特許第6797350号(P6797350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6797350ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797350
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20201130BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20201130BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20201130BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20201130BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08K3/36
   C08L83/04
   C08K7/14
   C08K7/06
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-186900(P2016-186900)
(22)【出願日】2016年9月26日
(65)【公開番号】特開2018-53003(P2018-53003A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓介
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/093309(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/136253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/02
C08K 7/02〜7/14
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ジメチルポリシロキサン(B)およびミルドファイバー(C)を必須成分として含有し、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、ジメチルポリシロキサン(B)が0.01〜20質量部の範囲であり、ミルドファイバー(C)が1〜300質量部の範囲であり、
前記ミルドファイバーは、数平均繊維径が5〜15μmの範囲、数平均繊維長が10〜200μmの範囲、アスペクト比が2.0〜40の範囲であり、ガラス繊維または炭素繊維であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
ジメチルポリシロキサン(B)がシリカ含浸ジメチルポリシロキサンである請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ジメチルポリシロキサン(B)が、ヒュームドシリカ含浸ジメチルポリシロキサンである請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
溶融混練物である請求項1〜3の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項6】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ジメチルポリシロキサン(B)およびミルドファイバー(C)を必須成分として配合し、
前記ミルドファイバーは、数平均繊維径が5〜15μmの範囲、数平均繊維長が10〜200μmの範囲、アスペクト比が2.0〜40の範囲であり、ガラス繊維または炭素繊維であり、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融混練することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、ジメチルポリシロキサン(B)が0.01〜20質量部の範囲であり、ミルドファイバー(C)が1〜300質量部の範囲である請求項6記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ジメチルポリシロキサン(B)およびミルドファイバー(C)を必須成分として配合し、
前記ミルドファイバーは、数平均繊維径が5〜15μmの範囲、数平均繊維長が10〜200μmの範囲、アスペクト比が2.0〜40の範囲であり、ガラス繊維または炭素繊維であり、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融混練して得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融し、成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項5記載の成形品と、シリコーン樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物とが接着してなる複合成形品。
【請求項10】
請求項5に記載の成形品と、シリコーン樹脂を含む硬化性樹脂組成物とを接触させた後、該硬化性樹脂組成物を硬化させることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下PASと略すことがある)樹脂は、耐熱性に優れつつ、機械的強度、耐薬品性、成形加工性、寸法安定性にも優れ、これら特性を利用して、電気・電子機器部品、自動車部品材料等として使用されている。そして、これらの優れた特徴を活かしつつ、他の熱可塑性樹脂を配合することでさらに優れた機能を付与する検討が種々なされている。
【0003】
例えば、PAS樹脂組成物を射出成形することによりケーシングなどの成形品を成形した後、該ケーシング中にシリコーン樹脂などの硬化性樹脂で封入し、その後、加熱等により該硬化性樹脂を硬化させて電気・電子部品とする例が知られている。しかしながら、ポリアリーレンスルフィド樹脂は他のエンジニアリングプラスチックに比べ、シリコーン樹脂などの硬化性樹脂との接着性が十分とは言えなかった。そこで、ポリアリーレンスルフィド樹脂に、ジメチルポリシロキサン、脂肪酸エステルおよびシランカップリング剤を必須成分として配合し溶融混練することにより、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂成形品が、本来有する機械的特性を維持しつつ、さらにシリコーン接着性および離型性にも優れることが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、該成形品は、シリコーン樹脂との優れた接着性を有しつつ、かつ、TD方向(溶融成形時の樹脂流れ方向に対して直角方向。以下、同じ)の機械的強度にも優れるものの、機械的強度の異方性が大きい(すなわち、MD方向(溶融成形時の樹脂流れ方向。以下、同じ)の曲げ強度に対するTD方向(溶融成形時の樹脂流れ方向に対して直角方向。