(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798914
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】シール取り付け構造およびポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/12 20060101AFI20201130BHJP
F16J 15/38 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
F04D29/12 B
F16J15/38
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-55719(P2017-55719)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-159288(P2018-159288A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】早川 悟
【審査官】
松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−175760(JP,U)
【文献】
実公昭31−009439(JP,Y1)
【文献】
実開昭61−181163(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/12
F16J 15/34 − 15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルシールをポンプに取り付けるためのシール取り付け構造において、
前記ポンプの軸に取り付け可能であって、かつねじ部を外周面に有するシールスリーブと、
前記ねじ部に螺合可能な位置決めナットと、
前記シールスリーブに対する前記位置決めナットの相対位置を固定するための廻り止めねじとを備え、
前記位置決めナットは、前記メカニカルシールの回転環に接触可能な位置決め面を有することを特徴とするシール取り付け構造。
【請求項2】
前記ねじ部は、細目ねじであることを特徴とする請求項1に記載のシール取り付け構造。
【請求項3】
羽根車と、
前記羽根車が固定された軸と、
前記羽根車を収容するケーシングと、
前記軸と前記ケーシングとの間の隙間を封止するメカニカルシールと、
前記軸に取り付けられ、かつねじ部を外周面に有するシールスリーブと、
前記ねじ部に螺合された位置決めナットと、
前記シールスリーブに対する前記位置決めナットの相対位置を固定するための廻り止めねじとを備え、
前記メカニカルシールの回転環は、前記シールスリーブの外周面上に配置されており、
前記位置決めナットは、前記回転環に接触する位置決め面を有することを特徴とするポンプ。
【請求項4】
前記シールスリーブの位置決めのためのスリーブナットをさらに備え、前記スリーブナットは軸方向において前記メカニカルシールおよび前記シールスリーブよりも外側に配置され、かつ前記軸の外周面に形成されたねじ部に螺合されていることを特徴とする請求項3に記載のポンプ。
【請求項5】
前記シールスリーブのねじ部は、細目ねじであることを特徴とする請求項3または4に記載のポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプに備えられた軸封装置を他のタイプの軸封装置に交換可能とするためのシール取り付け構造に関し、特にグランドパッキンをメカニカルシールに交換可能とするための構造に関する。また、本発明は、そのようなシール取り付け構造を備えたポンプに関する。さらに、本発明は、グランドパッキンをメカニカルシールに交換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を移送するためのポンプは、一般に、ケーシングと軸との間の隙間からの液体の漏洩を防止するための軸封装置を備えている。遠心ポンプに使用される軸封装置の具体的な例としては、グランドパッキンやメカニカルシールが挙げられる。軸封装置は、ケーシングに接続されたスタッフィングボックス内に配置される。
【0003】
図3は、ケーシングと軸との間の隙間を封止する軸封装置の一例であるグランドパッキンを示す断面図である。
図3に示すように、グランドパッキン101は、スタッフィングボックス102内に配置されている。ポンプの軸105の外周面にはグランドスリーブ107が固定されており、グランドスリーブ107の内周面には、軸105の外周面上に設けられたキー105bに係合するキー溝(図示せず)が形成されている。グランドスリーブ107は、軸105の外周面に着脱可能に取り付けられており、グランドスリーブ107は軸105と一体に回転可能である。グランドパッキン101の内周面は、グランドスリーブ107の外周面に接触しており、軸105の回転に伴って、グランドスリーブ107はグランドパッキン101に摺接する。
【0004】
