(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、質量平均分子量が50,000〜2,000,000の範囲のポリビニルピロリドン(B)とを必須成分として、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融混練することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、質量平均分子量が50,000〜2,000,000の範囲のポリビニルピロリドン(B)とを必須成分として含有すること、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、前記ポリビニルピロリドン(B)が0.01〜100質量部の範囲であること、を特徴とする。
【0016】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を必須成分として含有する。本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(2)
【0017】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0018】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(3)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001〜3モル%の範囲が好ましく、特に0.01〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0019】
ここで、前記一般式(2)で表される構造部位は、特に該式中のR
1及びR
2は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(4)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(5)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0020】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(4)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0021】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記一般式(2)や(3)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(6)〜(9)
【0022】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(2)と一般式(3)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(6)〜(9)で表される構造部位は10モル%以下であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂中に、上記一般式(6)〜(9)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0023】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0024】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0025】
(溶融粘度)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が2〜1000〔Pa・s〕の範囲であることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから10〜500〔Pa・s〕の範囲がより好ましく、特に60〜200〔Pa・s〕の範囲であることが特に好ましい。但し、本発明において、溶融粘度(V6)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT−500Dを用い、300℃、荷重:1.96×10
6Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に溶融粘度を測定した値とする。
【0026】
(非ニュートン指数)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の非ニュートン指数は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、0.90〜2.00の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が0.90〜1.50の範囲であることが好ましく、さらに0.95〜1.20の範囲であることがより好ましい。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。
【0027】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
−1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]N値は1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0028】
(製造方法)
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p−クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲にコントロールすることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法(特開平07−228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01〜0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0029】
重合工程により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともポリアリーレンスルフィドに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィドや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0030】
尚、上記(1)〜(5)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリビニルピロリドン(B)を必須成分として含有する。該ポリビニルピロリドンは、質量平均分子量が、50,000〜2,000,000の範囲であり、好ましくは500,000〜1,500,000の範囲であり、さらに好ましくは1,000,000〜1,200,000の範囲である。重合度nは質量平均分子量が上記範囲となる値であれば特に限定されないが、好ましくはnが450〜18,000の範囲であることが好ましく、4,500〜13,500の範囲であることが好ましく、さらに9,000〜108,000の範囲であることが特に好ましい。ポリビニルピロリドンは直鎖型のものでも架橋型のものでも差し支えない。
【0032】
ポリビニルピロリドン(B)としては、例えば下記一般式(1)
【0033】
【化5】
で表される構造を有するものが好ましく挙げられる。ただし、式(1)中、nは繰り返し単位を表し、450〜18,000の範囲である。また、R
1は水素原子、炭素原子数1〜6の範囲のアルキル基またはアルコキシ基で、好ましくはメチル基、i−またはn−プロピル基、ブチル基であり、このうち、水素原子が好ましい。
【0034】
