(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797717
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】タンパク質の結晶化方法および結晶化装置
(51)【国際特許分類】
C07K 1/30 20060101AFI20201130BHJP
C07K 1/36 20060101ALI20201130BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20201130BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20201130BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
C07K1/30
C07K1/36
B01D61/14 500
B01D61/00 500
C12M1/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-39143(P2017-39143)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-145110(P2018-145110A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507312426
【氏名又は名称】株式会社コンフォーカルサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】谷川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田仲 広明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸子
(72)【発明者】
【氏名】伊中 浩治
【審査官】
鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−045169(JP,A)
【文献】
国際公開第2002/026342(WO,A1)
【文献】
特開2004−026528(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0062783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12M 1/00− 3/10
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈澱剤を透過させるとともにタンパク質を透過させない分画分子量の半透膜によって一部が形成された透明な密閉容器内に上記タンパク質の溶液を充填し、次いで沈澱剤溶液における上記沈澱剤の濃度および/またはpHを変化させながら上記沈澱剤溶液を上記半透膜に連続的に供給しつつ循環させて、上記半透膜から上記密閉容器内に浸透する上記沈澱剤の濃度および/またはpHを変えることにより、上記半透膜から上記密閉容器内に浸透する上記沈澱剤によって上記タンパク質を結晶化させることを特徴とするタンパク質の結晶化方法。
【請求項2】
沈澱剤を透過させるとともにタンパク質を透過させない分画分子量の半透膜によって一部が形成された透明な密閉容器内に上記タンパク質の溶液を充填し、次いで上記半透膜に上記沈澱剤の濃度および/またはpHを変化させた沈澱剤溶液を連続的に供給して、上記半透膜から上記密閉容器内に浸透する上記沈澱剤によって上記タンパク質を結晶化させる方法であって、
上記密閉容器の上記半透膜と対向する位置に配置された水蒸気を通過させるとともに液体を通過させない分画分子量のガス透過膜に、乾燥空気または吸湿性を有する液体を連続的に供給することによって、上記密閉容器内に上記沈澱剤の濃度および/またはpH、およびタンパク質濃度の勾配を形成させることを特徴とするタンパク質の結晶化方法。
【請求項3】
上記密閉容器内に充填する上記溶液は、上記タンパク質に加えて、当該タンパク質が結晶化しない濃度の上記沈澱剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のタンパク質の結晶化方法。
【請求項4】
タンパク質を含む溶液が充填される透明な密閉容器と、この密閉容器の一部を形成して沈澱剤を透過させるとともに上記タンパク質を透過させない半透膜と、この半透膜に上記沈澱剤を含む沈澱剤溶液を循環供給する沈澱剤の供給手段とを備え、
