(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の化学強化用ガラスについて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
本明細書において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指す。また、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
本明細書において化学強化用ガラスのガラス組成を、化学強化ガラスの母組成ということがある。化学強化ガラスでは通常、ガラス表面部分にイオン交換による圧縮応力層が形成されるので、イオン交換されていない部分のガラス組成は化学強化ガラスの母組成と一致する。
【0012】
本明細書において、ガラス組成は酸化物基準のモル百分率表示で示し、モル%を単に%と記載することがある。また、数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
ガラス組成において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不可避の不純物を除いて含有しない、すなわち、意図的に含有させたものではないことを意味する。具体的には、たとえば、ガラス組成中の含有量が、0.1モル%未満である。
【0013】
本明細書において「応力プロファイル」は、ガラス表面からの深さを変数として圧縮応力値を表したパターンである。負の圧縮応力値は、引張応力を意味する。
本明細書において、ガラスの「破砕性」とは、ガラスが破壊された際に破片が飛散しやすい性質をいう。
【0014】
以下において、ガラスの「表面圧縮応力値」は、特に断らない限り厚さ0.8mmのガラス板をガラス転移点Tgより50℃高い温度に1時間以上保持した後、0.5℃/minの冷却速度で徐冷したガラス板を用いて、化学強化処理を行った時の表面圧縮応力値である。化学強化処理によって生じる表面圧縮応力は、そのガラスの仮想温度が低いほど大きくなる傾向があり、ガラスの仮想温度はそのガラスが受けた熱履歴(たとえば冷却速度)の影響を受ける。熱処理と徐冷によって仮想温度の影響を除いて評価する。
【0015】
また、「β−OH値」は、FT−IR法によって測定された参照波長4000cm
−1における透過率X
1(%)、水酸基の吸収波長である3570cm
−1付近における最小透過率X
2(%)およびガラス板の厚さt(単位:mm)から、式(1)によって求められる。
β−OH値=(1/t)log
10(X
1/X
2)・・・・・(1)
なお、β−OH値は、ガラス原料に含まれる水分量や溶解条件によって調節できる。
【0016】
<化学強化用ガラス>
本発明の化学強化用ガラス(以下「本ガラス」ということがある)は、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO
2を45〜75%、
Al
2O
3を1〜30%、
Li
2Oを1〜20%、
Y
2O
3を0〜5%、
ZrO
2を0〜5%、
TiO
2を0〜1%、
MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOのいずれか1種以上を合計で1〜20%、含有し、
Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が0〜10%、
B
2O
3およびP
2O
5の含有量の合計が0〜10%である。
【0017】
本ガラスは前記組成範囲を満たすことに加え、次式で表されるM値が1000以上である。
M=−5×[SiO
2]+121×[Al
2O
3]+50×[Li
2O]−35×[Na
2O]+32×[K
2O]+85×[MgO]+54×[CaO]−41×[SrO]−4×[P
2O
5]+218×[Y
2O
3]+436×[ZrO
2]−1180
式中、[SiO
2]、[Al
2O
3]、[Li
2O]、[Na
2O]、[K
2O]、[MgO]、[CaO]、[SrO]、[P
2O
5]、[Y
2O
3]および[ZrO
2]は、各成分のモル百分率表示の含有量を表す。以下においても同様である。
【0018】
本発明者らは、化学強化用ガラスのガラス組成と化学強化後の圧縮応力値の関係および化学強化特性との関係を研究し、前記M値が大きいガラスは、化学強化処理により導入可能な圧縮応力値が大きく、かつ失透(結晶)が生じにくいことを見出した。
本発明者らは種々のガラス組成について、化学強化処理を行った時の表面圧縮応力と850℃〜1200℃における結晶成長速度とを、調査した。化学強化処理条件としては、450℃の硝酸ナトリウムに1時間浸漬して強化した場合(1段強化処理)と、450℃の硝酸ナトリウムに3時間浸漬した後、450℃の硝酸カリウムに1.5時間浸漬して化学強化した場合(2段強化処理)について評価した。
【0019】
その結果、M値が1000以上のガラスでは、450℃の硝酸ナトリウムに1時間浸漬する1段強化処理後の表面圧縮応力(CS1)は、300MPa以上となった。また、450℃の硝酸ナトリウムに3時間浸漬した後、450℃の硝酸カリウムに1.5時間浸漬する2段強化処理後の表面圧縮応力(CS2)は、800MPa以上となった。
【0020】
M値が大きいガラスは、850〜1200℃における結晶成長速度が小さく、ガラス製造時の失透による欠点の生成が抑制される傾向も認められた。結晶成長速度の評価方法は後に説明する。
M値は、より好ましくは1100以上、さらに好ましくは1200以上である。しかしM値が大きすぎる場合は、ガラスがもろくなる恐れがあるので、好ましくは1800以下、より好ましくは1650以下、さらに好ましくは1500以下、典型的には1350以下である。
【0021】
また、本ガラスは前記組成範囲を満たすことに加え、次式で表されるI値が850以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましい。
I=−4.8×[SiO
2]+102×[Al
2O
3]+81×[Li
2O]−272×[Na
2O]−281×[K
2O]−16×[MgO]−25×[Y
2O
3]+0.028×[ZrO
2]+63
本発明者らは、化学強化用ガラスのガラス組成と失透特性を研究し、前記I値と後述するガラスの700℃〜1200℃における結晶成長速度に高い相関があることを見出した。
【0022】
図1は、後述の実施例および比較例のガラスについて、I値と結晶成長速度の関係をプロットした図である。
