特許第6797811号(P6797811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797811
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20201130BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20201130BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   H01L21/304 621D
   H01L21/304 622X
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550Z
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-543199(P2017-543199)
(86)(22)【出願日】2016年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2016077906
(87)【国際公開番号】WO2017057156
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-192422(P2015-192422)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 幸信
(72)【発明者】
【氏名】鎗田 哲
(72)【発明者】
【氏名】大西 正悟
【審査官】 宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−170935(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/004579(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/052988(WO,A1)
【文献】 特開2013−138053(JP,A)
【文献】 特開2011−211178(JP,A)
【文献】 特開2010−056127(JP,A)
【文献】 特開2004−363611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨用組成物を用いて、2種以上の材料を含む研磨対象物を研磨する研磨方法であって、
前記2種以上の材料は、金属と、ケイ素−酸素結合を有する材料、ケイ素−ケイ素結合を有する材料、またはケイ素−窒素結合を有する材料とを含み、
前記研磨方法は、前記研磨対象物における前記金属と、前記ケイ素−酸素結合を有する材料、前記ケイ素−ケイ素結合を有する材料、または前記ケイ素−窒素結合を有する材料との表面ゼータ電位を均一化することを含み、
前記均一化は、前記金属と、前記ケイ素−酸素結合を有する材料、前記ケイ素−ケイ素結合を有する材料、または前記ケイ素−窒素結合を有する材料とに吸着する吸着基、およびゼータ電位を付与する官能基を有する電位均一化剤(但し、下記一般式(I)で表されるトリルトリアゾール化合物を除く)を用いて行い、
前記電位均一化剤は、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン・ホルマリン縮合物を含む、研磨方法。
【化1】

(上記一般式(I)中、Rは各々独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を示す。)
【請求項2】
前記金属が、銅、またはタングステンであり、前記ケイ素−酸素結合を有する材料が、酸化ケイ素膜であり、前記ケイ素−ケイ素結合を有する材料が、ポリシリコンであり、前記ケイ素−窒素結合を有する材料が、窒化ケイ素である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記2種以上の材料は、前記金属と、前記ケイ素−酸素結合を有する材料とを含み、
前記金属が、銅、タングステン、またはアルミニウムであり、前記ケイ素−酸素結合を有する材料が、酸化ケイ素である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記均一化は、前記研磨用組成物に、前記電位均一化剤を含ませることによって行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記均一化は、前記研磨対象物を、前記電位均一化剤に浸漬させておくことにより行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記吸着基がホスホン酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、および第4級アンモニウム基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項7】
前記官能基がフェニル基、スチリル基、ホスホン酸基、アミノ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、および第4級アンモニウム基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項8】
前記研磨用組成物が砥粒を含み、
前記砥粒の表面は、シランカップリング剤、またはイオン性分散剤によって被覆され、ゼータ電位が付与されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項9】
前記研磨対象物に含まれる材料の表面ゼータ電位を均一化した後の表面ゼータ電位と、前記砥粒の表面ゼータ電位との差の絶対値の最大が、20mV以上200mV以下である、請求項8に記載の研磨方法。
【請求項10】
前記研磨用組成物が砥粒を含み、
前記砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、全粒子の全粒子質量の10%に達するときの粒子の直径D10の比D90/D10は、1.1以上5.0以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項11】
