特許第6796845号(P6796845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6796845砒素含有鉱物に結合するペプチド及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796845
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】砒素含有鉱物に結合するペプチド及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20201130BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20201130BHJP
   C22B 1/11 20060101ALI20201130BHJP
   B03D 1/02 20060101ALI20201130BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20201130BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20201130BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20201130BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20201130BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   C07K7/08ZNA
   C22B15/00
   C22B1/11
   B03D1/02 104
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C07K17/00
【請求項の数】20
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-514842(P2019-514842)
(86)(22)【出願日】2017年9月15日
(65)【公表番号】特表2019-531291(P2019-531291A)
(43)【公表日】2019年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2017033537
(87)【国際公開番号】WO2018052134
(87)【国際公開日】20180322
【審査請求日】2019年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2016-180624(P2016-180624)
(32)【優先日】2016年9月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-39617(P2017-39617)
(32)【優先日】2017年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 光雄
(72)【発明者】
【氏名】三浦 彰
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−117663(JP,A)
【文献】 Biotechnology and Bioengineering,2016年11月14日,Vol. 114, No. 5, p.998-1005.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/08
B03D 1/02
C07K 17/00
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C22B 1/11
C22B 15/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/DGENE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸配列を備えるペプチドであって、ヒ素含有鉱物に選択的に結合するペプチド
(NQ)−(P)−(ED)−(H)−(LIVA)−(LIVA)−(F)−(TS)(P)−(LIVA)−(TS)−(LIVA
{ただし、上記式の()中の少なくとも1種のアミノ酸のいずれか1つが選択される}
【請求項2】
以下のアミノ酸配列と少なくとも90%同一である配列を含むペプチドであって、ヒ素含有鉱物に選択的に結合するペプチド
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
【請求項3】
下のアミノ酸配列と100%同一である配列を含むペプチド。
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
【請求項4】
下のアミノ酸配列で表されるペプチド。
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
【請求項5】
以下のアミノ酸配列において、1個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列を含むペプチドであって、ヒ素含有鉱物に選択的に結合するペプチド
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
【請求項6】