I値は、好ましくは850以下、さらに好ましくは600以下であると、ガラス製造時の失透が起きにくい。I値は、より好ましくは500以下、よりさらに好ましくは400以下、特に好ましくは300以下、最も好ましくは200以下である。I値の下限は特に限定されないが、ガラスの化学強化による圧縮応力値を考慮に入れる場合は、50超が好ましく、80以上がより好ましく、100以上が特に好ましい。
【0023】
本発明者らはまた、本ガラスは前記組成範囲を満たすことに加え、次式で表されるI2値は、5以下が好ましいことを見出した。
I2=0.27×[SiO
2]+1.4×[Al
2O
3]−1.1×[Na
2O]−1.7×[K
2O]+0.38×[MgO]−1.36×[Y
2O
3]−0.59×[ZrO
2]−23
本発明者らは、化学強化用ガラスのガラス組成と失透特性を研究し、前記I2値が小さいガラス組成であれば、液相温度以上の温度からガラスを冷却する際に失透が発生しにくいことを見出した。
【0024】
本発明者らは、表1および表2に示した組成を有するガラス(A1〜A18)を作製し、1300℃で30分保持した後、2段目処理温度欄(850℃〜1200℃)に示す温度に10分保持する2段熱処理を行って失透発生の有無を観察した。表1、2には、2段目処理温度ごとに失透の有無および、失透が生じた温度条件数を記す。表中、「N」は失透が見られなかったことを示し、「●」は失透が認められたことを示す。たとえば、A3のガラスの場合、850℃および900℃の2つの条件で失透が認められたので、失透が生じた温度条件数は、2である。「失透が生じた温度条件数」を意味する「二段熱処理における失透有の温度条件数」が少ないガラスは、高温から冷却させたときに失透する可能性が低く、失透耐性が良好であるといえる。
【0027】
I2値は、5以下であると、溶融時の失透が生じにくく好ましい。I2値は、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは2以下であり、最も好ましくは1以下である。I2値の下限は特に限定されるのもではないが、ガラスの脆性を考慮に入れる場合は、−5超が好ましく、−3以上がより好ましく、−1以上が特に好ましい。
【0028】
また、フロート法でガラス板を製造する場合の冷却条件を模擬した条件(以下、「フロート模擬降温条件」と呼ぶ。)で冷却させた場合の高温時失透の有無を観察した結果も表1、2に併せて示す。これらの失透試験の結果とI2値の関係をプロットしたのが
図2である。この図からI2値が小さいガラスは、フロート法でガラス板を成形する際に失透が生じにくいことがわかる。特に、I2値が5以下のガラスは、失透が生じにくかった。
フロート模擬降温条件によれば、1200℃から600℃の平均冷却速度はおよそ15℃/分である。前述の2段処理試験で、失透の現れる温度条件数が多いガラスは、この試験でも失透が生じた。
【0029】
なお、本ガラスは先述した組成範囲を満たし、M値、I値及びI2値のうち少なくとも1種の値が先述した範囲を満たすことが好ましく、2種又は3種全部の値が先述した範囲を満たすこともまた好ましい。
【0030】
以下、好ましいガラス組成について説明する。
SiO
2はガラスの骨格を構成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、ガラス表面に傷がついた時のクラックの発生を低減させる成分である。
SiO
2の含有量は45%以上が好ましい。SiO
2の含有量は、より好ましくは、55%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは63%以上、典型的には65%以上である。一方、溶融性をよくする観点から、SiO
2の含有量は75%以下であり、好ましくは72%以下、さらに好ましくは70%以下、特に好ましくは68%以下である。
【0031】
Al
2O
3は化学強化の際のイオン交換性能を向上させ、強化後の表面圧縮応力を大きくする観点から有効な成分である。
Al
2O
3の含有量は1%以上が好ましい。Al
2O
3はガラス転移点を高くする成分であり、ヤング率を高くする成分でもある。Al
2O
3の含有量は、好ましくは8%以上であり、より好ましくは、9%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは11%以上であり、典型的には12%以上である。一方、Al
2O
3の含有量が多すぎると結晶成長速度が大きくなり、失透欠点による歩留まり低下の問題が大きくなる。また、ガラスの粘性が増大し溶融性が低下する。Al
2O
3の含有量は、30%以下であり、20%以下が好ましく、より好ましくは18%以下であり、さらに好ましくは16%以下であり、典型的には14%以下である。
【0032】
Li
2Oは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、ガラスの溶融性を向上させる成分である。化学強化ガラスがLi
2Oを含有することにより、ガラス表面のLiイオンをNaイオンにイオン交換し、さらにNaイオンをKイオンにイオン交換する方法で、表面圧縮応力および圧縮応力層がともに大きな応力プロファイルが得られる。好ましい応力プロファイルを得やすい観点から、Li
2Oの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは7%以上、特に好ましくは9%以上、典型的には10%以上である。
一方、Li
2Oの含有量が多すぎるとガラス溶融時の結晶成長速度が大きくなり、失透欠点による歩留まり低下の問題が大きくなる。Li
2Oの含有量は、20%以下が好ましく、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは13%以下であり、典型的には12%以下である。
【0033】
Na
2OおよびK
2Oは、いずれも必須ではないが、ガラスの溶融性を向上させ、ガラスの結晶成長速度を小さくする成分であり、イオン交換性能を向上させる目的で添加してもよい。
Na
2Oは、カリウム塩を用いる化学強化処理において表面圧縮応力層を形成させる成分であり、またガラスの溶融性を向上させ得る成分である。
その効果を得るために、Na
2Oの含有量は、1%以上が好ましく、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%以上、典型的には5%以上である。一方、ナトリウム塩による強化処理において表面圧縮応力(CS)が低下するのを避ける観点から、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。
【0034】
K
2Oは、イオン交換性能を向上させる等の目的で含有させてもよい。K
