【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼平成28年5月10日 https://cloud.dynacom.co.jp/spsj2016/ を通じて発表 ▲2▼平成28年5月25日 第65回高分子学会年次大会 神戸国際会議場・展示場においてポスターをもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
渡邉拓也ら,中枢神経系細胞への選択的取り込みを志向したデュアルリガンド型高分子ミセルシステムの構築,高分子学会予稿集,2015年 8月,Vol.64, No.2,2Pc093
【文献】
BINAULD, S. et al.,Acid-degradable polymers for drug delivery: a decade of innovation,Chemical Communications,2013年,Vol.49,p.2082-2102,ISSN 1359-7345
【文献】
MIUIRA, Y. et al.,Cyclic RGD-Linked Polymeric Micelles for Targeted Delivery of Platinum Anticancer Drugs to Glioblast,ACS Nano,2013年,Vol.7, No.10,p.8583-8592,ISSN 1936-0851
【文献】
GUO, Y. et al.,Cell Microenvironment-Controlled Antitumor Drug Releasing-Nanomicelles for GLUT1-Targeting Hepatocel,ACS Applied Materials & Interfaces,2015年 2月,Vol.7,p.5444-5453,ISSN 1944-8244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の非荷電性セグメントの鎖長が、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長より長いと共に、前記第1のブロックコポリマーの10モル%以上40モル%未満がGLUT1リガンドにより修飾されている、請求項1〜14の何れか一項に記載のキャリア。
前記第1の非荷電性セグメントの鎖長は、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長と実質的に同じであると共に、前記第1のブロックコポリマー及び前記第2のブロックコポリマーの合計の10モル%以上40モル%未満がGLUT1リガンドにより修飾されている、請求項1〜15の何れか一項に記載のキャリア。
前記第1の非荷電性セグメントの鎖長が、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長より長いと共に、前記第1のブロックコポリマーの40〜100モル%がGLUT1リガンドにより修飾されている、請求項1〜15の何れか一項に記載のキャリア。
前記第1の非荷電性セグメントの鎖長は、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長と実質的に同じであると共に、前記第1のブロックコポリマー及び前記第2のブロックコポリマーの合計の40〜99モル%がGLUT1リガンドにより修飾されている、請求項1〜15の何れか一項に記載のキャリア。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.定義
本発明では、「薬剤輸送体」とは、薬剤送達のためのキャリアを意味し、薬剤を内包できる微粒子、例えば、小胞、デンドリマー、ハイドロゲルおよびナノスフェアなどが挙げられる。薬剤輸送体は、一般的には、直径10nm〜400nmの大きさを有する。
【0016】
本明細書では、「小胞」とは、ミセルや中空微粒子を意図している。小胞は、好ましくは生体適合性の外殻を有し、その外表面がGLUT1リガンドにより修飾を受けている。これにより、小胞は、GLUT1と相互作用することができる。
【0017】
本明細書では、「ミセル」とは、1層の分子膜により形成される小胞を意味する。ミセルとしては、界面活性剤などの両親媒性分子により形成されるミセル、および、ポリイオンコンプレックスにより形成されるミセル(PICミセル)が挙げられる。ミセルは、血中滞留時間の観点では、その外表面をポリエチレングリコールで修飾することが好ましいと知られている。
【0018】
本明細書では、「リポソーム」とは、2層の分子膜により形成される小胞を意味する。分子膜は通常はリン脂質による二重膜である。
【0019】
本明細書では、「ポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム」(以下、「PICsome」ともいう)とは、ポリイオンコンプレックスにより形成され、膜によって包囲された空隙部を有し、内部に物質を包有しうる微粒子を意味する。PICsomeは、血中滞留時間の観点では、その外表面をポリエチレングリコールで修飾することが好ましいと知られている。
【0020】
本明細書では、「ポリイオンコンプレックス」(以下、「PIC」ともいう)とは、アニオン性ポリマー(ポリアニオン)とカチオン性ポリマー(ポリカチオン)とが静電相互作用により結合又は集合することにより形成される複合体を意味する。該複合体は、難水溶性又は非水溶性であり得る。例えば、非荷電性ポリマー(例、PEG)とアニオン性ポリマーとのブロックコポリマーと、非荷電性ポリマー(例、PEG)とカチオン性ポリマーとのブロックコポリマーとを水溶液中で荷電を中和するように混合すると両ブロックコポリマーのカチオン性セグメントとアニオン性セグメントとの間でポリイオンコンプレックスが形成される。PEG等の非荷電性ポリマーと上記の荷電性ポリマーとを結合させる意義は、ポリイオンコンプレックスが凝集して沈殿することを抑制すること、および、それにより、ポリイオンコンプレックスが粒径数十nmの単分散なコア−シェル構造を有するナノ微粒子を形成することである。この際、PEG等の非荷電性セグメントがナノ微粒子の外殻(シェル)を覆うため、生体適合性が高く、血中滞留時間を向上させる点で都合がよいことが期待される。また、ポリイオンコンプレックス形成において、一方の荷電性ブロックコポリマーは、非荷電性セグメント(例、PEG部分)を必要とせず、ホモポリマー、界面活性剤、核酸および/または酵素に置き換えてもよい。そして、ポリイオンコンプレックス形成においては、アニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーの少なくとも1つが非荷電性ポリマー(例、PEG)とのブロックコポリマーを形成しており、その両方が非荷電性ポリマー(例、PEG)とのブロックコポリマーを形成していてもよい。また、PEG含有量を増加させるとPICミセルが形成されやすく、PEG含有量を低減させるとPICsomeが形成されやすいことが知られている。ポリイオンコンプレックスの作製によく用いられるアニオン性ポリマー(またはセグメント)としては、例えば、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸および核酸(例えば、DNA、RNA(例、mRNAおよびsiRNA)等)が挙げられ、カチオン性ポリマー(またはセグメント)としては、例えば、ポリリジンおよびポリ(5−アミノペンチルアスパラギン酸)が挙げられる。ここで、mRNAとは、翻訳によりタンパク質合成に用いられるメッセンジャーRNAを意味し、siRNAとは、RNA干渉(RNAi)を誘導することができる二本鎖RNA(核酸)を意味する。siRNAは、特に限定されないが、20〜30bp、好ましくは、21〜23bp、25bp、27bpからなる二本鎖RNAであって、標的遺伝子の配列と相同な配列を有する二本鎖RNAである。
【0021】
本明細書では、「ブロックコポリマー」とは、複数のポリマーが直列に連結されることにより形成されるポリマーを意味する。ブロックコポリマーに含まれる各ポリマー部分をセグメント又はブロックと称する。ブロックコポリマーを構成する各セグメントは、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。
【0022】
本明細書では、「薬剤送達用の」とは、生体適合性であること、および、薬剤を小胞に内包できることを意味する。本明細書では、「薬剤送達用の」とは、薬剤の血中滞留時間を、裸の薬剤の血中滞留時間と比べて長期化する作用を利用した用途を意味することがある。
【0023】
本明細書では、「低血糖を誘発させる」とは、対象において、その処置がされなければ示したはずの血糖よりも血糖値を低下させることをいう。低血糖を誘発させる方法としては、絶食、糖尿病薬の投与などが挙げられる。例えば、低血糖を誘発させる際に、低血糖を誘発させるという目的を達する限りにおいて、例えば、他の薬剤を摂取し、または水などの飲料を飲むことは許容される。低血糖を誘発させることは、血糖に実質的に影響しない他の処置を伴ってもよい。
【0024】
本明細書では、「絶食させる」とは、対象に絶食、例えば、3時間以上、4時間以上、5時間以上、6時間以上、7時間以上、8時間以上、9時間以上、10時間以上、11時間以上、12時間以上、13時間以上、14時間以上、15時間以上、16時間以上、17時間以上、18時間以上、19時間以上、20時間以上、21時間以上、22時間以上、23時間以上、24時間以上、25時間以上、26時間以上、27時間以上、28時間以上、29時間以上、30時間以上、31時間以上、32時間以上、33時間以上、34時間以上、35時間以上、36時間以上、37時間以上、38時間以上、39時間以上、40時間以上、41時間以上、42時間以上、43時間以上、44時間以上、45時間以上、46時間以上、47時間以上または48時間以上の絶食をさせることを意味する。絶食により対象は低血糖を引き起こす。絶食期間は、対象の健康状態に鑑みて医師等により決定され、例えば、対象が空腹時血糖に達する時間以上の期間とすることが好ましい。絶食期間は、例えば、脳血管内皮細胞の血管内表面でのGLUT1の発現が増大する、またはプラトーに達する以上の時間としてもよい。絶食期間は、例えば、12時間以上、24時間以上または36時間以上である上記期間とすることができる。また、絶食は、血糖値やGLUT1の血管内表面での発現に実質的に影響しない他の処置を伴ってもよい。
【0025】
本明細書では、「血糖値の上昇を誘発させる」とは、低血糖を誘発させた対象、または、低血糖状態を維持させた対象において血糖値を上昇させることをいう。血糖値は、当業者に周知の様々な方法により上昇させることができるが、例えば、血糖値の上昇を誘発するものの投与、例えば、グルコース、フルクトース(果糖)、ガラクトースなどの血糖値の上昇を誘発する単糖の投与、マルトースなどの血糖値の上昇を誘発する多糖の投与、若しくは、デンプンなどの血糖値の上昇を誘発する炭水化物の摂取、または、食事により上昇させることができる。
【0026】
本明細書では、「血糖操作」とは、対象に対して、低血糖を誘発させ、その後、血糖値を上昇させることをいう。対象に対して低血糖を誘発させた後は、対象の血糖値を低血糖に維持することができる。対象の血糖値を低血糖に維持する時間は、例えば、0時間以上、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、6時間以上、7時間以上、8時間以上、9時間以上、10時間以上、11時間以上、12時間以上、13時間以上、14時間以上、15時間以上、16時間以上、17時間以上、18時間以上、19時間以上、20時間以上、21時間以上、22時間以上、23時間以上、24時間以上、25時間以上、26時間以上、27時間以上、28時間以上、29時間以上、30時間以上、31時間以上、32時間以上、33時間以上、34時間以上、35時間以上、36時間以上、37時間以上、38時間以上、39時間以上、40時間以上、41時間以上、42時間以上、43時間以上、44時間以上、45時間以上、46時間以上、47時間以上、48時間以上とすることができる。その後、血糖値を上昇させることができる。本明細書では、「血糖を維持する」とは、対象において低血糖を維持するという目的を達する限りにおいて、例えば、他の薬剤を摂取し、または水などの飲料を飲むことは許される。低血糖を誘発させることは、血糖に実質的に影響しない他の処置を伴ってもよい。
【0027】
本明細書では、「対象」とは、ヒトを含む哺乳動物である。対象は、健常の対象であってもよいし、何らかの疾患に罹患した対象であってもよい。ここで疾患としては、運動神経障害、例えば、パーキンソン病および筋萎縮性側索硬化症、および、脳神経疾患、例えば、精神病性障害、うつ病、気分障害、不安、睡眠障害、認知症および物質関連障害が挙げられる。また、認知症としては、特に限定されないがアルツハイマー病およびクロイツフェルト・ヤコブ病が挙げられる。
【0028】
本明細書では、「血液脳関門」とは、血行と脳の間に存在して物質の透過に対して選択性を持つ機能的障壁をいう。血液脳関門の実態は、脳血管内皮細胞などであると考えられている。血液脳関門の物質透過性については、不明な点が多いが、グルコース、アルコールおよび酸素は血液脳関門を通過し易いことが知られ、脂溶性物質や小分子(例えば、分子量500未満)は、水溶性分子や高分子(例えば、分子量500以上)に比べて通過し易い傾向があると考えられている。多くの脳疾患治療薬や脳診断薬が血液脳関門を通過せず、このことが脳疾患の治療や脳の分析等の大きな障害となっている。本明細書では、「血液神経関門」とは、血行と末梢神経の間に存在して物質の透過に対して選択性を持つ機能的障壁をいう。本明細書では、「血液髄液関門」とは、血行と脳脊髄液との間に存在して物質の透過に対して選択性を持つ機能的障壁をいう。本明細書では、「血液網膜関門」とは、血行と網膜組織の間に存在して物質の透過に対して選択性を持つ機能的障壁をいう。血液神経関門、血液髄液関門および血液網膜関門の実体は、それぞれの関門に存在する血管内皮細胞などであると考えられており、その機能は血液脳関門と同様であると考えられている。
【0029】
本明細書では、「GLUT1リガンド」とは、GLUT1と特異的に結合する物質を意味する。GLUT1リガンドとしては、様々なリガンドが知られ、特に限定されないが例えば、グルコースおよびヘキソースなどの分子が挙げられ、GLUT1リガンドは、いずれも本発明でグルコースの代わりにキャリアまたはコンジュゲートの調製に使用することができる。GLUT1リガンドは、好ましくはGLUT1に対してグルコースと同等またはそれ以上の親和性を有する。2−N−4−(1−アジ−2,2,2−トリフルオロエチル)ベンゾイル−1,3−ビス(D−マンノース−4−イルオキシ)−2−プロピルアミン(ATB−BMPA)、6−(N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ)−2−デオキシグルコース(6−NBDG)、4,6−O−エチリデン−α−D−グルコース、2−デオキシ−D−グルコース、3−O−メチルグルコース、1,2−O−イソプロピリデン−α−D−グルコフラノースもGLUT1と結合することが知られ、これらの分子(グルコース誘導体と称する場合がある)もGLUT1リガンドとして本発明に用いることができる。
【0030】
本発明におけるGLUT1リガンド(グルコース等)の役割は、脳の血管内皮細胞の血管内表面に発現するグルコーストランスポーターであるGLUT1に結合することであると考えられる。従って、本発明では、グルコース以外のGLUT1リガンドもグルコースと同じ役割を果たすことができる。本発明では、GLUT1リガンドは、脳の血管内皮細胞の血管内表面に発現するグルコーストランスポーターに結合することができるように、その外表面に露出するようにキャリア上に配置することができる。GLUT1にGLUT1リガンドを提示することができるキャリア(複合体および小胞その他)は、GLUT1と結合し得、結合後にグルコースによりGLUT1が細胞内に取り込まれる際に、一緒に血管内皮細胞内に取り込まれるものと考えられる。また、血管内皮細胞に取り込まれると、取り込まれた小胞は、血液脳関門を通過して脳実質に移行する。キャリアを修飾するグルコース分子が多いと、脳実質に到達する小胞の割合がわずかであるが低下した。このことは、キャリアを修飾するグルコース分子が多いと、キャリアがエンドサイトーシスにより細胞に取り込まれ、そのまま、脳実質に向けて細胞を通過すること、および、キャリアが血管内皮細胞から脳実質に移行する際に、キャリアと血管内皮細胞との解離の効率が低下することを示唆するものである。言い換えれば、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれたキャリアの一部は、脳血管内皮細胞と解離せず、脳血管内皮細胞に蓄積する。従って、本発明のキャリアまたは組成物は、脳血管内皮細胞に送達することにも用いることができる。また、本発明におけるGLUT1リガンドの役割は、血液神経関門、血液網膜関門および血液髄液関門においても、同様である。特に、血液神経関門、血液網膜関門および血液髄液関門においても、低血糖時の血管内皮細胞にはGLUT1が発現する。従って、本発明のキャリアまたは組成物は、血液神経関門、血液網膜関門および血液髄液関門を通過させるために用いることができる。本発明のキャリアまたは組成物はまた、血液神経関門、血液網膜関門および血液髄液関門に存在する血管内皮細胞に送達することに用いることもできる。
【0031】
2.キャリア
本発明は、第1のブロックコポリマーと第2のブロックコポリマーとを含有するキャリアであって、前記第1のブロックコポリマーは、第1の非荷電性セグメントと第1の複合体形成セグメントとのブロックコポリマーであり、前記第1のブロックコポリマーの少なくとも一部は、第1の分子で修飾されてなり、前記第2のブロックコポリマーは、第2の非荷電性セグメントと第2の複合体形成セグメントとのブロックコポリマーであり、前記第2のブロックコポリマーの少なくとも一部は、第2の分子で修飾されてなり、前記第1の分子はGLUT1リガンドであり、前記第2の分子は、前記第1の分子とは異なるリガンドである、キャリアを提供する。
【0032】
本発明者らは、第1の分子としてGLUT1リガンドで修飾した第1のブロックコポリマーと、第2の分子、即ち第2のリガンドで修飾した第2のブロックコポリマーとを含有する上記のキャリアにより、脳内の所望の部位、例えば血管内皮細胞や脳実質内の特定の組織や細胞に対して選択的に薬剤を送達することが可能となるのを見出し、本発明に到達したものである。
【0033】
本発明者らは既に、グルコース等のGLUT1リガンドで外表面を修飾したキャリアにより、脳への蓄積が見られることを、国際公開第2015/075942号において詳細に報告している(本明細書はその全体が引用により本明細書に組み込まれる。)。但し、かかるGLUT1リガンドのみを標的化リガンドとして用いたキャリアの場合、血液脳関門の通過後、キャリアは通常はニューロン及び/又はミクログリアに移行するが、選択的な移行は行われず、且つ、アストロサイトには移行しない。更には、どの細胞にも取り込まれないキャリアも存在する。一方、本発明では、第1のブロックコポリマーを修飾するGLUT1リガンドにより、上記と同様の機序でキャリアに血液脳関門を通過させると共に、第2のブロックコポリマーを修飾する第2のリガンドにより、脳内の所望の部位、例えば血管内皮細胞や脳実質内の特定の組織や細胞に、キャリアを選択的に移行させる。このように2種類のリガンドを用いることにより、脳内への侵入と脳内の所望の部位への選択的移行とを共に達成しうることは、従来は全く知られておらず、本発明者らが初めて見いだした驚くべき知見である。
【0034】
以下、具体的に説明する。
第1のブロックコポリマーは、第1の非荷電性セグメントと第1の複合体形成セグメントとのブロックコポリマーであり、第2のブロックコポリマーは、第2の非荷電性セグメントと第2の複合体形成セグメントとのブロックコポリマーである。以下、第1のブロックコポリマー及び第2のブロックコポリマーを総称して、単にブロックコポリマーという場合があり、第1の非荷電性セグメント及び第2の非荷電性セグメントを総称して、単に非荷電性セグメントという場合があり、また、第1の複合体形成セグメント及び第2の複合体形成セグメントを総称して、単に複合体形成セグメントという場合がある。
【0035】
