特許第6795884号(P6795884)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795884液体を被精製物とする精製方法、ケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法、シリル化剤薬液、膜形成用材料又は拡散剤組成物の製造方法、フィルターメディア、及び、フィルターデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795884
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】液体を被精製物とする精製方法、ケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法、シリル化剤薬液、膜形成用材料又は拡散剤組成物の製造方法、フィルターメディア、及び、フィルターデバイス
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/64 20060101AFI20201119BHJP
   H01L 21/225 20060101ALI20201119BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20201119BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20201119BHJP
   C08G 73/06 20060101ALI20201119BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   B01D71/64
   H01L21/225 R
   B01D71/70
   B01D69/00
   C08G73/06
   C08J9/26 101
   C08J9/26CFG
【請求項の数】13
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-220512(P2015-220512)
(22)【出願日】2015年11月10日
(65)【公開番号】特開2017-87138(P2017-87138A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】澤田 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】菅原 司
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−270185(JP,A)
【文献】 特開2015−165009(JP,A)
【文献】 特開2009−138083(JP,A)
【文献】 特開2008−056737(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/155407(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/020101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/64
B01D 69/00
B01D 71/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法であって、
前記ケイ素化合物含有液の一部又は全部を、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含み、
前記ケイ素化合物含有液が、加水分解によりシラノール基を生成し得るケイ素化合物を含み、
前記ケイ素化合物が、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物から選択される1種である、精製方法。
(Ra1Si(H)4−a−b・・・(1)
(式(1)中、Ra1は、それぞれ互いに独立して、一部又は全ての水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数1〜18の1価の炭化水素基を含む1価の有機基を表し、Xは、それぞれ互いに独立して、ケイ素原子と結合する原子が窒素である1価の官能基を表し、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、aとbの合計は1〜3である。)
a24−n2SiXn2・・・(2)
(式(2)中、Ra2は、水素原子又は1価の炭化水素基である。Xは、炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基、イソシアネート基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基である。n2は1〜4の整数である。)
a34−n3−Si(NCO)n3・・・(3)
(式(3)中、Ra3は水素原子又は1価の炭化水素基であり、n3は2〜4の整数である。)
【請求項2】
前記ケイ素化合物を含む前記ケイ素化合物含有液が、シリル化剤薬液、膜形成用材料、及び、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物の中から選択される1種のケイ素化合物含有液である、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記被精製物が、平坦化膜、絶縁膜、高屈折率膜、インプリント用樹脂層又はエッチングマスクの形成に用いられる、請求項1又は2に記載の精製方法。
【請求項4】
前記被精製物が、更にドーパントを含み、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物である、請求項1又は2に記載の精製方法。
【請求項5】
前記ケイ素化合物が前記一般式(3)で表される化合物であり、但し、該式(3)中、Ra3は1価の炭化水素基であり、n3は3又は4の整数である、請求項4に記載の精製方法。
【請求項6】
前記多孔質膜により、前記被精製物に含有される常温で固体の元素を含む不純物の一部又は全部が前記被精製物から除去される、請求項1〜5の何れか1項に記載の精製方法。
【請求項7】
前記差圧が、流液圧、真空、及び、不活性ガス若しくは非反応性ガスによる陽圧からなる群より選択される少なくとも1つを利用することにより加えられる、請求項1〜6の何れか1項に記載の精製方法。
【請求項8】
前記連通孔が、平均球径が50〜5000nmである略球状孔が相互に連通した構造を含む、請求項1〜7の何れか1項に記載の精製方法。
【請求項9】
前記略球状孔が、内面に更に凹部を有している、請求項8に記載の精製方法。
【請求項10】
前記連通孔が、孔径が1〜200nmである連通孔を含む、請求項1〜9の何れか1項に記載の精製方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の精製方法を用いる、シリル化剤薬液、膜形成用材料又は拡散剤組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項に記載の精製方法に用いられる前記ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜からなるフィルターメディア。
【請求項13】
請求項1〜10の何れか1項に記載の精製方法に用いられる前記ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を含む、フィルターデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を用いる、シリル化剤薬液、膜形成用材料又は拡散剤組成物である液体を被精製物とする精製方法、加水分解によりシラノール基を生成し得るケイ素化合物を含むケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法、該精製方法を用いる、シリル化剤薬液、膜形成用材料又は拡散剤組成物の製造方法、該ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜からなるフィルターメディア並びに該ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を含むフィルターデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスにおいて、高性能・高機能化や低消費電力化の要求が高まるにつれ、回路パターンの微細化が進行しており、それに伴い製造歩留まりの低下を引き起こす汚染金属の除去の要請が非常に高くなっている。そのため、基板に疎水性を付与するための保護膜形成用のシリル化剤薬液(例えば、特許文献1参照)、微細な膜を形成するための材料(例えば、特許文献2参照)、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物中に鉄、亜鉛等の汚染金属が含まれないことが望ましい。
【0003】
半導体デバイスの製造工程において用いられるこのような薬液等は、予め鉄、亜鉛等の汚染金属を除去するため、フィルターデバイス等により清浄化される。フィルターデバイスは、通常、多孔質膜を用いたフィルターメディアを備えている。
【0004】
金属イオン等の不純物を除去するため、多孔質膜としてはナノ・パーティクル等の微小物質をも除去可能なものが望ましい。半導体デバイス等の用途に使用される薬液や樹脂材料から不純物を除去し得るフィルター膜として、ナイロン、ポチエチレン、ポリプロピレン、PTFE等が一般的であり、例えば、ナイロン等のフィルター膜を用いることで、有機系の不純物も除去されることが知られている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−114414号公報
【特許文献2】特開2005−171067号公報
【特許文献3】特許第4637476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ナイロンからなる膜は、酸耐性が弱いため、酸で洗浄することが難しく、フィルター自体に混入又は付着する不純物除去が難しいという問題があった。またポリエチレンからなる膜は半導体デバイスの製造工程に用いられる薬液から除去されるべき、鉄、亜鉛等の不純物の除去率が低いという問題があった。
【0007】
フィルターメディアに用いられる多孔質膜は、産業上、ある程度の流速で処理できることが求められるが、流速を速くすると、金属等の不純物除去性能が悪化する傾向があり、流速と不純物除去性能との両立は容易でなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、金属等の不純物除去性能に優れたポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を用いる、シリル化剤薬液、膜形成用材料又は拡散剤組成物である液体を被精製物とする精製方法、加水分解によりシラノール基を生成し得るケイ素化合物を含むケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法、該精製方法を用いる、シリル化剤薬液、膜形成用材料又は拡散剤組成物の製造方法、該多孔質膜からなるフィルターメディア並びに該多孔質膜を含むフィルターデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜が、その多孔質構造により金属等の不純物除去性能に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第一の態様は、液体を被精製物とする精製方法であって、上記液体の一部又は全部を、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含み、
前記液体が、シリル化剤薬液、膜形成用材料、又は、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物である、液体を被精製物とする精製方法である。
【0011】
本発明の第二の態様は、ケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法であって、上記ケイ素化合物含有液の一部又は全部を、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含み、
前記ケイ素化合物含有液が、加水分解によりシラノール基を生成し得るケイ素化合物を含む、ケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法である。
【0012】
本発明の第三の態様は、本発明の第一の態様の液体を被精製物とする精製方法又は本発明の第二の態様のケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法を用いる、シリル化剤薬液、膜形成用材料又は拡散剤組成物の製造方法である。
【0013】
本発明の第四の態様は、本発明の第一の態様の液体を被精製物とする精製方法又は本発明の第二の態様のケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法に用いられる上記ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜からなるフィルターメディアである。
【0014】
本発明の第五の態様は、本発明の第一の態様の液体を被精製物とする精製方法又は本発明の第二の態様のケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法に用いられる上記ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を含む、フィルターデバイスである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属除去性能に優れたポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を用いる液体の精製方法、該精製方法を用いる薬液又は洗浄液の製造方法、該多孔質膜からなるフィルターメディア並びに該多孔質膜を含むフィルターデバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
[シリル化剤薬液、膜形成用材料、又は、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物である液体を被精製物とする精製方法]
本発明の第一の態様である液体を被精製物とする精製方法は、該液体の一部又は全部を、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含み、
前記液体が、シリル化剤薬液、膜形成用材料、又は、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物である。
【0018】
[加水分解によりシラノール基を生成し得るケイ素化合物を含むケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法]
本発明の第二の態様であるケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法は、該ケイ素化合物含有液の一部又は全部を、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含み、
前記ケイ素化合物含有液が、加水分解によりシラノール基を生成し得るケイ素化合物を含む。
本発明の第二の態様であるケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法において、前記ケイ素化合物含有液が、シリル化剤薬液、膜形成用材料、又は、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物であることが好ましい。
【0019】
<シリル化剤薬液>
被精製物である前記シリル化剤薬液の種類は、基板表面の性質を疎水化することができるものであれば、特に限定されず、従来から、種々の材料の撥水化ないし疎水化に使用されているシリル化剤薬液から適宜選択して使用される。本明細書において、「疎水化」とは、撥水化を含む概念である。
被精製物である前記シリル化剤薬液は、加水分解によりシラノール基を生成し得るケイ素化合物を含むことが好ましく、前記ケイ素化合物が、下記一般式(1)で表されるシリル化剤であることがより好ましい。
(Ra1Si(H)4−a−b (1)
(式(1)中、Ra1は、それぞれ互いに独立して、一部又は全ての水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数1〜18の1価の炭化水素基を含む1価の有機基を表し、Xは、それぞれ互いに独立して、ケイ素原子と結合する原子が窒素である1価の官能基を表し、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、aとbの合計は1〜3である。)
〔シリル化剤〕
【0020】
好適なシリル化剤としては、以下の一般式(1−1)〜(1−8)で表されるシリル化剤や、環状シラザン化合物も挙げられる。以下、一般式(1−1)〜(1−8)で表されるシリル化剤と、環状シラザン化合物とについて順に説明する。
【0021】
(一般式(1−1)で表されるシリル化剤)
【化1】
【0022】
一般式(1−1)中、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は有機基を表す。R、R及びRの炭素数の合計は1以上である。Rは、水素原子、又は飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基を表す。Rは、水素原子、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基、飽和又は不飽和の非芳香族環状炭化水素基、又は非芳香族複素環基を表す。R及びRは、互いに結合して窒素原子を有する非芳香族複素環を形成してもよい。
【0023】
、R及びRがハロゲン原子である場合、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子が好ましい。
【0024】
