特許第6796467号(P6796467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796467
(24)【登録日】2020年11月18日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】半導体基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20201130BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20201130BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20201130BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20201130BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20201130BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/34
   C23C16/42
   H01L29/80 H
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-231902(P2016-231902)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-88502(P2018-88502A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100112520
【弁理士】
【氏名又は名称】林 茂則
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
(72)【発明者】
【氏名】長田 剛規
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/016304(WO,A1)
【文献】 特開2013−145821(JP,A)
【文献】 特開2006−310688(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/072521(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205、21/31、21/337−21/338、
21/365、21/469、21/86、27/095、
29/778、29/80−29/812、
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板、反応抑制層、応力発生層および活性層を有し、前記シリコン基板、前記反応抑制層、前記応力発生層および前記活性層が、前記シリコン基板、前記反応抑制層、前記応力発生層、前記活性層の順に位置する半導体基板であって、
前記反応抑制層が、シリコン原子とIII族原子との反応を抑制する窒化物結晶層であり、
前記応力発生層が、圧縮応力を発生する窒化物結晶層であり、
前記活性層が、電子素子が形成される窒化物結晶層であり、
前記シリコン基板と前記反応抑制層との間に、シリコン原子、アルミニウム原子および窒素原子を主構成原子とするSiAlN層をさらに有し、
前記SiAlN層が、周期構造を有する
半導体基板。
【請求項2】
前記SiAlN層の厚みが、1.8nm以下である
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記SiAlN層のEELS測定におけるSi原子L端ピークにおける損失エネルギー値が、バルクSiの場合と比較してΔEだけ大きく、
前記ΔEが、3.1eV以上4.8eV以下である
請求項1または請求項に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記反応抑制層が、AlGa1−zN(0.9≦z≦1)である
請求項1から請求項の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項5】
前記応力発生層が、
バルク結晶における格子定数がa1である第1結晶層およびバルク結晶における格子定数がa2(a1<a2)である第2結晶層を含む第1多重結晶層である第1の構成、
前記第1結晶層、前記第2結晶層、および、バルク結晶における格子定数がa3(a2<a3)である第3結晶層を含む第2多重結晶層である第2の構成、
バルク結晶における格子定数が、前記シリコン基板の近くから遠ざかるに従い連続的またはステップ状に大きくなるグレーディッド結晶層である第3の構成、または、
