(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のクロメン化合物は、下記式(1)
【0027】
で示されるインデノナフトピラン構造を基本骨格として有する。インデノナフトピラン構造を有するクロメン化合物は優れたフォトクロミック特性を示すことが知られている。本発明は、その基本骨格を有するクロメン化合物の中でも、環X、6位、7位、及び11位の置換基を特定の置換基とすることにより、優れたフォトクロミック特性を維持しつつ、且つ高温での発色に優れた温度依存性の小さいクロメン化合物が得られることが可能となる。以下、特定の置換基について順を追って説明する。
【0028】
<R
1、及びR
2>
R
1は、ピラン骨格の6位の炭素原子と結合する置換基であり、R
2は、ピラン骨格の11位の炭素原子と結合する置換基である。本発明においては、R
1、及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、又は複素環基から選ばれる。
【0029】
前記炭素数1〜6のアルキル基としては、特に限定されないが、好適なアルキル基を例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基等を挙げることができる。
【0030】
前記炭素数1〜6のハロアルキル基としては、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子で置換された炭素数1〜6のハロアルキル基が好ましい。好適なハロアルキル基を例示すると、トリフルオロメチル基、テトラフルオロエチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、ブロモメチル基等を挙げることができる。
【0031】
前記炭素数3〜8のシクロアルキル基としては、特に限定されないが、好適なシクロアルキル基を例示すると、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等を挙げることができる。
【0032】
前記炭素数1〜6のアルコキシ基としては、特に限定されないが、好適なアルコキシ基を例示すると、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0033】
前記置換アミノ基は、特に限定されないが、例えば炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基等を有する2級アミノ基や3級アミノ基等を挙げることができる。好適な置換アミノ基を例示すると、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基等を挙げることができる。
【0034】
前記複素環基は、特に限定されないが、好適な複素環基を例示すると、モルホリノ基、ピペリジノ基、ピロリジニル基、ピペラジノ基、N−メチルピペラジノ基等を挙げることができる。
【0035】
上記の中でも、他の基との組み合わせにもよるが、R
1、及びR
2は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、置換アミノ基、又は複素環基が好ましく、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルキル基を有する置換アミノ基、又は複素環基が特に好ましい。特に好適なものを例示すると、メトキシ基、ジメチルアミノ基、モルホリノ基等が挙げられる。
【0036】
<R
3>
本発明のクロメン化合物においては、R
3は、水素原子でなければならない。
【0037】
<R
4、及びR
5>
R
4、及びR
5は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、炭素数7〜11のアラルキル基、炭素数7〜11のアラルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、チオール基、炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数2〜9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1〜6のハロアルキルチオ基、炭素数3〜8のシクロアルキルチオ基、又は炭素数6〜10のアリールチオ基である。
【0038】
R
4及びR
5において、前記炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基は、前記<R
1、及びR
2>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好適な基も同様の基が挙げられる。
【0039】
前記炭素数2〜7のアルキルカルボニル基は、特に限定されないが、好適なアルキルカルボニル基を例示すると、アセチル基、エチルカルボニル基等を挙げることができる。
【0040】
前記炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基は、特に限定されないが、好適なアルコキシカルボニル基を例示すると、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0041】
前記ハロゲン原子は、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0042】
前記炭素数7〜11のアラルキル基は、特に限定されないが、好適なアラルキル基を例示すると、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等を挙げることができる。
【0043】
前記炭素数7〜11のアラルコキシ基は、特に限定されないが、好適なアラルコキシ基を例示すると、ベンジロキシ基、ナフチルメトキシ基等が挙げられる。
【0044】
前記炭素数6〜12のアリール基は、特に限定されないが、好適なアリール基を例示すると、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
【0045】
なお、前記炭素数7〜11のアラルキル基、炭素数7〜11のアラルコキシ基、及び前記炭素数6〜12のアリール基は、その基が有する水素原子、好ましくは1〜4個の水素原子が、前記のヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0046】
前記炭素数1〜6のアルキルチオ基は、特に限定されないが、好適なアルキルチオ基を例示すると、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ヘキシルチオ基等を挙げることができる。
【0047】
前記炭素数2〜9のアルコキシアルキルチオ基は、特に限定されないが、好適なアルコキシアルキルチオ基を例示すると、メトキシメチルチオ基、メトキシエチルチオ基、メトキシn−プロピルチオ基、メトキシn−ブチルチオ基、エトキシエチルチオ基、n−プロポキシn−プロピル基等を挙げることができる。
【0048】
前記炭素数1〜6のハロアルキルチオ基は、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子で置換された炭素数1〜6のアルキルチオ基を挙げることができる。好適なハロアルキルチオ基を例示すると、トリフルオロメチルチオ基、テトラフルオロエチルチオ基、クロロメチルチオ基、2-クロロエチルチオ基、ブロモメチルチオ基を挙げることができる。
【0049】
前記炭素数3〜8のシクロアルキルチオ基は、特に限定されないが、好適なシクロアルキルチオ基を例示すると、シクロプロピルチオ基、シクロブチルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基、シクロヘプチルチオ基、シクロオクチルチオ基等を挙げることができる。
【0050】