グランドパッキン101は、パッキン押えフランジ110によってスタッフィングボックス102内に固定されている。パッキン押えフランジ110はボルト112およびナット113によってスタッフィングボックス102に連結されている。ボルト112はパッキン押えフランジ110を貫通してスタッフィングボックス102のねじ穴内にねじ込まれている。スタッフィングボックス102の内周面の端部には円筒状のブッシュ115が装着されており、グランドパッキン101はブッシュ115とパッキン押えフランジ110との間に挟まれている。ナット113を締め付けることによってパッキン押えフランジ110はグランドパッキン101をブッシュ115に対して軸方向に押し付ける。グランドパッキン101は、ブッシュ115とパッキン押えフランジ110との間に挟まれることによって、径方向内側に変形し、グランドスリーブ107の外周面に押し付けられる。
【0005】
グランドスリーブ107の一方の端部は、ポンプの羽根車(図示せず)まで延びるステージスリーブ118に接触しており、グランドスリーブ107の他方の端部は押えリング120に接触している。ステージスリーブ118、グランドスリーブ107、および押えリング120は、軸105の外周面上に配置されており、かつ軸105の軸方向に移動可能となっている。押えリング120は、スリーブナット121に接触している。このスリーブナット121は、軸105の外周面に形成されたねじ部105aに螺合している。
【0006】
スリーブナット121を回転させると、スリーブナット121自身が軸方向に移動し、これにより押えリング120、グランドスリーブ107、およびステージスリーブ118が軸105に対して位置決めされる。その結果、ステージスリーブ118に接触している羽根車が位置決めされる。このように、スリーブナット121によって羽根車の軸方向の位置を調整することができる。スリーブナット121には、その半径方向に貫通する1個の止めねじ122が装着されている。これらの止めねじ122を締め付けることによってスリーブナット121の軸方向の位置が固定される。
【0007】
グランドスリーブ107は、軸105とともに回転し、グランドパッキン101に摺接する。このため、グランドスリーブ107は徐々に摩耗する。摩耗したグランドスリーブ107は、次のようにして新たなものに交換される。通常、グランドスリーブ107の交換は軸105全体をスタッフィングボックス102から抜き取った状態で行う。止めねじ122を緩め、スリーブナット121を回転させて軸105から取り外す。次に、押えリング120を軸105から取り外し、摩耗したグランドスリーブ107を軸105から取り外する。次いで、新たなグランドスリーブを軸105に装着し、さらに押えリング120を軸105に取り付ける。さらに、スリーブナット121が所定の位置に到達するまで当該スリーブナット121を回転させ、止めねじ122を締め付ける。そしてナット113を締め付ける。このようなグランドスリーブ107の交換を可能とするために、スリーブナット121および軸105のねじ部105aは、グランドパッキン101よりも軸方向において外側に位置している。
【0008】
図4は、ケーシングと軸との間の隙間を封止する軸封装置の一例であるメカニカルシールを示す断面図である。
図4に示すように、メカニカルシール201は、スタッフィングボックス202内に配置されている。メカニカルシール201は、ポンプの軸205とともに回転可能な回転環210と、回転しない固定環211とを備えている。回転環210は、シールスリーブ207の外周面に図示しない止めねじによって固定されている。シールスリーブ207は軸205の外周面に固定されており、シールスリーブ207および回転環210は軸205とともに回転可能となっている。固定環211はスタッフィングボックス202に固定されている。
【0009】
回転環210は、固定環211に接触するシールリング212と、シールリング212を固定環211に押し付ける複数のばね213と、これらのばね213を保持するばねホルダ215とを有する。ばねホルダ215は、シールスリーブ207の外周面に図示しない止めねじによって固定されている。回転環210は、シールスリーブ207および軸205とともに回転し、回転環210のシールリング212は固定環211に摺接する。シールスリーブ207の外側の端部は、セットリング217に保持されている。セットリング217は第1止めねじ218によって軸205の外周面に固定され、シールスリーブ207は第2止めねじ219によって軸205の外周面に固定されている。
【0010】
メカニカルシール201の軸方向内側には、スリーブナット224が配置されている。このスリーブナット224は、軸205の外周面に形成されたねじ部205aに螺合している。スリーブナット224の端部は、ポンプの羽根車(図示せず)まで延びるステージスリーブ222に接触している。ステージスリーブ222は、軸205の外周面上に配置されており、かつ軸205の軸方向に移動可能となっている。
【0011】
スリーブナット224を回転させると、スリーブナット224自身が軸方向に移動し、これによりステージスリーブ222が軸205に対して位置決めされる。その結果、ステージスリーブ222に接触している羽根車が位置決めされる。このように、スリーブナット224によって羽根車の軸方向の位置を調整することができる。スリーブナット224には、1個の止めねじ225が装着されている。これらの止めねじ225を締め付けることによってスリーブナット224の軸方向の位置が固定される。
