特許第6796970号(P6796970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

<>
  • 特許6796970-マスク材走行ユニット 図000002
  • 特許6796970-マスク材走行ユニット 図000003
  • 特許6796970-マスク材走行ユニット 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796970
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】マスク材走行ユニット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20201130BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20201130BHJP
   C23C 16/04 20060101ALI20201130BHJP
   C23C 16/54 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   C23C14/56 J
   C23C14/04 A
   C23C16/04
   C23C16/54
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-166236(P2016-166236)
(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公開番号】特開2018-31066(P2018-31066A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中尾 裕利
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠一
(72)【発明者】
【氏名】坂内 雄也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】清水 豪
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/146025(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0315343(US,A1)
【文献】 特開平09−195048(JP,A)
【文献】 特開昭60−155667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
C23C 14/04
C23C 16/04
C23C 16/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に沿って走行されるシート状の基材の片面に対面させてシート状のマスク材を走行させるマスク材走行ユニットであって、
前記シート状の基材の走行方向をX軸方向、前記シート状の基材の幅方向をY軸方向、前記シート状の基材と前記シート状のマスク材との対面方向をZ軸方向、前記シート状の基材から前記シート状のマスク材に向かう方向をZ軸方向下方とし、
前記シート状の基材の部分のZ軸方向下方に配置される支持体と、
前記支持体の上部にX軸方向に間隔を存して設けられて前記シート状の基材の部分に対してその下側に位置する前記シート状のマスク材の部分を平行に走行させるX軸方向前後一対のガイド手段と、
前記支持体の下部にX軸方向に間隔を存して設けられて所定の張力を加えつつ前記シート状のマスク材を前記シート状の基材に同期させて走行させるX軸方向前後一対の駆動手段とを備え、
前記支持体は、前記一対の駆動手段が取り付けられて、所定位置を回転中心として前記一対のガイド手段に対して前記一対の駆動手段を相対回転させる首振り手段を備えることを特徴とするマスク材走行ユニット。
【請求項2】
前記首振り手段が前記支持体に設けた軸受で支承される回転軸とこの回転軸を介して吊設される回転台とを備えることを特徴とする請求項1記載のマスク材走行ユニット。
【請求項3】
