特許第6795599号(P6795599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795599アルキルスルファニルアリールイソチオシアナトトラン化合物を含む複屈折液晶組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795599
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】アルキルスルファニルアリールイソチオシアナトトラン化合物を含む複屈折液晶組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 19/18 20060101AFI20201119BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20201119BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20201119BHJP
   G02B 1/08 20060101ALI20201119BHJP
   C09K 19/12 20060101ALI20201119BHJP
   C09K 19/42 20060101ALI20201119BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20201119BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C09K19/18
   G02B5/30
   G02B1/04
   G02B1/08
   C09K19/12
   C09K19/42
   G02F1/13 500
   G02F1/13 505
   G02C7/02
【請求項の数】17
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-532599(P2018-532599)
(86)(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公表番号】特表2019-509356(P2019-509356A)
(43)【公表日】2019年4月4日
(86)【国際出願番号】IB2015002606
(87)【国際公開番号】WO2017109534
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】598142955
【氏名又は名称】エシロール アンテルナショナル
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】プシェミスワフ クラ
(72)【発明者】
【氏名】ヤクブ ヘルマン
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/094973(WO,A1)
【文献】 CARMEN OTILIA CATANESCU et al.,Tailoring the physical properties of some high birefringence isothiocyanato-based liquid crystals,LIQUID CRYSTALS,2004年 4月,Vol.31, No.4,pp.541-555
【文献】 Carmen Otilia Catanescu et al.,HIGH BIREFRINGENCE NEMATIC LIQUID CRYSTALS FOR DISPLAY AND TELECOM APPLICATIONS,Mol. Cryst. Liq. Cryst.,2004年 1月,Vol.411, No.1,pp.93-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K19/00−19/60
G02B1/04
G02B1/08
G02B5/30
G02C7/02
G02F1/13
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複屈折液晶組成物を含む光学物品であって、前記組成物が、前記組成物の全重量を規準にして、30重量%を超える量の式(I)
R−S−Z−A−Z−NCS (I)
[式中、Rが、置換もしくは非置換、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、ZおよびZがアリール基であり、そしてAが、エチニル基、アリールエチニル基、またはエチニルアリールエチニル基である]
の化合物を含み
前記組成物が、前記組成物の全重量を規準にして、
− 20〜30重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン、
− 10〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリール)−4−イソチオシアナトトラン、
− 5〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン、
を含む、光学物品。
【請求項2】
複屈折液晶組成物を含む光学物品であって、前記組成物が、前記組成物の全重量を規準にして、30重量%を超える量の式(I)
R−S−Z−A−Z−NCS (I)
[式中、Rが、置換もしくは非置換、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、ZおよびZがアリール基であり、そしてAが、エチニル基、アリールエチニル基、またはエチニルアリールエチニル基である]
の化合物を含み、
前記組成物の全重量を規準にして、
− 10〜20重量%の4’−アルキル−4−イソチオシアナトトラン、
− 20〜30重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン、
− 1〜10重量%の4”−アルキル−4−イソチオシアナトテルフェニル、
− 20〜35重量%の4’−アリール−4−イソチオシアナトトラン、
− 3〜20重量%の4’−(4”−イソチオシアナトアリール)−4−アルキルトラン、
− 10〜35重量%の4’−アリールエチニル−4−イソチオシアナトトラン、
を含む、光学物品。
【請求項3】
複屈折液晶組成物を含む光学物品であって、前記組成物が、前記組成物の全重量を規準にして、30重量%を超える量の式(I)
R−S−Z−A−Z−NCS (I)
[式中、Rが、置換もしくは非置換、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、ZおよびZがアリール基であり、そしてAが、エチニル基、アリールエチニル基、またはエチニルアリールエチニル基である]
の化合物を含み
