特許第6797410号(P6797410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6797410ケージドラジカルプローブ化合物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797410
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】ケージドラジカルプローブ化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 405/12 20060101AFI20201130BHJP
   A61K 49/20 20060101ALN20201130BHJP
【FI】
   C07D405/12CSP
   !A61K49/20
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-46513(P2017-46513)
(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公開番号】特開2018-150259(P2018-150259A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安倍 学
(72)【発明者】
【氏名】山田 綾人
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−529912(JP,A)
【文献】 KOMORI,N. et al,Design and synthesis of a new chromophore, 2-(4-nitrophenyl)benzofuran, for two-photon uncaging using near-IR light,Chemical Communications(Cambridge, United Kingdom),2016年,Vol.52, No.2,p.331-334
【文献】 JAKKAMPUDI,S. et al,Design and Synthesis of a 4-Nitrobromobenzene Derivative Bearing an Ethylene Glycol Tetraacetic Acid Unit for a New Generation of Caged Calcium Compounds with Two-Photon Absorption Properties in the Near-IR Region and Their Application in Vivo,ACS Omega,2016年,Vol.1, No.2,p.193-201
【文献】 CARLING,C. et al,Remote-Control Photorelease of Caged Compounds Using Near-Infrared Light and Upconverting Nanoparticles,Angewandte Chemie, International Edition,2010年,Vol.49, No.22,p.3782-3785
【文献】 SAN,M.V. et al,Wavelength-Selective Caged Surfaces: How Many Functional Levels Are Possible?,Journal of the American Chemical Society,2011年,Vol.133, No.14,p.5380-5388
【文献】 HAN,B. et al,Oxime Radical Promoted Dioxygenation, Oxyamination, and Diamination of Alkenes: Synthesis of Isoxazolines and Cyclic Nitrones,Angewandte Chemie, International Edition,2012年,Vol.51, No.35,p.8816-8820
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 405/12
A61K 49/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とするケジドラジカルプローブ化合物。
【化1】
【請求項2】
下記式(2)で表されることを特徴とするケジドラジカルプローブ化合物。
【化2】
【請求項3】
4−エチルフェノールを原料に用いて、4−エチル−2−ヨードフェノールを得る工程と、
前記4−エチル−2−ヨードフェノールを、4−ニトロ−1−ヨードベンゼン及びトリメチルシリルアセチレンと反応させて、2−(4−ニトロフェニル)−5−エチルベンゾフランを得る工程と、
前記2−(4−ニトロフェニル)−5−エチルベンゾフランを、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシと反応させて、下記式(1)で表されるケージドラジカルプローブ化合物を製造する工程と
を備えることを特徴とする請求項1に記載のケージドラジカルプローブ化合物の製造方法。
【化3】
【請求項4】
3−エチルフェノールを原料に用いて、5−エチル−2−ヨードフェノールを得る工程と、
前記5−エチル−2−ヨードフェノールを、4−ニトロ−1−ヨードベンゼン及びトリメチルシリルアセチレンと反応させて、2−(4−ニトロフェニル)−6−エチルベンゾフランを得る工程と、
前記2−(4−ニトロフェニル)−6−エチルベンゾフランを、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシと反応させて、下記式(2)で表されるケージドラジカルプローブ化合物を製造する工程と
