特許第6798546号(P6798546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6798546-R−T−B系焼結磁石の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798546
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】R−T−B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20201130BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20201130BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20201130BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20201130BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/057 170
   C22C38/00 303D
   C22C33/02 J
   B22F1/00 Y
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-505902(P2018-505902)
(86)(22)【出願日】2017年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2017009794
(87)【国際公開番号】WO2017159576
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2019年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-54153(P2016-54153)
(32)【優先日】2016年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】石井 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 鉄兵
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/147053(WO,A1)
【文献】 特開2004−303909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
B22F 1/00
C22C 33/02
C22C 38/00
B22F 3/00
B22F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R:28.5〜33.0質量%(Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む)、
B:0.870〜0.899質量%、
Ga:0.2〜0.7質量%、
Cu:0.1〜0.3質量%、
Al:0.05〜0.50質量%、を含有し、
残部がT(TはFeとCoであり、Tの90質量%以上がFeである)および不可避的不純物であり、下記式(1)を満足するR−T−B系焼結磁石の製造方法であって、

14[B]/10.8<[T]/55.85 (1)
([B]は質量%で示すBの含有量であり、[T]は質量%で示すTの含有量である)

粒径D50および粒径D99が下記式(2)および(3)を満足する合金粉末を準備する工程と、
3.8μm≦D50≦5.5μm (2)
99≦10μm (3)
前記合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体に熱処理を施す熱処理工程と、
を含む、R−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記R−T−B系焼結磁石におけるCuが0.2〜0.3質量%である、請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記粒径D50および粒径D99がさらに下記式(4)および(5)を満足する、請求項1又は2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
3.8μm≦D50≦4.5μm (4)
99≦9μm (5)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R−T−B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、NdおよびPrの少なくとも一種を含む、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む)は、R14B型結晶構造を有する化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されており、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られている。