前記第1多重結晶層、前記第2多重結晶層または前記グレーディッド結晶層が複数繰り返して積層された多重積層結晶層である第4の構成、
の何れかの構成を有する
請求項1から請求項の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項6】
前記応力発生層が、
バルク結晶における格子定数がa1である第1結晶層およびバルク結晶における格子定数がa2(a1<a2)である第2結晶層を含む第1多重結晶層、または、前記第1多重結晶層が複数繰り返して積層された多重積層結晶層であり、
前記第1結晶層が、AlGa1−xN(0.9≦x≦1)であり、
前記第2結晶層が、AlGa1−yN(0≦y≦0.3)である
請求項に記載の半導体基板。
【請求項7】
前記活性層が、AlGa1−pN(0≦p≦0.1)からなる層を含む
請求項1から請求項の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項8】
前記反応抑制層と前記応力発生層との間に、AlGa1−qN(0≦q≦1、q<z)からなる中間層をさらに有する
請求項1から請求項の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項9】
前記中間層の厚みが、20nm以上600nm以下である
請求項に記載の半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
Si基板上にIII族窒化物半導体を結晶成長する技術として、たとえば以下の文献に示すような技術が検討されている。
【0003】
特許文献1は、デバイス化の工程で発生する割れの抑制を目的として為されたIII族窒化物エピタキシャル基板を開示する。当該III族窒化物エピタキシャル基板は、Si基板と、該Si基板と接する初期層と、該初期層上に形成され、Al組成比が0.5超え1以下のAlGaNからなる第1層およびAl組成比が0超え0.5以下のAlGaNからなる第2層を順次有する積層体を複数組有する超格子積層体と、を有し、前記第2層のAl組成比が、前記基板から離れるほど漸減することを特徴としている。
【0004】
特許文献2は、窒化物半導体層の割れ(クラック)や結晶欠陥、反りの発生を抑制し、かつ生産性の向上が可能な化合物半導体基板を開示する。当該化合物半導体基板は、結晶面方位が(111)面であるシリコン単結晶基板と、前記シリコン単結晶基板上に形成され、AlGa1−xN単結晶(0<x≦1)で構成された第1バッファ層と、前記第1バッファ層上に形成され、厚さが250nm以上350nm以下のAlGa1−yN単結晶(0≦y<0.1)で構成された第1単層と、厚さが5.0nm以上20nm以下のAlGa1−zN単結晶(0.9<z≦1)で構成された第2単層とが交互に複数積層された第2バッファ層と、前記第2バッファ層上に形成され、少なくとも1層以上の窒化物系半導体単結晶層を含む半導体素子形成領域と、を備える。
【0005】
特許文献3は、ウェハの反りを抑制しつつ、リーク電流を一層低減させることができる半導体電子デバイスを開示する。当該半導体電子デバイスは、基板上にバッファ層を介して積層された化合物半導体層を備える半導体電子デバイスであって、前記バッファ層は、Al組成が0.2以下の窒化物系化合物半導体を用いて形成された第1の層上に、Al組成が0.8以上の窒化物系化合物半導体を用いて形成された第2の層が積層された複合層を有する。
【0006】
非特許文献1には、「GaNとAlNを交互に積層させてGaNの上のAlNは緩和させ,AlNの上のGaNには圧縮応力が残るような成長が可能であればGaN/AlNのヒズミ周期構造(Strained Layer Super−latticeと呼称される。以下SLS)を用いて膜全体に圧縮応力を持たせることが可能と予想される。SLS以外にも上に積層させる膜ほど格子定数が広がるような組み合わせにしても圧縮応力を加えることが可能と思われる。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−021124号公報
【特許文献2】特開2010−232322号公報
【特許文献3】特開2008−171843号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K. Matsumoto et al., J. Vac. Soc. Jpn. 54, 6 (2011), p376-380.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