を備えることを特徴とする請求項2に記載のケージドラジカルプローブ化合物の製造方法。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光応答性のケジドラジカルプローブ化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の疾患部位を可視化する技術は、生理学および医療現場には欠かせない技術である。生体ラジカルの発生は、ガン、神経疾患と深く関連することがわかっており、生体ラジカルの発生場所、発生原因を知ることは、疾患予防に重要である。
【0003】
ここで、従来、生体ラジカルを光解除性保護基で保護(修飾)して不活性化しておき、光を照射することにより、光解除性保護基による保護が解除されて、活性を示す(即ち、生体ラジカルを発生する)ケジドラジカルプローブ化合物(Caged radical prove compounds)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. C. Scaiano, Terrence J. Connolly, Nadereh Mohtat, Claudette N. Pliva、Exploratory study of the quenching of photosensitizers by initiators of free radical “living” polymerization、Canadian Journal of Chemistry、75号、92〜97頁、1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のケジドラジカルプローブ化合物では、ベンジルラジカルが310〜330nmに強い吸収特性を有しており、脱保護に355nmの紫外光を用いているため、生体組織への損傷が危惧されるという問題があった。また、光の散乱が生じて、光が届かないため、生体組織の深部にラジカルプローブを運搬することができず、ガン、神経疾患などの生体レドックスを可視化できるラジカルプローブを生体内で時空間自在に発生させることが困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、生体損傷を抑制することができるとともに、生体組織の深部において、生体ラジカルの脱ケージ化が可能な光応答性のケジドラジカルプローブ化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のケージドラジカルプローブ化合物は、下記式(1)で表されることを特徴とする。
【0008】
【化1】
【0009】
また、本発明の他のケジドラジカルプローブ化合物は、下記式(2)で表されることを特徴とする。
【0010】
【化2】
【発明の効果】
【0011】
本発明のケジドラジカルプローブ化合物によれば、生体損傷を抑制することができるとともに、生体組織の深部において、ニトロキシドラジカル等のラジカルプローブの時空間制御を効率よく行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例における(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)の検量線である。
図2】本発明の実施例における(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)の検量線である。
図3】本発明の実施例1に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:710nm)である。
図4】本発明の実施例1に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:720nm)である。
図5】本発明の実施例1に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:730nm)である。
図6】本発明の実施例1に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:740nm)である。
図7】本発明の実施例1に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:750nm)である。
図8】本発明の実施例1に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:760nm)である。
図9】本発明の実施例1に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータの最大強度と最小強度の差と、レーザー照射時間との関係を示す図である。
図10】本発明の実施例1に係るケージドラジカルプローブ化合物における反応速度定数を示す図である。
図11】本発明の実施例2に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:710nm)である。
図12】本発明の実施例2に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:720nm)である。
図13】本発明の実施例2に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:730nm)である。
図14】本発明の実施例2に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:740nm)である。