前記炭素数6〜10のアリールチオ基は、特に限定されないが、好適なアリールチオ基を例示すると、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、2−ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0051】
上記の中でも、R
4及びR
5としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルキル基を有する置換アミノ基、複素環基が好ましい。特に好適なものを例示すると、メチル基、メトキシ基、ジメチルアミノ基、モルホリノ基等が挙げられる。
【0052】
aは0〜3の整数であり、R
4の置換基の数を指す。aが2以上である場合、R
4は互いに同一であっても異なる基であってもよい。bは0〜2の整数であり、R
5の置換基の数を指す。bが2である場合、R
5は互いに同一であっても異なる基であってもよい。なお、複数のR
4及びR
5が存在する場合にも、好ましい基は上記の説明で示した基である。
【0053】
なお、R
4及びR
5の好ましい基を上記に例示したが、優れた特性を維持しつつ、クロメン化合物の生産性、取り扱い易さ等を考慮すると、a=0、b=0、すなわち、R
4、及びR
5の両方が水素原子であることが最も好ましい。
【0054】
<R
6、及びR
7>
R
6、及びR
7は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、ハロゲン原子、又は炭素数6〜12のアリール基である。ここで、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、置換アミノ基、複素環基、ハロゲン原子、炭素数6〜12のアリール基は、R
1、R
2、R
4、及びR
5で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0055】
上記の中でも、R
6、及びR
7は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、又はハロゲン原子であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルキル基を有する置換アミノ基、複素環基が好ましい。特に好適なものを例示すると、メチル基、メトキシ基、ジメチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基、フルオロ基等が挙げられる。
【0056】
cは0〜5の整数であり、R
6の置換基の数を指す。cが2以上である場合、R
6は互いに同一であっても異なる基であってもよい。dは0〜5の整数であり、R
7の置換基の数を指す。dが2である場合、R
5は互いに同一であっても異なる基であってもよい。なお、複数のR
6及びR
7が存在する場合にも、好ましい基は上記の説明で示した基である。
【0057】
また、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、c及びdは、0又は1であることが好ましい。c=1、及びd=1である場合、置換基の位置は、フェニル基の3位又は4位であることが好ましい。
【0060】
で示される13位の炭素原子とスピロ結合する環基は、炭素数が4〜20の単環よりなる脂肪族炭化水素環基(環X基)である。炭素数が4〜20の単環とは、すなわち、ビシクロ環やトリシクロ環のような複数の環を有する基、及び一つの環基に他の環が縮環したような基(環基)ではないことを意味する。
【0061】
炭素数が4〜20の単環(環X)としては、中でも、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環が好ましい。
【0062】
炭素数が4〜20の単環よりなる前記脂肪族炭化水素環基(環X基)は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の置換基を有していてもよい。なお、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基及びハロゲン原子は、R
1、R
2、R
4、及びR
5で既に説明した基と同様の基が挙げられる。この環X基が有する置換基の中でも、本発明のクロメン化合物が特に優れた効果を発揮するものとしては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、特に、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基が好ましい。
【0063】
上記の環X基の中でも、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、又はこれら環に、炭素数1〜6のアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)が結合した環基が好ましく、特に好ましくは、置換基を有さない非置換のシクロヘキサン環基、シクロヘプタン環基、シクロオクタン環基である。好適な環Xの代表例は、例えば下記式で表わされる。なお、下記式中、13で示された炭素原子が前記インデノナフトピラン構造の13位の炭素原子となる。
【0065】
<特に好適なクロメン化合物>
本発明において、特に好適なクロメン化合物を具体的に例示すれば、
【0067】
<クロメン化合物の同定>
本発明のクロメン化合物は、一般に常温常圧で無色、あるいは淡黄色、淡緑色の固体又は粘稠な液体として存在し、次の(イ)〜(ハ)のような手段で確認できる。
【0068】
(イ) プロトン核磁気共鳴スペクトル(
1H−NMR)を測定することにより、δ:5.0〜9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づくピーク、δ:1.0〜4.0ppm付近にアルキル基及びアルキレン基のプロトンに基づくピークが現れる。また、それぞれのスペクトル強度を相対的に比較することにより、それぞれの結合基のプロトンの個数を知ることができる。
【0069】
(ロ) 元素分析によって相当する生成物の組成を決定することができる。
【0070】
(ハ)
13C−核磁気共鳴スペクトル(
13C−NMR)を測定することにより、δ:110〜160ppm付近に芳香族炭化水素基の炭素に基づくピーク、δ:80〜140ppm付近にアルケン及びアルキンの炭素に基づくピーク、δ:20〜80ppm付近にアルキル基及びアルキレン基の炭素に基づくピークが現われる。
【0071】
<クロメン化合物の製造>
本発明のクロメン化合物は、如何なる合成法によって製造してもよい。その1例を挙げると、前記式(1)で示されるクロメン化合物は次のような方法で好適に製造することができる。尚、以下の説明において、各式中の符号は、特記しないかぎり、前述した式について説明したとおりの意味を示す。
下記式(5):
【0073】
で示されるナフトール化合物と、
下記式(6):
【0075】
で示されるプロパルギルアルコール化合物とを、酸触媒存在下で反応させる方法により好適に製造することができる。ナフトール化合物とプロパルギルアルコール化合物との反応比率は、好ましくは1:10〜10:1(モル比)の範囲から選択される。また、酸触媒としては例えば硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酸性アルミナ等が用いられる。酸触媒はナフトール化合物とプロパルギルアルコール化合物との総和100重量部当り、好ましくは0.1〜10重量部の範囲で用いられる。反応温度は、0乃至200℃が好ましい。溶媒としては、好ましくは非プロトン性有機溶媒、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等が使用される。かかる反応により得られた生成物の精製方法は特に限定されない。例えば、シリカゲルカラム精製を行い、さらに再結晶により、生成物の精製を行なうことができる。
【0076】
前記式(5)で示されるナフトール化合物の中でも、好ましい化合物は、前記式(1)で示される好適なクロメン化合物が製造できる構造を有するものである。例えば、下記式で示される化合物を特に好ましいものとして挙げることができる。
