【文献】
舘野浩章,ヒトiPS・ES細胞特異的プローブrBC2LCNの開発,和光純薬時報,2013年 7月15日,Vol.81,No.3,PP.2-5
【文献】
平林淳ほか,レクチンマイクロアレイによる糖鎖マーカーの開発−がんと多能性幹細胞,がん分子標的治療,2014年 9月26日,Vol.12,No.3,PP.341-346
【文献】
TATENO Hiroaki et al.,Podocalyxin is a glycoprotein ligand of the human pluripotent stem cell-specific probe rBC2LCN,Stem Cells Translational Medicine,2013年 3月22日,Vol.2,PP.265-273
【文献】
SCHOPPERLE William M. et al.,The human cancer and stem cell marker podocalyxin interact with the glucose-3-transporter in maligna,Biochem. Biophys. res. com.,2010年,Vol.398,PP.372-376
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被検試料が、被験個体の臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織もしくはその周辺組織、又は生検材料に由来する組織試料又は細胞試料である、請求項1記載の検出方法。
がんの罹患が疑われる被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順を含み、当該存在量が健常人と比較して有意に高レベルであるとき、被験個体ががんに罹患していると判定するためのデータの収集方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、がん細胞を特異的に検出、分離又は殺傷するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、今回、以下の知見を得た。
(1)BC2LCNレクチンが、乳がん細胞及び前立腺がん細胞の細胞表面に存在する糖タンパク質を認識し、結合すること(実施例1−1、1−2、1−3参照)。
(2)BC2LCNレクチンが、乳がん、肺がん、膵がん、大腸がん、胃がん、胆管がん、子宮がん、卵巣がんに反応性を有し、特に上皮性がん、なかでも消化器系上皮性がんと乳がんに反応性を有し、大腸がん及び胆管がんには特に高い反応性を示すこと(実施例1−4、1−5、1−6、1−7、1−8参照)。
(3)BC2LCNレクチンは、正常組織には反応しないこと(実施例1−9参照)。
(4)BC2LCN陽性がん細胞が、高い足場非依存性増殖能を有し、既知のがん幹細胞マーカーを高発現すること(実施例2)。
(5)BC2LCNと細胞殺傷性毒素との融合タンパク質(BC2LCN−ETA)がBC2LCN陽性がん細胞を非常に効率よく殺傷すること(実施例3)。
(6)臨床膵がんに類似の所見を呈するCapan−1細胞(BC2LCN陽性)皮下移植マウスモデルにおいて、抗がん剤処置後に残存するがん細胞でBC2LCNが強陽性となること(実施例4)、またBC2LCNと細胞殺傷性毒素との融合タンパク質(BC2LCN−ETA及びBC2LCN−PE38)が顕著な抗腫瘍効果を示すこと(実施例5)。
(7)細胞の培養上清を用いて該細胞中に含まれるがん細胞を検出できること、がん罹患個体の体液試料を用いて生体内のがんを検出できること(実施例6)。
【0020】
以上の知見に基づき、本発明は、その一側面において、以下の[1]〜[82]を提供する。
[1] BC2LCNレクチンを含む、がん細胞検出試薬。
[2] 前記がん細胞が、大腸がん細胞、胆管がん細胞、膵がん細胞、胃がん細胞、乳がん細胞、肺がん細胞、前立腺がん細胞、子宮がん細胞、卵巣がん細胞又は脳腫瘍細胞である、[1]の試薬。
[3] 前記がん細胞が、上皮性がん細胞である、[2]の試薬。
[4] 前記がん細胞が、消化器系上皮性がん細胞又は乳がん細胞である、[3]の試薬。
[5] 前記がん細胞が、大腸がん細胞又は胆管がん細胞である、[4]の試薬。
[6] 前記がん細胞が、高悪性度がん細胞である、[1]の試薬。
[7] 前記高悪性度がん細胞が、薬剤耐性がん細胞又はがん幹細胞である、「6」の試薬。
[8] 前記高悪性度がん細胞が、膵がん細胞である、[6]の試薬。
[9] がん細胞検出のために用いられるBC2LCNレクチン。
[10] BC2LCNレクチンのがん細胞検出のための使用。
【0021】
[11] 被検試料中のBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在の有無又は存在量を測定する手順を含む、がん細胞の検出方法。
[12] 被検試料に対して、BC2LCNレクチンを接触させる手順をさらに含む、[11]の検出方法。
[13] 前記がん細胞が、大腸がん細胞、胆管がん細胞、膵がん細胞、胃がん細胞、乳がん細胞、肺がん細胞、前立腺がん細胞、子宮がん細胞、卵巣がん細胞又は脳腫瘍細胞である、[11]又は[12]の検出方法。
[14] 前記がん細胞が、上皮性がん細胞である、[13]の検出方法。
[15] 前記がん細胞が、消化器系上皮性がん細胞又は乳がん細胞である、[14]の検出方法。
[16] 前記がん細胞が、大腸がん細胞又は胆管がん細胞である、[15]の検出方法。
[17] 前記がん細胞が、高悪性度がん細胞である、[11]又は[12]の検出方法。
[18] 前記高悪性度がん細胞が、薬剤耐性がん細胞又はがん幹細胞である、[17]の検出方法。
[19] 前記高悪性度がん細胞が、膵がん細胞である、[18]の検出方法。
[20] 被検試料が、被験個体の臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織もしくはその周辺組織、又は生検材料に由来する組織試料又は細胞試料である、[11]〜[19]のいずれかの検出方法。
[21] 被検試料が、被験個体の体液試料である、[11]〜[19]のいずれかの検出方法。
[22] 体液試料が、全血、血清及び血漿から選択される血液由来試料である、[21]の検出方法。
[23] 被検試料中のがん細胞の有無を検出するためのキット又は装置であって、少なくとも下記の(1)〜(3)を含むキット又は装置;
(1)BC2LCNレクチン、
(2)標識化剤、
(3)標識を検出するための手段又は装置。
【0022】
[24] BC2LCNレクチンを含む、がん細胞分離用試薬。
[25] 前記がん細胞が、大腸がん細胞、胆管がん細胞、膵がん細胞、胃がん細胞、乳がん細胞、肺がん細胞、前立腺がん細胞、子宮がん細胞、卵巣がん細胞又は脳腫瘍細胞である、[24]の試薬。
[26] 前記がん細胞が、上皮性がん細胞である、[25]の試薬。
[27] 前記がん細胞が、消化器系上皮性がん細胞又は乳がん細胞である、[26]の試薬。
[28] 前記がん細胞が、大腸がん細胞又は胆管がん細胞である、[27]の試薬。
[29] 前記がん細胞が、高悪性度がん細胞である、[24]の試薬。
[30] 前記高悪性度がん細胞が、薬剤耐性がん細胞又はがん幹細胞である、「29」の試薬。
[31] 前記高悪性度がん細胞が、膵がん細胞である、[30]の試薬。
[32] がん細胞分離のために用いられるBC2LCNレクチン。
[33] BC2LCNレクチンのがん細胞分離のための使用。
【0023】
[34] 被検試料に対して、BC2LCNレクチンを接触させる手順と、
BC2LCNレクチンが結合した細胞と結合しない細胞とを分離する手順と、を含むがん細胞の分離方法。
[35] 前記がん細胞が、大腸がん細胞、胆管がん細胞、膵がん細胞、胃がん細胞、乳がん細胞、肺がん細胞、前立腺がん細胞、子宮がん細胞、卵巣がん細胞又は脳腫瘍細胞である、[34]の分離方法。
[36] 前記がん細胞が、上皮性がん細胞である、[35]の分離方法。
[37] 前記がん細胞が、消化器系上皮性がん細胞又は乳がん細胞である、[36]の分離方法。
[38] 前記がん細胞が、大腸がん細胞又は胆管がん細胞である、[37]の検出方法。
[39] 前記がん細胞が、高悪性度がん細胞である、[34]の分離方法。
[40] 前記高悪性度がん細胞が、薬剤耐性がん細胞又はがん幹細胞である、「39」の分離方法。
[41] 前記高悪性度がん細胞が、膵がん細胞である、[40]の分離方法。
[42] 被検試料が、被験個体の臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織もしくはその周辺組織、又は生検材料に由来する組織試料又は細胞試料である、[34]〜[41]のいずれかの検出方法。
[43] 被検試料中のがん細胞を分離するためのキット又は装置であって、少なくとも下記の(1)及び(2)を含むキット又は装置;
(1)標識化したBC2LCNレクチン、
(2)標識を検出して標識された細胞を分離するための手段又は装置。
【0024】
[44] がんの罹患が疑われる被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順を含み、当該存在量が健常人と比較して有意に高レベルであるとき、被験個体ががんに罹患していると判定するためのデータ収集方法。
[45] がんの罹患が疑われる被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順を含み、当該存在量が健常人と比較して有意に高レベルであるとき、被験個体ががんに罹患していると判定するがんの診断方法。
[46] がんに罹患している被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順を含み、当該存在量が健常人又は悪性度の低いがん患者と比較して高レベルであるとき、被験個体の予後が不良であると判定するためのデータ収集方法。
[47] がんに罹患している被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順を含み、当該存在量が健常人又は悪性度の低いがん患者と比較して高レベルであるとき、被験個体の予後が不良であると判定するがんの予後判定方法。
[48] がん治療が施された被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順、及び、
当該存在量を、あらかじめ測定された前記治療前の被験個体の被検試料のBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量と比較する手順を含み、
治療前に比して治療後の前記存在量が有意に低レベルであるとき、前記治療が有効であると判定するためのデータの収集方法。
[49] がん治療が施された被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順、及び、
当該存在量を、あらかじめ測定された前記治療前の被験個体の被検試料のBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量と比較する手順を含み、
治療前に比して治療後の前記存在量が有意に低レベルであるとき、前記治療が有効であると判定する治療効果の判定方法。
[50] 前記がんが、大腸がん、胆管がん、膵がん、胃がん、乳がん、肺がん、前立腺がん、子宮がん、卵巣がん又は脳腫瘍である、[44]〜「49」のいずれかの方法。
[51] 前記がんが、上皮性がんである、[50]の方法。
[52] 前記がんが、消化器系上皮性がん又は乳がんである、[51]の方法。
[53] 前記がんが、大腸がん又は胆管がんである、[52]の方法。
[54] 前記がんが、高悪性度がんである、[44]〜「49」のいずれかの方法。
[55] 前記高悪性度がんが、薬剤耐性がんである、「54」の方法。
[56] 前記高悪性度がん細胞が、膵がんである、「55」の方法。
[57] 被検試料が、被験個体の臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織もしくはその周辺組織、又は生検材料に由来する組織試料又は細胞試料である、[44]〜[56]のいずれかの方法。
[58] 被検試料が、被験個体の体液試料である、[44]〜[56]のいずれかの方法。
[59] 体液試料が、全血、血清及び血漿から選択される血液由来試料である、[58]の方法。
【0025】
[60] BC2LCNレクチンと、BC2LCNレクチンに融合する物質と、を含んでなる、前記物質をがん細胞内に導入するための試薬。
[61] 前記物質が、がん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質である、[60]の試薬。
[62] がん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質が、毒素タンパク質又はその細胞殺傷能力のあるドメインである、[61]の試薬。
[63] がん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質が、緑膿菌の外毒素A由来の細胞殺傷ドメインである、[62]の試薬。
[64] 緑膿菌の外毒素A由来の細胞殺傷ドメインが、配列番号3で示されるDomainI〜III(PE38)である、[63]の試薬。
[65] 前記がん細胞が、大腸がん細胞、胆管がん細胞、膵がん細胞、胃がん細胞、乳がん細胞、肺がん細胞、前立腺がん細胞、子宮がん細胞、卵巣がん細胞又は脳腫瘍細胞である、[60]〜[64]のいずれかの試薬。
[66] 前記がん細胞が、上皮性がん細胞である、[65]の試薬。
[67] 前記がん細胞が、消化器系上皮性がん細胞又は乳がん細胞である、[66]の試薬。
[68] 前記がん細胞が、大腸がん細胞又は胆管がん細胞である、[67]の試薬。
[69] 前記がん細胞が、高悪性度がん細胞である、[60]〜[64]のいずれかの試薬。
[70] 前記高悪性度がん細胞が、薬剤耐性がん細胞又はがん幹細胞である、「69」の試薬。
[71] 前記高悪性度がん細胞が、膵がん細胞である、[69]の試薬。
【0026】
[72] BC2LCNレクチンと、がん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質とを融合したBC2LCN−毒素融合体を有効成分とし、薬理学的に許容される担体を含むことを特徴とする、がん治療用組成物。
[73] がん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質が、毒素タンパク質又はその細胞殺傷能力のあるドメインである、[72]の組成物。
[74] がん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質が、緑膿菌の外毒素A由来の細胞殺傷ドメインである、[73]の組成物。
[75] 細胞殺傷ドメインが、配列番号3で示される緑膿菌の外毒素A由来DomainI〜III(PE38)である、[74]の組成物。
[76] 既知のがんに適用可能な治療用組成物と併用して、又は組み合わせて用いられることを特徴とする、[72]〜[75]のいずれかの組成物。
[77] 前記がんが、大腸がん、胆管がん、膵がん、胃がん、乳がん、肺がん、前立腺がん、子宮がん、卵巣がん又は脳腫瘍である、[72]〜[76]のいずれかの組成物。
[78] 前記がんが、上皮性がんである、[77]の組成物。
[79] 前記がんが、消化器系上皮性がん又は乳がんである、[78]の組成物。
[80] 前記がんが、大腸がん又は胆管がんである、[79]の組成物。
[81] 前記がんが、高悪性度がんである、[72]〜[76]のいずれかの組成物。
[82] 前記高悪性度がん細胞が、膵がんである、[81]の組成物。
【0027】
また、本発明は、その一側面において、以下の〔1〕〜〔29〕をも提供する。
〔1〕 BC2LCNレクチンを有効成分として含む、がん幹細胞検出剤。
ここで、BC2LCNレクチンは、直接的又は間接的に標識されていてもよい。また、BC2LCNレクチンを基板上に固定化し、オーバーレイする被検試料溶液又は懸濁液を標識化して検出してもよい。
〔2〕 BC2LCNレクチンを有効成分として含む、悪性度の高い又は薬剤耐性を獲得したがん細胞検出剤。
ここで、BC2LCNレクチンは、直接的又は間接的に標識されていてもよく、基板上に固定化されていてもよい。
〔3〕 BC2LCNレクチンを有効成分として含む、がん診断剤。
ここで、BC2LCNレクチンは、直接的又は間接的に標識されていてもよく、基板上に固定化されていてもよい。
〔4〕 がん診断剤が、被験個体におけるがんの罹患の有無もしくはその悪性度を判定するため、又は被験個体の予後を予測するための診断剤である、前記〔3〕に記載の診断剤。
〔5〕 BC2LCNレクチンを有効成分として含む、「高悪性度がん細胞」を濃縮するための分離精製用試薬。
「高悪性度がん細胞を含有する試料」に対して、標識化されたBC2LCNレクチンを反応させ、セルソーターを備えたフローサイトメーターを用いることで、「高悪性度がん細胞」を濃縮することができる。また、「高悪性度がん細胞を含有する試料」にBC2LCNレクチンを結合させた磁気ビーズを反応させて、磁気細胞分離装置により濃縮してもよい。
〔6〕 BC2LCNレクチンを用い、被検試料中のBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在の有無又は存在量を測定することを特徴とする、がん細胞の検出方法。
ここで、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖として典型的な糖鎖は、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc」を非還元末端に有している糖鎖である。
また、BC2LCNレクチンは、直接的又は間接的に標識されていてもよい。また、BC2LCNレクチンを基板上に固定化し、オーバーレイする被検試料溶液又は懸濁液を標識化して検出してもよい。