【0012】
メカニカルシール201が所望のシール性能を発揮するために、回転環210と固定環211の軸方向における相対位置は、予め定められた最適位置に維持されることが必要とされる。これは、ばね213が発生する回転環210のシール面圧を最適に維持するためである。よって、回転環210と固定環211が一旦位置決めされた後は、それらの位置を変えるべきではない。このような理由から、羽根車の位置決めに使用されるスリーブナット224は、軸方向においてメカニカルシール201の内側に配置されており、スリーブナット224が軸方向に移動しても回転環210が軸方向に移動しないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開昭61−91098号公報
【特許文献2】実開平1−166295号公報
【特許文献3】特開平6−257594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ポンプでは、その軸封装置をグランドパッキン101からメカニカルシール201に変更したいとの要請があることがある。しかしながら、
図3と
図4との対比から分かるように、グランドパッキン101用の軸105と、メカニカルシール201用の軸205は、その構成において違いがある。より具体的には、グランドパッキン101用の軸105は、グランドパッキン101よりも軸方向において外側にねじ部105aを有するのに対して、メカニカルシール201用の軸205は、メカニカルシール201よりも軸方向において内側にねじ部205aを有する。このため、グランドパッキン101をメカニカルシール201に置き換えるためには、グランドパッキン101用の軸105をメカニカルシール201用の軸に加工する必要がある。具体的には、
図4に示すねじ部205aを軸105に形成する必要がある。あるいは、軸105自体をメカニカルシール201用の軸に交換しなければならない。このような軸105の加工または交換は、ポンプ全体の分解を伴うため、作業期間が長くなるのみならず、コストがかかってしまう。
【0015】
そこで、本発明は、ポンプの軸を加工または交換することなく、軸封装置をグランドパッキンからメカニカルシールに容易に変更することができるシール取り付け構造を提供することを目的とする。また、本発明は、そのようなシール取り付け構造を備えたポンプを提供することを目的とす
る。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、メカニカルシールをポンプに取り付けるためのシール取り付け構造において、前記ポンプの軸に取り付け可能であって、かつねじ部を外周面に有するシールスリーブと、前記ねじ部に螺合可能な位置決めナットと、前記シールスリーブに対する前記位置決めナットの相対位置を固定するための廻り止めねじとを備え、前記位置決めナットは、前記メカニカルシールの回転環に接触可能な位置決め面を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の好ましい態様は、前記ねじ部は、細目ねじであることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様は、羽根車と、前記羽根車が固定された軸と、前記羽根車を収容するケーシングと、前記軸と前記ケーシングとの間の隙間を封止するメカニカルシールと、前記軸に取り付けられ、かつねじ部を外周面に有するシールスリーブと、前記ねじ部に螺合された位置決めナットと、前記シールスリーブに対する前記位置決めナットの相対位置を固定するための廻り止めねじとを備え、前記メカニカルシールの回転環は、前記シールスリーブの外周面上に配置されており、前記位置決めナットは、前記回転環に接触する位置決め面を有することを特徴とするポンプである。
【0019】
本発明の好ましい態様は、前記シールスリーブの位置決めのためのスリーブナットをさらに備え、前記スリーブナットは軸方向において前記メカニカルシールおよび前記シールスリーブよりも外側に配置され、かつ前記軸の外周面に形成されたねじ部に螺合されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記シールスリーブのねじ部は、細目ねじであることを特徴とする。
【0020】
本発明の一
参考例は、グランドスリーブをポンプの軸から取り外し、グランドパッキンをスタッフィングボックスから取り出し、上記位置決めナット、およびメカニカルシールの回転環が外周面上に配置された上記シールスリーブを前記軸の外周面に取り付け、前記メカニカルシールの固定環を保持したシールカバーを前記スタッフィングボックスに取り付けることを特徴とするシール交換方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、羽根車の位置決めのためにメカニカルシールの回転環を軸方向に移動させた後に、位置決めナットで回転環を最適な位置に調整することが可能である。したがって、グランドパッキン用の軸をそのまま使用しながら、グランドパッキンをメカニカルシールに交換することができる。結果として、交換に要する作業時間およびコストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のシール取り付け構造の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】