2Oを含有させる場合の含有量は、0.5%以上が好ましく、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上、典型的には3%以上である。一方、カリウム塩により表面圧縮応力(CS)が低下するのを避ける観点から、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましい。
【0035】
Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計([Na
2O]+[K
2O])は0〜10%が好ましく、5%以上がより好ましく、6%以上がさらに好ましい。一方、8%以下がより好ましく、7%以下が特に好ましい。
【0036】
[Li
2O]/[Na
2O]+[K
2O])は、失透の成長速度を小さくする観点から3以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。一方、ナトリウムを用いる化学強化処理における表面圧縮応力を増大させる観点から、[Li
2O]/([Na
2O]+[K
2O])は0.5以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましい。
【0037】
また、([Al
2O
3]+[Li
2O])/([Na
2O]+[K
2O]+[MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO]+[ZnO]+[ZrO
2]+[Y
2O
3])は、失透の成長速度を小さくする観点から4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。ナトリウムを用いる化学強化処理における表面圧縮応力を増大させる観点から、([Al
2O
3]+[Li
2O])/([Na
2O]+[K
2O]+[MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO]+[ZnO]+[ZrO
2]+[Y
2O
3])は0.5以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましく、1以上が特に好ましい。
【0038】
MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOはいずれも必須ではないが、ガラスの安定性を高める観点から、いずれか一種以上を含有することが好ましい。これらの含有量の合計[MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO]+[ZnO]は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%以上である。一方、化学強化によるイオン交換能向上の観点からは20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、8%以下がよりさらに好ましい。
【0039】
MgOと、CaO、SrO、BaOおよびZnOの一種類以上とを含有する場合、ガラスの表面反射率を低くする観点から、[MgO]/([CaO]+[SrO]+[BaO]+「ZnO」)は、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上がさらに好ましく、25以上が特に好ましい。CaO、SrO、BaOおよびZnOは、MgOと比較して屈折率を大きくするからである。[MgO]/([CaO]+[SrO]+[BaO]+「ZnO」)は、失透温度を低くする観点から、60以下が好ましく、55以下がより好ましく、50以下がさらに好ましく、45以下が特に好ましい。
【0040】
MgOは、化学強化ガラスの溶融性を増大させつつ、結晶成長速度を小さくする観点から含有することが好ましい。MgOの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%以上、典型的には5%以上である。一方、MgOの含有量が多すぎると化学強化処理時に圧縮応力層を大きくしにくくなる。MgOの含有量は好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、特に好ましくは6%以下である。
【0041】
CaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。CaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上である。一方、CaOの含有量が過剰であると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなる。CaOの含有量は好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、典型的には0.5%以下である。
【0042】
SrOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。SrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上である。一方、SrOの含有量が過剰であると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなる。SrOの含有量は好ましくは3%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、典型的には0.5%以下である。
【0043】
BaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上である。一方、BaOの含有量が過剰であると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなる。BaOの含有量は好ましくは3%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、典型的には0.5%以下である。
【0044】
ZnOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上である。一方、ZnOの含有量が過剰であると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなる。ZnOの含有量は好ましくは3%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、典型的には0.5%以下である。