ヒ素含有鉱物を選別及び/又は識別するための組成物であって、請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドを含む、該組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドを表面に備える微生物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドを表面に備える微粒子。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドを備える精製カラム。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドを備える浮遊選鉱の捕収剤。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドを備える浮遊選鉱の抑制剤。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドを使用する、ヒ素含有鉱物を抽出するための方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項6の組成物を使用する、ヒ素含有鉱物を選別及び/又は識別するための方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、
前記ペプチドを表面に有する微生物を、ヒ素含有鉱物粒子が分散した液に添加するステップと、
前記ヒ素含有鉱物粒子を凝集させ、沈降させるステップと、
前記凝集及び沈降したヒ素含有鉱物粒子を回収するステップと
を含む方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法であって、
前記ペプチドを担体に固定するステップと、
前記担体をカラムに導入するステップと、
ヒ素含有鉱物粒子が分散した液を前記カラムに通過させるステップと
を含む方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、
前記ペプチドを微粒子に固定するステップと、
ヒ素含有鉱物粒子が分散した液に、前記微粒子を添加するステップと
を含む方法。
【請求項17】
請求項13に記載の方法であって、
前記ペプチドを用いた浮遊選鉱を行うステップ
を含む方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、
前記浮遊選鉱を行うステップは、
前記ヒ素含有鉱物と、黄鉄鉱及び/又は黄銅鉱との混合物を投入すること、及び
前記ペプチド又は前記ペプチドを含む微生物を抑制剤として投入すること
を含み、
これにより前記ヒ素含有鉱物を尾鉱へ選別し、黄鉄鉱及び/又は黄銅鉱を浮鉱へと選別する、
該方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記ヒ素含有鉱物が硫砒銅鉱であり、前記微生物がファージである、該方法。
【請求項20】
請求項12〜19のいずれか1項に記載の方法であって、ヒ素含有鉱物を懸濁させた液のpHが6以上である、該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規ペプチド及びその利用方法に関する。より具体的には特定の鉱物に特異的に結合する新規ペプチド及びその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱物資源のなかには有用な金属を含む一方で、有害な物質を含む可能性がある。例えば、銅鉱山で産出される銅鉱石は、主に硫化鉱である。そして、この硫化鉱を大別すると、輝銅鉱(Cu2S)や銅藍(CuS)といった鉱物を主体とする、比較的高銅品位の二次硫化銅鉱と、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする、比較的低銅品位の初生硫化鉱がある。これらの鉱石に加えて、ヒ素を含む鉱物(例えば硫砒銅鉱)なども挙げられる。
【0003】
ヒ素は環境に有害な元素であるため、ヒ素を含む鉱物が混入した状態で硫化銅鉱をそのまま製錬に使用した場合、様々な問題が生じる。そこで、従来は、製錬を行う前に、ヒ素を除去するための様々な処理を行ってきた。例えば、特開2012−087400では、焙焼など行ってヒ素を揮発させ、鉱物から予めヒ素を除去するなどの処置を行っている。
【0004】
また、特開2010−133004では、銅鉱石や銅精鉱などのヒ素を含有する含銅物からヒ素鉱物を分離する方法として、チオ硫酸ナトリウムを抑制剤として使用する方法を提案している。
また、特開2011−156521では、同様の含銅物からヒ素鉱物を分離する方法として、浮遊選鉱時にポリエチレンアミン類等のキレート剤を抑制剤として使用する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−087400号公報
【特許文献2】特開2010−133004号公報
【特許文献3】特開2011−156521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の方法において、特許文献1のようにあらかじめ焙焼などによりヒ素を揮発させて除去するための処置を行う場合、大規模な設備などが必要となっていた。また、ヒ素を含む鉱物自体を直接分離しようとしても、物理的に分離することが難しい鉱物が幾つか存在する。特に黄銅鉱や斑銅鉱、および輝銅鉱などを主成分とする銅精鉱中のヒ素は、四面砒銅鉱((CuFe)12As413)や硫砒銅鉱(Cu3AsS4)などを含有するヒ素含有銅鉱物として存在する場合が多い。そして、これらのヒ素含有銅鉱物は、黄銅鉱や斑銅鉱などと似た浮遊特性を持つため、浮遊選鉱によって銅とヒ素とを分離することは困難である。特許文献2のチオ硫酸ナトリウムを用いる方法や特許文献3のキレート剤を用いても、銅鉱物とヒ素鉱物の分離性能が不十分であり、実用化された例はない。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、ヒ素を含む鉱物を効率的に分離するための手段を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のペプチドおよびペプチドを提示したファージが、ヒ素を含む鉱物に選択的に結合することを見出した。