図1に示すシール取り付け構造およびメカニカルシールを備えたポンプの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明のシール取り付け構造の一実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、シール取り付け構造は、ポンプの軸105の外周面に取り付けられたシールスリーブ1と、シールスリーブ1の外周面に取り付けられた位置決めナット5と、シールスリーブ1に対する位置決めナット5の相対位置を固定するための廻り止めねじ7を有している。
図1に示す軸105、スタッフィングボックス102、ステージスリーブ118、押えリング120、スリーブナット121、および止めねじ122は、
図3に示すものと同じであり、
図1に示すメカニカルシール201は
図4に示すものと同じであり、それらの重複する説明を省略する。
【0024】
シールスリーブ1の内周面には、軸105の外周面上に設けられたキー105bに係合するキー溝(図示せず)が形成されている。シールスリーブ1は、軸105の外周面に着脱可能に取り付けられており、シールスリーブ1は軸105と一体に回転可能である。シールスリーブ1は、その外周面にねじ部1aを有している。ねじ部1aは、シールスリーブ1の外周面の周方向に延びるねじ山から構成されている。本実施形態では、ねじ部1aは細目ねじから構成されている。位置決めナット5は、シールスリーブ1のねじ部1aに螺合されている。位置決めナット5を回転させると、位置決めナット5の位置は、シールスリーブ1および軸105の軸方向に移動する。細目ねじから構成されたねじ部1aはピッチが細かいので、位置決めナット5の位置を精密に変えることができる。
【0025】
廻り止めねじ7は位置決めナット5に装着されている。より具体的には、廻り止めねじ7は、位置決めナット5の半径方向に延び、位置決めナット5を貫通している。位置決めナット5は、その半径方向に延びる1つのねじ穴5aと、位置決めナット5を回転させるための複数のきり穴5bを有する(
図1では1つのきり穴5bのみが図示されている)。廻り止めねじ7はねじ穴5aに螺合されている。廻り止めねじ7は、位置決めナット5を貫通して延び、廻り止めねじ7の先端はシールスリーブ1に接触可能である。廻り止めねじ7を締め付けると、廻り止めねじ7の先端がシールスリーブ1の外周面に押し付けられ、位置決めナット5の回転が防止される。結果として、シールスリーブ1に対する位置決めナット5の相対位置が固定される。本実施形態では、廻り止めねじ7には棒先止めねじが使用されている。位置決めナット5を位置決めした後、シールスリーブ1に錐揉みを行って、微小な穴をシールスリーブ1の外周面に形成する。そして、廻り止めねじ7の先端を穴に挿入する。止めねじ122にも、同様に、棒先止めねじが使用されている。
【0026】
シールスリーブ1の外周面の外径は、メカニカルシール201の回転環210の内径よりも小さく、メカニカルシール201の回転環210はシールスリーブ1の外周面上に配置されている。すなわち、回転環210を構成するばねホルダ215およびシールリング212は、シールスリーブ1の外周面上に配置されている。ばねホルダ215は、シールスリーブ1の外周面に図示しない止めねじによって固定されている。シールリング212は、シールスリーブ1上で軸方向に移動可能であり、シールリング212はばね213によって固定環211に向かって付勢されている。シールスリーブ1、回転環210、および位置決めナット5は、軸105とともに一体に回転する。
【0027】
位置決めナット5は、回転環210に接触する環状の位置決め面6を有している。より具体的には、位置決めナット5は、回転環210のばねホルダ215の端面に接触する位置決め面6を有している。回転環210の位置決めは位置決めナット5によって達成される。すなわち、回転環210の軸方向の位置は、位置決めナット5の位置決め面6によって決定される。回転環210のシールリング212は、ばね213によって固定環211に押し付けられる。
【0028】
環状の位置決め面6は、回転環210の周方向において均一にばねホルダ215に接触するので、位置決めナット5は、回転環210を傾かせることなく該回転環210を位置決めすることができる。したがって、本実施形態の位置決めナット5は、回転環210の固定環211への片当たり、液体の漏洩、および回転環210の偏摩耗を防止することができる。
【0029】
本実施形態のシール取り付け構造は、固定環211を保持する環状のシールカバー10をさらに備えている。このシールカバー10は、スタッフィングボックス102にボルト112およびナット113により固定されている。ボルト112はシールカバー10を貫通してスタッフィングボックス102のねじ穴内にねじ込まれている。シールカバー10には廻り止めピン11が設けられており、固定環211に形成された孔211aに廻り止めピン11の先端が挿入されている。固定環211の孔211aと廻り止めピン11との係合によって、固定環211の回転が防止されている。