Si基板上にIII族窒化物半導体層を形成する場合、SiとIII族窒化物半導体結晶との熱膨張係数の違いに起因して、基板の反りやIII族窒化物半導体層の割れ(クラック)が発生する。このため、前記した特許文献および非特許文献に記載されているように、内部圧縮応力を発生する層(応力発生層)を形成し、当該圧縮応力と熱膨張係数の相違に起因して窒化物結晶層に発生する引張応力とが均衡され、室温に戻った状態での半導体基板の反りを抑え、III族窒化物半導体層の割れを防止するようにしている。
【0010】
しかし、応力発生層による半導体基板の反りの制御については不明な点も多く、応力発生層とSi基板との間に位置する結晶層の構造、結晶性、化学状態等と反りについての実験結果との関連性を観察することも重要である。そのような観点から、本発明者らは、上記した応力発生層とSi基板との間に位置する結晶層や応力発生層の構造等と反り量との関連につき実験検討を重ね、本件発明をするに至った。
【0011】
本発明の目的は、エピタキシャル成長法を用いてIII族窒化物半導体結晶層を形成するに際し、反り量の小さい半導体基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、シリコン基板、反応抑制層、応力発生層および活性層を有し、前記シリコン基板、前記反応抑制層、前記応力発生層および前記活性層が、前記シリコン基板、前記反応抑制層、前記応力発生層、前記活性層の順に位置する半導体基板であって、前記反応抑制層が、シリコン原子とIII族原子との反応を抑制する窒化物結晶層であり、前記応力発生層が、圧縮応力を発生する窒化物結晶層であり、前記活性層が、電子素子が形成される窒化物結晶層であり、前記シリコン基板と前記反応抑制層との間に、シリコン原子、アルミニウム原子および窒素原子を主構成原子とするSiAlN層をさらに有する半導体基板を提供する。
【0013】
前記SiAlN層の厚みは、1.8nm以下とすることができる。前記SiAlN層は、周期構造を有するものとすることができる。前記SiAlN層のEELS測定におけるSi原子L端ピークにおける損失エネルギー値が、バルクSiの場合と比較してΔEだけ大きいことが好ましく、前記ΔEとして、3.1eV以上4.8eV以下を挙げることができる。
【0014】
前記反応抑制層として、AlGa1−zN(0.9≦z≦1)を挙げることができる。前記応力発生層として、バルク結晶における格子定数がa1である第1結晶層およびバルク結晶における格子定数がa2(a1<a2)である第2結晶層を含む第1多重結晶層である第1の構成、前記第1結晶層、前記第2結晶層、および、バルク結晶における格子定数がa3(a2<a3)である第3結晶層を含む第2多重結晶層である第2の構成、バルク結晶における格子定数が、前記シリコン基板の近くから遠ざかるに従い連続的またはステップ状に大きくなるグレーディッド結晶層である第3の構成、または、前記第1多重結晶層、前記第2多重結晶層または前記グレーディッド結晶層が複数繰り返して積層された多重積層結晶層である第4の構成、の何れかの構成を挙げることができる。特に、前記応力発生層として、バルク結晶における格子定数がa1である第1結晶層およびバルク結晶における格子定数がa2(a1<a2)である第2結晶層を含む第1多重結晶層、または、前記第1多重結晶層が複数繰り返して積層された多重積層結晶層が好ましく、この場合、前記第1結晶層としてAlGa1−xN(0.9≦x≦1)を、前記第2結晶層としてAlGa1−yN(0≦y≦0.3)を挙げることができる。
【0015】
前記活性層が、AlGa1−pN(0≦p≦0.1)からなる層を含んでも良い。前記反応抑制層と前記応力発生層との間に、AlGa1−qN(0≦q≦1、q<z)からなる中間層をさらに有してもよい。前記中間層の厚みは、20nm以上600nm以下が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】半導体基板100の断面図である。
図2】実験例1におけるSiAlN層120の厚さを計測するための図である。
図3】実験例2におけるSiAlN層120の厚さを計測するための図である。
図4】比較例におけるSiAlN層120の厚さを計測するための図である。
図5】窒化処理時間に対するSiAlN層120の厚さをプロットしたグラフである。
図6】実験例1におけるSiAlN層120の構造周期性を示すための図である。
図7】実験例2におけるSiAlN層120の構造周期性を示すための図である。
図8】比較例におけるSiAlN層120の構造周期性を示すための図である。
