(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水溶性重合体を濃度10質量%、pH10の水溶液に調製した際に、60℃条件下で1ヶ月経過後の当該水溶性重合体の加水分解率が5.0%以下である、請求項1に記載の研磨用濡れ剤。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された研磨用濡れ剤及び研磨液組成物を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0012】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い範囲において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組み合わせなければならないものではない。
【0013】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及びメタクリロイル基を意味する。
【0015】
<水溶性重合体>
本発明の研磨用濡れ剤は、主鎖部分が炭素−炭素結合のみからなる繰り返し単位により構成され、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が2.0以下である水溶性重合体を含む。ここで、「主鎖部分が炭素−炭素結合のみからなる」とは、ポリエーテル、ポリエステル及びポリアミド等のように主鎖自身に炭素−酸素結合、炭素−窒素結合等を含むものを除くという意味で用いられる。従って、例えばアクリル系単量体を重合した場合に導入されるアクリロイル基由来の炭素−水素結合やペンダント基等、構成単量体の重合性官能基が有する置換基に由来する結合種類については考慮しない。また、主鎖部分に炭素−炭素不飽和結合を有する水溶性重合体を含む研磨用濡れ剤は、本発明の範囲に含まれる。
【0016】
主鎖部分が炭素−炭素結合のみからなる繰り返し単位により構成される水溶性重合体は、例えば、ビニル系単量体を重合することにより得ることができる。
ビニル系単量体は特に限定されるものではないが、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸及びフマル酸等の不飽和酸並びにこれらの塩類;無水マレイン酸等の不飽和酸無水物;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩類等のスルホン酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミド;N−(メタ)アクリロイルモルホリン;メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、n−プロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、n−ブチル(メタ)アクリルアミド及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド化合物;メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、エチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(ジ)アルキルアミノアルキルアミド化合物;メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(ジ)アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート化合物;N−ビニルピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム等のN−ビニルラクタム化合物;スチレン、ビニルトルエン及びビニルキシレン等の芳香族ビニル化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル及びn−デシルビニルエーテル等の炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルビニルエーテル類;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピパリン酸ビニル及びバーサチック酸ビニル等のビニルエステル化合物;エチレン、プロピレン、ブチレン等のα―オレフィン類等が例示され、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
上記の内でも、ウェーハや研磨砥粒に対して適度な吸着性を有し、アルカリ条件下における耐加水分解性に優れる点から、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−アルキル(メタ)アクリルアミド化合物、(ジ)アルキルアミノアルキルアミド化合物、N−ビニルラクタム化合物等の分子内に窒素原子を有する単量体が好ましく、さらにはN−(メタ)アクリロイルモルホリンが特に好ましい。
【0017】
本発明の水溶性重合体は、上記の分子内に窒素原子を有する単量体に由来する構造単位を水溶性重合体の全構造単位に対して10mol%以上100mol%以下の範囲有することが好ましく、30mol%以上100mol%以下の範囲有することがより好ましく、50mol%以上100mol%以下の範囲有することがさらに好ましく、70mol%以上100mol%以下の範囲有することが一層好ましい。分子内に窒素原子を有する単量体に由来する構造単位が10mol%以上100mol%以下の範囲である場合、水に対する溶解性を悪化させることなく、前述したウェーハや研磨砥粒に対する吸着性を適度に付与できるため、好ましい。