【0045】
ZrO
2は含有させなくともよいが、化学強化ガラスの表面圧縮応力を増大させる観点から含有することが好ましい。ZrO
2の含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上、特に好ましくは0.8%以上、典型的には1%以上である。一方、ZrO
2の含有量が多すぎると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなる。ZrO
2の含有量は好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1.5%以下である。
【0046】
TiO
2は、ガラスのソラリゼーションを抑制する成分であり、含有させてもよい。TiO
2を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.02%以上であり、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.1%以上であり、特に好ましくは0.12%以上であり、典型的には0.15%以上である。一方、TiO
2の含有量が1%超であると失透が発生しやすくなり、化学強化ガラスの品質が低下する恐れがある。TiO
2の含有量は1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.25%以下である。
【0047】
Y
2O
3は含有させなくともよいが、化学強化ガラスの表面圧縮応力を増大させつつ、結晶成長速度を小さくする成分であることから、含有することが好ましい。Y
2O
3の含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上、特に好ましくは0.8%以上、典型的には1%以上である。一方、Y
2O
3の含有量が多すぎると化学強化処理時に圧縮応力層を大きくしにくくなる。Y
2O
3の含有量は好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1.5%以下である。
【0048】
B
2O
3は必須ではないが、ガラスの脆性を小さくし耐クラック性を向上させる目的で、また、ガラスの溶融性を向上させる目的で含有してもよい。B
2O
3を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上、好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、B
2O
3の含有量が多すぎると耐酸性が悪化しやすいため10%以下が好ましい。B
2O
3の含有量は、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下、典型的には2%以下である。溶融時に脈理が発生する問題を防止する観点から実質的に含有しないことがより好ましい。
【0049】
P
2O
5は必須ではないが、化学強化時の圧縮応力層を大きくする目的で含有してもよい。P
2O
5を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上、好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、耐酸性を高くする観点からP
2O
5の含有量は6%以下が好ましく、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下である。溶融時に脈理が発生することを防止する観点から、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0050】
B
2O
3とP
2O
5の含有量の合計は0〜10%が好ましく、下限としては1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。また、B
2O
3とP
2O
5の含有量の合計は6%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましい。
【0051】
La
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5、Gd
2O
3は、ガラスの結晶成長速度を小さくし、溶融性を改善する成分であり、含有させてもよい。これらの成分を含有させる場合のそれぞれの含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上、特に好ましくは0.8%以上、典型的には1%以上である。一方、これらの含有量が多すぎると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなることから、好ましくは3%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下である。
【0052】
Fe
2O
3は熱線を吸収するのでガラスの溶解性を向上させる効果があり、大型の溶解窯を用いてガラスを大量生産する場合には、含有することが好ましい。その場合の含有量は酸化物基準の重量%において、好ましくは0.002%以上、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.007%以上、特に好ましくは0.01%以上である。一方、Fe
2O
3は過剰に含有すると着色が生じるので、その含有量はガラスの透明性を高める観点から、酸化物基準の重量%において、0.3%以下が好ましく、より好ましくは0.04%以下、さらに好ましくは0.025%以下、特に好ましくは0.015%以下である。
なお、ここではガラス中の鉄酸化物をすべてFe
2O
3として説明したが、実際には、酸化状態のFe(III)と還元状態のFe(II)が混在しているのが普通である。このうちFe(III)は黄色の着色を生じ、Fe(II)は青色の着色を生じ、両者のバランスでガラスに緑色の着色が生じる。
【0053】
さらに、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co
3O
4、MnO
2、NiO、CuO、Cr
2O
3、V
2O
5、Bi
2O
3、SeO
2、CeO
2、Er
2O
3、Nd
2O
3等が好適なものとして挙げられる。
着色成分の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、合計で5%以下が好ましい。5%を超えるとガラスが失透しやすくなる場合がある。着色成分の含有量は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。ガラスの透過率を高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0054】
ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO
3、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。As
2O
3は含有しないことが好ましい。Sb
2O
3を含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0055】
本ガラスのβ−OH値は0.1mm
−1以上が好ましく、0.15mm
−1以上がより好ましく、0.2mm
−1以上がさらに好ましく、0.22mm
−1以上が特に好ましく、0.25mm
−1以上が最も好ましい。
ガラス中の水分量の指標であるβ−OH値が大きいガラスは軟化点が低くなり曲げ加工しやすくなる傾向がある。一方、ガラスの化学強化による強度向上の観点からは、ガラスのβ−OH値が大きくなると、化学強化処理後の表面圧縮応力(CS)の値が小さくなり、強度向上が困難になる。そのために、β−OH値は、0.5mm
−1以下が好ましく、0.4mm
−1以下がより好ましく、0.3mm
−1以下がさらに好ましい。
【0056】
本ガラスのヤング率は、ガラスの破砕性を向上させる目的で80GPa以上が好ましく、より好ましくは82GPa以上、さらに好ましくは84GPa以上、特に好ましくは85GPa以上である。ヤング率の上限は特に限定されるものではないが、ヤング率が高いガラスは耐酸性が低くなる場合があるので、例えば110GPa以下、好ましくは100GPa以下、より好ましくは90GPa以下である。ヤング率は、たとえば超音波パルス法により測定できる。
【0057】
本ガラスの密度は、製品の重さを軽くする観点から、好ましくは3.0g/cm
3以下、より好ましくは2.8g/cm
3以下、さらに好ましくは2.6g/cm
3以下、特に好ましくは2.55g/cm
3以下である。密度の下限は特に限定されるものではないが、密度の小さいガラスは耐酸性などが低い傾向があるので、例えば2.3g/cm
3以上、好ましくは2.4g/cm
3以上、特に好ましくは2.45g/cm
3以上である。
【0058】
本ガラスの屈折率は、可視光の表面反射を下げる観点から、好ましくは1.6以下、より好ましくは1.58以下、さらに好ましくは1.56以下、特に好ましくは1.54以下である。屈折率の下限は特に限定されるものではないが、屈折率が小さいガラスは耐酸性が低い傾向があるので、例えば1.5以上であり、好ましくは1.51以上、より好ましくは1.52以上である。
【0059】
本ガラスの光弾性定数は、光学ひずみを低減する観点から、好ましくは33nm/cm/MPa以下、より好ましくは32nm/cm/MPa以下、さらに好ましくは31nm/cm/MPa以下、特に好ましくは30nm/cm/MPa以下である。また、光弾性定数が小さいガラスは耐酸性が低い傾向があるので、本ガラスの光弾性定数は、例えば24nm/cm/MPa以上、より好ましくは25nm/cm/MPa以上、さらに好ましくは26nm/cm/MPa以上である。
【0060】
本ガラスの50〜350℃の平均線熱膨張係数(熱膨張係数)は、化学強化後の反りを低減する観点から、好ましくは95×10
−7/℃以下、より好ましくは90×10
−7/℃以下、さらに好ましくは88×10
−7/℃以下、特に好ましくは86×10
−7/℃以下、最も好ましくは84×10
−7/℃以下である。熱膨張係数の下限は特に限定されるものではないが、熱膨張係数が小さいガラスは、溶融しにくい場合があるので、本ガラスの50〜350℃の平均線熱膨張係数(熱膨張係数)は、例えば、60×10
−7/℃以上、好ましくは70×10
−7/℃以上、より好ましくは74×10
−7/℃以上、さらに好ましくは76×10
−7/℃以上である。
【0061】
ガラス転移点(Tg)は、化学強化後の反りを低減する観点から、好ましくは500℃以上、より好ましくは520℃以上、さらに好ましくは540℃以上である。フロート成形しやすい点では、好ましくは750℃以下、より好ましくは700℃以下、さらに好ましくは650℃以下、特に好ましくは600℃以下、最も好ましくは580℃以下である。
【0062】
粘度が10
2dPa・sとなる温度(T2)は1750℃以下が好ましく、1700℃以下がより好ましく、1650℃以下であることが特に好ましく、典型的には1600℃以下である。温度(T2)はガラスの溶解温度の目安となる温度であり、T2が低いほどガラスを製造しやすい傾向がある。T2の下限は特に限定されるものではないが、T2が低いガラスは安定性に乏しい場合があるので、T2は通常、1400℃以上、好ましくは1450℃以上である。
【0063】
また、粘度が10
4dPa・sとなる温度(T4)は1350℃以下が好ましく、1250℃以下がより好ましく、1200℃以下であることがさらに好ましく、1150℃以下が特に好ましい。温度(T4)はガラスを板状に成形する温度の目安となる温度であり、T4が高いガラスは成形設備への負荷が高くなる傾向がある。T4の下限は特に限定されるものではないが、T4が低いガラスは、ガラスの安定性が乏しい場合があるので、T4は、通常900℃以上、好ましくは950℃以上、より好ましくは1000℃以上である。
【0064】
本ガラスの失透温度は、粘度が10
4dPa・sとなる温度(T4)より120℃高い温度以下であるとフロート法による成形時に失透が生じにくいので好ましい。失透温度は、より好ましくはT4より100℃高い温度以下、さらに好ましくはT4より50℃高い温度以下、特に好ましくはT4以下である。
【0065】
本ガラスの850〜1200℃における結晶成長速度は、600μm/h以下であると失透が生じにくいので好ましい。850〜1200℃における結晶成長速度は、より好ましくは500μm/h以下、さらに好ましくは400μm/h以下、特に好ましくは300μm/h以下である。また、700〜1200℃における最大結晶成長速度が600μm/h以下であると好ましい。
また、本ガラスにおける950℃における結晶成長速度は、600μm/h以下が好ましく、500μm/h以下がより好ましく、400μm/h以下がさらに好ましく、300μm/h以下が特に好ましい。
【0066】
また、本ガラスは前述のフロート模擬降温条件で冷却したときに失透が生じないことが好ましい。
【0067】