、R及びRが有機基である場合に、有機基は、炭素原子の他に、ヘテロ原子を含んでいてもよい。有機基が含んでいてもよいヘテロ原子の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。有機基が含んでいてもよいヘテロ原子としては、N、O、及びSが好ましい。R、R及びRが有機基である場合に、有機基に含まれる、炭素原子の数と、ヘテロ原子の数との合計は、R、R及びRの炭素数の合計が1以上である限り特に限定されない。R、R及びRが有機基である場合に、有機基に含まれる、炭素原子の数と、ヘテロ原子の数との合計は、1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜3が特に好ましい。R、R及びRが有機基である場合に、有機基としては、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基、アラルキル基、及び芳香族炭化水素基が好ましい。飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基の好適な例としては、メチル基、エチル基、ビニル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、3−ブテニル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、及びn−デシル基等が挙げられる。これらの鎖状炭化水素基の中では、メチル基、エチル基、ビニル基、n−プロピル基、及びアリル基がより好ましく、メチル基、エチル基、及びビニル基が特に好ましい。アラルキル基の好適な例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、α−ナフチルメチル基、及びβ−ナフチルメチル基が挙げられる。芳香族炭化水素基の好適な例としては、フェニル基、α−ナフチル基、及びβ−ナフチル基が挙げられる。
【0025】
が飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基である場合に、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基の炭素数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。Rが飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基である場合に、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基の炭素数は、1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜3が特に好ましい。Rが飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基である場合の、好適な例は、R、R及びRについて、好適な基として挙げられる飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基と同様である。
【0026】
が飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基である場合に、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基は、Rと同様である。Rが飽和又は不飽和の環状炭化水素基である場合に、飽和又は不飽和の環状炭化水素基の炭素数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。Rが飽和又は不飽和の非芳香族環状炭化水素基である場合に、飽和又は不飽和の非芳香族環状炭化水素基の炭素数は、3〜10が好ましく、3〜6がより好ましく、5又は6が特に好ましい。Rが飽和又は環状炭化水素基である場合の好適な例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、及びシクロオクチル基が挙げられる。Rが非芳香族複素環基である場合に、非芳香族複素環基に含まれるヘテロ原子は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。Rが非芳香族複素環基である場合に、非芳香族複素環基に含まれる好適なヘテロ原子としては、N、O、及びSが挙げられる。Rが非芳香族複素環基である場合に、非芳香族複素環基に含まれる、炭素原子の数と、ヘテロ原子の数との合計は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。Rが非芳香族複素環基である場合に、非芳香族複素環基に含まれる、炭素原子の数と、ヘテロ原子の数との合計は、3〜10が好ましく、3〜6がより好ましく、5又は6が特に好ましい。Rが非芳香族複素環基である場合の、好適な例としては、ピロリジン−1−イル基、ピペリジン−1−イル基、ピペラジン−1−イル基、モルホリン−1−イル基、及びチオモルホリン−1−イル基が挙げられる。
【0027】
及びRが互いに結合して形成される非芳香族複素環基に含まれる原子数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。R及びRが互いに結合して形成される非芳香族複素環基は、3員環から10員環が好ましく、5員環又は6員環がより好ましい。R及びRが互いに結合して形成される非芳香族複素環基に含まれる、炭素原子の他のヘテロ原子の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。R及びRが互いに結合して形成される非芳香族複素環基に含まれる、好適なヘテロ原子としては、N、O、及びSが挙げられる。R及びRが互いに結合して形成される非芳香族複素環の好適な例としては、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、及びチオモルホリンが挙げられる。
【0028】
一般式(1−1)で表されるシリル化剤の具体例としては、N,N−ジメチルアミノトリメチルシラン、N,N−ジメチルアミノジメチルシラン、N,N−ジメチルアミノモノメチルシラン、N,N−ジエチルアミノトリメチルシラン、t−ブチルアミノトリメチルシラン、アリルアミノトリメチルシラン、トリメチルシリルアセタミド、N,N−ジメチルアミノジメチルビニルシラン、N,N−ジメチルアミノジメチルプロピルシラン、N,N−ジメチルアミノジメチルオクチルシラン、N,N−ジメチルアミノジメチルフェニルエチルシラン、N,N−ジメチルアミノジメチルフェニルシラン、N,N−ジメチルアミノジメチル−t−ブチルシラン、N,N−ジメチルアミノトリエチルシラン、及びトリメチルシラナミン等が挙げられる。
【0029】
(一般式(1−2)で表されるシリル化剤)
【化2】
【0030】
一般式(1−2)中、R、R及びRは、上記一般式(1−1)と同様である。Rは、水素原子、メチル基、トリメチルシリル基、又はジメチルシリル基を表す。R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は有機基を表す。R、R及びRの炭素数の合計は1以上である。
【0031】
、R、及びRが有機基である場合、有機基は、R、R及びRが有機基である場合の有機基と同様である。
【0032】
一般式(1−2)で表されるシリル化剤の具体例としては、ヘキサメチルジシラザン、N−メチルヘキサメチルジシラザン、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジメチルジシラザン、1,3−ジ−n−オクチル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3,−テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルシリル)アミン、トリス(トリメチルシリル)アミン、1−エチル−1,1,3,3,3−ペンタメチルジシラザン、1−ビニル−1,1,3,3,3−ペンタメチルジシラザン、1−プロピル−1,1,3,3,3−ペンタメチルジシラザン、1−フェニルエチル−1,1,3,3,3−ペンタメチルジシラザン、1−tert−ブチル−1,1,3,3,3−ペンタメチルジシラザン、1−フェニル−1,1,3,3,3−ペンタメチルジシラザン、及び1,1,1−トリメチル−3,3,3−トリエチルジシラザン等が挙げられる。
【0033】
(一般式(1−3)で表されるシリル化剤)
【化3】
【0034】
一般式(1−3)中、R、R及びRは、上記一般式(1−1)と同様である。Yは、O、CHR11、CHOR11、CR1111、又はNR12を表す。R10及びR11はそれぞれ独立に水素原子、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基、飽和又は不飽和の非芳香族環状炭化水素基、トリアルキルシリル基、トリアルキルシロキシ基、アルコキシ基、フェニル基、フェニルエチル基、又はアセチル基を表す。R12は、水素原子、アルキル基、又はトリアルキルシリル基を表す。
【0035】
10及びR11が、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基であるか、飽和又は不飽和の非芳香族環状炭化水素基である場合、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基と、飽和又は不飽和の非芳香族環状炭化水素基とは、一般式(1−1)におけるRが、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基であるか、飽和又は不飽和の非芳香族環状炭化水素基である場合と同様である。
【0036】
10及びR11が、トリアルキルシリル基、トリアルキルシロキシキ、又はアルコキシ基である場合、これらの基に含まれるアルキル基の炭素数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。これらの基に含まれるアルキル基の炭素数は、1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜3が特に好ましい。これらの基に含まれるアルキル基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、及びn−デシル基等が挙げられる。これらのアルキル基の中では、メチル基、エチル基、及びn−プロピル基がより好ましく、メチル基及びエチル基が特に好ましい。
【0037】
12が、アルキル基又はトリアルキルシリル基である場合、アルキル基又はトリアルキルシリル基に含まれるアルキル基の炭素数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルキル基又はトリアルキルシリル基に含まれるアルキル基の炭素数は、1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜3が特に好ましい。アルキル基又はトリアルキルシリル基に含まれるアルキル基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、及びn−デシル基等が挙げられる。これらのアルキル基の中では、メチル基、エチル基、及びn−プロピル基がより好ましく、メチル基及びエチル基が特に好ましい。
【0038】
一般式(1−3)で表されるシリル化剤の具体例としては、トリメチルシリルアセテート、ジメチルシリルアセテート、モノメチルシリルアセテート、トリメチルシリルプロピオネート、トリメチルシリルブチレート、及びトリメチルシリル−2−ブテノエート等が挙げられる。
【0039】
(一般式(1−4)で表されるシリル化剤)
【化4】
【0040】
一般式(1−4)中、R、R及びRは、上記一般式(1−1)と同様である。Rは、上記一般式(1−2)と同様である。R13は、水素原子、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基、トリフルオロメチル基、又はトリアルキルシリルアミノ基を表す。
【0041】
13が、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基である場合、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基は、一般式(1−1)におけるRが、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基である場合と同様である。
【0042】
13がトリアルキルシリルアミノ基である場合に、トリアルキルシリルアミノ基に含まれるアルキル基は、一般式(1−3)におけるR10及びR11が、トリアルキルシリル基、トリアルキルシロキシキ、又はアルコキシ基である場合に、これらの基に含まれるアルキル基と同様である。
【0043】
一般式(1−4)で表されるシリル化剤の具体例としては、N,N’−ビス(トリメチルシリル)尿素、N−トリメチルシリルアセトアミド、N−メチル−N−トリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、及びN,N−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド等が挙げられる。
【0044】
(一般式(1−5)で表されるシリル化剤)
【化5】
【0045】
一般式(1−5)中、R14はトリアルキルシリル基を表す。R15及びR16は、それぞれ独立に水素原子又は有機基を表す。
【0046】
14がトリアルキルシリル基である場合に、トリアルキルシリル基に含まれるアルキル基は、一般式(1−3)におけるR10及びR11が、トリアルキルシリル基、トリアルキルシロキシキ、又はアルコキシ基である場合に、これらの基に含まれるアルキル基と同様である。
【0047】
15及びR16が有機基である場合に、有機基は、一般式(1−1)におけるR、R及びRが有機基である場合の有機基と同様である。
【0048】
一般式(1−5)で表されるシリル化剤の具体例としては、2−トリメチルシロキシペンタン−2−エン−4−オン等が挙げられる。
【0049】
(一般式(1−6)で表されるシリル化剤)
【化6】
【0050】
一般式(1−6)中、R、R及びRは、上記一般式(1−1)と同様である。R17は、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基、飽和又は不飽和の非芳香族環状炭化水素基、又は非芳香族複素環基を表す。R18は、−SiRを表す。pは、0又は1である。
【0051】
pが0である場合、R17としての飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基、飽和又は不飽和の非芳香族環状炭化水素基、又は非芳香族複素環基は、一般式(1−1)におけるRと同様である。pが1である場合、R17としての有機基は、一般式(1−1)におけるR、R及びRが有機基である場合の有機基から、1つの水素原子が除かれた2価基である。
【0052】
一般式(1−6)で表されるシリル化剤の具体例としては、1,2−ビス(ジメチルクロロシリル)エタン、及びt−ブチルジメチルクロロシラン等が挙げられる。
【0053】
(一般式(1−7)で表されるシリル化剤)
19Si[N(CH4−q・・・(1−7)
【0054】
一般式(1−7)中、R19は、それぞれ独立に、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜18の鎖状炭化水素基である。qは1又は2である。
【0055】
一般式(1−7)において、R19の炭素数は、2〜18が好ましく、8〜18がより好ましい。
【0056】
19がフッ素原子で置換されていない、鎖状飽和炭化水素基である場合の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、ヘプチル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、イソヘプチル基、tert−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、及びオクタデシル基等が挙げられる。
【0057】
19がフッ素原子で置換されていない、鎖状不飽和炭化水素基である場合の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−エチルビニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、4−ペンテニル基、1,3−ペンタジエニル基、2,4−ペンタジエニル基、3−メチル−1−ブテニル基、5−ヘキセニル基、2,4−ヘキサジエニル基、6−ヘプテニル基、7−オクテニル基、8−ノネニル基、9−デセニル基、10−ウンデセニル基、11−ドデセニル基、12−トリデセニル基、13−テトラデセニル基、14−ペンタデセニル基、15−ヘキサデセニル基、16−ヘプタデセニル基、17−オクタデセニル基、エチニル基、プロパルギル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、3−ヘキシニル基、4−ヘキシニル基、5−ヘキシニル基、6−ヘプチニル基、7−オクチニル基、8−ノニニル基、9−デシニル基、10−ウンデシニル基、11−ドデシニル基、12−トリデシニル基、13−テトラデシニル基、14−ペンタデシニル基、15−ヘキサデシニル基、16−ヘプタデシニル基、及び17−オクタデシニル基等が挙げられる。
【0058】
19がフッ素原子で置換されている、鎖状炭化水素基である場合、フッ素原子の置換数、及び置換位置は、特に限定されない。鎖状炭化水素基におけるフッ素原子の置換数は、鎖状炭化水素基が有する水素原子の数の50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0059】
19としては、優れた疎水化の効果を得やすいことから、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜18の直鎖炭化水素基が好ましい。また、R19としては、シリル化剤の保存安定性の点で、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜18の直鎖飽和炭化水素基(炭素数1〜18のアルキル基)がより好ましい。