図15】本発明の実施例2に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:750nm)である。
図16】本発明の実施例2に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータ(照射光波長:760nm)である。
図17】本発明の実施例2に係るケージドラジカルプローブ化合物におけるESRスペクトルデータの最大強度と最小強度の差と、レーザー照射時間との関係を示す図である。
図18】本発明の実施例2に係るケージドラジカルプローブ化合物における反応速度定数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のケジドラジカルプローブ化合物は、光刺激により、自在かつ容易にニトロキシドラジカル等のラジカルプローブを放出する機能を有し、エチルベンゼンとN−アルコキシアミン誘導体のアミノオキシル化反応により得られ、例えば、下記式(1)(2)で表される光応答性のケジドラジカルプローブ化合物が挙げられる。
【0014】
【化3】
【0015】
【化4】
【0016】
このケジドラジカルプローブ化合物(1)(2)は、ニトロフェニルベンゾフラン骨格にラジカルプローブであるニトロキシドラジカルが導入された化合物である。
【0017】
本発明のケジドラジカルプローブ化合物は、ニトロキシドラジカル等のラジカルプローブを光解除性保護基で保護(修飾)して不活性化しておき、光を照射することにより、光解除性保護基による保護が解除されて、活性を示すものである。なお、上述のニトロキシドラジカルは生体ラジカルであり、MRI(Magnetic Resonance Imaging)造影能を示す。
【0018】
そして、本発明のケジドラジカルプローブ化合物においては、ニトロフェニルベンゾフラン骨格において、近赤外光(波長:680〜1050nm)の照射による2光子励起(2つの光子が同時に分子に吸収されて励起を起こす現象)が生じる。
【0019】
そうすると、下記式(15),(16)に示すように、この2光子励起反応によって、脱ゲージ化反応が起こり、式(1)(2)に示すケジドラジカルプローブ化合物から、ニトロキシドラジカルが発生する。
【0020】
【化5】
【0021】
【化6】
【0022】
従って、生体透過性を有する近赤外光により、生体組織の深部において、ラジカルプローブを放出することが可能になるため、生体損傷を生じることなく、これまで困難であった生体深部でのバイオアッセイが可能となり、これまで明らかになっていなかった生体レドックス反応の機構を解明することが可能になる。
【0023】
次に、上記式(1)で表されるケジドラジカルプローブ化合物(2−(4−ニトロフェニル)−5−(1−TEMPOエチル)ベンゾフラン)の製造方法の概略を以下の反応スキ−ム1に示す。
<反応スキ−ム1>
【化7】
【0024】
(1)で表されるケジドラジカルプローブ化合物を得るには、まず、水酸化ナトリウムをメタノールに溶解し、この溶液に、式(5)の4−エチルフェノールとヨウ化ナトリウムを加えて撹拌する。次に、この溶液に、5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えた後、5%のチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、塩酸でpHが7未満となるように調整し、エーテルを用いて抽出する。そして、溶媒を除去し、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(GPC)を使用して精製することにより、上記(6)で表される4−エチル−2−ヨードフェノールを得る。
【0025】
次に、式(7)で表される4−ニトロ−1−ヨードベンゼンと、酢酸パラジウム(II)と、トリフェニルホスフィン、及びヨウ化銅(I)を加え、窒素置換を行う。次に、トルエンとジイソプロピルアミンを加えて撹拌し、トルエンと、式(8)で示すトリメチルシリルアセチレンを加え、撹拌する。次に、1Mのテトラブチルアンモニウムフルオリド/テトラヒドロフランと、式(6)で表される4−エチル−2−ヨードフェノールを加えて撹拌し、ジクロロメタンを用いて抽出する。そして、溶媒を除去し、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(GPC)を使用して精製することにより、上記式(9)で表される2−(4−ニトロフェニル)−5−エチルベンゾフランを得る。
【0026】
次に、式(9)で表される2−(4−ニトロフェニル)−5−エチルベンゾフランと、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシと、酢酸銅(II)と、ビピリジンとを、ベンゼンに溶解し、tert−ブチルヒドロペルオキシド(70%水溶液)を加える。なお、上記(1)で表されるケジドラジカルプローブ化合物を合成した後、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシが熱により放出されるという不都合を防止するとの観点から、本工程の反応温度は60℃が好ましく、反応時間は15〜20時間が好ましい。
【0027】
そして、この溶液を遮光した後、撹拌し、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(GPC)を使用して精製することにより、上記(1)で表されるケジドラジカルプローブ化合物を得ることができる。
【0028】
次に、上記式(2)で表されるケジドラジカルプローブ化合物(2−(4−ニトロフェニル)−6−(1−TEMPOエチル)ベンゾフラン)の製造方法の概略を以下の反応スキ−ム2に示す。
<反応スキ−ム2>
【化8】