【0078】
前記式(5)で示されるナフトール化合物は、例えば、以下のようにして合成することができる。ナフトール化合物は、国際公開第WO2001/60881パンフレット、国際公開第WO2005/028465号パンフレット等の論文に記載の反応方法に基づいて合成することができる。
【0081】
で示されるベンゾフェノン化合物をStobbe反応、環化反応を行うことで、下記式(8)
【0083】
の化合物を得る。なお、前記式(8)の化合物において、RはStobbe反応で使用したジエステル化合物由来の基であり、Acはアセチル基である。次いで該化合物(8)を、アルカリ又は、酸を用いて加水分解することで、下記式(9)
【0085】
のカルボン酸を得る。該カルボン酸を炭酸カリウム等の塩基と塩化ベンジルを用いることでベンジル化を行い、次いで、アルカリ又は、酸を用いることで加水分解を行い、下記式(10)
【0087】
で示されるベンジル保護されたカルボン酸を得る。(式(10)中Bnはベンジル基である)該ベンジル保護されたカルボン酸を、Curtius転位、Hofmann転位、Lossen転位等の方法によりアミンに変換し、これからそれ自体公知の方法によりジアゾニウム塩を調製する。このジアゾニウム塩を、Sandmeyer反応等によりブロマイドに変換し、得られたブロマイドをマグネシウムやリチウム等と反応させて有機金属化合物を調製する。この有機金属化合物を、下記式(11):
【0089】
で示されるケトンと、−80〜70℃、10分〜4時間、有機溶媒中で反応させ、次いで水素とパラジウム炭素等で、脱ベンジル化反応を行うことで、下記式(12):
【0091】
で示されるアルコールを得る。このアルコールを中性〜酸性条件下で、10〜120℃で10分〜2時間、Friedel−Crafts反応を行うことにより、目的とする前記式(5)のナフトール化合物を合成することができる。かかる反応において、前記有機金属化合物と前記式(11)で示されるケトンとの反応比率は、好ましくは、1:10〜10:1(モル比)の範囲から選択される。反応温度は、−80〜70℃が好ましい。溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等が好ましく使用される。また、上記式(12)のアルコールの中性〜酸性条件下でのFriedel−Crafts反応は、例えば酢酸、塩酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酸性アルミナ等の酸触媒を用いて行うことが好ましい。このような酸触媒は、上記式(12)のアルコール100重量部当り0.1〜10重量部の範囲で用いられるのが好適である。この反応に際しては、例えばテトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等の非プロトン性有機溶媒が使用される。
【0092】
一方、前記式(6)で示されるプロパルギルアルコール化合物は、例えば、前記式(6)に対応するケトン化合物とリチウムアセチリド等の金属アセチレン化合物とを反応させることにより、容易に合成できる。
【0093】
以上のようにして合成される本発明のクロメン化合物は、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の一般の有機溶媒によく溶ける。このような溶媒に前記式(1)で示されるクロメン化合物を溶かしたとき、一般に溶液はほぼ無色透明であり、太陽光あるいは紫外線を照射すると速やかに発色し、光を遮断すると可逆的に速やかに元の無色にもどる良好なフォトクロミック作用を呈する。
【0094】
<他のフォトクロミック化合物との組み合わせ(クロメン組成物)>
本発明のクロメン化合物は、フォトクロミックレンズとして要求される様々な色調を得るために他のフォトクロミック化合物と組み合わせて用いることもできる。組み合わせるフォトクロミック化合物は公知の化合物を何ら制限なく用いることができる。例えば、フルギド、フルギミド、スピロオキサジン、クロメン等が挙げられる。中でも、発退色時の色調を均一に保つことができ、フォトクロミック性の劣化に伴う発色時の色ずれを抑制でき、さらに、初期着色を小さくできるという点からクロメン化合物が特に好ましい。
【0095】
すなわち、本発明のクロメン化合物を含有し、さらに前記のクロメン化合物のように発色感度、退色速度が良好で、且つ、初期着色の小さい他のクロメン化合物を組み合わせることにより、発退色時の色調が均一で、且つ、夏場のような高温下においても、高い発色濃度を有する温度依存性の小さいフォトクロミック組成物(クロメン組成物)を得ることができる。
【0096】
本発明において、クロメン化合物をプラスチックレンズ用途に使用する場合には、他のフォトクロミック化合物、特に、他のクロメン化合物(本発明のクロメン化合物以外のクロメン化合物)と本発明のクロメン化合物を組み合わせ、グレーやブラウンに発色するクロメン組成物とすることが好ましい。当然のことながら、比較例で例示したようなクロメン化合物と組み合わせて使用することもできる。ただし、他のクロメン化合物と組み合わせて使用する場合、他のクロメン化合物は、発色時に、430〜530nmの範囲に第一吸収ピークを有し、550〜650nmの範囲に第二吸収ピークを有し、第二吸収ピーク強度に対する第一吸収ピークの強度比(第一吸収ピーク強度/第二吸収ピーク強度)が0.8以上2.0以下となるクロメン化合物を使用することが好ましい。このような特性のクロメン化合物を使用することにより、発色時の色調がグレーやブラウンに調整し易く、かつ、耐久性のよいプラスチックレンズにすることができる。
【0097】
これら好適な他のクロメン化合物は、具体的には、下記(2)、(3)及び(4)のクロメン化合物を挙げることができる。
【0100】
で示されるクロメン化合物、
下記式(3)
【0102】
で示されるクロメン化合物、及び
下記式(4)
【0104】
で示されるクロメン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を併用することが好ましい。
【0105】
<前記式(2)で示されるクロメン化合物>
<R
400、及びR
500>
R
400、及びR
500は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、炭素数7〜11のアラルキル基、炭素数7〜11のアラルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、チオール基、炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数2〜9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1〜6のハロアルキルチオ基、炭素数3〜8のシクロアルキルチオ基、又は炭素数6〜10のアリールチオ基である。これら例示した基は、前記<R
4、及びR
5>で説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も、前記<R
4、及びR
5>で説明した基と同様の基が挙げられる。
【0106】
a1は0〜3の整数であり、R
400の置換基の数を指す。a1が2以上の場合には、R
400は、互いに同一でも異なる基であってもよい。b1は0〜2の整数であり、R
500の置換基の数を指す。b1が2である場合には、R
500は、互いに同一でも異なる基であってもよい。なお、複数のR
400、及びR
500が存在する場合にも、好ましい基は上記の説明で示した基である。
【0107】
なお、R
400、及びR
500の好ましい基を上記に例示したが、優れた特性を維持しつつ、クロメン組成物の生産性、取り扱い易さ等を考慮すると、a1=0、b1=0、すなわち、R
400、及びR
500の両方が水素原子であることが最も好ましい。
【0108】
<R
600、及びR
700>
R
600、及びR