【0060】
一般式(1−7)においてqは、1又は2であり、1が好ましい。
【0061】
(一般式(1−8)で表されるシリル化剤)
20[N(CH3−rSi−R22−SiR21[N(CH3−s・・・(1−8)
【0062】
一般式(1−8)中、R20及びR21はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。R22は炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖アルキレン基である。r及びsはそれぞれ独立に0〜2の整数である。
【0063】
20及びR21は、それぞれ、同一であってもよく異なっていてもよい。R20及びR21としては、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖アルキル基が好ましく、水素原子、又はメチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0064】
20及びR21が、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である場合の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。
【0065】
一般式(1−8)で表される化合物は、R22として炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖アルキレン基を含む。R22である直鎖又は分岐鎖アルキレン基の炭素数は、1〜10が好ましく、2〜8がより好ましい。なお、直鎖アルキレン基とは、メチレン基、又はα,ω−直鎖アルキレン基であり、分岐鎖アルキレン基は、メチレン基、及びα,ω−直鎖アルキレン基以外のアルキレン基である。R22は、直鎖アルキレン基であるのが好ましい。
【0066】
22が、炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖アルキレン基である場合の例としては、メチレン基、1,2−エチレン基、1,1−エチレン基、プロパン−1,3−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−1,1−ジイル基、プロパン−2,2−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,1−ジイル基、ブタン−2,2−ジイル基、ブタン−2,3−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ペンタン−1,4−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ヘプタン−1,7−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基、2−エチルヘキサン−1,6−ジイル基、ノナン−1,9−ジイル基、デカン−1,10−ジイル基、ウンデカン−1,11−ジイル基、ドデカン−1,12−ジイル基、トリデカン−1,13−ジイル基、テトラデカン−1,14−ジイル基、ペンタデカン−1,15−ジイル基、及びヘキサデカン−1,16−ジイル基等が挙げられる。
【0067】
一般式(1−8)で表される化合物において、s及びrはそれぞれ独立に0〜2の整数である。式(1−8)で表される化合物について、合成及び入手が容易であることから、s及びrは1又は2であるのが好ましく、2であるのがより好ましい。
【0068】
(環状シラザン化合物)
シリル化剤としては、環状シラザン化合物も好ましい。以下、環状シラザン化合物について説明する。
【0069】
環状シラザン化合物としては、2,2,5,5−テトラメチル−2,5−ジシラ−1−アザシクロペンタン、2,2,6,6−テトラメチル−2,6−ジシラ−1−アザシクロヘキサン等の環状ジシラザン化合物;2,2,4,4,6,6−ヘキサメチルシクロトリシラザン、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリビニルシクロトリシラザン等の環状トリシラザン化合物;2,2,4,4,6,6,8,8−オクタメチルシクロテトラシラザン等の環状テトラシラザン化合物;等が挙げられる。
【0070】
これらの中でも、環状ジシラザン化合物が好ましく、2,2,5,5−テトラメチル−2,5−ジシラ−1−アザシクロペンタン及び2,2,6,6−テトラメチル−2,6−ジシラ−1−アザシクロヘキサンがより好ましい。環状ジシラザン化合物としては、2,2,5,5−テトラメチル−2,5−ジシラ−1−アザシクロペンタンのような5員環構造のものや、2,2,6,6−テトラメチル−2,6−ジシラ−1−アザシクロヘキサンのような6員環構造のものがあるが、5員環構造であることがより好ましい。
【0071】
〔シリル化剤薬液におけるその他の成分〕
本発明において用いるシリル化剤薬液は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上述したシリル化剤以外のその他の成分を含有するものであってもよい。
その他の成分としては特に限定されないが、例えば、有機溶剤等が挙げられ、シリル化剤が液体でない場合は有機溶剤を含有することが好ましいが、基板表面にシリル化剤を暴露することができるのであれば有機溶剤を含有しないものであってもよい。
【0072】
シリル化剤薬液に含有させることができる有機溶剤としては、特に限定されないが、シリル化剤と反応する官能基を持たない有機溶剤が好ましい。有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
有機溶剤のうち好ましいものとしては、具体的には、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド類、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−プロピル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシメチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン等のラクタム類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール、メチルエチルジグリコール、ジエチルグリコール等のジアルキルグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の他のエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン等のケトン類;2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル等の乳酸アルキルエステル類;2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−i−プロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸−i−ブチル、ぎ酸−n−ペンチル、酢酸−i−ペンチル、プロピオン酸−n−ブチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸−i−プロピル、酪酸−n−ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸−n−プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸エチル等の他のエステル類;β−プロピロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−ペンチロラクトン等のラクトン類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、メチルオクタン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、ナフタレン、1,3,5−トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;p−メンタン、ジフェニルメンタン、リモネン、テルピネン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン等のテルペン類;等が挙げられる。これらの溶剤は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。なかでも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEMEA);直鎖状、分岐鎖状、又は環状の炭化水素類;p−メンタン、ジフェニルメンタン、リモネン、テルピネン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン等のテルペン類が好ましい。
【0074】
本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られるシリル化剤薬液(処理済シリル化剤薬液)は、上述のように金属不純物の濃度を低減することができたものであるので、基板表面処理液として好適に用いることができ、特に、半導体デバイス等の製造に用いられる基板表面処理液として好適である。
【0075】
<膜形成用材料>
被精製物である前記膜形成用材料は、加水分解によりシラノール基を生成し得るケイ素化合物を含むことが好ましく、前記ケイ素化合物が、下記一般式(2)又は(3)で表されるケイ素化合物であることがより好ましい。下記一般式(2)又は(3)で表されるケイ素化合物は、特に加水分解に対して高活性であり、基板表面に被膜を形成する際の加熱や焼成において、従来の膜形成用材料よりも温度を低減することができ、加熱処理を行わずとも基板表面に膜形成することができる。
a24−n2SiXn2・・・(2)
(式(2)中、Ra2は、水素原子又は1価の炭化水素基である。Xは、炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基、イソシアネート基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基である。n2は1〜4の整数である。)
一般式(2)において、Xはイソシアネート基であることが好ましく、n2は4であるのが好ましい。
a34−n3−Si(NCO)n3 ・・・(3)
(式(3)中、Ra3は水素原子又は1価の炭化水素基であり、n3は2〜4である。)
前記ケイ素化合物は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
式(3)中のRa3は水素原子又は1価の炭化水素基である。Ra3としての炭化水素基は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、炭素原子数1〜12の脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0077】
炭素原子数1〜12の脂肪族炭化水素基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−シクロヘプチル基、n−オクチル基、n−シクロオクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、及びn−ドデシル基が挙げられる。より好ましくは、炭素原子数1〜5の脂肪族炭化水素基である。
【0078】
以上説明した炭化水素基の中では、メチル基、エチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0079】
一般式(3)で表されるケイ素化合物の中では、テトライソシアネートシラン、メチルトリイソシアネートシラン、及びエチルトリイソシアネートシランが好ましい。
【0080】
膜形成用材料中の前記ケイ素化合物の含有量は、均一に溶解した膜形成用材料を調製できれば特に限定されない。膜形成用材料中の前記ケイ素化合物の含有量は、0.01〜50質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましく、0.01〜5質量%がさらに好ましく、0.01〜1質量%が特に好ましい。このような含有量で前記ケイ素化合物を含有することにより、膜としてよりコンフォーマルに塗膜できる傾向にある。
【0081】
膜形成用材料は、被膜形成性の観点から、任意の金属アルコキシドを含有していてもよい。金属アルコキシドは、1種のみでもよいし、複数種を同時に使用することも可能である。
金属アルコキシドの含有量は特に制限はなく、0.01〜20質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.01〜1質量%がさらに好ましく、0.1〜0.5質量%が最も好ましい。膜形成用材料がこのような含有量で金属アルコキシドを含有することにより、形成される膜の強度が向上する傾向にある。また、金属アルコキシドを含有させることで、様々な特性を持たせることができる。たとえば、屈折率などの光学特性、酸や塩基などに対する溶解性を変更させることができる。
【0082】
(有機溶剤)
前記膜形成用材料は、さらに有機溶剤を含むものであってもよい。溶剤の具体例としては、シリル化剤薬液に含有させることができる有機溶剤の具体例及び好ましい例として前述した有機溶剤が挙げられる。有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
膜形成用材料中の有機溶剤の含有量は、通常、前記ケイ素化合物の含有量と、前記金属アルコキシドの含有量と、後述するその他の成分の含有量との合計量に対する残余の量である。
【0084】
〔膜形成用材料中のその他の成分〕
膜形成用材料は、本発明の目的を阻害しない範囲で、前記ケイ素化合物、及び前記金属アルコキシドとともに種々の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例としては、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤等が挙げられる。
【0085】
膜形成用材料は、以上説明した前記ケイ素化合物と、必要に応じてその他の成分とを、均一に混合して溶解させることで調製される。
本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、単分子膜形成用材料であることが好ましい。
本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料を用いると、前記ケイ素化合物の加水分解縮合によって、SiO膜のような被膜を基板表面に容易に形成することができる。
【0086】
また、本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料を用いることの副次的な効果として、基板の材質によらず、水酸基を豊富に有する金属酸化物の被膜を形成できることが挙げられる。例えば、タングステン基板、窒化チタン基板、窒化ケイ素基板、銅基板、及び金基板等は、従来知られる方法ではシリル化剤による表面改質が困難な場合がある。しかし、シリル化剤による処理を行う前に、本発明に係る膜形成用材料を用いて基板表面に水酸基を豊富に有する金属酸化物の被膜を形成すると、被膜の表面に露出する水酸基と、シリル化剤とを良好に反応させることができる。そうすると、シリル化剤による表面改質が困難である基板であっても、良好に表面改質される。
【0087】
≪被膜形成方法≫
以上説明した膜形成用材料を用いて、基板の表面に被膜を形成する方法は特に限定されない。以下、被膜形成方法について説明する。
【0088】
皮膜を形成する対象である基板の材質は、特に限定されず、種々の無機基板及び有機基板から選択される。特に、前述の膜形成用材料を用いて基板表面に被膜を形成した後にシリル化剤による表面処理を行うと、タングステン基板、窒化チタン基板、窒化ケイ素基板、銅基板、及び金基板のような、従来知られる方法では表面改質が困難な基板についても、良好に表面改質することができる。
【0089】
膜形成用材料を用いて基板の表面に被膜を形成する方法は、基板表面に膜形成用材料を塗布可能であって、基板表面で前記ケイ素化合物の加水分解反応を生じさせることができる方法であれば特に限定されない。
【0090】
膜形成用材料を基板表面に塗布する方法は特に限定されない。溶液として前記ケイ素化合物を用いると、基板表面に塗布される前記ケイ素化合物の量を、形成される塗布膜の厚さを調整することにより、容易に調整できる。
【0091】
膜形成用材料による基板表面の処理は、基板表面に、前記ケイ素化合物同士の加水分解縮合によって被膜が形成されればよいが、前述の被膜が形成される際、基板表面が、未処理の状態に対して親水化されているのが好ましい。基板表面が親水化されているか否かは、処理前後の基板表面の水の接触角を測定する等公知の手法により基板表面の親水性の程度を測定したりすることにより確認できる。基板表面が親水化されていることを確認することで、基板の表面に、被膜形成によって水酸基がある程度多量に導入されたことを確認できる。基板の表面に水酸基が多数導入されていれば、前記ケイ素化合物が縮合して形成される被膜の表面にシリル化剤が結合しやすい。
【0092】
また、基板表面での無機酸化物からなる被膜の形成は、例えば、所望の材質の基板上に溶液状の膜形成材料をスピン塗布することで確認できる。具体的には、大気中にて膜形成用材料を基板上に塗布した後、膜形成用材料を基板上に均一に塗布するために基板を回転させ、その後スピン乾燥させて溶剤を飛ばすことで被膜が形成される。この時、大気中の水分とSi(NCO)のような前記ケイ素化合物とが加水分解反応をして、その後重縮合して無機酸化物からなる被膜が形成される。無機酸化物からなる被膜の厚さは、前記ケイ素化合物の濃度、スピン塗布時の回転数、湿度等に依存する。
上記方法で形成された被膜の基板上での有無や膜厚は、例えばエリプソメーター、ナノスペック等で確認することができる。
【0093】
基板表面に膜形成用材料を塗布する方法は、特に限定されず、周知の塗布方法を適用できる。好適な塗布方法の例としては、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法等が挙げられる。