〔7〕 被検試料が、被験個体の臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織もしくはその周辺組織、又は生検材料に由来する組織試料又は細胞試料である、前記〔6〕に記載の検出方法。
〔8〕 被検試料が、被験個体の体液試料である、前記〔6〕に記載の検出方法。
ここで、「体液試料」とは、被験個体の全血、血清、血漿及び関節液を含む血液由来試料、リンパ液、唾液、尿などの体液試料の他、膵臓組織由来抽出液など、腫瘍組織又は腫瘍が疑われる組織由来抽出液も含む。
〔9〕 「高悪性度がん細胞」を含むことが疑われる被検試料に対して、BC2LCNレクチンと接触させる工程を含むことを特徴とする、被検試料中の「高悪性度がん細胞」の有無を判定する方法。
ここで、BC2LCNレクチンは、直接的又は間接的に標識されていてもよく、基板上に固定化されていてもよい。
〔10〕 被検試料中の「高悪性度がん細胞」の有無を判定するためのキット又は装置であって、少なくとも下記の(1)〜(3)を含むキット又は装置;
(1)BC2LCNレクチン、
(2)標識化剤、
(3)標識を検出するための手段又は装置。
ここで、(2)の標識化剤は、BC2LCNレクチンを直接的又は間接的に標識するために用いてもよい。BC2LCNレクチンを基板上に固定化する場合は、反応させる被検試料溶液又は懸濁液を標識化するために用いることができる。(3)の検出装置として、例えば、前者の場合は、FACS機器を用いたフローサイトメトリー解析を適用することができ、また後者の場合は、エバネッセント波励起光検出系を適用することができる。
〔11〕 被検試料中の「高悪性度がん細胞」を分離、濃縮又は選別するためのキット又は装置であって、少なくとも下記の(1)及び(2)を含むキット又は装置;
(1)標識化したBC2LCNレクチン、
(2)標識を検出して分離するための手段又は装置。
ここで、(2)の分離装置としては、セルソーターを備えたフローサイトメーター、又は磁気細胞分離装置などを用いることができる。
〔12〕 がんの罹患が疑われる被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチンを用いてBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する工程を含み、当該存在量が健常人と比較して有意に高レベルであるとき、被験個体ががんに罹患していると判定するためのデータの収集方法。
本発明は、がんの罹患が疑われる被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチンを用いてBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する工程、及び当該存在量が健常人と比較して有意に高レベルであるか否かを判定する工程を含む、がんの罹患の有無を診断する方法に適用できる。
〔13〕 がんに罹患している被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチンを用いてBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する工程を含む、被験個体が罹患しているがんががん幹細胞を含む悪性度の高いがん又は薬剤耐性を獲得したがんであるか否かを判定するためのデータの収集方法。
本発明は、がんに罹患している被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチンを用いてBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する工程、及び被験個体が罹患しているがんががん幹細胞を含む悪性度の高いがん又は薬剤耐性を獲得したがんであるか否かを判定する工程を含む、がんの悪性度診断法、又は最適治療方法の決定方法に適用できる。
〔14〕 がんに罹患している被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチンを用いてBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する工程を含む、被験個体の予後を予測するためのデータの収集方法。
本発明は、がんに罹患している被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチンを用いてBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する工程を含む、被験個体の予後の予測方法に適用できる。
〔15〕 がん治療が施された被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチンを用いてBC2LCN陽性糖鎖の発現量を測定する工程、及び当該発現量を、あらかじめ測定された前記治療前の被験個体の被検試料のBC2LCN陽性糖鎖の発現量と比較する工程を含む、前記治療効果の有効性を判定するためのデータの収集方法。
本方法は、がんに罹患している被験個体に、手術などの外科的治療、抗がん剤治療などの化学的、免疫学的治療、放射線治療などが施される場合に、治療前の被検試料と治療後の被検試料におけるBC2LCN陽性糖鎖の発現量の差異を観察することにより、施された治療の治療効果の有効性を判定する方法に適用できる。
〔16〕 BC2LCNレクチンを有効成分として含む、「高悪性度がん細胞」の細胞内に化合物を輸送するための「高悪性度がん細胞」導入剤であって、輸送するための化合物がBC2LCNレクチンと融合していることを特徴とする、「高悪性度がん細胞」導入剤。
〔17〕 被検細胞試料中の「高悪性度がん細胞」殺傷剤であって、BC2LCNレクチンと細胞内で細胞毒性を発揮できる物質とを融合したBC2LCN−毒素融合体を有効成分とする、殺傷剤。
〔18〕 細胞内で細胞毒性を発揮できる物質が、毒素タンパク質又はその細胞殺傷能力のあるドメインである、前記〔17〕に記載の殺傷剤。
〔19〕 BC2LCNレクチンとがん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質とを融合した「BC2LCN−毒素」融合体を有効成分として含むことを特徴とする、がん細胞殺傷剤。
〔20〕 がん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質が、緑膿菌の外毒素A由来の細胞殺傷ドメインである、前記〔19〕に記載のがん細胞殺傷剤。
〔21〕 緑膿菌の外毒素A由来の細胞殺傷ドメインが、配列番号3で示されるDomainI〜III(PE38)である、前記〔20〕に記載のがん細胞殺傷剤。
〔22〕 がん細胞が膵がん細胞である前記〔19〕〜〔21〕のいずれかに記載のがん細胞殺傷剤。
〔23〕 がん細胞が、悪性度の高い又は薬剤耐性を獲得したがん細胞を含むことを特徴とする、前記〔19〕〜〔22〕のいずれかに記載のがん細胞殺傷剤。
〔24〕 BC2LCNレクチンとがん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質とを融合したBC2LCN−毒素融合体を有効成分とし、薬理学的に許容される担体を含むことを特徴とする、がんの処置又は治療用組成物。
〔25〕 がん細胞内で細胞毒性を発揮できる物質が、緑膿菌の外毒素A由来の細胞殺傷ドメインである、前記〔24〕に記載の組成物。
〔26〕 細胞殺傷ドメインが、配列番号3で示される緑膿菌の外毒素A由来DomainI〜III(PE38)である、前記〔25〕に記載の組成物。
〔27〕 がんが膵がんである前記〔24〕〜〔26〕のいずれかに記載の組成物。
〔28〕 がんが、がん幹細胞を含む悪性度の高いがん又は薬剤耐性を獲得したがんである前記〔24〕〜〔27〕のいずれかに記載の組成物。
〔29〕 がん治療用組成物が、既知のがんに適用可能な治療用組成物と併用して、又は組み合わせて用いられることを特徴とする、前記〔24〕〜〔28〕のいずれかに記載の組成物。
【0028】
本発明における用語の定義は以下のとおりである。
「がん」とは、悪性腫瘍及び肉腫をいう。
「がん幹細胞」とは、「自己複製能」と「分化能(組織形態の再現性)」を備えるがん細胞をいう。
再生医学分野において、「幹(Stemness)」は、「自己複製能」と「多分化能」によって定義される。ここでいう「多分化能」とは、1つの細胞が他の多くの種類の細胞に分化する能力をいう。
分化能に関し、がん幹細胞は、上記の「多分化能」は有していない。がん幹細胞が有する「分化能(組織形態の再現性)」とは、がん幹細胞が、当該がん幹細胞の発生由来臓器の細胞へ分化する能力をいうものとする。がん幹細胞が備える「分化能(組織形態の再現性)」は、がん幹細胞が発生由来臓器の組織形態を再現する能力ともいうことができる。
がん幹細胞は、後述する分化度が低い特徴を有する。がん幹細胞は、既知の細胞マーカーを指標として識別することができる。細胞マーカーとしては、EPCAM(非特許文献4)、CD24、CD44(非特許文献5)、CD133(非特許文献6)、ERBB2(非特許文献7)などが挙げられる。 本発明におけるがん幹細胞は、未分化幹細胞、すなわち自己複製能に加えて、1つの細胞が他の多くの種類の細胞に分化する能力を意味するところの「多分化能」を備える細胞(例えばES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(誘導性多能性幹細胞))を含むものではない。
【0029】
がんの悪性度の判断指標は、臨床的なものから病理組織学的なものまで種々の指標が用いられる。一般に、がんの発生部位、がんの組織型及びがんの分化度の指標が汎用される。発生部位に関して、胆のう胆道及び膵臓は、進行性、浸潤性及び転移性が高く、予後(5年相対生存率)が悪いため、最も悪性度が高いがんに分類される。一方、前立腺、乳腺及び甲状腺は進行が遅く、転移性が低く、予後が良いため、最も悪性度が低いがんに分類される。子宮体、大腸、子宮頚、胃、卵巣、肺、食道及び肝臓は、この順に5年相対生存率が低く、悪性度が高いとされている。
組織型は、同一組織由来のがんをさらに由来細胞の種類によって分類したものであり、例えば、肺がんは、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん及び小細胞がんに大きく分類することができる。
がんの分化度は、正常な組織あるいは細胞からの異形度であり、がん組織やがん細胞の構造及び形状等が正常な組織や細胞の構造及び形状等から乖離しているほど悪性度が高いと判断される。構造としては、組織の境界が不明瞭であるほど、又は、細胞の配列が不整であるほど悪性と判断される。形状としては、核や細胞質が不整であるほど、細胞質、核又は核小体が大型であるほど、各染色性が増すほど、又は、核小体が多いほど悪性と判断される。
本発明における「高悪性度がん細胞」も、従来用いられている指標に従って悪性度が高いと判断されるがん細胞をいうものであるが、特に足場非依存性増殖能が高いがん細胞、薬剤耐性を有するがん細胞及びがん幹細胞を指す場合がある。
「足場非依存性増殖能」は、細胞外基質(足場)に接着しなくても生存し増殖する能力を意味し、該能力が高い細胞ほど悪性度が高いと判断される。足場非依存性増殖能は、例えば、軟寒天培地を用いたコロニー形成試験により、細胞の増殖数を測定することにより評価することができる。
「薬剤耐性がん細胞」は、化学療法に用いられる抗がん剤に対して抵抗性を示し、死滅することなく生存する細胞をいう。薬剤耐性がん細胞の細胞集団には、がん幹細胞が含まれている場合が多い。抗がん剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、代謝拮抗薬(5−FU、塩酸ゲムシタビン等)、アルキル化薬(シクロフォスファミド等)、プラチナ製剤(オキサリプラチン、シスプラチン等)、植物アルカロイド(パクリタキセル、ドセタキセル等)、その他各種分子標的治療薬(トラスツズマブ、イマチニブ、ベバシズマブ等)の耐性があげられる。
【0030】
また、本発明において、「細胞毒性」あるいは「細胞障害性」は、細胞に細胞死(アポトーシス及びネクローシス)を誘導する活性に加えて、細胞の分裂、増殖及び分化等の正常な機能を抑制する活性を広く包含するものとする。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、がん細胞を特異的に検出、分離又は殺傷するための技術が提供される。本発明により提供された、蛍光等で標識化したBC2LCNレクチンは、がん細胞に発現している糖鎖を特異的に検出することができる、優れたがん細胞特異的標識プローブとして用いることができる。本発明のがん細胞特異的標識プローブを病理検体等に対して直接反応させることで、がん細胞を特異的に高感度で標識することができる。したがって、本発明のがん細胞特異的標識プローブを用いることで、患者のがん細胞スクリーニングを、簡便かつ効果的に実施することができ、がんの診断・治療加速化への応用が期待できる。尚、上述の効果は、既存の抗体等の技術と併用/キット化することも可能であり、それにより相乗的にがん細胞を検出・濃縮できると期待される。
このことは、本発明により、BC2LCNレクチンを用いた、がん細胞の検出方法、特に薬剤耐性を獲得したがん細胞の検出方法が提供できたことでもある。BC2LCNレクチンは、がんの罹患の有無、罹患したがんの悪性度、がん患者の予後などを判定するためのがん診断剤として用いることができ、がん治療の効果を確認するために用いることもできる。さらに、標識BC2LCNレクチンをがん組織切除手術時にあらかじめ患部に投与することで、がん化部分のみを鮮明に染色することができる。
【0032】
一方、BC2LCNレクチン自身が持つがん細胞内移行能を利用することで、がん細胞内に毒素を取り込ませることができるため、がん細胞を殺傷可能な強力な抗がん剤を提供できた。具体的には、本発明により、BC2LCNレクチンと毒素との融合体、例えばBC2LCN−PE38を有効成分とする抗がん剤が提供できた。特に既知の抗がん剤との組み合わせ使用、又は薬剤耐性がん患者への治療用組成物として有用である。さらに、各種研究用因子を取り込ませれば、がん研究用キャリアとしての応用も期待できる。
また、がん細胞に、その悪性度の原因となっていると推定される遺伝子を阻害するようなマイクロRNA、つまり「形質転換因子」を導入することで、正常な細胞に形質転換するという応用も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.がん細胞検出試薬及びがん細胞分離用試薬
(1)BC2LCNレクチン
本発明に係るがん細胞検出試薬及びがん細胞分離用試薬は、BC2LCNレクチンを含む。BC2LCNレクチンは、がん細胞表面に存在する「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc(Hタイプ1糖鎖)」及び「Fucα1−2Galβ1−3GalNAc(Hタイプ3糖鎖)」(以下、両者を併せて「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc」ともいう。)に高い親和性をもって結合し、がん細胞に高い特異性をもって反応する。さらに、BC2LCNレクチンは、がん組織中のがん細胞あるいは培養がん細胞の細胞表面から遊離して体液中あるいは培養上清中に存在する「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc」にも結合する。本発明において「がん細胞特異的プローブ」というとき、「BC2LCNレクチン」を含むプローブをいう。
【0035】
「BC2LCNレクチン」は、グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)由来レクチンであり、BC2L−Cと呼ばれるタンパク質のN末端ドメイン(GenBank/NCBI−GI登録番号:YP_002232818)に相当する(非特許文献3)。BC2LCNレクチンは、3量体を形成し、2つのサブユニット間で糖鎖を挟みこむような状態で認識することが知られている。
糖鎖アレイを用いた解析から、BC2LCNレクチンは未分化糖鎖マーカーとして知られるFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcを認識することが明らかになっている。
BC2LCNレクチンは、糖鎖を含まないので形質転換細菌によっても大量生産可能である。具体的には、GenBank/NCBI−GI登録番号:YP_002232818(Genome ID:206562055)のアミノ酸配列(配列番号1)をコードするBC2LCN遺伝子を宿主に対して最適化し、形質転換大腸菌などから発現させて、通常のタンパク質精製手段により精製することができる。本発明の実施態様で用いた組換え型BC2LCNを、以下「rBC2LCN」ともいう。
【0036】
「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc」の糖鎖構造は、GlcNAcの4位の位置の水酸基は単糖(好ましくはフコース)又は分岐した若しくは分岐していないオリゴ糖鎖(好ましくは2〜5の糖からなる糖鎖)で置換されていてもよい。また、当該糖鎖構造は、がん細胞表面では、膜構成成分として、GlcNAcの1位の位置で糖タンパク質、糖脂質又は糖類などの非還元末端に結合している糖鎖であるから、体液中あるいは培養上清中に分泌されている糖鎖構造としても、GlcNAcの1位の位置で、OH基、又は他の糖類、タンパク質、若しくは脂質、若しくはその他の分子の非還元末端が結合していてもよい。すなわち、当該糖鎖構造は、下記(式1)として表すことができる。
【0037】
(式1)
【化1】
(R1はOH基、若しくは任意の糖鎖、例えば、4αFuc基を表す。R2はOH基、又は任意の糖鎖、タンパク質、脂質、若しくはその他の分子を表す。)
【0038】