前記一対の駆動手段の一方が母線方向をY軸方向に一致させて配置されるローラであり、前記ローラの回転軸の両端部を夫々独立して前記ローラが前記回転台から離間する方向に付勢する付勢手段が設けられることを特徴とする請求項2記載のマスク材走行ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク材走行ユニットに関し、より詳しくは、上部空間を一方向に沿ってシート状の基材の部分が走行される真空チャンバ内に配置され、シート状の基材の片面に対面させてシート状のマスク材を走行させてマスク越しに基材の片面に対して所定処理を連続して施すためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、真空チャンバ内を所定速度でシート状の基材を走行させながら基材の片面に連続して成膜処理などの所定処理を施す真空処理処置が知られている。そして、シート状の基材に対して所定処理を施すのに際しては、シート状のマスク材を走行させてシート状の基材の部分に対する処理範囲を制限しながら所定処理を施す場合がある。
【0003】
ここで、シート状の基材の部分が走行される一方向をX軸方向、シート状の基材の幅方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向として、シート状のマスク材を走行させるマスク材走行ユニットとしては、X軸方向及びZ軸方向に間隔を存して配置されるY軸方向に長手の4本のローラと、各ローラを支持する支持体とを備え、各ローラに、無端状に形成されたシート状のマスク材を巻き掛けて構成したものが例えば特許文献1で知られている。このものでは、4本のローラで画成される内部空間にスパッタリングカソードを配置し、真空チャンバ内でシート状の基材の部分を所定速度で走行させ、これに同期させて少なくとも1本のローラを駆動ローラとしたマスク材走行ユニットによりシート状のマスク材を走行させ、マスク越しに基材の片面にスパッタリングにより生じたスパッタ粒子(成膜材料)を供給してシート状の基材の片面に所定のパターンで成膜処理される。
【0004】
ところで、各ローラにシート状のマスク材を巻き掛けて走行させる場合、例えば、各ローラの組付不良等に起因して、各ローラを支持する支持体に対してシート状のマスク材が蛇行したり(つまり、ローラの母線に対して直交する線に対して所定角度を持ってシート状のマスク材が走行される)、または、所定処理が施されるシート状の基材の部分に対してシート状のマスク材が蛇行したりする(つまり、シート状の基材の部分に対して所定角度を持ってシート状のマスク材が走行される)場合がある。また、例えば、シート状の基材への成膜時、シート状のマスク材にもスパッタ粒子が付着、堆積し、これに起因して上記同様にシート状の基材の部分に対してシート状のマスク材が蛇行する場合もある。このようにシート状の基材の部分に対してシート状のマスク材が蛇行していると、所定のパターンを持って高精度で成膜できないという問題を招来する。このことから、シート状のマスク材の蛇行を補正できるようにマスク材走行ユニットを構成することが要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−225932号公報(例えば、図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、シート状のマスク材の蛇行を補正できる機構を備えるマスク材走行ユニットを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、一方向に沿って走行されるシート状の基材の片面に対面させてシート状のマスク材を走行させる本発明のマスク材走行ユニットは、前記シート状の基材の走行方向をX軸方向、前記シート状の基材の幅方向をY軸方向、前記シート状の基材と前記シート状のマスク材との対面方向をZ軸方向、前記シート状の基材から前記シート状のマスク材に向かう方向をZ軸方向下方とし、前記シート状の基材の部分のZ軸方向下方に配置される支持体と、前記支持体の上部にX軸方向に間隔を存して設けられて前記シート状の基材の部分に対してその下側に位置する前記シート状のマスク材の部分を平行に走行させるX軸方向前後一対のガイド手段と、前記支持体の下部にX軸方向に間隔を存して設けられて所定の張力を加えつつ前記シート状のマスク材を前記シート状の基材に同期させて走行させるX軸方向前後一対の駆動手段とを備え、前記支持体は、前記一対の駆動手段が取り付けられて、所定位置を回転中心として前記一対のガイド手段に対して前記一対の駆動手段を相対回転させる首振り手段を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、支持体に対して首振り手段を相対回転させれば、支持体に固定のガイド手段に対して回転中心回りに一対の駆動手段が相対移動することで、シート状の基材または支持体に対するシート状のマスク材の蛇行を補正することが実現できる。この場合、例えば、前記首振り手段が前記支持体に設けた軸受で支承される回転軸とこの回転軸を介して吊設される回転台とを備える構成を採用すればよい。
