特許第6795829号(P6795829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795829検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795829
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/52 20060101AFI20201119BHJP
   G01N 31/22 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   G01N33/52 C
   G01N33/52 B
   G01N31/22 121G
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-70713(P2016-70713)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-181365(P2017-181365A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】石井 和之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 順也
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−097860(JP,A)
【文献】 特開平02−221860(JP,A)
【文献】 特開2006−045491(JP,A)
【文献】 特開2010−241794(JP,A)
【文献】 山崎順也、他1名,色素ラジカルを用いたレドックス活性物質検出法の開発,配位化合物の光化学討論会講演要旨集,日本,2015年 8月 7日,27th,Page.168-169
【文献】 山崎順也、他1名,発色性安定ラジカルを用いた抗酸化物質分析法の開発,電子スピンサイエンス学会年会講演要旨集,日本,2015年11月 2日,54th,Page.210-211
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 31/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体からなる固定相を備え、かつ前記固定相が、(1)移動相を供給する領域;(2)検体を添加する領域;及び(3)検体中の抗酸化物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域を備え、かつ前記領域1、2及び3が移動相の移動方向に沿って直列に配置される、検体中の抗酸化物質を定量分析するための装置であって、多孔質担体が、比表面積が10〜1000m2/gのシリカゲル又はアルミナである、装置
【請求項2】
酸化物質がビタミンC又はポリフェノールである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
発色性試薬が、可視領域に光吸収があり、抗酸化物質と接触することにより色が変化する発色性安定ラジカルである、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
発色性安定ラジカルが、フタロシアニン二層型希土類錯体、ニトロニルニトロキシドラジカル又はジフェニルピクリルヒドラジルである、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
多孔質担体への発色性試薬の担持量が、担体の表面積1cm2当り1×10−10〜1×10−2molである、請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
多孔質担体が基材に固定又は容器に保持されている、請求項1〜5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
検体中の抗酸化物質の定量方法であって、
(A1) 抗酸化物質を含む、又は抗酸化物質を含むと考えられる検体を準備する工程;
(B1) 前記検体を、請求項1〜6のいずれかに記載の装置にチャージし、前記抗酸化物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域内を移動させる工程;及び
(C1) 前記領域の色が変化した面積を測定することにより、検体中の抗酸化物質を定量する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置、及び前記装置を用いる検体中の被検物質の検出又は定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化ストレスが、アテローム動脈硬化症、パーキンソン病、狭心症、心筋梗塞、アルツハイマー病、統合失調症などの種々の疾患において重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。酸化ストレスは、生体内における活性酸素種(ヒドロキシドラジカル、スーパーオキシドアニオンラジカル等)と抗酸化システムとのバランスが崩れた状態と定義されるが、活性酸素種を除去し、酸化ストレスの上昇を防止する物質として、抗酸化物質への関心が高まっている。抗酸化物質は、例えば、野菜・果物をはじめとする抗酸化物質を含む食品やサプリメント等により摂取できる。
