特許第6796077号(P6796077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許6796077イソブチレン系共重合体を含む樹脂組成物及び成形体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796077
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】イソブチレン系共重合体を含む樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/22 20060101AFI20201119BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20201119BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20201119BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20201119BHJP
   B60C 5/02 20060101ALI20201119BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20201119BHJP
   A61J 1/10 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C08L23/22
   C08L23/26
   C08K5/098
   C08K3/01
   B60C5/02 B
   B65D65/40 D
   A61J1/10 331Z
   A61J1/10 330Z
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-548831(P2017-548831)
(86)(22)【出願日】2016年11月2日
(86)【国際出願番号】JP2016082682
(87)【国際公開番号】WO2017078103
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年5月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-217060(P2015-217060)
(32)【優先日】2015年11月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 航
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 武之
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−157627(JP,A)
【文献】 特開平11−100420(JP,A)
【文献】 特開平10−237299(JP,A)
【文献】 特開2006−131774(JP,A)
【文献】 特開2004−203922(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/024825(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00−23/36
C08K 3/00−3/40
C08K 5/00−5/59
A61J 1/00−1/22
B60C 5/00−5/24
B65D 65/00−65/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン原子を含有するイソブチレン系共重合体(A)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)ハロゲン捕捉剤(C)及びカルボン酸金属塩(D)を含有し、
ハロゲン原子を含有するイソブチレン系共重合体(A)に対するエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の質量比(B/A)が20/80〜50/50であり、
イソブチレン系共重合体(A)及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の総量100質量部に対して、ハロゲン捕捉剤(C)を0.01〜1質量部、カルボン酸金属塩(D)を0.001〜0.3質量部含有する、樹脂組成物。
【請求項2】
ハロゲン捕捉剤(C)が交換性イオンを有する層状無機化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記層状無機化合物がハイドロタルサイトである、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
イソブチレン系共重合体(A)に含有されるハロゲン原子が塩素原子である、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
イソブチレン系共重合体(A)が、ビニル芳香族モノマー単位からなる重合体ブロック(a1)と、イソブチレン単位からなる重合体ブロック(a2)とを有するブロック共重合体である、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層を有する成形体。
【請求項7】
食品パッケージである請求項に記載の成形体。
【請求項8】
容器用パッキンである請求項に記載の成形体。
【請求項9】
医療用輸液バッグである請求項に記載の成形体。
【請求項10】
タイヤ用チューブである請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソブチレン系共重合体を含む樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム状、シート状、袋状、びん状などの形態の食品パッケージ;飲料びんと王冠との密封、医薬品びんと蓋との密封などのための容器用パッキン;医療用輸液バッグ;タイヤ用チューブ等には、ガスバリア性及び柔軟性を有する材料が要求されている。
【0003】