前記金属と、前記ケイ素−酸素結合を有する材料、前記ケイ素−ケイ素結合を有する材料、または前記ケイ素−窒素結合を有する材料とは、表面ゼータ電位を均一化する前の表面ゼータ電位が異符号である材料を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項12】
前記均一化は、前記金属と、前記ケイ素−酸素結合を有する材料、前記ケイ素−ケイ素結合を有する材料、または前記ケイ素−窒素結合を有する材料とのゼータ電位の差の絶対値を20mV以下とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項13】
前記研磨用組成物のpHは、7.2以上10以下である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項14】
前記研磨用組成物は、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム、ピロリン酸カリウム、シュウ酸カリウム、クエン酸三ナトリウム、(+)−酒石酸カリウム、およびヘキサフルオロリン酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種の塩を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項15】
研磨用組成物を用いて2種以上の材料を含む研磨対象物を研磨して、前記研磨対象物を平坦化する方法であって、
前記2種以上の材料は、金属と、ケイ素−酸素結合を有する材料、ケイ素−ケイ素結合を有する材料、またはケイ素−窒素結合を有する材料とを含み、
前記研磨用組成物が、前記金属と、前記ケイ素−酸素結合を有する材料、前記ケイ素−ケイ素結合を有する材料、または前記ケイ素−窒素結合を有する材料とに吸着する吸着基、およびゼータ電位を付与する官能基を有する電位均一化剤(但し、下記一般式(I)で表されるトリルトリアゾール化合物を除く)を含み、
前記電位均一化剤は、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン・ホルマリン縮合物を含む、平坦化方法。
【化2】

(上記一般式(I)中、Rは各々独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を示す。)
【請求項16】
前記2種以上の材料は、前記金属と、前記ケイ素−酸素結合を有する材料とを含み、
前記金属が、銅、タングステン、またはアルミニウムであり、前記ケイ素−酸素結合を有する材料が、酸化ケイ素である、請求項15に記載の平坦化方法。
【請求項17】
前記研磨用組成物が砥粒を含み、
前記砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、全粒子の全粒子質量の10%に達するときの粒子の直径D10の比D90/D10は、1.1以上5.0以下である、請求項15または16に記載の平坦化方法。
【請求項18】
前記均一化は、前記金属と、前記ケイ素−酸素結合を有する材料、前記ケイ素−ケイ素結合を有する材料、または前記ケイ素−窒素結合を有する材料とのゼータ電位の差の絶対値を20mV以下とする、請求項1517のいずれか1項に記載の平坦化方法。
【請求項19】
前記研磨用組成物のpHは、7.2以上10以下である、請求項1518のいずれか1項に記載の平坦化方法。
【請求項20】
前記研磨用組成物は、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム、ピロリン酸カリウム、シュウ酸カリウム、クエン酸三ナトリウム、(+)−酒石酸カリウム、およびヘキサフルオロリン酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種の塩を含む、請求項1519のいずれか1項に記載の平坦化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
例えば、シリコン酸化膜とアルミニウム膜とを含む被研磨面を同時に研磨するためのCMPスラリーとして、特開2013−43893号公報では、スルホ基およびその塩からなる群らか選択される少なくとも1種の官能基を有するシリカ粒子と、N−ビニルピロリドンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種に由来する繰り返し単位を含む水溶性高分子と、を含有し、pH2以上8以下である、化学機械研磨用水系分散体が開示されている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特開2013−43893号公報に記載の化学機械研磨用水系分散体によれば、被研磨面の平坦化が十分でないという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、2種以上の材料を含む研磨対象物の表面の平坦化を十分に行うことができる手段を提供することを目的とする。
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、研磨対象物の表面のゼータ電位を均一化することを含む研磨方法によって、課題が解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、研磨用組成物を用いて、2種以上の材料を含む研磨対象物を研磨する研磨方法であって、前記研磨対象物の表面ゼータ電位を均一化することを含む、研磨方法である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、研磨用組成物を用いて、2種以上の材料を含む研磨対象物を研磨する研磨方法であって、前記研磨対象物の表面ゼータ電位を均一化することを含む、研磨方法である。このような本発明の研磨方法によれば、2種以上の材料を含む研磨対象物の表面(被研磨面)のゼータ電位がほぼ均一になるため、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨した際、研磨対象物表面の平坦化を十分に行うことができる。また、本発明の研磨方法によれば、研磨対象物を高い研磨速度で研磨することができ、かつ該研磨対象物表面のスクラッチを低減させることができる。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、2種以上の材料を含む。このような材料としては、金属、ケイ素−酸素結合を有する研磨対象物、ケイ素−ケイ素結合を有する研磨対象物、ケイ素−窒素結合を有する研磨対象物などが挙げられる。