【0003】
ビタミンC(アスコルビン酸)は、水溶性ビタミンの一種であり、広く植物界に分布し、特に果物類、緑黄色野菜類等に多く含まれている。またビタミンCは、抗酸化物質であるため、抗酸化ビタミンとして、又は食品添加物である酸化防止剤として、加工・健康食品等への添加が広く行なわれている。
【0004】
食品又は生体由来試料中のビタミンCの検出法及び定量法としては、例えば、HPLC法、ヒドラジン比色法及びインドフェノール法等が従来から用いられている。その他、アスコルビン酸酸化酵素の存在下、還元型アスコルビン酸と酸素から酸化型アスコルビン酸と過酸化水素を生成する反応と、生成した過酸化水素と色源体とをペルオキシダーゼの存在下に反応させて色素を生成する反応とを同一反応系で行わせ、生成する色素を定量することによって試料中のアスコルビン酸を定量する方法(例えば、特許文献1参照)や、ビタミンCを含む試料にo−フェニレンジアミンを加え、この試料に偏光性をもたせた励起光を照射し、これにより生じる蛍光の偏光度を測定し、その測定値に基づきビタミンCを定量する方法(例えば、特許文献2参照)などが報告されている。しかしながら、これらの定量法には、前処理などの操作が煩雑である、定量に多くの時間を要するなどの問題点が依然として存在する。
【0005】
また、2015年、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が大筋合意に至り、今後、海外から野菜・果物類の輸入が増加することが予想される。しかしながら、野菜・果物類に含まれる抗酸化物質量は、収穫後時間と共に減少することが知られている。したがって、輸入品と国内生産品との差別化をその抗酸化物質の含量の点から図るため、生産・出荷・販売の現場において抗酸化物質量を定量又は半定量できる、簡便な手段に対する需要が高まると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4073963号
【特許文献2】特開平11−326207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、煩雑な操作が無く、短時間で結果を得ることが可能な、検体中の被検物質(特に、抗酸化物質)を検出又は定量分析するための装置、及び前記装置を用いる検体中の被検物質(特に、抗酸化物質)の検出又は定量方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発色は、可視領域に光吸収があり、明所において目視にて判定できるため、発色を利用する方法は、測定装置が不要で、簡便である。本発明者らは、より簡便な被検物質の検出又は定量分析する方法として、発色を利用する方法に着目し、鋭意検討を行い、本発明を完成するに至った。本発明の要旨は以下[1]〜[9]に示す通りである。
【0009】
[1] 多孔質担体からなる固定相を備え、かつ前記固定相が、検体中の被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域を有する、検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置。
【0010】
[2] 前記固定相が、互いに隣接する、前記検体を添加する領域と前記検体中の被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域とを備える、上記[1]に記載の装置。
【0011】
[3] 前記固定相が、
(1) 移動相を供給する領域;
(2) 前記検体を添加する領域;及び
(3) 前記被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域、
を有し、かつ前記領域1、2及び3が移動相の移動方向に沿って直列に配置される、上記[1]に記載の装置。
【0012】
[4] 被検物質が抗酸化物質である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の装置。
【0013】
[5] 発色性試薬が、可視領域に光吸収があり、抗酸化物質と接触することにより色が変化する発色性安定ラジカルである、上記[4]に記載の装置。
【0014】
[6] 発色性安定ラジカルが、フタロシアニン二層型希土類錯体、ニトロニルニトロキシドラジカル又はジフェニルピクリルヒドラジルである、上記[5]に記載の装置。
【0015】
[7] 多孔質担体がシリカゲル又はアルミナである、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の装置。
【0016】
[8] 多孔質担体が基材に固定又は容器に保持されている、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の装置。
【0017】
[9] 検体中の被検物質の検出方法であって、
(A) 被検物質を含む、又は被検物質を含むと考えられる検体を準備する工程;及び