上記ポリビニルピロリドンの製造方法は、公知の方法を用いることができ、本発明の効果を損ねない限り特に限定されるものではないが、例えば、2−ピロリドンとアセチレンと原料として反応させる方法(レッペ法)や、N−ヒドロキシエチルピロリドンの脱水反応による方法の他、好ましくは、N−ヒドロキシエチルピロリドンを気相脱水反応させて得られた、γ−ブチロラクトン含有量が、例えば500ppm以下に低減させたN−ビニルピロリドンを、公知の重合開始剤や塩基性pH調整剤を適宜加えて、ラジカル重合する方法などが挙げられる。
【0035】
ここで、前記N−ビニルピロリドンは、下記一般式(10)
【0036】
【化6】
で示されるピロリジニル基を含有する重合性不飽和モノマーである。ここでR
1は前記式(1)と同様である。
【0037】
本発明で用いるポリビニルピロリドンは、前記N−ビニルピロリドンを原料とした単独重合物であることが好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、前記一般式(10)で表されるN−ビニルピロリドン、その他のモノマーを原料とする共重合物であってもよく、その場合、その他のモノマーの使用量は10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
その他のモノマーとしては、例えば、下記一般式(11)
【0039】
【化7】
で示されるピロリジニル基を含有する重合性不飽和モノマーが挙げられる。ここでXは、ラジカル重合可能な二重結合を有する置換基であり、次の一般式(12)〜(17)
【0040】
【化8】
(式(12)〜(17)中、R
1は水素原子、炭素原子数1〜6の範囲のアルキル基またはアルコキシ基で、好ましくはメチル基、i−またはn−プロピル基、ブチル基である。)で表される置換基が挙げられる。
【0041】
本発明で用いるポリビニルピロリドンは、例えば、株式会社日本触媒製「K−90」、同「K−85」、同「K−30」などとして市販のものを用いることができる。
【0042】
本発明においてポリビニルピロリドン(B)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜100質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜〜50質量部の範囲であることがより好ましく、1〜30質量部の範囲であることがさらに好ましく、2〜25質量部の範囲であることが最も好ましい。かかる範囲において、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品が良好なシリコーン樹脂接着性を呈するため好ましい。
【0043】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤を任意成分として含有することができる。これら充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0044】
本発明において充填剤は必須成分ではなく、添加する場合、その含有量は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。充填剤の含有量としては、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、1〜600質量部の範囲であることが好ましく、さらに10〜200質量部の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械強度と成形性を示すため好ましい。
【0045】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として含有することができる。シランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基または水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本発明においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、添加する場合、その配合量は、本発明の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な耐コロナ性と成形性、特に離形性を有し、かつ成形品がエポキシ樹脂と優れた接着性を呈しつつ、さらに機械的強度が向上するため好ましい。
【0046】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、熱可塑性エラストマーを任意成分として含有することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマーまたはシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その含有量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0047】
前記ポリオレフィン系エラストマーは、例えば、α−オレフィンの単独重合または異なるα−オレフィン同士の共重合により、さらに、官能基を付与する場合には、α−オレフィンと官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得ることができる。α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン及びブテン−1等の炭素原子数2〜8の範囲のものが挙げられる。また、官能基としては、カルボキシ基、式−(CO)O(CO)−で表される酸無水物基、それらのエステル、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、またはオキサゾリン基などが挙げられる。
【0048】
このような官能基を有するビニル重合性化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル等のα,β−不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその他の炭素原子数4〜10のα,β−不飽和ジカルボン酸及びその誘導体(モノ若しくはジエステル、及びその酸無水物等)、並びにグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、上述したエポキシ基、カルボキシ基、及び、該酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するエチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−ブテン共重合体が、機械的強度、特に靭性及び耐衝撃性の向上の点から好ましい。
【0049】
更に、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂及び前記ポリビニルピロリドンを除く他の合成樹脂、例えばポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として含有することができる。また、これらの合成樹脂の含有量は、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中における樹脂成分(前記ポリアリーレンスルフィド樹脂、前記ポリビニルピロリドン及び合成樹脂の合計)における割合としてポリアリーレンスルフィド樹脂及び前記ポリビニルピロリドンの合計が75.0質量%以上の範囲、好ましくは80〜99.99質量%の範囲となるよう、換言すると、上記の合成樹脂が25.0質量%以下の範囲、好ましくは0.01〜20.0質量%の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0050】
また本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、およびカップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として含有してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01〜1000質量部の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0051】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、前記ポリビニルピロリドン(B)とを必須成分として、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融混練する。