【0029】
(2)で表されるケジドラジカルプローブ化合物を得るには、まず、水酸化ナトリウムをメタノールに溶解し、この溶液に、式(10)の3−エチルフェノールとヨウ化ナトリウムを加えて撹拌する。次に、この溶液に、5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えた後、5%のチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、塩酸でpHが7未満となるように調整し、エーテルを用いて抽出する。そして、溶媒を除去し、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(GPC)を使用して精製することにより、上記(11)で表される5−エチル−2−ヨードフェノールを得る。
【0030】
次に、式(7)で表される4−ニトロ−1−ヨードベンゼンと、酢酸パラジウム(II)と、トリフェニルホスフィン、及びヨウ化銅(I)を加え、窒素置換を行う。次に、トルエンとジイソプロピルアミンを加えて撹拌し、トルエンと、式(8)で示すトリメチルシリルアセチレンを加え、撹拌する。次に、1Mのテトラブチルアンモニウムフルオリド/テトラヒドロフランと、式(11)で表される5−エチル−2−ヨードフェノールを加えて撹拌し、ジクロロメタンを用いて抽出する。そして、溶媒を除去し、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(GPC)を使用して精製することにより、上記式(12)で表される2−(4−ニトロフェニル)−6−エチルベンゾフランを得る。
【0031】
次に、式(12)で表される2−(4−ニトロフェニル)−6−エチルベンゾフランと、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシと、酢酸銅(II)と、ビピリジンとを、ベンゼンに溶解し、tert−ブチルヒドロペルオキシド(70%水溶液)を加える。なお、上記(2)で表されるケジドラジカルプローブ化合物を合成した後、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシが熱により放出されるという不都合を防止するとの観点から、本工程の反応温度は60℃が好ましく、反応時間は15〜20時間が好ましい。
【0032】
そして、この溶液を遮光した後、撹拌し、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(GPC)を使用して精製することにより、上記(2)で表されるケジドラジカルプローブ化合物を得ることができる。
【0033】
なお、粒子充填型カラムを用いたシリカゲルクロマトグラフィ−において、ヘキサンとエーテルの混合溶媒を移動相として使用することにより、上記(1)(2)で表されるケージドラジカルプローブ化合物を精製(単離)することができる。
【0034】
また、この場合、ヘキサンとエーテルの混合比率は、特に限定されないが、移動相の極性を高めて、ケジド化合物の単離を容易にするとの観点から、ヘキサン/エーテルの混合比率(体積比率)をヘキサン:エーテル=15:1に設定することが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0036】
(実施例1)
(ケージドラジカルプローブ化合物の合成)
上記式(1)で示されるケジドラジカルプローブ化合物を合成した。より具体的には、まず、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製、3.0g、75mmol)をメタノール(和光純薬工業(株)製、185ml)に溶解し、式(5)の4−エチルフェノール(東京化成工業(株)製、5.50g、45mmol)、ヨウ化ナトリウム(和光純薬工業(株)製、6.75g、45mmol)を加え、0℃で5分間、撹拌した。次に、この溶液に、5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業(株)製、74ml、54mmol)を15分間かけて加え、薄層クロマトグラフィー(TLC)を使用して反応追跡を行い、原料の消費を確認した。次に、氷浴を取り外し、5%のチオ硫酸ナトリウム水溶液(87.5ml)を加え、1Mの塩酸でpHが7未満となるように調整し、エーテルを用いて抽出した。次に、飽和食塩水で有機層を洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて溶媒を留去後、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(ヘキサン:エーテル(体積比)=6:1)を使用して精製することにより、上記式(6)で表される4−エチル−2−ヨードフェノール(7.75g、収率:69%)を得た。
【0037】
次に、式(7)で表される4−ニトロ−1−ヨードベンゼン(アルドリッチ製、2.49g、10mmol)、酢酸パラジウム(II)(和光純薬工業(株)製、45mg、0.2mmol)、トリフェニルホスフィン(和光純薬工業(株)製、78.5mg、0.3mmol)、及びヨウ化銅(I)(関東化学(株)製、38mg、0.2mmol)を加え、窒素置換した。次に、トルエン(和光純薬工業(株)製、15ml)とジイソプロピルアミン(和光純薬工業(株)製、7.5ml、55mmol)を加え10分撹拌した。次に、トルエン(和光純薬工業(株)製、10ml)と、式(8)で示すトリメチルシリルアセチレン(関東化学(株)製、1.75ml、12.5mmol)を加え、更に20分間、撹拌した。次に、1Mのテトラブチルアンモニウムフルオリド/テトラヒドロフラン(東京化成工業(株)製、20ml、20mmol)と、式(6)で表される4−エチル−2−ヨードフェノール(3.30g、13.3mmol)を加え、80℃で14時間、撹拌した。次に、10%クエン酸水溶液(100ml)でクエンチし、ジクロロメタンで抽出した。次に、10%水酸化ナトリウム水溶液(100ml)で有機層を洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させて溶媒を留去後、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=10:1)を使用して精製することにより、上記式(9)で表される2−(4−ニトロフェニル)−5−エチルベンゾフラン(1.39g、収率:52%)を得た。