非荷電性セグメントは、非荷電の性質を有するポリマーセグメントである。ここで「非荷電」とは、セグメントが全体として中性であることをいう。例としてはセグメントが正・負の電荷を有さない場合が挙げられる。また、セグメントが正・負の荷電を分子内に有する場合であっても、局所的な実効電荷密度が高くなく、自己組織化によるベシクルの形成を妨げない程度にセグメント全体の荷電が中和されていれば、やはり「非荷電」に該当する。
また、非荷電性セグメントは、親水性であることが好ましい。ここで「親水性」とは、水性媒体に対して溶解性を示すことをいう。
【0036】
非荷電性セグメントの種類は限定されない。単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。非荷電性セグメントの具体例としては、ポリアルキレングリコール、ポリ(2−オキサゾリン)、ポリサッカライド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ(2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン)、等電点が7付近のペプチド、タンパク質及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0037】
中でも、第1及び第2の非荷電性セグメントのうち少なくとも一方、好ましくは両方が、ポリアルキレングリコールであることが好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、ポリエチレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールは直鎖状であっても、分岐鎖状(例、PEGasus)であってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0038】
非荷電性セグメントの長さは、脳内の所望の組織又は細胞への選択的送達が可能である限り特に限定されないが、ポリエチレングリコールの場合、重合度が通常5以上(例えば、10以上、40以上)であり、且つ20,000以下(例えば、5,000以下、1,000以下、500以下、200以下)に相当する長さである。ポリエチレングリコール以外の非荷電性セグメントの長さは、上述の重合度のポリエチレングリコールに相当する長さであり得る。
【0039】
第1の非荷電性セグメントと第2の非荷電性セグメントとは、同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。また、第1の非荷電性セグメント及び第2の非荷電性セグメントは各々、単一種類の非荷電性セグメントであってもよく、複数種類の非荷電性セグメントが混在していてもよい。
【0040】
複合体形成セグメントは、第1のブロックコポリマー及び第2のブロックコポリマーが集合し、本発明のキャリアを形成する際に、キャリアを構成する構成要素と相互作用(結合等)して、小胞(ミセル、リポソーム、PICミセル、PICsome、ポリマーソーム等)のコア構造の形成に寄与するセグメントを意味する。複合体形成セグメントには、疎水性セグメント及び荷電性セグメントが含まれる。疎水性セグメントは、疎水性相互作用を介して、他の疎水性セグメントと共にミセル、リポソーム、ポリマーソーム等を形成することにより、キャリアの形成に寄与する。荷電性セグメントは、ポリイオンコンプレックス形成によるPICミセル、PICsomeなどを形成することにより、キャリアの形成に寄与する。第1及び第2のブロックコポリマー中の疎水性セグメントを、それぞれ、第1の疎水性セグメント及び第2の疎水性セグメントと呼ぶ。第1及び第2のブロックコポリマー中の荷電性セグメントを、それぞれ、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントと呼ぶ。
【0041】
疎水性セグメントの種類は限定されず、単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。疎水性セグメントとしては、ポリ乳酸、側鎖に疎水性基を有する疎水性アミノ酸を構成単位とするポリアミノ酸又はその誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。側鎖に疎水性基を有する疎水性アミノ酸としては、好ましくは25℃の水100gに対する溶解度が5g以下、さらに好ましくは4g以下であるアミノ酸が挙げられる。このようなアミノ酸としては、例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン等の非極性天然アミノ酸や、側鎖に疎水性基が導入されたアミノ酸の疎水性誘導体が挙げられる。アミノ酸の疎水性誘導体としては、好ましくはアスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸の疎水性誘導体が挙げられる。上記導入される疎水性基としては、炭素数6〜27の飽和もしくは不飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜27の芳香族炭化水素基あるいはステリル基が好ましく例示され得る。側鎖に疎水性基を有する疎水性アミノ酸を構成単位とするポリアミノ酸としては、例えば、ポリ(ベンジル-L-アスパルテート)(PBLA)を挙げることができる。
【0042】
一方、荷電性セグメントは、荷電を有するセグメントである。セグメント全体としての荷電の種類により、カチオン性セグメントと、アニオン性セグメントとに分けられる。
カチオン性セグメントは、カチオン基を有し、カチオン性(陽イオン性)を示すポリマーセグメントである。但し、カチオン性セグメント全体としてのカチオン性を妨げない範囲で、多少のアニオン基を有していてもよい。
【0043】
カチオン性セグメントの種類は限定されず、単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。カチオン性セグメントとしては、アミノ基を含有するモノマーユニットを含むポリマー等を挙げることができるが、特にこれに限定されない。アミノ基を含有するモノマーユニットは、好ましくは、側鎖にアミノ基を含有するモノマーユニットである。アミノ基を含有するモノマーユニットを含むポリマーとしては、ポリアミン、側鎖にアミノ基を含有するアミノ酸をモノマーユニットとして含むポリアミノ酸又はその誘導体等が挙げられ、特に限定されないが、側鎖にアミノ基を含有するアミノ酸をモノマーユニットとして含むポリアミノ酸又はその誘導体が好ましい。側鎖にアミノ基を含有するアミノ酸をモノマーユニットとして含むポリアミノ酸又はその誘導体としては、ポリアスパルタミド、ポリグルタミド、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、及びこれらの誘導体等が挙げられ、特に限定されないが、ポリアスパルタミド又はその誘導体及びポリグルタミド又はその誘導体が好ましい。ポリアスパラギン酸(又はポリグルタミン酸)を1,5−ジアミノペンタンと反応させることにより、アスパラギン酸(グルタミン酸)の側鎖カルボン酸にアミノペンタン(AP)を導入することにより得られる、ポリ(Asp−AP)(又はポリ(Glu−AP);ポリアスパラギン酸(又はポリグルタミン酸)をDET(H
2NCH
2CH
2NH‐CH
2CH
2NH
2)と反応させることにより、アスパラギン酸(又はグルタミン酸)の側鎖カルボン酸にDETを導入することにより得られる、ポリ(Asp−DET)(又はポリ(Glu−DET))等が好適に使用される。
【0044】
一方、アニオン性セグメントは、アニオン基を有し、アニオン性(陰イオン性)を示すポリマーセグメントである。但し、アニオン性セグメント全体としてのアニオン性を妨げない範囲で、多少のカチオン基を有していてもよい。
【0045】
アニオン性セグメントの種類も限定されない。単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。アニオン性セグメントとしては、カルボキシル基を含有するモノマーユニットを含むポリマー、硫酸基を含有するモノマーユニットを含むポリマー、リン酸基を含有するモノマーユニットを含むポリマー等を挙げることができるが、これらに限定されない。カルボキシル基を含有するモノマーユニットは、好ましくは、側鎖にカルボキシル基を含有するモノマーユニットである。硫酸基を含有するモノマーユニットは、好ましくは、側鎖に硫酸基を含有するモノマーユニットである。側鎖にカルボキシル基を含有するモノマーユニットを含むポリマーとしては、側鎖にカルボキシル基を有するアミノ酸をモノマーユニットとして含むポリアミノ酸又はその誘導体等が挙げられるがこれらに限定されない。側鎖に硫酸基を含有するモノマーユニットを含むポリマーとしては、硫酸化多糖類等が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸基を含有するモノマーユニットを含むポリマーとしては、核酸等が挙げられるが、これらに限定されない。アニオン性セグメントは、好ましくは、側鎖にカルボキシル基を有するアミノ酸をモノマーユニットとして含むポリアミノ酸又はその誘導体、核酸等である。
【0046】
側鎖にカルボキシル基を有するアミノ酸をモノマーユニットとして含むポリアミノ酸又はその誘導体としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、前述の側鎖にアミノ基を有するアミノ酸をモノマーユニットとして含むポリアミノ酸又はその誘導体の側鎖アミノ基にアコニチン酸無水物やシトラコン酸無水物を適当量作用させて得られるポリアミノ酸、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。側鎖にカルボキシル基を有するアミノ酸をモノマーユニットとして含むポリアミノ酸又はその誘導体は、好ましくは、ポリアスパラギン酸又はポリグルタミン酸である。
【0047】
核酸としては、一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNAが挙げられる。核酸は、ベシクルの用途に応じた機能性核酸であってもよい。機能性核酸としては、siRNA、miRNA(マイクロRNA)、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA、リボザイム、DNA酵素等が挙げられる。これらはベシクルの用途に応じて選択される。例えば、ベシクルをRNAi用のDDSに用いる場合、核酸としてはsiRNAが用いられる。また、核酸は修飾されたものでもよい。
【0048】
複合体形成セグメントの長さは、脳内の所望の組織又は細胞への選択的送達が可能である限り特に限定されないが、ポリアミノ酸の場合、重合度が通常5以上(例えば、10以上、40以上)であり、且つ20,000以下(例えば、5,000以下、1,000以下、500以下、200以下)である。ポリアミノ酸以外の複合体形成セグメントの長さは、上述の重合度のポリアミノ酸に相当する長さであり得る。
【0049】
第1の複合体形成セグメントと第2の複合体形成セグメントとは、同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。また、第1の複合体形成セグメント及び第2の複合体形成セグメントは各々、単一種類の複合体形成セグメントであってもよく、複数種類の複合体形成セグメントが混在していてもよい。
【0050】
複合体形成セグメントが荷電性セグメントである場合、第1の荷電性セグメントと第2の荷電性セグメントとは、同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。また、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントは各々、単一種類の荷電性セグメントであってもよく、複数種類の荷電性セグメントが混在していてもよい。また、第1の荷電性セグメントと第2の荷電性セグメントとは、同一の荷電を有していてもよい(即ち、何れもカチオン性セグメント、又は、何れもアニオン性セグメント)し、反対の荷電を有していてもよい(即ち、一方がカチオン性セグメント、他方がアニオン性セグメント)。第1の荷電性セグメントと第2の荷電性セグメントとは、好ましくは、反対の荷電を有している(即ち、一方がカチオン性セグメント、他方がアニオン性セグメント)。また、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントのうち少なくとも一方、好ましくは両方が、ポリアミノ酸又はその誘導体であることがより好ましい。
【0051】
本発明においては、第1のブロックコポリマーの少なくとも一部がGLUT1リガンドにより修飾されている(即ち、GLUT1リガンドが、第1のブロックコポリマーの少なくとも一部に連結されている)。GLUT1リガンドとしては、上述のものを挙げることができるが、好ましくはグルコースである。1分子の第1のブロックコポリマーに1分子のGLUT1リガンドが連結されていてもよく、1分子の第1のブロックコポリマーに複数分子のGLUT1リガンドが連結されていてもよい。本発明のキャリアの脳内への選択的送達が可能である限り、第1のブロックコポリマー中のGLUT1リガンド連結部位は特に限定されないが、キャリアの外表面にGLUT1リガンドを効率的に提示する観点から、好ましくは、第1のブロックコポリマー中の第1の非荷電性セグメントがGLUT1リガンドにより修飾されている。第1の非荷電性セグメント中のGLUT1リガンドにより修飾される部位は特に限定されないが、キャリアの外表面にGLUT1リガンドを効率的に提示する観点から、第1の非荷電性セグメントの末端(第1の複合体形成セグメントが連結されていない側)に、GLUT1リガンドが連結されている。即ち、好ましい態様において、第1のブロックコポリマーにおいては、GLUT1リガンド、第1の非荷電性セグメント及び第1の複合体形成セグメントが、末端から、GLUT1リガンド−第1の非荷電性セグメント−第1の複合体形成セグメントの順で連結されている。
【0052】
GLUT1リガンドとしてグルコースを使用する場合、グルコースは、その1位、2位、3位、4位、および6位の炭素原子のいずれか1つの炭素原子を介して、第1のブロックコポリマー(好ましくは、第1の非荷電性セグメント、より好ましくは、第1の非荷電性セグメントの末端)に連結することができる。GLUT1とグルコースとの結合には、1位、3位および4位の炭素原子の置換基であるOH基が強く関与していることが知られているので、GLUT1との結合への関与が低い2位又は6位の炭素原子を介して、グルコースを第1のブロックコポリマー(好ましくは、第1の非荷電性セグメント、より好ましくは、第1の非荷電性セグメントの末端)に連結することが好ましい。GLUT1との結合への関与が低い2位や6位の炭素原子を介してグルコースを第1のブロックコポリマーに連結することにより、キャリアの脳への取り込み効率の向上することが期待できる(国際公開第2015/075942号)。本明細書では、n位の炭素原子を介して結合したグルコースを「Glc(n)」{但し、nは、1〜4および6のいずれかの整数である}と表記することがある。例えば、本明細書では、6位の炭素原子を介して結合したグルコースを「Glc(6)」と表記し、2位の炭素原子を介して結合したグルコースを「Glc(2)」と表記し、3位の炭素原子を介して結合したグルコースを「Glc(3)」と表記することがある。
【0053】
なお、第1のブロックコポリマーは、その全部がGLUT1リガンドで修飾されていてもよく、一部のみがGLUT1リガンドで修飾されていてもよい。なお、以下、GLUT1リガンドで修飾された第1のブロックコポリマーを、修飾型の第1のブロックコポリマーと略称し、GLUT1リガンドで修飾されていない第1のブロックコポリマーを、非修飾型の第1のブロックコポリマーと略称する。第1のブロックコポリマー中の修飾型の第1のブロックコポリマーの割合は、通常、10〜100%であり、送達を意図する脳内の部位や、非荷電性セグメントと複合体形成セグメントとの連結様式等に応じて、適宜変更可能である(下に詳述する)。
【0054】
本発明においては、第2のブロックコポリマーの少なくとも一部が第2の分子(第2のリガンド)により修飾されている(即ち、第2の分子が、第2のブロックコポリマーの少なくとも一部に連結されている)。第2の分子は、前記第1の分子(即ち、GLUT1リガンド)とは異なるリガンドである。1分子の第2のブロックコポリマーに1分子の第2の分子が連結されていてもよく、1分子の第2のブロックコポリマーに複数分子の第2の分子が連結されていてもよい。本発明のキャリアの脳内の所望の組織又は細胞への選択的送達が可能である限り、第2のブロックコポリマー中の第2の分子連結部位は特に限定されないが、脳内への移行後にキャリアの外表面に第2の分子を効率的に提示する観点から、好ましくは、第2のブロックコポリマー中の第2の非荷電性セグメントが第2の分子により修飾されている。第2の非荷電性セグメント中の第2の分子により修飾される部位は特に限定されないが、脳内への移行後にキャリアの外表面に第2の分子を効率的に提示する観点から、第2の非荷電性セグメントの末端(第2の複合体形成セグメントが連結されていない側)に、第2の分子が連結されている。即ち、好ましい態様において、第2のブロックコポリマーにおいては、第2の分子、第2の非荷電性セグメント及び第2の複合体形成セグメントが、末端から、第2の分子−第2の非荷電性セグメント−第2の複合体形成セグメントの順で連結されている。
【0055】
第2のブロックコポリマーを修飾する第2の分子、即ち第2のリガンドは、脳内の所望の組織又は細胞(標的組織又は標的細胞という場合がある)の表面に発現している特定の分子(例、受容体、輸送体、細胞表面マーカー等)に特異的な親和性を有する化合物(リガンド)であり得る。第2の分子としては、低分子、抗体、アプタマー、ペプチド等、種々のリガンドを用いることが可能であり、キャリアを選択的に移行させるべき脳内の所望の組織又は細胞に応じて、その組織又は細胞の表面に発現している分子に特異的な親和性を有するリガンドを適宜選択することができる。脳内の所望の組織又は細胞の具体例としては、制限されるものではないが、例としては、脳実質内の部位として例えば海馬や小脳、脳実質内の細胞として例えば神経系細胞(ニューロン、アストロサイト、ミクログリア等)や、血管内皮細胞等が挙げられる。そして、例えばニューロンの中でも更に種類選択的な移行を所望することも可能である。かかる脳内の所望の組織又は細胞の表面に発現する分子に特異的な親和性を有するリガンドの具体例としては、脳実質中のニューロン等に発現する神経伝達物質受容体に特異的な親和性を有するリガンド、脳実質中の特定の細胞の細胞表面マーカーに特異的な親和性を有する抗体又はその結合性断片等が挙げられる。例えば、グルタミン酸受容体に特異的な親和性を有するアスパラギン酸又はその誘導体を第2の分子として用いることにより、グルタミン酸受容体発現細胞への選択的な送達が可能となる。グルタミン酸受容体は脳実質内の多様な細胞(例、神経系細胞(ニューロン、グリア細胞等)、血管内皮細胞)に発現しているので、アスパラギン酸又はその誘導体を第2の分子として用いることにより、脳実質内のこれらの細胞へのキャリアの取り込みを促進することにより、キャリアが脳実質内の間隙に浮遊してしまい脳実質細胞へ十分に取り込まれないという課題を解決し得る。細胞腫や部位によって、グルタミン酸受容体のサブタイプや発現量が異なり、サブタイプごとに認識できる構造が異なるので、それぞれのサブタイプに応じたリガンドを用いることにより、細胞腫や部位の標的化が達成され得る。アミノ酸、アセチルコリン、モノアミン等の低分子(例えば、分子量1000以下)の神経伝達物質の受容体は、低分子のリガンドにより特異的に認識される。そのような低分子のリガンドは、第2のブロックコポリマーの製造時等における取扱いが容易であり、また低分子のため、キャリア全体の構造や安定性への影響を抑制することができるため、好ましい。
【0056】
第2の分子としてアスパラギン酸又はその誘導体を用いる場合、第2のブロックコポリマー中のアスパラギン酸又はその誘導体の残基は、例えば、以下の式:
【0058】
(式中、R
1a及びR
1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC
1−12アルキル基(好ましくは、C
1−6アルキル基)を、R