【0094】
なお、タングステン基板や、銅基板のような表面に自然酸化膜が形成される基板では、膜形成用材料による処理の前に、基板表面の自然酸化膜を除去してもよい。
【0095】
以上、説明した方法により、膜形成用材料を用いて基板表面に形成された被膜は、高いエッチング耐性や、シリル化剤のような表面処理剤との高い反応性のような種々の優れた性質を有する。
【0096】
(平坦化膜)
本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、平坦化膜を形成するために用いることができる。本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、自己反応性を持つ上記ケイ素化合物を含有するため、被膜を形成する際の焼成温度を従来のシリカ系被膜形成用組成物よりも低くすることができる。このため、特に高温焼成が好ましくない用途に用いる平坦化膜を形成するための膜形成用材料として好適である。
【0097】
(絶縁膜)
本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、前記ケイ素化合物を含有させることで絶縁膜を形成し得る。
【0098】
(インプリント用樹脂層)
本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、インプリント用樹脂層として用いることができる。また、本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、より微細なパターンを精度高く転写することができ、コンフォーマルな微細パターンを形成できることから、室温インプリント用樹脂層の形成に用いることができる。
【0099】
(エッチングマスク)
本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、エッチングマスクの形成に用いることができる。本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、自己反応性を持つ化合物を有し、被膜を形成する際の焼成温度が従来のシリカ系組成物よりも低温にできるため、エッチングマスク形成用の組成物として好適に用いることができる。
【0100】
本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料を、インクジェット法やスクリーン印刷法などの印刷法を用いてパターン形成し、形成されたパターンをエッチングのマスクとして用いることができる。また、レジストパターン等のパターンの表面を本発明の組成物で被覆したパターンも、エッチングのマスクとして用いることができる。レジストパターン等のパターン表面を本発明の膜形成用材料で被覆し、パターン上部をエッチングすることによって、ダブルパターンを形成することもできる。
【0101】
(高屈折率膜)
本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、高屈折率膜の形成に用いることができる。光電集積回路、光集積回路、CCDセンサ、CMOSセンサ等の光学素子に予め形成されている溝部や穴部等へ、本発明の膜形成用材料を埋め込み、表面をエッチング等で加工することによって、高屈折率な光導波路を形成することができる。
【0102】
このように、本発明の第一又は第二の態様である精製方法、又は第三の態様である製造方法により得られる膜形成用材料は、塗布性や強度に優れるため、リソグラフィーによるパターン形成や、平坦化膜、絶縁膜、高屈折率膜、インプリント用樹脂層又はエッチングマスクなどの形成に好適に用いることができる。
【0103】
<半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物>
前記拡散剤組成物は、ドーパント(不純物拡散成分)を含み、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる。
被精製物である前記拡散剤組成物は、前記一般式(2)で表される加水分解によりシラノール基を生成し得るケイ素化合物を含むことが好ましく、前記ケイ素化合物が、下記一般式(4)で表されるケイ素化合物であることがより好ましい。
拡散剤組成物を半導体基板に塗布して薄膜を形成すると、前記シラン化合物が加水分解縮合して、塗布膜内にケイ素酸化物系の極薄い膜が形成される。塗布膜内に、ケイ素酸化物系の極薄い膜が形成される場合、ドーパントの基板外への外部拡散が抑制され、拡散剤組成物からなる膜が薄膜であっても、良好且つ均一に半導体基板にドーパントが拡散される。
a44−n4Si(NCO)n4・・・(4)
(式(4)中、Ra4は炭化水素基であり、n4は3又は4の整数である。)
【0104】
式(4)中のRa4としての炭化水素基は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。Ra4としては、炭素原子数1〜12の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1〜12の芳香族炭化水素基、炭素原子数1〜12のアラルキル基が好ましい。
【0105】
炭素原子数1〜12の脂肪族炭化水素基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−シクロヘプチル基、n−オクチル基、n−シクロオクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、及びn−ドデシル基が挙げられる。
【0106】
炭素原子数1〜12の芳香族炭化水素基の好適な例としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、及びビフェニリル基が挙げられる。
【0107】
炭素原子数1〜12のアラルキル基の好適な例としては、ベンジル基、フェネチル基、α−ナフチルメチル基、β−ナフチルメチル基、2−α−ナフチルエチル基、及び2−β−ナフチルエチル基が挙げられる。
【0108】
以上説明した炭化水素基の中では、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0109】
式(4)で表される化合物の中では、テトライソシアネートシラン、メチルトリイソシアネートシラン、及びエチルトリイソシアネートシランが好ましく、テトライソシアネートシランがより好ましい。
【0110】
〔ドーパント〕
ドーパント(不純物拡散成分)は、従来から半導体基板へのドーピングに用いられている成分であれば特に限定されず、n型ドーパントであっても、p型ドーパントであってもよい。n型ドーパントとしては、リン、ヒ素、及びアンチモン等の単体、並びにこれらの元素を含む化合物が挙げられる。p型ドーパントとしては、ホウ素、ガリウム、インジウム、及びアルミニウム等の単体、並びにこれらの元素を含む化合物が挙げられる。
【0111】
ドーパントとしては、入手の容易性や取扱いが容易であることから、リン化合物、ホウ素化合物、又はヒ素化合物が好ましい。好ましいリン化合物としては、リン酸、亜リン酸、ジ亜リン酸、ポリリン酸、及び五酸化二リンや、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、亜リン酸トリス(トリアルキルシリル)、及びリン酸トリス(トリアルキルシリル)等が挙げられる。好ましいホウ素化合物としては、ホウ酸、メタホウ酸、ボロン酸、過ホウ酸、次ホウ酸、及び三酸化二ホウ素や、ホウ酸トリアルキルが挙げられる。好ましいヒ素化合物としては、ヒ酸、及びヒ酸トリアルキルが挙げられる。
【0112】
リン化合物としては、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、亜リン酸トリス(トリアルキルシリル)、及びリン酸トリス(トリアルキルシリル)が好ましく、その中でもリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、リン酸トリス(トリメトキシシリル)、及び亜リン酸トリス(トリメトキシシリル)が好ましく、リン酸トリメチル、亜リン酸トリメチル、及びリン酸トリス(トリメチルシリル)がより好ましく、リン酸トリメチルが特に好ましい。
【0113】
ホウ素化合物としては、トリメトキシホウ素、トリエトキシホウ素、トリメチルホウ素、及びトリエチルホウ素が好ましい。
【0114】
ヒ素化合物としては、ヒ酸、トリエトキシヒ素、及びトリ−n−ブトキシヒ素が好ましい。
【0115】
拡散剤組成物中のドーパントの含有量は特に限定されない。拡散剤組成物中のドーパントの含有量は、ドーパント中に含まれる、リン、ヒ素、アンチモン、ホウ素、ガリウム、インジウム、及びアルミニウム等の半導体基板中でドーパントしての作用を奏する元素の量(モル)が、前記ケイ素化合物に含まれるSiのモル数の0.01〜5倍となる量が好ましく、0.05〜3倍となる量がより好ましい。
【0116】
拡散剤組成物中の前記ケイ素化合物の含有量は、Siの濃度として、0.001〜3.0質量%が好ましく、0.01〜1.0質量%がより好ましい。拡散剤組成物がこのような濃度で前記ケイ素化合物を含有することにより、拡散剤組成物を用いて形成された薄い塗布膜からのドーパントの外部拡散を良好に抑制し、ドーパントを良好且つ均一に半導体基板に拡散させることができる。
本発明の精製方法の除去対象としての不純物としてドーパントが除去されることを防止する観点から、被精製物にはドーパントを含まず、本発明の精製方法で精製された後の拡散剤組成物にドーパントを含有させることが好ましい。
【0117】
(有機溶剤)
拡散剤組成物は、さらに有機溶剤を含むものであってもよい。溶剤の具体例としては、シリル化剤薬液に含有させることができる有機溶剤の具体例及び好ましい例として前述した有機溶剤が挙げられる。有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、拡散剤組成物は、前記ケイ素化合物を含む場合、実質的に水を含まないことが好ましい。拡散剤組成物中が実質的に水を含まないとは、前記ケイ素化合物が本発明の目的を阻害する程度まで加水分解されてしまう量の水を、拡散剤組成物が含有しないことを意味する。
【0118】
〔その他の成分〕
拡散剤組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤等の種々の添加剤を含んでいてもよい。また、拡散剤組成物は、塗布性や、製膜性を改良する目的でバインダー樹脂を含んでいてもよい。バインダー樹脂としては種々の樹脂を用いることができ、アクリル樹脂が好ましい。
【0119】
<ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜>
本発明の液体を被精製物とする精製方法において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、連通孔を有する。連通孔は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に多孔質性を付与する個々の孔(以下、単に「孔」と略称することがある。)が形成しているものであってよく、かかる孔は、後述の内面に曲面を有する孔であることが好ましく、後述の略球状孔であることがより好ましい。ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜においては、かかる個々の孔同士が隣接して形成される部分が連通孔となり、かかる孔が相互に連通した構造を有し、通常、かかる孔が複数繋がって全体として、精製される液体の流路を形成していることが好ましい。「流路」は、通常、個々の「孔」及び/又は「連通孔」が連続することにより形成されている。個々の孔は、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法においてポリイミド系樹脂−微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子が後工程で除去されることにより形成される孔であるともいえる。また、連通孔は、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法においてポリイミド系樹脂−微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子同士が接していた部分に、該微粒子が後工程で除去されることにより形成される、隣接する個々の孔同士であるともいえる。
【0120】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、好ましくは、該多孔質膜の外部表面に開口を有する連通孔が該多孔質膜の内部を連通して多孔質膜の反対側(裏側)の外部表面にも開口を有するように、該多孔質膜を通過させる流体の流路が確保されるような連通孔を有する。本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜がかかる連通孔を有することは、例えば、ガーレー透気度により表すことができ、ガーレー透気度としては、例えば30〜1000秒とすることができる。
【0121】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜のガーレー透気度は、例えば1000秒以内とすることができ、600秒以内が好ましく、500秒以内が更に好ましく、300秒以内であることが最も好ましい。低いほど好ましいので下限は特に設定されないが、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を通過する流体の流速をある程度高く維持しつつ金属除去等の処理を効率よく行う点で、例えば、30秒以上が好ましい。ガーレー透気度が1000秒以内であれば、多孔質の程度が十分高いため、本発明において液体の精製の効果を高めることができる。
【0122】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、孔径が1〜200nmである連通孔を含むものであることが好ましい。かかる連通孔の孔径は、3〜180nmが好ましく、5〜150nmがより好ましく、10〜130nmが更に好ましい。かかる連通孔の孔径は、連通孔の直径である。1つの連通孔は、後述の製造方法より、通常2つの隣り合う粒子から形成されるので、該直径は、例えば、連通孔を構成する個々の孔が2つ分連続する方向を長手方向とすると、該長手方向に垂直な方向における直径である場合がある。かかる連通孔の孔径は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に多孔質性を付与する個々の孔の孔径の分布がブロードな方が、かかる個々の孔同士が隣接して形成される連通孔自体の径が小さくなる傾向にあり、また、連通孔の孔径を小さくさせる観点では、多孔質膜の空隙率が例えば60〜90%、好ましくは60〜80%、より好ましくは70%程度の範囲である。また、後述のイミド結合開環工程を行わない場合も連通孔の孔径が小さくなる傾向にある。
【0123】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、連通孔を有するので、かかる多孔質膜に流体を通過させると、流体が多孔質膜の内部を通過できる。該ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、好ましくは内面に曲面を有する個々の孔が連通孔により連続してなる流路を内部に有するので、流体が多孔質膜の内部を通過できるのみならず、個々の孔の曲面に接触しながら通過することにより、孔の内面に対する接触面積が増加することとなり、多孔質膜における孔に、流体に存在する金属粒子等の微小な物質が吸着しやすいものと考えられる。
【0124】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、上記のように、内面に曲面を有する孔を含有する多孔質膜であることが好ましく、多孔質膜における孔の多く(好ましくは実質的に全部)が曲面で形成されていることがより好ましい。本明細書において、孔について「内面に曲面を有する」とは、多孔質をもたらす孔の少なくとも内面が、該内面の少なくとも一部に曲面を有することを意味する。
【0125】
本発明における多孔質膜における孔は、少なくともその内面の実質的にほぼ全部が曲面であることが好ましく、このような孔を以下、「略球状孔」ということがある。本明細書において「略球状孔」とは、その内面が略球状の空間を形成している孔を意味する。略球状孔は、好適には、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法において用いる微粒子が略球状である場合に形成される孔であるともいえる。本明細書において「略球状」とは、真球を含む概念であるが必ずしも真球のみに限定されず、実質的に球状であるものを含む概念である。本明細書において「実質的に球状である」とは、粒子の長径を短径で除した値で表される真球度によって定義される真球度が1±0.3以内であるものを意味する。本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜が有する略球状孔は、かかる真球度が1±0.1以内であるものが好ましく、1±0.05以内であるものがより好ましい。
【0126】
多孔質膜における孔が内面に曲面を有することにより、本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に流体を通過させる際に該流体が多孔質膜における孔の内部に十分に行き渡り、孔の内面に十分接触することができ、場合によっては該内面の曲面に沿って対流を起こしている可能性も考えられる。このようにして、本発明における多孔質膜における孔ないし孔の内面に存在し得る凹部に、流体に存在する金属粒子等の微小な物質が吸着しやすいものと考えられる。略球状孔は、内面に更に凹部を有していてもよい。該凹部は、例えば、略球状孔の内面に開口を有する、該略球状孔よりも孔径が小さい孔により形成されている場合がある。