上記沈澱剤の供給手段は、上記沈澱剤溶液を貯留するリザーバと、このリザーバ内の上記沈澱剤溶液を上記半透膜に供給して再び上記リザーバに戻す循環ラインと、この循環ラインに介装されて上記沈澱剤溶液を連続的に上記半透膜に供給するポンプと、上記沈澱剤溶液の沈澱剤濃度を変化させる濃度調節手段とを有してなることを特徴とするタンパク質の結晶化装置。
【請求項5】
上記密閉容器は、一端部が閉塞されて他端部に開口部が形成された管状部材であり、上記半透膜は開口部に筒状の細管が一体化された袋状に形成され、シール部材を介して上記密閉容器内に挿入されるとともに、
上記シール部材は、中心部に上記密閉容器および上記細管の外径よりも小径の孔部が形成された円柱状の弾性部材と、この弾性部材の外径寸法よりも内径寸法が小さい円筒状の拘束管とを備え、上記弾性部材の上記孔部の一端部に上記密閉容器が嵌合されるとともに他端部に上記細管が嵌合され、圧縮された上記弾性部材が上記拘束管内に嵌合されてなることを特徴とする請求項4に記載のタンパク質の結晶化装置。
【請求項6】
上記密閉容器の上記半透膜と対向する位置に配置されて水蒸気を通過させるとともに液体を通過させない分画分子量のガス透過膜と、このガス透過膜に乾燥空気または吸湿性を有する液体を連続的に供給する第2の供給手段と、上記ガス透過膜を通じて上記密閉容器内から排出される水蒸気の排気手段とを備えることを特徴とする請求項4または5に記載のタンパク質の結晶化装置。
【請求項7】
上記密閉容器は、ガラスまたは石英からなることを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載のタンパク質の結晶化装置。
【請求項8】
上記弾性部材は、硬度が15度〜25度のシリコーンゴムであることを特徴とする請求項5に記載のタンパク質の結晶化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半透膜を間に介して濃度を変化させた沈澱剤溶液を連続的に供給することによりタンパク質を結晶化させるタンパク質の結晶化方法および結晶化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば製薬業界等においては、タンパク質結合化合物の探索のため、また基礎研究ではタンパク質の機能と構造との関係を解明するために、上記タンパク質を結晶化し、X線回析や中性子回析などの手法により解析されてきた。
【0003】
ところで、タンパク質を結晶化させるに際しては、一般的にタンパク質溶液に沈澱剤を添加させて溶液の溶解度を低下させ、タンパク質を析出させる方法が広く採用されている。しかしながら、タンパク質が結晶化する際の沈澱剤の濃度や反応時のpHは、タンパク質の種類によって異なる。
【0004】
このため、従来からタンパク質の正確な結晶化条件を知るために、例えば下記特許文献1に見られるように、予め沈澱剤の濃度および/またはpHを変化させた多数の試料を用意し、網羅的にスクリーニングを実施して上記結晶化条件を把握する方法が広く採用されており、下記特許文献2に見られるように、そのための試薬キットも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−281139号公報
【特許文献2】特開2006−083126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記スクリーニングによってタンパク質の結晶化条件を知る方法にあっては、多数の試料によって網羅的にスクリーニングを行うために、多大の手間と時間を要するという問題点があった。加えて、貴重なタンパク質も多量に用意する必要が有るために、経済性にも劣るという問題点もあった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、少量のタンパク質によって効率的に結晶化の条件を見出すことができて経済性にも優れるタンパク質の結晶化方法およびこれに用いられる結晶化装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明に係るタンパク質の結晶化方法は、沈澱剤を透過させるとともにタンパク質を透過させない分画分子量の半透膜によって一部が形成された透明な密閉容器内に上記タンパク質の溶液を充填し、次いで上記半透膜に上記沈澱剤の濃度および/またはpHを変化させた沈澱剤溶液を連続的に供給して、上記半透膜から上記密閉容器内に浸透する上記沈澱剤によって上記タンパク質を結晶化させることを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は
