特許第6797797号(P6797797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6797797セラミックス金属回路基板およびそれを用いた半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797797
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】セラミックス金属回路基板およびそれを用いた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/13 20060101AFI20201130BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20201130BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20201130BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   H01L23/12 C
   H01L23/36 C
   H05K1/03 610E
   H05K1/09 C
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-527123(P2017-527123)
(86)(22)【出願日】2016年6月1日
(86)【国際出願番号】JP2016066280
(87)【国際公開番号】WO2017006661
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2019年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-138036(P2015-138036)
(32)【優先日】2015年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】那波 隆之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛正
(72)【発明者】
【氏名】北森 昇
【審査官】 小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−110205(JP,A)
【文献】 特開2014−187180(JP,A)
【文献】 特開2005−220412(JP,A)
【文献】 特開2003−031720(JP,A)
【文献】 特開2009−170930(JP,A)
【文献】 特開2005−035874(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/094213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/13
H01L 23/36
H05K 1/03
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、このセラミックス基板の第1の面及び第2の面にそれぞれ接合層を介して接合された第1の金属板及び第2の金属板とを備えるセラミックス金属回路基板において、
前記第1の金属板の、前記セラミックス基板との接合面の反対側の面に金属被膜が設けられ、
前記第2の金属板の、前記セラミックス基板との接合面の反対側の面一部には半導体素子又は金属端子を実装するために金属被膜が設けられていない箇所が存在し、
前記第1の金属板及び前記第2の金属板は、それぞれ、銅と、銅合金と、アルミニウムと、アルミニウム合金とから選ばれた1種類からなり、
前記第1の金属板及び/又は前記第2の金属板の、前記金属被膜が設けられた面の最大高さRzは、1.5μm以下であり、
前記金属被膜の平均膜厚は、10μm以下である、
ことを特徴とするセラミックス金属回路基板。
【請求項2】
前記接合層には前記第1の金属板及び前記第2の金属板の側面からはみ出たはみ出し部が形成されていることを特徴とする請求項1記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項3】
前記第1の金属板及び前記第2の金属板の側面および前記はみ出し部を覆うように金属被膜が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項4】
前記接合層はAg、Cu、Alから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項5】
前記金属被膜がニッケル、金、またはこれらを主成分とする合金から選択される選ばれる1種であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項であることを特徴とするセラミックス金属回路基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板が、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、酸化アルミニウム基板から選択される1種であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項7】
前記第2の金属板の表面の前記金属被膜が設けられていない箇所に前記金属端子を接合したことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項8】
前記第1の金属板が再結晶組織を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項9】