以下、同じ)の曲げ強度の比が小さい)ものであった。その結果、成形品、特に溶融成形時にTD方向に「割れ」が生じやすく、特に成形品の薄肉化を図ろうとする際に顕著に現れる傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/093309号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、シリコーン樹脂との接着性に優れつつ、かつ、MD方向およびTD方向の機械的強度、特に引張特性に優れるだけでなく、さらに機械的強度の異方性が小さい(すなわち、MD方向の引張強度に対するTD方向の曲げ強度の比がより1に近い)成形品となりうるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、当該樹脂組成物を成形して得られるシリコーン樹脂との接着性に優れつつ、かつ、機械的強度の異方性の小さい成形品、さらに該成形品とシリコーン樹脂とが接着してなる複合成形品、およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ジメチルポリシロキサンおよびミルドファイバーを必須成分として含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、シリコーン樹脂との接着性に優れつつ、TD方向の機械的強度にも優れるポリアリーレンスルフィド樹脂成形品となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ジメチルポリシロキサン(B)およびミルドファイバー(C)を必須成分として含有し、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、ジメチルポリシロキサン(B)が0.01〜20質量部の範囲であり、ミルドファイバー(C)が1〜300質量部の範囲であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、に関する。
【0008】
さらに本発明は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品、に関する。
【0009】
さらに本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ジメチルポリシロキサン(B)、およびミルドファイバー(C)を必須成分として、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融混練することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法、に関する。
【0010】
さらに本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ジメチルポリシロキサン(B)およびミルドファイバー(C)を必須成分として配合し、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融混練して得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融し、成形することを特徴とする成形品の製造方法、に関する。
【0011】
さらに本発明は前記成形品と、シリコーン樹脂からなる硬化物とが接着した複合成形品、に関する。
【0012】
さらに本発明は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品と、シリコーン樹脂とを接触させた後、該シリコーン樹脂を硬化する工程を有する成形品の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、シリコーン樹脂との接着性に優れつつ、かつ、MD方向およびTD方向の機械的強度、特に引張特性に優れるだけでなく、さらに機械的強度の異方性が小さい(すなわち、MD方向の引張強度に対するTD方向の曲げ強度の比がより1に近い)成形品となりうるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、当該樹脂組成物を成形して得られるシリコーン樹脂との接着性に優れつつ、かつ、機械的強度の異方性の小さい成形品、さらに該成形品とシリコーン樹脂とが接着してなる複合成形品、およびそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ジメチルポリシロキサン(B)およびミルドファイバー(C)を必須成分として含有することを特徴とする。
【0015】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物において必須成分である、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0016】
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0017】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001〜3モル%の範囲が好ましく、特に0.01〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0018】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0019】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0020】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)〜(8)
【0021】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(5)〜(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂中に、上記一般式(5)〜(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0022】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0023】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0024】
(溶融粘度)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が2〜1000〔Pa・s〕の範囲であることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから2〜500〔Pa・s〕の範囲がより好ましく、2〜200〔Pa・s〕の範囲であることが特に好ましい。本発明において、溶融粘度(V6)の測定は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT−500Cを用いて行い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10/1にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度を測定値とする。