【0011】
金属としては、銅、アルミニウム、ハフニウム、コバルト、ニッケル、チタン、タングステン等が挙げられる。
【0012】
ケイ素−酸素結合を有する研磨対象物としては、酸化ケイ素膜、BD(ブラックダイヤモンド:SiOCH)、FSG(フルオロシリケートグラス)、HSQ(水素シルセスキオキサン)、CYCLOTENE、SiLK、MSQ(Methyl silsesquioxane)等が挙げられる。
【0013】
ケイ素−ケイ素結合を有する研磨対象物としては、ポリシリコン、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、n型ドープ単結晶シリコン、p型ドープ単結晶シリコン、SiGe等のSi系合金等が挙げられる。
【0014】
ケイ素−窒素結合を有する研磨対象物としては、窒化ケイ素膜、SiCN(炭窒化ケイ素)などが挙げられる。
【0015】
これらの中でも、銅、タングステン、酸化ケイ素膜、ポリシリコン、および窒化ケイ素からなる群より選択される少なくとも2種であることが好ましい。
【0016】
研磨対象物のより好ましい一形態は、上記2種以上の材料が、表面ゼータ電位を均一化する前の表面ゼータ電位が異符号である材料を含む形態である。このような材料の組み合わせとしては、銅(均一化する前の表面ゼータ電位が−)と酸化ケイ素(均一化前の表面ゼータ電位が+)との組み合わせ、タングステン(均一化する前の表面ゼータ電位が−)と酸化ケイ素(均一化する前の表面ゼータ電位が+)との組み合わせ、アルミニウム(均一化する前の表面ゼータ電位が−)と酸化ケイ素(均一化する前の表面ゼータ電位が+)との組み合わせ等が好ましく挙げられる。
【0017】
次に、本発明の研磨方法について、詳細に説明する。
【0018】
[表面ゼータ電位の均一化]
本発明の研磨方法は、研磨対象物の表面ゼータ電位を均一化することを含む。この均一化の方法としては、研磨対象物である上記2種以上の材料に吸着する吸着基と、ゼータ電位を付与する官能基と、を有する電位均一化剤を用いる方法が好ましい。さらに具体的には、(1)該電位均一化剤を研磨用組成物に含ませる方法、(2)研磨対象物を予め電位均一化剤に浸漬させておく方法、(3)研磨用組成物のpHを中性にする、等の方法が挙げられ、これらの方法を適宜組み合わせてもよい。以下、(1)〜(3)の方法について説明する。
【0019】
<電位均一化剤>
本発明に係る電位均一化剤は、研磨対象物に含まれる2種以上の材料に吸着する吸着基と、ゼータ電位を付与する官能基と、を有することが好ましい。
【0020】
上記吸着基としては、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、および第4級アンモニウム基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、上記官能基としては、フェニル基、スチリル基、ホスホン酸基、アミノ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、および第4級アンモニウム基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
このような吸着基と官能基とを共に有する好ましい電位均一化剤の例としては、例えば、アミノトリエチレンホスホン酸(吸着基、官能基が共にホスホン酸基)およびジシアンジアミド・エチレントリアミン・ホルマリン縮合物(構造は下記一般式(1)参照、吸着基、官能基が共に第2級アミノ基)の少なくとも一方が好ましい。電位均一化剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。なお、下記一般式(1)中、nは繰り返し単位の数を表す。
【0022】
【化1】
【0023】
<(1)電位均一化剤を研磨用組成物に含ませる方法>
この方法では、研磨に用いる研磨用組成物中に上記電位均一化剤を含ませることにより、研磨対象物表面のゼータ電位を均一化する。研磨用組成物中の電位均一化剤の濃度は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、研磨用組成物中の電位均一化剤の濃度は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
電位均一化剤の研磨用組成物への添加方法としては、例えば、後述する研磨用組成物の製造方法において、電位均一化剤を分散媒中で砥粒等とともに攪拌混合する方法が挙げられる。
【0025】
<(2)研磨対象物を予め電位均一化剤に浸漬させる方法>
この方法では、研磨用組成物による研磨の前に、研磨対象物を予め電位均一化剤に浸漬させ、研磨対象物表面のゼータ電位を均一化する。研磨対象物を浸漬させる溶液としては、上記電位均一化剤の水溶液が好ましい。該水溶液中の電位均一化剤の濃度は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、該水溶液中の電位均一化剤の濃度は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
浸漬温度は特に制限されないが、10℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上40℃以下がより好ましい。また、浸漬時間も特に制限されないが、5秒以上30分以下が好ましく、10秒以上2分以下がより好ましい。
【0027】
上記(1)および(2)の方法においては、研磨用組成物のpHは特に制限されず、所望のpHを有する研磨用組成物が用いられる。pHを調整する場合のpH調整剤としては、公知の酸、塩基、またはそれらの塩を使用することができる。pH調整剤として使用できる酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、2−メチル酪酸、ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2−フランカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、3−フランカルボン酸、2−テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、およびフェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。pH調整剤として無機酸を使用した場合、特に硫酸、硝酸、リン酸などが研磨速度向上の観点から特に好ましく、pH調整剤として有機酸を使用した場合、グリコール酸、コハク酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、およびイタコン酸などが好ましい。