【0038】
次に、式(9)で表される2−(4−ニトロフェニル)−5−エチルベンゾフラン(267mg、1mmol)、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO、和光純薬工業(株)製、46.8mg、0.3mmol)、酢酸銅(II)(和光純薬工業(株)製、3.6mg、0.02mmol)、及びビピリジン(和光純薬工業(株)製、3.1mg、0.02mmol)を試験管に加え、ベンゼン(和光純薬工業(株)製、1ml)に溶解し、tert−ブチルヒドロペルオキシド(和光純薬工業(株)製、70%水溶液、0.086ml、0.6mmol)を加えた。
【0039】
そして、この試験管をアルミホイルで包んで遮光した後、60℃で16時間、撹拌し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して精製することにより、上記(1)で表されるケジドラジカルプローブ化合物を得た。
【0040】
より具体的には、高純度シリカゲルが充填されたカラム(和光純薬工業(株)製、商品名:C300)を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィ−により精製した。
【0041】
なお、移動相として、ヘキサン(和光純薬工業(株)製)とエーテル(和光純薬工業(株)製)の混合溶媒を使用した。またヘキサン/エーテルの混合比率(体積比率)をヘキサン:エーテル=15:1に設定した。また、精製条件を流速20ml/min、20℃とし、カラム保持時間は90分間とした。
【0042】
得られたケジドラジカルプローブ化合物の収量は66mg(0.16mmol)、収率は52%であった。
【0043】
また、得られた固体のHNMRスペクトルデータ、及び13CNMRスペクトルデータから、生成物が式(1)に示す2−(4−ニトロフェニル)−5−(1−TEMPOエチル)ベンゾフランであることを確認した。化合物のスペクトルデータを以下に示す。
【0044】
1H NMR (400 MHz, CDCl3),8.31 (d, J = 9.0 Hz, 2 H), 7.99 (d, J = 9.0 Hz, 2 H), 7.57 (d, J = 1.6 Hz, 1 H), 7.50 (d, J = 8.6 Hz, 1 H), 7.36 (dd, J = 8.6, 1.7 Hz, 1 H), 7.23 (s, 1 H), 4.88 (q, J = 6.6 Hz, 1 H), 1.53 (d, J = 6.7 Hz, 3 H), 1.51 (s, 3 H), 1.33 (s, 6 H), 1.19 (s, 3 H), 1.02 (s, 3 H), 0.60 (s, 3 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) : δ 154.75 (C), 153.43 (C), 147.24 (C), 141.55 (C), 136.47 (C), 128.34 (C), 125.15 (CH), 125.04 (CH), 124.32 (CH), 119.50 (CH), 110.98 (CH), 105.39 (CH), 83.13 (CH), 59.76 (C), 40.42 (CH2), 34.37 (CH3) , 23.78 (CH2), 20.38 (CH3), 17.24 (CH3). ; HRMS (ESI) calcd. for C25H30N2O4[M+H]+ ; 423.22783 found 423.22757
【0045】
本実施形態における核磁気共鳴法(1HNMR、13CNMR)の測定は、測定装置として、AscendTM 400(BRUKER(株)製)を使用し、内部基準としてテトラメチルシランを使用するとともに、周波数を400MHzに設定して行った。
【0046】
(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)の検量線の作成)
まず、TEMPO(和光純薬工業(株)製)を用意し、これをベンゼンに溶解することにより、濃度の異なるTEMPO溶液(0.1mM、0.2mM、0.5mM、1mM、2mM、5mM、10mM)を調製した。そして、ESRスペクトルの測定を行うことにより、TEMPOラジカル用の検量線を作成した。
【0047】
なお、ESRスペクトルの測定は、測定装置(Jeol Resonance(株)製、商品名:JES−FA200)を使用し、直径4mmのWilmad LabGlass製のESRチューブ内に200μlのTEMPO溶液を挿入して測定を行った。以上の結果を図1図2に示す。
【0048】
(2−(4−ニトロフェニル)−5−(1−TEMPOエチル)ベンゾフランのESRスペクトル測定)
次に、合成した式(1)に示すケジドラジカルプローブ化合物(21.1mg)を5mlのベンゼンに加えて、10mMの濃度になるように調製し、この溶液200μlを、マイクロシリンジを用いて、Wilmad LabGlass製のESRチューブ内に採取した。
