【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0036】
(実施例1)
(ケージドラジカルプローブ化合物の合成)
上記式
(1)で示されるケ
ージドラジカルプローブ化合物を合成した。より具体的には、まず、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製、3.0g、75mmol)をメタノール(和光純薬工業(株)製、185ml)に溶解し、式(5)の4−エチルフェノール(東京化成工業(株)製、5.50g、45mmol)、ヨウ化ナトリウム(和光純薬工業(株)製、6.75g、45mmol)を加え、0℃で5分間、撹拌した。次に、この溶液に、5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業(株)製、74ml、54mmol)を15分間かけて加え、薄層クロマトグラフィー(TLC)を使用して反応追跡を行い、原料の消費を確認した。次に、氷浴を取り外し、5%のチオ硫酸ナトリウム水溶液(87.5ml)を加え、1Mの塩酸でpHが7未満となるように調整し、エーテルを用いて抽出した。次に、飽和食塩水で有機層を洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて溶媒を留去後、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(ヘキサン:エーテル(体積比)=6:1)を使用して精製することにより、上記式(6)で表される4−エチル−2−ヨードフェノール(7.75g、収率:69%)を得た。
【0037】
次に、式(7)で表される4−ニトロ−1−ヨードベンゼン(アルドリッチ製、2.49g、10mmol)、酢酸パラジウム(II)(和光純薬工業(株)製、45mg、0.2mmol)、トリフェニルホスフィン(和光純薬工業(株)製、78.5mg、0.3mmol)、及びヨウ化銅(I)(関東化学(株)製、38mg、0.2mmol)を加え、窒素置換した。次に、トルエン(和光純薬工業(株)製、15ml)とジイソプロピルアミン(和光純薬工業(株)製、7.5ml、55mmol)を加え10分撹拌した。次に、トルエン(和光純薬工業(株)製、10ml)と、式(8)で示すトリメチルシリルアセチレン(関東化学(株)製、1.75ml、12.5mmol)を加え、更に20分間、撹拌した。次に、1Mのテトラブチルアンモニウムフルオリド/テトラヒドロフラン(東京化成工業(株)製、20ml、20mmol)と、式(6)で表される4−エチル−2−ヨードフェノール(3.30g、13.3mmol)を加え、80℃で14時間、撹拌した。次に、10%クエン酸水溶液(100ml)でクエンチし、ジクロロメタンで抽出した。次に、10%水酸化ナトリウム水溶液(100ml)で有機層を洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させて溶媒を留去後、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=10:1)を使用して精製することにより、上記式(9)で表される2−(4−ニトロフェニル)−5−エチルベンゾフラン(1.39g、収率:52%)を得た。
【0038】
次に、式(9)で表される2−(4−ニトロフェニル)−5−エチルベンゾフラン(267mg、1mmol)、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO、和光純薬工業(株)製、46.8mg、0.3mmol)、酢酸銅(II)(和光純薬工業(株)製、3.6mg、0.02mmol)、及びビピリジン(和光純薬工業(株)製、3.1mg、0.02mmol)を試験管に加え、ベンゼン(和光純薬工業(株)製、1ml)に溶解し、tert−ブチルヒドロペルオキシド(和光純薬工業(株)製、70%水溶液、0.086ml、0.6mmol)を加えた。
【0039】
そして、この試験管をアルミホイルで包んで遮光した後、60℃で16時間、撹拌し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して精製することにより、上記
(1)で表されるケ
ージドラジカルプローブ化合物を得た。
【0040】
より具体的には、高純度シリカゲルが充填されたカラム(和光純薬工業(株)製、商品名:C300)を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィ−により精製した。
【0041】
なお、移動相として、ヘキサン(和光純薬工業(株)製)とエーテル(和光純薬工業(株)製)の混合溶媒を使用した。またヘキサン/エーテルの混合比率(体積比率)をヘキサン:エーテル=15:1に設定した。また、精製条件を流速20ml/min、20℃とし、カラム保持時間は90分間とした。
【0042】
得られたケ
ージドラジカルプローブ化合物の収量は66mg(0.16mmol)、収率は52%であった。