【0028】
pH調整剤として使用できる塩基としては、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン、水酸化第四アンモニウムなどの有機塩基、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、第2族元素の水酸化物、およびアンモニア等が挙げられる。
【0029】
これらpH調整剤の中でも、入手容易性から硝酸、水酸化カリウム、リン酸、硫酸、マレイン酸、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0030】
pH調整剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0031】
<(3)研磨用組成物のpHを制御する>
この方法では、研磨用組成物のpHを制御することにより、研磨対象物表面のゼータ電位を均一化する。本方法における研磨用組成物のpHは、4以上が好ましく、5以上がより好ましい。また、本方法における研磨用組成物のpHは、10以下が好ましく、8以下がより好ましい。なお、(3)の方法においては、上記(1)または(2)の方法を併用してもよいし、併用しなくてもよい。
【0032】
研磨用組成物のpHを中性にする方法の一つとして、上記したpH調整剤を用いる方法が挙げられるが、pH調整剤は用いなくてもよい。
【0033】
(3)の方法において用いられる研磨用組成物は、研磨促進剤を含む。該研磨促進剤は、研磨用組成物の電導度を上げ、砥粒表面の静電反発層の厚みを薄くして、砥粒が研磨対象物に接近し易くする作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0034】
研磨促進剤としては、例えば、無機酸の塩または有機酸の塩が挙げられる。これら研磨促進剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該研磨促進剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0035】
研磨促進剤として用いることができる塩の具体例としては、例えば、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム、ピロリン酸カリウム、シュウ酸カリウム、クエン酸三ナトリウム、(+)−酒石酸カリウム、ヘキサフルオロリン酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。
【0036】
研磨促進剤の添加量は、研磨用組成物の全質量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、研磨促進剤の添加量は、研磨用組成物の全質量に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
次に、本発明の研磨方法で用いられる研磨用組成物について説明する。
【0038】
本発明で用いられる研磨用組成物は、砥粒および分散媒と、必要に応じて研磨促進剤や他の成分とを含む。以下では、上記で説明した研磨促進剤以外の成分について説明する。
【0039】
[研磨用組成物]
<砥粒>
本発明に係る研磨用組成物で用いられる砥粒の種類としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物が挙げられる。該砥粒は、単独でもよいしまたは2種以上組み合わせても用いることができる。該砥粒は、それぞれ市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0040】
砥粒の種類としては、好ましくはシリカであり、より好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の砥粒として好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0041】
さらに、該砥粒の表面は、シランカップリング剤またはイオン性分散剤によって被覆され、ゼータ電位が付与されていることが好ましい。砥粒の表面にゼータ電位が付与されることにより、研磨対象物の表面への相互作用が起こりやすくなり、研磨対象物表面の平坦化の効果がより高まる。
【0042】
<固定化>
砥粒の表面をシランカップリング剤で被覆する方法として、以下のような固定化方法が挙げられる。例えば、“Sulfonic acid−functionalized silica through of thiol groups”, Chem. Commun. 246−247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。なお、実施例では、上記方法で合成されたものが用いられている。
【0043】
あるいは、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2−Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228−229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2−ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0044】
上記はアニオン性基を有するコロイダルシリカであるが、カチオン性基を有するコロイダルシリカを使用してもよい。カチオン性基を有するコロイダルシリカとして、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカが挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005−162533号公報に記載されているような、アミノプロピルトリメトキシシラン、(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤を砥粒の表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。なお、実施例では、上記方法で合成されたものが用いられている。