(B) 前記検体を、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の装置にチャージし、前記被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体と接触させる工程
を含む方法。
【0018】
[10] 検体中の被検物質の定量方法であって、
(A1) 被検物質を含む、又は被検物質を含むと考えられる検体を準備する工程;
(B1) 前記検体を、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の装置にチャージし、移動相と共に、前記被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域内を移動させる工程;及び
(C1) 前記領域の色が変化した面積を測定することにより、検体中の被検物質を定量する工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の検体中の被検物質(特に、抗酸化物質)の検出又は定量分析方法の基本的な操作は、検体と発色性試薬を担持した多孔質担体を接触させ、色の変化を観察するだけという簡単なものであり、HPLC法に必要な機器調整や試料前処理、インドフェノール法の滴定など煩雑な操作は必要ない。
【0020】
特に、本発明の検体中の被検物質(特に、抗酸化物質)を検出又は定量分析するための装置は、多孔質担体からなる固定相を備え、かつ前記固定相が、前記被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域を有する。例えば、本発明の装置を用いる検体中の被検物質の検出方法では、被検物質を含む、又は被検物質を含むと考えられる検体を、かかる装置にチャージし、前記被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体と接触させる。検体中の被検物質は、存在する場合、多孔質担体に担持された発色性試薬と接触し、その色を変化させる。したがって、色の変化を目視で確認するという極めて簡便な手段で検出できる。さらに本発明の装置を用いる検体中の被検物質の定量方法では、検体を、かかる装置にチャージし、場合により移動相と共に、被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域内を移動させる。検体中の被検物質は、前記領域内を移動しながら、多孔質担体に担持された発色性試薬と接触し、その色を変化させる。被検物質が消費された時点で色の変化が止まる。したがって、前記領域内の色が変化した面積は、被検物質の量と相関する。標準物質を用いて被検物質の量と前記領域内の色が変化した面積との相関を予め明らかにしておくことによって、検体中の被検物質を、色が変化した面積を目視で確認するという極めて簡便な手段で定量できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の装置及び装置を用いた方法の一実施態様を示す図である。
図2】合成例2で得られたPh−NITのESR測定により得られたスペクトルである。
図3】実施例3で用いたPy−NITを担持したろ紙(検出装置)の反応前後における拡散反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<検出・定量装置>
本発明は、検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置を提供する。なお、本発明において「定量」は、検体中の被検物質の濃度を正確に測定する場合の他、検体中の被検物質の濃度をおおよその程度を測定する場合(すわなち、半定量的な測定)をも包含する。
【0023】
本発明の検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置は、多孔質担体からなる固定相を備える。多孔質担体は、検体が毛管現象により移動可能な一定以上の細孔を有するものであれば特に限定はない。多孔質担体は、検体及び被検物質の性質に応じて、疎水性又は親水性、吸水性又は非吸水性の、粉末、粒子、膜、発泡体、織布、不織布、織物等の公知の多孔質担体から適宜選択できる。多孔質担体の例としては、シリカゲル、アルミナ、ケイ藻土等の親水性無機粒子;合成又は天然ポリマー(例えば、セルロース、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリウレタン、フッ素系ポリマー等)を基材としたろ材(例えば、ろ紙、メンブレンフィルター等)が挙げられる。親水性の多孔質担体が好ましく、発色性試薬を担持するに十分な比表面積を有する点から、親水性無機粒子、例えばシリカゲル又はアルミナがより好ましく、比表面積が10〜1,000m2/gのシリカゲル又はアルミナが特に好ましい。
【0024】
本発明の多孔質担体からなる固定相の形態として、例えば、セルロース等を基材とする、ろ紙又はクロマトグラフ紙;ガラス等の板状の基材の上にシリカゲル、アルミナ等を均一に塗布した薄層クロマトグラフ用プレート;又は透明な筒状の容器にシリカゲル、アルミナ等を充填したカラムが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の装置は、これらの固定相自体又はこれらの固定相をその一部として備えるものであってよい。
