(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795995
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】軟磁性扁平粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20060101AFI20201119BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20201119BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20201119BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
B22F1/00 B
C22C38/00 303T
H01F1/147 191
H01F1/20
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-19328(P2017-19328)
(22)【出願日】2017年2月6日
(65)【公開番号】特開2018-127647(P2018-127647A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 滉大
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】越智 亮介
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−087192(JP,A)
【文献】
特開2008−050644(JP,A)
【文献】
特開2010−196123(JP,A)
【文献】
特開2016−174065(JP,A)
【文献】
特開平10−261516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−1/02,
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末を扁平化処理することにより得られた扁平粉末であって、
上記軟磁性扁平粉末が、質量%で、Fe:79%〜82%、Si:5.0%〜9.5%、Al:6.0%〜9.0%、Cr、Ni、Mo、Cu、Tiのうち少なくとも1種類の合計:1.0%〜5.0%、残部がFeおよび不可避的微量不純物からなる合金であり、
上記扁平粉末の長手方向に磁場を印加して測定した保磁力が230A/m以下であり、かつ飽和磁化が0.6〜1.5Tであることを特徴とする軟磁性扁平粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
各種電子デバイスに用いられる、電磁波吸収体用軟磁性扁平粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンやスマートフォンなどの電子機器、情報機器が急速に発達するのに伴い、情報伝達の高速化が進行している。それにより、電子機器の内部において、電磁波による誤作動が問題になっている。さらに、それら電子機器は放射する電磁波の人体への影響も問題視されている。これら電子機器の電磁波吸収体として、軟磁性フェライトや軟磁性扁平粉末が使用されている。
【0003】
特に、軟磁性扁平粉末は、軟磁性フェライトのように焼結して固化成形する必要がなく、樹脂などと混合し、成形されることから、フレキシブルで装着部への自由度が高いため、主に小型の電子機器に広く利用されている。
【0004】
この軟磁性扁平粉末は、アトライター装置を使用し、金属粉末を扁平化する手法が用いられ作製される。これはトルエンといった有機溶媒、金属粉末と粉砕媒体(鋼球)をアトライター装置に装入し、装置内部にある回転羽根によって、粉砕および扁平化される。このような手法には、主に軟磁性合金のFe−Si−Al合金といった脆い材料が使用される。
【0005】
例えば、特開2014−204051号公報(特許文献1)では、上述した手法を用いて作製されたFe−Si−Al合金について述べられている。ここでは、Feは84%〜96%と高濃度であり、かつ、Feに対して、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cuの元素がFeに対して、置換されることを特徴としている。
【0006】
また、例えば、特開2008−50644号公報(特許文献2)では、Feに対して、Si:9.0%〜12%、Al:1.0%〜5.0%、Cr:1.0%〜5.0%を添加することで、従来にない高固有抵抗かつ低保磁力を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−204051号公報
【特許文献2】特開2008−50644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように軟磁性扁平扁平粉末を得るには、乾式または湿式加工によって、水または有機溶媒中で金属粉末と粉砕媒体を混合、粉砕して作製される。その際、水または有機溶媒中で長時間加工されるため、金属粉末は酸化し、磁気特性が劣化する傾向ある。したがって、この金属粉末の酸化を防ぎ、扁平化することが求められている。
【0009】
しかし、上述した特許文献1において、扁平加工時および熱処理時における酸化による組成ズレについて述べられているが、明確な対策は行われておらず、成分検討の意図はあくまで、磁気特性に関してのみである。さらに、Feは84%〜96%と、高濃度であり、耐酸化性および耐食性については、言及されていないものの、これら特性が低いことが推測される。
【0010】
また、特許文献2については、AlおよびCrを含有することで、耐食性を向上させると述べられているが、Alについては5.0%以下と低い値である。また、扁平化加工時に生じる酸化による磁気特性の劣化については考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したような特許文献1および2において、考慮されていなかった課題について、発
明者ら鋭意開発を進めた結果、Alの添加量を増加させ、さらに、Si、Al以外の元素を意図的に添加することで、耐酸化性および耐食性を高め、かつ高い磁気特性を得られることがわかった。その本発明の要旨とするところは、
