【実施例】
【0036】
以下、本発明によるボンド磁石用フェライト粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0037】
[実施例1]
(フェライトの粗粉の製造)
ヘマタイト(α−Fe
2O
3)と炭酸ストロンチウム(SrCO
3)をモル比5.37:1.0になるように秤量して混合し、この混合物に対して0.5質量%のホウ酸と2.3質量%の塩化カリウムを加えて混合した後、水を加えて直径3〜10mmの球状に造粒して得られた造粒物を、内燃式のロータリーキルンに投入し、炉内の酸素濃度が3体積%になるように空気導入量を調整して、1330℃で20分間焼成して焼成物を得た。この焼成物をローラーミルで粗粉砕して、フェライトの粗粉を得た。
【0038】
このフェライトの粗粉の比表面積(SSA)を比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製のモノソーブ)を使用してBET一点法によって測定したところ、比表面積は0.23m
2/gであった。また、フェライトの粗粉の体積基準の粒度分布を乾式レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製(HELOS&RODOS))を使用して焦点距離20mm、分散圧5.0bar、吸引圧130mbarで測定したところ、レーザー回折式粒度分布測定装置を使用して焦点距離20mm、分散圧5bar、吸引圧130mbarで測定した体積基準の累積50%粒子径(D
50径)は12.9μmであった。さらに、フェライトの粗粉の形状指標として、短軸長(1粒子を平行な2本の直線で挟み込んだときの直線間距離の最小値)に対する長軸長(1粒子を平行な2本の直線で挟み込んだときの直線間距離の最大値)の比(長軸長/短軸長)の平均値を求めたところ、1.36であり、良好な形状を有する粒子であった。なお、短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値は、フェライトの粗粉4.5gとNCクリアラッカー5.7gを遠心ボールミル(FRITSCH社製のPULNERISETTE type702)により分散させた塗料をアプリケータバーによりシート上に塗布した後、塗布面に対して平行に配向磁場5kOeを印加した配向させて、(フェライトの粗粉の粒子のc軸方向が塗布面と平行になるため)塗布面の真上から粒子のc軸方向の粒径を測定することができるようにし、乾燥させたシートを走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のS−3400N)により観察し、5000倍のSEM写真中の200個以上の粒子について、長軸長と短軸長を計測して算出した。
【0039】
(フェライトの微粉の製造)
α−Fe
2O
3と炭酸ストロンチウムをモル比5.5:1.0になるように秤量して混合した後、水を加えて直径3〜10mmの球状に造粒して得られた造粒物を、内燃式のロータリーキルンに投入し、大気雰囲気中において1050℃で20分間焼成して焼成物を得た。この焼成物をローラーミルで粗粉砕した後、乾式の振動ボールミルで粉砕して、フェライトの微粉を得た。
【0040】
このフェライトの微粉の比表面積と累積50%粒子径(D
50径)を上記と同様の方法により測定したところ、比表面積は7.0m
2/gであり、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D
50径)が0.9μmであった。
【0041】
(ボンド磁石用フェライト粉末の製造)
得られたフェライトの粗粉100重量部とフェライトの微粉42重量部(粗粉:微粉=70:30)と水210重量部とを湿式のアトライターに投入し、粉砕および混合処理を行ってスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られた固形物を大気中において150℃で10時間乾燥させて、乾燥ケーキを得た。この乾燥ケーキをミキサーで解砕して得られた解砕物を、振動ボールミル(株式会社村上精機工作所製のUras Vibrator KEC−8−YH)により、媒体として直径12mmのスチール製ボールを使用して、回転数1800rpm、振幅8mmで14分間粉砕処理を行った。このようにして得られた粉砕物を電気炉により大気中において970℃で30分間焼鈍(アニール)して、ボンド磁石用フェライト粉末を得た。
【0042】
このボンド磁石用フェライト粉末について、長軸長が1.0μm以上の粒子の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を上記と同様の方法により算出したところ、1.33であった。また、ボンド磁石用フェライト粉末の体積基準の粒度分布を乾式レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製(HELOS&RODOS))を使用して焦点距離20mm、分散圧5.0bar、吸引圧130mbarで測定したところ、小粒径側のピークは1.07μm、大粒径側のピークは12.02μmにあり、小粒径側のピーク(微粉ピーク)の高さに対する大粒径側のピーク(粗粉ピーク)の高さの比(粗粉ピーク高さ/微粉ピーク高さ)は1.44であった。なお、この体積基準の粒度分布を頻度分布として表す際に滑らかな曲線を描くことができるように、粒度分布の隣り合う測定点の粒径の比が1.25以下になるようにした。また、ボンド磁石用フェライト粉末の比表面積を上記と同様の方法により測定したところ、1.58m
2/gであった。また、ボンド磁石用フェライト粉末10gを内径2.54cmφの円筒形の金型に充填した後に1トン/cm
2の圧力で圧縮したときのボンド磁石用フェライト粉末の密度をボンド磁石用フェライト粉末の圧縮密度(CD)として測定したところ、3.82g/cm
3であった。また、ボンド磁石用フェライト粉末の磁気特性として、VSM(東英工業株式会社製のVSM−P7)を使用して磁化の測定を行い、外部磁場10kOeにおける磁化を測定し、飽和磁化σsを求めたところ、56.1emu/gであった。