【0127】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、例えば平均孔径が100〜2000nmの多孔質膜であってよく、平均孔径は、好ましくは200〜1000nm、より好ましくは300〜900nmである。本明細書において、平均孔径は、後述のケミカルエッチング処理を行ったものはポロメーターにより平均の連通孔のサイズ変化量を求め、その値から実際の平均孔径を求める値であるが、ポリアミドイミドのように上述のケミカルエッチングを行わないものは、多孔質膜の製造に使用した微粒子の平均粒径を平均孔径とすることができる。
【0128】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、平均球径が50〜2000nmである略球状孔が相互に連通した構造を含むものであることが好ましい。かかる略球状孔の平均球径は、好ましくは100〜1000nm、より好ましくは200〜800nmである。かかる略球状孔の平均球径は、上述の多孔質膜における平均孔径と同様の方法により求めることができる。
【0129】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、後述の方法により求める空隙率が例えば50〜90質量%、好ましくは、55〜80質量%である多孔質膜であってよい。
【0130】
本発明の液体を被精製物とする精製方法において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、樹脂を含有するものであり、実質的に樹脂のみからなるものであってもよく、具体的には、95質量%以上、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上が樹脂であるものである。本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に含有される樹脂としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドが好ましく、ポリイミドを含有する樹脂がより好ましく、ポリイミドのみであってもよい。本明細書において、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを「ポリイミド系樹脂」ということがある。
【0131】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜(以下、「ポリイミド系樹脂多孔質膜」又は「多孔質膜」と略称することがある。)に含有されるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び−NH−結合からなる群より選択される少なくとも1つを有するものであってもよい。該ポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び/又は−NH−結合を、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドの主鎖末端以外に有することが好ましい。
【0132】
本明細書において、「塩型カルボキシ基」とは、カルボキシ基における水素原子が陽イオン成分に置換した基を意味する。本明細書において、「陽イオン成分」とは、完全にイオン化した状態である陽イオン自体であってもよいし、−COOとイオン結合して事実上電荷のない状態である陽イオン構成要素であってもよいし、これら両者の中間的な状態である部分電荷を有する陽イオン構成要素であってもよい。「陽イオン成分」がn価の金属MからなるMイオン成分である場合、陽イオン自体としてはMn+と表され、陽イオン構成要素としては「−COOM1/n」において「M」で表される要素である。
【0133】
本発明において「陽イオン成分」とは、後述のケミカルエッチング液に含有される化合物として挙げた化合物がイオン解離した場合の陽イオンが挙げられ、代表的にはイオン成分又は有機アルカリイオン成分が挙げられる。例えば、アルカリ金属イオン成分がナトリウムイオン成分の場合、陽イオン自体としてはナトリウムイオン(Na)であり、陽イオン構成要素としては「−COONa」において「Na」で表される要素であり、部分電荷を有する陽イオン構成要素としてはNaδ+である。本発明において陽イオン成分としては特に限定されず、無機成分、NH、N(CH等の有機成分の何れであってもよい。無機成分としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属等の金属元素が挙げられる。有機成分、なかでも、有機アルカリイオン成分としては、NH、例えばNR(4つのRはそれぞれ同一又は異なって、有機基を表す。)で表される第四級アンモニウムカチオン等が挙げられる。上記Rとしての有機基としてはアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましい。第四級アンモニウムカチオンとしては、N(CH等が挙げられる。
【0134】
本発明において、「塩型カルボキシ基」及び「陽イオン成分」がどのような状態であるかは特に限定されず、通常、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドが存在する環境、例えば水溶液中であるか、有機溶媒中であるか、乾燥しているか、等に依存してよい。陽イオン成分がナトリウムイオン成分である場合、例えば、水溶液中であれば、−COOとNaとに解離している可能性があり、有機溶媒中であるか又は乾燥していれば、−COONaが解離していない可能性が高い。
【0135】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び−NH−結合からなる群より選択される少なくとも1つを有するものであってもよいが、これらの少なくとも1つを有する場合、通常、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基と−NH−結合とを両方有する。ポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基に関していえば、カルボキシ基のみを有してもよいし、塩型カルボキシ基のみを有してもよいし、カルボキシ基及び塩型カルボキシ基の両方を有してもよい。ポリイミド及び/又はポリアミドイミドが有するカルボキシ基と塩型カルボキシ基との比率は、同一のポリイミド及び/又はポリアミドイミドであっても、例えば、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドが存在する環境に応じて変動し得るし、陽イオン成分の濃度にも影響される。
【0136】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドが有するカルボキシ基及び塩型カルボキシ基の合計モル数は、ポリイミドの場合は、通常、−NH−結合と等モルであり、特に、後述のポリイミド多孔質膜の製造方法においてポリイミドにおけるイミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に−NH−結合も形成され、該形成されるカルボキシ基及び塩型カルボキシ基の合計モル数は、該形成される−NH−結合と等モルである。ポリアミドイミドの場合は、ポリアミドイミドにおけるカルボキシ基及び塩型カルボキシ基の合計モル数は、−NH−結合と必ずしも等モルではなく、後述のケミカルエッチング等のイミド結合開環工程の条件次第である。
【0137】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、具体的には、下記式(3)〜(6)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つを有するものであってもよい。ポリイミドである場合、下記式(3)及び/又は(4)で表される構成単位を有するものであってよく、ポリアミドイミドである場合、下記式(5)及び/又は(6)で表される構成単位を有するものであってよい。
【化7】
【化8】
【0138】
上記式中、Xは同一若しくは異なって、水素原子又は陽イオン成分である。Arはアリール基であり、後述のポリアミド酸を構成する式(1)で表される繰り返し単位又は芳香族ポリイミドを構成する式(2)で示される繰り返し単位においてそれぞれカルボニル基が結合しているArで表されるアリール基と同じであってよい。Yはジアミン化合物のアミノ基を除いた2価の残基であり、後述のポリアミド酸を構成する式(1)で表される繰り返し単位又は芳香族ポリイミドを構成する式(2)で示される繰り返し単位においてそれぞれNが結合しているArで表されるアリール基と同じであってよい。
【0139】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、一般のポリイミド及び/又はポリアミドイミドが有するイミド結合([−C(=O)]−N−)の一部が開環して、ポリイミドの場合は上記式(3)及び/又は(4)で表される構成単位、ポリアミドイミドの場合は上記式(5)で表される構成単位をそれぞれ有することとなったものであってもよい。
もっともポリアミドイミドの場合、一般のポリアミドイミドが有するイミド結合の開環によらずに元々有しているアミド結合(−NH−C(=O)−)を有することのみによっても本発明の目的を達成することができることを本発明者らは見出した。とはいえポリアミドイミドにおいても、ポリアミドイミドが本来有するイミド結合の一部が開環して上記(5)で表される構成単位を有することが好ましい。
【0140】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、イミド結合の一部を開環させることで、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び−NH−結合からなる群より選択される少なくとも1つを有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜としてもよい。イミド結合の一部を開環させる場合の、不変化率は、以下のように求める。
(1)後述のイミド結合開環工程を行わないポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜(ただし、当該多孔質膜を作成するためのワニスがポリアミド酸を含む場合、焼成工程において、実質的にイミド化反応が完結しているものとする。)について、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT−IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X1)を求める。
(2)前記値(X1)を求めた多孔質膜と同一のポリマー(ワニス)を用いて、得られたポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に対し、後述のイミド結合開環工程を行った後のポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜について、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT−IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X2)を求める。
(3)不変化率(%)=(X2)÷(X1)×100
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜について、不変化率は、60%以上であることが好ましく、70%〜99.5%であることがより好ましく、80〜99%であることが更に好ましい。
ポリアミドイミドを含む多孔質膜の場合は、−NH−結合を含むため100%であってもよい。
【0141】
また、本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜がポリイミド多孔質膜である場合は、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT−IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値をイミド化率とすると、ポリイミドの場合は上記説明における(X2)が、1.2以上であるものが好ましく、1.2〜2であるものがより好ましく、1.3〜1.6であるものが更に好ましく、1.30〜1.55であるものが更により好ましく、1.35〜1.5未満が特に好ましい。また、(X1)についてのイミド化率は、本発明においては、1.5以上のものを用いることが好ましい。イミド化率は、相対的に数字が大きいほど、イミド結合の数が多い、即ち、上述の開環したイミド結合が少ないことを表す。
【0142】
<ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法>
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する工程(以下、「イミド結合開環工程」ということがある。)を含む方法により製造することができる。イミド結合開環工程において、上述のように、イミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に、理論上これらの基と等モルの−NH−結合も形成される。イミド結合開環工程は、後述のケミカルエッチングにより行うことが好ましい。
【0143】
もっとも、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜が含有する樹脂が実質的にポリアミドイミドからなる場合、イミド結合開環工程を施さなくても既に−NH−結合を有しており、良好な吸着力を有し、また、そのために流体の流速を遅くする必要も特にない点で、イミド結合開環工程は必ずしも必要ではないが、本発明の目的をより効果的に達成するためには、イミド結合開環工程を施すことが好ましい。
【0144】
本発明において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の製造方法は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する工程(イミド結合開環工程)を含むものであってもよい。
【0145】
本発明において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の製造方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを主成分とする成形膜(以下、「ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜」と略称することがある。)を作製したのち、イミド結合開環工程を行うことが好ましい。イミド結合開環工程を施す対象である、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜としては、多孔質であってもよいし非多孔質であってもよく、また、その形状は特に限定されないが、得られるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜における多孔質の程度を高めることができる点で、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜は、多孔質であることが好ましく、及び/又は、膜等の薄い形状であることが好ましい。
【0146】
ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜は、上述のように、イミド結合開環工程を施す際に非多孔質であってもよいが、その場合、イミド結合開環工程の後に多孔質化することが好ましい。
ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜をイミド結合開環工程の前であるか後であるかに関わりなく多孔質化する方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと微粒子との複合膜(以下、「ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜」ということがある。)から該微粒子を取り除いて多孔質化する微粒子除去工程を含む方法が好ましい。
【0147】
本発明において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の製造方法としては、(a)微粒子除去工程の前に、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと微粒子との複合膜にイミド結合開環工程を施してもよいし、又は、(b)微粒子除去工程の後に、該工程により多孔質化したポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜にイミド結合開環工程を施してもよいが、得られるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜における多孔質の程度を高めることができる点で、後者の(b)の方法が好ましい。
【0148】
以下に、本発明において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の製造方法を、好ましい態様である膜(多孔質膜)の形態をとる場合を主に例にとり、詳述する。膜はワニスを用いて好適に製造することができる。
【0149】
[ワニスの製造]
ワニスの製造は、予め微粒子が分散した有機溶剤とポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミドを任意の比率で混合するか、微粒子を予め分散した有機溶剤中でテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミド酸とするか、更にイミド化してポリイミドとすることで製造でき、最終的に、その粘度を300〜2000cPとすることが好ましく、400〜1800cPの範囲がより好ましい。ワニスの粘度がこの範囲内であれば、均一に成膜をすることが可能である。
【0150】