【0018】
本発明では、主鎖部分が炭素−炭素結合のみからなる繰り返し単位により構成される水溶性重合体を用いるため、安定性に優れた研磨用濡れ剤を得ることができる。これに対し、主鎖部分に、炭素−酸素結合又は炭素−窒素結合を有する水溶性重合体は、アルカリ加水分解又は自動酸化等に起因する主鎖切断を生じる場合があり、研磨条件及び保存条件等によっては濡れ剤としての性能が安定的に発揮されない虞がある。
【0019】
また、研磨液組成物はアルカリ化合物が配合された条件で調製され、保管及び使用されるのが一般的である。このため、研磨用濡れ剤に含まれる水溶性重合体としては、耐アルカリ加水分解性の良好なものが好ましい。
上記アルカリ加水分解の評価は、例えば、水溶性重合体を濃度10質量%、pH10の水溶液に調製し、60℃条件下で1ヶ月静置し、水溶性重合体の加水分解により生成する、当該水溶性重合体を構成する単量体単位の側鎖に由来する化合物の量をGC(例えば、ガスクロマトグラフィー GC−2014、島津製作所製又は当該装置と同程度の精度や正確性を確保できるガスクロマトグラフィー装置)で測定した後、理論量に対する百分率を算出して得られる加水分解率により評価することができる。本発明では、水溶性重合体の上記加水分解率の好ましい範囲は5.0%以下であり、より好ましくは3.0%以下であり、さらに好ましくは1.0%以下である。
【0020】
本発明の水溶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、より好ましくは30,000〜800,000の範囲であり、さらに好ましくは50,000〜600,000の範囲である。重量平均分子量(Mw)が10,000以上であれば、ウェーハ等への濡れ性が良好となる点で好ましく、1,000,000以下であれば、研磨砥粒の分散性安定性の点で好ましい。
尚、本発明では、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリメタクリル酸メチル換算値として上記重量平均分子量(Mw)を得た。また、数平均分子量(Mn)も同様の方法により得られるものである。
【0021】
研磨液組成物における水溶性重合体の分子量の大小は、ウェーハ等の被研磨体への吸脱着速度に影響を与える。一般に、ウェーハ等に対する吸脱着速度は、低分子量体であるほど高いと考えられる。そのため、常に研磨液組成物が供給されている研磨工程においては、低分子量の水溶性重合体ほど素早くウェーハ等に吸着して研磨を阻害し、研磨レートの低下(生産性の低下)をもたらす。一方で研磨後の洗浄工程においては、ウェーハ等の表面から素早く脱着するために、ウェーハ等の表面の親水性が低下して濡れ性が低下する。この場合、最終的にパーティクル等がむき出しのウェーハ表面等に付着することで表面欠陥の悪化に繋がる虞がある。
一方、水溶性重合体の分子量が高すぎる場合は、研磨液組成物中に含まれるシリカ等の砥粒の分散性を悪化させ、砥粒の凝集を引き起こすことがある。この場合、凝集した砥粒によるスクラッチ傷や砥粒凝集物自体の付着などに起因するウェーハ上の表面欠陥数を増大させることがある。また、上記水溶性重合体の水溶液粘度が高くなるためそのろ過性が悪化し、研磨液組成物を製造する際の生産性が低下する虞がある。
【0022】
このため、水溶性重合体には用途等に応じて好適な分子量が存在し、目標とする分子量領域に対して大きく異なる低分子量体または高分子量体を含まないことが好ましい。すなわち、水溶性重合体の分子量分布は狭い方が好ましく、本発明においては、水溶性重合体の重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値により表される分散度(PDI)は2.0以下である。PDIは、1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。PDIの下限は通常1.0である。
PDIが2.0以下であれば、研磨工程における良好な吸着性および研磨後の被研磨体表面への濡れ性の確保、並びに、良好な砥粒分散安定性をバランス良く発揮することが可能となる。このため、ウェーハの研磨工程に用いた場合にはウェーハ全体をムラなく均一に研磨することが可能となる。また、著しく分子量の高い重合体を含まないために良好な砥粒分散性を示し、凝集した研磨砥粒によるスクラッチや表面荒れ、並びに、砥粒凝集体そのものがパーティクルとしてウェーハ表面に付着する表面汚染等が抑制される。その結果、ウェーハ表面の仕上げ研磨における、表面平滑性と無傷性のさらなる向上が期待される。
【0023】
<水溶性重合体の製造方法>
本発明における水溶性重合体の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合方法を採用することができるが、分子量分布を制御し易くPDIの小さな重合体が得られ易い点でリビングラジカル重合法やリビングアニオン重合法が好ましく、適用可能な単量体の範囲が広い点でリビングラジカル重合がより好ましい。
本発明に用いるリビングラジカル重合は、バッチプロセス、セミバッチプロセス、乾式連続重合プロセス、連続攪拌槽型プロセス(CSTR)等のいずれのプロセスを採用してもよい。また、重合形式は、溶剤を用いないバルク重合、溶剤系の溶液重合、水系の乳化重合、ミニエマルション重合又は懸濁重合等の各種態様に適用することができる。