同様に、「Fucα1−2Galβ1−3GalNAc」の糖鎖構造は、GalNAcの1位の位置の水酸基は分岐した若しくは分岐していないオリゴ糖鎖(好ましくは2〜5の糖からなる糖鎖)で置換されていてもよい。また、当該糖鎖構造は、がん細胞表面では、膜構成成分として、GalNAcの1位の位置で糖タンパク質、糖脂質又は糖類などの非還元末端に結合している糖鎖であるから、体液中あるいは培養上清中に分泌されている糖鎖構造としても、GalNAcの1位の位置で、OH基、又は他の糖類、タンパク質、若しくは脂質、若しくはその他の分子の非還元末端が結合している。すなわち、当該糖鎖構造は、下記(式2)として表すことができる。
【0039】
(式2)
【化2】
(R1はOH基、若しくは任意の糖鎖、例えば、Galβ1−4Glc基を表す。R2はOH基、又は任意の糖鎖、タンパク質、脂質、若しくはその他の分子を表す。)
【0040】
本発明において「BC2LCNレクチン」というときFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcの糖鎖構造を特異的に認識する特性を維持していれば、配列番号1の全長でないフラグメントであってもよく、タグ配列、標識タンパク質のアミノ酸配列などが付加した融合タンパク質であってもよい。また、配列番号1において全長の10%未満のアミノ酸が欠失、置換、挿入、付加されている場合であってもよい。すなわち、本発明において「BC2LCNレクチン」というとき、BC2LCNレクチンの改変体も含む。
【0041】
BC2LCNレクチンとしては、配列番号1に対応する全長は必要とせず、また配列番号1において部分的に一部のアミノ酸が欠失、置換、挿入、付加されている場合であっても、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcを特異的に認識する特性を維持していればよい。
具体的には、BC2LCNレクチンは、例えば、以下のように表現することができる。
「配列番号1に示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc又はFucα1−2Galβ1−3GalNAcの糖鎖構造を特異的に認識するタンパク質。」
なお、ここで、数個とは20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、特に好ましくは2個を表す。
【0042】
(2)BC2LCNレクチンの標識化方法
本発明のBC2LCNレクチンを標識化するには、常法により蛍光や酵素、核酸鎖、ビオチン、磁気ビーズ等を用いる。用途によって好ましい標識物質種は異なる。例えば細胞染色やフローサイトメトリー解析には蛍光標識が好ましく、その際の好ましい蛍光色素としては、「Cy3」、「Cy5」、「FITC」、「Hilyte Fluor
TM 647」、「phycoerythrin」、「allophycocyanin」などが例示できる。BC2LCNレクチンを標識化する際に、アミノ酸配列中の任意の部位に蛍光標識アミノ酸を導入する公知の芳坂らの方法(Iijima et al. (2009) ChemBioChem, 10, 999−1006)を用いれば、BC2LCNレクチンの特定の部位に蛍光標識アミノ酸を導入した変異体を作製することができる。
細胞分離に用いる際は、蛍光色素以外にも磁気ビーズによる標識も有用である。ThermoFisherの手法(https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/clinical/diagnostic−development/molecular−diagnostic−test−development/bead−based−ivd−assays/customized−dynabeads−oem−supply.html)等を用いれば、磁気ビーズ標識BC2LCNレクチンを作製することができる。
また、光が透過しない大きな組織内での分布を検証する際は、「horseradish peroxidase」、「alkaline phosphatase」等の酵素や「ビオチン−アビジン反応を利用した検出システム」を用いることができる。その際、Dojindo社の手法(http://dominoweb.dojindo.co.jp/goodsr7.nsf/ByItemLInfo/08?OpenDocument)等を利用して、NHS基やマレイミド基で活性化した酵素やビオチンを用いることで、BC2LCNレクチンの一級アミノ基(NH
2基)やチオール基(SH基、スルフヒドリル基)に標識することができる。
【0043】
2.がん細胞検出方法及び分離方法
(1)被検試料
本発明に係るがん細胞検出方法及び分離方法において、被検試料は、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcを細胞表面に発現しているがん細胞(BC2LCN陽性がん細胞)を含む可能性がある、臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織もしくはその周辺組織とすることができる。また、被検試料は、生検材料に由来する、BC2LCN陽性がん細胞を含む可能性がある組織試料又は細胞試料であってよい。さらに、被検試料は、BC2LCN陽性がん細胞を有すると疑われる被検個体から採取された体液試料(全血、血清、血漿等の血液由来の試料、間質液、リンパ液、唾液、胃液、尿、脳脊髄液及び組織抽出液等)であってもよい。中でも、被験個体への負担等を考慮すると、体液試料、特に血液由来試料が好ましい。
腫瘍組織に含まれるがん細胞は、該腫瘍組織を原発巣とするがん細胞に限られず、他の臓器、器官又は組織から転移したがん細胞であってもよい。
BC2LCN陽性がん細胞には、生体内でがん化した細胞、生体から分離されたがん細胞、生体から分離後培養されたがん細胞が包含される。
【0044】
がん細胞としては、舌がん、喉頭がん、咽頭がん、食道がん、肺がん、胃がん、肝がん、胆管がん、膵がん、大腸がん、腎がん、膀胱がん、尿路上皮がん、前立腺が、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、乳がん、甲状腺がん、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞種、骨髄腫、メラノーマなどのがん細胞、並びに、脳腫瘍などの悪性腫瘍及び悪性肉腫などの細胞が挙げられる。
BC2LCNレクチンは、上皮性がん、特に消化器系上皮性がんと乳がんに反応性を有し、なかでも大腸がん及び胆管がんに高い反応性を示すことが明らかになっている(実施例参照)。
従って、がん細胞としては、特に、舌がん、喉頭がん、咽頭がん、食道がん、肺がん、胃がん、十二指腸がん、肝がん、胆管がん、胆嚢がん、膵がん、大腸がん、腎がん、膀胱がん、尿路上皮がん、前立腺が、子宮がん、卵巣がん、乳がん及び甲状腺がん等の上皮性がんが好ましく、舌がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、肝がん、胆管がん、胆嚢がん、膵がん、及び大腸がん等の消化器系上皮性がんと乳がんがより好ましく、大腸がん及び胆管がんが特に好ましい。
【0045】
また、BC2LCNレクチンは、高悪性度がん細胞、特に薬剤耐性がん細胞及びがん幹細胞に高い反応性を有することが明らかとなっている(実施例参照)。
従って、がん細胞としては、膵がん、胆管がん、胆嚢がん及び肺がん等の高悪性度がん細胞、及び上述したがん細胞のなかでも薬剤耐性を獲得した細胞あるいはがん幹細胞を挙げることができる。
【0046】
被検細胞の培養方法としては、培養容器内での接着細胞培養法が一般的に用いられる。接着培養に際しては、フィーダー細胞や細胞外基質抽出物等のコート剤でコートした、もしくは無コートのプラスチックディッシュに被検細胞を接着させる場合、及びビーズ表面などに接着して培養容器内に浮遊させる場合がある。また、培養液中に被検細胞を懸濁して直接浮遊させる浮遊細胞培養法、ソフトアガー中で足場無しでの培養を行う方法もありうる。
【0047】
(2)がん細胞検出方法及び分離方法の手順
本発明に係るがん細胞の検出方法は、被検試料に対してBC2LCNレクチンを接触させる手順(A)と、被検試料中のBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖(Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc)の存在の有無又は存在量を測定する手順(B)と、を含む。
また、本発明に係るがん細胞の分離方法は、被検試料に対してBC2LCNレクチンを接触させる手順(A)と、BC2LCNレクチンが結合した細胞と結合しない細胞とを分離する手順(C)と、を含む。
【0048】
(2−1)手順(A)
被検試料が細胞試料である場合、手順(A)は以下のように実施できる。培養容器内で基材に接着した状態で被検細胞を培養している場合は、BC2LCNレクチンを含む標識プローブ溶液を、被検細胞を覆っている溶液中に供給すれば、フィーダー細胞等の存在非存在には影響されずに、標識プローブがFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcに結合する。これによって、がん細胞が標識化される。
また、懸濁状態で被検細胞を培養している場合であっても、溶液中に当該標識プローブ溶液を供給すれば、標識プローブがFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcに結合する。これによって、がん細胞を標識化できる。
【0049】
被検試料が組織試料である場合、手順(A)は以下のように実施できる。
そのままあるいは化学固定した組織片に、BC2LCNレクチンを含む標識プローブ溶液を接触させる。これにより、標識プローブがFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcに結合し、組織片中のがん細胞が標識化される。
また、そのままあるいは化学固定した組織試料を定法に従って薄切し、スライドガラス上に貼り付けて病理切片とし、ここに標識プローブ溶液を接触させてもよい。これにより、標識プローブがFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcに結合し、組織切片中のがん細胞が標識化される。
さらに、組織試料を酵素処理して解離させて細胞試料とし、上述した被検試料が細胞試料である場合の手順に従って実施してもよい。
【0050】
被検試料が体液試料である場合、手順(A)は以下のように実施できる。
そのまま体液試料にBC2LCNレクチンを含む標識プローブ溶液を接触させる。
或いは、がん細胞特異的プローブを固相化した支持体に体液試料を接触させる。これにより、体液試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcが支持体に固相化されたプローブに捕捉される。支持体には、汎用のプレートやスライドグラス、メンブレン等を用いればよい。
【0051】
(2−2)手順(B)
被検試料が細胞試料である場合、手順(B)は以下のように実施できる。
被検細胞を接着培養する場合であっても浮遊培養する場合であっても、本発明のがん細胞特異的標識プローブ溶液を、被検細胞の培養液中に添加した後に、被検細胞表面の標識量を測定することでFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcの存在の有無又は存在量を測定できる。これによって、がん細胞の存在を正確に検出、評価することができる。
【0052】
被検試料が組織試料である場合、手順(B)は以下のように実施できる。
組織試料を組織片のままあるいは組織切片として本発明のがん細胞特異的標識プローブ溶液に接触させた後、組織片表面又は組織切片の標識量を測定することで、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcの存在の有無又は存在量を測定できる。これによって、がん細胞の存在を正確に検出、評価することができる。
【0053】
必要に応じ、緩衝液や生理食塩水等で液交換をすることで簡単に培地成分等の影響をとりのぞくことができる。また、がん細胞の標識量の測定は死細胞でも生細胞と同様に可能であるため、あらかじめ細胞をホルマリンなどによって化学固定することにより取り扱いが簡単になる。
【0054】
被検試料が体液試料である場合、手順(B)は以下のように実施できる。
自体公知の電気泳動法、HPLC等により分離後、標識量を測定することで、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcの存在の有無又は存在量を測定できる。
被検試料が体液試料であり、そのままBC2LCNレクチンを含む標識プローブ溶液を接触させる場合、手順(B)は、標識プローブが結合したFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcを遊離の標識プローブから分離して測定する必要がある。該分離方法としては、例えばクロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法、例えばLiBASys(島津製作所(株)製)等の自動免疫分析装置を用いた方法等が挙げられる。その具体的な条件は、標識プローブが結合したFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcが分離できるように設定すればよく、その他の条件は、自体公知の方法に準ずればよい。例えばHPLCを用いて分離する場合、Anal.Chem.65,5,613−616(1993)や特開平9−301995号に記載の方法に準じて行えばよく、キャピラリー電気泳動法を用いる場合には、J.Chromatogr. 593 253−258 (1992)、Anal.Chem. 64 1926−1932 (1992)、WO2007/027495等に記載の方法に準じて行えばよい。また、自動免疫分析装置として例えばLiBASysを用いる場合、生物試料分析22巻4号303−308(1999)に記載されている方法に準じて行えばよい。分離後、標識プローブが結合したFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc中の標識量を測定することで、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcの存在の有無又は存在量を測定できる。
また、被検試料が体液試料であり、がん細胞特異的プローブを固相化した支持体に体液試料を接触させる場合、手順(B)は以下のように実施できる。
Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcが捕捉された支持体に、BC2LCNレクチン−Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc複合体に結合し得る標識抗体あるいは標識レクチン(例えば、R−10G標識抗体)の溶液をさらに接触させた後、支持体表面の標識量を測定することで、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcの存在の有無又は存在量を測定できる。
これによって、体液試料を採取した被検個体内のがん細胞の存在を正確に検出、評価することができる。
【0055】
(2−3)手順(C)
被検試料が細胞試料である場合、手順(C)は以下のように実施できる。
懸濁液中の細胞であれば、手順(A)の後そのままセルソーターや磁気細胞分離装置によるがん細胞の単離に適用できる。懸濁液中の細胞であっても標識化できるという本発明のがん細胞特異的標識プローブの高い特異性と親和性は、特にがん細胞を単離する場合に、がん細胞に対する悪影響を少なくし、かつ簡便に行う為には極めて有利な特性であるといえる。
【0056】
以上のように、本発明のがん細胞特異的標識プローブは、生きたがん細胞でも化学固定により死んだがん細胞でも染色可能である。また、接着しているがん細胞でも浮遊しているがん細胞でも染色可能である。ここで、「浮遊しているがん細胞」という場合、「浮遊培養したがん細胞」の他に、「接着培養した後、タンパク質分解酵素処理をして浮遊させたがん細胞」のどちらも含み、培養液中の細胞の場合も、培地成分を取り除いた緩衝液や生理食塩水等の溶液中の細胞のいずれの場合もある。また、「接着しているがん細胞」という場合には、ディッシュ等の基材上で接着培養された状態のがん細胞も、ビーズ等の基材上に接着の上、浮遊培養したがん細胞の場合も含む。
【0057】
生体または死体から取得した試料内に存在するがん細胞の場合、その試料は化学固定されていてもいなくても構わない。また、酵素処理によって解離され、バッファー等に懸濁した形状も含む。また、凍結切片、樹脂等に包埋した上での切片としてスライドグラス等の基材に張り付いた状態も含む。
【0058】
(2−4)基材に接着されたがん細胞を検出する場合の具体的手順
本発明のがん細胞特異的プローブは、ビーズ状、中空糸状もしくは平板状の基材の上で培養したもしくは基材の上に貼り付けたがん細胞群内に存在するがん細胞を検出する場合に適用できる。
その場合は、基材が存在する溶液中にがん細胞特異的標識プローブを添加する。ここでいう「溶液」とは、培養液または、培地成分を除去した後の緩衝液や生理食塩水等であってよい。がん細胞表面で特異的に発現するFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとの反応性を、蛍光顕微鏡、ELISAなどで解析し、がん細胞を検出するのが一般的である。
このような解析方法によれば、生検を行う際に、蛍光などの標識が検出されなかった(バックグラウンド値と同レベルになった)サンプルは、がん細胞が存在していない試料であると評価できる。また、研究用等に維持をしているがん細胞の品質管理のためには、定期的にもしくは必要に応じて細胞サンプルを採取して、本発明のがん細胞特異的標識プローブによる蛍光強度などの標識強度を測定することができる。
【0059】
(2−5)溶液中に懸濁されたがん細胞を検出する場合の具体的手順
本発明のがん細胞特異的プローブは、溶液中のがん細胞を検出する場合にも適用できる。
その場合は、溶液中に、がん細胞特異的標識プローブを添加する。ここでいう「溶液」とは、培養液または、培地成分を除去した後の緩衝液や生理食塩水等であってよい。