例えば、食品パッケージの材料には、柔軟性及び高度のガスバリア性が要求されるために、エチレン−ビニルアルコール系共重合体又はポリアミドからなるガスバリア層と柔軟性樹脂層とを有する積層体が広く使用されている。容器用パッキンの材料には、柔軟性及びガスバリア性が要求されるために、一般に、NR(天然ゴム)やIIR(ブチルゴム)が使用されている。医療用輸液バッグの材料には、柔軟性及びガスバリア性が要求されるために、一般に、塩化ビニルが使用されている。タイヤ用チューブの材料には、高度のガスバリア性と柔軟性とが要求されるために、一般に、IIRが使用されている。
【0004】
しかしながら、IIRは柔軟性[デュロメータ硬さ(タイプA)65程度]やガスバリア性[OTR 4000cc・20μm/(m・day・atm)程度]に優れるものの、IIRを使用した成形品に柔軟性を発現させるためには、成形後に煩雑な加硫工程が必要である。エチレン−ビニルアルコール系共重合体及びポリアミドはガスバリア性に優れるものの柔軟性が不十分であることから、これらの樹脂からなるバリア層と柔軟性樹脂層との積層体が食品パッケージとして使用されているが、その結果、成形加工上の制限及び煩雑さを伴うことになる。NRは、ガスバリア性があまり高くないので、それを容器用パッキングの材料等に使用した場合、内容物の長期保存性の点で不利である。また、塩化ビニルを用いた成形品は、焼却処分の際の塩化水素ガス発生による環境への悪影響が懸念されている。
【0005】
柔軟性に優れ、かつ加硫工程が不要なポリマー材料として、SEBS(スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体)、SEPS(スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンのトリブロック共重合体)等の熱可塑性エラストマーが提案されている。しかしながら、用途次第でそのガスバリア性が不十分な場合がある。
【0006】
これに対し、食品パッケージ、容器用パッキン、医療用輸液バッグ、タイヤ用チューブ等に使用可能な樹脂組成物として、ビニル芳香族モノマー単位からなる重合体ブロック及びイソブチレン単位からなる重合体ブロックを有するブロック共重合体と、エチレン−ビニルアルコール系共重合体とを含有する樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。この重合体組成物は、柔軟性およびガスバリア性にも優れていると記載されている。しかしながら、特許文献1に記載された重合体組成物を長期間にわたって製造した場合、重合体が架橋して製造が困難になり、当該重合体組成物を安定して生産することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−110086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、柔軟性及びガスバリア性に優れ、なおかつ長期間にわたって安定に製造できる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、当該樹脂組成物を用いた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、ハロゲン原子を含有するイソブチレン系共重合体(A)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)(以下、「エチレン−ビニルアルコール共重合体」を「EVOH」と称することがある)及びハロゲン捕捉剤(C)を含有し、イソブチレン系共重合体(A)に対するエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の質量比(B/A)が20/80〜50/50であり、イソブチレン系共重合体(A)及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の総量100質量部に対して、ハロゲン捕捉剤(C)を0.01〜1質量部含有する、樹脂組成物を提供することによって解決される。
【0010】
ここで、ハロゲン捕捉剤(C)が交換性イオンを有する層状無機化合物であることが好適であり、当該層状無機化合物がハイドロタルサイトであることがより好適である。イソブチレン系共重合体(A)に含有されるハロゲン原子が塩素原子であることも好適である。イソブチレン系共重合体(A)が、ビニル芳香族モノマー単位からなる重合体ブロック(a1)と、イソブチレン単位からなる重合体ブロック(a2)とを有するブロック共重合体であることも好適である。
【0011】
前記樹脂組成物が、イソブチレン系共重合体(A)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の総量100質量部に対し、カルボン酸金属塩(D)を0.001〜0.2質量部含むことが好適である。
【0012】
前記樹脂組成物からなる層を有する成形体が本発明の好適な実施態様である。当該成形体は食品パッケージ、容器用パッキン、医療用輸液バッグ、タイヤ用チューブに好適に用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、柔軟性及びガスバリア性に優れ、なおかつ長期間にわたって製造した場合でも樹脂の架橋が防止されるため、安定に製造できる。当該樹脂組成物を用いた成形体は、柔軟性及びガスバリア性に優れ、しかも良好な外観(ハロゲン補足剤由来の凝集物の少ない外観)を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、ハロゲン原子を含有するイソブチレン系共重合体(A)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)及びハロゲン捕捉剤(C)を含有し、イソブチレン系共重合体(A)に対するエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の質量比(B/A)が20/80〜50/50であり、イソブチレン系共重合体(A)及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の総量100質量部に対して、ハロゲン捕捉剤(C)を0.01〜1質量部含有するものである。
【0015】