2は、水素原子又は未保護もしくは保護されたアミノ基を表す。)で表される基である。直鎖もしくは分枝のC
1−12としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。またアルキル基が置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C
1−6アルコキシカルボニル基、C
2−7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C
1−6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1〜6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2〜6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して、他の置換基であるホルミル基(−CHO)(又はアルデヒド基)に転化できる。アミノ基が保護された場合の保護基としては、tert−ブトキシカルボニル基(-Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(-ZまたはCbz)、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(-Fmoc)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基(-Troc)、アリルオキシカルボニル基(-Alloc)、トリフルオロアセチル基(CF
3CO−)、フタロイル基(-Pht)、p−トルエンスルホニル基(-TsまたはTos)、2−ニトロベンゼンスルホニル基(-Ns)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0059】
好ましくは、R
1a及びR
1bは、それぞれ独立して水素原子又はC
1−12アルキル基(好ましくは、C
1−6アルキル基)であり、R
2は、水素原子又は未保護もしくは保護されたアミノ基である。アミノ基が保護された場合の保護基としては、tert−ブトキシカルボニル基(-Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(-ZまたはCbz)、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(-Fmoc)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基(-Troc)、アリルオキシカルボニル基(-Alloc)、トリフルオロアセチル基(CF
3CO−)、フタロイル基(-Pht)、p−トルエンスルホニル基(-TsまたはTos)、2−ニトロベンゼンスルホニル基(-Ns)等を挙げることができる。
【0060】
このアスパラギン酸又はその誘導体は、グルタミン酸受容体による認識部位に特別な修飾を施していないため、多様なサブタイプのグルタミン酸受容体に認識され得る。従って、発現するグルタミン酸受容体のサブタイプの種類に関わらず、脳実質内の多様な細胞(例、神経系細胞(ニューロン、グリア細胞等)、血管内皮細胞)へのキャリアの取り込みを促進し得る。
【0061】
一態様において、脳内の所望の組織又は細胞の表面に発現する分子に対する第2の分子の結合親和性についてのK
D値が1×10
−3M以下(例えば、1×10
−4M以下、1×10
−5M以下、1×10
−6M以下、1×10
−7M以下、1×10
−8M以下、1×10
−9M以下、1×10
−10M以下、1×10
−11M以下)である。
【0062】
なお、第2のブロックコポリマーは、その全部が第2の分子で修飾されていてもよく、一部のみが第2の分子で修飾されていてもよい。なお、以下、第2の分子で修飾された第2のブロックコポリマーを、修飾型の第2のブロックコポリマーと略称し、第2の分子で修飾されていない第2のブロックコポリマーを、非修飾型の第2のブロックコポリマーと略称する。第2のブロックコポリマー中の修飾型の第2のブロックコポリマーの割合は、通常、10%以上、好ましくは、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、最も好ましくは100%である。
【0063】
第1のブロックコポリマーは、第1の非荷電性セグメントと第1の複合体形成セグメントとの間に(1)血液、血管内皮細胞及び脳実質内で切断されない安定な結合、(2)pH6.5以下で切断される結合、又は(3)還元環境下で切断される結合を有し得る。生体内において分解され難い安定な結合は、当業者に周知であり、これを血液、血管内皮細胞及び脳実質内で切断されない安定な結合として使用することができる。第1の非荷電性セグメントと第1の複合体形成セグメントとは、直接共有結合していてもよいし、リンカーを介して結合していてもよい。リンカーは、例えば1〜30個、好ましくは1〜10個の炭素−炭素結合に相当する距離を与え得る。pH6.5以下で切断される結合及び還元環境下で切断される結合については、下に詳述する。
【0064】
第2のブロックコポリマーにおいて、第2の非荷電性セグメントと第2の複合体形成セグメントとの間の結合は、好ましくは、血液、血管内皮細胞及び脳実質内で切断されない安定な結合である。好ましくは、第2の非荷電性セグメントと第2の複合体形成セグメントとの間には、pH6.5以下で切断される結合及び還元環境下で切断される結合が存在しない。第2の非荷電性セグメントと第2の荷電性セグメントとは、直接共有結合していてもよいし、リンカーを介して結合していてもよい。リンカーは、例えば1〜30個、好ましくは1〜10個の炭素−炭素結合に相当する距離を与え得る。
【0065】
第1のブロックコポリマーにおけるGLUT1リガンド修飾は、好ましくは、血液、血管内皮細胞及び脳実質内で切断されない安定な結合を介したものである。好ましくは、第1のブロックコポリマーとGLUT1リガンドとの間には、pH6.5以下で切断される結合及び還元環境下で切断される結合が存在しない。第1のブロックコポリマーとGLUT1リガンドとは、直接共有結合していてもよいし、リンカーを介して結合していてもよい。リンカーは、例えば1〜30個、好ましくは1〜10個の炭素−炭素結合に相当する距離を与え得る。
【0066】
第2のブロックコポリマーにおける第2の分子による修飾は、好ましくは、血液、血管内皮細胞及び脳実質内で切断されない安定な結合を介したものである。好ましくは、第2のブロックコポリマーと第2の分子との間には、pH6.5以下で切断される結合及び還元環境下で切断される結合が存在しない。第2のブロックコポリマーと第2の分子とは、直接共有結合していてもよいし、リンカーを介して結合していてもよい。リンカーは、例えば1〜30個、好ましくは1〜10個の炭素−炭素結合に相当する距離を与え得る。
【0067】
本発明のキャリアによれば、少なくとも血液脳関門通過時には、GLUT1リガンドを機能させるべく、GLUT1リガンドの少なくとも1部(例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上)がキャリア外表面に露出していることが好ましい。また、少なくとも血液脳関門通過後にキャリアが選択的に移行すべき脳内の所望の部位においては、第2のリガンドの少なくとも一部(例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上)がキャリア外表面に露出していることが好ましい。かかるキャリア外表面へのリガンドの露出状態を達成する態様は、特に限定されるものではないが、好ましくは以下の2態様が挙げられる。
【0068】
(1)第1の態様:
第1の態様では、第1及び第2の非荷電性セグメントの鎖長を実質的に同程度とする。実質的に同程度とは、例えば鎖長の差が±20%以下、好ましくは±10%以下の範囲である。本態様においては、第1の非荷電性セグメントと第1の複合体形成セグメントとの間の結合は、血液、血管内皮細胞及び脳実質内で切断されない安定な結合、又はキャリアが選択的に移行すべき脳内所望部位またはキャリアが選択的に移行すべき脳内所望部位に到達するまでに通過する部位の環境条件下(例えば、脳実質内、又は血管内皮細胞内のエンドソーム内の環境条件下)で特異的に切断される結合(下に詳述する)であり得る。本態様においては、キャリアの外表面に、GLUT1リガンド及び第2のリガンドが同時に露出されている。その結果、キャリアはGLUT1リガンドを介して脳血管内皮細胞上のGLUT1と結合して、血液脳関門を通過し、脳実質内に移行し、引き続きキャリア上の第2のリガンドを介して、脳実質中の所望の組織又は細胞の表面に結合する。
【0069】
(2)第2の態様:
第2の態様では、GLUT1リガンドが結合する第1の非荷電性セグメントを、キャリアが選択的に移行すべき脳内所望部位またはキャリアが選択的に移行すべき脳内所望部位に到達するまでに通過する部位の環境条件下(例えば、脳実質内、又は血管内皮細胞内のエンドソーム内の環境条件下)で特異的に切断することにより、第2のリガンドを事後的にキャリア外表面に露出させ、或いは露出割合を増加させる。本態様の場合、前記第1のブロックコポリマーにおいて、前記第1の非荷電性セグメントと前記第1の複合体形成セグメントとを、キャリアが選択的に移行すべき脳内所望部位またはキャリアが選択的に移行すべき脳内所望部位に到達するまでに通過する部位の環境条件下(例えば、脳実質内、又は血管内皮細胞内のエンドソーム内の環境条件下)で特異的に切断される結合により連結する(なお、こうした結合を有する第1のブロックコポリマーを、以下、切断型の第1のブロックコポリマーと略称し、こうした結合を有しない第1のブロックコポリマーを、以下、非切断型の第1のブロックコポリマーと略称する。)。好ましい例としては、血管内皮細胞内のエンドソーム内で切断される応答性官能基、及び、脳実質内で切断される応答性官能基が挙げられる。
【0070】
血管内皮細胞内のエンドソーム内で切断される結合としては、pHの変化によって切断される結合が挙げられる。即ち、脳血管内のpHは約7.0〜7.4程度であるのに対し、エンドソーム内のpHは約6.5以下であるところ、約7.0〜7.4のpH環境下では切断されず、約6.5以下のpH環境下で切断される結合を用いればよい。例としては、
【0072】
(Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Oct 6;112(40):12486-91)、−O−C(CH
3)
2−O−等が挙げられる。本態様においては、GLUT1リガンドが結合する第1の非荷電性セグメントが、血管内皮細胞内のエンドソーム内で切断されることにより、GLUT1リガンドがキャリア外表面から消失し、エンドソーム内表面上のGLUT1から解放され、自由に動くことができるようになり、トランスサイト−シスによる脳実質内へ放出が促進される。また、上記切断により、第2のリガンドが事後的にキャリア外表面に露出されるので、露出した第2のリガンドを介して、キャリアが脳実質中の所望の組織又は細胞の表面に結合する。
【0073】
脳実質内で切断される結合としては、還元環境下で切断される結合が挙げられる。「還元環境下で切断される結合」とは、0.02mM以上、好ましくは0.1mM以上、より好ましくは1mM以上、更に好ましくは3mM以上の還元型グルタチオン(GSH)濃度と同程度の還元環境下で切断される結合を意味する。「還元環境下で切断される結合」に該当するか否かは、例えば、評価対象の結合を有する化合物を、0.02mM以上(例えば、0.02mM、0.1mM、1mM、3mM)の還元型グルタチオン(GSH)濃度と同程度の還元環境にある、DTT溶液(10mMのリン酸緩衝液(pH=7.4)中)に溶解し、50分間、室温(25℃)にてインキュベートし、評価対象の結合が切断されずに残存する未分解化合物の残存量を、DTT非添加時と比較することにより、評価することができる。本評価系において、未分解化合物の残存量が、DTT非添加時の例えば、30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下の場合、評価対象の結合を「還元環境下で切断される結合」とすることができる。脳血管内は例えばグルタチオン濃度約0.01mM程度の非還元環境であるのに対し、脳実質内は例えばグルタチオン濃度約1〜3mM程度の還元環境であるところ、グルタチオン濃度約0.01mM程度の非還元環境下では切断されず、グルタチオン濃度約1〜3mM程度の還元環境下で切断される結合を用いればよい。例としてはジスルフィド結合が挙げられるが、これに限定されない。本態様においては、トランスサイト−シスによりキャリアが脳実質内まで運搬された後、GLUT1リガンドが結合する第1の非荷電性セグメントが、脳実質内で切断されることにより、GLUT1リガンドがキャリア外表面から消失し、エンドソーム内表面上のGLUT1から解放され、自由に動くことができるようになり、脳実質内へ放出が促進される。また、上記切断により、第2のリガンドが事後的にキャリア外表面に露出されるので、露出した第2のリガンドを介して、キャリアが脳実質中の所望の組織又は細胞の表面に結合する。
【0074】
なお、第2の態様の場合には、前記第1の非荷電性セグメントの鎖長と、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長との関係は任意であるが、前記結合の切断前にはGLUT1リガンドをキャリア外表面に効率的に露出させる一方で、前記結合の切断後には第2のリガンドをキャリア外表面に効率的に露出させるためには、前記第1の非荷電性セグメントの鎖長を、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長と実質的に同じとするか、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長よりも長くすることが好ましい。一態様において、本発明のキャリア中で、第2の分子が第1のブロックコポリマーに内包されるのに十分な程度に(例えば、本発明のキャリア中に含まれる第2の分子のうち、キャリア表面上に提示される第2の分子の割合が、例えば50%未満(好ましくは40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、又は1%未満)となるように、第1の非荷電性セグメントの鎖長を第2の非荷電性セグメントの鎖長よりも長くする。第2の分子の大きさによって、それを内包するのに必要な第1の非荷電性セグメントの長さは変動するので、第1の非荷電性セグメントと第2の非荷電性セグメントの長さの差異を一概に数値で特定することは困難である。しかしながら、例えば、第2の分子が低分子(分子量1000以下)であり、非荷電性セグメントが直鎖PEGの場合、第1の非荷電性セグメントは、第2の非荷電性セグメントよりも数平均分子量で5KDa以上、好ましくは10KDa以上長ければ、第2の分子を第1のブロックコポリマー中に内包し得ると見積もられる。第1の非荷電性セグメントが直鎖PEG以外の場合は、このPEGの分子量差に相当する長さの差があればよい。
【0075】
以下、第1及び第2のブロックコポリマーの具体例及びその製造方法を説明する。
尚、複合体形成セグメントが荷電性セグメントである場合を例示的に示すが、これに限定されるものではなく、複合体形成セグメントが疎水性セグメントの場合も、荷電性セグメントの場合と同様に、第1及び第2のブロックコポリマーを製造し得る。
【0076】
まず、非修飾型且つ非切断型の第1のブロックコポリマー、及び、非修飾型の第2のブロックコポリマー(以下、非修飾型ブロックコポリマーと略称する場合がある。)について説明する。
非修飾型ブロックコポリマーは、荷電性セグメントがアニオン性セグメントである態様(以下、非修飾型アニオン性ブロックコポリマーと略称する場合がある。)と、荷電性セグメントがカチオン性セグメントである態様(以下、非修飾型カチオン性ブロックコポリマーと略称する場合がある。)とに分けられる。
【0077】
非修飾型アニオン性ブロックコポリマーの例としては、以下のブロックコポリマーが挙げられる。
【0079】
ここで、一般式(I)及び(II)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)が「m」のセグメントがPEG由来の非荷電性親水性セグメント(以降「PEGセグメント」と表示する場合がある)であり、繰り返し単位数が「n−y」の部分と「y」の部分とを合わせたセグメントがポリアニオン由来のアニオン性セグメント(以降「ポリアニオンセグメント」と表示する場合がある)である。
【0080】
一般式(I)及び(II)中、R
1a及びR
1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC
1-12アルキル基を表す。直鎖もしくは分枝のC
1-12としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。また置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C
1-6アルコキシカルボニル基、C
2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C
1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1〜6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2〜6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して、他の置換基であるホルミル基(−CHO)(又はアルデヒド基)に転化できる。
【0081】
一般式(I)及び(II)中、L
1及びL
2は、連結基を表す。具体的には、L
1は−(CH
2)
b−NH−(ここで、bは1〜5の整数である)であることが好ましく、L
2は−(CH
2)
c−CO−(ここで、cは1〜5の整数である)であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、R
2a、R
2b、R
2c及びR
2dは、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。R
2a及びR
2bのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当し、また、R
2c及びR
2dのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、R
2a及びR
2b(R
2b及びR
2a)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、及びR
2c及びR
2d(R
2d及びR
2c)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体およびグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在するか、あるいはランダムに存在できる。
【0082】
一般式(I)及び(II)中、R
3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。具体的には、R
3は、アセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、R
4は水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH
2)
a−X基又は開始剤残基を表す。ここで、aは1〜5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。さらには場合により、R
4が−NH−R
9(ここで、R
9は未置換又は置換された直鎖又は分枝のC
1-20アルキル基を表す)であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、mは5〜2,000の整数であり、5〜270の整数であることが好ましく、より好ましくは10〜100の整数である。また、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、n及びyは、5〜300の整数であることが好ましく、より好ましくは10〜100の整数である。但し、yはnより大きくないものとする。
【0083】