本ガラスの軟化点は850℃以下が好ましく、820℃以下がより好ましく、790℃以下がさらに好ましい。ガラスの軟化点が低いほど、曲げ成形における熱処理温度が低くなり、消費エネルギーが小さくなるのに加え、設備の負荷も小さくなるからである。曲げ成形温度を低くする観点から、軟化点は低いほど好ましいが、通常の化学強化用ガラスでは700℃以上である。軟化点が低すぎるガラスは、化学強化処理の際に導入する応力が緩和しやすく低強度になりやすい傾向にあることから、軟化点は700℃以上が好ましい。より好ましくは720℃以上、さらに好ましくは740℃以上である。
軟化点はJIS R3103−1:2001に記載の繊維引き伸ばし法で測定できる。
【0068】
本ガラスは、以下の測定方法で測定される結晶化ピーク温度が、軟化点より高いことが好ましい。また、結晶化ピークが認められないことがより好ましい。
すなわち、約70mgのガラスを砕いて、メノウ乳鉢ですりつぶし、昇温速度を10℃/分として室温から1000℃まで示差走査熱量計(DSC)を用いて測定する。
【0069】
本ガラスを450℃の硝酸ナトリウムに1時間浸漬して化学強化した場合の表面圧縮応力値(CS1)は、好ましくは300MPa以上であり、より好ましくは350MPa以上であり、さらに好ましくは400MPa以上である。強度を高くする観点から、CS1は大きいほどよいが、化学強化処理工程における強化割れを抑制する観点から、例えば800MPa以下が好ましく、より好ましくは600MPa以下であり、さらに好ましくは500MPa以下である。
【0070】
また、この場合の圧縮応力層深さ(DOL1)は、70μm以上が好ましく、より好ましくは80μm以上、さらに好ましくは90μm以上、特に好ましくは100μm以上である。一方、DOL1の上限は特に限定されないが、化学強化処理工程において強化割れによる歩留まり低下を考慮する場合は、例えば200μm以下であることが好ましく、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは130μm以下、特に好ましくは120μm以下である。
【0071】
なお、CS1およびDOL1は散乱光光弾性応力計(たとえば、折原製作所製SLP−1000)を用いて測定できる。また、株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio−IMを用いて以下の手順で測定できる。
10mm×10mm以上の大きさで厚さが0.2〜2mm程度の化学強化ガラスの断面を150〜250μmの範囲に研磨し薄片化を行う。こうして得られた200μm〜1mm程度に薄片化されたサンプルに対し、光源に波長546nmの単色光を用い、透過光での測定を行い、複屈折イメージングシステムにより、化学強化ガラスが有する位相差(リタデーション)を測定し、得られた値と下記式(2)とから応力を算出する。
1.28×F=δ/(C×t’)・・・式(2)
式(2)中、Fは応力[単位:MPa]、δは位相差[単位:nm]、Cは光弾性定数[単位:nm/cm/MPa]、t’はサンプルの厚さ[単位:cm]である。
【0072】
本ガラスを450℃の硝酸ナトリウムに3時間浸漬した後、450℃の硝酸カリウムに1.5時間浸漬して化学強化した場合のNa−Kイオン交換層による表面圧縮応力値CS2は、好ましくは800MPa以上、より好ましくは850MPa以上、さらに好ましくは900MPa以上、特に好ましくは950MPa以上、さらには1000MPa以上である。一方、CS2の上限は特に限定されるものではないが、化学強化処理工程において強化割れによる歩留まり低下を極力減らしたい場合は、好ましくは1500MPa以下、より好ましくは1300MPa以下、さらに好ましくは1200MPa以下、特に好ましくは1100MPa以下である。
CS2およびDOL2は例えば、折原製作所社製の表面応力計FSM−6000で測定できる。
【0073】
また、本ガラスを450℃の硝酸ナトリウムに3時間浸漬した後、450℃の硝酸カリウムに1.5時間浸漬して化学強化した場合のLi−Na交換槽による圧縮応力層深さDOL3は100μm以上であることが好ましく、より好ましくは110μm以上、さらに好ましくは120μm以上、特に好ましくは130μm以上である。一方、DOL3の上限は特に限定されるものではないが、化学強化処理工程において強化割れによる歩留まり低下を考慮する場合は、例えば200μm以下であることが好ましく、より好ましくは180μm以下、さらに好ましくは170μm以下、特に好ましくは160μm以下である。
DOL3は散乱光光弾性応力計(たとえば、折原製作所製SLP−1000)、もしくは株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio−IMを用いた前述の方法で測定できる。
【0074】
本ガラスの仮想温度は、化学強化による表面圧縮応力を大きくする観点から、ガラス転移点(Tg)より80℃高い温度(以下では、「Tg+80℃」と記載する)以下が好ましく、Tg+50℃以下がより好ましく、Tg+40℃以下がより好ましく、Tg+30℃以下がさらに好ましく、Tg+20℃以下がよりさらに好ましく、特に好ましくはTg+10℃以下である。
ガラスの仮想温度は、ガラス原料を高温で溶融して冷却する方法でガラスを得る場合には、溶融後の冷却速度が小さい程低くなる。そこで、仮想温度が非常に低いガラスを得るためには、長時間かけてゆっくりと冷却する必要がある。ガラスをゆっくりと冷却する場合、ガラス組成によっては、冷却中に結晶が析出する失透現象が起きやすくなる。そこでガラスの生産効率や失透現象の抑制を考慮すると、仮想温度はTg−30℃以上が好ましく、Tg−10℃以上がより好ましく、Tg以上がさらに好ましい。
【0075】
なお、ガラスの仮想温度は、ガラスの屈折率から実験的に求めることができる。一定の温度において保持したガラスをその温度から急冷する方法で、同一ガラス組成で仮想温度が異なるガラス片を複数作製しておく。これらのガラス片の仮想温度は、急冷前に保持されていた温度であるから、これらのガラス片の屈折率を測定することで、仮想温度に対して屈折率をプロットした検量線を作成できる。一例を
図3に示す。冷却速度等が不明のガラスであっても屈折率を測定することで、検量線から仮想温度を求められる。
ただし、ガラス組成が異なると、検量線も異なるので、仮想温度を求めたいガラスと同じ組成のガラスを用いて作成した検量線を用いることを要する。
【0076】
ガラスの仮想温度は、溶融したガラスを冷却する際の冷却速度に依存し、冷却速度が早ければ仮想温度は高くなり、冷却速度が遅ければ、仮想温度が低くなる傾向がある。また、仮想温度が低いほど、化学強化後の表面圧縮応力が大きくなる傾向がある。
【0077】