【0043】
また、得られた固体の
1HNMRスペクトルデータ、及び
13CNMRスペクトルデータから、生成物が式
(1)に示す2−(4−ニトロフェニル)−5−(1−TEMPOエチル)ベンゾフランであることを確認した。化合物のスペクトルデータを以下に示す。
【0044】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3),8.31 (d, J = 9.0 Hz, 2 H), 7.99 (d, J = 9.0 Hz, 2 H), 7.57 (d, J = 1.6 Hz, 1 H), 7.50 (d, J = 8.6 Hz, 1 H), 7.36 (dd, J = 8.6, 1.7 Hz, 1 H), 7.23 (s, 1 H), 4.88 (q, J = 6.6 Hz, 1 H), 1.53 (d, J = 6.7 Hz, 3 H), 1.51 (s, 3 H), 1.33 (s, 6 H), 1.19 (s, 3 H), 1.02 (s, 3 H), 0.60 (s, 3 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) : δ 154.75 (C), 153.43 (C), 147.24 (C), 141.55 (C), 136.47 (C), 128.34 (C), 125.15 (CH), 125.04 (CH), 124.32 (CH), 119.50 (CH), 110.98 (CH), 105.39 (CH), 83.13 (CH), 59.76 (C), 40.42 (CH
2), 34.37 (CH
3) , 23.78 (CH
2), 20.38 (CH
3), 17.24 (CH
3). ; HRMS (ESI) calcd. for C
25H
30N
2O
4[M+H]
+ ; 423.22783 found 423.22757
【0045】
本実施形態における核磁気共鳴法(
1HNMR、
13CNMR)の測定は、測定装置として、Ascend
TM 400(BRUKER(株)製)を使用し、内部基準としてテトラメチルシランを使用するとともに、周波数を400MHzに設定して行った。
【0046】
(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)の検量線の作成)
まず、TEMPO(和光純薬工業(株)製)を用意し、これをベンゼンに溶解することにより、濃度の異なるTEMPO溶液(0.1mM、0.2mM、0.5mM、1mM、2mM、5mM、10mM)を調製した。そして、ESRスペクトルの測定を行うことにより、TEMPOラジカル用の検量線を作成した。
【0047】
なお、ESRスペクトルの測定は、測定装置(Jeol Resonance(株)製、商品名:JES−FA200)を使用し、直径4mmのWilmad LabGlass製のESRチューブ内に200μlのTEMPO溶液を挿入して測定を行った。以上の結果を
図1、
図2に示す。
【0048】
(2−(4−ニトロフェニル)−5−(1−TEMPOエチル)ベンゾフランのESRスペクトル測定)
次に、合成した式
(1)に示すケ
ージドラジカルプローブ化合物(21.1mg)を5mlのベンゼンに加えて、10mMの濃度になるように調製し、この溶液200μlを、マイクロシリンジを用いて、Wilmad LabGlass製のESRチューブ内に採取した。
【0049】
次に、このESRチューブに対して、Ti:sapphire laser(Spectra Physics製、商品名:Mai Tai)を使用して、0.7Wの出力にてレーザー光照射を行った。なお、波長が710nmのレーザー光の照射を開始(即ち、初期照射)した後、10分間、20分間、及び30分間、レーザー光を照射した時点で、上述の測定装置を使用して、ESRスペクトルの測定を行った。ESRスペクトルを、
図3に示す。
【0050】
また、同様に、波長が720nm、730nm、740nm、750nm、及び760nmの各レーザー光の照射を開始した後、10分間、20分間、及び30分間、レーザー光を照射した時点で、上述の測定装置を使用して、ESRスペクトルの測定を行った。各波長のレーザー光照射を行った場合のESRスペクトルを、
図4〜
図8に示す。
【0051】
(反応速度定数の算出)
次に、
図3〜
図8に示す、710nm、720nm、730nm、740nm、750nm、及び760nmの各レーザー光照射におけるESRスペクトルにおいて、最大強度Imaxと最小強度Iminの差(即ち、Imax−Imin、以下、単に「強度差」と言う。)を算出し、レーザー照射時間との関係を求めた。以上の結果を
図9に示す。
【0052】
次に、
図1、
図2に示すTEMPOラジカル用の検量線と、
図9に示す強度差と照射時間の関係を用いて、710nm、720nm、730nm、740nm、750nm、及び760nmの各レーザー光照射における2光子脱ケージ反応の反応速度を求めた。より具体的には、脱ケージ化反応を一次反応と考え、