、上記密閉容器の上記半透膜と対向する位置に配置された水蒸気を通過させるとともに液体を通過させない分画分子量のガス透過膜に、乾燥空気または吸湿性を有する液体を連続的に供給することによって、上記密閉容器内に上記沈澱剤の濃度および/またはpH、およびタンパク質濃度の勾配を形成させること
も特徴とするものである。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記密閉容器内に充填する上記溶液は、上記タンパク質に加えて、当該タンパク質が結晶化しない濃度の上記沈澱剤を含むことを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、タンパク質を含む溶液が充填される透明な密閉容器と、この密閉容器の一部を形成して沈澱剤を透過させるとともに上記タンパク質を透過させない半透膜と、この半透膜に上記沈澱剤を含む沈澱剤溶液を循環供給する沈澱剤の供給手段とを備え、上記沈澱剤の供給手段は、上記沈澱剤溶液を貯留するリザーバと、このリザーバ内の上記沈澱剤溶液を上記半透膜に供給して再び上記リザーバに戻す循環ラインと、この循環ラインに介装されて上記沈澱剤溶液を連続的に上記半透膜に供給するポンプと、上記沈澱剤溶液の沈澱剤濃度を変化させる濃度調節手段とを有してなることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、上記密閉容器は、一端部が閉塞されて他端部に開口部が形成された管状部材であり、上記半透膜は開口部に筒状の細管が一体化された袋状に形成され、シール部材を介して上記密閉容器内に挿入されるとともに、上記シール部材は、中心部に上記密閉容器および上記細管の外径よりも小径の孔部が形成された円柱状の弾性部材と、この弾性部材の外径寸法よりも内径寸法が小さい円筒状の拘束管とを備え、上記弾性部材の上記孔部の一端部に上記密閉容器が嵌合されるとともに他端部に上記細管が嵌合され、圧縮された上記弾性部材が上記拘束管内に嵌合されてなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の発明において、上記密閉容器の上記半透膜と対向する位置に配置されて水蒸気を通過させるとともに液体を通過させない分画分子量のガス透過膜と、このガス透過膜に乾燥空気または吸湿性を有する液体を連続的に供給する第2の供給手段と、上記ガス透過膜を通じて上記密閉容器内から排出される水蒸気の排気手段とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項7に記載の発明は、請求項4〜6のいずれかに記載の発明において、上記密閉容器は、ガラスまたは石英からなることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、請求項
5に記載の発明において、上記弾性部材は、硬度が15度〜25度のシリコーンゴムであることを特徴とするものである。なお、上記硬度は、JIS K 6253に対応したデュロメータによって測定されるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1〜8のいずれかに記載の発明によれば、透明な密閉容器内に充填したタンパク質の溶液に対して、当該密閉容器の一部を形成する半透膜に、沈澱剤の濃度および/またはpHを変化させた沈澱剤溶液を連続的に供給することにより、上記半透膜から密閉容器内に浸透する沈澱剤の濃度および/またはpHを徐々に変えて上記タンパク質を結晶化させているために、タンパク質の濃度を変えることなく、当該タンパク質を結晶化させることができる。
【0017】
そして、上記密閉容器を透明にしているために、タンパク質の結晶化を外部から観察することにより、上記タンパク質の結晶化の事実と、結晶化した際の沈澱剤の濃度および/またはpHとから、当該タンパク質が結晶化する際の沈澱剤の濃度および/またはpH条件を把握することができ、よって少量のタンパク質によって効率的に結晶化の条件を見出すことができる。
【0018】
なお、このようにしてタンパク質の結晶化条件を見出してタンパク質結晶を結晶化させるに際して、得られたタンパク質結晶を中性子回析やX線回析によって解析する場合には、その結晶が大きいほど詳細に解析することができる。このため、上記タンパク質を1mm
3 以上の大型に結晶化させることが好ましい。
【0019】
ところが、一般にタンパク質が結晶化する際には、タンパク質溶液中の多数の箇所で生成した結晶核を中心に周囲のタンパク質が均等に分配されて結晶化されるために、1個当たりのタンパク質結晶を形成するタンパク質の量が少な