本発明の樹脂組成物に含有されるハロゲン原子を含有するイソブチレン系共重合体(A)は、イソブチレン単位の含有量が20質量%以上の共重合体であればよく、共重合可能な他の単量体は特に限定されない。
【0016】
なかでも、イソブチレン系共重合体(A)として、ビニル芳香族モノマー単位からなる重合体ブロック(a1)と、イソブチレン単位からなる重合体ブロック(a2)とを有するブロック共重合体が好ましい。このようなブロック共重合体が含有されることにより、樹脂組成物の柔軟性がさらに向上する。当該ブロック共重合体は、分子中に少なくとも1個の重合体ブロック(a1)と少なくとも1個の重合体ブロック(a2)を有していればよく、その構造は特に限定されない。例えば、前記ブロック共重合体は、直鎖状、2以上に枝分かれした分岐鎖状及び星型のいずれの分子鎖形態を有していてもよい。イソブチレン系共重合体(A)として用いられるブロック共重合体は、典型的には、a1−a2で表されるジブロック構造、a1−a2−a1若しくはa2−a1−a2で表されるトリブロック構造、a1−a2−a1−a2で表されるテトラブロック構造、a1とa2とが計5個以上直鎖状に結合しているポリブロック構造、又はそれらの混合物である。イソブチレン系共重合体(A)は、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0017】
重合体ブロック(a1)の構成単位であるビニル芳香族モノマー単位は、付加重合によりビニル芳香族モノマーから誘導される単位である。このビニル芳香族モノマーとしては、長期間製造時の架橋を抑制する観点からハロゲン原子を含まないものが好ましく、例えばスチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン等のスチレン類;1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類などのビニル基含有芳香族化合物などを挙げることができる。重合体ブロック(a1)を構成するビニル芳香族モノマー単位は1種のみでもよく、2種類以上であってもよい。これらのうち、重合体ブロック(a1)は、スチレン単位からなるものであることが好ましい。
【0018】
得られる樹脂組成物の機械的特性が向上する観点から、重合体ブロック(a1)の数平均分子量の下限は1000であることが好ましく、2000であることがより好ましい。一方、重合体ブロック(a1)の数平均分子量の上限は400000であることが好ましく、200000であることがより好ましい。重合体ブロック(a1)の数平均分子量が上記の範囲の場合には、イソブチレン系共重合体(A)の溶融粘度が高くなりすぎず、後述するEVOH(B)との混合が容易となり、得られる樹脂組成物の成形性や加工性が向上する。
【0019】
イソブチレン系共重合体(A)として用いられるブロック共重合体における、重合体ブロック(a2)の構成単位であるイソブチレン単位は、付加重合によりイソブチレンから誘導される単位(−C(CH−CH−)である。重合体ブロック(a2)の数平均分子量の下限は10000であることが好ましい。これにより、得られる樹脂組成物のガスバリア性が特に良好となる。一方、重合体ブロック(a2)の数平均分子量の上限は400000であることが好ましい。重合体ブロック(a2)の数平均分子量が上記の範囲の場合には、得られる樹脂組成物の成形性や加工性が向上する。
【0020】
イソブチレン系共重合体(A)として用いられるブロック共重合体に含有される、重合体ブロック(a1)と重合体ブロック(a2)との割合は、適宜決定すればよいが、前記ブロック共重合体中の重合体ブロック(a1)の含有量の下限は、イソブチレン系共重合体(A)全質量に対して5質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、15質量%がさらに好ましい。重合体ブロック(a1)の含有量が上記の下限以上の場合には、得られる樹脂組成物の強度などの機械的特性が向上する。一方、重合体ブロック(a1)の含有量の上限は、イソブチレン系共重合体(A)全質量に対して80質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。重合体ブロック(a1)の含有量が上記の上限以下の場合には、溶融粘度が高くなりすぎず、得られる樹脂組成物の成形性や加工性が向上する。なお、イソブチレン系共重合体(A)中に複数の重合体ブロック(a1)が含有されている場合、それらの合計量を、重合体ブロック(a1)の含有量とする。
【0021】
本発明の樹脂組成物に含有されるイソブチレン系共重合体(A)はハロゲン原子を含有するものである。当該ハロゲン原子は、イソブチレン系共重合体(A)の製造時に使用される重合触媒に由来するものであると考えられ、主に、イソブチレン系共重合体(A)の末端に含有される。イソブチレン系共重合体(A)に含有されるハロゲン原子としては、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素などが挙げられ、なかでも、塩素が含有される場合が多い。イソブチレン系共重合体(A)中のハロゲン原子の含有量は、通常、0.005〜3.000質量%である。イソブチレン系共重合体(A)中のハロゲン原子は、イオンクロマトグラフを用いて分析することができる。
【0022】
イソブチレン系共重合体(A)の数平均分子量の下限は12000が好ましく、30000がより好ましい。当該数平均分子量が上記の下限以上の場合には、得られる樹脂組成物の強度、伸度などの機械的特性が向上する。一方、イソブチレン系共重合体(A)の数平均分子量の上限は、600000が好ましく、400000がより好ましい。イソブチレン系共重合体(A)の数平均分子量が上記の上限以下の場合には、得られる樹脂組成物の成形性や加工性が向上する。
【0023】
イソブチレン系共重合体(A)のメルトフローレート(温度230℃、荷重2160gの条件下に、ASTM D1238に記載の方法で測定、以下、「メルトフローレート」を「MFR」と称することがある)の下限は、0.05g/10分が好ましく、2.5g/10分がより好ましく、5.0g/10分がさらに好ましい。一方、イソブチレン系共重合体(A)のMFRの上限は、100g/10分が好ましく、50g/10分がより好ましく、20g/10分がさらに好ましい。MFRが上記の範囲の場合には、得られる樹脂組成物の成形性や加工性が向上する。