上記ワニスには、微粒子を、焼成(焼成が任意の場合は乾燥)してポリイミド系樹脂−微粒子複合膜とした際に微粒子/ポリイミド系樹脂の比率が1〜4(質量比)となるように樹脂微粒子とポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドとを混合でき、微粒子/ポリイミド系樹脂の比率は1.1〜3.5(質量比)であることが好ましい。更に、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜とした際に、微粒子/ポリイミド系樹脂の体積比率が1.1〜5となるように、微粒子とポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドとを混合するとよい。また、微粒子/ポリイミド系樹脂の比率を1.1〜4.5(体積比)とすることが、更に好ましい。微粒子/ポリイミド系樹脂の質量比又は体積比が下限値以上であれば、多孔質膜として適切な密度の孔を得ることができ、上限値以下であれば、粘度の増加や膜中のひび割れ等の問題を生じることなく安定的に成膜をすることができる。なお、本明細書において、体積%及び体積比は、25℃における値である。
【0151】
<微粒子>
本発明で用いられる微粒子の材質は、ワニスに使用する有機溶剤に不溶で、成膜後選択的に除去可能なものなら、特に限定されることなく使用することができる。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al)、炭酸カルシウム等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリスチレン、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエチレン等の有機高分子微粒子(樹脂微粒子)が挙げられる。
【0152】
ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造の際使用することの好ましいものとして、無機材料ではコロイダルシリカ等のシリカ又は有機高分子微粒子のPMMA等を挙げることができる。なかでもこれらの球状粒子を選択することが、内面に曲面を有する微小な孔を形成するためには好ましい。
【0153】
本発明で用いられる樹脂微粒子としては、例えば、通常の線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーから、目的に応じ特に限定されることなく選択できる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断されるポリマーであり、解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。何れも、加熱時に、単量体、低分子量体、あるいは、COまで分解することによって、ポリイミド系樹脂膜から除去可能である。使用される樹脂微粒子の分解温度は200〜320℃であることが好ましく、230〜260℃であることが更に好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミド系樹脂の焼成条件の選択の幅が広くなる。また、分解温度が320℃以下であれば、ポリイミド系樹脂に熱的なダメージを与えることなく樹脂微粒子のみを消失させることができる。
【0154】
これら解重合性ポリマーのうち、熱分解温度の低いメタクリル酸メチル若しくはメタクリル酸イソブチルの単独(ポリメチルメタクリレート若しくはポリイソブチルメタクリレート)、あるいはこれを主成分とする共重合ポリマーが孔形成時の取り扱い上好ましい。
【0155】
本発明で用いられる微粒子は、形成される多孔質膜における孔の内面に曲面を有しやすい点で、真球率が高いものが好ましい。使用する微粒子の粒径(平均直径)としては、例えば、50〜2000nm、好ましくは200〜1000nmのものを用いることができる。微粒子を取り除いて得られるポリイミド系樹脂多孔質膜が、分離材又は吸着材として流体を通過させる際に多孔質膜における孔の内面に流体を万遍なく接触させることができ、流体に含まれる金属粒子等の微小物質の吸着を効率よく行うことができ、好ましい。また、粒径分布指数(d25/75)が1〜6であればよく、1.6〜5が好ましく、2〜4の範囲がより好ましい。下限値を1.6以上とすることで、膜内部に粒子を効率的に充填させることができるため、流路を形成しやすく、流速が向上するため好ましい。また、サイズの異なる孔になり、対流の仕方がかわって吸着率が向上すると考えられる。なお、d25、d75は、粒度分布の累積度数がそれぞれ25%、75%の粒子径の値であり、本明細書においては、d25が粒径の大きい方となる。
【0156】
また、後述の製造方法において、未焼成複合膜を2層状の未焼成複合膜として形成する場合、第一のワニスに用いる微粒子(B1)と第二のワニスに用いる微粒子(B2)とは、同じものを用いてもよいし、互いに異なったものを用いてもよい。基材に接する側の孔をより稠密にするには、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも粒径分布指数が小さいか同じであることが好ましい。あるいは、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも真球率が小さいか同じであることが好ましい。また、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも微粒子の粒径(平均直径)が小さいことが好ましく、特に、(B1)が100〜1000nm(より好ましくは100〜600nm)、(B2)が500〜2000nm(より好ましくは700〜2000nm)のものを用いることが好ましい。(B1)の微粒子の粒径に(B2)より小さいものを用いることで、得られる多孔質ポリイミド系樹脂多孔質膜表面の孔の開口割合を高く均一にすることができ、且つ、多孔質ポリイミド系樹脂多孔質膜全体を(B1)の微粒子の粒径とした場合よりも多孔質膜(膜)の強度を高めることができる。
【0157】
本発明では、ワニス中の微粒子を均一に分散することを目的に、上記微粒子とともに更に分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、ポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミドと微粒子とを一層均一に混合でき、更には、成形又は成膜した前駆体膜中の微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られるポリイミド系樹脂多孔質膜の表面に稠密な開口を設け、且つ、ポリイミド系樹脂多孔質膜の透気度が向上するように、該多孔質膜の表裏面を効率よく連通させる連通孔を形成することが可能となる。
【0158】
本発明で用いられる分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0159】
<ポリアミド酸>
本発明に用いるポリアミド酸は、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンを重合して得られるものが、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0160】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0161】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独あるいは二種以上混合して用いることもできる。
【0162】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。このジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0163】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2〜10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0164】
フェニレンジアミンはm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4−ジアミノトルエン、2,4−トリフェニレンジアミン等である。
【0165】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。例えば、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0166】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合は炭素数が1〜6程度のものであり、その誘導体基はアルキレン基の水素原子の1以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
【0167】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(p−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−1−ペンテン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−2−ぺンテン、イミノジアニリン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)ペンタン、ビス(p−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、4,4’−ジアミノジフェニルアミド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0168】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0169】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基が何れも他の基を介して結合したものであり、他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様のものが選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0170】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5−ジアミノナフタレン及び2,6−ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0171】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6−アミノ−1−(p−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダンを挙げることができる。
【0172】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(m−アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0173】
カルド型フルオレンジアミン誘導体の例としては、9,9−ビスアニリンフルオレン等を挙げることができる。
【0174】
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素数が2〜15程度のものがよく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0175】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0176】
本発明で使用されるポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、有機溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0177】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0178】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる有機溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類等のフェノール系溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。なかでも、前記含窒素極性溶剤とラクトン系極性溶剤の組み合わせが好ましい。有機溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5〜50質量%とするのが望ましい。
【0179】
これらの有機溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。また、成膜性等の観点から、γ−ブチロラクトン等のラクトン系極性溶剤を添加した混合溶剤としてもよく、有機溶剤全体に対し1〜20質量%添加されていることが好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0180】
重合温度は一般的には−10〜120℃、好ましくは5〜30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3〜24Hr(時間)である。また、このような条件下で得られるポリアミド酸溶液の固有粘度は、好ましくは1000〜100000cP(センチポアズ)、より一層好ましくは5000〜70000cPの範囲である。
【0181】
<ポリイミド>
本発明に用いるポリイミドは、本発明に係るワニスに使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドなら、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0182】
有機溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2−メチル−1,4−フェニレンジアミン、o−トリジン、m−トリジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、有機溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。更に、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したものと同じモノマーを併用することもできる。
【0183】
本発明で用いられる、有機溶剤に溶解可能なポリイミドを製造する手段に特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させ、有機溶剤に溶解させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的に閉環反応によって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミドを溶媒に溶解したものでよい。式中Arはアリール基を示す。
【化9】
【化10】
【0184】
<ポリアミドイミド>
本発明に用いるポリアミドイミドは、本発明に係るワニスに使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリアミドイミドなら、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリアミドイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0185】
また、本発明に用いるポリアミドイミドは、任意の無水トリメリット酸とジイソシアネートとを反応させて得られるものや、任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるものを特に限定されることなく使用できる。
【0186】
上記任意の無水トリメリット酸又はその反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0187】
上記任意のジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、o−トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、4,4’−オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’−ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2′−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0188】
上記任意のジアミンとしては、前記ポリアミド酸の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0189】
<有機溶剤>
ワニスに用いられる有機溶剤としては、ポリアミド酸及び/又はポリイミド系樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しないものであれば、特に限定されず、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤として例示したものが挙げられる。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0190】
ワニス中の全成分のうち、混合溶剤(S)の含有量は、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜85質量%となる量である。ワニスにおける固形分濃度が好ましくは5〜50質量%、より好ましくは15〜40質量%となる量である。
【0191】
また、後述の製造方法において、未焼成複合膜を2層状の未焼成複合膜として形成する場合、第一のワニスにおけるポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミド(A1)と微粒子(B1)との体積比を19:81〜45:65とすることが好ましい。微粒子体積が全体を100とした場合に65以上であれば、粒子が均一に分散し、また、81以内であれば粒子同士が凝集することもなく分散するため、ポリイミド系樹脂成形膜の基板側面に孔を均一に形成することができる。また、第二のワニスにおける、ポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミド(A2)と微粒子(B2)との体積比を20:80〜50:50とすることが好ましい。微粒子体積が全体を100とした場合に50以上であれば、粒子単体が均一に分散し、また、80以内であれば粒子同士が凝集することもなく、また、表面にひび割れ等が生じることもないため、安定して応力、破断伸度等の機械的特性の良好なポリイミド系樹脂多孔質膜を形成することができる。