【0052】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の好ましい製造方法は、上述した含有量となるよう、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、前記ポリビニルピロリドン(B)の各必須成分と、必要に応じて、充填剤などの任意成分を、粉末、ペレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンダーなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの公知の溶融混練機に投入し、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃となる温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃となる温度範囲で溶融混練する工程を経て製造することができる。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。
【0053】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5〜500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50〜500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、前記成分のうち、充填剤や添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1〜0.9の範囲であることが好ましい。中でも0.3〜0.7の範囲であることが特に好ましい。
【0054】
このように溶融混練して得られる本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必須成分であるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、前記ポリビニルピロリドン(B)と、必要に応じて加える任意成分およびそれらの由来成分を含む溶融混合物であり、該溶融混練後に、公知の方法でペレット、チップ、顆粒、粉末等の形態に加工してから、必要に応じて100〜150℃の温度で予備乾燥を施して、各種成形に供することが好ましい。
【0055】
上記製造方法により製造される本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂をマトリックスとし、当該マトリックス中に、必須成分である前記ポリビニルピロリドン(B)と、それに由来する成分、必要に応じて添加する任意成分が分散したモルフォロジーを形成する。その結果、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形品がシリコーン樹脂接着性に優れたものとなり好ましい。
【0056】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃の温度範囲で前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)〜300℃、好ましくは120〜180℃に設定すればよい。
【0057】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品は、シリコーン樹脂との接着性に優れつつ、射出成形時のTD方向の機械的強度にも優れる。そのため、ポリアリーレンスルフィド樹脂とシリコーン樹脂からなる硬化物とが接着した複合成形品として好適に用いることができる。複合成形品を製造する際に用いるシリコーン樹脂としては、当業者が接着剤として通常用いるシリコーン樹脂であればよく、縮合型シリコーン樹脂、付加型シリコーン樹脂のいずれであってもよく、また一液型および二液型のいずれを用いてもよいが、均一に硬化することから付加型シリコーン樹脂を用いることが好ましい。前記複合成形品の製造方法としては各種成形方法により成形したポリアリーレンスルフィド樹脂成形品にシリコーン樹脂を接触させた後、該シリコーン樹脂を硬化することにより複合成形品を製造する方法を用いることができる。
【0058】
前記複合成形体の主な用途例としては、各種家電製品、携帯電話、及びPC(Personal Computer)等の電子機器の筐体、箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モータ、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディヤ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例】
【0059】
<実施例1〜5及び比較例1〜2>
表1〜2に記載する組成成分および配合量(全て質量部)に従い、各材料をタンブラーで均一に混合した。その後、東芝機械株式会社製ベント付き2軸押出機「TEM−35B」に前記配合材料を投入し、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.1(kg/hr・rpm)、設定樹脂温度330℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを用いて以下の各種評価試験を行った。試験及び評価の結果は、表1〜2に示す。
【0060】
[PAS樹脂成形品のシリコーン樹脂との接着強度]
得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友重機械工業製射出成形機(SE−75D)に供給し、金型温度140℃に温調したASTM1号ダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ASTM1号ダンベル片を得た。得られたASTM1号ダンベル片を中央から2等分し、シリコン接着剤(東レ・ ダウコーニング、SE−1714、一液・加熱・付加硬化型)との接触面積が25mm×12.5mm=312.5mm
2となるように成形品を重ね合わせ、クリップを用い固定した後、150℃に設定した熱風乾燥機中で0.5時間加熱し硬化・接着させた。23℃下で1日冷却後クリップを外し、得られた試験片を用いて歪み速度1mm/min、支点間距離65mm、23℃下でインストロン社製引張試験機を用い引張破断強さを測定し、接着面積で除した値をシリコン接着強度とした。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
なお、表1〜表2中の配合樹脂、材料は下記のものである。
PPS
A1 リニア型PPS DIC株式会社製「MA−520」(ピーク分子量35000、溶融粘度(V6)160Pa・s)
ビニルピロリドン系添加材
B1 ポリビニルピロリドン樹脂 株式会社日本触媒製「K−90」
(重量平均分子量:1,050,000〜1,200,000)
B2 ポリビニルピロリドン樹脂 株式会社日本触媒製「K−85」
(重量平均分子量:900,000〜1,050,000)
B3 ポリビニルピロリドン樹脂 株式会社日本触媒製「K−30」
(重量平均分子量:80,000〜120,000)
b4 ポリビニルピロリドン樹脂 第一工業製薬株式会社「ピッツコールK―17L」
(重量平均分子量:9,000)
【0064】
無機充填剤
C1 ガラス繊維 日本電気硝子株式会社製「T−717H」(直径10μmチョップドストランド)
C2 酸化マグネシウム (協和化学工業株式会社製「パイロキスマ(登録商標)500-04R」)
C3 炭酸カルシウム (丸尾カルシウム株式会社製、「カルテックス5」(粉末状、平均粒径1.2μm)