前記組成物が、4’−アリール−4−イソチオシアナトトラン(V)、4’−(4”−イソチオシアナトアリール)−4−アルキルトラン(VI)及び4’−アリールエチニル−4−イソチオシアナトトラン(VII)から選ばれる少なくとも1つの化合物をさらに含む、光学物品。
【請求項4】
Rが、1〜8個の炭素原子を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項5】
アルキルスルファニルアリール基を有する化合物が、前記組成物の全重量の45〜60%を占める、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項6】
トラン基を有する化合物が、前記組成物の全重量の90%を超える量を占める、請求項1〜のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項7】
イソチオシアネート基を担持する4−アリール−トラン基を有する化合物が、前記組成物の全重量の25〜45%を占める、請求項1〜のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項8】
オルト−フルオロイソチオシアナトアリール基を有する化合物が、前記組成物の全重量の45〜75%を占める、請求項1〜のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項9】
オルト−ジフルオロイソチオシアナトアリール基を有する化合物が、前記組成物の全重量の10〜30%を占める、請求項1〜のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項10】
前記4’−アリール−4−イソチオシアナトトランが、前記組成物の全重量を規準にして、5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリール)−4−イソチオシアナトトランを含む、請求項2〜9のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項11】
前記4’−アリールエチニル−4−イソチオシアナトトランが、前記組成物の全重量を規準にして、5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトランを含む、請求項2〜10のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項12】
前記組成物の全重量を規準にして、
− 10〜20重量%の4’−アルキル−4−イソチオシアナトトラン、
− 20〜30重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン、
− 1〜10重量%の4”−アルキル−4−イソチオシアナトテルフェニル、
− 10〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリール)−4−イソチオシアナトトラン、
− 5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリール)−4−イソチオシアナトトラン、
− 3〜20重量%の4’−(4”−イソチオシアナトアリール)−4−アルキルトラン、
− 5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン、
− 5〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン、
を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項13】
前記アルキル基が、同一もしくは異なった直鎖状のC1〜C6アルキル基である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項14】
前記組成物が、30℃、589nmで、0.45以上の複屈折値Δnを有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項15】
前記組成物が、90〜130℃の範囲のネマチック相−等方相の転移温度を有する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項16】
前記光学物品が、光学レンズ、オートサポートフィルム、光学位相リターダー、またはディスプレイデバイスである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項17】
前記組成物が、4’−(4”−アルキルスルファニルアリール)−4−イソチオシアナトトラン(Vb)及び4’−(4”−アルキルスルファニルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン(VIIb)から選ばれる少なくとも1つの化合物をさらに含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温でネマチック液晶状態にある複屈折組成物を含む光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどすべての液晶(LC)デバイス、たとえばディスプレイパネル、液晶レンズ、空間光変調素子、およびレーザービームステアリングのための光学フェーズドアレイなどでは、高速の応答時間が必要とされる。高速の応答時間を達成するための、直裁的なアプローチ方法は、可視スペクトル領域に、典型的には0.3より大の高い複屈折値(Δn)と、比較的に低い粘度とを有する、液晶混合物を使用することである。複屈折組成物はさらに、コレステリックな、ポリマー分散液晶を採用する反射ディスプレイの場合でも、特に魅力的である。ネマチック相を示すものは、それらの用途に特に適している。
【0003】
複屈折値を高めるための最も効率的な方法は、たとえば、分子のコアにフェニル環を加えることによって、その液晶化合物のπ−電子共役系の長さを長くする方法である。しかしながら、フェニル環を多く使いすぎると、たとえば、融点が高すぎる、液晶配合物の中への相当する化合物の溶解度に限度がある、粘度が劇的に高くなるなど、いくつかの望ましくない性質が生じることになる。さらには、その分子の中に4個以上のフェニル環が存在すると、複屈折値が次第に飽和してしまう。
【0004】
イソチオシアナトトランおよびアリールイソチオシアナトトランの液晶性化合物に大きな関心が寄せられているが、その理由は、その分子の直鎖状のコアでの電子共役系が長く、そして末端のイソチオシアネート基(NCS)の極性が高いために、それらの複屈折値が高いからである。
【0005】
欧州特許出願公開第1054001号明細書には、下に示す式を有するイソチオシアナトトラン誘導体を含む、液晶媒体およびディスプレイが記載されているが、ここで、Rは、アルキル基であり、ZおよびZの内の一つが−C≡C−であり、残りの一つが−C≡C−または単結合であり、そしてX〜X10がそれぞれ独立して、HまたはFである。