図9】実験例1、2および比較例におけるSiAlN層120のEELS測定結果を示すグラフである。
図10】Si原子L端ピークにおけるEELS損失エネルギーのバルクSiからの差分(ΔE)を窒化処理時間に対しプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、半導体基板100の断面図である。半導体基板100は、シリコン基板102、反応抑制層104、応力発生層106およびデバイス形成層108を有し、反応抑制層104と応力発生層106との間に中間層110を、シリコン基板102と反応抑制層104との間に、SiAlN層120を有する。応力発生層106は、第1結晶層106aおよび第2結晶層106bからなる第1多重結晶層106cを有する。デバイス形成層108は、活性層112およびショットキ層114を有する。シリコン基板102、反応抑制層104、応力発生層106および活性層112は、シリコン基板102、反応抑制層104、応力発生層106、活性層112の順に位置する。反応抑制層104、応力発生層106および活性層112は、窒化物結晶層である。
【0018】
シリコン基板102は、SiAlN層120より上層の各層を支持する支持基板である。シリコン基板102を用いることにより、材料価格を下げることができ、従来のシリコンプロセスで用いられている半導体製造装置を利用することができる。これにより、コスト競争力を高めることができる。さらに、シリコン基板102を用いることにより、直径150mm以上の大型の基板を安価にかつ工業的に利用することができるようになる。
【0019】
SiAlN層120は、シリコン基板102と反応抑制層104との間に位置し、シリコン原子、アルミニウム原子および窒素原子を主構成原子とする。SiAlN層120は、その厚みを1.8nm以下とすることが好ましい。また、SiAlN層120は、周期構造を有するものとすることができる。さらに、SiAlN層120は、そのEELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)測定におけるSi原子L端ピークにおける損失エネルギー値が、バルクSiの場合と比較してΔEだけ大きく、当該ΔEが、3.1eV以上4.8eV以下ものとすることができる。
【0020】
ここで、SiAlN層120の「厚み」とは、TEM(Transmission Electron Microscopy)画像における濃淡周期のずれから測定されるものとし、たとえば、TEM画像における濃淡周期のずれから、シリコン基板102とSiAlN層120との界面およびSiAlN層120とその上層(本実施の形態の場合反応抑制層104)との界面の位置を特定し、両界面間の距離を厚みと定義することができる。界面位置の特定方法として、たとえば、TEM画像におけるシリコン基板102(または反応抑制層104)の領域からSiAlN層120の領域にかけて取得した、複数ラインについての明度プロファイルにおいて、当該明度プロファイルをフーリエ変換して得られる特定周期における強度が、減少または0になるライン位置を界面位置と特定することができる。なお、SiAlN層120の厚みの下限は、1原子層程度とすることができる。
【0021】
また、「周期構造」とは、SiAlN層120をX線回折や電子線回折等により構造解析した場合に、その構造に何らかの周期性を有するものをいう。たとえばBF−STEM(Bright Field-Scanning TEM)像および電子回折像により原子配列の周期性を検出することができる。
【0022】
反応抑制層104は、シリコン基板102等に含まれるシリコン原子と応力発生層106等に含まれるIII族原子との反応を抑制する窒化物結晶層である。反応抑制層104の上層にある窒化物結晶層が、AlGaN、GaN等のGaN系半導体層である場合、当該GaN系半導体層に含まれるGa原子とシリコン原子との合金化を防止することができる。反応抑制層104として、AlGa1−zN(0.9≦z≦1)を挙げることができ、代表的にはAlN層を挙げることができる。反応抑制層104により、シリコン基板102の表面を保護し、上層の支持を確実にすることができる。また、反応抑制層104は、シリコン基板102上に形成される結晶層の初期核を形成することができる。反応抑制層104の厚さは、30nm以上300nm以下とすることができる。
【0023】