本発明のがん細胞特異的標識プローブはがん細胞のみを直接蛍光標識などで標識化するため、フローサイトメトリー測定法が適用できる。
具体的には、生検等で採取した組織を酵素処理して解離し、がん細胞特異的標識プローブと反応させて、FACS機器を用いてフローサイトメトリー解析を行うことにより、少量の試料でも確実にがん細胞が存在するかどうかの診断システムを提供することができる。
また、BC2LCNレクチンをスライドグラスなど透明基板上に固定化しておき、溶液中に懸濁したがん細胞含有被検試料を、そのまま、もしくは希釈して、又はあらかじめタンパク質画分のみに濃縮した後、「Cy3−NHS ester」などで標識化して固定化BC2LCNレクチンと反応させて、プレートリーダー、蛍光スキャナー、エバネッセント波励起蛍光検出系などにより、その結合を測定してもよい。
【0060】
(2−6)がん細胞の分離方法の具体的手順
フローサイトメトリー測定法にセルソーターを併用することで、例えば、セルソーターを備えたフローサイトメーターを用いることで、がん細胞のみを単離することができる。
具体的には、生検等で採取した組織を酵素処理して解離し、がん細胞特異的蛍光標識プローブと反応させて、フローサイトメトリー法によりがん細胞を生きたまま分収出来る。
また、磁気ビーズ標識法で標識された場合には、生検等で採取した組織を酵素処理して解離し、がん細胞特異的磁気ビーズ標識プローブと反応させて磁気細胞分離装置に供給することでがん細胞のみを分収することができる。
【0061】
3.がん細胞の有無の検出用キット又は装置
本発明のがん細胞特異的プローブ(1)を、下記手段(2)及び(3)と共にキット又は装置とすれば、がん細胞の有無の検出用キット又は装置とすることができる。
(1)BC2LCNレクチン、
(2)標識化剤、
(3)標識を検出するための手段又は装置。
【0062】
上記(1)及び(2)によれば、BC2LCNレクチンを蛍光色素や酵素、ビオチン等で標識した、高がん細胞特異的標識プローブが提供される。また、(1)及び(2)の代わりに、予め標識化剤で結合したレクチンを、(3)と共にキット又は装置とすることもできる。
上記(3)は、例えば、蛍光標識の場合は、蛍光顕微鏡またはプレートリーダーであり、酵素標識やビオチン標識の場合は、イメージアナライザーなどがある。
また、上記のキット又は装置は、さらにBC2LCN陽性糖鎖複合体(BC2LCNレクチン−Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc複合体)に結合する標識抗体、BC2LCN陽性糖鎖複合体に結合する抗体を含んでいてもよい。
【0063】
装置は、がん細胞特異的標識プローブを細胞表面又は組織表面に接触せるか、あるいは体液試料中に当該プローブを添加するための手段(例えば自動分注装置)を有していてもよい。これにより、がん細胞の解析を自動化することができる。ただし、当該手段は手作業でも可能なので必須ではない。
【0064】
4.がん細胞の分離用キット又は装置
下記手段(2)と共にキット又は装置とすれば、細胞表面にFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcを発現している高悪性度がん細胞のみを単離すること
(1)標識化したBC2LCNレクチン、
(2)標識を検出して標識された細胞を分離するための手段又は装置。
【0065】
上記(1)は、がん細胞特異的標識プローブ(蛍光色素や酵素、ビオチン等もしくは磁気ビーズで標識したBC2LCNレクチン)である。
上記(2)は、蛍光標識や磁気ビーズ標識等の標識を検出して分離するための手段又は装置である。例えば、セルソーターを備えたフローサイトメトリー、または磁気細胞分離装置である。
【0066】
装置は、がん細胞特異的標識プローブを細胞表面又は組織表面に接触せるか、あるいは体液試料中に当該プローブを添加するための手段(例えば自動分注装置)を有していてもよい。ただし、当該手段は手作業でも可能なので必須ではない。
【0067】
本発明のがん細胞特異的標識プローブによれば、がん細胞を正常細胞から分収することができるため、がん細胞を単離することができる。さらに、BC2LCNレクチンは特に高悪性度がん細胞に高い反応性を有するので、高悪性度がん細胞を、低悪性度がん細胞もしくは正常細胞から分離することもできる。
【0068】
5.がんの診断方法及び治療効果の判定方法並びにこれらの方法のためのデータ収集方法
本発明においては、被験個体から採取した被検試料におけるBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の発現の有無又はその発現量を測定し、がん細胞の有無を判定する。また、その結果から、被験個体ががんに罹患しているか否か、または罹患したがんの予後や治療効果の判定を行う。本発明は、がんの検出、がんの悪性度もしくは薬剤耐性の獲得度の判定、予後や治療効果の判定を行うための検査方法、検査試薬、検査キットを含む。
【0069】
本発明に係るがんの診断方法及び治療効果判定方法に供される被検試料は、上述のがん細胞検出方法及び分離方法における被検試料と同様である。また、被験個体とは、がんに罹患しているか否かが判明していない個体又はがんに罹患していることが判明している個体であり、さらに手術、抗がん剤投与など治療後の個体をも含む。前者の場合は、個体ががんに罹患しているか否かと共にその悪性度もしくは薬剤耐性の獲得度を判定することができ、後者の場合は予後を判定し、あるいは治療効果の判定を行うことができる。
【0070】
本発明に係るがんの診断方法は、がんの罹患が疑われる被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順を含み、当該存在量が健常人と比較して有意に高レベルであるとき、被験個体ががんに罹患している又はがんに罹患している可能性が高いと判定する。
本発明に係るがんの診断方法は、がんに罹患している被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順を含み、当該存在量が健常人又は悪性度の低いがん患者と比較して高レベルであるとき、被験個体の予後が不良であると判定することもできる。
本発明に係るがんの治療効果判定方法は、がん治療が施された被験個体の被検試料に対し、BC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量を測定する手順、及び、当該存在量を、あらかじめ測定された前記治療前の被験個体の被検試料のBC2LCNレクチン結合活性を有する糖鎖の存在量と比較する手順を含み、治療前に比して治療後の前記存在量が有意に低レベルであるとき、前記治療が有効であると判定する。
【0071】
<組織切片を用いた、がんの診断方法>
がんに罹患した被験個体の臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織をホルマリン固定し、パラフィン包埋後、組織切片を作製する。得られた組織切片を酵素、蛍光などで標識化したBC2LCNレクチンで染色し、その組織像を顕微鏡観察する。染色が確認できれば、がんの存在が検出でき、レクチンアレイ、フローサイトメトリー、ELISAを行うことで定量化でき、がんの悪性度を判定することもできる。
【0072】
<生検材料を用いたがんの診断方法>
蛍光標識BC2LCNレクチン含有溶液を組織試料又は細胞試料に対して反応させることで、生検材料中にがん細胞が存在するか否かを確認することができ、生検材料中に含まれるがん細胞の含有割合を測定できる。そして、測定された蛍光強度から、生検材料中のがん細胞の悪性度を評価することもできる。その際、組織試料又は細胞試料を固定化して用いてもよいが、固定化していない細胞試料を蛍光標識し、フローサイトメトリー測定法を適用することで、より定量的ながん細胞の悪性度の評価が可能となり、セルソーターを併用することで、蛍光染色されたがん細胞の生検試料中の割合を正確に測定できる。組織試料もしくは細胞試料から、公知の方法で膜タンパク質画分を分離した後、緩衝液もしくは生理食塩水に懸濁させて測定工程に供することもできる。この場合の測定方法は、次に説明する体液試料を用いた測定方法に準ずる。
【0073】
<体液試料を用いた測定方法>
被検試料として血液などの体液試料を用いる場合は精製工程を経ることなくそのまま、もしくは希釈して、又はあらかじめタンパク質画分のみに濃縮して測定工程に供することができる。
BC2LCNレクチンをスライドグラスなど透明基板上に固定化し、「Cy3−NHS ester」などで標識化した被検試料溶液を直接反応させて、エバネッセント波励起蛍光検出系で、その結合を測定する。
または、BC2LCNレクチンをELISAプレート、磁気ビーズ、フィルターなどの支持体に固定化したものに対して酵素、蛍光、ビオチンなどで標識化した被検試料を反応させ、両者の結合強度を発色、発光、蛍光などを測定して検出することもできる。その際、被検試料反応後の溶液中に、BC2LCN陽性糖鎖複合体に結合する標識抗体や標識レクチンを添加して反応させるサンドイッチアッセイ法を採用することもできる。特に、「レクチン‐レクチンサンドイッチ法」又は「レクチン−抗体サンドイッチ法」を用いることで、より高感度な測定が可能となる。なかでも、レクチンと抗体を用いる方法が好ましい。 BC2LCNレクチンは極めて感度がよいので、BC2LCNレクチンを固定化した支持体に対して、被検試料溶液を反応させる際に、被検試料中のBC2LCN陽性糖鎖量は、ピコモル(pM)又はナノモル(nM)レベルでも存在、非存在を判別できるため、被検試料が血清の場合、0.1〜10μl程度を採取して測定することも可能である。
【0074】
また、被検試料を、既知のがんマーカーに対する抗体やレクチンを固定化した支持体に被検試料を反応させて、酵素、ビオチン、蛍光などで標識化したBC2LCNレクチンを反応させ、蛍光染色、フローサイトメトリー、ELISA、レクチンブロッティングなどの公知の方法で検出することも可能である。
【0075】
本発明において、上記した方法に用いられる抗体としては、BC2LCNレクチンに対する抗体あるいはBC2LCNレクチン−Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc複合体(BC2LCN陽性糖鎖複合体)に結合し得る標識抗体等が挙げられる。このような抗体には、ハイブリドーマR−10G(寄託番号:FERM BP−11301)が産生するIgG抗体が好ましく用いられる。
【0076】
ここで、本発明において「抗体」の用語には、「抗体の機能性断片」も含まれるものとする。「抗体の機能性断片」とは、抗原との結合活性を有する抗体の部分断片を意味しており、Fab、F(ab’)2、scFv等を含む。また、F(ab’)2を還元条件下で処理した抗体の可変領域の一価の断片であるFab’も抗体の機能性断片に含まれる。ただし抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。機能性断片には、抗体タンパク質の全長分子を適当な酵素で処理したもののみならず、遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生されたタンパク質も含まれる。
【0077】
本発明におけるがん細胞の有無の検出方法の手順には、被検試料とレクチンと抗体とを接触させてレクチンとFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcと抗体とから構成される複合体を形成させる複合体形成手順と、複合体を検出する検出手順と、が含まれる。以下、BC2LCNレクチン及びR−10G抗体を用いる場合を例に具体的に説明する。
【0078】
複合体形成手順では、BC2LCNレクチンとR−10G抗体を同時に被検試料と接触させてもよいが、被検試料とBC2LCNレクチンとを接触させた後にR−10G抗体を反応させることがより好ましい。すなわち、複合体形成手順は、被検試料とレクチンとを接触させて、BC2LCNレクチンと被検試料に含まれるFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとから構成される第一の複合体(BC2LCNレクチン−Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc複合体)を形成させる第一手順と、第一の複合体とR−10G抗体とを接触させて、BC2LCNレクチンとFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとR−10G抗体とから構成される第二の複合体(BC2LCNレクチン−Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc−R−10G抗体)を形成させる第二手順と、からなることが好ましい。
【0079】
複合体形成手順は、B/F分離を行わないホモジニアスな方法で行っても、不溶性担体を用いてB/F分離を行うヘテロジニアスな方法で行ってもどちらでもよい。
【0080】
ホモジニアスな方法で行う場合は、例えば以下の手順により実施することができる。
〔方法1〕
(i)被検試料と、(不溶性担体に固定化されていない)遊離のBC2LCNレクチンと、(不溶性担体に固定化されていない)遊離のR−10G抗体とを接触させて、BC2LCNレクチンと試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとR−10G抗体との複合体を形成させ、
(ii)該複合体の量を測定し、
(iii)得られた該複合体の量に基づいて、試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc量を測定する。
【0081】
〔方法2〕
(i)被検試料と、(不溶性担体に固定化されていない)遊離のBC2LCNレクチンとを接触させて、試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとBC2LCNレクチンとの複合体−1を形成させ、次いで
(ii)該複合体−1と(不溶性担体に固定化されていない)遊離のR−10G抗体とを接触させて、BC2LCNレクチンと試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとR−10G抗体との複合体−2とを形成させ、次いで
(iii)該複合体−2の量を測定し、
(iv)得られた該複合体−2の量に基づいて、試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc量を測定する。
【0082】
〔方法3〕
(i)試料と、遊離のBC2LCNレクチンと、標識物質で標識した遊離のR−10G抗体とを接触させて、BC2LCNレクチンと試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcと標識R−10G抗体との複合体を形成させ、
(ii)該複合体中の標識物質量を測定し、
(iii)得られた標識物質量に基づいて、試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc量を測定する。
【0083】
〔方法4〕
(i)試料と遊離のBC2LCNレクチンとを接触させて、試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとBC2LCNレクチンとの複合体−1を形成させ、次いで
(ii)該複合体−1と、標識物質で標識した遊離の標識R−10G抗体とを接触させて、複合体−1と標識R−10G抗体との複合体−2を形成させ、次いで
(iii)該複合体−2中の標識物質量を測定し、
(iv)得られた標識物質量に基づいて、試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcを測定する。
【0084】
被検試料の量、及びこれらと反応させるレクチン及び抗体の量(濃度)は、細胞の種類、要求される測定感度、用いる測定方法や測定装置などに応じて適宜設定される。
【0085】
不溶性担体を用いてB/F分離を行う方法は、例えば、不溶性担体に結合したBC2LCNレクチンと、不溶性担体に結合していないR−10G抗体と、被検試料とを接触させて複合体を形成させることにより行われる。
より具体的には、B/F分離を行う方法は、被検試料と、不溶性担体に結合したBC2LCNレクチンとを接触させて、BC2LCNレクチンとFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとから構成される第一の複合体を得る第一手順と、第一の複合体と遊離のR−10G抗体とを接触させて、BC2LCNレクチンとFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとR−10G抗体とから構成される第二の複合体を得る第二手順と、によって行われる。
【0086】
B/F分離のための不溶性担体には、スライドグラス、ELISAプレート、磁気ビーズ、フィルター、フィルム、メンブレンなど、通常のタンパク質固定化法に用いられる基材を使用できる。基材の材料には、通常、ガラス、シリコン、ポリカーボネート、ポリスチレン又はポリウレタンなどが用いられる。
【0087】
レクチンを不溶性担体に固定化させる方法は、特に限定されず、化学的結合法(共有結合により固定化する方法)、物理的に吸着させる方法などの公知の方法を適用できる。アビジン−ビオチン反応のような非常に強固な結合反応を利用してレクチンを不溶性担体に固定化することも可能である。この場合、レクチンにビオチンを結合したビオチン化レクチンを、ストレプトアビジンをコーティングしたストレプトアビジンプレートに固定化すればよい。また、この分野で通常使用される各種リンカーを介して、レクチンを不溶性担体に固定化させてもよい。
【0088】