【0030】
シールカバー10は、
図3に示すパッキン押えフランジ110に代えて取り付けられている。シールカバー10の固定に使用されるボルト112およびナット113は、
図3に示すパッキン押えフランジ110の固定に使用されているものである。
図1では、1組のボルト112およびナット113のみが描かれているが、複数組のボルト112およびナット113によってシールカバー10がスタッフィングボックス102に固定されている。
【0031】
固定環211はシールカバー10の内周面に固定されている。シールカバー10は、その半径方向に延びる冷却液用孔12を有している。冷却液用孔12の内側端部は固定環211の外周面に対面しており、冷却液用孔12の外側端部はシールカバー10の外面内に位置している。ナット113をボルト112から取り外すと、シールカバー10をスタッフィングボックス102から取り外すことができる。冷却液用孔12には、固定環211を冷却するための冷却液が供給される。
【0032】
シールスリーブ1の内側端部はステージスリーブ118に接触しており、シールスリーブ1の外側端部は押えリング120に接触している。押えリング120はスリーブナット121に接触している。すなわち、シールスリーブ1および押えリング120は、ステージスリーブ118とスリーブナット121との間に挟まれている。ステージスリーブ118はポンプの羽根車(図示せず)まで延びている。スリーブナット121は軸方向においてメカニカルシール201およびシールスリーブ1よりも外側に配置されており、かつ軸105の外周面に形成されたねじ部105aに螺合されている。
【0033】
止めねじ122を緩めた状態でスリーブナット121を回転させることによって、スリーブナット121が軸方向に移動する。さらに、止めねじ122を締め付けることで、スリーブナット121の軸方向の位置が固定される。押えリング120はスリーブナット121に接触しているので、互いに接触している押えリング120、シールスリーブ1、およびステージスリーブ118の位置決めが達成される。その結果、ステージスリーブ118に接触している羽根車が位置決めされる。
【0034】
羽根車の位置決めを行っているとき、回転環210はシールスリーブ1とともに軸方向に移動する。一方、固定環211はシールカバー10に固定されているので固定環211の位置は変わらない。結果として、固定環211に対する回転環210の相対位置が変化し、シール面圧が変わってしまう。メカニカルシール201がそのシール性能を正しく発揮するために、固定環211に対する回転環210の最適な相対位置は予め定められている。
【0035】
本実施形態によれば、羽根車の位置決めのためにシールスリーブ1を軸方向に移動させた後に、位置決めナット5の軸方向の位置を調整することによって、回転環210の最適な位置決めを達成することができる。特に、細目ねじから構成されたねじ部1aは細かいピッチを有するので、位置決めナット5は回転環210の精密な位置決めを実現することができる。さらに、位置決めナット5は、シールスリーブ1のねじ部1aに螺合されているので、ばね213の強い反発力を受けても位置決めナット5は軸方向に変位せず、かつ位置決めナット5自身が傾くこともない。よって、固定環211に対する回転環210の最適な相対位置が保たれ、メカニカルシール201はそのシール性能を安定して発揮することができる。
【0036】
回転環210の位置決めは、シールスリーブ1、位置決めナット5、および回転環210を軸105から取り外した状態で行われる。具体的な作業は次の通りである。まず、ナット113をボルト112から取り外し、シールカバー10および固定環211を取り外す。次いで、スリーブナット121に装着された止めねじ122を緩め、スリーブナット121を回転させて軸105から取り外す。さらに、押えリング120、シールスリーブ1、回転環210、および位置決めナット5を軸105から取り外す。シールスリーブ1、回転環210、および位置決めナット5は、1つの組立体を構成する。
【0037】
ばねホルダ215を貫通する止めねじ(図示せず)を緩め、回転環210(シールリング212、ばね213、ばねホルダ215)がシールスリーブ1上で軸方向に移動可能とする。廻り止めねじ7を緩め、位置決めナット5をシールスリーブ1上で回転させることで、位置決めナット5の軸方向の位置を調整する。位置決めナット5の軸方向の位置は、メカニカルシール201について予め定められた、固定環211に対する回転環210の最適な相対位置に基づいて決定される。位置決めナット5の位置の調整が終了すると、廻り止めねじ7を締め付け、シールスリーブ1に対する位置決めナット5の相対位置を固定する。次いで、位置決めナット5の環状の位置決め面6がばねホルダ215に接触した状態で、ばねホルダ215を貫通する止めねじ(図示せず)を締め付けて、ばねホルダ215をシールスリーブ1に固定し、シールスリーブ1上の回転環210の位置を固定する。
【0038】
