特許第6795998号(P6795998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795998
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】MTF測定装置およびそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/02 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
   G01M11/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-23583(P2017-23583)
(22)【出願日】2017年2月10日
(65)【公開番号】特開2018-128434(P2018-128434A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2020年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】正岡 顕一郎
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−094701(JP,A)
【文献】 特開2015−078989(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0109613(US,A1)
【文献】 特開2001−283201(JP,A)
【文献】 特表2008−500529(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0276513(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0013760(US,A1)
【文献】 特開2010−237177(JP,A)
【文献】 特開2000−040146(JP,A)
【文献】 特表2015−500839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
境界でコントラストの異なるチャートを用いて、撮像系の空間周波数特性を表すMTFを測定するMTF測定装置であって、
前記撮像系によって前記チャートを撮像したチャート画像から、前記境界を含んだ画像であるROI画像を抽出するROI画像抽出手段と、
前記ROI画像から、前記境界をエッジとして検出し、前記エッジの傾きに沿って前記ROI画像の各画素位置を投影した座標軸上のサブピクセル間隔のビンの位置と前記画素位置とを対応付けたエッジ投影情報を生成するエッジ投影情報生成手段と、
前記エッジ投影情報をグラフとして表示する投影状態表示手段と、
前記エッジ投影情報を用いて、前記ROI画像の各画素の画素値を前記座標軸に投影し、前記ビン単位で平均化することで、前記エッジの特性を示すエッジプロファイルを生成するエッジプロファイル生成手段と、
前記エッジプロファイルからMTFを算出する周波数特性演算手段と、
を備えることを特徴とするMTF測定装置。
【請求項2】
前記エッジプロファイル生成手段は、
前記エッジ投影情報を用いて、前記ROI画像の各画素の画素値を前記座標軸に投影した前記ビン単位で平均化するビン内画素値平均化手段と、
前記画素値が投影されていないビンの画素値を他のビンの画素値から線形補間により算出するビン間画素値補間手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のMTF測定装置。
【請求項3】
前記投影状態表示手段は、前記ROI画像の画素が投影されないビンの位置にマーカを付加して前記グラフを表示することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のMTF測定装置。
【請求項4】