リビングラジカル重合法の種類についても特段の制限はなく、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、可逆的付加−開裂連鎖移動重合法(RAFT法)、ニトロキシラジカル法(NMP法)、有機テルル化合物を用いる重合法(TERP法)、有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBRP法)、有機ビスマス化合物を用いる重合法(BIRP法)及びヨウ素移動重合法等の各種重合方法を採用することができる。これらの内でも、金属又は半金属化合物の混入によるウェーハ汚染の虞がない点から、RAFT法及びNMP法が好ましい。
【0024】
例えば、シリコンウェーハ等の表面研磨においてウェーハ表面が金属により汚染された場合には、該金属とシリコン又はシリコン酸化膜との化学反応により、ウェーハ上に隆起、陥没、ピット形成、樹枝状異物形成などの平坦性異常を生じる結果、トランジスタの配線パターンを阻害する虞がある。また、トランジスタのシリコン酸化膜(絶縁膜)の絶縁耐性を劣化させてトランジスタの電気的な破壊を誘発したり、シリコン酸化膜中の余分な電荷単体となってトランジスタの動作不良を起こす場合がある。
このため、研磨用濡れ剤に含まれる水溶性重合体への金属混入を防止することが好ましい。尚、本発明において上記水溶性重合体への混入を防止する金属とは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及びその他の金属等の金属のみならず、Te等の半金属も含まれるものとする。上記アルカリ金属としては、Na、K等が挙げられる。上記アルカリ土類金属としては、Ca等が挙げられる。上記遷移金属としては、Ni、Cu、Fe、Cr、Zn、Ti、W、Co等が挙げられる。上記その他の金属としては、Al等が挙げられる。本発明では、水溶性重合体に対する上記の各金属(半金属を含む)の含有量を100ppm以下とすることが好ましい。
【0025】
RAFT法では、特定の連鎖移動剤(RAFT剤)及び一般的なフリーラジカル重合開始剤の存在下、可逆的な連鎖移動反応を介して制御された重合が進行し、一般的にはポリマーの分子量は単量体とRAFT剤の仕込み比により調整することが可能である。
本発明では、ジチオエステル化合物、ザンテート化合物、ジチオカーバメート化合物及びトリチオカーボネート化合物等、公知の各種RAFT剤を使用することができる。
【0026】
RAFT剤の使用割合は、用いる単量体及びRAFT剤の種類等により適宜調整されるものであるが、水溶性重合体全体を構成する全単量体の合計質量に基づいて、0.01質量%以上5.0質量%以下の割合で使用することが好ましく、0.05質量%以上3.0質量%以下の割合がより好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下の割合がさらに好ましい。
【0027】
RAFT法による重合の際に用いる重合開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物及び過硫酸塩等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができるが、安全上取り扱い易く、ラジカル重合時の副反応が起こりにくい点からアゾ化合物が好ましい。
上記アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
上記ラジカル重合開始剤は1種類のみ使用しても又は2種以上を併用してもよい。
【0028】
ラジカル重合開始剤の使用割合は特に制限されないが、水溶性重合体全体を構成する全単量体の合計質量に基づいて、0.01質量%以上1.0質量%以下の割合で使用することが好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下の割合がより好ましく、0.01質量%以上0.1質量%以下の割合がさらに好ましい。
【0029】
RAFT法による重合反応の際の反応温度は、好ましくは40℃以上100℃以下であり、より好ましくは45℃以上90℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上80℃以下である。反応温度が40℃未満であると、反応速度が著しく遅くなる場合がある。一方、反応温度が100℃より高いと使用できる開始剤や溶剤が制限される他、ラジカル連鎖移動等の副反応が起きやすくなるため重合体のPDIが増大する虞がある。
【0030】
NMP法では、ニトロキシドを有する特定のアルコキシアミン化合物等をリビングラジカル重合開始剤として用い、これに由来するニトロキシドラジカルを介して重合が進行する。本発明では、用いるニトロキシドラジカルの種類に特に制限はない。
NMP法によれば、全く副反応が起こらないと仮定した場合には、上記リビングラジカル重合開始剤と用いるビニル系単量体とのモル比がそのまま得られる重合体の重合度となる。本発明では、リビングラジカル重合開始剤1モルに対して該ビニル系単量体60モル以上6,000モル以下程度を反応させることが好ましく、より好ましくは150モル以上5,000モル以下程度であり、特に好ましくは300モル以上4,000モル以下程度である。
【0031】
NMP法におけるリビングラジカル重合開始剤と、用いるビニル系単量体との反応温度は、好ましくは50℃以上140℃以下であり、より好ましくは60℃以上130℃以下であり、さらに好ましくは70℃以上120℃以下であり、特に好ましくは80℃以上120℃以下である。反応温度が50℃未満であると、反応速度が著しく遅くなる場合がある。一方、反応温度が140℃より高いとラジカル連鎖移動等の副反応が起きやすくなるため重合体のPDIが増大する虞がある。
【0032】
本発明では、水溶性重合体の重合は、重合方法によらず、必要に応じて連鎖移動剤の存在下で実施しても良い。