【0009】
上記知見に基づき、本発明は一側面において以下の発明を包含する。
【0010】
(発明1)
以下のアミノ酸配列を備えるペプチド。
(TSNQ)−(HPW)−(ED)−(HPWRK)−(LIVFA)−(LIVFA)−(LIVFA)−(TSNQ)−(HPW)−(LIVFA)−(TSNQ)−(LIVFA)
{ただし、上記式の()中の少なくとも1種のアミノ酸のいずれか1つが選択される}
(発明2)
以下のアミノ酸配列を含むペプチド。
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
(発明3)
以下のアミノ酸配列で表されるペプチド。
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
(発明4)
以下のアミノ酸配列と少なくとも90%同一である配列を含むペプチド。
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
(発明5)
以下のアミノ酸配列と少なくとも95%同一である配列を含むペプチド。
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
(発明6)
以下のアミノ酸配列と少なくとも98%同一である配列を含むペプチド。
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
(発明7)
以下のアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列を含むペプチド。
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
(発明8)
ヒ素含有鉱物を選別及び/又は識別するための組成物であって、発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを含む、該組成物。
(発明9)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドをコードする核酸。
(発明10)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドをコードする核酸の配列と少なくとも90%以上同一の配列を有する核酸。
(発明11)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドをコードする核酸の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸。
(発明12)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを表面に備える微生物。
(発明13)
発明9〜11のいずれか1つに記載の核酸を有する微生物。
(発明14)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを表面に備える微粒子。
(発明15)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを備える精製カラム。
(発明16)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを備える捕収剤。
(発明17)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを備える抑制剤。
(発明18)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを使用する、ヒ素含有鉱物を抽出するための方法。
(発明19)
発明1〜7のいずれか1つに記載のペプチド又は発明8の組成物を使用する、ヒ素含有鉱物を選別及び/又は識別するための方法。
(発明20)
発明19に記載の方法であって、
前記ペプチドを表面に有する微生物を、ヒ素含有鉱物粒子が分散した液に添加するステップと、
前記ヒ素含有鉱物粒子を凝集させ、沈降させるステップと、
前記凝集及び沈降したヒ素含有鉱物粒子を回収するステップと
を含む方法。
(発明21)
発明19に記載の方法であって、
前記ペプチドを担体に固定するステップと、
前記担体をカラムに導入するステップと、
ヒ素含有鉱物粒子が分散した液を前記カラムに通過させるステップと
を含む方法。
(発明22)
発明19に記載の方法であって、
前記ペプチドを微粒子に固定するステップと、
ヒ素含有鉱物粒子が分散した液に、前記微粒子を添加するステップと
を含む方法。
(発明23)
発明19に記載の方法であって、
前記ペプチドを用いた浮遊選鉱を行うステップ
を含む方法。
(発明24)
発明23に記載の方法であって、
前記浮遊選鉱を行うステップは、
前記ヒ素含有鉱物と、黄鉄鉱及び/又は黄銅鉱との混合物を投入すること、及び
前記ペプチド又は前記ペプチドを含む微生物を抑制剤として投入すること
を含み、
これにより前記ヒ素含有鉱物を尾鉱へ選別し、黄鉄鉱及び/又は黄銅鉱を浮鉱へと選別する、
該方法。
(発明25)
発明24に記載の方法であって、前記ヒ素含有鉱物が硫砒銅鉱であり、前記微生物がファージである、該方法。
(発明26)
発明18〜25のいずれか1つに記載の方法であって、ヒ素含有鉱物を懸濁させた液のpHが6以上である、該方法。
【発明の効果】
【0011】
一側面において、本発明では、ペプチドを活用する。これにより、従来の方法に比べて、大規模な設備を要することなく、対象の鉱物を分離できる。
【0012】
また、本発明で用いるペプチドは、効率的に分離を行うことを可能にする。さらに言えば、目的の鉱物を選択的に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るペプチドが、特定の鉱物に選択的に結合することを示すグラフである。各群の4本のバーは、左から順に硫砒銅鉱、硫黄、黄銅鉱、黄鉄鉱を表す。