【0024】
さらに、イソブチレン系共重合体(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の方法により官能基が導入されていてもよい。導入され得る官能基の例としては、水酸基、アミノ基、アルキルアミノ基、エポキシ基、アルコキシル基などのエーテル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシロキシル基などのエステル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アシルアミノ基などのアミド基、無水マレイン酸残基などのジカルボン酸無水物の構造を有する基等が挙げられる。
【0025】
イソブチレン系共重合体(A)の製造方法は特に限定されないが、ブロック共重合体を製造する場合、重合開始剤を用いて、不活性溶媒中で、ビニル芳香族モノマーの重合操作とイソブチレンの重合操作とを任意の順序で段階的に行うことによって製造する方法が好ましい。その場合に使用される重合開始剤としては、ルイス酸及びルイス酸によってカチオン重合活性種を生成し得る有機化合物との併用系が好ましい。ルイス酸としては、四塩化チタン、四塩化スズ、三塩化ホウ素、塩化アルミニウムなどのハロゲン原子含有化合物が使用される。このようなルイス酸を用いることにより、イソブチレン系共重合体(A)を効率よく製造できる。また、ルイス酸としてハロゲン原子含有化合物を用いた場合、イソブチレン系共重合体(A)の末端に当該ハロゲン原子が含有されることが知られている。ルイス酸によってカチオン重合活性種を生成し得る有機化合物としては、例えば、ビス(1−メトキシ−1−メチルエチル)ベンゼン、ビス(1−アセトキシ−1−メチルエチル)ベンゼン、ビス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼンなどが使用可能である。また、重合用の不活性溶媒としてはヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、塩化メチル、塩化メチレンなどの有機溶媒を使用することができる。
【0026】
さらに、イソブチレン系共重合体(A)の製造方法としては、例えば、重合開始剤系として、上述したルイス酸及びカチオン重合活性種を生成し得る官能基を分子中に1個、2個、又は3個有する有機化合物を使用して、イソブチレンを反応系内に添加して重合させて重合体ブロック(a2)を形成した後、ビニル芳香族モノマーを重合させて重合体ブロック(a1)を形成させる方法が好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物に含有されるEVOH(B)は、主としてエチレン単位とビニルアルコール単位とからなる共重合体であり、エチレン−ビニルエステル共重合体中のビニルエステル単位をけん化して得られるものである。本発明において使用されるEVOH(B)は特に限定されず、溶融成形用途で使用される公知のものを用いることができる。EVOH(B)は、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0028】
EVOH(B)のエチレン単位の含有量の下限としては、20モル%が好ましく、24モル%がより好ましい。上記の下限を下回る場合には、得られる樹脂組成物の溶融成形性が低下するおそれがある。一方、EVOH(B)のエチレン単位の含有量の上限として65モル%が好ましく、60モル%がより好ましく、48モル%がさらに好ましい。上記の上限を超える場合には、得られる樹脂組成物のガスバリア性が低下するおそれがある。
【0029】
EVOH(B)のケン化度は、特に限定されないが、得られる樹脂組成物のガスバリア性を維持する観点から、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
EVOH(B)のMFR(温度210℃、荷重2160gの条件下で、ASTM D1238に記載の方法で測定)は、下限としては0.5g/10分であることが好ましく、1.0g/10分がより好ましく、2.0g/10分がさらに好ましい。一方、MFRの上限としては、100g/10分が好ましく、50g/10分がより好ましく、25g/10分がさらに好ましい。MFRが上記の範囲の場合には、得られる樹脂組成物の成形性や加工性が向上する。
【0031】
EVOH(B)は、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位に加えて、他の構成単位を有していてもよい。他の構成単位としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシランなどのビニルシラン化合物から誘導される単位が挙げられる。これらのなかでも、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランから誘導される単位が好ましい。さらに、EVOH(B)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、プロピレン、ブチレンなどのオレフィン;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸又はそのエステル;N−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドンから誘導される単位を有していてもよい。エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の単位の含有量は、全構成単位に対して10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
【0032】