前記グラフは、前記サブピクセル間隔のビンごとに、当該ビンに投影される画素数の累計数を表示したヒストグラムであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のMTF測定装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のMTF測定装置の各手段として機能させるためのMTF測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像系の空間周波数特性を示すMTF(Modulation Transfer Function)を測定するMTF測定装置およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高解像度テレビジョンの最大の特徴は、高い空間解像度であり、カメラの解像度特性が重要となる。現行のハイビジョンカメラの解像度測定として、複数の空間周波数を有する矩形波が空間的に配置されたテストチャートを用いる手法が知られている。このテストチャートには、一般に、一般社団法人映像情報メディア学会(ITE:The Institute of Image Information and Television Engineers)が提供しているテストチャート(ITE高精細度インメガサイクルチャート:図10参照)が用いられる。
図10に示すように、インメガサイクルチャートは、映像周波数1MHzから36MHzまでに相当する白黒の縦縞を並べ、チャート中央と4つのコーナー部分に800TVL/ph(27.7MHz)の縦縞を並べた矩形波のパターンを有している。
【0003】
インメガサイクルチャートを用いる手法では、波形モニタから矩形波の変調度の空間周波数特性を表すCTF(Contrast Transfer Function)を読み取ることが一般的である。
このインメガサイクルチャートを用いる手法は、波形モニタから目視でCTFを読み取ることができる手軽さはあるが、サンプリングの位相の影響で振幅が変動する曖昧さがある。また、一般的に、測定対象であるレンズの中央と周辺とでは解像度特性が異なるため、800TVL/phに相当するチャート中央の矩形波応答しか測定していないのが現状である。
【0004】
さらに、インメガサイクルチャートを用いる手法は、所望の空間周波数特性を得るためには撮像画角を正確にチャートサイズにフレーミングする必要がある。しかし、例えば、4K/8Kカメラでは広角レンズを使用することが多いため、サイズの大きいインメガサイクルチャートが必要となり、非現実的である。
【0005】
そこで、インメガサイクルチャートの代わりに、エッジ画像を含んだチャートを用いて空間周波数特性(MTF)を測定するSlanted-edge法(傾斜エッジ法)が提案されている(特許文献1〜3、非特許文献1参照)。Slanted-edge法は、チャートサイズが比較的小さく、フレーミングが不要な手法で、チャート上のわずかに傾いたエッジ画像を撮像して、そのエッジの広がりからMTFを算出する手法である。
【0006】
このSlanted-edge法は、まず、チャートを撮像したチャート画像からエッジを含む長方形の関心領域(ROI〔Region Of Interest〕;図11参照)を選定する。そして、Slanted-edge法は、ISO12233に準拠したアルゴリズム(非特許文献1参照)等によって、ROIからエッジを検出する。
【0007】
そして、Slanted-edge法は、ROIの各画素を、エッジの傾きに沿って、サブピクセルで等間隔のビンごとに区分した投影軸に投影する。そして、Slanted-edge法は、それぞれのビンごとに投影された複数の画素の画素値の平均値(集合平均)を求め、オーバーサンプリング(ISO12233の場合、4倍オーバーサンプリング)されたエッジ広がり関数(エッジプロファイル)を求める。さらに、Slanted-edge法は、エッジ広がり関数を微分して線広がり関数を算出し、線広がり関数をフーリエ変換して絶対値を求めることでMTFを求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−197201号公報
【特許文献2】特開2010−237177号公報
【特許文献3】特開2015−94701号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ISO 12233:2014,“Photography - Electronic still picture imaging - Resolution and spatial frequency responses”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、離散系の信号処理では、サンプリング位置に対する入力信号の位相によって変調度が変化する。そのため、Slanted-edge法は、エッジがサンプリング位置に対して、ほぼ一様に分布することを前提に、変調度の集合平均からMTFを算出している。