図2】本発明の一実施形態に係るA710−phage等を用いて硫砒銅鉱、黄銅鉱、黄鉄鉱を沈降させたときの粒子径を表す写真である。
図3】合成ペプチドが硫砒銅鉱に結合することを表す写真である。
図4】BublePickUp試験の結果を表す図である。
図5】BublePickUp試験の結果を表す図である。
図6】硫砒銅鉱の浮遊選別の結果を表す図である。
図7】黄銅鉱の浮遊選別の結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の理解を促進するために、具体的な実施形態を挙げて説明する。以下の実施形態の説明は本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0015】
1.適用対象の物質
本発明は、一実施形態において、特定の物質を分離する方法に適用することができる。特定の物質として、ヒ素を含む鉱物が挙げられる。更に具体的には、ヒ素を含む銅鉱物が挙げられる。ヒ素を含む銅鉱物としては、硫砒銅鉱や砒四面銅鉱等が挙げられる。
【0016】
2.ペプチド
上述した物質を分離するため、本発明は、一実施形態において、ペプチドを用いることができる。より具体的には、少なくとも以下の配列を含むペプチドを用いることができる。典型的には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20のうちから選択される2つの数で規定される範囲(例:1以上10以下、5以上20以下)のアミノ酸を下記のアミノ酸配列のN末端側及び/又はC末端側に付加することができる。
【0017】
(1)(TSNQ)−(HPW)−(ED)−(HPWRK)−(LIVFA)−(LIVFA)−(LIVFA)−(TSNQ)−(HPW)−(LIVFA)−(TSNQ)−(LIVFA)
{ただし、上記式の()中の少なくとも1種のアミノ酸のいずれか1つが選択される}
【0018】
後述する実施例においては、以下のアミノ酸配列のペプチドを用いて、硫砒銅鉱を分離した例が示されている。
(2) Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
【0019】
上記(1)に記載のアミノ酸配列と、上記(2)に記載のアミノ酸配列とを対比させると以下の通りとなる。
【表1】
【0020】
表1にあるように、配列(2)1番目はアスパラギンである。これは、極性非電荷のアミノ酸である。従って、同様の性質を有するトレオニン、セリン、グルタミンに置換しても同様の効果が得られると考えられる。配列(2)8番目のセリンや11番目のトレオニンについても同様の置換が可能であると考えられる。
【0021】
配列(2)2番目及び9番目はプロリンである。これは、含窒素環の側鎖を有するアミノ酸である。従って、同様の性質を持つ、ヒスチジン、トリプトファンに置換しても同様の効果が得られると考えられる。配列(2)4番目のヒスチジンについても同様の置換が可能であると考えられる。
【0022】
配列(2)3番目はグルタミン酸である。これは、酸性アミノ酸である。従って、同様の性質を有する、アスパラギン酸に置換しても同様の効果が得られると考えられる。
【0023】
配列(2)4番目はヒスチジンである。これは、上述した通り、含窒素環の側鎖を有するアミノ酸である。また、塩基性アミノ酸としての性質も有する。従って、塩基性アミノ酸としての観点から、アルギニンやリシンに置換しても同様の効果が得られると考えられる。
【0024】
配列(2)5番目はアラニンである。これは、疎水性の側鎖を有する。従って同様の性質を持つ、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニンに置換しても同様の効果を有すると考えられる。配列(2)6番目のアラニン、7番目のフェニルアラニン、10番目のバリン、12番目のバリンについても同様の置換が可能であると考えられる。
【0025】
また、本発明は、一実施形態において、以下のアミノ酸配列を含むペプチドを包含する。
(2) Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
アミノ酸配列(2)のN末端側及び/又はC末端側には、任意の数のアミノ酸が付加されてもよい。典型的には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20のうちから選択される2つの数で規定される範囲(例:1以上10以下、5以上20以下)のアミノ酸をN末端側及び/又はC末端側に付加することができる。
【0026】
また、本発明は、一実施形態において、以下の12個のアミノ酸配列で表されるペプチドを包含する。
(2) Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
【0027】
上記したアミノ酸配列(2)については、軽微な改変(例:アミノ酸の挿入、置換、付加)を行ったとしても、アミノ酸配列(2)と同様の機能を発揮することができる。例えば、アミノ酸配列(2)と66%以上、75%以上、83%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上同一であるペプチド又は該同一性を有する配列を含むペプチドも同様の機能を発揮することができる。
【0028】
配列の同一性の数値の算出方法については、当分野で公知の手法を用いることができる。例えば、BLAST(登録商標)が提供するアミノ酸(又はタンパク質)のホモロジー検索で用いるBlastpなどで判定される数値に基づいてもよい。
【0029】
また、本発明は、一実施形態において、以下のいずれか1つのアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列を含むペプチドを包含する。典型的には、4個以下、3個以下、又は2個以下のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列を含むペプチドを包含する。