【化1】
【0006】
そこに開示されている、これらの化合物の20℃、589nmでの複屈折値は、0.45よりも低い。
【0007】
S.Gauza et.al.,”Isothiocyanato−Tolanes Based High Birefringence and Fast Response Time Mixtures for Photonic Applications”,Mol.Cryst.Liq.Cryst.,Vol.453,pp.215〜226、2006には、イソチオシアナトトランを含む高い複屈折値のネマチック混合物(633nmでのΔn、約0.3)が開示されている。
【0008】
B.M.Fischer et al.,”Highly birefringent, low−loss liquid crystals for terahertz applications”、APL Mat.,1、012107(2013)には、フルオロ−置換されたアルキルトランおよびアルキルフェニルトランイソチオシアネート化合物を含むまた別な混合物が、589nmで0.42の複屈折値を有していると報告された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
複屈折液晶の場合は、融解温度が高い、溶解性が低い、粘度が高い、そして熱安定性が低下するといったことが、大きな関心事になっている。
【0010】
したがって、本発明の目的は、可視スペクトル領域において高い複屈折値の値を有する新規な液晶組成物を配合することであり、それは、広いネマチックなメゾフェース領域を示して広範な周囲温度範囲でその組成物を使用することが可能となり、満足のいく溶解性、粘度、および安定性を示し、そして、上述のような欠点を示すことがない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、アルキルスルファニルアリール基およびアリールイソチオシアネート基を有するトラン化合物を使用することによって、液晶化合物の配合物の複屈折値を高めると同時に、その配合物の中に含まれている、より大きな(heavier)構造体の混和性/溶解性も高めることも可能となることを見出したので、30℃、589nmで、Δn≧0.45の複屈折値を有する、安定なネマチック混合物の調製法をここではじめて報告する。
【0012】
本発明の課題に対処し、先に述べた従来技術の欠点を是正する目的で、本願出願人は、複屈折液晶組成物を含む光学物品を提供するが、前記組成物には、その組成物の全重量を規準にして、30重量%を超える量の式(I)の化合物を含む。
R−S−Z−A−Z−NCS (I)
[式中、Rは、置換もしくは非置換、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、ZおよびZはアリール基であり、そしてAは、エチニル基、アリールエチニル基、またはエチニルアリールエチニル基である]
【0013】
添付の図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による式(II)の化合物の調製法を示すスキームである。
図2】本発明による式(III)の化合物の調製法を示すスキームである。
図3】本発明による式(Va)の化合物の調製法を示すスキームである。
図4】本発明による式(Vb)の化合物の調製法を示すスキームである。
図5】本発明による式(Vb)の化合物の調製法を示すスキームである。
図6】本発明による式(VI)の化合物の調製法を示すスキームである。
図7】本発明による式(VIIa)の化合物の調製法を示すスキームである。
図8】本発明による式(VIIa)の化合物の調製法を示すスキームである。
図9】本発明による式(VIIa)の化合物の調製法を示すスキームである。
図10】本発明による式(VIIb)の化合物の調製法を示すスキームである。
図11】本発明による式(VIII)の化合物の調製法を示すスキームである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による組成物は、液晶組成物であるが、これは、それがほぼ室温(10℃〜30℃)で液晶状態にあるということを意味している。このことは、それの個々の成分がすべて液晶化合物でなければならないということを意味しているのではない。特には、前記組成物は、ほぼ室温ではネマチック相を呈している。以下においては、「液晶相(liquid crystal phase)」という用語は、その中で液晶が等方性の状態となっている等方相とは対照的に、その中で液晶(メソゲン)が、配列状態にある相を意味しており、そして、「ネマチック(nematic)」という用語は、その中では、分子が、位置的な秩序は有していないが、長距離的な配向秩序を有しているような、一般的な液晶相を意味していると理解されたい。
【0016】
式(I)の化合物がトラン化合物、すなわちトラン基を組み入れた化合物である。本明細書で使用するとき、「トラン基」とは、置換もしくは非置換の、同一もしくは異なったアリール基ArおよびArを有する、Ar−C≡C−Ar基を指している。この剛直な、構造的ブロックの配列が、環の甚だしいねじれを防ぎ、π−電子系の完全な共役を保証する。
【0017】
Aは、エチニル基、アリールエチニル基、およびエチニルアリールエチニル基から選択される二価の基である。Aが、アリールエチニル基またはエチニルアリールエチニル基を表している場合には、そのような基は、ZおよびZとは、パラ置換スキームで結合されているのが好ましい。別の言い方をすれば、そのアリールエチニル基が好ましくは4−アリールエチニル基であり、そしてそのエチニルアリールエチニル基が好ましくは4−エチニルアリールエチニル基である。そのような基は、ZやZに、どのような並び方で結合されてもよい。たとえば、アリールエチニル基は、Zに対してアリール基を介して、そしてZに対してはエチニル基を介して結合することが可能であるが、そうでなければ、Zに対してはアリール基を介して、そしてZに対してはエチニル基を介して結合することも可能である。
【0018】
Aがエチニルアリールエチニル基を表している場合には、トラン化合物(I)は、ビス−トラン化合物(トリアリールジアセチレン)である。本明細書で使用するとき、「ビス−トラン基」とは、置換もしくは非置換の、同一もしくは異なったアリール基のArおよびArと、アリーレン基Arとを有し、二つの三重結合が好ましくは中心のアリール環Arの上でパラ位にある式Ar−C≡C−Ar−C≡C−Arのトラン基である。
【0019】