しかし、従来のSlanted-edge法は、エッジの傾きによっては、投影軸のビンに画素が投影されず、集合平均を求めることができない場合がある。
【0011】
具体的には、図12(a)に示すように、エッジeの傾きθeが0°に近い場合(エッジが投影軸〔x軸〕に対してほぼ垂直)、図12(b)に示すように、x軸の等間隔のビンにROIの画素が対応せず、データが欠落するビンが存在する。なお、図12では、画素の1/4の幅をサブピクセルとした例を示している(4倍オーバーサンプリング)。
この画素がビンに対応しない状態は、傾きθeが45°に近い場合でも発生する。あるいは、投影軸をy軸とした場合、エッジがy軸に対してほぼ垂直の場合でも発生する。
また、エッジが適度の傾いていても、ROIのサイズが小さい場合、オーバーサンプリングの逓倍率が高い場合にも、画素が対応しないビンが発生する。
【0012】
この場合、欠落したビンの値を補間してMTFを求めることも考えられるが、エッジに対応する中央部分のビンの欠落が多い場合は、著しくMTFの精度が劣化する。一方、ROIは長方形であるため、ビン配列の両端で、対応する画素が少なくなりやすい。ただし、この場合は、エッジから離れた画素であるため、算出されるMTFの精度に問題がない場合が多い。
このように、従来のSlanted-edge法では、ROIの画素が対応しないビンの発生状態によって、算出されるMTFの精度が大きく異なってしまうという問題がある。
【0013】
そこで、本発明は、Slanted-edge法において、画素が対応しない投影軸のビンの発生状態を可視化して、精度の高いMTFを測定することが可能なMTF測定装置およびそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明に係るMTF測定装置は、境界でコントラストの異なるチャートを用いて、撮像系の空間周波数特性を表すMTFを測定するMTF測定装置であって、ROI画像抽出手段と、エッジ投影情報生成手段と、投影状態表示手段と、エッジプロファイル生成手段と、周波数特性演算手段と、を備える構成とした。
【0015】
かかる構成において、MTF測定装置は、ROI画像抽出手段によって、撮像系がチャートを撮像したチャート画像から、境界を含んだ画像であるROI画像を抽出する。
そして、MTF測定装置は、エッジ投影情報生成手段によって、ROI画像から、境界をエッジとして検出し、エッジの傾きに沿ってROI画像の各画素位置を投影した座標軸上のサブピクセル間隔のビンの位置とROI画像の画素位置とを対応付けたエッジ投影情報を生成する。このとき、エッジの傾きによっては、ビンの位置にROI画像の画素が対応しない場合がある。
【0016】
そして、MTF測定装置は、投影状態表示手段によって、エッジ投影情報をグラフとして表示する。これによって、MTF測定装置は、Slanted-edge法において、ROI画像の画素が対応しないビンの位置を測定者に提示することができる。また、測定者は、ROI画像の画素が対応しないビンを無くすようにチャートを調整することが可能になる。
そして、MTF測定装置は、エッジプロファイル生成手段によって、エッジ投影情報を用いて、ROI画像の各画素の画素値を座標軸に投影し、ビン単位で平均化することで、エッジの特性を示すエッジプロファイルを生成する。
【0017】
さらに、MTF測定装置は、周波数特性演算手段によって、エッジプロファイルを微分することで線広がり関数を求め、その線広がり関数をフーリエ変換することでMTFを算出する。
ここで、測定者が、ROI画像の画素が対応しないビンを無くすようにチャートを調整すれば、MTF測定装置は、精度の高いMTFを算出することができる。
【0018】
なお、MTF測定装置は、コンピュータを、前記したROI画像抽出手段、エッジ投影情報生成手段、投影状態表示手段、エッジプロファイル生成手段、周波数特性演算手段として機能させるためのMTF測定プログラムで動作させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
本発明によれば、ROIのエッジの傾きに応じて画素が投影軸のビンに対応しない状態を可視化して、測定者に提示することができる。