【0049】
次に、このESRチューブに対して、Ti:sapphire laser(Spectra Physics製、商品名:Mai Tai)を使用して、0.7Wの出力にてレーザー光照射を行った。なお、波長が710nmのレーザー光の照射を開始(即ち、初期照射)した後、10分間、20分間、及び30分間、レーザー光を照射した時点で、上述の測定装置を使用して、ESRスペクトルの測定を行った。ESRスペクトルを、図3に示す。
【0050】
また、同様に、波長が720nm、730nm、740nm、750nm、及び760nmの各レーザー光の照射を開始した後、10分間、20分間、及び30分間、レーザー光を照射した時点で、上述の測定装置を使用して、ESRスペクトルの測定を行った。各波長のレーザー光照射を行った場合のESRスペクトルを、図4図8に示す。
【0051】
(反応速度定数の算出)
次に、図3図8に示す、710nm、720nm、730nm、740nm、750nm、及び760nmの各レーザー光照射におけるESRスペクトルにおいて、最大強度Imaxと最小強度Iminの差(即ち、Imax−Imin、以下、単に「強度差」と言う。)を算出し、レーザー照射時間との関係を求めた。以上の結果を図9に示す。
【0052】
次に、図1図2に示すTEMPOラジカル用の検量線と、図9に示す強度差と照射時間の関係を用いて、710nm、720nm、730nm、740nm、750nm、及び760nmの各レーザー光照射における2光子脱ケージ反応の反応速度を求めた。より具体的には、脱ケージ化反応を一次反応と考え、図9に示す強度差と時間の関係と図2に示す検量線を用いて、TEMPOの濃度を算出し、そこから、式(1)に示すケジドラジカルプローブ化合物の濃度を逆算することで、図10を描き、直線の傾きから、710〜760nmの各波長における反応速度定数を算出した。算出した反応速度定数を図10に示す。
【0053】
なお、図10の縦軸は、式(1)に示すケジドラジカルプローブ化合物の濃度を初期濃度で割った値の対数を示し、横軸はレーザー光の照射時間を示している。
【0054】
図10より、式(1)に示すケジドラジカルプローブ化合物の最大吸収波長である367nmの約2倍である730〜740nmの光を照射した際に最大の反応速度定数でTEMPOを放出していると言え、従って、近赤外光(710〜760nm)の照射による2光子励起反応によって、脱ゲージ化反応が起こり、式(1)に示すケジドラジカルプローブ化合物から、ニトロキシドラジカルが発生したことが分かる。
【0055】
(実施例2)
(ケージドラジカルプローブ化合物の合成)
上記式(2)で示されるケジドラジカルプローブ化合物を合成した。より具体的には、まず、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製、0.48g、12mmol)をメタノール(和光純薬工業(株)製、30ml)に溶解し、式(10)の3−エチルフェノール(関東化学(株)製、1.19ml、10mmol)、ヨウ化ナトリウム(和光純薬工業(株)製、1.50g、10mmol)を加え、0℃で5分間、撹拌した。次に、この溶液に、5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業(株)製、16.5ml、12mmol)を15分間かけて加え、薄層クロマトグラフィー(TLC)を使用して反応追跡を行い、原料の消費を確認した。次に、氷浴を取り外し、5%のチオ硫酸ナトリウム水溶液(14ml)を加え、1Mの塩酸でpHが7未満となるように調整し、エーテルを用いて抽出した。次に、飽和食塩水で有機層を洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて溶媒を留去後、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(ヘキサン:ジクロロメタン(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、上記式(11)で表される5−エチル−2−ヨードフェノール(667mg、収率:27%)を得た。
【0056】
次に、式(7)で表される4−ニトロ−1−ヨードベンゼン(アルドリッチ製、500mg、2.0mmol)、酢酸パラジウム(II)(和光純薬工業(株)製、9.0mg、0.04mmol)、トリフェニルホスフィン(和光純薬工業(株)製、16mg、0.06mmol)、及びヨウ化銅(I)(関東化学(株)製、7.6mg、0.04mmol)を加え、窒素置換した。次に、トルエン(和光純薬工業(株)製、3ml)とジイソプロピルアミン(和光純薬工業(株)製、1.5ml、11mmol)を加え10分撹拌した。次に、トルエン(和光純薬工業(株)製、2ml)と、式(8)で示すトリメチルシリルアセチレン(関東化学(株)製、0.35ml、2.5mmol)を加え、更に20分間、撹拌した。次に、1Mのテトラブチルアンモニウムフルオリド/テトラヒドロフラン(東京化成工業(株)製、4ml、4mmol)と、式(11)で表される5−エチル−2−ヨードフェノール(667mg、2.7mmol)を加え、80℃で20時間、撹拌した。次に、10%クエン酸水溶液(20ml)でクエンチし、ジクロロメタンで抽出した。次に、10%水酸化ナトリウム水溶液(20ml)で有機層を洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて溶媒を留去後、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=10:1)を使用して精製することにより、上記式(12)で表される2−(4−ニトロフェニル)−6−エチルベンゾフラン(152mg、収率:28%)を得た。