EVOH(B)の製造方法としては、例えば、公知の方法に従って、エチレン−ビニルエステル共重合体を製造し、次いで、これをケン化することによってEVOH(B)を製造することができる。エチレン−ビニルエステル共重合体は、例えば、エチレンとビニルエステルとを、メタノール、t−ブチルアルコール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒中、加圧下に、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル重合開始剤を用いて重合させることによって得られる。原料のビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどを使用することができるが、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化には、酸触媒またはアルカリ触媒を使用することができる。
【0033】
本発明の樹脂組成物における、イソブチレン系共重合体(A)に対するEVOH(B)の質量比(B/A)の下限は20/80であることが必要であり、25/75が好ましく、30/70がより好ましい。質量比(B/A)が上記の下限未満の場合には、樹脂組成物のガスバリア性が低下する。一方、質量比(B/A)の上限は50/50であることが必要であり、45/55が好ましく、40/60がより好ましい。質量比(B/A)が上記の上限を超える場合には、樹脂組成物の柔軟性が不十分になる。
【0034】
本発明の樹脂組成物に含有されるハロゲン捕捉剤(C)は、ハロゲン捕捉能を有するものであればよく、例えば、交換性イオンを有する層状無機化合物;酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及び炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属化合物;酸化亜鉛;炭酸リチウムなどが挙げられる。
【0035】
なかでも、ハロゲン捕捉剤(C)が交換性イオンを有する層状無機化合物であることが好ましい。層状無機化合物中の層間に存在するイオンがハロゲンイオンと交換されることにより、当該ハロゲンイオンが層状無機化合物に取り込まれる。前記層状無機化合物として、例えば、粘土鉱物;層状ポリ珪酸;層状珪酸塩;層状複水酸化物;層状リン酸塩;チタン・ニオブ酸塩、六ニオブ酸塩及びモリブデン酸塩等の層状遷移金属酸素酸塩;層状マンガン酸化物;層状コバルト酸化物等を挙げることができ、なかでも粘土鉱物が好ましい。
【0036】
前記粘土鉱物として、例えば、ハイドロタルサイト、ゼオライト、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト及びスチーブンサイトが挙げられる。粘土鉱物は、合成粘土であっても天然粘土であってもよい。なかでも、前記粘土鉱物として、ハイドロタルサイト及びゼオライトが好ましく、前者がより好ましい。ハイドロタルサイトとして、下記の一般式(I)で示されるものなど、ゼオライトとして下記式(II)で示されるものなどがそれぞれ挙げられる。
【0037】
Mg1-aAla(OH)2(CO3)a/2・xH2O (I)
Na2O・Al2O3・2SiO2・yH2O (II)
(式I及びII中、xは0〜5の数、aは0<a≦0.5を満たす数、yは0〜6の数を示す。)
【0038】
本発明の樹脂組成物におけるハロゲン捕捉剤(C)の含有量の下限は、イソブチレン系共重合体(A)及びEVOH(B)の総量100質量部に対して、0.01質量部であることが必要であり、0.025質量部であることが好ましい。ハロゲン捕捉剤(C)の含有量が上記の下限未満の場合には、樹脂組成物を長期間にわたって製造した場合に樹脂が急速に架橋する。一方、ハロゲン捕捉剤(C)の含有量の上限は、イソブチレン系共重合体(A)及びEVOH(B)の総量100質量部に対して、1質量部であることが必要であり、0.8質量部であることが好ましい。ハロゲン捕捉剤(C)の含有量が上記の上限を超えると、得られる成形品におけるハロゲン補足剤に由来する凝集物数が増加して外観が損なわれる。
【0039】
本発明の樹脂組成物において、イソブチレン系共重合体(A)に含有されるハロゲン原子に対するハロゲン捕捉剤(C)の質量比[(C)/ハロゲン原子]は0.10以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.20以上であることがさらに好ましく、0.25以上であることが特に好ましい。また、質量比[(C)/ハロゲン原子]は10以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。質量比[(C)/ハロゲン原子]が上記範囲内であることによって、長時間製造時の架橋の進行及びハロゲン捕捉剤の凝集をより抑制でき、余分なハロゲン捕捉剤(C)の使用が抑えられるためコスト低減が可能となる。
【0040】
以上に説明したハロゲン捕捉剤(C)を含有することが本発明の樹脂組成物の大きな特徴である。本発明者が、イソブチレン系共重合体(A)とEVOH(B)とを溶融混練した際に生じる急速な架橋反応の原因について検討した結果、イソブチレン系共重合体(A)に含有されるハロゲン原子が原因であることを突き止めた。イソブチレン系共重合体(A)とEVOH(B)とを溶融混練して樹脂組成物を製造する際に、イソブチレン系共重合体(A)中のハロゲン原子が脱離してハロゲン化水素などが副生し、このような副生物によりイソブチレン系共重合体(A)とEVOH(B)との架橋反応が加速するものと考えられる。そして、本発明者は、ハロゲン捕捉剤(C)を所定量含有させることにより、ハロゲン補足剤に由来する凝集物が増加することなく、イソブチレン系共重合体(A)とEVOH(B)との架橋が抑制されることを見出した。従来、EVOHにハロゲン捕捉剤を添加すると、ハロゲン補足剤に由来する凝集物が増加して得られる成形品の外観が損なわれるとされており、ハロゲン捕捉剤を、EVOHを含む組成物に添加することはなかった。上記のようなハロゲン捕捉剤(C)の効果は、本発明者の検討の結果、初めて見出されたものである。また、本発明の架橋の抑制効果は、短時間で発生するゲル化の抑制のみならず、長期間にわたって製造した場合における架橋反応の進行も抑制するものである。
【0041】