中間層110は、反応抑制層104と応力発生層106との間に位置する窒化物結晶層である。中間層110は任意的な構成要素であり、半導体基板100に必須の構成要素ではない。中間層110が反応抑制層104に接して位置する場合、中間層110のバルク結晶状態における格子定数は、反応抑制層104のバルク結晶状態における格子定数より大きいことが好ましい。中間層110として、たとえばAlGa1−qN(0≦q≦1、q<z)を挙げることができる。中間層110は、反応抑制層104とのヘテロ接合面において、理想的には、結晶格子が反応抑制層104の結晶格子に対しコヒーレントに連続しているように形成できる。これにより、中間層110は、反応抑制層104との格子定数差に起因して圧縮応力を発生できる。また、中間層110は、反応抑制層104で形成した初期核を拡大し、上層に形成する応力発生層106の下地面を形成できる。中間層110の厚さは、20nm以上600nm以下、たとえば300nmとすることができる。なお、中間層110と反応抑制層104のヘテロ界面がコヒーレントに連続しているというのは、あくまでも理想的な状態をいうのであり、実際には欠陥等による格子緩和も混在しており、コヒーレント成長された領域が支配的であるに過ぎない。
【0024】
応力発生層106は、シリコン基板102とデバイス形成層108の間に位置し、圧縮応力を発生する。応力発生層106は、半導体基板100全体の反りを低減する応力発生層として機能する。圧縮応力は応力発生層106内の歪超格子構造により発生させることができる。
【0025】
本実施の形態における応力発生層106は、第1結晶層106aおよび第2結晶層106bからなる第1多重結晶層106cが複数繰り返して積層された多重積層結晶層である。第1結晶層106aは、バルク結晶における格子定数がa1であり、第2結晶層106bは、バルク結晶における格子定数がa2(a1<a2)である。第1多重結晶層106cの繰り返し数は、たとえば2〜500とすることができる。第1多重結晶層106cを多数積層することにより、応力発生層106が発生する圧縮応力を大きくすることができる。また、第1多重結晶層106cの積層数により応力発生層106が発生する圧縮応力の大きさを容易に制御することができる。さらに、第1多重結晶層106cを多数積層することで、第1結晶層106aによる耐電圧の向上をより高めることができる。
【0026】
ここでは、応力発生層106として第1多重結晶層106cが複数繰り返して積層された構成を例示しているが、第1多重結晶層106cは複数繰り返して積層されなくてもよく、この場合第1多重結晶層106cが応力発生層106を構成する。あるいは、応力発生層106は、第1結晶層106aおよび第2結晶層106bに加え、バルク結晶における格子定数がa3(a2<a3)である第3結晶層を含む第2多重結晶層としてもよい。あるいは、バルク結晶における格子定数が、シリコン基板102の近くから遠ざかるに従い連続的またはステップ状に大きくなるグレーディッド結晶層としてもよい。さらに、第1多重結晶層106c、第2多重結晶層またはグレーディッド結晶層が複数繰り返して積層された多重積層結晶層としてもよい。
【0027】
第1結晶層106aとしてAlGa1−xN(0.9≦x≦1)が例示でき、第2結晶層106bとしてAlGa1−yN(0≦y≦0.3)が例示できる。第1結晶層106aの厚さは、1nm以上20nm以下、好ましくは5.0nmを超え20nm未満とすることができる。第2結晶層106bの厚さは、5nm以上300nm以下、好ましくは10nm以上300nm以下とすることができる。
【0028】
デバイス形成層108は、トランジスタやLED(light emitting diode)等任意のデバイスが形成できる結晶層であり、たとえば二次元電子ガス(2DEG)をチャネルとするHEMT(High Electron Mobility Transistor)用である場合、デバイス形成層108は、活性層112およびショットキ層114を有することができる。活性層112としてGaN層が例示でき、ショットキ層114としてAlGaN層が例示できる。
【0029】
デバイス形成層108の熱膨張係数が、シリコン基板102の熱膨張係数より大きい場合、第2結晶層106bの平均格子定数を第1結晶層106aの平均格子定数より大きいものとすることができる。すなわち、デバイス形成層108をMOCVD法等高温環境下で形成した場合、半導体基板100が室温に戻るとデバイス形成層108の熱収縮がシリコン基板102より大きく引張応力を受ける。このような場合、前記した通り、第2結晶層106bのバルク状態における格子定数を第1結晶層106aのバルク状態における格子定数より大きくすれば、応力発生層106に圧縮応力が生じ、デバイス形成層108による引張応力をキャンセルすることができる。
【0030】