前記第1の金属板及び前記第2の金属板の平均結晶粒径は、200μm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の前記セラミックス金属回路基板に半導体素子を実装したことを特徴とする半導体装置。
【請求項11】
前記第2の金属板の表面の金属被膜が設けられていない箇所に半田層を介して前記半導体素子を実装したことを特徴とする請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記半田層は鉛フリー半田で構成されることを特徴とする請求項11に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、概ね、セラミックス金属回路基板およびそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス金属回路板は、セラミックス基板上に金属板を接合して形成される。セラミックス基板としては、酸化アルミニウム基板、窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板などが用いられている。また、金属板としては銅板やアルミニウム板が用いられている。
【0003】
セラミックス基板と金属板との接合は、Ti、Zr、Hf、Siなどの活性金属を含有するろう材を用いた接合方法が広く用いられている。Ti、Zr、Hfから選択される少なくとも1種の活性金属を用いたろう材は、AgおよびCuを主成分としているろう材が例示される。また、Siを活性金属として用いたろう材例としては、Alを主成分としたろう材が例示できる。
【0004】
このようなセラミックス金属回路基板は、金属板上に半導体素子を実装して半導体装置として用いられている。従来のセラミックス金属回路板として、国際公開第98/54761号パンフレット(特許文献1)が例示される。特許文献1のセラミックス金属回路基板は金属板を覆うようにNiメッキが設けられている。このような構造とすることにより熱膨張率を調整して耐熱サイクル特性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第98/54761号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属板上への半導体素子の実装には半田が使用される。近年は、鉛の毒性に鑑みて、鉛フリー半田を使用することが主流である。日本工業規格(JIS−Z−3282)に示されているように、鉛フリー半田は、SnAg系、SnCu系、SnZn系などが使用されている。鉛フリー半田は、Niメッキ層との濡れ性は良好であるものの、それ以上の改善は見られなかった。そのため、半導体素子との接合の信頼性を、さらに向上させることには限界があった。
【0007】
一方、半導体素子を搭載する面と反対側の面に接合された金属板(裏金属板)は、ヒートシンクや放熱フィンなどの放熱部材と接合される。放熱部材は銅やアルミニウムなどの金属(合金含む)が構成材として主に使用されている。裏金属板と放熱部材と接合にはグリースが用いられる。
【0008】
しかしながら、金属板の表面にNiメッキを施さずにグリースを塗布すると、裏金属板とグリースとの密着性が悪化するという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためのものであり、表金属板と裏金属板とにおいて、接続させる部品等が異なった場合においても、それぞれ接合性を改善したセラミックス金属回路基板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態に係るセラミックス金属回路基板は、セラミックス基板と、このセラミックス基板の両面にそれぞれ接合層を介して接合された金属板とを備えるセラミックス金属回路基板において、上記セラミックス基板の一方の面に設けられた金属板の表面に金属被膜が設けられる一方、他方の面に設けられた金属板の表面には金属被膜が設けられていない箇所があることを特徴とするものである。また接合層が金属板の側面からはみ出たはみ出し部が形成されていることが好ましい。また、金属板の側面およびはみ出し部を覆うように金属被膜が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
実施形態に係るセラミックス金属回路基板は、一方の金属板の表面に金属被膜を設け、もう一方の金属板の表面に金属被膜を設けない箇所を作っている。そのため、接合する部品に応じて表金属板および裏金属板を使い分けることができる。
【0012】
また、裏金属板に金属被膜を設けることにより、グリースとの濡れ性を改善することができる。このため、グリース層を介して裏金属板と放熱部材とを一体化したときには、放熱性を向上させることができる。
【0013】
また、金属板の側面を金属被膜で覆うことにより、接合層が反応性ガスと反応することを防止することができる。また、接合層のはみ出し部を金属被膜で覆うことにより、さらに耐熱サイクル(TCT)特性を向上させることができる。
【0014】
このため、信頼性が高いセラミックス金属回路基板およびそれを用いた半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るセラミックス金属回路基板の一構成例を示す断面図である。
図2】実施形態に係るセラミックス金属回路基板の他の構成例を示す断面図である。
図3】実施形態に係るセラミックス金属回路基板の表金属板に金属端子を接合した構成例を示す断面図である。
図4】実施形態に係るセラミックス金属回路基板の表金属板を2つ配置した構成例を示す断面図である。
図5】実施形態に係る半導体装置の一構成例を示す断面図である。
図6】実施形態に係る半導体装置の他の一構成例を示す断面図である。
