特許第6795809号(P6795809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795809
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】ナトリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/10 20060101AFI20201119BHJP
   C25C 3/02 20060101ALI20201119BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20201119BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C22B26/10 101
   C25C3/02 A
   C25C7/06 301A
   C22B7/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-139497(P2016-139497)
(22)【出願日】2016年7月14日
(65)【公開番号】特開2018-9225(P2018-9225A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年6月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年1月19日国立大学法人北海道大学において開催された化学系学協会北海道支部2016年冬期研究発表会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】598017217
【氏名又は名称】野村興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 幹人
(72)【発明者】
【氏名】表 義仁
(72)【発明者】
【氏名】高倉 直兄
(72)【発明者】
【氏名】田村 浩之
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−225931(JP,A)
【文献】 特開2012−107290(JP,A)
【文献】 特開2010−013673(JP,A)
【文献】 特開昭64−017889(JP,A)
【文献】 特開昭54−024203(JP,A)
【文献】 特開2005−248200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 26/10
C22B 7/00
C25C 3/02
C25C 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含むナトリウム原料と、ナトリウムイオンを含むイオン液体とを接触させて、前記ナトリウム原料中のナトリウム純度を高める工程と、
前記イオン液体に接触させた前記ナトリウム原料を精製ナトリウムとして回収する工程と、
を含み、
前記イオン液体が、
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンまたはビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンのナトリウム塩のうち、何れか一方もしくは両方からなるナトリウム塩と、
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンまたはビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンのテトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾール塩、およびN−メチル−N−プロピルピロリジウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の非金属塩と、を含
前記不純物が、ナトリウムより大きなイオン化傾向を示す物質である、
ナトリウムの製造方法。
【請求項2】
前記ナトリウム原料を電解精製する工程を含まない、
請求項1に記載のナトリウムの製造方法。
【請求項3】
前記ナトリウム原料と、110℃以上170℃以下の前記イオン液体とを接触させる、
請求項1または2に記載のナトリウムの製造方法。
【請求項4】
前記イオン液体中の前記ナトリウム塩と前記非金属塩とのモル比が、1:9〜3:7である、
請求項1〜のいずれか一項に記載のナトリウムの製造方法。
【請求項5】
前記非金属塩が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンのテトラエチルアンモニウム塩である、
請求項1〜のいずれか一項に記載のナトリウムの製造方法。
【請求項6】
前記ナトリウム原料は、ナトリウム硫黄電池から得られたものである、
請求項1〜のいずれか一項に記載のナトリウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム原料中のナトリウム濃度を高めることで、精製ナトリウムを製造する、ナトリウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム硫黄電池は、正極に硫黄を、負極にナトリウムを、電解質にβアルミナを使用した二次電池である。ナトリウム硫黄電池は、電力貯蔵用の電池として注目されており、数多く製造されている。これに伴い、使用済みナトリウム硫黄電池が今後大量に発生することが予想される。そこで、使用済みナトリウム硫黄電池に含まれるナトリウムなどの有用資源を再利用する技術の開発が求められている。