【0003】
このため、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車(EV、HV、PHV)用モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品など多種多様な用途に用いられている。
【0004】
このように用途が広がるにつれ、例えば電気自動車用モータは、100℃〜160℃のような高温下に曝される場合があり、高温下においても安定した動作が要求されている。
【0005】
しかし、従来のR−T−B系焼結磁石は、高温になると保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と記載する場合がある)が低下し、不可逆熱減磁が起こるという問題がある。電気自動車用モータにR−T−B系焼結磁石が使用される場合、高温下での使用によりHcJが低下し、モータの安定した動作が得られない恐れがある。そのため、室温において高いHcJを有し、かつ高温においても高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石が求められている。
【0006】
従来、室温におけるHcJ向上のために、R−T−B系焼結磁石に重希土類元素RH(主としてDy)を添加していたが、残留磁束密度B(以下、単に「B」と記載する場合がある)が低下するという問題があった。さらに、Dyは、産出地が限定されている等の理由から、供給が不安定であり、また価格が大きく変動することがあるなどの問題を有している。そのため、Dyなどの重希土類元素RHをできるだけ使用せずにR−T−B系焼結磁石のHcJを向上させる技術が求められている。
【0007】
このような技術として、例えば特許文献1は、通常のR−T−B系合金よりもB量を低くするとともに、Al、GaおよびCuのうちから選ばれる1種以上である金属元素Mを含有させることによりR17相を生成させ、該R17相を原料として生成させた遷移金属リッチ相(R−T−Ga相)の体積率を充分に確保することにより、Dyの含有量を抑制しつつ、保磁力の高いR−T−B系焼結磁石が得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/008756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載されるR−T−B系焼結磁石はHcJが向上しているものの、近年の要求を満足するには不十分である。
【0010】
そこで本発明の実施形態は、高い保磁力HcJを有するR−T−B系焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様1は、R:28.5〜33.0質量%(Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む)、B:0.850〜0.910質量%、Ga:0.2〜0.7質量%、Cu:0.05〜0.50質量%、Al:0.05〜0.50質量%、を含有し、残部がT(TはFeとCoであり、Tの90質量%以上がFeである)および不可避的不純物であり、下記式(1)を満足するR−T−B系焼結磁石の製造方法であって、

14[B]/10.8<[T]/55.85 (1)
([B]は質量%で示すBの含有量であり、[T]は質量%で示すTの含有量である)

粒径D50および粒径D99が下記式(2)および(3)を満足する合金粉末を準備する工程と、前記合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、前記焼結体に熱処理を施す熱処理工程と、を含む、R−T−B系焼結磁石の製造方法である。

3.8μm≦D50≦5.5μm (2)
99≦10μm (3)
【0012】
本発明の態様2は、前記R−T−B系焼結磁石におけるBが0.870〜0.910質量%である、態様1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法である
【0013】
本発明の態様3は、前記粒径D50および粒径D99がさらに下記式(4)および(5)を満足する、態様1又は2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法である。
3.8μm≦D50≦4.5μm (4)
99≦9μm (5)
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、高い保磁力HcJを有するR−T−B系焼結磁石を製造できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例における、保磁力の向上幅ΔHcJとB量との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのR−T−B系焼結磁石の製造方法を例示するものであって、本発明を以下に限定するものではない。
【0017】