これによって、本発明は、測定者がROIのエッジの傾きを適正に修正することが可能になり、精度の高いMTFを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るMTF測定装置の構成を示すブロック構成図である。
図2】チャート画像におけるROIを説明するための図であって、(a)は垂直のROI(垂直エッジ画像)、(b)は水平のROI(水平エッジ画像)である。
図3】エッジ投影情報を生成する手法を説明するための説明図である。
図4】エッジ投影情報を可視化するグラフ図であって、(a)はヒストグラム、(b)はヒストグラムにマーカを付加した図である。
図5】エッジプロファイルを生成する手法を説明するための説明図である。
図6】測定結果表示手段が表示するMTFの測定結果を示すグラフ図である。
図7】本発明の実施形態に係るMTF測定装置の動作を示すフローチャートである。
図8】多方向のエッジを含むスターバーストチャートの例を示す図である。
図9】回転したROI画像からエッジプロファイルを生成する手法を説明するための説明図であって、(a)は回転したROI画像、(b)は(a)のROI画像からエッジ投影情報を生成する手法を説明するための説明図である。
図10】従来のチャートの例であるインメガサイクルチャートである。
図11】従来のSlanted-edge法で用いられるエッジ画像の例を示す図である。
図12】従来のSlanted-edge法におけるエッジプロファイルの画素欠落を説明するための図であって、(a)は画素を投影軸(x軸)のビンに投影する図、(b)はビンに投影された画素の欠落を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[MTF測定装置の構成]
最初に、図1を参照して、本発明の実施形態に係るMTF測定装置1の構成について説明する。
【0022】
MTF測定装置1は、撮像系2の空間周波数特性を表すMTFを測定するものである。ここで、MTF測定装置1は、撮像系2と表示装置3とを接続する。
【0023】
撮像系2は、MTFの被測定対象となるビデオカメラまたはスチールカメラ、MTFの被測定対象となるレンズを含んだカメラ等である。なお、撮像系2は、MTF特性に影響を与える映像処理装置(例えば、ダウンコンバータ、アップコンバータ〔超解像〕)であってもよい。また、被測定対象は、カメラのDETAIL(ディテール)コントロールによってMTFが変化する映像であってもよい。
この撮像系2は、チャートCHを撮像した画像を、MTF測定装置1に出力する。
【0024】
チャート(MTF測定用チャート)CHは、境界でコントラストの異なるチャートであって、撮像系2の撮像素子(不図示)に対して垂直方向または水平方向から所定角度傾いた境界が直線となる白黒パターンを有するSlanted-edge法で用いるチャートである。撮像系2は、チャートCHの白黒の境界線が、所定角度(1〜5度程度)傾いた状態で撮像する。
【0025】
ここで、水平方向の周波数特性を測定する場合、撮像系2は、図2(a)のように、境界線を斜め垂直方向にした状態でチャートCHを撮像する。また、垂直方向の周波数特性を測定する場合、撮像系2は、図2(b)のように、境界線を斜め水平方向にした状態でチャートCHを撮像する。
なお、測定者は、撮像系2のMTFを測定したい撮像領域、例えば、中央部分、中央右(左、上、下)部分、右(左)斜め上部分、右(左)斜め下部分等に、コントラストの境界が位置するようにして、撮像系2によってチャートCHを撮像する。
【0026】
表示装置3は、MTF測定装置1を操作するユーザインタフェースを提供するとともに、撮像系2が撮像したチャート画像、測定結果となるグラフ等を表示するものである。例えば、表示装置3は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等である。
なお、表示装置3は、撮像系2が撮像したチャート画像を表示する表示装置と、測定結果となるグラフ等を表示する表示装置とをそれぞれ別に設けてもよい。
【0027】
以下、撮像系2で撮像された画像によって、撮像系2のMTFを測定するMTF測定装置1の構成について詳細に説明する。
図1に示すように、MTF測定装置1は、チャート画像記憶手段10と、ROI設定手段11と、ROI画像抽出手段12と、エッジ投影情報生成手段13と、投影状態表示手段14と、MTF算出指示手段15と、エッジプロファイル生成手段16と、周波数特性演算手段17と、測定結果表示手段18と、を備える。