本発明の化学強化用ガラスは、通常の方法で製造することができる。例えば、ガラスの各成分の原料を調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、公知の方法によりガラスを均質化し、ガラス板等の所望の形状に成形し、徐冷する。
【0078】
ガラス板の成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。特に、大量生産に適したフロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、たとえば、フュージョン法およびダウンドロー法も好ましい。
【0079】
その後、成形したガラスを必要に応じて研削および研磨処理して、ガラス基板を形成する。なお、ガラス基板を所定の形状及びサイズに切断したり、ガラス基板の面取り加工を行う場合、後述する化学強化処理を施す前に、ガラス基板の切断や面取り加工を行えば、その後の化学強化処理によって端面にも圧縮応力層が形成されることから、好ましい。
【0080】
<化学強化ガラス>
本発明の化学強化ガラスは、母組成が前述の化学強化用ガラスのガラス組成と等しい。本発明の化学強化ガラスは、表面圧縮応力値が800MPa以上であることが好ましい。
本発明の化学強化ガラスは、得られたガラス板に化学強化処理を施した後、洗浄および乾燥することにより、製造できる。
化学強化処理は、公知の方法によって行える。化学強化処理においては、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、Kイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に、浸漬などによってガラス板を接触させることにより、ガラス板中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、Naイオンに対してはKイオン、Liイオンに対してはNaイオン)と置換される。
【0081】
化学強化処理(イオン交換処理)は、特に限定されるものではないが、例えば、360〜600℃に加熱された硝酸カリウム等の溶融塩中に、ガラス板を0.1〜500時間浸漬することによって行うことができる。なお、溶融塩の加熱温度としては、375〜500℃が好ましく、また、溶融塩中へのガラス板の浸漬時間は、0.3〜200時間が好ましい。
【0082】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。塩化物としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
本発明において、化学強化処理の処理条件は、特に限定されず、ガラスの特性・組成や溶融塩の種類、ならびに、最終的に得られる化学強化ガラスに所望される表面圧縮応力や圧縮応力層の深さ等の化学強化特性などを考慮して、適切な条件を選択すればよい。
【0084】
また、本発明においては、化学強化処理を一回のみ行ってもよく、あるいは2以上の異なる条件で複数回の化学強化処理(多段強化)を行ってもよい。ここで、例えば、1段階目の化学強化処理として、DOLが大きくCSが相対的に小さくなる条件で化学強化処理を行う。その後に、2段階目の化学強化処理として、DOLが小さくCSが相対的に高くなる条件で化学強化処理を行うと、化学強化ガラスの最表面のCSを高めつつ、内部引張応力面積(St)を抑制でき、結果として内部引張応力(CT)を低めに抑えることができる。
【0085】
本発明の化学強化用ガラスが板状(ガラス板)である場合、その板厚(t)は、特に限定されるものではないが、化学強化の効果を高くする観点から、例えば2mm以下であり、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1mm以下であり、さらに好ましくは0.9mm以下であり、特に好ましくは0.8mm以下であり、最も好ましくは0.7mm以下である。また、当該板厚は、化学強化処理による十分な強度向上の効果を得る観点からは、例えば0.1mm以上であり、好ましくは0.2mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上である。
【0086】
本ガラスの形状は、適用される製品や用途等に応じて、板状以外の形状でもよい。またガラス板は、外周の厚みが異なる縁取り形状などを有していてもよい。また、ガラス板の形態はこれに限定されず、例えば2つの主面は互いに平行でなくともよく、また、2つの主面の一方又は両方の全部又は一部が曲面であってもよい。より具体的には、ガラス板は、例えば、反りの無い平板状のガラス板であってもよく、また、湾曲した表面を有する曲面ガラス板であってもよい。
【0087】
本ガラスは、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末(PDA)、タブレット端末等のモバイル機器等に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ(TV)、パーソナルコンピュータ(PC)、タッチパネル等のディスプレイ装置のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲げ加工や成形により板状でない曲面形状を有する筺体等の用途にも有用である。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。例25は比較例、その他は実施例である。なお、表中の各測定結果について、空欄は未測定であることを表す。
【0089】
(化学強化用ガラスの作製)
表3〜表6中に示される酸化物基準のモル百分率表示の各ガラス組成となるようにガラス板を白金るつぼ溶融にて作製した。酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして1000gになるように秤量した。次いで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500〜1700℃の抵抗加熱式電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡、均質化した。得られた溶融ガラスを型材に流し込み、ガラス転移点+50℃の温度において1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られたガラスブロックを切断、研削し、最後に両面を鏡面に加工して、縦50mm×横50mm×板厚0.8mmの板状ガラスを得た。
【0090】
このガラスの物性を以下のようにして評価した。結果は表3〜表6に示す。