【0003】
使用済みナトリウム硫黄電池から回収したナトリウムには、カルシウムやカリウム、リチウムなどの不純物の混入が考えられる。したがって、使用済みナトリウム硫黄電池から回収したナトリウムを再利用するためには、これらの不純物を除去する必要がある。
【0004】
近年、不純物含有ナトリウムから高純度のナトリウムを精製する方法として、電解液を用いた電解精製法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
特許文献1には、不純物含有ナトリウムを陽極とし、アルミニウムのハロゲン化物(AlCl)およびアルカリ金属のハロゲン化物(NaClまたはKCl)からなる溶融塩を電解液とする電解精製法が記載されている。
また、特許文献2には、不純物含有ナトリウムを陽極とし、カーボネート系有機溶媒(炭酸エチレンまたは炭酸プロピレン)およびナトリウム塩(NaPFなど)からなる溶液を電解液とする電解精製法が記載されている。
さらに、特許文献3には、不純物含有ナトリウムを陽極とし、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン(以下、「TFSI」とも称する)のナトリウム塩およびTFSIアニオンのテトラエチルアンモニウム塩等からなる溶液を電解液とする電解精製法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−285728号公報
【特許文献2】特開2010−13673号公報
【特許文献3】特開2011−225931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜3に記載の技術では、一定時間電圧を印加することで、陰極上に高純度の精製ナトリウムが析出する。ただし、より低コスト、かつ簡便な方法で精製ナトリウムを得る方法の提供が望まれている。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、低コスト、かつ簡便な方法で精製ナトリウムを得ることが可能なナトリウムの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のナトリウムの製造方法に関する。
[1]不純物を含むナトリウム原料と、ナトリウムイオンを含むイオン液体とを接触させて、前記ナトリウム原料中のナトリウム純度を高め、精製ナトリウムを得る工程を含み、前記イオン液体が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンまたはビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンのナトリウム塩のうち、何れか一方もしくは両方からなるナトリウム塩と、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンまたはビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンのテトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾール塩、およびN−メチル−N−プロピルピロリジウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の非金属塩と、を含む、ナトリウムの製造方法。
【0009】
[2]前記精製ナトリウムを回収する工程を含む、[1]に記載のナトリウムの製造方法。
[3]前記ナトリウム原料を電解精製する工程を含まない、[1]または[2]に記載のナトリウムの製造方法。
[4]前記ナトリウム原料と、110℃以上170℃以下の前記イオン液体とを接触させる、[1]〜[3]のいずれか記載のナトリウムの製造方法。
【0010】
[5]前記イオン液体中の前記ナトリウム塩と前記非金属塩とのモル比が、1:9〜3:7である、[1]〜[4]のいずれかに記載のナトリウムの製造方法。
[6]前記非金属塩が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンのテトラエチルアンモニウム塩である、[1]〜[5]のいずれかに記載のナトリウムの製造方法。
[7]前記ナトリウム原料は、ナトリウム硫黄電池から得られたものである、[1]〜[6]のいずれかに記載のナトリウムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の技術に比べて低コスト、かつ簡便な方法でナトリウム原料から精製ナトリウムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のナトリウムの製造方法を行うためのナトリウム製造装置の構成を示す模式図である。
図2】実施例1において、120℃でナトリウムを製造した場合の、ナトリウム原料中の不純物(CaおよびK)濃度と、反応時間との関係を示すグラフである。
図3】実施例1において、160℃でナトリウムを製造した場合の、ナトリウム原料中の不純物(CaおよびK)濃度と、反応時間との関係を示すグラフである。