【0009】
ところで、シート状のマスク材として所定材質のシート状の金属箔が一般に用いられ、所定の張力を加えた状態でセットされる。このため、上記のように、回転中心回りに一対のガイド手段の間を走行されるシート状のマスク材の部分を移動させてシート状のマスク材の蛇行を補正すると、シート状のマスク材に幅方向の張力差が生じてしまう。このような状態では、所定のパターンを持って高精度で所定処理ができない場合がある。そこで、本発明においては、前記一対の駆動手段の一方が母線方向をY軸方向に一致させて配置されるローラであり、前記ローラの回転軸の両端部を夫々独立して前記ローラが前記回転台から離間する方向に付勢する付勢手段を設けた構成を採用することが好ましい。これによれば、付勢手段の付勢力を適宜調整すれば、シート状のマスク材の蛇行補正により生じた幅方向における張力差を可及的に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態の真空処理装置を一部を省略して示す正面側から視た斜視図。
図2】一部を断面とした真空処理装置の正面図。
図3】マスク材走行ユニットの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、処理ユニットを成膜ユニットとし、シート状の基材Swを所定速度で走行させながらシート状のマスク材Sm越しに所定の処理としての成膜処理を行う場合を例に本発明の真空処理装置の実施形態を説明する。以下において、成膜が行われるメインチャンバ(真空チャンバ)1a内でシート状の基材Swの部分Sw1が一方向に移送される方向をX軸方向(図2中の左右方向)、シート状の基材Swの幅方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向を含む平面に対し直交する方向をZ軸方向(図1,2中、上下方向と同じ)とし、また、X軸方向及びZ軸方向における上、下、左、右、前、後といった方向を示す用語は図2を基準とする。
【0012】
図1図3を参照して、PMは、本発明の実施形態の真空処理装置である。真空処理装置PMは、成膜処理が行われる略直方体形状のメインチャンバ1aを備える。メインチャンバ1aのX軸方向の両側面には、上流側の補助チャンバ1bと、下流側の補助チャンバ1cとが夫々連設されている。メインチャンバ1aの前面には開閉扉11が設けられている。なお、特に図示して説明しないが、各補助チャンバ1b,1cのいずれかの側面にも開閉扉が夫々設けられ、また、各チャンバ1a,1b,1cには真空ポンプが夫々接続され、所定圧力に真空引きできるようになっている。
【0013】
上流側の補助チャンバ1bには、シート状の基材Swを巻回した状態で保持し、モータDM1で回転駆動される繰出ローラ21と、繰出ローラ21から繰り出されたシート状の基材Swが巻き掛けられてメインチャンバ1aの上部空間へと案内する上流側ガイドローラ22及び下流側ガイドローラ23とが設けられている。また、上流側の補助チャンバ1bには、上流側ガイドローラ22と下流側ガイドローラ23との間に位置してZ軸方向に移動自在なダンサーローラ24が設けられている。ダンサーローラ24の回転軸24aには、この回転軸24aを上方に向けて付勢するばね24bが付設され、メインチャンバ1a内を挿通するシート状の基材Swの張力を所定値に保持するようにしている。なお、シート状の基材Swの張力を所定値に保持する構成はこれに限定されるものではなく、公知のアクチュエータによりシート状の基材Swの張力を可変としてもよい。また、下流側ガイドローラ23には、その回転速度を検出する速度検出手段としてのセンサ25が付設され、回転速度に基づいてメインチャンバ1aへと送られるシート状の基材Swの送り速度を検出できるようにしている。
【0014】
下流側の補助チャンバ1cには、メインチャンバ1aを通して成膜処理された処理済みのシート状の基材Swを巻き取って回収する、モータDM2で回転駆動される巻取ローラ31と、メインチャンバ1aから巻取ローラ31へとシート状の基材Swを案内するガイドローラ32とが設けられている。そして、上流側の補助チャンバ1b内の下流側ガイドローラ23と下流側の補助チャンバ1c内のガイドローラ32とにより、シート状の基材Swの部分Sw1がメインチャンバ1aの上部空間をX軸方向に水平に移送され、その下面が成膜面となる。
【0015】