図7】実施形態に係る半導体装置のさらに他の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態に係るセラミックス金属回路基板は、セラミックス基板と、このセラミックス基板の両面にそれぞれ接合層を介して接合された金属板とを備えるセラミックス金属回路基板において、上記セラミックス基板の一方の面に設けられた金属板の表面に金属被膜が設けられる一方、他方の面に設けられた金属板の表面には金属被膜が設けられていない箇所があることを特徴とするものである。
【0017】
図1に実施形態に係るセラミックス金属回路基板の一構成例を示す。図中、符号1はセラミックス金属回路基板であり、2はセラミックス基板であり、3は金属板(表金属板)であり、4は金属板(裏金属板)であり、5は接合層(表側接合層)であり、6は接合層(裏側接合層)であり、7は金属被膜(裏面側金属被膜)である。また、接合層5,6が金属板3,4の側面からはみ出たはみ出し部5a,6aが形成されている。
【0018】
セラミックス基板2は、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、酸化アルミニウム基板のいずれか1種であることが好ましい。また、基板の厚さは0.10〜1.00mmの範囲であることが好ましい。基板厚さが0.10mm未満と薄いと強度や絶縁性が低下するおそれがある。一方、基板厚さが1.00mmを超えて厚いと熱抵抗が高くなり放熱性が低下する。
【0019】
窒化珪素基板は、窒化珪素(Si)を主成分とするものである。窒化珪素基板は熱伝導率が50W/m・K以上であり、3点曲げ強度が600MPa以上であることが好ましい。また、3点曲げ強度を高くすることにより、基板厚さを0.40mm以下、さらには0.30mm以下と薄型化が可能である。また、強度が高いため、薄型化したとしても耐熱サイクル特性(TCT特性)を向上させることができる。また、基板の薄型化によりセラミックス金属回路基板として熱抵抗を低減することができる。また、強度の高いセラミックス基板であれば、ねじ止め構造などセラミックス基板に直接応力が作用する実装構造も可能である。
【0020】
また、窒化アルミニウム基板は、窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする基板である。窒化アルミニウム基板は、熱伝導率が170W/m・K以上である高熱伝導性を有するものが好ましい。また、窒化アルミニウム基板は、一般的に熱伝導率は高いが、3点曲げ強度は550MPa以下と低い。また、平均的な3点曲げ強度は200〜400MPaである。そのため、基板厚さは0.50mm以上と厚い方が好ましい。
【0021】
また、酸化アルミニウム基板は、酸化アルミニウム(Al)を主成分とする基板である。酸化アルミニウム基板は、熱伝導率が10〜30W/m・Kであり、3点曲げ強度は300〜450MPaとなる。酸化アルミニウム基板は窒化珪素基板や窒化アルミニウム基板と比較して安価である。また、強度があまり高くないため、基板厚さは0.50mm以上が好ましい。
【0022】
金属板は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金から選ばれる1種から成るものが好ましい。銅、アルミニウムは熱伝導率および導電性が高い材料である。金属板の厚さは0.20mm以上が好ましい。金属板を厚くすることにより、放熱性を向上させることができる。なお、金属板の厚さの上限は特に限定されるものではないが、所定の回路パターン形状への加工のし易さを考慮すると、厚さが5.00mm以下であることが好ましい。
【0023】
また、セラミックス基板と金属板とは、接合層を介して接合される。接合層はAg(銀)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。接合層としては、活性金属ろう材を用いて形成することが好ましい。活性金属としては、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(珪素)から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0024】
また、活性金属としてTi、Zr、Hfを用いる場合、AgおよびCuを含有する活性金属ろう材とすることが好ましい。この場合、活性金属ろう材は、Agが40〜80質量%、Cuが15〜50質量%、活性金属が0.1〜6質量%から成るものが好ましい。また、必要に応じ、Sn(錫)およびIn(インジウム)から選択される少なくとも1種を5〜35質量%添加してもよい。
【0025】
また、活性金属としてSiを用いる場合には、Alを含有する活性金属ろう材が好ましい。この場合、活性金属ろう材は、Alを90〜99.9質量%と、Siを0.1〜10質量%とから成るろう材が好ましい。また、必要に応じ、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)から選択される少なくとも1種を0.01〜3質量%添加してもよい。
これら活性金属ろう材としては、Ag−Cu−Ti系が好ましい。Tiは窒化物セラミックスと反応してTiN(窒化チタン)相を形成する。これにより、セラミックス基板と金属板との強固な接合を得ることができる。
【0026】
このようなセラミックス金属回路基板において、セラミックス基板の一方の面に設けられた金属板の表面に金属被膜が設けられ、他方の面に設けられた金属板の表面には金属被膜が設けられていない箇所があることを特徴とするものである。
【0027】