くなり、この結果、従来から大型のタンパク質結晶を生成させることが難しいという問題点があった。
【0020】
これに対して、請求項2または6に記載の発明によれば、上記密閉容器の半透膜と対向する位置に配置したガス透過膜に、乾燥空気または吸湿性を有する液体を連続的に供給して密閉容器から水蒸気を排出させることにより、上記ガス透過膜側よりも半透膜側において上記沈澱剤の濃度および/またはpHが高くなる勾配を形成させるとともに、上記半透膜側よりもガス透過膜側において上記タンパク質濃度が高くなる勾配を形成させることによって密閉容器内に幅広い結晶化条件を作り出し、上記結晶核を1箇所〜数箇所で生じさせて大きく成長させることにより、大型化したタンパク質結晶を生成させることが可能になる。
【0021】
ちなみに、請求項3に記載の発明のように、密閉容器内に充填する溶液に、タンパク質に加えて、予め当該タンパク質が結晶化しない濃度の沈澱剤を添加しておけば、タンパク質が結晶化するまでの操作時間の短縮化も図ることが可能になる。
【0022】
また、請求項4に記載のタンパク質の結晶化装置発明において、密閉容器の一部を半透膜によって形成する態様としては、請求項5に記載の発明のように、管状部材からなる密閉容器の開口部から袋状の半透膜を内部に挿入し、当該半透膜の開口部に一体化された細管と密閉容器との間を、拘束管によって弾性部材を圧縮したシール部材で封じる構成を採用することができる。
【0023】
また、半透膜を介して密閉容器内の沈殿剤の濃度を変化させる際は、半透膜の両側の溶液の濃度差が大きくなると浸透圧が発生し、密閉容器内が減圧または加圧され、密閉容器内に空気が入ったり、あるいは内部の溶液の漏洩を生じたりする虞がある。例えば、半透膜内外で50mMの濃度差がある場合、その浸透圧は約1.2気圧に相当する。
【0024】
この点、上述した請求項5に記載のシール部材によれば、弾性部材に密閉容器の開口端部および半透膜に一体化された細管を嵌合するとともに、上記弾性部材を拘束管によって圧縮しているために、当該弾性部材の反発力によって、弾性部材の孔部と密閉容器の開口端部および細管の外周との間、および弾性部材の外周と拘束管との間を密閉することにより、密閉容器内との間に発生する浸透圧差に耐えられる高い密閉強度を得ることができる。
【0025】
この際に、上記密閉容器としては、内部への水蒸気等の気体の透過を抑制するために、請求項7に記載の発明のように、ガラスまたは石英を用いることが好ましい。
【0026】
また、上記シール部材を構成する弾性体としては、請求項8に記載の発明のような硬度が15度〜25度のシリコーンゴムが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るタンパク質の結晶化装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】本発明に係るタンパク質の結晶化装置の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係るタンパク質の結晶化装置の第1の実施形態を示すもので、このタンパク質の結晶化装置は、タンパク質を含む溶液が充填される透明な密閉容器1と、この密閉容器1の内部に挿入された半透膜2と、この半透膜2に沈澱剤を含む沈澱剤溶液を循環供給する沈澱剤の供給手段3とから概略構成されたものである。
【0029】
密閉容器1は、一端部が閉塞されて他端部に開口部1aが形成されたガラスまたは石英からなる透明な管状部材であり、例えば内径寸法が0.4〜4mmで長さ寸法が10〜30mmに形成されている。そして、この密閉容器1内に半透膜2が挿入されるとともに、開口部1aがシール部材4によって気密的に封じされている。
【0030】
ここで、半透膜2は、分画分子量が2,000〜100,000Daの範囲であって、かつ上記沈澱剤を透過させるとともに上記タンパク質を透過させない素材からなる袋状のもので、例えば外径寸法が0.2〜0.4mmの細長い袋状に形成されている。
【0031】
ちなみに、上記半透膜2としては、キュプラアンモニュウムレーヨン(CR)や鹸化セルロース(SCA)等の再生セルロース膜(RC)、ヘモファン膜、PC膜、ビタミンEコーテング膜等の表面改質再生セルロース膜、 セルロースジアセテート(CDA)やセルローストリアセテート(CTA)等のセルロースアセテート(CA)、ポリアクリロニトリール(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVAL)、ポリスルホン(PS)、ポアミド(PA)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)等の合成高分子系膜を用いることができる。