【0045】
<表面修飾>
砥粒の被覆には、上記固定化以外に、イオン性分散剤により砥粒の表面を修飾したものがある。このようにして得られる砥粒を、以下では表面修飾砥粒とも称する。
【0046】
(イオン性分散剤)
イオン性分散剤とは、分散媒中(液温25℃)でイオン化する官能基を有する高分子を意味する。
【0047】
砥粒の表面に直接修飾させる、イオン性分散剤の例としては、例えば、ポリカルボン酸またはその誘導体、ポリアミンまたはその誘導体、第4級アンモニウム塩系ポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)またはその誘導体等が挙げられる。
【0048】
ポリカルボン酸誘導体としては、例えば、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸エステル、ポリカルボン酸無水物、ポリカルボン酸アミン塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩等が挙げられる。上記ポリカルボン酸エステルとしては、例えば、エステル残基に脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素を有するもの等が挙げられる。上記ポリカルボン酸誘導体としては、ポリアクリル酸またはその誘導体を用いることが好ましい。上記ポリアクリル酸またはその誘導体としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸無水物、ポリアクリル酸アミン塩、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0049】
ポリビニルアルコール(PVA)誘導体の具体的な例としては、例えば、カルボン酸変性PVA、ウンデシレン酸変性PVA、スルホン酸変性PVA等のアニオン変性PVA誘導体;アンモニウム変性PVA、スルホニウム変性PVA、アミノ基変性PVA等のカチオン変性PVA誘導体が挙げられる。
【0050】
これらイオン性分散剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。さらに、該イオン性分散剤は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0051】
イオン性分散剤の市販品としては、SNディスパーサント 5027、5468、4215(以上、サンノプコ株式会社製);ゴーセネックスTシリーズ(T−350、T−330H等)、ゴーセネックスLシリーズ(L−3266等)、ゴーセネックスKシリーズ(K−434等)(以上、日本合成化学株式会社製)、Kポリマーシリーズ(KL−506、KL−318、KL−118、KM−618、KM−118等)、Cポリマーシリーズ(C−506、CM−318等)(以上、株式会社クラレ製)等が挙げられる。しかしながら、これらに限定されず、種々のイオン性分散剤を使用することができる。
【0052】
表面修飾砥粒の作製方法は、砥粒の表面にイオン性分散剤が直接修飾される方法であれば特に制限されないが、好適には以下の方法がある。
【0053】
すなわち、表面修飾砥粒の作製方法は、(1)前記砥粒を含む、砥粒分散液を準備する第1工程と;(2)前記砥粒分散液を、pH7以上9以下に調整し、pH調整済分散液を作製する第2工程と;(3)前記pH調整済分散液と、前記イオン性分散剤とを混合する第3工程と;を有する。
【0054】
このようにすることで、簡便に表面修飾砥粒を作製することができる。以下、かようなイオン性分散剤を用いた表面修飾砥粒の作製方法について説明する。
【0055】
〔第1工程〕
第1工程は、砥粒を含む、砥粒分散液を準備する工程である。これは、例えば、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法によって作製された、砥粒が分散液に分散している砥粒分散液を準備してもよい。あるいは、市販品があるなら、それを購入してもよい。なお、砥粒分散液は、水分散液であることがよい。この際の砥粒の含有量は、砥粒分散液の全質量に対し、1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0056】
〔第2工程〕
第2工程は、前記砥粒分散液を、pH7以上9以下に調整する工程である。
【0057】
pH7以上9以下に調整するためには、どのような方法を用いてもよいが、例えば、pH調整剤と、前記砥粒分散液とを混合することによって、調整することができる。pH7以上9以下に調整するのは、砥粒の分散性の確保、およびイオン性分散剤のイオン性の確保の観点からである。混合する方法としても特に制限はなく、前記砥粒分散液に、pH調整剤を添加することが好ましい。なお、pH調整剤の具体例については、下記で説明する。なお、本発明におけるpHの値は、実施例に記載の条件で測定した値を採用する。
【0058】
〔第3工程〕
第3工程は、前記pH調整済分散液と、前記イオン性分散剤とを混合する工程である。
【0059】
かかる工程は、前記pH調整済分散液と、前記イオン性分散剤とを混合できる方法であれば特に制限はなく、前記pH調整済分散液に、前記イオン性分散剤を添加してもよいし、前記イオン性分散剤に、前記pH調整済分散液を添加してもよいし、これらを組み合わせてもよい。前記pH調整済分散液に、前記イオン性分散剤を添加する方法が好適である。この際、イオン性分散剤の添加速度にも特に制限はなく、凝集の抑制の観点から、例えば0.1g/min以上10g/min以下であることが好ましく、0.5g/min以上5g/min以下であることがより好ましい。
【0060】
前記イオン性分散剤の添加量は、砥粒の表面にイオン性分散剤が直接修飾できる量であれば、特に制限はないが、各砥粒の表面をより確実に修飾させる観点で、砥粒1gに対して、好ましくは0.0001g以上1g以下であり、より好ましくは0.001g以上0.5g以下であり、さらに好ましくは0.005g以上0.1g以下である。