一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は、記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。特に、ポリアニオンセグメント中における各繰り返し単位についてのみ、上記の通りランダムな順で存在し得ることが好ましい。
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの分子量(Mw)は、限定はされないが、3,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜20,000である。また、個々のセグメントについては、PEGセグメントの分子量(Mw)は、500〜15,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜5,000であり、ポリアニオンセグメントの分子量(Mw)は、全体で500〜50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜20,000である。
【0084】
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの製造方法は、限定はされないが、例えば、R
1aO−又はR
1bO−とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R
1aO−又はR
1bO−と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をアニオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、アニオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。上記PEGセグメントは、例えば、WO96/32434号公報、WO96/33233号公報及びWO97/06202号公報等に記載のブロックコポリマーのPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。
【0085】
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの、より具体的な製造方法としては、例えば、末端にアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β−ベンジル−L−アスパルテート(BLA)及びNε−Z−L−リシン等の保護アミノ酸のN−カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、各セグメントの側鎖が前述したアニオン性基を有する側鎖となるように置換又は変換する方法が好ましく挙げられる。
【0086】
本発明において、一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの具体例としては、例えば、非荷電性セグメントであるポリエチレングリコール(以降「PEG」と表示する場合がある)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(以降「P(Asp)」と表示する場合がある)とからなる下記式のアニオン性ブロックコポリマー(以降「PEG−P(Asp)」と表示する場合がある)等が好ましく挙げられる(なお、以降の式では対カチオンの例としてNa
+を示す場合があるが、対カチオンはこれに限定されるものではない)。
【0088】
上記式中、
mはPEGの重合度を表す整数である。
nはP(Asp)の重合度を表す整数である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
PEG−P(Asp)としては、PEGセグメントの分子量(Mw):2,000、ポリアニオンセグメントを示すP(Asp)のユニット数(上記式中n):70又は75であるものが特に好ましい。
【0089】
一方、非修飾型カチオン性ブロックコポリマーとしては、例えば、下記一般式(III)及び/又は(IV)で示されるものが好ましく挙げられる。
【0091】
ここで、一般式(III)及び(IV)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)が「m」のセグメントがPEG由来の非荷電性親水性セグメント(PEGセグメント)であり、繰り返し単位数が「n−y−z」の部分と「y」の部分と「z」の部分とを合わせたセグメントがポリカチオン由来のカチオン性セグメント(以下、ポリカチオンセグメント)である。
【0092】
一般式(III)及び(IV)中、R
1a及びR
1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC
1-12アルキル基を表す。直鎖もしくは分枝のC
1-12としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。また置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C
1-6アルコキシカルボニル基、C
2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C
1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1〜6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2〜6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(−CHO:又はアルデヒド基)に転化できる。
【0093】
一般式(III)及び(IV)中、L
1及びL
2は、連結基を表す。具体的には、L
1は−(CH
2)
b−NH−(ここで、bは1〜5の整数である)であることが好ましく、L
2は−(CH
2)
c−CO−(ここで、cは1〜5の整数である)であることが好ましい。
【0094】
一般式(III)及び(IV)中、R
2a、R
2b、R
2c及びR
2dは、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。R
2a及びR
2bのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当し、また、R
2c及びR
2dのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、R
2a及びR
2b(R
2b及びR
2a)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、及びR
2c及びR
2d(R
2d及びR
2c)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体およびグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在するか、あるいはランダムに存在できる。
【0095】
一般式(III)及び(IV)中、R
3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。具体的には、R
3は、アセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましい。
【0096】
一般式(III)及び(IV)中、R
4は水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH
2)
a−X基又は開始剤残基を表す。ここで、aは1〜5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン、四級アンモニウム塩又はグアニジノ基の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。さらには場合により、R
4が−NH−R
9(ここで、R
9は未置換又は置換された直鎖又は分枝のC
1-20アルキル基を表す)であることが好ましい。
【0097】
一般式(III)及び(IV)中、R
5a、R
5b、R
5c及びR
5dは、それぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH
2)
a−X基を表す。ここで、aは1〜5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン、四級アンモニウム塩又はグアニジノ基の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。
【0098】
R
5aとR
5bとの総数及びR
5cとR
5dとの総数のうち、−NH−(CH
2)
a−X基(ここで、Xは(NH(CH
2)
2)
e−NH
2(但しeは0〜5の整数)である)であるものが、少なくとも2つ以上存在することが好ましく、上記総数の50%以上存在することがより好ましく、上記総数の85%以上存在することがさらに好ましい。
また、R
5a、R
5b、R
5c及びR
5dのすべて又は一部が、−NH−(CH
2)
a−X基(ここで、aは2であり、Xは(NH(CH
2)
2)
e−NH
2(但しeは1)である)ことが好ましい。
【0099】
さらに、R
4並びにR
5a、R
5b、R
5c及びR
5dの例示として上記した−NH−(CH
2)
a−X基において、Xが下記の各式で表される基から選ばれるものである場合が特に好ましい。
【0101】
ここで、上記の各式中、X
2は、水素原子又はC
1-6アルキル基もしくはアミノC
1-6アルキル基を表し、R
7a、R
7b及びR
7cは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、d1、d2及びd3は、それぞれ独立して1〜5の整数を表し、e1、e2及びe3は、それぞれ独立して1〜5の整数を表し、fは、0〜15の整数を表し、gは0〜15の整数を表し、R
8a及びR
8bは、それぞれ独立して水素原子又は保護基を表す。ここで、当該保護基は、通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。
【0102】
一般式(III)及び(IV)中、R
6a及びR
6bは、それぞれ独立して水素原子、−C(=NH)NH
2、又は保護基であり、ここで保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基、及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。また、一般式(III)及び(IV)中、tは2〜6の整数であることが好ましく、より好ましくは3又は4である。
【0103】
一般式(III)及び(IV)中、mは5〜2,000の整数であり、5〜270の整数であることが好ましく、より好ましくは10〜100の整数である。また、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数である。nは、5〜300の整数であることが好ましく、より好ましくは0又は10〜100の整数である。y及びzは、0又は5〜300の整数であることが好ましく、より好ましくは0又は10〜100の整数である。但し、yとzとの合計(y+z)は、nより大きくないものとする。
【0104】
一般式(III)及び(IV)における各繰り返し単位は、記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。特に、ポリカチオンセグメント中における各繰り返し単位についてのみ、上記の通りランダムな順で存在し得ることが好ましい。
【0105】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの分子量(Mw)は、限定はされないが、23,000〜45,000であることが好ましく、より好ましくは28,000〜34,000である。また、個々のセグメントについては、PEGセグメントの分子量(Mw)は、500〜15,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜5,000であり、ポリカチオンセグメントの分子量(Mw)は、全体で500〜50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜30,000である。
【0106】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの製造方法は、限定はされないが、例えば、R
1aO−又はR
1bO−とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R
1aO−又はR
1bO−と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をカチオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、カチオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。上記PEGセグメントは、例えば、WO96/32434号公報、WO96/33233号公報及びWO97/06202号公報等に記載のブロックコポリマーのPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。
【0107】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの、より具体的な製造方法としては、例えば、末端にアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β−ベンジル−L−アスパルテート(BLA)及びNε−Z−L−リシン等の保護アミノ酸のN−カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、各セグメントの側鎖が前述したカチオン性基を有する側鎖となるように、ジエチレントリアミン(DET)等で置換又は変換する方法が好ましく挙げられる。
【0108】
一方、切断型の第1のブロックコポリマーは、上記各手順にて非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを連結する際に、所望の切断可能な結合を介して連結すればよい。かかる連結の手段は、切断可能な結合の種類に応じて種々公知の手法を適宜選択すればよい。例えば、切断可能な結合としてジスルフィド結合を導入する場合は、H
2N−R
10a-S−S−R
10b−NH
2(ここで、R
10a及びR
10bは、同一又は異なって、炭素数1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1、2、3又は4の、直鎖又は分岐鎖アルキレン基を表す)(例、H
2N−C
2H
5-S−S−C
2H
5−NH
2)等のジスルフィド結合を含む二官能性試薬を用いて、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを連結すればよい。尚、下のスキームにて、非荷電性セグメントとしてポリエチレングリコールを、荷電性セグメントとしてポリ(Asp−AP)を用いた例を示すが、これら以外の非荷電性セグメント及び荷電性セグメントにも適用可能であることは、当業者は容易に理解できる。例えば、末端にアミノ基を導入した非荷電性ポリマー(例、PEG−NH
2)を無水コハク酸と反応し、末端アミノ基を−NH−CO−(CH
2)
2−COOHに置換することにより、末端にカルボキシル基が導入された非荷電性ポリマー(例、PEG−COOH)を得る。
【0110】
次に、末端にカルボキシル基を有する非荷電性ポリマー(例、PEG−COOH)をシスタミン2塩酸塩及び塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)と反応させることにより、末端にアミノ基を有し、分子内に非荷電性セグメント及びジスルフィド結合を有する重合開始剤(例、PEG−SS−NH
2)を得ることが出来る。
【0112】
次に、得られた重合開始剤のアミノ酸末端に、所望の荷電性ポリマー(例、ポリアニオン、ポリカチオン)を構成するモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をアニオン性基又はカチオン性基を含むように置換又は変換する。例えば、ポリアスパラギン酸又はその誘導体を連結する場合、得られた上記で得られた重合開始剤(例、PEG−SS−NH
2)にNCA−BLAを加えることにより、重合反応が生じ、前記非荷電性セグメントとポリ(β−ベンジル−L−アスパラギン酸エステル)(即ち、PBLA)とが、ジスルフィド結合を介して連結されたブロックコポリマー(例、PEG−SS−PBLA)を得ることが出来る。更に、このブロックコポリマーを1,5−ジアミノペンタンと反応させることにより、アスパラギン酸の側鎖に、カチオン性基であるアミノペンタン(AP)を導入し、前記非荷電性セグメントとポリ(Asp−AP)とがジスルフィド結合を介して連結されたブロックコポリマー(例、PEG−SS−P(Asp−AP))を得ることができる。
【0114】
このような反応シリーズの結果、一般式(I)、(II)、(III)及び(IV)中、L
1及びL
2が、ジスルフィド結合を有するリンカー(例、−HN−R
10a-S−S−R
10b−NH−(例、−HN−C
2H
5-S−S−C
2H
5−NH−))に置換されたブロックコポリマーを得ることができる。
【0115】
また、切断可能な結合としてpH6.5以下で切断される結合を導入する場合は、例えば、Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Oct 6;112(40):12486-91に記載された方法に準じて、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを連結すればよい。その結果、一般式(I)、(II)、(III)及び(IV)中、L
1及びL
2が、
【0117】
で表される、リンカーであるブロックコポリマーを得ることができる。
【0118】
第1のブロックコポリマーのGLUT1リガンドによる修飾は、当業者に周知の手法により行うことができる。かかる手法の一例として、グルコースにより修飾された高分子(特に、Glc(6)−PEG−ポリ(アニオン)ブロックコポリマーまたはGlc(6)−PEG−ポリ(カチオン)ブロックコポリマー)の調製方法の例を以下に説明する。Glc(6)−PEG−ポリ(アニオン)ブロックコポリマーまたはGlc(6)−PEG−ポリ(カチオン)ブロックコポリマーは、例えば、グルコースの6位以外の炭素上の水酸基を保護した上で、グルコースにブロックコポリマーを重合させて得ることができる(国際公開第2015/075942号)。
【0119】
スキーム1Aは、n
1が44であり、m
1が80である、式(I)の化合物の合成スキームを例示する。
スキーム1A
【0121】
スキーム1Aでは、EOは、エチレンオキサイドを示し;K−Naphは、カリウムナフタレンを示し;TEAは、トリエチルアミンを示し;MsClは、メタンスルホニルクロリドを示し;NH
3aq.は、アンモニア水を示し;NCA−BLAは、β−ベンジル−L−アスパルテート−N−カルボン酸無水物を示す。
【0122】
以下、スキーム1Aを簡単に説明する。グルコースの保護基の導入は、例えば、1,2−O−イソプロピリデン5,6−O−ベンジリデン−α−D−グルコフラノース(以下、「BIG」という)により達成される。例えば、PICミセルまたはPICsomeを作製する場合には、BIGにエチレンオキサイドを重合させて、BIG−PEG−OHを合成する。BIGは、例えば、1,2−O−イソプロピリデン−α−D−グルコフラノース(以下、「MIG」という)の3位と5位の炭素の置換基であるOH基をベンジル基で保護することにより得られる。具体的には、BIGは、MIGとベンズアルデヒドを反応させ、酢酸エチルで抽出することにより得られる。次に、PEGの分子量を一定に揃える観点では、重合反応前に、反応容器内でBIG−OHをベンゼンで凍結乾燥させ、その後、減圧乾燥(例えば、70℃で一晩の減圧乾燥)させて、BIG−OHを容器壁面に付着させることが好ましい。また、重合度は添加するエチレンオキサイドの量により適宜調節することができる。重合後、BIG−PEG−OHのOH基をアミノ化してBIG−PEG−NH