メインチャンバ1a内には、シート状の基材Swの部分Sw1に対して成膜処理を施す成膜ユニット4と、シート状の基材Swの部分Sw1に対する処理範囲を制限するシート状のマスク材Smを走行するマスク材走行ユニットMuと、シート状の基材Swを冷却する冷却ユニット5とが設けられている。成膜ユニット4は、シート状の基材Swに成膜しようする薄膜の組成に応じて選択させる成膜材料(図示せず)が収納でき、この成膜材料を抵抗加熱により蒸発させる抵抗ボード41と、抵抗ボード41が格納され、上面に蒸発した成膜材料の通過を許容する開口を有するボックス42とを備え、メインチャンバ1aのY軸方向の側壁面で支持されて後述の枠組みの内部空間内に配置される。この場合、ボックス42をメインチャンバ1aに対して出没自在に構成し、成膜材料の補充やメンテナンスを容易にできるようにしてもよい。冷却ユニット5は、メインチャンバ1aの上壁内側に吊設され、シート状の基材Swの部分Sw1の上面に間隔を存して対向配置される矩形の輪郭を持つ冷却パネル51と、冷却パネル51に冷媒を供給する冷媒供給源(図示せず)とを備え、一方向に沿って走行されるシート状の基材Swの部分Sw1を所定長さの範囲に亘って冷却できるようになっている。
【0016】
マスク材走行ユニットMuは、シート状の基材Swの部分Sw1に対する処理範囲を制限するシート状のマスク材Smを走行するためのものであり、支持体Msを有する。なお、本実施形態では、シート状のマスク材Smとしては、所定材質のシート状の金属箔の両自由端を接合して無端状に形成し、シート状の基材Swに成膜しようとするパターンに応じて厚み方向に貫通する孔またはスリットがマスクパターンとして開設されたものが用いられる。
【0017】
マスク材走行ユニットMuの支持体Msは、成膜ユニット4を囲う内部空間60が画成されるように複数本の板状の枠材を略直方体の輪郭を持つように組み付けた枠組み6とこの枠組み6に回転自在に吊設される回転台7とを備える。枠組み6の上枠部6aには、Y軸方向前後で夫々対を成すように4本の上支持アーム61a,61b,62a,62bがX軸方向左上方及び右上方に向けて夫々突設されている。夫々対を成す上支持アーム61a,61bと62a,62bの間には、Z軸方向の高さ位置を互いに一致させかつ母線方向をY軸方向に夫々一致させて、シート状のマスク材Smが巻き掛けられる第1及び第2の各ローラ8a,8bが夫々軸架されている。また、枠組み6の下枠部6bの内側には枠板63が組み付けられ、枠板63の中央には軸受64が設けられている。そして、軸受64で回転台7の中心に立設した所定長さの回転軸71が支承されて回転台7が枠組み6に吊設される。
【0018】
回転台7は矩形の輪郭を持ち、そのX軸方向の長さが、枠組み6の下枠部6bからX軸方向両側に夫々突出するように定寸され、Y軸方向の長さが、枠組み6の下枠部6bからY軸方向両側に夫々突出しないように定寸されている。また、回転台7には、Y軸方向前後で夫々対を成す4本の下支持アーム72a,72b,73a,73bがX軸方向左下方及び右下方に向けて夫々突設されている。各対の下支持アーム72a,72bと73a,73bの間には、Z軸方向の高さ位置を互いに一致させかつ母線方向をY軸方向に夫々一致させて、シート状のマスク材Smが巻き掛けられる第3及び第4の各ローラ8c,8dが夫々軸架されている。
【0019】
X軸方向右側(シート状の基材の移送方向下流側)に位置する第4のローラ8dの回転軸81は、回転台7に取り付けたモータDM3にベルトDVを介して連結され、所定の回転数で回転駆動されるようになっている。また、X軸方向左側に位置する第3のローラ8cが軸架される一対の下支持アーム72a,72bは、旋回機構Pmを介在させて回転台7に夫々取り付けられ、下支持アーム52dの取付箇所としての旋回機構Pmを支点にして、枠組み6に対して接離方向(X軸−Z軸方向)に旋回自在となっている。即ち、各ローラ8a〜8dの周囲にシート状のマスク材Smを巻き掛けたときに、枠組み6に対して離間方向に旋回させてシート状のマスク材Smに張力を加える加張位置と、枠組み6に対して近接方向に旋回してシート状のマスク材Smに全く張力が加わらない退避位置との間で一対の下支持アーム72a,72bが同期して旋回され、加張位置及び退避位置で夫々保持されるようにしている。この場合、旋回機構Pmに、例えば、枠組み6に対する旋回角を段階的に変化できる公知の機構が付設され、各ローラ8a〜8dの周囲にシート状のマスク材Smを巻き掛けたときにシート状のマスク材Smに加えるべき張力に応じて加張位置を適宜調整できるようにしている。旋回機構Pmとしては、油圧やギアを利用した公知のものが利用できる。
【0020】