<密度>
密度測定は液中ひょう量法(JISZ8807:2012 固体の密度及び比重の測定方法)で行った。単位は、g/cm
3である。
<ヤング率>
化学強化前のガラスについて、超音波パルス法(JIS R1602:1995)によりヤング率(E)(単位;GPa)を測定した。
【0091】
<平均線膨張係数およびガラス転移点(Tg)>
温度50〜350℃における平均線膨張係数(α50−350)(単位;10
−7/℃)およびガラス転移点は、JISR3102:1995『ガラスの平均線膨張係数の試験方法』の方法に準じて測定した。
<T2、T4>
化学強化前のガラスについて、回転粘度計(ASTM C 965−96に準ずる)により粘度が10
2dPa・sとなる温度T2および10
4dPa・sとなる温度T4を測定した。
<DSCピーク高さ>
前述の方法でDSC測定を行い、ピーク高さ(単位;mcal/s)を測定した。
【0092】
<結晶成長速度>
結晶成長速度を以下の手順で測定した。
ガラス片を乳鉢で粉砕して分級し、3.35mmメッシュの篩を通過し、2.36mmメッシュの篩を通過しなかったガラス粒子をイオン交換水で洗浄し、乾燥したものを試験に用いた。
図4に示すような、多数の凹部を有する細長い白金セル(失透評価用白金セル1)の個々の凹部2にガラス粒子3を1個ずつ乗せ、1000〜1100℃の電気炉内にてガラス粒子の表面が溶けて平滑になるまで加熱した。
次いで、そのガラスを、所定の温度に保った温度傾斜炉中に投入し、一定時間(Tとする)、熱処理を行った後、室温に取り出して急冷した。この方法によれば、温度傾斜炉内に細長い容器を設置して同時に多数のガラス粒子を加熱処理できるので、所定の温度範囲内での最大結晶成長速度が測定できる。
熱処理後のガラスを、偏光顕微鏡(ニコン社製:ECLIPSE LV100ND)で観察し、観察された結晶の内、最大の大きさのものの直径(Lμmとする)を測定した。接眼レンズ10倍、対物レンズ5倍〜100倍、透過光、偏光観察の条件で観察した。失透による結晶は等方的に成長すると考えてよいので、結晶成長速度はL/(2T)[単位:μm/h]である。
ただし、測定する結晶は、容器との界面から析出していない結晶を選択した。金属界面における結晶成長はガラス内部やガラス−雰囲気界面で起こる結晶成長挙動とは異なる傾向にあるからである。
【0093】
<失透温度>
白金製皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行った。熱処理後のガラスを偏光顕微鏡で観察し、失透の有無を評価方法で失透温度を見積もった。たとえば表中、「1050−1078℃」と記載した場合、1050℃で熱処理すると失透したが1078℃の処理では失透しなかったことを意味する。この場合、失透温度は1050℃以上1078℃未満である。
【0094】
<フロート模擬降温時の失透>
ガラスブロックから約φ20mm×15mmの円柱状ガラスサンプルを作製した。この円柱状ガラスサンプルをφ40mmの白金−金合金製のるつぼに入れて、電気炉にてフロート窯の降温条件を模擬した温熱処理を行った後、光学顕微鏡にてサンプルの雰囲気面側(火づくり面側)の失透有無を評価した。表中「N」は失透が認められなかったものである。
なお、降温時のガラス粘性η(単位:dPa・s)がフロート成形時と同様になるように、1300℃からlogηが約4.4となる温度まで5分で降温し、ついでlogηが約5.5となる温度まで25分で降温したのち、logηが約9.9となる温度まで4分で降温し、その後ガラスが割れない程度の冷却速度で冷却した。そのため、降温時の温度プログラムは、ガラス組成によって異なる。一例として、表1におけるA1のガラス場合の温度プログラムを
図5に示す。
【0095】
<屈折率>
精密屈折率計(島津製作所製 KPR−2000)を用いて、d線(He光源、波長587.6nm)での屈折率を測定した。
<光弾性定数>
窯業協会誌Vol.87,(1979)No.1010,p519に記載の円板圧縮法を準用し、光源としてはナトリウムランプを用いて測定した。
【0096】
<化学強化特性>
表面圧縮応力CS1およびCS3(単位:MPa)、圧縮応力層深さDOL1およびDOL3(単位:μm)は、折原製作所社製の測定機SLP1000を用いて測定した。表面圧縮応力(CS2)(単位:MPa)、圧縮応力層深さ(DOL2)(単位:μm)は、折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定した。
なお、表中CS1及びDOL1は、得られた化学強化用ガラスを450℃の硝酸ナトリウムに1時間浸漬して化学強化した1段強化後の表面圧縮応力及び圧縮応力層深さをそれぞれ示す。CS2及びDOL2は得られた化学強化用ガラスを450℃の硝酸ナトリウムに3時間浸漬した後、450℃の硝酸カリウムに1.5時間浸漬して化学強化した2段強化後のNa−Kイオン交換層による表面圧縮応力及び圧縮応力層深さをそれぞれ示す。また、CS3及DOL3は得られた化学強化用ガラスを450℃の硝酸ナトリウムに3時間浸漬した後、450℃の硝酸カリウムに1.5時間浸漬して化学強化した2段強化後のLi−Naイオン交換層による表面圧縮応力及び圧縮応力層深さをそれぞれ示す。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
M値が1000以上でI値が600以下およびI2値が5以下である例1〜23、30〜32、37のガラスは、1段強化による表面圧縮応力CS1が大きく、2段強化による表面圧縮応力CS2が大きく、かつ結晶成長速度が小さいことがわかる。これらのガラス組成については、フロート法などの量産プロセスにおいて、失透欠点が発生しにくく高歩留が期待でき、かつ、カバーガラス等の実用時に高い強度を発現できることを意味する。
M値が1000以上でI2値が5以下だがI値がやや大きい例33〜36は、例1等と比較すると失透温度が高く、やや失透しやすいガラスであるが、化学強化により優れた強度が得られることがわかる。
M値が1000未満でも、I値およびI2値が小さい例24、26、27は、化学強化による表面圧縮応力は不充分な場合があるが、結晶成長速度が小さく、失透しにくいことがわかる。
M値が小さく、I値およびI2値が大きい例25は、結晶成長速度が大きく、製造困難なガラスである。
【0102】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2018年2月5日出願の日本特許出願(特願2018−018508)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。