置換もしくは非置換、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基Rには、一般的には1〜8個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子、より好ましくは2〜5個の炭素原子が含まれる。それは、好ましくはC1〜C6の直鎖状のアルキル基、より好ましくはC2〜C5の直鎖状のアルキル基、たとえば、エチル、n−プロピル、n−ブチル、またはn−ペンチル基である。本発明者らが観察したところでは、末端アルキルスルファニル鎖の中の炭素原子の個数を減らすと、複屈折値が高くなった。しかしながら、短いアルキルの末端を有する化合物は、一般的には、長い鎖のアルキル同族体よりは、より高い溶融温度を示す。したがって、複屈折値の向上と相転移温度の抑制の間で適切なバランスを見出さなければならない。本出願に記載されたアルキル基はすべて、同一もしくは異なったC1〜C6の直鎖状のアルキル基であるのが好ましい。
【0020】
直鎖状のアルキル基Rへの置換基の例を、非限定的に挙げれば、以下のものである:ハロゲン原子たとえば、フッ素、塩素、および臭素、好ましくはフッ素、アルキルスルファニル基、アルケニル、アルケニルオキシ、ヒドロキシル、チオール、アミノ、ニトロ、アリールオキシ、モノ−アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アシル、カルボキシル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、ヒドロキシスルホニル、アルコキシスルホニル、アリールオキシスルホニル、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、シアノ、OCF、OCHF、テトラゾリル、カルバモイル、アルキルカルバモイル、およびジアルキルカルバモイル。
【0021】
前記組成物には、その組成物の全重量を規準にして、45〜60重量%の、構造(I)の化合物を含んでいるのが好ましい。
【0022】
本発明の複屈折組成物には、一般的には、多数の化合物、好ましくは種々な構造部分としての、アリールイソチオシアネート基を有する化合物、特にはアリールイソチオシアネート基を有するトラン化合物が含まれ、すなわち、適切な混和性レベルを維持するためには各種の形状および長さを有する分子が必要とされる。実際のところ、多数の異なった分子構造物を使用すると、室温近くまたは室温以下の温度でのネマチック相の安定化に役立つ。多様性が少ない混合物では、組み合わされた構造要素の数が少なくなって、低温では沈殿を起こす恐れがある。本発明の組成物には、好ましくは2〜25種、より好ましくは5〜20種、さらにより好ましくは8〜20種の異なった化合物が含まれる。先にも述べたように、前記化合物がアリールイソチオシアネート基を有しているのが好ましく、アリールイソチオシアネート基を有するトラン化合物であれば、より好ましい。
【0023】
イソチオシアネートの−NCS基が、複屈折値の上昇に最大の貢献があることが観察された。したがって、イソチオシアネート基を有する化合物が、組成物の全重量の90%を超えるのが一般的で、95重量%を超えればより好ましく、100重量%であれば理想的である。それは、一般的には末端のイソチオシアネート基であって、好ましくは芳香族基に担持されている。
【0024】
重量%はすべて、特に断らない限り、その組成物の全重量を規準にして表されている。
【0025】
好ましくは、トラン基を有する化合物が占める割合が、その組成物の全重量の90%を超えていれば好ましく、95重量%を超えていれば、より好ましい。ビス−トラン基を有する化合物が占める割合が、その組成物の全重量の5〜40%であれば好ましく、10〜35重量%であれば、より好ましい。
【0026】
いくつかの態様においては、本発明が、その中で、その重量の25〜45%、好ましくは25〜41重量%を、イソチオシアネート基を担持する4−アリール−トラン基を有する化合物が占めている複屈折組成物を提供する。
【0027】
好ましい実施態様においては、その組成物の40〜70%、より好ましくは45〜60重量%を、(末端)アルキルスルファニルアリール基を有する化合物が占めている。本発明者らが見出したところでは、トラン化合物の中のアリールアルキル基のアルキル鎖の中に、分極性がより強い硫黄原子が挿入されると、複屈折値が顕著に高くなる。別の言い方をすれば、アルキルスルファニルアリール基が、そのトラン系列の中での、相当するアルコキシアリール基およびアルキルアリール基のものよりも高い複屈折値を与える。アルキルスルファニルアリール基を有する化合物はさらに、低い融解温度を示すという利点も有している。
【0028】
アルキルスルファニルアリール基を含む化合物(I)が、20〜30重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン(III)を含んでいるのが好ましい。また別の実施態様においては、化合物(I)には、10〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリール)−4−イソチオシアナトトラン(Vb)が含まれる。さらなる実施態様においては、化合物(I)には、5〜20重量%、好ましくは6〜17%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン(VIIb)が含まれる。好ましくは、化合物(I)が、20〜30重量%の化合物(III)、10〜20重量%の化合物(Vb)、および5〜20重量%の化合物(VIIb)を含んでいる。
【0029】
本発明による複屈折組成物には、25〜50重量%の、式Y−Ar−C≡C−Ar−NCSのモノ−トラン化合物(II−III)を含んでいるのが好ましいが、ここで、Yは、アルキルスルファニル基R−S、またはアルキル基R(Rは、たとえば先に説明したもの)を表し、ArおよびArは、置換もしくは非置換の、同一もしくは異なったアリーレン基であるが、YとNCS置換基は、三重結合に対してパラの位置にある。
【0030】
化合物(II−III)は、中程度の複屈折値、すなわち一般的には、30℃、589nmで、0.3から0.5未満までの範囲の複屈折値を示す。いかなる理論にも捉われることを望むものではないが、これらの化合物は、組成物の融解温度を低下させるのに寄与し、そして、高複屈折値の成分、すなわちΔn≧0.5、好ましくはΔn≧0.6の複屈折値を有する成分の溶解性および混和性を確実にすると考えられる。実際のところ、最も長いπ−電子共役系を有する構造、たとえばビス−トラン化合物、特にその鎖の中に硫黄原子を含むものは、複屈折値のレベルを顕著に上昇させるが、より短い鎖のトラン化合物よりは、溶解性のレベルが低い。化合物(II−III)は、より小さな分子であり、好ましくは、100℃以下、より好ましくは90℃以下、理想的には80℃以下の融解温度(等方性液体への相転移温度)を有している。
【0031】
一つの実施態様においては、その本発明による組成物には、10〜20重量%の4’−アルキル−4−イソチオシアナトトラン(II)が含まれる。また別の実施態様においては、その本発明による組成物には、20〜30重量%、好ましくは20〜28重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン(III)が含まれる。