活性層112は、電子素子が形成される窒化物結晶層である。活性層112は、AlGa1−pN(0≦p≦0.1)からなる層を含んでも良い。代表的な活性層112としてGaN層を挙げることができる。活性層112は、AlInGaN層であってもよい。活性層112は、2層に分けることができ、上層は炭素原子等の不純物濃度を極力少なくした高純度層とし、下層は炭素原子を含む層とすることができる。下層に炭素原子を含むことで耐電圧を高めることができ、上層の純度を高めることで不純物原子によるキャリアの散乱を少なくし、移動度を高めることができる。
【0031】
ショットキ層114は、たとえばAlx5Ga1−x5N(0<x5<1)である。活性層112およびショットキ層114のヘテロ界面には2次元電子ガス(2DEG)が生成され、トランジスタのチャネル層として機能させることができる。ショットキ層114は、形成するトランジスタの構造に応じて適宜変更することが可能である。
【0032】
シリコン基板102上に位置する応力発生層106およびデバイス形成層108を含む窒化物結晶層の厚さは、6nm以上20000nm以下とすることができ、好ましくは500nm以上13000nm以下とすることができる。窒化物結晶層の厚さを当該範囲とすることで、半導体基板100の反り量を小さくすることができる。シリコン基板102の厚さが400μm以上であり、シリコン基板102の直径が100mm以上である場合、反応抑制層104の厚さは、30nm以上300nm以下とすることが好ましい。シリコン基板102および反応抑制層104を当該範囲とすることで、半導体基板100の反り量を小さくすることができる。
【0033】
シリコン基板102上に位置する反応抑制層104、中間層110、応力発生層106およびデバイス形成層108は、一般的なMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成できる。たとえば、MOCVD法により形成する層がAlN層、AlGaN層およびGaN層である場合、III族原料ガスとしてトリメチルアルミニウム(Al(CH)およびトリメチルガリウム(Ga(CH)を用いることができ、窒素原料ガスとしてアンモニア(NH)を用いることができる。成長温度は1100℃〜1260℃の範囲で選択可能であり、III族原料ガスに対するV族原料ガスの流量比V/III比は、160〜3700の範囲で選択可能である。形成する層の厚さは、たとえば予備実験で得た成長速度から設計厚さに対応する成長時間を算出し、成長時間により厚さを制御できる。
【0034】
SiAlN層120の形成には、シリコン基板102の表面の窒化処理を用いることができる。たとえば、反応抑制層104をMOCVD法で形成する前に、原料ガスを除く成長温度その他の条件を反応抑制層104の形成時と同一に維持した状態で、窒素原料ガスのみを先流しして、シリコン基板102の表面を窒化処理することができる。SiAlN層120の厚さは、窒素原料ガスの先流し時間(窒化処理時間)により制御することができる。なお、SiAlN層120の形成方法として、窒素原料ガスの先流しによる窒化処理を例示したが、他の方法を用いてもよい。たとえばSi原子を含むシリコン原料ガス(たとえばシラン、ジシラン等)をIII族原料ガスおよび窒素原料ガスに混入し、MOCVD法によりSiAlN層120を形成してもよい。
【0035】
上記した半導体基板100では、シリコン基板102上に形成された窒化物結晶層の熱膨張係数がシリコン基板102より大きく、エピタキシャル成長時の高い基板温度が室温近くまで降下するに従い、窒化物結晶層がシリコン基板102より大きく収縮し、その結果、窒化物結晶層に引張応力を生じる。しかし、本実施形態の半導体基板100によれば、SiAlN層120の存在および応力発生層106の存在により圧縮応力が発生され、当該圧縮応力を窒化物結晶層の降温による引張応力と均衡させ、半導体基板100の反りを抑制できる。特に、SiAlN層120の厚みを1.8nm以下とし、あるいはSiAlN層120を周期構造とし、あるいはSiAlN層120のEELS測定におけるSi原子L端ピークにおける損失エネルギー値がバルクSiの場合と比較してΔEだけ大きく、当該ΔEを3.1eV以上4.8eV以下とすることで、応力発生層106による反り低減の効果をより確実ならしめることができる。
【0036】
上記では、反応抑制層104と応力発生層106との間に中間層110を形成した例を説明したが、応力発生層106とデバイス形成層108との間、デバイス形成層108の上層に中間層110を形成しても良い。
【0037】
(実施例)