【0032】
また、この半透膜2の開口部には、筒状の細管5が一体化されている。具体的には、半透膜2の開口部周辺が細管5内に挿入され、接着剤5aによって両者が一体化されている。なお、上記細管5としては、金属管、プラスチック管、ガラス管または石英管等を用いることができる。
【0033】
そして、この半透膜2は、その全長および細管5の一部が密閉容器1内に挿入されるとともに、密閉容器1から突出する細管5の外周および密閉容器1の開口端部の外周に、密閉容器1内を密に封じる上記シール部材4が設けられている。
【0034】
このシール部材4は、中心部に密閉容器1および細管5の外径よりも小径の孔部6aが形成された円柱状のシリコーンゴム(弾性部材)6と、このシリコーンゴム6の外径寸法よりも内径寸法が小さい円筒状の金属からなる拘束管7とから構成されている。
【0035】
この拘束管7は、内径寸法が4.5〜4.9mm、長さ寸法が8〜12mmに形成されている。そして、シリコーンゴム6は、硬度が15度〜25度であって、拘束管7の内径を1としたときに外径が1.1〜1.9の範囲、具体的には外径寸法が5〜6mmであって、長さ寸法が6〜10mmに形成されている。
【0036】
このシール部材4によって密閉容器1の開口部1aを封じるには、先ずシリコーンゴム6を圧縮して拘束管7内に嵌合した後に、シリコーンゴム6の孔部6aを押し広げて密閉容器1の開口端部を挿入して嵌合し、次いでシリコーンゴム6の他端部側から孔部6aを押し広げて、先端に半透膜2を有する細管5を貫通させ、半透膜2を密閉容器1内に配置するとともに、細管5をシリコーンゴム6内に3〜7mm押し込む。
【0037】
これにより、密閉容器1の開口部1aおよび細管5の外周がシリコーンゴム6によって密閉されるとともに、シリコーンゴム6の外周と拘束管7との間が密閉される。
【0038】
そして、細管5に、半透膜2内に沈澱剤溶液を循環供給する沈澱剤の供給手段3が接続されている。
この供給手段3は、沈澱剤溶液を貯留するリザーバ8と、このリザーバ8内の上記沈澱剤溶液をポンプ9によって半透膜2内に供給するチューブ10aおよびこの半透膜2内の上記沈澱剤溶液をリザーバ8内に戻すチューブ10bからなる循環ライン10と、リザーバ8の上部に設けられて濃度の異なる沈澱剤溶液をリザーバ8内に供給することにより上記沈澱剤溶液の沈澱剤濃度を変化させるポート(濃度調節手段)11とから構成されたものである。
【0039】
ここで、リザーバ8は、その容量が密閉容器1の容量に対して小さいと、タンパク質溶液中の沈澱剤濃度によってリザーバ8内の沈澱剤の濃度および/またはpHに影響を与えることになり、濃度が安定しなくなることから、密閉容器1の容積の100倍以上であることが好ましく、本実施形態においては、取り扱いの観点も考慮して1〜50mLの容量に設定されている。なお、図中符号12は、ポンプ9を駆動制御するための電源設備である。
【0040】
次に、以上の構成からなるタンパク質の結晶化装置を用いた本発明に係るタンパク質の結晶化方法の第1の実施形態について説明する。
予め密閉容器1内に所定濃度のタンパク質溶液を充填してシール部材4によって開口部1aを密閉するとともに、リザーバ8内に貯留した所定の濃度に調整した沈澱剤溶液を、ポンプ9によってチューブ10aから半透膜2内を介してチューブ10bからリザーバ8へと連続的に循環させる。
【0041】
ここで、沈澱剤としては、タンパク質を変性させることなく凝縮させることができる塩あるいは高分子であればよく、一般的には塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコールなどを用いることができる。
【0042】
上記沈澱剤溶液を連続的に循環供給すると、半透膜2は、上記沈澱剤は透過させるが、タンパク質は透過させない素材によって形成されているために、沈澱剤が半透膜2から密閉容器1内へと浸透する。そこで、ポート11から漸次濃度が高い沈澱剤溶液をリザーバ8内に供給しつつ、上述した半透膜2への循環供給を行うと、密閉容器1内の沈澱剤濃度が所定の濃度に達した際に、タンパク質が結晶化する。
【0043】
そして、透明な密閉容器1の外側から上記結晶化を観察するとともに、その際の沈澱剤の濃度および/またはpHを確認することにより、上記タンパク質の結晶化条件を把握することができる。