2を得て、さらに、BIG−PEG−NH
2のNH
2基に対してポリカチオン若しくはポリアニオンまたは保護されたその前駆体(例えば、ポリアスパラギン酸の保護された単量体であるβ−ベンジル−L−アスパルテート−N−カルボン酸無水物(BLA−NCA)または、ポリグルタミン酸の保護された単量体である、γ−ベンジル−L−グルタミン酸−N−カルボン酸無水物(BLG−NCA))を重合させて、BIG−PEG−ポリ(アニオン)またはBIG−PEG−ポリ(カチオン)を得ることができる。重合度は、ポリカチオン若しくはポリアニオンまたは保護されたその前駆体の量により適宜調節することができる。最後にグルコースおよびアニオンまたはカチオンの保護基を脱保護して、グルコース−PEG−ポリ(アニオン)またはグルコース−PEG−ポリ(カチオン)を得ることができる。グルコースを結合したコポリマーは、PICミセルまたはPICsomeの調製に用いることができる。具体的には、水溶液中で電荷を中和する比率でポリカチオンブロックを有するポリマーとポリアニオンブロックを有するポリマーとを混合すると、PICミセルまたはPICsomeが自発的に形成される。このようにすることで、ポリイオンコンプレックスが生体適合性部分により覆われ、その生体適合性部分はグルコースにより修飾を受けたPICミセルまたはPICsomeを得ることができる。
【0123】
同様に、Glc(3)−PEG−ポリ(アニオン)およびGlc(3)−PEG−ポリ(アニオン)は、上記においてBIGの代わりに、例えば、1,2,5,6−ジ−O−イソプロピリデン−α−D−グルコフラノース(DIG)を出発物質として用いて合成することができ、その他の部分は、上記と全く同一である(スキーム1B参照)。また、同様に、Glc(2)−PEG−ポリ(アニオン)およびGlc(2)−PEG−ポリ(アニオン)も当業者であれば適宜合成することができる。
【0124】
スキーム1Bでは、n
1が44であり、m
1が80である、式(X)の化合物の合成スキームを例示する。スキーム1Bは、出発物質としてBIGの代わりにDIGを用いる以外は、スキーム1Aと同一である。
スキーム1B
【0126】
スキーム1Bでは、EOは、エチレンオキサイドを示し;K−Naphは、カリウムナフタレンを示し;TEAは、トリエチルアミンを示し;MsClは、メタンスルホニルクロリドを示し;NH
3aq.は、アンモニア水を示し;NCA−BLAは、β−ベンジル−L−アスパルテート−N−カルボン酸無水物を示す。
【0127】
また、第2のブロックコポリマーの第2の分子による修飾も、第2の分子の種類に応じて、当業者に周知の手法を種々選択して行うことができる。第2の分子と第2のブロックコポリマーとの結合は、直接または間接的に、すなわち架橋剤由来の基(リンカー)を介さずにまたは介して、化学的に行うことができる。
【0128】
第2の分子と第2のブロックコポリマーとを直接的に結合する様式としては、−COO−〔例えば、第2の分子中のカルボキシル基と第2の非荷電性セグメント(例、PEG)中の水酸基とをエステル結合して得られる〕、−O−(例えば、第2の分子中の水酸基と第2の非荷電性セグメント(例、PEG)中の水酸基とをエーテル結合して得られる)、−CONH−(例えば、第2の分子中のカルボキシル基と第2の非荷電性セグメント(例、PEG)に導入したアミノ基とをアミド結合して得られる)、−CH=N−(例えば、第2の分子中のアルデヒド基と、第2の非荷電性セグメント(例、PEG)に導入したアミノ基とをシッフ結合して得られる)、−CH
2NH−(シッフ結合をさらに還元して得られる)、−NH−等が挙げられる。
【0129】
第2の分子と第2のブロックコポリマーとの化学的結合においては、直接結合できない場合には、公知の縮合剤、第2の分子や第2のブロックコポリマー(好ましくは、第2の非荷電性セグメント(例、PEG))中の官能基を活性化させる活性化剤、二価性架橋剤等を用いることもできる。縮合剤および活性化剤として、カルボジイミド類〔例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等〕、スクシンイミド類〔例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHSS)、ジベンジルシクロオクチン−N−スクシンイミドエステル(DBCO−NHSエステル)等〕、アジ化ナトリウム等が例示される。二価性架橋剤としては、同反応性の架橋剤、異反応性の架橋剤が挙げられる。同反応性のものとして、例えば、ジメチルアジピンイミデート、ジスクシンイミジルスベレート等が例示され、異反応性のものとして、例えば、スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド、N−スクシンイミジル−6−マレイミドヘキサノエート等が例示される。
【0130】
例として、第2の分子としてアスパラギン酸リガンドを導入する場合、例えばカルボキシル基をエチル基で保護したアスパラギン酸と末端アルキニル基とを有する下記構造等のアスパラギン酸導入試薬等を用い、当該試薬の末端アルキニル基を、非荷電性セグメント側の末端にN
3基を有する第2のブロックコポリマーの末端N
3基と反応させることにより、非荷電性セグメント側末端にカルボン基保護アスパラギン酸リガンドを導入し、次いでカルボキシル基を脱保護することにより、所望のアスパラギン酸リガンドを導入することができる。
【0132】
他の例として、カルボキシル基をアルキル基(例、エチル基)で保護したアスパラギン酸のアミノ基に、DBCO−NHSエステルを用いて、DBCOを導入する。このDBCOと、非荷電性セグメント側の末端にN
3基を有する第2のブロックコポリマーの末端N
3基とをクリック反応させることにより、非荷電性セグメント側末端にカルボン基保護アスパラギン酸リガンドを導入する。次いでカルボキシル基を脱保護することにより、所望のアスパラギン酸リガンドを導入することができる。
【0133】
以上の手順により調製された、全部又は一部がGLUT1リガンドで修飾された第1のブロックコポリマーと、全部又は一部が第2の分子で修飾された第2のブロックコポリマーとを混合することにより、本発明のキャリアが調製される。
【0134】
本発明のキャリアの態様としては、薬剤送達用のミセル、リポソームおよびPICsomeなどの小胞、並びにデンドリマー、ナノスフェアおよびハイドロゲルが挙げられる。本発明において、薬剤送達用のキャリアを用いる利点は、例えば、キャリア内部に薬剤を内包させ、標的部位での薬剤濃度を高めること、または、標的部位以外での薬剤による副作用を低減することである。本発明で用いられるキャリアは、特に限定されないが、例えば、その平均粒子径(直径)が400nm以下、200nm以下、150nm以下、100nm以下または80nm以下であり、例えば、20nm以上、30nm以上または40nm以上である。本発明で用いられるキャリアは、例えば30nm〜150nm、または、例えば30nm〜100nmの平均粒子径を有する。
【0135】
本発明において、キャリアの平均粒子径は、市販の動的光散乱(DLS)測定装置を用いて測定することができる。
【0136】
本発明で用いられるミセルとしては、薬剤送達用のミセルが挙げられる。薬剤送達用のミセルとしては、ブロックコポリマーにより形成されるミセルが知られている。ミセルを形成するブロックコポリマーは、特に限定されないが、ポリイオンコンプレックス型ミセル(PICミセル)の場合、荷電性ポリマーブロック(例えば、ポリアニオンブロックまたはポリカチオンブロック)と非荷電性(生体適合性)ブロック(例えば、ポリエチレングリコールブロック)とのコポリマーまたは薬学的に許容可能なその塩とすることができる。また、ブロックコポリマーとしては、生分解性であるブロックコポリマーを用いることが好ましく、そのようなコポリマーとしては様々なコポリマーが知られ、いずれを用いることも原理的に可能である。例えば、生体適合性が高く、生分解性であるブロックコポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸、ポリエチレングリコール−ポリグルタミン酸、およびポリエチレングリコール−ポリ((5−アミノペンチル)−アスパラギン酸)ブロックコポリマーなどを用いることができる。PICミセルとして、ポリアニオンとポリカチオンとの静電的相互作用により形成されるポリイオンコンプレックス層を有するミセルが知られている。疎水性部分同士をミセル内部で安定化させる観点で、それぞれの荷電性ブロックには、外殻を形成するPEGとは別の末端にコレステリル基などの疎水性部分を連結させてもよい(例えば、実施例のsiRNAミセルを参照)。蛍光色素でのブロックコポリマーへのラベルは、ブロックコポリマーのポリエチレングリコール側と反対の末端を蛍光色素で修飾することにより行なうことができる。
【0137】
本発明で用いられるポリイオンコンプレックス型ポリマーソームとしては、薬剤送達用のPICsomeが挙げられる。薬剤送達用のPICsomeとしては、ブロックコポリマーにより形成されるPICsomeが知られている。PICsomeを形成するブロックコポリマーとしては、非荷電性ブロック(例、PEGブロック)とポリカチオンブロックとのブロックコポリマーおよびホモポリアニオンの組み合わせ、または、非荷電性ブロック(例、PEGブロック)とポリアニオンブロックとのブロックコポリマーおよびホモポリカチオンとの組み合わせ等が挙げられる。本発明では、第1及び第2のブロックコポリマーの各非荷電性セグメント及び荷電性セグメントとして、それぞれ上述のようなPEGブロック等とポリカチオンブロック又はポリアニオンブロックとを用いることにより、PICsomeを形成することができる(なお、切断型の第1のブロックコポリマーの場合は、非荷電性ブロック(例、PEGブロック)と荷電性ブロック(ポリカチオンブロック又はポリアニオンブロック)との間に、切断可能な結合が介在することになる。)。なお、ブロックコポリマーとしては、生分解性であるブロックコポリマーを用いることが好ましく、そのようなコポリマーとしては様々なコポリマーが知られ、いずれを用いることも原理的に可能である。例えば、生体適合性が高く、生分解性であるブロックコポリマーとしては、例えば、ポリ(アスパラギン酸−テトラエチレンペンタアミン(Asp−TEP))ブロックコポリマー、および、ポリエチレングリコール−ポリ((5−アミノペンチル)−アスパラギン酸)ブロックコポリマーを用いることができる。PICsomeでは、第1のブロックコポリマーの第1の非荷電性セグメント側の末端及び第2のブロックコポリマーの第2の非荷電性セグメント側の末端に、それぞれGLUT1リガンド及び第2の分子を連結させ、第1の非荷電性セグメント及び第2の非荷電性セグメントの鎖長を調整することで、GLUT1リガンド及び第2の分子をPICsomeの外表面に露出させることが可能となる。
【0138】
本発明で用いられるリポソームとしては、特に限定されないが、リン脂質、例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)により形成されるリポソームが挙げられる。リポソームは、古くから様々なものが知られ、当業者であれば適宜調製することが可能である。当業者であれば、リポソームに薬剤を適宜内包させることができる。
【0139】
小胞は、上記重合体を用いて周知の方法により形成させることができる。一般的に小胞は、上記の第1及び第2のブロックコポリマーを一定濃度以上の濃度で溶解させた溶液を攪拌して得ることができる。また、ポリイオンコンプレックスに基づいて形成される小胞(PICミセル、PICsome等)の場合は、ポリカチオン部分を有する高分子とポリアニオン部分を有する高分子とを同割合で混合して得ることができる。
例えば、第2の荷電性セグメントが、第1の荷電性セグメントの電荷と反対の電荷を有する場合(即ち、どちらか一方がカチオン性セグメントであり、他方が、アニオン性セグメントの場合)、第1のブロックコポリマーと第2のブロックコポリマーとを、電荷が中和するように混合することにより、両ブロックコポリマーのカチオン性セグメントとアニオン性セグメントとの間でポリイオンコンプレックスが形成され、ポリイオンコンプレックスに基づいて形成される小胞(PICミセル、PICsome等)を得ることができる。第1のブロックコポリマーと第2のブロックコポリマーに加えて、カチオン性ポリマー(例、ホモポリカチオン)及び/又はアニオン性ポリマー(例、ホモポリアニオン)を添加し、第1の荷電性セグメント、第2の荷電性セグメント、並びにカチオン性ポリマー(例、ホモポリカチオン)及び/又はアニオン性ポリマー(例、ホモポリアニオン)の全体として、電荷が中和されるように混合することによっても、ポリイオンコンプレックスを形成し、ポリイオンコンプレックスに基づいて形成される小胞(PICミセル、PICsome等)を得ることができる。第1の荷電性セグメントと第2の荷電性セグメントとが、同一の荷電を有する場合(即ち、何れもがカチオン性セグメント、又はアニオン性セグメントの場合)、第1のブロックコポリマーと第2のブロックコポリマーに加えて、第1及び第2の荷電性セグメントと反対の電荷を有するカチオン性ポリマー(例、ホモポリカチオン)又はアニオン性ポリマー(例、ホモポリアニオン)を添加し、第1の荷電性セグメント、第2の荷電性セグメント、並びにカチオン性ポリマー(例、ホモポリカチオン)又はアニオン性ポリマー(例、ホモポリアニオン)の全体として、電荷が中和されるように混合することによって、ポリイオンコンプレックスを形成し、ポリイオンコンプレックスに基づいて形成される小胞(PICミセル、PICsome等)を得ることができる。一態様において、第1のブロックコポリマーと第2のブロックコポリマーに加えて添加されるカチオン性ポリマー又はアニオン性ポリマーは、上述の非修飾型ブロックコポリマーである。この追加的な非修飾型ブロックコポリマーにおける非荷電性セグメントの長さは、第1及び第2の非荷電性セグメントのうち、短い方の非荷電性セグメントの長さと実質的に同じか、これよりも短い方が好ましい。小胞に薬剤を内包させる方法は当業者に周知であり、本発明でも周知の方法を用いることができる。例えば、PICミセルに薬剤を内包させるには、ミセル形成後、薬剤をミセル溶液に添加すればよい。薬剤は、その荷電により自発的にPICミセルに内包される。また、例えば、PICsomeの場合は、PICsomeを形成する高分子と薬剤との混合液を調製し、攪拌混合すれば、薬剤はPICsomeに内包される。リポソームも、リポソームを形成する高分子と薬剤との混合液を調製し、攪拌混合すれば、薬剤はリポソームに内包される。ポリイオンコンプレックス中に含まれるアニオン性ブロックとカチオン性ブロックとを架橋することもできる。この目的に用いられる架橋剤としては、特に限定されないが例えば、アミノ基とカルボキシ基とを縮合させることができる1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)が好ましく用いられ得る。
【0140】
なお、小胞を形成するブロックコポリマーのうち、非荷電性セグメントがキャリア外側に露出するブロックコポリマーにおけるGLUT1リガンド結合ポリマーの割合が10モル%以上40モル%未満であるときには、とりわけ組成物の脳実質への送達効率が高い。上記の非荷電性セグメントがキャリア外側に露出するブロックコポリマーにおけるGLUT1リガンド結合ポリマーの割合は、10モル%以上40モル%未満、好ましくは20〜30モル%、より好ましくは22〜28モル%、さらに好ましくは24〜26モル%(例えば、約25モル%)とすることができる。また、上記の非荷電性セグメントがキャリア外側に露出するブロックコポリマーにおけるGLUT1リガンド結合ポリマーの割合が40%以上のときには、とりわけ組成物の脳血管内皮細胞への送達効率が高い。特に、上記の非荷電性セグメントがキャリア外側に露出するブロックコポリマーにおけるGLUT1リガンド結合ポリマーの割合は、40〜100モル%、例えば40〜80モル%、例えば40〜60モル%とすることができる。
【0141】
なお、上述の非荷電性セグメントがキャリア外側に露出するブロックコポリマーとは、以下の様に定義される。即ち、第1の非荷電性セグメントの鎖長が、第2の非荷電性セグメントの鎖長より長い場合には、通常は第1の非荷電性セグメントに第2の非荷電性セグメントが内包されるため、第1のブロックコポリマーが、非荷電性セグメントがキャリア外側に露出するブロックコポリマーに該当する。一方、第1の非荷電性セグメントの鎖長が、第2の非荷電性セグメントの鎖長と実質的に同一である場合には、第1及び第2のブロックコポリマーの双方が、非荷電性セグメントがキャリア外側に露出するブロックコポリマーに該当する。但し、第2の非荷電性セグメントの鎖長が、第1の非荷電性セグメントの鎖長と実質的に同じ又は第1の非荷電性セグメントの鎖長よりも長い場合でも、第1のブロックコポリマーが剛直であり、第2のブロックコポリマーが柔軟である場合には、第1のブロックコポリマーが第2のブロックポリマーを内包する構造を取る場合がある。かかる場合には、第1のブロックコポリマーが、非荷電性セグメントがキャリア外側に露出するブロックコポリマーに該当する。
【0142】
一態様において、第1の非荷電性セグメントの鎖長が、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長より長く、且つ前記第1のブロックコポリマーの10モル%以上40モル%未満(好ましくは20〜30モル%、より好ましくは22〜28モル%、さらに好ましくは24〜26モル%(例えば、約25%))がGLUT1リガンドにより修飾されている。本態様において、第1のブロックコポリマーは、非切断型であり得る。上述のように、キャリアを修飾するグルコース分子が多いと、キャリアが血管内皮細胞から脳実質に移行する際に、キャリアと血管内皮細胞との解離の効率が低下し、脳実質に到達するキャリアの割合が低下する可能性がある。そこで、GLUT1リガンドにより修飾されている第1のブロックコポリマーの割合を、第1のブロックコポリマー全体の10モル%以上40モル%未満程度に設定することにより、キャリアと血管内皮細胞との解離の効率の低下を回避し、脳実質内へのキャリアの移行の効率を高め得る。
【0143】
一態様において、第1の非荷電性セグメントの鎖長が、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長と実質的に同じであり、且つGLUT1リガンドにより修飾されている第1のブロックコポリマーの割合が、第1のブロックコポリマー及び前記第2のブロックコポリマーの合計の10モル%以上40モル%未満(好ましくは20〜30モル%、より好ましくは22〜28モル%、さらに好ましくは24〜26モル%(例えば、約25モル%))である。本態様において、第1のブロックコポリマーは、非切断型であり得る。GLUT1リガンドにより修飾されている第1のブロックコポリマーの割合を、第1のブロックコポリマー及び前記第2のブロックコポリマーの合計の10モル%以上40モル%未満程度に設定することにより、キャリアと血管内皮細胞との解離の効率の低下を回避し、脳実質内へのキャリアの移行の効率を高め得る。
【0144】
一態様において、第1の非荷電性セグメントの鎖長が、第2の非荷電性セグメントの鎖長より長く、且つ第1のブロックコポリマーの40〜100モル%(好ましくは、60〜100モル%、より好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%)がGLUT1リガンドにより修飾されている。本態様において、第1のブロックコポリマーは、切断型であり得る。切断型の第1のブロックポリマーを使用することにより、脳血管内皮細胞中のエンドソーム内、または、脳実質内への移行後に、キャリアから、GLUT1リガンドを含む部位が切断されるため、GLUT1リガンドにより修飾されている第1のブロックコポリマーの割合を、第1のブロックコポリマー全体の40〜100モル%まで上昇させても、キャリアが血管内皮細胞から効率的に解離され、脳実質内へ移行し得る。また、GLUT1リガンドにより修飾されている第1のブロックコポリマーの割合を、第1のブロックコポリマー全体の40〜100モル%まで上昇させることにより、血液から脳血管内皮細胞への移行効率を高め得る。
【0145】