【0025】
固定相は、前記検体中の被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域を有する。ここで、発色性試薬は、検体中の被検物質と接触することにより色が変化することが知られている、公知の化合物の中から適宜選択できる。例えば、被検物質が抗酸化物質である場合、発色性試薬は、可視領域に光吸収があり、抗酸化物質と接触することにより色が変化する発色性安定ラジカルが好ましい。そのような発色性安定ラジカルの例として、フタロシアニン二層型希土類錯体、ニトロニルニトロキシドラジカル又はジフェニルピクリルヒドラジルが挙げられる。
【0026】
フタロシアニン二層型希土類錯体の例としては、式:[PcLn](式中、Pcは、フタロシアニン配位子であり、Lnは、希土類元素である)で表される0価の錯体が挙げられる。この0価の錯体は、配位子π電子系に孤立電子対を一つ持つラジカルである。
前記式中、Lnが、ランタノイドである錯体が好ましく、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又Luである錯体がより好ましい。例えば、式:[PcLn](式中、Pcは、フタロシアニン配位子であり、Lnは、Gdである)で表される0価の錯体は、Gd(Pc)又は下記式:
【化1】

で表せる。フタロシアニン二層型希土類錯体は、市販品として試薬供給業者から、又は公知の文献に記載の合成方法(例えば、Polyhedron 16(1997) 515)に従い、入手できる。
【0027】
ニトロニルニトロキシドラジカルは、下記式:
【化2】

(式中、Rは、有機基である)で表される化合物が挙げられる。前記式中、Rは、可視領域に光吸収があり、抗酸化物質と接触することにより色が変化する発色性安定ラジカルとなりうるものであれば特に限定はない。例えば、前記式中、Rが、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素の1価の基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素の1価の基、又は炭素数2〜20の複素環式化合物の1価の基であるのが好ましく;置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数2〜20のヘテロアリール基であるのがより好ましい。特に好ましいRの例としては、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1の置換基で置換されていてもよい、フェニル基、ピリジル基、ナフチル基又はピレニル基が挙げられる。ニトロニルニトロキシドラジカルは、市販品として試薬供給業者から、又は公知の文献に記載の合成方法(例えば、J. Am. Chem. Soc., 94(1972) 7049)に従い、入手できる。
【0028】
ジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)は、下記式:
【化3】

で表される化合物である。かかる化合物は、市販品として試薬供給業者から入手できる。
が特に好ましくは
【0029】
本発明の発色性安定ラジカルは、抗酸化物質と反応して不対電子を失い(ラジカルではなくなる)、色が変化(退色)する。例えば、Gd(Pc)は、緑色を呈するが、抗酸化物質と反応し還元されると、青色へと変化し;フェニルニトロニルニトロキシドラジカル(Ph−NIT)は、青色を呈するが、抗酸化物質と反応し還元されると、退色(色が消失)し;DPPHは、紫色を呈するが、抗酸化物質と反応し還元されると、退色(色が消失)する。本発明の装置及び方法は、発色性安定ラジカルのかかる性質を利用するものである。
【0030】
本発明の装置において、発色性試薬は、固定相の少なくとも一部の領域において、多孔質担体に担持される。発色性試薬の担持量は、多孔性物質、発色性試薬及び被検物質の種類や量に応じて適宜設定されるが、担体の表面積1cm2当り1×10−10〜1×10−2molであり、1×10−9〜1×10−3molが好ましい。発色性試薬を多孔質担体に担持させる方法には、特に限定はなく、公知の方法を適宜使用できる。例えば、固定相がろ紙又はクロマトグラフ紙である場合、所定の濃度の発色性試薬を含む溶液に、ろ紙又はクロマトグラフ紙を浸漬するか、所定の濃度の発色性試薬を含む溶液を、ろ紙又はクロマトグラフ紙に適用(例えば、塗布、滴下等)し、次いで乾燥させることにより、発色性試薬を担持させ得る。同様に、固定相が薄層クロマトグラフ用プレートである場合、所定の濃度の発色性試薬を含む溶液に、薄層クロマトグラフ用プレートを浸漬するか、所定の濃度の発色性試薬を含む溶液を、薄層クロマトグラフ用プレートに適用(例えば、塗布、滴下等)し、次いで乾燥させることにより、発色性試薬を担持させ得る。さらに、固定相がシリカゲル、アルミナ等を充填したカラムである場合、カラムに充填前のシリカゲル、アルミナ等を、所定の濃度の発色性試薬を含む溶液に浸漬し、次いで乾燥させることにより、発色性試薬を担持させ得る。
【0031】