【0025】
(非ニュートン指数)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の非ニュートン指数は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、0.90〜2.00の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が0.90〜1.50の範囲であることが好ましく、さらに0.95〜1.20の範囲であることがより好ましい。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、本発明において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0026】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒−1)、SSは剪断応力(ダイン/cm)、そしてKは定数を示す。]
【0027】
(製造方法)
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p−クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲にコントロールすることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法(特開平07−228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01〜0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0028】
重合工程により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともポリアリーレンスルフィドに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィドや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0029】
尚、上記(1)〜(5)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0030】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ジメチルポリシロキサン(B)を必須成分として含有する。
【0031】
ジメチルポリシロキサン(B)としては、シリコーンオイルなどのジメチルポリシロキサン、さらにそれをシリカなどの無機材料の担持体に含浸させたものなどが挙げられるが、シリカ含浸ジメチルポリシロキサンが好ましいものとして挙げられる。当該シリカ含浸ジメチルポリシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサンを、シリカ粒子からなる担持体に含浸させたものであればよく、本発明の効果を奏する範囲において特に制限されるものではない。
【0032】
本発明に用いるジメチルポリシロキサンとしては、本発明の効果を奏するものであれば特に制限されないが、ジメチルシロキサン結合(−Si(CH−O−)を主鎖中に有する重合体であり、前記構造式中のSi原子は、メチル基以外の有機基を有していてもよい。このような、有機基としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基などの炭素原子数2〜8の範囲のアルケニル基を例示することができ、好ましくはビニル基、アリル基であり、特に好ましくはビニル基である。かかるアルケニル基は、分子鎖の末端のSi原子に結合していてもよいし、分子鎖の途中のSi原子に結合していてもよい。さらに該アルケニル基の付加重合により、前記ジメチルポリシロキサンが高分子量化されたものを用いてもよい。
【0033】
前記ジメチルポリシロキサンのシロキサン結合の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、シロキサン結合の数が20〜15,000の範囲のものが好ましく、500〜12,000の範囲のものがより好ましく、2,000〜10,000の範囲のものが特に好ましく、4,000〜8,000のものが最も好ましい。さらに、該ジメチルポリシロキサンとしては直鎖状のジメチルポリシロキサン、または直鎖状のジメチルポリシロキサンを架橋した構造を持つジメチルポリシロキサンのいずれも好ましく用いることができるが、直鎖状のジメチルポリシロキサンの場合に、シロキサン結合の数が20以上であると、前記成形品表面からブリードアウトしにくくなる傾向がありより好ましく、シロキサン結合の数が2000以上であると前記成形品表面からブリードアウトしにくく、かつ、機械的強度、特に、TD曲げ強度、TD曲げ伸びなどのTD方向の機械的強度が向上する傾向がありさらに好ましい。
【0034】
なお、前記ジメチルポリシロキサンのシロキサン結合の数は、例えばGPC測定によりジメチルポリシロキサンの分子量(Mw)を求め、これをジメチルシロキサン結合単位(−Si(CH−O−)の分子量(74)で除して求めることができる。
【0035】
GPC測定
測定装置 :東ソー株式会社製「HLC−8320 GPC」
カラム :東ソー株式会社製ガードカラム「HXL−L」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G1000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G3000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G4000HXL」
検出器 :RI(示差屈折径)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
カラム温度:40℃
展開溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
標準試料 :前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
単分散ポリスチレン:
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−380」
測定試料 :樹脂1mg(溶剤可溶分)をテトラヒドロフラン1mlに溶解させた後、マイクロフィルター(ポアサイズ0.45μm)でろ過したもの(50μl)。
【0036】