一態様において、第1の非荷電性セグメントの鎖長が、前記第2の非荷電性セグメントの鎖長と実質的に同じであり、且つGLUT1リガンドにより修飾されている第1のブロックコポリマーの割合が、第1のブロックコポリマー及び第2のブロックコポリマーの合計の40〜99モル%(好ましくは、60〜99モル%、より好ましくは80〜99モル%、さらに好ましくは90〜99モル%)である。本態様において、第1のブロックコポリマーは、切断型であり得る。切断型の第1のブロックポリマーを使用することにより、脳血管内皮細胞中のエンドソーム内、または、脳実質内への移行後に、キャリアから、GLUT1リガンドを含む部位が切断されるため、GLUT1リガンドにより修飾されている第1のブロックコポリマーの割合を、第1のブロックコポリマー及び第2のブロックコポリマーの合計の40〜99モル%まで上昇させても、キャリアが血管内皮細胞から効率的に解離され、脳実質内へ移行し得る。また、GLUT1リガンドにより修飾されている第1のブロックコポリマーの割合を、第1のブロックコポリマー及び第2のブロックコポリマーの合計の40〜99モル%まで上昇させることにより、血液から脳血管内皮細胞への移行効率を高め得る。
【0146】
なお、調製されたキャリアにおいて、第1の非荷電性セグメントの配向、及び第2の非荷電性セグメントの配向は、キャリア外側に向かった配向であることが好ましく、第1の非荷電性セグメントの配向と、第2の非荷電性セグメントの配向とは、同じであることが好ましい。但し、上述のように第2の非荷電性セグメントの鎖長が、第1の非荷電性セグメントの鎖長と実質的に同じ又は第1の非荷電性セグメントの鎖長よりも長い場合であって、第1のブロックコポリマーが剛直であり、第2のブロックコポリマーが柔軟である場合には、第1の非荷電性セグメントがキャリア外側に向かって配向するのに対し、第2の非荷電性セグメントがキャリア内側で折れ曲がって存在することにより、第1のブロックコポリマーが第2のブロックポリマーを内包する構造を取ることが好ましい。よってこの場合は、第1の非荷電性セグメントの配向と、第2の非荷電性セグメントの配向とは、異なることが好ましい。
【0147】
第1のブロックコポリマーが第2のブロックポリマーを内包する構造を取ることによって、血中において第2のリガンドを保護するとともに、第2のリガンドによる血中滞留性の低下やBBB突破効率の低下を防ぐことが期待できる。
【0148】
一態様において、本発明のキャリアは、第1のブロックコポリマーと第2のブロックコポリマーを含有し、
前記第1のブロックコポリマーは、第1の分子で修飾された、第1のポリエチレングリコールと第1の荷電性セグメントとのブロックコポリマーであり、前記第1のポリエチレングリコールと前記第1の荷電性セグメントとの間にジスルフィド結合を有し、
前記第2のブロックコポリマーは、第2の分子で修飾された、第2のポリエチレングリコールと第2の荷電性セグメントとのブロックコポリマーであり、
前記第1の分子と前記第2の分子は異なる。
【0149】
本態様において、好ましくは、前記第1の分子は、グルコースである。
【0150】
本態様において、好ましくは、第2の分子は、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、及び抗体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。第2の分子は、脳組織内(好ましくは脳実質内)の標的細胞表面の標的分子に結合し得る。
【0151】
本態様において、好ましくは、前記第1のポリエチレングリコールの鎖長は、前記第2のポリエチレングリコールの鎖長より長い。
【0152】
本態様において、好ましくは、前記第1のブロックコポリマーは、前記第2のブロックコポリマーを内包している。
【0153】
本態様において、好ましくは、前記第1のポリエチレングリコールと前記第2のポリエチレングリコールの配向が同じである。
【0154】
本態様において、好ましくは、前記第2の荷電性セグメントは、前記第1の荷電性セグメントの電荷と反対の電荷を有する。
【0155】
本態様において、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントのうち、少なくとも一方、好ましくは両方が、ポリアミノ酸である。
【0156】
一態様において、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントのうち、少なくとも一方が、ポリアスパラギン酸である。
【0157】
一態様において、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントのうち、少なくとも一方が、ポリ((5−アミノペンチル)−アスパラギン酸)である。
【0158】
一態様において、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントのうち、一方が、ポリアスパラギン酸であり、他方がポリ((5−アミノペンチル)−アスパラギン酸)である。
【0159】
新たな局面において、本発明は、第1のブロックコポリマーと第2のブロックコポリマーとを含有するキャリアであって、
第1のブロックコポリマーは、第1の非荷電性セグメントと第1の荷電性セグメントとのブロックコポリマーであり、第1のブロックコポリマーの少なくとも一部は、第1の分子で修飾されてなり、
第2のブロックコポリマーは、第2の非荷電性セグメントと第2の荷電性セグメントとのブロックコポリマーであり、
第1の分子はGLUT1リガンドであり、
第1のブロックコポリマーは、前記第1の非荷電性セグメントと前記第1の荷電性セグメントとの間に、pH6.5以下で切断される結合を有し、
第2のブロックコポリマーは、前記第2の非荷電性セグメントと前記第2の荷電性セグメントとの間に、pH6.5以下で切断される結合を有し、且つ
第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントのうちの一方又は両方が、ポリ(Asp−DET)又はポリ(Glu−DET)である
キャリアをも提供する。各用語の定義は、第2のブロックコポリマーの少なくとも一部が第2の分子で修飾されていることを要せず、第2の非荷電性セグメントと前記第2の荷電性セグメントとの間に、pH6.5以下で切断される結合を有することを除き、上述の本発明のキャリアにおけるものと同一である。本態様のキャリアは、GLUT1リガンドの効果により、脳血管内皮細胞のエンドソームに選択的に取り込まれたあと、エンドソーム内酸性環境下で、第1の非荷電性セグメントと第1の荷電性セグメントとの間、及び第2の非荷電性セグメントと第2の荷電性セグメントとの間に存在するpH6.5以下で切断される結合が切断されることにより、GLUT1から解離し、キャリア表面に荷電性セグメントが露出する。ポリ(Asp−DET)(又はポリ(Glu−DET))は、エンドソーム内酸性環境下では膜傷害性を有するので、脳血管内皮細胞内でのエンドソーム脱出が促進される。従って、本態様のキャリアは、薬剤を脳血管内皮細胞へ選択的に送達するためのキャリアとして有用である。
【0160】
3.組成物
本発明は、上記のキャリアと、前記キャリアに内包された薬剤とを含有する、組成物をも提供する。前記組成物は、前記薬物を脳内に送達するための組成物であることが好ましく、中でも、前記薬物に血液脳関門、血液神経関門、血液網膜関門、または血液髄液関門を通過させ、及び/又は、脳内の所望の部位に選択的に前記薬物を送達するための組成物であることが好ましい。脳内の所望の組織又は細胞の具体例としては、制限されるものではないが、例としては、脳実質内の部位として例えば海馬や小脳、脳実質内の細胞として例えばニューロン、アストロサイト、ミクログリアや、血管内皮細胞等が挙げられる。そして、例えばニューロンの中でも更に種類選択的な移行を所望することも可能である。かかる脳内の所望の部位に選択的に前記薬物を送達するための組成物は、当該脳内の所望の組織又は細胞に選択的に移行されるキャリアを用いて構成することができる。かかるキャリアの詳細については、上に説明したとおりである。本発明の組成物の調製方法は特に限定されないが、例えば、本発明のキャリアと薬剤とを混合し、キャリアに薬剤を後担持させる手法や、本発明のキャリアを構成する、全部又は一部がGLUT1リガンドで修飾された第1のブロックコポリマー、及び、全部又は一部が第2の分子で修飾された第2のブロックコポリマーを、薬剤と混合することにより、本発明のキャリアを形成させると同時に、キャリア内に薬剤を担持させる手法等を用いることができる。
【0161】
本発明で用いられる薬剤としては、特に限定されないが、生理活性物質、抗体、核酸、生体適合性の蛍光色素、並びに超音波、MRIおよびCT用造影剤などの造影剤を用いることができる。本発明では、薬剤を選択性高く脳に送達し、脳内の所望の部位(例えば血管内皮細胞や脳実質内の特定の組織や細胞)に選択性高く送達することができる。従って、薬剤としては、特に限定されないが、例えば、脳の生理機能を高める生理活性物質、脳の疾患を処置し得る生理活性物質、脳疾患に特徴的な抗原を認識する抗体、脳疾患に関連する遺伝子の発現を調節する核酸、脳を染色できる生体適合性の蛍光色素、並びに超音波、MRIおよびCT用造影剤などの造影剤を用いることができる。例えば、薬剤として脳の生理機能を高める生理活性物質、脳の疾患を処置し得る生理活性物質、脳疾患に特徴的な抗原を認識する抗体、脳疾患に関連する遺伝子の発現を調節する核酸を用いた本発明の組成物は、医薬組成物として提供され得る。薬剤として脳を染色できる生体適合性の蛍光色素、並びに超音波、MRIおよびCT用造影剤などの造影剤を用いた本発明の組成物は、診断薬として提供され得る。
【0162】
本発明によれば、薬剤として脳疾患治療薬または予防薬を用いることができる。この場合、本発明によれば、外表面がGLUT1リガンドにより修飾され、かつ脳疾患治療薬または予防薬を内包した薬剤送達用キャリアを投与計画に従ってその必要のある対象に投与することを含んでなる、脳疾患の治療または予防方法が提供される。同様に、本発明によれば、外表面がGLUT1リガンドにより修飾され、かつ末梢神経疾患治療薬または予防薬を内包した薬剤送達用キャリアを投与計画に従ってその必要のある対象に投与することを含んでなる、末梢神経疾患の治療または予防方法が提供される。同様に、本発明によれば、外表面がGLUT1リガンドにより修飾され、かつ網膜疾患治療薬または予防薬を内包した薬剤送達用キャリアを投与計画に従ってその必要のある対象に投与することを含んでなる、網膜疾患の治療または予防方法が提供される。一態様において、本発明による投与計画は、絶食させるか、または低血糖を誘発させた対象に該組成物を投与することを含む。一態様において、本発明による投与計画は、絶食させるか、または低血糖を誘発させた対象に該組成物を投与することおよび該対象において血糖値の上昇を誘発させることを含む。
【0163】
従って、本発明によれば、脳疾患治療薬または予防薬を含んでなる、脳疾患を処置または予防するための医薬組成物が提供される。本発明によれば、薬剤の脳への取り込みが向上し、本発明の医薬組成物は脳疾患の治療または治療に有用であることが明らかである。本発明によればまた、末梢神経疾患治療薬若しくは予防薬を含んでなる、末梢神経疾患を処置または予防するための医薬組成物が提供される。本発明によれば、薬剤の末梢神経への取り込みが向上し、本発明の医薬組成物は末梢神経疾患の治療または予防に有用であることが明らかである。本発明によればさらに、網膜疾患治療薬若しくは予防薬を含んでなる、網膜疾患を処置または予防するための医薬組成物が提供される。本発明によれば、薬剤の網膜への取り込みが向上し、本発明の医薬組成物は網膜疾患の治療または予防に有用であることが明らかである。本発明によれば、上記治療薬または予防薬は、キャリアに内包された形態で組成物に含まれ得る。
【0164】
脳疾患としては、脳疾患治療薬に血液脳関門を通過させることで治療できる脳疾患、例えば、不安、うつ病、睡眠障害、アルツハイマー病、パーキンソン病および多発性硬化症などが挙げられる。従って、本発明では、これらの脳疾患を治療するために、抗不安剤、抗うつ剤、睡眠導入剤、アルツハイマー治療薬、パーキンソン病治療薬および多発性硬化症治療薬などの脳疾患治療薬または予防薬が用いられ得る。アルツハイマー病治療薬としては、例えば、Aβ抗体がよく知られ、パーキンソン病治療薬としては、例えば、ドーパミン受容体アゴニストおよびL−ドーパがよく知られ、多発性硬化症治療薬としては、例えば、副腎ステロイド薬、インターフェロンβ(IFNβ)、および免疫抑制剤がよく知られ、これらの治療薬が本発明で用いられ得る。末梢神経疾患としては、末梢神経疾患治療薬に血液脳関門を通過させることで治療できる末梢神経疾患、例えば、ギランバレー症候群、フィッシャー症候群および慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーが挙げられる。網膜疾患としては、網膜疾患治療薬に血液脳関門を通過させることで治療できる網膜疾患、例えば、網膜色素変性症、脳回状網脈膜萎縮、コロイデレミア、クリスタリン網膜症、先天黒内障、先天性停在性夜盲、小口病、白点状眼底、白点状網膜症、色素性傍静脈網脈絡膜萎縮、スターガルト病、卵黄状黄斑ジストロフィー、若年網膜分離症、中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィー、オカルト黄斑ジストロフィー、家族性滲出性硝子体網膜症および網膜色素線条が挙げられる。
【0165】
複合体形成セグメントとして、荷電性セグメントを使用する場合、本発明のキャリアは、親水性の薬剤の送達に有利である。例えば、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントのうちの少なくとも一方、好ましくは両方が、ポリカチオンである場合、核酸や負の電荷を有するタンパク質やペプチドやその他の親水性の薬剤の送達に有利である。一方、複合体形成セグメントとして、疎水性セグメントを使用する場合、本発明のキャリアは、疎水性の薬剤の送達に有利である。
【0166】
本発明者らの従前の知見によれば、GLUT1リガンドでその外表面を修飾したキャリアは、対象に投与するだけでも脳への蓄積を示す。従って、本発明のキャリア及びこれに薬剤を内包させた組成物を用いた投与計画では、絶食等による低血糖を誘発させなくてよく、および/または、血糖値の上昇を誘発させなくてもよい。また、本発明者らの従前の知見によれば、GLUT1リガンドが表面に露出するようGLUT1リガンドでその外表面を修飾したキャリア、具体的にはミセルまたはポリイオンコンプレックス型ポリマーソーム(PICsome)などの小胞をある投与計画に従って投与すると、顕著にこれらのキャリアが血液脳関門を超えて脳内(脳実質部)に送達される。従って、一態様において、本発明のキャリア及びこれに薬剤を内包させた組成物を用いた投与計画は、絶食させるか、または低血糖を誘発させた対象に該組成物を投与することを含む。一態様において、本発明のキャリア及びこれに薬剤を内包させた組成物を用いた投与計画は、絶食させるか、または低血糖を誘発させた対象に該組成物を投与すること、および該対象において血糖値の上昇を誘発させることを含む。一態様において、本発明のキャリア及びこれに薬剤を内包させた組成物を用いた投与計画では、該組成物は、該対象における血糖値の上昇の誘発と、同時に、連続してまたは逐次的に該対象に投与され得る。投与計画は、該対象への組成物の投与と該対象における血糖値の上昇の誘発との間にインターバルを有してもよいし、有さなくてもよい。該組成物が該対象における血糖値の上昇の誘発と同時に投与される場合には、該組成物は、血糖値の上昇の誘発を引き起こす薬剤と混合した形態で該対象に投与してもよいし、該対象における血糖値の上昇の誘発を引き起こす薬剤とは別の形態で投与してもよい。また、該組成物は、該対象における血糖値の上昇の誘発と、連続してまたは逐次的に該対象に投与される場合には、該組成物は該対象における血糖値の上昇の誘発より前に該対象に投与してもよいし、後に投与してもよいが、好ましくは、該組成物は該対象における血糖値の上昇の誘発より前に該対象に投与することができる。該対象への該組成物の投与よりも先に該対象において血糖値の上昇を誘発させる場合には、該対象において血糖値の上昇を誘発させてから、1時間以内、45分以内、30分以内、15分以内または10分以内に該対象に該組成物を投与することが好ましい。また、該対象への該組成物の投与よりも後に該対象において血糖値の上昇を誘発させる場合には、該対象に該組成物を投与してから、6時間以内、4時間以内、2時間以内、1時間以内、45分以内、30分以内、15分以内または10分以内に該対象において血糖値の上昇を誘発させることが好ましい。上記の投与計画のサイクルは、2回以上行なってもよい。グルコース投与とサンプル投与の前後関係は、血液脳関門を通過させるタイミングにより決定することができる。
【0167】
大脳皮質は6層で構成され、表層から、分子層(第1層)、外顆粒層(第2層)、外錐体細胞層(第3層)、内顆粒層(第4層)、内錐体細胞層(第5層)および多形細胞層(第6層)が存在するが、本発明によれば、これらのいずれの層においても脳実質にキャリアを送達することができる。これらの層の中では特に、外錐体細胞層(第3層)および内顆粒層(第4層)において、本発明によるキャリアの送達が顕著に有効である。
【0168】
本発明では、ミセルまたはPICsomeのような巨大なキャリア(直径約30nm〜100nm)が、効率良く血液脳関門を効果的に通過し、脳内の所望の部位(例えば血管内皮細胞や脳実質内の特定の組織や細胞)に選択性高く送達できる。
【0169】
本発明のキャリア又は組成物は、対象にそのまま投与することもできるが、以下に説明する特定の投与計画に基づき投与することもできる。かかる投与計画では、一態様において、まず、対象に絶食させるか、または対象に低血糖を誘発させるが、その後、該対象に該組成物を投与する。本発明による投与計画では、一態様において、まず、対象に絶食させるか、または対象に低血糖を誘発させるが、その後、該対象に該組成物を投与することおよび該対象において血糖値の上昇を誘発させる。ここで、本発明による投与計画では、該対象への該組成物の投与は、該対象における血糖値の上昇の誘発と、同時に、連続してまたは逐次的に行なわれ得る。低血糖状態の誘発は、GLUT1を血管内皮細胞(例えば、脳血管内皮細胞)の内表面に発現させるために有用であると考えられる。但し、本発明によれば、本発明のキャリア又は組成物は、投与対象における血糖値の上昇がこれらの脳への送達に極めて効果的である。なお、本発明者らの以前の検討によれば、絶食させるか、または低血糖を誘発させた対象における本発明のキャリア又は組成物の血中濃度が一定値以上であるときに、血糖値を上昇させることにより、本発明のキャリア又は組成物が極めて効果的に脳内に送達できるのである。また、対象において血糖値の上昇を誘発させた後もしばらくの間は本発明のキャリア又は組成物は該対象の脳内へ送達され得る。
【0170】
本発明のキャリア又は組成物の血中濃度を一定値以上に保つ観点では、本発明のキャリア又は組成物を対象に輸液投与することが好ましい。このようにすることで、血中滞留時間の短いキャリア又は組成物であっても、一定の血中濃度を確保し易い。例えば、血中滞留時間の短いsiRNAを内包するsiRNAミセルは、輸液により対象に投与すると効果を上げやすい。輸液投与は、好ましくは、10分以上、15分以上、30分以上、45分以上、60分以上、90分以上、または2時間以上行なうことができる。輸液投与は、好ましくは一定の輸液速度で行なう。例えば、精密投与ポンプを用いれば、一定の輸液速度による投与が可能である。輸液投与は、対象における血糖値の上昇の誘発と同時になされてもよく、輸液投与中に対象において血糖値の上昇を誘発させてもよい。
【0171】