発色性試薬を含む溶液の調製に使用する溶媒は、発色性試薬を溶解でき、かつ発色性試薬に対して不活性なものであれば、特に限定はない。発色性試薬の種類に応じて公知の溶媒から適宜選択し、使用できる。そのような溶媒の例として、水、緩衝液等の水系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、エチレンジクロリド等の脂肪族ハロゲン系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置の一実施態様は、固定相が、互いに隣接する、前記検体を添加する領域と前記検体中の被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域とを備えることを特徴とする。
【0033】
本発明の検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置の別の実施態様は、固定相が、(1)移動相を供給する領域;(2)検体を添加する領域;及び(3)被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域を備え、かつ領域1、2及び3が移動相の移動方向に沿って直列に配置されることを特徴とする。かかる実施態様の典型例は、図1に例示される。例えば、長方形(例えば、0.5cm×5cm)に切り出したシリカゲル薄層クロマトグラフ用プレートを、領域1〜3に分ける。領域3(例えば、上部の0.5cm×4cmの領域)に所定の濃度(例えば、1mM)の発色性試薬の溶液を所定量(例えば、200μL)滴下し、乾燥させることにより、そのような装置を製造できる。
【0034】
本発明の検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置の別の実施態様としては、上記のシリカゲル薄層クロマトグラフ用プレートをろ紙又はクロマトグラフ紙に代えることにより製造できる装置が挙げられる。本発明の検体中の被検物質を定量するための装置のさらに別の実施態様としては、固定相として、透明な筒状の容器に予め発色性試薬を担持したシリカゲル又はアルミナ等の無機粒子を充填したカラムを備え、カラムの一方の端部に移動相及び検体の供給口を設け、他方の端部に移動相の排出口を設けた装置が挙げられる。
【0035】
さらに本発明の検体中の被検物質を検出又は定量分析するための装置において、多孔質担体は、好ましくは基材に固定又は容器に保持されている。例えば、多孔質担体がシリカゲル又はアルミナ等の無機粒子の場合、無機粒子はガラス板やアルミ箔のような板状の基材上に公知のバインダーを用いて固定されるか、又は透明な筒状の容器に充填し、保持される。
【0036】
<検出又は定量方法>
本発明はまた、検体中の被検物質の検出方法を提供する。本発明の検体中の被検物質の検出方法は、(A)被検物質を含む、又は被検物質を含むと考えられる検体を準備する工程;及び(B)前記検体を、本発明の検体中の被検物質を定量分析するための装置にチャージし、前記被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体と接触させる工程を含む。
【0037】
本発明はまた、検体中の被検物質の定量方法を提供する。本発明の検体中の被検物質の定量方法は、(A1)被検物質を含む、又は被検物質を含むと考えられる検体を準備する工程;(B1)前記検体を、本発明の検体中の被検物質を定量するための装置にチャージし、移動相と共に、前記被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域内を移動させる工程;及び(C1)前記領域の色が変化した面積を測定することにより、検体中の被検物質を定量する工程を含む。
【0038】
本発明に係る検体及び被検物質は、任意の媒体に溶解でき、被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬が知られているものであれば特に限定はない。例えば、被検物質が抗酸化物質である場合、工程(A)又は(A1)で準備される検体は、抗酸化物質を含む野菜・果実(例えば、野菜汁、果汁等)、あるいは抗酸化物質が添加された加工食品、健康食品(例えば、サプリメント等)又は化粧品等であってよい。
【0039】
抗酸化物質の例としては、ビタミン類、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)又はα−トコフェロール(ビタミンE);カロテノイド、例えば、β−カロテン、ビタミンA、リコペン等のカロテン類、又はルテイン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アスタキサンチン、β−クリプトキサンチン、ルビキサンチン、ロドキサンチン等のキサントフィル類;ポリフェノール、例えば、カテキン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン等のフラボノイド類、あるいはクロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、レスベラトロール等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0040】