図4】実施例2に示す方法でナトリウムを製造した場合の、ナトリウム原料中の不純物(CaおよびK)濃度と、反応時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のナトリウムの製造方法は、不純物を含むナトリウム原料から不純物を除去することで、精製ナトリウムを得る方法に関する。具体的には、不純物を含むナトリウム原料と、ナトリウムイオンを含む特定のイオン液体とを接触させて、ナトリウム原料中のナトリウム純度を高め、精製ナトリウムを得る工程を含む。当該方法は、必要に応じて、精製ナトリウムを回収する工程を有していてもよい。
【0014】
ここで、本明細書において「ナトリウム原料」とは、ナトリウム以外の原子、例えばカリウム、カルシウムなどの不純物を含む、ナトリウムを主成分とする組成物を意味する。また、「精製ナトリウム」とは、前述のナトリウム原料よりも不純物の含有率が低い、ナトリウムを主成分とする組成物を意味する。また、本明細書では、有機物を含む塩の溶解液を「イオン液体」と称する。
【0015】
従来、ナトリウム原料を精製する場合、特定の電解液を用い、ナトリウム原料を陽極として電解精製することが一般的であった。これに対し、本発明は、ナトリウム原料を、ナトリウムイオンを含む特定のイオン液体と接触させるだけで、ナトリウム原料中のナトリウムの濃度が高まることを見出し、なされたものである。つまり、本発明のナトリウムの製造方法では、電解精製することなく、精製ナトリウムを得ることができる。
【0016】
後述するイオン液体に対するカルシウムやカリウム等のイオン化傾向は、当該イオン液体に対するナトリウムのイオン化傾向より大きい。そのため、ナトリウム原料を、後述のイオン液体と接触させると、ナトリウム原料に含まれるカルシウム等の不純物が、イオン(例えば、カルシウムイオン)となって、イオン液体中に溶出する。一方で、ナトリウム原料中のナトリウムは殆ど溶解しない。さらに、イオン液体中のナトリウムは、カルシウム等と置換されて金属ナトリウムとなる。そして、当該金属ナトリウムは、ナトリウム原料側に析出する。したがって、当該置換反応が進むと、ナトリウム原料中のナトリウム純度が徐々に高まり、非常に純度の高い精製ナトリウムが得られる。
【0017】
[イオン液体について]
イオン液体は、1)ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)アニオンまたはビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI(以下、単に「FSI」とも称する))アニオンとナトリウムイオンとからなるナトリウム塩、および2)TFSIアニオンまたはFSIアニオンと特定の非金属カチオンとからなる非金属塩を含む。
【0018】
なお、TFSIおよびFSIのアニオンは、IUPACの命名法に基づけばイミドではなくアミドが正しいとされているが、本明細書では慣用名として広く使用されている「TFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)」および「FSI(ビス(フルオロスルホニル)イミド)」の名称を使用する。
【0019】
上記ナトリウム塩中のナトリウムは、前述のように、ナトリウム原料中のカルシウムやカリウムと容易に置換される。また、上記ナトリウム塩は、蒸気圧が低く、不燃性である。したがって、これらをイオン液体に用いると、イオン液体の取扱性や安全性が良好になる。イオン液体には、TFSIアニオンのナトリウム塩およびFSIアニオンのナトリウム塩のうち、いずれか一方のみを含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。
【0020】
ここで、上記ナトリウム塩は比較的融点が高い。そのため、イオン液体に上記ナトリウム塩のみを用いると、ナトリウム原料とイオン液体とを接触させる際の温度を高くする必要がある。しかしながら、ナトリウム原料とイオン液体との接触時の温度を過度に高めると、TFSIアニオンやFSIアニオンが熱分解し、これらが精製ナトリウムと反応することがある。そこで、本発明のイオン液体は、TFSIアニオンまたはFSIアニオンと特定の非金属カチオンとからなる非金属塩を含む。当該非金属塩を含むことで、イオン液体の融点を低くすることができ、ひいては、TFSIアニオンやFSIアニオンが熱分解して精製ナトリウムと反応することを防止することができる。
【0021】
上記非金属塩は、具体的には、TFSIアニオンまたはFSIアニオンのテトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾール塩、またはN−メチル−N−プロピルピロリジウム塩である。イオン液体は、これらの非金属塩を1種のみを含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。TFSIアニオンやFSIアニオンの種類によっては、ナトリウムと反応したり、上記ナトリウム塩と混合できなかったりすることがある。これに対し、上記非金属塩であれば、ナトリウムと反応せず、さらには上記ナトリウム塩と均一に混合される。上記の非金属塩の中でも、特に好ましくはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンのテトラエチルアンモニウム塩である。
【0022】
ここで、イオン液体が含むナトリウム塩と非金属塩とのモル比は、イオン液体の融点が適度な範囲となり、ナトリウム塩と非金属塩とが分離することなく混合しうる範囲内であれば特に限定されない。具体的には、上記ナトリウム塩と非金属塩とのモル比が1:9〜3:7であることが好ましく、1:4であることが特に好ましい。