本発明のキャリア又は組成物は、本発明による投与計画に基づき投与すると、脳への送達効率が選択的に高まる。従って、本発明のキャリア又は組成物は、脳に薬剤を送達するために用いることができる。特に、本発明のキャリア又は組成物は、脳内の所望の部位(例えば血管内皮細胞や脳実質内の特定の組織や細胞)に選択的に、薬剤を送達するために用いることが出来る。本発明のキャリア又は組成物はまた、薬剤に血液脳関門を通過させることができる。従って、本発明のキャリア又は組成物は、従来は送達が困難であった脳実質に、生理活性物質、抗体、核酸、生体適合性の蛍光色素、並びに超音波、MRIおよびCT用造影剤などの造影剤などの薬剤を送達することに用いることができる。特に、本発明のキャリア又は組成物は、脳実質内の特定の組織や細胞に選択的に、生理活性物質、抗体、核酸、生体適合性の蛍光色素、並びに超音波、MRIおよびCT用造影剤などの造影剤などの薬剤を送達することに用いることができる。本発明のキャリア又は組成物はまた、薬剤を脳血管内皮細胞に蓄積させることができる。従って、本発明のキャリア又は組成物は、従来は送達が困難であった脳血管内皮細胞に、生理活性物質、抗体、核酸、生体適合性の蛍光色素、並びに超音波、MRIおよびCT用造影剤などの造影剤などの薬剤を選択的に送達することに用いることができる。また、本発明のキャリア又は組成物は、脳血管内皮細胞間の接着を弱める、または破壊する薬剤を脳血管内皮細胞に送達することに用いることもできる。同様に、本発明のキャリア又は組成物は、網膜、末梢神経および/または髄液に、生理活性物質、抗体、核酸、生体適合性の蛍光色素、並びに超音波、MRIおよびCT用造影剤などの造影剤などの薬剤を送達するために用いることができる。本発明のキャリア又は組成物はまた、血液神経関門、血液網膜関門または血液髄液関門にそれぞれ存在する血管内皮細胞に生理活性物質、抗体、核酸、生体適合性の蛍光色素、並びに超音波、MRIおよびCT用造影剤などの造影剤などの薬剤を送達するために用いることができる。本発明のキャリア又は組成物は、血液神経関門、血液網膜関門または血液髄液関門にそれぞれ存在する血管内皮細胞間の接着を弱める、または破壊する薬剤を脳血管内皮細胞に送達することに用いることもできる。血管内皮細胞間の接着を弱め、または破壊することにより、関門の機能を弱め、様々な薬剤に関門を通過させることができるようになる。
【0172】
本発明のキャリア又は組成物は、経口投与および非経口投与(例えば、静脈内投与または腹腔内投与)により投与することができる。
【0173】
本発明によれば、キャリアには、生理活性物質、抗体、核酸、生体適合性の蛍光色素、並びに超音波、MRIおよびCT用造影剤などの造影剤などの薬剤を内包することができ、これにより、キャリアに内包された薬剤を脳、末梢神経組織、網膜および/または髄液に効果的に送達することが可能である。
【0174】
本発明のキャリア又は組成物を対象に投与すると、第1のブロックコポリマーを修飾するGLUT1リガンドの作用により、キャリア又は組成物は血液脳関門を通過して脳内に侵入する。その後、第2のブロックコポリマーを修飾する第2の分子であるリガンドの作用によって、キャリア又は組成物は脳内の所望の部位(例えば血管内皮細胞や脳実質内の特定の組織や細胞)に選択的に移行する。ここで、切断型の第1のブロックコポリマーを用いた場合には、第1の非荷電性セグメントと第1の複合体形成セグメントとを連結する切断可能な結合が、キャリアが選択的に移行すべき脳内所望部位またはキャリアが選択的に移行すべき脳内所望部位に到達するまでに通過する部位(例えば、脳実質内、又は血管内皮細胞内のエンドソーム内の環境条件下)で特異的に切断されることにより、第1の非荷電性セグメントが除去され、第2の分子であるリガンドで修飾された第2の非荷電性セグメントが、キャリア外方に効率的に露出することになる。その結果、本発明の組成物に担持された薬剤を、脳内の所望の部位に選択的に送達することが可能となる。かかる本発明の組成物を用いた薬剤の送達方法も、本発明により提供される。
【実施例】
【0175】
[試験例1]PEG−SS−P(Asp−AP)の製造
(1)PEG−COOHの合成
まず、PEG−NH
2(PEGの分子量12kDa,800mg,0.0667mmol,日油株式会社)をジクロロメタン(16mL,ナカライテスク株式会社)に溶解し、DMF(4mL,ナカライテスク株式会社)に溶解した無水コハク酸(140mg,0.714mmol,東京化成工業株式会社)を加え、35℃で反応させた。反応溶液を分画分子量6−8kDaの透析膜(スペクトラ/ポア,フナコシ株式会社)を用いて透析処理した後、凍結乾燥することで白色粉末を得た(収率94%)。これを
1H−NMR(日本電子株式会社)とイオン交換カラムクロマトグラフィーにより分析した結果、反応は定量的に進行し、全ての末端アミノ基がカルボキシル基に変換されていることが確認された(PEG−COOH)(
図5)。
【0176】
(2)PEG−SS−NH
2の合成
次に、PEG−COOH(500mg,0.0407mmol)を純水(10mL)に溶解し、pHを中性付近(6.5〜7.5)に調製した後、シスタミン2塩酸塩(183mg,0.976mmol,東京化成工業株式会社)と塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(156mg,1.05mmol,東京化成工業株式会社)を粉のまま加え、室温で12時間反応させた。反応溶液を分画分子量6−8kDaの透析膜(スペクトラ/ポア,フナコシ株式会社)を用いて透析処理した後(外液0.01% HCl aq)、凍結乾燥することで白色粉末を得た(収率94%)。これを
1H−NMR(日本電子株式会社)とイオン交換カラムクロマトグラフィーにより分析した結果、反応は定量的に進行し、上記のように分子内にジスルフィド結合を有する重合開始剤(PEG−SS−NH
2・HCl)が得られたことがわかった(
図6)。
【0177】
(3)PEG−SS−P(Asp−AP)の合成
PEG−SS−NH
2・HClを再度純水に溶解し、分画分子量6−8kDaの透析膜を用いて透析処理した後(外液0.01%アンモニア水溶液)、凍結乾燥することでPEG−SS−NH
2を得た。これを開始剤として、既報に従いNCA−BLAの重合を行った。具体的には、PEG−SS−NH
2(94mg,0.076mmol)をジクロロメタン(0.7mL,関東化学株式会社)に溶解した後、DMF(0.3mL,関東化学株式会社)とジクロロメタン(2mL,関東化学株式会社)の混合溶媒に溶解したNCA−BLA(152mg,0.600mmol)を加え、35℃で2日間反応させた。この反応溶液を、ヘキサン:酢酸エチル=2:3(体積比,どちらも株式会社ゴードー)に滴下し、沈殿物を吸引ろ過により回収した。これを一晩減圧乾燥することでPEG−SS−PBLAを得た。次に、PEG−SS−PBLA(200mg,0.0069mmol)をNMP(10mL,ナカライテスク株式会社)に溶解し、5℃に冷却した。一方で、1,5−ジアミノペンタン(6mL,東京化成工業)も同様にNMP(6mL,ナカライテスク株式会社)に溶解し、5℃に冷却した後、これに対してポリマー溶液を滴下し、5℃で1時間反応させた。この反応溶液を分画分子量15kDaの透析膜(スペクトラ/ポア,フナコシ株式会社)を用いて透析処理した後(外液0.01% HCl aq)、凍結乾燥することにより白色粉末を得た(収率89%,平均重合度72)。これを
1H−NMR(日本電子株式会社)とサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより分析したところ、約1割のSS結合の開裂がみられたものの、ほぼ定量的にPEGと荷電性セグメントの間にジスルフィド結合を有する新規ポリマー(PEG−SS−P(Asp−AP))が得られたことが分かった(
図7)。
【0178】
[試験例2]PEG−SS−P(Asp−AP)の還元環境応答性の評価
試験例1で合成したPEGと荷電性セグメントの間にジスルフィド結合を有する新規ポリマー(PEG−SS−P(Asp−AP))の還元環境応答性を評価するため、まず10mMのリン酸緩衝液(pH=7.4)に1mg/mLとなるよう溶解し、これに対して脳内のグルタチオン濃度(3mM)と同程度の還元環境となるようにDTT溶液を添加し、ピペッティングにより攪拌した後に静置した。この溶液を5分後、15分後、50分後にそれぞれサンプリングし、HPLCを用いて分子量の変化を評価した。その結果、時間経過に伴い分解したフラクションであるPEG−SH(20min)、Sh−P(Asp−Ap)(22min)の割合が増大し、50分後にはほぼすべてのSS結合が開裂したことが示唆された(
図8)。
【0179】
[試験例3]SS結合を有するミセルの調製
試験例1で合成したPEGと荷電性セグメントの間にジスルフィド結合を有する新規ポリマー(PEG−SS−P(Asp−AP))よりも短いPEG(分子量2kDa)と反対電荷を有する荷電性セグメント(今回は負の荷電連鎖)からなるブロック共重合体(PEG−PAsp)を既報に従い合成した。これら2種類のポリマーを、それぞれ10mMのリン酸緩衝液に1mg/mLとなるよう溶解し、電荷の釣り合う点で混合した後、室温で2分間攪拌することで長さの異なる2種類のPEGで覆われたミセルを調製した。その後、縮合剤であるEDCを純水に1−10mg/mLとなるよう溶解し、これをミセル溶液に同量添加することで、ミセルのコア部分を固定化した(架橋)。これらのミセルをそれぞれ動的光散乱測定(Zetasizer,Malvern Instruments Ltd)により評価したところ、平均粒径50nm程度で単分散な粒子が得られたことがわかった(
図9)。これらのミセル溶液に還元剤であるジチオトレイトール(DTT)(和光純薬工業)溶液(5mM)を同量添加して室温で2時間静置し、同様に動的光散乱測定を行った。その結果、EDCの濃度が1mg/mL以下の場合には、ミセルコア部分の固定化が十分でなく、PEGの脱離に伴う形態変化が確認された。一方で、3−10mg/mLのEDC溶液を添加した場合には、コアが十分に固定化され、ミセルの形状を保持したまま、PEGの脱離に伴う粒径減少が確認された(
図9)。
【0180】
[試験例4]SS結合を有するミセルの還元環境応答性の評価
試験例3で調製したミセルのうち、最もコア部分が強く固定化されていることが予想される10mg/mLのEDCを添加したミセル溶液を用いて、さらに還元環境応答性を詳細に評価した。グルタチオン濃度0.02〜6mMに相当する還元力となるよう、還元電位をもとにDTTを10mMリン酸緩衝液で希釈することでDTT溶液を作成した。ミセル溶液に、同量のDTT溶液をそれぞれ添加し、動的光散乱測定によりミセルの粒径変化を評価した。その結果、脳内のグルタチオン濃度に相当する領域(1−3mM)では、粒径の減少が確認された(
図10)。これは、ジスルフィド結合の開裂に伴い、分子量12kDaのPEGが脱離し、2kDaのPEGのみが表層にとどまったことを示唆するものである。また、2kDaのPEGを表層に有するミセルの粒径が30nm程度であることも、この仮定を裏付けている。さらに、血液中のグルタチオン濃度に相当する領域(0.01mM)では、粒径に変化はなかったことから、このミセルは血液中においてはその構造を安定に保持し、BBB突破後の脳実質内においてのみPEGが脱離するという機能を発揮する可能性を有していると言える(
図10)。
【0181】
[試験例5]Glc-PEG
(2K)-P(Asp−AP)と(Boc−Asp)-PEG-PAspとからなるPICミセル(キャリアA)の製造
本試験例では、グルコースリガンドで修飾された非切断型の第1のブロックポリマーであるGlc-PEG
(2K)-P(Asp−AP)と、Boc−アミノ基修飾アスパラギン酸で修飾された第2のブロックコポリマーである(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAspを含むPICミセルの製造を行った。
【0182】
(1)Glc-PEG
(2K)-P(Asp−AP)の合成
1,2−O−Isopropylidene−α−D−glucofranose10.13gをフラスコに移し、ピリジン60mLを加え、続いてジクロロメタン60mLを加え、完全に溶解させた。その後、塩化ピバロイル5.5mLを滴下し、室温で5時間攪拌した。反応溶液を減圧下で濃縮した後、純水を加えて生成物を析出させ、フィルターろ過により回収した。続いて、65℃のオイルバス中で、65℃に温めておいたメタノールを少しずつ加え、完全に溶解したところでオイルバスの電源を切り、室温まで冷却させた。さらに、4℃の冷蔵庫に移して生成物を析出させ、吸引ろ過により生成物であるMIG−Piv9.25g回収した。MIG−Piv9.25gをフラスコに移し、Acetone Dimethyl Acetal230mLを加え、続いてTsOH・H
2O292mgを加えた。これを75℃で30分間refluxし、室温に冷却した後、トリエチルアミン1mLを滴下し、続いてトルエン50mLを加えた。これを減圧下で濃縮した後、さらにトルエン50mLを加え、同様に濃縮、トルエンの追加を3回繰り返した。その後、ジクロロメタンに生成物を抽出し、硫酸ナトリウムで脱水の後に吸引ろ過し、減圧乾燥により回収した。これをシリカゲルカラムにより精製し、生成物であるDIG−Piv10.4gを回収した。DIG−Piv10.4gをメタノール10mLに溶解させ、続いて5M水酸化ナトリウム水溶液60mLを加え、70℃で40分間refluxした。この反応溶液をジクロロメタンに抽出し、硫酸ナトリウムで脱水・フィルターろ過した後、減圧下で濃縮した。これにエタノールを加え、ドライヤーで加熱した後、純水を少しずつ加え、生成物が析出したところで4℃に冷却し、再結晶により生成物であるDIG(6)を得た。続いて、DIG−PEG−NH
2の合成を行った。具体的には、DIG(6)260mgをTHF15mLに溶解し、カリウムナフタレン2.68mLを滴下した。これにエチレンオキシド2.68mLを加え、35℃で24時間反応させた。これをジエチルエーテルに対して再沈殿させて、吸引ろ過により回収し、DIG−PEG−OH(分子量2000Da)を得た。続いて、DIG(6)−PEG−OH2.1gをTHF24mLに溶解し、TEA0.7mLを加えた後、MsCl/THF(0.4mL/2.7mL)を加えて水浴中で30分間攪拌後、室温で3時間攪拌した。これをジエチルエーテルに対して再沈殿し、吸引ろ過によりいったん回収した後、28%NH
3水溶液138mLを加えて室温で4日間攪拌した。これを減圧下で濃縮し、透析により精製した後、凍結乾燥により回収してDIG(6)−PEG−NH
2を得た。続いて、BLA−NCA 9.5gをN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)10mLに溶解し、ジクロロメタン(DCM)75mLで希釈した。一方で、先に合成したDIG(6)−PEG−NH
2(分子量2,000)1.0gをDMF10mLに溶解し、その溶液をBLA−NCA溶液に加えた。この混合溶液を35℃に保ちながら40時間重合した。赤外分光(IR)分析で重合反応が終了したことを確認した後、反応混合物をジエチルエーテル2Lに滴下して沈澱したポリマーを吸引濾過により回収し、ジエチルエーテルで洗浄した後に真空乾燥してDIG(6)−PEG
(2K)−PBLAを得た。次に、DIG(6)−PEG
(2K)−PBLAからポリエチレングリコール−ポリ((5−アミノペンチル)−アスパラギン酸)ブロック共重合体(DIG(6)−PEG
(2K)−P(Asp−AP))を合成した。具体的には、ベンゼン凍結乾燥をしたDIG(6)−PEG
(2K)−PBLA 1gをNMP 10mLに溶解した。1,5−ジアミノペンタン(DAP) 8mLをDIG(6)−PEG−PBLA溶液に加えた。混合溶液を5℃に保ちながら1時間反応させた。その後、反応液に20重量%の酢酸水溶液15.2mLを添加し、透析膜(分画分子量6,000〜8,000)を用いて水中で透析した。膜内の溶液を凍結乾燥してDIG(6)−PEG
(2K)−P(Asp−AP) 954mg(収率81%)を得た。
【0183】
(2)(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAspの合成
まず、N
3−PEG
(2K)−PBLAの合成を行った。具体的には、THP−PEG−OH(分子量,2000)6.75gをベンゼンに溶解し、凍結後に減圧下で乾燥させた。これをTHF45mLに溶解し、TEA1.83mLを加えた後、さらにMsCl/THF(1.13mL/22.5mL)を加えて水浴中で30分、室温で1時間反応させた。これをエーテル(1.3L)に対して再沈殿し、真空乾燥することでTHP−PEG−Msを回収した。THP−PEG−Ms6.55gをDMF44mLに溶解し、アジ化ナトリウム3.7gを加えて45℃で3日間反応させた。これに対して純水30mLを加えた後、透析により精製、真空乾燥することでTHP−PEG−N
3を得た。THP−PEG−N
34.87gをMeOH68mLに溶解し、1NのHCl42mLを加えて室温で5時間反応させた。その後、アンモニア水により過剰量の酸を中和し、透析と再沈殿により精製し、減圧下で乾燥させてN
3−PEG−OHを得た。N
3−PEG−OH3.87gをTHF36mLに溶解し、TEA1.3mLを加えた後、MsCl/THF(0.78mL/5.4mL)を加えて水浴中で30分間攪拌後、室温で3時間攪拌した。これをエーテルに対して再沈殿し、吸引ろ過によりいったん回収した後、28%NH
3水溶液276mLを加えて室温で4日間攪拌した。これを減圧下で濃縮し、透析により精製した後、凍結乾燥により回収してN
3−PEG−NH
2を得た。(3.7g)続いて、BLA−NCA 18.9gをN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)19mLに溶解し、ジクロロメタン(DCM)150mLで希釈した。一方で、先に合成したN
3−PEG−NH
2(分子量2,000)2.0gをDMF 20mLに溶解し、その溶液をBLA−NCA溶液に加えた。この混合溶液を35℃に保ちながら40時間重合した。赤外分光(IR)分析で重合反応が終了したことを確認した後、反応混合物をジエチルエーテル3.8Lに滴下して沈澱したポリマーを吸引濾過により回収し、ジエチルエーテルで洗浄した後に真空乾燥してN
3−PEG
(2K)−PBLAを得た。
【0184】
次に、N
3−PEG
(2K)−PBLAから(Boc−Asp)−PEG
(2K)−PBLAを合成した。具体的には、meso−2,3−diaminosuccinic acid234mgをエタノール50mLに分散させた後、氷冷しながら塩化チオニル3mLを滴下し、3日間refluxした。これを減圧乾燥した後、水/ジオキサン(2mL/5mL)に溶解し、TEA234μLと(Boc)
2O214μLを順に加え、50℃で一晩反応させた。これを減圧下で濃縮した後、シリカゲルカラムにより分子内のアミノ基のうち、一つはBoc保護され、一つは残存した化合物のフラクションのみを抽出した。一方で、5−Hexynoic acid839mgをDMF8mLに溶解し、NHS1.5gとEDC2gを加えて、室温で一晩反応させた。これを抽出により精製し、減圧下で濃縮した後、シリカゲルカラムにより目的物である5−Hexynoic acid N−hydroxysuccinimide esterを得た。このようにして得た下式の化合物20mgとN
3−PEG
(2K)−PBLA500mgをDSMO25mL中に溶解させ、1M硫酸銅(II)水溶液60μL及び1Mアスコルビン酸水溶液60μLの存在下、4℃で凍結後に30℃に昇温して一晩反応させ、Et
2−Boc−AspをPEG末端に導入した(Et
2−Boc−Asp)−PEG
(2K)−PBLAを合成した。その後、1N水酸化ナトリウムの存在下、室温で三時間反応させ、カルボキシル基を脱保護した後、過剰量のEDTA・2Naを加えて室温で一晩放置することにより銅イオンを除去し、(Boc−Asp)−PEG
(2K)−PBLA438mgを合成した。
【0185】
【化14】
【0186】
次に、(Boc−Asp)−PEG
(2K)−PBLAからAsp−PEG
(2K)−P(Asp)を合成した。具体的には、(Boc−Asp)−PEG
(2K)−PBLA 100mgを0.5N水酸化ナトリウムに懸濁しながら室温でベンジルエステルを加水分解した。コポリマーが溶解した後、透析膜(分画分子量6,000−8,000)を用いて水中で透析した。膜内の溶液を凍結乾燥して(Boc−Asp)−PEG
(2K)−P(Asp) 55mg(収率78%)を得た。NMRスペクトルによる確認の結果、ほぼ全てのポリマーのPEG末端にBoc−Aspリガンドが導入されたことが確認された(
図11)。その後、80%TFAにより処理することで、Boc保護基を脱保護し、Asp−PEG−P(Asp)40mgを得た。NMRスペクトルによる確認の結果、ほぼ全てのBoc基が脱保護されたことが確認された(
図12)。
【0187】
(3)PICミセルの形成
上記手順にて合成したGlc-PEG
(12K)-P(Asp−AP) 50mgを10mMリン酸緩衝液(PB、pH7.4、0mMNaCl)50mLに溶解し、1mg/mLのGlc-PEG