【0061】
また、この際の温度(液温)においても特に制限はないが、イオン性分散剤の吸脱着反応の観点から、好ましくは10℃以上60℃以下であり、より好ましくは15℃以上40℃以下である。また、添加中および/または添加後、好ましくは、攪拌が行われる。よって、本発明の好ましい形態によれば、前記第3工程が、10℃以上60℃以下の温度条件で、攪拌にて行われる。なお、攪拌速度にも特に制限はないが、100rpm以上600rpm以下が好ましく、150rpm以上500rpm以下がより好ましい。
【0062】
また、前記pH調整済分散液と、前記イオン性分散剤とを混合する時間に関しても特に制限はないが、より確実に表面修飾砥粒を作製するという観点から、5分以上300分以下が好ましく、10分以上120分以下がより好ましい。
【0063】
上記の作製方法によれば、簡便に、表面修飾砥粒を作製することができる。
【0064】
研磨用組成物中の砥粒の平均一次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、15nm以上であることがよりさらに好ましく、25nm以上であることが特に好ましい。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、70nm以下であることがよりさらに好ましく、60nm以下であることがよりさらに好ましく、50nm以下であることが特に好ましい。
【0065】
このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)に基づいて算出される。本発明の実施例でもそのように算出される。
【0066】
研磨用組成物中の砥粒の平均二次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、26nm以上であることがよりさらに好ましく、36nm以上あることがよりさらに好ましく、45nm以上であることがよりさらに好ましく、55nm以上であることが特に好ましい。また、砥粒の平均二次粒子径の上限は、300nm以下であることが好ましく、260nm以下であることがより好ましく、220nm以下であることがさらに好ましく、150nm以下であることがよりさらに好ましく、120nm以下であることがよりさらに好ましく、100nm以下であることがよりさらに好ましく、80nm以下であることが特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面欠陥が生じるのをより抑えることができる。
【0067】
なお、ここでいう二次粒子とは、砥粒が研磨用組成物中で会合して形成する粒子をいい、この二次粒子の平均二次粒子径は、例えば動的光散乱法により測定することができる。本発明の実施例でもそのように算出される。
【0068】
研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、全粒子の全粒子質量の10%に達するときの粒子の直径D10の比(本明細書中、単に「D90/D10」とも称する)の下限は、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることがよりさらに好ましく、1.4以上であることが特に好ましい。また、D90/D10の上限は特に制限はないが、5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがよりさらに好ましく、2.0以下であることが特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面欠陥が生じるのをより抑えることができる。D90/D10が小さい(1.0に近い)ものでは、粒度分布幅が狭いことを表し、この値が大きくなるにつれて粒度分布の幅が広いことを表す。実施例でもこのように測定している。
【0069】
なお、未被覆の砥粒または固定化した砥粒は、市販品を用いてもよい。
【0070】
上記の研磨対象物に含まれる材料の表面ゼータ電位を均一化した後の表面ゼータ電位と、砥粒の表面ゼータ電位との差の絶対値の最大は、20mV以上200mV以下であることが好ましい。この範囲であれば、研磨対象物表面の平坦化の効果がより高まる。なお、「研磨対象物に含まれる材料の表面ゼータ電位を均一化した後の表面ゼータ電位と、砥粒の表面ゼータ電位との差の絶対値の最大」は、以下のようにして算出する。研磨対象物については、含まれる材料単独での表面ゼータ電位を均一化した後の表面ゼータ電位を測定する。砥粒については、1種のみを用いる場合は単独での表面ゼータ電位を砥粒の表面ゼータ電位とする。2種以上用いる場合は、それぞれの砥粒の表面ゼータ電位を測定し、測定値を混合比に従って加重平均した値を砥粒の表面ゼータ電位とする。得られた砥粒の表面ゼータ電位と研磨対象物に含まれるそれぞれの材料単独の表面ゼータ電位を均一化した後の表面ゼータ電位との差の絶対値を算出し、その最大値を、「研磨対象物に含まれる材料の表面ゼータ電位を均一化した後の表面ゼータ電位と、砥粒の表面ゼータ電位との差の絶対値の最大」と定義する。
【0071】
なお、研磨対象物に含まれる材料の表面ゼータ電位を均一化する前の表面ゼータ電位および表面ゼータ電位を均一化した後の表面ゼータ電位、ならびに砥粒の表面ゼータ電位は、ELSZ−2000ZS(大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱ドップラー法にて測定する。実施例でもこのように測定している。
【0072】
<分散媒>
本発明に係る研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては水が好ましい。他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0073】
<他の成分>
本発明に係る研磨用組成物はまた、必要に応じて、酸化剤、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、水溶性高分子、難溶性の有機物を溶解するための有機溶媒等の他の成分をさらに含んでもよい。以下、好ましい他の成分である、酸化剤、金属防食剤、防腐剤、および防カビ剤について説明する。
【0074】
〔酸化剤〕
研磨用組成物に添加し得る酸化剤は、研磨対象物の表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0075】