図1に示すセラミックス金属回路基板においては、表金属板3の表面には金属被膜を設けていない。それに対し、裏金属板4の表面に金属被膜7を設けている。金属被膜7は、ニッケル(Ni)、金(Au)またはこれらを主成分とする合金が好ましい。Ni合金としては、Ni−P(リン)合金、Ni−B(ホウ素)合金が挙げられる。NiやAuは、グリースとの濡れ性が良好である。そのため、金属被膜7を、グリースを介して放熱部材と一体化したときに、グリース層において放熱性を低下させる気泡の形成を抑制できる。
【0028】
また、裏面側金属板に、金属板の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する金属被膜を設けることが好ましい。線膨張係数の小さい金属被膜を設けることにより、裏面側金属板をわずかに凸状にすることができる。線熱膨張係数を比較すると、銅(Cu)は16.8ppm/K、アルミニウム(Al)は23ppm/K、ニッケル(Ni)は12.8ppm/K、金(Au)は14.3ppm/Kとなる。
【0029】
例えば、裏面側銅板の表面にNi膜を設けると、Ni膜のない表面側銅板と比較してNiの線膨張係数が小さい分、裏面側銅板表面は凸状になり易くなる。このような構造になると、後述する図7に示すように、セラミックス基板に直接応力が作用する実装構造をとったときに、グリースが外側に均一に広がりながら実装させることができる。これにより、グリース層中における気泡の形成を抑制できる。この点からも、銅板またはアルミニウム板にNiまたはAuを主成分とする金属被膜を設けることが好ましい。これは、金属被膜とグリースとの濡れ性の良さ、金属板と金属被膜との線膨張係数の違いを利用した相乗効果である。
【0030】
また、NiやAuは耐食性が高いため、金属板が錆びることを防止できる。金属板の 錆びは酸化物が主体となる。これらの錆びは熱抵抗体となるため、発生させない方が好ましい。
【0031】
また、金属被膜の平均厚さは10μm以下であることが好ましい。金属被膜を過度に厚くしても、それ以上の効果が得られない。また、図4に示すように、複数の金属板を接合した場合、隣り合う金属板同士が導通するおそれがある。そのため、金属被膜の平均厚さは10μm以下、さらには5μm以下が好ましい。
【0032】
なお、金属被膜の膜厚の測定は、任意の3箇所の厚さを測定し、その平均値を平均膜厚とする。なお、後述するように金属板の側面に金属被膜を設けた場合、側面方向の厚さを求めるものとする。ここでの金属被膜形成方法は、メッキ法、スパッタ法など特に限定されるものではない。
【0033】
また、金属被膜が設けられた金属板が再結晶組織を有していることが好ましい。前述のように金属板の構成材には、銅(銅合金)またはアルミニウム(アルミニウム合金)が使用される。セラミックス基板と金属板との接合温度は600〜900℃と高温になる。銅の再結晶温度は約220℃であり、アルミニウムは約200℃である。このため、セラミックス基板と接合後の銅板やアルミニウム板は再結晶組織を有している。
【0034】
再結晶組織には、1次再結晶と2次再結晶がある。1次再結晶は、金属板を加熱したときに、ひずみのない新しい結晶ができて金属板が軟化する現象を示す。また、2次再結晶は、1次再結晶を経た後、さらに大きな結晶粒が発生する現象を示す。金属板が再結晶すると、金属板表面に結晶が析出する。結晶が析出すると結晶粒および粒界で凹凸が形成される。特に2次再結晶粒は大きな結晶粒となるため、粒界の凹凸も大きくなる。再結晶組織を有している金属板の表面に金属被膜を設けておけば、再結晶組織による凹凸を解消させることができる。
【0035】
前述のように接合温度が高い接合方法を用いた場合、銅板やアルミニウム板は2次再結晶まで起きる。2次再結晶粒は平均粒径が200〜1000μmになる。この程度の大きな結晶粒となると金属板表面の最大高さ粗さRzが2μm以上となり、さらには4μm以上となってしまう。金属板表面に金属被膜を設けることにより、最大高さ粗さRzを1.5μm以下、さらには0.8μm以下にすることができる。最大高さ粗さRzを小さくすることにより、放熱部材との密着性を向上させることができる。
【0036】
裏面側金属板4は、図5〜7に示すように放熱フィン14などの放熱部材に実装される。裏面側金属板4の表面に凹凸があると、放熱部材14との間に小さな隙間が形成されるため密着性が低下する。裏面金属板表面に金属被膜7を設けることにより、裏面側金属板4の表面を平坦面にすることができる。このため、放熱部材14との密着性を向上させることができる。また、密着性の向上は接触熱抵抗の低減にも繋がる。
【0037】
なお、金属板3,4の平均結晶粒径の測定方法は、金属板表面を光学顕微鏡で撮影する。このとき20倍以上の倍率で測定する。長さ5mm相当を測定し、線インターセプト法で平均結晶粒径を求めるものとする。この作業を任意の3箇所(長さ5mm×3か所=15mm相当)の平均値を金属板の平均結晶粒径とする。なお、金属板3,4が銅板(銅合金板含む)またアルミニウム板(アルミニウム合金板含む)であるとき、平均結晶粒径が200μm以上となった場合、2次再結晶していると判断してよいものとする。
【0038】
また、熱抵抗低減に繋がる密着性の向上は、半導体装置のパワーサイクル特性の向上にも繋がる。
【0039】
また、表金属板3の表面には金属被膜が設けられていない箇所が形成される。この金属被膜が設けられていない箇所は、後述するように半導体素子または金属端子を実装する箇所として使用される。つまり、半導体素子11または金属端子9を実装する箇所に金属被膜が設けられていなければよいため、実装に使用されない箇所は金属被膜が設けられていてもよいし、金属被膜が設けられてなくてもよい。
【0040】
また、表金属板3と裏金属板4とで金属被膜7を設けた箇所が異なるため、外観から表面と裏面を区別できるため、セラミックス金属回路基板の取扱い性が向上する。
【0041】