(2) Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
【0030】
また、本発明は、一実施形態において、上述したペプチドを含有する組成物を包含する。即ち、上述したペプチドを単独で用いるのみならず、他の成分を含めた組成物でも、同様の機能を発揮することができる。当該組成物は、上述したペプチドの機能を損なわない範囲で任意の成分を含有することができる(緩衝剤、塩化ナトリウム、糖類など)。
【0031】
3.ペプチドをコードする核酸
本発明は、一実施形態において、上述したペプチドをコードする核酸を包含する。核酸は、DNAでもRNAでもよい。また、本発明は、一実施形態において、上述したペプチドをコードする核酸のセンス鎖に対して相補的な配列を有する核酸であってもよい。
【0032】
更に、本発明は、一実施形態において、上述したペプチドをコードする核酸をコードする核酸配列と、少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上同一の配列を有する核酸を包含する。配列の同一性の算出方法については、上述したアミノ酸配列と同様、公知技術を用いて算出できる。例えば、BLASTのBlastn等で検索したときに判定される数値に基づいてもよい。
【0033】
更に、本発明は、一実施形態において、上述したペプチドをコードする核酸のセンス鎖に対して相補的な配列と、ハイブリダイズすることができる核酸を包含する。より具体的には、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる核酸を包含する。ストリンジェントな条件とは、当分野で公知の基準を用いることができる。例えば、特開2015−023831号に記載されているような基準を条件にしてもよい。具体的には、DNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0Mの塩化ナトリウム存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できる条件を意味する。
【0034】
上述したいずれの核酸も、遺伝子工学的な手法を通して、目的とするペプチドを製造するのに有用である。例えば、上述したいずれの核酸も、発現ベクターに組み込んで目的のペプチドを大量に発現させることができる。あるいは後述するファージディスプレイ法を用いて、表面に目的のペプチドを有するファージを製造することができる。
【0035】
4.ペプチド及び/又は核酸を利用した物
上述したペプチド及び/又は核酸は、様々な形で応用することができる。
【0036】
4−1.微生物
例えば、遺伝子工学的な手法を用いて(例えば、微生物の遺伝子に上述した核酸を導入して)、微生物に目的のペプチドを大量に生成させることができる。あるいは、微生物の表面に目的のペプチドを発現させて、該微生物を利用して、目的の物質を分離することができる。本明細書で述べる「微生物」には、五界説で述べるところの菌界、モネラ界、又は原生生物界に属する生物が含まれる。また、厳密な意味では生物には該当しないものの、本明細書で述べる「微生物」には、ウイルスも含まれる。典型的には、真菌、細菌、ウイルスを用いる。特に好ましいのは、遺伝子工学的な手法が確立された物である(例:酵母、E.coli、乳酸菌、バクテリオファージなど)。本発明は、一実施形態において、このような微生物を包含する。
【0037】
4−2.微粒子
本発明は、一実施形態において、ペプチドを表面に有する微粒子を包含する。ペプチドは、上述したペプチドを用いることができる。また、微粒子は、ビーズ(例:磁気ビーズ、ガラスビーズ、高分子ビーズなど)、担体等が挙げられる。微粒子の大きさについては、特に限定されず、用途に応じて適宜調整すればよい。また、微粒子の表面にペプチドを結合させる手法については、当分野で公知の手法を用いることができる。
【0038】
本発明では、上述したペプチドを表面に有する微粒子を用いて、目的の物質を分離することができる。例えば、後述する方法を用いて、目的の物質を、ペプチドに結合させて沈降させることにより、分離することができる。
【0039】
4−3.精製カラム
目的の物質を分離する方法としてカラムクロマトグラフィーが挙げられる。カラムクロマトグラフィーは、カラム(カラム表面の官能基)が特定の物質に選択的に結合することを利用する。本発明の一実施形態では、上述したペプチドを担体に担持させることができる。そして、この担体をカラムに導入することができる。こうしたカラムを使用することにより、目的の物質を分離することができる。
【0040】
4−4.浮遊選鉱の捕収剤
浮遊選鉱(浮選)は、微粒子を気泡にトラップさせることにより分離する方法である。この際に、捕収剤を使用することができる。本発明の一実施形態では、ペプチドを公知の捕収剤や起泡剤に結合し、気泡にトラップしやすい形態として用いることができる。あるいは、当該ペプチドを、疎水性を付与する化学的部位(例、アルキル基、フェニル基、疎水性のアミノ酸等)と結合することで捕収剤として機能させ、気泡にトラップさせやすい形態として用いることができる。これにより、目的の物質を気泡にトラップすることができ、結果として分離することができる。
【0041】
4−5.浮遊選鉱の抑制剤
別の一実施形態では、本発明のペプチドは、特定の鉱物の表面を親水化させる。これにより、浮遊選鉱の際に、特定の鉱物が浮遊するのを抑制することができる。従って、本発明のペプチドは、抑制剤として使用することができる。この際に、ペプチド単独で用いてもよいし、微生物に結合した態様で使用してもよいし、特定の化合物と結合した形で使用してもよい。
【0042】