本発明者らは鋭意検討した結果、本発明の実施形態に記載するような特定の組成範囲、特に極めて狭い特定範囲のB含有量を有するR−T−B系焼結磁石の製造において、分級機等を用いて比較的大きな粒径を有する微粉末を取り除くことによって、合金粉末の粒度分布を調整することで、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石のHcJを大幅に上昇できることを見出した。
【0018】
従来のR−T−B系焼結磁石の製造においても比較的大きな粒径を有する微粉末を取り除くことは行われてきた。しかし、後述する実施例に示す通り、本発明の特定の組成範囲外では最終的に得られるR−T−B系焼結磁石のHcJの向上幅が小さい。さらに比較的大きな粒径を有する微粉末を取り除くためには粉砕時間を長くしなければならず、粉砕能率が低下し、その結果、量産効率の悪化を招く。すなわち、従来は量産効率の悪化を招くにしてはHcJの向上幅が小さすぎるため、実際の量産では積極的に行われることは無かった。
【0019】
しかし、本発明者らは、後述するように、本発明の実施形態の特定の組成範囲(特にB含有量が0.850〜0.910質量%)であるR−T−B系焼結磁石の製造において、平均粒径D50が3.8μm以上5.5μm以下、かつD99が10μm以下(好ましくは、平均粒径D50が3.8μm以上4.5μm以下、かつD99が9μm以下)となるように原料合金粉末を調整し、このような合金粉末を成形、焼結および熱処理することにより得られたR−T−B系焼結磁石は、粉砕時間が長くなることによる量産効率の悪化を招いたとしても積極的に行うことができるほど、大幅にHcJが向上することを見出し、本発明に至ったものである。
以下に本発明の実施形態に係る製造方法について詳述する。
【0020】
[R−T−B系焼結磁石]
まず、本発明の実施形態に係る製造方法により得られるR−T−B系焼結磁石について説明する。
【0021】
[R−T−B系焼結磁石の組成]
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の組成は、
R:28.5〜33.0質量%(Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む)、
B:0.850〜0.910質量%、
Ga:0.2〜0.7質量%、
Cu:0.05〜0.50質量%、
Al:0.05〜0.50質量%、を含有し、
残部がT(TはFeとCoであり、Tの90質量%以上がFeである)および不可避的不純物であり、下記式(1)を満足する。

14[B]/10.8<[T]/55.85 (1)
([B]は質量%で示すBの含有量であり、[T]は質量%で示すTの含有量である。)
【0022】
上記組成により、一般的なR−T−B系焼結磁石よりもB量を少なくするとともに、Ga等を含有させているので、二粒子粒界にR−T−Ga相が生成して、高いHcJを得ることができる。ここで、R−T−Ga相とは、代表的にはNdFe13Ga化合物である。R13Ga化合物は、LaCo11Ga型結晶構造を有する。また、R13Ga化合物は、その状態によっては、R13−δGa1+δ化合物(δは典型的には2以下)になっている場合がある。例えば、R−T−B系焼結磁石中にCu、Alが比較的多く含有される場合、R13−δ(Ga1−x−yCuAl1+δになっている場合がある。
以下に、各組成について詳述する。
【0023】
(R:28.5〜33.0質量%)
Rは、希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む。Rの含有量は、28.5〜33.0質量%である。Rが28.5質量%未満であると焼結時の緻密化が困難となるおそれがあり、33.0質量%を超えると主相比率が低下して高いBを得られないおそれがある。Rの含有量は、好ましくは29.5〜32.5質量%である。Rがこのような範囲であれば、より高いBを得ることができる。
【0024】
(B:0.850〜0.910質量%)
Bの含有量は、0.850〜0.910質量%である。本発明の実施形態では特にBの含有量がこのような狭い範囲であれば、後述する合金粉末を得る工程において、合金粉末の粒度D50およびD99が本発明の実施形態で規定する所定の範囲になるように管理することで、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石のHcJを大幅に向上することができる。Bの含有量が0.850質量%未満及び0.910質量%を超えると、高いHcJ向上効果を得ることができない。好ましくは、Bの含有量は、0.870〜0.910質量%である。より高いHcJ向上効果が得られる。
【0025】
さらに、Bの含有量は下記式(1)を満たす。

14[B]/10.8<[T]/55.85 (1)

式(1)を満足することにより、Bの含有量が一般的なR−T−B系焼結磁石よりも少なくなる。一般的なR−T−B系焼結磁石は、主相であるR14B相以外に軟磁性相であるR17相が生成しないように、[T]/55.85(Feの原子量)は14[B]/10.8(Bの原子量)よりも少ない組成となっている([T]は、質量%で示すTの含有量である)。本発明の実施形態のR−T−B系焼結磁石は、一般的なR−T−B系焼結磁石と異なり、[T]/55.85が14[B]/10.8よりも多くなるように式(1)で規定している。なお、本発明の実施形態のR−T−B系焼結磁石におけるTの主成分はFeであるため、Feの原子量を用いた。