また、接合層5,6が金属板3,4の側面からはみ出たはみ出し部5a,6aが形成されていることが好ましい。接合層のはみ出し部5a,6aは金属板5,6の側面からはみ出た部分である。はみ出し部5a,6aが存在することにより、セラミックス基板2と金属板3,4との接合端部の応力を緩和することができる。このため、耐熱サイクル特性を向上させることができる。
【0042】
また、はみ出し部5a,6aの長さは0.005〜0.3mm(5〜300μm)の範囲内が好ましい。はみ出し部の長さが0.005mm(5μm)未満では、はみ出し部を設ける効果が十分得られない。また、0.3mm(300μm)を超えて大きいと、それ以上の効果が得られないだけでなく、隣り合う金属板との隙間を大きくするといった回路設計上の制約を受けてしまう。そのため、はみ出し部5a,6aの長さは0.005〜0.3mm、さらには0.01〜0.1mmの範囲であることが好ましい。また、はみ出し部5a,6aは金属板3,4の側面に、這い上がるように構成してもよい。
【0043】
また、金属板3,4の側面およびはみ出し部を覆うように金属被膜が設けられていることが好ましい。図2に金属板3,4の側面およびはみ出し部を覆うように金属被膜7,8を設けたセラミックス金属回路板の一例を示した。図中、符号1はセラミックス金属回路基板であり、2はセラミックス基板であり、3は金属板(表金属板)であり、4は金属板(裏金属板)であり、5は接合層(表側接合層)であり、6は接合層(裏側接合層)であり、7は金属被膜(裏面側金属被膜)であり、8は金属被膜(表側面側金属被膜)である。図2では、裏面側金属被膜7が裏金属板4の表面と側面および接合層6のはみ出し部6aを覆うように設けられている。また、表側面側金属被膜8が、表金属板3の側面および接合層5のはみ出し部5aを覆うように設けられている。
【0044】
このように接合層5,6のはみ出し部5a,6aを金属被膜7,8で覆うことにより、はみ出し部5a,6aが腐食されるのを防止することができる。実施形態に係るセラミックス金属回路基板は半導体素子を実装することにより半導体装置となる。半導体装置は、インバータなどのパワーモジュールに組み込まれる。インバータは、エレベータ、自動車、鉄道、ポンプ、工作機械、搬送装置などの機器のモータ制御装置や電源制御装置に使用されている。
【0045】
例えば、ハイブリット自動車では排ガスにSOなどの硫黄成分が含まれている。前述のように接合層にAg−Cu−Tiろう材を用いた場合、Ag(銀)とS(硫黄)が反応してAgSなどの反応物が形成されてしまう。つまり、排ガスに長期間接触していると、反応物(AgSなど)が接合層のはみ出し部に堆積していくようになってしまう。反応物が金属板のパターン間やセラミックス基板の沿面に堆積したり、剥離したりすると導通の原因となり絶縁不良を引き起こす。Ag−Cu−Tiろう材のように、Agを多く含んだものではこのような現象が生じ易い。
【0046】
実施形態に係るセラミックス金属回路基板は、接合層のはみ出し部を金属被膜で覆っているので、硫黄成分との反応を防止することができる。接合層のはみ出し部を設けたまま、反応を防止することができるので、耐熱サイクル特性を向上させたまま、腐食に強い構造にすることができる。特に、ハイブリット自動車では、10年以上の長期間に渡って使用され続けるので、接合層のはみ出し部を金属被膜で覆う構造が有効である。言い換えると、排気ガスを排出する車両や設備に用いる回路基板として好適なものである。
【0047】
また、接合層5,6のはみ出し部を金属被膜で覆うことにより、耐熱サイクル(TCT)特性を向上させることができる。半導体素子は高性能化が進んでいる。それに伴いジャンクション温度が上昇する。SiC素子ではジャンクション温度が150℃以上の高温になる。高温環境下に長時間暴露されると、接合層のはみ出し部が変形してしまう恐れがある。金属被膜ではみ出し部5a,6aを覆うことにより、はみ出し部5a,6aの変形を抑制することができる。特に、Ag、Cu、Alなどの軟質金属を含有する接合層では、はみ出し部が変形する恐れが高い。このはみ出し部5a,6aを金属被膜で覆うことにより、はみ出し部の変形を抑制することができる。そのため、TCT特性を向上させることができる。
【0048】
また、はみ出し部5a,6aの変形を防げるので、パターン間の導通不良を防ぐことも可能となる。
【0049】
また、金属板表面の金属被膜が設けられていない箇所に金属端子を接合してもよい。図3に金属端子9を接合したセラミックス金属回路基板の一構成例を示す。図中、符号1はセラミックス金属回路基板であり、2はセラミックス基板であり、3は金属板(表金属板)であり、4は金属板(裏金属板)であり、5は接合層(表側接合層)であり、6は接合層(裏側接合層)であり、7は金属被膜(裏面側金属被膜)であり、8は金属被膜(表側面側金属被膜)であり、9は金属端子である。
【0050】
金属端子9は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金から選ばれる1種から成ることが好ましい。また、表金属板3の表面に金属端子9が接続されている。金属端子9と表金属板3の接合は、半田付け法、超音波接合法、圧接接合法などが適用できる。
【0051】
また、表金属板は複数個接合した構造であってもよい。図4に、実施形態に係る複数個の表金属板を接合したセラミックス金属回路基板の一構成例を示す。図中、符号1はセラミックス金属回路基板であり、2はセラミックス基板であり、3−1は第一の金属板(表金属板)であり、3−2は第二の金属板(表金属板)であり、4は金属板(裏金属板)であり、5は接合層(表側接合層)であり、6は接合層(裏側接合層)であり、7は金属被膜(裏面側金属被膜)であり、8は金属被膜(表側面側金属被膜)である。図4は表金属板を2個(3−1,3−2)配置した構成例である。実施形態に係るセラミックス金属回路基板1の表金属板(3−1,3−2)の数は2個に限らず、必要な個数に増やしてよいものとする。