連鎖移動剤は公知のものを使用することができ、具体的には、エタンチオール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、1−ヘキサンチオール、2−ヘキサンチオール、2−メチルヘプタン−2−チオール、2−ブチルブタン−1−チオール、1,1−ジメチル−1−ペンタンチオール、1−オクタンチオール、2−オクタンチオール、1−デカンチオール、3−デカンチオール、1−ウンデカンチオール、1−ドデカンチオール、2−ドデカンチオール、1−トリデカンチオール、1−テトラデカンチオール、3−メチル−3−ウンデカンチオール、5−エチル−5−デカンチオール、tert−テトラデカンチオール、1−ヘキサデカンチオール、1−ヘプタデカンチオール及び1−オクタデカンチオール等の炭素数2〜20のアルキル基を有するアルキルチオール化合物の他、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトエタノール等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0033】
連鎖移動剤の中でも、ウェーハへの吸着性が良好となる点から炭素数2〜20のアルキル基を有するアルキルチオール化合物が好ましく、炭素数4〜20のアルキル基を有するものがより好ましく、炭素数6〜20のアルキル基を有するものがさらに好ましい。
連鎖移動剤を用いる際、その好ましい使用量は、全単量体の量に対して0.1〜10質量%であり、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。
【0034】
本発明では、リビングラジカル重合において公知の重合溶媒を用いることができる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン及びアニソール等の芳香族化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチル等のエステル化合物;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン化合物;ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アルコール、水等が挙げられる。また、重合溶媒を使用せず、塊状重合等の態様で行ってもよい。
【0035】
<研磨用濡れ剤>
本発明の研磨用濡れ剤は、前記水溶性重合体子及び水を含んでなる。水は、濡れ剤としての効果を損なわないよう、純度の高いものを用いることが好ましい。具体的には、イオン交換樹脂により不純物イオンを除去した後、濾過により異物を除去した純水若しくは超純水、又は、蒸留水を使用することが好ましい。濡れ剤には、この他に、水との混和性が高いアルコール及びケトン類等の有機溶剤等を含んでいてもよい。
研磨用濡れ剤中の水溶性重合体の割合は、水溶液として扱いやすい粘度であれば特に限定されないが、1質量%以上50質量%以下の範囲が好ましく、3質量%以上40質量%以下の範囲がより好ましく、5質量%以上30質量%以下の範囲がさらに好ましい。
【0036】
本発明における水溶性重合体は十分に小さいPDIを有するため、シリカ等の砥粒やウェーハ等の被研磨体表面に対する吸着力や吸着速度の均一性が高いものである。従って、本発明の水溶性重合体を含む研磨液組成物では、被研磨体表面をムラなく均一に研磨することが可能となる。また、著しく分子量の高い成分を含まないことから砥粒分散性にも優れ、砥粒凝集体に起因する被研磨体表面の傷や表面汚染等が抑制される。
【0037】
<研磨液組成物>
本発明の研磨液組成物は、上記研磨用濡れ剤、水、砥粒及びアルカリ化合物を含んでなるものである。本発明の研磨液組成物は、特に限定するものではないが、シリコンウェーハの研磨用、特に仕上げ研磨用として用いることができる。研磨液組成物中の研磨用濡れ剤の割合は、特に限定されるものではないが、研磨液組成物がCMPにおける扱い上、又ウェーハ表面に吸着するにあたり適度な粘度とすることが好ましい。研磨液組成物の具体的な粘度は、0.1mPa・s以上10mPa・s以下の範囲であることが好ましく、0.3mPa・s以上8mPa・s以下の範囲であることがより好ましく、0.5mPa・s以上5mPa・s以下の範囲であることがさらに好ましい。
また、上記水溶性重合体は、研磨液組成物全体の0.001質量%以上10質量%以下の範囲となるよう用いることが好ましく、0.005質量%以上5質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0038】
砥粒としてはコロイダルシリカ等を用いることができる。砥粒にコロイダルシリカを用いる場合、研磨液組成物におけるその含有量は、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。コロイダルシリカの使用量が0.1質量%以上であればメカニカル研磨の研磨速度が良好なものとなる。また、50質量%以下であれば、砥粒の分散性が保持され、ウェーハ表面の平滑性が良好なものとすることができる。
【0039】
コリダルシリカの平均粒子径は、必要とする研磨速度と研磨後のウェーハ表面の平滑性から適宜選択されるが、一般的には、2nm以上500nm以下の範囲であり、5nm以上300nm以下の範囲が好ましく、5nm以上200nm以下の範囲がより好ましい。
【0040】