また、回転台7の上面には、枠組み6に取り付けた駆動源DM4の駆動軸DMsが連結され、駆動源DM4により、軸受64で支承された回転軸71を回転中心としてX軸−Y軸方向に回転自在となっている(図3参照)。この場合、駆動源DM4としては、例えばモータと送りねじ機構とを備える公知のものが利用できる。更に、回転台7には2個の付勢機構Bmが取り付けられている。各付勢機構Bmは、X軸方向左側に位置する第3のローラ8cの回転軸81の両端に近接配置され、X軸方向で回転台7から離間する方向に夫々独立して回転軸81の両端に対して所定の付勢力を作用できるようにしている。付勢機構Bmとしては、例えばコイルばねや板ばねのようにその付勢力が外力で受動的に変化するもの、または、例えばエアー式または油圧式のアクチュエータや直動モータのようにその付勢力を能動的に変化できるものを用いることができる。例えば、付勢機構Bmとしての同一形態のコイルばねを第3のローラ8cの回転軸81の両端に配置した場合、回転軸71回りに所定の回転角で回転台7が回転されると、その回転角に応じて両コイルばねによって回転軸81の両端に作用する付勢力が夫々変化してシート状のマスク材Smの幅方向での張力差を可及的小さくすることができる。また、シート状のマスク材Smが、例えば加熱されることで熱膨張したような場合でも、付勢機構Bmによりシート状のマスク材Smに所定の張力が常時加えられる。
【0021】
シート状のマスク材Smをセットする場合、一対の下支持アーム72a,72bを退避位置に旋回させた状態で、第1、第2及び第4の各ローラ8a、8b、8dの周囲にシート状のマスク材Smを巻き掛ける。次に、図2に示すように、一対の下支持アーム72a,72bを、シート状のマスク材Smに加えようとする張力に応じた加張位置に旋回させる。これにより、第3のローラ8cの周囲にもシート状のマスク材Smが巻き掛けられる。そして、付勢機構Bmにより回転軸81の両端に付勢力を作用させてシート状のマスク材Smに加わる張力を、その幅方向で張力差が小さくなるように調整してシート状のマスク材Smのセットが完了する。この場合、第3、第4の各ローラ8c,8dに位置するシート状のマスク材の部分は、回転台7から間隔を置いて走行することになる。
【0022】
上記のようにシート状のマスク材Smが第1〜第4の各ローラ8a〜8dの周囲に巻き掛けられた(セットされた)状態で、モータDM3により第4のローラ8dが回転駆動されると、所定速度でシート状のマスク材Smが走行される。この場合、センサ25での検知値に応じたシート状の基材Swの送り速度から、モータDM3の回転速度を算出し、シート状の基材Swの送り速度がシート状のマスク材Smの送り速度と同等になるように制御される。本実施形態では、第1及び第2の各ローラ8a,8bが、シート状の基材Swの部分Sw1に対してZ軸方向に間隔をおいてシート状のマスク材Smの部分Sm1を平行に走行させるガイド手段を構成し、第4のローラ8dがシート状のマスク材Smをシート状の基材Swに同期させて走行させる駆動手段を構成し、第3のローラ8cによってシート状のマスク材Smに所定の張力が加えられる。
【0023】
また、メインチャンバ1a内には、支持体Muが設置されてこの支持体MuのY軸方向への移動及び、支持体Muのθz方向への回転を行い得る公知の構造を持つY−θzステージ9が設けられている。本実施形態では、Y−θzステージ9の上面がメインチャンバ1aに対して支持体Msが設置される部分を構成するようにしている。Y−θzステージ9には、特に図示して説明しないが、上下動自在な直動アクチュエータが付設され、支持体MuをY−θzステージ毎上下動できるようにしている。
【0024】
更に、Y−θzステージ9の上面にはブラケット91が立設され、ブラケット91には、各ローラ8a〜8dの周囲に巻き掛けられたシート状のマスク材Smが支持体Msに対して蛇行している否かを検出するセンサ92が設けられている。センサ92としては、例えば、光学式のものが用いられ、シート状のマスク材Smを走行させたときにその幅方向の端部を連続して検知し、支持体Msに対する幅方向(Y軸方向)の偏差が算出される。また、メインチャンバ1aの上壁には、Y軸方向に所定間隔を存して2個の覗き窓(図示せず)が設けられ、覗き窓の上方にはCCDカメラ等の撮像手段Is1,Is2が配置され、シート状の基材Swとシート状のマスク材SmとのY軸方向両端部を撮像できるようにしている。以下に、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとを、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの幅方向(Y軸方向)の両端に、同一X軸上に位置させてアライメントマーク(図示せず)がY軸方向に所定間隔(例えば、5〜10mmの範囲)で夫々列設されているものとして、シート状の基材Swの部分Sw1に対するシート状のマスク材Smの部分Sw1の蛇行を補正する場合の一例を説明する。