700は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、ハロゲン原子、又は炭素数6〜12のアリール基である。これら例示した基は、前記<R
6、及びR
7>で説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も、前記<R
6、及びR
7>で説明した基と同様の基が挙げられる。
【0109】
c1は0〜5の整数であり、R
600の置換基の数を指す。c1が2以上である場合、R
600は互いに同一であっても異なる基であってもよい。d1は0〜5の整数であり、R
700の置換基の数を指す。d1が2である場合、R
5は互いに同一であっても異なる基であってもよい。なお、複数のR
600及びR
700が存在する場合にも、好ましい基は上記の説明で示した基である。
【0110】
また、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、c1及びd1は、0又は1であることが好ましい。c1=1、及びd1=1である場合、置換基の位置は、フェニル基の3位又は4位であることが好ましい。
【0111】
<R
8>
R
8は、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、又は炭素数6〜12のアリール基であり、これら基は、前記<R
1、及びR
2>、前記<R
4、及びR
5>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0112】
<R
9>
R
9は、炭素数6〜12のアリール基であり、該アリール基は、前記<R
4、及びR
5>で既に説明した基と同様の基が挙げられる。中でも、好適なアリール基を例示すると、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、4−モルホリノフェニル基を挙げることができる。
【0113】
<R
100、及びR
110>
R
100、及びR
110は、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基である。特定の炭素数を有する基については、前記<R
1、及びR
2>、前記<R
4、及びR
5>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0114】
<R
100、及びR
110が形成する環基>
また、R
100及びR
110は、それらが結合する13位の炭素原子と共に、環員炭素原子が3〜20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3〜20の複素環、又は前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成してもよく、これら環基は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の置換基を有していてもよい。なお、環基が有する置換基において、特定の炭素数を有する基、および置換アミノ基については、前記<R
1、及びR
2>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0115】
具体例としては、例えば国際特許公開WO2005/028465号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
【0116】
<前記式(3)で示されるクロメン化合物>
前記式(3)で示されるクロメン化合物において、R
11、及びR
12は、以下の(i)、(ii)、および(iii)の組み合わせから選択される。
【0117】
(i)R
11、及びR
12は、いずれも、下記式
【0121】
で示される環Yは、炭素数6〜12のアリール基であり、
R
13、及びR
14は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、ハロゲン原子、又は炭素数6〜12のアリール基であり、
eは0〜4の整数であり、eが2以上である場合には、R
14は、互いに同一でも異なっていてもよい。)で示される含硫黄置換基である。
【0122】
環Yにおける炭素数6〜12のアリール基は、具体的な基として、前記<R
4、及びR
5>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0123】
また、R
13、及びR
14で説明した前記基において、特定の炭素数を有する基、置換アミノ基、及び複素環基は、具体的な基として、前記<R
1、及びR
2>、前記<R
4、及びR
5>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0124】
(ii)R
11は上記含硫黄置換基であり、
R
12は水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、炭素数7〜11のアラルキル基、炭素数7〜11のアラルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基である。
【0125】
また、R
12で説明した前記基において、特定の炭素数を有する基、置換アミノ基、及び複素環基は、具体的な基として、前記<R
1、及びR
2>、前記<R
4、及びR
5>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0126】
(iii)R
12は上記含硫黄置換基であり、
R
11は水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、炭素数7〜11のアラルキル基、炭素数7〜11のアラルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基である。
【0127】
また、R
11で説明した前記基において、特定の炭素数を有する基、置換アミノ基、及び複素環基は、具体的な基として、前記<R
1、及びR
2>、前記<R
4、及びR
5>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0128】
<R
401、及びR
501>
R
401、及びR
501は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、炭素数7〜11のアラルキル基、炭素数7〜11のアラルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、チオール基、炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数2〜9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1〜6のハロアルキルチオ基、炭素数3〜8のシクロアルキルチオ基、又は炭素数6〜10のアリールチオ基である。これら例示した基は、前記<R
4、及びR
5>で説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も、前記<R
4、及びR
5>で説明した基と同様の基が挙げられる。
【0129】
a2は0〜3の整数であり、R
401の置換基の数を指す。a2が2以上の場合には、R
401は、互いに同一でも異なる基であってもよい。b2は0〜2の整数であり、R
501の置換基の数を指す。b2が2である場合には、R
501は、互いに同一でも異なる基であってもよい。なお、複数のR
401、及びR
501が存在する場合にも、好ましい基は上記の説明で示した基である。
【0130】
なお、R
401、及びR
501の好ましい基を上記に例示したが、優れた特性を維持しつつ、クロメン組成物の生産性、取り扱い易さ等を考慮すると、a2=0、b2=0、すなわち、R
401、及びR
501の両方が水素原子であることが最も好ましい。
【0131】
<R
601、及びR
701>
R
601、及びR