【0026】
(Ga:0.2〜0.7質量%)
Gaの含有量は、0.2〜0.7質量%である。Gaが0.2質量%未満であると、R−T−Ga相の生成量が少なすぎて、R17相を消失させることができず、高いHcJを得ることができないおそれがあり、0.7質量%を超えると不要なGaが存在することになり、主相比率が低下してBが低下するおそれがある。
【0027】
(Cu:0.05〜0.50質量%)
Cuの含有量は、0.05〜0.50質量%である。Cuが0.05質量%未満であると高いHcJを得ることができないおそれがあり、0.50質量%を超えると焼結性が悪化して高いHcJが得られないおそれがある。
【0028】
(Al:0.05〜0.50質量%)
Alの含有量は、0.05〜0.50質量%である。Alを含有することによりHcJを向上させることができる。Alは通常、製造工程で不可避的不純物として0.05質量%以上含有されるが、不可避的不純物で含有される量と意図的に添加した量の合計で0.5質量%以下含有してもよい。
【0029】
(残部:Tおよび不可避的不純物)
残部はTおよび不可避的不純物である。ここでTはFeとCoであり、Tの90質量%以上がFeである。Coを含有することにより耐食性を向上させることができるが、Coの置換量がFeの10質量%を超えると、高いBが得られないおそれがある。
さらに、本発明の実施形態のR−T−B系焼結磁石は、ジジム合金(Nd−Pr)、電解鉄、フェロボロンなどに通常含有される不可避的不純物としてCr、Mn、Si、La、Ce、Sm、Ca、Mgなどを含有することができる。さらに、製造工程中の不可避的不純物として、O(酸素)、N(窒素)およびC(炭素)などを例示できる。また、少量(0.1質量%程度)のV、Ni、Mo、Hf、Ta、W、Nb、Zrなどを含有してもよい。
【0030】
以下に、本発明の実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の製造方法の詳細を説明する。
【0031】
[R−T−B系焼結磁石の製造方法]
上述した組成を有するR−T−B系焼結磁石の製造方法を説明する。R−T−B系焼結磁石の製造方法は、合金粉末を得る工程、成形工程、焼結工程、熱処理工程を有する。
以下、各工程について説明する。
【0032】
(1)合金粉末を得る工程
この工程において、上述したR−T−B系焼結磁石と同じ組成を有し、粒径D50が3.8μm以上5.5μm以下であり、かつ粒径D99が10μm以下の合金粉末を得る。粒径D50およびD99がこのような範囲であり、また、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の組成となるように調整した合金粉末を用いることにより、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石は、高い保磁力HcJを有することができる。
【0033】
このような合金粉末は、例えば次のように得ることができる。
上述したR−T−B系焼結磁石の組成となるように各元素の金属または合金(溶解原料)を準備し、ストリップキャスティング法等によりフレーク状の原料合金を作製する。次に、前記フレーク状の原料合金から合金粉末を作製する。得られたフレーク状の原料合金を水素粉砕し、例えば1.0mm以下の粗粉砕粉を得る。次に、粗粉砕粉を不活性ガス中でジェットミル等により微粉砕し、分級機を用いて、粒径の大きな微粉砕粉を取り除き、粒径D50が3.8μm以上5.5μm以下であり、かつ粒径D99が10μm以下の微粉砕粉(合金粉末)を得る。このような粒度分布を有する合金粉末を用いて上述した組成を有するR−T−B系焼結磁石を製造することにより、高い保磁力HcJを有するR−T−B系焼結磁石を得ることができる。合金粉末は、粒径D50が3.8μm以上4.5μm以下であり、かつD99が9μm以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石のHcJをより向上することができる。
【0034】
合金粉末は、1種類の合金粉末(単合金粉末)を用いてもよいし、2種類以上の合金粉末を混合することにより合金粉末(混合合金粉末)を得る、いわゆる2合金法を用いてもよく、公知の方法などを用いて本発明の実施形態の組成となるように合金粉末を作製すればよい。なお、ジェットミル粉砕前の粗粉砕粉、ジェットミル粉砕中およびジェットミル粉砕後の合金粉末に助剤として公知の潤滑剤を添加してもよい。
【0035】
上述のように、本実施形態に係る合金粉末は特定の範囲の粒径D50およびD99を有するが、粒径D50およびD99は、気流分散式レーザー回折法(JIS Z 8825:2013年改訂版に準拠する)により測定することができる。すなわち、本明細書において、D50は、小粒径側からの積算粒度分布(体積基準)が50%となる粒径(メジアン径)を意味し、D99は、小粒径側からの積算粒度分布(体積基準)が99%となる粒径を意味する。
なお本発明の実施形態におけるD50とD99は、Sympatec社製の粒度分布測定装置「HELOS&RODOS」において