【0028】
チャート画像記憶手段10は、撮像系2でMTF測定用のチャートCHを撮像した画像(チャート画像)を記憶するものである。このチャート画像記憶手段10は、図示を省略した映像入力手段を介して、チャート画像が撮像系2から入力され、入力したチャート画像を記憶する。このチャート画像記憶手段10は、新たなチャート画像が撮像系2から入力された場合、すでに記憶しているチャート画像を新たなチャート画像で上書きする。このチャート画像記憶手段10は、例えば、ハードディスク、メモリ等の一般的な記憶装置である。
なお、チャート画像記憶手段10が記憶するチャート画像は、図示を省略した映像出力手段を介して表示装置3に出力されるとともに、ROI画像抽出手段12によって読み出される。
【0029】
ROI設定手段11は、撮像系2で撮像したチャート画像内で、境界(エッジ)を含む関心領域(ROI)を設定するものである。例えば、ROI設定手段11は、表示装置3が表示しているチャート画像内において、測定者が操作するポインティングデバイス(不図示)で矩形領域を指定されることで、ROIの位置および大きさをROI情報として設定する。
【0030】
ここで、水平方向の周波数特性を測定する場合、ROI設定手段11は、測定者によって、図2(a)のように、チャートCHを撮像したチャート画像から、縦長の矩形領域(ROI)を指定されることで、ROI情報を設定する。この場合、ROIによって、水平方向で明度が異なるROI画像(垂直エッジ画像)が特定されることになる。
【0031】
また、垂直方向の周波数特性を測定する場合、ROI設定手段11は、測定者によって、図2(b)のように、チャートCHを撮像したチャート映像から、横長の矩形領域(ROI)を指定されることで、ROI情報を設定する。この場合、ROIによって、垂直方向で明度が異なるROI画像(水平エッジ画像)が特定されることになる。
このROI設定手段11は、設定したROIの位置および大きさを示すROI情報をROI画像抽出手段12に出力する。
【0032】
ROI画像抽出手段12は、チャート画像記憶手段10が記憶するチャート画像から、ROI設定手段11で設定されたROI情報で示されるROIの位置および大きさの画像を、ROI画像として抽出するものである。
このROI画像抽出手段12は、抽出したROI画像を、エッジ投影情報生成手段13およびエッジプロファイル生成手段16に出力する。
【0033】
エッジ投影情報生成手段13は、ROI画像抽出手段12で抽出されたROI画像から、エッジ投影情報を生成するものである。エッジ投影情報は、ROI画像のコントラストの境界をエッジとして、エッジの傾きに沿ってROI画像の各画素位置を座標軸に投影した位置と、対応する画素位置と対応付けた情報である。
【0034】
具体的には、エッジ投影情報生成手段13は、まず、ROI画像における水平方向および垂直方向の軸を2軸とする座標系(xy座標系)において、ROI画像のxy座標値とその画素値とからエッジの傾きを求める。このエッジの傾きは、一般的な手法で求めることができるが、例えば、正規累積密度関数等によるフィッティングにより求めることができる。
そして、エッジ投影情報生成手段13は、ROI画像の各画素位置と、エッジの傾きに沿って各画素位置をx軸またはy軸に投影した位置とを対応付けたエッジ投影情報を生成する。
【0035】
ここで、図2(a)のROIで特定されるROI画像(垂直エッジ画像)から、MTFとして水平方向の周波数特性を求める場合、エッジ投影情報生成手段13は、図3に示すように、エッジeの傾きθeと同じ角度で水平軸(x軸)にROI画像の画素位置を投影する。
【0036】
また、図2(b)のROIで特定されるROI画像(水平エッジ画像)から、MTFとして水平方向の周波数特性を求める場合、エッジ投影情報生成手段13は、エッジの傾きと同じ角度で垂直軸(y軸:不図示)にROI画像の画素位置を投影する。もちろん、エッジ投影情報生成手段13は、例えば、ROI画像(水平エッジ画像)を右90度回転させて、垂直エッジ画像と同じ処理を行ってもよい。
【0037】
なお、座標軸の座標の幅は、画素よりも小さいサブピクセル単位とし、例えば、1画素の1/4、1/8等の幅の座標系とする。
このエッジ投影情報生成手段13は、ROI画像の画素位置と、サブピクセル単位の座標軸とを対応付けたエッジ投影情報を、投影状態表示手段14およびエッジプロファイル生成手段16に出力する。