【0032】
その組成物が25〜50重量%の化合物(II)および(III)を含んでいれば好ましく、30〜45重量%であれば、より好ましい。これらの化合物は、一般的には、液晶的性質を示すことができない。
【0033】
式(II)および(III)の好ましい化合物を以下に示す。それらは、化合物(II)については図1に、化合物(III)については図2に示すように、容易に入手可能な前駆体から、数段の合成工程で得ることができる。上から数えて、一番目のものは58℃、四番目のものは81.3℃、五番目のものは74.6℃、最後のものは56.6℃の融点を有している。
【化2】
【0034】
本発明において使用可能な式(II)および(III)のその他の化合物を、以下に示す。それらそれぞれの融解温度は、左から右、そして上から下の順で、90℃、79.1℃、94.8℃、104.7℃、93.8℃、73.6℃、83.8℃、86.2℃、47.8℃、78.7℃、91.3℃、および52.2℃である。
【化3】
【0035】
その組成物が、1〜10重量%の4”−アルキル−4−イソチオシアナトテルフェニル(IV)を含んでいれば好ましく、1.5〜6重量%であれば、より好ましい。それらが、極端に低い融解エンタルピーと、芳香族環が隣接したテルフェニル化合物とは異なった分子形状を有しているために、組成物の高い混和性および溶解性が確保されている。式(IV)の好ましい化合物は、次式の化合物である。
【化4】
【0036】
その組成物が、20〜35重量%、好ましくは20〜32重量%の4’−アリール−4−イソチオシアナトトラン(V)を含んでいれば好ましい。また別の実施態様においては、その組成物が、3〜20重量%、好ましくは3〜18重量%の4’−(4”−イソチオシアナトアリール)−4−アルキルトラン(VI)を含んでいる。
【0037】
4’−アリール−4−イソチオシアナトトラン(V)には、その組成物の全重量を規準にして、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは5〜18%の4’−(4”−アルキルアリール)−4−イソチオシアナトトラン(Va)を含む。また別の実施態様においては、化合物(V)には、10〜20重量%、好ましくは11〜18重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリール)−4−イソチオシアナトトラン(Vb)を含む。
【0038】
モノ−トラン化合物(V)および(VI)は、液晶性能を有するアリールトラン化合物である。式(II)および(III)の化合物と比較すると、それらは、剛直なコアの中に追加のアリール環を含んでいるので、その結果、高い複屈折値が得られる。本発明の組成物においては、アリールトラン基を有する化合物によって、15〜45重量%、より好ましくは20〜40重量%が占められている。本明細書で使用するとき、「アリールトラン基」は、置換もしくは非置換の、同一もしくは異なったアリール基ArおよびAr、ならびにアリーレン基Arを有する、Ar−Ar−C≡C−Ar基を表していている。
【0039】
式(V)および(VI)の好ましい化合物を以下に示す。上から、一番目のものは99.8℃、そして第三番目のものは91.6℃の、結晶相−ネマチック相転移温度を有している。
【化5】
【0040】
本発明において使用可能な、また別の式(V)の化合物を次に示す。その結晶相−ネマチック相転移温度は、110.6℃である。
【化6】
【0041】
式(V)の化合物は、図3〜6に示したように、容易に入手可能な前駆体から、数段の合成工程で得ることができる。図3は、化合物(Va)の合成を示し、図4〜5は、化合物(Vb)の合成を示しているのに対して、図6は、化合物(VI)の合成を示している。
【0042】
いくつかの実施態様においては、その組成物に、8〜45重量%、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは10〜35重量%、さらにより好ましくは12〜35重量%の、ビス−トラン化合物が含まれる。ビス−トラン化合物は、二つの炭素−炭素三重結合で分離された三つのベンゼン環を有する液晶であって、炭化水素ベースのコアにおいてこれまで見出された内では最高のπ−電子共役系の一つであるのは確かで、そのため、高い複屈折値が得られる。好ましいビス−トラン化合物は、4’−アリールエチニル−4−イソチオシアナトトラン(VII)である。一つの実施態様においては、化合物(VII)には、5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン(VIIa)が含まれる。また別な実施態様においては、化合物(VII)には、5〜20重量%、好ましくは6〜17重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン(VIIb)が含まれる。本発明において使用可能な好ましい化合物(VII)の例を、以下に示す。上から二番目のものが、低い融解温度(結晶相−ネマチック相転移温度:76.1℃)を示すために、特に興味深い。第一番目のものと第三番目のものは、それぞれ、111.6℃および143.4℃の結晶相−ネマチック相転移温度を有している。
【化7】
【0043】
本発明において使用可能な式(VII)のその他の化合物を、以下に示す。それらの結晶相−ネマチック相転移温度は、それぞれ、136.3℃、99.2℃、および125.8℃である。
【化8】
【0044】
式(VII)の化合物は、図7〜10に示したように、容易に入手可能な前駆体から、数段の合成工程で得ることができる。
【0045】
化合物(V)、(VI)および(VII)のタイプのものは、高い複屈折値の成分に関連し、それらを組成物の中に組み入れて、その組成物の複屈折の値を所望のレベルにまで上げることができる。好ましい実施態様においては、式(II)〜(VIII)の化合物によってその組成物の75重量%より多く、好ましくは80、85、90、または95%よりも多く、さらに良好には100%が占められるようにする。
【0046】
一つの好ましい組成物には、その組成物の全重量を規準にして、以下のものが含まれる:
− 10〜20重量%の4’−アルキル−4−イソチオシアナトトラン(II)、
− 20〜30重量%、好ましくは20〜28重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン(III)、
− 1〜10重量%、好ましくは1.5〜6重量%の4”−アルキル−4−イソチオシアナトテルフェニル(IV)、
− 20〜35重量%、好ましくは20〜32重量%の4’−アリール−4−イソチオシアナトトラン(V)、