アルカリ化合物としては、水溶性のアルカリ化合物であれば特に制限はなく、アルカリ金属水酸化物、アミン類又はアンモニア若しくは4級水酸化アンモニウム塩等を使用することができる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウム等が挙げられる。アミン類としては、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルペンタミン及びテトラエチルペンタミン等が挙げられる。4級水酸化アンモニウム塩としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム及び水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。これらの内では、半導体基板に対する汚染が少ないという点からアンモニア又は4級水酸化アンモニウム塩が好ましい。
本発明の研磨液組成物は、前記アルカリ化合物を添加することにより、そのpHが8〜13となるように調整されるのが好ましい。pHの範囲は8.5以上12以下に調整するのがより好ましい。
【0041】
研磨液組成物には、上記以外にも、必要に応じて有機溶剤、各種キレート剤、界面活性剤、有機酸化合物、無機酸化合物及び防腐剤等を更に含有することができる。
【0042】
(シリコンウェーハの研磨物の生産方法)
本明細書によれば、シリコンウェーハの研磨物の生産方法も提供される。本生産方法は、主鎖部分が炭素−炭素結合のみからなる繰り返し単位により構成され、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が2.0以下である水溶性重合体の存在下で、シリコンウェーハを研磨する工程、を備えることができる。水溶性重合体によりウェーハ表面を保護する形態としては、水溶性重合体と水とを含む半導体用濡れ剤として供給するほか、本開示の水溶性重合体、水、砥粒及びアルカリ化合物を含む研磨用組成物をウェーハに対して供給する形態が含まれる。本生産方法における、水溶性重合体、半導体用濡れ剤及び研磨液組成物については、既に説明した各種の実施態様をそのまま適用することができる。
【0043】
本生産方法の研磨工程は、ウェーハの研磨プロセスのいずれの研磨工程として行ってもよい。すなわち、粗研磨を主目的とし高い研磨レートが要求される研磨プロセス前半の研磨工程でもよいし、仕上げ研磨を主目的とし、ウェーハ表面の無傷性や平滑性が高いレベルで仕上げることが要求される研磨プロセス後半の研磨工程、いわゆる仕上げ研磨工程として実施してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。尚、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り質量部及び質量%を意味する。
製造例で得られた水溶性重合体の分析方法並びに、実施例及び比較例における半導体用濡れ剤又は研磨液組成物の評価方法について以下に記載する。
【0045】
<分子量測定>
各製造例で得られた重合体について、以下に記載の条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を得た。また、得られた値から分散度(PDI=Mw/Mn)を算出した。
○測定条件
カラム:東ソー製TSKgel SuperHM−M×3本
溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(10mM LiBr含有)
温度:40℃
検出器:RI
流速:300μL/min
【0046】
<含有金属分の定量>
各製造例で得られた水溶性重合体約100〜200mgをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製加圧容器に精密に秤量し、超高純度硫酸および超高純度硝酸を加えてマイクロウェーブ分解を行い、分解物を50mlに定容した。上記の溶液について、ICP質量分析器(Agilent7500cs、Agilent社製)を使用し、同時に実施したブランク試験値を減算し、水溶性重合体に対する各金属(半金属を含む)の含有量を決定した。
【0047】
≪重合制御剤(RAFT剤)の合成≫
製造例0
(1,4−ビス(n−ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼンの合成)
500mlナス型フラスコに1−ドデカンチオール(42.2g)、20%KOH水溶液(63.8g)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(1.5g)を加えて氷浴で冷却し、二硫化炭素(15.9g)、テトラヒドロフラン(以下「THF」ともいう)(38ml)を加え20分攪拌した。α、α−ジクロロ−p−キシレン(16.6g)のTHF溶液(170ml)を30分かけて滴下した。室温で1時間反応させた後、クロロホルムから抽出し、純水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製した後、酢酸エチルから再結晶することで式(1)で表される1,4−ビス(n−ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼン(以下「RAFT剤−A」ともいう)を収率80%で得た。1H−NMR測定より7.2ppm、4.6ppm、3.4ppmに目的物のピークを確認した。
【0048】
【化1】
【0049】
≪水溶性重合体の製造≫
製造例1(重合体Aの製造)