(12K)-P(Asp−AP)溶液を調製した。同様に、上記手順にて合成した(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAsp 50mgをPB 50mLに溶解し、1mg/mLの(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAsp溶液を調製した。上記2種類の水溶液、即ちGlu-PEG
(12K)-P(Asp−AP)溶液4mLと(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAsp溶液7.0mLを、50mLのコニカルチューブに添加し、ボルテックスで2分間攪拌した(2000rpm)。その後、水溶性の縮合剤である1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)(10mg/mL)を含有するPB溶液5.6mLを加え、一晩静置しポリイオンコンプレクスのコアを架橋した。その後、分画分子量100,000の膜のついた限外濾過チューブを用いて、ミセル形成に関与していないポリマーおよびEDCの副生成物などを除去した。
【0188】
[試験例6]Asp修飾ミセルの調製
試験例5(3)に準じ、Asp−PEG
(12K)−PAsp又はPEG
(12K)−PAspと、PEG
(12K)−P(Asp−AP)を10mMリン酸緩衝液に溶解し、荷電比が釣り合う点で混合し、室温で2分間攪拌した。10当量のEDCを添加し、室温で12時間静置し、ポリイオンコンプレックスのコアを架橋した。限外濾過により、ミセルを精製した。得られたミセルをそれぞれ動的光散乱測定(Zetasizer,Malvern Instruments Ltd)により評価したところ、平均粒径25〜30nm程度で単分散な粒子が得られたことがわかった(表1)。
【0189】
【表1】
【0190】
この結果から、Boc基を脱保護したポリマーを用いた場合でも、Asp修飾ミセルが調製できることが示された。
【0191】
[試験例7]Glc-PEG
(12K)-SS−P(Asp−AP)と(Boc−Asp)-PEG-PAspとからなるPICミセルの製造
本試験例では、グルコースリガンドで修飾された切断型の第1のブロックポリマーであるGlc-PEG
(12K)-SS−P(Asp−AP)と、Boc−アミノ基修飾アスパラギン酸で修飾された第2のブロックコポリマーである(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAspを含むPICミセルの製造を行った。
【0192】
(1)Glc-PEG
(12K)-SS−P(Asp−AP)の合成
まず、ポリエチレングリコール(分子量12,000)の末端にジスルフィド結合を有する官能基を導入した。具体的には、メトキシ基の末端とアミノエチル基の末端を有するポリエチレングリコール(PEG
(12K)−NH
2)(分子量12,000)500mgをDMF2mL/DCM8mLの混合溶媒に溶解し、その溶液に無水コハク酸70mgを加えて反応させ、PEG
(12K)−NH−CO−C
2H
4−COOH470mgを合成した(収率94%)。
1H−NMR及びイオン交換クロマトグラフィーにより、PEG
(12K)末端にカルボン酸基を有する上記所望の基が導入されたことを確認した。次に、得られたPEG
(12K)−NH−CO−C
2H
4−COOH480mgを純水に溶解し、pH=7となるよう1N NaOHにより調整した後、H
2N−C
2H
4−S−S−C
2H
4−NH
2・2HCl138mgとEDC117mgを加え、室温で一晩反応させることでPEG
(12K)−NH−CO−C
2H
4−NH−C
2H
4−S−S−C
2H
4−NH
2・HCl478mg(以下PEG
(12K)-SS−NH
2と略す。)を合成した(収率95%)。
1H−NMR及びイオン交換クロマトグラフィーにより、PEG
(12K)末端にジスルフィド結合を含む所望の基が導入されたことを確認した。
【0193】
次に、上記PEG
(12K)-SS−NH
2からポリエチレングリコール−ジスルフィド−ポリ((5−アミノペンチル)−アスパラギン酸)ブロック共重合体(PEG
(12K)−SS−P(Asp−AP))を合成した。具体的には、上記PEG
(12K)-SS−NH
2478mgとNCA−BLA370mgとを、DMF0.4mL/DCM4mLの混合溶媒に溶解し、35℃で2日間反応させ、再沈殿により精製・回収した。次いでH
2N-C
5H
10-NH
250当量を加えて5℃で1時間反応させて、上記PEG
(12K)-SS−NH
2のNH
2側末端に(5−アミノペンチル)−アスパラギン酸を重合させてPEG
(12K)−SS−P(Asp−AP)を作成した(収率89%)。
1H−NMRによる測定の結果、P(Asp−AP)ブロックの重合度は72であった。サイズ排除クロマトグラフィーにより、ほぼ単分散のPEG
(12K)−SS−P(Asp−AP)であることが確認された。
【0194】
(2)(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAspの合成
上記試験例5と同様の手順で合成を行い、(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAspを合成した。
【0195】
(3)PICミセルの形成
上記手順にて合成したGlu-PEG
(12K)-SS−P(Asp−AP)50mgを10mMリン酸緩衝液(PB、pH7.4、0mMNaCl)50mLに溶解し、1mg/mLのGlu-PEG
(12K)-SS−P(Asp−AP)溶液を調製した。同様に、上記手順にて合成した(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAsp50mgをPB 50mLに溶解し、1mg/mLの(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAsp溶液を調製した。上記2種類の水溶液、即ちGlu-PEG
(12K)-SS−P(Asp−AP)溶液4mLと(Boc−Asp)-PEG
(2K)-PAsp溶液7.0mLを、50mLのコニカルチューブに添加し、ボルテックスで2分間攪拌した(2000rpm)。その後、水溶性の縮合剤である1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)(10mg/mL)を含有するPB溶液5.6mLを加え、一晩静置しポリイオンコンプレクスのコアを架橋した。その後、分画分子量100,000の膜のついた限外濾過チューブを用いて、ミセル形成に関与していないポリマーおよびEDCの副生成物などを除去した。
【0196】
[試験例8]DIG(6)−PEG−SS−P(Asp−AP)の製造
1,2−O−Isopropylidene−α−D−glucofranose 10.13gをフラスコに移し、ピリジン60mLを加え、続いてジクロロメタン60mLを加え、完全に溶解させた。その後、塩化ピバロイル5.5mLを滴下し、室温で5時間攪拌した。反応溶液を減圧下で濃縮した後、純水を加えて生成物を析出させ、フィルターろ過により回収した。続いて、65℃のオイルバス中で、65℃に温めておいたメタノールを少しずつ加え、完全に溶解したところでオイルバスの電源を切り、室温まで冷却させた。さらに、4℃の冷蔵庫に移して生成物を析出させ、吸引ろ過により生成物であるMIG−Piv9.25g回収した。MIG−Piv9.25gをフラスコに移し、Acetone Dimethyl Acetal230mLを加え、続いてTsOH・H
2O 292mgを加えた。これを75℃で30分間refluxし、室温に冷却した後、トリエチルアミン1mLを滴下し、続いてトルエン50mLを加えた。これを減圧下で濃縮した後、さらにトルエン50mLを加え、同様に濃縮、トルエンの追加を3回繰り返した。その後、ジクロロメタンに生成物を抽出し、硫酸ナトリウムで脱水の後に吸引ろ過し、減圧乾燥により回収した。これをシリカゲルカラムにより精製し、生成物であるDIG−Piv10.4gを回収した。DIG−Piv 10.4gをメタノール10mLに溶解させ、続いて5M水酸化ナトリウム水溶液60mLを加え、70℃で40分間refluxした。この反応溶液をジクロロメタンに抽出し、硫酸ナトリウムで脱水・フィルターろ過した後、減圧下で濃縮した。これにエタノールを加え、ドライヤーで加熱した後、純水を少しずつ加え、生成物が析出したところで4℃に冷却し、再結晶により生成物であるDIG(6)を得た。続いて、DIG−PEG−NH
2の合成を行った。具体的には、DIG(6)260mgをTHF15mLに溶解し、カリウムナフタレン2.68mLを滴下した。これにエチレンオキシド2.68mLを加え、35℃で24時間反応させた。これをジエチルエーテルに対して再沈殿させて、吸引ろ過により回収し、DIG(6)−PEG−OH(分子量2000Da)を得た。続いて、DIG(6)−PEG−OH2.1gをTHF24mLに溶解し、TEA0.7mLを加えた後、MsCl/THF(0.4mL/2.7mL)を加えて水浴中で30分間攪拌後、室温で3時間攪拌した。これをジエチルエーテルに対して再沈殿し、吸引ろ過によりいったん回収した後、28%NH
3水溶液138mLを加えて室温で4日間攪拌した。これを減圧下で濃縮し、透析により精製した後、凍結乾燥により回収してDIG(6)−PEG−NH
2を得た。続いて、DIG(6)−PEG−SS−NH
2の合成を行った。具体的には、DIG(6)−PEG
(2K)−NH
2 300mgをDMF4mL/DCM16mLの混合溶媒に溶解し、その溶液に無水コハク酸70mgを加えて反応させ、DIG(6)−PEG
(2K)−NH−CO−C
2H
4−COOHを合成した。
1H−NMR及びイオン交換クロマトグラフィーにより、PEG
(2K)末端にカルボン酸基を有する上記所望の基が導入されたことを確認した。次に、得られたDIG(6)−PEG
(2K)−NH−CO−C
2H
4−COOH200mgを純水に溶解し、pH=7となるよう1N NaOHにより調整した後、H
2N−C
2H
4−S−S−C
2H
4−NH
2・2HCl 138mgとEDC117mgを加え、室温で一晩反応させることでDIG(6)−PEG
(2K)−NH−CO−C
2H
4−NH−C
2H
4−S−S−C
2H
4−NH
2・HCl(以下PEG
(12K)-SS−NH
2と略す。)を合成した。
1H−NMR及びイオン交換クロマトグラフィーにより、PEG
(12K)末端にジスルフィド結合を含む所望の基が導入されたことを確認した。
【0197】
次に、上記DIG(6)−PEG
(2K)-SS−NH
2・HClからポリエチレングリコール−ジスルフィド−ポリ((5−アミノペンチル)−アスパラギン酸)ブロック共重合体(DIG(6)−PEG
(2K)−SS−P(Asp−AP))を合成した。具体的には、上記DIG(6)−PEG
(2K)-SS−NH
2・HClを0.01%アンモニア水溶液に対して透析することで脱塩した。DIG(6)−PEG
(2K)-SS−NH
2 30mgとNCA−BLA80当量とを、DMF0.4mL/DCM4mLの混合溶媒に溶解し、35℃で2日間反応させ、再沈殿により精製・回収した。次いでH
2N-C
5H
10-NH
250当量を加えて5℃で1時間反応させて、上記DIG(6)−PEG
(2K)-SS−NH
2のNH
2側末端に(5−アミノペンチル)−アスパラギン酸を重合させてDIG(6)−DIG(6)−PEG
(2K)−SS−P(Asp−AP)を作成した。
1H−NMRによる測定の結果、P(Asp−AP)ブロックの重合度は40であった。サイズ排除クロマトグラフィーにより、ほぼ単分散のDIG(6)−PEG
(2K)−SS−P(Asp−AP)であることが確認された。
【0198】
[試験例9]Asp−DBCO−PEG−PAspの製造
図13のスキームに従い、Asp−DBCO−PEG−PAspを製造した。反応は定量的に進行し、単分散なポリマーが得られた。
【0199】
[試験例10]GLUT1発現細胞へのミセル取り込み評価
(試薬)
<ブロックコポリマー>
(a)MeO−PEG
(48)−PAsp
(72)
(b)Glc(6)−PEG
(48)−PAsp
(72):PEG末端にグルコースリガンドを有する
(c)Asp−PEG
(48)−PAsp
(72):PEG末端にアスパラギン酸リガンドを有する
(d)Asp−DBCO−PEG
(48)−PAsp
(72):PEG末端にアスパラギン酸−DBCOリガンドを有する
(e)MeO−PEG−P(Asp−AP)
(72)
(f)MeO−PEG−P(Asp−AP)
(72)−Cy5
【0200】
<ミセル試料>
(A)Glc(25%)/m:表層に25%の割合でグルコースリガンドを含むミセル
(B)Glc(25%)+Asp(25%)/m:表層にそれぞれ25%の割合でグルコースリガンドとアスパラギン酸リガンドを含むミセル
(C)Glc(25%)+Asp−DBCO(25%)/m:表層にそれぞれ25%の割合でグルコースリガンドとアスパラギン酸−DBCOリガンドを含むミセル
【0201】
<ミセルの調製方法>
(1)すべてのポリマーをそれぞれ10mMリン酸緩衝液(pH−7.4)に溶解した。
(2)ミセルを蛍光標識化するため、(e):(f)=6:1(体積比)で混合し、ポリカチオン溶液を調製した。
(3)(2)のポリカチオン溶液と同モル数の荷電を有するポリアニオン溶液を混合しミセルを調製した。このとき用いるポリアニオン溶液はサンプルごとに異なり、(A)については(a)と(b)を、(B)については(b)と(c)を、(C)については(b)と(d)を、各リガンド結合ブロックコポリマー数がミセル表層のブロックコポリマー(PEG)の総量のうち25モル%の割合となるようにあらかじめ混合したうえで、ポリカチオン溶液と混合、室温で2分間攪拌した。
(4)(3)のミセル溶液中のカルボキシル基に対して、10当量の縮合剤(EDC)を加え、ミセルのコアを固定化した。
(5)(4)を限外ろ過により精製し、溶媒を150mMのNaClを含む10mMリン酸緩衝液(PBS)に置換した(最終濃度3mg/mL、蛍光強度の定量から算出したポリマー濃度)。
【0202】
<細胞取り込みアッセイ>
(1)GLUT1を多く発現する細胞株であるMDA−MB−231細胞を96wellプレートに3000cells/wellとなるよう播種し、37℃で24時間インキュベートした。
(2)上記のミセル溶液40μLをそれぞれ培地260μLと混合し、1wellにつき50μL(n=6)を加えて37℃で30分間インキュベートした。
(3)ミセル溶液と培地の混合液を除去し、D−PBS(−)により細胞外のミセルを洗い流した後、培地50μLを添加した。
(4)蛍光プレートリーダー(インフィニットM1000 PRO, TECAN)により細胞内に取り込まれたミセルの蛍光量を定量した。
【0203】
その結果、評価した3つのミセルは、いずれもMDA−MB−231細胞に取り込まれた(
図14)。表層にグルコースリガンドに加えてアスパラギン酸リガンド(B)又はアスパラギン酸−DBCOリガンド(C)を含むミセルも、MDA−MB−231細胞に取り込まれた。このことは、第1の非荷電性セグメントと、第2の非荷電性セグメントとが実質的に同じ長さであることにより、キャリアがその表面にGLUT1リガンドに加えて第2の分子(第2のリガンド)を含む場合であっても、GLUT1を介して、BBBを突破し得ることを示唆する。但し、表層にグルコースリガンドに加えてアスパラギン酸リガンド又はアスパラギン酸−DBCOリガンドを含むミセル(B及びC)は、表層にグルコースリガンドのみを含むミセル(A)と比較して、MDA−MB−231細胞への取り込みが低かった。このことは、キャリアがその表面にGLUT1リガンドに加えて第2の分子(第2のリガンド)を含む場合、第2の分子(第2のリガンド)の種類によっては、GLUT1リガンドのGLUT1との結合を阻害する可能性を示唆する。従って、第1の非荷電性セグメントの鎖長を、第2の非荷電性セグメントの鎖長より長くして、第2の分子(第2のリガンド)よりも、GLUT1リガンドをキャリアの外側に配置することにより、BBB通過の際に、第2の分子(第2のリガンド)によるGLUT1リガンド/GLUT1結合の阻害を防ぎ、効率的なBBB通過が期待できる。
【0204】
[試験例11]ミセルの脳実質への選択的送達能の評価
(試薬)
<ブロックコポリマー>
(a)MeO−PEG
(48)−PAsp
(72)
(b)Glc(6)−PEG
(48)−PAsp
(72):PEG末端にグルコースリガンドを有する
(c)Asp−PEG
(48)−PAsp
(72):PEG末端にアスパラギン酸リガンドを有する
(d)Asp−DBCO−PEG
(48)−PAsp
(72):PEG末端にアスパラギン酸−DBCOリガンドを有する
(e)MeO−PEG−P(Asp−AP)
(72)
(f)MeO−PEG−P(Asp−AP)
(72)−Cy5
【0205】
<ミセル試料>
(A)Glc(25%)/m:表層に25%の割合でグルコースリガンドを含むミセル
(B)Asp(25%)/m:表層に25%の割合でアスパラギン酸リガンドを含むミセル
(C)Asp−DBCO(25%)/m:表層に25%の割合でアスパラギン酸−DBCOリガンドを含むミセル
【0206】
<ミセルの調製方法>
(1)すべてのポリマーをそれぞれ10mMリン酸緩衝液(pH−7.4)に溶解した。
(2)ミセルを蛍光標識化するため、(e):(f)=6:1(体積比)で混合し、ポリカチオン溶液を調製した。
(3)(2)のポリカチオン溶液と同モル数の荷電を有するポリアニオン溶液を混合しミセルを調製した。このとき用いるポリアニオン溶液はサンプルごとに異なり、(A)については(a)と(b)を、(B)については(a)と(c)を、(C)については(a)と(d)を、各リガンド結合ブロックコポリマー数がミセル表層のブロックコポリマー(PEG)の総量のうち25モル%の割合となるようにあらかじめ混合したうえで、ポリカチオン溶液と混合、室温で2分間攪拌した。
(4)(3)のミセル溶液中のカルボキシル基に対して、10当量の縮合剤(EDC)を加え、ミセルのコアを固定化した。
(5)(4)を限外ろ過により精製し、溶媒を150mMのNaClを含む10mMリン酸緩衝液(PBS)に置換した(最終濃度1mg/mL、蛍光強度の定量から算出したポリマー濃度)。
【0207】
<脳切片の調製>
(1)生後4日目のマウスを低温麻酔し、脳を摘出した。
(2)(1)をアガロースゲルに包埋した後、半球ごとにトリミングした。
(3)VT1200(Leica社)を用いて厚さ400μmの脳切片を作成した。
(4)周りのアガロースゲルをはがした後、MilliCell(登録商標)に載せて10日間培養した。
【0208】
<脳切片中のミセルの分散の評価>
(1)先に調製したミセル溶液5μLをそれぞれ脳切片に接触させ、3時間37℃でインキュベートした。
(2)核染色のためのHoechstを(1)の切片に接触させた。
(3)MilliCell(R)の膜ごと切片を切り出し、培養皿にグリースを用いて固定した。
(4)D−PBS(−)で培養皿を満たし、二光子in vivoリアルタイム共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。
【0209】
その結果、グルコースリガンド修飾ミセル(A)と比較して、Aspリガンド修飾ミセル(B)及びAsp−DBCOリガンド修飾ミセルは、有意に脳内の実質細胞に取り込まれた(
図15)。
【0210】
以上の結果から、アスパラギン酸リガンドは、脳内の実質細胞への取り込みを促進することが示唆された。グルコースリガンドのみで修飾したミセルは、脳実質内での細胞への取り込みが十分ではなく、間質に漂っている状態のものが多かった。これに対して、本試験において使用したアスパラギン酸リガンドは、全体として、脳実質細胞への取り込みを促進する効果を有することが明らかになった。本試験において使用したアスパラギン酸リガンドは、多様なサブタイプのグルタミン酸受容体に認識され、発現するグルタミン酸受容体のサブタイプの種類に関わらず、脳実質内の多様な細胞(例、神経系細胞(ニューロン、グリア細胞等)、血管内皮細胞)へのキャリアの取り込みを促進することが示唆された。
【0211】
また、試験例10及び11の結果から、本発明のキャリアが、血液脳関門通過能、及び脳内の所望の部位(例えば、脳血管内皮細胞、脳実質内の特定の組織又は細胞)への選択的送達能を併せ持つことが示唆された。