【0192】
上記の体積比については、第二のワニスは、上記第一のワニスよりも微粒子含有比率の低いものであることが好ましく、上記条件を満たすことにより、微粒子がポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミド中に高度に充填されていても、未焼成複合膜、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜、及びポリイミド系樹脂多孔質膜の強度や柔軟性を担保することができる。また、微粒子含有比率の低い層を設けることで、製造コストの低減を図ることができる。
【0193】
上記した成分のほかに、帯電防止、難燃性付与、低温焼成化、離型性、塗布性等を目的とし、帯電防止剤、難燃剤、化学イミド化剤、縮合剤、離型剤、表面調整剤等、適宜、公知の成分を必要に応じて含有させることができる。
【0194】
[未焼成複合膜の製造]
ポリアミド酸又はポリイミド系樹脂と微粒子とを含有する未焼成複合膜の成形は、成膜の場合、基板上へ上記のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜120℃(好ましくは0〜100℃)、より好ましくは常圧下60〜95℃(更に好ましくは65〜90℃)で乾燥して行う。塗布膜厚は、例えば、1〜500μmであり、5〜200μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。なお、基板上には必要に応じて離型層を設けてもよい。また、未焼成複合膜の製造において、後述のポリイミド系樹脂−微粒子複合膜の製造(焼成工程)の前に、水を含む溶剤への浸漬工程、プレス工程、当該浸漬工程後の乾燥工程をそれぞれ任意の工程として設けてもよい。
【0195】
上記離型層は、基板上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行って作製することができる。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系、フッ素系又はシリコーン等の公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。上記乾燥したポリアミド酸又はポリイミド系樹脂と微粒子とを含有する未焼成複合膜を基板より剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存する。この残存した離型剤は、ポリイミド系樹脂多孔質膜表面の濡れ性や不純物混入に影響し得るため、これを取り除いておくことが好ましい。
【0196】
そこで、上記基板より剥離した未焼成複合膜を、有機溶剤等を用いて洗浄することが好ましい。洗浄の方法としては、洗浄液に未焼成複合膜を浸漬した後取り出す方法、シャワー洗浄する方法等の公知の方法から選択することができる。更に、洗浄後の未焼成複合膜乾燥するために、洗浄後の未焼成複合膜を室温で風乾する、恒温槽中で適切な設定温度まで加温する等、公知の方法が制限されることなく適用できる。例えば、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ることもできる。
【0197】
一方、未焼成複合膜の成膜に、離型層を設けず基板をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や未焼成複合膜の洗浄工程を省くことができる。
【0198】
また、2層状の未焼成複合膜として形成する場合、まず、ガラス基板等の基板上にそのまま、上記第一のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜120℃(好ましくは0〜90℃)、より好ましくは常圧10〜100℃(更に好ましくは10〜90℃)で乾燥して、膜厚1〜40μmの第一未焼成複合膜の形成を行う。
【0199】
続いて、形成した第一未焼成複合膜上に、上記第二のワニスを塗布し、同様にして、0〜80℃(好ましくは0〜50℃)、より好ましくは常圧10〜80℃(更に好ましくは10〜30℃)で乾燥を行い、膜厚5〜150μmの第二未焼成複合膜の形成を行い、2層状の未焼成複合膜を得る。
【0200】
[ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜の製造(焼成工程)]
上記乾燥後の未焼成複合膜(又は2層状の未焼成複合膜、以下同様)に加熱による後処理(焼成)を行ってポリイミド系樹脂と微粒子とからなる複合膜(ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜)とすることができる。ワニスにポリアミド酸を含む場合、焼成工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。なお、焼成工程は任意の工程である。特にワニスにポリイミド又はポリアミドイミドが用いられる場合、焼成工程は行われなくてもよい。
【0201】
焼成温度は、未焼成複合膜に含有されるポリアミド酸又はポリイミド系樹脂の構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120〜400℃が好ましく、更に好ましくは150〜375℃である。
【0202】
焼成を行うには、必ずしも乾燥工程と明確に工程を分ける必要はなく、例えば、375℃で焼成を行う場合、室温〜375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に375℃で20分保持させる等の段階的な乾燥−熱イミド化法を用いることもできる。その際、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ってもよい。
【0203】
できあがったポリイミド系樹脂−微粒子複合膜の厚さは、例えば膜の場合、マイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。どのような平均厚さが好ましいかは、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜又はポリイミド系樹脂多孔質膜の用途によって異なるが、例えば、分離材、吸着材等に使用する場合は、薄い方が好ましく、例えば1μm以上であってもよく、5〜500μmであることが好ましく、8〜100μmであることが更に好ましい。
【0204】
[微粒子除去工程(ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜の多孔質化)]
ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、微細孔を有するポリイミド系樹脂多孔質膜を再現性よく製造することができる。例えば、微粒子として、シリカを採用した場合、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水(HF)等によりシリカを溶解除去することで、多孔質とすることが可能である。また、微粒子が樹脂微粒子の場合は、上述のような樹脂微粒子の熱分解温度以上で、ポリイミド系樹脂の熱分解温度未満の温度に加熱し、樹脂微粒子を分解させてこれを取り除くことができる。
【0205】
[イミド結合開環工程]
本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法は、上述のようにイミド結合開環工程を含むものであってよいが、具体的には、(a)微粒子除去工程の前に、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜にイミド結合開環工程を施すか、又は、(b)微粒子除去工程の後に、該工程により多孔質化したポリイミド系樹脂成形膜にイミド結合開環工程を施すことを含む方法により行うことができる。上記製造方法としては、前者の(a)の方法であっても、ポリイミド系樹脂成形膜の外表面及びその近傍に存在するイミド結合を開環することができ、本発明の目的を達成することができるが、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜における多孔質の程度を高めることができる点で、後者の(b)の方が好ましい。
【0206】
上記イミド結合開環工程は、ケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組合せた方法により行うことができる。ケミカルエッチング法としては特に限定されず、例えば従来公知の方法を用いることができる。
【0207】
ケミカルエッチング法としては、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のケミカルエッチング液による処理が挙げられる。無機アルカリ溶液が好ましい。無機アルカリ溶液として例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンを含むヒドラジン溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液、アンモニア溶液、水酸化アルカリとヒドラジンと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを主成分とするエッチング液等が挙げられる。有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等のアルカリ性溶液が挙げられる。
【0208】
上記の各溶液の溶媒については、純水、アルコール類を適宜選択できる。また界面活性剤を適当量添加したものを使用することもできる。アルカリ濃度は、例えば0.01〜20質量%である。
【0209】
また、物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング等が使用できる。
【0210】
上記した方法は、微粒子除去工程前又は微粒子除去工程後の何れのイミド結合開環工程にも適用可能であるので好ましい。なお、微粒子除去工程後にケミカルエッチング法を行う場合は、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の連通孔を形成しやすく、開孔率を向上させることができる。
【0211】
また、イミド結合開環工程として、ケミカルエッチング法を行う場合は、余剰のエッチング液成分を除去するため、再度ポリイミド系樹脂多孔質膜の洗浄工程を行ってもよい。
ケミカルエッチング後の洗浄としては、水洗単独でもよいが、酸洗浄及び/又は水洗を組み合わせることが好ましい。
また、ポリイミド系樹脂多孔質膜の表面の有機溶媒への濡れ性向上及び残存有機物除去のため、ポリイミド系樹脂多孔質膜の再度焼成工程を行ってもよい。焼成条件は、[ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜の製造(焼成工程)]における焼成条件と同様、適宜設定すればよい。
【0212】
[前記液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする具体的な精製方法]
本発明の第一の態様及び第二の態様である液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法は、該液体の一部又は全部を、上述のポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含む。
【0213】
本発明の第一の態様及び第二の態様である液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法において、該液体の一部又は全部を、上述のポリイミド系樹脂多孔質膜の一方の側から他方の側へ透過させる方法としては、通常、ポリイミド系樹脂多孔質膜を分離材ないし吸着材として用いて、該液体の一部又は全部をろ過することにより行うことができる。分離材ないし吸着材として用いられるポリイミド系樹脂多孔質膜は、後述のフィルターデバイスに組み込まれていてもよい。
【0214】
ポリイミド系樹脂多孔質膜を本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法において使用する形式については、平面状又はポリイミド系樹脂多孔質膜の相対する辺を合わせたパイプ状が挙げられる。パイプ状のポリイミド系樹脂多孔質膜は更にヒダ状にすることが供給液と接触する面積が増えるため好ましい。ポリイミド系樹脂多孔質膜は、後述のとおり供給液と濾液とが混在しないように適宜封止処理が施される。
【0215】
液体又はケイ素化合物含有液の精製は、上述のポリイミド系樹脂多孔質膜を用いて、差圧なし、即ち、重力による自然濾過によっても行うことができるが、差圧により行うことが好ましい。差圧としては、ポリイミド系樹脂多孔質膜の一方の側と他方の側との間に圧力差を設けるものであれば特に限定されないが、通常、ポリイミド系樹脂多孔質膜の片方の側(供給液側)に圧力を加える加圧(陽圧)、ポリイミド系樹脂多孔質膜の片方の側(濾液側)を負圧にする減圧(陰圧)等が挙げられ、加圧が好ましい。
【0216】
加圧は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を透過させる前の液体又はケイ素化合物含有液(本明細書において「供給液」ということがある)が存在する、ポリイミド系樹脂多孔質膜の側(供給液側)に圧力を加えるものであり、例えば、供給液の循環若しくは送液で生じる流液圧の利用又はガスの陽圧を利用することにより圧力を加えるものが好ましい。流液圧は、例えば、ポンプ(送液ポンプ、循環ポンプ等)等の積極的な流液圧付加方法により発生させることができ、具体的に、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ、定量ポンプ、ケミカルポンプ、プランジャーポンプ、ベローズポンプ、ギアポンプ、真空ポンプ、エアーポンプ、液体ポンプ等が挙げられる。流液圧としては、例えば、重力のみに従ってポリイミド系樹脂多孔質膜に液体又はケイ素化合物含有液を透過させる際に該液体又はケイ素化合物含有液によりポリイミド系樹脂多孔質膜に加えられる圧力であってもよいが、上記積極的な流液圧付加方法により圧力が加えられるものが好ましい。加圧に用いるガスとしては、供給液に対し不活性又は非反応性のガスが好ましく、具体的には、窒素、又はヘリウム、アルゴン等の希ガス等が挙げられる。電子材料、特に、半導体等の製造分野においては、加圧が好ましく、その場合、ポリイミド系樹脂多孔質膜を透過した液体又はケイ素化合物含有液を集める側は減圧しない大気圧でよく、加圧としては、ガスによる陽圧が好ましい。なお、上記加圧方法において、加圧バルブ又は加圧弁若しくは三方弁等の弁を介してもよい。
減圧は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を透過した液体又はケイ素化合物含有液を集める側(濾液側)を減圧するものであり、例えば、ポンプによる減圧であってもよいが、真空にまで減圧することが好ましい。
ポンプによる供給液の循環若しくは送液を行う場合、通常、ポンプは、供給液漕(又は循環漕)とポリイミド系樹脂多孔質膜との間に配置される。
【0217】
加圧は、流液圧とガスの陽圧との両方を利用するものであってもよい。また、差圧は、加圧と減圧とを組合せてもよく、例えば、流液圧と減圧との両方を利用するもの、ガスの陽圧と減圧との両方を利用するもの、流液圧及びガスの陽圧と減圧とを利用するものであってもよい。差圧を設ける方法を組み合せる場合、製造の簡便化等の点で、流液圧とガスの陽圧との組合せ、流液圧と減圧との組合せが好ましい。本発明においては、ポリイミド系樹脂多孔質膜を用いるので、差圧を設ける方法として、例えば、ガスによる陽圧等の1つの方法であっても、不純物除去性能に優れた精製を行うことができる。
【0218】
差圧を設けることによりポリイミド系樹脂多孔質膜の前後に付与される圧力差は、使用するポリイミド系樹脂多孔質膜の膜厚、空隙率若しくは平均孔径、又は所望の精製度、流量、流速、又は供給液の濃度若しくは粘度等により適宜設定すればよいが、例えば、いわゆるクロスフロー方式(ポリイミド系樹脂多孔質膜に対して平行に供給液を流す)の場合は、例えば3MPa以下であり、いわゆるデッドエンド方式(ポリイミド系樹脂多孔質膜に対して交差するように供給液を流す)の場合、例えば、1MPa以下である。下限値は特に限定されず、例えば、10Paである。
【0219】
本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法において、液体又はケイ素化合物含有液の一部又は全部をポリイミド系樹脂多孔質膜の一方の側から他方の側へ透過させる際、液体又はケイ素化合物含有液が溶質を含む場合は希釈液により供給液を適宜希釈してもよい。
【0220】
本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法において、供給液を透過させる前に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の洗浄又は供給液に対する濡れ性向上又はポリイミド系樹脂多孔質膜と供給液との表面エネルギー調整のためにメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール又はアセトン、メチルエチルケトン等のケトン、水、供給液に含まれる溶媒又はそれらの混合物等の溶液を、ポリイミド系樹脂多孔質膜に接触させて通液させてもよい。
供給液を透過させる前の上記溶液とポリイミド系樹脂多孔質膜との接触においては、上記溶液にポリイミド系樹脂多孔質膜を含浸ないし浸漬させてもよく、ポリイミド系樹脂多孔質膜を溶液と接触させることによって、例えば、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の孔にも溶液を浸透させることができる。供給液を透過させる前の上記溶液とポリイミド系樹脂多孔質膜との接触は、上述の差圧により行ってもよく、特に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の孔にも溶液を浸透させる場合、加圧下により行ってもよい。