【0038】
投影状態表示手段14は、エッジ投影情報生成手段13で生成されたエッジ投影情報を表示するものである。
この投影状態表示手段14は、エッジ投影情報生成手段13で生成されたエッジ投影情報に基づいて、投影される座標軸上のサブピクセル単位のビンごとに、投影されるROI画像の画素の数を累計する。そして、投影状態表示手段14は、ビンごとに画素の累計数を対応付けて、グラフ化する。
【0039】
例えば、投影状態表示手段14は、図4(a)に示すように、横軸をビン単位の座標(ここでは、x軸座標)、縦軸を累計した画素数(pixels/bin)とするヒストグラム(度数分布)を生成する。
この投影状態表示手段14は、このヒストグラムを表示装置3に出力して表示する。これによって、測定者は、画素が対応しないビンの発生状態を確認することができる。
【0040】
なお、投影状態表示手段14は、画素が対応しないビンをより強調するため、図4(b)に示すように、画素が対応しないビンの位置に「×印」等のマーカMを付加することとしてもよい。また、このマーカMは、ヒストグラム等と異なる色(例えば、赤色)で描画することが好ましい。
【0041】
また、ここでは、投影状態表示手段14は、ヒストグラムにより投影状態を可視化したが、累計数の頻度を可視化可能なグラフであれば、ヒストグラムに限定されるものではない。例えば、投影状態表示手段14は、折れ線グラフを生成することとしてもよい。
【0042】
MTF算出指示手段15は、測定者によるMTFの算出の指示を受け付けるものである。測定者は、投影状態表示手段14によって表示されたエッジ投影情報により、画素が対応しないビンの有無を確認し、MTFの測定を継続してもよいと判断した場合に、MTF算出指示手段15により、MTFの算出の指示を行う。
例えば、測定者は、ビンの並びの中央部分(エッジの近傍部分)に画素が欠落したビンが存在しない場合、あるいは、ほぼ存在しない場合(例えば1ビンあたり5画素未満)に、MTFの測定に影響がないものと判断し、MTFの算出の指示を行う。
【0043】
なお、測定者は、MTFの測定が不適切と判断した場合、チャートCHまたは撮像系2を回転させて、画素が対応しないビンの有無を調整することとする。
これによって、MTF測定装置1は、最終的にMTFを測定する前に、精度の高いMTFを測定するためのROI画像の調整を行うことができる。
【0044】
エッジプロファイル生成手段16は、エッジ投影情報生成手段13で生成されたエッジ投影情報に基づいて、ROI画像抽出手段12で抽出されたROI画像から、エッジの特性を示すエッジプロファイルを生成するものである。
なお、エッジプロファイル生成手段16は、MTF算出指示手段15から、MTFを算出する指示が通知された段階で動作する。
ここでは、エッジプロファイル生成手段16は、ビン内画素値平均化手段16aと、ビン間画素値補間手段16bと、を備える。
【0045】
ビン内画素値平均化手段16aは、エッジ投影情報生成手段13で生成されたエッジ投影情報に基づいて、投影軸のビンごとに、対応するROI画像の画素の画素値を平均化するものである。すなわち、ビン内画素値平均化手段16aは、図5に示すように、ビンごとに、エッジ投影情報で対応付けられている画素の画素値を平均化することで、投影軸(x軸)と画素値とを対応付けたエッジプロファイルを生成する。
なお、このエッジプロファイルは、エッジ投影情報で画素値が設定されていないビンが存在する場合、部分的に平均画素値が設定されていないことになる。
このビン内画素値平均化手段16aは、生成したエッジプロファイルを、ビン間画素値補間手段16bに出力する。
【0046】
ビン間画素値補間手段16bは、ビン内画素値平均化手段16aで生成されるエッジプロファイルにおいて、画素値が設定されていないビンの画素値に画素値を設定するものである。
具体的には、ビン間画素値補間手段16bは、画素値が設定されていないビンについて、画素値が設定されている画素値から線形補間することで画素値を算出し、当該ビンに設定する。これによって、ビン間画素値補間手段16bは、画素値が欠落しているビンをなくしたエッジプロファイルを生成することができる。
このビン間画素値補間手段16bは、生成したエッジプロファイルを、周波数特性演算手段17に出力する。
【0047】
周波数特性演算手段17は、エッジプロファイル生成手段16で生成されたエッジプロファイルからMTFを算出するものである。