701は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、ハロゲン原子、又は炭素数6〜12のアリール基である。これら例示した基は、前記<R
6、及びR
7>で説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も、前記<R
6、及びR
7>で説明した基と同様の基が挙げられる。
【0132】
c2は0〜5の整数であり、R
601の置換基の数を指す。c2が2以上である場合、R
601は互いに同一であっても異なる基であってもよい。d2は0〜5の整数であり、R
701の置換基の数を指す。d2が2である場合、R
701は互いに同一であっても異なる基であってもよい。なお、複数のR
601及びR
701が存在する場合にも、好ましい基は上記の説明で示した基である。
【0133】
また、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、c2及びd2は、0又は1であることが好ましい。c2=1、及びd2=1である場合、置換基の位置は、フェニル基の3位又は4位であることが好ましい。
【0134】
<R
101、及びR
111>
R
101及びR
111は、それらが結合する13位の炭素原子と共に、環員炭素原子が3〜20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3〜20の複素環、又は前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成してもよく、これら環基は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の置換基を有していてもよい。
【0135】
これら環基は、前記<R
100、及びR
110が形成する環基>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も、前記<R
100、及びR
110>で説明した基と同様の基が挙げられる。
【0136】
具体例としては、例えば国際特許公開WO2013/042800号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
【0137】
<前記式(4)で示されるクロメン化合物>
<R
402、及びR
502>
R
402、及びR
502は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、炭素数7〜11のアラルキル基、炭素数7〜11のアラルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、チオール基、炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数2〜9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1〜6のハロアルキルチオ基、炭素数3〜8のシクロアルキルチオ基、又は炭素数6〜10のアリールチオ基である。これら例示した基は、前記<R
4、及びR
5>で説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も、前記<R
4、及びR
5>で説明した基と同様の基が挙げられる。
【0138】
a3は0〜3の整数であり、R
402の置換基の数を指す。a3が2以上の場合には、R
402は、互いに同一でも異なる基であってもよい。b3は0〜2の整数であり、R
502の置換基の数を指す。b3が2である場合には、R
503は、互いに同一でも異なる基であってもよい。なお、複数のR
402、及びR
502が存在する場合にも、好ましい基は上記の説明で示した基である。
【0139】
なお、R
402、及びR
502の好ましい基を上記に例示したが、優れた特性を維持しつつ、クロメン組成物の生産性、取り扱い易さ等を考慮すると、a3=0、b3=0、すなわち、R
401、及びR
501の両方が水素原子であることが最も好ましい。
【0140】
<R
602、及びR
702>
R
602、及びR
702は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、ハロゲン原子、又は炭素数6〜12のアリール基である。これら例示した基は、前記<R
6、及びR
7>で説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も、前記<R
6、及びR
7>で説明した基と同様の基が挙げられる。
【0141】
c3は0〜5の整数であり、R
602の置換基の数を指す。c3が2以上である場合、R
602は互いに同一であっても異なる基であってもよい。d3は0〜5の整数であり、R
702の置換基の数を指す。d3が2である場合、R
702は互いに同一であっても異なる基であってもよい。なお、複数のR
602及びR
702が存在する場合にも、好ましい基は上記の説明で示した基である。
【0142】
また、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、c3及びd3は、0又は1であることが好ましい。c3=1、及びd3=1である場合、置換基の位置は、フェニル基の3位又は4位であることが好ましい。
【0143】
<R
102、及びR
112>
R
102、及びR
112は、それらが結合する13位の炭素原子と共に、環員炭素原子が3〜20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3〜20の複素環、又は前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成してもよく、これら環基は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の置換基を有していてもよい。
【0144】
これら環基は、前記<R
100、及びR
110が形成する環基>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も、前記<R
100、及びR
110>で説明した基と同様の基が挙げられる。
【0145】
<M、及びM’>
M、及びM’は、いずれか一方又は両方が硫黄原子であり、一方が硫黄原子である場合は、他方は酸素原子である。
【0146】
<R
15、及びR
16>
R
15、及びR
16は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、炭素数7〜11のアラルキル基、炭素数7〜11のアラルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基である。これら基において、特定の炭素数を有する基、置換アミノ基、および複素環基は、具体的な基として、前記<R
1、及びR
2>、前記<R
4、及びR
5>で既に説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0148】
具体例としては、例えば国際特許公開WO2012/121414号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
【0149】
<クロメン組成物>
本発明のクロメン化合物と他のクロメン化合物とを含むフォトクロミック組成物とする場合、各クロメン化合物の配合割合は、所望とする色調に応じて適宜決定される。
【0150】
<フォトクロミック硬化性組成物>
本発明のクロメン化合物、又は、本発明のクロメン化合物と他のクロメン化合物とを含むクロメン組成物を、重合性単量体と組み合わせて、フォトクロミック硬化性組成物とする場合には、以下の配合割合とすることが好ましい。具体的には、重合単量体100質量部に対し、本発明のクロメン化合物又はクロメン組成物を0.001〜10質量部とするのが好ましい。
【0151】