工程(B)において、検体は、本発明の検体中の被検物質を定量分析するための装置にチャージされ、前記被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体と接触させる。検体中に被検物質が存在する場合、多孔質担体に担持された発色性試薬と接触し、その色を変化させるので、色の変化を目視で確認するという極めて簡便な手段で検出できる。したがって、本発明は、(C)発色性試薬の色の変化を確認し、検体中の抗酸化物質の有無を判定する工程を含む。
【0041】
一方、工程(B1)において、検体は、本発明の検体中の被検物質を定量するための装置にチャージされ、必要に応じて移動相と共に、前記被検物質と接触することにより色が変化する発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域内を移動する。工程(B)又は(B1)における検体のチャージ量は、検体中の被検物質の量に応じて決定され、被検物質の量が発色性試薬の担持量に対して1等量未満であり、0.01〜0.8等量が好ましく、0.05〜0.5等量がより好ましい。当然ながら、定量前の検体中の被検物質の量は不明であるので、検体のチャージ量は、類似の検体の測定結果からの推定値に応じて決定してもよく、また推定値に基づく測定結果を参酌し、再決定し、再測定してもよい。検体が固体の場合、あるいは検体が液体であっても被検物質の濃度が濃い場合、水、緩衝溶液、低級アルコール等の溶媒で適切な濃度に調整できる。
【0042】
工程(B1)において、検体、又は移動相及び検体は、好ましくは、毛管現象により発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域内を移動する。移動相としては、発色性試薬や被検物質に対して不活性であって、かつ被検物質と多孔質担体自体の相互作用の観点から、被検物質を、発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域内でスムーズに移動させうる溶媒が適宜選択される。そのような溶媒は、例えば、多孔質担体がシリカゲルである場合、同じシリカゲルを用いた薄層クロマトグラフ用プレートを用いて検体の薄層クロマトグラフィーを行い、被検物質のR値が0より大きく、好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上となる展開溶媒から選択できる。これにより検体中の被検物質は、前記領域内を移動しながら、多孔質担体に担持された発色性試薬と接触し、その色を変化させる。被検物質が消費された時点で、色の変化が止まる。
【0043】
移動相に使用できる溶媒の例としては、水、緩衝液等の水系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、エチレンジクロリド等の脂肪族ハロゲン系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられるが、これらに限定されない。移動相は、2種以上の溶媒の組み合わせであってもよく、被検物質の種類に応じて少量の酸又はアルカリを含んでいてもよい。
【0044】
工程(C1)では、発色性試薬を担持した多孔質担体が配置された領域において色が変化した面積を測定する。検体中の被検物質は、前記領域内を移動しながら、多孔質担体に担持された発色性試薬と接触し、その色を変化させ、被検物質が消費された時点で色の変化が止まる。したがって前記領域内の色が変化した面積は、被検物質の量と相関する。標準物質を用いて前記領域内の色が変化した面積との相関を予め明らかにしておくことによって、検体中の被検物質を、色が変化した面積を目視で確認するという極めて簡便な手段で定量できる。
【0045】
本発明の検体中の被検物質の定量方法の一実施態様を、図1に例示したスキーム(i)〜(v)に従って説明する。
(i) 長方形に切り出した薄層クロマトグラフ用プレートを領域1〜3に分け、発色性試薬を含む溶液を領域3に適用することにより、領域3に所定量の発色性試薬を担持させる。
(ii) 領域2に所定量の検体を添加する。
(iii) 領域1を移動相(溶媒)に浸漬し、移動相と検体を毛管現象により上昇させる。
(iv) 移動相の領域3への上昇に伴い、検体中の被検物質と、発色性試薬が反応し、色が変化する。この反応は、検体中に被検物質が消費されるまで続き、領域3中に色が異なる境界が得られる。
(v) 領域3において色が変化した部分の面積を基に、被検物質を定量する。
【0046】
本発明の検体中の被検物質の定量方法の別の実施態様としては、上記のシリカゲル薄層クロマトグラフ用プレートをろ紙又はクロマトグラフ紙に代えることにより実施する方法が挙げられる。本発明の検体中の被検物質の定量方法のさらに別の実施態様としては、固定相として透明な筒状の容器に、予め発色性試薬を担持したシリカゲル、アルミナ等を充填したカラムを備え、カラムの一方の端部に移動相及び検体の供給口を設け、他方の端部に移動相の排出口を設けた装置を用いる方法が挙げられる。
【実施例】
【0047】
実施例における各種測定は、以下のように実施した。
(電子吸収スペクトル)