− 3〜20重量%、好ましくは3〜18重量%の4’−(4”−イソチオシアナトアリール)−4−アルキルトラン(VI)、
− 10〜35重量%、好ましくは12〜35重量%の4’−アリールエチニル−4−イソチオシアナトトラン(VII)。
【0047】
より好ましい実施態様においては、組成物には、以下のものが含まれる:
− 10〜20重量%の4’−アルキル−4−イソチオシアナトトラン(II)、
− 20〜30重量%、好ましくは20〜28重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン(III)、
− 1〜10重量%、好ましくは1.5〜6重量%の4”−アルキル−4−イソチオシアナトテルフェニル(IV)、
− 5〜20重量%、好ましくは5〜18重量%の4’−(4”−アルキルアリール)−4−イソチオシアナトトラン(Va)、
− 10〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリール)−4−イソチオシアナトトラン(Vb)、
− 3〜20重量%、好ましくは3〜18重量%の4’−(4”−イソチオシアナトアリール)−4−アルキルトラン(VI)、
− 5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン(VIIa)、
− 5〜20重量%、好ましくは6〜17重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン(VIIb)。
【0048】
複屈折組成物にはさらに、式Y−Ar−Ar−NCS(VIII)のイソチオシアナトビフェニル化合物も含まれていてよいが、ここで、Yは、アルキルスルファニルR−S基またはアルキル基R(Rは、先に定義されたもの)を表し、ArおよびArは、置換もしくは非置換の、同一もしくは異なったアリーレン基であり、そしてYとNCS置換基は、好ましくは、三重結合に関連してパラの位置にある。組成物の中に式(VIII)の化合物を組み入れることによって、ビス−トラン化合物のような、より大きな構造体の混和性を改良することが可能となる。好ましい式(VIII)の化合物を、下に示し、この化合物への合成経路を図11に示す。この化合物は、13.4℃の融解温度を有している。
【化9】
【0049】
好ましくはアリールイソチオシアネート基を含む、本発明による組成物の中に存在している化合物のアリール基/フェニル基/アリーレン基は、各種の置換基で置換されていてもよい。そのような置換基としては、イソチオシアネート基、アルキル基、およびアルキルスルファニル基が挙げられる。存在させることが可能なその他の置換基としては、以下のもの挙げられる:ハロゲン原子たとえば、フッ素、塩素および臭素、好ましくはフッ素、追加のアルキルおよび/またはアルキルスルファニル基、好ましくはC1〜C4アルキル基たとえば、メチルもしくはエチル、または、アルコキシ(たとえば、メトキシ)アルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノ−アルキル、アルケニル、アルケニルオキシ、ヒドロキシル、チオール、アミノ、ニトロ、アリールオキシ、モノ−アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アシル、カルボキシル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、ヒドロキシスルホニル、アルコキシスルホニル、アリールオキシスルホニル、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、シアノ、トリフルオロメチル、OCF、OCHF、テトラゾリル、カルバモイル、アルキルカルバモイル、およびジアルキルカルバモイルのような基。それに代わるものとして、芳香族環の二つの隣接した位置が、メチレンジオキシまたはエチレンジオキシ基で置換されていてもよい。
【0050】
本明細書で使用するとき、「アリール」という用語は、ただ一つの環を含むか(たとえばフェニル基)、または多数の縮合環を含む(たとえば、ナフチルおよびアントラセニル基)、芳香族の一価の炭素環のラジカルを意味しているが、それらは、場合によっては、1個または複数の基で置換されていてもよい。
【0051】
化合物(I)〜(VIII)のアリール/アリーレン基の上の追加の置換基、すなわちこれらの化合物で必須とされているアルキル、アルキルスルファニル、またはイソチオシアネート基以外の置換基が含まれていると、それらの融解温度を低下させることが可能となることが見出された。この点に関しては、一般的にはアルキル、アルキルスルファニル、イソチオシアネート基、または三重結合の、オルト位またはメタ位に、ハロゲン原子およびC1〜C6アルキル基、より好ましくはフッ素原子およびC1〜C2アルキル基が、含まれているのが好ましい。短鎖のC1〜C2アルキル基が、より大きな置換基に比較して、融解温度の低下の点では、最良の結果を与えた。
【0052】
一つの実施態様においては、オルト−フルオロイソチオシアナトアリール基を有する化合物が、その組成物の全重量の45〜75%を占める。また別の実施態様においては、オルト−ジフルオロイソチオシアナトアリール基を有する化合物が、その組成物の全重量の10〜30%を占める。
【0053】
本発明における複屈折組成物の各種の成分は、公知で文献に記載されている方法に従うか、またはそれと同様にして得ることが可能である。これらの合成経路の例は当業者には周知であり、本出願の各種の図面にも示されている。主反応として挙げられるのは、アリールボロン酸またはその誘導体とハロゲン化アリールとを反応させてビフェニル構造体を作り出す鈴木−宮浦クロスカップリング、ハロゲン化アリールを末端アルキンと反応させて、たとえば2−メチル−3−ブチン−2−オールとカップリングさせて、アリールエチニル構造を作り出す薗頭クロスカップリング、それに続く、触媒量のNaHを用いて、アセトン保護基除去するための処理、ならびにチオホスゲンCSCl2の手段による、アニリン前駆体からアリールイソチオシアネートへの最終的な転化反応である。
【0054】
本発明による組成物は、30℃、589nmで高い、すなわち、好ましくは0.45以上、より好ましくは0.47以上、さらに良好には0.5以上の複屈折値Δnを有している。
【0055】
本発明による組成物は、低粘度である。液晶の場合、いくつかの粘度を考え合わせなければならない。動的粘度は、液晶組成物の流動挙動に関係する。動的粘度を十分に低くして、光学要素(薄層も含む)の中に組成物を注入できるようにしなければならない。液晶の場合、ネマチック状態から等方性状態へ、または等方性状態からネマチック状態へと、二つの異なった配列状態の間での転移速度は、分子間転位に関係する。これらの転位は、分子レベルでの固有粘度によって特徴付けることができる。この固有粘度も十分に低くして、液晶組成物が電気刺激に迅速に応答するようにしなければならない。