図9に示す強度差と時間の関係と
図2に示す検量線を用いて、TEMPOの濃度を算出し、そこから、式
(1)に示すケ
ージドラジカルプローブ化合物の濃度を逆算することで、
図10を描き、直線の傾きから、710〜760nmの各波長における反応速度定数を算出した。算出した反応速度定数を
図10に示す。
【0053】
なお、
図10の縦軸は、式
(1)に示すケ
ージドラジカルプローブ化合物の濃度を初期濃度で割った値の対数を示し、横軸はレーザー光の照射時間を示している。
【0054】
図10より、式
(1)に示すケ
ージドラジカルプローブ化合物の最大吸収波長である367nmの約2倍である730〜740nmの光を照射した際に最大の反応速度定数でTEMPOを放出していると言え、従って、近赤外光(710〜760nm)の照射による2光子励起反応によって、脱ゲージ化反応が起こり、式
(1)に示すケ
ージドラジカルプローブ化合物から、ニトロキシドラジカルが発生したことが分かる。
【0055】
(実施例2)
(ケージドラジカルプローブ化合物の合成)
上記式
(2)で示されるケ
ージドラジカルプローブ化合物を合成した。より具体的には、まず、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製、0.48g、12mmol)をメタノール(和光純薬工業(株)製、30ml)に溶解し、式(10)の3−エチルフェノール(関東化学(株)製、1.19ml、10mmol)、ヨウ化ナトリウム(和光純薬工業(株)製、1.50g、10mmol)を加え、0℃で5分間、撹拌した。次に、この溶液に、5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業(株)製、16.5ml、12mmol)を15分間かけて加え、薄層クロマトグラフィー(TLC)を使用して反応追跡を行い、原料の消費を確認した。次に、氷浴を取り外し、5%のチオ硫酸ナトリウム水溶液(14ml)を加え、1Mの塩酸でpHが7未満となるように調整し、エーテルを用いて抽出した。次に、飽和食塩水で有機層を洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて溶媒を留去後、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(ヘキサン:ジクロロメタン(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、上記式(11)で表される5−エチル−2−ヨードフェノール(667mg、収率:27%)を得た。
【0056】
次に、式(7)で表される4−ニトロ−1−ヨードベンゼン(アルドリッチ製、500mg、2.0mmol)、酢酸パラジウム(II)(和光純薬工業(株)製、9.0mg、0.04mmol)、トリフェニルホスフィン(和光純薬工業(株)製、16mg、0.06mmol)、及びヨウ化銅(I)(関東化学(株)製、7.6mg、0.04mmol)を加え、窒素置換した。次に、トルエン(和光純薬工業(株)製、3ml)とジイソプロピルアミン(和光純薬工業(株)製、1.5ml、11mmol)を加え10分撹拌した。次に、トルエン(和光純薬工業(株)製、2ml)と、式(8)で示すトリメチルシリルアセチレン(関東化学(株)製、0.35ml、2.5mmol)を加え、更に20分間、撹拌した。次に、1Mのテトラブチルアンモニウムフルオリド/テトラヒドロフラン(東京化成工業(株)製、4ml、4mmol)と、式(11)で表される5−エチル−2−ヨードフェノール(667mg、2.7mmol)を加え、80℃で20時間、撹拌した。次に、10%クエン酸水溶液(20ml)でクエンチし、ジクロロメタンで抽出した。次に、10%水酸化ナトリウム水溶液(20ml)で有機層を洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて溶媒を留去後、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィ−(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=10:1)を使用して精製することにより、上記式(12)で表される2−(4−ニトロフェニル)−6−エチルベンゾフラン(152mg、収率:28%)を得た。
【0057】
次に、式(12)で表される2−(4−ニトロフェニル)−6−エチルベンゾフラン(377mg、1.41mmol)、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO、和光純薬工業(株)製、66mg、0.425mmol)、酢酸銅(II)(和光純薬工業(株)製、5.1mg、0.028mmol)、及びビピリジン(和光純薬工業(株)製、4.4mg、0.028mmol)を試験管に加え、ベンゼン(和光純薬工業(株)製、1ml)に溶解し、tert−ブチルヒドロペルオキシド(和光純薬工業(株)製、70%水溶液、0.123ml、0.86mmol)を加えた。