【0221】
本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び−NH−結合からなる群より選択される少なくとも1つを有していてもよい、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを主成分とする多孔質膜であり、上述のように多孔質の程度の高い多孔質膜であるので、分離材、吸着材として好適に使用することができる。本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、連通孔を有する多孔質膜であり、上述のように、好ましくは、内面に曲面を有する孔が形成している連通孔を有する多孔質膜であり、より好ましくは、略球状孔が相互に連通した構造を含む連通孔を有する多孔質膜であるので、該多孔質膜に液体を透過させると、液体又はケイ素化合物含有液に含有される常温で固体の元素を含む不純物の一部又は全部が該液体又はケイ素化合物含有液から除去されることが可能となる。
【0222】
本明細書において、「常温で固体の元素」とは、常温、例えば室温、具体的には20℃において固体である単体を構成する元素を意味する。例えば、元素がFeである場合、Fe元素の単体である、金属としての鉄が常温で固体であるので、本発明における「常温で固体の元素」に該当する。「常温で固体の元素」は、通常、金属元素、半金属元素、一部の非金属元素が挙げられる。金属元素としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属;Be、Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属;Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の周期律表の3〜11族に属する遷移金属;Zn、Al、Ga、Sn等の周期律表の12〜15族に属する金属等が挙げられる。半金属元素としては、例えば、B、Si、Ge、As、Sb、Te、Po等が挙げられる。一部の非金属元素としては、C、P、S、I等が挙げられる。本発明において「常温で固体の元素」としては、金属元素、半金属元素が好ましく、金属元素がより好ましく、鉄及び/又は亜鉛が更に好ましい。
【0223】
本明細書において、「常温で固体の元素を含む不純物」とは、上記「常温で固体の元素」を含む不純物を意味し、該元素の単体であってもよいし、該元素を含む複数の元素からなる化合物であってもよい。
【0224】
本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法は、例えば、半導体等の電子材料の製造分野においてシリル化剤薬液等から除去するニーズが高い点で、上記不純物が金属元素を含む金属不純物である場合、特に好適に適用することができる。本発明においてポリイミド系樹脂多孔質膜を用いることにより、処理前の液体又はケイ素化合物含有液に存在する金属粒子等の微小な物質が、該多孔質膜が有する孔及び/又は連通孔に吸着しやすいものと考えられる。本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、また、更に、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び−NH−結合からなる群より選択される少なくとも1つを有するものであってもよく、これらの基が備える電荷又はクーロン力により、流体に含まれる金属粒子、例えば金属イオンや金属凝集体(例えば、金属酸化物の凝集体、金属と有機物との凝集体)を吸引しやすく、多孔質膜における孔及び/又は多孔質膜への吸着を助長することができるものと考えられ、また、イオン交換膜としても機能することができるものと考えられる。
【0225】
本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法において、ポリイミド系樹脂多孔質膜は、上記のとおり多孔質の程度が高く、連通孔を有する多孔質膜であるので、分離及び/又は吸着により、常温で固体の元素を含む不純物の一部又は全部を処理前の液体から取り除くものと考えられる。本明細書において、「分離」とは、ろ過、単離、除去、捕捉、精製及び篩いからなる群より選択される少なくとも1つを含むものであってよく、例えば排水処理にも利用可能である。本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法は、ポリイミド系樹脂多孔質膜が有する孔及び/又は連通孔等に微小物質を吸着することにより、該微小物質を含有していた液体から該微小物質を分離する処理のように、分離と吸着との両方を行うこととなる処理にも好適に使用することができる。
【0226】
本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、上述のように、好ましくは数百ナノメートル単位の平均孔径を有する孔を含有する多孔質膜であるので、例えばナノメートル単位の微小物質をも、多孔質膜における孔及び/又は連通孔に吸着ないし捕捉することができる。そのため、該ポリイミド系樹脂多孔質膜を用いる本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法は、非常に精緻な不純物除去が要求される電子材料、特に、半導体製造分野においても適用することができ、例えば半導体製造に用いられるシリル化剤薬液等の各種液体又はケイ素化合物含有液から不純物の分離及び/又は吸着を行う各種精製方法に好適に適用することができる。
【0227】
本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法において、ポリイミド系樹脂多孔質膜は、例えば、フィルターメディアその他の濾材として使用することができ、具体的には、単独で用いてもよいし、濾材として用いて他の機能層(メンブレン)を付与してもよいし、また、他の濾材に組み合わせるメンブレンとして用いてもよく、例えば、フィルターデバイス等に用いられるメンブレンとして使用することもできる。本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜と組み合わせて用いることができる機能層としては特に限定されず、例えば、ナイロン膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)膜又はこれらを修飾した膜等の化学的又は物理化学的な機能を備えるもの等が挙げられる。
【0228】
本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法において、ポリイミド系樹脂多孔質膜は、例えば半導体製造分野において用いられる金属フィルター等のフィルターメディアとして使用することができ、また、該フィルターメディアと他の濾材とを含む積層体としても使用することができ、フィルターデバイスとしても使用することができる。フィルターデバイスとしては特に限定されないが、フィルターデバイスにおいて、ポリイミド系樹脂多孔質膜は、供給液と濾過液とが交差するように配置される。液体流路との関係においては、流路と並行に配置してもよいし交差するように配置してもよい。供給液が濾過液と分離されるように、ポリイミド系樹脂多孔質膜を通液する前後の領域は、適宜シーリングされる。例えば、シーリングの方法として、本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜を、必要に応じて、光(UV)硬化による接着若しくは熱による接着(アンカー効果による接着(熱溶着等)を含む))、若しくは接着剤を用いた接着等により加工してもよく、又は本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜と他の濾材(フィルタ)とを例えば組み込み法等により接着して用いることができ、これらのポリイミド系樹脂多孔質膜を更に、ポリエチレン、ポリプロピレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド、ポリアミドイミド等の熱可塑性樹脂等からなる外側容器に備えて用いることができる。
【0229】
上述の、本発明の第四の態様であるフィルターメディアは、本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法に用いられるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜からなるフィルターメディア、及び、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を含むフィルターデバイスもまた、本発明の一つである。
【0230】
本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法は、半導体製造分野に用いられる上述のシリル化剤薬液等に含まれる金属を除去するために好適に使用することができ、金属としては、特に鉄、亜鉛の除去率が高く、後述のメタル除去率が鉄については例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、更により好ましくは98%以上とすることができ、亜鉛については例えば45%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上とすることができるが、純水に含有される亜鉛については例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上とすることができ、イミド結合開環工程を経たポリイミド系樹脂多孔質膜を用いる場合、例えば95%以上、好ましくは98%以上とすることもできる。メタル除去率の上限は、高いほど好ましいので特に設定されないが、鉄については例えば100%未満、通常、液体が有機溶剤の場合は99.5%以下、液体が純水の場合は99%以下とすることができ、亜鉛については例えば100%以下とすることができ、場合により99%以下となることもある。
【0231】
また、本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法は、半導体製造分野に用いられる上述のシリル化剤薬液等に含まれる金属等の不純物を除去するために使用する場合、シリル化剤薬液等の流体の流速を高く維持して不純物除去を行うこともでき、その場合の流速としては特に限定されないが、例えば、室温において0.08MPaで加圧した場合の純水の流速が1ml/分以上であればよく、好ましくは3ml/分以上、より好ましくは5ml/分以上、特に好ましくは、10ml/分以上である。上限は特に限定されず、例えば、50ml/分以下とすることができる。本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法は、このように流速を高く維持しながら、不純物の除去率も高く維持することができる。
【0232】
本発明の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを主成分とするポリイミド系樹脂多孔質膜を用いるので、薬液等の流体の流速を高く維持することができ、また、薬液等の液体を常時循環しながらポリイミド系樹脂多孔質膜を透過させる、循環型の精製にも好適に適用することができる。本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、応力、破断伸度等の機械的特性にも優れており、例えば、応力は、例えば10MPa以上が好ましく、より好ましくは15MPa以上、更に好ましくは15〜50MPaとすることができ、また、破断伸度は、例えば10%GL以上、好ましくは15%GL以上とすることができる。破断伸度の上限は、例えば50%GL、好ましくは45%GL、より好ましくは40%GLとすることができるが、空隙率を下げると、破断伸度が高くなる傾向がある。
【0233】
[シリル化剤薬液、膜形成用材料、又は、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物の製造方法]
本発明の第三の態様である、シリル化剤薬液、膜形成用材料、又は、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物の製造方法は、本発明の第一の態様及び第二の態様の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法を用いる。本発明の第一の態様及び第二の態様の液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法が上述のように精製効果に優れた方法であるので、かかる液体又はケイ素化合物含有液を被精製物とする精製方法を用いる、本発明の第三の態様の製造方法は、不純物の含有量が低減されたシリル化剤薬液、膜形成用材料、又は、半導体基板へのドーパント拡散に用いられる拡散剤組成物を製造することができる。
【実施例】
【0234】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0235】
実施例及び比較例では、以下に示すテトラカルボン酸二無水物、ジアミン、ポリアミド酸、ポリアミドイミド、有機溶剤、分散剤及び微粒子を用いた。なお、シリカ(1)の粒径分布指数は約3.3であり、シリカ(2)の粒径分布指数は約1.5である。
・テトラカルボン酸二無水物:ピロメリット酸二無水物
・ジアミン:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
・ポリアミド酸溶液:ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの反応物(固形分21.9質量%(有機溶剤:N,N−ジメチルアセトアミド))
・有機溶剤(1):N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)
・有機溶剤(2):ガンマブチロラクトン
・分散剤:ポリオキシエチレン二級アルキルエーテル系分散剤
・微粒子:シリカ(1):平均粒径700nmのシリカ
シリカ(2):平均粒径300nmのシリカ
・エッチング液(1):メタノール:水(質量比3:7)の混合液のNaOH 1.1質量%溶液
【0236】
<実施例1〜4> ポリイミド多孔質膜
[シリカ分散液の調製]
有機溶剤(1)23.1質量部及び分散剤0.1質量部の混合物に、表1に示す平均粒径を有するシリカ(1)又はシリカ(2)を23.1質量部添加し、撹拌してシリカ分散液を調製した。
【0237】
[ワニスの調製]
ポリアミド酸溶液41.1質量部に、シリカ分散液の調製で得たシリカ分散液を、42.0質量部添加し、更に有機溶剤(1)及び(2)をワニス全体における溶剤組成が有機溶剤(1):有機溶剤(2)=90:10となるようにそれぞれ追加し、撹拌してワニスを調製した。なお、得られたワニスにおけるポリアミド酸とシリカとの体積比は40:60(質量比は30:70)である。
【0238】
[未焼成複合膜の成膜]
上記のワニスを、基材としてPETフィルムにアプリケーターを用い成膜した。90℃で5分間プリベークして、膜厚40μmの未焼成複合膜を製造した。水に3分間浸漬したのち、2本のロール間に未焼成複合膜を通して、未焼成複合膜をプレスした。その際、ロール抑え圧は3.0kg/cm、ロール温度は80℃、未焼成複合膜の移動速度は0.5m/minであった。基材から未焼成複合膜を剥離して未焼成複合膜を得た。
【0239】
[未焼成複合膜のイミド化]
上記未焼成複合膜を表1に記載した温度で各15分間加熱処理(焼成)を施すことにより、イミド化させ、ポリイミド−微粒子複合膜を得た。
【0240】
[ポリイミド多孔質膜の形成]
上記で得たポリイミド−微粒子複合膜を、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した後水洗及び乾燥を行い、ポリイミド多孔質膜を得た。
【0241】
[ケミカルエッチング]
実施例1及び2において、イミド結合開環工程として、ポリイミド多孔質膜をケミカルエッチング液(1)に2分間浸漬してイミド結合開環工程を施し、ポリイミド多孔質膜を得た。その後、340℃15分再焼成を行った。
実施例3及び4においては、イミド結合開環工程としてのケミカルエッチング及びその後の再焼成を行わなかった。
【0242】
<比較例1> 他の樹脂の多孔質膜
比較例1としてポリアミド(ナイロン)製多孔質膜(孔サイズ:約10nm以下、膜厚約75μm)を用意した。
【0243】
<評価>
上記により用意した各多孔質膜について下記評価を行った。結果を表1に表す。
【0244】
[メタル除去率]
用意した各多孔質膜を直径47mmの円形に切り取ってろ材として用い、ハウジングセットした後、イソプロピルアルコール200mL、酢酸ブチル200mLを順番に通液させた。その後、テトライソシアネートシアン0.2質量%酢酸ブチル溶液に鉄を添加して調製した金属不純物含有液を、該液の鉄の含有量(A)を測定したのち、0.08MPaで窒素加圧しながら通液した。
通液後の液の鉄の含有量(B)を測定し、下記式で表される値をメタル除去率(%)とし、以下の基準で評価した。
(A−B)/B×100
但し、ポリエチレン製多孔質膜は、0.08MPaでは膜が破れてメタル除去率を計算できなかった。
【0245】
【表1】
【0246】
表1から、各実施例は概ねメタル除去率が比較例よりも優れており、特に、ナイロン製多孔質膜を用いた比較例1よりも遥かに優れることがわかった。 各実施例は、比較例よりも薄い膜厚で高い除去率を有していることから、フィルターメディア又はフィルターデバイスにポリイミド系樹脂多孔質膜を使用する際、メディアの薄膜化やデバイスの小型化が可能であり、ポリイミド系樹脂多孔質膜をヒダ状に加工する場合も何重にもヒダ化できるため、より高い除去性能を有するフィルターデバイスを作成することが可能となる。
実施例1及び実施例2と実施例3及び実施例4とから、イミド結合開環工程としてのケミカルエッチングを行う方が、メタル除去率が向上することがわかった。
【0247】
ナイロン製多孔質膜を用いた比較例1では、メタル除去率は遥かに低いことがわかった。