【0023】
モル比を上記範囲内とすることで、イオン液体の融点を70〜150℃程度とすることができる。なお、ナトリウム塩に対する非金属塩の比が少な過ぎる場合、イオン液体の融点を十分に低下させることが困難となる。一方、ナトリウム塩に対する非金属塩の比が多過ぎる場合、ナトリウム塩と非金属塩とが分離することがある。またさらに、ナトリウム塩の量が過度に少ないと、上述の置換反応が生じ難くなり、ナトリウム原料中のナトリウムの純度が高まり難くなる。
【0024】
ここで、イオン液体がTFSIアニオンのナトリウム塩およびTFSIアニオンのテトラエチルアンモニウム塩の組み合わせからなる場合は、これらのモル比は特に好ましくは1:4である。また、イオン液体がFSIアニオンのナトリウム塩およびTFSIアニオンのテトラエチルアンモニウム塩の組み合わせからなる場合も、これらのモル比は特に好ましくは1:4である。このような比とすることで、前述の置換反応が生じやすくなる。
【0025】
[ナトリウム原料について]
ナトリウム原料は、前述のように、ナトリウム以外の原子、例えばカリウム、カルシウムなどの不純物を含む、ナトリウムを主成分とする組成物であればよく、不純物の含有量等は特に制限されない。不純物の含有量は、本発明の効果が十分に得られやすいとの観点から、ナトリウム原料の総量に対して1質量%であることが好ましい。
【0026】
また、ナトリウム原料が含む不純物の種類は、上述のイオン液体に対するイオン化傾向が、ナトリウムのイオン液体に対するイオン化傾向より大きい物質であることが好ましく、このような物質としては、カルシウム、カリウム、リチウム、セシウム等が挙げられる。
【0027】
ここで、ナトリウム原料は、ナトリウム硫黄電池から得られたものであることが好ましい。使用済みのナトリウム硫黄電池から回収したナトリウム原料には、通常、カルシウム等が含まれている。そして、本発明のナトリウムの製造方法によれば、当該ナトリウム原料から精製ナトリウムを得ることが可能である。
【0028】
[ナトリウム原料とイオン液体との接触について]
本発明のナトリウムの製造方法では、上述のナトリウム原料とイオン液体とを接触させることにより、精製ナトリウムを得る。ナトリウム原料とイオン液体とを接触させる方法は特に制限されない。図1に本発明のナトリウムの製造方法を行うためのナトリウム製造装置の模式図(断面図)を示す。図1のナトリウム製造装置100は、イオン液体170やナトリウム原料180を収容する反応槽110と、反応槽110内の温度を調整するための加熱部130とを有する。当該装置100を用いてナトリウムを製造する場合、まず、反応槽110にイオン液体170を収容し、当該イオン液体170上にナトリウム原料180を収容することで、ナトリウム原料180とイオン液体170とを接触させる。
【0029】
ここで、ナトリウム製造装置100の反応槽110は、イオン液体170およびナトリウム原料180を収容可能であれば、その形状等は特に制限されない。製造するナトリウムの量等に応じて適宜選択される。反応槽110の材質は、加熱に耐えうる耐熱性を有し、ナトリウムおよびイオン液体170と反応しないものであれば特に限定されない。たとえば、反応槽110として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂製の容器やアルミナセラミックスやガラス製の容器等を用いることができる。
【0030】
加熱部130は、イオン液体170、ナトリウム原料180を所望の温度に加熱することが可能であれば、その種類は特に制限されない。加熱部130は、反応槽110の下面および/または側面に配置されたヒーター等とすることができる。
【0031】
図1に示すように、不純物を含むナトリウム原料180およびイオン液体170を反応槽110内で接触させ、所定の温度で一定時間保持すると、ナトリウム原料180に含まれるカルシウムやカリウムがイオンとなってイオン液体170に溶出する。一方で、イオン液体170中のナトリウム塩のナトリウムが、カルシウムやカリウム等と置換されて、ナトリウム原料180側に析出する。この反応により、ナトリウム原料180中の不純物(カルシウムやカリウム)は、時間の経過と共に減少し、ナトリウム原料180中のナトリウムの濃度は、時間の経過と共に増加する。したがって、一定時間経過後、イオン液体170上のナトリウム(精製ナトリウム)を回収することで、所望の不純物濃度のナトリウムが得られる。
【0032】
ここで、上記イオン液体170とナトリウム原料180とを接触させる際のイオン液体170やナトリウム原料180の温度は、イオン液体170の融点以上の温度であれば特に限定されない。通常、当該温度では、ナトリウム原料180も、溶融して液体状態となる。ここで、イオン液体170の温度が高いと、イオン液体170中における各成分の拡散速度が速くなり、カルシウム等とナトリウムとの置換反応が進行しやすい。つまり、短時間でナトリウム原料180中のナトリウム濃度を高めやすい。一方で、イオン液体170の温度が過度に高いと、イオン液体170の一部が分解し、分解物と精製ナトリウムとが反応することがある。そこで、カルシウム等とナトリウムとの置換反応の促進、ならびに副反応の防止の観点から、イオン液体170およびナトリウム原料180の温度は110〜170℃とすることが好ましく、120〜170℃とすることがより好ましい。