その後、回転環210および位置決めナット5が組み付けられたシールスリーブ1を軸105に取り付ける。さらに、押えリング120を軸105に装着する。次いで、羽根車の位置決め時に決定された設置位置にスリーブナット121が到達するまで、スリーブナット121を回転させる。止めねじ122を締め付け、軸105に対するスリーブナット121の相対位置を固定する。ナット113をボルト112に締め付けて、固定環211が取り付けられたシールカバー10をスタッフィングボックス102に固定する。
【0039】
本実施形態によれば、羽根車の位置決めのためにメカニカルシール201の回転環210を軸方向に移動させた後に、位置決めナット5で回転環210を最適な位置に調整することが可能である。したがって、グランドパッキン101用の軸105、およびスリーブナット121をそのまま使用しながら、グランドパッキン101をメカニカルシール201に交換することができる。結果として、交換に要する作業時間およびコストを大幅に削減することができる。
【0040】
次に、
図3に示すグランドパッキン101を
図1に示すメカニカルシール201に交換する方法を説明する。まず、
図3に示すナット113を取り外し、パッキン押えフランジ110を取り外す。次に、止めねじ122を緩め、スリーブナット121を軸105から取り外す。さらに押えリング120およびグランドスリーブ107を軸105から取り外す。そして、グランドパッキン101をスタッフィングボックス102から取り外し、さらにブッシュ115をスタッフィングボックス102から取り外す。
【0041】
次に、メカニカルシール201をスタッフィングボックス102内に装着する。具体的には、まず、
図1に示す、予め位置が調整された回転環210および位置決めナット5が取り付けられたシールスリーブ1を軸105に取り付ける。さらに、押えリング120を軸105に装着する。次いで、羽根車の位置決め時に決定された設置位置にスリーブナット121が到達するまで、スリーブナット121を回転させる。止めねじ122を締め付け、軸105に対するスリーブナット121の相対位置を固定する。ナット113をボルト112に締め付けて、固定環211が取り付けられたシールカバー10をスタッフィングボックス102に固定する。このようにしてグランドパッキン101からメカニカルシール201への交換作業が完了する。
【0042】
図2は、
図1に示すメカニカルシール201およびシール取り付け構造を備えたポンプの一実施形態を示す断面図である。
図2に示す実施形態のポンプは、複数の羽根車を備えた多段ポンプである。
図2に示すように、本実施形態の遠心ポンプは、軸105と、軸105に固定された複数の羽根車32と、各羽根車32の周囲に配置されたディフューザ37と、各羽根車32の背面に配置されたガイドベーン39と、羽根車32,ディフューザ37,およびガイドベーン39を収容するケーシング40とを備えている。軸105は、軸受46a,46bによって回転可能に支持されている。
【0043】
ケーシング40は液体の吸込口48および吐出口49を有している。軸105は、図示しない原動機(例えばモータ)に連結され、この原動機により羽根車32が回転する。羽根車32が回転すると、液体は、吸込口48を通って羽根車32内に流入し、回転する羽根車32によって液体には圧力と速度エネルギーが付与される。液体がディフューザ37を通過するときに速度エネルギーは圧力に変換される。昇圧された液体は、ガイドベーン39に案内されて次段の羽根車32に導かれる。このようにして液体は、各段の羽根車32およびディフューザ37で順次昇圧され、吐出口49から排出される。
【0044】
ケーシング40の吐出側端部及び、吸込側端部には、スタッフィングボックス102が接続されている。このスタッフィングボックス102内には、上述したメカニカルシール201、シールスリーブ1、位置決めナット5、廻り止めねじ7(
図2には図示せず)が配置されている。
【0045】
図2に示されるポンプは、5段の羽根車32を有する多段ポンプであるが、本発明はこれに限定されるものでなく、さらに多くの羽根車32を備えた多段ポンプにも適用できる。さらに、一実施形態では、ポンプは、1つの羽根車32のみを備えた単段ポンプであってもよい。
【0046】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 シールスリーブ
1a ねじ部
5 位置決めナット
5a ねじ穴
5b きり穴
6 位置決め面
7 廻り止めねじ
10 シールカバー
11 廻り止めピン
12 冷却液用孔
32 羽根車
37 ディフューザ
39 ガイドベーン
40 ケーシング
46a,46b 軸受
48 吸込口
49 吐出口
101 グランドパッキン
102 スタッフィングボックス
105 軸
107 グランドスリーブ
110 パッキン押えフランジ
112 ボルト
113 ナット
115 ブッシュ
118 ステージスリーブ
120 押えリング
121 スリーブナット
122 止めねじ
201 メカニカルシール
202 スタッフィングボックス
205 軸
207 シールスリーブ
210 回転環
211 固定環
212 シールリング
213 ばね
215 ばねホルダ
217 セットリング
218 第1止めねじ
219 第2止めねじ
222 ステージスリーブ
224 スリーブナット
225 止めねじ