前記シリカ含浸ジメチルポリシロキサンにおいて、ジメチルポリシロキサンを含浸させるシリカ粒子としては本発明の効果を奏する範囲において特に制限されるものではなく、市販品、合成品を用いることができる。このようなシリカ粒子としては、数平均粒子径が10μm以下のものが好ましく、1μm以下のものがさらに好ましい。またこれらシリカ粒子としては、フュームドシリカを用いることが特に好ましい。
【0037】
フュームドシリカは、HとOとの混合ガスを燃焼させた1100〜1400℃の炎でSiClガスを酸化、加水分解させることにより作製されるものであり、非変性フュームドシリカおよび/または表面処理剤により処理した変性フュームドシリカのいずれを用いてもよい。フュームドシリカの一次粒子は、一般的に、平均粒径が5〜50nm程度の非晶質の二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする球状の超微粒子であり、この一次粒子がそれぞれ凝集し、粒径が数百nmである二次粒子を形成している。このようなフュームドシリカとして具体的には、例えば日本アエロジル株式会社製「アエロジル」(登録商標)、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製「WACKER HDK(登録商標)」などを用いることができる。
【0038】
本発明で用いるシリカ含浸ジメチルポリシロキサンとしては、市販品を用いてもよく、適宜合成したものを用いてもよい。該シリカ含浸ジメチルポリシロキサン中のジメチルポリシロキサンの配合量は、本発明の効果を損ねない範囲であれば特に限定されるものではないが、50%質量以上95質量%以下であることが好ましく、さらに65%質量以上75質量%以下であることがより好ましい。前記シリカ含浸ジメチルポリシロキサン中のジメチルポリシロキサンの配合量が上記範囲である場合、耐衝撃性が向上し、平滑性が良くなる傾向となるため好ましい。シリカ含浸ジメチルポリシロキサンの市販品の具体例としては、GENIOPLAST(登録商標) Pellet S(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)が挙げられる。
【0039】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物におけるジメチルポリシロキサン(B)の含有量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して0.01〜20質量部の範囲が好ましく、さらに0.05〜10質量部の範囲がより好ましい。0.01質量部以上であれば、引張強度などの機械的特性や、耐衝撃性に優れる傾向となり、一方、20質量部以下であれば、シリコーン樹脂との接着性、離型性などの成形性に優れることとなり好ましい。
【0040】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ミルドファイバー(C)を必須成分として含有する。
【0041】
本発明に用いるミルドファイバー(C)は、ガラス繊維や炭素繊維を粉砕した略粉末状の外観をもつ繊維であり、通常熱可塑性樹脂に使用されているミルドファイバーであれば、いずれも使用することができる。ミルドファイバーに用いられる繊維としてはガラス繊維が好ましく、無アルカリガラス(Eガラス 波長589nmにおける屈折率:1.555前後)がより好ましい。ミルドファイバーの数平均繊維径は5〜15μmの範囲であることが好ましく、7〜13μmの範囲であることが更に好ましい。また、ミルドファイバーの数平均繊維長としては10〜200μmの範囲であることが好ましく、20〜150μmの範囲であることが更に好ましい。加えて、ミルドファイバーの数平均繊維径と数平均繊維長との比(アスペクト比)は、2.0〜40の範囲が好ましく、3〜30の範囲がさらに好ましく、5〜25の範囲が最も好ましい。
【0042】
本発明において使用するミルドファイバーは、従来公知の方法に従い製造することができ、市販品を用いてもよい。市販されているミルドファイバーとしては、日東紡績株式会社、旭ファイバーグラス株式会社あるいはセントラル硝子株式会社から入手可能である。さらにこれらミルドファイバーはシリコーン樹脂との密着性を向上させる目的でアミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤などにより表面処理を行ってもよい。また、ミルドファイバーをウレタン樹脂やエポキシ樹脂等の集束材などで処理してもよい。
【0043】
本発明においてミルドファイバーの数平均粒子径および数平均繊維長は、キーエンス製マイクロビデオスコープによりミルドファイバーの拡大写真(倍率200倍)を得て、それをグラフテック社製画像解析装置により解析することで測定することができる。
【0044】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物において、ミルドファイバー(C)の含有量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、好ましくはポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して1〜300質量部の範囲が好ましく、さらに10〜150質量部の範囲がより好ましい。かかる範囲において、樹脂組成物は良好な機械的強度を有しつつ、成形品がシリコーン樹脂と優れた接着性を呈するため好ましい。
【0045】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、滑剤を任意成分として含有することができる。本発明で用いることのできる滑剤は、特に制限されるものではなく、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のオレフィン系ワックス;ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ソルビタンエステル、モンタン酸脂肪族2価アルコールエステルなどの高級脂肪酸エステルおよびその部分ケン化物等の脂肪族エステルワックス;エチレンビスアマイド等のビスアマイド系滑剤;ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸などを用いることができる。これら滑剤の含有量としては、本発明の効果を阻害しない範囲において特に制限されるものではないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜5質量部の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜3質量部の範囲であることがより好ましい。かかる範囲で滑剤を配合した場合、樹脂組成物が良好な離型性を呈するため好ましい。
