を抑制する。
【0066】
難燃層24は、樹脂成分を含む難燃樹脂組成物によって構成され、必要に応じて難燃性フィラーを含有する。
【0067】
難燃層24を構成する樹脂成分としては、絶縁電線1に求められる特性、例えば伸びや強度などに応じて種類を適宜変更するとよい。例えば、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂やポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などを用いることができる。
【0068】
塩化ビニルとしては、塩化ビニルの単独重合体(ポリ塩化ビニル)のほか、塩化ビニルと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(例えば塩化ビニル―酢酸ビニル共重合体)およびこれらの混合物が挙げられる。塩化ビニル樹脂は必要に応じて、重合度の異なるものを2種以上ブレンドして用いても良い。
【0069】
フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(EFEP)およびエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を用いることができる。これらは、1種で用いても併用しても良い。なお、上記フッ素樹脂は、少なくとも1部が架橋させることが好ましい。
【0070】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などを用いることができ、特にポリエチレン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体などを用いることができる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。難燃半導電層20においてより高い難燃性を得る観点からは、ポリオレフィン系樹脂の中でも特にEVAが好ましい。
【0071】
高い難燃性を備えた樹脂を用いる場合には、難燃剤の添加は任意であるが、ポリオレフィン樹脂を用いる場合、難燃層24の酸素指数を高くすべく難燃性フィラーを多く配合するとよく、ポリイミドやPEEKを用いる場合、これらは樹脂自体の難燃性が高いため、難燃性フィラーを配合しなくてもよい。ポリオレフィンは、ポリイミド等と比べて、成形温度が低く難燃層24の成形性に優れるだけでなく、破断伸びが大きく難燃層24の曲げ性にも優れる。
【0072】
難燃性フィラーとしては、難燃性を有し、かつ有毒ガスを発生させないことからノンハロゲンフィラーが好ましく、例えば金属水酸化物を用いることができる。金属水酸化物は、難燃層24が加熱されて燃焼されるときに、分解して脱水し、放出した水分により難燃層24の温度を低下させ、その燃焼を抑制するものである。金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロサルサイト、カルシウムアルミネート水和物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等およびこれらにニッケルが固溶した金属水酸化物を用いることができる。これらのノンハロゲンフィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
難燃性フィラーは、難燃層24の機械的特性(引張強さと破断伸びとのバランス)をコントロールする観点からシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属等によって表面処理されていることが好ましい。また任意ではあるが、難燃層24に導電性を付与する観点から、ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属等によって表面処理された金属水酸化物を使用することにより、これに難燃性および導電性フィラーとしての機能を持たせ、難燃層24を難燃半導電層として機能させることも可能である。
【0074】
難燃性フィラーの配合量は、難燃層24の酸素指数を40よりも高くする観点から、樹脂成分100質量部に対して150質量部以上250質量部以下であることが好ましい。配合量が150質量部未満であると、絶縁電線1において所望の高い難燃性を得られない可能性がある。配合量が250質量部を超えると、難燃層24の機械的特性が低下し、伸びが低下する可能性がある。
【0075】
また、難燃層24は、難燃半導電層20と同様に架橋されていてもよい。難燃層24の架橋は、例えば、難燃層24を形成する樹脂組成物に架橋剤や架橋助剤を配合し、押出成形した後、架橋処理を施すことで行うとよい。架橋方法は、特に限定されず、電子線を照射する等の従来公知の方法で行うことができる。尚、難燃層24は、絶縁電線の最外層に配置されることが好ましい。
【0076】
(被覆層の積層構造)
続いて、被覆層(難燃半導電層20、絶縁層22、難燃層24)の積層構造について説明する。
【0077】
被覆層において、難燃半導電層20と難燃層24のそれぞれの厚さは、特に限定されず、被覆層に求められる難燃性および直流安定性に応じて適宜変更するとよく、高い難燃性を得る観点からは、難燃半導電層20をなるべく薄膜とした上で、難燃層24の厚さが0.25mm以上であることが好ましい。
【0078】