攪拌機、温度計、窒素導入管を備えた1Lフラスコに製造例0で合成したRAFT剤−A(5g)、2,2’−アゾビス2−メチルブチロニトリル(0.3g)、アクリロイルモルホリン(以下「ACMO」ともいう)(214g)およびアニソール(279g)を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、60℃の恒温槽で重合を開始した。4時間後、ドライアイス/メタノール浴で冷却し反応を停止した。この時点でのACMOの重合率をGC(ガスクロマトグラフィー)測定から決定したところ、約87%であった。上記重合溶液を、メタノールから再沈殿精製、真空乾燥することで重合体Aを得た。得られた重合体Aの分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定より、Mn25500、Mw30000であり、PDIは1.18であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0050】
製造例2(重合体Bの製造)
仕込み原料を表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Bを得た。重合体Bの分子量はGPC測定より、Mn65000、Mw80000であり、PDIは1.23であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0051】
製造例3(重合体Cの製造)
仕込み原料を表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Cを得た。重合体Cの分子量はGPC測定より、Mn292000、Mw351000であり、PDIは1.20であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0052】
製造例4(重合体Dの製造)
仕込み原料を表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Dを得た。重合体Dの分子量はGPC測定より、Mn412000、Mw500000であり、PDIは1.21であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0053】
製造例5(重合体Eの製造)
仕込み原料を表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Eを得た。重合体Eの分子量はGPC測定より、Mn621000、Mw796000であり、PDIは1.28であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0054】
製造例6(重合体Fの製造)
仕込み原料を表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Fを得た。重合体Fの分子量はGPC測定より、Mn240000、Mw346000であり、PDIは1.44であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0055】
製造例7(重合体Gの製造)
仕込み原料を表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Gを得た。重合体Gの分子量はGPC測定より、Mn205000、Mw351000であり、PDIは1.71であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0056】
製造例8(重合体Hの製造)
仕込み原料を表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Hを得た。重合体Hの分子量はGPC測定より、Mn191000、Mw368000であり、PDIは1.93であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0057】
製造例9(重合体Iの製造)
仕込み原料を表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Iを得た。重合体Iの分子量はGPC測定より、Mn13300、Mw19800であり、PDIは1.49であった。得られた重合体Iについて以下に示す2通りの条件により、鹸化処理を行った。
【0058】
(重合体Iの鹸化;重合体I−1の製造)
攪拌機、温度計、窒素導入管を備えた500mLフラスコに、重合体I(60g)及びメタノール(110g)を加えて、窒素をバブリングさせながら溶解した。この溶液の含水率は1.5%であった。この溶液を60℃に昇温した後、水酸化カリウム(1.15g)をメタノール(30g)に溶かしたアルカリ溶液を一括で加えて鹸化反応を開始した。2時間反応させた後の鹸化度を測定したところ、98mol%であった。溶剤を除去して、重合体Iの鹸化物(重合体I−1)を得た。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0059】
製造例10(重合体Iの鹸化;重合体I−2の製造)
攪拌機、温度計、窒素導入管を備えた500mLフラスコに、重合体I(60g)及びメタノール(110g)を加えて、窒素をバブリングさせながら溶解した。この溶液の含水率を4.5%に調整した以外は重合体I―1と同様の鹸化反応を行い、重合体I−2を得た。重合体I−2の鹸化度を測定したところ、85mol%であった。また、ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0060】
製造例11(重合体Jの製造)
仕込み原料を表2に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Jを得た。重合体Jの分子量はGPC測定より、Mn269000、Mw355000であり、PDIは1.32であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0061】
製造例12(重合体Kの製造)