【0033】
また、反応槽110に収容するナトリウム原料180とイオン液体170との質量比は、1:3〜1:5であることが好ましい。ナトリウム原料180とイオン液体170との質量比が上記範囲であれば、ナトリウム原料170中の不純物をイオン液体170中のナトリウムと十分に置換することができ、得られる精製ナトリウム中のナトリウムの純度が十分に高くなる。
【0034】
イオン液体170とナトリウム原料180とを接触させる時間は特に制限されないが、上記置換反応を十分に生じさせる観点から、15〜25時間であることが好ましい。
【0035】
一方、イオン液体170上のナトリウム(精製ナトリウム)を回収する方法は、特に限定されず、例えば反応槽110の上部に設けた排出口(図示せず)等から回収してもよく、吸引等によって回収してもよい。
【0036】
以上のように、本発明のナトリウムの製造方法は、操作性や安全性に優れるTFSIまたはFSIのナトリウム塩と、TFSIまたはFSIの非金属塩との混合物からなるイオン液体を使用して精製ナトリウムを得る。そのため、従来の技術に比べてより容易かつ安全に、不純物を含有するナトリウム原料から精製ナトリウムを得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されない。
【0038】
(実施例1)
Arガスを充填したグローブボックス内で、TFSIのナトリウム塩(三菱マテリアル社製(以下、「NaTFSI」とも称する))とTFSIのテトラエチルアンモニウム塩((以下、「テトラエチルアンモニウムTFSI」とも称する)99.0%;Iolitech社製)とをガラスビーカー内に入れて加熱し、NaTFSIおよびテトラエチルアンモニウムTFSIからなるイオン液体Aを得た。NaTFSIとテトラエチルアンモニウムTFSIとのモル比は、20:80とした。
【0039】
続いて、ガラスビーカーに上述のイオン液体Aを400g入れた。そして、当該イオン液体A上に、不純物(CaおよびK)を含むナトリウム原料(純度99.95%、アルドリッチ社製)80gをイオン液体A上に添加した。そして、イオン液体の温度を120℃または160℃で12時間維持し、ナトリウム原料中のCaおよびKとイオン液体中のNaとを置換反応させた。一定時間毎にイオン液体上のナトリウムを採取し、ナトリウム中のCaおよびKの濃度を定量した。CaおよびKの濃度は、採取したナトリウムを純水に溶解させ、当該水溶液をICP発光分光分析装置で分析することで定量した。
【0040】
120℃で反応させた場合の反応時間と、定量されたCaおよびKの濃度との関係を図2に示し、160℃で反応させた場合の反応時間と、定量されたCaおよびKの濃度との関係を図3に示す。
【0041】
(実施例2)
上記と同様に、Arガスを充填したグローブボックス内で、FSIのナトリウム塩(Solvionic社製(以下、「NaFSI」とも称する))とテトラエチルアンモニウムTFSI(99.0%;キシダ化学株式会社)とをガラスビーカー内に入れて加熱し、NaFSIおよびテトラエチルアンモニウムTFSIからなるイオン液体Bを得た。NaFSIとテトラエチルアンモニウムTFSIとのモル比は、20:80とした。
【0042】
続いて、ガラスビーカーに上述のイオン液体Bを400g入れた。そして、当該イオン液体B上に、不純物(CaおよびK)を含むナトリウム原料(純度99.95%、アルドリッチ社製)80gをイオン液体B上に添加した。そして、イオン液体の温度を160℃で12時間維持し、ナトリウム原料中のCaおよびKとイオン液体中のNaとを置換反応させた。一定時間毎にイオン液体上のナトリウムを採取し、ナトリウム中のCaおよびKの濃度を定量した。CaおよびKの濃度は、採取したナトリウムを純粋に溶解させ、当該水溶液をICP発光分光分析装置で分析することで定量した。このときの反応時間と、定量されたCaおよびKの濃度との関係を図4に示す。
【0043】
(評価)
図2〜4に示すように、初期のナトリウム原料には、いずれもCaが341ppm、Kが118ppm含まれていた。そして、当該ナトリウム原料を、イオン液体A(NaTFSIとテトラエチルアンモニウムTFSIとの混合液)、およびイオン液体B(NaFSIとテトラエチルアンモニウムTFSIとの混合液)のいずれと接触させた場合にも、Ca濃度およびK濃度は、120分まで急激に減少し、その後緩やかに減少した。また、いずれの実施例においても、ナトリウム原料中のナトリウム濃度が、99.95%から99.99%まで高められた。
【0044】
なお、実施例1において、120℃で反応させた場合(図2)と、160℃で反応させた場合(図3)とを比較すると、160℃で反応させたほうが、短時間でCa濃度およびK濃度が減少しやすかった。これは、温度が高いほうが、置換反応速度が速く、イオン液体中の各成分の拡散速度が速いためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、低コスト、かつ簡易な方法でナトリウム原料から精製ナトリウムを製造することができる。したがって、本発明のナトリウムの製造方法は、使用済みのナトリウム硫黄電池から回収したナトリウムをリサイクルする上で有用である。
【符号の説明】
【0046】
100 ナトリウム製造装置
110 反応槽
120 分離部材
130 加熱部
170 イオン液体
180 ナトリウム原料
図1
図2
図3
図4