【0056】
液晶組成物が、90〜130℃、より好ましくは90〜120℃の範囲のネマチック相−等方相の転移温度を有しているのが好ましい。この結果を達成するためには、その組成物には、100℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下の融解温度を有する化合物が含まれているのが好ましい。それに加えて、その組成物には、140℃より高い結晶相−ネマチック相転移温度を有する化合物を含んでいないか、あるいは、そのような化合物が、少量、典型的には5重量%未満でしか存在していないのが好ましい。そのような化合物は、ネマチック混合物の成分としての有用性に限度がある。
【0057】
当業者であれば、組成物の液晶相/等方相の転移温度を評価するための方法は、熟知している。たとえば、ネマチック相−等方相の転移温度は、加熱ユニットを備え、交差分極方式を搭載した偏光顕微鏡で測定することができる。転移温度より低温では、液晶が少なくとも部分的にはネマチック相にあるために、その組成物が少なくとも部分的にはいくらかの複屈折を示すが、それに対して、転移温度よりも高温では、複屈折が消失し、顕微鏡で見られる画像が黒くなる。
【0058】
本発明による光学物品には、上述の複屈折液晶組成物(「主組成物」)と混合して、液晶相を乱すことがない、二次組成物を含むことが可能であるが、前記二次組成物には、当業者には公知であり、文献(たとえば標準的な書物、たとえば「Handbook of Liquid crystals」、Wiley VCH,2nd Edition,2014)に記載されているような添加物が含まれる。たとえば、前記二次組成物の中には、溶媒、多色性色素、誘電異方性、粘度および/またはネマチック相の配向を調整するための物質、またはキラルドーパントなどを添加することが可能である。
【0059】
二次組成物には、以下のものを含むことができる:上で挙げたものとは異なるタイプの液晶、好ましくはネマチック液晶、たとえば先に挙げたもの以外のアゾキシ−ベンゼン、ベンジリデン−アニリン、ビフェニル、および/またはテルフェニルから選択される低分子量の液晶性化合物、アリール−もしくはシクロヘキシル−安息香酸エステル、シクロヘキサン−カルボン酸のアリールもしくはシクロヘキシルエステル、シクロヘキシル安息香酸のアリールもしくはシクロヘキシルエステル、シクロヘキシルシクロヘキサンカルボン酸のアリールもしくはシクロヘキシルエステル、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸およびシクロヘキシルシクロヘキサンカルボン酸のシクロヘキシルアリールエステル、アリールシクロヘキサン、シクロヘキシルビフェニル、アリールシクロヘキシルシクロヘキサン、シクロヘキシルシクロヘキサン、シクロヘキシルシクロヘキセン、シクロヘキシルシクロヘキシル−シクロヘキセン、1,4−ビス−シクロヘキシルベンゼン、4,4’−ビス−シクロヘキシルビフェニル、アリール−もしくはシクロヘキシル−ピリミジン、アリール−もしくはシクロヘキシル−ピリジン、アリール−もしくはシクロヘキシル−ピリダジン、アリール−もしくはシクロヘキシル−ジオキサン、アリール−もしくはシクロヘキシル−−1,3−ジチアン、1,2−ジ−アリールエタン、1,2−ジシクロヘキシルエタン、1−アリール−2−シクロヘキシルエタン、1−シクロヘキシル−2−(4−アリールシクロヘキシル)エタン、1−シクロヘキシル−2−ビアリールエタン、1−アリール−2−シクロヘキシル−アリールエタン、場合によってはハロゲン化されたスチルベン、ベンジルアリールエーテル、トラン、ならびに置換されたケイ皮酸、ならびに、さらなるタイプのネマチック相もしくはネマチック相形成性物質。
【0060】
数多くのネマチック液晶が市販されていて、二次組成物の中に存在させることができるが、そのようなものとしては、たとえば、Merckから以下のような品番で商品化されているネマチック液晶が挙げられる:BL036、BL037、BL038、BL087、BL093、BL111、TL213、TL216、E7、E63、MLC−6621−000、MLC−6621−100、ZU−5049−000、およびZU−5049−100。
【0061】
二次組成物は、必ず存在していなければならないという訳ではないが、存在させるのなら、主組成物の重量に対して、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらにより好ましくは5重量%以下とする。
【0062】
本発明による組成物の調製は、慣用される方法、たとえば、アセトン、クロロホルムまたはメタノールのような有機溶媒中の成分の溶液を混合し、混合した後で、たとえば蒸留によって、溶媒を除去することにより実施される。
【0063】
混合物を配合するときに採用する成分を注意深く選択して、安定したネマチック系を作り出すための、最適な中間物の物性、たとえば複屈折値(Δn)および各種の成分の混和性を有するネマチック相の所望の温度範囲が得られるようにしなければならない。この目的のためには、その配合物には、たとえば式(V)〜(VII)の化合物のようなネマチック相形成性化合物と、たとえば式(II)または(III)の化合物のような低融解温度の化合物との両方が適切な量で含まれているようにして、その複屈折組成物の中に含まれる化合物全体で、満足のいくレベルの混和性および溶解性が得られるようにしなければならない。
【0064】
広い温度範囲でスメクチック相を示すような化合物を使用することは避けるべきであり、それらは、ネマチック混合物の配合には適していない。強力なスメクチック性があると、典型的には、室温用途では液晶化合物が使用できなくなる。アリールイソチオシアネート基を含む個々の化合物でスメクチック相の発生を抑制することは、たとえば、末端ベンゼン環の上、NCS基に対してオルトの位置に1個または2個のフッ素原子を導入することによって達成することができる。
【0065】
本発明の組成物は、液晶媒体、ならびに液晶ディスプレイ、たとえば超ねじれネマチックディスプレイ(STN)、ねじれネマチックディスプレイ(TN)、温度補償、ゲスト−ホストおよび分散型ディスプレイにおいて使用することが可能である。それらは、高Δnの液晶媒体および、そのような媒体を使用したレンズまたはディスプレイ、特にポリマー分散型液晶(PDLC)ディスプレイにおいて特に有用である。
【0066】
この点に関しては、本発明による光学物品が、光学レンズたとえば眼科用レンズ、オートサポートフィルム(auto−supported film)、光学位相リターダー(optical phase retarder)、またはディスプレイデバイスであるのが好ましい。
【0067】
以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、それにより本発明が限定される訳ではない。
【実施例】