仕込み原料を表2に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Kを得た。得られた重合体Kの分子量はGPC測定より、Mn270000、Mw345000であり、PDIは1.28であった。1H−NMR測定からアクリロイルモルホリンとN、N−ジメチルアクリルアミドの組成比を決定したところ、アクリロイルモルホリン/N、N−ジメチルアクリルアミド=51/49wt%であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0062】
製造例13(重合体Lの製造)
(重合体Lの製造) 攪拌機、温度計を装着した1Lフラスコに2−メチル−2−[N−tert−ブチル−N−(1−ジエチルホスフォノ−2,2−ジメチルプロピル)−N−オキシル]プロピオン酸(以下「SG1−MAA」ともいう)(0.2g)、アクリロイルモルホリン(75g)、アクリル酸(75g)およびアニソール(350g)を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、115℃の恒温槽で重合を開始した。5時間後、ドライアイス/メタノール浴で冷却し反応を停止した。この時点での各単量体の重合率をGC測定から決定したところ、アクリロイルモルホリンは約95%、アクリル酸は約88%であった。上記重合溶液を、メタノールから再沈殿精製、真空乾燥することで重合体Lを得た。得られた重合体Lの分子量はGPC測定(ポリスチレン換算)より、Mn245000、Mw347000であり、PDIは1.42であった。1H−NMR測定からアクリロイルモルホリンとアクリル酸の組成比を決定したところ、アクリロイルモルホリン/アクリル酸=52/48wt%であった。また、ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0063】
製造例14(重合体Mの製造)
攪拌機、温度計を装着した1Lフラスコの系内雰囲気を窒素で置換し、トルエン(143g)、1,2−ジメトキシエタン(2.9g)、およびジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを33mmol含有するトルエン溶液(42ml)を加え、−30℃に冷却した。これに、sec−ブチルリチウムを1mmol含有するシクロヘキサン溶液(0.7ml)を加え、20分間撹拌した。溶液を撹拌しながら、−30℃で、N、N−ジメチルアクリルアミド(318g)を約10時間かけて滴下した。溶液は当初、黄色に着色し、滴下終了から3分後に退色した。滴下終了より3分後にメタノールを50ml加えることにより、重合反応を停止させた。この時点でのN、N−ジメチルアクリルアミドの重合率をGC測定から決定したところ、99%以上であった。上記重合溶液を、メタノールから再沈殿精製、真空乾燥することで重合体Mを得た。得られた重合体Mの分子量はGPC測定より、Mn309000、Mw348000であり、PDIは1.13であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0064】
製造例15(重合体Nの製造)
仕込み原料を表2に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Nを得た。重合体Nの分子量はGPC測定より、Mn682000、Mw1190000であり、PDIは1.74であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0065】
製造例16(重合体Oの製造)
仕込み原料を表2に示す通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Oを得た。得られた重合体Oの分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定より、Mn4200、Mw5100であり、PDIは1.21であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0066】
比較製造例1(重合体Pの製造)
攪拌機、温度計を装着した1Lフラスコに2,2´−アゾビス2−メチルブチロニトリル(1.5g)、アクリロイルモルホリン(176g)およびアニソール(320g)を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、60℃の恒温槽で重合を開始した。3時間後、ドライアイス/メタノール浴で冷却し反応を停止した。この時点でのアクリロイルモルホリンの重合率をGC測定から決定したところ、約73%であった。上記重合溶液を、メタノールから再沈殿精製、真空乾燥することで重合体Pを得た。得られた重合体Pの分子量はGPC測定より、Mn282000、Mw786000であり、PDIは2.79であった。ICP質量分析器によって含有金属分を測定したところ何れの金属分も100ppm以下であった。
【0067】
製造例1〜16及び比較製造例1で得られた各重合体の内容及び物性値について表1及び表2に示す。
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
表1及び表2に示された化合物の詳細は以下の通り。
ACMO:アクリロイルモルホリン
DMAAm:N,N−ジメチルアクリルアミド
VAC:酢酸ビニル
AA:アクリル酸
NVP:N−ビニルピロリドン
RAFT剤−A:1,4−ビス(n−ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼン
SG1−MAA:2−メチル−2−[N−tert−ブチル−N−(1−ジエチルホスフォノ−2,2−ジメチルプロピル)−N−オキシル]プロピオン酸(Arkema社製ニトロキシド化合物)