電子吸収スペクトルは、JASCO社製V−570型分光度計を用いて測定した。光路長1cmの石英セルを用いて、溶液吸収スペクト測定した。
(拡散反射スペクトル)
拡散反射スペクトルは、JASCO社製V−570型分光度計に積球を取り付けて測定した。ベースラインには、何も担持していないろ紙又シリカゲル薄層クロマトグラフ用プレートを用いた。
(ESI−MS測定)
BRUKER社製のHCT Ultra−125を用いて測定した。
(ESR測定)
定常状態ESRは日本電子社製のJES−FE2XGSを用いて測定した。
【0048】
[合成例1]
Gd(Pc)の合成
【化4】
【0049】
フタロニトリル58.8mg(0.46mmol)、トリス(アセチルアセトナト)ガドリニウム(III)22.8mg(0.05mmol)及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン42.6mg(0.26mmol)を30mLナスフラスコに入れ、1−ペンタノール2mLを加え、N気流下で撹拌しながら、150℃に設定したオイルバスにて13時間還流を行った。室温に戻したのち、溶液をろ過し、不溶物を1−ペンタノール50mLで洗浄した。ろ液を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム95%:メタノール5%)で精製した。収率10%。生成物は、ESI−MS、UV−visを用いて確認した。
【0050】
[合成例2]
2−フェニル−4,4,5,5−テトラメチルイミダゾリン−1−オキシル−3−オキシド(Ph−NIT)の合成
(i)N,N’−ジヒドロキシ−2,3−ジアミノ−2,3−ジメチルブタンの合成
【化5】
【0051】
水(20mL)及びメタノール(20mL)をナスフラスコに入れ、氷浴につけてN置換した。その後、2,3−ジメチル−2,3−ジニトロブタン(5mmol)及び塩化アンモニウム(40mmol)を加えた。Nフロー下で、Zn(20mmol)を10分おきに2時間かけて加え、更に3時間撹拌した。吸引ろ過し、水(20mL)及びメタノール(20mL)で洗浄した。生成物を単離精製せず、ろ液を用いて、次の反応に移行した。
【0052】
(ii)Ph−NITの合成
【化6】
【0053】
工程(i)で得られたろ液の1/4を撹拌しながら、ベンズアルデヒド(1.25mmol)を10分かけて加えた。その後50分撹拌した。ろ過により白色沈殿を得た。この白色固体に水15mLを加え、撹拌した。過ヨウ素酸ナトリウム(1.25mmol)水溶液5mLを10分かけて加えた。水溶液を加えると紫色に変色し、白色沈殿も徐々に溶け出した。クロロホルム/水溶媒で抽出した。クロロホルム相を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム97%:メタノール3%)で精製した。溶媒を除去し、冷室・暗所下で保管した。総収率23%(N,N’−ジヒドロキシ−2,3−ジアミノ−2,3−ジメチルブタンの合成反応を含む)。生成物は、UV−vis、ESRを用いて確認した。ESR測定より強度比1:2:3:2:1の超微細構造が確認できた(図2参照)。これは等しい環境にある等核N原子によるもので、ニトロニルニトロキシドに特有である。このことからニトロニルニトロキシドが生成していると判断した。
【0054】
[合成例3]
2−(1−ピレニル)−4,4,5,5−テトラメチルイミダゾリン−1−オキシル−3−オキシド(Py−NIT)の合成
【化7】
【0055】
合成例2の工程(i)と同様の方法で得られたろ液の1/4を取り出し、その溶媒を除去し、得た白色固体にメタノール(20mL)を加えた。一方で1−ピレンカルボアルデヒド(1.25mmol)をクロロホルム(20mL)に溶かした。メタノール溶液にクロロホルム溶液を加えると、白色沈殿が現れた。この溶液をNフロー下、60℃で24時間還流した(温度上昇とともに、白色沈殿は溶解した)。還流終了後、エバポレーターで溶媒を除去した。クロロホルム(40mL)を加えて、濾過を行った。ろ液に過ヨウ素酸ナトリウム(1.25mmol)水溶液20mLを10分かけて加え、2時間激しく撹拌(〜1000rpm)した。この時クロロホルム相が徐々に黄色から青色へ変化することが確認できた。クロロホルム/水溶媒で抽出した。クロロホルム相を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム99%:メタノール1%)で精製した。溶媒を除去し、冷室・暗所下で保管した。総収率6%(N,N’−ジヒドロキシ−2,3−ジアミノ−2,3−ジメチルブタンの合成反応を含む)。
【0056】
[実施例1]
定量装置の作成
長方形(0.5cm×5cm)に切り出したシリカゲル薄層クロマトグラフ用プレート(メルクミリポア105554TLC アルミシートシリカゲル60F254)の上部より長さ4cm×幅0.5cmの領域(領域3)に、1mMのDPPHのクロロホルム溶液を200μL滴下し、乾燥させ、0.2×10−6molのDPPHを担持したシリカゲルが配置された領域を有する固定相を備える装置を作製した。同じ装置をさらに2枚作製した。
【0057】
定量方法の実施