【0025】
上述のようにして各ローラ8a〜8dにシート状のマスク材Smを巻き掛けて走行させた状態で、撮像手段Is1,Is2によりアライメントマークを撮像し、シート状の基材Swの部分Sw1に対するシート状のマスク材Smの部分Sm1のX軸方向の相対変位量ΔXと、シート状の基材Swの部分Sw1に対するシート状のマスク材Smの部分Sm1のY軸方向の相対変位量ΔYまたはシート状の基材Swの走行方向とシート状のマスク材Smの走行方向とのなす角度Δθzとを検出する。そして、Y−θzステージ9を適宜移動させて補正する(所謂粗動による蛇行補正)。具体的には、例えば、シート状の基材Sw1の部分Sw1に対してシート状のマスク材Smの部分Sm1がY軸方向一方に変位している場合、撮像手段Is1,Is2で撮像した画像を公知の画像解析手段で解析して変位量ΔYを算出し、これに応じてY−θzステージ9をY軸方向一方に移動させる。他方、シート状の基材Swの走行方向とシート状のマスク材Smの走行方向とのなす角度(X−Y平面におけるシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの傾き)がずれている場合、当該角度Δθzを算出し、これに応じてY−θzステージ9をθz軸方向に適宜移動させることでY−θzステージ9をZ軸回りに回転させて補正する。
【0026】
次に、センサ92によりシート状のマスク材Smの幅方向の端部を連続して検知し、支持体Msに対するシート状のマスク材Smの幅方向の偏差を算出し、これに応じて駆動源DM4により回転軸71を回転中心として枠組み6の下枠部6bに対して回転台7を相対回転させることで、支持体Msに対するシート状のマスク材Smの位置を補正する(所謂微動による蛇行補正)。最後に、撮像手段Is1,Is2で撮像した画像を同様に解析し、この解析した値(検出値)に応じてモータDM1,DM2またはモータDM3の回転数を増加または減少させて、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの各アライメントマークをZ軸方向上下で一致させ(つまり、シート状の基材Swとシート状のマスク材SmとのX軸方向での相対位置が補正され)、これにより、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとが同期して走行される。
【0027】
なお、メインチャンバ1aに、他のCCDカメラ等の撮像手段を配置し、シート状の基材Swの部分Sw1とシート状のマスク材Smの部分Sm1とが上下に位置する領域にて、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの上下方向の間隙を検出し、シート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの高さ位置を補正するようにしてもよい。シート状の基材Swの送り速度とシート状のマスク材Smの送り速度とを一致させる制御や、成膜室1a内を水平に移送されるシート状の基材Swの部分Sw1に対するシート状のマスク材Smの部分Sm1のX軸方向及びY軸方向の相対位置の補正及び、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの上下方向の間隙の補正は、成膜中、常時行うことができる。これにより、シート状の基材Swに対してシート状のマスク材Smが高精度で位置合わせされ、精密なパターンの成膜を行うことができると共に、上下方向の間隙が広がり過ぎて基材Swに成膜した薄膜にマスクボケが生じることを防止できる。
【0028】
上記真空処理装置PMは、その全体的な動作を統括制御するパーソナルコンピュータやシーケンサー等からなる制御手段Cuを備え、制御手段Cuは、上述したシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの同期した走行の制御、センサ92の検知に基づく枠組み6の下枠部6bに対する回転台7を回転制御、及び、撮像手段Is1,Is2で撮像した画像データに基づくY−θzステージ9の移動制御等を行う。
【0029】
また、上記真空処理装置PMでは、シート状のマスク材Smの交換作業性等を考慮して、メインチャンバ1に設けた開閉扉11の位置と同方位とならないY方向後側でX軸方向に沿ってのびる枠組み6の下枠部6bの部分に、X軸方向に所定間隔で2本の支柱65を下方に向けて突設した。そして、各支柱65を介して、シート状の基材Swの部分Sw1とその下側のシート状のマスク材Smの部分Sm1とが平行になる起立姿勢でY−θzステージ9上に設置されるようにした。この場合、特に図示して説明しないが、Y−θzステージ9上面には、各支柱65の下端が嵌合する窪み部が凹設され、各支柱65が各窪み部に嵌合して真空チャンバ内にてマスク材走行ユニットMsが位置決めされるようにしている。