具体的に、より好ましくは、コーティングのような薄膜、例えば100μm程度の薄膜の場合は、コーティング膜あるいはコーティング膜を与える重合性単量体100質量部に対して、本発明のクロメン化合物0.001〜5.0質量部と他のクロメン化合物0.001〜5.0質量部とで色調を調整するのがよい。あるいは厚い硬化体、例えば厚み1ミリ以上の硬化体の場合は、厚い硬化体あるいは厚い硬化体を与える重合性単量体100質量部に対して、本発明のクロメン化合物0.001〜0.5質量部と他のクロメン化合物0.001〜0.5質量部とで色調を調整するのがよい。
【0152】
<組み合わせる安定剤>
本発明のクロメン化合物は、そのままでも耐久性が高いが、下記に示す紫外線吸収剤や光安定剤、酸化防止剤などを用いることにより、さらに耐久性を高くすることができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物等の公知の紫外線吸収剤を使用することができ、特に、シアノアクリレート系化合物、ベンゾフェノン系化合物が好ましい。上記紫外線安定剤は、本発明のクロメン化合物を含む重合単量体100質量部に対し、0.001~5質量部の範囲で用いることが好ましい。また、光安定剤としては公知のヒンダードアミンを、酸化防止剤としては公知のヒンダードフェノールを使用することができる。上記の光安定剤、酸化防止剤は、本発明のクロメン化合物を含む重合単量体100質量部に対し、0.01~10質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0153】
<クロメン化合物の用途;高分子成型体;光学物品>
また、本発明のクロメン化合物は、ホスト材料中でも同様なフォトクロミック特性を示す。かかる対象となるホスト材料としては、本発明のクロメン化合物が均一に分散するものであればよい。そのうち、光学的に好ましいものとしては、例えばポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
さらに、ラジカル重合性多官能単量体を重合してなる熱硬化性樹脂も上記高分子マトリックスとして用いることができる。このようなラジカル重合性多官能単量体としては、例えばエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパンの如き多価アクリル酸エステル又は多価メタクリル酸エステル;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、トリメチロールプロパントリアリルカーボネートの如き多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼンの如き多価チオアクリル酸エステル又は多価チオメタクリル酸エステル;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、4−グリシジルオキシメタクリレート、3−(グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレートの如きアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル;ジビニルベンゼン等を挙げることができる。
また、上述したラジカル重合性多官能単量体を、ラジカル重合性単官能単量体と共重合させた共重合体も、前記高分子マトリックスとして使用することができる。このようなラジカル重合性単官能単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸の如き不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレートの如きアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニルの如きフマル酸エステル;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレートの如きチオアクリル酸エステル及びチオメタクリル酸エステル;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンダイマー、ブロモスチレンの如きビニル化合物が挙げられる。
【0154】
本発明のクロメン化合物を上記ホスト材料中へ分散させる方法としてはそれ自体公知の手法を用いることができる。例えば、上記熱可塑性樹脂とクロメン化合物を溶融状態にて混練してクロメン化合物を樹脂中に分散させる方法、あるいは上記重合性単量体にクロメン化合物を溶解させた後、重合触媒を加え熱又は光にて重合させてクロメン化合物を樹脂中に分散させる方法、あるいは上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の表面にクロメン化合物を染色することによりクロメン化合物を樹脂中に分散させる方法等を挙げることができる。
【0155】
本発明のクロメン化合物はフォトクロミック材として広範囲に利用でき、例えば、銀塩感光材に代る各種の記憶材料、複写材料、印刷用感光体、陰極線管用記憶材料、レーザー用感光材料、ホログラフィー用感光材料などの種々の記憶材料として利用できる。その他、本発明のクロメン化合物を用いたフォトクロミック材は、フォトクロミックレンズ材料、光学フィルター材料、ディスプレイ材料、光量計、装飾などの材料としても利用できる。例えばフォトクロミックレンズに使用する場合には、均一な調光性能が得られる方法であれば特に制限がなく、例えば本発明のフォトクロミック材を均一に分散してなるポリマーフィルムをレンズ中にサンドウイッチする方法、あるいは、本発明のクロメン化合物を前記の重合性単量体中に分散させ、所定の手法により重合する方法、あるいは、この化合物を例えばシリコーンオイル中に溶解して150〜200℃で10~60分かけてレンズ表面に含浸させ、さらにその表面を硬化性物質で被覆し、フォトクロミックレンズにする方法などが挙げられる。さらに、上記ポリマーフィルムをレンズ表面に塗布し、その表面を硬化性物質で被覆し、フォトクロミックレンズにする方法なども用いられる。
【0156】
更に、本発明のクロメン化合物を含有するフォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤をレンズ基材の表面に塗布し、塗膜を硬化させてもよい。このとき、レンズ基材には予めアルカリ性溶液による表面処理あるいはプラズマ処理等の表面処理を施してもよく、更に、これら表面処理と併せて又はこれら表面処理を行なわずに、基材とコート膜との密着性を向上させるためにプライマーを施用することもできる。こうすることにより、クロメン化合物又はクロメン組成物が分散した高分子膜で被覆された光学物品を製造できる。また、キャビティ内に予めレンズ基材を配置しておき、そこに前記フォトクロミック硬化性組成物を流し込み、該硬化性組成物を硬化させることにより、前記形状の光学物品を製造することもできる。
【0157】
本発明のクロメン化合物は、温度依存性が小さいものである。具体的には、23℃における発色濃度(A
23)に対する35℃における発色濃度(A
35)の比(A
35/A
23)を0.65以上とすることができ、より好適には0.70以上とすることができ、さらに好適には0.75以上とすることができる。この比(A
35/A
23)が高いほど、温度依存性が小さいことを示す。なお、クロメン化合物が、430〜530nmの範囲に第一吸収ピークを有し、550〜650nmの範囲に第二吸収ピークを有するダブルピーク化合物の場合には、第一、及び第二吸収ピークの両方において、該比(A
35/A
23)が0.70以上となることが好ましく、さらに0.75以上となることが好ましい。また、該比(A
35/A
23)の上限は、1.0となることが最も好ましいが、工業的に生産可能なクロメン化合物(ダブルピーク化合物を含む)のことを考慮すると、該比(A
35/A
23)の上限は、0.90である。
【0158】
また、本発明のクロメン化合物を使用したクロメン組成物(ダブルピーク化合物の組み合わせを含む)も、該比(A
35/A
23)を高く維持することができる。そのため、色調の調整が容易であり、例えば、サングラス用途に用いる場合、グレーやブラウンの色調に合わせることが容易であって、かつ温度依存性の小さいクロメン組成物を得ることができる。該クロメン組成物においても、該比(A