SiAlN層120の作成を窒素原料ガスの先流しによる窒化処理により行うこととし、窒素原料ガスの先流し時間(窒化処理時間)を20秒、120秒および600秒と変えた3つの試料(半導体基板100)を作製した。すなわち、シリコン基板102として(111)面を主面とするSiウェハを用い、窒素原料ガスの先流しによる窒化処理を上記所定の時間行った後、反応抑制層104、中間層110、応力発生層106およびデバイス形成層108を形成した。反応抑制層104および中間層110として、設計厚さ150〜160nmのAlN層および設計厚さ250nmのAlGaN層を形成した。応力発生層106として、設計厚さ5nmのAlN層(第1結晶層106a)および設計厚さ28nmのAlGaN層(第2結晶層106b)からなるAlN/AlGaN積層構造(第1多重結晶層106c)を繰り返し積層して形成し、デバイス形成層108として、設計厚さ800nmのGaN層(活性層112)および設計厚さ20〜50nmのAlGaN層(ショットキ層114)を形成した。
【0038】
反応抑制層104、中間層110、応力発生層106およびデバイス形成層108(AlN層、AlGaN層およびGaN層)の形成にはMOCVD法を用い、III族原料ガスとしてトリメチルアルミニウムおよびトリメチルガリウムを用い、窒素原料ガスとしてアンモニアを用いた。成長温度は1100℃〜1260℃の範囲で選択し、III族原料ガスに対するV族原料ガスの流量比V/III比は、160〜3700の範囲で選択した。予備実験で得た成長速度から算出した成長時間により各層の厚さを制御したため、各層の実際の厚さと設計厚さとは異なる。
【0039】
窒化処理時間が20秒の試料(実験例1)および120秒の試料(実験例2)は、半導体基板100の反り量が合格判定範囲内にあり、良品であることから実験例とした。窒化処理時間が600秒の試料は、反り量が合格判定範囲外にあり、不良品であることから比較例とした。
【0040】
図2は、実験例1におけるSiAlN層120の厚さを計測するための図であり、図3は、実験例2におけるSiAlN層120の厚さを計測するための図であり、図4は、比較例におけるSiAlN層120の厚さを計測するための図である。図2図4の各図において、(a)はBF−STEM画像を、(b)は(a)のBF−STEM画像における特定ラインに沿ったコントラストプロファイルを、(c)は(b)のコントラストプロファイルをフーリエ変換したコントラストプロファイルの周波数スペクトルを示す。図2から図4の(a)において、BF−STEM画像には原子像の濃淡が表示されており、上部領域には反応抑制層104(AlN)の原子像が、中部領域にはSiAlN層120(SiAlN)の原子像が、下部領域にはシリコン基板102(Si)の原子像が示されている。上部領域および下部領域の原子像は明瞭に表示されており、中部領域の原子像は比較的不明瞭である。
【0041】
以下、図2を例に、SiAlN層120の厚さ計測の方法を説明する。まず、図2(a)の上部領域における原子像の濃淡(ピーク)に沿うようラインa1、a2、a3・・・のような平行な線を引き、当該平行線の間隔が維持されるものとして、中部領域に至る平行線を設定する(ラインa1〜a10)。同様に、下部領域における原子像の濃淡(ピーク)に沿うようラインb6、b5、b4・・・のような平行な線を引き、当該平行線の間隔が維持されるものとして、中部領域に至る平行線を設定する(ラインa6〜b1)。設定したラインa1〜a10、ラインa6〜b1のそれぞれについて、各ラインに沿ったBF−STEM画像のコントラストプロファイルを取得し(図2(b))、各コントラストプロファイルについて、これをフーリエ変換し、各コントラストプロファイルについての周波数スペクトルを得る(図2(c))。上部領域および下部領域においては、それぞれAlNおよびSiの単結晶原子像が表示されており、この単結晶原子像に沿ったラインでのコントラストプロファイルは、ほぼ単一周期の振動波形として表示される(図2(b))ことから、これらをフーリエ変換した周波数プロファイルにおいては、当然にほぼ単一の特定周波数において強度がピークを示す(図2(c))。
【0042】
一方、中部領域においては、その結晶構造が上部領域および下部領域とは異なることから、中部領域における原子像の濃淡(ピーク)は、上部領域または下部領域における原子配列を前提としたラインa10、a9やラインb1、b2から外れることとなる。よって、中部領域におけるラインに沿ったコントラストプロファイルの周波数スペクトルは、上部領域および下部領域において示していた特定周波数におけるピーク強度が低下または無くなり、あるいは上部領域および下部領域において示していた特定周波数とは異なる周波数においてピークを示すようになる。従って、上部領域または下部領域から中部領域に渡り各ラインにおけるコントラストプロファイルの周波数スペクトルを観察し、特定周波数における強度のピーク値が低下し始めたとき、そのラインを中部領域との境界と特定することができる。このようにして特定した上部領域と中部領域との境界と、下部領域と中部領域との境界との距離を測長してSiAlN層120の厚さとすることができる。