【0052】
また、複数個の表金属板を設けた構造であっても、それぞれ接合層のはみ出し部およびそれを覆うように金属被膜を設けた構造であることが好ましい。これにより、接合層のはみ出し部の腐食を防止することができるので、隣り合う金属板の間隔を0.3〜1.0mmと狭くした箇所を作ることができる。この構成は回路設計の自由度が上がることを示している。
【0053】
以上のようなセラミックス金属回路基板1は半導体素子を実装した半導体装置に有効である。また、金属板表面の金属被膜が設けられていない箇所に半田層を介して半導体素子を実装することが好ましい。また、前記半田層は鉛フリー半田で構成することが好ましい。
【0054】
図5に実施形態に係る半導体装置の一構成例を示す。 図中、符号1はセラミックス金属回路基板であり、2はセラミックス基板であり、3は金属板(表金属板)であり、4は金属板(裏金属板)であり、5は接合層(表側接合層)であり、6は接合層(裏側接合層)であり、7は金属被膜(裏面側金属被膜)であり、8は金属被膜(表側面側金属被膜)であり、10は半導体装置であり、11は半導体素子であり、12は半田層であり、14は放熱フィンである。
【0055】
図5では、表金属板3上に半田層12を介して半導体素子11を実装している。半田層12は表金属板3上の金属被膜が設けられていない箇所に設けられている。また、半田層12は鉛フリー半田で構成することが好ましい。
【0056】
また、図6には、半導体装置の他の構成例を示す。図中、符号1はセラミックス金属回路基板であり、2はセラミックス基板であり、3は金属板(表金属板)であり、4は金属板(裏金属板)であり、5は接合層(表側接合層)であり、6は接合層(裏側接合層)であり、7は金属被膜(裏面側金属被膜)であり、8は金属被膜(表側面側金属被膜)であり、9は金属端子であり、10は半導体装置であり、11は半導体素子であり、12は半田層であり、14は放熱フィンであり、15はねじである。
【0057】
図6は、2枚の金属板3にそれぞれ半田層12を介して半導体素子11を実装した半導体装置10を例示したものである。また、半導体素子11への導通に金属端子9を用いたものである。また、放熱フィン14をねじ15で固定した構造である。
【0058】
半導体素子11への導通は図6のように金属端子9を使う方法に限らず、ワイヤボンディングを用いても良い。
【0059】
また、図7に半導体装置のさらに別の構成例を示す。図中、符号1はセラミックス金属回路基板であり、2はセラミックス基板であり、3は金属板(表金属板)であり、4は金属板(裏金属板)であり、5は接合層(表側接合層)であり、6は接合層(裏側接合層)であり、7は金属被膜(裏面側金属被膜)であり、10は半導体装置であり、11は半導体素子であり、12は半田層であり、13はグリース層であり、14は放熱フィンであり、15はねじである。
【0060】
図7はセラミックス基板2を放熱フィン14にねじ止めする構造である。図7ではセラミックス基板2にねじ止め用の穴を設けた構造である。セラミックス基板2のねじ止め構造として、セラミックス基板を止め具で固定し、その止め具をねじ止めする方法もある。
【0061】
前記鉛フリー半田はJIS−Z−3282(2006)に例示されている。鉛フリー半田は、Sn(錫)を主成分としている。ここでいう主成分とは、半田成分の中で質量%にて最も多く含む成分のことを意味する。また、鉛フリー半田では添加物を調整して高温系、中高温系、中温系などの特性を使い分けている。 鉛フリー半田中にも、Agを5質量%以下含有しているが、硫黄成分と反応し難いSnを多く含んでいるので、反応物(AgS)の生成は生じない。なお、実施形態に係る半導体装置では、鉛フリー半田に限らず、様々な接合材を用いてもよいものとする。この様々な接合材には、鉛系半田も含まれるものとする。
【0062】
また、裏金属板4は、半田層12またはグリース層13を介して放熱フィン14が接合されている。図5では放熱フィン14を使った半導体装置を例示したが、放熱フィンに限らず、放熱板(ヒートシンク)、ケーシングなど様々な放熱部材を用いることができる。また、グリース層の代わりに、半田層、接着剤層を用いてもよい。また、必要に応じ、ねじ止め構造や圧接構造を用いるものとする。
【0063】
また、放熱部材の構成材としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、セラミックスなどが挙げられる。また、必要に応じ、半導体装置10を樹脂モールドするものとする。
【0064】
また図7において、グリース層13を介して放熱フィン14に実装する構造を採用したとき、裏金属板4表面に金属被膜7を設けることにより、グリース層13中における気泡の形成を抑制することができる。気泡を低減し、密着性を向上させることは熱抵抗の低減となり、放熱性がさらに向上する。この放熱性の向上は、さらに半導体装置のパワーサイクル特性を向上させることに繋がる。
【0065】
ここでパワーサイクル特性試験とは、半導体装置の温度が比較的安定した状態でスイッチング動作を繰り返して行う耐久性試験である。オンオフを繰り返しながら行う故障モードを再現する試験である。放熱性が不十分であると、半導体素子の熱が十分に逃げないため、接合不良が生じ易くなる。なお、半導体素子がパワー素子の場合は断線通電試験と呼ぶこともある。
【0066】
次に実施形態に係るセラミックス金属回路基板および半導体装置の製造方法について説明する。実施形態に係るセラミックス金属回路基板の製造方法は、特に限定されるものではないが効率よく製造するための方法として次の手順が挙げられる。
【0067】