【0044】
以上のように、上記タンパク質の結晶化装置およびこれを用いた結晶化方法によれば、透明な密閉容器1内に充填したタンパク質の溶液に対して、シール部材4を介して密閉容器1に配置した半透膜2に、沈澱剤の濃度および/またはpHを変化させた沈澱剤溶液を連続的に供給することにより、半透膜2から密閉容器1内に浸透する沈澱剤の濃度および/またはpHを徐々に変えて上記タンパク質を結晶化させているために、タンパク質の濃度を変えることなく、当該タンパク質を結晶化させることができる。
【0045】
この際に、密閉容器1を透明にしているために、タンパク質の結晶化を外部から観察することにより、上記タンパク質の結晶化の事実と、結晶化した際の沈澱剤の濃度および/またはpHとから、当該タンパク質が結晶化する際の沈澱剤の濃度および/またはpH条件を把握することができ、よって少量のタンパク質によって効率的に結晶化の条件を見出すことができる。また、密閉容器1にガラス管または石英管を用いることにより、生成したタンパク質を分析容器に移し替えることなくX線回析もしくは中性子回析にそのまま供することが可能になる。
【0046】
加えて、シリコーンゴム6の孔部6aに密閉容器1の開口端部および半透膜2に一体化された細管5を嵌合するとともに、シリコーンゴム6を拘束管7によって圧縮しているために、シリコーンゴム6の反発力によって、シリコーンゴム6の孔部6aと密閉容器1の開口端部および細管5の外周との間、およびシリコーンゴム6の外周と拘束管7との間を密閉することにより、密閉容器1内との間に発生する浸透圧差に耐えられる高い密閉強度を得ることができる。
【0047】
なお、上記実施形態においては、密閉容器1内にタンパク質の溶液を充填した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、密閉容器1内に上記タンパク質に加えて当該タンパク質が結晶化しない濃度の上記沈澱剤を含む溶液を充填することもできる。
【0048】
このように、予め一定量の沈澱剤を加えておくことにより、タンパク質の濃度を変えることなく、タンパク質が結晶化するまでの操作時間の短縮化も図ることが可能になる。
【0049】
(第2の実施形態)
図2は、本発明に係るタンパク質の結晶化装置の第2の実施形態を示すもので、
図1に示した第1の実施形態と同一構成部分については、同一符号を付して、その説明を簡略化させる。
【0050】
この結晶化装置においては、密閉容器1の半透膜2と対向する他端部に開口部1bが形成されるとともに、この開口部1bに同様のシリコーンゴム6および拘束管7からなるシール部材4が設けられ、このシリコーンゴム6の孔部6aに挿通された細管5の先端に、密閉容器1内に延出するガス透過膜20が設けられている。
【0051】
このガス透過膜20は、水蒸気を通過させるとともに液体を通過させない分画分子量の素材によって形成された細長い袋状のもので、例えば外径寸法が0.2〜0.4mmに形成されている。
【0052】
ちなみに、上記ガス透過膜20としては、上述した半透膜2の表面に、例えばJIS K 7129:2008記載の赤外センサ法により測定した結果、25℃、90%相対湿度環境で厚さ25μmの試料を用いて水蒸気透過度が100g/m2・24h以上ある液状のRTV(室温硬化型)シリコーンゴム、PDMS(ポリジメチルシロキサン)シリコーンゴム、あるいはポリウレタンを塗布したものを用いることができる。
【0053】
あるいは、フィルム状のシリコーンゴム、ナイロン(登録商標)6、ポリスチレン、ポリウレタンなどの素材によって上記寸法の細長い袋状に形成したものを用いることもできる、
【0054】
そして、このガス透過膜20が設けられた細管5内に、ガス透過膜20内に乾燥空気または吸湿性を有する液体を連続的に供給する供給管21、フィルタ22およびポンプ23からなる第2の供給手段24と、ガス透過膜20を通じて密閉容器1内から排出される水蒸気を細管5内から排出する排気管(排気手段)25とが設けられている。
【0055】
次に、以上の構成からなるタンパク質の結晶化装置を用いた本発明に係るタンパク質の結晶化方法の第2の実施形態について説明する。
先ず、第1の実施形態と同様に、ポート11から漸次濃度が高い沈澱剤溶液をリザーバ8内に供給しつつ、半透膜2への循環供給を行う。
【0056】
これと併行して、密閉容器1の半透膜2と対向する他端部1bに配置したガス透過膜20に供給管21から乾燥空気または吸湿性を有する液体を連続的に供給して密閉容器1内から水蒸気を排出させる。
【0057】