本発明の樹脂組成物における、イソブチレン系共重合体(A)、EVOH(B)及びハロゲン捕捉剤(C)の合計量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、イソブチレン系共重合体(A)とEVOH(B)の総量100質量部に対し、さらに、カルボン酸金属塩(D)を0.001〜0.3質量部含むことが好ましい。これにより、樹脂組成物中のハロゲン捕捉剤(C)の含有量が少なかったとしても、イソブチレン系共重合体(A)とEVOH(B)との急激な架橋をさらに抑制できる。カルボン酸金属塩(D)を構成するカルボン酸としては、炭素数1〜30のカルボン酸が好適であり、具体的には、酢酸、ステアリン酸、ラウリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、オクチル酸、セバシン酸、リシノール酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられ、なかでも、酢酸及びステアリン酸が特に好適である。カルボン酸金属塩(D)を構成する金属としては、アルカリ土類金属が好適であり、具体的には、マグネシウム及びカルシウム等が挙げられる。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、熱安定性や粘度調整の観点でカルボン酸金属塩(D)以外の金属塩や酸等の化合物を含有していてもよい。このような化合物としては、カルボン酸、リン酸化合物及びホウ素化合物などであり、具体的な例としては次のようなものが挙げられる。なお、これらの化合物は、あらかじめイソブチレン系共重合体(A)又はEVOH(B)に含まれていても構わない。
カルボン酸:シュウ酸、コハク酸、安息香酸、クエン酸、酢酸、乳酸等
リン酸化合物:リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等
ホウ素化合物:ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等
【0044】
また、前記樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、上記以外の各種添加剤を含有していてもよい。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、造核剤、難燃剤、イソブチレン系共重合体(A)及びEVOH(B)以外のポリマー等を挙げることができる。前記樹脂組成物における、イソブチレン系共重合体(A)、EVOH(B)及びハロゲン捕捉剤(C)以外の成分の含有量は、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0045】
前記樹脂組成物に含有される、イソブチレン系共重合体(A)及びEVOH(B)以外ポリマーとしては、EPR(エチレン−プロピレン系ゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム)、NR(天然ゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、IIR(ブチルゴム)等のゴム;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。前記樹脂組成物に含有される、イソブチレン系共重合体(A)及びEVOH(B)以外ポリマーの含有量の上限は、全ポリマー成分に対して、20質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。一方、前記樹脂組成物における、全ポリマー成分に対する、イソブチレン系共重合体(A)及びEVOH(B)の合計量の下限は、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物の調製方法は特に制限されないが、イソブチレン系共重合体(A)及びEVOH(B)にハロゲン捕捉剤(C)を添加してから溶融混練することによって調製するのが好ましく、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合装置または混練装置を使用して行うことができる。溶融混練時の温度は、通常、110〜300℃である。ハロゲン捕捉剤(C)は、予めイソブチレン系共重合体(A)やEVOH(B)に含有されていても構わない。
【0047】
<成形体>
本発明の成形体は、前記樹脂組成物からなる。
【0048】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性を有するので、一般の熱可塑性重合体に対して用いられている通常の成形加工方法や成形加工装置を用いて成形加工することができる。成形加工法としては、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができる。このような方法で製造される当該樹脂組成物からなる成形体には、型物、パイプ、シート、フィルム、チューブ、円板、リング、袋状物、びん状物、紐状物、繊維状物などの多種多様の形状のものが包含される。当該成形体の好ましい形状としては、フィルム状、チューブ状である。
【0049】
前記成形体として、前記樹脂組成物からなる層を有する成形体が好ましい。当該成形体は、前記樹脂組成物からなる層を有していれば、単層構造体であっても積層体であっても構わない。耐湿性、機械的特性などを向上させる観点からは、前記成形体として、前記樹脂組成物からなる層を有する積層体が好ましい。
【0050】
前記積層体は、前記樹脂組成物からなる少なくとも1つの層と他の素材からなる少なくとも1つの層とを有する。他の素材は、要求される特性、予定される用途などに応じて適宜好適なものを選択すればよい。他の素材としては、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂などの熱可塑性重合体;アイオノマーなどを挙げることができる。前記熱可塑性樹脂がイソブチレン系共重合体(A)やEVOH(B)であってもよい。
【0051】
前記積層体においては、前記樹脂組成物層と他の素材からなる層との間に接着層又は接着剤を介在させてもよい。接着層又は接着剤を介在させることによって、その両側の2層を強固に接合一体化させることができる。接着層や接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物;ポリオレフィンの酸無水物変性物;高分子ポリオールとポリイソシアネート化合物との混合物等を使用することができるが、特に他の素材からなる層がポリオレフィン層である場合には、接着層又は接着剤を介在しなくても層間接着性に優れるため、接着層又は接着剤を介在させる意義は薄い。なお、多層構造形成のために、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0052】