不溶性担体を用いてB/F分離を行う方法では、被検試料と不溶性担体に固定化されたBC2LCNレクチンとを反応させる第一手順の後、第一の複合体と遊離のR−10G抗体とを反応させる第二手順を行う前に、固相表面上から不要な物質を除去するための洗浄手順を含んでもよい。また、第二手順の後、検出手順を行う前にも、洗浄手順を含んでもよい。洗浄手順によって、固相表面上から試料中の夾雑物や未反応のR−10G抗体を除去し、第二の複合体のみを固相表面上に分離できる。
【0089】
B/F分離を行わない方法では、BC2LCNレクチンとFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとR−10G抗体との複合体を分離するための方法として、例えばクロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法、例えばLiBASys(島津製作所株式会社製)等の自動免疫分析装置を用いた方法等を適用できる。
その具体的な条件は、自体公知の方法に準ずればよい。例えばHPLCを用いて分離する場合、Anal.Chem.65,5,613−616(1993)や特開平9−301995号に記載の方法に準じて行えばよく、キャピラリー電気泳動法を用いる場合には、J.Chromatogr. 593 253−258 (1992)、Anal.Chem. 64 1926−1932 (1992)、WO2007/027495等に記載の方法に準じて行えばよい。また、自動免疫分析装置として例えばLiBASysを用いる場合、生物試料分析22巻4号303−308(1999)に記載されている方法に準じて行えばよい。
【0090】
検出手順は、標識物質を用いてBC2LCNレクチンとFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとR−10G抗体とから構成される第二の複合体を検出することにより行うことができる。標識物質としては、例えば、通常の免疫測定法等において用いられる酵素類、放射性同位元素、蛍光性物質、発光性物質、DNA、RNA、補酵素又は補酵素と特異的に結合するもの(ビオチン、アビジン)、タグ、紫外部〜赤外部に吸収を有する物質、発色性微粒子、蛍光性微粒子、金属性微粒子、磁性物質、スピンラベル化剤としての性質を有する物質など、通常この分野で用いられている標識物質が挙げられる。
【0091】
標識物質をBC2LCNレクチン及び/又はR−10G抗体、好ましくはR−10G抗体に結合させるには、例えば、通常の免疫測定法等において行われている標識方法を適宜利用して行えばよい。また、1個又は数個のアミノ酸を介して、又は1個又は数個のアミノ酸とリンカーを介して、抗体に標識物質を結合させる方法も採用できる。さらに、標識物質をタンパク質に結合させるキットも各種市販されているので、それらを用い、キットに添付の取扱説明書に従って標識を行ってもよい。
【0092】
例えば、不溶性担体に固定化したBC2LCNレクチンと、標識物質として西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を標識した遊離のR−10G抗体とを用いてB/F分離を行う方法は、概略以下の通りである。
【0093】
被検試料を、BC2LCNレクチンを固定化した不溶性担体に接触させ、4〜40℃で3分〜20時間、反応を行って、固相表面上にBC2LCNレクチンとFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcとの第一の複合体を生成させる。次に、HRPで標識したR−10G抗体を含有する溶液を固相表面上に加え4〜40℃で3分〜16時間反応させて、固定化BC2LCNレクチン−Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc−標識R−10G抗体の第二の複合体を生成させる。続いて、適当な濃度のTMB(3,3’5,5’−テトラメチルベンジジン)溶液を添加し、一定時間反応させる。その後、1M硫酸等の反応停止液を加えて反応を停止させ、450nmの吸光度を測定する。得られた測定値と、予め濃度既知のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcの溶液について同様の測定を行って得た検量線とから、被検試料中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc((式1)又は(式2)で表される糖鎖)の量を求めることができる。
【0094】
また、例えばAlexa Fluor−488 tetrafluorophenyl ester等で標識したBC2LCNレクチンと、例えばAlexa Fluor−647 succinimidyl ester等で標識したR−10G抗体を用い、公知の蛍光相互相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy, FCCS)に従って(式1)又は上記(式2)で表される糖鎖を測定することもできる。
【0095】
また、「BC2LCNレクチン−Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc−R−10G抗体」の複合体の検出は、標識物質を用いることなく、例えば複合体に由来する性質を利用して測定する方法、具体的には表面プラズモン共鳴などのホモジニアスイムノアッセイ系等の方法によっても行うことが可能である。
【0096】
なお、本発明に係るレクチン‐抗体サンドイッチ法は、用手法に限らず、自動分析装置を用いた測定系に適用して容易かつ迅速に測定を行うこともできる。用手法又は自動分析装置を用いて測定を行う場合の試薬類等の組み合わせなどについては、特に制限はなく、適用する自動分析装置の環境や機種に合わせて、あるいは他の要因を考慮に入れて最もよいと思われる試薬類等の組み合わせを選択して用いればよい。さらに、本発明に係るレクチン‐抗体サンドイッチ法は、Micro−TAS(Micro−Total Analysis Systems:μ−TAS、μ総合分析システム)への応用も可能である。
【0097】
上記した体液試料を用いた具体的な測定方法は、本発明のがん細胞の検出方法に於いても用いることができる。
【0098】
<悪性度の判定>
がんの悪性度の判定の場合、被験個体の被検試料で測定されたBC2LCN陽性糖鎖発現量が、健常人又は悪性度の低いがん患者と比較して高レベルであるとき、被験個体のがんの悪性度が高いと判定する。被験個体のBC2LCN陽性糖鎖の発現量を測定する際に、健常人又は悪性度の低いがん患者のBC2LCN陽性糖鎖の発現量をコントロールとして測定し、比較してもよい。また、あらかじめ健常人又は悪性度の低いがん患者の被検試料中のBC2LCN陽性糖鎖の発現量を測定しておき、発現量のカットオフ値を定め、被験個体の被検試料中のBC2LCN陽性糖鎖の発現量がカットオフ値を超えた場合に、該被験個体のがんの悪性度が高いと判断することができる。この際、被検試料が細胞試料の場合、BC2LCN陽性糖鎖の発現量は、BC2LCN陽性糖鎖を発現している細胞の割合で表してもよい。BC2LCNは、特異的にがん細胞を検出することができ、特に悪性度の高いがん細胞との結合活性が高いから、がんの早期の段階での検出、及び悪性度の評価が可能である。本発明は、被験個体ががん、特に悪性度の高いがんに罹患しているかどうかを判断するための検査方法でもあり、被験個体ががん、特に悪性度の高いがんに罹患しているかどうかを判断するためのデータを収集する方法も包含する。
【0099】
<治療方法の決定>
がんに罹患している被験個体のBC2LCN陽性糖鎖の発現量により、がんの治療効果を判定することもできる。例えば、被験個体のBC2LCN陽性糖鎖の発現量に応じて、化学療法、後述する本発明のBC2LCN−毒素製剤治療を組み合わせた併用療法、外科的療法等の治療方法を決定することができる。
【0100】
例えば、BC2LCN陽性糖鎖の発現量が低い場合、抗がん剤の奏効を期待して化学療法を選択することができ、一方、発現量が高い場合は、悪性度が高く化学療法での延命効果は低いと判断することができ、BC2LCN−毒素製剤治療を組み合わせた併用療法を選択するか、又は疼痛緩和ケアを選択することができる。がん患者の被検試料中のBC2LCN陽性糖鎖の発現量を定期的に測定することにより、その都度適切な治療方法を決定することができる。本発明は、がんに罹患している被験個体の治療方法を選択するための検査方法でもあり、がんに罹患している被験個体の治療方法を選択するためのデータを収集する方法も包含する。
【0101】
<予後・治療効果の判定>
膵がんなどがんに罹患している被験個体の被検試料で測定したBC2LCN陽性糖鎖の発現量により、患者の予後を判定できる。例えば、BC2LCN陽性糖鎖の発現量が高い場合に、予後が不良であると評価することができる。本発明は、被験個体の予後を予測するための検査方法でもあり、被験個体の予後を予測するためのデータを収集する方法も包含する。
また、がんに罹患している被験個体に、手術などの外科的治療、抗がん剤治療などの化学的、免疫学的治療、放射線治療などが施された場合に、治療前の被検試料と治療後の被検試料とのBC2LCN陽性糖鎖の発現量の差異を観察することで、施された治療の治療効果の有効性を判定することができる。
【0102】
6.がん細胞内への物質導入試薬
(6−1)BC2LCNレクチンの細胞内移行能
本発明者らは、以前、BC2LCNレクチンが未分化細胞表面のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc又は当該糖鎖を含有する膜タンパク質もしくは脂質への結合を介して未分化細胞内に移行すること、さらにこの際BC2LCNに融合させた化合物が未分化細胞内に導入されることを確認した。そして、BC2LCNレクチンに、細胞内で毒性を発揮する毒素を融合させた「BC2LCN−毒素」薬剤が、ヒトiPS/ES細胞由来移植用細胞に残存するヒトiPS/ES細胞のみを特異的にかつ効率的に除去できることを見いだした(特許文献19)。
【0103】
本発明では、新たに、BC2LCNレクチンと細胞殺傷性毒素との融合タンパク質がin vitro及びin vivoにおいて、BC2LCN陽性がん細胞を非常に効率よく殺傷し、顕著な抗腫瘍効果を示すことが見出された(実施例参照)。
in vitroにおけるがん細胞障害活性に加えて、in vivoにおける抗腫瘍効果を示すは、臨床応用の面で有利な効果である。なぜなら、in vivoにおいては、正常組織への副作用や、プロテアーゼなどにより速やかに分解除去されてしまうなどの課題が存在するためである。
がん細胞への特異性及び親和性に優れたBC2LCNレクチンに毒素又はその細胞殺傷能力のあるドメインを融合させた融合タンパク質により、がん細胞を処理することでがん細胞を特異的かつ効率的に殺傷できる。
【0104】
(6−2)融合可能な毒素について
本発明のがん細胞殺傷剤としては、特許文献19に記載の「BC2LCN−毒素」融合体を用いることができる。
ここで、本発明の「BC2LCN−毒素」融合体というときの「毒素」は、がん細胞の内部で毒性を発揮する物質の総称として用いられており、毒素タンパク質や毒性低分子化合物及びRNAi物質、アンチセンス核酸、リボザイムなどの細胞障害性の核酸などの他、シクロフォスミドやドセタキセル、又はGEMなど既知の抗がん剤も含まれる。毒素タンパク質は、細胞毒性を有するタンパク質、糖タンパク質、ペプチドなどを示し、「毒性低分子化合物」というとき、抗生物質、色素など、毒素タンパク質及び核酸以外の毒性化合物の全てを含む。
これら毒素のうち、「BC2LCN」に融合させた「BC2LCN−毒素融合体」としてがん細胞に作用させた場合に、がん細胞内で細胞障害・殺傷機能を発揮できる毒素、特に細胞内でのタンパク質合成阻害作用を有するタンパク質毒素、RNAi物質などの核酸類、もしくは低分子化合物毒素が好ましい。また一般に、タンパク質合成阻害作用を有する毒素は、細胞表面に特異的レセプターを有しているため、野生型の全長毒素タンパク質を用いると、BC2LCNとの融合体としても無差別的に正常細胞に対しても細胞毒性を発揮する可能性があり、大きな副作用が予測される。したがって、あらかじめ毒素タンパク質からレセプター結合ドメインを削除するか、又はタンパク質への変異導入など、毒素タンパク質細胞表面の特異的レセプターへの結合性を失わせる工夫をすることが好ましい。このような改変方法は、当業者にとって周知である。例えば、Pseudomonas aeruginosaが産生する外毒素である緑膿菌毒素(PE)の場合、PEレセプターへの結合部位を有し、正常細胞と結合活性のあるドメインI領域を遺伝子レベルで除去したPE改変体が知られている(非特許文献8)。
【0105】
BC2LCNレクチンに予想される高次構造への影響をできるだけ少なくし、かつ大きな細胞殺傷効果が期待できる細胞殺傷能力のあるドメインを用いることが好ましい。このようなドメインとして緑膿菌の外毒素A(exotoxin A)由来の細胞殺傷ドメイン(ETA)領域を利用した、「BC2LCN−ETA」融合体が好ましく用いられる。具体的には、先の特許文献19の記載に従い、緑膿菌の外毒素A(PDB登録番号:1XK9)のうち殺傷能力のあるドメイン領域(「ETA」)に対応するアミノ酸配列をコードする遺伝子を適宜大腸菌などの宿主に対して最適化し、スペーサー配列などで繋いで「BC2LCN−ETA(配列番号2)」などを設計でき、形質転換した宿主から大量生産することができる。その際、当該細胞殺傷ドメイン領域中の長さは適宜調製し、細胞殺傷活性の高い配列を選択することができる。例えば、本発明の実施例で用いた「BC2LCN−ETA(PE23)」融合体は、前記細胞殺傷ドメイン(ETA)領域の部分領域23 kDa(「ETA(PE23)」)を「GSGGG」の2回繰り返し配列をリンカーとしてBC2LCNと結合させ(配列番号2)、C末端にER保留シグナル(配列番号6)を結合するように設計されており、以前に本発明者らにより未分化細胞除去剤としても用いられた(特許文献19、非特許文献1)。さらに、本実施例では、前記細胞殺傷ドメイン領域の38kDa部分(PE38)(配列番号3)を
図1のように直接ペプチド結合させた「BC2LCN−ETA(PE38)」融合体を調製して膵がん細胞殺傷剤として用いている。
BC2LCN−PE38は、従来のBC2LCN−ETA(PE23)に比べて100倍以上もの驚くべき殺傷効果を示す。「BC2LCN−ETA(BC2LCN−PE23)」は、細胞殺傷能力のあるドメインとして、ETAの触媒ドメイン(domainIII)のみからなる23 kDaのドメイン(PE23)を用い、ペプチドリンカーによってBC2LCNと結合させた融合タンパク質である。「BC2LCN−PE38」は、domainII及びdomainIbも含む38 kDaのドメイン領域(PE38)を用い、ペプチド結合によってBC2LCNと結合させた融合タンパク質である。リンカー配列は、Gly−Ser−Gly−Gly−Glyの2回繰り返し配列である(配列番号2)。
融合タンパク質化した「BC2LCN−ETA」がBC2LCNレクチンとほぼ同じ糖鎖結合特性を保持していること、及び「BC2LCN− ETA」が、BC2LCNレクチンと同様に、正常なヒト分化細胞には全く影響を与えないことが確認されている(特許文献19、非特許文献9)。
【0106】
本発明においてBC2LCNレクチンと融合させることができる他の各種毒素タンパク質の塩基配列、アミノ酸配列も商用データベースから取得できる。具体的には、ジフテリアトキシン(PDB登録番号:1MDT)、リシン(PDB登録番号:2AAI)、サポリン(PDB登録番号:3HIS)、コレラトキシン(PDB登録番号:1XTC)、エンテロトキシン(PDB登録番号:1LTH)、百日咳毒素(PDB登録番号:1PRT)などがある。これら毒素タンパク質全長でなくても、その細胞殺傷能力のあるドメイン領域を含んでいればよい。なお、タンパク質毒素ではない場合でも、リンカーまたはスペーサーを結合することができる毒素化合物であれば、同様に用いることができる。
【0107】
(6−3)融合方法
BC2LCNレクチンとがん細胞内に輸送しようとする標的物質とを融合させる方法としては、化学的な方法と遺伝子レベルで連結する方法とがあり、化学的な方法の場合には共有結合の他にビオチン−ストレプトアビジン結合などがある。また、FITCなどの低分子化合物の場合は、BC2LCNとの通常の化学反応により、BC2LCNの表面の官能基(水酸基、アミノ基など)に対してランダムに共有結合、水素結合などの結合様式により結合し、BC2LCN融合体を形成できる。
【0108】
たとえば、BC2LCNレクチンと毒素との融合法は、共有結合による融合体化が好ましく、低分子化合物も含めて一般的な手法として二価性架橋剤などの化学的な結合方法を用いることができ、siRNAなどRNAi物質を結合させる場合は、ビオチン−ストレプトアビジン結合、もしくはBC2LCNレクチンと正電荷を帯びたDNA結合性ペプチド(例えば、プロタミン由来のArgリッチなクラスター配列;Winkler J,et al,Mol Cancer Ther. 2009 Sep;8(9):2674−83)との融合タンパク質などを用いる。
一方、RNAiなどの核酸は、通常マイナス電荷を帯びているため、同様にマイナスに荷電しているがん細胞表面に直接接しないように、BC2LCNレクチンと正電荷を帯びたDNA結合ペプチドとからなる融合タンパク質と核酸との間で予めコンプレックスを形成させるなどの工夫を行うことが好ましい。
【0109】
毒素がタンパク質毒素の場合は、遺伝子レベルで結合することが好ましく、その際には両遺伝子を、直接、又は一般的なDNAリンカーを用い、周知の方法により繋ぐことができる。
BC2LCNレクチンを毒素とスペーサー配列を介して融合タンパク質化した際にも、BC2LCNレクチンの多量体形成能や結合特性が変化しないことは以前に確認している(特許文献19)。遺伝子レベルで結合させた毒素融合タンパク質は、ロット間差のない、均一なタンパク質として調製することが可能なため、安定供給可能ながん細胞除去剤として特に期待される。コンジュゲート法として、ビオチン−ストレプトアビジン系などを用いて後からBC2LCNレクチンに毒素を連結させることもできるが、手間もかかる上に、BC2LCNレクチンにランダムに毒素が導入されることになるために、ロット間差も発生し、均一なタンパク質としての調製が困難であるという課題もある。したがって、化学的結合の場合も、遺伝子レベルで結合させた毒素融合タンパク質のように、BC2LCNレクチンと毒素との共有結合による融合体形成が望ましい。