【0057】
次に、式(12)で表される2−(4−ニトロフェニル)−6−エチルベンゾフラン(377mg、1.41mmol)、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO、和光純薬工業(株)製、66mg、0.425mmol)、酢酸銅(II)(和光純薬工業(株)製、5.1mg、0.028mmol)、及びビピリジン(和光純薬工業(株)製、4.4mg、0.028mmol)を試験管に加え、ベンゼン(和光純薬工業(株)製、1ml)に溶解し、tert−ブチルヒドロペルオキシド(和光純薬工業(株)製、70%水溶液、0.123ml、0.86mmol)を加えた。
【0058】
そして、この試験管をアルミホイルで包んで遮光した後、60℃で15時間、撹拌し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して精製することにより、上記(2)で表されるケジドラジカルプローブ化合物を得た。
【0059】
より具体的には、高純度シリカゲルが充填されたカラム(和光純薬工業(株)製、商品名:C300)を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィ−により精製した。
【0060】
なお、移動相として、ヘキサン(和光純薬工業(株)製)とエーテル(和光純薬工業(株)製)の混合溶媒を使用した。またヘキサン/エーテルの混合比率(体積比率)をヘキサン:エーテル=15:1に設定した。また、精製条件を流速20ml/min、20℃とし、カラム保持時間は90分間とした。
【0061】
得られたケジドラジカルプローブ化合物の収量は61mg(0.15mmol)、収率は34%であった。
【0062】
なお、得られた固体のHNMRスペクトルデータ、及び13CNMRスペクトルデータから、生成物が式(2)に示す2−(4−ニトロフェニル)−6−(1−TEMPOエチル)ベンゾフランであることを確認した。化合物のスペクトルデータを以下に示す。
【0063】
1H NMR (400 MHz, CDCl3),8.31 (d, J = 9.0 Hz, 2 H), 7.99 (d, J = 9.0 Hz, 2 H), 7.57 (d, J = 8.1 Hz, 1 H), 7.54 (s, 1 H), 7.25 (dd, J = 8.1, 1.2 Hz, 1 H), 7.21 (d, J = 0.7 Hz, 1 H), 4.91 (q, J = 6.7 Hz, 1 H), 1.54 (d, J = 6.6 Hz, 3 H), 1.51 (s, 3 H), 1.32 (s, 6 H), 1.20 (s, 3 H), 1.05 (s, 3 H), 0.66 (s, 3 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) : δ 155.69 (C), 153.25 (C), 147.18 (C), 144.70 (C), 136.50 (C), 127.39 (C), 125.08 (CH), 124.33 (CH), 122.65 (CH), 121.04 (CH), 109.47 (CH), 105.13 (CH), 83.28 (CH), 59.79 (C), 40.43 (CH2), 34.23 (CH3) , 23.82 (CH2), 20.40 (CH3), 17.24 (CH3). ; HRMS (ESI) calcd. for C25H30N2O4 [M+H]+; 423.22783 found 423.22754
【0064】
また、本実施例における核磁気共鳴法(1HNMR、13CNMR)の測定は、実施例1の場合と同様にして行った。
【0065】
(2−(4−ニトロフェニル)−6−(1−TEMPOエチル)ベンゾフランのESRスペクトル測定)
次に、合成した式(2)に示すケジドラジカルプローブ化合物について、上述の実施例1における式(1)に示すケジドラジカルプローブ化合物の場合と同様にして、ESRスペクトルを測定した。710〜760nmの各波長のレーザー光照射を行った場合のESRスペクトルを、図11図16に示す。
【0066】
次に、図11図16に示す、710nm、720nm、730nm、740nm、750nm、及び760nmの各レーザー光照射におけるESRスペクトルにおいて、上述の実施例1の場合と同様に強度差を算出し、レーザー照射時間との関係を求めた。以上の結果を図17に示す。
【0067】
次に、上述の実施例1の場合と同様にして、710〜760nmの各波長における反応速度定数を算出した。算出した反応速度定数を図18に示す。
【0068】
図18より、式(2)に示すケジドラジカルプローブ化合物の最大吸収波長371nmの約2倍である740nmの光を照射した際に最大の反応速度定数でTEMPOを放出していると言え、従って、近赤外光(710〜760nm)の照射による2光子励起反応によって、脱ゲージ化反応が起こり、式(2)に示すケジドラジカルプローブ化合物から、ニトロキシドラジカルが発生したことが分かる。
【0069】
以上より、実施例1〜2のケージドラジカルプローブ化合物によれば、生体透過性を有する近赤外光により、生体組織の深部において、ラジカルプローブを放出することが可能になるため、生体損傷を生じることなく、生体深部でのバイオアッセイが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の活用例としては、光応答性のケジドラジカルプローブ化合物及びその製造方法が挙げられる。
図1
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