難燃半導電層20は、被覆層の難燃性および直流安定性に寄与するので、所望の直流安定性を得る観点からは、その厚さが少なくとも、導体11を構成する金属線の素線径の0.5倍以上であることが好ましい。例えば、導体径が0.20mm以下であれば、0.10mm以上であることが好ましい。難燃半導電層20の厚さが過度に薄いと、導体11が複数の金属線を撚り合わせて構成されるときに金属線によって生じる導体11の表面凹凸を十分に吸収できず、難燃半導電層20の上に設けられる絶縁層22の表面が凹凸に形成され、直流安定性が低下するおそれがある。そこで、難燃半導電層20の厚さを上記範囲とすることにより、難燃半導電層20を平坦に形成して絶縁層22の表面凹凸を軽減することができ、直流安定性を更に高めることができる。一方、上限値については、特に限定されず、被覆層の難燃性と絶縁電線1の細径化とを考慮して適宜変更することができる。
【0079】
被覆層において、絶縁層22の厚さは、特に限定されないが、絶縁電線1の難燃性の観点からは例えば、0.02mm以上0.50mm以下であることが好ましい。
【0080】
絶縁層22は実質的にノンハロゲンフィラーを含まないため、絶縁電線1の難燃性を低下させるおそれがあるが、絶縁層22の厚さを0.50mm以下とすることにより、絶縁電線1の難燃性を損なうことなく、絶縁性を高く維持することができる。
【0081】
難燃層24は、絶縁層22を被覆し、その燃焼を抑制するので、その厚さを少なくとも0.25mm以上とすることが好ましい。一方、上限値については、特に限定されず、被覆層の難燃性と絶縁電線1の細径化とを考慮して適宜変更することができる。
【0082】
図1に示される本発明の実施の形態に係る被覆層は、3層で構成されるが、導体11の外周に難燃半導電層20が複数層あってもよく、難燃半導電層20の外周に絶縁層22が複数層あってもよく、絶縁層22上に難燃層24が複数層ある多層構造であってもよい。
【0083】
また、導体11の外周に難燃半導電層20、最外層に難燃層24、その間に絶縁層22があればよく、難燃半導電層20と絶縁層22の間、絶縁層22と難燃層24との間には別な樹脂組成物の層があっても差し支えない。例えば、各層間に接着層など他の特性を担う層を配置しても良い。
【0084】
また、図2に示すように、難燃半導電層20、難燃半導電層20、難燃層24の間に夫々に絶縁層22を介在させて5層構造とするといったように、難燃半導電層20および絶縁層22をともに複数設けていても良い。
【0085】
尚、本実施形態の絶縁電線は、特に用途を限定するものではないが、例えば、動力系ワイヤ(EN50264−3−1(2008)に記載されているPower&Control Cablesに準拠した絶縁電線)として用いることができる。
【実施例】
【0086】
次に、本発明について実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実
施例に限定されるものではない。
【0087】
<実施例および比較例で用いた材料>
・エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA):三井・デュポンポリケミカル株式会社製「エバフレックスEV170」
・マレイン酸変性ポリマ:三井化学株式会社製「タフマーMH7020」
・熱可塑性ポリイミド:三井化学株式会社製「オーラムPL450C」
・シリコーン変性ポリエーテルイミド:サビック株式会社製「STM1500」
・直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE):株式会社プライムポリマー製「エボリューSP2030」
・難燃性フィラー(シラン処理された水酸化マグネシウム):神島化学工業株式会社製「マグシースS」
・導電性フィラー(カーボン):デンカ社製「デンカブラック」
・難燃性および導電性フィラー(脂肪酸処理された水酸化マグネシウム):神島化学工業株式会社製「マグシーズN」
・混合系酸化防止剤:株式会社アデカ製「アデカスタブAO−18」
・フェノール系酸化防止剤:BASF株式会社製「イルガノックス1010」
・カーボンブラック:旭カーボン株式会社製「アサヒサーマル」
・滑剤(ステアリン酸亜鉛)
・架橋助剤(トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPT)):新中村化学工業株式会社製
<難燃半導電樹脂組成物の準備>(実施例用)
EVAを75質量部と、マレイン酸変性ポリマを25質量部と、難燃性および導電性フィラーである脂肪酸処理された水酸化マグネシウムを150質量部と、架橋助剤を2質量部と、混合系酸化防止剤を2質量部と、カーボンブラックを2質量部と、滑剤を1質量部とを混合して75Lのワンダーニーダを用いて混練した。混練後、押出機を用いて押し出してストランドを形成し、それを水冷してカットすることで、ペレット状の難燃半導電樹脂組成物を得た。このペレットは、直径約3mm、高さ約5mmの円柱形状であった。なお、難燃半導電樹脂組成物の酸素指数は41.5であった。体積抵抗率は7.8×1014(Ωcm)であった。
【0088】
<半導電樹脂組成物の準備>(比較例用)
EVAを75質量部と、マレイン酸変性ポリマを25質量部と、導電性フィラー(カーボン)を50質量部と、架橋助剤を2質量部と、混合系酸化防止剤を2質量部と、カーボンブラックを2質量部と、滑剤を1質量部とを混合して75Lのワンダーニーダを用いて混練した。混練後、押出機を用いて押し出してストランドを形成し、それを水冷してカットすることで、ペレット状の半導電樹脂組成物を得た。このペレットは、直径約3mm、高さ約5mmの円柱形状であった。なお、半導電樹脂組成物の酸素指数は24.2であった。体積抵抗率は8.2×10(Ωcm)であった。
【0089】