この周波数特性演算手段17は、エッジプロファイル生成手段16で生成されたエッジプロファイルを微分することで、線広がり関数(LSF:Line Spread Function)を求め、そのLSFをフーリエ変換する。これによって、周波数特性演算手段17は、MTFを求めることができる。
この周波数特性演算手段17は、算出したMTFを測定結果表示手段18に出力する。
【0048】
測定結果表示手段18は、周波数特性演算手段17で算出されたMTFの測定結果を表示するものである。この測定結果表示手段18は、周波数特性演算手段17で算出されたMTFを周波数に対応付けてグラフ化する。
例えば、測定結果表示手段18は、図6に示すように、横軸を周波数(cycles/pixel)、縦軸をMTFとするグラフに対応するデータをプロットする。
この測定結果表示手段18は、このグラフを表示装置3に出力して表示する。これによって、測定者は、被測定対象である撮像系2のMTFを認識することができる。
【0049】
以上説明したようにMTF測定装置1を構成することで、MTF測定装置1は、Slanted-edge法でROI画像の画素をエッジに沿って投影軸にビン単位で投影する際に、ビンに対応する画素の欠落を視覚化して測定者に提示することができる。
これによって、MTF測定装置1は、測定者によるROI画像のエッジの傾き調整が可能になり、精度の高いMTFを測定することができる。
なお、MTF測定装置1は、図示を省略したコンピュータを、前記した各手段として機能させるためのMTF測定プログラムで動作させることができる。
【0050】
[MTF測定装置の動作]
次に、図7を参照(構成については適宜図1参照)して、本発明の実施形態に係るMTF測定装置1の動作について説明する。
【0051】
まず、ステップS1において、MTF測定装置1は、撮像系2で撮像されるチャート画像を入力し、チャート画像記憶手段10に記憶するとともに、表示装置3に表示する。
そして、ステップS2において、MTF測定装置1は、ROI設定手段11によって、ROIの位置および大きさをROI情報として設定する。例えば、ROI設定手段11は、表示装置3が表示しているチャート画像内において、測定者が操作するポインティングデバイス(不図示)で矩形領域を指定されることでROI情報を設定する。
その後、ステップS3において、MTF測定装置1は、ROI画像抽出手段12によって、チャート画像記憶手段10が記憶するチャート画像から、ステップS2で設定されたROI情報で示されるROIの位置および大きさの画像を、ROI画像として抽出する。
【0052】
そして、ステップS4において、MTF測定装置1は、エッジ投影情報生成手段13によって、ステップS3で抽出されたROI画像から、エッジ投影情報を生成する。すなわち、エッジ投影情報生成手段13が、ROI画像からエッジの傾きを求め、ROI画像の各画素位置と、エッジの傾きに沿って各画素位置を投影軸に投影した位置とを対応付けたエッジ投影情報を生成する。
【0053】
そして、ステップS5において、MTF測定装置1は、投影状態表示手段14によって、ステップS4で生成されたエッジ投影情報をグラフ化し、表示装置3に表示する。例えば、投影状態表示手段14は、図4(a)に示すように、投影される座標軸上のサブピクセル単位のビンごとに、投影されるROI画像の画素の数を対応付けて、ヒストグラムによりグラフ化する。このとき、投影状態表示手段14は、図4(b)に示すように、画素が対応しないビンの位置にマーカMを描画して、測定者に対して画素の欠落部分を強調することが好ましい。
【0054】
その後、ステップS6において、MTF測定装置1は、MTF算出指示手段15を介して、測定者によるMTFの算出の指示がなければ(No)、ステップS1に戻って、新たなエッジの傾きを撮像したチャート画像によって、エッジ投影情報を生成し、グラフ化(視覚化)する処理を繰り返す。
一方、ステップS6において、MTF測定装置1は、MTF算出指示手段15を介して、測定者によるMTFの算出の指示があった場合(Yes)、ステップS7に動作を進める。
【0055】
ステップS7において、MTF測定装置1は、エッジプロファイル生成手段16のビン内画素値平均化手段16aによって、エッジ投影情報生成手段13で生成されたエッジ投影情報に基づいて、投影軸のビンごとに、対応するROI画像の画素の画素値を平均化する。すなわち、ビン内画素値平均化手段16aは、図5に示すように、ビンごとに、エッジ投影情報で対応付けられている画素の画素値を平均化することで、投影軸(x軸)と画素値とを対応付けたエッジプロファイルを生成する。