分散圧:4bar
測定レンジ:R2
計算モード:HRLD
の条件にて測定されたD50とD99のことを示す。
【0036】
(2)成形工程
得られた合金粉末を用いて磁界中成形を行い、成形体を得る。磁界中成形は、金型のキャビティー内に乾燥した合金粉末を挿入し、磁界を印加しながら成形する乾式成形法、金型のキャビティー内に該合金粉末を分散させたスラリーを注入し、スラリーの分散媒を排出しながら成形する湿式成形法を含む既知の任意の磁界中成形方法を用いてよい。
【0037】
(3)焼結工程
成形体を焼結することにより焼結体(焼結磁石)を得る。成形体の焼結は既知の方法を用いることができる。なお、焼結時の雰囲気による酸化を防止するために、焼結は、真空雰囲気中または雰囲気ガス中で行うことが好ましい。雰囲気ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0038】
(4)熱処理工程
得られた焼結磁石に対し、磁気特性を向上させることを目的とした熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度、熱処理時間などは既知の条件を用いることができる。例えば、比較的低い温度(400℃以上600℃以下)のみでの熱処理(一段熱処理)をしてもよく、あるいは比較的高い温度(700℃以上焼結温度以下(例えば1050℃以下))で熱処理を行った後比較的低い温度(400℃以上600℃以下)で熱処理(二段熱処理)をしてもよい。好ましい条件は、730℃以上1020℃以下で5分から500分程度の熱処理を施し、冷却後(室温まで冷却後、または440℃以上550℃以下まで冷却後)、さらに440℃以上550℃以下で5分から500分程度熱処理をすることが挙げられる。熱処理雰囲気は、真空雰囲気あるいは不活性ガス(ヘリウムやアルゴンなど)で行うことが好ましい。
【0039】
最終的な製品形状にするなどの目的で、得られた焼結磁石に研削などの機械加工を施してもよい。その場合、熱処理は機械加工前でも機械加工後でもよい。さらに、得られた焼結磁石に、表面処理を施してもよい。表面処理は、既知の表面処理であってもよく、例えばAl蒸着や電気Niめっきや樹脂塗料などの表面処理を行うことができる。
【実施例】
【0040】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0041】
・実施例1
表1の試料No.1〜27に示すR−T−B系焼結磁石の組成となるように各元素を秤量し、ストリップキャスト法により合金を作製した。得られた各合金を水素粉砕法により粗粉砕し粗粉砕粉を得た。前記粗粉砕粉を、以下に説明するA〜Cのいずれかの条件で、それぞれジェットミルにより微粉砕を行った(但し、条件Cで微粉砕を行ったのは試料No.13のみ)。
【0042】
(条件A)
条件Aは、ジェットミルへの原料供給量を200g/分、分級ロータ回転数を4500rpmにして微粉砕を行った。粉砕時間は約10分であった。条件Aは通常の粉砕条件であり、狙い値は粒径D50:4μm、粒径D99:12μmである。尚、前記D50及び前記D99は、それぞれ、気流分散法によるレーザー回折法で得られる粒度分布において、小粒径側からの積算粒度分布(体積基準)が50%となる粒径及び小粒径側からの積算粒度分布(体積基準)が99%となる粒径である。また、D50及びD99は、Sympatec社製の粒度分布測定装置「HELOS&RODOS」を用いて、分散圧:4bar、測定レンジ:R2、計算モード:HRLDの条件にて測定した。
【0043】
(条件B)
条件Bは、ジェットミルへの原料供給量を50g/分、分級ロータ回転数を5500rpmにして微粉砕を行った。粉砕時間は約40分であった。条件Bは、本発明の実施形態の粒径(D50及びD99)を得るために行うものであり、狙い値は粒径D50:4μm、粒径D99:9.5μmである。条件Cは、ジェットミルへの原料供給量を50g/分、分級ロータ回転数を6000rpmにして微粉砕を行った。粉砕時間は約40分であった。
【0044】
(条件C)
条件Cは、本発明の実施形態の好ましい粒径(D50及びD99)を得るために行うものであり、狙い値は粒径D50:4μm、粒径D99:8.5μmである。
【0045】
各条件で微粉砕して得られた微粉砕粉の粒径(D50及びD99)の実測値を表2及び表3に示す。表2の「条件A」には、試料No.1〜27を条件Aで微粉砕して得られた微粉砕粉の粒径の実測値が示されている。表2の「条件B」には、試料No.1〜27を条件Bで微粉砕して得られた微粉砕粉の粒径の実測値が示されている。表3の「条件A」には、試料No.13を条件Aで微粉砕して得られた粒径の実測値が示されている。表3の「条件C」には、試料No.13を条件Cで微粉砕して得られた粒径の実測値が示されている。
【0046】