sec−BuLi:sec−ブチルリチウム
DME:1,2−ジメトキシエタン
iBu2ALBHT:ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム
ABN−E:2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)
【0070】
実施例1
製造例1で得られた重合体Aを用いて、研磨用濡れ剤及び研磨液組成物としての以下の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0071】
<耐エッチング性(E.R.)>
ガラスカッターで3×6cmに切出したウェーハの質量を測定後、3%フッ酸水溶液に20秒間浸漬してウェーハ表面の酸化膜を除去し、その後純水で10秒間洗浄した。この工程をウェーハの表面が完全撥水になるまで繰り返した。次いで、アンモニア:水の質量比が1:19であるアンモニア水に、水溶性重合体の濃度が0.18%となるように研磨用濡れ剤を加えて、エッチング薬液を調製した。ウェーハをエッチング薬液に完全に浸漬させ、25℃、12時間静置してエッチングした。エッチング前後のウェーハ質量変化から、次式に従いエッチングレート(E.R.)を算出した。
【数1】
○:1.5nm/min未満
△:1.5nm/min以上2.0nm/min未満
×:2.0nm/min以上
【0072】
<濡れ性>
耐エッチング性と同様の方法にてウェーハ表面の酸化膜を除去後、0.18%の水溶性重合体溶液中に5分間浸漬した。浸漬後、ピンセットを用いて、ウェーハの表面が液面に対して垂直になるように引き上げ、10秒経過時点におけるウェーハ端部からの撥水距離を目視で確認し、以下の基準により判定した。
◎:撥水距離 3mm未満
○:撥水距離 3mm以上5mm未満
△:撥水距離 5mm以上7mm未満
▲:撥水距離 7mm以上10mm未満
×:撥水距離 10mm以上
【0073】
<耐アルカリ性>
水酸化ナトリウムをアルカリ剤に用いて、水溶性重合体を濃度10質量%、pH10の水溶液に調製した。得られた水溶液45gを50ccスクリュー瓶に採り、アルミブロックヒーター内で60℃、1ヶ月静置した。水溶性重合体の加水分解により生成する、当該水溶性重合体を構成する単量体単位の側鎖に由来する化合物の量をGC(ガスクロマトグラフィー GC−2014、島津製作所製)で測定した後、理論量に対する百分率を算出して加水分解率とした。算出された加水分解率の値に応じて、以下の基準により耐アルカリ性を判定した。
○:水溶性高分子の加水分解率が5%未満
△:水溶性高分子の加水分解率が5%以上10%未満
×:水溶性高分子の加水分解率が10%以上
【0074】
<シリカ分散性>
9ccのスクリュー瓶にコロイダルシリカ(1次粒子径:30〜50nm)5.0gに樹脂固形分20%の水溶性重合体水溶液を0.5g加えて、良く混合した。一晩静置後のシリカの粒子径(A)を動的光散乱法(ELSZ−1000、大塚電子製)により測定し、水溶性重合体を加えていないコロイダルシリカの粒子径(B)からの変化率を下式に従って算出し、以下の基準より判定した。
変化率(%)={(A−B)/B}×100
○:変化率が5%未満
△:変化率が5%以上10%未満
▲:変化率が10%以上20%未満
×:変化率が20%以上
【0075】
<水溶液ろ過性>
1.5%ポリマー水溶液0.5kgを吸引ろ過(500hPa)し、全量ろ過するまでに要した時間を測定し、以下の基準より判定した。
◎:3min未満
○:3min以上5min未満
△:5min以上10min未満
▲:10min以上20min未満
×:20min以上
【0076】
実施例2〜16及び比較例1〜3
研磨用濡れ剤を表3に記載の通り変更した以外は実施例1と同様の操作により各種評価を行った。得られた結果を表3に示す。
なお、比較例2では水溶性重合体としてポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドトリブロック共重合体(以下「PEO−PPO−PEO」ともいう)を使用した。また、比較例3ではヒドロキシエチルセルロース(以下「HEC」ともいう)を使用した。
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示された水溶性重合体の詳細は以下の通り。
PEO−PPO−PEO:ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドトリブロック共重合体(シグマアルドリッチ社製、Pluronic F127)
HEC:ヒドロキシエチルセルロース(和光純薬工業社製、重量平均分子量250,000)
【0079】
実施例1〜16は、本発明で規定する研磨用濡れ剤を用いた実験例である。水溶性重合体の分散度が十分に小さく、研磨性能に悪影響を及ぼす高分子量成分及び低分子量成分の含有量が少ないため、吸着力の指標となる耐エッチング性、濡れ性及びシリカ分散性の全てにおいてバランスよく良好な性能を示している。中でも、分子内にN−アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を含む水溶性重合体を用いた実施例1〜8、12、13、15及び16は、特に優れた吸着力を有するものであることが示された。
これに対し、水溶性重合体のPDI値が高い比較例1では、シリカ分散性が悪化する結果が認められた。比較例2は、主鎖部分に炭素−酸素結合を有する水溶性重合体を用いた例であり、重合体の安定性の点で懸念されるものである。加えて、この場合、被研磨体への吸着力の点でも不十分である結果が得られた。