35/A
23)を0.70以上とすることができ、さらには0.75以上とすることもできる。該クロメン組成物の該比(A
35/A
23)の上限値は、1.0が最も好ましいが、工業的に生産可能なクロメン組成物(ダブルピーク化合物を含む)のことを考慮すると、該比(A
35/A
23)の上限は、0.90である。
【実施例】
【0159】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【0160】
実施例1
(ナフトール化合物の準備;式(13)で示されるナフトール化合物の合成)
下記式(13)
【0161】
【化26】
【0162】
で示されるナフトール化合物を以下の手順で合成した。
【0163】
4,4’−ジメチルベンゾフェノン 21.0g(86.7mmol)、コハク酸ジエチル 17.3g(99.4mmol)をテトラヒドロフラン 200mlに溶解し、55℃に昇温した。この溶液に、カリウム−t−ブトキシド 9.7g(86.7mmol)のテトラヒドロフラン溶液(200ml)を滴下し、1時間攪拌した。反応後、濃塩酸、次いで、水で洗浄を行い、溶媒を除去し、下記式(14)
【0164】
【化27】
【0165】
で示される化合物をオレンジ色のオイル 29.3g(86.3mmol、収率:100%)として得た。
【0166】
前記式(14)で示される化合物、酢酸ナトリウム 7.1g(86.6mmol)および無水酢酸 35.8g(350.7mmol)をトルエン100mlに溶解し、4時間還流した。反応後、水で洗浄を行い、溶媒を除去し、メタノールで再結晶を行うことで精製を行い、下記式(15)
【0167】
【化28】
【0168】
で示される化合物をオレンジ色の固体 22.6g(62.4mmol、収率:72%)として得た。
【0169】
前記式(15)で示される化合物をメタノール 100mlに分散した。この溶液に水酸化ナトリウム 12.5g(312mmol)の水溶液 125mlを加え、3時間還流した。反応後、濃塩酸、次いで、水で洗浄を行い、溶媒を除去し、トルエンでリスラリーを行うことで精製を行い下記式(16)
【0170】
【化29】
【0171】
で示されるカルボン酸誘導体を黄色固体 16.4g(56.1mmol、収率:90%)として得た。
【0172】
前記式(16)で示されるカルボン酸誘導体、および塩化ベンジル 15.7g(123.6mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド 120mlに溶解した。この溶液に炭酸カリウム 19.4g(140.6mmol)を加え、60℃に昇温し、3時間攪拌した。反応後、水で洗浄を行い、溶媒を除去することで、下記式(17)
【0173】
【化30】
【0174】
で示される化合物を黄色オイル 26.5g(56.1mmol、収率:100%)として得た。
【0175】
前記式(17)で示される化合物をイソプロピルアルコール 200mlに分散した。この溶液に水酸化ナトリウム 22.4g(561.0mmol)の水溶液 220mlを加え、4時間還流した。反応後、濃塩酸、次いで、水で洗浄を行い、溶媒を除去し、トルエンでリスラリーを行うことで精製を行い下記式(18)
【0176】
【化31】
【0177】
で示されるカルボン酸誘導体を黄色固体 18.9g(49.4mmol、収率:88%)として得た。
【0178】
前記式(18)で示されるカルボン酸誘導体をトルエン 400mlに分散した。この溶液にトリエチルアミン 24.9g(247.0mmol)とジフェニルホスホリルアジド 17.7g(64.6mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。この溶液に、エタノール 20.0g(435.3mmol)を加えて、70℃で2時間反応した。この溶液に、エタノール 500mlを加え、次いで、水酸化カリウム 30.0g(535.7mmol)を加えて、4時間還流した。反応後、エタノールを常圧留去し、テトラヒドロフランを加え、水で洗浄を行い、溶媒を除去することで下記式(19)
【0179】
【化32】
【0180】
で示される化合物を黄色固体 17.5g(49.4mmol、収率:100%)として得た。
【0181】
前記式(19)で示される化合物をアセトニトリル 600mlに分散し、6%塩酸水溶液 150.0g(247.0mmol)を加え、0℃〜5℃に冷却した。この溶液に、33%亜硝酸ナトリウム水溶液 15.3g(74.1mmol)を加え、30分攪拌した。この溶液に50%ヨウ化カリウム水溶液 41.2g(247.0mmol)を加え、室温で4時間攪拌した。反応後、トルエンを加え、水で洗浄を行い、溶媒を除去し、カラムクロマトグラフ法により精製を行うことで、下記式(20)
【0182】
【化33】
【0183】
で示される化合物を黄色固体 16.1g(34.7mmol、収率:70%)として得た。
【0184】
前記式(20)で示される化合物をトルエン 400mlに分散し、−30℃に冷却した。この溶液に、n−ブチルリチウム(1.6Mへキサン溶液) 26.0ml(41.6mmol)を滴下し、30分攪拌した。この溶液に、シクロオクタノン 6.7g(43,4mmol)のトルエン溶液 22.8gを滴下し、0℃で1時間攪拌した。反応後、トルエンを加え、水で洗浄を行い、溶媒除去後、メタノールでリスラリーを行うことで精製し、下記式(21)
【0185】
【化34】
【0186】
で示される化合物を黄色固体 7.2g(15.5mmol、収率:45%)として得た。
【0187】
前記式(21)で示される化合物、および(±)−10−カンファースルホン酸 190.4mg(0.78mmol)をトルエン 150mlに溶解し、30分還流した。室温まで放冷後、この溶液を90℃に昇温したp−トルエンスルホン酸 2.5g(15.5mmol)のトルエン溶液60ml中に加え、6時間還流した。反応後、水で洗浄を行い、溶媒を除去し、カラムクロマトグラフ法により精製を行うことで、前記式(13)で示されるナフトール化合物を黄色固体 3.3g(9.5mmol、収率:61%)として得た。
【0188】
(クロメン化合物の合成)
前記方法で得られた前記式(13)で示されるナフトール化合物1.0g(2.8mmol)と、下記式(22)
【0189】
【化35】
【0190】
で示されるプロパルギルアルコール化合物(1.0g(3.6mmol)とをトルエン50mlに溶解させ、さらにp−トルエンスルホン酸を0.02g加えて加熱還流下、1時間撹拌した。反応後、溶媒を除去し、シリカゲル上でのクロマトグラフィーにより精製することにより、白色粉末状の生成物1.3gを得た。収率は74%であった。
【0191】
この生成物の元素分析値は、C85.05%、H6.93%であり、C
43H
42О
3(下記式(23)で示されるクロメン化合物)の計算値であるC85.11%、H6.98%に極めてよく一致した。
【0192】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、1.0〜3.0ppm付近にシクロオクタン環のメチレンプロトン及びメチル基のメチルプロトンに基づく20Hのピーク、δ2.3〜4.0ppm付近にメトキシ基のメチルプロトンに基づく6Hのピーク、δ5.6〜9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づく16Hのピークを示した。
【0193】
さらに
13C−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ110〜160ppm付近に芳香環の炭素に基づくピーク、δ80〜140ppm付近にアルケンの炭素に基づくピーク、δ20〜60ppmにアルキルの炭素に基づくピークを示した。
【0194】
上記の結果から単離生成物は、下記式(23)で示されるクロメン化合物であることを確認した。
【0195】
【化36】
【0196】
実施例2〜10