【0043】
以上のような方法で測長したSiAlN層120の厚さは、図2に示す実験例1の場合で1.25nmであり、図3に示す実験例2の場合で1.46nmであり、図4に示す比較例の場合で1.88nmであった。図5は、窒化処理時間に対するSiAlN層120の厚さをプロットしたグラフである。上記結果から、SiAlN層120の厚みは1.8nm以下が好ましいことがわかる。
【0044】
図6は、実験例1におけるSiAlN層120の構造周期性を示すための図であり、図7は、実験例2におけるSiAlN層120の構造周期性を示すための図であり、図8は、比較例におけるSiAlN層120の構造周期性を示すための図である。図6図8の各図において、左側の写真はBF−STEM画像を示す。BF−STEM画像の右側には、BF−STEM画像中に1、2・・・等の符号を付して示した四角領域における電子線回折像を各四角領域について示す。各BF−STEM画像の上部領域には反応抑制層104(AlN)の原子像が、中部領域にはSiAlN層120(SiAlN)の原子像が、下部領域にはシリコン基板102(Si)の原子像が示されている。
【0045】
実験例1である図6を参照すれば、SiAlN層120における電子線回折像(符号2,3)のスポットの明瞭さ、スポット数の少なさは、上部領域の反応抑制層104(AlN)における電子線回折像(符号1)および下部領域のシリコン基板102(Si)における電子線回折像(符号4)と同等であり、実験例1におけるSiAlN層120の構造周期性は、シリコン基板102および反応抑制層104と同様に高いと言える。
【0046】
また、実験例2である図7を参照すれば、SiAlN層120における電子線回折像(符号2)のスポットの明瞭さ、スポット数の少なさは、上部領域の反応抑制層104(AlN)における電子線回折像(符号1)および下部領域のシリコン基板102(Si)における電子線回折像(符号3)と同等であり、実験例2におけるSiAlN層120の構造周期性は、シリコン基板102および反応抑制層104と同様に高いと言える。
【0047】
他方、比較例である図8を参照すれば、SiAlN層120における電子線回折像(符号3〜8)のスポットの明瞭さ、スポット数の少なさは、上部領域の反応抑制層104(AlN)における電子線回折像(符号2)および下部領域のシリコン基板102(Si)における電子線回折像(符号1)とは異なり、不明瞭さが増し、スポット数も増加している。これは、比較例のSiAlN層120では、シリコン基板102および反応抑制層104と同等の構造周期性が維持されておらず、構造周期性に乱れが生じていることを示している。以上の結果から、実験例1および実験例2のSiAlN層120は、比較例のSiAlN層120にはない周期性を有していると言える。
【0048】
図9は、実験例1、2および比較例におけるSiAlN層120のEELS測定結果を示すグラフである。参考にバルクSi結晶およびバルクSiNx結晶のEELS測定結果も同時に示す。図9中に白抜き下向き三角(▽)で示したピークはSi原子L端ピークである。試料によりSi原子L端ピークが異なることから、試料ごとの組成または電子状態が異なることがわかる。
【0049】
図10は、Si原子L端ピークにおけるEELS損失エネルギーのバルクSiからの差分(ΔE)を窒化処理時間に対しプロットしたグラフである。図10から、良品である実験例1(20s)および実験例2(120s)のΔEは3.1eV〜4.8eVの範囲にあり、当該範囲を外れる比較例(600s)やSiでは反り量が不合格となることがわかっている。よって、SiAlN層120のEELS測定におけるSi原子L端ピークにおける損失エネルギー値がバルクSiの場合と比較してΔEだけ大きく、当該ΔEは3.1eV以上4.8eV以下であることが好ましいといえる。
【符号の説明】
【0050】
100…半導体基板、102…シリコン基板、104…反応抑制層、106…応力発生層、106a…第1結晶層、106b…第2結晶層、106c…第1多重結晶層、108…デバイス形成層、110…中間層、112…活性層、114…ショットキ層、120…SiAlN層。
図1
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図10