【0043】
(ボンド磁石の製造)
得られたボンド磁石用フェライト粉末93.75重量部と、シランカップリング剤(東レダウコーニング株式会社製のZ−6094N)0.8重量部と、滑剤(ヘンケル社製のVPN−212P)0.8重量部と、粉末状のポリアミド樹脂(宇部興産株式会社製のP−1011F)4.65重量部とを秤量し、ミキサーに充填して混合して得られた混合物を230℃で混練して、平均径2mmの混練ペレットを得た。なお、メルトフローインデクサー(株式会社東洋精機製作所製のメルトフローインデクサーC−5059D2)を使用して、上記の混合物が270℃、荷重10kgで押し出された重量を測定し、この重量を10分当たりで押し出された量に換算することにより、ボンド磁石用フェライト粉末を混合する際の流動度MFRを求めたところ、42g/10分であった。この混練ペレットを射出成形機(住友重機械工業株式会社製)に装填して、12.0KOeの磁場中において温度290℃、成形圧力8.5N/mm
2で射出形成して、直径15mm×高さ8mmの円柱形(磁場の配向方向は円柱の中心軸に沿った方向)のボンド磁石(F.C.93.75質量%、12.0KOe)を得た。
【0044】
このボンド磁石の磁気特性として、BHトレーサー(東英工業株式会社製のTRF−5BH)を使用して、測定磁場10kOeでボンド磁石の残留磁化Brを測定したところ、3413Gであった。
【0045】
[実施例2]
乾燥ケーキをミキサーで解砕して得られた解砕物を振動ボールミルで粉砕する時間を7分間にした以外は、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石用フェライト粉末を得た。
【0046】
このボンド磁石用フェライト粉末について、実施例1と同様の方法により、長軸長が1.0μm以上の粒子の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を算出したところ、1.35であった。また、実施例1と同様の方法により、体積基準の粒度分布を測定したところ、小粒径側のピークは1.01μm、大粒径側のピークは11.78μmにあり、微粉ピークの高さに対する粗粉ピークの高さの比(粗粉ピーク高さ/微粉ピーク高さ)は1.26であった。また、実施例1と同様の方法により、比表面積および圧縮密度を測定したところ、比表面積は1.73m
2/gであり、圧縮密度は3.80g/cm
3であった。また、実施例1と同様の方法により、飽和磁化σsを求めたところ、56.4emu/gであった。
【0047】
また、得られた磁石用フェライト粉末を用いて、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石を作製し、残留磁化Brを測定したところ、3407Gであった。なお、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石用フェライト粉末を混合する際の流動度MFRを求めたところ、45g/10分であった。
【0048】
[比較例1]
α−Fe
2O
3と炭酸ストロンチウムをモル比5.95:1.0にし、ホウ酸の添加量を0.2質量%にして、1280℃で焼成した以外は、実施例1と同様の方法により、フェライトの粗粉を得た。
【0049】
このフェライトの粗粉について、実施例1と同様の方法により、比表面積および体積基準の粒度分布を測定したところ、比表面積は0.83m
2/gであり、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D
50径)は3.8μmであった。また、実施例1と同様の方法により、フェライトの粗粉の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を求めたところ、1.50であった。
【0050】
得られたフェライトの粗粉を使用して、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石用フェライト粉末を得た。
【0051】
このボンド磁石用フェライト粉末について、実施例1と同様の方法により、長軸長が1.0μm以上の粒子の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を算出したところ、1.48であった。また、実施例1と同様の方法により、体積基準の粒度分布を測定したところ、小粒径側のピークはなく、大粒径側のピークは2.77μmであった。また、実施例1と同様の方法により、比表面積および圧縮密度を測定したところ、比表面積は2.39m
2/gであり、圧縮密度は3.57g/cm
3であった。また、実施例1と同様の方法により、飽和磁化σsを求めたところ、56.0emu/gであった。
【0052】
また、得られた磁石用フェライト粉末を用いて、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石を作製し、残留磁化Brを測定したところ、3318Gであった。なお、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石用フェライト粉末を混合する際の流動度MFRを求めたところ、16g/10分であった。
【0053】
[比較例2]
α−Fe
2O
3と炭酸ストロンチウムをモル比5.95:1.0にし、ホウ酸の添加量を0.2質量%にした以外は、実施例1と同様の方法により、フェライトの粗粉を得た。
【0054】
このフェライトの粗粉について、実施例1と同様の方法により、比表面積および体積基準の粒度分布を測定したところ、比表面積は0.54m
2/gであり、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D
50径)は4.2μmであった。また、フェライトの粗粉の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を求めたところ、1.41であった。