【0110】
(6−4)リンカーまたはスペーサー
本発明では、BC2LCNレクチンに対してがん細胞内に輸送して働かせたい化合物を融合する際に、リンカー(クロスリンカー)またはスペーサー(スペーサー配列)を用いることができる。BC2LCNレクチン本来のがん細胞特異的な結合機能及び侵入機能と、輸送対象化合物本来の機能とのそれぞれを最大限発揮するために、両者の間には一定の距離を保つことが好ましいため、適当な長さのリンカー/スペーサーを介して結合させることが好ましい。適当な長さのリンカー/スペーサーは当業者には周知であって、適宜合成でき、各種市販もされている。
本発明で用いられるペプチド結合のためのスペーサー配列としては、ペプチド結合可能なアミノ酸残基数4〜10のアミノ酸配列からなる周知のスペーサー配列が用いられ、1〜3回の繰り返し配列として用いる。典型的には、「GSGGG(配列番号4)」、「GGGS(配列番号5)」などの高次構造を形成しないグリシン及び/又はセリンから構成されるアミノ酸配列が好ましく用いられる。例えば、がん細胞内に毒素タンパク質を輸送する際に、BC2LCNレクチン及びそれと融合する毒素又はその細胞殺傷能力のあるドメインを、これらのスペーサー配列を介してペプチド結合させることで、両者間に充分な距離を保つことができ、それぞれの糖鎖結合能力及び細胞殺傷能力を最大限発揮させることができる。
【0111】
また、本発明で化学結合によりコンジュゲートする際にも上記ペプチドリンカーを用いても良いが、好ましいリンカーとしては、ポリエチレングリコール、特に好ましくは還元剤で切断が可能なチオール基を導入したチオールリンカーなどがある。
低分子毒素化合物を結合させるためには二価性架橋剤などの化学的な結合剤が用いられる場合が多いので、これら結合剤由来のリンカーによりBC2LCNレクチンと低分子毒素化合物が繋がれることになる。
本発明のBC2LCNレクチンを、siRNA、miRNAなどのRNAi物質など核酸を細胞内に導入するために用いる場合には、BC2LCNと直接的に結合されるのは、核酸ではなく正電荷を帯びたDNA結合ペプチドなどの核酸キャリアであることが一般的であるため、BC2LCNレクチンと核酸キャリアとの間の適切な距離を保つために適宜リンカー/スペーサーを用いることがある。
【0112】
また、融合体を形成する際に、毒素の側にがん細胞内での輸送したい小器官への輸送シグナルを結合させておくことで、さらに効率的に望みの小器官へ導くことができる(例えば、
図1のC末端側の小胞体保留シグナルに相当する「KDEL(配列番号6)」配列など)。RNAi物質など輸送対象物質を核内までに輸送する必要がある場合には、核移行シグナルを用いることが有効である。
さらに、BC2LCNレクチンとの融合体の状態でも十分にその毒性が発揮できる場合は不要であるが、毒素タンパク質を輸送先で切り離したい場合には、細胞内プロテアーゼによる切断部位を入れておくことで、融合体として輸送していた化合物を細胞内で適宜切り離すことができる。切断部位の導入法は当業者には周知である。例えば、塩基性アミノ酸標的配列(標準的には、Arg−X−(Arg/Lys)−Arg)を入れておけば、furinというCa2+依存的膜貫通セリンエンドプロテアーゼによって切断される(Weldon JE,et al.,FEBS J. 2011 Dec;278(23):4683−700.)。DNAまたはRNAi物質などの核酸を未分化細胞内に導入する場合は、BC2LCNレクチンに結合されたArgクラスターなどの正電荷物質との電荷電荷相互作用で形成されたコンプレックスの状態で導入すれば、がん細胞の細胞内に到達後には速やかに分離する。
【0113】
(6−5)BC2LCN−毒素タンパク質の製造方法
BC2LCN含有発現ベクターのBC2LCN遺伝子の5’もしくは3’末端側にETA由来のDomainI〜III(PE38)遺伝子などの毒素遺伝子を、必要に応じてスペーサーを介して導入することにより毒素融合BC2LCNタンパク質発現ベクターを構築する。次に、発現ベクターをコンピーテントセルに形質転換する。そして、形質転換した大腸菌などの宿主を常法により液体培養して、毒素融合BC2LCNタンパク質を発現誘導する。
【0114】
(6−6)毒素融合BC2LCNタンパク質の精製方法及び確認方法
大腸菌内で発現誘導した毒素融合BC2LCNタンパク質は、通常のタンパク質精製方法を適用して精製することができるが、フコース固定化カラムに供して、アフィニティークロマトグラフィーで精製することが好ましい。得られた毒素融合BC2LCNタンパク質の精製度は電気泳動やゲル濾過等で確認することができる。
【0115】
(6−7)BC2LCN−PE38及びその調製方法について
本発明の実施例で用いたBC2LCN−PE38は、
図1に示す通り、BC2LCNレクチン(配列番号1)にETAのDomainI〜DomainIIIで構成される38kDaからなる細胞殺傷能力のあるドメイン(配列番号3)をペプチド結合させ、C末端にHISタグと小胞体移行シグナル(KDEL)を付加した融合タンパク質である。
具体的な調製方法は、特許文献19に記載された方法と同様である。
【0116】
(6−8)がん細胞殺傷剤(in vitro系での使用)
本発明においては、前記のように調製された「BC2LCN−毒素」融合体を、培養がん細胞に対して、又は生体外に取り出したがん細胞又は組織に対して用い、がん細胞を特異的に殺傷することができる。
本発明のがん細胞殺傷剤を用いて標的とするがん細胞を殺傷する場合、in vitroの系であれば、培地中に終濃度10〜100μg/mlになるように添加し、24〜48時間培養すればがん細胞のみを死滅させることができる。
【0117】
7.抗がん剤(がんの処置及び治療用組成物)
本発明の「BC2LCN−毒素」融合体は、単独で又は既知の抗がん剤と併用して、もしくは組み合わせて、膵がん、大腸がん、胃がんなどの消化器系がんの他、肺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなどの各種上皮性がん、脳腫瘍などの他の悪性腫瘍、悪性肉腫に処置及び治療剤として用いることができる。とりわけ悪性度の高いがんの処置及び治療剤として用いることができる。
本発明の処置及び治療剤は、がん細胞、特に薬剤耐性がん細胞などがん幹細胞を含む悪性度の高いがん細胞を死滅、もしくは減少させることができる上に、正常な臓器細胞に対しては毒性が極めて低いことから、腫瘍の根本的な治療剤となり得る。
すなわち、本発明の「BC2LCN−毒素」融合体を抗がん剤として用いる場合には、がん幹細胞に対する殺傷能力も期待できるから、再発予防効果が高く、治療の予後も改善できる。
また、特に薬剤耐性がん細胞などがん幹細胞を含む悪性度の高いがん細胞に対する殺傷効果が大きいことから、既知の抗がん剤と組み合わせて用いることも有効である。既知の抗がん剤治療を受け、薬剤耐性のために治療を断念した患者に対して適用することができる可能性も高い。BC2LCNレクチンと結合させて「BC2LCN−毒素」融合体を形成させる毒素として既知の抗がん剤を用いることも有効である。
本発明の悪性度の高いがんの処置及び治療剤は、さらに薬理学的に許容される担体、賦形剤、または助剤などを含む医薬組成物として投与することが好ましい。その際に用いる薬理学的に許容される担体などは、当業者にとって既知である。投与時期と回数及び投与量も、がんの腫瘍の状態、症状の重軽、患者の状態等によって適宜決められる。
【0118】
以下、典型的な悪性度の高いがんである膵がんについて述べるが、大腸がん、胃がんなどの他の消化器系がん、さらには肺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなどの一般的な上皮性がん、脳腫瘍などの他の悪性腫瘍、悪性肉腫についても同様である。
本発明のBC2LCN−毒素タンパク質は、単独又は既知の抗がん剤と組み合わせて膵がんの処置及び治療剤として用いることができる。
本発明の膵がんの処置及び治療剤は、膵がん細胞、特に薬剤耐性がん細胞を死滅、もしくは減少させることができる上に、正常な膵臓細胞に対してはほとんど毒性を有さないことから、膵がんの根本的な治療剤となり得る。
また、膵がん細胞のうちでも特に薬剤耐性がん細胞に対する殺傷効果が大きいことから、既知の膵がん用の抗がん剤と組み合わせて用いることも有効である。既知の抗がん剤治療を受け、薬剤耐性のために治療を断念した患者に対して適用することが特に有効である。さらに、外科手術後の腹腔内に直接投与することで、目視で確認できない膵がん細胞までも確実に殺傷できるから、予後の再発防止効果を高めることができる。
本発明の膵がんの処置及び治療剤は、さらに薬理学的に許容される担体、賦形剤、または助剤などを含む医薬組成物として投与されることが好ましい。
【0119】
本発明の膵がんの処置及び治療剤の投与方法は、静脈内投与、皮内投与、皮下投与などの非経口投与が適用され、直接腹腔内に投与することが最も効果が高い。
投与時期と回数は、膵がんの腫瘍の状態、症状の重軽、患者の状態等によって適宜決められる。例えば、1時間〜10週間の範囲内で、1回で全て投与しても数回に分けて投与しても良いが、これに限るものでもない。
投与量も、腫瘍の状態、症状の重軽、患者の状態等によって、安全性と有効性の観点から適宜決められる。例えば、10〜250μg/体重kgの投与量で投与することが出来るが、この範囲に限るものでもない。
本発明は主としてヒトを対象としているが、ヒトに限られるものではなく、サルなど霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、マウスなどの齧歯類など広く哺乳動物の膵がん腫瘍を対象とする。
【0120】
膵がんの処置及び治療用医薬組成物を、静脈内投与などの非経口投与に適用するために用いられる薬理学的に許容される担体などは当業者にとって既知であり、例えば注射用蒸留水、生理食塩水溶液、グリセリン、プロピレングリコールなどの無菌希釈剤;ベンジルアルコールなどの抗菌剤;アスコルビン酸等の抗酸化剤;エチレンジアミンテトラ酢酸等のキレート剤;リン酸等の緩衝剤;および塩化ナトリウムまたはDグルコース等の等張化剤、pH調整液などを適宜用いることができる。
【0121】
本発明の膵がんの処置及び治療剤は、既知の膵がん用として認可されている抗がん剤と組み合わせて用いることができる。その際、他の抗がん剤と併用したがん治療用医薬組成物として用いてもよいが、他の抗がん剤の投与時期及び/又は投与形態を合わせる必要は無く、異なる投与時期及び投与形態の投与方法を選択しても良い。
特に、本発明の抗がん剤との組み合わせ効果が期待できる抗がん剤は、本発明の実施例で用いたGEM製剤であるがこれに限られず、TS−1やエルロチニブなど種々の抗がん剤、免疫製剤(分子標的薬、抗体薬を含む)、症状の緩和のための各種薬剤を用いることができる。例えば、膵がん以外の消化器系がん又は乳がん、前立腺がん、婦人科系がんなどの上皮がんの場合であれば、代謝拮抗薬(5−FU、メトトレキサート)、アルキル化薬(シクロフォスミド)、タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)などの抗がん剤、及び各種分子標的薬、抗体医薬との併用が好ましい。
【0122】
8.がん細胞特異的な細胞内輸送システムのその他の利用
毒素や標識用色素化合物以外の、例えば核酸や生理活性タンパク質、脂質、低分子化合物など、特許文献19に例示されている毒素以外の種々の化合物を、BC2LCNと融合させてがん細胞に作用させることで、細胞内に効率良く輸送することができ、それぞれの本来の機能を発揮できる。その際の融合方法としては、上記(6−3)(6−4)などに記載の方法が適用できる。
つまり、本発明には、BC2LCNレクチンに対して、種々の化合物をがん細胞特異的に細胞内に輸送するためのキャリア(細胞内導入剤)として働かせ、BC2LCNレクチンをキャリアとして用いるがん細胞特異的な細胞内輸送システムとしての用途がある。上述のがん細胞殺傷剤、抗がん剤としての利用は、そのメカニズムの1つの利用形態であると位置づけることもできる。
【実施例】
【0123】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
また、本発明で用いた臨床膵がん細胞は、発明者らの所属する臨床機関である筑波大でインフォームド・コンセント受けた患者に由来し、かつ倫理審査を受け、承認されている。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0124】
[実施例1:BC2LCNレクチンのがん細胞及びがん組織への結合活性の評価]
(実施例1−1)各種がん細胞株の細胞染色
各種がん細胞株へのBC2LCNレクチンの結合活性を免疫組織化学的に評価した。
本実験で用いた乳腺がん細胞(MCF7株)、乳管がん細胞(T−47D株)、乳腺髄様がん細胞(MDA−MB−157株)、メラノーマ細胞(SK−MEL−28株)、前立腺がん細胞株(DU−145株、LNaCap株、PC−3株)はATCCから分譲を受け、ATCCの培養法により培養した。胎児肺繊維芽細胞(TIG3株)は西村らの培養法(Nishimura K,et al. J Biol Chem. 2011 Feb 11;286(6):4760−71.)により培養した。
細胞は4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄した後、蛍光ラベル化(FITCを結合)したBC2LCNを加えて室温で1時間反応させた。
【0125】
蛍光ラベル化されたBC2LCNは2種類の乳がん細胞(MCF7株、T−47D株)を強く染色するが(
図2A a, b)、別の乳がん細胞(MDA−MB−157株)、前立腺細胞株(DU−145株、LNaCap株、PC−3株)メラノーマ細胞(SK−MEL−28株)及び胎児肺繊維芽細胞(TIG3株)においては、強い染色は検出されなかった(
図2A c,d
図2B e−h)。また、T47−D株の染色性はまばらであった(
図2A b)。
【0126】
上記実験は細胞を破砕せずに行っているため、BC2LCNレクチンが認識している糖鎖構造の「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc」は、乳がん細胞で大量に発現している糖タンパク質及び糖脂質の構成糖として、細胞表面を覆うように存在していることが窺われる。BC2LCNレクチンが認識している糖鎖構造は細胞表面に存在することから、がん細胞の有無の判定用のキットとしての高い有用性を有していることが実証された。
【0127】
(実施例1−2)各種がん細胞株のHilyte Fluor
TM 647ラベル化BC2LCNレクチンを用いたフローサイトメトリー解析
さらに、各種がん細胞株へのBC2LCNレクチンの結合活性をフローサイトメトリーを用いて評価した。
実施例1で用いた細胞株に加えて、本実験で用いた皮膚繊維芽細胞(HDF株)はATCCから分譲を受け、ATCCの培養法により培養した。脂肪由来間葉系幹細胞株(ADSC株)はlifetechnologies社から購入し、付属のマニュアルに従い培養した。多能性幹細胞株(201B7株)は理化学研究所バイオリソースセンターから分譲を受け、Stemcell Technologies社のmTeSR1の培養法により培養した。上述の細胞を酵素処理して解離し、蛍光ラベル化した(HiLyte Fluor 647を結合した)BC2LCNレクチンを1μg/mlの濃度で反応させて、FACS機器を用いてフローサイトメトリー解析を行った。
【0128】
その結果、MCF7株、T−47D株はヒトiPS細胞と同様に強い染色性を持った細胞集団であることが判明した(
図3)。また、
図2の細胞染色ではシグナルを検出できなかったMDA−MB−157株、DU−145株、LNaCap株、PC−3株も一部BC2LCN染色性の細胞を含むことが明らかになった。また、SK−MEL−28株(メラノーマ細胞)は、HDF株(皮膚繊維芽細胞株)、ADSC株(脂肪由来間葉系幹細胞株)と同様に、殆ど検出されなかった。
【0129】
(実施例1−3)各種がん細胞の細胞膜タンパク質画分を用いたレクチンアレイ解析
MCF7株、DU−145株、LNaCap株、PC−3株、SK−MEL−28株からCelLytic
TM MEM Protein Extraction Kit (Sigma)を用いて、マニュアルに従って細胞膜タンパク質画分を抽出し、それらに対してレクチンアレイ(非特許文献2)を用いてBC2LCNの反応性を解析した。
【0130】
その結果、細胞染色、フローサイトメトリー解析において強いシグナルが検出されたMCF7株において、BC2LCNレクチンの強い結合性が検出された(
図4)。これより、BC2LCNレクチンの結合ターゲットとなるがん細胞表面抗原は、糖タンパク質であることが示された。
【0131】
(実施例1−4)BC2LCNレクチンのヒトがん組織に対する結合
各種がん組織へのBC2LCNレクチンの結合活性を免疫組織化学的に評価した。
Cybdri社より購入したヒトがん組織アレイ(CC08−10−001U, CC17−00−001)及びProvitro社より購入したヒトがん組織アレイ(401 2204)に対して、HRPラベルしたBC2LCNを処理することにより、ヒトがん組織におけるBC2LCNレクチン認識部位を解析した。
【0132】
その結果、乳がん(
図5A)及び肺がん(
図5B)で、BC2LCNレクチンに染色される細胞群が存在することが明らかになった。BC2LCN陽性細胞は、腫瘍(
図5C)の一部分においても存在した。
【0133】
(実施例1−5)ヒト臨床膵がん(検体番号1)腫瘍部位のBC2LCNレクチン染色
臨床サンプルを用いて、がん組織へのBC2LCNレクチンの結合活性を免疫組織化学的に評価した。