【0030】
また、開閉扉11の位置と同方位となるY方向前側のY−θzステージ9上面には、X軸方向にのびるように軸体66が固定され、軸体66には支持竿67が連結されている。この場合、支持竿67は、軸体66を旋回中心とし、この旋回中心を支点にしてY方向前側に位置する枠組み6の下枠6bの部分に対して接離方向に旋回自在に構成されている。また、支持竿67には、枠組み6の下枠6bを挟み込むようにして係合する係合爪67aが形成されている。そして、支持竿67がY−θzステージ9上面に横たわる退避位置と支持竿67の係合爪67aが下枠6bの部分に係合する係合位置との間で支持竿67が手動で旋回される。
【0031】
以上の実施形態によれば、支持体Msの枠組み6に対して首振り手段として回転台7を相対回転させれば、枠組み6に固定の各ローラ8a,8bに対して、回転中心としての回転軸71回りに回転台7に設けた各ローラ8c,8dが相対移動することで、支持体Msに対するシート状のマスク材Smの蛇行を補正することが実現でき、Y−θzステージ9の移動によりシート状の基材Swの部分Sw1に対するシート状のマスク材Smの部分Sm1の相対変位量または角度が補正されることと相俟って、シート状のマスク材Smの蛇行を確実に補正することができる。しかも、付勢機構Bmを設けたため、その付勢力を適宜調整すれば、シート状のマスク材Smの蛇行補正により生じた幅方向における張力差を可及的に小さくすることができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。上記実施形態では、メインチャンバ1a内にY−θzステージ9を予め設置したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、マスク材走行手段MuとY−θzステージ9とを図外の台車上に設置し、メインチャンバ1aに出し入れできるように構成してもよい。また、上記実施形態では、シート状のマスク材Smを無端状に各ローラ8a〜8dに巻き掛けたものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、各対の下支持アーム72a,72bと73a,73bの間に、繰出軸と巻取軸とを夫々軸架し、繰出軸に予め巻回したシート状のマスク材を繰り出し、巻取軸に巻き取るように構成することもできる。また、上記実施形態では、処理ユニットとして抵抗ボードを用いて蒸着するための成膜ユニット4を設けるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、処理ユニットは、スパッタリングカソードや、CVD法により所定の薄膜を形成するための原料ガス供給手段であってもよい。
【0033】
更に、上記実施形態では、ガイド手段と駆動手段とをローラで構成したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、また、ローラの個数についても上記のものに限定されるものではない。また、上記実施形態では、センサ92を設けて枠組み6に対して回転台7を相対回転させることで、支持体Msに対するシート状のマスク材Smの蛇行を補正する例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、撮像手段Is1,Is2で撮像した画像を解析したとき角度Δθzのみがずれているような場合には、枠組み6に対して回転台7を相対回転させてシート状の基材Swの部分Sw1に対するシート状のマスク材Smの部分Sm1の蛇行を補正することもできる。
【符号の説明】
【0034】
PM…真空処理装置、1a…メインチャンバ(真空チャンバ)、4…成膜ユニット(処理ユニット)、22,23,32…ガイドローラ(基材走行手段)、31…巻取ローラ(基材走行手段)、DM1,DM2,DM3…モータ、Mu…マスク材走行手段、Ms…支持体、6…枠組み、6a…枠組みの上枠、6b…枠組みの下枠、65…支柱、66…軸体(旋回軸)、67…支持竿、67a…爪部(係合部分)、8a,8b…ローラ(ガイド手段)、7…回転台、71…回転軸72a,72b…一対の下支持アーム(支持アーム)、8d…ローラ(駆動手段)、Bm…付勢機構(付勢手段)、Pm…旋回機構、Sm…シート状のマスク材、Sm1…シート状のマスク材の部分。
図1
図2
図3