まず、セラミックス基板を用意する。セラミックス基板としては、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、酸化アルミニウム基板のいずれか1種が好ましい。窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、酸化アルミニウム基板は、前述に示した基板であることが好ましい。また、基板の厚さは0.1〜1.0mmの範囲内であることが好ましい。また、基板の強度や熱伝導率に応じて基板厚さを選択するものとする。
【0068】
次に、金属板を用意する。金属板は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金から選択される1種であることが好ましい。金属板の厚さは0.2〜5.0mmの範囲であることが好ましい。
【0069】
次に、活性金属ろう材を用意する。活性金属はTi、Zr、Hf、Siから選択される1種であることが好ましい。
【0070】
金属板が銅板または銅合金板である場合は、Ti、Zr、Hfから選択される1種の活性金属と、AgおよびCuを含有する活性金属ろう材が好ましい。また、必要に応じ、SnおよびInの1種または2種を含有させるものとする。
【0071】
また、金属板がアルミニウム板またはアルミニウム合金板である場合は、SiとAlを含有する活性金属ろう材であることが好ましい。また、必要に応じ、Mg、Ca、Sr、Baから選択される1種または2種以上を含有させるものとする。
【0072】
一方、活性金属ろう材にバインダーを混合して活性金属ろう材ペーストを調製する。活性金属ろう材ペーストをセラミックス基板上に塗布し、その上に金属板を配置する。活性金属ろう材ペーストは、ベタ塗りであってもよいし、パターン形状に塗布してもよい。また、金属板のサイズも、ベタ板であってもよいし、予めパターン形状に加工したものを用いてもよい。また、ベタ板を接合した場合はエッチング加工によりパターン形状にするものとする。
【0073】
また、接合層のはみ出し部を形成する方法としては、活性金属ろう材ペーストの塗布領域を予めはみ出し部を考慮して広く塗布する方法が挙げられる。また、別の方法としては、接合後の金属板の端部をエッチング加工して、端部の接合層を残してはみ出し部を形成する方法が挙げられる。この工程により、セラミックス基板の両面に金属板を接合する。
【0074】
次に、金属被膜を設ける工程を行う。金属被膜は、NiまたはAuを主成分とすることが好ましい。また、金属被膜は平均厚さを10μm以下にする、さらには5μm以下にすることが好ましい。
【0075】
また、金属被膜を設けたくない箇所にはマスク材を設ける。マスク材はエッチングレジストまたは耐メッキレジストを用いることが好ましい。エッチングレジストを用いることにより、金属板の側面をエッチングする工程を行った後に、金属被膜を設ける工程を実施することもできる。また、裏面または表面のどちらか一方から金属被膜を設ける工程を実施することが好ましい。また、金属被膜を設けた後、薬液や研磨などにより金属被膜を除去する工程であってもよい。この工程により、金属被膜を設けたセラミックス金属回路基板を作製することができる。
【0076】
次に半導体素子を実装する工程を実施する。まず、表金属板の表面の金属被膜が設けられていない箇所に半田層を設ける。半田層上に半導体素子を載せて、熱処理することにより接合する。
【0077】
半田層は鉛フリー半田で構成することが好ましい。また、鉛フリー半田としてはJIS−Z−3282に示された半田であることが好ましい。JIS−Z−3282に示された鉛フリー半田は、Agの含有量が5.2質量%以下である。Ag含有量が10質量%以下と少ないので半田層表面にAgがむき出しになり難い。そのため、硫黄成分との反応物は形成され難い。
【0078】
また、セラミックス金属回路基板をモジュール化する際は、裏金属板被膜7を設けた裏金属板4にグリース層13を介して放熱部材に実装する。また、グリース層の代わりに、半田層、接着剤層を用いてもよい。また、必要に応じ、ねじ止め構造や圧接構造を用いてよいものとする。裏金属板4に裏金属被膜7を設けてあるので、グリース層、半田層、接着剤層との密着性がよい。
【0079】
また、モジュール構造の複雑化に伴い半導体素子の実装工程と、セラミックス回路基板を放熱部材に一体化する実装工程を別々に実施することがある。裏金属板に金属被膜を設けておくことにより、半導体素子実装工程中の熱処理にて、裏金属板表面が酸化されるのを抑制することができる。同様に、大型のセラミックス回路基板から多数個取りする際に、予め半導体素子を実装してから分割する方法もある。
【0080】
このように半導体素子を先に実装してから、放熱部材に実装する工程を実施するためのセラミックス回路基板に有効である。
【0081】
(実施例)
(実施例1〜10および比較例1〜2)
セラミックス金属回路基板の構成材として、表1に示す各試料を用意した。窒化珪素基板は、熱伝導率が90W/m・Kであり、3点曲げ強度が650MPaの基板を使用した。AlN(窒化アルミニウム)基板は、熱伝導率が180W/m・Kであり、3点曲げ強度が350MPaである基板を用いた。アルミナ(酸化アルミニウム)基板は、熱伝導率が20W/m・Kであり、3点曲げ強度が400MPaである基板を用いた。アルジル(ZrOを20wt%含有したAl)基板は、熱伝導率が25W/m・Kであり、3点曲げ強度が450MPaである基板を用いた。
【0082】
また、接合ろう材の「Ag−Cu−Ti」組成は、Ag68wt%と、Cu30wt%と、Ti2wt%とから成るものである。また、「Ag−Cu−Sn−Ti」組成は、Ag58wt%と、Cu25wt%と、Sn14wt%と、Ti3wt%とから成るものである。また、「Al−Si」組成は、Al99wt%と、Si1wt%とから成るものである。これら接合ろう材は、TiまたはSiを含有していることから活性金属接合ろう材である。