本発明の成形体の厚みは、50〜5000μmが好ましい。当該成形体が積層体である場合、本発明の樹脂組成物からなる層の厚みは、5〜500μmが好ましく、他の素材からなる層の厚みは45〜4500μmが好ましい。
【0053】
前記成形体は、ガスバリア性と柔軟性にバランスよく優れているため、これらの性質が要求される日用品、包装材、機械部品などとして使用することができる。当該成形体の特長が特に効果的に発揮される用途の例としては、食品パッケージ、容器用パッキン、医療用輸液バッグ、タイヤ用チューブ、靴用クッション、容器、バッグインボックス用内袋、有機液体貯蔵用タンク、有機液体輸送用パイプ、暖房用温水パイプ(床暖房用温水パイプ等)などが挙げられる。これらのうち特に好適な用途は、食品パッケージ、容器用パッキン、医療用輸液バッグ、タイヤ用チューブである。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
[塩素原子量]
イソブチレン系共重合体(A)を燃焼・吸収装置(三菱アナリテック社製「AQF−2100H」)にて前処理した。得られた処理液をイオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス社製「ICS−2000」)にて測定することで塩素原子量を検出した。
【0055】
[イソブチレン系共重合体]
A−1〜A−3については、合成例1〜合成例3において後述する。
A−4:カネカ製「SIBSTAR 062T」、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体
MFR10g/10分(230℃、荷重2160g);スチレン単位からなる重合体ブロックの含有量24質量%、数平均分子量60000;イソブチレン単位からなる重合体ブロックの含有量77質量%;塩素原子含有量0.11質量%
A−5:旭化成製「Taftec H1041」、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体
MFR5.0g/10分、スチレン単位からなる重合体ブロックの含有量30質量%;ブタジエン単位からなる重合体ブロックの含有量70質量%;塩素原子含有量0.00質量%
【0056】
[EVOHのエチレン含有量及びケン化度]
測定装置に日本電子社製「JNM−GX−500型」、溶媒にDMSO−dを用いたH−NMR測定により求めた。
【0057】
[メルトフローレート(MFR)]
メルトインデクサ(東洋精機製作所製「A−111A」)を用い、所定の条件下(イソブチレン系共重合体:温度230℃、荷重2160g;EVOH:温度210℃、荷重2160g)、ASTM D1238に記載の方法で、測定試料の流出速度(g/10分)を測定して求めた。
【0058】
[EVOH]
B−1:クラレ製「EVAL F104B」、EVOH
MFR10.0g/10分、エチレン含有量32モル%、ケン化度99.99モル%
B−2:クラレ製「EVAL L104B」、EVOH
MFR8.9g/10分、エチレン含有量27モル%、ケン化度99.99モル%
B−3:クラレ製「EVAL E105B」、EVOH
MFR13.0g/10分、エチレン含有量44モル%、ケン化度100.0モル%
B−4:日本ポリエチレン製「ノバテックLD LJ400」、低密度ポリエチレン
MFR1.5g/10分(190℃、荷重2160g)、密度0.921g/cm
【0059】
[ハロゲン捕捉剤]
C−1:協和化学工業製「ZHT−4A」、ハイドロタルサイト
C−2:協和化学工業製「DHT−4A」、ハイドロタルサイト
【0060】
[カルボン酸金属塩]
D−1:酢酸マグネシウム
D−2:ステアリン酸マグネシウム
D−3:酢酸カルシウム
【0061】
[樹脂組成物の架橋までの時間の評価]
樹脂組成物を75g秤量し、ローラミキサ(株式会社東洋精機製作所製「R100」)に入れて230℃、100rpmで撹拌しトルク変化を経時観察した。トルクが継続的に1N・m以上、上下に変動し始める時間を計測した。
【0062】
[デュロメータ硬さ測定]
JIS K 6253−3に従い、後述する射出片を2本重ねて厚み8mmとした状態で島津製作所社製デュロメータ硬度計(タイプA)を用い、デュロメータ硬さを測定した。
【0063】
[酸素透過度(OTR)]
後述する単層フィルムを20℃/65%RHの条件下で調湿した後、酸素透過速度測定装置(Modern Control社製「OX−Tran2/20」)を用い、20℃/65%RHの条件下でJIS K 7126(等圧法)に記載の方法に準じて酸素透過度(OTR)を測定した。
【0064】
[ハイドロタルサイト凝集物]
後述する単層フィルムを用いて、外観を以下のように評価した。
A:膜面が平滑で、ハイドロタルサイト凝集物が殆どない。
B:膜面が部分的に荒れており、ハイドロタルサイト凝集物がわずかにある。
C:膜面が荒れており、ハイドロタルサイト凝集物が多い。
【0065】
合成例1
[イソブチレン系共重合体A−1の製造]
窒素で置換した攪拌機付きの反応器中に、塩化メチレン1060質量部とメチルシクロヘキセン920質量部とからなる混合溶媒、並びに四塩化チタン2.7質量部及び1,4−ビス(1−メトキシ−1−メチルエチル)ベンゼン0.91質量部とからなる重合開始剤を仕込み、−65℃に冷却した後に、イソブチレン150質量部を仕込んで4時間重合させた。さらに、−65℃の冷却下でジメチルアセトアミド0.08質量部およびスチレン38質量部を添加し、4時間重合させた。得られた反応混合物をメタノールで沈殿させて、イソブチレン系共重合体B−1(スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体)を製造した。得られたB−1の数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により求め、ブロック共重合体中の各ブロックの数平均分子量は該ブロック共重合体の合成中間体であるポリイソブチレンのGPCに基づいて求め、ブロック共重合体中のスチレン単位からなる重合体ブロックの含有量はH−NMRにより求めた。これらの分析結果を表1に示す。