(1)軟磁性粉末を扁平化処理することにより得られた扁平粉末であって、軟磁性扁平粉末が、Fe:78%〜83%、Si:13%以下(0は含まない)、Al:5.0%超〜13%、Cr、Ni、Mo、Cu、Tiのうち少なくとも1種類の合計:1.0%〜5.0%、残部がFeおよび不可避的微量不純物からなる合金であることを特徴とする軟磁性扁平粉末。
【0012】
(2)扁平粉末の長手方向に磁場を印加して測定した保磁力が230A/m以下であり、かつ飽和磁化が0.6〜1.5Tであることを特徴とする前記(1)に記載された軟磁性扁平粉末にある。
【発明の効果】
【0013】
以上、上述したように本発明により、金属粉末の扁平化加工時の酸化を防ぎ、低い保磁力を実現することができる軟磁性扁平粉末を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、この発明の軟磁性扁平粉末の化学組成およびその磁気特性を上記のように限定した理由を説明する。
Fe:78%〜83%について
Feは、金属粉末に強磁性を持たせ、金属粉末に高い飽和磁束密度を持たせるのに必須元素である。しかし、83%を超えて含有すると金属粉末の耐酸化性および耐食性は減少する。一方、78%未満の場合、飽和磁束密度が大きく減少する。したがって、好ましくは、79%〜82%であり、より好ましくは79%超〜81%の範囲である。
【0015】
Si:13%以下(0は含まない)について
Siは、結晶磁気異方性定数を減少させ、金属粉末の保磁力を減少させる必須元素である。添加量が少ない場合、結晶磁気異方性定数が高く、保磁力も高い傾向にあり、13%を超えると、金属粉末の飽和磁束密度を大きく減少させる。したがって、好ましくは、3.0%〜10%であり、より好ましくは5.0%〜9.5%の範囲である。
【0016】
Al:5.0%超〜13%以下について
Alは、金属粉末の結晶磁気異方性定数を減少させ、金属粉末の保磁力を減少させるとともに、耐酸化性および耐食性を向上させる必須元素である。添加量が5.0%以下の場合、耐食性に劣りかつ結晶磁気異方性定数が高く、保磁力も高い傾向にある。13%を超えると、金属粉末の飽和磁束密度を大きく減少させる。したがって、好ましくは、5.0%〜10%であり、より好ましくは6.0%〜9.0%の範囲である。
【0017】
Cr、Ni、Mo、Cu、Tiのうち少なくとも1種類の合計:1.0%〜5.0%について
Cr、Ni、Mo、Cu、Tiは、金属粉末の耐酸化性および耐食性を向上させる必須元素である。添加量が1.0%未満の場合、耐酸化性および耐食性は向上せず、5.0%を超えると、析出物などの影響により保磁力を大きく増加させる場合がある。したがって、好ましくは、1.5%〜4.5%であり、より好ましくは2.0%〜4.0%の範囲である。
【0018】
扁平粉末の長手方向に磁場を印加して測定した保磁力が230A/m以下であり、かつ飽和磁束密度が0.6〜1.5Tについて
本発明において、扁平粉末が磁性シートとして利用される周波数領域は1〜15MHzであり、その領域において高い透磁率を得るためには、230A/m以下の保磁力でなければ使用に耐えない。したがって、好ましくは、190A/m以下、より好ましくは120A/m以下の範囲である。
【0019】
本発明における扁平粉末の製造方法は従来提案されている方法で可能である。各種のアトマイズ法により、原料となる合金粉末を作製し、これをボールミルやアトライター装置によって乾式あるいは湿式で扁平加工をおこなう。その後、500℃以上の熱処理により保磁力を減少させることが可能である。
【実施例】
【0020】
以下に本発明について実施例により具体的に説明する。
[扁平粉末の作製]
まず表1、2に示す組成について、ガスアトマイズ法により金属粉末を作製し、−150μmに分級した。これらの原料粉末をアトライター装置により、扁平加工をおこなった。アトライターはSUJ2製の直径4.8mmのボールを使用し、原料粉末と工業エタノールとともに撹拌容器に投入し、羽根の回転数350rpmとして実施した。
【0021】
得られた扁平粉末を、扁平加工中に導入された歪みを除去するためにAr雰囲気中で熱処理をおこなった。温度は粉末の焼結温度を考慮して、500〜900℃で3時間保持の熱処理をおこなった。
【0022】
[扁平粉末の評価]
熱処理を加えた扁平粉末をHcメーターおよびVSMを使用し保磁力、飽和磁束密度測定をおこなった。さらに耐食性ついては扁平粉を25℃の20%濃度塩水に100時間浸漬させ、浸漬後の発錆具合を大中小と発錆無の4段階で評価した。発錆無を◎印、浸漬後の発錆具合を小を○、中を△、大を×印とそれぞれ表記した。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
表1、表2のNo.1〜31は本発明例であり、No.32〜43は比較例である。
【0025】
比較例No.32は、Cr含有量によるFe,Si,Al以外の元素合金量が高いために、保磁力が高く、飽和磁束密度が低い。比較例No.33はFe含有量が低く、Ni含有量によるFe,Si,Al以外の元素合金量が高いために保磁力が高い。比較例No.34は、Mo含有量によるFe,Si,Al以外の元素合金量が高いために、保磁力が高く、かつ耐食性に劣る。比較例No.35は、Cu含有量によるFe,Si,Al以外の元素合金量が高いために、保磁力が高く、耐食性が悪い。比較例No.36は、Fe含有量が低く、Ti含有量によるFe,Si,Al以外の元素合金量が高いために、保磁力が高く、飽和磁束密度が低く、かつ耐食性が劣る。
【0026】
比較例No.37〜39は、いずれもFe含有量が低く、Fe,Si,Al以外の元素合金量が高いために、保磁力が高く、耐食性がやや劣る。比較例No.40はFe,Si,Al以外の元素合金量が高いために、保磁力が高く、耐食性が悪い。比較例No.41は、Si含有量が高く、Al含有量が低いために、保磁力が高く、飽和磁束密度が低く、かつ耐食性が悪い。比較例No.42は、Al含有量が高いために、保磁力が高く、飽和磁束密度が低い。比較例No.43は、Al含有量が低いために、保磁力が高く、かつ耐食性が悪い。
【0027】
これに対し、本発明例No.1〜31は、いずれも本発明条件を満足していることから、長手方向に印加した場合の保磁力、飽和磁束密度および耐食性のいずれの特性をも優れていることが分かる。
【0028】
以上のように、本発明は、従来よりもFe以外の合金元素の含有量を高めることで、扁平加工時の酸化による磁気特性に劣化を防ぎ、かつ扁平粉の低い透磁率と高い耐食性を同時実現できる軟磁性扁平粉末を提供できる。
特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