【0058】
そして、この試験管をアルミホイルで包んで遮光した後、60℃で15時間、撹拌し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して精製することにより、上記
(2)で表されるケ
ージドラジカルプローブ化合物を得た。
【0059】
より具体的には、高純度シリカゲルが充填されたカラム(和光純薬工業(株)製、商品名:C300)を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィ−により精製した。
【0060】
なお、移動相として、ヘキサン(和光純薬工業(株)製)とエーテル(和光純薬工業(株)製)の混合溶媒を使用した。またヘキサン/エーテルの混合比率(体積比率)をヘキサン:エーテル=15:1に設定した。また、精製条件を流速20ml/min、20℃とし、カラム保持時間は90分間とした。
【0061】
得られたケ
ージドラジカルプローブ化合物の収量は61mg(0.15mmol)、収率は34%であった。
【0062】
なお、得られた固体の
1HNMRスペクトルデータ、及び
13CNMRスペクトルデータから、生成物が式
(2)に示す2−(4−ニトロフェニル)−6−(1−TEMPOエチル)ベンゾフランであることを確認した。化合物のスペクトルデータを以下に示す。
【0063】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3),8.31 (d, J = 9.0 Hz, 2 H), 7.99 (d, J = 9.0 Hz, 2 H), 7.57 (d, J = 8.1 Hz, 1 H), 7.54 (s, 1 H), 7.25 (dd, J = 8.1, 1.2 Hz, 1 H), 7.21 (d, J = 0.7 Hz, 1 H), 4.91 (q, J = 6.7 Hz, 1 H), 1.54 (d, J = 6.6 Hz, 3 H), 1.51 (s, 3 H), 1.32 (s, 6 H), 1.20 (s, 3 H), 1.05 (s, 3 H), 0.66 (s, 3 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) : δ 155.69 (C), 153.25 (C), 147.18 (C), 144.70 (C), 136.50 (C), 127.39 (C), 125.08 (CH), 124.33 (CH), 122.65 (CH), 121.04 (CH), 109.47 (CH), 105.13 (CH), 83.28 (CH), 59.79 (C), 40.43 (CH
2), 34.23 (CH
3) , 23.82 (CH
2), 20.40 (CH
3), 17.24 (CH
3). ; HRMS (ESI) calcd. for C
25H
30N
2O
4 [M+H]
+; 423.22783 found 423.22754
【0064】
また、本実施例における核磁気共鳴法(
1HNMR、
13CNMR)の測定は、実施例1の場合と同様にして行った。
【0065】
(2−(4−ニトロフェニル)−6−(1−TEMPOエチル)ベンゾフランのESRスペクトル測定)
次に、合成した式
(2)に示すケ
ージドラジカルプローブ化合物について、上述の実施例1における式
(1)に示すケ
ージドラジカルプローブ化合物の場合と同様にして、ESRスペクトルを測定した。710〜760nmの各波長のレーザー光照射を行った場合のESRスペクトルを、
図11〜
図16に示す。
【0066】
次に、
図11〜
図16に示す、710nm、720nm、730nm、740nm、750nm、及び760nmの各レーザー光照射におけるESRスペクトルにおいて、上述の実施例1の場合と同様に強度差を算出し、レーザー照射時間との関係を求めた。以上の結果を
図17に示す。
【0067】
次に、上述の実施例1の場合と同様にして、710〜760nmの各波長における反応速度定数を算出した。算出した反応速度定数を
図18に示す。
【0068】
図18より、式
(2)に示すケ
ージドラジカルプローブ化合物の最大吸収波長371nmの約2倍である740nmの光を照射した際に最大の反応速度定数でTEMPOを放出していると言え、従って、近赤外光(710〜760nm)の照射による2光子励起反応によって、脱ゲージ化反応が起こり、式
(2)に示すケ
ージドラジカルプローブ化合物から、ニトロキシドラジカルが発生したことが分かる。
【0069】
以上より、実施例1〜2のケージドラジカルプローブ化合物によれば、生体透過性を有する近赤外光により、生体組織の深部において、ラジカルプローブを放出することが可能になるため、生体損傷を生じることなく、生体深部でのバイオアッセイが可能になる。