使用可能な酸化剤は、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル酸およびそれらの塩等が挙げられる。これら酸化剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0076】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は0.1g/L以上であることが好ましく、より好ましくは1g/L以上であり、さらに好ましくは3g/L以上である。酸化剤の含有量が多くになるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度はより向上する。
【0077】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量はまた、200g/L以下であることが好ましく、より好ましくは100g/L以下であり、さらに好ましくは40g/L以下である。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。また、酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化が起こる虞を少なくすることもできる。
【0078】
〔金属防食剤〕
研磨用組成物中に金属防食剤を加えることにより、研磨用組成物を用いた研磨で配線の脇に凹みが生じるのをより抑えることができる。また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングが生じるのをより抑えることができる。
【0079】
使用可能な金属防食剤は、特に制限されないが、好ましくは複素環式化合物または界面活性剤である。複素環式化合物中の複素環の員数は特に限定されない。また、複素環式化合物は、単環化合物であってもよいし、縮合環を有する多環化合物であってもよい。該金属防食剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該金属防食剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0080】
金属防食剤として使用可能な複素環化合物の具体例としては、例えば、ピロール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリンジン化合物、インドリジン化合物、インドール化合物、イソインドール化合物、インダゾール化合物、プリン化合物、キノリジン化合物、キノリン化合物、イソキノリン化合物、ナフチリジン化合物、フタラジン化合物、キノキサリン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、ブテリジン化合物、チアゾール化合物、イソチアゾール化合物、オキサゾール化合物、イソオキサゾール化合物、フラザン化合物等の含窒素複素環化合物が挙げられる。
【0081】
〔防腐剤および防カビ剤〕
本発明で用いられる防腐剤および防カビ剤としては、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。これら防腐剤および防カビ剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0082】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明に係る研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、電位均一化剤、および必要に応じて他の成分を、分散媒中で攪拌混合することにより得ることができる。
【0083】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0084】
[研磨方法]
本発明に係る研磨用組成物を用いて研磨する場合、研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0085】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0086】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm以上500rpm以下が好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0087】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、酸素原子とケイ素原子とを有する基板が得られる。
【0088】
本発明に係る研磨用組成物は一液型であってもよいし、研磨用組成物の一部または全部を任意の混合比率で混合した二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、研磨用組成物の供給経路を複数有する研磨装置を用いた場合、研磨装置上で研磨用組成物が混合されるように、予め調整された2つ以上の研磨用組成物を用いてもよい。
【0089】
また、本発明に係る研磨用組成物は、原液の形態であってもよく、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。研磨用組成物が二液型であった場合には、混合および希釈の順序は任意であり、例えば一方の組成物を水で希釈後それらを混合する場合や、混合と同時に水で希釈する場合、また、混合された研磨用組成物を水で希釈する場合等が挙げられる。
【0090】
以上で説明した本発明の研磨方法により、2種以上の材料を含む研磨対象物を研磨して、研磨対象物を平坦化することができる。したがって、本発明の好ましい一形態は、研磨用組成物を用いて2種以上の材料を含む研磨対象物を研磨して、前記研磨対象物を平坦化する方法であって、前記研磨用組成物が、前記2種以上の材料に吸着する吸着基と、ゼータ電位を付与する官能基と、を有する電位均一化剤を含む、平坦化方法である。
【実施例】
【0091】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件下で行われた。
【0092】
なお、砥粒として、下記の3種類を準備した。
【0093】