<絶縁樹脂組成物の準備>
続いて、絶縁層を形成するための樹脂組成物として、絶縁樹脂組成物を準備した。具体的には、LLDPEを100質量部と、フェノール系酸化防止剤を1質量部とをドライブレンドしてワンダーニーダを用いて混練することによって絶縁樹脂組成物を調製した。
【0090】
<難燃樹脂組成物の準備>
EVAを75質量部と、マレイン酸変性ポリマを25質量部と、難燃性フィラーとしてシラン処理された水酸化マグネシウム(「マグシースS」)を150質量部と、架橋助剤を2質量部と、混合系酸化防止剤を2質量部と、カーボンブラックを2質量部と、滑剤を1質量部とを混合して75Lのワンダーニーダを用いて混練した。混練後、押出機を用いて押し出してストランドを形成し、それを水冷してカットすることで、ペレット状の難燃樹脂組成物を得た。このペレットは、直径約3mm、高さ約5mmの円柱形状であった。なお、難燃樹脂組成物の酸素指数は45.5であった。
【0091】
<絶縁電線の作製>
[実施例1]
上述の難燃半導電樹脂組成物、難燃樹脂組成物および絶縁樹脂組成物を用いて絶縁電線を作製した。具体的には、外径が1.25mmのスズめっき銅導線の外周に難燃半導電樹脂組成物、絶縁樹脂組成物および難燃樹脂組成物をそれぞれの所定の厚さで3層同時に押し出し、電子線を吸収線量が75kGyとなるように照射することで各組成物を架橋させ、実施例1の絶縁電線を作製した。作製した絶縁電線は、導体側から順に、難燃半導電層の厚さが0.10mm、絶縁層の厚さが0.10mm、難燃層の厚さが0.30mm、絶縁電線外径が2.25mmであった。被覆層の厚さが0.50mmとなった。
【0092】
なお、各種層厚さは1mのサンプルを10等分して、切断面をマクロスコープで観察・計測した平均値である。
【0093】
また、3層同時押出は、短軸押出機を3台使用し、クロスヘッド内で合流させることにより行った。
【0094】
<特性評価>
製作した絶縁電線は以下の方法で、機械的強度、直流安定性、難燃性および細径化を評価した。
【0095】
(機械的強度)
機械的強度は、EN50264の60811−1−2に基づき、引張試験による破断伸びで評価した。具体的には、絶縁電線から導体を引き抜き、得られた筒状のサンプルに対して引張速度200m/minで引張試験を行い、破断伸びが150%以上であれば(○)、150%未満であれば(×)とした。
【0096】
(直流安定性)
直流安定性はEN50305.6.7に準拠した直流安定性試験のより評価した。具体的には、絶縁電線を85℃、3%NaCl水溶液に浸漬させて1500Vを課電し、240時間以上経過しても絶縁破壊しない場合を電気的に優れているとして合格(○)、240時間未満で絶縁破壊したら不合格(×)と評価した。
【0097】
(難燃性)
難燃性は、EN50266−2−4に基づき、垂直トレイ燃焼試験(VTFT)を実施した。具体的には、全長3.5mの電線を7本撚りの1束とし、11束を等間隔で垂直に並べ、20分間燃焼させた後、自己消炎後、炭化長が下端部より2.5m以下を目標とした。炭化長が2.5m以下であれば、合格(〇)とし、2.5mを超えた場合、不合格(×)とした。
【0098】
(細径化)
EN50264−3−1(2008)のTable1−General data−Cable type 0,6/1KV unsheathedに記載されているConductor diameterおよびMean thickness of insulationのデータと比較して、導体の外径に対する被覆層の厚さの値が大きい場合を不合格(×)、導体の外径に対する被覆層の厚さの値が小さい場合を合格(○)とした。
【0099】
[実施例2および3]
実施例2および3では、スズめっき銅導線の外径、難燃半導電層、絶縁層、難燃層を表1に記載した厚さのものに変更した以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。
【0100】
実施例1〜3の特性評価結果を表1にまとめて示す。
【0101】
【表1】
【0102】
実施例1〜3のいずれにおいても、十分な機械的強度、直流安定性、難燃性を有していることが確認された。
【0103】
また、実施例は、導体の外径が1.25mm、被覆層の厚さが0.50mm〜0.58mmであるのに対し、上記EN50264−3−1のTable1では、導体の外径が1.25mm、被覆層の厚さが0.6mmであることから、双方の被覆層の厚さを比較すると、実施例は、導体の外径に対する被覆層の厚さの値がより小さく、細径化の点で合格(○)であった。
【0104】
[比較例1〜5]
比較例1〜5では半導電層として半導電樹脂組成物を用い、絶縁層、難燃層を表2に示す厚さのものに変更した以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。
特性評価結果を表2にまとめて示す。
【0105】
比較例1〜3においては、機械的強度、直流安定性は合格(○)であったが、難燃性が不合格(×)となった。
【0106】
比較例4においては、実施例1の難燃半導電層を用いずに、絶縁層を実施例1の2倍の厚さとしたが、機械的強度および難燃性が不合格(×)となった。
【0107】
比較例5では、実施例1の絶縁層を用いずに、難燃層を0.4mmとしたが、機械的強度および直流安定性は不合格(×)となった。
【0108】
【表2】
【符号の説明】
【0109】
1 絶縁電線
11 導体
20 難燃半導電層
22 絶縁層
24 難燃層
100 絶縁電線
110 導体
120 絶縁層
130 難燃層
図1
図2
図3