膵がん患者(検体番号1)〜(検体番号3)から摘出した腫瘍をそれぞれホルマリン固定し、パラフィン包埋後、組織切片を作製した。得られた各組織切片を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識BC2LCNレクチンで染色して、ヘマトキシリン/エオシン染色した後、その組織像を顕微鏡観察した。
【0134】
その結果、ヒト臨床膵がん(検体番号1)〜(検体番号3)いずれもがん細胞がHRP標識BC2LCNレクチンで強く染色されることが分かり、特に腺管構造部位が強く染色されること、及び周辺の正常膵臓細胞部位は全く染色されないことがわかった(
図6〜8)。
【0135】
(実施例1−6)ヒト臨床大腸がん腫瘍部位のBC2LCNレクチン染色
臨床サンプルを用いて、がん組織へのBC2LCNレクチンの結合活性を免疫組織化学的に評価した。
大腸がん患者から摘出した腫瘍をそれぞれホルマリン固定し、パラフィン包埋後、組織切片を作製した。得られた各組織切片を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識BC2LCNレクチンで染色して、ヘマトキシリン/エオシン染色した後、その組織像を顕微鏡観察した。
【0136】
その結果、がん細胞の周辺の正常細胞部位は全く染色されないのに対して、ヒト臨床大腸がん細胞部位全体に亘り一応の染色は見られるものの、大腸がんの核が濃縮されている低分化ながん細胞部位は強く染色され、核の極性が保たれている分化度が高い部位は比較的弱く染色された(
図9)。当該低分化部位は、がん幹細胞(Cancer Stem Cell)に相当する部位であると解される。
【0137】
(実施例1−7)標識BC2LCNレクチンを用いた各種臨床がん組織アレイの染色
臨床サンプルを用いて、がん組織細胞へのBC2LCNレクチンの結合活性を免疫組織化学的に評価した。
(1−7−1)胃がん、大腸がん、乳腺がん、肝臓がん、膵がん、胆管がん、肺がん由来組織切片の染色
筑波大学附属病院で採取したFFPE組織検体(倫理委員会承認済)の胃がん、大腸がん、乳腺がん、肝臓がん、膵がん、胆管がん、肺がん由来の組織切片の癌部、非癌部を打ち抜き組織アレイを作成し、HRP標識したBC2LCNレクチンを用いて染色した。Controlとして、対応する臓器の正常組織切片も同様に染色した。
【0138】
その結果、正常組織とと比較して明確に染色されたのが、胃がん、大腸がん、膵がん、胆管がん由来組織及び肺がんのうちの腺がん由来組織であり、乳腺がん、肝臓がん由来組織及び肺がんのうちの扁平上皮がんと大細胞がん由来組織はほとんど染色されなかった(
図10A)。
【0139】
(1−7−2)子宮体がん、子宮頸がん、前立腺がん、腎がん膀胱がん、精巣がん、卵巣がん、内分泌系がん、他臓器がんの染色
筑波大学附属病院で採取したFFPE組織検体(倫理員会承認済)の子宮体がん、子宮頸がん、前立腺がん、腎がん膀胱がん、精巣がん、卵巣がん、内分泌系がん、他臓器がん(肝芽腫、悪性中皮腫、骨肉腫、膠芽腫、膵内分泌腫瘍、転移性乳がん、転移性子宮がん)由来組織切片を打ち抜き組織アレイを作成し、HRP標識したBC2LCNレクチンを用いて染色した。Controlとして、対応する臓器の正常組織切片も同様に染色した。
【0140】
その結果、正常組織と比較して明確に染色されたのが、子宮体がん及び子宮頸がんのうちの腺がん由来組織、並びに卵巣がんのうちの胎児性がん及び卵黄性腫瘍由来組織である。一方、子宮頸がんのうちでも扁平上皮がん由来組織、及び卵巣がんのうちのセミノーマ由来組織、並びに前立腺がん、腎がん膀胱がん、精巣がん、内分泌性がん、及び他臓器がん由来組織(転移肉腫)はほとんど染色されなかった(
図10B)。
【0141】
(実施例1−8)ヒトがん組織アレイにおけるBC2LCNレクチン結合部位の病理組織学的検査
各種がん組織細胞へのBC2LCNレクチンの結合活性を免疫組織化学的に評価した。
Cybdri社より購入したヒトがん組織アレイ(CC08−10−001U:乳がん, CC17−00−001:脳腫瘍)及びProvitro社より購入したヒトがん組織アレイ(401 2204:肺がん)に対して、HRPラベルしたBC2LCNレクチンを処理することにより、ヒトがん組織におけるBC2LCN認識部位を染色した。その上で、がん組織アレイの切片中において、がん細胞が染色されているかどうかを明らかにするために、株式会社新組織科学研究所に受託し、病理組織学的検査を行った。
【0142】
その結果、乳がん組織アレイのうち、線維腺腫、浸潤性乳管がん、浸潤性小葉がんの細胞膜及び細胞質で染色されていることが確認された。また、線維腺腫の切片においては、管腔側でも強染色も検出された(
図11A)。また、肺がん組織アレイのうち、肺小細胞がん、一部の肺扁平上皮がん、肺腺がんの細胞膜及び細胞質で染色されていることが確認された(
図11B)。さらに、脳腫瘍組織アレイのうち、星状細胞腫、乏突起神経膠腫、上衣芽腫、髄芽腫の細胞膜及び細胞質で、混合型髄膜腫、微小嚢胞性髄膜腫の細胞質で染色されていることが確認された(
図11C)。図中の組み写真はすべて左側が低倍率、右側が左の写真の一部を拡大したものである。
【0143】
(実施例1−9)BC2LCNレクチンのヒト正常組織に対する結合
比較のため、正常組織へのBC2LCNレクチンの結合活性を評価した。
Provitro社より購入したヒト正常組織アレイ(401 1110)に対して、HRPラベルしたBC2LCNレクチンを処理することにより、ヒト正常組織におけるBC2LCNレクチン認識部位を解析した。
【0144】
その結果、正常な乳房、肺、脳組織、前立腺、子宮、甲状腺、副甲状腺、肝臓、卵巣、リンパ節等の組織においてはBC2LCNレクチンが染色性を殆ど示さないことを明らかにした(
図12)。がんの疑いがある被験個体より採取した生検サンプルに於いて、一部の正常組織と、がん細胞含有組織とを見分けるためにBC2LCNレクチンを利用できることが明らかとなった。
【0145】
[実施例2:BC2LCN陽性がん細胞の悪性度の評価]
(実施例2−1)前立腺がん細胞株(PC−3)のBC2LCNレクチンによるソート及び接着培養
上述の通りBC2LCNレクチンが特定のがん組織に対して染色性を示したが、細胞株/組織の染色性には強弱が観察された。前立腺がん細胞株(PC−3)(非特許文献7)をセルソーターによりBC2LCN高染色細胞群(以下BC2LCN+群)とBC2LCN低染色細胞群(以下BC2LCN−群)とに分離し、増殖速度、形態及び遺伝子発現を解析した。まず、BC2LCN+群とBC2LCN−群の接着培養下での増殖能を評価した。
前立腺がん細胞株(PC−3株)を培養し、蛍光ラベル化した(HiLyte Fluor 647を結合した)BC2LCNレクチンを1μg/mlの濃度で反応させ、FACS機器を用いてBC2LCN+群とBC2LCN−群とにソートした(
図13A)。ソート後の細胞をそれぞれ6x10
4細胞ずつ播種し、培養した。
【0146】
その結果、BC2LCN+群とBC2LCN−群では、細胞の形態に大きな違いが観察された(
図13B)。4日間の培養後細胞数を計測したところ、足場が有る限りはBC2LCN−群の方が、増殖性が高かった(
図13C)。本実験はBC2LCN+群とBC2LCN−群それぞれ4ウェルずつ培養している。その検証を独立して3回繰り返して行うことで、平均値、標準偏差を算出している。
【0147】
(実施例2−2)前立腺がん細胞株(PC−3)のBC2LCNレクチンによるソート及び足場非依存性培養
BC2LCN陽性がん細胞とBC2LCN陰性がん細胞の足場非依存性増殖能を評価した。
前立腺がん細胞株(PC−3株)を実施例2−1と同様の方法で培養及びソートし、BC2LCN+群とBC2LCN−群とをそれぞれ、軟寒天コロニー形成試験に供し、がん細胞の悪性度を表す主要要因の一つである「足場非依存性増殖能」の有無を検討した。
軟寒天コロニー形成のための細胞培養及び細胞数の測定は、Cell Biolab社より購入した「CytoSelect
TM 96−well 悪性形質転換アッセイ〜軟寒天コロニー形成試験キット〜」を用いた(http://www.cosmobio.co.jp/product/detail/products_cbl_20060613.asp?entry_id=7330)。
【0148】
培養開始7日後に細胞増殖像を比較したところ、BC2LCN+群の方が足場非依存的に細胞増殖出来ることが観察された(
図14A)。具体的には、BC2LCN−群では、播種した状態のまま殆ど分裂せず、単細胞のまま浮いているのに対し、BC2LCN+群では分裂し、10数個の細胞からなるクラスターを形成している。引き続き培養を続け、培養開始14日後に上記のキットを用いて、細胞数を比色により定量化したところ、BC2LCN+群の方が、優位に足場非依存的に細胞増殖していた(
図14B)。本実験はBC2LCN+群とBC2LCN−群それぞれ3ウェルずつ培養している。その検証を独立して3回繰り返して行うことで、平均値、標準偏差を算出している。BC2LCNを用いて、高い足場非依存性増殖能を有する高悪性度がん細胞を検出、濃縮できることが明らかとなった。
【0149】
(実施例2−3)前立腺がん細胞株(PC−3)のBC2LCNレクチンによるソート及びがん幹細胞マーカーの発現解析
BC2LCN陽性がん細胞におけるがん幹細胞マーカーの発現を解析した。
前立腺がん細胞株(PC−3株)を実施例2−1と同様の方法で培養及びソートし、BC2LCN+群とBC2LCN−群からそれぞれRNAを抽出し、cDNAマイクロアレイ(SurePrint G3 Human GE マイクロアレイキット 8x60K(Agilent))で網羅的な遺伝子発現の解析を行った(
図15A)。
【0150】
その結果、BC2LCN−群と比べてBC2LCN+群ではEPCAM(非特許文献4)、ERBB2(非特許文献7)といった既知のがん幹細胞マーカーが高発現していた(
図15B)。BC2LCN陽性の高悪性度がん細胞は、がん幹細胞の特性を備えるものであった。すなわち、BC2LCNレクチンは、創薬/治療のターゲットとして最も価値の高い、「がん幹細胞を選択的に検出、分離することが出来る唯一の進歩的なマーカーであることが明らかになった。
【0151】
[実施例3:BC2LCN−ETAのがん細胞障害活性の評価]
(実施例3−1)各種がん細胞株、繊維芽細胞株に対するBC2LCN−ETAの殺傷効果
乳腺がん細胞(MCF7株)、乳管がん細胞(T−47D株)、乳腺髄様がん細胞(MDA−MB−157株)、メラノーマ細胞(SK−MEL−28株)、前立腺がん細胞株(DU−145株、LNaCap株、PC−3株)を培養した。胎児肺繊維芽細胞(TIG3株)は西村らの培養法(Nishimura K,et al. J Biol Chem. 2011 Feb 11;286(6):4760−71.)により培養した。BC2LCN−ETAを終濃度0.1 mg/mlになるように培養液に添加し、培養中のがん細胞株及び繊維芽細胞株と反応させた。BC2LCN−ETA添加の24, 48, 72時間後に、LIVE/DEAD Cell Imaging Kit (488/570)(Life Technologies社)を用いて、各種細胞の生死判定を行った。
【0152】
その結果、BC2LCN陽性細胞を含むMCF7株(
図16A)、T−47D株(
図16B)、MDA−MB−157株(
図16C)、DU−145株(
図16D)、LNaCap株(
図16E)、PC−3株(
図16F)では殺傷された細胞が観察されたが、BC2LCN陽性細胞を含まないTIG3株(
図16G)、SK−MEL−28株(
図16H)では観察されなかった。
【0153】
BC2LCN−ETAが正常な細胞には全く影響を与えないことから、BC2LCN−ETAの細胞障害活性効果は、がん細胞特異的であると解される。
【0154】
(実施例3−2)FITC標識BC2LCNレクチンの乳がん細胞MCF−7株への内在化
乳腺がん細胞(MCF7株)を培養した。MCF7株の培養液中に、FITC標識BC2LCNレクチンを1 μg/mLの濃度で添加し、37℃で2時間反応させ、反応直後(2時間)、48時間後に、励起光を照射して顕微鏡で位相差観察した。
【0155】
FITC標識BC2LCNレクチンを含まない新しい培地に交換した直後では細胞表面が鮮明に染色されている(
図17、左上)。48時間後には、細胞内に明確にドット状の染色が観察され(左下)、FITC標識BC2LCNレクチンが細胞内に取り込まれていることがわかった。FITC標識BSAを1 μg/mLの濃度で添加した場合は同様の観察はなされず、がん細胞表面に結合したBC2LCNレクチンが特異的に細胞内に取り込まれることが証明された。
【0156】
一般的にレクチン類は、細胞表面の特定の糖鎖を認識する場合には、細胞表面の糖鎖に特異的に結合した状態で観察されているものの、認識した糖鎖を介して細胞内へ侵入する現象はほとんど知られていない。ETAと融合した「BC2LCNレクチン」ががん細胞内に侵入する現象は予想外であり、「BC2LCNレクチン」の特性として、がん細胞表面の「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAc」に特異的に結合する作用と共に、結合後に糖鎖を介してがん細胞内に侵入する能力も有していると考えられた。
毒素や標識用色素化合物以外の、例えば核酸や生理活性タンパク質、低分子化合物など、特許文献19に例示されている毒素以外の種々の化合物を、BC2LCNレクチンと融合させてがん細胞に作用させることで、がん細胞内に効率良く輸送することができ、それぞれの本来の機能を発揮できることが示唆された。
【0157】
[実施例4:BC2LCNレクチンの膵がん細胞への結合活性の詳細評価]
(実施例4−1)6種の膵がん細胞株のマウス異種移植片の形成されたがん細胞の形態
悪性度の高いがんにおける有効な診断方法及び治療方法の開発のため、悪性度の高いがんとして典型的な膵がんを選択し、以下の手順で実験を行った。
代表的な6種の膵がん細胞株(AsPC−1、BxPC−3、Capan−1、MIApaca−2、PANC−1、SUIT−2)をマウス皮下に3.0×10
6細胞/マウスで移植した。移植後14日間経過後、腫瘍部分を摘出し、ホルマリン固定後、パラフィン包埋して、ミクロトーム(大和光機(YAMATO KOHKI)製リトラトーム REM−700)で5μm厚の組織切片を作製して、使用まで室温保存した。脱パラフィン処理後、ヘマトキシリン/エオシン(Cat#032−14635、WAKO)染色して、組織像を光学顕微鏡(KEYENCE社製:BZ9000)で観察した。
【0158】
その結果、Capan−1のみが管腔構造(腺管)を形成し、典型的な腺がん様形態を示すことが分かった(
図18)。一方で、他の5種の細胞株では管腔構造は観察されず、臨床膵がん細胞に類似の形態は示さなかった。以上から、6種の膵がん細胞株のうち、Capan−1は最も臨床膵がんに近い特徴的な形態形成能を有することが分かった。
【0159】
(実施例4−2)高密度レクチンマイクロアレイで得られたBC2LCNレクチンの6種の膵がん細胞への反応強度
Capan−1に特異的に反応するレクチンを高密度レクチンアレイで探索した。6種の膵がん細胞株からCelLytic
TM MEM Protein Extraction Kit(Sigma社、CE0050)で疎水性分画を調製し、Cy3−NHS(GEヘルスケアジャパン、PA13104)で標識化後、高密度レクチンマイクロアレイに供し、エバネッセント波蛍光型スキャナー(GlycoStation
TM Reader 1200、グライコテクニカ社製)で検出した。得られた結果をArray−Pro Analyzer(Media Cybernetics社製)で数値化した。得られた数値を用いて、腺管形成能を有するCapan−1と他の5種の細胞株の2群に分けて、この2群間で顕著に異なるレクチンをStudent’s t−testで統計的に抽出した。
【0160】
その結果、BC2LCNレクチンはp=9.44E−17を示し、2群間で最も顕著に異なるレクチンとして抽出された。BC2LCNレクチンの膵がん細胞株への結合強度を
図19に示す。BC2LCNレクチンはCapan−1に対して最も強い反応性を示した。
【0161】
(実施例4−3)フローサイトメトリーによる6種の膵がん細胞株へのBC2LCNレクチンの結合
1×10
5個の膵がん細胞株を1 μg/mLのR−Phycoerythrin Labeling Kit − NH2(PE、Dojindo社製、LK23)標識BC2LCNで氷上で1時間反応後、BD FACSCantoIIフローサイトメーター(BD Biosciences社製)で解析した。
【0162】
得られたmean fluorescence intensity (MFI)をグラフ化した結果を
図20に示す。高密度レクチンマイクロアレイでの解析と同様、BC2LCNレクチンはCapan−1に最も強い反応性を示すことが分かった。
【0163】
(実施例4−4)Capan−1移植マウスモデル腫瘍部位のBC2LCNレクチン染色
Capan−1(3.0×10
6個)をヌードマウス(BALB/c nunu メス 6週)に皮下移植して14日後に腫瘍を摘出し、ホルマリン固定、パラフィン包埋後、組織切片を作製した。得られた組織切片を脱パラフィン処理、抗原賦活化、ペルオキシダーゼ不活化、ブロッキング後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、Cat#: LK11、Dojindo)標識BC2LCNレクチンで室温1時間反応させた。その後、ヒストファイン DAB 基質キット (Nichirei、425011)で発色させ、ヘマトキシリン/エオシン(WAKO社製)で染色した後、その組織像を顕微鏡(KEYENCE社:BZ9000)で観察した。
【0164】
その結果、形成された腫瘍のうちでも腺がん様形態を示す管腔部位が強く染色されることと共に、周辺の正常細胞は全く染色されないことが分かった(
図21)。
【0165】
(実施例4−5)ヒト膵がん移植マウスモデル(PC−3系統)腫瘍部位のBC2LCNレクチン染色