5.応用形態(分離方法)
上述した応用形態に関する方法を以下に具体的に説明する。
【0043】
5−1.分離対象
上述した応用形態はいずれも所定の物質を分離することに関する。例えば、上述したヒ素含有鉱物(例えば、硫砒銅鉱)を分離することができる。
【0044】
5−2.微生物を用いた分離方法
本発明は、一実施形態において、微生物を用いて、物質(具体的には、ヒ素含有鉱物、より具体的には硫砒銅鉱)を分離することができる。微生物としては、上述した微生物であれば、いずれも用いることができる。典型的にはバクテリオファージが挙げられる。
【0045】
方法としては、まず、公知の遺伝子工学的な手法により、上述したペプチドをコードする核酸配列を微生物に導入し、微生物の表面に発現させることができる。その後、鉱物粒子が分散した液に、微生物を添加することができる。
【0046】
微生物の添加量については、溶液中に分散している鉱物粒子の量などの諸条件を考慮しながら適宜決定することができる。ファージを用いた例としては、鉱物粒子の量3g/Lに対し、0.5×108pfu/mL〜5×108pfu/mL、より好ましくは、0.6×108pfu/mL〜1.5×108pfu/mLである。あるいは、鉱物粒子の量10g/Lに対し、0.5×109pfu/mL〜5×109pfu/mL、より好ましくは、0.6×109pfu/mL〜1.5×109pfu/mLであってもよい。
【0047】
あるいは、ファージ量(pfu/mL)/鉱物量(g/L)の比率が、0.13×108〜5×108、より好ましくは0.33×108〜1×108である。
【0048】
微生物を添加した後、暫く放置すると、微生物表面にあるペプチドが鉱物粒子と結合し、凝集が起こる。そして、溶液の底に沈降する。その後、底に沈降した鉱物を回収することができる。
【0049】
5−3.カラムクロマトグラフィーを用いた分離方法
本発明は、一実施形態において、カラムクロマトグラフィーを用いて、物質(具体的には、ヒ素含有鉱物、より具体的には硫砒銅鉱)を分離することができる。方法としては、まず、上述したペプチドを、公知の手法により、担体に固定させることができる。その後、その担体を精製用のカラムに導入することができる。前記カラムが準備できたら、分離対象の物質が分散した液を、前記カラムの中に通す。すると、前記物質は、カラムの中に結合するか、又は溶出が遅れる。これにより、特定の物質を分離することができる。
【0050】
5−4.微粒子を用いた分離方法
本発明は、一実施形態において、微粒子を用いて、物質(具体的には、ヒ素含有鉱物、より具体的には硫砒銅鉱)を分離することができる。まず、上述したペプチドを、公知の手法により、微粒子表面に固定させることができる。その後、鉱物粒子が分散した液に、微粒子を添加することができる。微粒子を添加した後、暫く放置すると、微粒子表面にあるペプチドが鉱物粒子と結合し、凝集が起こる。そして、溶液の底に沈降する。その後、底に沈降した鉱物を回収することができる。あるいは、微粒子として磁気ビーズを用いることができ、沈降することを待つことなく、磁力を用いて、鉱物粒子を回収することができる。
【0051】
5−5.浮選を用いた分離方法
本発明は、一実施形態において、捕収剤又は起泡剤を用いて、物質(具体的には、ヒ素含有鉱物、より具体的には硫砒銅鉱)を分離することができる。具体的には、捕収剤又は起泡剤を、公知の方法により、上述したペプチドと結合させる。そして、結合させた捕収剤を溶液に導入して撹拌させ(適宜他の薬剤も導入し)、気泡を発生させる。その後、鉱物粒子を導入し、該鉱物粒子を気泡にトラップさせる。これにより、鉱物粒子を回収することができる。あるいは、当該ペプチドを、疎水性を付与する化学的部位(例、アルキル基、フェニル基、疎水性のアミノ酸等)と結合することで捕収剤として機能させ、気泡にトラップさせやすい形態として用いることができる。
【0052】
別の一実施形態において、本発明のペプチドは、抑制剤として使用することができる。抑制剤とは、浮遊選鉱工程において、特定の鉱物の浮遊性を抑制する試薬である。
また、本発明のペプチドは微生物と一体化させて使用してもよい。より具体的には、本発明のペプチドは、微生物の表面にペプチドを提示させるような形態で使用することができる。微生物については、「4−1.微生物」の項で述べた微生物を使用することができる。好ましい微生物はファージであり、より好ましい微生物はM13バクテリオファージである。
【0053】
以下の説明は本発明の範囲を限定することを意図しないが、本発明のペプチドはヒ素含有鉱物(例:硫砒銅鉱)の表面を親水化する性質があり、これにより、ヒ素含有鉱物が泡にトラップされることを抑制すると考えられる。
【0054】
従って、浮鉱に選別される可能性のある鉱物(例:黄鉄鉱、黄銅鉱等)との選別において本発明は特に有用となる可能性がある。
【0055】
浮遊選鉱の条件は特に限定されないが、典型的には以下の条件で実施することができる。
パルプ濃度 50〜600(dry−g/L)
浮選時間 5〜30分
浮選pH 5以上10以下
捕収剤 5〜100g/t(対象鉱物重量)
起泡剤 0.001〜100g/t (浮遊選鉱溶液)
【0056】
ペプチドの量は特に限定されず、上記浮遊選鉱の条件の下、抑制剤の効果を発揮できる量を適宜決定することができる。ペプチドそのものではなく、ペプチドを含む微生物を用いる場合には、上記ペプチド量に相当する量を用いることができる。例えば、ファージの場合には、1013pfu/L〜1017pfu/L(1017〜1021pfu/T)である。
【0057】