アニオン変性コロイダルシリカ:スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカ(平均一次粒子径:31nm、平均二次粒子径:58nm、D90/D10=2.01)
カチオン変性コロイダルシリカ:アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(平均一次粒子径:32nm、平均二次粒子径:61nm、D90/D10=1.98)
未被覆コロイダルシリカ:平均一次粒子径=30nm、平均二次粒子径=57nm、D90/D10=1.99
<比較例1>
砥粒として上記のアニオン変性コロイダルシリカを、組成物中の濃度が1質量%となるように、分散媒(純水)中で攪拌・分散させた。さらに、pH調整剤としてマレイン酸水溶液(濃度:30質量%)を、組成物中のマレイン酸としての濃度が0.18質量%となるように加えることにより、研磨用組成物を作製した(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)。なお、研磨用組成物(液温:25℃)のpHを、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認したところ、2.1であった。
【0094】
<比較例2>
砥粒を上記の未被覆コロイダルシリカに変更したこと以外は、比較例1と同様にして研磨用組成物を作製した。
【0095】
参考例1>
電荷均一化剤としてアミノトリメチレンホスホン酸(吸着基、官能基は共にホスホン酸基、キレスト株式会社製)を、組成物中の濃度が1質量%となるようにさらに添加したこと以外は、比較例2と同様にして研磨用組成物を作製した。
【0096】
<実施例2>
電荷均一化剤としてジシアンジアミド・ジエチレントリアミン・ホルマリン縮合物(吸着基、官能基は共に第2級アミノ基、センカ株式会社製)を用いたこと以外は、参考例1と同様にして研磨用組成物を作製した。
【0097】
参考例3>
マレイン酸溶液を使用せず、研磨促進剤として炭酸カリウムを組成物中の濃度が1質量%となるようにさらに添加したこと以外は、参考例1と同様にして、研磨用組成物を作製した。
【0098】
参考例4>
砥粒として上記のカチオン変性コロイダルシリカを、組成物中の濃度が1質量%となるように、分散媒(純水)中で攪拌・分散させた。さらに、研磨促進剤として炭酸カリウムを、組成物中の濃度が1質量%となるように加えることにより、研磨用組成物を作製した(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)。なお、研磨用組成物(液温:25℃)のpHを、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認したところ、7.2であった。
【0099】
<研磨対象物>
研磨対象物として、ラインがタングステン(W)であり、スペースがTEOS(酸化ケイ素膜)であるパターン基板を準備した。
【0100】
[表面ゼータ電位]
研磨対象物に含まれるそれぞれの材料の電位均一化前の表面ゼータ電位および電位均一化後の表面ゼータ電位、ならびに砥粒の表面ゼータ電位は、ELSZ−2000ZS(大塚電子株式会社製)を用いて動的光散乱ドップラー法にて測定した。
【0101】
砥粒の表面ゼータ電位は、フローセルを用いて使用する砥粒を体積で10倍希釈し、所望のpHにマレイン酸水溶液と水酸化カリウム水溶液とを用いて調整したサンプルを測定することで求めた。
【0102】
また、基板の表面電位は、基板用治具に10mm×30mmにカットされた上記パターン基板をセットし、所望のpHに調整された液にモニター粒子水溶液(ポリプロピレン微粒子分散液)を100倍に希釈したものを加えることで測定した。
【0103】
[研磨速度]
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、研磨対象物を以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度を測定した。
【0104】
(研磨条件)
研磨機:Mirra−200mm研磨機(アプライドマテリアルズ社製:AMAT)
研磨パッド:FUJIBO H800
圧力:1.5psi
コンディショナー(ドレッサー):ナイロンブラシ(H800、富士紡績社製)
プラテン(定盤)回転数:63rpm
ヘッド(キャリア)回転数:57rpm
研磨用組成物の流量:200ml/min
研磨時間:30秒
TEOS研磨量:200Å
TEOS研磨量の測定は、タングステン配線付きパターン基板を用いて研磨を行い、幅10μmのタングステン配線部、幅10μmのTEOS部が交互に並んだ総幅2000μmのストライプ状パターン部のTEOS部の膜厚を、自動段差測定機WA−1300(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により求め、TEOS研磨量とした。
【0105】
研磨速度(研磨レート)は、研磨対象物の膜厚を光干渉式膜厚測定装置によって求めて、その差を研磨時間で除することにより評価した(下記式参照)。
【0106】
【数1】
【0107】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール株式会社製、型番:ASET)によって求めて、その差を研磨時間で除することにより評価した。
【0108】
また、タングステン(W)の研磨速度とTEOSの研磨速度との比(W/TEOS)を算出し、下記表1に記した。
【0109】
[TEOSのエロージョン]
TEOSのエロージョンの測定は、自動段差測定機WA−1300(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して行った。
【0110】
参考例、3および、実施例2、ならびに比較例1〜2の研磨用組成物の評価結果を下記表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
上記表1から明らかなように、実施例の研磨用組成物は、比較例の研磨用組成物に比べて、エロージョン性能が向上し、平坦化を十分に行うことができることが分かった。
【0113】
なお、本出願は、2015年9月30日に出願された日本特許出願第2015−192422号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。