ヒト臨床膵がん腫瘍を2mm角に細断し、SCIDマウス(C.B−17/Icr−scid/scidメス 6週、クレアファーム)に皮下移植したヒト膵がん移植マウスモデル(PC−3系統、継代数7〜10))を移植28日後に腫瘍を摘出し、ホルマリン固定、パラフィン包埋後、組織切片を作製した。得られた組織切片を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識BC2LCNで染色して、ヘマトキシリン/エオシン染色した後、その組織像を顕微鏡観察した。
【0166】
その結果、実施例4−4の場合と同様に、形成された腫瘍のうち腺がん様形態を示す管腔形成部位が強く染色され、周辺の正常細胞は全く染色されないことが分かった(
図22)。
【0167】
(実施例4−6)塩酸ゲムシタビン(GEM)処理後のヒト膵がん移植マウスモデル(PC−3系統)腫瘍部位へのBC2LCNレクチン染色
膵がんは、再発性が高く、標準治療薬である塩酸ゲムシタビン(GEM)で治療しても、膵がんの増殖と転移を完全に抑えることができないことが問題となっており、GEM耐性がん細胞に対する抗がん剤の開発が切望されている。そこで、ヒト膵がんマウス移植モデル(PC−3系統)に対し、GEMの投与量を変えて残存する薬剤耐性の膵がん細胞へのBC2LCNレクチンの反応性を検証した。
実施例4−5で用いたと同様に、ヒト臨床膵がん細胞を皮下移植したヒト膵がん移植マウスモデル(PC−3系統、継代数7〜10)の移植10日目に50mg及び100 mgの塩酸ゲムシタビン(ジェムザール注射用(Eli Lilly Japan K.K. Lot.C177339CA))を3日おきに計4回尾静脈投与14日後に腫瘍を摘出し、ホルマリン固定、パラフィン包埋後、組織切片を作製した。得られた組織切片を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識BC2LCNレクチンで染色して、ヘマトキシリン/エオシン染色した後、その組織像を顕微鏡観察した。
【0168】
その結果、GEM処理後に残存する腫瘍も、BC2LCNレクチンで強く染色され、しかもGEM処理後に残存した抗がん耐性細胞での染色がより強まることが分かった(
図23)。この結果から、BC2LCNレクチンはGEM耐性膵がん細胞を標的化するための良いプローブとであることが分かった。
【0169】
[実施例5:BC2LCN−PE38のがん細胞障害性の評価]
(実施例5−1)BC2LCN−PE38の調製
BC2LCN−PE38(
図1に記載のタンパク質)を設計して、pET27b(Stratagene社)に組み込み、Escherichia coli BL21 CodonPlus(DE3)−RIL株(Stratagene社、#230245)に導入した。形質転換体を10μg/mLのカナマイシンを加えた5mLのLB培地に縣濁して一晩培養した。前培養した培養液5mLを1LのLB培地に添加して培養を行い、2−3時間後に(OD
600)が0.4前後になったときに1M IPTG(Fermentus社、#R−0392)1mLを最終濃度1mMになるように添加した。20℃で24時間、振盪培養した後、遠心分離で菌体を回収し、バッファーに縣濁して超音波処理を行い、タンパク質可溶性画分を抽出した。大腸菌のタンパク質可溶性画分に対して、Matsumotoらの方法(Matsumoto I,Mizuno Y,Seno N. (1979) J Biochem. Apr;85(4):1091−8.)により市販セファロース(GE Healthcare社製)にフコースを共有結合させることにより作製したフコースセファロースカラムによるアフィニティー精製を行い、0.2Mフコースで溶出した。
精製度を確認するため、素通り(T)、洗浄1回目(W1)、洗浄2回目(W2)、洗浄3回目(W3)、フコース溶出1回目(E1)、フコース溶出2回目(E2)、フコース溶出3回目(E3)の各画分をSDS−PAGE電気泳動法にて確認した(
図24)。溶出1回目の画分において、約70 kDa付近に単一バンドを確認することができたが、この分子量は、精製BC2LCN−PE38単量体に相当する。精製したBC2LCN−PE38を2−メルカプトエタノール(2−ME)存在/非存在下で95℃5分処理有り/なしでサンプル調製して、SDS−PAGEを行い、クマシーブリリアントブルー染色を行った(
図24)。その結果、いずれの条件でも約56kDaの単一バンドとして精製BC2LCN−PE38を確認することができた。
【0170】
(実施例5−2)BC2LCN−PE38のCapan−1の殺傷効果
Capan−1の培養液にBC2LCN−PE38を異なる濃度で添加して、48時間培養後、Capan−1の生細胞数をCell Counting Kit−8(Cat#: CK−04、Dojindo)で測定して、OD
450を測定した。
【0171】
その結果、BC2LCN−PE38の濃度依存的にCapan−1が死滅し、100 pg/mLの濃度でほぼ完全にCapan−1を死滅することが分かった(
図25)。
【0172】
(実施例5−3)Capan−1移植マウスモデルにおけるBC2LCN−PE38のがん細胞殺傷効果
(5−3−1)腫瘍体積の変化
Capan−1(3.0×10
6個)をヌードマウス(BALB/c nunu メス 6週)に皮下移植し、14日後腫瘍を確認し、短径、長径を測定し、(短径)
2×(長径)/2で体積を求めた。大きさが均一になるように3群(Contorol群、1μg/body、10μg/body)に群分け(各群n=6)した。BC2LCN−PE38をPBSで希釈し1μg/100μl、10μg/100μlの溶液を作成し、Day1より3日おきに計4回、1μg/body、10μg/bodyをそれぞれ腫瘍近傍の皮下に局所注射した。
【0173】
10μg/body群では2回投与により著明な腫瘍縮小が得られ、腫瘍が判別できなくなったため、2回のみの投与とした。腫瘍体積を同様の方法で連日測定し、継時的に観察したところ、Control群に対し、1μg/body群、10μg/body群ともに明らかな腫瘍縮小効果が認められ、10μg/body投与群では特に著明な効果を示した(
図26)。
【0174】
(5−3−2)マウスの体重変化と腫瘍重量の変化
14日の腫瘍体積観察の後、マウスの体重を測定した。BC2LCN−PE38 1μg/body計4回投群では、Control群と比較してマウスの体重に有意差はなく、個体の活動も良好であり全身状態は保たれていた。一方、10μg/body計2回投与群では、6匹中2匹がday14に死亡し、残りの4匹の体重はControl群と比較し減少が見られた(
図27A)。また腫瘍を摘出し、それぞれの腫瘍の重量を測定したところ、1μg群、10μg群ともに有意に減少しており、肉眼的にも著明な縮小を認めていることがわかった(
図27B、C)。
【0175】
(5−3−3)摘出腫瘍の病理観察
摘出した腫瘍をホルマリン固定、パラフィン包埋後、組織切片を作製した。得られた組織切片をヘマトキシリン/エオシン染色した後、その組織像を顕微鏡観察した。すると1μg投与群では腫瘍は縮小しているものの、Capan−1の特徴的な腺管構造を有するがん細胞が遺残していることがわかった。10μg投与群では腺管構造を有するがん細胞は消失し、リンパ球などの炎症細胞浸潤が見られるのみで、がん細胞が完全に消滅したことがわかった(
図28)。
【0176】
(実施例5−4)PDXマウスモデルにおけるBC2LCN−PE38のがん細胞殺傷効果
(5−4−1)腫瘍体積の変化
膵がん患者から摘出したがん組織小片を免疫不全マウス(NOD/SCID)に皮下移植し、21日後腫瘍を確認し、短径、長径を測定し、(短径)
2×(長径)/2で体積を求めた。大きさが均一になるように3群(Control群、40ng/mouse、1μg/mouse、1μg/mouse(腹腔投与i.p.))に群分け(各群n=5)た。BC2LCN−PE38をPBSで希釈し1μg/100μl、5μg/100μlの溶液を作成し、Day1より2日おきに計5回、1μg/body、5μg/bodyをそれぞれ腫瘍近傍の皮下に局所注射した。
【0177】
移植する腫瘍細胞数が定量できなかったためばらつきは大きかったものの、1μg/body群及び5μg/body群のそれぞれで、顕著な腫瘍縮小が観測された(1μg;P=0.011, 5μg=P<0.001)。腫瘍体積を同様の方法で連日測定し、継時的に観察したところ、Control群に対し、1μg/body群、5μg/body群ともに用量依存的に明らかな腫瘍縮小効果が認められ、5μg/body投与群では特に著明な効果を示した(
図29A)。更にBC2LCN−PE38 1μgを300μlのPBSに溶解し、同様に腹腔投与による腫瘍縮小効果を確認したところ、腹腔投与においても同量(1μg)の局所投与と同等の効果が得られた(
図29A)。
BC2LCN−PE38計5回投与後Day30に腫瘍を摘出し、腫瘍重量を計測した。腫瘍を摘出し、それぞれの腫瘍の重量を測定したところ、1μg群、5μg群ともに有意に減少しており、肉眼的にも著明な縮小を認めていることがわかった(
図29A,C)。また、BC2LCN−PE38 1μg腹腔投与による検討でも局所投与と同等の抗腫瘍効果を確認できた(
図29C)。
【0178】
(5−4−2)マウスの体重変化(全身への影響)
21日の腫瘍体積観察の後、マウスの体重を測定した。BC2LCN−PE38 1μg/body、及び5μg/body計5回投群では、Control群と比較してマウスの体重に有意差はなく(
図29D)、個体の活動も良好であり全身状態は保たれていた。
【0179】
(実施例5−5)Capan−1移植マウス又はSUIT−2移植マウスにおけるBC2LCN−PE38の抗腫瘍効果
実施例4−1〜実施例4−3でみたように、BC2LCNは膵がん細胞株のうちでも、Capan−1株への反応性がSUIT−2株などと比較して顕著に高い。本実施例では、これら2種類の膵がん細胞株をヌードマウス腹腔内に移植した場合の増殖がん細胞に対して、BC2LCN−PE38の抗腫瘍効果を比較する。
【0180】
(5−5−1)BC2LCN−PE38の腹腔内投与における抗腫瘍効果
ヌードマウス腹腔内に膵癌細胞株(Capan−1またはSUIT−2)を2×10
6個移植し、14日目に犠牲死させ、消化管を摘出し、播種を観察すると腸間膜の辺縁に乳白色の播種結節の形成を認めた(
図30A)。同様にヌードマウス20匹に腹膜播種を作成し、14日目にランダムに4群(Control: 0g, BC2LCN単独1μg, BC2LCN−PE38 40ng, BC2LCN−PE38 1μg)に分け、300μlのPBSで希釈したBC2LCN−PE38を40ng、1μg、2μg/mouse、計4回投与した(14、18、22、26日)。膵癌細胞株腹腔内移植後30日経過後に、犠牲死とし、開腹し消化管を摘出、回盲部から2cmの位置で小腸を4cmの扇形に開き270°の範囲の播種個数を計測した(
図30C)(各群N=4)。
【0181】
その結果、BC2LCNに高い反応性を有するCapan−1では播種個数がBC2LCN−PE38の容量依存的に減少し、1μg投与下にはほぼ完全に消失させることに成功した。一方、SUIT−2では抗腫瘍効果は確認できなかった(
図30B,D)。また、BC2LCNレクチン単独ではいずれの細胞株においても抗腫瘍効果は確認できなかった。
【0182】
(5−5−2)BC2LCN−PE38の抗腫瘍効果:播種性転移モデルの組織片の染色
治療後の腸間膜に残存する微小播種巣を確認する為、腸間膜を全腸管に渡り摘出し、HE染色で、腫瘍を確認した。BC2LCN−PE38 1μg投与群においては残存する腫瘍は確認できなかった。またControl群の腹膜播種腫瘍をHRP標識したBC2LCNを用いたレクチン染色を行うと、腹腔面に露出する形で癌細胞特異的に特異的な染色が確認された(
図31)。
【0183】
(実施例5−6)BC2LCN−PE38の血中投与(尾注)投与による抗腫瘍効果
実施例5−5−1では、ヌードマウス腹腔内に膵癌細胞株(Capan−1)を2×10
6個移植した場合の14日目の消化管での観察結果では腸間膜の辺縁に乳白色の播種結節の形成が認められた(
図30A)。実施例5−5−1と同様にヌードマウス20匹に腹膜播種を作成し、14日目にランダムに以下のように5群に分けた。腹腔投与群(Control: 0g, BC2LCN単独1μg, BC2LCN−PE38 40ng, BC2LCN−PE38 1μg)、血中投与群(BC2LCN−PE38 1μg)とし、各群n=10とした。実施例5−5−1と同様に計4回の治療後に、Capan−1移植から30日目に腸間膜の播種を観察した。
【0184】
Control群、BC2LCN単独群、BC2LCN−PE38 40ng群では腫瘍が確認されたが、BC2LCN−PE38 1μg投与群では血中および腹腔投与いずれも腫瘍が消失していた(
図32A)。また、全身状態、腹水貯留が治療群で大幅に改善しており、播種後45日目の体重では有意に治療群で増加していた(腹腔投与群;P=0.00059, 血中投与群;P=0.00052, vs Control群)(
図32B,C)。
【0185】
マウスの全生存期間(中央値)は、Control群で62日、40ng腹腔投与群では65日で、統計学的に有意ではないものの(Log−Rank検定)、延長する傾向にあった。1μg血中投与群及び1μg腹腔投与群では、それぞれ90日、105日といずれも有意に生存期間の延長を確認できた(P<0.0001, Log−Rank検定)。
【0186】
(実施例5−7)毒性実験
野生型マウス(C57BJ/6J 6週メス)に、BC2LCN−PE38をPBSで希釈して1μg/mouse〜15μg/mouse腹腔内に1回単回投与し、14日間観察し致死率を計測した(各群N=10)。Control群として、同量のBC2LCNを投与したが、rBC2LC単独では毒性が無く死亡するマウスは確認できなかった。結果、半数致死量(LD50)は、7.144μg/mouse(357.2μg/kg)であり、最低致死量は5μg/mouse(250μg/kg)であった(
図33)。
【0187】
BC2LCN−PE38は、in vivoの系でも、生存に影響を与えることなく膵がん細胞のみを殺傷除去する効果が検証できたので、抗がん剤として有効である。しかも、BC2LCNレクチンは、薬剤耐性がん細胞への結合活性が高いという知見からみて、BC2LCN−PE38の殺傷効果も薬剤耐性がん細胞又はがん幹細胞に対してより強く働くことが期待できるから、特に、薬剤耐性がん患者への治療のため、又は既知の抗がん剤と組み合わせて用いるためのがん治療用組成物としての用途が期待できる。
【0188】
[実施例6:培養上清あるいは被検個体体液試料を用いたがん細胞の検出]
(実施例6−1)培養上清を用いたがん細胞の検出
ビオチン化rBC2LCNを0.3ug/mLの濃度でアビジンプレート(住友ベークライト社製)に固定化した。Capan−1の培養上清をプレートに反応させた後、1 ug/mLのペルオキシダーゼで標識したR−10G抗体(和光純薬工業社製)を反応させて、450 nmの吸光度を測定した。コントロールには、細胞培養に供していない培地を用いた。
【0189】
結果、Capan−1の培養上清では、コントロールと比べて優位に高いシグナルが検出され、Capan−1の培養上清中でFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcが検出されることが明らかとなった(
図34参照)。これにより、細胞の培養上清を用いて、該細胞中に含まれるがん細胞を検出できることが明らかとなった。
【0190】
(実施例6−2)がん移植マウスの血清を用いたがんの検出
ビオチン化rBC2LCNを0.3 ug/mLの濃度でアビジンプレート(住友ベークライト社製)に固定化した。コントロールマウス血清とCapan−1移植マウスモデルの血清を段階希釈してプレートに反応させた後、1 ug/mLのペルオキシダーゼで標識したR−10G抗体(和光純薬工業社製)を反応させて、450 nmの吸光度を測定した。コントロールには、正常マウスの血清を用いた。
【0191】
結果、コントロールマウス血清では反応性が確認されなかったものの、Capan−1移植マウスモデル血清では高いシグナルが検出され、がん移植マウスの血清中でFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcが検出されることが明らかとなった(
図35参照)。これにより、がん罹患個体の血清を用いて、生体内のがんを検出できることが明らかとなった。
【0192】
(実施例6−3)がん患者の血清を用いたがんの検出
ビオチン化rBC2LCNを0.3 ug/mLの濃度でアビジンプレート(住友ベークライト社製)に固定化した。肝外胆管がん患者2名からがん摘出手術の前後に血清を採取した。血清をPBSで10倍希釈してプレートに反応させた後、1 ug/mLのペルオキシダーゼで標識したR−10G抗体(和光純薬工業社製)を反応させて、450 nmの吸光度を測定した。
【0193】
2名の患者の結果をそれぞれ
図36,
図37に示す。いずれの患者においても手術前に採取した血清では高いシグナルが検出されたが、がん摘出後の血清では顕著なシグナル強度の減少が確認された。術後の顕著なシグナル強度の減少はがんの摘出に起因するものと考えらえる。シグナル強度は術後徐々に上昇する傾向が認められ、摘出しきれずに残存したがんが再度進展している可能性が考えられた。これらの結果は、がん罹患個体の血清を用いて生体内のがんを検出できることを支持するものであり、治療前後のシグナル強度の比較によって治療の有効性を判定できることを示すものである。
【0194】
さらに、同様にして、各種がん患者のがん摘出術後(患者ID:150424006881のみ術前)の血清中のFucα1−2Galβ1−3GlcNAc/GalNAcの検出を行った。コントロールには、緩衝液(PBS)を用いた。
【0195】
その結果、試験を行った肝外胆管がん、胃がん、食道がん、大腸がん(結腸がん、直腸がん)の患者血清で高いシグナルが検出された。大腸がん患者での結果を
図38に示す。図横軸の「PBS」はコントロールの吸光度を示し、番号は患者IDを示す。大腸がんの臨床所見は各患者で均一ではないものの、術後患者の多くでで依然として有意なシグナルが検出されている。