これにより、密閉容器1内においては沈澱剤の濃度および/またはpHがガス透過膜20側よりも半透膜2側において高くなるとともに、タンパク質濃度が半透膜2側よりもガス透過膜20側において高くなる勾配が形成される。この結果、密閉容器1内の沈澱剤濃度が所定の濃度に達した際に、上記結晶核が1箇所〜数箇所で成長して大きなタンパク質の結晶が生成される。
【0058】
以上のように、上記タンパク質の結晶化装置およびこれを用いた結晶化方法によれば、第1の実施形態と同様に、透明な密閉容器1の外側から上記結晶化を観察するとともに、その際の沈澱剤の濃度および/またはpHを確認することにより、上記タンパク質の結晶化条件を概ね把握することができるとともに、さらに密閉容器1内に大型のタンパク質結晶を生成させることができる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
上述したシール部材の密閉強度を検証するために、以下の実験を行った。
先ず、外径6mm、長さ8mmのシリコーンゴムを、内径4.7mm長さ10mmの拘束管の中に押し込み、外径0.24mmで先端部に長さ1mmの半透膜に一体化された細管をシリコーンゴム内に貫通させ、細管とシリコーンゴムの間をシールし、さらに半透膜を内径0.4mm、外径1.2mmのガラス管(密閉容器に対応)内に挿し込み、このガラス管をシリコーンゴム内に5mm挿し込んでガラス管とシリコーンゴム間をシールした。
【0060】
そして、ガラス管のもう一方の端に圧力計とシリンジを取り付け、シリンジにより加圧したところ、本シール部材が250kPaの耐圧性を持つことを確認した。これは本シール部材が、約100mMまでの濃度差に耐えられることを示す。
【0061】
(実施例2)
次いで、本発明に係るタンパク質の結晶化方法の実効性を検証するために、以下の実験を行った。
内径1.6mm、長さ15mm、容積30μLのガラス管(密閉容器に対応)内に、31.29mg/mLリゾチーム、50mM酢酸ナトリウム水溶液(pH4.5)を充填し、外径0.24mm、長さ1mmの半透膜および細管を備えた半透膜プローブ(6,000Daカットオフ)を挿入し、シリコーンゴムでシールした後に、リザーバ内に5mLの50mM酢酸ナトリウム(pH4.5)、0.04%アジ化ナトリウム水溶液を充填し、60μL/minの流量でポンプを動作させた。
【0062】
次いで、これを1日放置した後に、リザーバ内に50mM酢酸ナトリウム、2,000mM塩化ナトリウム、0.04%アジ化ナトリウム水溶液を、シリンジポンプを用いて0.62μL/minの流量で徐々に添加し、結晶の有無を毎日観察した。その結果、リザーバ内の塩化ナトリウムの濃度を700mMまで上げたときに、ガラス管内に最大0.5mm角でX線回折に使用可能なリゾチーム結晶が確認された。
【0063】
(実施例3)
上述した第2の実施形態に係るタンパク質の結晶化方法の実効性を検証するために、以下の実験を行った。
内径1.6mm、長さ15mm、容積30μLのガラス管(密閉容器に対応)内に、50mMリゾチーム、50mM酢酸ナトリウム水溶液(pH4.5)、5%PEG4000水溶液を充填し、外径0.24mm、長さ1mmの半透膜および細管を備えた半透膜プローブ(6,000Daカットオフ)を挿入し、シリコーンゴムでシールするとともに、他端部側から上記半透膜の外側にRTVシリコーンを塗布したガス透過膜プローブを挿入し、シリコーンゴムでシールした。
【0064】
次いで、リザーバ内に5mLの50mM酢酸ナトリウム(pH4.5)、5%PEG4000水溶液を充填し、0.2μL/minの流量でポンプを動作させ、1日放置した後に、シリンジポンプを用いて、リザーバ内に50mM酢酸ナトリウム、2,000mM塩化ナトリウム、5%PEG4000水溶液を0.2μL/minの流量で徐々に添加するとともに、RTVシリコーンを塗布したガス透過膜プローブ内に0.5μL/minの流量で空気の送り込みを開始し、4日間放置して塩化ナトリウム濃度を0.4Mとし、次いで0.4μL/minの流量で3.75mL追加した。
【0065】
その結果、ガラス管内に結晶が合計3個発生し、最大1.8mm角のリゾチーム結晶が得られた。そこで、X線回析を行い、その分解能および配向性を測定したところ、良質な結晶であることを確認した。
【符号の説明】
【0066】
1 密閉容器
2 半透膜
3 沈澱剤の供給手段
4 シール部材
5 細管
6 シリコーンゴム(弾性部材)
7 拘束管
8 リザーバ
9 ポンプ
11 ポート(濃度調節手段)
20 ガス透過膜
24 第2の供給手段
25 排気管(排気手段)