捕収剤は、目的とする鉱物の表面に選択的に吸着することにより、その表面の疎水性を高める働きをする。具体的な物質としては、特に限定されないが、硫化銅鉱物を優先的に回収するため一般的に使用・市販されている捕収剤、具体的にはザンセート類やチオノカルバメート類やそれらの混合物、より具体的にはカリウムアミルザンセート等が挙げられる。捕収剤の量は、5〜100g/tである。5g/t未満だと、浮鉱が得られにくいため望ましくなく、100g/t超だと効果が頭打ちにあるのでそれ以上添加しても意味が無い。一方、前段階である粗選工程後、精選工程にてペプチドおよびペプチドを含む微生物を用いたヒ素含有鉱物と他の鉱物との分離浮選を行う場合には、粗選工程からの捕収剤の持ち込みがあるため、当該選鉱工程では捕収剤を添加しないことも可能である。
【0058】
起泡剤は、溶媒に溶けて溶液の泡を安定化する物質である。具体的な物質としては、特に限定されないが、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、パイン油、Aerofroth70(CYTEC)等が挙げられる。起泡剤の量は、0.001〜100g/tである。0.001g/t未満だと、浮鉱が得られにくいため望ましくなく、100g/t超だと効果が頭打ちにあるのでそれ以上添加しても意味が無い。一方、前段階である粗選工程後、精選工程にてペプチドおよびペプチドを含む微生物を用いたヒ素含有鉱物と他の鉱物との分離浮選を行う場合には、捕収剤と同様、粗選工程からの起泡剤の持ち込みがあるため、当該選鉱工程では起泡剤を添加しないことも可能である。
【0059】
6.鉱物との結合における選択性
上述したペプチドは、特定の鉱物に特に強く結合し、他の鉱物には結合しないという選択性を有する。より具体的には、ヒ素を含む鉱物(例:硫砒銅鉱)には強く結合し、他の鉱物(例えば、硫黄、黄銅鉱、黄鉄鉱)には、結合しない(又は、ヒ素を含む鉱物の場合と比べて結合度合いが著しく低い)という性質を有する。従って、ヒ素を含む鉱物と他の鉱物との混合物であっても、上述した方法を用いることにより、ヒ素を含む鉱物を分離・除去することができる。あるいは、上述したペプチドは、ヒ素を含む鉱物を識別するために用いることができる。例えば、本発明のペプチドに識別マーカー(例:蛍光分子など)を結合させることにより、ヒ素を含む鉱物を検出することができる。
【0060】
7.pH
ヒ素を含む鉱物(例:硫砒銅鉱)が凝集する際には、特定のpHに限定されることなく凝集させることが可能である。例えば、典型的にはpHが4〜10の範囲で凝集させてもよいし、前記以外の範囲でも凝集させることが可能である。
【0061】
8.ペプチドの作成方法
上述したペプチドは、様々な方法で製造することができる。上述したペプチドをコードするDNAを、発現ベクターに組み込んで、微生物等に導入し、大量にペプチドを発現させて回収することができる。あるいは、遺伝子工学的な手法のほか、有機化学的な方法により合成してもよい。
【0062】
あるいは、表面に上述したペプチドを提示したファージ(例えばM13ファージ)を製造する場合には、ファージディスプレイ法を用いることができる。目的のペプチドを表面に提示した微生物については、公知の遺伝子工学的手法により製造することが可能である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により、上述した本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)ファージディスプレイ法による硫砒銅鉱吸着ファージの選択
硫砒銅鉱に吸着するペプチド分子の選択としては、ファージディスプレイ法を用いた。具体的には、アミノ酸12個がランダムに結合したM13バクテリオファージライブラリーを用い、粒度75μm以下に粉砕した硫砒銅鉱と接触させ、硫砒銅鉱に吸着したバクテリオファージのみを回収し、回収したファージについて大腸菌に感染させ再度増殖後、再び硫砒銅鉱に接触させ、吸着したファージのみを回収した。この吸着・回収操作(パニング)を数回繰り返し、選択されたファージのDNA配列を解析し、ファージに結合したアミノ酸配列を特定した。
【0065】
接触させる硫砒銅鉱のパルプ濃度を3000ppmとしてパニングを4回繰り返した。最終的に得られたファージのDNA配列を解析した結果、以下に示すアミノ酸配列を持つペプチドが結合したファージが選択されたことを確認した。
Asn−Pro−Glu−His−Ala−Ala−Phe−Ser−Pro−Val−Thr−Val
以後、上記に示すペプチドが結合したファージをA710−phageと呼ぶ。
【0066】
(実施例2)硫砒銅鉱結合ファージのELISA分析
硫砒銅鉱と実施例1にて選択したA710−phageについて、ELISA法(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay、酵素結合免疫吸着法)により、硫砒銅鉱との結合量を測定した。具体的には硫砒銅鉱3000mg/Lを懸濁した液を96穴マイクロプレートの各ウェルに添加し、それぞれのウェルに各ファージを添加後、未結合のファージを洗浄した。さらにこの懸濁液に酵素(ペルオキシダーゼ)標識した抗M13ファージ抗体を添加したのち、未結合の抗ファージ抗体を洗浄した。ここに酵素の基質となる2,2’−azino−bis(3−ethylbenzothiazoline−6−sulphonic acid) diammonium salt(ABTS)を添加し、青色の発色をマイクロプレートリーダーで波長405nmにて吸光度測定した。更に、これらの手順を、他の鉱物(硫黄、黄銅鉱、黄鉄鉱)に変更したうえで行った。
【0067】
ペプチドを提示していないM13ファージ(null−phage)と硫砒銅鉱とを接触させたときのELISA分析での吸光度を100%したときの各鉱物および各ペプチド提示ファージでの吸光度の比率(すなわち、「null−phageの硫砒銅鉱への結合量」に対する「ペプチド提示ファージの各鉱物への結合量の割合」)を図1に示す。図1に示す通り、A710−phageの硫砒銅鉱への結合量はnull−phageを硫砒銅鉱に接触させた時の9倍となった。また、他の鉱物(硫黄、黄銅鉱、黄鉄鉱)に対するA710−phageの結合量は、硫砒銅鉱に対する結合量よりも低かった。従って、A710−phageが硫砒銅鉱に特異的に結合することが示された。このことにより、A710−phageの選別に有用であることが示された。