実施例1と同様にして、表1(実施例2〜5)、表2(実施例6〜9)、及び表3(実施例10)に示したナフトール化合物、およびプロパルギルアルコール化合物を準備し、両者を反応させることにより、クロメン化合物を合成した。各実施例において、ナフトール化合物は、目的物が得られるように原料、反応物等を実施例1で使用したものと代えた以外は、実施例1に記載の方法に従って合成した。
【0197】
得られたクロメン化合物について、実施例1と同様な構造確認の手段を用いて構造解析した結果、表1〜3に示す構造式で示される化合物であることを確認した。また、表4に、これらの化合物の元素分析値、各化合物の構造式から求めた計算値及び
1H−NMRスペクトルの特徴的なスペクトルを示した。
【0198】
【表1】
【0199】
【表2】
【0200】
【表3】
【0201】
【表4】
【0202】
なお、本明細書において、当然のことではあるが、化学式におけるMeはメチル基を指す。
【0203】
実施例11〜20
(コーティング法により作製したフォトクロミックプラスチックレンズの物性評価)
上記実施例1で得られたクロメン化合物No.1を、光重合開始剤及び重合性単量体と混合後、レンズ基材表面に塗布し、さらに紫外線を照射してレンズ基材表面の塗膜を重合した。
【0204】
フォトクロミック硬化性組成物としては、ラジカル重合性単量体として2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン/ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート(ダイセルユーシービー(株)製、EB−1830)/グリシジルメタクリレートをそれぞれ50質量部/10質量部/10質量部/10質量部/10質量部の配合割合で配合したものを使用した。このラジカル重合性単量体の混合物90質量部に対して、実施例1で得られたクロメン化合物No.1 1質量部を添加し十分に混合した後に、光重合開始剤であるCGI1800{1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比3:1)}を0.3質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5質量部、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]を3質量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7質量部、及びN−メチルジエタノールアミンを3質量部添加して十分に混合し、フォトクロミック硬化性組成物とした。
【0205】
続いて、前記方法で得られたフォトクロミック硬化性組成物約2gをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズ基材(CR39:アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)の表面にスピンコートした。この表面がコートされたレンズを窒素ガス雰囲気中で出力120mW/cm
2のメタルハライドランプを用いて、3分間照射し、硬化させた(クロメン化合物が分散した高分子膜で被覆された光学物品(フォトクロミックプラスチックレンズ)を作製した。(高分子膜の厚さ:40μm)。
【0206】
得られたフォトクロミックプラスチックレンズについて、下記フォトクロミック特性を評価した。実施例1のクロメン化合物を使用した下記評価の結果を表5にまとめた。
【0207】
[1] 極大吸収波長(λmax): (株)大塚電子工業(株)製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD3000)により求めた発色後の極大吸収波長であり、発色時の色調の指標とした。
【0208】
[2] 23℃発色濃度(A
23): 前記極大吸収波長における、23℃で120秒間光照射した後の吸光度{ε(120)}と光未照射時の吸光度ε(0)との差であり、発色濃度の指標とした。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0209】
[3] 35℃発色濃度(A
35): 前記極大吸収波長における、35℃で120秒間光照射した後の吸光度{ε(120)}と光未照射時の吸光度ε(0)との差であり、発色濃度の指標とした。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0210】
[4] 温度依存性(A
35/A
23):23℃発色濃度(A
23)に対する35℃発色濃度(A
35)の比である。この値が高いほど温度依存性が小さく、優れているといえる。
【0211】
[5] 23℃退色半減期〔τ1/2(sec.)〕: 23℃において、120秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記極大吸収波長における吸光度が{ε(120)−ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間であり、退色速度の指標とした。この時間が短いほど退色速度が速い。
【0212】
[7] 残存率(A
50/A
0×100): 得られたフォトクロミックプラスチックレンズをスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により50時間促進劣化させた。その後、前記発色濃度の評価を試験の前後で行い、試験前の発色濃度(A
0)及び試験後の発色濃度(A
50)を測定し、その比(A
50/A
0)を残存率とし、発色の耐久性の指標とした。残存率が高いほど発色の耐久性が高い。
【0213】
また、クロメン化合物として実施例2〜10で得られた化合物(それぞれNo.2〜10)を用いた以外は、上記と同様にしてフォトクロミックプラスチックレンズを得、その特性を評価した。その結果をまとめて表5に示す。
【0214】
【表5】
【0215】
比較例1〜5
比較のために、下記式(A)〜(E)で示される化合物を用い実施例と同様にしてフォトクロミックプラスチックレンズを得、その特性を評価した。その結果を表6に示す。
【0216】
【化37】
【0217】
【化38】
【0218】
【化39】
【0219】
【化40】
【0220】
【化41】
【0221】
【表6】
【0222】
本発明のクロメン化合物を用いた実施例11〜20におけるフォトクロミックプラスチックレンズは、比較例1(前記式(A)で示されるクロメン化合物)、比較例2(前記式(B)で示されるクロメン化合物)、比較例3(前記式(C)で示されるクロメン化合物)、比較例4(前記式(D)で示されるクロメン化合物)、比較例5(前記式(E)で示されるクロメン化合物)のフォトクロミックプラスチックレンズに比べ、高い耐久性を有しつつ、高温でも高い発色濃度を有し、温度依存性が小さいことがわかる。
【0223】
実施例21、22
本発明の実施例5及び実施例9のクロメン化合物と下記式(24)で示されるクロメン化合物を表7で示したような組成(実施例21:実施例5で製造したクロメン化合物1.0質量部、式(24)で示されるクロメン化合物3.0質量部。実施例22:実施例9で製造したクロメン化合物1.0質量部、式(24)で示されるクロメン化合物3.0質量部。)で混合し、実施例11と同様の方法によりフォトクロミックプラスチックレンズを製造し、その特性を評価した。その結果をまとめて表8に示した。
【0224】
なお、下記式(24)で示されるクロメン化合物は、468nmに第一吸収ピーク(強度0.68)、578nmに第二吸収ピーク(強度0.68)を有し、第二吸収ピーク強度に対する第一吸収ピークの強度比(第一吸収ピーク強度/第二吸収ピーク強度)が1.00となる化合物である。
【0225】
【化42】
【0226】
【表7】
【0227】
【表8】
【0228】
表8に示すように、本発明のクロメン組成物を硬化したフォトクロミックプラスチックレンズは、高い耐久性を有しつつ、高温でも高い発色濃度を有し、温度依存性が小さいものであった。