前記各装置において、領域3の下流方向に隣接する領域(長さ0.5cm×幅0.5cmの領域;領域2)に、それぞれ異なる濃度のアスコルビン酸水溶液(10mM、3.3mM、1mM)10μLを添加した。次いで、前記領域2の下流方向に隣接する領域(長さ0.5cm×幅0.5cmの領域;領域1)を水に浸漬した。なお、DPPHを担持していないシリカゲル薄層クロマトグラフ用プレートを用いて、アスコルビン酸のシリカゲル薄層クロマトグラフィーを実施したところ、展開溶媒に水を用いた場合、アスコルビン酸のR値は1であり、アスコルビン酸は、毛管現象により、水と共に約1cm/minの速度でシリカゲル薄層クロマトグラフ用プレート上を上昇した。
浸漬後、水の上昇ともにシリカゲルに担持されたDPPHは退色していくことが確認された。領域3の35mm地点まで水の上昇が確認きたら、浸漬を終了した。1mMのアスコルビン酸水溶液を添加した場合、2mm程に色の境界が現れた。3.3mMのアスコルビン酸水溶液を添加した場合、少しブロードになったが15〜30mmの地点に境界が現れた。ブロードなった理由として、DPPHの局在が考えられる。10mMのアスコルビン酸水溶液を添加した場合、25〜38mmの地点に境界が現れた。これらの結果より、添加したアスコルビン酸量に応じて退色面積に有意な差があることが明らかとなり、抗酸化物質の定量方法として利用できることが示された。
【0058】
[実施例2]
検出装置の作成
正方形(1.5cm×1.5cm)に切り出したろ紙(ADVANTEC No.5BまたはNo.2)に、前記合成例1で得られたGd(Pc)の1mMクロロホルム溶液100μLを滴下し、真空乾燥させ、緑色を呈する、1×10−7molのGd(Pc)を担持したろ紙(検出装置)を作製した。同じ装置をさらに1枚作製した。
検出方法の実施
得られた各検出装置を、100mMのアスコルビン酸水溶液に浸漬させた。浸漬後、ろ紙では、緑色から青緑色への色の変化が観察され、アスコルビン酸の存在を検出できることが示された。
【0059】
[実施例3]
検出装置の作成
正方形(1.5cm×1.5cm)に切り出したろ紙(ADVANTEC No.5BまたはNo.2)に、前記合成例5で得られたPy−NITの10mMクロロホルム溶液100μLを滴下し、真空乾燥させ、青色を呈する、1×10−6molのPy−NITを担持したろ紙(検出装置)を作製した。
検出方法の実施
得られた検出装置を、10mMのアスコルビン酸水溶液5mLに90分間浸漬すると、紺青色の消失(退色)が観察された。反応前後における、検出装置の拡散反射スペクトルを測定した。得られたスペクトルを図3に示す。90分後には、570nm付近の吸収帯がほぼ消失したことが確認された。したがって、Py−NITを担持したろ紙(検出装置)は、アスコルビン酸に対して高い反応性を示し、その検出に有用であることが示された。
【0060】
[実施例4]
検出装置の作成
正方形(1.5cm×1.5cm)に切り出したシリカゲル薄層クロマトグラフ用プレート(メルクミリポア105554 TLCアルミシートシリカゲル60F254)に、前記合成例5で得られたPy−NITの1×10−2Mクロロホルム溶液100μLを滴下し、真空乾燥させ、紺青色を呈する、1×10−6molのPy−NITを担持したシリカゲルプレート(検出装置)を作製した。同じ装置をさらに1枚作製した。
検出方法の実施
担持したPy−NITに対し1等量(10mM、100μL)のアスコルビン酸を含む水溶液を滴下した場合、速やかな退色が見られた。滴下10秒〜30秒後以降はほとんど色の変化が見られないことから、アスコルビン酸が消費されてしまい、それ以上反応が進行しないと考えられる。シリカゲル薄層クロマトグラフ用プレートに担持されたPy−NITの退色速度は、ろ紙に担持されたPy−NITの退色速度より速いことが明らかになった。ろ紙はセルロース繊維で親水性を示すが、比表面積小さいため疎水性分子のPy−NITに表面を覆いつくされてしまうのに対し、シリカゲルは比表面積大きいため疎水性分子のPy−NITを担持しても親水性を保つことができるため速やかに反応が進むと考えられる。
なお、純粋なアスコルビン酸水溶液は、強い酸性を示す。Py−NITを担持したシリカゲルプレートがアスコルビン酸に対して高い反応性を示す理由がpHによる効果なのか否かを確認するため、リン酸緩衝液を用いpH7に調製したアスコルビン酸水溶液を用いて、退色の様子を観察した。pH7の条件下でも、純粋なアスコルビン酸水溶液を用いた場合と同様の結果であった。したがって、Py−NITを担持したシリカゲルプレート(検出装置)は、アスコルビン酸に対して高い反応性を示し、その検出に有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の検体中の被検物質(特に、抗酸化物質)の定量又は検出方法の基本的な操作は、検体と発色性試薬を担持した多孔質担体を接触させ、色の変化を観察するだけという簡単なものであり、HPLC法に必要な機器調整や試料前処理、インドフェノール法の滴定など煩雑な操作は必要ない。本発明の装置の使用にあたっては、特殊な技能・知識を必要としない。したがって、例えば、野菜・果物類の抗酸化物量の測定に際しても、生産・出荷・販売の現場において誰でも定量又は半定量できるという利点を有する。
図1
図2
図3