【0046】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として含有することができる。シランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基または水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本発明においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、添加する場合、その含有量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械的強度と成形性、特に離型性を有し、かつ成形品がシリコーン樹脂と優れた接着性を呈しつつ、さらに機械的強度が向上するため好ましい。
【0047】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、熱可塑性エラストマーを任意成分として含有することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマーまたはシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その含有量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0048】
前記ポリオレフィン系エラストマーは、例えば、α−オレフィンの単独重合または異なるα−オレフィン同士の共重合により、さらに、官能基を付与する場合には、α−オレフィンと官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得ることができる。α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン及びブテン−1等の炭素原子数2〜8の範囲のものが挙げられる。また、官能基としては、カルボキシ基、式−(CO)O(CO)−で表される酸無水物基、それらのエステル、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、またはオキサゾリン基などが挙げられる。
【0049】
このような官能基を有するビニル重合性化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル等のα,β−不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその他の炭素原子数4〜10のα,β−不飽和ジカルボン酸及びその誘導体(モノ若しくはジエステル、及びその酸無水物等)、並びにグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、上述したエポキシ基、カルボキシ基、及び、該酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するエチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−ブテン共重合体が、機械的強度、特に靭性及び耐衝撃性の向上の点から好ましい。
【0050】
また本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、その他にも充填剤、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤、または防錆剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合することができる。これらの添加剤を配合する場合には、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.01〜1000質量部の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0051】
前記充填剤は、前記ミルドファイバーを除く他の充填剤であれば、繊維状、粒状、板状などいずれの形状でも良く、具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維、合成繊維等の繊維状充填剤や、ガラスフレーク、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0052】
更に、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂などを任意成分として含有することができる。また、これらの樹脂の含有割合は、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して0.01〜1000質量部の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0053】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は特に制限なく、必須成分であるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とジメチルポリシロキサン(B)およびミルドファイバー(C)を、さらに、必要に応じて加える上記の任意成分を、粉末、ペレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンダーなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの公知の溶融混練機に投入し、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃となる温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃となる温度範囲で溶融混練する工程を経て製造することができる。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。
【0054】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5〜500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50〜500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜5(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、前記必須成分のミルドファイバー(C)と、前記任意成分のうち、繊維状の充填剤や添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のトップフィーダーに替えて、サイドフィーダーから該押出機内に投入することもでき、形状保持と分散性を向上させることもでき好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1〜0.9の範囲であることが好ましい。中でも0.3〜0.7の範囲であることが特に好ましい。
【0055】