得られた微粉砕粉(合金粉末)に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100質量部に対して0.05質量部添加、混合した後、磁界中で成形し、成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体を、真空中で組成に応じて1030〜1070℃で4時間焼結し、R−T−B系焼結磁石を得た。焼結磁石の密度は7.5Mg/m以上であった。さらに焼結後のR−T−B系焼結磁石に対し、800℃で2時間保持した後室温まで急冷し、次いで500℃で2時間保持した後室温まで冷却する熱処理を施した。
【0047】
得られた焼結磁石の成分を求めるために、Nd、Pr、Tb、B、Co、Al、Cu、Ga、Nb、Zr、Feの含有量をICP発光分光分析法により測定した。さらに、O(酸素量)はガス融解−赤外線吸収法、N(窒素量)はガス融解−熱伝導法、C(炭素量)は燃焼−赤外線吸収法、によるガス分析装置を使用して測定した。結果を表1に示す。
【0048】
熱処理後の焼結磁石に機械加工を施し、縦7mm、横7mm、厚み7mmの試料を作製し、B−Hトレーサによって各試料の特性(B及びHcJ)を測定した。測定結果を表2及び表3に示す。
なお、表2および表3の備考欄に記載された「本発明例」とは、本発明の実施形態に規定する要件を満たす実施例であることを意味する。
【0049】
表2の「条件A」には、表1の試料No.1〜27の組成を有する合金を条件Aで微粉砕し、得られた微粉砕粉を焼結、熱処理して得られた焼結磁石の特性値が示されている。表2の「条件B」には、表1の試料No.1〜27の組成を有する合金を条件Bで微粉砕し、得られた微粉砕粉を焼結、熱処理して得られた焼結磁石の特性値(B及びHcJの値)が示されている。また、表2の「条件B−条件A」には、微粉砕の条件を条件Aから条件Bに変更したことによる焼結磁石のHcJの向上幅(ΔHcJ)を示されている。つまり、表2におけるΔHcJは、微粉砕粉を条件Aまたは条件Bで作製することにより得られたR−T−B系焼結磁石におけるHcJの差(条件Bを用いて得られたR−T−B系焼結磁石のHcJの値から条件Aを用いて得られたR−T−B系焼結磁石のHcJの値を引いたもの)である。
【0050】
表3の「条件A」には、表1の試料No.13の組成を有する合金を条件Aで微粉砕し、得られた微粉砕粉を焼結、熱処理して得られた焼結磁石の特性値が示されている。表3の「条件C」には、表1の試料No.13の組成を有する合金を条件Cで微粉砕し、得られた微粉砕粉を焼結、熱処理して得られた焼結磁石の特性値が示されている。表3の「条件C−条件A」には、微粉砕の条件を条件Aから条件Cに変更したことによる焼結磁石のHcJの向上幅(ΔHcJ)が示されている。つまり、表3におけるΔHcJは、微粉砕粉を条件Aまたは条件Cで作製することにより得られたR−T−B系焼結磁石におけるHcJの差(条件Cを用いて得られたR−T−B系焼結磁石のHcJの値から条件Aを用いて得られたR−T−B系焼結磁石のHcJの値を引いたもの)である。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表2に示すように、試料No.1〜27のいずれの焼結磁石も、使用する微粉砕粉(合金粉末)の粒径D50及び粒径D99を本発明の実施形態の粒径(条件Bで作製した微粉砕粉)にすることにより、通常の粒径(条件Aで作製)の場合と比べて、Bの低下なしにHcJが向上(ΔHcJが0を超えている)している。しかし、本発明の実施形態の組成を満たしていない試料No.15〜26の比較例は、焼結磁石のHcJの向上幅(ΔHcJ)が36〜57kA/mと十分ではなかった。これ対し、本発明の実施形態の組成範囲(試料No.1〜14及び27)であると、ΔHcJが87〜101kA/mとなり、比較例の約1.5〜2.5倍と大幅に向上した。このように、本発明の実施形態の組成を満たすことにより、高いBと高いHcJが得られている。上述したように、条件A(通常の粒度)から条件B(本発明の実施形態の粒度)にすることにより、粉砕時間が10分から40分と長くなる。よって、本発明の実施形態の組成を満たしていない場合はHcJの向上幅が小さいため、本発明の実施形態の粒度で粉砕は行わない。しかし、本発明の実施形態の組成範囲であると大幅にHcJが向上するので、粉砕時間が長くなったとしても行う価値が十分にある。
【0055】
ここで、表1に示すB量と、表2および3に示した保磁力の向上幅ΔHcJとの関係を図1に示す。図1は、縦軸に本発明例及び比較例のΔHcJを、横軸にB量を示したものである。図1における四角のプロット(■)が本発明例であり、三角のプロット(▲)が比較例である。図1に示すように、B量が0.850〜0.910質量%と極めて狭い範囲において高いΔHcJが得られていることが分かる。また、B量が0.870〜0.910質量%の方がさらに高い(90kA/m以上)ΔHcJが得られている。
【0056】
また、表3に示すように、微粉砕粉(合金粉末)における粒径D50及び粒径D99が本発明の実施形態の好ましい範囲(3.8μm≦D50≦4.5μm及びD99≦9μm)であると、Bの低下なしにΔHcJが173kA/mと、さらに高いBと高いHcJが得られている。
【0057】
本出願は、出願日が2016年3月17日である日本国特許出願、特願第2016−054153号を基礎出願とする優先権主張を伴う。特願第2016−054153号は参照することにより本明細書に取り込まれる。
図1