【0056】
そして、ステップS8において、MTF測定装置1は、エッジプロファイル生成手段16のビン間画素値補間手段16bによって、ステップS7で生成されたエッジプロファイルにおいて、画素値が設定されていないビンの画素値を線形補間する。これによって、MTF測定装置1は、画素値が欠落しているビンをなくしたエッジプロファイルを生成することができる。
【0057】
その後、ステップS9において、MTF測定装置1は、周波数特性演算手段17によって、ステップS7,S8で生成されたエッジプロファイルを微分することで、線広がり関数(LSF)を求め、そのLSFをフーリエ変換することでMTFを算出する。
【0058】
そして、ステップS10において、MTF測定装置1は、測定結果表示手段18によって、ステップS8で算出されたMTFの測定結果を表示する。例えば、測定結果表示手段18は、図6に示すように、横軸を周波数(cycles/pixel)、縦軸をMTFとするグラフに対応するデータをプロットして、表示装置3に表示する。
【0059】
以上の動作によって、MTF測定装置1は、Slanted-edge法でROI画像の画素をエッジに沿って投影軸にビン単位で投影する際の画素の割当て状態を可視化して、測定者に提示することができる。
これによって、測定者は、ROI画像のエッジの傾き調整を、表示装置3の画面を見ながら行うことができる。そして、MTF測定装置1は、調整後におけるROI画像のエッジの傾きから、精度の高いMTFを測定することができる。
【0060】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されものではない。
【0061】
(変形例1)
ここでは、MTF測定装置1は、エッジ投影情報を可視化した後、MTF算出指示手段15によって、MTFの算出を指示されるまで、MTF算出を行わない構成とした。これによって、MTF測定装置1は、不要な演算を行わずに測定時間の短縮化を行うことができる。
しかし、MTF測定装置1は、MTF算出指示手段15を構成から省略し、エッジ投影情報を可視化した後、そのままMTFを算出することとしてもよい。
【0062】
その場合、MTF測定装置1は、投影状態表示手段14によって生成されるエッジ投影情報の可視化情報(グラフ;図4)と、測定結果表示手段18によって生成される測定結果(図6)とをあわせて、あるいは、指示に応じて交互に切り替えて表示装置3に表示する。これによって、測定者は、エッジ投影情報の可視化情報を確認することで、測定結果が有効なものであるか否かを判定することができる。
【0063】
(変形例2)
ここでは、ROI画像(エッジ画像)として、水平エッジ画像、垂直エッジ画素を例に説明した。
しかし、ROI画像は、エッジを含めばその傾きは任意である。
【0064】
例えば、MTF測定装置1は、チャートCHとして、図8に示すように、エッジの傾きが多方向(図8では、12方向)に存在するチャートCHを用いてもよい。この場合、ROI設定手段11は、水平または垂直方向のエッジを含む1箇所の矩形領域(例えば、R)を設定されることで、チャートCHの中心Oを点対称の中心として、12個分のROI画像の候補(R〜R12)を特定し、その中の1つを選択されることで、1つのROI画像を設定することとすればよい。
【0065】
そして、エッジ投影情報生成手段13は、選択されたROI画像が、図9(a)に示すように、水平エッジ画像または垂直エッジ画素でなければ、図9(b)に示すように、ROI画像を回転させて、エッジ投影情報を生成すればよい。なお、図9では、図8のROI画像Rを例示している。
【符号の説明】
【0066】
1 MTF測定装置
10 チャート画像記憶手段
11 ROI設定手段
12 ROI画像抽出手段
13 エッジ投影情報生成手段
14 投影状態表示手段
15 MTF算出指示手段
16 エッジプロファイル生成手段
16a ビン内画素値平均化手段
16b ビン間画素値補間手段
17 周波数特性演算手段
18 測定結果表示手段
2 撮像系
3 表示装置
CH チャート(MTF測定用チャート)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12