このようにして得られる本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必須成分であるポリアリーレンスルフィド樹脂、ジメチルポリシロキサン(B)およびミルドファイバー(C)と、必要に応じて加える任意成分とを前記含有量となるよう配合してなる溶融混練物であり、該溶融混練後に、公知の方法でペレット、チップ、顆粒、粉末等の形態に加工してから、必要に応じて100〜150℃の温度範囲で予備乾燥を施して、各種成形に供することが好ましい。
【0056】
上記製造方法により製造される本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂をマトリックスとし、当該マトリックス中に、必須成分であるジメチルポリシロキサン(B)およびミルドファイバー(C)と、それらに由来する成分、必要に応じて添加する任意成分が分散したモルフォロジーを形成する結果、成形品のシリコーン樹脂接着性やMD方向およびTD方向の機械的強度が良好なものとなるばかりか、機械的強度の異方性も小さくすることができる。その結果、成形品、特に溶融成形時にTD方向への「割れ」を抑制する傾向となり、特に成形品を薄肉化する場合には特に好ましい。
【0057】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種の溶融成形に供することが可能であるが、特に離型性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されるものではなく、一般的な方法により成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃の温度範囲で前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口から金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)〜300℃の温度範囲、好ましくは120〜180℃の温度範囲に設定すればよい。
【0058】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品は、シリコーン樹脂との接着性に優れつつ、射出成形時のTD方向の機械的強度にも優れる。そのため、ポリアリーレンスルフィド樹脂とシリコーン樹脂からなる硬化物とが接着した複合成形品として好適に用いることができる。複合成形品を製造する際に用いるシリコーン樹脂としては、当業者が接着剤として通常用いるシリコーン樹脂であればよく、縮合型シリコーン樹脂、付加型シリコーン樹脂のいずれであってもよく、また一液型および二液型のいずれを用いてもよいが、均一に硬化することから付加型シリコーン樹脂を用いることが好ましい。前記複合成形品の製造方法としては各種成形方法により成形したポリアリーレンスルフィド樹脂成形品にシリコーン樹脂を接触させた後、該シリコーン樹脂を硬化することにより複合成形品を製造する方法を用いることができる。
【0059】
当該複合成形品の主な用途例として箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーター、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディヤ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、その他各種用途にも適用可能である。
なお、本発明において、例えば、0〜10と表記した場合、0以上の範囲、かつ、10以下の範囲を表すものとする。
【実施例】
【0060】
<実施例1〜3及び比較例1〜3>
表1に記載する配合成分および配合量(全て質量%)にしたがい、各材料をタンブラーで均一に混合した。その後、東芝機械株式会社製ベント付き2軸押出機「TEM−35B」に前記配合材料を投入し、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.1(kg/hr・rpm)、設定樹脂温度330℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。
【0061】
[引張特性の測定方法]
得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、金型温度130℃に温調したISO Type−Aダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ISO Type−Aダンベル片を作成した。得られたダンベル片をISO527−1および2に準拠した測定方法で引張強度、引張伸びを測定した。
【0062】
[TD方向の引張特性の測定方法]
得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、金型温度130℃に温調したISO D2プレート成形用金型を用いて射出成形を行い、ISO D2プレートに切削して試験片を作成した。得られた試験片をISO178に準拠した測定方法でTD曲げ強度、TD曲げ伸びを測定した。
【0063】
[PAS樹脂組成物の成形品のシリコーン樹脂との接着強度]
得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、金型温度130℃に温調したASTM1号ダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ASTM1号ダンベル片を得た。得られたASTM1号ダンベル片を中央から2等分し、後述するシリコーン樹脂との接触面積が50mmとなるように作成したスペーサー(厚さ:1.8〜2.2mm、開口部:5mm×10mm)を、2等分したASTM1号ダンベル片2枚の間に挟み、クリップを用い固定した後、開口部にシリコーン樹脂(ダウ・コーニング株式会社製「SE−1714」)を注入し、135℃に設定した熱風乾燥機中で3時間加熱し硬化・接着させた。23℃下で1日冷却後スペーサーを外し、得られた試験片を用いて歪み速度1mm/min、支点間距離80mm、23℃下でインストロン社製引張試験機を用い引張破断強さを測定し、接着面積で除した値を接着強度とした。
【0064】
【表1】
【0065】
なお、表1中の配合樹脂、材料の配合比率は質量%を表し、下記のものを用いた。
A1 PAS樹脂 DIC株式会社製ポリアリーレンスルフィド樹脂「DIC.PPS(V6溶融粘度50Pa・s)」
B1 ジメチルポリシロキサン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製「GENIOPLAST PELLET S」、高分子量シリコーン/フュームドシリカ=65/35(質量比))
C1 ミルドファイバー(オーウェンスコーニングジャパン社製(数平均繊維径:13μm、数平均繊維長:70μm))
D1 ポリエチレンワックス(BASF株式会社製「Luwax AH6」)
D2 脂肪酸エステルワックス(クラリアントジャパン社製「WE−40」)
E1 3−アミノプロピルトリエトキシシラン
F1 ガラス繊維(数平均繊維径:10μm、数平均繊維長3mmのガラス繊維チョップドストランド)