【0083】
それぞれの接合ろう材をバインダーと混合して、接合ろう材ペーストを調製した。セラミックス基板上に接合ろう材ペーストを厚さ40μmで塗布した。その上に金属板を配置する。セラミックス基板の両面について、この工程を行い、熱処理してセラミックス金属回路基板を調製した。熱処理温度は「Ag−Cu−Ti」ろう材または「Ag−Cu−Sn−Ti」ろう材は800〜900℃であり、「Al−Si」ろう材は600〜800℃の範囲内とした。なお、表金属板は金属板間の距離を1mmにして接合した。
【0084】
【表1】
【0085】
次に、各セラミックス金属回路基板(試料1〜6)にメッキ処理を実施し、所定の箇所に金属被膜を設けた。これにより、表2に示す実施例1〜10に係るセラミックス金属回路基板を調製した。比較例1は試料1のまま(金属被膜を全く設けないもの)とした。また、比較例2は、表裏の金属板の表面に金属被膜を設けたものを用意した。また、金属板の側面に金属被膜を設けたものは接合層のはみ出し部を覆うように設けたものである。
【0086】
また、金属被膜を設けた面の最大高さ粗さRzを求めた。Rzの測定はJIS−B−0601に準じて実施した。
【0087】
【表2】
【0088】
上記実施例および比較例に係る各セラミックス金属回路基板に半導体素子を実装した。半導体素子の実装は鉛フリー半田を用いて、2つの表金属板にそれぞれ実装した。なお、鉛フリー半田層の厚さは50 μmで統一した。半導体素子にワイヤボンディングを実施して通電回路を形成した。
次に、ケースジョイニング後、ポッティングゲルを充填してベースレスタイプのパワーモジュールを作製した。次に、裏金属板側にシリコーングリース層(厚さ100μm)を介してAl放熱板をねじ止めした。これによりインバータ(半導体装置)を作製した。
【0089】
このようなインバータを用いて熱抵抗、TCT特性を測定した。熱抵抗に関しては、半導体素子を発熱(駆動)させ、熱抵抗(K/W)を測定した。また、TCT試験は、温度−40℃×30分保持 →25℃×10分 →175℃×30分 →温度25℃×10分保持を1サイクルとして、1000サイクル後の熱抵抗を測定した。
【0090】
また、TCT試験後の表金属板間(パターン間)の不良発生率を測定した。不良発生率は、それぞれ100個ずつTCT試験を実施し、パターン間の導通不良が発生した割合を測定した。
【0091】
また、TCT試験後のはみ出し部の変形の有無は、上記TCT試験の前と後で上からSEM写真を撮影して変形の有無を確認した。その結果を下記表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
上記表3に示す結果から明らかなように、各実施例に係る半導体装置によれば、TCT試験後も熱抵抗の変化が小さい。これは、TCT特性が良好であるためである。また、パターン間の不良も発生しなかった。
【0094】
次に、各実施例および比較例に係るセラミックス金属回路板に対し、SOを含む雰囲気中に100時間放置した。その後、前述と同様のTCT試験を1000サイクル実施し、熱抵抗およびパターン間の不良率を測定した。それらの測定結果を下記表4に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
上記表4に示す結果から明らかなように、実施例2−10に係るセラミックス金属回路基板によれば、側面に金属被膜を設けたものでは、SO含有雰囲気による腐食が起きていないため、TCT特性およびパターン間の不良発生率がゼロであった。それに対し、側面に金属被膜を設けていない箇所が存在する実施例1、比較例1、比較例2はSOと接合層とが反応してAgSが形成されていた。このため、側面に金属被膜を設けたセラミックス金属回路基板は、SOによる腐食に対して、強い耐久性を有することが判明した。
【0097】
(実施例1A〜10Aおよび比較例1A〜2A)
セラミックス基板の長辺の長さを20mm長くした点以外は実施例1〜10および比較例1〜2のセラミックス金属回路基板を用いて、図7に示すように、ねじ止め構造を有する半導体装置をそれぞれ作製した。ねじ止め構造はセラミックス基板2にねじ穴を設けて、直接放熱板(放熱フィン14)にねじ15を挿通してねじ止めを行った。各半導体装置に対してパワーサイクル試験を実施した。パワーサイクル試験は、温度80〜150℃(ΔT=70℃)の条件で実施し、故障発生までのサイクル回数を測定した。そして故障発生までのサイクル回数が10万回以上を○で表示し、1万回以上10万回未満を△で表示し、1万回未満を×で表示した。その測定結果を下記表5に示す。
【表5】
上記表5に示す結果から明らかなように、各実施例1A−10Aに係る半導体装置は耐久性に優れていた。特にグリース層を介する接合構造が有効であることが確認された。
【0098】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 …セラミックス金属回路基板
2 …セラミックス基板
3 …金属板(表金属板)
3−1 …第一の金属板(表金属板)
3−2 …第二の金属板(表金属板)
4 …金属板(裏金属板)
5 …接合層(表側接合層)
5a…接合層のはみ出し部
6 …接合層(裏側接合層)
6a…接合層のはみ出し部
7 …金属被膜(裏面側金属被膜)
8 …金属被膜(表側面側金属被膜)
9 …金属端子
10 …半導体装置
11…半導体素子
12 …半田層
13 …グリース層
14 …放熱フィン(放熱部材)
15 …ねじ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7