【0066】
合成例2、3
[イソブチレン系共重合体A−2、A−3の製造]
スチレン、イソブチレンおよび1,4−ビス(1−メトキシ−1−メチルエチル)ベンゼンの仕込み割合を変更した以外は合成例1と同様の方法を用いて、イソブチレン系共重合体A−2およびイソブチレン系共重合体A−3(スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体)をそれぞれ製造した。合成例1と同様に分析した結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
比較例7
[樹脂組成物の作製]
イソブチレン系共重合体(A)としてA−1、EVOH(B)としてB−1、ハロゲン捕捉剤(C)としてC−1をそれぞれ用いた。まず、A−1(60質量部)とB−1(40質量部)とをドライブレンドし、得られた混合物にC−1(0.25質量部)を添加してから溶融混練した後、ペレット化及び乾燥して樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物の架橋性の評価を上記方法により行った結果を表2に示す。また、溶融混練条件を以下に示す。
<溶融混練条件>
装置:26mmφ二軸押出機(東洋精機製作所製「ラボプラストミル4C150」)
スクリュー:同方向完全噛合型
ダイスホール数:2ホール(3mmφ)
押出温度:C1=200℃、C2からC5=230℃、ダイ=230℃
乾燥:熱風乾燥80℃/6hr
【0069】
[射出片の作製]
得られた樹脂組成物を以下の条件で射出成形して射出片を作製した。当該射出片のデュロメータ硬さを上記方法により評価した結果を表2に示す。
<射出条件>
装置:射出成形機(日精樹脂工業社製「FS−80S 12AS」)
シリンダー温度:後部/中部/前部/ノズル=200℃/220℃/220℃/200℃
金型温度:60℃
金型:80mm×10mm×4mm×4本
【0070】
[単層フィルムの作製]
得られた樹脂組成物を以下の条件で製膜し、厚み100μmの単層フィルムを得た。当該単層フィルムの酸素透過度、ハイドロタルサイト凝集物を上記方法により評価した結果を表2に示す。また、製膜条件を以下に示す。
<製膜条件>
装置:20mmφ単軸押出機(東洋精機製作所製「ラボプラストミル4M150」)
L/D:20
スクリュー:フルフライト
ダイ:300mmコートハンガーダイ
押出温度:C1=180℃、C2からC3=220℃、ダイ=220℃
スクリーン:50/100/50
冷却ロール温度:40℃
【0071】
比較例8〜19
イソブチレン系共重合体(A)、EVOH(B)及びハロゲン捕捉剤(C)の種類や添加量を表2に示すとおりに変更したこと以外は比較例7と同様にして樹脂組成物を作製及び評価した。また、得られた樹脂組成物を用いて比較例7と同様にして射出片及び単層フィルムを作製、評価した。各評価結果を表2に示す。
【0072】
実施例14〜17
ハロゲン捕捉剤(C)の添加量を表2に示すとおりに変更したこと、及びイソブチレン系共重合体(A)とEVOH(B)を溶融混練する際に、さらにカルボン酸金属塩(D)としてD−1、D−2又はD−3を表2に示す量をそれぞれ添加したこと以外は比較例7と同様にして、樹脂組成物を作製及び評価した。また、得られた樹脂組成物を用いて比較例7と同様にして射出片及び単層フィルムを作製、評価した。各評価結果を表2に示す。
【0073】
比較例1
ハロゲン捕捉剤(C)を添加しなかったこと以外は比較例7と同様にして樹脂組成物を作製及び評価した。また、得られた樹脂組成物を用いて比較例7と同様にして射出片及び単層フィルムを作製、評価した。各評価結果を表2に示す。
【0074】
比較例2〜4
イソブチレン系共重合体(A)、EVOH(B)及びハロゲン捕捉剤(C)の添加量を表2に示すとおりに変更したこと以外は比較例7と同様にして樹脂組成物を作製及び評価した。また、得られた樹脂組成物を用いて比較例7と同様にして射出片及び単層フィルムを作製、評価した。各評価結果を表2に示す。
【0075】
比較例5
EVOH(B)の代わりに低密度ポリエチレンであるB−4を用いたこと以外は比較例8と同様にして樹脂組成物を作製及び評価した。また、得られた樹脂組成物を用いて比較例7と同様にして射出片及び単層フィルムを作製、評価した。各評価結果を表2に示す。
【0076】
比較例6
イソブチレン系共重合体(A)の代わりにスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であるA−5を用いたこと以外は比較例8と同様にして樹脂組成物を作製及び評価した。また、得られた樹脂組成物を用いて比較例7と同様にして射出片及び単層フィルムを作製、評価した。各評価結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
本発明の樹脂組成物(実施例1〜17)は、長期間にわたって溶融混練しても急激なトルク変動が見られず、樹脂の架橋が抑制されていた。また、これらの樹脂組成物を成形して得られた射出片は柔軟性に優れていた。さらに、これらの樹脂組成物を成形して得られたフィルムはガスバリア性に優れるとともに、ハロゲン補足剤由来の凝集物も少なく外観が良好であった。一方、ハロゲン捕捉剤(C)を含有しない樹脂組成物(比較例1)は、溶融混練時の短時間でのトルク変動から、樹脂の急激な架橋が確認された。ハロゲン捕捉剤(C)の含有量が1質量部を超える樹脂組成物(比較例2)を成形して得られたフィルムは、ハロゲン補足剤に由来する凝集物が多く外観が不良であった。イソブチレン系共重合体(A)に対するEVOH(B)の質量比(B/A)が20/80に満たない樹脂組成物(比較例3)を成形して得られたフィルムはガスバリア性が不十分であった。イソブチレン系共重合体(A)に対するEVOH(B)の質量比(B/A)が50/50を超える樹脂組成物(比較例4)を成形して得られた射出片は、柔軟性が不十分であった。EVOH(B)の代わりに低密度ポリエチレンを用いた樹脂組成物(比較例5)は、ガスバリア性が不十分であった。塩素原子を含有しない樹脂を用いた樹脂組成物(比較例6)では、射出片やフィルムを成形できず、評価できなかった。