【0068】
9〜15種の化合物を含む、5種の液晶組成物を調製した。採用した各種の化合物は、図面に示した反応スキームに従って調製したものであり、それらの構造、さらにはそれらの組成物の熱的および光学的性質を、以下の表に示している。ほぼ室温でネマチック液晶状態にある安定な複屈折組成物が得られ、それらのネマチックな性質についても特性解析した。
【0069】
複屈折値は、二つの独立した方法を用いて測定した。第一の方法は、多波長Abbe屈折計(Atago DR−M4)であって、参照化合物のDemusエステル混合物の二つの濃度からの外挿を使用した。第二の方法は、3レーザー系を用いたMetriconプリズムカプラーを使用した直接測定であった。上述の方法での二つの測定では、矛盾はなく、同一の波長の589nmで比較した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
以下に、本発明の態様を非限定的に記載する。
(態様1)
複屈折液晶組成物を含む光学物品であって、前記組成物が、前記組成物の全重量を規準にして、30重量%を超える量の式(I)
R−S−Z−A−Z−NCS (I)
[式中、
Rが、置換もしくは非置換、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、ZおよびZがアリール基であり、そしてAが、エチニル基、アリールエチニル基、またはエチニルアリールエチニル基である]
の化合物を含む、物品。
(態様2)
Rが、1〜8個の炭素原子を含む、態様1に記載の光学物品。
(態様3)
アルキルスルファニルアリール基を有する化合物が、前記組成物の全重量の45〜60%を占める、態様1または2に記載の光学物品。
(態様4)
前記組成物が、前記組成物の全重量を規準にして、
− 20〜30重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン、
− 10〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリール)−4−イソチオシアナトトラン、
− 5〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン、
を含む、態様1〜3のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様5)
トラン基を有する化合物が、前記組成物の全重量の90%を超える量を占める、態様1〜4のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様6)
イソチオシアネート基を担持する4−アリール−トラン基を有する化合物が、前記組成物の全重量の25〜45%を占める、態様1〜5のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様7)
オルト−フルオロイソチオシアナトアリール基を有する化合物が、前記組成物の全重量の45〜75%を占める、態様1〜6のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様8)
オルト−ジフルオロイソチオシアナトアリール基を有する化合物が、前記組成物の全重量の10〜30%を占める、態様1〜7のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様9)
前記組成物の全重量を規準にして、
− 10〜20重量%の4’−アルキル−4−イソチオシアナトトラン、
− 20〜30重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン、
− 1〜10重量%の4”−アルキル−4−イソチオシアナトテルフェニル、
− 20〜35重量%の4’−アリール−4−イソチオシアナトトラン、
− 3〜20重量%の4’−(4”−イソチオシアナトアリール)−4−アルキルトラン、
− 10〜35重量%の4’−アリールエチニル−4−イソチオシアナトトラン、
を含む、態様1〜8のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様10)
前記4’−アリール−4−イソチオシアナトトランが、前記組成物の全重量を規準にして、5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリール)−4−イソチオシアナトトランを含む、態様9に記載の光学物品。
(態様11)
前記4’−アリールエチニル−4−イソチオシアナトトランが、前記組成物の全重量を規準にして、5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトランを含む、態様9または10に記載の光学物品。
(態様12)
前記組成物の全重量を規準にして、
− 10〜20重量%の4’−アルキル−4−イソチオシアナトトラン、
− 20〜30重量%の4’−アルキルスルファニル−4−イソチオシアナトトラン、
− 1〜10重量%の4”−アルキル−4−イソチオシアナトテルフェニル、
− 10〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリール)−4−イソチオシアナトトラン、
− 5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリール)−4−イソチオシアナトトラン、
− 3〜20重量%の4’−(4”−イソチオシアナトアリール)−4−アルキルトラン、
− 5〜20重量%の4’−(4”−アルキルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン、
− 5〜20重量%の4’−(4”−アルキルスルファニルアリールエチニル)−4−イソチオシアナトトラン、
を含む、態様1〜8のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様13)
前記アルキル基が、同一もしくは異なった直鎖状のC1〜C6アルキル基である、態様1〜12のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様14)
前記組成物が、30℃、589nmで、0.45以上の複屈折値Δnを有する、態様1〜13のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様15)
前記組成物が、90〜130℃の範囲のネマチック相−等方相の転移温度を有する、態様1〜14のいずれか1項に記載の光学物品。
(態様16)
前記光学物品が、光学レンズ、好ましくは眼科用レンズ、オートサポートフィルム、光学位相リターダー、またはディスプレイデバイスである、態様1〜15のいずれか1項に記載の光学物品。
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