【0055】
得られたフェライトの粗粉を使用して、粗粉と微粉の質量比を75:25とした以外は、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石用フェライト粉末を得た。
【0056】
このボンド磁石用フェライト粉末について、実施例1と同様の方法により、長軸長が1.0μm以上の粒子の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を算出したところ、1.43であった。また、実施例1と同様の方法により、体積基準の粒度分布を測定したところ、小粒径側のピークは1.14μm、大粒径側のピークは3.37μmにあり、微粉ピークの高さに対する粗粉ピークの高さの比(粗粉ピーク高さ/微粉ピーク高さ)は1.57であった。また、実施例1と同様の方法により、比表面積および圧縮密度を測定したところ、比表面積は1.97m
2/gであり、圧縮密度は3.63g/cm
3であった。また、実施例1と同様の方法により、飽和磁化σsを求めたところ、55.8emu/gであった。
【0057】
また、得られた磁石用フェライト粉末を用いて、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石を作製し、残留磁化Brを測定したところ、3365Gであった。なお、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石用フェライト粉末を混合する際の流動度MFRを求めたところ、35g/10分であった。
【0058】
[比較例3]
ホウ酸の添加量を0.2質量%にした以外は、実施例1と同様の方法により、フェライトの粗粉を得た。
【0059】
このフェライトの粗粉について、実施例1と同様の方法により、比表面積および体積基準の粒度分布を測定したところ、比表面積は0.52m
2/gであり、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した焦点距離20mmで体積基準の累積50%粒子径(D
50径)は4.2μmであった。また、フェライトの粗粉の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を求めたところ、1.45であった。
【0060】
得られたフェライトの粗粉を使用して、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石用フェライト粉末を得た。
【0061】
このボンド磁石用フェライト粉末について、実施例1と同様の方法により、長軸長が1.0μm以上の粒子の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を算出したところ、1.45であった。また、実施例1と同様の方法により、体積基準の粒度分布を測定したところ、小粒径側のピークは1.08μm、大粒径側のピークは3.58μmにあり、微粉ピークの高さに対する粗粉ピークの高さの比(粗粉ピーク高さ/微粉ピーク高さ)は1.61であった。また、実施例1と同様の方法により、比表面積および圧縮密度を測定したところ、比表面積は2.05m
2/gであり、圧縮密度は3.62g/cm
3であった。また、実施例1と同様の方法により、飽和磁化σsを求めたところ、55.6emu/gであった。
【0062】
また、得られた磁石用フェライト粉末を用いて、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石を作製し、残留磁化Brを測定したところ、3302Gであった。なお、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石用フェライト粉末を混合する際の流動度MFRを求めたところ、12g/10分であった。
【0063】
[比較例4]
ホウ酸を添加せず、1350℃で焼成した以外は、実施例1と同様の方法により、フェライトの粗粉を得た。
【0064】
このフェライトの粗粉について、実施例1と同様の方法により、比表面積および体積基準の粒度分布を測定したところ、比表面積は0.98m
2/gであり、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D
50径)は3.5μmであった。また、フェライトの粗粉の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を求めたところ、2.12であった。
【0065】
得られたフェライトの粗粉を使用して、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石用フェライト粉末を得た。
【0066】
このボンド磁石用フェライト粉末について、実施例1と同様の方法により、長軸長が1.0μm以上の粒子の短軸長に対する長軸長の比(長軸長/短軸長)の平均値を算出したところ、2.06であった。また、実施例1と同様の方法により、体積基準の粒度分布を測定したところ、小粒径側のピークはなく、大粒径側のピークは3.02μmであった。また、実施例1と同様の方法により、比表面積および圧縮密度を測定したところ、比表面積は2.54m
2/gであり、圧縮密度は3.42g/cm
3であった。また、実施例1と同様の方法により、飽和磁化σsを求めたところ、55.8emu/gであった。
【0067】
また、得られた磁石用フェライト粉末を用いて、実施例1と同様の方法により、ボンド磁石の作製を試みたが、ボンド磁石用フェライト粉末が流動しなかったため、ボンド磁石を作製することができなかった。
【0068】
これらの実施例および比較例の結果を表1〜表3に示す。また、実施例および比較例で得られたボンド磁石用フェライト粉末のレーザー回折式粒度分布測定装置により得られた体積基準の粒度分布を
図1に示し、実施例1で得られたボンド磁石用フェライトの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】