【0068】
(実施例3)硫砒銅鉱3g/L時の顕微鏡観察
温度30℃において、粒子径75μm以下の硫砒銅鉱を3g/Lのパルプ濃度となるように水に懸濁した。この懸濁液に、A710−phageおよびnull−phageの各ファージを107〜109pfu/mLとなる濃度に添加し、硫砒銅鉱粒子を光学顕微鏡にて観察したところ(図2)、A710−phageを硫砒銅鉱に添加した場合に、より顕著に硫砒銅鉱粒子が凝集することが確認された。その一方で、他の鉱物(黄銅鉱、黄鉄鉱)についても同様の試験を行ったが、凝集は観察されなかった。本結果から、A710−phageを硫砒銅鉱懸濁液に適切な濃度で添加することで、硫砒銅鉱を選択的に分離回収できる可能性が示された。
【0069】
(実施例4)合成ペプチドを用いた硫砒銅鉱との結合の顕微鏡観察
本発明のペプチドが、所定の鉱物に結合することをより直接的に確認するため、下記のような合成ペプチドを調製した。

【化1】

具体的には、Fmoc固相合成法を用いた。固相に樹脂を用い、ペプチドを脱水縮合反応により伸長した。ペプチド鎖の伸長にはFmoc基(9−fluorenylmethyloxycarbonyl group)を保護基として用い、硫砒銅鉱結合ペプチド配列を調製した。
上記合成ペプチドのN末端側に蛍光色素を付加した。
【0070】
硫砒銅鉱の懸濁液を調製した。硫砒銅鉱の粒子径を75μm以下に粉砕し、硫砒銅鉱の濃度を10,000mg/Lに調整した。また、懸濁液のpHを7.0に調整し、上記合成ペプチドを0.1ng/mLの濃度になるよう添加した。5分後、懸濁液の状態を、可視光で顕微鏡観察し、その後蛍光フィルタ(励起波長450−490nm、観察波長510nm)を用いて顕微鏡観察した。結果を図3に示す。可視光で観察すると、硫砒銅鉱が凝集していることが観察された。そして、蛍光フィルタで観察すると、蛍光を発している箇所が、凝集した硫砒銅鉱が観察されている箇所と一致していることが示された。これにより、硫砒銅鉱にペプチドが結合していることが示された。
【0071】
(実施例5)ペプチドを用いたBubble Pick Up試験(硫砒銅鉱)
実施例1〜2のA710−phageをBubble Pick Up試験に用いた。より具体的には、最初に、硫砒銅鉱の濃度が100g/Lになるように純粋に懸濁し、pHの値を7に調整した。次に、懸濁液にA710−phage(添加後の濃度1013pfu/L)を投入したサンプル、及びこれを投入しないサンプルを用意した。そして、これらを1分間ボルテックスミキサーで撹拌し、5分間静置した。
【0072】
2μLの泡をマイクロチップの先端に形成した。その後、泡を、前記2つのサンプル懸濁液の表面に2秒間接触させた。接触を30回繰り返し、以下の式に基づいて付着確率を算出した。
付着確率(%)=(鉱物が付着した回数÷30)×100%
【0073】
結果を図4に示す。A710−phageで硫砒銅鉱を処理することにより、泡への付着が著しく抑制された。
【0074】
(実施例6)ペプチドを用いたBubble Pick Up試験(黄鉄鉱及び黄銅鉱)
実施例5と同様の条件で試験を行った。ただし、鉱物を、黄鉄鉱及び黄銅鉱に変更した。結果を図5に示す。A710−phageの有無による泡への付着確率の著しい変化は見られなかった。
【0075】
以上の実施例5及び実施例6の結果から、A710ペプチドで処理することにより、硫砒銅鉱を、浮鉱ではなく尾鉱の方へ選別することができることが示された。そして、黄銅鉱や黄鉄鉱から分離することができることが示された。
【0076】
(実施例7)ペプチドを用いた浮遊選鉱試験(硫砒銅鉱)
以下の条件で浮遊選鉱を実施した。
硫砒銅鉱: 50g/500mL (粒径25μm以上75μm以下) ,
通気:空気 1L/min,
撹拌速度:700rpm,
pH:5.6−6.3,
起泡剤:Aerofroth70 10μl/L,
添加ファージ:A710−ファージ 1013pfu/L,
捕収剤: Potassium Amylxanthate 40g/鉱物・ton
【0077】
まず、鉱物を槽の中に投入し、その後、ファージ+起泡剤または起泡剤を添加して1分撹拌した。その後、通気を開始してフロスが白くなるまでかきとりした(捕収剤なしフロス)。次に、通気を止めさらに捕収剤を添加して1分撹拌した。その後、通気を再開しフロスが白くなるまでかきとりした(捕収剤ありフロス)。最後に、尾鉱を回収した。結果を図6に示す。A710ファージで処理することにより、尾鉱へ選別される割合が著しく増加したことが示された。
【0078】
(実施例8)ペプチドを用いた浮遊選鉱試験(黄銅鉱)
以下の条件で浮遊選鉱を実施した。
硫砒銅鉱: 50g/500mL (粒径75μm以下) ,
通気:空気 1L/min,
撹拌速度:700rpm,
pH:5.6−6.3,
起泡剤:Aerofroth70 10μl/L,
添加ファージ:A710−ファージ 1013pfu/L,
捕収剤: Potassium Amylxanthate 40g/鉱物・ton
【0079】
まず、鉱物を槽の中に投入し、その後、ファージ+起泡剤または起泡剤を添加して1分コンディショニングした。その後、通気を開始してフロスが白くなるまでかきとりした(捕収剤なしフロス)。次に、通気を止めさらに捕収剤を添加して1分コンディショニングした。その後、通気を再開しフロスが白くなるまでかきとりした(捕収剤ありフロス)。最後に、尾鉱を回収した。結果を図7に示す。A710ファージで処理しても、尾鉱へ選別される割合に著しい変化はみられなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]